説明

平均自由行程を測定する装置、真空計、および平均自由行程を測定する方法

【課題】真空度の悪い雰囲気および/または活性ガスの雰囲気においても、荷電粒子の平均自由行程を正確かつ簡便に測定可能な平均自由行程を測定する装置、真空計、および平均自由行程を測定する方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る装置1007は、雰囲気ガスから真空的に隔離されたフィラメント111と、真空紫外光330を透過させるUV透明型真空隔壁700と、雰囲気ガス内に設置され真空紫外光330を受けて光電子340を放出する光/電子変換電極610とを有した真空紫外光源600を備える。また、装置1007は、真空紫外光源600からの飛行距離が0以上の距離である荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出する第1のコレクタと、上記距離よりも長い距離の荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する第2のコレクタとを備える。上記装置1007の制御部1000は、第1、第2の荷電粒子数の比率から平均自由行程を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平均自由行程を測定する装置、真空計、および平均自由行程を測定する方法に関するものであり、特に、雰囲気ガスが活性で、しかも真空度の悪い場合にも対応可能な平均自由行程を測定する装置、真空計、および平均自由行程を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DRAM、MRAM等の製造過程で真空プロセスを行なう半導体製造装置の微細化は益々進んでいる。このような半導体製造装置の作製において微細加工を進めるには、加工表面あるいは凹部に対して、イオンを垂直に入射させることが非常に重要である。
【0003】
例のひとつとして、ドライエッチング(Dry Etching)においては、高異方性の形状のエッチングを行うためには、拡がり角の小さなイオンをビーム状にエッチング面に入射させる必要がある。この場合においても、実際のエッチングガス中での平均自由行程が分れば、プロセス条件を調整することにより、カソードフォール又はシース長より平均自由行程を長くすることによりエッチング面に拡がり角の小さなイオンビームを入射させることが可能となる。
【0004】
すなわち、イオンを基板に垂直に入射させる為には、負のDCバイアス又はRFパワーを基板ホルダに印加して、基板に負電圧を発生させることにより基板ホルダにイオンを引き込む。そうするとイオンは基板に垂直に入射するが、ターゲットと基板ホルダとの間で他の粒子との衝突があればイオンは散乱し、イオンの基板への入射角は拡がったものとなってしまう。従って、加速される領域で他の粒子と衝突させずに基板まで到達させることが肝要である。ここで、衝突せずに粒子が運動できる平均的な距離のことを平均自由行程という。
もし、実際のプロセスガス中での平均自由行程が分れば、プロセス条件を調整することにより、カソードフォール又はシース長より平均自由行程を長くすることにより、拡がり角の小さな入射イオンを得ることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−165907号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ジョン F.オハンロン、「真空技術マニュアル」、産業図書株式会社、P7〜10
【非特許文献2】熊谷 寛夫、他3名、「真空の物理と応用」、裳華房、P43〜49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、ドライエッチングを行う際には、より良い処理を行うためには平均自由行程を求めることが有効である。
従来では、所定のガス雰囲気中で、所定のイオンの平均自由行程を求める場合、温度、ならびに所定のガスの粒子径および所定のイオンの径を求め、該値を用いてガス数密度や圧力から変換して平均自由行程を求めている(非特許文献1、2参照)。すなわち、従来では、平均自由行程を直接求めてはおらず、温度やガスの粒子径およびイオン径から間接的に計算により求めている。従って、イオンが移動する系の温度、および該イオンの径、雰囲気ガスの粒子径が分からなければ、平均自由行程を求めることはできなかった。
【0008】
ここで、「ガス数密度」とは、ガスが分子の場合は単位体積当たりの分子の数、ガスが単原子分子の場合は単位体積当たりの原子数のことである。
また、特にガスやイオンの径を求める場合には、別に用意した質量分析計によって存在する成分を判定し、文献値から径を求める必要があり、平均自由行程を求める計算の前段階においても、非常に手間を要していた。さらに、雰囲気ガスが一種でない混合ガスの場合には、質量分析計によって成分の存在比率(成分比率)を求めて、それぞれの重み付けを行なった計算によって最終的な平均自由行程を求める必要があった。
【0009】
このように、イオンのイオン径、雰囲気ガスの粒子径や温度が知られていない場合には、平均自由行程を圧力やガス数密度から変換することは困難となり、またこれらが知られても混合ガスの場合には変換計算が煩雑となる。
【0010】
平均自由行程は、ドライエッチングに限らず様々な分野で利用できる。
例えば、平均自由行程は、真空度を示すことができる。真空度(真空のレベル)を示す方法は、「ガス数密度」、「圧力」および「平均自由行程」の三つがあり、従来では、ガス数密度、または圧力が用いられている。この三つは雰囲気ガスの分子径や温度をパラメータとして互いに変換することが可能なので原理的には同じ量を示してはいるが、利用する現象としては全く別と言ってよいほど異なっている。
【0011】
さらにはドライエッチングだけでなく、現在、工業的に重要となっているCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相蒸着)のプロセスでは、この3つのうち平均自由行程が直接関係しており、次にガス数密度が関係している。それは、ガス(中性分子)とイオン、およびガス同士の衝突やガスの流れがこれらのプロセスのキーとなっているからである。従って、平均自由行程を直接正確に、かつ簡便に求めることができれば、より有用な真空度表現をすることができる。
【0012】
このように様々な真空プロセスで威力を発揮する平均自由行程を、煩雑な計算や測定を行うことなく、簡便かつ正確な方法で直接求めることは非常に有用であるが、現在は、平均自由行程を直接求める方法は確立されていない。
【0013】
この時に装置技術的に注意すべきことは、ドライエッチングやCVDでは極めて活性なガスを使用し、しかも真空度が悪いことである。正確には、ドライエッチングでは腐食性のガスを、またCVDでは堆積性のガスを使用しているが、これはプロセスの目的が前者では食刻(Etching)、後者では堆積(Deposition:膜形成)であることから通常のこととなっている。真空度としては、ドライエッチングは1〜10Pa、CVDでは1〜1000Pa程度のことが多い。ちなみに、スパッタではこれらと全く異なり、雰囲気ガスはArなどの不活性ガスであり、真空度は1Pa前後となっている。
【0014】
このような活性ガスの真空度を測定するには次のような大きな問題点がある。まず、高温となるフィラメントを使用していると、フィラメントの腐食やフィラメントへの異物の堆積により寿命が極端に短くなってしまう。フィラメントが活性ガスを分解してプロセスに悪影響を与えることもある。このため、フィラメントを使用するイオンゲージやシュルツゲージ、あるいはピラニゲージでは、活性ガス雰囲気の真空度を計測することは困難となっている。一方、隔膜真空計(キャパシタンスゲージ)ではフィラメントを使用していないので上記の問題はない(そのため、活性ガスにも一部使われている)が、薄い隔膜のわずかな変位を計測しなければならないことから、隔膜の腐食や異物堆積はやはり大きな問題となる。
【0015】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、真空度の悪い雰囲気および/または活性ガスの雰囲気においても、荷電粒子の平均自由行程を正確かつ簡便に測定可能な平均自由行程を測定する装置、真空計、および平均自由行程を測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的を達成するために、本発明は、雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する装置であって、前記荷電粒子としてイオンを発生する発生源と、前記イオンを発生する発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する検出手段と、前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する算出手段とを備え、前記発生源は、電子を放出させるフィラメントと、前記電子を引き寄せて前面近傍でイオンを生成させるグリッドと、前記生成されたイオンを引き出す平板状の引出し電極であって、到達したイオンのうちその一部のイオンをそのまま通過させるように構成された引出し電極とを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する装置であって、前記荷電粒子として電子を発生する発生源と、前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する検出手段と、前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する算出手段と備え、前記発生源は、電子を放出させる電子源と、前記放出された電子を引き出す引出し電極であって、到達した電子のうちその一部の電子をそのまま通過させるように構成された引出し電極とを有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する装置であって、前記荷電粒子として電子を発生する発生源と、前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する検出手段と、前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する算出手段とを備え、前記発生源は、前記雰囲気ガスから真空的に隔離され、所定の波長の光を出射する光源と、前記雰囲気ガスと前記光源とを真空的に隔離するための真空隔壁であって、前記所定の波長の光を透過する領域を少なくとも一部有する真空隔壁と、前記雰囲気ガス内に設置され、前記所定の波長の光を受けて光電子を放出する変換電極とを有し、前記光源から出射された光が前記領域を通過して前記変換電極に照射されるように、前記発生源、前記領域、および前記変換電極は位置決めされていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する装置であって、前記荷電粒子を発生する発生源と、前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する検出手段と、前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する算出手段と、特定な時間でのみ動作するように前記装置を制御し、前記算出された平均自由行程、あるいは該算出された平均自由行程から変換した圧力の値を、前記装置と同じ真空領域に設けられた他の原理に基づく真空計に送信するように前記装置を制御し、前記特定の時間以外の時間では前記真空計が真空度を測定するように該真空計を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する装置であって、前記荷電粒子を発生する発生源と、前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する検出手段と、前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する算出手段と、前記装置の温度を検出する温度センサーと、前記装置の温度を制御するヒータとを備え、前記温度センサーによる検知結果に従って、前記ヒータにより前記装置を特定な温度に設定することを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する装置であって、前記荷電粒子を発生する発生源と、前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する検出手段と、前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する算出手段と、前記装置内に堆積された堆積物を気化させる手段とを備え、前記気化させる手段により前記堆積物を除去することを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する方法であって、発生源から前記荷電粒子としてイオンを発生させる工程と、前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する工程と、前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する工程とを有し、前記イオンを発生させる工程は、前記発生源が有するフィラメントに第1の電位を印加し、前記発生源が有するグリッドに前記第1の電位よりも高い第2の電位を印加して、前記フィラメントから放出された電子を前記グリッドに引き寄せて、該グリッド近傍でイオンを生成し、前記発生源が有する平板状の引出し電極であって、到達したイオンのうちその一部のイオンをそのまま通過させるように構成された引出し電極に前記第2の電位よりも低い第3の電位を印加して、前記生成されたイオンを前記引出し電極に引き寄せ、該引き寄せられたイオンの一部を前記引出し電極から透過させることを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する方法であって、発生源から前記荷電粒子として電子を発生させる工程と、前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する工程と、前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する工程とを有し、前記電子を発生させる工程は、前記発生源が有するフィラメントに第1の電位を印加して該フィラメントから電子を発生させ、前記発生源が有する平板状の引出し電極であって、到達した電子のうちその一部の電子をそのまま通過させるように構成された引出し電極に前記第1の電位よりも高い第2の電位を印加して、前記生成された電子を前記引出し電極に引き寄せ、該引き寄せられた電子の一部を前記引出し電極から透過させることを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する方法であって、発生源から前記荷電粒子として電子を発生させる工程と、前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する工程と、前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する工程とを有し、前記電子を発生させる工程は、前記雰囲気ガスから真空的に隔離された光源から所定の波長の光を出射し、該出射された光を、前記雰囲気ガスと前記光源とを真空的に隔離するための真空隔壁が有する、前記所定の波長の光を選択的に透過する領域を介して、前記雰囲気内に設置された前記所定の波長の光を受けて光電子を放出する変換電極に入射させて、該変換電極にて光電子を放出させることを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する方法であって、発生源から前記荷電粒子を発生させる第1の工程と、前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する第2の工程と、前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する第3の工程とを有し、特定な時間でのみ前記第1の工程から前記第3の工程までを行って前記平均自由行程を算出し、該算出された平均自由行程あるいは該平均自由行程から変換した圧力の値を他の原理に基づく真空計に送信し、前記特定な時間以外の時間では該真空計で真空度を測定することを特徴とする。
【0026】
また、本発明は、雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する方法であって、発生源から前記荷電粒子を発生させる工程と、前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する工程と、前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する工程とを有し、前記平均自由行程を測定する領域を特定の温度に設定して、該平均自由行程を測定することを特徴とする。
【0027】
