説明

平滑筋増殖抑制組成物、動脈硬化症予防及び治療組成物及び血管再建術後の再狭窄予防及び治療組成物

【課題】肥満に関連する各種疾患、殊に狭心症、心筋梗塞等の動脈硬化症の病因解明や治療技術の確立に有用な肥満関連遺伝子とその発現物を解明し、之等を利用した各種疾患の治療、診断技術を確立する。
【解決手段】脂肪組織特異的分泌因子apM1及び薬学的に許容されるその塩から選ばれる少なくとも1種の薬学的有効量を、製剤学的に許容される担体と共に含有する平滑筋増殖
抑制組成物、動脈硬化症予防及び治療組成物及び血管再建術後の再狭窄予防及び治療組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪組織特異的分泌因子apM1(Adipose Most Abundant Gene Transcript 1)
を有効成分とする平滑筋増殖抑制組成物、動脈硬化症予防及び治療組成物及び血管再建術後の再狭窄予防及び治療組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において、脂肪の過剰蓄積である肥満が、糖尿病、高脂血症、高血圧や、更に狭心症、心筋梗塞等の動脈硬化疾患の発症に関与していることは周知の事実である。該肥満の原因には様々な遺伝因子と環境因子の双方が関与している。
【0003】
最近、レプチンを始めとする多くの肥満遺伝子が動物モデルから単離された。之等単離された遺伝子群はヒトの肥満成立に関与すると考えられる一方で、現代人の過剰な食物摂取、運動不足等の環境因子もまた、脂肪蓄積を介して糖尿病や動脈硬化疾患等の他の重要な要因と考えられる。
【0004】
肥満遺伝子の検索のみでなく、過栄養状態において脂肪組織でどのような遺伝子の発現が誘導され、それが個体にどのような影響を与えるかを明らかにするアプローチが、上記疾患の病因解明や治療技術の確立に非常に重要な意味があると考えられる。
【0005】
本発明者らは、肥満に関連する各種疾患、殊に、狭心症、心筋梗塞等の動脈硬化症の病因解明、治療技術の確立に有用な肥満関連遺伝子及びその発現物を解明し、之等を利用して各種疾患の治療、診断技術を確立することを目的として、鋭意研究を重ねた結果、先に、脂肪の中でも腹腔内内臓脂肪の蓄積が耐糖能異常、高脂血症、高血圧等と密接に結びつくことを明らかにした。また、脂肪組織発現遺伝子の大規模シークエンス解析により、脂肪組織には多くの分泌蛋白質遺伝子が発現しており、特に内臓脂肪において様々な生理活性物質遺伝子の発現が見られることも明らかにした。更に、之等既知の遺伝子に加えて、新たに脂肪組織特異的コラーゲン様蛋白apM1遺伝子のクローニングにも成功した(非特許文献1参照)。
【0006】
このapM1遺伝子は、244アミノ酸からなる分泌蛋白質(apM1)をコードしており、66アミ
ノ酸のコラーゲン様モチーフ(G-X-Y)をもち、補体系のC1qやコラーゲンX、VIIとホモロジーを有していた。しかしながら、該遺伝子及びその発現物apM1の生理機能は、未知であった。
【非特許文献1】Biochem. Biophys. Res. Commun., 221, 286-289 (1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、肥満に関連する各種疾患、殊に、狭心症、心筋梗塞等の動脈硬化症の病因解明、治療技術の確立に有用な肥満関連遺伝子及びその発現物を解明し、之等を利用して各種疾患の治療、診断技術を確立することをその目的とする。
【0008】
本発明者らは、引続く研究において、上記apM1遺伝子の遺伝子工学的手法による発現、該発現物apM1に対する抗体の作製、該抗体を利用したapM1の測定系の確立、該測定によるapM1血中濃度と体脂肪分布乃至各種疾患との関連等について一連の検討を行った結果、殊にapM1が平滑筋増殖抑制作用を有するという事実及びその血中濃度が動脈硬化症をよく反映するという事実を新たに発見した。
【0009】
また、本発明者らは、apM1がステント経皮経管冠動脈血管拡張術(PTCA)等の血管再建術後の再狭窄の予防及び治療に有効であり、ひいては例えば狭心症や心筋梗塞等の血管障害を伴う動脈硬化症等の予防及び治療にも有効であることを見いだした。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、apM1及び薬学的に許容されるその塩から選ばれる少なくとも1種の薬
学的有効量を、製剤学的に許容される担体と共に含有する平滑筋増殖抑制組成物が提供される。
【0011】
また本発明によれば、apM1及び薬学的に許容されるその塩から選ばれる少なくとも1種
の薬学的有効量を、製剤学的に許容される担体と共に含有する動脈硬化症予防及び治療組成物が提供される。
【0012】
更に本発明によれば、apM1及び薬学的に許容されるその塩から選ばれる少なくとも1種
の薬学的有効量を、製剤学的に許容される担体と共に含有する血管再建術後の再狭窄の予防及び治療組成物が提供される。
【0013】
本発明に係わる平滑筋増殖抑制組成物は、その有する平滑筋増殖抑制作用を通じて、例えば狭心症、血栓症を含む心筋梗塞、脳梗塞等の血管障害を伴う動脈硬化症の予防及び治療や、かかる動脈硬化症の進展の予防に有効である。事実、本発明組成物の有効成分とするapM1は、動脈硬化の発症を規定する細胞接着分子であるVCAM-1(Vascular Cell Adhesion Molecule-1)、ELAM(Endothelial Leukocyte Adhesion Molecule)、ICAM-1(Intercelular Adhesion Molecule-1)等の発現を抑制する作用を奏し得る。このことから、本発明組成物は、各種動脈硬化症の発症に抑制的に働くのである。
【0014】
また、このことから本発明は、血管内皮細胞における接着分子の発現を抑制する医薬組成物をも提供するものである。
【0015】
apM1が上記細胞接着分子の発現を抑制するという事実より、本発明組成物は、例えばVCAM-1の発現量の上昇に関連する疾患として知られている、好酸球浸潤に伴われるI型アレ
ルギー反応と関連する気管支喘息等の予防及び治療にも適応可能である。
【0016】
また、上記ICAM-1及びELAMは炎症に関連する接着分子としても知られているので、apM1を有効成分とする本発明組成物は、かかる接着分子の発現の抑制を通じて、例えば抗炎症剤としてや、慢性関節リウマチ治療剤としても適応できると考えられる。
【0017】
更に、本発明組成物は、例えばステント経皮経管冠動脈血管拡張術(stent PTCA)等の血管再建術後の再狭窄の予防や治療にも有効である。即ち、狭心症や心筋梗塞における冠動脈狭窄に対する血管再建術施術後には、虚血再灌流及び血管内皮細胞障害により、血管内皮細胞に対する接着分子が発現し、平滑筋細胞の増殖が生じ、再狭窄が発症する。本発明組成物は、この接着分子の発現及び平滑筋細胞の増殖を抑制することによって、血管再建術後の虚血再狭窄の予防にも有効である。
【0018】
本発明によれば、また動脈硬化症の診断方法が提供される。この診断方法は、平滑筋の増殖能(平滑筋細胞のDNA合成能)という新しい指標を利用するものであり、これは、検体
中のapM1量を該apM1に対する特異抗体を用いて測定、定量することにより実施される。
【0019】
以下、本発明組成物において有効成分とするapM1の製造、これを有効成分とする本発明
組成物の調製、該apM1に対する抗体の製造、及び該apM1の測定につき、順次説明する。
【0020】
尚、本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸等の略号による表示は、IUPAC-IUBの規定(IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur.J.Biochem., 138, 9(1984))、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドラ
イン」(平成14年7月、特許庁編)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。
【0021】
apM1は、例えば通常の遺伝子工学的手法〔例えば、Science, 224, 1431 (1984); Biochem. Biophys. Res. Comm., 130, 692 (1985); Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 80, 5990(1983)等参照〕により組換え蛋白として製造することができる。上記においてapM1遺伝子としては、本発明者らが先に確立したものを使用できる(非特許文献1参照)。
【0022】
また、該apM1は、上記遺伝子によりコードされるアミノ酸配列情報に従って、一般的な化学合成手法により製造することもできる。
【0023】
遺伝子工学的手法を採用したapM1の製造は、より詳細には、所望蛋白をコードする遺伝子が宿主細胞中で発現できる組換えDNAを作成し、これを宿主細胞に導入して形質転換し
、該形質転換体を培養することにより行われる。
【0024】
ここで宿主細胞としては、真核生物及び原核生物のいずれも用いることができる。該真核生物の細胞には、脊椎動物、真核微生物等の細胞が含まれる。脊椎動物細胞としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞(Cell, 23, 175(1981))やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞及びそのジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株(Proc.Natl.Acad.Sci., USA., 77, 4216 (1980))等がよく用いられるが、これらに限定される訳ではない。
【0025】
脊椎動物の発現ベクターとしては、通常発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写終了配列等を保有するも
のを使用できる。これは更に必要により複製起点を有していてもよい。該発現ベクターの例としては、例えばSV40の初期プロモーターを保有するpSV2dhfr(Mol. Cell. Biol., 1, 854(1981))等を例示できる。
【0026】
また、真核微生物としては、酵母が一般によく用いられ、中でもサッカロミセス属酵母が有利に利用できる。酵母等の真核微生物の発現ベクターとしては、例えば酸性ホスフアターゼ遺伝子に対するプロモーターを有するpAM82(Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 80, 1(1983))等を利用できる。
【0027】
原核生物の宿主としては、大腸菌や枯草菌が一般によく用いられる。これらを宿主とする場合、例えば宿主菌中で複製可能なプラスミドベクターを用い、このベクター中に所望遺伝子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーター及びSD(シヤイン・アンド・ダ
ルガーノ)塩基配列、更に蛋白合成開始に必要な開始コドン(例えばATG)を付与した発現プラスミドを利用するのが好ましい。上記宿主としての大腸菌としては、エシエリヒア・コリ(Escherichia coli)K12株等がよく用いられ、ベクターとしては一般にpBR322及びその
改良ベクターがよく用いられるが、これらに限定されず公知の各種の菌株及びベクターも利用できる。プロモーターとしては、例えばトリプトファン(trp)プロモーター、lppプロモーター、lacプロモーター、PL/PRプロモーター等を使用できる。
【0028】
かくして得られる所望の組換えDNAの宿主細胞への導入方法及びこれによる形質転換方
法は、一般的方法に従うことができる。
【0029】
得られる形質転換体は、常法に従い培養でき、該培養により形質転換体の細胞内、細胞
外乃至細胞膜上に目的とする組換え蛋白が発現、生産、蓄積乃至分泌される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択利用でき、その培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。
【0030】
上記の如くして得られるapM1は、所望によりその物理的性質、化学的性質等を利用した各種の分離操作(「生化学データーブックII」、1175-1259頁、第1版第1刷、1980年6月23
日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry, 25(25), 8274(1986); Eur. J. Biochem., 163, 313 (1987)等参照)により分離、精製できる。より具体的には、例えば通常の再構成処理、蛋白沈澱剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せ等により分離、精製できる。
【0031】
上記apM1は、また、そのアミノ酸配列情報に従って、一般的な化学合成法により製造することができる。該方法には、通常の液相法及び固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていく所謂ステップワイズエロンゲーション法と、
アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含する。
【0032】
上記ペプチド合成法に採用される縮合反応も、常法に従うことができる。該方法には、例えば、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキ
シサクシンアミド、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド等)法、ウッ
ドワード法等が包含される。
【0033】
これら各方法に利用できる溶媒も、この種ペプチド縮合反応に使用されることのよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサ
ン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることがで
きる。
【0034】
尚、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸乃至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第3級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p-メトキ
シベンジルエステル、p-ニトロベンジルエステル等のアラルキルエステル等として保護することができる。
【0035】
また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばチロシン残基の水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第3級ブチル基等で保護されてもよいが、必
ずしもかかる保護を行う必要はない。
【0036】
更に、例えばアルギニン残基のグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、p-メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン-2-スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボル
ニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。
【0037】
上記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られる蛋白質におけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナト
リウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスル
ホン酸等を用いる方法等に従って実施することができる。
【0038】
かくして得られるapM1は、前記した各種の方法、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用される方法に従い、適宜その精製を行うことができる。
【0039】
本発明に係わる組成物は、apM1又はその製剤学的に許容される塩を有効成分とする。かかる塩には、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アンモニウム等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩等が包含される。これらの塩は当業界で周知の方法により調製される。更に、上記塩には、apM1と適当な有機酸乃至無機酸とを常法に従い反応させて得られる酸付加塩も包含される。代表的酸付加塩としては、例えば塩酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、硼酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩(トシレート)、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、グリコール酸塩、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩及びナプシレート等を例示できる。
【0040】
本発明に係わる組成物は、一般には、上記有効成分の薬学的有効量を適当な医薬担体と共に含む医薬製剤形態に調製され、実用される。
【0041】
上記医薬製剤に利用できる担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤或は賦形剤等を例示できる。これらは得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択使用できる。
【0042】
医薬製剤の投与単位形態としては、各種の形態が治療目的に応じて選択できる。その代表的なものには、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤等の固体投与形態や、溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態が含まれる。これらは投与経路に応じて経口剤、非経口剤、経鼻剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、軟膏剤等に分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形乃至調製することができる。上記医薬製剤には、また通常の医薬製剤に使用し得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤等を適宜添加できる。
【0043】
上記安定化剤としては、例えばヒト血清アルブミンや通常のL-アミノ酸、糖類、セルロース誘導体等を例示できる。之等は単独で又は界面活性剤等と組合せて使用できる。特にこの組合せによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。
【0044】
上記L-アミノ酸は、特に限定はなく、これには例えばグリシン、システィン、グルタミン酸等が包含される。
【0045】
上記糖類としても特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類等及びそれらの誘導体等を使用できる。
【0046】
界面活性剤としても特に限定はなく、イオン性及び非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。これには例えば、ポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系等が包含される。
【0047】
セルロース誘導体としても特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロ−ス、ヒ
ドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。
【0048】
糖類の添加量は、有効成分1μg当り約0.0001mg以上、好ましくは約0.01〜10mgの範囲から選ばれるのが適当である。界面活性剤の添加量は、有効成分1μg当り約0.00001mg以上
、好ましくは約0.0001〜0.01mgの範囲から選ばれるのが適当である。ヒト血清アルブミンの添加量は、有効成分1μg当り約0.0001mg以上、好ましくは約0.001〜0.1mgの範囲から選ばれるのが適当である。アミノ酸は、有効成分1μg当り約0.001〜10mgの範囲から選ばれ
るのが適当である。また、セルロース誘導体の添加量は、有効成分1μg当り約0.00001mg
以上、好ましくは約0.001〜0.1mgの範囲から選ばれるのが適当である。
【0049】
本発明医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択でき、通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲から選ばれるのが適当である。
【0050】
更に、上記医薬製剤中に適宜添加することができる緩衝剤としては、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸及び/又はそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)等を例示できる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化
カリウム、糖類、グリセリン等を例示できる。またキレート剤としては、エデト酸ナトリウム、クエン酸等を例示できる。
【0051】
本発明医薬製剤には、液剤に加えて、該液剤を凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時水、生埋的食塩水等を含む緩衝液等に溶解して適当な濃度に調製して使用される用時溶解剤も包含される。
【0052】
本発明医薬製剤を錠剤の形態に成形するに際しては、前記担体として、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、リン酸カリウム等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤;カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム等の崩壊剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド等の界面活性剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム
塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。
【0053】
更に錠剤は、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠或は二重錠乃至多層錠とすることができる。
【0054】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体として例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0055】
カプセル剤は、常法に従い通常有効成分を上記で例示した各種の担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
【0056】
経口投与用液剤は、慣用される不活性希釈剤、例えば水を含む医薬的に許容される溶液
