干潟などの造成台付き護岸
【課題】護岸本体に干潟、潮溜まり、入江、浅場などの造成台を増設する場合、施工性がよく、安定した状態を保持でき、干潟などの造成台を生息空間とする生物などにも適応する環境を形成できる干潟などの造成台付き護岸を得る。
【解決手段】護岸本体1の前面または内部に枠体2による空洞部4を形成し、この空洞部4内に干潟8などの基盤5となる流動化処理土などの固化材料7または固化材料7と中詰材6とを充填して干潟8などの造成台を構築する。
【解決手段】護岸本体1の前面または内部に枠体2による空洞部4を形成し、この空洞部4内に干潟8などの基盤5となる流動化処理土などの固化材料7または固化材料7と中詰材6とを充填して干潟8などの造成台を構築する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設や新設の護岸に干潟、潮溜まり、入江、浅場などの造成台を増設する護岸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、都市再生が提唱され、人工干潟や人工海浜など水辺の造成が行われているが、さらに、都市内の水路・運河の再生も謳われるようになっている。そして、この内湾、河口域での水路・運河の再生では、既存の護岸の耐震化や海面上昇に伴い、リニューアル的な造成を組合わせて新しく生物共生という機能を付加することも要求されている。
【0003】
このような要求に応える護岸として、例えば、既存の護岸本体の前面に小規模な干潟や潮溜まり、さらには浅場を設置するものなどがある(例えば特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特許第3031672号公報
【特許文献2】特許第3096720号公報
【0004】
かかる護岸を造成するに際し、付加される干潟、潮溜まり、入江、浅場などの部分の基盤をいかに造成するかが問題となるが、付加される部分の基盤は既存の護岸本体の前面に設置されるか、または、護岸本体を切取ってその内部に設置されることになる。
【0005】
従来、この基盤の造成は、例えば図9に示すように水深が浅い場合は、既存の護岸本体1の前面に杭20を打設し、この杭20の上に断面L字形の枠体2をコンクリートで造成し、この枠体2を護岸本体1の前面から海3の方向に向けて水平に突設させている。そして、枠体2の底部と海底との間には土砂21を充填する。
【0006】
または、図10に示すように予め作製したケーソン22を護岸本体1の前面に沈設する。
【0007】
水深が深い場合は、図11に示すように護岸本体1の前面側を海底から石積みにより根固め23し、この根固め23の上部に平坦部を形成し、ここに防水シート24を布設して不透水層を形成している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記図9から図11に示す方法では、干潟では砂の流失防止、潮溜まりでは溜まり水の流出防止、浅場では基盤の安定化を図っているが、施工がよくない場合や、時間経過によって防水シート24の劣化や破損などが発生すると、計画当初の安定した状態を保持できなくなる。
【0009】
また、安定状態を保持できるように施工するには、熟練と注意を必要とし、さらに、施工が水中、水上となるため時間を要し工費も嵩む。
【0010】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、護岸本体に干潟、潮溜まり、入江、浅場などの造成台を増設する場合、施工性がよく、安定した状態を保持でき、造成台を生息空間とする生物などにも適応する環境を形成できる干潟などの造成台付き護岸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、護岸本体の前面または内部に枠体による空洞部を形成し、この空洞部内に干潟などの基盤となる固化材料、または固化材料と中詰材とを充填して干潟などの造成台を構築することを要旨とするものである。
【0012】