さらに、本発明は、雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する方法であって、発生源から前記荷電粒子を発生させる工程と、前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する工程と、前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する工程と、前記平均自由行程を測定する領域内に堆積された堆積物を気化させて、該堆積物を除去する工程とを有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】本発明の基本的な原理を示す図である。
【図1B】本発明の基本的な原理を示す図である。
【図2A】本発明の基本的な原理を示す図である。
【図2B】本発明の基本的な原理を示す図である。
【図3】本発明の基本的なイオン源の構成を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る平均自由行程を測定する装置を示す図である。
【図5A】本発明の第2の実施形態に係る平均自由行程を測定する装置を示す図である。
【図5B】図5Aに示す装置のフィラメント・グリッドの制御回路を示す図である。
【図6A】本発明の第3の実施形態に係る平均自由行程を測定する装置を示す図である。
【図6B】図6Aに示した装置の各電極の形状を示す図である。
【図6C】図6BにおけるラインAでの電子ビーム軌道を示す図である。
【図6D】図6BにおけるラインBでの電子ビーム軌道を示す図である。
【図7A】本発明の第4の実施形態に係る平均自由行程を測定する装置を示す図である。
【図7B】図17Aに示す各電極の形状、およびそれらの回路を示す図である。
【図8A】本発明の第7の実施形態に係る平均自由行程を測定する装置を示す図である。
【図8B】図8Aに示す電子発生の機構を説明するための図である。
【図8C】図8Bに示す各要素の回路を示す図である。
【図8D】本発明の第7の実施形態に係る光/電子変換電極の様々な例を示す図である。
【図9】本発明の第8の実施形態に係る平均自由行程を測定する装置を示す図である。
【図10】本発明に係る、平均自由行程を測定する装置における制御系の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
本発明の一実施形態では、従来に無い新原理を用いて、イオンや電子といった荷電粒子の平均自由行程を直接的に求める。すなわち、上記本発明に特徴的な新原理の基本は、異なる二つの距離(短い方の距離は距離0を含む)を飛行させた荷電粒子(イオンや電子)が雰囲気ガスである中性分子との衝突によって減衰する量を計測し、その比率から荷電粒子の平均自由行程(荷電粒子が衝突なしに進める距離の平均値)を算出するものである。この減衰は、放射線元素の減衰と同じ指数関数的な現象であって、常にある飛行距離を進むと存在量が以前のある比率になるものである。習慣的に、放射線元素では存在量が半分になるまでの時間を半減期としているが、平均自由行程では1/e(0.37倍)となる飛行距離を平均自由行程としている。このように指数関数の減衰であるため、二つの異なる飛行距離での減衰量が分かると、数学的に減衰の強さ(すなわち、平均自由行程の逆数)を算出することが可能となるのである。なお、後述する各実施形態では、中性分子中(所定のガス雰囲気中)の荷電粒子(イオンや電子)の平均自由行程を求めている。荷電粒子がイオンの場合、ガス雰囲気(中性分子)中のイオンの平均自由行程は、上記ガス雰囲気(中性分子)中の該イオンに対応する中性分子間の平均自由行程と略等しい。従って、所定のガス雰囲気(中性分子)中の所定のイオンの平均自由行程を求めることにより、該所定のガス雰囲気(中性分子)中の該所定のイオンに対応する中性分子間の平均自由行程を求めることができる。
なお、「イオンに対応する中性分子」とは、該イオンがイオン化する前の中性分子である。
【0030】
上記新原理を実現する基本構造としては、荷電粒子を発生させる発生源(例えば、イオン源や電子源等)からの距離(短い方の距離は、発生源からの距離0を含む)が異なる二つのコレクタ(検出器)を荷電粒子の飛行軸上に設置する。このとき、二つのコレクタを同一の荷電粒子の飛行軸上に設置する場合は、近い方のコレクタを、例えばメッシュ状といった入射荷電粒子の一部を補足し、他の一部を透過させる構造として一部の荷電粒子がそこを透過して遠い方のコレクタに到達するようにする。メッシュの透過率や飛行距離はその値が正確に知れれば良いだけで任意の値となる。
【0031】
このように、本発明では、二つのコレクタを同一の荷電粒子の飛行軸上に設けるか否かは問題ではなく、発生源から異なる距離に設けられた、少なくとも二つのコレクタのそれぞれにおいて、荷電粒子数を測定することが重要である。何故ならば、本発明では、発生源での荷電粒子の発生量の変動といった要因を除外するために、荷電粒子数の比率を用いることを本質としており、該比率を求めるために、発生源から異なる距離に設けられた、少なくとも二つのコレクタを設けているのである。
【0032】
なお、コレクタの数は、二つに限定されず、二つ以上あっても良い。さらに、荷電粒子の飛行距離を少なくとも2つ計測できる構造であれば、コレクタの数は1つであっても良い。
【0033】
すなわち、本発明では、荷電粒子数の比率を用いて平均自由行程を求めることを本質としており、このために、第1の飛行距離(0以上の距離)だけ飛行した荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、さらに第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離だけ飛行した荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出している。従って、第1および第2の荷電粒子数を計測できれば、コレクタの数や構造はいずれであっても良い。
【0034】
新原理では減衰量の絶対値は不要であって両者の比率のみが必要なことから、元となる荷電粒子の発生源の荷電粒子量がどんなに変化しても、また電極の汚染や変形による検出側の変動があってもこれらは無関係となる。すなわち、バックグランドや変動・擾乱要素はほぼ完全に排除されることになる。
【0035】
また荷電粒子の減衰量の比率以外に平均自由行程の算出に必要なのは飛行距離のみであり、これはその絶対値は容易に確定することが出来、しかも汚染や熱によっては変化しない。そのため、簡単かつ高精度に平均自由行程の絶対値を得ることが可能となる。すなわち、本原理は言わば測定原器を内蔵しており、それと比較して絶対値を得るとも言える。
【0036】
このように、新原理では、発生源からの飛行距離が0m(ただし、距離の単位は任意)以上の第1の飛行距離である荷電粒子を検出し、上記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離の荷電粒子を検出するように検出手段を構成する。このような構成として、例えば、第1の飛行距離の荷電粒子を検出する第1のコレクタと、第2の飛行距離の荷電粒子を検出する第2のコレクタとを少なくとも設けている。また、例えば、単一のコレクタにて第1の飛行距離の荷電粒子および第2の飛行距離の荷電粒子を検出するように、上記検出手段を構成しても良い。この場合、コレクタの位置を移動させる、あるいはコレクタの位置は同じでも軌道を変更して飛行距離を変えるなどの方法がある。
【0037】
そして、第1の飛行距離だけ飛行して検出された荷電粒子数と第2の飛行距離だけ飛行して検出された荷電粒子数との比率、ならびに第1の飛行距離(例えば、発生源から第1のコレクタまでの距離)および第2の飛行距離(例えば、発生源から第2のコレクタまでの距離)によって平均自由行程を直接的に求めている。従って、各種変動成分が平均自由行程を算出するためのパラメータに含まれていないので、正確に平均自由行程を求めることができる。さらに、従来のように、平均自由行程を求めるために別個の測定(質量分析)等が必要無いので、平均自由行程を簡便に求めることができる。
【0038】
なお、本明細書において、「第1のコレクタ」とは、ある2つのコレクタのうち、イオン源といった荷電粒子の発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離の荷電粒子を検出するためのコレクタである。従って、発生源の内部に設けられる内部コレクタも、第1のコレクタに含めることができる。
また、本明細書において、「第2のコレクタ」とは、上記発生源からの飛行距離が第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離の荷電粒子を検出するためのコレクタであって、上記発生源からの距離が、第1のコレクタよりも遠いコレクタである。
また、本明細書において、「内部コレクタ」とは、イオン源等の荷電粒子の発生源の内部に設けられるコレクタを指す。従って、発生源の外部に設けられるコレクタを「外部コレクタ」とも呼ぶ。
【0039】
さらに、本明細書において、「飛行距離」とは、用いる装置の構成、条件によって決まる距離であって、荷電粒子を放出可能な部材の荷電粒子を放出する面(例えば、イオン源のイオン放出面や後述の透過型コレクタの荷電粒子を放出する面など)から放出された荷電粒子が、所定のコレクタまで実際に飛行する(進む)距離である。飛行距離の最も簡単な例としては、荷電粒子の発生源と外部コレクタを1つ設ける装置においては、荷電粒子の発生源の荷電粒子発生面から外部コレクタの荷電粒子捕捉面までの距離である。また、例えば、荷電粒子として電子を用い、電子が飛行する領域(例えば、電子源とコレクタとの間の領域)に対して、電子の進行方向に平行な磁場を印加する装置においては、電子はらせん運動を行うので、電子源からコレクタまで、螺旋運動しながら電子が進んだ(辿った)距離が電子の飛行距離となる。
このように、荷電粒子の飛行距離は、用いる装置の構成や条件によって決まる距離であるのに対し、平均自由行程は、真空度に逆比例して決まる距離と言える。
【0040】
本発明では、コレクタが2つである場合は、発生源側のコレクタ(内部コレクタも含む)が第1のコレクタとなり、もう一方のコレクタが第2のコレクタとなる。一方、コレクタが3つ以上ある場合は、3つ以上のコレクタのうちの1つ(内部コレクタを含む。ただし、発生源から最も遠いコレクタは除く)が第1のコレクタとなり、該第1のコレクタとなるコレクタよりも発生源から遠い距離に位置するコレクタが、第2のコレクタとなる。
【0041】
本発明によれば、平均自由行程を正確かつ簡便に直接求めることができるので、平均自由行程を利用する様々な分野において、より正確な平均自由行程の値を適用することができる。例えば、スパッタやドライエッチングにおいて、基板やエッチング面に対する、拡がり角の小さなイオンビームの入射に関する調節等を正確かつ簡便に行うことができる。また、例えば、真空度を測定する分野にも適用することができるが、これについは以下に詳しく説明する。
【0042】
(真空度測定について)
上述のように、真空度は、「ガス数密度」、「圧力」および「平均自由行程」の3つの量によって示すことができる。従来では、イオンゲージ(電離真空計)やシュルツゲージ等によるガス数密度の計測、または隔膜真空計等による圧力(単位面積の壁を押す力)の計測により真空度を求めている。
【0043】
イオンゲージは、雰囲気ガスである中性分子に高速の電子を衝突させて外殻電子を弾き飛ばしてイオン化し、そのイオンをコレクタ(検出器)に集めてイオン量を計測する。イオン量は雰囲気ガスのガス数密度に比例するので、電子のエネルギーや量、電極の形状や電位を特定しておき、一度計測されるイオン量とガス数密度との関係(換算値)を得ておくと、実際に計測されたイオン量からガス数密度が算出できる。
ここで、イオン量とガス数密度との換算値のことは、一般には感度と言われる。
【0044】
一方、隔膜真空計は雰囲気ガスと内部に設けた十分良い真空度の領域との間に存在する隔膜が雰囲気ガスの力(圧力)で変形される量を電気的に(電気容量の大小として)計測する。変形量は雰囲気ガスの圧力に依存するので、同様に一度換算値または換算式を得ておくと変形量から圧力が算出できる。
【0045】
このように両者は、測定原理が異なるので適用できる真空度の領域が異なるものの、いずれも真空度(ガス数密度/圧力)に依存する量(イオン量/変形量)から換算値または換算式によって真空度を算出している点は同じである。
【0046】
そのため、比例量の絶対値を正しく計測し、かつ換算値または換算式が変動していないことが精度確保に必須となるが、これらをあらゆる条件下で長期に渡って保証することは不可能と言える。特に、腐食性ガスを使用するドライエッチングや堆積性ガスを使用するCVDでは、寿命だけでなく精度の確保ができる期間が極めて短期間である。
【0047】
これに対して、本発明では、少なくとも2つのコレクタにて検出される荷電粒子数の比率、および荷電粒子の飛行距離としての発生源からコレクタまでの距離により平均自由行程を求めているので、バックグランドや変動・擾乱要素をほぼ完全に排除した形で平均自由行程を求めることができる。該平均自由行程は、真空度を示しているので、本発明によれば、バックグランドや変動・擾乱要素を除外して正確に真空度を求めることができる。
【0048】
なお、現在、真空のレベルを示す「真空度」と真空度の一つの表現である「圧力」とを同じ意味で使うことが多いが、本明細書ではこれを厳密に区別して使うことにする。また、圧力が低い(低圧)状態を真空度が高い(高真空)とし、圧力が高い(高圧)状態を真空度が低い(低真空)と表現することが多いが、混乱を避けるため本明細書では、圧力が低い状態を「真空度が良い」とし、圧力が高い状態を「真空度が悪い」と表現する。
【0049】
(活性ガス対策について)
腐食性のガスや堆積性のガス等の活性ガスの雰囲気の真空度を計測するためには、まず高温となるフィラメントを全く使用しない、あるいはフィラメントを出来るだけ低温で使用する、あるいは出来るだけ短時間でしか使用しないことが必要となる。つぎに、装置の温度を制御できるようにしておき、活性ガスの影響が小さくなる温度で使用することが考えられる。特に、CVDで使用する堆積性のガスは特定の温度のみで堆積が発生することが多い。それは、堆積のためには、ガスの反応(分解)、基板(堆積面)への付着、基板での反応(重合)などの複数のプロセスが必要であるが、これらのプロセスはいずれも温度に依存し、しかも依存特性は異なることが多い。したがって、これらプロセスが有効に作用する特定な温度の場合に堆積が起こるので、この温度をはずして測定を行なうようにする。さらに、堆積性ガスのみの対策となるが、測定の後に何らかの手段で装置から堆積物を気化させてガスとして排出すること(クリーニング)が考えられる。気化手段としては、よく知られている各種のものを利用することができる。
【0050】
以上一般的な説明を行なったが、各事項ごとにより詳しい説明を行なう。
なお、以降説明では、荷電粒子としてイオンを用いる場合について説明するが、荷電粒子は電子であっても良いことは言うまでも無い。
【0051】
1)計算式
まず、計算を簡単にするため、イオン源で発生するイオン数は真空度によらず一定として考える。
減衰前のイオン数をI0、飛行距離:L1の減衰後のイオン数をIL1、飛行距離:L2の減衰後のイオン数をIL2、平均自由行程をλとする。これらが図1Aに模式的に示されている。
【0052】
図1Aは、真空度に依存しないイオン源の場合の、本発明の平均自由行程を求める原理を説明するための模式図である。図1Aにおいて、イオン源11aから距離L1の位置に第1のコレクタ12aが配置されており、イオン源11bから距離L2(L2>L1)の位置に第2のコレクタ12bが配置されている。イオン源11a、11bのそれぞれからは、同一のイオン数I0を発生する。
【0053】
なお、図1Aは、本発明の原理を示す概念図であり、イオン源11aから放出されたイオンが飛行距離L1だけ飛行して第1のコレクタ12aに入力され、第1のコレクタ12aが減衰後のイオン数IL1を検出し、かつイオン源11bから放出されたイオンが飛行距離L2だけ飛行して第2のコレクタ12bに入力され、第2のコレクタ12bが減衰後のイオン数IL2を検出することを示すものである。なお、この場合、上述のように飛行距離は、正確には「イオン源の放出面」からコレクタまでの距離と定義される。従って、同一領域内(同一真空度であり、同一温度の領域内)において、第1のコレクタ12aおよび第2のコレクタ12bを同一のイオンの飛行軸上に配置しても良いし(この場合は、イオン源11aとイオン源11bとは単一のイオン源となる)、図1Aに示すように第1のコレクタ12aおよび第2のコレクタ12bを異なるイオンの飛行軸上に配置しても良い。ただし、後者の場合は、後述する「減衰なし較正」を行うことが好ましい。
【0054】
そうすると、
IL1=I0・exp(−L1/λ) (1)
IL2=I0・exp(−L2/λ) (2)
式(1)または式(2)より、
λ=−L1/In(IL1/I0) (3)
λ=−L2/In(IL2/I0) (4)
が得られる。(Inは自然対数)式(3)、(4)からは、1つのコレクタにおける減衰後のイオン数から平均自由行程λを求めることができる。
【0055】
また、式(1)および(2)より、
λ=(L2−L1)/In(IL1/IL2) (5)
が得られる。式(5)からは、2つのコレクタにおける減衰後のイオン数の比較から平均自由行程を求めることができる。なお、式(5)はI0と無関係となるので、高精度な測定が期待される。すなわち、式(5)を用いると、イオン源に望ましくない変動(I0が不意に変動しても)があっても、平均自由行程を求めるパラメータに含まれないので、上記変動があっても正確な平均自由行程を求めることができる。
