説明

平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法および平版インキワニスの製造方法

【課題】 フェノール類やホルムアルデヒド類を使用しなくとも高分子量、高粘度の樹脂を含有する組成物として製造できる平版インキワニス用樹脂組成物であって、非芳香族系溶剤に対する良好な溶解性を有し、平版インキワニス用として好適な変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法と、平版インキワニスの製造方法を提供すること。
【解決手段】 ロジン(A)と、ロジン(A)をα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)で変性して得られる酸変性ロジン(B)と、ロジン(A)をヨウ素価140以上の植物油(c)で変性して得られる油変性ロジン(C)と、3価以上のポリオール(D)を反応させる平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法、および、前記製造方法で得られた樹脂組成物を炭化水素系溶剤(E)に溶解させる平版インキワニスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法、および、この製造方法で得れる平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物を用いる平版インキワニスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット平版インキ用樹脂およびワニスの原料として、ロジン変性フェノール樹脂が主に使用されているが、生活環境や作業環境の改良のために、樹脂中に内在するアルキルフェノール成分やホルムアルデヒド成分の除去を目的とした新規な樹脂類が、近年開発されるようになってきた。
【0003】
このようなアルキルフェノール成分やホルムアルデヒド成分を含有しないオフセット平版インキ用樹脂の製造方法としては、例えば、ロジン等の樹脂酸とα,β−エチレン性不飽和カルボン酸またはその無水物のディールス・アルダー反応物(酸変性樹脂酸と未反応樹脂酸の混合物)に炭素原子数6〜60の二価アルコールまたは炭素原子数6〜60の二価アルコールと三価以上のポリオールを反応させて成る樹脂の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかし、ここで使用される炭素原子数6〜60の2価アルコール類は沸点が低いため、通常の樹脂酸類の反応温度220〜270℃では、反応系中に留まり難く、かつ系中から揮散しやすいため反応し難く、反応に著しく長時間を要する上に、高粘度になり難いという問題がある。そのため、これらの樹脂を主成分としたワニスでは平版インキ用として充分な粘弾性が得られ難い。また、反応系中の炭素原子数6〜60の2価アルコール比率を減じて、その代わりに3価以上のポリオールを併用して合成した樹脂をワニス化して平版インキとした場合には、環境対応としてより好ましい芳香族化合物成分1重量%以下の印刷インキ用溶剤への溶解性が不足し、インキ流動性、転移性が不十分となり印刷物の光沢が低下する。また、これらを改良するために植物油、亜麻仁油、桐油、大豆油等の植物油を使用して合成したアルキド樹脂を、ワニス調製段階で加えた場合には、印刷作業環境を汚染するミスチングが発現する等、充分な問題解決には至っていない。
【0005】
【特許文献1】特開2000−169563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、生活環境や作業環境を悪化させる環境上の問題のあるアルキルフェノール等のフェノール類やホルムアルデヒド類をその合成過程で使用しなくとも高分子量、高粘度の樹脂を含有する組成物として製造できる環境に優しい平版インキワニス用樹脂組成物であって、平版インキ用としての充分な分子量と粘度を有していながら非芳香族系溶剤に対する良好な溶解性を有し、平版インキワニス用として好適な変性ロジンエステル樹脂組成物と、この樹脂組成物を用いてなる平版インキワニスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、以下の知見(1)〜(4)を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1)ロジン(A)とα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)を反応させて未反応のロジン(A)と酸変性ロジン(B)を含有する反応混合物とした後、ヨウ素価140以上の植物油(c)を反応させ、次いで3価以上のポリオール(D)を反応させると、フェノール類やホルムアルデヒド類を全く含有しない条件下の反応であっても比較的容易により短時間で高分子量化、高粘度化すると共に、合成段階で植物油(c)に起因する高級炭化水素基が組み込まれるため、非芳香族系溶剤にも良好な溶解性を持つ変性ロジンエステル樹脂と、未反応の植物油(c)および/または未反応のポリオール(D)を含有する変性ロジンエステル樹脂組成物が製造できること。
【0009】
(2)前記変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法としては、前記(1)の製造方法に限定されるものではなく、ロジン(A)と、ロジン(A)をα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)で変性して得られる酸変性ロジン(B)と、ロジン(A)をヨウ素価140以上の植物油(c)で変性して得られる油変性ロジン(C)と、3価以上のポリオール(D)を反応させる製造方法であればよいこと。
【0010】
(3)前記変性ロジンエステル樹脂組成物の工業的製造方法としては、ロジン(A)とα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)を未反応のロジン(A)と酸変性ロジン(B)を含有する反応混合物と、ヨウ素価140以上の植物油(c)と、3価以上のポリオール(D)を、160℃以上230℃未満で反応させた後、さらに230〜270℃で反応させる製造方法が特に好適であること。
【0011】
(4)前記変性ロジンエステル樹脂組成物は、非芳香族系溶剤に良好な溶解性を持つため、平版インキワニス用として好適であり、炭化水素系溶剤(E)に溶解させることにより容易に平版インキワニスとすることができ、得られたワニスを用いてなるインキはフリーの植物油が少なく、ミスチングや過乳化等による印刷適性不良等の劣化現象が発生しにくいこと。
【0012】