請求項1記載の本発明によれば、干潟などの基盤を固化材料で構築することにより、不透水で耐久性のある造成台が施工できる。また、この基盤を生息空間とする生物などにも適応する材料で施工できる。そして、石などの中詰材を固化材料で結合することで、固化材料が中詰材を全体的に包み込むことになり、中詰材からの有害物質を封じ込めることができて、水中への流出を防止でき、また、施工も造成台の底層から注入し打ち上げていくことで、水中での施工が容易にできる。
【0013】
請求項2記載の発明は、枠体の天端に水の出入口を形成することを要旨とするものである。
【0014】
請求項2記載の本発明によれば、引潮時に造成台の潮溜まりや浅場などで水温が上昇しまた溶存酸素濃度が増加した海水は、満潮時に水の出入口から枠体内に流入する海水と入れ替わり、水の出入口から枠体外に流出する。海水が枠体の天端を一気に越流して交換することが阻止されるので、護岸本体近傍の海水は水温や溶存酸素濃度が良好な状態に維持され、水質改善や環境再生に寄与することができる。
【0015】
請求項3記載の発明は、固化材料はセメント系固結性流動物であることを要旨とするものである。
【0016】
請求項3記載の本発明によれば、固化材料をセメント系固結性流動物とすることで、通常のコンクリートやモルタルに比較して流動性が高く、固化後は不透水性となり、不透水層を形成でき、干潟などを造成するための材料に適している。
【0017】
請求項4記載の発明は、セメント系固結性流動物に低pHセメントを使用することを要旨とするものである。
【0018】
請求項4記載の本発明によれば、セメント系固結性流動物は一般には結合材にセメントやモルタルを使用するが、これらは高アルカリ性で生物に悪影響を及ぼすおそれがある。そこで、結合材としてのセメントに低pHセメントを使用することにより、従来と同等の強度を得つつ、セメント系固結性流動物を低アルカリ性とし、生物に適した材料にすることができる。
【0019】
請求項5記載の発明は、セメント系固結性流動物は流動化処理土であり、この流動化処理土に植物繊維を添加することを要旨とするものである。
【0020】
請求項5記載の本発明によれば、建設残土にモルタルを混合した流動化処理土を干潟などの基盤の主材として、これに植物繊維を添加することにより、固化すると不透水となって自然下で通常保水状態とならない流動化処理土に対して、保水性を確保できる。よって、引潮などにより干出した時にも基盤は湿潤し、含水比の高い状態を保持でき、自然の干潟などと同様な状態をつくれる。
【0021】
請求項6記載の発明は、固化材料中の細骨材の割合を、造成台の表層部分において大きくすることを要旨とするものである。
【0022】
請求項6記載の本発明によれば、造成台の表層部分は、土や砂などの細骨材を多く含有させることで、仕上げ面の凹凸を多くするなどの加工が行いやすくなり、現場の状況に対応させて任意の形状に施工できる。
【発明の効果】
【0023】
以上述べたように本発明の干潟などの造成台付き護岸は、護岸本体に干潟、潮溜まり、入江、浅場などの造成台を増設する場合、干潟などの基盤を、中詰材とこれを封じ込む流動化処理土などとで形成するから、施工性がよく、不透水で耐久性のあるものにでき、安定した状態が保持され、造成台を生息空間とする生物などにも適応する環境を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面について本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の干潟などの造成台付き護岸の実施形態を示す干潟などを増設する前の状態の説明図、図2は本発明の干潟などの造成台付き護岸の第1実施形態を示す説明図で、図中1は既存の護岸本体、3は水域として海を示す。
【0025】
図2の第1実施形態は、干潟8の造成台付きの護岸であり、既存の護岸本体1の海3側の前面に平面コ字形の枠体2を設置する。この枠体2は、コンクリート、石、鋼板、土嚢などの固形物により桝状の枠に形成し、内部に空洞部4が形成される。なお、図示例の枠体2は桝状に形成されているが、これに限定されるものではなく、後述する図6、7のように壁状に形成してもよい。
【0026】