【0056】
2)減衰曲線
図1Aにおける、飛行によりイオン数が減衰する状況が図1Bのグラフに示されている。横軸は雰囲気の真空度であり、縦軸は飛行後のイオン数を示す。なお、横軸は右に行くほど真空度が悪くなる、つまりガス数密度は大きくなるように示しているが、平均自由行程はガス数密度に反比例するので、横軸は右に行くほど平均自由行程が短くなる。(すなわち、横軸は平均自由行程の逆数とみなせる。)図1Bにおいて、符号13は、飛行距離が短い場合であるイオン数IL1と真空度(平均自由行程)との関係を示すグラフであり、符号14は、飛行距離が長い場合であるイオン数IL2と真空度(平均自由行程)との関係を示すグラフである。
【0057】
平均自由行程が飛行距離よりも十分に長い場合(図1Bの左半分)にはイオン数は一定、すなわちガス数密度に依存していないが、平均自由行程が飛行距離よりも短い場合(図1Bの右半分)には飛行後のイオン数が減少(減衰)している。真空度を良い状態から悪い状態へ変化(横軸の左から右に移動)させた場合、減衰が開始する(正確には、減衰が顕著となり始める)真空度は、平均自由行程が飛行距離と同じ程度にまで短くなった時となる。言い換えると、真空度が良く平均自由行程が飛行距離と同程度まで短くならない限り、減衰は無視することができる。したがって、減衰の開始は、飛行距離が長い方(符号14)が、より長い平均自由行程にて(すなわち、より低いガス数密度=より良い真空度=横軸のより左側にて)始まる。符号13、14から分かるように、減衰の形自体は飛行距離によらず同じである。飛行後のイオン数を示す式(1)、(2)ではL1とλの比率が指数となっていることが、これら減衰状況の理由となっている。
【0058】
ここで、減衰が発生している真空度の領域では、同じ真空度であっても飛行距離の長短によって減衰の大きさが異なる。すなわち、飛行距離の長い方は衝突が多く減衰が大きいが、短い方は衝突が少なく減衰は小さい。したがって、この減衰の大きさの比率から真空度を算出することができるのである。
【0059】
3)真空度依存のある場合
上記式(1)〜(5)は、イオン源にて発生するイオン数は真空度に依存しないものとしていたが、最も一般的なイオンゲージをベースとしたイオン源では真空度に依存してイオン数が変化する。すなわち、具体的に説明すると、図2Bの左側の部分のように、イオン電流の変化は図1Bの曲線に真空度の比例分が掛け合わされた形となる。図2Aが、イオン電流が真空度に依存するイオン源の場合の、本発明の平均自由行程を求める原理を説明するための模式図であり、図2Bが、図2Aにおける、飛行によりイオン数が減衰する状況を説明するための図である。
【0060】
図2Aにおいて、真空度依存型のイオン源21aは、グリッド22aおよびフィラメント23a、引出し電極28aを備えており、イオン源21aの引出し電極28aから距離L1の位置に第1のコレクタとしてのコレクタ24aが配置されている。イオン源21aから出力されたイオンビーム25はコレクタ24aに入力される。また、真空度依存型のイオン源21bは、グリッド22bおよびフィラメント23b、引出し電極28bを備えており、イオン源21bの引出し電極28bから距離L2の位置に第2のコレクタとしてのコレクタ24bが配置されている。イオン源21bから出力されたイオンビーム25はコレクタ24bに入力される。
【0061】
なお、図2Aは、図1Aと同様に本発明の原理を示す概念図である。従って、同一領域内(同一真空度であり、同一温度の領域内)において、コレクタ24aおよび24bを同一のイオンの飛行軸上に配置しても良いし(この場合は、イオン源21aとイオン源21bとは単一のイオン源となる)、図2Aに示すようにコレクタ24aおよび24bを異なるイオンの飛行軸上に配置しても良い。ただし、後者の場合は、後述する「減衰なし較正」を行うことが好ましい。
【0062】
また、図2Bにおいて、符号26は、減衰前、すなわち無衝突仮定した場合のイオン源のイオン電流と真空度との関係を示すグラフであり、符号27は、減衰後のイオン電流であって、飛行距離が短い場合のイオン電流(コレクタ24aにて検出されるイオン電流)と真空度との関係を示すグラフであり、符号28は、減衰後のイオン電流であって、飛行距離が長い場合のイオン電流(コレクタ24bにて検出されるイオン電流)と真空度との関係を示すグラフである。
【0063】
このようにイオン源が真空度に依存する場合であっても、式(3)、(4)では自然対数の中の分母がIoであるとともに、分子のIL1、IL2はIoに比例するので、I0に真空度依存があっても無関係となる。また式(5)ではもともとI0が消えている。そのため、真空度依存のあるイオン源を使用する場合であっても、計算式としては式(3)、(4)、(5)をそのまま使用することが出来る。
【0064】
4)真空度依存のあるイオン源
図2Aに示した、真空度依存のあるイオン源21a、21bは特殊なものなので、これについて説明する。図3に詳細が示されている。図3の下側がイオン源21aの正面図であり、上側が上面図である。
イオン源21aはグリッド22aと加熱されて熱電子を放出するフィラメント23a、およびスリット29aを有する引出し電極28aとを備えている。グリッド22aと引出し電極28aはともに平板状で、略同サイズかつ略平行となっている。グリッド22aには+100V、フィラメント23aには+30V程度、引出し電極28aには0V(アース電位)の電圧が印加される。フィラメント23aより放出された電子310はグリッド22aに向かって進み、グリッド22aの近傍で雰囲気ガスと衝突して正電荷のイオンを発生する。よく知られたイオンゲージをベースにしたイオン源では、円筒型でメッシュ/格子状のグリッドによって電子を透過させ内部でイオンを生成させるが、本イオン源でのグリッドはグリッドの前面近傍でイオン化させるのでメッシュ/格子状ではなく目の詰った単なる板が好ましく使われる。なお、この明細書を通じて、この技術の分野の慣例に従い目の詰った板状のものであってもグリッドと記載することとする。
【0065】
なお、グリッドは、目が詰まった平板に限定されない。本発明では、後述するように引出し電極28aを設けることが重要であるので、引出し電極28aがイオン放出面として機能するように引出し電極28aを配置できれば、グリッドの形状や配置位置はいずれであっても良く、その形状や例えば、湾曲した板やメッシュ状の平板、あるいは、従来のようにメッシュ状の円筒形であっても良い。すなわち、本発明では、フィラメント23aとグリッド21aとによって生じたイオンを、引出し電極28aによって引き付けスリット29aから放出できれば、グリッド21aの形状、配置位置はいずれであっても良いのである。
【0066】
イオン25はほぼグリッド22aの電位(+100V)で発生するので、電子310のビームと反対の向きになって引出し電極28aの方向に引き寄せられる。つまり、イオン25は電子と逆極性となっているので、+100Vの電位であるグリッド22aからの斥力と0Vの電位である引出し電極28aからの引力によって、引出し電極28aの方向に進む。しかし、引出し電極28aの中央付近にはスリット29aが設けられているので、引出し電極28aに達したイオン25のうち周辺部のものは引出し電極28aに吸収されるが、中央付近のものはそのままスリット29aを通過して外部に放出される。外部に放出されたイオン25はスリット29aの開口の形をしたイオンビームとなってコレクタの方向に進む。イオンビームの運動エネルギーは、アース電位領域であればほぼ100eVとなる。
【0067】
一方、引出し電極28aに吸収されたイオンの電流を測定すると、イオン源21aで生成されたイオンの全量の概略値を算出することが出来る。すなわち、イオン25が実際に照射する引出し電極28aの面積(スリット29aの周辺)を推定し、これをAとする。つぎにスリット29aの面積をBとして、実際に引出し電極28aで計測されたイオン電流をIとすれば、(A+B)/A*Iが全量のイオン電流に対応する。したがって、引出し電極28aは飛行前(減衰前)のイオン数であるI0を計測する内部コレクタとしての機能を持っている。ただし、平均自由行程の計算に利用する場合には、精度を上げるため後述の減衰なし補正を行うことが望ましい。
【0068】
また、引出し電極28aによってI0を計測することから、外部コレクタで計測する場合の飛行距離を決めるイオン源の放出面がちょうど引出し電極28aに対応することになる。
【0069】
本イオン源の引出し電極28aをスリット29aのないコレクタに変形した形は真空計の一種として知られているシュルツゲージに対応するので、本イオン源をシュルツ型イオン源と称することにする。シュルツゲージは円筒グリッドのイオンゲージと同じ原理ではあるが適用真空度を0.1Pa〜100Pa程度と真空度の悪い方(圧力の高い方)へシフトさせている。すなわち、フィラメントから発生した電子をグリッドで加速して雰囲気ガスと衝突させてイオンを生成し、そのイオンをコレクタで集めてイオン電流を計測する原理はイオンゲージと全く同じであるが、グリッドを板状としてフィラメントに接近させることによりイオンの生成効率を小さくしてイオンによる空間電荷の効果を低減し、またコレクタも接近させてイオン捕捉を促進することによって、イオンゲージで限界となっている10Paよりも悪い真空度(高い圧力)でも動作できるようになっている。本実施形態でのグリッド22a、フィラメント23aおよび引出し電極28aはこのシュルツゲージとほとんど同じ構造となっているので、0.1Pa〜100Pa程度の範囲の真空度測定を行なうことが出来る(コレクタとなる引出し電極にはスリット29aが存在するが、ここを通過するイオンの分だけ感度が低下するだけで特性、機能面で大差はない)。
【0070】
上述のように図3に示すシュルツ型イオン源は、電子を放出させるフィラメント23aと、少なくとも1つの開口部としてのスリット29aを有する引出し電極28aと、グリッド22aとを備えている。さらに、フィラメント23aには、グリッド22aに印加する電位よりも小さな電位(例えば、絶対値が小さいプラス電位)を印加することにより、フィラメント23aから電子310が放出され、該放出された電子310はグリッド22aに引き寄せられ、該引き寄せられた電子310がグリッド22a近傍の雰囲気ガスを電離させてイオンが生成される。ここで、該生成されたイオンを引き寄せるために、引出し電極28aにはフィラメント23aへの印加電位よりも小さな電位(好ましくは、アース電位)を印加する。よって、シュルツ型イオン源内で生じたイオンを引出し電極28aに引き寄せ、該引き寄せられたイオンの一部は引出し電極28aに形成されたスリット29から放出される。
【0071】
このように、本発明のシュルツ型イオン源では、フィラメントから生じた電子により雰囲気ガスのイオンを生成するために、フィラメントへの印加電位をグリッドへの印加電位よりも小さく設定し、シュルツ型イオン源内にて生成されたイオンを引き寄せ、その一部を外部に放出させるために(引出し電極をイオン放出面として機能させるために)、引出し電極への印加電位をフィラメントへの印加電位よりも小さく設定している。
【0072】
なお、引出し電極を内部コレクタとして機能させる場合には、引出し電極により引き寄せられたイオンの一部を該引出し電極により捕捉し、イオン電流として検出するわけだが、該検出を効率良く行うことを考慮すると、引出し電極に印加する電位はアース電位であることが好ましい。
【0073】
また、本発明のシュルツ型イオン源では、上記フィラメントおよびグリッドにより生成されたイオンを引出し電極が引き寄せ、該引き寄せられたイオンの一部を透過させることによって、シュルツ型イオン源のイオン放出面として機能し、これにより、シュルツ型イオン源のイオン放出面を正確に決めることができる。この機能を達成するために、引出し電極28aにはスリット29aが形成されているわけだが、引出し電極28aは、到達したイオンのうちその一部を検出するとともに、他の一部のイオンをそのまま通過させるように構成されていれば、いずれの構成であっても良い。例えば、引出し電極28aは、スリット状の他に、メッシュ状、あるいは少なくとも1つの小窓を設けた構造であっても良いし、導電性の部材を薄膜化したもの(例えば、シリコン薄膜)であっても良い。所定条件においては、導電性薄膜にイオンや電子といった荷電粒子が入射すると、その一部は該導電性薄膜に捕捉され、他の一部はそのまま透過する。
【0074】
このように、上記シュルツ型イオン源を用いることによって、引出し電極28aを内部コレクタとして機能させて減衰前イオン数I0を取得することができる。また、これと共に、内部コレクタとして機能する引出し電極28aがイオン源21aの外部との境界面となり、イオン源21aのイオン放出面として機能することができ、該引出し電極28aは通常固定されているのでその位置を正確に特定できる。従って、引出し電極28aがイオン放出面として機能することにより、イオン源21aのイオン放出面の位置を正確に決めることが出来る。
【0075】
平均自由行程を算出する際には、式(5)に示されるように、イオン源のイオン放出面からコレクタのイオン検出面までの距離を正確に決定することが重要であり、真空度の悪い(圧力の高い)雰囲気での測定においては特に重要である。ここで、上記シュルツ型イオン源を用いることによって、イオン源のイオン放出面が正確に決定できるので、イオン源から外部コレクタまでのイオンの飛行距離を正確に求めることができ、真空度の悪い雰囲気においても、より正確に平均自由行程を算出することができる。
【0076】
5)平均自由行程とガス数密度、圧力
真空度を示す平均自由行程、ガス数密度、圧力の3つは以下の式によって変換することが出来る。
ガス数密度:n=K1・1/(d2・λ) (6)
圧力:P=K2・n・T=K3・T/(d2・λ) (7)
ただし、λは平均自由行程(m)、dは主成分の分子直径(m)、Tは温度(絶対温度:K)であり、P(圧力)の単位はPa(1N/m2)である。定数はK1=1/(√2・π)=0.225、K2=1.38×10‐23J/K(ボルツマン定数)、K3=K1・K2となる。
【0077】
つまり、平均自由行程からガス数密度に変換するには分子直径が必要であり、ガスの種類が知られてなければならない。もし混合ガスの場合には、それぞれのガス毎に計算する必要がある。また、圧力に変換するには、さらに温度が必要となる。
【0078】
なお、分子直径は衝突に関する値(有効直径)とすべきなので、厳密には平均自由行程は中性分子同士とイオン/中性分子間とで異なりイオンの運動エネルギー(速度)によっても変化するが、実用的には同じと考えてよい。ただし、後述の電子では有効直径は大幅に異なるので、電子の平均自由行程は5.6倍となる。
【0079】
6)平均自由行程を求めるための前提
平均自由行程を求める場合には、以下の3点が満足していることが前提となる。
α:測定に利用するイオン源が同じ真空度の、かつ同じ温度の領域に位置している。
β:測定に利用するイオン源が同じ数のイオンを発生する。
γ:各コレクタ(検出器)のイオンの検出効率は等しい。
本発明の一実施形態では、透過型コレクタにより一つのイオン源を使用すること(次項)によりα、βを、また「減衰なし補正」(次々項)よってγを満足させることができる。
【0080】
7)第1のコレクタ(コレクタ12a、24a等)の透過化
本測定方法では必ず二つ以上のコレクタ(検出器)が必要となるが、それぞれにイオン源(イオンビーム)を用意するのは実用的ではない。この解決には、一つのイオン源(イオンビーム)に二つのコレクタを直列に設置(同一のイオンの飛行軸上に二つのコレクタを配置)して、イオン源に近い第1のコレクタでは一部のイオンは検出するが、残りのイオンはそのまま透過して、第1のコレクタよりも遠くに位置する第2のコレクタに進むようにすればよい。たとえば第1のコレクタをメッシュ状、スリット状あるいは少なくとも1つの小窓を設けた構造とする。あるいは、第1のコレクタは、導電性の部材を薄膜化したもの(例えば、シリコン薄膜)であっても良い。所定条件においては、導電性薄膜に荷電粒子が入射すると、その一部は該導電性薄膜に捕捉され、他の一部はそのまま透過する。このように、本発明では、透過型の第1のコレクタとしては、入射された荷電粒子の一部を検出し、他の一部を透過させることができる部材であればいずれの部材を用いても良い。そして平均自由行程の算出には第1のコレクタによるイオンの検出率によって本来の電流を較正する(この較正の目的と方法については、次項の「減衰なし較正」で詳しく説明する)。
【0081】
このようにすれば同じイオンビームを使いながら異なる飛行距離による減衰を知ることが出来るので、経済面やサイズ面だけでなく性能面での大幅な向上が期待できる。すなわち、たとえイオンビームの特性(強度、イオン種など)が変化しても両コレクタに同様に影響するので測定結果には無関係となる。
【0082】
平均自由行程の計算には二つのコレクタの検出効率が等しいことが必要(前提γ)ではあるが、あらかじめそれぞれの検出効率を求めておいて、計測された値をこれで較正しても構わない。実際には真空度が十分に良い(減衰が無い)場合の両コレクタのイオン電流比率を求めておくと、これらがそれぞれのオリジナルな検出効率となるので、この値で計測値を割ることが有効となる。たとえば、第1のコレクタで40%のイオンが計測され、残りの60%のイオンがそのまま透過して第2のコレクタに到達してそこで計測される構成になっているとする。この構成では減衰(雰囲気ガスとの衝突)が無い場合の第1のコレクタと第2のコレクタのイオン電流比率は、当然ながら4対6となる。この構成で、もし減衰がある場合にイオン電流比率が8対2になったとすると、IL1対IL2は2(=8÷4)対0.33(=2÷6)として計算すればよい。一般に、減衰なしでa対b、減衰ありでd対eの場合、IL1対IL2は(d/a)対(e/b)となる。
