説明

干渉除去装置、レーダ装置、及び干渉除去方法

【課題】レーダ映像の分解能を損なわずに、干渉除去する際のメモリ使用量を削減する。
【解決手段】干渉除去装置は、スイープデータ値の数値範囲を区分した複数の級のうち、入力されるスイープデータ値に対応する級を選択する級選択部と、入力されるスイープデータ値と方位方向に隣接するスイープデータ値に対して算出されたフィルタ出力値であって複数の級のいずれかの級により方位方向の相関を示すフィルタ出力値と、級選択部が選択した級とに基づいて、方位方向の相関を示すフィルタ出力値を算出するフィルタ処理部と、フィルタ処理部が算出した入力されるスイープデータ値に対するフィルタ出力値と、予め定められたしきい値とに基づいて入力されるスイープデータ値が干渉であるか否かを判定し、干渉であると判定された場合、予め定められた抑圧値を出力し、干渉でないと判定された場合、入力されるスイープデータ値を出力する干渉抑圧部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉除去装置、レーダ装置、及び干渉除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶などに用いられるレーダ装置では、予め定められた回転周期で水平面を回転するアンテナから電波を送信し、自装置が送信した電波が物標に反射した反射波(エコー)を受信して得られたスイープデータに基づいて極座標系のスキャンデータを生成する。ここで、スイープデータは、電波の送信と、当該電波の反射波の受信とによる送受信(スイープ)1回ごとに得られるデータである。また、スキャンデータは、アンテナ1回転分のスイープデータを含むデータである。
【0003】
レーダ装置が電波の送受信を行っている際に、他のレーダ装置から送信された電波を受信すると、当該電波は自装置が送信した電波が物標で反射された反射波に対する干渉波となり、検出すべき物標を検出する際の妨げとなる。この干渉波は、他のレーダ装置から送信された電波が直接受信される場合だけでなく、他のレーダ装置から送信された電波が物標などで反射され間接的に受信される場合もある。
【0004】
また、干渉波は、他のレーダ装置が送信したパルス幅分に応じて距離方向に連続して表れるが、方位方向には相関がほとんどない。これに対して、自装置から送信された電波が物標に反射したエコーは方位方向に相関がある。そこで、レーダ装置では、方位方向に連続する複数のスイープデータを用いて方位方向の相関を算出し、方位方向の相関が低いスイープデータを抑圧することにより、干渉波の除去を行っている。
このような干渉波の除去には、非線形なフィルタ、例えば、メディアンフィルタやランクフィルタなどが用いられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−107453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レーダ装置において物標に対する分解能を向上させるために、スイープデータの量子化の度合いを細かくして情報量を増加させる必要がある場合、スイープデータの情報量が増加するため、上記のフィルタ処理を行うために、方位方向に連続するスイープデータを記憶させておく記憶領域(メモリ)が増加することになる。記憶領域の増加は、干渉波を除去する処理をASIC(特定用途向けの集積回路)に実装する場合、ASICのチップサイズが大きくなり、製造コストの増加を招いてしまうという問題がある。
また、スイープデータの量子化の度合い細かくしても、上記のように、メディアンフィルタやランクフィルタを用いるとスイープデータが平滑化されてしまい、エコーの小さい変化が失われたり、小さいエコーが消えたりしてしまうことがある。すなわち、スイープデータの量子化の度合いを細かくしても、その変更に見合った分解能の向上が得られないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、レーダ映像の分解能を損なうことなく、干渉を除去する際のメモリ使用量を削減することができる干渉除去装置、レーダ装置、及び干渉除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために、本発明は、スイープデータ値が取り得る値に対する下限値から上限値までの数値範囲を区分した複数の級のうち、入力されるスイープデータ値に対応する級を選択する級選択部と、前記入力されるスイープデータ値と方位方向に隣接するスイープデータ値に対して算出されたフィルタ出力値であって前記複数の級のいずれかの級により方位方向の相関を示すフィルタ出力値と、前記入力されるスイープデータ値に対応する級とに基づいて、前記入力されるスイープデータ値に対する方位方向の相関を示すフィルタ出力値を算出するフィルタ処理部と、前記フィルタ処理部が算出した前記入力されるスイープデータ値に対するフィルタ出力値と、予め定められたしきい値とを比較し、比較の結果に基づいて前記入力されるスイープデータ値が干渉であるか否かを判定し、干渉であると判定された場合、予め定められた抑圧値を出力し、干渉でないと判定された場合、前記入力されるスイープデータ値を出力する干渉抑圧部とを備えることを特徴とする干渉除去装置である。