枠体2の高さは、図2(b)に示すように引潮の低水位(L.W.L)よりも高く、満潮の高水位(H.W.L.)よりは低いものに設定し、枠体2の海3側の天端には海水の出入口となる凹部による切欠き2aを形成しておく。また、図示は省略するが、切欠き2aに水門を設け、枠体2における水の流出入量を調節することもできる。さらに水の出入口としては、枠体2を貫通する管体などの連通路2bを形成する態様としてもよい。
【0027】
本発明では水深が深い場合は、図6に示すように、この空洞部4内に干潟8の基盤5として、中詰材6と、これを結合させ基盤5の主材となる固化材料7とを充填する。
【0028】
固化材料7は、マンメイドソイル(商品名)と称せられるセメント系固結性流動物で、建設残土にモルタルを混合した材料である流動化処理土であり、通常のコンクリートやモルタルと比較して流動性が高く、固化後は不透水性となり、不透水層を形成する性質を有する。
【0029】
中詰材6は、水深が深い場合に基盤5を安定させるために投入するもので、これを入れることで流動化処理土の量を減量させ固化を促進できる。
【0030】
そして、中詰材6としては、石の他に、コンクリートガラ、レンガガラ、架石ガラなどの強度のある廃棄物を使用することが可能である。
【0031】
以上のような中詰材6と流動化処理土である固化材料7とを枠体2内の空洞部4に投入すれば、流動性の高い固化材料7が中詰材6を全体的に包み込むようにして固化する。
【0032】
よって、中詰材6から発生する重金属などの有害物質を封じ込めて流出を防止することができ、また、施工も造成台の底層から注入し打ち上げていくことで水中での施工ができ、固化することで干潟8の基盤5が施工できる。
【0033】
前記のように流動化処理土による固化材料7は固化すると不透水性となり、不透水層を形成する。しかし、自然の干潟や潮溜まり、浅場では基盤5は保水性の高い砂泥や泥岩であり、水位の低下によって干出しした時でも砂泥もしくは泥岩は湿潤し、常に水分のある状態になっている。
【0034】
そこで、自然の状態で保水状態を作り出せない固化材料7に対しては、流動化処理土の配合に、綿・麻などの植物繊維、例えば長さ3cm以下の短繊維を添加する。これにより、10%重量比以上の保水(含水比)を確保でき、引潮などで海面の水位が低下したときでも干潟8を保水状態に保持できる。
【0035】
また、流動化処理土は、セメントまたはモルタルを結合材としていることで、高アルカリ性であり、生物に悪影響を及ぼすおそれがあるため、低アルカリ性にする必要がある。そこで、結合材としてのセメントに低pHセメントを用いる。
【0036】
これにより、従来のようにセメントやモルタルを結合材とした場合と同等の固化を確保しつつ、さらに植物繊維を添加することで、より土に近く、曲げ強度も増したものとなり、これを基盤5上部に重層することで上部に生息する生物に適した材料とすることができる。
【0037】
低pHセメントとしては、MgOおよびP2O5を主成分とする低pHセメントを使用でき、このような低pHセメントとしては、例えば特開2001−200252号公報に記載の軽焼マグネシアを主成分とする土壌硬化剤組成物が挙げられる。
【0038】
基盤5の表層部分の材料には仕上げ面の加工が行いやすいように細骨材である土と砂を多く含有させ、大きな粒子の砂を混合することで仕上げ面の凹凸を多くできる。また、色素を加えて白灰色を黒灰色(明度50以下)にすることが好ましい。
【0039】
細骨材の増量により、強度を低下させ、固化が遅れることで、スコップなどでの加工、整形が可能となり、設計した形状の潮溜まり9などの造成が可能となる。特に潮溜まり9などでは、任意の深さ、幅、さらにはミヨなどの形状、また、砂泥を敷き込む干潟8の場合は、砂泥が移動しにくい形状に加工でき、石を敷く場合も押し込むことで石の安定を図れる。
【0040】
前記は水深が深い場合であるが、浅い場合は図7に示すように中詰材6を使用せずに固化材料7として例えば流動化処理土のみを空洞部4に投入し、基盤5の表層部分は固化材料7が固化する前に掘り込んで潮溜まり9などを造成する。
【0041】
このようにして造成された護岸は、満潮時に枠体2内に流入した海水が、引潮時に潮溜まり9に残り、干潟8として機能する。そして、基盤5には植物繊維が添加されているから湿潤し、保水状態となり、生物に適した環境を形成できる。
