説明

平版印刷版の作製方法及び処理液組成物

【課題】水洗工程を必要としない1浴現像処理工程による簡易な処理が可能であり、印刷を継続した場合でも、画像部の耐刷性が良好であり、非画像部の汚れ発生が防止された平版印刷版が作製される平版印刷版の作製方法及び該作製方法に好適に使用される処理液組成物が提供する。
【解決手段】アルミニウム支持体上に、赤外線感受性ポジ型記録層を有するポジ型感光性平版印刷版を、赤外線レーザにより画像様に露光する露光工程と、露光後の前記平版印刷版原版を、pHが5〜10.7であり、側鎖にベタイン構造を有する構造単位と側鎖にアルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有する構造単位とを構成成分として含む水溶性高分子化合物を含有する水溶液と接触させて、前記記録層の露光部領域の除去と、記録層が除去されて露出したアルミニウム支持体表面の親水化処理とを行う現像工程と、この順に有する平版印刷版の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平版印刷版の作製方法、及び、該作製方法に使用される処理液組成物、特に、水洗工程を必要としない簡易処理が可能な平版印刷版の作製方法及び処理液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、平版印刷版は、印刷過程でインキを受容する親油性の画像部と、湿し水を受容する親水性の非画像部とからなる。平版印刷版は、水と印刷インキが互いに反発する性質を利用して、親油性の画像部をインキ受容部、親水性の非画像部を湿し水受容部(インキ非受容部)として、平版印刷版の表面にインキの付着性の差異を生じさせ、画像部のみにインキを着肉させた後、紙などの被印刷体にインキを転写して印刷する方法である。
この平版印刷版を作製するため、従来、親水性の支持体上に親油性の感光性樹脂層(単に、記録層とも称する)を設けてなる平版印刷版原版(PS版)が広く用いられている。通常は、平版印刷版原版を、リスフィルムなどの原画を通した露光を行った後、記録層の画像部となる部分を残存させ、それ以外の不要な記録層をアルカリ性現像液又は有機溶剤によって溶解除去し、親水性の支持体表面を露出させて非画像部を形成する方法により製版を行って、平版印刷版を得ている。
【0003】
近年、画像情報をコンピュータで電子的に処理し、蓄積し、出力する、デジタル化技術が広く普及してきており、このようなデジタル化技術に対応した新しい画像出力方式が種々実用されるようになってきている。これに伴い、レーザ光のような高収斂性の輻射線にデジタル化された画像情報を担持させて、その光で平版印刷版原版を走査露光し、リスフィルムを介することなく、直接平版印刷版を製造するコンピュータ・トゥ・プレート(CTP)技術が注目されてきている。従って、このような技術に適応した平版印刷版原版を得ることが重要な技術課題の一つとなっている。
【0004】
また、従来の平版印刷版原版の製版工程においては、露光の後、不要な記録層を現像液などによって溶解除去する工程が必要であるが、環境及び安全上、より中性域に近い現像液での処理や少ない廃液が課題として挙げられている。特に、近年、地球環境への配慮から湿式処理に伴って排出される廃液の処分が産業界全体の大きな関心事となっており、上記課題解決の要請は一層強くなってきている。
【0005】
上述のように、現像液の低アルカリ化、処理工程の簡素化は、地球環境への配慮と省スペース、低ランニングコストへの適合化との両面から、従来にも増して強く望まれるようになってきている。しかしながら、従来の現像処理工程は、pH11を超える強アルカリ水溶液で現像する工程、水洗浴にてアルカリ現像液を除去する水洗工程、その後、親水性樹脂を主成分とするガム液で処理する工程(ガム引き工程とも称する)という3つの工程からなっており、そのため自動現像機自体も大きくスペースを取ってしまい、さらに現像廃液、水洗廃液、ガム廃液処理の問題等、環境及びランニングコスト面での課題を残している。
【0006】
これに対して、例えば、アルカリ金属の炭酸塩及び炭酸水素塩を有するpH8.5〜11.5、導電率3〜30mS/cmの現像液で処理する現像方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法では高アルカリ剤による問題点は軽減されるものの、現像後の水洗工程及びガム液処理工程は必要とされることから、廃液処理量の低減といった環境及びランニングコスト面における課題解決には至っていない。
この問題を解決すべく、現像後の水洗処理を不要とする、現像とガム引きとを1浴で処理する試みが種々なされおり、例えば、アミノ基と酸基とを有する親水性ポリマーを使用した処理液組成物を使用すて1浴処理を行って、露光部記録層の現像と露出した支持体の親水化処理とを行う平版印刷版の処理方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−65126号公報
【特許文献2】特表2010−521423公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記特許文献2に記載の処理方法では、非画像部のアルミニウム支持体表面に施した親水化処理の耐久性に劣るため、印刷を継続するに従い、非画像部の汚れが発生しやすくなるという問題があった。
上記問題点を考慮してなされた本発明の目的は、水洗工程を必要としない1浴現像処理工程による簡易な処理が可能であり、印刷を継続した場合でも、画像部の耐刷性が良好であり、非画像部の汚れ発生が防止された平版印刷版が作製される平版印刷版の作製方法及び該作製方法に好適に使用される処理液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは検討の結果、現像処理液組成物中にアルミニウム支持体との密着性に優れた部分構造を有する高分子化合物を用いることで課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明の構成は以下に示すとおりである。