【0009】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記干渉抑圧部は、前記入力されるスイープデータ値に対して算出されたフィルタ出力値が、前記しきい値以下である場合、前記入力されるスイープデータ値を干渉候補であると判定し、前記しきい値以下でない場合、前記入力されるスイープデータ値を干渉でないと判定する干渉候補判定部と、前記入力されるスイープデータ値に対して算出されたフィルタ出力値が、前記方位方向に隣接するスイープデータ値に対して算出されたフィルタ出力値より大きい場合、立ち上がりエッジを検出し、前記方位方向に隣接するスイープデータ値に対して算出されたフィルタ出力値以下の場合、立ち上がりエッジを検出しないエッジ検出部と、前記干渉候補判定部が干渉候補であると判定し、かつ前記エッジ検出部が立ち上がりエッジを検出した場合、前記入力されるスイープデータ値を干渉であると判定し、前記干渉候補判定部が干渉候補でないと判定するか、又は前記エッジ検出部が立ち上がりエッジを検出しない場合、前記入力されるスイープデータ値を干渉でないと判定する干渉判定部とを有していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記級選択部には、誤警報確率を一定以下に抑えるCFAR処理が施されたスイープデータが入力されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記に記載の発明における干渉除去装置と、電波の送受信ごとに得られる前記スイープデータ値を前記干渉除去装置に入力するレーダ送受信部と、前記干渉除去装置に備えられている干渉抑圧部から出力される値に基づいた表示画像データを出力する表示部とを具備することを特徴とするレーダ装置である。
【0012】
また、本発明は、スイープデータ値が取り得る値に対する下限値から上限値までの数値範囲を区分した複数の級のうち、入力されるスイープデータ値に対応する級を選択する級選択ステップと、前記入力されるスイープデータ値と方位方向に隣接するスイープデータ値に対して算出されたフィルタ出力値であって前記複数の級のいずれかの級により方位方向の相関を示すフィルタ出力値と、前記入力されるスイープデータ値に対応する級とに基づいて、前記入力されるスイープデータ値に対する方位方向の相関を示すフィルタ出力値を算出するフィルタ処理ステップと、前記フィルタ処理ステップにおいて算出された前記入力されたスイープデータ値に対するフィルタ出力値と、予め定められたしきい値とを比較し、比較の結果に基づいて前記入力されるスイープデータ値が干渉であるか否かを判定し、干渉であると判定された場合、予め定められた抑圧値を出力し、干渉でないと判定された場合、前記入力されたスイープデータ値を出力する干渉抑圧ステップとを有することを特徴とする干渉除去方法である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、フィルタ処理部が方位方向の相関を算出する際、前回のフィルタ出力値に対応する級と、入力されるスイープデータ値に対応する級とから、入力されるスイープデータ値に対する方位方向の相関を算出する。そして、算出した方位方向の相関に基づいて干渉であるか否かを判定し、干渉でない場合、入力されるスイープデータ値を出力するようにした。また、級を示すための情報量は、スイープデータ値の取り得る数値範囲を区分することによって、スイープデータ値を示すための情報量より少なくしている。
これにより、方位方向の相関の算出には、1回前に算出したフィルタ出力値を記憶すればよいので、過去の情報を記憶するために用いるメモリ使用量を削減することができる。
また、干渉であるか否かの判定結果に基づいて、入力されるスイープデータ値を出力するので、情報量を維持することができ、分解能の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態におけるレーダ装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】本実施形態におけるレーダ信号処理部の構成を示す概略ブロック図である。
【図3】本実施形態におけるフィルタ処理部の構成例を示す概略ブロック図である。
【図4】本実施形態における干渉を除去する処理を示すフローチャートである。