【0042】
図3は第2実施形態を示し、干潟8を階段状に形成し、最下段の枠体2の高さを引潮時の海水の水位よりも低位置とし、常に海中にあるように造成し、浅場10を設けた。その他の枠体2は順次高さを異ならせて階段状にした。
【0043】
図4は第3実施形態を示し、護岸本体1を海側から平面コ字形に切り込んで護岸本体1内に空洞部4を形成し、この空洞部4に第1実施形態と同様の干潟8を造成する。
【0044】
図5は第4実施形態を示し、これは第1実施形態と第3実施形態とを組合わせた形態であり、護岸本体1の内部を切り込んでここに空洞部4を形成するとともに、この内部の空洞部4に連続させて護岸本体1の海3側前面に枠体2を設けてここにも空洞部4を形成し、全体として大型の干潟8、潮溜まり9、入江を造成する。
【0045】
このように本発明の護岸は、中詰材6、これを封じ込む流動化処理土などによる固化材料7からなる基盤5部分、そしてこれに細骨材の含有割合を増したもの、植物繊維を添加したもの、結合材を低アルカリにしたものとしてとくに加工しやすく生物親和性が高い基盤5の表層部分を形成するものと、これを囲む枠としてのコンクリート、石積み、鋼矢板などの枠体2からなるものであり、干潟、潮溜まり、入江、浅場などを造成する内湾、河口、河川域などに実施できる。
【0046】
図8は応用例であり、護岸本体1の海3側前面に第1実施形態と同様に干潟8を造成するとともに、この干潟8の上に張出すようにして護岸本体1から断面L字形のカニ護岸11を造成した。カニ護岸11としては、特許第2922193号の生物共生式護岸を例示することができる。護岸本体1の海3側の前面に設置されるコンクリート製の枠体2は、図示例のように杭12と組み合せた態様としている。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の干潟などの造成台付き護岸が実施される護岸本体の説明図である。
【図2】本発明の干潟などの造成台付き護岸の第1実施形態を示す説明図である。
【図3】本発明の干潟などの造成台付き護岸の第2実施形態を示す説明図である。
【図4】本発明の干潟などの造成台付き護岸の第3実施形態を示す説明図である。
【図5】本発明の干潟などの造成台付き護岸の第4実施形態を示す説明図である。
【図6】本発明の干潟などの造成台付き護岸の実施形態を示す水深が深い場合の縦断側面図である。
【図7】本発明の干潟などの造成台付き護岸の実施形態を示す水深が浅い場合の縦断側面図である。
【図8】本発明の干潟などの造成台付き護岸の実施形態を示す応用例の縦断側面図である。
【図9】従来の干潟などの造成台付き護岸の第1例を示す縦断側面図である。
【図10】従来の干潟などの造成台付き護岸の第2例を示す側面図である。
【図11】従来の干潟などの造成台付き護岸の第3例を示す縦断側面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 護岸本体 2 枠体
2a 切欠き 2b 連通路
3 海 4 空洞部
5 基盤 6 中詰材
7 固化材料 8 干潟
9 潮溜まり 10 浅場
11 カニ護岸 12 杭
20 杭 21 土砂
22 ケーソン 23 根固め
24 防水シート
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設や新設の護岸に干潟、潮溜まり、入江、浅場などの造成台を増設する護岸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、都市再生が提唱され、人工干潟や人工海浜など水辺の造成が行われているが、さらに、都市内の水路・運河の再生も謳われるようになっている。そして、この内湾、河口域での水路・運河の再生では、既存の護岸の耐震化や海面上昇に伴い、リニューアル的な造成を組合わせて新しく生物共生という機能を付加することも要求されている。
【0003】
このような要求に応える護岸として、例えば、既存の護岸本体の前面に小規模な干潟や潮溜まり、さらには浅場を設置するものなどがある(例えば特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特許第3031672号公報