<1> アルミニウム支持体上に、赤外線感受性ポジ型記録層を有するポジ型感光性平版印刷版を、赤外線レーザにより画像様に露光する露光工程と、露光後の前記平版印刷版原版を、pHが5〜10.7であり、側鎖にベタイン構造を有する構造単位と側鎖にアルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有する構造単位とを構成成分として含む水溶性高分子化合物を含有する水溶液と接触させて、前記記録層の露光部領域の除去と、記録層が除去されて露出したアルミニウム支持体表面の親水化処理とを行う現像工程とを、この順に有する平版印刷版の作製方法。
【0010】
<2> 前記アルミニウム支持体表面と相互作用する官能基が、リンの酸素酸基及びオニウム基から選択される官能基である<1>に記載の平版印刷版の作製方法。
<3> 前記リンの酸素酸基が、リン酸エステル基又はホスホン酸基である<2>に記載の平版印刷版の作製方法。
<4> 前記水溶液が、さらに、炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含有する<1>〜<3>のいずれか1つに記載の平版印刷版の作製方法。
<5> 前記水溶液が、さらに、界面活性剤を0.01質量%〜20質量%含有する<1>〜<4>のいずれか1つに記載の平版印刷版の作製方法。
<6> 前記現像工程の後に水洗工程を有さない<1>〜<5>のいずれか1つに記載の平版印刷版の作製方法。
<7> 前記記録層が、(A)赤外線吸収剤及び(B)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂を含有する<1>〜<6>のいずれか1つ記載の平版印刷版の作製方法。
【0011】
<8> 前記記録層が、(C)アルカリ可溶性樹脂を含有する下層と、(B)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂を含有する上層と、からなる重層構造の記録層であり、前記上層及び前記下層の少なくとも1層に(A)赤外線吸収剤を含有する<1>〜<7>のいずれか1つに記載の平版印刷版の作製方法。
<9> 側鎖にベタイン構造を有する構造単位と側鎖にアルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有する構造単位とを構成成分として含む水溶性高分子化合物、及び、水を含有し、pHが5〜10.7であり、アルミニウム支持体上に赤外線感受性ポジ型記録層を有するポジ型感光性平版印刷版原版の製版に使用され処理液組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水洗工程を必要としない1浴現像処理工程による簡易な処理が可能であり、印刷を継続した場合でも、画像部の耐刷性が良好であり、非画像部の汚れ発生が防止された平版印刷版が作製される平版印刷版の作製方法及び該作製方法に好適に使用される処理液組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の平版印刷版の作製方法に用いうる自動現像処理機の構造の一態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<平版印刷版の作製方法>
本発明に係る平版印刷版の作製方法は、アルミニウム支持体上に、赤外線感受性ポジ型記録層を有するポジ型感光性平版印刷版を、赤外線レーザにより画像様に露光する露光工程と、露光後の前記平版印刷版原版を、pHが5〜10.7であり、側鎖にベタイン構造を有する構造単位と側鎖にアルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有する構造単位とを構成成分として含む水溶性高分子化合物を含有する水溶液と接触させて、前記記録層の露光部領域の除去と、記録層が除去されて露出したアルミニウム支持体表面の親水化処理とを行う現像工程とを、この順に有することを特徴とする。
【0015】
本発明の作製方法は、ポジ型の記録層を有する平版印刷版原版を処理して平版印刷版を得る作製方法であって、水洗工程を必要とせず、1浴の処理液組成物を用いた処理により、ポジ型記録層における露光領域の現像、除去処理と、露光領域において記録層が除去されて露出したアルミニウム支持体表面の親水化処理とを1工程で簡易に行いうるとともに、得られた平版印刷版は画像部の耐刷性が良好であり、また、支持体表面の親水化処理の耐久性が良好であるため、多数枚を印刷した後も汚れの発生が効果的に抑制され、優れた画質の印刷物を多数枚得ることができる。
さらに、通常は、現像工程、水洗工程、及びガム引き工程の3工程を経ることを要するところ、本発明の製造方法によれば、1浴1工程で現像処理が行われ、使用される処理液組成物も比較的pHが低く、処理が簡易に行われるとともに、処理を必要とする廃液量も従来の作製方法に比較して著しく低減される。
【0016】
本発明の製造方法においては、処理液組成物として、比較的低pHのアルカリ水溶液に、側鎖にアルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有する構成成分と側鎖にベタイン構造を有する構成成分との共重合体(以下、適宜、特定水溶性高分子化合物と称する)を含有する水溶液を用いることが特徴の1つである。
本発明に係る特定水溶性高分子化合物は、アルミニウム支持体表面と相互作用(吸着)する官能基とベタイン構造とを分子内に有するため、現像処理により未露光部記録層が除去され、露出した非画像部のアルミニウム支持体表面が処理液組成物に接触することで該支持体表面に、当該特定水溶性高分子化合物が吸着し、非画像部の親水性が向上する。また、吸着した高分子化合物は、支持体表面と強固に密着するため、印刷中も非画像部の支持体表面から脱離することなく、非画像部における親水性が長期間維持される。
【0017】
<処理液組成物>
始めに、本発明の平版印刷版の作製方法において用いられる水溶液(以下、処理液組成物とも言う)について説明する。本発明の処理液組成物は、側鎖にベタイン構造を有する構造単位と側鎖にアルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有する構造単位とを構成成分として含む水溶性高分子化合物(特定水溶性高分子化合物)、及び、水を含有し、pHが5〜10.7の水溶液である。
