説明

干渉波検出装置及び干渉波検出方法

【課題】信号処理されたレーダ受信信号から干渉波を検出する。
【解決手段】 PPIデータ生成部141は、信号処理されたレーダ受信信号から、観測対象の位置を示す2次元のPPIデータを生成する。参照波メモリ142は、干渉波の原因となる与干渉局の電波情報を保持する。参照波データ生成部142は、参照波メモリが保持する電波情報に基づいて、干渉波を再現した2次元参照波パターンを生成する。パターンマッチング部144は、2次元参照波パターンと相関の高い領域を、干渉領域として2次元のPPIデータから検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉波検出装置及び干渉波検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば気象レーダは、雲や雨の降雨粒子によって反射されるエコーの強さを検出し、気象状況を観測あるいは予測するために用いられている。近年では、反射波のドップラー効果を利用して雨や雲の動的な変化を捉えることができるドップラーレーダが、気象レーダとして用いられるようになっている。
【0003】
気象レーダ等のレーダを用いた観測の際には、他のレーダサイト等からの信号が干渉波として受信信号に混信することがある。また、マルチパスによる干渉が生じて、受信信号に不要な信号が混信することもある。このような干渉波を除去する技術として、非特許文献1には、3つのパルスヒットに基づいて干渉波を判定する技術が記載されている。この干渉波除去では、他のパルスよりも充分に大きな電力値を有する受信パルスを干渉波であると判定して、当該電力値を他のパルスの電力値で置き換えている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】気象庁,「空港気象ドップラーレーダー製作仕様書(鹿児島空港)」,平成18年5月,p.19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の技術では、受信電力検出やドップラー速度検出等の信号処理に加えて、干渉波除去を行なう信号処理回路を、レーダのハードウェアに特化して実現している。このため、処理の変更や追加などが困難であり、すでに運用されているレーダに対して後から干渉波検出機能を追加することも困難であった。
【0006】
本発明は前記のような問題に鑑みなされたもので、信号処理されたレーダ受信信号から干渉波を検出することが可能な干渉波検出装置及び干渉波検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る干渉波検出装置は、信号処理されたレーダ受信信号から、観測対象の位置を示す2次元受信データを生成する生成手段と、干渉波の原因となる与干渉局の電波情報を保持する参照波メモリと、前記電波情報に基づいて、前記干渉波を再現した2次元参照波パターンを生成する参照波生成手段と、前記2次元参照波パターンと相関の高い領域を、干渉領域として前記2次元受信データから検出する検出手段を具備する。
【0008】
また、本発明の一実施形態に係る干渉波検出方法は、干渉波の原因となる与干渉局の電波情報を保持する参照波メモリを有する干渉波検出装置において用いられる干渉波検出方法であって、信号処理されたレーダ受信信号から、観測対象の位置を示す2次元受信データを生成する2次元受信データ生成ステップと、前記電波情報に基づいて、前記干渉波を再現した2次元参照波パターンを生成する参照波生成ステップと、前記2次元参照波パターンと相関の高い領域を、干渉領域として前記2次元受信データから検出する検出ステップを具備する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態に係る干渉波検出装置によれば、信号処理されたレーダ受信信号から、参照波パターンとの相関が高い干渉領域を検出することができる。
【0010】
また、本発明の一実施形態に係る干渉波検出方法によれば、信号処理されたレーダ受信信号から、参照波パターンとの相関が高い干渉領域を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る干渉波除去装置の詳細構成を示すブロック図。
【図3】PPIデータのCRT表示の一例を示す図。
【図4】参照波パターンのCRT表示の一例を示す図。
【図5】干渉波除去処理結果のCRT表示の一例を示す図。