、エマルジョン、懸濁液、シロップ、エリキシル等を包含する。該液剤には更に湿潤剤、乳剤、懸濁剤等の助剤を含ませることができ、これらは常法に従い調製される。
【0057】
非経口投与用液剤、例えば滅菌水性乃至非水性溶液、エマルジョン、懸濁液等への調製に際しては、希釈剤として例えば水、エチルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びオリーブ油等の植物油等を使用できる。該液剤にはまた注入可能な有機エステル類、例えばオレイン酸エチル等を配合することもできる。これらには更に通常の溶解補助剤、緩衝剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤、分散剤等を添加することもできる。
【0058】
医薬製剤の滅菌は、例えばバクテリア保留フィルターを通過させる濾過操作、殺菌剤の配合、照射処理及び加熱処理等により実施できる。また、医薬製剤は使用直前に滅菌水や適当な滅菌可能媒体に溶解することのできる滅菌固体組成物形態に調製して、使用直前に滅菌することもできる。
【0059】
坐剤や膣投与用製剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン及び半合成グリセライド等を使用できる。
【0060】
ペースト、クリーム、ゲル等の軟膏剤の形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば白色ワセリン、パラフイン、グリセリン、セルロース誘導体、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト及びオリーブ油等の植物油等を使用できる。
【0061】
経鼻又は舌下投与用製剤は、周知の標準賦形剤を用いて、常法に従い調製することができる。
【0062】
尚、本発明医薬製剤中には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品等を含有させることもできる。
【0063】
上記医薬製剤の投与方法は、特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等に応じて決定される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤は経口投与され、注射剤は単独で又はブドウ糖やアミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じ単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与され、坐剤は直腸内投与され、経膣剤は膣内投与され、経鼻剤は鼻腔内投与され、舌下剤は口腔内投与され、軟膏剤は経皮的に局所投与される。
【0064】
上記医薬製剤中に含有されるべき有効成分の量及びその投与量は、特に限定されず、所望の治療効果、投与法、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件等に応じて広範囲より適宜選択される。通常好ましくは、血中における有効成分濃度が約1〜200μg/mL、より好ましくは約10〜20μg/mL程度となる量を目安として決定されるのがよい。該製剤は1日に1回又は数回に分けて投与することができる。
【0065】
以下、apM1に対する特異抗体の製造につき詳述すれば、該apM1に対する特異抗体は、apM1、その断片乃至之等をハプテンとして含む複合蛋白を免疫抗原として利用して、抗血清(ポリクローナル抗体)及びモノクローナル抗体として製造することができる。
【0066】
これら抗体の製造方法自体は、当業者によく理解されているところであり、本発明抗体の製法もこれら常法に従うことができる(例えば続生化学実験講座「免疫生化学研究法」
、日本生化学会編(1986)等参照)。
【0067】
より詳しくは、apM1に対するモノクローナル抗体は、例えば上記免疫抗原で免疫した哺乳動物の形質細胞(免疫細胞)と哺乳動物の形質細胞腫細胞との融合細胞(hybridoma)を作
成し、これよりapM1を認識する所望抗体を産生するクローンを選択し、該クローンの培養により製造できる。
【0068】
上記において用いられる免疫抗原としてのapM1としては、特に限定はなく、既に公知の遺伝子組換え技術に従い製造された組換えapM1、その一部のアミノ酸配列を有するペプチド、之等と他の担体との複合物等のいずれでもよい。尚、上記apM1は、脂肪組織特異的分泌因子として知られており、これと同等の活性乃至作用を有する蛋白、例えばGBP28 (Gelatin-binding protein of 28 kDa)もまた、上記免疫抗原として同様に利用することがで
きる。
【0069】
上記方法において免疫抗原で免疫される哺乳動物としては、特に制限はなく、細胞融合に使用する形質細胞腫細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般にはマウス、ラツト、兎等が有利に用いられる。
【0070】
免疫は一般的方法により、例えば上記免疫抗原を哺乳動物に静脈内、皮内、皮下、腹腔内注射等により投与することにより行われる。好ましくは、免疫抗原を、所望により通常のアジュバントと併用して、供試動物に2〜14日毎に数回、総投与量が約100〜500μg/マ
ウス程度となるように投与することにより行われる。免疫抗原としては、上記最終投与の約3日後に摘出した脾臓細胞を使用するのが好ましい。
【0071】
更に、上記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物の形質細胞腫細胞としては、既に公知の種々のもの、例えばp3(p3/×63-Ag8) 〔Nature, 256, 495-497 (1975)
〕、p3-U1 〔Current Topics in Microbiology and Immunology, 81, 1-7(1978)〕、NS-1
〔Eur. J. Immunol., 6, 511-519 (1976)〕、MPC-11 〔Cell, 8, 405-415 (1976)〕、SP2/0 〔Nature, 276, 269-270 (1978)〕、FO 〔J. Immunol. Meth., 35, 1-21 (1980)〕、×63.6.5.3. 〔J. Immunol., 123, 1548-1550 (1979)〕、S194 〔J. Exp. Med., 148, 313-323 (1978)〕等や、ラットにおけるR210 〔Nature, 277, 131-133 (1979)〕等の骨髄腫細胞等を使用できる。
【0072】
上記免疫細胞と形質細胞腫細胞との融合反応は、公知の方法、例えばMilsteinらの方法〔Method in Enzymology, Vol. 73, pp. 3 (1981)〕等に準じて行うことができる。より
具体的には、上記融合反応は、通常の融合促進剤、例えばポリエチレングリコール(PEG)
、センダイウイルス(HVJ)等の存在下に、通常の培地中で実施できる。培地には更に融合
効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を必要に応じて添加することもできる。
【0073】
免疫細胞と形質細胞腫細胞との使用比は、通常の方法と変りはなく、例えば形質細胞腫細胞に対して免疫細胞を約1〜10倍用いるのが普通である。融合反応時の培地としては、
形質細胞腫細胞の増殖に通常使用される各種のもの、例えばRPMI-1640培地、MEM培地、その他のこの種細胞培養に一般に利用されるものを例示できる。通常之等培地は牛胎児血清(FCS)等の血清補液を抜いておくのがよい。
【0074】
融合は上記免疫細胞と形質細胞腫細胞との所定量を、上記培地内でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液、例えば平均分子量1000〜6000程度のものを、通常培地に約30
〜60w/v%の濃度で加えて混ぜ合せることにより行われる。以後、適当な培地を逐次添加