【0083】
これによると、実質的に上記前提の「β:測定に利用するイオン源が同じ数のイオンを発生する要件」「γ:各コレクタのイオンの検出効率は等しいとの要件」をほぼ満足することになる。なお、減衰なしでのイオン電流比率はメッシュの透過率(あるいは小窓の面積比率)など設計的データから見積もることが出来るが、実測によればより正確に確定することが出来る(次項の減衰なし補正)。
【0084】
8)減衰なし較正
より高い精度を実現するには上記項目6)の透過型の第1のコレクタでの物理的なイオンの検出の比率だけでなく、電気的な検出比率(二つの計測回路の増幅率の差)を較正する必要がある。さらにI0(内部コレクタの値)を使用する場合には内外コレクタの比率較正も必須である。特に、汚れが顕著となる環境では、透過型の第1のコレクタの開口部(例えば、メッシュ)の透過率が変化することも懸念される。
【0085】
しかし、これらすべての要因を以下の方法で簡単に較正することが出来る。まず、減衰が無視できるような良い真空度(低い圧力)の状態でそれぞれのコレクタでのイオン電流を測定し、その値を初期値(減衰なしの値)として設定しておく。そして、実際の測定では、それぞれ実測したイオン電流をこの初期値で割った値に規格化して計算すればよい。上記項目6)と同じく、減衰なしでa対b、減衰ありでd対eの場合、IL1対IL2は(d/a)対(e/b)となる。
【0086】
初期値を出すためのこのプロセスを「減衰なし較正」と呼ぶことにする。すなわち、減衰なし較正とは、第1の真空度の状態(例えば、真空度の良い状態)での、第1のコレクタおよび第2のコレクタにて検出された荷電粒子数の比率により、第2の真空度の状態(例えば、第1の真空度よりも悪い真空度の状態)での、第1のコレクタおよび第2のコレクタにて検出された荷電粒子数の比率を較正することである。
減衰なし較正のために必要な真空度は少なくとも減衰が1/10以下(90%以上が無衝突)となる状態が必要となる。
【0087】
9)真空度範囲
読み取り誤差の観点からは、測定したい真空度範囲において二つの飛行距離でのイオン電流の比が概ね1.2倍以上、100倍以内となること、つまり二つの飛行距離の差が平均自由行程の0.2倍から4倍程度とすることが望ましい。(この0.2倍、4倍程度の値は、ln(IL1/IL2)=(L2−L1)/λより、ln1.2=0.18<0.2、およびln100=4.6>4 から算出される)
【0088】
10)真空計較正
上記項目9)の真空度範囲で示された範囲は平均自由行程を直接計測する場合であるが、別途用意した隔膜真空計などと併用すれば、さらに真空度の範囲を広くすることが出来る。すなわち、通常の隔膜真空計の測定範囲、すなわち100000Pa(大気圧)〜1Pa程度までの広い範囲において極めて正確な真空度の測定が可能となる。もともと隔膜真空計は数桁以上の広大な範囲に渡ってリニアリティ(線形性)を保有するという優れた性能を持つ一方、感度(換算値)、すなわち信号量の絶対値は変化しやすいという欠点を持つ。図2での「減衰前(イオン源)のイオン電流」を示すグラフ26の右45度のラインの右端から数桁分まで外挿した線が隔膜真空計の真空度表示に対応するが、リニアリティ(線形性)が良好とはラインが直線となっていること、感度(換算値)が変化しやすいとはライン全体の上下位置がずれやすいことを意味している(図2は両対数グラフなので上下位置がずれるが、通常グラフにおいてはリニアティが変化するとは、傾きが変化することを言う)。
【0089】
しかし、本発明による方法は測定範囲こそ狭いが得られた真空度は非常に正確なので、同時に測定した隔膜真空計の値と比較して隔膜真空計の正しい感度(換算値)である換算値を明らかにすることが出来る。すなわち、ライン全体の上下位置を正しく設定しなおすことが出来る。他の真空計(ゲージ)の感度(換算値)を較正するこのプロセスを「真空計較正」と呼ぶことにする。
【0090】
なお、通常の真空度較正は正確にその値が知られた真空度を実現した状態で行なう。例えば、信頼のできる別の手段によって、真空度が正確にα(Pa)となるように設定した上で、較正すべき真空計の信号を計測してβ(μA)となったとすると、この真空計の感度(換算値)を「α/β(Pa/μA)」と定める。以後、感度(換算値)が変わらないとの前提で、この真空計でXμAが計測されたらX・α/β(Pa)であるとする。しかし、最初のα(Pa)を保証し得る「信頼のできる別の手段」を用意することは非常に大変であって、この手段自身をさらに別のより信頼できる手段で較正する必要がある。
【0091】
これに対して、本発明による真空計較正ではその真空度は既知である必要はなく、単に減衰が発生する領域であれば任意の真空度で構わない。ただし、ガスの種類は既知でなければならない。すなわち、上記項目8)の真空度範囲で示した範囲の真空度となっていれば、平均自由行程を正確に算出することが出来るので、その値を較正に使えば良い。例えば、真空度は未知であるがNを導入した結果6mmの平均自由行程になったとすると、その圧力は1Paであることが判定できる。従って、較正すべき他の真空計の表示を、1(Pa)を表示するように調整手段を調整すれば良い。この際には飛行距離の正確度が要求されるが、これは容易に実現することが出来る。これ以後は、通常の較正と同じように行なう。
【0092】
このように、本発明による較正には特別な装置は不要であって、しかも短時間に行なうことが出来る。そのため、実際の測定中に自動的に真空計較正が行なわれるようにすることも出来る。つまり、ほとんどのプロセスでは、決められたガスを使用するので、大きな問題はない。
【0093】
11)電子の利用
減衰をおこさせる荷電粒子としてはイオンだけでなく電子も利用することが出来る。電子は直径が小さいので平均自由行程はイオンのおよそ5.6倍になるので、同じ飛行距離であればイオンよりも5倍ほど悪い真空度(高い圧力)の測定に適用できる。そのため、真空度の悪い状態で使用することが多いドライエッチングやCVDでは、電子の利用が有効となる。
【0094】
コレクタでの電流計測の観点からはイオンでも電子でも同じであるが、発生源すなわちイオン源と電子源では大きな違いがある。本発明に使用されるシュルツ型イオン源はじめ雰囲気ガスを電子によってイオン化するイオン源であれば、高い電圧を印加するグリッドが必要であるとともに、電子によるイオン生成のプロセスが入るため、安定性や直線性などの問題が発生しやすし、適用できる真空度領域も10Paが限界となる(10Paより悪い真空度は不可)。これに対して電子源ではグリッドおよびイオン生成プロセスが無いため、構造がシンプルで高精度の電子ビームを容易に得ることが出来るとともに、適用できる真空度領域も大気圧まで可能となる(材料の選択も重要であるが、例えばイリジウム線であれば大気圧中で点灯しても問題がない)。なお、電子源からの電子電流は圧力に依存しないので、図1の減衰の曲線となる。また、計算式(1)〜(5)はもともと圧力依存なしを前提としているので、これをそのまま電子に適用できる(しかし上述したように、この計算式は圧力依存性のある場合にも使用できるので、式は共通となる)。
【0095】
シュルツ型イオン源では電圧の切り替えだけで簡単に電子源として使用することが出来る。すなわち、イオン源としてはフィラメント、グリッドはそれぞれ+30V、+100Vとしているが、これらを両方とも同じマイナス電位にするだけで電子源となる。引出し電極はアースのままでよい。その他の構造、電圧も一切変更不要である。例えば、フィラメント、グリッドを両方とも-30Vとすると、アース電位領域であればほぼ30eVの電子ビームが得られる。
【0096】
すなわち、本発明のシュルツ型イオン源は、グリッド、フィラメントに印加する電位を制御することにより、イオン源としても用いることができるし、電子源として用いることもできる。電子源として用いる場合には、存在するグリッドがフィラメントから発生された電子を引き付けその結果、電子源から発生する電子の発生効率の低下を抑制するために、グリッドに印加するマイナス電位とフィラメントに印加する電位とを同じにすることが好ましい。このようにすることで、グリッドとフィラメント間に電界が形成されないので、グリッドから発生した電子は、引出し電極側に引き付けられる。あるいは、グリッドに印加するマイナス電位をフィラメントに印加するマイナス電位よりも大きくしても良い(グリッドに印加するマイナス電位の絶対値をフィラメントに印加するマイナス電位の絶対値よりも大きくする)。このようにすることで、フィラメントとグリッド間には、電子にとってグリッドからフィラメントに向かうような電界が形成されることになり、フィラメントから発生した電子を、電子放出面として機能する引出し電極へと効率良く向わせることができる。
【0097】
このように、本発明のシュルツ型イオン源を電子源としても用いる場合には、電子源から発生する電子の発生効率の向上を考慮すると、グリッドに印加するマイナス電位をフィラメントに印加するマイナス電位以上とすることが好ましい。さらに、フィラメントより発生した電子を引き寄せるために、引出し電極にはフィラメントへの印加電位よりも小さなマイナス電位、アース電位、またはプラス電位を印加する。よって、フィラメントにより生じた電子を引出し電極に引き寄せ、該引き寄せられた電子の一部は引出し電極に形成されたスリットから放出される。
【0098】
なお、シュルツ型イオン源を、イオン源および電子源の双方を実現することを考慮するとグリッド(図3では、グリッド22a)が必要であるが、平均自由行程の算出の際に電子のみで測定を行う場合には、上記グリッドは必要無いことは言うまでも無い。この場合は、平均自由行程を測定する装置が備える電子源は、電子を発生させるための発生源としてのフィラメントと、該フィラメントから発生した電子の一部を捕捉し、一部を透過させるように構成された引出し電極(例えば、フィラメントと略平行に設置され、スリット等の開口を少なくとも1つ有する平板状の電極)を備えることになる。この場合も、フィラメントにより生成された電子を引き寄せるために、引出し電極にはフィラメントへの印加電位よりも小さなマイナス電位(好ましくは、アース電位)、またはプラス電位を印加する。よって、フィラメントにより生じた電子を引出し電極に引き寄せ、該引き寄せられた電子の一部は引出し電極に形成されたスリットから放出される。
【0099】
電子の発生方法として最も一般的なものは熱フィラメント方式であるが、その他の電子源として傍熱型酸化物やフィールドエミッション型など、電子を発生できる方法であればいずれも使用することが出来る。これらいずれかの電子発生手段と引出し電極を組み合わせれば電子源となる。ただし、これらの電子源を活性ガスの雰囲気で常時(長時間)使用すると、寿命などで大きな問題が発生する場合があるので、下記16)、17)の対策が必要となる。
【0100】
12)迷イオン、迷電子対策
雰囲気ガス(中性分子)と衝突したイオンや電子は消滅する訳ではなく、単に運動エネルギーを失うだけなので飛行空間に迷イオンや迷電子として残存・浮遊することになる。そこで、これら迷イオン、迷電子といった迷荷電粒子を速やかに除去しないと、コレクタに到達してしまって荷電粒子量測定の誤差となり得る。この対策の一つは機械的なもので、計測に無関係な荷電粒子を飛行領域に入れないこと、一方電気的な対策としてはエネルギーを失った荷電粒子をコレクタの前で阻止すること、アース電位(あるいはわずかにマイナス電位)の板を飛行領域近傍に設置して迷荷電粒子を吸収すること、などが行なわれる。
【0101】
もう一つの対策は電気的なもので、イオン電流(電子電流)の計測を通常の直流(DC)ではなくロックイン(変調同期型)アンプを使用して行う。イオン(電子)の発生に変調(断続)をかけてそれに同期した交流成分のみをロックイン(変調同期型)アンプで検出するので、雰囲気ガスに衝突しなかったイオン(電子)のみを検出することが出来る。ロックイン(変調同期型)アンプ方式は、吸収板を設置できない場合、衝突したイオン(電子)以外でも一定の妨害電流が侵入する場合などに有効である。
【0102】
13)精度劣化の要因
精度を劣化させる要因は「飛行距離以外の真空度依存性」の存在であるが、その可能性と対策は以下にように考えられている。
[1]イオン引出し効率が変動する場合があり得るが、式(5)を使用することなどが対策となる。
[2]イオン開き角度が変動する場合があり得るが、アパーチャの設置やイオンビームよりも小さいコレクタの使用などによって検出角を制限しておくことが対策となる。
[3]分子との衝突以外にイオンのクーロン力発散(空間電荷効果)、中性分子の引き込みなどに要因があり得るが、これにはイオン電流を少なくする、イオンのエネルギーを高くする(イオン化が発生しない程度に)ことが対策となる。
【0103】
14)制御部について
後述する各実施形態にて説明する、平均自由行程を測定する装置1007は、図10に示す制御部1000を内蔵することができる。また、該制御部を、インターフェースを介して接続するようにしても良い。
【0104】
図10は、本発明の一実施形態に係る制御系の概略構成を示すブロック図である。
図10において、符号1000は装置1007全体を制御する制御手段としての制御部である。この制御部1000は、種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行するCPU1001、およびこのCPU1001によって実行される様々な制御プログラムなどを格納するROM1002を有する。また、制御部1000は、CPU1001の処理動作中のデータや入力データなどを一時的に格納するRAM1003、およびフラッシュメモリやSRAM等の不揮発性メモリ1004などを有する。
【0105】
また、この制御部1000には、所定の指令あるいはデータなどを入力するキーボードあるいは各種スイッチなどを含む入力操作部1005、装置1007の入力・設定状態などをはじめとする種々の表示を行う表示部1006(例えば、ディスプレイ)が接続されている。
【0106】
15)活性ガス対策-1 <フィラメントの選択使用>
一般に真空プロセスでは常に活性ガスを使用するわけではなく、一時的に不活性ガスを使用する場合がある。特に、CVDでは原料とすべき活性ガスを安定的に輸送するため大量の不活性ガスをキャリアガスとして常時導入している。そして、成膜のために活性ガスを特定なタイミングで一時的に導入する。
【0107】
そこで、たとえ熱フィラメントを使用している装置であっても、活性ガスに強い真空計と併用するとともに、不活性ガスのみが導入されている時だけ熱フィラメントを動作(点灯)させるようにし、活性ガスが導入されている時にはフィラメントを点灯させないようにすれば、問題を発生させず成膜中の真空度計測を行なうことが可能となる。すなわち、不活性ガス導入時には同じ真空領域に別途用意した活性ガスに強い真空計、例えば隔膜真空計に「真空計較正」を行なっておき、活性ガス導入時にはこの真空計(隔膜真空計)で真空度の測定を行なうようにする。
【0108】
隔膜真空計は汚れ(変形量自身の変化)や温度ドリフト(変形量の読み取りに誤差)に弱いが、汚れによる影響は非常にゆっくりとしたものなので、これに対しては「真空計較正」は1日に一回で十分であろう。また、温度ドリフトによる影響は比較的早いとは言え、1時間に一回程度の「真空計較正」で十分であろう。この程度の頻度であれば、真空プロセスを制限することなく「真空計較正」を行なうことが出来るであろう。
【0109】
不活性ガス導入時での「真空計較正」が実現できない場合は次の方法もある。「真空計較正」はわずか数秒程度で終了するので、活性ガスが導入されている状態であってもフィラメント点灯のタイミングをよく選べば、プロセスに影響を与えないようにすることが可能である。また、装置的には短時間のフィラメント点灯では問題は少ない。具体的には、フィラメントの寿命は、常時点灯に比べ1時間一回で600倍、1日一回で14000倍程度も延びるので、実用的には十分価値があることになる。
【0110】
16)活性ガス対策-2 <新規電子発生機構>
X線よりは低いが紫外線よりもエネルギーの高い光は真空紫外光と呼ばれており、これを放出する真空紫外光源は様々な種類のものが実用化している。そこで、真空紫外光源を測定領域の外部に設置し、そこからガラス窓を通して測定領域内の光/電子変換電極に真空紫外光を照射させる。光/電子変換電極の表面からは光電効果によって電子が放出するので、これに引出し電極を加えることにより電子源とすることが出来る。
【0111】
この電子発生機構では、高温となるフィラメントは測定すべき雰囲気ガスとは隔離された領域に存在しているので、活性ガスに対するフィラメント問題は本質的に解決される。つぎに、CVDなど堆積性ガスに対しては電極表面への堆積による影響が問題となるが、これに対しては7eV程度のエネルギーを持つ真空紫外光(波長0.18μm程度)を発生する光源とそれを透過するガラス窓を用意することによって抜本的に解決している。
【0112】