【図6】除去された領域におけるデータ補間結果のCRT表示の一例を示す図。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る干渉波除去処理のフローチャート。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る干渉波除去装置の詳細構成を示すブロック図。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る干渉波除去処理のフローチャート。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る干渉波除去処理によって検出される干渉波のパターンの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
第1の実施形態
図1は本発明の第1の実施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図である。
【0014】
このシステムは、空中線装置(アンテナ)11、送信装置12、受信装置13、干渉波除去装置14、周波数変換装置16、信号処理装置17、監視制御装置18、データ変換装置19、データ表示装置20、データ蓄積装置21、データ通信装置22、遠隔監視制御装置23、遠隔表示装置24から構成される。
【0015】
このうち遠隔監視制御装置23及び遠隔表示装置24は、レーダサイトに設けられた他の装置からは遠方に設けられており、システムを遠隔監視及び遠隔制御するために用いられる。
【0016】
システムを監視又は制御するための監視制御信号は、遠隔監視制御装置23から監視制御装置18に送られる。監視制御装置18は、監視制御信号に応じて制御信号を信号処理装置17に送信する。また、監視制御装置18は、信号処理装置17からの監視信号を受信して遠隔監視制御装置23に転送する。
【0017】
信号処理装置17は、監視制御装置18からのデジタル制御信号に応じてアナログの送信IF(中間周波数)信号を周波数変換装置16に出力する。周波数変換装置16は、送信IF信号を送信RF(無線周波数)信号に変換(アップコンバート)し、送信装置12に出力する。送信装置12は、送信RF信号を遠距離での観測が可能な送信電力の送信電波に増幅し、空中線装置11に出力する。
【0018】
送信電波は空中線装置11から空中に放射され、観測対象によって反射される。一例として、気象レーダシステムにおける観測対象は、所定の有効反射面積内に存在する降雨粒子である。
【0019】
観測対象からの反射波(受信電波)は、空中線装置11によって捕捉され、受信装置13に受信される。受信装置13は、受信した受信電波を復調し、受信RF信号として周波数変換装置16に出力する。周波数変換装置16は、受信RF信号を受信IF信号に周波数変換(ダウンコンバート)して信号処理装置17に出力する。
【0020】
信号処理装置17は、周波数変換装置16から出力された受信IF信号に対して、IQ検波、アナログ−デジタル(A/D)変換、受信電力算出、ドップラー速度算出等の所要の信号処理を施す。
【0021】
信号処理装置17によってデジタル信号処理された受信データ(降水強度やドップラー速度)は、データ変換装置19に出力される。データ変換装置19は、信号処理装置17が算出した受信電力に基づいて、受信データを解析しレーダ反射因子等を検出する。データ表示装置20は、例えばPPI(plan position indicator)形式のCRTディスプレイ等の表示装置であり、データ変換装置19で解析されたデータを表示する。データ蓄積装置21は、例えばハードディスクドライブ(HDD)等の記憶装置を有し、データ変換装置19で解析されたデータを蓄積する。
【0022】
データ通信装置22は、当該解析データを、無線又は有線の通信ネットワークを介してレーダサイト外の遠隔表示装置24に転送する。遠隔表示装置24は、例えばLCD等の表示装置を有し、データ通信装置22から転送されてきたデータを表示する。
【0023】
遠隔表示装置24に表示されたデータに基づいて、遠隔地からレーダサイトを解析し、遠隔監視制御装置23によってレーダサイトを監視及び制御することができる。
【0024】