【図5】実施例1における干渉除去の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態における干渉除去装置、レーダ装置、及び干渉除去方法を説明する。
【0016】
図1は、本実施形態におけるレーダ装置の構成を示す概略ブロック図である。このレーダ装置は、空中線部2から送信された電波が物標に反射した反射波(エコー)を空中線部2が受信し、受信した反射波に応じた画像情報を表示部16に出力するものである。
【0017】
同図に示すように、レーダ装置は、送受信制御部1、空中線部2、A/D(Analog-to-digital;アナログ・デジタル)変換部3、レーダ信号処理部4、スイープメモリ部5、空中線回転信号生成部6、距離角度信号制御部7、ジャイロインターフェース部8、座標変換部9、速度情報入力部10、表示メモリ部11、スキャン相関処理部12、表示情報生成部13、グラフィックメモリ部14、画像合成部15、及び表示部16を具備している。
送受信制御部1は、自装置が具備している空中線部2の送受信の制御を行う。
空中線部2は、送受信制御部1の制御に応じて、予め定められた回転周期で回転するアンテナから電波を送信し、物標などで反射した電波を受信し、受信した電波の電力レベル(振幅)に応じた受信信号をA/D変換部3に出力する。
【0018】
A/D変換部3は、空中線部2から入力される受信信号を量子化し、量子化したデジタル信号をレーダ信号処理部4に出力する。
レーダ信号処理部4は、誤警報確率をある一定水準以下に抑圧するCFAR(Constant False Alarm Rate)処理を入力されたデジタル信号に対して行う。また、レーダ信号処理部4は、CFAR処理を施したデジタル信号に対して、アンテナの回転方向(方位方向)に隣接するデータ間における干渉除去を行い、その結果をスイープメモリ部5に記憶させる。スイープメモリ部5には、反射波の受信電力レベルをデジタル化したデータが時系列順に記憶される。
【0019】
空中線回転信号生成部6は、空中線部2が有するアンテナの回転角度に同期したパルス信号を生成し、生成したパルス信号を距離角度信号制御部7に出力する。
ジャイロインターフェース部8は、自装置が設置されている船舶の針路を検出し、検出した針路を示す情報を距離角度信号制御部7に出力する。
距離角度信号制御部7は、空中線回転信号生成部6から入力されるパルス信号と、ジャイロインターフェース部8から入力される情報とから角度を算出し、算出した角度を示す情報を座標変換部9に出力する。
【0020】
速度情報入力部10には、自装置が設置されている船舶の移動する速度を示す速度情報が外部より入力される。
座標変換部9は、距離角度信号制御部7が算出した角度と、速度情報入力部10に入力された速度情報とに基づいて、表示メモリ部11における読み出しアドレス及び書き込みアドレスを算出する。換言すると、座標変換部9は、アンテナの方位、自船の針路、及び、速度情報に基づいて算出される自船の位置を用いて、極座標系から直交座標系への変換を行い、表示メモリ部11に記憶されているデータのうち、スイープメモリ部5に記憶されているデータに対応するデータを選択する読み出しアドレス及び書き込みアドレスを算出する。
【0021】
表示メモリ部11は、アンテナが1回転して得られるデータ、すなわち1スキャン分のデータを記憶する複数の記憶領域を有し、PPI(Plan Position Indicator;平面位置表示)表示データを記憶する。また、表示メモリ部11の複数の記憶領域は、座標変換部9が算出する読み出しアドレス及び書き込みアドレスを用いて、いずれか1つが選択される。
【0022】
スキャン相関処理部12は、スキャン間の相関に基づいて、海象や気象の状況に応じて発生する不要な反射波などのノイズ(クラッタ)を除去する処理を行う。具体的には、スキャン相関処理部12は、1回前のスキャンにより得られたデータである前回出力値を表示メモリ部11から読み出すとともに、今回のスイープにより得られたデータである今回入力値をスイープメモリ部5から読み出す。スキャン相関処理部12は、前回出力値と今回入力値との相関に基づいた演算を行い、演算結果である今回出力値を表示メモリ部11に記憶させる。このとき、前回出力値は、座標変換部9が算出した読み出しアドレスで選択される記憶領域に記憶されたデータである。また、今回出力値は、座標変換部9が算出した書き込みアドレスで選択される記憶領域に記憶される。
【0023】
表示情報生成部13は、海図や、電子方位線、VRM(Variable Range Marker;可変距離環)などを示す情報に基づいて、表示部16に表示させる表示データを生成し、生成した表示データをグラフィックメモリ部14に記憶させる。