この解決法について説明する。光電効果が起きるか否か、すなわち光照射によって表面から電子が放出されるか否かは、光のエネルギーと表面の仕事関数の大小で決定される。光のエネルギーが表面の仕事関数よりも大きければ必ず光子1個に対して電子1個の割合で電子が放出されるが、小さければ全く放出されない。そこで、エネルギーの低い光(紫外線や可視光)を検出する光電子増倍管の光/電子変換電極(膜)には、特別に仕事関数の低い物質が使われている。しかし、本実施形態では7eV程度の真空紫外光が照射されるのに対して、世の中に存在する多くの物質はそれ以下の仕事関数を持つので、光/電子変換電極にどのような物質が堆積されたとしても、ほぼ間違いなくその物質の表面から電子が放出されることになる。すなわち、電極表面への堆積問題に対する抜本解決が実現している。
なお、仕事関数の違いで放出する電子の量が変化することもあり得るが、本実施形態の測定方法では同じ電子ビームからの二つのコレクタへの電流比率のみが必要となるので、測定精度への影響はない。
【0113】
なお、本発明では、光/電子変換電極の仕事関数を考慮して該光/電子変換電極に用いる材料の制限を緩和するために、高エネルギー光(例えば、真空紫外光)を用いることが好ましいが、本活性ガス対策-2の本質を考慮すると、用いる光の波長はいずれであっても良いことは言うまでもない(真空紫外光の他に、例えば、紫外光、可視光などを用いても良い)。すなわち、本活性ガス対策-2では、測定領域内(雰囲気ガス内)に、所定の光を受けると光電子を放出する光/電子変換電極を設け、雰囲気ガスから真空的に隔離された測定領域外(雰囲気ガス外)から上記所定の光を光/電子変換電極に照射して、光電効果により光/電子変換電極から電子を発生させることが重要であり、該機能を実現できるように、光の波長、および該光のエネルギーhν(h:プランク定数、ν:光の振動数)よりも小さな仕事関数の材料を光/電子変換電極として選択すれば良いのである。
【0114】
17)活性ガス対策-3 <温度制御>
隔膜真空計では隔膜の非常にわずかな変位量(μm〜サブμm)を計測しているため、周辺温度が0.1℃でも変化すると、隔膜の熱膨張による影響が出てしまう。これに対して、本発明の方式では飛行距離の絶対値が精度に影響するが、イオンや電子といった荷電粒子の飛行距離は長い(mm〜cm)ので、該飛行距離への熱膨張の影響はわずかとなる。したがって、本発明による装置では周辺温度がたとえ100℃レベルで変化しても精度的な影響は少なく、測定中であっても周辺温度を任意の値に変化させることができる。
【0115】
一方、活性ガスの影響の大きさは、一般的に強い温度依存性のある場合が多い。特にCVDで使用される堆積性ガスでは、特定な温度でのみ堆積が発生することがほとんどである。この温度特性を利用してプロセスが成り立っている訳なので、当然ながら、どの温度で影響が最も大きいかは事前によく知られている。そこで、本装置を使用ガスに応じて最も影響を受けにくい温度に制御して測定を行なうことが、活性ガス対策として大変効果的となる場合がある。
【0116】
18)活性ガス対策-4 <クリーニング>
本発明による装置は構造がシンプルであり、飛行距離以外の寸法は精度に影響しない。電流比率さえ計測できれば電極の表面状態なども影響が少なく、温度変化にも鈍感である。しかし、CVDにおいては、コレクタの表面に堆積が起こりその結果第1のコレクタ及び第2にコレクタ間の距離が変化する可能性がある。また、コレクタでの電流計測を阻害する可能性もある。そこで、CVDで使用される堆積性ガスのみに関する対策となるが、測定後に堆積物を除去(クリーニング)してしまう方法が有効となる場合がある。
【0117】
クリーニング法としては、何らかの手段で堆積物を気化させてガスとして排出することになり、気化手段としては、限定ではないが例えばよく知られている下記のような各種手段を利用することができる。
18−1)高温(100〜200℃)に加熱する。
18−2)腐食性ガスを導入する。
18−3)放電発生手段によってプラズマを発生する。
18−4)腐食性ガスを導入した上で、放電発生手段によってプラズマを発生する。
18−5)酸素を導入した上で、外部から高エネルギー光を照射する。
【0118】
また、気化させたガスの排出方法としては、特別な手段を設けず接続されている真空プロセス装置の排気手段によって排出する場合、新たに排気手段とガス導入手段の一方あるいは両方を設けて強制的に排出する場合がある。
【0119】
(第1の実施形態)
図4は本発明の第1の実施形態に係る平均自由行程を測定する装置1007を示す図であり、真空度依存のあるシュルツ型のイオン源と透過型のコレクタが使用されている。図4の上側の図は、本実施形態に係る装置1007の上面図であり、下側の図は、正面図である。図には示されていないが、装置1007はドライエッチングやCVDなどの真空プロセス装置と真空的に接続されており、真空容器500の内部には測定すべき雰囲気ガスが存在している。また図には示されていないが、各電極は真空計としてよく知られている方法によって取付け・固定がなされ、接続された配線が大気側に導通している。たとえば、それぞれの電極は絶縁石(セラミックなど)にネジ止めされ、電気溶接された配線(ニッケル線など)がガラス封止の導入端子を経て大気側の制御装置まで伸びている。
【0120】
図4において、真空計としての、平均自由行程を測定する装置1007は、シュルツ型イオン源であるイオン源100、透過型のコレクタ202、およびコレクタ203を備えている。コレクタ202および203は、イオン源100から放出されたイオン110のイオン飛行軸上に配置されている。また、イオン源100のイオン放出面(引出し電極として機能する前面103)からコレクタ202のイオン検出面までの距離がLaとなるようにコレクタ202は設けられている。従って、コレクタ202は、イオン源100のイオン放出面(前面103)からの飛行距離Laのイオンを検出する。また、イオン源100のイオン放出面(前面103)からコレクタ203のイオン検出面までの距離がLbとなるようにコレクタ203は設けられている。従って、コレクタ203は、イオン源100のイオン放出面(前面103)からの飛行距離Lbのイオンを検出する。
【0121】
イオン源100は、SUS製などの板状(8mm×2mm程度)のグリッド102、W製ワイヤ(φ0.2mm、長さ8mm程度)のフィラメント101を有している。グリッド102は+100V、フィラメント101は+30V程度に電圧が印加され、両者の間隔は1mm程度である。グリッド102は長辺が短辺の4倍程度にもなる細長い形状とし、フィラメント101はグリッド102の長辺と同じ長さまで延長している。この形状であれば、フィラメント101をイオン源100の長辺の寸法まで伸ばすことが可能であり、しかもフィラメント101から放出された電子310はほとんど無駄になることなく有効に利用される。したがって、イオンゲージ型イオンなどに比べてフィラメント101の温度を低く設定することが出来る。これにより、ドライエッチングやCVDの活性ガス雰囲気による問題が比較的低減される。
【0122】
フィラメント101より放出された電子310はグリッド102に向かって進み、グリッド101の前面近傍で雰囲気ガスと衝突して正電荷のイオンを発生する。イオン110はほぼグリッド102の電位(+100V)で発生するので、イオン110は電子310のビームと反対の向きになってアース電位のシールドケース603の方向に進む。シールドケース603の前面103(グリッド102、フィラメント101側)にはスリット104(8mm×2mm程度)が設けられているので、一部のイオン110は、該スリット104を通ってシールドケース603の内部に進む。ここで、シールドケース603の前面103がシュルツ型イオン源での引出し電極に対応するとともに、この位置がイオン放出面と規定される。グリッド102とシールドケース603の前面103の間隔は3mm程度、シールドケース603の前面103とコレクタ202との間隔(距離La)は1mmとしている。コレクタ202(5mm×1.5mm程度)はSUS製などのメッシュ(間隔0.3mm、透過率50%程度)、コレクタ203(5mm×1.5mm程度)はSUS製などの板(プレート)である。また、シールドケース603の前面103とコレクタ203との間隔(距離Lb)は6mmとしており、コレクタ202とコレクタ203との間は正確に5mm(=Lb−La)としている。
【0123】
シールドケース603はSUS製などの金属板(厚さ1mm程度)であってコレクタ202、203の双方を囲って外側から迷イオンが廻り込まないようにしている。シールドケース603の形状はシガレットケースのように細長く(そしてイオン110のビームも細長く)なっている。従って、イオンの飛行領域で発生した迷イオンは遠くに存在するコレクタに到達するよりも、より近くに存在するシールドケース603に吸収されやすい。
【0124】
また、シールドケース603は電流計に接続されており、シールドケース603(主に前面103のスリット104近傍)に流れ込むイオン電流を計測できるようになっており、内部コレクタとして機能することが出来る。つまり、シールドケース603の前面103は、透過化されたコレクタ202と同様に一部のイオンを捕捉して他のイオンを透過させる構造となっているので、減衰なし補正を行なうことによって内部コレクタとしての機能を果たすことが出来る。すなわち、シールドケース603は引出し電極、迷イオンの阻止と吸収、および内部コレクタの機能を持っている。なお、電位的にはコレクタ202,203の双方、シールドケース603ともにアース電位(接地/グランド電位。具体的には0Vで、真空計全体のベース電位)である。
【0125】
飛行距離は、コレクタ202とコレクタ203との間の距離が5mm、内部コレクタとしてのシールドケース603の前面103(これをイオン源のイオン放出面と規定)とコレクタ202との間の距離は1mmとしている。従って、前者による式(5)にて0.4Pa〜6Pa程度、後者による式(3)にて2Pa〜30Pa程度の測定を行なう。さらに「真空計較正」によって、シュルツゲージと同じ動作により0.1Pa〜100Pa程度の測定も行なうことが出来る。
【0126】
以下に詳述する。
イオン電流やイオンエネルギーは測定結果に直接関係しないので任意となるが、概ねイオン電流は1μA(10‐6A)程度、イオンエネルギー100eV程度としている。電流計測は通常の直流(DC)計測であり、0.1秒強の応答速度で1nA(10‐9A)〜1μA程度が検出できれば十分である。
【0127】
以下、イオン源からのイオンの飛行、減衰、計測について説明する。イオン源100で発生するイオン110はグリッド102近傍で生成されるため、アース電位に対してほぼ100eV(グリッド102の電位+100Vに対応)の運動エネルギーを持つ。そのため、電位勾配にしたがって電子310のビームと反対の向きになってアース電位であるシールドケース603の方向に進む。まず、イオン110のうちの一部はシールドケース603の前面103に吸収されるので、シールドケース603は内部コレクタとして減衰前のイオン数であるイオン数Icを検出する。しかし、シールドケース603の前面103にはスリット104が設けられているので、シールドケース603の前面103に吸収されなかった他のイオン110はシールドケース603の内部に進み、アース電位のコレクタ202に向かって進む。コレクタ202までに飛行する間に雰囲気ガス(中性分子)に衝突したイオン110は運動エネルギーを失いコレクタ202には到達しないが、一部のイオン110は衝突せずにコレクタ202に到達してイオン電流として計測される。すなわち、コレクタ202は、飛行距離L1飛行し減衰したイオン数Iaを検出する。
【0128】
コレクタ202はメッシュ状で形成された透過型となっているので、コレクタ202の位置まで到達したイオン110のさらに一部はそのままコレクタ203に向かって進む。コレクタ202とコレクタ203との間でも雰囲気ガスに衝突したイオン110はコレクタ203には到達しないが、一部のイオン110は衝突せずにコレクタ203に到達してイオン電流として計測される。すなわち、コレクタ203は、飛行距離L2飛行し減衰したイオン数Ibを検出する。
【0129】
本実施形態では、距離Laおよび距離Lbの値は、不揮発性メモリ1004に記憶されている。よって、不揮発性メモリ1004には、距離Laが1mmであること、および距離Lbが6mmであることが保持されている。さらに、内部コレクタとしてのシールドケース603の前面103はイオン源100のイオン放出面として機能しイオンの飛行距離の始点なので、イオン源100と内部コレクタとしての前面103との間の距離Lcは0である。従って、不揮発性メモリ1004には、距離Lcの値(=0mm)も記憶されている。なお、グリッド102からシールドケース603の前面103までの空間においてもイオン110の一部は雰囲気ガスに衝突して減衰するが、シールドケース603の前面103をイオン源100のイオン放出面と規定し、そこでの値(距離、イオン数)を基準にして計算するので、シールドケース603の前面103まででの減衰は測定には無関係となる。
【0130】
平均自由行程の計算には、先立って「減衰なし較正」を行なっておくことが必要である。これは、透過型のコレクタ202でのイオン110の検出比率や二つの計測回路の増幅率、および内部コレクタとしてのシールドケース603の前面103でのイオン検出比率を較正するものである。減衰なしとの条件を満足するため、その真空度での減衰が少なくとも1/10以下となる状態としておくようにする。真空度以外は実際の測定と同じ条件とし、それぞれのコレクタでのイオン電流を減衰なしの初期値として設定する。そして、実測したイオン電流のそれぞれをこの初期値で割った値に規格化して計算に使用する。すなわち、減衰なし較正のための測定では、内部コレクタとしてのシールドケース603の前面103がイオン数Ic′を検出し、コレクタ202がイオン数Ia′を検出し、コレクタ203がイオン数Ib′を検出する。これら検出されたイオン数Ia′、イオン数Ib′、イオン数Ic′はそれぞれ、不揮発性メモリ1004に記憶される。従って、制御部1000は、減衰なし較正を行う場合に、不揮発性メモリ1004に記憶された初期値としてのイオン数Ia′、イオン数Ib′、イオン数Ic′を適宜読み出し、該読み出された初期値によって測定値を割った値に規格化して減衰なし較正を行う。
【0131】
平均自由行程の測定の基本的な手順は以下のようになる。
まず、フィラメント101を加熱し、グリッドに到達する電子が適当な値となるように設定する(必ずしも、この値を正確に知る必要はなく、厳密に一定な値とする必要もない)。すなわち、制御部1000は、イオン源100からイオン110が発生するように、装置1007を制御する。
【0132】
つぎに、内部コレクタとしてのシールドケース603の前面103、コレクタ202、コレクタ203に流れ込むそれぞれのイオンの量(イオン数Ic、イオン数Ia、イオン数Ib)を計測する。すなわち、制御部1000は、内部コレクタとしてのシールドケース603の前面103、コレクタ202、およびコレクタ203にてイオンを検出するように装置1007を制御し、検出されたイオン数Ic、イオン数Ia、イオン数Ibを装置1007から取得し、RAM1003に格納する。
【0133】
最後に、取得されたイオン数Ic、イオン数Ia、イオン数Ibを適宜用い、式(3)〜(5)を使って平均自由行程を算出するが、そのうちイオン量の比率が1.2倍から100倍の範囲内であれば確定値とする。すなわち、制御部1000は、平均自由行程の算出に用いる式に応じた情報を読み出して計算を行う。本実施形態では、コレクタ202とコレクタ203との間の距離(Lb−La)は5mm、シールドケース603前面とコレクタ202との間の距離は1mmとなっているので、前者では0.4Pa〜6Pa程度、後者では2Pa〜30Pa程度の測定を行なうことが出来る。
【0134】
具体的には、式(3)を用いて計算を行う場合は、第1のコレクタが内部コレクタとしてのシールドケース603の前面103となり、第2のコレクタがコレクタ202となる。そして、イオン数I0がイオン数Icとなり、イオン数IL1がイオン数Iaとなり、飛行距離L1が距離Laとなる。従って、制御部1000は、不揮発性メモリ1004から距離Laを読み出し、RAM1003からイオン数Ic、Iaを読み出し、該読み出された値から式(3)に従って平均自由行程を算出する。
【0135】
また、式(4)を用いて計算を行う場合は、第1のコレクタが内部コレクタとしてのシールドケース603の前面103となり、第2のコレクタがコレクタ203となる。イオン数I0がイオン数Icとなり、イオン数IL2がイオン数Ibとなり、飛行距離L2が距離Lbとなる。従って、制御部1000は、不揮発性メモリ1004から距離Lbを読み出し、RAM1003からイオン数Ic、Ibを読み出し、該読み出された値から式(4)に従って平均自由行程を算出する。
【0136】
さらに、式(5)を用いて計算を行う場合は、第1のコレクタがコレクタ202となり、第2のコレクタがコレクタ203となるパターンAと、第1のコレクタが内部コレクタとしてのシールドケース603の前面103となり、第2のコレクタがコレクタ202となるパターンBとがある。
【0137】
パターンAの場合:
イオン数IL1がイオン数Iaとなり、イオン数IL2がイオン数Ibとなり、飛行距離L1が距離Laとなり、飛行距離L2が距離Lbとなる。従って、制御部1000は、不揮発性メモリ1004から距離La、Lbを読み出し、RAM1003からイオン数Ia、Ibを読み出し、該読み出された値から式(5)に従って平均自由行程を算出する。
【0138】
パターンBの場合:
イオン数IL1がイオン数Icとなり、イオン数IL2がイオン数Iaとなり、飛行距離L1が距離Lcとなり、飛行距離L2が距離Laとなる。従って、制御部1000は、不揮発性メモリ1004から距離Lc、Laを読み出し、RAM1003からイオン数Ic、Iaを読み出し、該読み出された値から式(5)に従って平均自由行程を算出する。
【0139】
このように用いる式に応じて、必要となる計測値が決まっている。よって、制御部1000は、算出に用いる式に応じて(すなわち、算出に用いると設定された式に応じて)、各距離およびイオン数を適宜選択して読み出して計算を行う。なお、用いる式の設定は、ユーザが入力操作部1005を介して行うことができる。
【0140】
また、制御部1000は、平均自由行程を求める際に、減衰なし較正を行うことができる。減衰なし較正を行う場合は、制御部1000は、用いる式に応じて、不揮発性メモリ1004から初期値としてのイオン数Ia′、イオン数Ib′、イオン数Ic′を適宜読み出し、該読み出された値を用いて減衰なし較正を行うことができる。例えば、式(5)を用いる場合は、不揮発性メモリ1004からイオン数Ia′、イオン数Ib′を読み出し、イオン数Ia/イオン数Ia′およびイオン数Ib/イオン数Ib′に規格化して減衰なし補正を行う。
【0141】
制御部1000は、計算により得られた平均自由行程を表示部1006に表示させることができるだけでなく、平均自由行程に基づいて式(7)から対応する圧力を算出することも出来る。圧力の算出には温度と分子径が必要となるので、装置1007の測定領域の温度が既知の場合はその値を、既知でない場合は計測する温度計測手段としての温度計により装置1007の測定系の温度を測定した値を式(7)に適用する。また、ガス成分が既知の場合はその文献値から、既知でない場合は質量分析計によって成分を判定して、その文献値から分子の径を求めた値を式(7)に適用する。このようにして、制御部1000は、直接求められた平均自由行程を圧力に変換し、該変換された圧力を表示部1006に表示させることができる。なお、測定領域の温度の既知でなく温度計測手段もない場合には室温での値で計算し、室温換算の圧力値とする。また、ガス成分が既知でなく質量分析計もない場合にはN2の径で計算し、N2換算の圧力値とする。このように室温換算、およびN2換算による圧力値は、イオンゲージやシュルツゲージで広く利用されている方法である。
【0142】
本実施形態では、グリッド102、フィラメント101およびシールドケース603の前面103はシュルツゲージとほとんど同じ構造となっているので、シュルツゲージと同じく0.1Pa〜100Pa程度の比較的大きな範囲の真空度測定を行なうことが出来る。そこで、平均自由行程の計測と同時にシュルツゲージ機能による真空度を測定して真空計の感度(換算値)を較正する「真空計較正」を行なえばシュルツゲージの測定範囲、すなわち0.1Pa〜100Pa程度までの範囲において極めて正確な真空度測定を行なうことも出来る。「真空計較正」では、既知ガス種によって減衰が発生する程度の真空度に維持した上で、上記方法による平均自由行程の測定とシュルツゲージ機能による真空度(圧力)の測定を行ない、制御部1000は、式(7)によって両者を比較してシュルツゲージ機能の感度(換算値)を較正する。較正を行なう真空度は平均自由行程の測定さえできれば任意(未知)の値で構わない。
【0143】
以上、本実施形態では、非常に簡単な構造で0.1Pa〜100Pa範囲での高精度な測定を可能にしている。
【0144】
(第2の実施形態)
図5Aは本発明の第2の実施形態に係る平均自由行程を測定する装置を示す図である。なお、図5Aの上側の図は、本実施形態に係る装置1007の上面図であり、下側の図は、正面図である。図5Bは、図5Aに示す装置1007のフィラメント・グリッドの制御回路を示す図である。本実施形態に係る装置1007は、より広範囲な測定が行なえるように測定に用いる荷電粒子をイオンと電子とで切り替え可能になっている。雰囲気内に設置する部分は印加電圧を除き第1の実施形態と同じであるが、フィラメント・グリッドの制御回路は新たなものとなっている。
【0145】
まずイオンを利用する場合には第1の実施形態と全く同じように動作させ、必要に応じ「減衰なし較正」「真空計較正」を行なうことも同様である。すなわち、図5Bに示すように、スイッチ1101、1102を切り替えて、フィラメント101に+30Vの電位を印加し、グリッド102に+100Vの電位を印加する。この切り替えにより、イオンが発生する。
【0146】
つぎに電子を利用する場合にはフィラメント101を−30V程度とするとともに、グリッド102にもフィラメント101と同じ電位を印加する。すなわち、図5Bに示すように、スイッチ1101、1102を切り替えて、フィラメント101およびグリッド102に−30Vの電位を印加する。この切り替えにより、電子の進行方向が逆転し、グリッド102の反対側(図5Aで右側)にある飛行領域に電子が導入される。フィラメント101より放出された電子310はアース電位であるシールドケース603に引き寄せられ、スリット104からシールドケース603の内部に進む。電子310は、その後の雰囲気ガスとの衝突やコレクタ202、203への到達・計測などイオンの場合と同じように動作するが、平均自由行程はイオンよりも5倍長いので適用される真空度は5倍程悪くても良い。また、グリッドに高い電圧(イオンの場合は+100V)を印加するが必要がないこと、イオン生成プロセスがないことから、悪い真空度(高い圧力)の領域でも安定した測定が可能となる。なお、電子ではイオンよりも低い衝突エネルギーで2次電子放出が発生するが、本実施形態ではコレクタへの衝突エネルギーは30eV程度なので電子電流計測における2次電子放出の影響は少ない。
【0147】
したがって、電子の場合にはコレクタ202とコレクタ203とよる式(5)にて2Pa〜30Pa程度、内部コレクタとしてのシールドケース603の前面103とコレクタ202とによる式(3)にて10Pa〜150Pa程度の測定を行なうことが出来る。そこで、イオンによる式(5)の0.4Pa〜6Pa程度と合わせれば、平均自由行程を直接測定できる範囲は0.4Pa〜200Paと広くなる。
以上、本実施形態では、イオン/電子の切り替えによって0.4Pa〜200Paの広範囲での平均自由行程の測定を可能にしている。
【0148】
(第3の実施形態)
図6Aは本発明の第3の実施形態に係る平均自由行程を測定する装置を示す図である。なお、図6Aの上側の図は、本実施形態に係る装置1007の上面図であり、下側の図は、正面図である。図6Bは、図6Aに示した装置の各電極の形状を示す図であり、図6Cは、図6BにおけるラインAでの電子ビーム軌道を示す図であり、図6Dは、図6BにおけるラインBでの電子ビーム軌道を示す図である。本実施形態に係る装置1007では、幅(面積)が広い電子源の使用および「減衰なし較正」無しに対応できるようにコレクタの形状を工夫している。これはつぎのような要求によるものである。1800℃もの高温になるフィラメント方式では活性な雰囲気ガスと反応してしまうなどの問題があり、より低温にできる傍熱型の酸化物陰極やその他低温の電子源が望まれている。しかしながら、このような電子源は輝度(電子の強度。単位面積、単位角度あたりの電子放出量)が大幅に低くなってしまう。また、用途によっては雰囲気の真空度を十分に良くすることは不可能で「減衰なし較正」を使用できない場合がある。
【0149】
しかし、電子源300は傍熱型の酸化物陰極であり、フィラメントに比べて長さは3倍程度(25mm程度)で幅は広く(3mm程度)となっている。引出し電極400には、図6Bに示されるように、1.5mm×3mm程度の孔410(小窓)が4個、等間隔で設けられている。コレクタ202には、図6Bに示されるように、2mm×4mm程度の孔(小窓)が2個、引出し電極400の孔410と一部重なるように設けられている。コレクタ203には、図6Bに示されるように、孔(小窓)は無い。したがって、この引出し電極400は電子源から電子を引き出し、かつ電子源300の電子放出面として機能するだけでなく、飛行部での電子ビームの面積と角度を制限・規定する役割がある。また、到達する電子による電流を計測することにより、内部コレクタとしての役割も可能である。
【0150】
図6Aにおいて、電子源300の表面、引出し電極400、コレクタ202、コレクタ203のそれぞれの間隔は5mm程度、1mm、5mmであり、これらの外形は大体30mm×8mm程度である。コレクタ202とコレクタ203との間には迷電子吸収板412が設置されている。引出し電極400、コレクタ202、コレクタ203、迷電子吸収板412はいずれも厚み0.5mm程度のSUS製などの板(プレート)である。電子源300の電位は−30Vであり、迷電子吸収板412は+5Vとしているが、その他はすべてアース電位(0V)となっている。
【0151】
電子源300から放出された電子310は引出し電極400に向かって進み、引出し電極400の4つの孔410(小窓)を通過する。引出し電極400の4つの孔410を通過した電子310のうち、二つの孔410を通過した電子はコレクタ202に検出される。一方、残りの二つの孔410を通過した電子はコレクタ202の孔410(小窓)も通過してコレクタ203に検出される。この前者の状況が図6Cに、後者の状況が図6Dに示されている。孔410(小窓)の大きさを、引出し電極400よりもコレクタ202の方を大きくしているのは、コレクタ203まで飛行する電子310がコレクタ202に検出されないようにするためである。また、コレクタ202の孔410(小窓)が2個あって位置が対称的でないのは、電子源300から放出される電子310の量が長手方向で均一でないことの影響を相殺するためである。この結果、コレクタ202とコレクタ203の電子310の検出率はいずれも50%となる。
【0152】
すなわち、本実施形態では、透過型のコレクタ202に設けられた孔410(開口部)の数よりも多い孔410(開口部)を有する引出し電極400を電子源300とコレクタ202との間に設けている。さらに、引出し電極400に設けられた孔410を通過した電子のうち一部(例えば、50%)をコレクタ202にて捕捉し、他の電子(例えば、50%)を通過させるように、引出し電極400に設けられた孔410とコレクタ202に設けられた孔410とを位置決めする。
【0153】
電子310による平均自由行程の測定の動作・手順、および真空度範囲は第2の実施形態と同じである。ただし、コレクタ202は今までの実施形態でのメッシュ状とは違って一つの孔410(小窓)の面積が大きいので、その透過率を正確に見積れること、汚れなどで透過率が変化することはほとんどないことから、必ずしも減衰なし較正は必要としない。すなわち、コレクタ202の透過化を実現するにはメッシュを利用するのが最も簡単であったが、重要な透過率を確定する点に難があり、それを減衰無し較正でカバーしていた。これに対して、本実施形態では複雑にはなるが、コレクタ202に形成する開口を板の孔開け加工で形成し、かつ一つの開口の面積を大きくして、変形・汚れなどの影響が少なくしかも計算によって透過率が確定できる構造としている。これによって、減衰なし較正をしなくてもある程度の精度で測定を行なえるようにしたのである。
【0154】
また、幅広い電子源を使用しているためあまり細長い形状とすることは出来ないので、本実施形態では、図4、5とは違って電位を印加した迷電子吸収板412が必要となっている。すなわち、迷電子にとってコレクタ202やコレクタ203と迷電子吸収板412との距離があまり差がないので、もしこの空間が一定な電位であればかなりの迷電子がコレクタ202、203の双方に流れ込む可能性がある。そこで、迷電子吸収板412には電子を積極的に引き込むようにプラス5Vの電位が印加されている。これにより、迷電子はコレクタ202、203の双方に到達せずに迷電子吸収板412に吸収される。なお、雰囲気ガスと衝突せずにコレクタ203に到達すべき電子は30Vの運動エネルギーを持っているので、迷電子吸収板412には影響されずに、正常にコレクタ203にて正常に計測される。
これにより、コレクタ202およびコレクタ203による電子数の検出により、式(5)にて2Pa〜30Pa程度の測定を行なうことが出来る。また、精度は落ちるものの、引出し電極400およびコレクタ202により10Pa〜150Pa程度の測定も可能となっている。
以上、本実施形態では、より低温の傍熱型電子源を使用できるとともに、「減衰なし較正」を行わなくても高精度な測定を行なうことが出来る。
【0155】
(第4の実施形態)
図7Aは本発明の第4の実施形態に係る平均自由行程を測定する装置を示す図である。なお、図7Aの上側の図は、本実施形態に係る装置1007の上面図であり、下側の図は、正面図である。図7Bは、図7Aに示す各電極の形状、およびそれらの回路を示す図である。本実施形態に係る装置1007では、幅広の電子源と「減衰なし較正」無しの実現とに加え、多くのコレクタを使用することにより適用真空度の範囲を拡大している。基本的な構造・動作は第3の実施形態の図6と同じであるが、コレクタの数が増加するとともにロックイン(変調同期型)アンプ502が使われている。よって、本実施形態では、迷電子吸収板を用いる必要が無い。
【0156】
電子源300は第3の実施形態の電子源と全く同じである。引出し電極400には1mm×2.5mm程度の孔410(小窓)が10個、等間隔で設けられている。コレクタ202には1.5mm×3mm程度の孔:410(小窓)が8個、引出し電極400の孔410と一部重なるように設けられている。同様に、コレクタ203には、2mm×3.5mm程度の孔410(小窓)が6個、コレクタ202の孔410と一部重なるように設けられている。コレクタ204には、2.5mm×4mm程度の孔410(小窓)が4個、コレクタ203の孔410と一部重なるように設けられている。コレクタ205には、3mm×4.5mm程度の孔410(小窓)が2個、コレクタ204の孔410と一部重なるように設けられている。コレクタ206には孔(小窓)は無い。
【0157】
電子源300の表面と引出し電極400との間隔は5mm程度であり、コレクタ202からコレクタ203、204、205、206までのそれぞれの間隔は0.15mm、0.5mm、1.5mm、5mmとなっている。これらの外形は大体30mm×8mm程度である。引出し電極400、コレクタ202〜206はいずれも厚み0.5mm程度のSUS製などの板(プレート)である。電子源300(電子源300の電位は−30V)を除きすべての電極の電位はアース電位(0V)となっている。
【0158】
5枚のコレクタ202〜206は、引出し電極400の10個の孔410(小窓)を通過した電子310のうち、それぞれ2個の孔410(小窓)を通過した電子310のみを検出する。したがって、各コレクタの電子310の検出率は20%となる。なお、コレクタ204〜206にて検出された電子数(荷電粒子数)は、コレクタ202、203と同様に、RAM1003に保存される。
【0159】
飛行距離が短く迷電子吸収板を設置できないので、本実施形態では、図7Bに示すように、電気的に迷電子を排除するロックイン(変調同期型)アンプ502が使用されている。これは電気的な迷電子対策であって、迷電子がコレクタ202〜206に流れ込んでもそれを検出しないようにしている。まず電子源300に±30Vの矩形波電位を印加しているが、電子310を断続的に放出するようにしている。荷電粒子を周期的に断続させるブランキング方法はいくつも知られているが、本実施形態では最も簡単な電子源への電位印加方式を採用している。しかしながら、本実施形態では、入射された荷電粒子を断続的な周期で出射することができればいずれの手段を用いても良いことは言うまでもない。
【0160】
本実施形態では、電子源300に±30Vの矩形波電位が1MHz(106サイクル/秒)程度で印加される。すなわち、電子源300が+30Vの時には電子310は放出されないので、電子310が1MHz程度で断続的に放出される。したがって、雰囲気ガスと衝突せずに高速で飛行して1μ秒(10‐6秒)以下でコレクタ202、203等に到達した電子電流は同じ周波数の矩形波となる。
【0161】
しかし、雰囲気ガスと衝突して飛行領域に残存・浮遊した後、10μ秒(10‐5秒)以上経過してコレクタ202、203に到達した電子は平均化されほぼ一定となる。つまり迷電子は一定の電流となり、信号とすべき電子電流はその上に重畳した矩形波となる。そして、ロックイン(変調同期型)アンプ502には阻止電位を分割した電圧505(同期信号)が入力されているので、その周波数に同期した交流成分の信号強度が計測されることになる。すなわち、交流となっている本来の信号のみが検出され、一定電流となっている迷電子は検出されない。なお、スイッチ503によりロックインアンプ502の比較対象となるコレクタを選択することができる。
【0162】
図7A,7Bに示されるように、コレクタ202からコレクタ206に向かうに従って、電子の飛行距離は長くなっている。また、各コレクタ間の電子の飛行距離もコレクタ202からコレクタ206に向かうに従って長くなっている。よって、どのコレクタを第1のコレクタおよび第2のコレクタに設定するのかに従って、測定できる真空度範囲は異なる。
【0163】