上記pHの範囲において、露光部の記録層の除去性と画像部の耐刷性のいずれもが良好となる。
処理液組成物には、さらに、界面活性剤(アニオン系、ノニオン系、カチオン系、両性イオン系等)を含有することが好ましい。
【0018】
(特定水溶性高分子化合物)
本発明の処理液組成物に含まれる特定水溶性高分子化合物について説明する。
特定水溶性高分子化合物は、側鎖にベタイン構造を有する構造単位と側鎖にアルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有する構造単位とを構成成分として含む共重合体であり、水溶性の高分子化合である。
なお、本発明における「水溶性」とは、25℃の水に0.5質量%以上溶解することを意味し、1質量%以上溶解することが好ましい。
【0019】
本発明に係る特定水溶性高分子化合物が有する「アルミニウム支持体表面と相互作用する官能基」としては、アルミニウム支持体上に存在する金属、金属酸化物、水酸基などと共有結合、イオン結合、水素結合、極性相互作用などの結合又は相互作用を形成可能な官能基が挙げられる。これらのなかでも、アルミニウム支持体表面と吸着する官能基(以下、吸着性基とも称する)が好ましい。分子内に所定量の吸着性基を有することで、当該高分子化合物は支持体表面への吸着性を有することになる。
【0020】
特定水溶性高分子化合物の支持体表面への吸着性の有無に関しては、例えば以下のような方法で判断できる。
評価対象である水溶性高分子化合物(以下、試験化合物とも称する)を易溶性の溶媒に溶解させた塗布液を作製し、その塗布液を乾燥後の塗布量が30mg/m2となるように支持体上に塗布、乾燥させる。試験化合物を塗布した支持体を、易溶性溶媒を用いて十分に洗浄した後、洗浄除去されなかった試験化合物の残存量を測定して支持体吸着量を算出する。ここで残存量の測定は、残存化合物量を直接定量してもよいし、洗浄液中に溶解した試験化合物量を定量して算出してもよい。試験化合物の定量は、例えば蛍光X線測定、反射分光吸光度測定、液体クロマトグラフィー測定で実施できる。
本発明において支持体吸着性がある化合物とは、上記のような評価を行った場合、洗浄処理後に0.1mg/m2以上残存する化合物を指すものとする。
【0021】
特定構造の水溶性高分子化合物におけるアルミニウム支持体表面への吸着性基は、アルミニウム支持体表面に存在する物質、例えば、アルミニウム金属、アルミニウム金属酸化物等、アルミニウム支持体表面に存在する官能基、例えば、水酸基等から選ばれるものと化学結合、或いは、強い相互作用を形成しうる官能基を指し、具体的には、リンの酸素酸基、及び、オニウム基から選ばれる1種以上の官能基が挙げられ、好ましくは、リンの酸素酸基である。
リンの酸素酸基の例としては、リン酸エステル基及びホスホン酸基、ホスフィン酸基等が挙げられる。なかでも、リン酸エステル基、及びホスホン酸基が特に好ましい。これらは塩を形成していてもよく、塩としては、カリウム塩などの金属塩、アンモニウム塩などのオニウム塩が挙げられる。
オニウム基の例としては、アンモニウム基(ピリジニウム基等の環状アンモニウム基を含む)、ホスホニウム基、スルホニウム基、等が挙げられる。なかでも、アンモニウム基が特に好ましい。
【0022】
上記吸着性基としては、リン酸エステル基、ホスホン酸基、オニウム基が好ましく、最も好ましくは、リン酸エステル基、及びホスホン酸基である。
【0023】
以下に、本発明に係る特定水溶性高分子化合物の作製に有用な、アルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有するモノマーの好適な具体例を示すが、本発明はこれらに制限されない。なお、下記構造中、Meはメチル基を、Etはエチル基をそれぞれ表す。
【0024】
【化1】

【0025】
特定水溶性高分子化合物は、前記例示されたモノマー等に由来する、アルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有する構造単位を2種以上有していてもよい。
特定水溶性高分子化合物中のアルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有する構造単位の含有比率は、特定水溶性高分子化合物が含む全構造単位に対し、2モル%〜80モル%が好ましく、2モル%〜70モル%がより好ましく、5モル%〜50モル%がさらに好ましく、10モル%〜50モル%が特に好ましい。
【0026】
本発明に係る特定水溶性高分子化合物は側鎖にベタイン構造を有する構造単位を構成成分として有する。当該高分子化合物においてベタイン構造は親水性基として機能する。
本発明におけるベタイン構造とは、1つの基にカチオン構造とアニオン構造の両方を有し、電荷が中和されている構造を指す。ベタイン構造におけるカチオン構造としては、特に制限はないが、第四級窒素カチオンが好ましい。
ベタイン構造におけるアニオン構造としては、特に制限はないが、−COO、−SO、−PO2−及び−POから選択される構造であることが好ましく、−COO又は−SOであることがより好ましい。
ベタイン構造としては、例えば、下記式(B1)又は式(B2)で表される構造が挙げられる。
【0027】
【化2】

【0028】
式(B1)及び式(B2)中、R111214及びR15はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。R13及びR16はそれぞれ独立に、二価の有機基を表し、2課の有機基としては、例えば、二価の脂肪族基、二価の芳香族基若しくはそれらが2以上結合してなる二価の連結基などが挙げられる。
【0029】
本発明に係る特定水溶性高分子化合物が含みうるベタイン構造を有する構造単位の具体的を以下に示す。
【0030】
【化3】

【0031】
特定構造の水溶性高分子化合物は、側鎖にベタイン構造を有する構成成分を1種のみ有していても、2種以上有していてもよい。
特定構造の水溶性高分子化合物中の側鎖にベタイン構造を有する構成成分の含有比率は、特定構造の水溶性高分子化合物が有する全構成成分に対し、30モル%〜98モル%が好ましく、40モル%〜90モル%がより好ましく、50モル%〜90モル%がさらに好ましい。