本実施形態に係るレーダシステムでは、データ表示装置20の前段に干渉波除去装置14が設けられている。干渉波除去装置14は、データ表示装置20が表示可能なPPIデータを生成し、当該PPIデータから干渉波の成分を除去してデータ表示装置20に出力する。なお、ここでは一例として、干渉波除去装置14がデータ表示装置20の前段に設けられているが、干渉波除去装置14は、遠隔表示装置24の前段に設けられてもよく、あるいは信号処理装置17内又はデータ変換装置19内に設けられてもよい。
【0025】
図2は、本実施形態に係る信干渉波除去装置14の詳細な構成を示すブロック図である。干渉波除去装置14は、図示しないCPU、プログラムメモリ及びワークメモリを備え、CPUがプログラムメモリに記憶された各種のプログラムを実行することで、以下に述べる各部の機能が実現する。図2では、干渉波除去処理に係る各部が図示されている。図2に示すように、干渉波除去装置14は、PPIデータ生成部141、参照波メモリ142、参照波データ生成部143、パターンマッチング部144、及び干渉波除去部145を備えている。
【0026】
PPIデータ生成部141は、PPIスイープによる表示のためのPPIデータを生成する。PPI方式は、表示の原点をレーダの位置とし、アンテナビームの回転方位方向に同期させて原点から放射状に掃引を行い、受信ビデオをCRTディスプレイに表示させる方式である。PPIデータは、レーダに対する観測対象の位置(レーダを原点とした距離及び角度)を示す2次元データである。図3は、CRT表示されるPPIデータの一例を示す図である。図3の例では、レーダシステムを中心として分布する観測対象(例えば降雨粒子、すなわち雨雲)が示されている。更に図3では、観測対象に重なって放射状に干渉波(図3では破線で示す)が表示されている。
【0027】
参照波メモリ142は、本レーダシステム(自局;被干渉局)に対して電波干渉を与え得る他のレーダ局(他局;与干渉局)が発信する電波の情報(参照波情報)を予め記憶している。参照波メモリ142は、一例として、与干渉局が発信する電波の送信パルス幅及びパルス繰り返し周波数を予め記憶する。参照波メモリ142は、複数の与干渉局の発信電波(複数の参照波)の情報を記憶していてもよい。また、一つの与干渉局が複数のパルス幅、あるいは複数のパルス繰り返し周波数でパルスを発信している場合は、パルス幅及びパルス繰り返し周波数の全ての組み合わせについての情報を、参照波メモリ142が記憶しておいてもよい。
【0028】
参照波データ生成部143は、参照波メモリ142に記憶された参照波情報に基づいて、与干渉局が発信する電波を再現した参照波を生成し、当該参照波を被干渉局の処理条件(パルス繰り返し周波数、パルス幅等)で処理した場合のPPIデータ(参照波パターン)をパターンマッチング部144に出力する。図4は、CRT表示される参照波パターンの一例を示す図である。参照波データ生成部143は、生成した参照波について、原点からの距離、及び表示角度を所定量ずつずらしながらパターンマッチング部144に出力する。
【0029】
パターンマッチング部144は、PPIデータ生成部141から出力されたPPIデータと、参照波データ生成部143から出力された参照波パターンとの間で、パターンマッチング処理を行う。パターンマッチング部144は、例えばテンプレートマッチング等のマッチング処理によって、PPIデータにおいて参照波パターンと最も良くマッチする(最も相関が大きい)領域を検出する。図3及び図4の例では、パターンマッチング部144は、図4に示す干渉波に対応する領域(図3の破線部)をPPIデータから検出する。
【0030】
干渉波除去部145は、パターンマッチングの結果得られた参照波パターンと相関が大きい領域を、PPIデータから除去する。図5は、図3に示すPPIデータから、図4に示す参照波データに対応する領域を除去した場合のCRT表示の一例を示す。また、干渉波除去部145は、除去された領域のデータを周囲のデータに基づいて補間してもよい。図6は、図5に示すPPIデータにおいてデータ補間を行なった結果のCRT表示の一例を示す。図6に示す例では、一例として、除去された領域のデータとして、当該領域の両サイドのデータの平均値を用いて補間を行なっている。このため、図6に示すように、データ間に断絶がなく、自然な表示が可能となる。
【0031】
本実施形態に係る干渉波除去装置14は、以下のような干渉波除去処理を実行して干渉波の影響を除去する。図7は、干渉波除去装置14が実行する干渉波除去処理のフローチャートである。
【0032】