即ち、本発明は、ロジン(A)と、ロジン(A)をα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)で変性して得られる酸変性ロジン(B)と、ロジン(A)をヨウ素価140以上の植物油(c)で変性して得られる油変性ロジン(C)と、3価以上のポリオール(D)を反応させることを特徴とする平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、前記平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物を炭化水素系溶剤(E)に溶解させることを特徴とする平版インキワニスの製造方法、および、前記平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物を炭化水素系溶剤(E)に溶解させた後、ゲル化剤(F)を反応させることを特徴とする平版インキワニスの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法で得られる平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物および平版インキワニスは、アルキルフェノール類やホルムアルデヒド類等を樹脂合成の段階で全く使用しなくても製造できるため、製造環境においても、また印刷作業環境においても、環境汚染物質を全く排出しない環境保全の面でも優れた特性を有している。また、本発明の製造方法で得られる平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物は、前記特許文献1では用いていないヨウ素価140以上の植物油(c)を樹脂中に組み込むことで高分子量化、高粘度化した変性ロジンエステル樹脂を含有するものであるため、平版インキワニス用として充分な粘度と重量平均分子量を有しており、これを使用してなる平版インキはミスチングや過乳化等による印刷適性不良等を抑制できること、かつ、非芳香族系溶剤への高い樹脂溶解性を持つことから、顔料分散性に優れ光沢等の良好な平版インキを調製することができる。この特性は平版インキ用途として従来から使用されているロジン変性フェノール樹脂と比較してもそのインキ特性に何ら遜色が無く、代替使用が可能である。かつ、環境汚染成分を放出しないことから環境改善にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で用いるロジン(A)としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、これらの混合物等のディールス・アルダー反応が可能な共役二重結合を持つロジンが挙げられる。一般にロジンは、松科植物の樹脂液を留去した後の残留樹脂成分を言う。その組成はアビエチン酸を主成分とした樹脂酸と中性成分の各種異性体であり、それらは共役二重結合を持つテルペン類の4量体である。なお、本発明で用いるロジン(A)としては、必要により、不均化されたロジン、二量化されたロジン、水素化されたロジン等の共役二重結合を持たないロジンを20重量%以下の含有率となる範囲で、前記共役二重結合を持つロジンと併用することができるが、高分子量化、高粘度化が容易なことから共役二重結合を持たないロジンの使用比率は小さいことが好ましく、共役二重結合を持たないロジンを使用しないことがより好ましい。共役二重結合を持たないロジンの含有率が20重量%を越えるロジンを用いた場合、高分子量化、高粘度化が困難となるため好ましくない。
【0016】
本発明で用いる酸変性ロジン(B)としては、α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)で前記ロジン(A)を変性してなるものであればよく、例えば、ロジン(A)が有する共役二重結合と、α,β−不飽和カルポン酸またはその無水物(b)が有する不飽和基をディールス・アルダー反応させて得られるカルボキシル基を分子内に3個有する酸変性ロジンが挙げられる。この際の反応温度は通常160℃以上230℃未満、好ましくは180〜220℃であり、反応時間は通常15分間〜4時間、好ましくは20分間〜2時間である。
【0017】
前記α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)としては、ディールス・アルダー反応が可能な種々のα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物を用いることができる。例えば、マレイン酸(cis−ブテン二酸)、無水マレイン酸、フマル酸(trans−ブテン二酸)、イタコン酸(メチレンコハク酸)、無水イタコン酸、クロトン酸(trans−2−ブテン酸)等のような炭素原子数3〜5の鎖状ジカルボン酸および/またはそれらの無水物などが挙げられ、なかでも変性ロジンエステル樹脂組成物を製造する際に高分子量化と高粘度化が容易でゲル化しにくいことから、フマル酸を80重量%以上含有するものが好ましく、フマル酸のみがより好ましい。前記α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物は、2官能酸であり、ロジンとのディールス・アルダー反応によりロジン骨格を多官能化し架橋構造を構築することができ、これにより変性ロジンエステル樹脂の高分子量化、高粘度化が可能となる。酸変性ロジン(A)を得る際のα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)の使用量は、変性ロジンエステル樹脂組成物を製造する際に高分子量化と高粘度化が容易でゲル化しにくいことから、ロジン100重量部に対して5〜30重量部となる量であることが好ましく、5〜20重量部であることがより好ましい。
【0018】
なお、本発明で用いる前記ロジン(A)および前記酸変性ロジン(B)としては、前記酸変性ロジン(B)の製造を、前記ロジン(A)が未反応で残存する条件、すなわち前記ロジン(A)中の共役二重結合がα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)中の不飽和基に対して過剰となる条件で行った際に得られる未反応のロジン(A)と酸変性ロジン(B)の混合物を用いることが好ましい。また、この混合物としては、なかでも変性ロジンエステル樹脂組成物を製造する際に高分子量化と高粘度化が容易でゲル化しにくいことから、酸価200〜300KOHmg/gの混合物であることが好ましく、酸価220〜260KOHmg/gの混合物であることがより好ましく、ロジン(A)100重量部に対して炭素原子数3〜5のα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)5〜20重量部を反応させてなる酸価220〜260KOHmg/gの反応混合物であることが更に好ましい。最も好ましい混合物は、ロジン(A)100重量部に対してフマル酸含有率80重量%以上のα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物5〜20重量部を反応させてなる酸価220〜260KOHmg/gの反応混合物である。
【0019】
本発明で用いる油変性ロジン(C)としては、ヨウ素価140以上の植物油(c)でロジン(A)を変性してなるものであればよく、例えば、ロジン(A)が有する共役二重結合と、ヨウ素価140以上の植物油(c)が有する共役二重結合をディールス・アルダー反応させて得られる植物油変性ロジンが挙げられ、なかでもロジン(A)をヨウ素価140〜200の植物油で変性して得られる油変性ロジンが好ましい。なお、油変性ロジン(C)の製造に際しては、変性に使用した植物油(c)の全部をロジン(A)と反応させる必要はなく、油変性ロジン(C)と共に、未反応の植物油(c)が残存していてもよい。また、この際の反応温度は通常160℃以上230℃未満、好ましくは180〜220℃であり、これらの反応温度内での反応時間は通常1〜4時間、好ましくは1.5〜3時間である。なお、本発明におけるヨウ素価の単位はIg/100gである。