【0032】
本発明に係る特定水溶性高分子化合物は、前記アルミニウム支持体表面と相互作用する官能基が、現像時に非画像部における露出したアルミニウム支持体表面に吸着し、一方、前記ベタイン構造は、吸着した特定水溶性高分子化合物に高い親水性を付与するため、非画像部の汚れ性防止及びその耐久性に寄与するものと考えられる。
本発明の処理液組成物に用いられる特定水溶性高分子化合物は、前記アルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有する構造単位及びベタイン構造を有する構造単位以外の構造単位(以下、他の構造単位と称する)を、目的に応じて、本発明の性能を損なわない限りにおいて含んでいてもよい。
他の構造単位には特に制限はなく、公知のモノマー由来の構造単位であればよい。他の構造単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類や(メタ)アクリル酸アミド類等に由来する構造単位が挙げられる。
特定水溶性高分子化合物が、他の構造単位を含む場合、他の構造単位の含有比率は、特定水溶性高分子化合物が有する構造単位に対し、40モル%以下が好ましく、30モル%がより好ましく、20モル%以下がさらに好ましい。
【0033】
本発明の処理液組成物に用いる特定水溶性高分子化合物はビニル共重合体である。即ち、前記特定水溶性高分子化合物に構成成分として含まれる構造単位は、例えば、アクリレート類、メタクリレート類、スチレン類、芳香族ビニル化合物、脂肪族ビニル化合物、アリル化合物、アクリル酸、メタクリル酸などのようなエチレン性不飽和結合を有する単量体に由来する構造単位である。
【0034】
特定水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、また、1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましい。
特定水溶性高分子化合物の数平均分子量は、1,000以上が好ましく、2,000以上がより好ましく、また、500,000以下が好ましく、300,000以下がより好ましい。
この分子量の範囲とすることで、非画像部の親水性とその耐久性がより向上する。
【0035】
本発明に好適に使用しうる特定水溶性高分子化合物の具体例を以下に例示するが、本発明はこれらに制限されない。
【0036】
【化4】

【0037】
本発明の処理液組成物は、前記特定水溶性高分子化合物を2種以上含有していてもよい。
本発明の処理液組成物における特定水溶性高分子化合物の含有量は、0.1質量%〜20質量%が好ましく、0.5質量%〜10質量%がより好ましく、2質量%〜10質量%がさらに好ましい。上記範囲で、良好な非画像部の汚れ防止効果が得られる。
【0038】
(処理液組成物のpH)
本発明の処理液組成物は、pHは5〜10.7であることを要するが、好ましくは6〜10.5の範囲であり、特に好ましくは6.8〜9.9の範囲である。
本発明の処理液組成物のpHを5〜10.7の範囲に調製する方法は任意であるが、一般的には、アルカリ剤を添加するか、或いは、pH緩衝剤を用いることで、pHを上記範囲に調製すればよい。
【0039】
(アルカリ剤)
処理液組成物のpHを調整するために用いられるアルカリ剤として、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムが挙げられ、これらは2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、pH調製のため、アルカリ剤とともに使用される酸としては、無機酸、例えば塩酸、硫酸、硝酸などを用いることができる。
pHの調整は、好ましくは、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び炭酸ナトリウムから選択される1種以上のアルカリ剤、あるいは、それらアルカリ剤と塩酸との組み合わせにより行なわれる。
【0040】
(pH緩衝剤)
本発明において処理液組成物のpH調製に使用されるpH緩衝剤としては、pH5〜10.7の範囲に緩衝作用を発揮する緩衝剤であれば特に限定なく用いることができる。
本発明においては弱アルカリ性の緩衝剤が好ましく用いられ、例えば(a)炭酸イオン及び炭酸水素イオン、(b)ホウ酸イオン、(c)水溶性のアミン化合物及びそのアミン化合物のイオン、及びそれらの併用などが挙げられる。すなわち、例えば(a)炭酸イオン−炭酸水素イオンの組み合わせ、(b)ホウ酸イオン、又は(c)水溶性のアミン化合物−そのアミン化合物のイオンの組み合わせなどが好ましく用いられる。
pH緩衝剤は、処理液組成物においてpH緩衝作用を発揮し、処理液組成物を長期間使用してもpHの変動を抑制でき、pHの変動による現像性低下、現像カス発生等を抑制できる。本発明においては、炭酸イオンと炭酸水素イオンの組合せが特に好ましい。
【0041】
(a)炭酸イオン及び炭酸水素イオン
炭酸イオン、炭酸水素イオンを処理液組成物中に存在させるには、炭酸塩と炭酸水素塩を処理液組成物に加えてもよいし、炭酸塩又は炭酸水素塩を加えた後にpHを調整することで、炭酸イオンと炭酸水素イオンを発生させてもよい。炭酸塩及び炭酸水素塩は、アルカリ金属塩であることが好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられ、ナトリウムが特に好ましい。アルカリ金属は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
炭酸イオン及び炭酸水素イオンの総量は、処理液組成物に対して0.05mol/L〜5mol/Lが好ましく、0.07mol/L〜2mol/Lがより好ましく、0.1mol/L〜1mol/Lが特に好ましい。
【0043】
(b)ホウ酸イオン