して遠心し、上清を除去する操作を繰返すことにより所望のハイブリドーマが形成される

【0075】
得られる所望のハイブリドーマの分離は、通常の選別用培地、例えばHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培地)で培養することにより行われる。HAT培地での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(未融合細胞等)が死滅するのに充分な時間、通常数日〜数週間行えばよい。かくして得られるハイブリドーマは、通常の限界希釈法により目的とする抗体の検索及び単一クローン化に供される。
【0076】
目的抗体産生株の検索は、例えばELISA法 〔Engvall, E., Meth. Enzymol., 70, 419-439 (1980)〕、プラーク法、スポット法、凝集反応法、オクテロニー(Ouchterlony)法、ラジオイムノアッセイ(RIA)法等の一般に抗体の検出に用いられている種々の方法〔「ハイ
ブリドーマ法とモノクローナル抗体」、株式会社R&Dプラニング発行、第30-53頁、昭和57年3月5日〕に従い実施でき、この検索には前記免疫抗原が利用できる。
【0077】
かくして得られるapM1を認識する所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培地で継代培養することができ、また液体窒素中で長期間保存することができる。
【0078】
上記ハイブリドーマからの所望抗体の採取は、該ハイブリドーマを、常法に従って培養してその培養上清として得る方法やハイブリドーマをこれと適合性のある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法等が採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0079】
上記のごとくして得られる抗体は、更に塩析、ゲル濾過法、アフィニティクロマトグラフィー等の通常の手段により精製することができる。かくして、apM1に特異反応性を有する所望のapM1モノクローナル抗体が得られる。
【0080】
本発明はまた、検体中のapM1の測定技術、これによる動脈硬化症の診断法をも提供するものである。
【0081】
上記動脈硬化症の診断は、患者の血液又は尿より得られた検体中のapM1量をapM1に対する抗体を用いる液相系又は固相系免疫検定法により測定し、測定値を動脈硬化症患者の同値及び正常者の同値と対比することにより、即ち検体におけるapM1量値が健常人のそれに比して高いか低いかを判定することにより行われる。
【0082】
ここで免疫検定法としては、サンドイッチ法を用いるELISA法が好ましい。
【0083】
この方法につき詳述すれば、その原理は酵素抗体法に基づいている。即ち、この方法によれば、例えば、まず96ウエルプレートに抗ヒトapM1モノクローナル抗体(第1抗体)を固
相化し、更に非特異吸着を防ぐためにブロッキングを行う(固相化反応)。次に、上記モノクローナル抗体固相化プレートにヒトapM1標準液又は検体を加えて反応させる(第1反応)
。プレートを洗浄後、抗ヒトapM1抗体(第2抗体)を加えて反応させる(第2反応)。プレートを洗浄し、HRP標識抗ウサギIgG抗体(第3抗体)を加えて反応させる(第3反応)。プレートを洗浄後、基質を加えて酵素反応を行い(第4反応)、活性を波長492nmにおける吸光度として読みとる。
【0084】
上記においては、第1抗体としてポリクローナル抗体を、第2抗体としてモノクローナル抗体を用いることもできる。
【0085】
上記方法に従えば、用いる標準液又は検体中のapM1濃度が高いほど、強い酵素活性(吸
光度)が認められる。上記標準液の吸光度をプロットして標準曲線(検量線)を作製し、検
体の吸光度を該検量線と対比させれば、検体中のapM1を簡便に読みとることができ、かくして、検体が動脈硬化症に罹患しているか否かの診断が行い得る。
【0086】
更に、本発明に係わる上記動脈硬化症の診断は、特定のキットの利用により簡便に実施可能であり、本発明はかかるキットをも提供する。
【0087】
以下、本発明キット及びこれを利用して検体中のapM1量を検出する方法につき詳述する。
【0088】
本発明キットを利用した検定法において、検体としては尿又は血液(特に空腹時の血清
又は血漿)が好ましく、之等は被検者より採取、採血後、常法に従い調製できる。
【0089】
本発明に係わるキットは、apM1に対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体(
抗apM1抗体)を必須成分として、これとapM1に対するポリクローナル抗体又はモノクロー
ナル抗体のそれぞれとの組合わせ、或いは上記モノクローナル抗体どうしの組合わせを含有するのが好ましい。
【0090】
上記モノクローナル抗体は、好ましくは予め固定化されたプレート上の担体と結合させた固相化されたプレート形態として用いられるのがよい。また、アフィニィテイゲル形態としてそのまま用いることでき、また該ゲルを振とう及び遠心分離が可能であってアフィニィティゲル非結合フラクションの抽出可能な適当な容器及至テストチューブに調製して用いることもできる。
【0091】
また予め適当な緩衝液、例えば0.01Mトリス塩酸緩衝液(pH7.4)+0.15M NaCl等の緩衝液で上記固相化プレート又はゲルを平衡化しておくことも好ましい。更に上記固相化プレート又はゲルには、例えばアジ化ナトリウム等の通常の保存剤を含ませることができる。
【0092】
更なる本発明キット成分としてELISAのための第2抗体として、標識した抗ヒトapM1ポリクローナル抗体を供給するのがより好ましい。尚、本発明キットには、必要に応じてサッカロースやウシ血清蛋白質等の安定化剤及び/又は保存剤を添加配合することができる。この保存剤はキットの使用に際し、実験値に影響を与えないものから選択され、例えば代表的には希釈したアジ化ナトリウム等を例示できる。
【0093】
また本発明キットには、水溶性もしくは水と混和し得るグリセリン、アルコール類、グリコール類、グリコエーテル類、等を含有させること、及び脱脂質のためのエタノールとジエチルエーテル、メタノールとジエチルエーテル、クロロホルムとメタノールのような混合有機溶媒等を含有させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0094】
以下、本発明をより詳しく説明するため実施例を挙げるが、本発明は之等に限定されない。
【実施例1】
【0095】
組換えapM1の製造
(1) apM1の大腸菌での発現
1) apM1 PCR
apM1遺伝子の塩基配列及び該遺伝子配列でコードされるアミノ酸配列は、ジーンバンク(gene bank)にアクセッション番号D45371として登録されている。そのコーディング領域(CDS)は、配列番号27〜761番目に示されている。その推定アミノ酸配列は配列番号1に示す
とおりである。該配列において、1-14番目はシグナルペプチドであり、15-244番目が成熟型apM1である。
【0096】
apM1遺伝子は、阪大第二内科船橋先生より供与されたプラスミドを鋳型としてPCR法に
より増幅した。apM1遺伝子の塩基配列を含むプラスミドの制限酵素地図を、図1に示す。
【0097】
PCRプライマーは、apM1遺伝子の塩基配列のうち、69〜761番の693bpを増幅し、その5'
末端にNdeIサイトを、3'末端にBamHIサイトを増設するように設計し、自動DNA合成機により製造した。このPCRプライマーの配列は、配列番号3(forward)及び4(reverse)に示す通
りである。
2) apM1遺伝子のサブクローニング
上記1)で得られたPCR産物をpT7 Blue T-Vector(ノバゲン(Novagen)社製)にサブクロー
ニングし、その塩基配列(pT7-apM1)に変異がないことを確認した。
3) 発現ベクターの構築