【0020】
前記油変性ロジン(C)を製造する際に用いる植物油(c)としては、ヨウ素価140以上の植物油であればよく、例えば、ヨウ素価140以上の乾性油である桐油、桐油脂肪酸、アマニ油、アマニ油脂肪酸等が挙げられる。また、半乾性油である大豆油、大豆油脂肪酸等の変性物でも混合後のヨウ素価が140以上となる量であれば、ヨウ素価140以上の乾性油と併用できる。ヨウ素価が140未満の植物油を用いたのでは変性ロジンエステル樹脂組成物の分子量が大きくならず、この樹脂組成物を使用したワニスは充分な粘度を得られないため、好ましくない。ヨウ素価140以上の植物油(c)としては、なかでも、ヨウ素価140〜200の植物油が好ましい。
【0021】
本発明で用いるポリオール(D)としては、3価以上のポリオールであればよく、特に限定されないが、3〜4価のポリオールが好ましく、その使用割合はポリオール(D)の全量100重量%に対して、通常70重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは100重量%である。3〜4価のポリオールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール〔C(CHOH)〕、ジペンタエリトリトール、D−ソルビトール(D−グルシトール)などが挙げられる。なお、本発明では、3価以上のポリオール(D)と共に、2価のポリオールを併用することも可能であるが、2価のポリオールを多量に使用したものでは高粘度型の樹脂を得ることが困難となるため、2価のポリオールの使用量は3価以上のポリオール(D)100重量部に対して30重量部以下に制限することが必要である。
【0022】
本発明の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法は、ロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)と3価以上のポリオール(D)を反応させる方法であり、例えば、ロジン(A)と、α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)と、ヨウ素価140以上の植物油(c)を反応させて、ロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)を含有し、未反応の植物油(c)を含有していてもよい反応混合物とした後、この反応混合物と3価以上のポリオール(D)を、好ましくはエステル化反応触媒の存在下で、反応させる方法等が挙げられる。なお、本発明の製造方法で得られる反応生成物には、未反応の植物油(c)および/または未反応のポリオール(D)が残存していてもよい。また、本発明の製造方法における各成分の使用量としては、ロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)の合計100重量部に対して、ロジン(A)が0.5〜6重量部で、酸変性ロジン(B)が21〜75重量部で、油変性ロジン(C)が21〜75重量部で、かつ、3価以上のポリオール(D)が4〜20重量部であることが好ましく、なかでも、ロジン(A)が1〜4重量部で、酸変性ロジン(B)が31〜65重量部で、油変性ロジン(C)が31〜65重量部で、かつ、3価以上のポリオール(D)が6〜15重量部であることがより好ましい。
【0023】
前記本発明の製造方法としては、なかでも、ロジン(A)とα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)を反応させてロジン(A)と酸変性ロジン(B)を含有する反応混合物とした後、ヨウ素価140以上の植物油(c)を反応させ、次いで3価以上のポリオール(D)を反応させる方法が、α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)と植物油(c)の反応が防止でき、変性ロジンエステル樹脂の高分子量化と高粘度化が容易でゲル化しにくいことから好ましい。なお、3価以上のポリオール(D)を反応させる前の系内の反応混合物としては、ロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)を含有し、未反応の植物油(c)を含有していてもよい反応混合物であることが好ましい。
【0024】
前記製造方法において、ロジン(A)と酸変性ロジン(B)を含有する反応混合物を得る際、および、得られた前記反応混合物と植物油(c)の反応の際の反応条件は、いずれもロジン(A)が未反応で残存する条件であれば良く、例えば、ロジン(A)中の共役二重結合がα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)中の不飽和基、および、植物油(c)中の共役二重結合に対していずれも過剰となる条件であることが好ましい。
【0025】
前記本発明の製造方法として工業的に好適な製造方法は、ロジン(A)とα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)を反応させてなるロジン(A)と酸変性ロジン(B)を含有する反応混合物〔以下、反応混合物(1)と略記する。〕と、ヨウ素価140以上の植物油(c)と、3価以上のポリオール(D)を混合し、160℃以上230℃未満、好ましくは180〜220℃で反応させた後、230〜270℃、好ましくは240〜260℃でさらに反応させる方法が挙げられる。なお、反応混合物(1)としては、ロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)と3価以上のポリオール(D)を含有し、未反応の植物油(c)を含有していてもよい反応混合物であることが好ましい。
【0026】
前記工業的に好適な製造方法では、前記反応混合物(1)100重量部に対して、ヨウ素価140以上の植物油(c)を通常4〜80重量部、好ましくは5〜50重量部となる範囲で使用し、3価以上のポリオール(D)を通常5〜30重量部、好ましくは10〜20重量部となる範囲で使用する。また、前記反応混合物(1)としては、前記したように、変性ロジンエステル樹脂の高分子量化と高粘度化が容易でゲル化しにくいことから、ロジン(A)100重量部に対して炭素原子数3〜5のα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)5〜20重量部を反応させてなる酸価220〜260KOHmg/gの反応混合物であることが好ましく、ロジン(A)100重量部に対してフマル酸含有率80重量%以上のα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物5〜20重量部を反応させてなる酸価220〜260KOHmg/gの反応混合物であることが最も好ましい。
【0027】