ホウ酸イオンを処理液組成物中に存在させる方法としては、ホウ酸あるいはホウ酸塩を処理液組成物に加えた後にpHを調整することで、適量のホウ酸イオンを発生させる方法が挙げられる。ここで用いるホウ酸あるいはホウ酸塩は、特に限定されないが、ホウ酸としてオルトホウ酸、メタホウ酸、及び四ホウ酸などが挙げられ、なかでもオルトホウ酸及び四ホウ酸が好ましい。また、ホウ酸塩としてアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が挙げられ、オルトホウ酸塩、二ホウ酸塩、メタホウ酸塩、四ホウ酸塩、五ホウ酸塩、及び八ホウ酸塩などが挙げられ、なかでもオルトホウ酸塩、四ホウ酸塩が好ましく、特にアルカリ金属の四ホウ酸塩が好ましい。好ましい四ホウ酸塩として、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム及び四ホウ酸リチウムなどが挙げられ、なかでも四ホウ酸ナトリウムが好ましい。
本発明で使用されるホウ酸あるいはホウ酸塩として、特に好ましいものは、オルトホウ酸、四ホウ酸あるいは四ホウ酸ナトリウムである。
処理液組成物に含まれるホウ酸又はホウ酸塩はそれぞれ2種以上併用してもよく、また、ホウ酸とホウ酸塩とを併用してもよい。
現像液におけるホウ酸塩の総量は、現像液の全質量に対して、0.5〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましく、1〜12質量%が特に好ましい。
【0044】
(c)水溶性のアミン化合物及びそのアミン化合物のイオン
本発明においては、水溶性のアミン化合物及びそのアミン化合物のイオンの組合せも好ましく用いることができる。
水溶性のアミン化合物は、特に限定されないが、水溶性を促進する基を有する水溶性のアミンが好ましい。水溶性を促進する基としてカルボン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基、水酸基などが挙げられる。なかでも、水酸基を有するアミン化合物が特に好ましい。
【0045】
水酸基を持つ水溶性のアミン化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルモルフォリンが好ましい。
【0046】
水溶性のアミン化合物及びアミン化合物の塩の総量は、処理液組成物の質量に対して、0.5質量%〜20質量%が好ましく、1質量%〜15質量%がより好ましく、1質量%〜12質量%が特に好ましい。
【0047】
(その他の成分)
本発明の処理液組成物は、前記特定水溶性高分子化合物及び水を含むpH5〜10.7の水溶液であるが、上記成分に加え、目的に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、公知の現像液、補充液に使用される公知の添加剤を含有してもよい。
(界面活性剤)
本発明の処理液組成物は、前記特定水溶性高分子化合物以外に界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤いずれも好ましく用いうる。
アニオン系界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
カチオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、アルキルイミダゾリニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、芳香環とエチレンオキサイド鎖を有するものが好ましく、アルキル置換又は無置換のフェノールエチレンオキサイド付加物又はアルキル置換又は無置換のナフトールエチレンオキサイド付加物がより好ましい。
両性イオン系界面活性剤としては、アルキルジメチルアミンオキシドなどのアミンオキシド系、アルキルベタインなどのベタイン系、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウムなどのアミノ酸系が挙げられる。
特に、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホベタインが好ましく用いられる。
【0048】
処理液組成物が界面活性剤を含む場合の界面活性剤の含有量は、0.01質量%〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましい。界面活性剤は2種以上用いてもよい。
【0049】
(被膜形成性水溶性高分子化合物:他の水溶性高分子化合物)
本発明の処理液組成物は、版面を保護し、版面の傷つきを抑制するため、前記特定水溶性高分子化合物とは構造の異なる皮膜形成性を有する水溶性高分子化合物(以下、適宜、他の水溶性高分子化合物と称する)をさらに含有することも好ましい。
他の水溶性高分子化合物としては、例えば、アラビアガム、繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルプロピルセルロース等)及びその変性体、ポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、澱粉誘導体(例えば、デキストリン、マルトデキストリン、酵素分解デキストリン、ヒドロキシプロピル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉酵素分解デキストリン、カルボキジメチル化澱粉、リン酸化澱粉、サイクロデキストリン)、プルラン及びプルラン誘導体等が挙げられる。
なかでも、アラビアガム、デキストリンやヒドロキシプロピル澱粉といった澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロース、大豆多糖類などを好ましく使用することができる。
本発明の処理液組成物が他の水溶性高分子化合物を含有する場合の他の水溶性高分子化合物の含有量は、0.05質量%〜15質量%の範囲であることが好ましく、0.5質量%〜10質量%の範囲であることがより好ましい。
【0050】
(有機溶剤)
本発明の処理液組成物は、有機溶剤を含有してもよい。含有可能な有機溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、あるいはハロゲン化炭化水素や、極性溶剤が挙げられる。極性溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、その他(トリエチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、N−フェニルエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等)等が挙げられる。