発現ベクターpET3c(ノバゲン社製)をNdeI及びBamHIで消化し、約4600bpの断片得た。また、上記1)で得たpT7-apM1をNdeI及びBamHIで消化し、約700bpの断片を得た。これらの断片をライゲーションし、得られた発現ベクターをpET3c-apM1とした。
4) 大腸菌での発現
宿主大腸菌であるBL21(DE3)pLysSを、上記3)で得たpET3c-apM1でトランスフォームし、2xT.Y.Amp. (トリプトン16g、酵母抽出物10g及びNaCl 5g)で培養した。菌体が対数増殖期に入ったところでIPTG(イソプロピル β-D-チオガラクトピラノシド)を添加し、組換えapM1の生産を誘導した。IPTGによる誘導前後の大腸菌及びIPTG誘導後のインクルージョンボディー(大腸菌の不溶性画分)をサンプリングし、SDS-PAGE及びウエスタンブロッティングによりapM1の発現を確認した。
5) 結果及び考察
上記に従い大腸菌で発現した発現物は、apM1のアミノ酸配列において、シグナル配列を除いた15番Glyから244番Asnまでの230アミノ酸で、N端に開始コドン由来のMetが付加されている。そのアミノ酸配列は、配列番号2に示されるとおりである。
【0098】
前述の方法で得られた大腸菌をSDS-PAGEで分析したところ、IPTG誘導後の大腸菌及びインクルージョンボディーにおいて約30kDのバンドが確認できた。
【0099】
次に、2種類の抗体(ポリクローナル抗体(合成ペプチド))でウエスタンブロッティング
を行ったところ、両方の抗体ともにその約30kDのバンドと反応しており、宿主大腸菌とは全く反応は認められなかった。
【0100】
また、この約30kDのバンドを切り出してN端10アミノ酸の配列を確認したところ、予想
された配列と同じであり、マイナー成分としてN端のMetがはずれているものも確認された。
【0101】
以上の結果から、約30kDの蛋白質として組換えapM1が発現していることが明らかとなった。また発現した組換えapM1の殆どは、インクルージョンボディーとして菌体内に蓄積されていた。
(2) 組換えapM1の大腸菌からの精製
組換えapM1の大腸菌からの精製は、以下の5つのステップにて行った。
1) 大腸菌の培養
発現ベクターpET3c-apM1でトランスフォームした大腸菌BL21(DE3)pLysS(ノバゲン社製)を2xT.Y.Amp.Cm.(トリプトン16g、酵母抽出物10g、クロラムフェニコール25μg/mL及びNaCl 5g)で前培養(37℃、振盪培養)し、翌日、その培養液を100倍量の2xT.Y.Amp.で希釈し
て更に培養した。2〜3時間培養して培養液のOD550が0.3〜0.5になったところで、最終濃
度0.4mMのIPTGを添加し、組換えapM1の生産を誘導した。IPTG添加後約3〜5時間で培養液
を遠心分離(5000rpm、20分、4℃)し、得られた大腸菌の沈殿を凍結保存した。
2) 大腸菌からのインクルージョンボディーの調製
大腸菌の沈殿を50mM Tris-HCl (pH8.0)に懸濁し、リゾチームで37℃、1時間処理した後、最終濃度0.2%のトリトンX-100(TritonX-100, 片山化学社製)を添加した。その溶液を
超音波処理(BRANSON SONIFIER, output control 5, 30sec.)し、遠心分離(12000rpm、30
分、4℃)して沈殿を回収した。その沈殿を0.2% TritonX-100を添加した50mM Tris-HCl(pH8.0)25mLに懸濁し、超音波処理(同上条件)を行った。
【0102】
得られた溶液を遠心分離し、沈殿を再度同様の操作で洗浄し、得られた沈殿をインクルージョンボディーとした。
3) インクルージョンボディーのリフォールディング
インクルージョンボディーを少量の7M塩酸グアニジン、100mM Tris-HCl (pH8.0)、1% 2MEに可溶化した。その溶液を200倍量の2M Urea、20mM Tris-HCl(pH8.0)に滴下して希釈
し、4℃で3晩放置した。
4) リフォールディング溶液の濃縮
リフォールディングした溶液を遠心分離(9000rpm、30分間、4℃)し、得られた上清をアミコンYM-10メンブランを用いた限外濾過で約100倍に濃縮した。その濃縮液を20mM Tris-HCl (pH8.0)にて透析し、0.45μmのフィルターで濾過した。
5) DEAE-5PWによる陰イオン交換HPLC
上記4)で得られたサンプルをDEAE-5PW(東ソー社製)による陰イオン交換高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分離、精製した。開始バッファーは20mM Tris-HCl(pH7.2)で、溶出は1M NaClのグラジェント(0→1M NaCl/60mL)で行い、280nmの吸収でモニターした。
フラクションは1mLずつ行い、各フラクションをSDS-PAGEして分析した。
6) 結果および考察
組換えapM1は、大腸菌にインクルージョンボディーとして発現していたので、精製に際してはインクルージョンボディーの可溶化及びリフォールディングを行った。その結果、組換えapM1は可溶化され、陰イオン交換カラムで分離された。そのピークのフラクション(フラクションNo.30-37)をSDS-PAGEで分析したところ、約30kDのバンドが観察された。このとき、バックグラウンドに薄くスメアなバンドが確認されたが、蛋白質の殆どは組換えapM1であると考えられたので、この約30kDのバンド(組換えapM1)を、引き続くウサギ及びマウスの免疫のための抗原として用いた。
(3) apM1に対するポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の作製
1) ポリクローナル抗体の作製
組換えapM1 100μg/bodyを等量のコンプリートアジュバントと混合して5匹のウサギに2週間おきに8回免疫して、抗apM1ポリクローナル抗体(認識番号;OCT9101〜OCT9105)を得た。
2) モノクローナル抗体の作製
組換えapM1 20μg/bodyを等量のコンプリートアジュバントと混合してマウスに2週間おきに3回免疫し、細胞融合の3日前にアジュバントなしで最終免疫した。マウス脾臓リンパ球とミエローマ細胞の細胞融合はPEG法にて行い、HAT培地でハイブリドーマを選択した。
【0103】
apM1抗体産生株のスクリーニングは、抗原(組換えapM1)をコーティングしたイムノプレートを用いたELISAで行い、限界希釈法でハイブリドーマをクローニングした。
【0104】
かくして、KOCO9101-KOCO9111と名付けたapM1抗体産生ハイブリドーマ11株を得た。そ
の内の一つのハイブリドーマ(受託者が付した識別のための表示:KOCO9108)は、1998年6
月8日(原寄託日)に、日本国茨城県つくば市東1-1-1 中央第6に住所を有する独立行政法
人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託されており、1998年10月7日に原
寄託よりブダペスト条約に基づく寄託への移管請求が受領された。その受託番号はFERM B
P-6542である。
【0105】
シングルクローンになったハイブリドーマをプリスタン処理したマウス腹腔内に投与して腹水を得た(認識番号;ANOC9101〜9111)。
3) 抗体の精製
得られたウサギ抗血清(ポリクローナル抗体)及びマウス腹水(モノクローナル抗体)は、プロテインAカラムで精製した。
4) apM1の動物細胞での発現
apM1のcDNAをEcoRIで切り出し、発現ベクターpCIneo(プロメガ社製)のEcoRIサイトに挿入した。このpCIneo-apM1をGIBCO BRL社のLlipofectAMINEを用いてCOS-1細胞(ATCC CRL1650)にトランスフェクションし、72時間後の培養上清及び細胞を回収した。
5) apM1のウエスタンブロッティング
最初に、脂肪組織抽出液、COS-1細胞、COS-1細胞培養上清、健常人血漿、組換えapM1を、2ME(+)でSDS-PAGEし、ニトロセルロースメンブランにトランスファーした。
【0106】