【特許文献2】特許第3096720号公報
【0004】
かかる護岸を造成するに際し、付加される干潟、潮溜まり、入江、浅場などの部分の基盤をいかに造成するかが問題となるが、付加される部分の基盤は既存の護岸本体の前面に設置されるか、または、護岸本体を切取ってその内部に設置されることになる。
【0005】
従来、この基盤の造成は、例えば図9に示すように水深が浅い場合は、既存の護岸本体1の前面に杭20を打設し、この杭20の上に断面L字形の枠体2をコンクリートで造成し、この枠体2を護岸本体1の前面から海3の方向に向けて水平に突設させている。そして、枠体2の底部と海底との間には土砂21を充填する。
【0006】
または、図10に示すように予め作製したケーソン22を護岸本体1の前面に沈設する。
【0007】
水深が深い場合は、図11に示すように護岸本体1の前面側を海底から石積みにより根固め23し、この根固め23の上部に平坦部を形成し、ここに防水シート24を布設して不透水層を形成している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記図9から図11に示す方法では、干潟では砂の流失防止、潮溜まりでは溜まり水の流出防止、浅場では基盤の安定化を図っているが、施工がよくない場合や、時間経過によって防水シート24の劣化や破損などが発生すると、計画当初の安定した状態を保持できなくなる。
【0009】
また、安定状態を保持できるように施工するには、熟練と注意を必要とし、さらに、施工が水中、水上となるため時間を要し工費も嵩む。
【0010】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、護岸本体に干潟、潮溜まり、入江、浅場などの造成台を増設する場合、施工性がよく、安定した状態を保持でき、造成台を生息空間とする生物などにも適応する環境を形成できる干潟などの造成台付き護岸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、護岸本体の前面または内部に枠体による空洞部を形成し、この空洞部内に干潟などの基盤となる固化材料、または固化材料と中詰材とを充填して干潟などの造成台を構築することを要旨とするものである。
【0012】
請求項1記載の本発明によれば、干潟などの基盤を固化材料で構築することにより、不透水で耐久性のある造成台が施工できる。また、この基盤を生息空間とする生物などにも適応する材料で施工できる。そして、石などの中詰材を固化材料で結合することで、固化材料が中詰材を全体的に包み込むことになり、中詰材からの有害物質を封じ込めることができて、水中への流出を防止でき、また、施工も造成台の底層から注入し打ち上げていくことで、水中での施工が容易にできる。
【0013】
請求項2記載の発明は、枠体の天端に水の出入口を形成することを要旨とするものである。
【0014】
請求項2記載の本発明によれば、引潮時に造成台の潮溜まりや浅場などで水温が上昇しまた溶存酸素濃度が増加した海水は、満潮時に水の出入口から枠体内に流入する海水と入れ替わり、水の出入口から枠体外に流出する。海水が枠体の天端を一気に越流して交換することが阻止されるので、護岸本体近傍の海水は水温や溶存酸素濃度が良好な状態に維持され、水質改善や環境再生に寄与することができる。
【0015】
請求項3記載の発明は、固化材料はセメント系固結性流動物であることを要旨とするものである。
【0016】
請求項3記載の本発明によれば、固化材料をセメント系固結性流動物とすることで、通常のコンクリートやモルタルに比較して流動性が高く、固化後は不透水性となり、不透水層を形成でき、干潟などを造成するための材料に適している。
【0017】
請求項4記載の発明は、セメント系固結性流動物に低pHセメントを使用することを要旨とするものである。
【0018】
請求項4記載の本発明によれば、セメント系固結性流動物は一般には結合材にセメントやモルタルを使用するが、これらは高アルカリ性で生物に悪影響を及ぼすおそれがある。そこで、結合材としてのセメントに低pHセメントを使用することにより、従来と同等の強度を得つつ、セメント系固結性流動物を低アルカリ性とし、生物に適した材料にすることができる。