画像合成部15は、表示メモリ部11に記憶されているデータと、グラフィックメモリ部14に記憶されている表示データとを合成し、合成したデータを表示部16に出力する。
表示部16は、画像合成部15から入力されたデータを画像として表示する。表示部16は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display;液晶表示装置)などである。
【0024】
図2は、本実施形態におけるレーダ信号処理部4の構成を示す概略ブロック図である。同図に示すように、レーダ信号処理部4は、ノイズレベル調整部40と、CFAR部41と、干渉除去部42と、距離平均部43とを備えている。
ノイズレベル調整部40は、A/D変換部3から出力されるデジタル信号の振幅を適切なレベルに調整して、レーダ装置における空中線部2の受信機におけるノイズなどを除去し、ノイズなどを除去したデジタル信号を出力する。ここで、ノイズレベル調整部40における適切なレベルとは、スイープごとに計測された雑音信号のレベルに基づいて算出されるレベルであり、雑音信号を除去することができるレベルのことである。
【0025】
CFAR部41は、公知の技術を用いて誤警報確率をある一定水準以下に抑圧するCFAR(Constant False Alarm Rate)処理を、ノイズレベル調整部40から出力されるデジタル信号に対して行い、その結果をスイープデータ値として干渉除去部42に出力する。干渉除去部42は、入力されるスイープデータ値に対して、他のレーダ装置から送信された電波による干渉を除去する干渉除去を行う。距離平均部43は、干渉除去部42が出力するデジタル信号に対して、表示部16における距離方向の表示範囲に基づいて距離方向における間引き処理によりデータ量を削減し、処理結果をスイープメモリ部5に記憶させる。
【0026】
干渉除去部42は、平滑化フィルタ部45と、フィルタ結果記憶部46と、干渉抑圧部47とを有している。平滑化フィルタ部45は、区分閾値記憶部451と、級選択部452と、フィルタ処理部453とを有している。
区分閾値記憶部451は、入力されるスイープデータ値の取り得る値に対する下限値から上限値までの数値範囲を区分するための複数のしきい値が記憶されている。例えば、区分閾値記憶部451には、数値範囲が0〜43である場合に、当該数値範囲を6つに区分された級に分けるように、各級の上限値(2、9、17、25、33、43)が小さい順に記憶されている。
級選択部452は、区分閾値記憶部451に記憶されている複数の上限値に基づいて、スイープデータ値の取り得る値に対する下限値から上限値までの数値範囲を区分した複数の級のうち、入力されるスイープデータ値に対応する級を選択し、選択した級をフィルタ処理部453に出力する。
【0027】
フィルタ処理部453は、級選択部452から入力される級と、フィルタ結果記憶部46に記憶されている前回算出したフィルタ出力値であって方位方向の相関を示すフィルタ出力値とに基づいて、入力されるスイープデータ値に対する方位方向の相関を示すフィルタ出力値を算出する。また、フィルタ処理部453は、算出したフィルタ出力値をフィルタ結果記憶部46に記憶させて、次回のフィルタ出力値を算出する際に用いる。フィルタ処理部453が算出するフィルタ出力値は、スイープデータ値の取り得る値に対する下限値から上限値までの数値範囲を区分した級を示す値(級値)で示される。
フィルタ結果記憶部46は、平滑化フィルタ部45が有するフィルタ処理部453がフィルタ出力値を算出するたびに、算出されたフィルタ出力値を記憶する。
【0028】
干渉抑圧部47は、干渉候補判定部471と、エッジ検出部472と、干渉判定部473とを有している。
干渉候補判定部471は、干渉除去部42に入力されるスイープデータ値に対して平滑化フィルタ部45が算出したフィルタ出力値が、連なりしきい値以下である場合、当該スイープデータ値を干渉候補であると判定し、フィルタ出力値が連なりしきい値以下でない場合、当該スイープデータ値を干渉候補でないと判定する。すなわち、干渉候補判定部471は、スイープ間において、級値が1以上であるスイープデータ値の連続する数が、連なりしきい値以下である場合に、スイープデータ値を干渉の候補としている。
【0029】
エッジ検出部472には、干渉除去部42に入力されるスイープデータ値に対して平滑化フィルタ部45が算出した今回のフィルタ出力値と、フィルタ結果記憶部46に保存されている方位方向に隣接するスイープデータ値に対して算出された前回のフィルタ出力値が入力される。
エッジ検出部472は、今回のフィルタ出力値が前回のフィルタ出力値より大きい場合、立ち上がりエッジを検出する。一方、エッジ検出部472は、今回のフィルタ出力値が前回のフィルタ出力値以下の場合、立ち上がりエッジを検出しない。