このメンブランをapM1モノクローナル抗体(ANOC9104)と反応させ、次いでHRP標識抗体
と反応させた後、ECL(アマシャム社製ウエスタンブロッティング検出試薬)を用いて検出
を行った。
【0107】
その結果、脂肪組織抽出液、pCIneo-apM1/COS-1細胞及び健常人血漿で約35kDのバンド
が確認できたが、pCIneo/COS-1細胞及びpCIneo/COS-1細胞培養上清では確認できなかった。
【0108】
pCIneo-apM1/COS-1細胞培養上清では、非常に薄く見えにくいけれども、35kDのバンド
を確認できた。
【実施例2】
【0109】
検体中apM1の測定
1) apM1のウエスタンブロッティング
健常人血漿をPBSで10倍に希釈し、その5μlを2ME(+)、(-)でSDS-PAGEしてニトロセルロースフィルターにトランスファーした。そのフィルターをブロッキングした後に1000倍希釈した抗apM1ポリクローナル抗体(OCT9101〜9105)或いは5μg/mLに調製した抗apM1モノクローナル抗体(ANOC9101〜9111)と反応させ、ついでHRP標識抗ウサギIgG抗体又はHRP標識
抗マウスIgG抗体と反応させて、ECLにより検出した。
【0110】
その結果、全てのポリクローナル抗体で2ME(+)の場合約35kDの、また2ME(-)の場合約70kDの、apM1のバンドが確認できた。また、モノクローナル抗体の場合、ANOC9104及びANOC9108がapM1のバンドと強く反応した。このことから、ELISAに用いるモノクローナル抗体
は、ANOC9104及びANOC9108が適当であると考えられた。
2) apM1 ELISAの作製
apM1モノクローナル抗体(ANOC9108)をイムノプレートにコーティングし、各ウエルをブロッキングした後、apM1のスタンダード及びサンプルを添加してインキュベートした。プレートの各ウエルを洗浄し、希釈したapM1ポリクローナル抗体(OCT9104)を添加してイン
キュベートした。プレートの各ウエルを洗浄し、希釈したHRP標識抗ウサギIgG抗体を添加してインキュベートした。プレートの各ウエルを洗浄し、OPDを用いてウエルを発色させ
、492nmの吸収を測定した。スタンダードのapM1には、大腸菌に発現した組換えapM1を精
製し、BSAを標準としたプロテインアッセイで蛋白質量を定量したものを用いた。
【0111】
その結果、上記ANOC9108とOCT9104との組合せの検出範囲は、0.1ng/mL〜20ng/mLであった。
3) 正常人血漿のゲル濾過及びウエスタンブロッティング
上記のapM1 ELISAで正常人血漿を測定したところ、ウエスタンブロッティングの結果から考えられる濃度が得られなかった。そこで、正常人血漿をSuperose12(ファルマシア社
製)を用いてゲル濾過し、各フラクションをSDS-PAGEして、ANOC9104を用いたウエスタン
ブロッティングで分析した。また、分子量マーカーを同一条件でゲル濾過し、apM1の溶出した位置と比較検討した。
【0112】
その結果、apM1は分子量290kD以上のフラクションにブロードに溶出していた。このこ
とから、血中のapM1は他の血漿成分と会合して290kD以上の大きな分子を形成し、そのた
めに抗体の認識部位がマスクされているものと考えられた。そこで、SDSを含むバッファ
ーで血清を処理すれば抗体が反応できるようになるのではと考え、次の検討を行った。
4) 血漿サンプルの処理
血漿をSDSを含むバッファーで煮沸処理し、それらの処理条件(煮沸時間、SDSバッファ
ーとの混合比)について検討した。煮沸時間については、SDSバッファーで10倍に希釈した正常人血漿を10秒、30秒、1分、3分、5分、10分間それぞれ煮沸し、血漿原液から最終5000倍に希釈してapM1を測定した。SDSバッファーとの混合比については、正常人血漿を2倍
、3倍、5倍、10倍、20倍量のSDSバッファーにそれぞれ希釈したものを5分間煮沸し、最終10000倍に希釈してapM1を測定した。
【0113】
その結果、正常血漿のウエスタンブロッティングの結果と一致する程度のレベルでapM1が検出できた。そのときの処理条件を検討したところ、血漿をSDSバッファーで10倍に希
釈して5分間煮沸処理するのが適当であると考えられた。
5) 血漿サンプルの希釈
apM1 ELISAの検出範囲が70pg/mL〜20ng/mLであり、apM1の血中濃度がμgオーダーであ
ることから、血清(血漿)は希釈して測定する必要があるので、適正な希釈倍率を求めるためにSDS処理した血漿を段階希釈してapM1を測定した。即ち、正常人血漿をSDS処理し、それを最終200倍から10万倍まで段階希釈してapM1の測定を行った。
【0114】
その結果、ELISAの測定範囲内であれば希釈倍率に比例してapM1が検出され、その吸光
度等からして最終5000倍程度で測定することが適当であることが判った。
6) 採血条件の検討
正常人の血液を血清、ヘパリン、EDTAの各採血条件で採血し、apM1を測定して採血条件の違いによるapM1の測定値について検討した。即ち、正常人10名についてそれぞれ採血し、血清(血漿)をSDS処理して最終5000倍に希釈してapM1の測定を行った。
【0115】
その結果、試験した正常人10名の血液中apM1測定値は、これら血液の採血法による違いを、ほとんど認められなかった。
7) サンプルの保存条件の検討
apM1測定検体の保存条件の検討を、血漿およびSDS処理後のサンプルについて行った。
血漿の保存条件としては、4℃、室温、37℃で1日、2日、3日、6日間放置したものを、ま
た、血漿の凍結融解による影響については、1回、2回、4回、8回の凍結融解を繰り返したものをそれぞれSDS処理し、最終5000倍に希釈してapM1の測定を行った。SDS処理後のサンプルについては、血漿をSDSバッファーで10倍に希釈して5分間煮沸処理し、その溶液を10倍に希釈したものについて同様の実験を行った。
【0116】
その結果、上記条件ではapM1の測定値には殆ど影響は見られなかった。また、同様に凍結融解に関しても血漿およびSDS処理後のサンプルで行ったが、殆ど影響はなかった。
8) 日内変動、日差変動の検討
正常人の血清(血漿)中apM1の測定における日内変動および日差変動について検討した。日内変動については、同一の検体を8重に測定してCV値を求めた。また、日差変動につい
ては、同一の検体を日を変えて4回繰り返し測定しCV値を求めた。
【0117】
その結果、日内変動についてはCV値が5%以内で、日差変動に関してはCV値が10%以内で
あった。
9) 特異性の検討
ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ラット、マウスの血清についてapM1 ELISAを行い、測定系の特異性について検討した。それぞれの動物の血清をSDSバッファーで処理し、最終100倍から8100倍まで段階希釈してapM1の測定を行った。
【0118】
その結果、ウシ、ウマにおいて10%程度のクロスが確認されたが、その他の動物におい
ては殆ど確認されなかった。
【実施例3】
【0119】
apM1の平滑筋増殖抑制作用
ヒト動脈平滑筋細胞(クローンテック社製)を、プラスチック製プレートに1×104/cm2の濃度で播種し、10%FBS(ギブコ社製)、100IU/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシンを添加したDMEM(ギブコ社製)中で一夜放置し、37℃で5%CO2及び95%空気中で培養した。
【0120】
ヒト動脈平滑筋細胞によるDNA合成を、[メチル3H]-チミジン取り込み量にて測定した(4回繰り返し)。即ち、96ウエルプレートに播種した細胞を、2%FBS添加DMEM中で、10μg/mLのapM1及び/又は対照のため10ng/mLのHB-EGF(組換えヒトヘパリン結合性EGF様成長因子
、R&Dシステムズ社製)を用いて24時間処理した。次いで、[メチル3H]-チミジンを1μCi/ウエルで5時間添加した。処理細胞をトリプシン処理し、ガラス繊維フィルター上に自動