さらに前記工業的に好適な製造方法では、前記反応混合物(1)と、ヨウ素価140以上の植物油(c)と、3価以上のポリオール(D)を混合した後、まず160℃以上230℃未満、好ましくは180〜220℃という比較的低温で反応させるため、この反応で得られる反応混合物中のロジン(A)と植物油(c)が主に反応して油変性ロジン(C)が生成するが、ロジン(A)や酸変性ロジン(B)と3価以上のポリオール(D)の反応はほとんど進行しない。この際に得られる反応混合物〔以下、反応混合物(2)と略記する。〕としては、ロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)と3価以上のポリオール(D)を含有し、未反応の植物油(c)を含有していてもよい反応混合物であることが好ましい。次いで、この製造方法では、前記反応混合物(2)を230〜270℃、好ましくは240〜260℃でさらに反応させるため、ロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)と3価以上のポリオール(D)の反応による高分子量化、高粘度化が進行する。
【0028】
なお、前記工業的に好適な製造方法において、前記反応混合物(1)と植物油(c)とポリオール(D)の160℃以上230℃未満、好ましくは180〜220℃での反応時間は、通常1〜4時間、好ましくは1.5〜3時間である。次いで、得られた反応混合物(2)の230〜270℃、好ましくは240〜260℃での反応時間は、酸価が10〜30KOHmg/g、好ましくは16〜30KOHmg/gとなるまでの時間であり、通常5〜24時間、好ましくは8〜15時間である。また、この製造方法での反応は、それぞれの温度範囲内で一定とする必要はなく、反応温度をそれぞれの温度範囲内で変化させながら行ってもよく、例えば、ロジン(A)とα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)を160℃以上230℃未満で反応させてなる160℃以上230℃未満の反応混合物に、常温の植物油(c)と常温のポリオール(D)を混合して温度110〜170℃の混合物とした後、昇温速度10〜50℃/hr、好ましくは20〜40℃/hrの条件で昇温することにより、反応混合物(1)と植物油(c)とポリオール(D)の160℃以上230℃未満での反応を行って反応混合物(2)とし、次いで230〜270℃の温度範囲内まで昇温し、さらに反応させることが好ましい。
【0029】
前記本発明の製造方法では、前記ロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)と3価以上のポリオール(D)の4成分と共に、必要に応じてフェノール類、ホルムアルデヒド類およびこれらを反応させてなるフェノール系樹脂を併用することもできるが、必ずしも必要ではない。このため、本発明の製造方法では、生活環境や作業環境の改良のために、フェノール類やホルムアルデヒド類の非存在下で製造することが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法におけるロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)と3価以上のポリオール(D)を反応は、ロジン(A)、酸変性ロジン(B)および油変性ロジン(C)中のカルボキシル基と3価以上のポリオール(D)中の水酸基のエステル化反応と、ロジン(A)および酸変性ロジン(B)中のカルボキシル基と油変性ロジン(C)中のエステル基のエステル交換反応等であるため、得られる変性ロジンエステル樹脂は容易に高分子量化、高粘度化し、ミスチングや過乳化等の発生しにくい印刷適性の改善された平版インキの調製に寄与できるものとなると共に、油変性ロジン(B)中の植物油(c)由来成分が組み込まれて、非芳香族系溶剤への溶解性も向上したものとなる。
【0031】
本発明の製造方法では、通常、得られる平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物〔変性ロジンエステル樹脂と未反応の植物油(c)および/または未反応のポリオール(D)を含有する樹脂組成物。以下、同様。〕の重量平均分子量が2万〜35万となるまで反応させるが、なかでも高粘度で非芳香族系溶剤への溶解性に優れ、過乳化等の印刷適性不良が生じにくい平版インキが得られることから、重量平均分子量が4万〜30万となるまで反応させることが好ましく、7万〜27万となるまで反応させることがより好ましい。なお、この際に得られる変性ロジンエステル樹脂組成物の酸価は、10〜30KOHmg/gであることが好ましく、16〜30KOHmg/gであることがより好ましい。また、変性ロジンエステル樹脂組成物の粘度(濃度60重量%トルエン溶液の25℃におけるガードナー・ホルツ粘度)は、M〜Zであることが好ましく、P〜Zであることがより好ましい。変性ロジンエステル樹脂組成物中の未反応の植物油(c)および/または未反応のポリオール(D)は、いずれも含有しないことが望ましいが、残存してしまうことが通常である。
【0032】
前記エステル化反応触媒としては、例えば、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化力ルシウムなどの2価金属化合物、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸等の酸触媒等が好ましく、なかでも2価金属化合物がより好ましい。2価金属化合物の使用量としては、前記ロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)とポリオール(D)の4成分の合計100重量部に対して、2価金属化合物が0.05〜2重量部となる範囲が好ましい。
【0033】
本発明の平版インキワニスは、本発明の製造方法で得られる平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物を炭化水素系溶剤(E)に溶解させることで得られる。この際、必要に応じて植物油(c′)、アルキド樹脂等を添加することができる。さらに、本発明の平版インキワニスとしては、平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物を炭化水素系溶剤(E)に溶解させた後、ゲル化剤(F)を添加し、反応させることにより、さらに高分子量化、高粘度化することが好ましい。このようにゲル化剤(F)により高分子量化、高粘度化させた平版インキワニスとしては、光沢に優れ、ミスチング、過乳化等が発生しにくい平版インキが得られることから、レオメータ(Reometrics社製Stress Rheometer)を用いた粘弾性測定(温度=25℃、試験方法=Frequency Sweep、測定様式=パラレルプレート、Strain=20%)により求めた周波数が1rad/secの時のEtaが500〜20,000dPa・sで、Tanδが0.6〜10で、周波数が100rad/secの時のEtaが50〜8,000dPa・sで、Tanδが0.6〜10であるものが好ましく、なかでも周波数が1rad/secの時のEtaが1,000〜10,000dPa・sで、Tanδが1〜7で、周波数が100rad/secの時のEtaが100〜4,000dPa・sで、Tanδが1〜5であるものがより好ましい。
【0034】
ここで用いる前記炭化水素系溶剤(E)としては、特に限定はないが、なかでも沸点200〜360℃の石油系炭化水素系溶剤が好ましい。これは平版インキの粘度調整と平版インキの乾燥性を早めるために添加される。近年は作業環境の改善を目的に芳香族成分を全く含まないか、またはその含有量が1重量%以下であるナフテン系溶剤、パラフィン系溶剤が好ましく使用される。市販品としては、例えば、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、AF4号ソルベント、AF5号ソルベント、AF6号ソルベント、AF7号ソルベント〔以上、新日本石油(株)製〕等が挙げられる。