ここで、方位方向に隣接するスイープデータ値とは、空中線部2におけるアンテナの回転方向(方位方向)に隣接するスイープデータ値であって、1つの前のスイープにおけるスイープデータ値のうち、距離方向における距離が一致するスイープデータ値である。
【0030】
干渉判定部473は、干渉候補判定部471が干渉候補であると判定し、かつエッジ検出部472が立ち上がりエッジを検出した場合、干渉除去部42に入力されるスイープデータ値を干渉であると判定する。一方、干渉判定部473は、干渉候補判定部471が干渉候補でないと判定するか、又はエッジ検出部472が立ち上がりエッジを検出しない場合、干渉除去部42に入力されるスイープデータ値を干渉でないと判定する。また、干渉判定部473は、入力されるスイープデータ値を干渉であると判定した場合、予め定められた抑圧値を出力し、入力されるスイープデータ値を干渉でないと判定した場合、入力されるスイープデータ値を出力する。
【0031】
上述の構成により、干渉抑圧部47は、入力されるスイープデータ値に対して平滑化フィルタ部45が算出するフィルタ出力値と、外部より入力される連なりしきい値とを比較し、入力されるスイープデータ値が干渉であるか否かを判定する。干渉抑圧部47は、入力されるスイープデータ値が干渉であると判定した場合、予め定められた抑圧値を出力し、入力されるスイープデータ値が干渉でないと判定した場合、入力されるスイープデータ値を出力する。
【0032】
図3は、本実施形態におけるフィルタ処理部453の構成例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、フィルタ処理部453は、命令記憶部455と、命令読出部456と、演算部457とを有している。
命令記憶部455には、前回フィルタ処理部453が算出したフィルタ出力値(級を示す値)と、級選択部452が選択した級を示す値との組合せそれぞれに、今回のフィルタ出力値を算出する演算を示す命令コードが対応付けられた命令テーブルが予め記憶されている。命令テーブルには、前回算出されたフィルタ出力値と、今回入力されるスイープデータ値に対応する級を示す値とから、スイープデータ値の方位方向の相関を示す値を算出する命令コードが対応付けられている。
【0033】
命令読出部456は、前回フィルタ処理部453が算出したフィルタ出力値を、フィルタ結果記憶部46から読み出す。命令読出部456は、読み出したフィルタ出力値と、級選択部452から出力されたフィルタ出力値との組合せに対応する命令コードを命令記憶部455から読み出し、読み出した命令コードを演算部457に出力する。
演算部457は、命令読出部456から入力された命令コードに基づいて、前回フィルタ処理部453が算出したフィルタ出力値と、級選択部452から出力されたフィルタ出力値とから今回のフィルタ出力値を算出する。
【0034】
図4は、本実施形態における干渉除去部42が、1スイープ分のスイープデータ値に含まれる干渉を除去する処理を示すフローチャートである。干渉除去部42にスイープデータ値が入力されると、級選択部452が、入力されたスイープデータ値に対応する級を選択する入力値分類処理を行う(ステップS1)。
フィルタ処理部453は、フィルタ結果記憶部46に記憶されている前回のフィルタ出力値を読み出し、読み出した前回のフィルタ出力値と、級選択部452が選択した級値とから今回のフィルタ出力値を算出する平滑化フィルタ処理を行い、今回のフィルタ出力値をフィルタ結果記憶部に記憶させる(ステップS2)。
【0035】
干渉抑圧部47は、平滑化フィルタ処理が行われると、今回のフィルタ出力値が、連なりしきい値より大きいか否かを判定し(ステップS3)、今回のフィルタ出力値が連なりしきい値より大きい場合(ステップS3:Yes)、処理をステップS5に進める。
一方、今回のフィルタ出力値が連なりしきい値以下である場合(ステップS3:No)、干渉抑圧部47は、立ち上がりエッジの検出を行う(ステップS4)。
【0036】
ステップS4において、立ち上がりエッジが検出されない、安定部分又は立ち下がり部分である場合(ステップS4:No)、干渉抑圧部47は、入力されたスイープデータ値を出力する(ステップS5)。
一方、ステップS4において、立ち上がりエッジを検出した場合(ステップS4:Yes)、干渉抑圧部47は、予め定められた抑圧値を出力する(ステップS6)。
干渉除去部42において、1スイープに含まれる各スイープデータ値に対して上述のステップS1からステップS6までの処理が繰り返して行われる。
【0037】