【0019】
請求項5記載の発明は、セメント系固結性流動物は流動化処理土であり、この流動化処理土に植物繊維を添加することを要旨とするものである。
【0020】
請求項5記載の本発明によれば、建設残土にモルタルを混合した流動化処理土を干潟などの基盤の主材として、これに植物繊維を添加することにより、固化すると不透水となって自然下で通常保水状態とならない流動化処理土に対して、保水性を確保できる。よって、引潮などにより干出した時にも基盤は湿潤し、含水比の高い状態を保持でき、自然の干潟などと同様な状態をつくれる。
【0021】
請求項6記載の発明は、固化材料中の細骨材の割合を、造成台の表層部分において大きくすることを要旨とするものである。
【0022】
請求項6記載の本発明によれば、造成台の表層部分は、土や砂などの細骨材を多く含有させることで、仕上げ面の凹凸を多くするなどの加工が行いやすくなり、現場の状況に対応させて任意の形状に施工できる。
【発明の効果】
【0023】
以上述べたように本発明の干潟などの造成台付き護岸は、護岸本体に干潟、潮溜まり、入江、浅場などの造成台を増設する場合、干潟などの基盤を、中詰材とこれを封じ込む流動化処理土などとで形成するから、施工性がよく、不透水で耐久性のあるものにでき、安定した状態が保持され、造成台を生息空間とする生物などにも適応する環境を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面について本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の干潟などの造成台付き護岸の実施形態を示す干潟などを増設する前の状態の説明図、図2は本発明の干潟などの造成台付き護岸の第1実施形態を示す説明図で、図中1は既存の護岸本体、3は水域として海を示す。
【0025】
図2の第1実施形態は、干潟8の造成台付きの護岸であり、既存の護岸本体1の海3側の前面に平面コ字形の枠体2を設置する。この枠体2は、コンクリート、石、鋼板、土嚢などの固形物により桝状の枠に形成し、内部に空洞部4が形成される。なお、図示例の枠体2は桝状に形成されているが、これに限定されるものではなく、後述する図6、7のように壁状に形成してもよい。
【0026】
枠体2の高さは、図2(b)に示すように引潮の低水位(L.W.L)よりも高く、満潮の高水位(H.W.L.)よりは低いものに設定し、枠体2の海3側の天端には海水の出入口となる凹部による切欠き2aを形成しておく。また、図示は省略するが、切欠き2aに水門を設け、枠体2における水の流出入量を調節することもできる。さらに水の出入口としては、枠体2を貫通する管体などの連通路2bを形成する態様としてもよい。
【0027】
本発明では水深が深い場合は、図6に示すように、この空洞部4内に干潟8の基盤5として、中詰材6と、これを結合させ基盤5の主材となる固化材料7とを充填する。
【0028】
固化材料7は、マンメイドソイル(商品名)と称せられるセメント系固結性流動物で、建設残土にモルタルを混合した材料である流動化処理土であり、通常のコンクリートやモルタルと比較して流動性が高く、固化後は不透水性となり、不透水層を形成する性質を有する。
【0029】
中詰材6は、水深が深い場合に基盤5を安定させるために投入するもので、これを入れることで流動化処理土の量を減量させ固化を促進できる。
【0030】
そして、中詰材6としては、石の他に、コンクリートガラ、レンガガラ、架石ガラなどの強度のある廃棄物を使用することが可能である。
【0031】
以上のような中詰材6と流動化処理土である固化材料7とを枠体2内の空洞部4に投入すれば、流動性の高い固化材料7が中詰材6を全体的に包み込むようにして固化する。
【0032】
よって、中詰材6から発生する重金属などの有害物質を封じ込めて流出を防止することができ、また、施工も造成台の底層から注入し打ち上げていくことで水中での施工ができ、固化することで干潟8の基盤5が施工できる。
【0033】