【0035】
また、前記植物油(c′)としては、前記したヨウ素価140以上の植物油(c)やヨウ素価140未満の植物油、例えば半乾性油である大豆油、大豆油脂肪酸等の変性物が挙げられるが、なかでもヨウ素価140以上の植物油(c)であることが好ましい。ただし、近年の環境対応用平版インキワニスには大豆油の使用が好まれている。前記植物油(c′)の使用量としては、光沢に優れ、ミスチング、過乳化等が発生しにくい平版インキが得られる点で、前記本発明の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂から製造時に使用した植物油(c)成分を除いた樹脂分100重量部に対して、製造時に使用した植物油(c)成分と前記植物油(c′)の合計が4〜100重量部となる範囲が好ましく、なかでも5〜80重量部となる範囲がより好ましい。
【0036】
さらに、前記ゲル化剤(F)としては、例えば、オクチル酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、オクチル酸ジルコニウム、アルミニウムトリイソプロポキサイド、アルミニウムジプロポキサイドモノアセチルアセトナート等が挙げられる。その使用量は、平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂を炭化水素系溶剤(E)に溶解させた溶液とゲル化剤(F)の合計100重量部に対して、ゲル化剤(F)が0.1〜5重量部となる範囲が好ましく、0.2〜3重量部となる範囲がより好ましい。
【0037】
本発明の平版インキワニスの調製方法としては、例えば、温度計付き四つ口フラスコに本発明の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物40〜80重量部、前記植物油(c′)0〜30重量部、炭化水素溶剤(E)10〜70重量部等を仕込み、不活性ガス気流下、180〜220℃で溶解させ、オフ輪インキ用、枚葉インキ用、水無インキ用、新聞インキ用等の各種平版印刷用途に合わせてB型粘度計による粘度が500〜8000dPa・s/25℃になるように調整する方法が挙げられる。
【0038】
本発明の平版インキワニスを用いた平版インキの調製方法としては、例えば、本発明の平版インキワニスと顔料、さらに必要により乾燥促進剤、その他の添加剤等を、三本ロールやジェットミル等の混練機を用いて混練りして、平版インキワニス中に顔料を分散させる方法が好ましい。
【0039】
前記顔料としては、各種の顔料がいずれも使用でき、例えばベンジジンイエロー、レーキレッドC、カーミン6B、フタロシアニン青、カーボン黒等が挙げられる。さらに無機顔料や、流動性調整剤等の体質顔料も用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例と比較例を挙げて、本発明の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物と平版インキワニス、さらにこれらを用いた平版インキについて、より詳細に説明する。
【0041】
実施例1
反応容器中に、ガムロジン(酸価165KOHmg/g)1000gとフマル酸106gを投入し、窒素気流下で220℃にて1時間加熱攪拌して酸変性ガムロジンと未反応ガムロジンを含有する酸価242KOHmg/gの反応混合物を得た後、亜麻仁油317gとペンタエリスリトール162gを添加・混合し、更に触媒として酸化マグネシウム1.5gを添加して撹拌・混合したところ、反応容器内の温度は161℃となった。次いで、この反応容器を加熱し、昇温速度30℃/hrで270℃まで昇温しながら反応させた後、さらに270℃で酸価が20KOHmg/g以下になるまで反応させて、変性ロジンエステル樹脂と未反応の亜麻仁油とペンタエリスリトールを含有した本発明の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−1)を得た。得られた平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−1)について、酸価、重量平均分子量、粘度および溶剤溶解性(AFソルベント7号溶解性)を測定した。結果を第1表(1)に示す。
【0042】
なお、酸価、重量平均分子量、粘度および溶剤溶解性(AFソルベント7号溶解性)の測定は、以下のように行った。
・酸価:JIS K 5601−2−1(1999)に準拠して測定した。
・重量平均分子量:東ソー(株)製ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(HLC8020)を使用し、ポリスチレン換算の検量線から求めた。
・粘度:平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−1)をトルエンに溶解させて60重量%のトルエン溶液とした後、ガードナー・ホルツ粘度管に詰めて、25℃での粘度を求めた。
・溶剤溶解性(AFソルベント7号溶解性):平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−1)をAFソルベント7号〔新日本石油(株)製石油系溶剤〕に加熱下で溶解し、25℃に冷却したときに溶液が白濁するまでに要したAFソルベント7号の前記変性ロジンエステル樹脂組成物(R−1)1g当たりの容量(ml/g)で示す。
【0043】
実施例2
反応容器中に、ガムロジン(酸価165KOHmg/g)1000gとフマル酸106gを投入し、窒素気流下で200℃にて30分間加熱攪拌して酸変性ガムロジンと未反応ガムロジンを含有する酸価240KOHmg/gの反応混合物を得た後、亜麻仁油240gとペンタエリスリトール162gを添加・混合し、更に触媒として酸化マグネシウム1.5gを添加して撹拌・混合したところ、反応容器内の温度は155℃となった。次いで、この反応容器を加熱し、昇温速度30℃/hrで260℃まで昇温しながら反応させた後、さらに260℃で酸価が25KOHmg/g以下になるまで反応させて、変性ロジンエステル樹脂と未反応の亜麻仁油とペンタエリスリトールを含有した本発明の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−2)を得た。得られた平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−2)について、酸価、重量平均分子量、粘度および溶剤溶解性(AFソルベント7号溶解性)を測定した。結果を第1表(1)に示す。
【0044】
実施例3
反応容器中に、ガムロジン(酸価165KOHmg/g)1000gとフマル酸106gを投入し、窒素気流下で200℃にて30分間加熱攪拌して酸変性ガムロジンと未反応ガムロジンを含有する酸価240KOHmg/gの反応混合物を得た後、亜麻仁油160gとペンタエリスリトール162gを添加・混合し、更に触媒として酸化マグネシウム1.5gを添加して撹拌・混合したところ、反応容器内の温度は160℃となった。次いで、この反応容器を加熱し、昇温速度30℃/hrで260℃まで昇温しながら反応させた後、さらに260℃で酸価が30KOHmg/g以下になるまで反応させて、変性ロジンエステル樹脂と未反応の亜麻仁油とペンタエリスリトールを含有した本発明の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−3)を得た。得られた平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−3)について、酸価、重量平均分子量、粘度および溶剤溶解性(AFソルベント7号溶解性)を測定した。結果を第1表(1)に示す。