干渉波除去処理では、PPIデータ生成部141が、データ変換装置19から出力される信号処理データから、PPIデータを生成する(ステップS1)。これによって、図3に示すようなPPI表示のためのPPIデータが生成される。本レーダシステムが、他局からの干渉波を受信している場合は、例えば螺旋形状の干渉波のデータが、生成されるPPIデータに含まれる。図3に示すように、PPIデータにおいて干渉波データが反復して表示されることがあるが、この反復間隔は当該干渉波を与える与干渉局のパルス繰り返し周波数に対応する。
【0033】
また、参照波データ生成部143が、参照波メモリ142の参照波情報から、図4に示すような参照波パターンを生成する(ステップS2)。参照波データ生成部143は、所定角度及び所定距離ずつ参照波パターンをずらしながら、当該参照波パターンをパターンマッチング部143に出力する。参照波パターンは、例えば角度間隔が1.2°ずつ、表示距離間隔が150mずつずらされてもよい。
【0034】
パターンマッチング部144は、PPIデータと参照波パターン間でパターンマッチングを行なう(ステップS3)。パターンマッチング部144は、参照波データ生成部143が参照パターンの角度や距離をずらす都度、PPIデータとのマッチングを行なう。
【0035】
参照波パターンの全ての角度、及び全ての距離についてパターンマッチングが行なわれたら、干渉波除去部145は、PPIデータに干渉波の影響が生じているか否か、すなわち、PPIデータから干渉領域が検出されたか否かを判定する(ステップS4)。干渉波除去部145は、例えば、パターンマッチング部144によるパターンマッチングにおいて、参照波パターンとの間で最大の相関を与えた領域を検出し、このときの最大相関値が所定の閾値以上である場合に、当該検出領域が干渉波の影響が生じている干渉領域であると判定する(ステップS4でYes)。
【0036】
干渉領域が検出された場合、干渉波除去部145は、当該干渉領域のデータをPPIデータから除去する(ステップS5)。図4に示すように、1つの参照波パターンが参照波メモリ142に記憶されているとしても、この参照波パターンを当該参照波のパルス繰り返し周波数に合わせてCRT表示上で回転させると、PPIデータに生じている参照波パターンの反復パターンに重なる。この反復パターンに相当する領域も、同様にPPIデータから除去される。この干渉波除去によって、例えば図5に示すようなCRT表示が可能なPPIデータが得られる。また、干渉波除去部145は、除去された領域のデータを、周囲のデータに基づいて補間してもよい。干渉波除去部145は、一例として、当該除去領域の左右いずれかの領域のデータを、除去領域のデータとして補間することができる。あるいは、当該除去領域の左右両領域のデータを平均して、除去領域のデータとして補間してもよい。このため、図6に示すように、データ間に断絶が無い自然なCRT表示が可能となる。
【0037】
以上のようにして干渉波除去が行なわれたPPIデータは、干渉波除去装置14から出力されて、データ表示装置20等に表示される(ステップS6)。
【0038】
一方、干渉波が検出されていないと判断されると(ステップS4でNo)、干渉波除去部145による干渉波除去が行なわれず、PPIデータはそのまま干渉波除去装置14から出力されて表示される(ステップS6)。
【0039】
以上のように、本実施形態のレーダシステムによれば、パターンマッチングによって、参照波パターンとの相関の高い領域をPPIデータから検出することができる。このため、受信信号に混入している干渉波が、他局から発信された信号であるかを判断することができる。
【0040】
参照波メモリ142に複数の参照波の情報が記憶されている場合には、それぞれの参照波について、上述の干渉波除去処理が行われる。
【0041】
また、上述の干渉波除去装置14は、例えばパーソナルコンピュータ等のコンピュータを用いてソフトウェア的に実装することができる。このため、すでに運用が開始されているレーダ装置においても、表示装置の前段に当該ソフトウェアを備えるコンピュータを接続するだけで、信号処理後の受信データから容易に干渉波を検出し、除去することができる。特に周波数配置が密な場合等には、観測対象からの反射波ではなく他のレーダ局が発信する電波(干渉波)を、空中線装置11が捕捉してしまうことがある。このような場合に正確に干渉波の影響を除去できるようにすることで、周波数を有効に利用できるようになる。
【0042】
以下、本発明によるレーダシステムの他の実施形態を説明する。他の実施形態の説明において第1の実施の形態と同一部分は同一参照数字を付してその詳細な説明は省略する。