上述のように、本実施形態の干渉除去部42では、フィルタ処理部453が方位方向の相関を算出する際、前回のフィルタ出力値に対応する級と、入力されるスイープデータ値に対応する級とから、入力されるスイープデータ値に対する方位方向の相関を算出する。そして、干渉抑圧部47が、算出された方位方向の相関に基づいて干渉であるか否かを判定し、干渉でない場合、入力されるスイープデータ値を出力するようにした。また、級を示すための情報量は、スイープデータ値の取り得る数値範囲を区分することによって、スイープデータ値を示すための情報量より少なくしている。
これにより、干渉除去部42は、方位方向の相関の算出に、1回前に算出したフィルタ出力値を記憶すればよいので、過去の情報を記憶するために用いるメモリ使用量を削減することができる。その結果、干渉を除去する処理をASICに実装する場合に、ASICのチップサイズを削減することができ、ASICチップの製造コストを削減することができる。また、干渉でないと判定された場合、入力されるスイープデータ値をそのまま出力するので、スイープデータ値の情報量を損なうことなく、干渉の除去を行うことができる。
【0038】
また、本実施形態の干渉除去部42には、CFAR処理を施したスイープデータ値が入力されている。CFAR処理は、干渉の方位方向における連続性を弱める効果がある。CFAR処理を行った後に、干渉除去部42による干渉の除去を行うことにより、更に、干渉を除去する効果を向上させることができる。このとき、連なりしきい値を下げることができるので、スイープ間のスイープデータ値の連なりが小さい有効なエコーを干渉と判定する可能性を低くすることができ、レーダ装置の性能を向上させることができる。
【実施例1】
【0039】
実施例1として、干渉除去部42における具体的な干渉除去の一例を示して、その処理を説明する。ここでは、スイープデータ値が取り得る値の数値範囲を0から43とし、当該数値範囲を6つの級(0〜2、3〜9、10〜17、18〜25、26〜33、34〜43)に区分し、小さい順に0から5の値を各級に割り当てる場合について説明する。また、本実施例においては、連なりしきい値として「2」が干渉候補判定部471に入力され、干渉と判定された場合、入力されるスイープデータ値が抑圧値「0」に置き換えられて出力される。また、本実施例において、命令テーブルには、今回の入力されるスイープデータ値に対応する級と、前回の算出されたフィルタ出力値としての級との組合せに対して、以下に示す命令コードが対応付けられている。
【0040】
命令テーブルにおいて、今回の入力されるスイープデータ値に対応する級が、前回の算出されたフィルタ出力値(級)より小さい組合せに対して、前回の算出されたフィルタ出力値から「1」を減算した値を今回のフィルタ出力値として出力する演算が命令コードとして対応付けられている。
また、今回の入力されるスイープデータ値に対応する級が、前回の算出されたフィルタ出力値(級)と同じ組合せに対して、前回の算出されたフィルタ出力値を出力する演算が命令コードとして対応付けられている。
また、今回の入力されるスイープデータ値に対応する級が、前回の算出されたフィルタ出力値(級)より大きい組合せに対して、前回の算出されたフィルタ出力値に「1」を加算した値を今回のフィルタ出力値とし出力する演算が命令コードとして対応付けられている。
【0041】
図5は、実施例1における干渉除去の一例を示す図である。ここでは、図5(c)に示すように、フィルタ結果記憶部46に記憶されている前回のフィルタ出力値が、「1,0,0,0,0,0,0,1,2,2,3,4,4,3,2,2,2,1」である場合について説明する。
干渉除去部42において、図5(a)に示すように、「42,41,42,43,0,0,0,14,20,28,31,31,31,31,20,14,9,0」が順にスイープデータ値として干渉除去部42に入力されると、級選択部452は、図5(b)に示すように、入力された各スイープデータ値に対して、「5,5,5,5,0,0,0,2,3,4,4,4,4,4,3,2,1,0」を対応する級を示す値(級値)として出力する。
【0042】
命令読出部456は、前回の算出されたフィルタ出力値である「1,0,0,0,0,0,0,1,2,2,3,4,4,3,2,2,2,1,0」をフィルタ結果記憶部46から読み出し、読み出したフィルタ出力値と、級選択部452が出力した級値とにおいて、方位方向に隣接する組合せに対応する命令コードを命令記憶部455から読み出す。ここで、命令読出部456が命令コードを読み出す級値の組合せ(スイープデータ値に対応する級値,前回のフィルタ出力値(級値))は、順に「(5,1)、(5,0)、(5,0)、(5,0)、(0,0)、(0,0)、(0,0)、(2,1)、(3,2)、(4,2)、(4,3)、(4,4)、(4,4)、(4,3)、(3,2)、(2,2)、(1,2)、(0,1)」である。
【0043】