例えば、それぞれのコレクタによる真空度範囲は、第1のコレクタとしてコレクタ202を用い、第2のコレクタとしてコレクタ203を用いる場合(コレクタ間距離L2−L1=0.15mm)、60Pa〜900Pa程度である。また、第1のコレクタとしてコレクタ202を用い、第2のコレクタとしてコレクタ204を用いる場合(コレクタ間距離L2−L1=0.5mm)、真空度範囲は20Pa〜300Pa程度である。また、第1のコレクタとしてコレクタ202を用い、第2のコレクタとしてコレクタ205を用いる場合(コレクタ間距離L2−L1=1.5mm)、真空度範囲は6Pa〜90Pa程度である。さらに、第1のコレクタとしてコレクタ202を用い、第2のコレクタとしてコレクタ206を用いる場合(コレクタ間距離L2−L1=5mm)、真空度範囲は2Pa〜30Pa程度となる。(いずれも式(5)による計算)そこで、全体として適用可能な真空度範囲は2Pa〜900Paと広くなる。
以上、本実施形態では、コレクタの切り替えによって2Pa〜900Paの広範囲での平均自由行程の測定を可能にしている。
【0164】
(第5の実施形態)
本実施形態に係る装置1007は第4の実施形態と同じであるが、同じ真空領域に隔膜真空計を別途用意するとともに、電子源の動作時間を真空プロセスに合わせて特定化している。なお、装置は第4の実施形態としたが、これに限らず第1〜3の実施形態の装置でも構わない。
【0165】
制御部1000は、雰囲気ガスが不活性ガスである時に電子源300を動作(点灯)、すなわち電子源300の温度を上げて電子310を放出させて、隔膜真空計の「真空計較正」を行なう。すなわち、制御部1000は、雰囲気ガスが不活性ガスであるという特定の時間においては、電子源300を駆動させて本発明に特徴的な方法により平均自由行程を算出し、該算出された平均自由行程を、他の原理に基づく真空計である隔膜真空計に送信し、真空計較正を行う。そして、制御部1000は、雰囲気ガスが活性ガスである時には、電子源300は動作(点灯)させず、隔膜真空計によって真空度を測定するように該隔膜真空計を制御する。
【0166】
「真空計較正」を行なう頻度は状況によって大きく異なるが、一般的には汚れ(変形量自身の変化)が問題となる場合は1日に一回程度、温度ドリフト(変形量の読み取りに誤差)が問題となる場合は1時間に一回程度が適当である。「真空計較正」を行なうタイミングは真空プロセスのプログラムから判断して、あるいは真空プロセスの制御器からの指示により決定される。
【0167】
(第6の実施形態)
本実施形態に係る装置1007は第4の実施形態と同じであるが、同じ真空領域に隔膜真空計を別途用意するとともに、電子源の動作時間を真空プロセスに合わせて特定化している。なお、装置は第4の実施形態としたが、これに限らず第1〜3の実施形態の装置でも構わない。
制御部1000は、特定の時間において電子源300を「真空計較正」に必要最低限の時間だけ動作(点灯)させて、隔膜真空計の「真空計較正」を行なう。すなわち、制御部1000は、必要最低限の時間でのみ、電子源300を駆動させて本発明に特徴的な方法により平均自由行程を算出し、該算出された平均自由行程を、他の原理に基づく真空計である隔膜真空計に送信し、真空計較正を行う。制御部1000は、それ以外の時間においては電子源300を動作(点灯)させず、隔膜真空計によって真空度を測定するように該隔膜真空計を制御する。上記特定の時間としては例えば、隔膜真空計による測定時間に比べて十分に短い時間が挙げられる。
【0168】
「真空計較正」を行なう頻度は状況によって大きく異なるが、一般的には汚れ(変形量自身の変化)が問題となる場合は1日に一回程度、温度ドリフト(変形量の読み取りに誤差)が問題となる場合は1時間に一回程度が適当である。「真空計較正」は極力真空プロセスに影響を与えないタイミングとして、これは真空プロセスのプログラムから判断して、あるいは真空プロセスの制御器からの指示により決定される。
フィラメントの寿命は、常時点灯に比べ1時間一回で600倍、1日一回で14000倍程度も延びるので、実用的には十分価値があることになる。
【0169】
(第7の実施形態)
図8Aは本発明の第7の実施形態に係る平均自由行程を測定する装置を示す図である。なお、図8Aの上側の図は、本実施形態に係る装置1007の上面図であり、下側の図は、正面図である。図8Bは、図8Aに示す電子発生の機構を説明するための図であり、図8Cは、図8Bに示す各要素の回路を示す図である。本実施形態に係る装置1007では、フィラメントが活性ガスと接触しないとともに、電子放出面にどんな物質が堆積しても問題が発生しないようにしている。電子の飛行・計測に関する基本的な構造・動作は第4の実施形態の図7と同じであるが、電子発生機構は全く新規な構造・動作となっている。よって、本実施形態では、測定すべき雰囲気内に高温となるフィラメントが存在しない。
【0170】
電子の飛行・計測に関する、引出し電極400、コレクタ202〜206、ロックイン(変調同期型)アンプ502(図示せず)などはすべて第4の実施形態の図7と同じであるが、真空容器500は形が異なり、さらに、真空容器500内にはひとつの部品としてのフィラメントは存在しない。本実施形態では、電子源としてフィラメントを用いず、以下に示す複数の部品によって構成される電子放出機構によって電子が放出される。電子放出機構を構成する主要部品は、真空紫外光を出射する真空紫外光源600、高いエネルギー光としての真空紫外光を選択的に透過させる材料からなるUV透明型真空隔壁700、真空紫外光源600から発せられる真空紫外光のエネルギーhνよりも仕事関数が低い材料からなる光/電子変換電極610の3つである。図8Bに示すように、真空紫外光源600(正確には、真空紫外光源600を構成する反射鏡付き真空容器510)とUV透明型真空隔壁700とは真空シール材710によって封止され、内部に1torr程度のXeガス800が充填されている。また、UV透明型真空隔壁700と真空容器500は真空シール材710によって封止され、そこに測定すべき雰囲気ガスが導入されており、光電子変換電極610はこの領域に存在する。
【0171】
雰囲気ガスから真空的に隔離された真空紫外光源600は、さらに反射鏡付き真空容器510、フィラメント111、グリッド112を備えている。加熱されたフィラメント111から放出された電子は100V程度のエネルギーでグリッド112に向かう途中で内部に充填されているXeガス800に衝突し、励起したXeガスから6〜8eV程度の高いエネルギーを持った光(真空紫外光)330が放出される。反射鏡付き真空容器510は凹面形状とし、内面には真空紫外光の反射率が高いAlをコーティングしているので、真空紫外光330のほとんどがUV透明型真空隔壁700 の方向に進む。なお、このような真空紫外光源はよく知られており、多くの形式・種類の製品が実用化されているので、これらを応用することもできる。
【0172】
通常のガラスではエネルギーの高い真空紫外光を透過することは出来ないが、MgF、あるいはUV透明用として特別に開発された合成ガラスであれば真空紫外光をかなりの効率で透過させることが出来る(例えば、旭ファインマテリアルズ社製 真空紫外光用合成ガラス“AQF”)。ここでは、真空隔壁の機能も持たせることから強度・加工性の点から真空紫外光用合成ガラスを使うことにする。
【0173】
UV透明型真空隔壁700を透過した真空紫外光330は、測定すべき雰囲気ガスの中に設置されている光/電子変換電極610に照射され、光電効果によってその表面では電子(光電子)340を放出させる。光/電子変換電極610はブラインド形状となって、真空紫外光源600から見て飛行領域やコレクタが見通せないようになっている。また、すべての電極に-30Vの電位が印加されている。そのため、ほとんどの真空紫外光330は光/電子変換電極610に照射されてその先には侵入しないが、そこで発生した電子340は引出し電極400などのアース電位に引きつけられてその先まで進む。つまり、光/電子変換電極610を電子源とした、アース電位領域に対して30eVのエネルギーを持つ電子ビームが得られる。したがって、電子の飛行・計測に関しては第4の実施形態の図7での電子源300を光/電子変換電極610 に置き換えたものと同じとなり、第4の実施形態と同様にして雰囲気ガスの平均自由行程を測定することが出来る。
なお、図8Bに示す各要素の回路は、図8Cのように構成されている。
【0174】
図8Dは、光/電子変換電極610の様々な例を示す図である。ブラインド型、シェブロン型、くさび/平板型は、光電子変換電極610のすべてに同じ電位を印加しながらも、発生した電子が引出し電極400によって効率よく引き出されて飛行部側に進むように工夫されている。なお、くさび/平板型においては、板状の光/電子変換電極610の前段に、くさび型の光/電子変換電極801が設けられている。これに対して、2列平板異電位型では前列と後列の光電子変換電極610に異なる電位(前列の電位は後列よりもマイナス)を印加して電子の利用効率を向上しているが(後列からの電子はよりマイナス電位が印加されている前列の電極には引き込まれず、斥力により軌道を曲げられて開口部より飛行部側に進んで行く)、1列平板同電位型では利用効率は多少犠牲にしても同電位、シンプル構造を優先させている(本発明の方法では電子のエネルギーは揃っている必要はないので異なる電位でも問題ない)。
【0175】
薄膜型は真空紫外光を透過するガラス802の表面に導電性物質(Au、Crなど)803を1μ程度コーティングしたもので、真空紫外光と電子の透過性を利用したものである。本手法は、光電子増倍管の受光面に利用されている光/電子変換膜としてよく知られている。なお、新たなガラス基板を用意するのではなく、UV透明型真空隔壁700自身に膜をコーティングすることによって、構造の簡素化および問題が発生しやすいガラス表面の減少を図ることも出来る。
【0176】
なお、真空紫外光は飛行領域やコレクタに侵入しない方が望ましいが、真空紫外光の飛行領域やコレクタへの侵入は必ずしもあってはならないものではない。それは、本実施形態では電流計測にはロックインアンプを使用して光電子変換電極610 の電位変化によって断続された電子ビームに同期した信号のみを計測するようになっているので、照射量が一定である真空紫外光による電流量は無視されるからである。
【0177】
活性なガスに対応するためには、まずは高温となるフィラメントを使用しないことが望まれるが、さらにCVDなど堆積性ガスに対しては電極表面への堆積物による影響を排除しなければならない。本実施形態では、フィラメントは測定すべき雰囲気ガスとは真空的に隔離された領域に存在しているのでフィラメントへの堆積の問題は排除されている。また、光電子変換電極610に何らかの物質が堆積されたとしても、その表面から電子が放出されることとなるので、この堆積問題も排除されている。
以上、本実施形態では、活性ガスに対する電子源の抜本的な対策を実現している。
【0178】
なお、本実施形態では、真空紫外光源600と雰囲気ガスとを真空的に隔離するための隔壁の全面を、真空紫外光330を光/電子変換電極610へと入射させるために真空紫外光を選択的に透過させる材料とした、UV透明型真空隔壁700を用いている。しかしながら、本実施形態で重要なことは、隔壁により真空紫外光源600と雰囲気ガスとを真空的に隔離し、かつ真空紫外光源600と真空的に隔離された雰囲気ガス内の光/電子変換電極610へと真空紫外光源600から発生された真空紫外光330を照射することであり、これを実現できれば、隔壁全部を、真空紫外光を選択的に透過させる材料にする必要は無く、隔壁の一部のみを該材料としても良い。すなわち、本実施形態では、真空紫外光源600と雰囲気ガスとを真空的に隔離するための隔壁は、真空紫外光といった所定の光を選択的に透過させる透過領域を少なくとも一部有していれば良い。例えば、隔壁の一部に開口部を設け、該開口部内に、真空紫外光といった所定の光を選択的に透過させる材料を嵌め込むようにすれば良い。ただし、真空紫外光源600から発生された真空紫外光330の少なくとも一部が上記透過領域を透過して光/電子変換電極に入射するように、上記透過領域、光源、光/電子変換電極を位置決めする必要がある。
【0179】
本実施形態では、雰囲気ガスとは真空的に隔離した光源から、該雰囲気ガス内に位置する、上記光源から出力される光のエネルギーよりも小さな仕事関数を有する光/電子変換電極に光を照射し、該光/電子変換電極にて光電効果により電子を発生させ、該電子を用いて平均自由行程の測定を行っている。従って、雰囲気ガス中にフィラメントを設ける事無く、平均自由行程の測定に必要な電子を雰囲気ガス内において発生させることができる。よって、雰囲気ガスが活性ガスを含む場合であっても、活性ガスとフィラメントとが接触しないので、フィラメントの腐食やフィラメントへの異物の堆積による寿命の短縮を抑制することができる。さらには、活性ガスがフィラメントにより分解されることも無くなり、より正確な平均自由行程の算出を実現することができる。
【0180】
なお、本実施形態で重要なことは、上述のようにフィラメントと活性ガスとの問題は十分に解決し、活性雰囲気ガスにおいても正確かつ簡便に平均自由行程を求めることであるので、引出し電極を設けなくても良い。引出し電極を設ける場合においても、引出し電極400の形状が平板に限定されることはなく、テーパー状、湾曲した形状等、光電子340を引き寄せることができればいずれの形状であっても良い。
【0181】
(第8の実施形態)
図9は本発明の第8の実施形態に係る平均自由行程を測定する装置を示す図である。なお、図9の左側の図は、本実施形態に係る装置1007の正面図であり、右側の図は、右側面図である。本実施形態に係る装置1007では、活性ガスの影響が小さくなるように測定中の温度を特定な値に設定するとともに、測定後に不活性ガスを流しながらプラズマを発生させて堆積物を排除することが出来る。
【0182】
平均自由行程の測定に関する構造・動作は第7の実施形態の図8と全く同じである。すなわち、真空紫外光源600、UV透明型真空隔壁700、光/電子変換電極610、引出し電極400、コレクタ202〜206、ロックイン(変調同期型)アンプ502(不図示)などはすべて図8と全く同じである。ただし、真空容器500は高周波電界を透過させるために、金属ではなくセラミック製となっている。本実施形態では、これらに加えて、温度設定のために温度センサー903、ヒータ905、および堆積物排除のためにコイル901、高周波電源902、不活性ガス導入系904が備えられている。
【0183】
すなわち、本実施形態では、真空容器500には該真空容器500内の測定領域の温度を検知するための温度センサー903が設けられており、真空容器500の周囲には、上記測定領域の温度を制御するためのヒータ905が設けられている。図10に示す制御部1000は、所定のプログラムに従って、温度センサー903の検知結果に従って、ヒータ905を制御し、装置1007の測定領域の温度を所定の温度にすることができる。
【0184】
また、ヒータ905の周囲には、コイル901が設けられており、該コイル901には高周波電源902が接続されている。制御部1000は、高周波電源902の駆動を制御することにより、コイル901に所定の電圧を印加させて、測定領域内にプラズマを発生させることができる。また、真空容器500には、不活性ガス導入系904が設けられており、制御部1000の制御により、真空容器500内(測定領域内)に不活性ガスを導入することができる。
【0185】
一般に、真空プロセスに使用される活性ガスは、どの温度の時に装置への影響が最も小さくなるかは事前に知られている。そこで、温度センサー903、ヒータ905によって予めこの温度、たとえば100℃に設定しておき、この状態で測定を行なう。すなわち、制御部1000は、測定領域内の温度が100℃となるように、温度センサー903の検知結果に従ってヒータ905の動作を制御する。これにより、活性ガスの装置への影響を最小にしながら、平均自由行程の測定を行なうことが出来る。
【0186】
測定後には、制御部1000は、高周波電源902を動作させてコイル901からの誘導電場によって真空容器500内にプラズマを発生させる。装置内部の堆積物はプラズマによって気化し、装置外に排出される。この時、不活性ガス導入系904から適当な流量の不活性ガスを導入して、プラズマの発生を容易にするとともに、気化した堆積物の排出を促進することも出来る。また、温度上昇が堆積物の気化と排出に効果的な場合が多く、例えば、ヒータ905を用いて測定領域内を200℃にした状態でこれらの作業を行なうことも出来る。さらには、真空プロセスで使用するエッチングガス又はクリーニングガスといった腐食性ガスを導入して堆積物の剥離・気化をより促進することも出来る。腐食性ガスを導入する場合は、不活性ガス導入系904を流用しても良いし、腐食性ガス導入系を設けても良い。
【0187】
(その他の実施形態)
以上各実施形態を説明してきたが、本発明の実施形態はこれらに限定されることはなく、それぞれの実施形態の各要素を組み合わせること、入れ替えることが可能なのは当然である。また、全体の構造、およびそれぞれの電極の形状、寸法、材料、および印加電圧は上記実施形態に限定されることなく任意に選ぶことができる。
【0188】
イオン源としては上記実施形態に限定されることなく、同じくフィラメントを持ったイオンゲージ型、放電/プラズマ型、磁場(マグネトロン)型、アルカリ金属型、液体金属型などを任意に選ぶことができる。電子源としては上述の実施形態と同程度の電流の電子が放出されるものであれば、放電/プラズマ型、フィールドエミッション型、光電子放出型などから任意に選ぶことができる。真空紫外光源としては、フィラメントによる電子放出型だけでなく各種の放電型なども使用できる。
【0189】