前記のように流動化処理土による固化材料7は固化すると不透水性となり、不透水層を形成する。しかし、自然の干潟や潮溜まり、浅場では基盤5は保水性の高い砂泥や泥岩であり、水位の低下によって干出しした時でも砂泥もしくは泥岩は湿潤し、常に水分のある状態になっている。
【0034】
そこで、自然の状態で保水状態を作り出せない固化材料7に対しては、流動化処理土の配合に、綿・麻などの植物繊維、例えば長さ3cm以下の短繊維を添加する。これにより、10%重量比以上の保水(含水比)を確保でき、引潮などで海面の水位が低下したときでも干潟8を保水状態に保持できる。
【0035】
また、流動化処理土は、セメントまたはモルタルを結合材としていることで、高アルカリ性であり、生物に悪影響を及ぼすおそれがあるため、低アルカリ性にする必要がある。そこで、結合材としてのセメントに低pHセメントを用いる。
【0036】
これにより、従来のようにセメントやモルタルを結合材とした場合と同等の固化を確保しつつ、さらに植物繊維を添加することで、より土に近く、曲げ強度も増したものとなり、これを基盤5上部に重層することで上部に生息する生物に適した材料とすることができる。
【0037】
低pHセメントとしては、MgOおよびP2O5を主成分とする低pHセメントを使用でき、このような低pHセメントとしては、例えば特開2001−200252号公報に記載の軽焼マグネシアを主成分とする土壌硬化剤組成物が挙げられる。
【0038】
基盤5の表層部分の材料には仕上げ面の加工が行いやすいように細骨材である土と砂を多く含有させ、大きな粒子の砂を混合することで仕上げ面の凹凸を多くできる。また、色素を加えて白灰色を黒灰色(明度50以下)にすることが好ましい。
【0039】
細骨材の増量により、強度を低下させ、固化が遅れることで、スコップなどでの加工、整形が可能となり、設計した形状の潮溜まり9などの造成が可能となる。特に潮溜まり9などでは、任意の深さ、幅、さらにはミヨなどの形状、また、砂泥を敷き込む干潟8の場合は、砂泥が移動しにくい形状に加工でき、石を敷く場合も押し込むことで石の安定を図れる。
【0040】
前記は水深が深い場合であるが、浅い場合は図7に示すように中詰材6を使用せずに固化材料7として例えば流動化処理土のみを空洞部4に投入し、基盤5の表層部分は固化材料7が固化する前に掘り込んで潮溜まり9などを造成する。
【0041】
このようにして造成された護岸は、満潮時に枠体2内に流入した海水が、引潮時に潮溜まり9に残り、干潟8として機能する。そして、基盤5には植物繊維が添加されているから湿潤し、保水状態となり、生物に適した環境を形成できる。
【0042】
図3は第2実施形態を示し、干潟8を階段状に形成し、最下段の枠体2の高さを引潮時の海水の水位よりも低位置とし、常に海中にあるように造成し、浅場10を設けた。その他の枠体2は順次高さを異ならせて階段状にした。
【0043】
図4は第3実施形態を示し、護岸本体1を海側から平面コ字形に切り込んで護岸本体1内に空洞部4を形成し、この空洞部4に第1実施形態と同様の干潟8を造成する。
【0044】
図5は第4実施形態を示し、これは第1実施形態と第3実施形態とを組合わせた形態であり、護岸本体1の内部を切り込んでここに空洞部4を形成するとともに、この内部の空洞部4に連続させて護岸本体1の海3側前面に枠体2を設けてここにも空洞部4を形成し、全体として大型の干潟8、潮溜まり9、入江を造成する。
【0045】
このように本発明の護岸は、中詰材6、これを封じ込む流動化処理土などによる固化材料7からなる基盤5部分、そしてこれに細骨材の含有割合を増したもの、植物繊維を添加したもの、結合材を低アルカリにしたものとしてとくに加工しやすく生物親和性が高い基盤5の表層部分を形成するものと、これを囲む枠としてのコンクリート、石積み、鋼矢板などの枠体2からなるものであり、干潟、潮溜まり、入江、浅場などを造成する内湾、河口、河川域などに実施できる。
【0046】