演算部457は、命令読出部456が読み出した命令コードに応じて、今回の入力されたスイープデータ値に対応する級値と、前回のフィルタ出力値(級値)とから今回の出力値を算出する。演算部457が算出するフィルタ出力値は、図5(d)に示すように、順に「2,1,1,1,0,0,0,2,3,3,4,4,4,3,3,2,1,0」となる。
干渉候補判定部471は、演算部457が算出したフィルタ出力値が、連なりしきい値「2」以下である場合に、入力されたスイープデータ値が干渉候補であると判定し、連なりしきい値「2」以下でない場合に、入力されたスイープデータ値が干渉候補でないと判定する。干渉候補判定部471は、図5(d)で示されるフィルタ出力値に対して干渉候補であるか否かの判定を行い、図5(e)に示すように、「1,1,1,1,1,1,1,1,0,0,0,0,0,0,0,1,1,1」を出力する。ここでは、干渉候補判定部471は、干渉候補である場合「1」を出力し、干渉候補でない場合「0」を出力している。
【0044】
エッジ検出部472は、演算部457が算出したフィルタ出力値と、フィルタ結果記憶部46に記憶されている前回の算出されたフィルタ出力値とを比較して、立ち上がりエッジを検出し、図5(f)に示すように「1,1,1,1,0,0,0,1,1,1,1,0,0,0,1,0,0,0」を検出結果として出力する。ここでは、エッジ検出部472は、立ち上がりエッジを検出した場合に「1」を出力し、立ち上がりエッジを検出しなかった場合に「0」を出力している。
干渉判定部473は、干渉候補判定部471が出力した判定結果と、エッジ検出部472が出力した検出結果とに基づいて、入力されたスイープデータ値が干渉であるか否かの判定を行い、図5(g)に示す判定結果「1,1,1,1,0,0,0,1,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0」を得る。ここでは、「1」が干渉であることを示し、「0」が干渉でないことを示している。干渉判定部473は、図5(g)に示す判定結果に基づいて、図5(h)に示すように「0,0,0,0,0,0,0,0,20,28,31,31,31,31,20,14,9,0」が干渉除去後のスイープデータ値として出力される。
【0045】
このように、干渉除去部42において、入力されるスイープデータ値のうち、距離方向において、1〜4番目に入力されるスイープデータ値「42,41,42,43」と、8番目に入力されるスイープデータ値「14」とが干渉であると判定され、当該スイープデータ値が抑圧値「0」に置き換えられて出力され、干渉を除去する処理が行われる。
【0046】
干渉除去部42における処理は、他のレーダ装置が送信した電波による干渉は、方位方向の相関が低く、かつ当該電波が受信される方位方向において著しく受信のレベル(振幅)が高くなる傾向にあることを利用している。
上述のように、干渉除去部42において、平滑化フィルタ部45が、前回のフィルタ出力値と、今回のスイープデータ値に対応する級値とから、方位方向におけるスイープデータ値の連なり具合(相関)を算出し、干渉抑圧部47が平滑化フィルタ部45により算出された今回のフィルタ出力値と、前回のフィルタ出力値とから、今回のスイープデータ値が干渉であるか否かを判定して、出力値を選択することにより、干渉を除去することができる。
【0047】
なお、本実施例では、今回のスイープデータ値に対応する級が、前回のフィルタ出力値より大きい場合に、スイープデータ値の方位方向における相関である連なり具合が大きくなり、逆に、前回のフィルタ出力値より小さい場合に連なり具合が小さくなるという演算をフィルタ処理部453において行う例を示したが、これに限ることなく、フィルタ処理部453において行う演算は、スイープデータ値の方位方向における相関が算出できれば他の演算であってもよい。
【0048】
また、上述のレーダ装置は内部に、コンピュータシステムを有していてもよい。その場合、上述した干渉除去部42が有する平滑化フィルタ部45、フィルタ結果記憶部46、及び干渉抑圧部47それぞれの機能をコンピュータシステムに実行させるプログラムが、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータシステムが読み出して実行することによって、上記の干渉を抑圧する処理が行われることになる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【符号の説明】
【0049】