上記実施形態では一つのイオン源と複数のコレクタとしたが、逆に一つのコレクタと複数のイオン源とすることも出来るし、一つのイオン源と一つのコレクタのセットを複数用意することも可能である。なお、複数のコレクタを持ついずれの場合、第1の荷電粒子数および第2の荷電粒子数の両方の計測を同時に行なうことも出来るし、短時間のうちに切り替えることにより両者を計測することも出来る。第1の荷電粒子数および第2の荷電粒子数の両方の計測を同時に行なう場合には、それぞれの電流をそれぞれの検出回路で計測するのではなく、最初から電流比率を計測できる検出回路とすることも出来る。
【0190】
コレクタなどの電極の組立て方法は上記実施形態での従来の真空計(イオンゲージやシュルツゲージ)を類似の機械的方法にて作製される荷電粒子発生構成に限定されることなく、半導体技術から発展した微細加工技術(MEMS)を使用することも出来る。MEMSによると飛行距離を短くすることが容易なので、より悪い真空度(高い圧力)での測定に適している。
迷イオン(電子)対策をより厳密に行なうため、迷イオン吸収板をアース電位ではなく迷イオンを積極的に引き寄せる方向の電位を印加することも有効である。
【0191】
従来型真空計の較正を行なう「真空計較正」は上記実施形態のように本発明の装置に組み込まれたものに限定されることなく、他の独立した真空計とケーブル接続などによる信号のやり取りで行なうことも出来る。すなわち、例えば、装置1007は、算出された平均自由行程の値そのもの、またはその平均自由行程の値から変換して得られた圧力の値を、同じ真空領域に設置されている上記他の独立した真空計に送信することができる。これによると、現有の真空計を使用しながら測定精度を高くすることが出来る。
【0192】
平均自由行程の算出には上記実施形態での計算式に限定されることなく、この計算式を基本としながら経験的に得られた補正項(実験式)を加えた式を利用することも出来る。 さらには、これらプログラムにおける平均自由行程の計算式は上記の式(3)、式(4)、あるいは式(5)に限られず、これらの式を一部補正した式を用いることが出来る。項目13)「精度劣化の要因」にて上述したように、理想的な状態からの“ずれ”は必ず発生するものであるが、関連する条件(イオン電流、イオンエネルギー、イオン種など)が同じであれば“ずれ”もほぼ同じであることが多い。そこで、実験的(経験的)にこの“ずれ”を測定し、これを補正するような計算式、すなわち実験式(補正項)を入れた計算式を求めておくことが出来る。
【符号の説明】
【0193】
11a、11b、21a、21b、110 イオン源
12a、12b、24a、24b、202、203 コレクタ
22a、22b、102 グリッド
23a、23b、101 フィラメント
28a、28b、103、400 引出し電極
29a、104 スリット
111 フィラメント(真空紫外光源内)
112 グリッド(真空紫外光源内)
300 電子源
500 真空容器
510 反射鏡付き真空容器
600 真空紫外光源
610 光/電子変換電極
700 UV透明型真空隔壁
901 コイル
902 高周波電源
903 温度センサー
904 不活性ガス導入系
905 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する装置であって、
前記荷電粒子としてイオンを発生する発生源と、
前記イオンを発生する発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する検出手段と、
前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する算出手段とを備え、
前記発生源は、
電子を放出させるフィラメントと、
前記電子を引き寄せて前面近傍でイオンを生成させるグリッドと、
前記生成されたイオンを引き出す平板状の引出し電極であって、到達したイオンのうちその一部のイオンをそのまま通過させるように構成された引出し電極と
を有することを特徴とする装置。
【請求項2】
雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する装置であって、
前記荷電粒子として電子を発生する発生源と、
前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する検出手段と、
前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する算出手段と備え、
前記発生源は、
電子を放出させる電子源と、
前記放出された電子を引き出す引出し電極であって、到達した電子のうちその一部の電子をそのまま通過させるように構成された引出し電極と
を有することを特徴とする装置。
【請求項3】
前記引出し電極は、少なくとも1つの開口部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記検出手段は、
前記第1の荷電粒子数を検出する第1の検出器と、
前記第1の検出器よりも前記発生源から遠い距離に位置する、前記第2の荷電粒子数を検出する第2の検出器と
を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記引出し電極は、到達したイオンあるいは電子のうちその一部をそのまま通過させるとともに、他の一部のイオンあるいは電子を検出することを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記引出し電極が前記第1の検出器であることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する装置であって、
前記荷電粒子として電子を発生する発生源と、
前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する検出手段と、
前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する算出手段とを備え、
前記発生源は、
前記雰囲気ガスから真空的に隔離され、所定の波長の光を出射する光源と、
前記雰囲気ガスと前記光源とを真空的に隔離するための真空隔壁であって、前記所定の波長の光を透過する領域を少なくとも一部有する真空隔壁と、
前記雰囲気ガス内に設置され、前記所定の波長の光を受けて光電子を放出する変換電極とを有し、
前記光源から出射された光が前記領域を通過して前記変換電極に照射されるように、前記発生源、前記領域、および前記変換電極は位置決めされていることを特徴とする装置。
【請求項8】
前記所定の波長の光は、真空紫外光であることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記発生源は、
前記放出された光電子を引き出す引出し電極であって、到達した光電子のうちその一部の光電子をそのまま通過させるように構成された引出し電極をさらに有することを特徴とする請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
前記引出し電極は、少なくとも1つの開口部を有することを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記検出手段は、
前記第1の荷電粒子数を検出する第1の検出器と、
前記第1の検出器よりも前記発生源から遠い距離に位置する、前記第2の荷電粒子数を検出する第2の検出器と
を有することを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
前記引き出し電極は、到達した光電子のうちその一部をそのまま通過させるとともに、他の一部の光電子を検出することを特徴とする請求項9または10に記載の装置。
【請求項13】
前記検出手段は、
前記第1の荷電粒子数を検出する第1の検出器と、
前記第1の検出器よりも前記発生源から遠い距離に位置する、前記第2の荷電粒子数を検出する第2の検出器とを有し、
前記引出し電極が前記第1の検出器であることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する装置であって、
前記荷電粒子を発生する発生源と、
前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する検出手段と、
前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する算出手段と、
特定な時間でのみ動作するように前記装置を制御し、前記算出された平均自由行程、あるいは該算出された平均自由行程から変換した圧力の値を、前記装置と同じ真空領域に設けられた他の原理に基づく真空計に送信するように前記装置を制御し、前記特定の時間以外の時間では前記真空計が真空度を測定するように該真空計を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする装置。
【請求項15】
前記特定な時間は、前記雰囲気ガスが不活性なガスとなっている時間、または前記真空計による測定時間に比べて短い時間であることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する装置であって、
前記荷電粒子を発生する発生源と、
前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する検出手段と、
前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する算出手段と、
前記装置の温度を検出する温度センサーと、
前記装置の温度を制御するヒータとを備え、
前記温度センサーによる検知結果に従って、前記ヒータにより前記装置を特定な温度に設定することを特徴とする装置。
【請求項17】
雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する装置であって、
前記荷電粒子を発生する発生源と、
前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する検出手段と、
前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する算出手段と、
前記装置内に堆積された堆積物を気化させる手段とを備え、
前記気化させる手段により前記堆積物を除去することを特徴とする装置。
【請求項18】
前記気化させる手段は、
前記装置の温度を検出する温度センサーと、
前記装置の温度を制御するヒータとを有し、
前記温度センサーの検知結果に従って、前記ヒータを制御して前記装置の温度を上昇させることで、前記堆積物を気化させて除去することを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記気化させる手段は、前記装置内へ腐食性ガスを導入するための機構であることを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項20】
前記気化させる手段は、
前記装置内にプラズマを発生させるための放電手段であり、
前記装置内に前記プラズマを発生させて、前記堆積物を気化させて除去することを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項21】
真空度を測定する測定する真空計であって、
請求項1乃至20のいずれかに記載の装置を備えることを特徴とする真空計。
【請求項22】
前記算出された平均自由行程から該平均自由行程に対応する圧力に変換する手段と、
前記変換された圧力を表示する手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項21に記載の真空計。
【請求項23】
雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する方法であって、
発生源から前記荷電粒子としてイオンを発生させる工程と、
前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する工程と、
前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する工程とを有し、
前記イオンを発生させる工程は、
前記発生源が有するフィラメントに第1の電位を印加し、前記発生源が有するグリッドに前記第1の電位よりも高い第2の電位を印加して、前記フィラメントから放出された電子を前記グリッドに引き寄せて、該グリッド近傍でイオンを生成し、前記発生源が有する平板状の引出し電極であって、到達したイオンのうちその一部のイオンをそのまま通過させるように構成された引出し電極に前記第2の電位よりも低い第3の電位を印加して、前記生成されたイオンを前記引出し電極に引き寄せ、該引き寄せられたイオンの一部を前記引出し電極から透過させることを特徴とする方法。
【請求項24】
雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する方法であって、
発生源から前記荷電粒子として電子を発生させる工程と、
前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する工程と、
前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する工程とを有し、
前記電子を発生させる工程は、
前記発生源が有するフィラメントに第1の電位を印加して該フィラメントから電子を発生させ、前記発生源が有する平板状の引出し電極であって、到達した電子のうちその一部の電子をそのまま通過させるように構成された引出し電極に前記第1の電位よりも高い第2の電位を印加して、前記生成された電子を前記引出し電極に引き寄せ、該引き寄せられた電子の一部を前記引出し電極から透過させることを特徴とする方法。
【請求項25】
雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する方法であって、
発生源から前記荷電粒子として電子を発生させる工程と、
前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する工程と、
前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する工程とを有し、
前記電子を発生させる工程は、
前記雰囲気ガスから真空的に隔離された光源から所定の波長の光を出射し、該出射された光を、前記雰囲気ガスと前記光源とを真空的に隔離するための真空隔壁が有する、前記所定の波長の光を選択的に透過する領域を介して、前記雰囲気内に設置された前記所定の波長の光を受けて光電子を放出する変換電極に入射させて、該変換電極にて光電子を放出させることを特徴とする方法。
【請求項26】
雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する方法であって、
発生源から前記荷電粒子を発生させる第1の工程と、
前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する第2の工程と、
前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する第3の工程とを有し、
特定な時間でのみ前記第1の工程から前記第3の工程までを行って前記平均自由行程を算出し、該算出された平均自由行程あるいは該平均自由行程から変換した圧力の値を他の原理に基づく真空計に送信し、前記特定な時間以外の時間では該真空計で真空度を測定することを特徴とする方法。
【請求項27】
雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する方法であって、
発生源から前記荷電粒子を発生させる工程と、
前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する工程と、
前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する工程とを有し、
前記平均自由行程を測定する領域を特定の温度に設定して、該平均自由行程を測定することを特徴とする方法。
【請求項28】
雰囲気ガス中における荷電粒子の平均自由行程を測定する方法であって、
発生源から前記荷電粒子を発生させる工程と、
前記発生源からの飛行距離が0以上の第1の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第1の荷電粒子数を検出し、前記第1の飛行距離よりも長い第2の飛行距離で前記発生源から発生された荷電粒子の第2の荷電粒子数を検出する工程と、
前記第1および第2の荷電粒子数の比率から前記平均自由行程を算出する工程と、
前記平均自由行程を測定する領域内に堆積された堆積物を気化させて、該堆積物を除去する工程と
を有することを特徴とする方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図6D】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図8C】
image rotate

【図8D】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−96446(P2011−96446A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247774(P2009−247774)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】