【0045】
実施例4
反応容器中に、ガムロジン(酸価165KOHmg/g)1000gとフマル酸106gを投入し、窒素気流下で200℃にて30分間加熱攪拌して酸変性ガムロジンと未反応ガムロジンを含有する酸価240KOHmg/gの反応混合物を得た後、亜麻仁油222gと大豆油95gとペンタエリスリトール162gを添加・混合し、更に触媒として酸化マグネシウム1.6gを添加して撹拌・混合したところ、反応容器内の温度は145℃となった。次いで、この反応容器を加熱し、昇温速度30℃/hrで260℃まで昇温しながら反応させた後、さらに260℃で酸価が20KOHmg/g以下になるまで反応させて、変性ロジンエステル樹脂と未反応の亜麻仁油と大豆油とペンタエリスリトールとを含有した本発明の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−4)を得た。得られた平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−4)について、酸価、重量平均分子量、粘度および溶剤溶解性(AFソルベント7号溶解性)を測定した。結果を第1表(2)に示す。
【0046】
実施例5
反応容器中に、ガムロジン(酸価165KOHmg/g)1000gとフマル酸106gを投入し、窒素気流下で220℃にて1時間加熱攪拌して酸変性ガムロジンと未反応ガムロジンを含有する酸価242KOHmg/gの反応混合物を得た後、亜麻仁油157gと桐油160gとペンタエリスリトール162gを添加・混合し、更に触媒として酸化マグネシウム1.6gを添加して撹拌・混合したところ、反応容器内の温度は158℃となった。次いで、この反応容器を加熱し、昇温速度30℃/hrで270℃まで昇温しながら反応させた後、さらに270℃で酸価が20KOHmg/g以下になるまで反応させて、変性ロジンエステル樹脂と未反応の亜麻仁油と大豆油とペンタエリスリトールとを含有した本発明の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−5)を得た。得られた平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−5)について、酸価、重量平均分子量、粘度および溶剤溶解性(AFソルベント7号溶解性)を測定した。結果を第1表(2)に示す。
【0047】
実施例6
反応容器中に、ガムロジン(酸価165KOHmg/g)1000gと無水マレイン酸75.7gを投入し、窒素気流下で220℃にて1時間加熱攪拌して酸変性ガムロジンと未反応ガムロジンを含有する酸価235KOHmg/gの反応混合物を得た後、亜麻仁油317gとペンタエリスリトール152.5gを添加・混合し、更に触媒として酸化マグネシウム1.5gを撹拌・混合したところ、反応容器内の温度は152℃となった。次いで、この反応容器を加熱し、昇温速度30℃/hrで270℃まで昇温しながら反応させた後、さらに270℃で酸価が20KOHmg/g以下になるまで反応させて、変性ロジンエステル樹脂と未反応の亜麻仁油とペンタエリスリトールを含有した本発明の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−6)を得た。得られた平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−6)について、酸価、重量平均分子量、粘度および溶剤溶解性(AFソルベント7号溶解性)を測定した。結果を第1表(2)に示す。
【0048】
比較例1
反応容器中に、ガムロジン(酸価165mgKOH/g)1000gとフマル酸106gを投入し、窒素気流下で220℃にて1時間加熱攪拌して酸変性ガムロジンと未反応ガムロジンを含有する酸価245KOHmg/gの反応混合物を得た後、大豆油317gとペンタエリスリトール170gを添加・混合し、更に触媒として酸化マグネシウム1.5gを添加して撹拌・混合したところ、反応容器内の温度は155℃となった。次いで、この反応容器を加熱し、昇温速度30℃/hrで270℃まで昇温しながら反応させた後、さらに270℃で酸価が25KOHmg/g以下になるまで反応させて、比較用の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(CR−1)を得た。得られた平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(CR−1)について、酸価、重量平均分子量、粘度および溶剤溶解性(AFソルベント7号溶解性)を測定した。結果を第2表に示す。
【0049】
比較例2
反応容器中に、ガムロジン(酸価165KOHmg/g)1000gとフマル酸106gを投入し、窒素気流下で220℃にて1時間加熱攪拌して酸変性ガムロジンと未反応ガムロジンを含有する酸価242KOHmg/gの反応混合物を得た後、ペンタエリスリトール243gを添加・混合し、更に触媒として酸化マグネシウム1.6gを添加して撹拌・混合したところ、反応容器内の温度は185℃となった。次いで、この反応容器を加熱し、昇温速度30℃/hrで270℃まで昇温しながら反応させた後、さらに270℃で酸価が25KOHmg/g以下になるまで反応させて、変性ロジンエステル樹脂と未反応のペンタエリスリトールを含有した比較用の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(CR−2)を得た。得られた平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(CR−2)について、酸価、重量平均分子量、粘度および溶剤溶解性(AFソルベント7号溶解性)を測定した。結果を第2表に示す。
【0050】
比較例3
反応容器中に、ガムロジン(酸価165KOHmg/g)1000gと無水マレイン酸111gを投入し、窒素気流下で220℃にて1時間加熱攪拌して酸変性ガムロジンと未反応ガムロジンを含有する酸価263KOHmg/gの反応混合物を得た後、1,8−オクタンジオール194gとペンタエリスリトール97gを添加・混合し、更に触媒として酸化マグネシウム1.5gを添加して撹拌・混合したところ、反応容器内の温度は158℃となった。次いで、この反応容器を加熱し、昇温速度30℃/hrで270℃まで昇温しながら反応させた後、さらに270℃で酸価が25KOHmg/g以下になるまで反応させて、変性ロジンエステル樹脂と未反応の1,8−オクタンジオールとペンタエリスリトールとを含有した比較用の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(CR−3)を得た。得られた平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(CR−3)について、酸価、重量平均分子量、粘度および溶剤溶解性(AFソルベント7号)を測定した。結果を第2表に示す。