図8は応用例であり、護岸本体1の海3側前面に第1実施形態と同様に干潟8を造成するとともに、この干潟8の上に張出すようにして護岸本体1から断面L字形のカニ護岸11を造成した。カニ護岸11としては、特許第2922193号の生物共生式護岸を例示することができる。護岸本体1の海3側の前面に設置されるコンクリート製の枠体2は、図示例のように杭12と組み合せた態様としている。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の干潟などの造成台付き護岸が実施される護岸本体の説明図である。
【図2】本発明の干潟などの造成台付き護岸の第1実施形態を示す説明図である。
【図3】本発明の干潟などの造成台付き護岸の第2実施形態を示す説明図である。
【図4】本発明の干潟などの造成台付き護岸の第3実施形態を示す説明図である。
【図5】本発明の干潟などの造成台付き護岸の第4実施形態を示す説明図である。
【図6】本発明の干潟などの造成台付き護岸の実施形態を示す水深が深い場合の縦断側面図である。
【図7】本発明の干潟などの造成台付き護岸の実施形態を示す水深が浅い場合の縦断側面図である。
【図8】本発明の干潟などの造成台付き護岸の実施形態を示す応用例の縦断側面図である。
【図9】従来の干潟などの造成台付き護岸の第1例を示す縦断側面図である。
【図10】従来の干潟などの造成台付き護岸の第2例を示す側面図である。
【図11】従来の干潟などの造成台付き護岸の第3例を示す縦断側面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 護岸本体 2 枠体
2a 切欠き 2b 連通路
3 海 4 空洞部
5 基盤 6 中詰材
7 固化材料 8 干潟
9 潮溜まり 10 浅場
11 カニ護岸 12 杭
20 杭 21 土砂
22 ケーソン 23 根固め
24 防水シート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
護岸本体の前面または内部に枠体による空洞部を形成し、この空洞部内に干潟などの基盤となる固化材料、または固化材料と中詰材とを充填して干潟などの造成台を構築することを特徴とした干潟などの造成台付き護岸。
【請求項2】
枠体の天端に水の出入口を形成する請求項1記載の干潟などの造成台付き護岸。
【請求項3】
固化材料はセメント系固結性流動物である請求項1または請求項2に記載の干潟などの造成台付き護岸。
【請求項4】
セメント系固結性流動物に低pHセメントを使用する請求項3記載の干潟などの造成台付き護岸。
【請求項5】
セメント系固結性流動物は流動化処理土であり、この流動化処理土に植物繊維を添加する請求項3または請求項4に記載の干潟などの造成台付き護岸。
【請求項6】
固化材料中の細骨材の割合を、造成台の表層部分において大きくする請求項1から請求項5のいずれかに記載の干潟などの造成台付き護岸。
【請求項1】
護岸本体の前面または内部に枠体による空洞部を形成し、この空洞部内に干潟などの基盤となる固化材料、または固化材料と中詰材とを充填して干潟などの造成台を構築することを特徴とした干潟などの造成台付き護岸。
【請求項2】
枠体の天端に水の出入口を形成する請求項1記載の干潟などの造成台付き護岸。
【請求項3】
固化材料はセメント系固結性流動物である請求項1または請求項2に記載の干潟などの造成台付き護岸。
【請求項4】
セメント系固結性流動物に低pHセメントを使用する請求項3記載の干潟などの造成台付き護岸。
【請求項5】
セメント系固結性流動物は流動化処理土であり、この流動化処理土に植物繊維を添加する請求項3または請求項4に記載の干潟などの造成台付き護岸。
【請求項6】
固化材料中の細骨材の割合を、造成台の表層部分において大きくする請求項1から請求項5のいずれかに記載の干潟などの造成台付き護岸。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−156964(P2008−156964A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348896(P2006−348896)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】
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