【0043】
第2の実施形態
第2の実施形態に係るレーダシステムのブロック図は第1の実施形態のブロック図と同一であるので、図示を省略する。
【0044】
図8は、本実施形態に係る干渉波除去装置14の詳細な構成を示すブロック図である。図8では、干渉波除去処理に係る各部が図示されている。図8に示すように、干渉波除去装置14は、PPIデータ生成部141、参照波メモリ142、参照波データ生成部143、DFT部241と242、複素共役検出部243、IDFT部244、ピーク検出部245、及び干渉波除去部246を備えている。
【0045】
PPIデータ生成部141は、第1の実施形態と同様に、信号処理データからCRT表示のためのPPIデータを生成する。
【0046】
参照波メモリ142は、本レーダシステム(自局;被干渉局)に対して電波干渉を与え得る他のレーダ局(他局;与干渉局)が発信する電波の情報(参照波情報)を予め記憶している。
【0047】
参照波データ生成部143は、参照波メモリ142に記憶された参照波情報に基づいて、与干渉局が発信する電波を再現した参照波を生成し、当該参照波のPPIデータ(参照波パターン)をパターンマッチング部143に出力する。
【0048】
DFT部241は、デジタル化されたPPIデータに対して2次元の離散フーリエ変換(DFT)を施す。2次元離散フーリエ変換によって、PPIデータの周波数成分が得られる。
【0049】
同様にDFT部242は、参照波データ生成部143が生成する参照波パターンに対して2次元の離散フーリエ変換(DFT)を施す。2次元離散フーリエ変換によって、参照波パターンの周波数成分が得られる。
【0050】
複素共役検出部243は、PPIデータの周波数成分に対して複素共役となる参照波パターンの周波数成分を検出する。検出された周波数成分は、IDFT部244に出力される。
【0051】
IDFT部244は、検出された周波数成分に対して2次元逆離散フーリエ変換(IDFT)を施す。2次元逆離散フーリエ変換の結果は、ピーク検出部245に出力される。
【0052】
ピーク検出部245は、2次元逆離散フーリエ変換の結果から、2次元PPIデータにおけるピークパターンを干渉領域として検出する。図10は、ピーク検出部245によって検出されたPPIデータにおけるピークパターンをCRT表示した一例を示す。例えば図10に示すように、PPIデータと参照波パターンとの相関が最も大きい領域、すなわち、PPIデータに混入した参照波パターンに相当するピークパターンが、ピーク検出部245によって検出される。図10に示す例では、図4に示すような参照波のパターンが、当該参照波のパルス繰り返し周波数に応じて反復されている。
【0053】
干渉波除去部246は、ピーク検出部245が検出したピークパターンのデータをPPIデータから除去する。これによって、図5に示すように、観測対象から干渉波の影響を除去してCRT表示することができる。また、干渉波除去部246は、除去された領域のデータを、周囲のデータに基づいて補間してもよい。
【0054】
本実施形態に係る干渉波除去装置14は、以下のような干渉波除去処理を実行して干渉波の影響を除去する。図9は、本発明の第2の実施形態にかかる干渉波除去装置14が実行する干渉波除去処理のフローチャートである。
【0055】
干渉波除去処理では、PPIデータ生成部141が、データ変換装置19から出力される信号処理データから、PPIデータを生成する(ステップS21)。これによって、図3に示すようなPPI表示のためのPPIデータが生成される。レーダシステムが、他局からの干渉波を受信している場合は、例えば螺旋形状の干渉波のデータが、生成されるPPIデータに含まれる。
【0056】
参照波データ生成部143は、参照波メモリ142の参照波情報から、図4に示すような参照波パターンを生成する(ステップS22)。DFT部241及び242は、PPIデータ及び参照波パターンに対して2次元の離散フーリエ変換を行なう(ステップS23)。
【0057】
複素共役検出部243は、PPIデータの周波数成分に対して複素共役となる参照波パターンの周波数成分を検出する(ステップS24)。IDFT部244は、検出された周波数成分に対して2次元の逆離散フーリエ変換を施す(ステップS25)。
【0058】
ピーク検出部245は、2次元逆離散フーリエ変換の結果から、PPIデータにおけるピークパターンを検出する(ステップS26)。例えば図10に示すように、PPIデータにおいて干渉波を示すピークパターンが検出される。