【0051】
処理液組成物に含有される有機溶剤は、2種以上を併用することもできる。有機溶剤が水に不溶な場合は、界面活性剤等を用いて水に可溶化して使用することも可能である。安全性、引火性の観点から、有機溶剤の濃度は40質量%未満が望ましく、10質量%未満が好ましく、5質量%未満がより好ましい。
【0052】
処理液組成物には上記成分の他に、防腐剤、キレート化合物、消泡剤、有機酸、無機酸、無機塩などを含有させることができる。具体的には、特開2007−206217号の段落番号〔0266〕〜〔0270〕に記載の化合物を好ましく用いることができる。
【0053】
本発明の処理液組成物は、露光されたポジ型平版印刷版原版の現像及び親水化処理に用いられるが、通常の現像液と同様に用いればよく、また、必要に応じて現像補充液として用いることもできる。
本発明の処理液組成物は、自動現像処理機に好ましく適用することができる。自動現像処理機に用いる場合には、公知の現像液と同様に用いればよい。自動現像処理機を用いて現像する場合、処理量に応じて現像液が疲労してくるので、補充液又は新鮮な現像液を用いて処理能力を回復させてもよく、このとき、添加される補充液や現像液に換えて本発明の処理液組成物を用いてもよい。
【0054】
次に平版印刷版の作製方法に使用するポジ型感光性平版印刷版について記載する。
[ポジ型感光性平版印刷版原版]
本発明に係るポジ型感光性平版印刷版原版は、アルミニウム支持体上に、赤外線感応性(以下、単に感光性と称することがある)ポジ型記録層を有する。また、平版印刷版原版はポジ型記録層以外の層、例えば、保護層、下塗り層などを有するものであってもよい。
以下、本発明の平版印刷版の作製方法に使用されるポジ型感光性平版印刷版原版について説明する。
【0055】
〔赤外線感応性ポジ型記録層〕
本発明に係る平版印刷版原版のポジ型記録層としては、公知のポジ型記録層、例えば、極性変換材料系(疎水性から親水性へ変化)、酸触媒分解系、相互作用解除系(感熱ポジ)記録層のいずれも使用できるが、安定性及び感度の観点からは、少なくとも、(A)赤外線吸収剤及び(B)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂を含有し、露光領域において現像液への溶解性が向上する相互作用解除系の記録層が好ましい。
記録層は単層構造であっても、重層構造であってもよいが、現像ラチチュードなどの画像形成性を考慮すれば、重層構造の記録層が好ましい。
重層構造の記録層としては、(C)アルカリ可溶性樹脂を含有する下層と、(B)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂を含有する上層と、からなる重層構造であって、前記上層及び前記下層の少なくとも1層に(A)赤外線吸収剤を含有する構造が好ましく、さらに、下層に(A)赤外線吸収剤、(C−1)アルカリ可溶性アクリル樹脂、及び(C−2)フェノール樹脂を含有し、上層に、(B−1)水不溶性且つアルカリ可溶性のポリウレタン樹脂を含有する態様がさらに好ましい。ここで、(B−1)水不溶性且つアルカリ可溶性のポリウレタン樹脂としては、ポリマー主鎖にカルボキシ基を有するポリウレタン樹脂であることが好ましい。
【0056】
以下、ポジ型記録層に含まれる各成分について説明する。
本発明に係る赤外線感応性ポジ型記録層である相互作用解除系ポジ型記録層は、以下に示す如き(A)赤外線吸収剤に代表される溶解抑制能を有する化合物と、公知の(B)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂とを含んで構成され、アルカリ可溶性樹脂と溶解抑制機能を有する化合物との相互作用により耐アルカリ現像性を有する記録層である。このポジ型記録層の赤外線レーザ照射領域において前記相互作用が解除されることにより、露光領域がアルカリ現像性への溶解性を発現することで画像形成される。
【0057】
((A)赤外線吸収剤)
平版印刷版原版のポジ型記録層が含有する赤外線吸収剤には特に制限はなく、赤外線吸収剤として知られる種々の染料或いは顔料を適宜選択して用いることができる。
ポジ型記録層は、赤外線吸収剤を含有する。記録層が重層構造をとる場合、赤外線吸収剤は上層に含まれても、下層に含まれてもよく、上層と下層の両方に含まれてもよい。
【0058】
本発明に係る赤外線吸収剤としては、公知のものが利用でき、例えば、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料などの染料が挙げられる。本発明においては、これらの染料のうち、赤外光若しくは近赤外光を吸収するものが、赤外光若しくは近赤外光を発光するレーザで記録する際に好適に用いることができる。
【0059】
そのような、赤外光若しくは近赤外光を吸収する染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭59−202829号、特開昭60−78787号等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号等に記載されているスクワリリウム色素、英国特許434,875号記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0060】
また、赤外線吸収剤としての染料としては、米国特許第5,156,938号記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられる。また、米国特許第3,881,924号記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号(米国特許第4,327,169号)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号公報に開示されているピリリウム化合物等が挙げられる。また、本発明に使用しうる赤外線吸収剤の市販品としては、エポリン社製のEpolight III−178、Epolight III−130、Epolight III−125等が、特に好ましいものとして挙げられる。