【0051】
比較例4
反応容器中に、ガムロジン(酸価165KOHmg/g)1000gとフマル酸132gを投入し、窒素気流下で220℃にて1時間加熱攪拌して酸変性ガムロジンと未反応ガムロジンを含有する酸価260KOHmg/gの反応混合物を得た後、1,8−オクタンジオール194gとペンタエリスリトール97gを添加・混合し、更に触媒として酸化マグネシウム1.5gを添加して撹拌・混合したところ、反応容器内の温度は176℃となった。次いで、この反応容器を加熱し、昇温速度30℃/hrで270℃まで昇温しながら反応させた後、さらに270℃で酸価が25KOHmg/g以下になるまで反応させて、変性ロジンエステル樹脂と未反応の1,8−オクタンジオールとペンタエリスリトールとを含有した比較用の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(CR−4)を得た。得られた平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(CR−4)について、酸価、重量平均分子量、粘度および溶剤溶解性(AFソルベント7号溶解性)を測定した。結果を第2表に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
実施例7〜12および比較例5
攪拌機、水分離冷却管、温度計付き四つ口フラスコに、平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−1)〜(R−6)または(CR−1)56重量部と、亜麻仁油9重量部と、AFソルベント5号〔新日本石油(株)製石油系非芳香族溶剤〕30重量部を投入し、窒素ガスを吹き込みながら昇温し、200℃で攪拌しながら30分間保温して粘度を1,000〜2,000dPa・sの範囲内に調整した。その後160℃に冷却し、ゲル化剤〔ホープ製薬(株)製Chelope−Al〕1.0重量部を添加した後、200℃に昇温し、60分間保温して本発明の平版インキワニス(V−1)〜(V−6)と比較用の平版インキワニス(CV−1)を得、それぞれについて25℃におけるB型粘度計による粘度を測定すると共に、レオメータ(Reometrics社製Stress Rheometer)を用いた粘弾性測定(温度=25℃、試験方法=Frequency Sweep、測定様式=パラレルプレート、Strain=20%)により、周波数が1rad/secの時と100rad/secの時のEtaとTanδを求めた。それぞれの結果を第3表(1)〜(2)と第4表に示す。
【0056】
なお、実施例7〜12と比較例5において用いた平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−1)〜(R−6)と(CR−1)の仕込み量56重量部は、植物油変性量を勘案し樹脂分〔実施例1〜6と比較例1で得た平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−1)〜(R−6)と(CR−1)の56重量部から、製造時に使用した亜麻仁油、大豆油等の植物油成分11重量部を除いた樹脂成分〕が、後記する比較例6〜8において用いた植物油成分を含有しない比較用の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(CR−2)〜(CR−4)の仕込み量45重量部と同量の45重量部になる様に調整した。さらに、亜麻仁油の仕込み量9重量部も、前記変性ロジンエステル樹脂組成物(R−1)〜(R−6)と(CR−1)中に含有されている亜麻仁油、大豆油等の植物油成分11重量部を勘案してワニス系全体で植物油成分が、後記する比較例6〜8において用いた植物油成分20重量部と同量の20重量部になる様に調整した。
【0057】
比較例6〜8
本発明の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(R−1)〜(R−6)および(CR−1)56重量部の代わりに、比較用の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物(CR−2)〜(CR−4)45重量部を用い、亜麻仁油の使用量を20重量部に変更した以外は実施例6〜12および比較例5と同様にして、比較用の平版インキワニス(CV−2)〜(CV−4)を得、次いで同様にして、それぞれの粘度と、周波数が1rad/secの時と100rad/secの時のEtaとTanδを求めた。それぞれの結果を第4表に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【0061】
試験例1〜6および比較試験例1〜4
実施例7〜12および比較例5〜8で得られた平版インキワニス(V−1)〜(V−6)および(CV−1)〜(CV−4)のそれぞれ60重量部に対して、紅顔料としてブリリアントカーミン6B−233〔大日本インキ化学工業(株)製〕17重量部をそれぞれ加えて三本ロールで混練して顔料を分散させた後、AFソルベント5号と追加の平版インキワニスを合計で23重量部(AFソルベント5号5〜23重量部、追加の平版インキワニス0〜18重量部、第5表および第6表参照)と、ドライヤーとしてのナフテン酸コバルト1重量部を添加してさらに混練して、タック値が9.0〜9.5/25℃の平版インキ(I−1)〜(I−6)と(CI−1)〜(CI−4)を得た。得られた平版インキの特性(タック値、流動性、乾燥時間、光沢、ミスチング、最大乳化率)を以下のようにして測定または評価した。その結果を第5表(1)〜(2)および第6表に示す。
【0062】
・タック値:デジタルインコメーター〔東洋精機(株)製〕を用い、ロール温度32℃、ロール回転数400rpm、室温25℃の条件で、JIS K 5701(2000)に準拠して、平版インキを投入してから60秒後のタック値を求めた。
【0063】
・流動性:平行板粘度計〔東洋精機(株)製〕を用い、室温25℃でJIS K 5701(2000)に準拠して、平版インキを投入してから60秒後のインキの広がり(直径:mm)を求めた。
【0064】
・乾燥時間:大蔵省印刷局朝陽会式乾燥方法に準拠してインキ付着が確認できなくなるまでの時間を求めた。室温25℃、湿度60%RHの条件下で朝陽会式乾燥試験器を用い、硫酸紙に平版インキを展色して上質紙を上に重ね、ドラムに巻き付け押圧車を上に載せてドラムを回転させて、インキの跡がつかなくなるまでの時間を求めた。
【0065】
・光沢:片面アートコート紙〔王子製紙(株)製〕のコート面上に、回転式インキ展色機RI−2〔(株)明製作所製〕2分割ロールで平版インキ0.15ml展色し、100℃のオーブンを10秒間通過させ、1日間放置した後の展色された平版インキの光沢値を、光沢計VG−2000〔日本電色工業(株)製〕を用いて、反射角60°、室温25℃の条件で測定した。
【0066】
・ミスチング:デジタルインコメーター〔東洋精機(株)製〕に平版インキ1.31mlを投入し、室温25℃、ロール温度42℃、1200rpmで10分間ロールを回転させた後のロールの下面と前面に配置した白色紙への平版インキも飛散状態を観察し、インキの飛散がないか、あってもほんの僅かで実用上全く問題のないものを○、インキの飛散が若干あるものを△、インキの飛散が著しいものを×と評価した。