【0059】
干渉波除去部246は、PPIデータに干渉波の影響が生じているか否か、すなわち、PPIデータから干渉波を示すピークパターンが検出されたか否かを判定する(ステップS27)。干渉波除去部246は、例えば、検出されたピークパターンと参照波パターンとの間の相関値を検出し、この相関値が所定の閾値以上である場合に、干渉波がピークパターンとして検出されていると判定する(ステップS27でYes)。
【0060】
干渉波が検出された場合、干渉波除去部246は、当該ピークパターンのデータをPPIデータから除去する(ステップS28)。この干渉波除去によって、例えば図5に示すようなCRT表示が可能なPPIデータが得られる。また、干渉波除去部246は、除去された領域のデータを、周囲のデータに基づいて補間してもよい。干渉波除去部246は、一例として、当該除去領域の左右いずれかの領域のデータを、除去された領域のデータとして補間することができる。あるいは、当該除去領域の左右両領域のデータを平均して、除去された領域のデータとして補間してもよい。このため、図6に示すように、データ間に断絶が無い自然なCRT表示が可能となる。
【0061】
以上のようにして干渉波除去が行なわれたPPIデータは、干渉波除去装置14から出力されて、データ表示装置20等に表示される(ステップS29)。
【0062】
一方、干渉波が検出されていないと判断されると(ステップS27でNo)、干渉波除去部246による干渉波除去が行なわれず、PPIデータはそのまま干渉波除去装置14から出力されて表示される(ステップS29)。
【0063】
以上のように、本実施形態のレーダシステムによれば、2次元DFT処理が行われたPPIデータと参照波パターンとの複素共役を検出し、当該複素共役に対して更に2次元逆DFT処理を行なうことによって、参照波パターンとの相関の高い領域をピークパターンとしてPPIデータから検出することができる。このピークパターンと参照波パターンの相関値が所定の閾値以上であれば、当該ピークパターンは参照波パターンに対応する干渉波であると判断される。このため、受信信号に混入している干渉波が、他局から発信された信号であるかを判断することができる。このように、DFT及びIDFT処理によって複素領域においてピークパターンを検出することで、干渉波検出に要する処理量を削減することができる。
【0064】
ステップS23のDFT処理では、DFT部272が参照波パターンにDFT処理を施すとして説明したが、参照波パターンのDFT結果を予め算出しておき、参照波メモリ142に保持しておいてもよい。これによって、干渉波除去処理に要する計算量を削減することができる。
【0065】
また、上述の干渉波除去装置14は、例えばパーソナルコンピュータ等のコンピュータを用いてソフトウェア的に実装することができる。このため、すでに運用が開始されているレーダ装置においても、表示装置の前段に当該ソフトウェアを備えるコンピュータを接続するだけで、信号処理後の受信データから容易に干渉波を検出し、除去することができる。更に、参照波パターンの距離及び角度を変えて網羅的にパターンマッチングを行なわず、周波数領域でピークパターンを検出するので、計算量を削減することができる。特に周波数配置が密な場合等には、観測対象からの反射波ではなく他のレーダ局が発信する電波(干渉波)を、空中線装置11が捕捉してしまうことがある。このような場合に正確に干渉波の影響を除去できるようにすることで、周波数を有効に利用できるようになる。
【0066】
上述の実施形態では、一例として、降雨量等を観測するための気象レーダにおける干渉波除去について説明した。しかしながら、上述の実施形態は、航空機を検出する空港監視レーダ等、他の1次レーダにも適用可能である。
【0067】
上述のように、信号処理によって電波干渉の影響を除去することで、密な周波数配置や同一周波数の再利用等による周波数の有効利用を進展させることができるようになる。
【0068】
本願発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。さらに、前記各実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、1つの実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されたり、幾つかの実施形態に示される構成要件が組み合わされても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除されたり組み合わされた構成が発明として抽出され得るものである。