また、染料として特に好ましい別の例としては、米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
【0061】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、フタロシアニン染料、オキソノール染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、チオピリリウム染料、ニッケルチオレート錯体が挙げられる。さらに、下記一般式(a)で示されるシアニン色素は、本発明における下層に使用した場合に、高い重合活性を与え、且つ、安定性、経済性に優れるため最も好ましい。
【0062】
【化5】

【0063】
一般式(a)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、−NPh、X−L又は以下に示す基を表す。Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。Lは、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、又はヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。
【0064】
【化6】

【0065】
上記式中、Xaは後述するZaと同様に定義され、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0066】
及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。記録層塗布液の保存安定性から、R及びRは、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、さらに、RとRとは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0067】
Ar、Arは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。
、Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。
、R、R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Zaは、対アニオンを示す。但し、一般式(a)で示されるシアニン色素がその構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合は、Za-は必要ない。好ましいZaは、記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0068】
好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落番号[0017]〜[0019]、特開2002−40638号公報の段落番号[0012]〜[0038]、特開2002−23360号公報の段落番号[0012]〜[0023]に記載されたものを挙げることができる。
下層が含有する赤外線吸収剤として特に好ましくは、以下に示すシアニン染料である。
【0069】
【化7】

【0070】
記録層が赤外線吸収剤を含有することで、高感度化する。
(A)赤外線吸収剤の添加量としては、感度、記録層の均一性及び耐久性の観点から、下層全固形分に対し0.01〜50質量%の割合で添加することができ、0.1〜30質量%の範囲であることが好ましく、特に好ましくは、1.0〜30質量%の範囲である。
【0071】
〔(B)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂〕
ポジ型の記録層に使用できる水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂(以下、適宜、アルカリ可溶性樹脂と称する)としては、高分子中の主鎖及び/又は側鎖に酸性基を含有する単独重合体、これらの共重合体又はこれらの混合物を包含する。
なかでも、下記(1)〜(6)に挙げる酸性基を高分子の主鎖及び/又は側鎖中に有するものが、アルカリ性現像液に対する溶解性の点、溶解抑制能発現の点で好ましい。
【0072】
(1)フェノール基(−Ar−OH)
(2)スルホンアミド基(−SO2 NH−R)
(3)置換スルホンアミド系酸基(以下、「活性イミド基」という。)
〔−SO2 NHCOR、−SO2 NHSO2R、−CONHSO2 R〕
(4)カルボン酸基(−CO2 H)
(5)スルホン酸基(−SO3 H)
(6)リン酸基(−OPO3 2
【0073】
上記(1)〜(6)中、Arは置換基を有していてもよい2価のアリール連結基を表し、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。
【0074】
上記(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有するアルカリ可溶性樹脂のなかでも、(1)フェノール基、(2)スルホンアミド基及び(3)活性イミド基を有するアルカリ可溶性樹脂が好ましく、特に、(1)フェノール基又は(2)スルホンアミド基を有するアルカリ可溶性樹脂が、アルカリ性現像液に対する溶解性、現像ラチチュード、膜強度を十分に確保する点から最も好ましい。
【0075】
本発明に好適に使用される(1)フェノール基を有するアルカリ可溶性樹脂(以下、フェノール樹脂とも称する)としては、例えば、アルカリ可溶性ノボラック樹脂が好適である。アルカリ可溶性ノボラック樹脂としては、例えば、フェノールホルムアルデヒドノボラック樹脂、m−クレゾールホルムアルデヒドノボラック樹脂、p−クレゾールホルムアルデヒドノボラック樹脂、m−/p−混合クレゾールホルムアルデヒドノボラック樹脂、フェノール/クレゾール(m−、p−、m−/p−の混合のいずれでもよい)混合ホルムアルデヒドノボラック樹脂等のアルカリ可溶性のノボラック樹脂を挙げることができる。
これらのアルカリ可溶性のノボラック樹脂としては、重量平均分子量が500〜20000、数平均分子量が200〜10000のものが好ましく用いられる。