【0067】
・最大乳化率:リソトロニック乳化試験機〔独国ノボコントロール(Novocontrol)社製〕に平版インキ25gを投入し、40℃に昇温した後、攪拌機回転数1200rpmの攪拌下で攪拌トルクを測定しながら蒸留水を4ml/分の割合で添加し、添加した水分が飽和量に達した時点(インキと水が分離して攪拌トルクが低下を開始した時点)の水分量を最大乳化率(重量%)として求めた。
【0068】
【表7】

【0069】
【表8】

【0070】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジン(A)と、ロジン(A)をα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)で変性して得られる酸変性ロジン(B)と、ロジン(A)をヨウ素価140以上の植物油(c)で変性して得られる油変性ロジン(C)と、3価以上のポリオール(D)を反応させることを特徴とする平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
ロジン(A)と、α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)と、ヨウ素価140以上の植物油(c)を反応させて、ロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)を含有し、未反応の植物油(c)を含有していてもよい反応混合物とした後、この反応混合物と3価以上のポリオール(D)を反応させる請求項1に記載の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
ロジン(A)とα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)を反応させてロジン(A)と酸変性ロジン(B)を含有する反応混合物とした後、ヨウ素価140以上の植物油(c)を反応させ、次いで3価以上のポリオール(D)を反応させる請求項1に記載の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
ロジン(A)とα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物(b)を反応させてなるロジン(A)と酸変性ロジン(B)を含有する反応混合物(1)と、ヨウ素価140以上の植物油(c)と、3価以上のポリオール(D)を混合し、160℃以上230℃未満で反応させた後、さらに230〜270℃で反応させる請求項1に記載の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
ロジン(A)と酸変性ロジン(B)を含有する反応混合物100重量部に対して、ヨウ素価140以上の植物油(c)10〜80重量部と、3価以上のポリオール(D)10〜20重量部を混合する請求項4に記載の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
ロジン(A)と酸変性ロジン(B)を含有する反応混合物がロジン(A)100重量部に対して炭素原子数3〜5のα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物5〜20重量部を反応させてなる酸価220〜260KOHmg/gの反応混合物である請求項5に記載の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
160以上230℃未満での反応を、昇温速度10〜50℃/hrの条件で昇温しながら行う請求項4に記載の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
ロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)の合計100重量部に対して、ロジン(A)の使用量が0.5〜6重量部で、酸変性ロジン(B)の使用量が21〜75重量部で、油変性ロジン(C)の使用量が21〜75重量部で、かつ、3価以上のポリオール(D)の使用量が4〜20重量部である請求項1に記載の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
油変性ロジン(C)がロジン(A)をヨウ素価140〜200の植物油で変性して得られる油変性ロジンである請求項1に記載の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
酸変性ロジン(B)がロジン(A)をフマル酸含有率80重量%以上のα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物で変性して得られる酸変性ロジンである請求項9に記載の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
3価以上のポリオール(D)が3〜4価のポリオールである請求項10に記載の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
ロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)と3価以上のポリオール(D)の反応を、フェノール類およびホルムアルデヒド類の非存在下で行う請求項1〜11のいずれか1項に記載の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
ロジン(A)と酸変性ロジン(B)と油変性ロジン(C)と3価以上のポリオール(D)の反応で得られる変性ロジンエステル樹脂の重量平均分子量が4万〜30万となるまで反応させる請求項12に記載の平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の製造方法で得られる平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物を炭化水素系溶剤(E)に溶解させることを特徴とする平版インキワニスの製造方法。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の製造方法で得られる平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物を炭化水素系溶剤(E)に溶解させた後、ゲル化剤(F)を反応させることを特徴とする平版インキワニスの製造方法。
【請求項16】
平版インキワニス用変性ロジンエステル樹脂組成物を炭化水素系溶剤(E)に溶解させた後、ゲル化剤(F)を反応させて、レオメータ(測定温度25℃)を用いた粘度測定における周波数1rad/secの時のEtaが1,000〜10,000dPa・sで、Tanδが1〜7であり、かつ、周波数100rad/secの時のEtaが100〜4,000dPa・sで、Tanδが1〜5の平版インキワニスとする請求項15に記載の平版インキワニスの製造方法。

【公開番号】特開2006−111849(P2006−111849A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101488(P2005−101488)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】