【符号の説明】
【0069】
11…空中線装置(アンテナ)、12…送信装置、13…受信装置、14…干渉波除去装置、16…周波数変換装置、17…信号処理装置、18…監視制御装置、19…データ変換装置、20…データ表示装置、21…データ蓄積装置、22…データ通信装置、23…遠隔監視制御装置、24…遠隔表示装置、141…PPIデータ生成部、142…参照波メモリ、143…参照波データ生成部、144…パターンマッチング部、145…干渉波除去部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号処理されたレーダ受信信号から、観測対象の位置を示す2次元受信データを生成する生成手段と、
干渉波の原因となる与干渉局の電波情報を保持する参照波メモリと、
前記電波情報に基づいて、前記干渉波を再現した2次元参照波パターンを生成する参照波生成手段と、
前記2次元参照波パターンと相関の高い領域を、干渉領域として前記2次元受信データから検出する検出手段と、
を具備することを特徴とする干渉波検出装置。
【請求項2】
前記2次元受信データから、前記干渉領域のデータを除去する除去手段を更に具備することを特徴とする請求項1に記載の干渉波検出装置。
【請求項3】
前記除去手段は、前記データを除去した領域に対して、周囲の領域のデータを用いてデータ補間を行なうことを特徴とする請求項2に記載の干渉波検出装置。
【請求項4】
前記検出手段は、パターンマッチングによって前記干渉領域を前記2次元受信データから検出することを特徴とする請求項1に記載の干渉波検出装置。
【請求項5】
前記検出手段は、前記2次元参照波パターンの角度及び原点からの距離を順次変更しながら、前記パターンマッチングを行なうことを特徴とする請求項4に記載の干渉波検出装置。
【請求項6】
前記検出手段は、前記2次元参照波パターンとの相関値が所定の閾値以上の領域を、前記干渉領域として検出することを特徴とする請求項1に記載の干渉波検出装置。
【請求項7】
前記検出手段は、前記干渉領域を複素数領域において検出することを特徴とする請求項1に記載の干渉波検出装置。
【請求項8】
干渉波の原因となる与干渉局の電波情報を保持する参照波メモリを有する干渉波検出装置において用いられる干渉波検出方法であって、
信号処理されたレーダ受信信号から、観測対象の位置を示す2次元受信データを生成する2次元受信データ生成ステップと、
前記電波情報に基づいて、前記干渉波を再現した2次元参照波パターンを生成する参照波生成ステップと、
前記2次元参照波パターンと相関の高い領域を、干渉領域として前記2次元受信データから検出する検出ステップと、
を具備することを特徴とする干渉波検出方法。
【請求項9】
前記2次元受信データから、前記干渉領域のデータを除去する除去ステップを更に具備することを特徴とする請求項8に記載の干渉波検出方法。
【請求項10】
前記除去ステップは、前記データを除去した領域に対して、周囲の領域のデータを用いてデータ補間を行なうデータ補間ステップを更に具備することを特徴とする請求項9に記載の干渉波検出方法。
【請求項11】
前記検出ステップは、パターンマッチングによって前記干渉領域を前記2次元受信データから検出することを特徴とする請求項8に記載の干渉波検出方法。
【請求項12】
前記検出ステップは、前記2次元参照波パターンの角度及び原点からの距離を順次変更しながら、前記パターンマッチングを行なうことを特徴とする請求項11に記載の干渉波検出方法。
【請求項13】
前記検出ステップは、前記2次元参照波パターンとの相関値が所定の閾値以上の領域を、前記干渉領域として検出することを特徴とする請求項8に記載の干渉波検出方法。
【請求項14】
前記検出ステップは、前記干渉領域を複素数領域において検出することを特徴とする請求項8に記載の干渉波検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−59015(P2011−59015A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210922(P2009−210922)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】