細胞収穫機を用いて取り出し、その後、[メチル3H]-チミジン取り込み量を直接β-カウンターにて測定した。
【0121】
結果を図3に示す。該図は、縦軸に相対DNA合成比をとり、コントロール(control, 何等の供試薬剤を用いない場合)、apM1添加の場合(本発明)、HB−EGF添加の場合(対照)及びapM1+HB-EGF添加の場合(本発明)の各結果を棒グラフにて示したものである。
【0122】
該図より、apM1がヒト平滑筋細胞のDNA合成(平滑筋の増殖)を抑制する作用を奏するこ
とが明らかである。即ち、apM1の添加によれば、コントロールのDNA合成を有意(p<0.001)に抑制しており、またHB−EGF添加により促進されるDNA合成の場合においても、これを有意(p<0.001)に抑制することが明らかとなった。
【0123】
このことから、apM1は平滑筋増殖抑制組成物として有効であることが判る。
【実施例4】
【0124】
冠動脈疾患患者の血中apM1レベルの測定
冠動脈造影により75%以上狭窄があると認められた患者(CAD(+)と表示する)男性24名及び女性10名及び75%までの狭窄しかない患者(CAD(-)と表示)男性66名及び女性39名につき、それらの各血液を採取し、血漿中のapM1レベルを、実施例2に記載した本発明方法に従
い測定した。
【0125】
同時に、各患者の臍の高さの位置でCTをとり該CTより各患者の腹腔内脂肪面積(VFA, Visceral Fat Area, cm2)を算出した。
【0126】
血漿apM1レベル(μg/mL)を縦軸とし、VFAを横軸として、上記各測定値及び算出値の関連を、CAD(+)とCAD(+)以外の値で対応しないt−検定により評価した。その結果を図4に示
す。
【0127】
該図より、冠動脈疾患を有する患者(CAD(+))群のapM1レベルは、腹腔内脂肪面積(VFA)
の大小に関わりなく低く、このことから、apM1が高度の冠動脈狭窄の存在の診断に有効であることが判った。
【0128】
また、apM1が動脈硬化症の発症、進展の指標として重要であり、その治療への応用における有用性が示唆された。
【実施例5】
【0129】
apM1の動脈硬化症発症抑制作用
96ウエルプレートに播種したヒト大動脈血管内皮細胞(HAEC: Human Arotic Vascular Endothelial Cells, クロネティクス社より購入)を、血管内皮細胞培地中で培養(5%CO2下、37℃)した。ベクトンディッキンソン社製「バイオコート」を用い、コンフリューエン
ト(confluent)になるまで培養し、その後培地をTCM199(tissue culture medium:大阪大学微生物研究、ナカライテスク社)+0.5%FCS(ウシ胎児血清:日本生物材料社製)+3%BSA(ウシ血清アルブミン:シグマ社製)に変更した。
【0130】
次いで、実施例1で得られた組換えapM1の1、5、10、25及び50μg/mLを添加し、更に18
時間培養し、その後、ヒト組換えTNF-α(R&D社製、Tumor Necrosis Factor-α:10U/mL)を添加し、6時間培養した(apM1添加の実験群)。
【0131】
また、対照群として、上記組換えapM1無添加群(TNF-α刺激のみ)を設けた。
【0132】
上記TNF-αによる刺激でHAEC表面に発現するVCAM-1 (Vascular Cell Adhesion Molecule-1)、ELAM (Endothelial Leukocyte Adhesion Molecule)及びICAM-1 (Intercelular Adhesion Molecule-1)の接着分子蛋白発現レベルをapM1が抑制するかどうかを、cell-ELISA
法(Takami,S., et al., Circuation, 97(8), 721-728(1998))に従って検討した。尚、ICAM-1抗体としては、DAKO社の6.5B5を用いた。
【0133】
apM1添加群と無添加群とを比較して有意差検定を、ステューデント・テスト(Student test)により行った。
【0134】
VCAM-1についての結果を図5に示す。
【0135】
図5において、横軸はapM1添加量(μg/mL、−は無添加を示す)を、縦軸はTNF-α無刺激の場合にHAECがその細胞表面に発現する接着分子蛋白(VCAM-1)の発現量を基準(1)として
、各実験群及び対照群における同接着分子蛋白発現量の相対値を示す。
【0136】
図5より、以下のことが判る。即ち、apM1は1μg/mLの濃度から濃度依存的に、HAECにおいてTNF-α刺激により増加した接着分子VCAM-1の発現を有意に抑制した(p<0.05)。
【0137】
また、他の主要な接着分子であるELAMI及びCAM-1の発現も、apM1が同様に抑制することが確認された。
【0138】
血管内皮細胞の損傷とそれに伴われる単球の接着は、動脈効果の発症に重要であることが報告されている(Ross, R., Nature, 362(6423), 801-804 (1993))。この動脈効果の発
症過程を規定する接着分子(VCAM-1、ELAM、ICAM-1など)の発現をapM1が抑制したという事実は、該apM1が動脈硬化の発症に抑制的に作用することを意味するものであり、このことから、apM1は動脈硬化症の予防剤として有効であることが明らかとなった。
【0139】
本発明によれば、apM1を有効成分とする平滑筋増殖抑制組成物、血管内皮細胞における接着分子発現抑制組成物が提供され、これは医薬品分野で有用である。また、本発明によれば、apM1に特異的な抗体を利用したapM1の測定技術が提供され、これによって、動脈硬化症の新しい診断方法が確立できる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】apM1遺伝子の塩基配列を含むプラスミドの制限酵素地図を示す。
【図2】組換えapM1を用いて作製したスタンダードカーブを示す。
【図3】実施例3に従って測定されたapM1の平滑筋抑制作用を示すグラフである。
【図4】実施例4に従って測定された冠動脈疾患患者及び健常人の血中apM1レベルを示すグラフである。
【図5】実施例5に従って測定された接着分子の細胞表面での発現レベルをapM1が濃度依存的に抑制することを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織特異的分泌因子apM1及び薬学的に許容されるその塩から選ばれる少なくとも1種の薬学的有効量を、製剤学的に許容される担体と共に含有する、接着分子発現抑制組成物。
【請求項2】
接着分子が、VCAM−1、ICAM−1、及びELAM−1から成る群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の接着分子発現抑制組成物。
【請求項3】
動脈硬化症(但し、肥満関連アテローム動脈硬化症を除く)の予防及び治療剤として使用される、請求項1又は2に記載の接着分子抑制組成物。
【請求項4】
接着分子が、VCAM−1であり、気管支喘息の予防及び治療に使用される請求項1に記載の接着分子発現抑制組成物。
【請求項5】
接着分子がICAM−1及び/又はELAM−1であり、抗炎症剤又は慢性関節リウマチ治療剤として使用される、請求項1に記載の接着分子発現抑制組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−79064(P2009−79064A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284353(P2008−284353)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【分割の表示】特願2004−10307(P2004−10307)の分割
【原出願日】平成10年10月27日(1998.10.27)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】