1…送受信制御部、2…空中線部、3…A/D変換部、4…レーダ信号処理部、5…スイープメモリ部、6…空中線回転信号生成部、7…距離角度信号制御部、8…ジャイロインターフェース部、9…座標変換部、10…速度情報入力部、11…表示メモリ部、12…スキャン相関処理部、13…表示情報生成部、14…グラフィックメモリ部、15…画像合成部、16…表示部、40…ノイズレベル調整部、41…CFAR部、42…干渉除去部、43…距離平均部、45…平滑化フィルタ部、46…フィルタ結果記憶部、47…干渉抑圧部、451…区分閾値記憶部、452…級選択部、453…フィルタ処理部、455…命令記憶部、456…命令読出部、457…演算部、471…干渉候補判定部、472…エッジ検出部、473…干渉判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイープデータ値が取り得る値に対する下限値から上限値までの数値範囲を区分した複数の級のうち、入力されるスイープデータ値に対応する級を選択する級選択部と、
前記入力されるスイープデータ値と方位方向に隣接するスイープデータ値に対して算出されたフィルタ出力値であって前記複数の級のいずれかの級により方位方向の相関を示すフィルタ出力値と、前記入力されるスイープデータ値に対応する級とに基づいて、前記入力されるスイープデータ値に対する方位方向の相関を示すフィルタ出力値を算出するフィルタ処理部と、
前記フィルタ処理部が算出した前記入力されるスイープデータ値に対するフィルタ出力値と、予め定められたしきい値とを比較し、比較の結果に基づいて前記入力されるスイープデータ値が干渉であるか否かを判定し、干渉であると判定された場合、予め定められた抑圧値を出力し、干渉でないと判定された場合、前記入力されるスイープデータ値を出力する干渉抑圧部と
を備えることを特徴とする干渉除去装置。
【請求項2】
前記干渉抑圧部は、
前記入力されるスイープデータ値に対して算出されたフィルタ出力値が、前記しきい値以下である場合、前記入力されるスイープデータ値を干渉候補であると判定し、前記しきい値以下でない場合、前記入力されるスイープデータ値を干渉でないと判定する干渉候補判定部と、
前記入力されるスイープデータ値に対して算出されたフィルタ出力値が、前記方位方向に隣接するスイープデータ値に対して算出されたフィルタ出力値より大きい場合、立ち上がりエッジを検出し、前記方位方向に隣接するスイープデータ値に対して算出されたフィルタ出力値以下の場合、立ち上がりエッジを検出しないエッジ検出部と、
前記干渉候補判定部が干渉候補であると判定し、かつ前記エッジ検出部が立ち上がりエッジを検出した場合、前記入力されるスイープデータ値を干渉であると判定し、前記干渉候補判定部が干渉候補でないと判定するか、又は前記エッジ検出部が立ち上がりエッジを検出しない場合、前記入力されるスイープデータ値を干渉でないと判定する干渉判定部と
を有していることを特徴とする請求項1に記載の干渉除去装置。
【請求項3】
前記級選択部には、誤警報確率を一定以下に抑えるCFAR処理が施されたスイープデータが入力される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の干渉除去装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載の干渉除去装置と、
電波の送受信ごとに得られる前記スイープデータ値を前記干渉除去装置に入力するレーダ送受信部と、
前記干渉除去装置に備えられている干渉抑圧部から出力される値に基づいた表示画像データを出力する表示部と
を具備することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
スイープデータ値が取り得る値に対する下限値から上限値までの数値範囲を区分した複数の級のうち、入力されるスイープデータ値に対応する級を選択する級選択ステップと、
前記入力されるスイープデータ値と方位方向に隣接するスイープデータ値に対して算出されたフィルタ出力値であって前記複数の級のいずれかの級により方位方向の相関を示すフィルタ出力値と、前記入力されるスイープデータ値に対応する級とに基づいて、前記入力されるスイープデータ値に対する方位方向の相関を示すフィルタ出力値を算出するフィルタ処理ステップと、
前記フィルタ処理ステップにおいて算出された前記入力されたスイープデータ値に対するフィルタ出力値と、予め定められたしきい値とを比較し、比較の結果に基づいて前記入力されるスイープデータ値が干渉であるか否かを判定し、干渉であると判定された場合、予め定められた抑圧値を出力し、干渉でないと判定された場合、前記入力されたスイープデータ値を出力する干渉抑圧ステップと
を有することを特徴とする干渉除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−189431(P2012−189431A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52894(P2011−52894)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】