【0076】
さらに、フェノール樹脂としては、米国特許第4123279号明細書に記載されているように、t−ブチルフェノールホルムアルデヒドノボラック樹脂、オクチルフェノールホルムアルデヒドノボラック樹脂のような、炭素原子数3〜8のアルキル基を置換基として有するフェノールとホルムアルデヒドとの縮合物を併用してもよい。
【0077】
記録層が含有するフェノール樹脂は、レゾール樹脂であってもよい。
本発明において使用されるレゾール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類を塩基性条件下で縮合させた樹脂である。
上記記フェノール類としては、例えば、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クレゾール、ビスフェノールAなどが好適に用いられる。上記アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド等が挙げられる。上記フェノール類及びアルデヒド類は、単独若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
さらに、先に記載したフェノール類の混合物とホルムアルデヒドから得られるレゾール樹脂であってもよい。該レゾール樹脂を得るに際しての、フェノール類とホルムアルデヒドとの縮合の程度、分子量、残存モノマーの残留率などは、目的に応じて選択すればよい。
【0078】
(2)スルホンアミド基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、スルホンアミド基を有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分として構成される重合体を挙げることができる。上記のような化合物としては、窒素原子に少なくとも一つの水素原子が結合したスルホンアミド基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物が挙げられる。なかでも、アクリロイル基、アリル基、又はビニロキシ基と、置換あるいはモノ置換アミノスルホニル基又は置換スルホニルイミノ基と、を分子内に有する低分子化合物が好ましく、例えば、下記一般式(i)〜一般式(v)で表される化合物が挙げられる。
【0079】
【化8】

【0080】
〔式中、X1、X2 は、それぞれ独立に−O−又はNRを表す。R、Rは、それぞれ独立に水素原子又は−CHを表す。R、R、R、R12、及び、R16は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基又はアラルキレン基を表す。R、R、及び、R13は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。また、R、R17は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。R、R10、R14は、それぞれ独立に水素原子又は−CHを表す。R11、R15は、それぞれ独立に単結合又は置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基又はアラルキレン基を表す。Y、Yは、それぞれ独立に単結合又はCOを表す。〕
【0081】
一般式(i)〜一般式(v)で表される化合物のうち、本発明のポジ型平版印刷用材料では、特に、m−アミノスルホニルフェニルメタクリレート、N−(p−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド、N−(p−アミノスルホニルフェニル)アクリルアミド等を好適に使用することができる。
【0082】
(3)活性イミド基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、活性イミド基を有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分として構成される重合体を挙げることができる。上記のような化合物としては、下記構造式で表される活性イミド基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物を挙げることができる。
【0083】
【化9】

【0084】
具体的には、N−(p−トルエンスルホニル)メタクリルアミド、N−(p−トルエンスルホニル)アクリルアミド等を好適に使用することができる。
【0085】
(B)アルカリ可溶性樹脂として、(B−1)水不溶性且つアルカリ可溶性のポリウレタン樹脂もまた好ましく用いられる。
((B−1)水不溶性且つアルカリ可溶性のポリウレタン樹脂)
水不溶性且つアルカリ可溶性のポリウレタン樹脂としては、ポリマー主鎖にカルボキシル基を有するものが好ましく、具体的には、下記一般式(I)で表されるジイソシアネート化合物と、下記一般式(II)又は一般式(III)で表されるカルボキシル基を有するジオール化合物との反応生成物を基本骨格とするポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0086】
【化10】

【0087】
一般式(I)中、Rは二価の炭化水素基を表し、好ましくは、炭素数2〜10のアルキレン基、炭素数6〜30のアリーレン基が挙げられる。Rは、イソシアネート基と反応しない他の官能基を有していてもよい。
一般式(II)中、Rは、水素原子又は炭化水素基を表し、好ましくは、水素原子、炭素数1〜8個の無置換のアルキル基、炭素数6〜15個の無置換のアリール基が挙げられる。
一般式(II)及び一般式(III)中、R、R及びRは、各々独立に、単結合、又は二価の連結基を表す。該二価の連結基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられ、好ましくは、炭素数1〜20個の無置換のアルキレン基、炭素数6〜15個の無置換のアリーレン基が挙げられ、さらに好ましいものとしては炭素数1〜8個の無置換のアルキレン基が挙げられる。
一般式(III)中、Arは三価の芳香族炭化水素を表し、好ましくは炭素数6〜15個のアリーレン基を示す。
なお、R〜R、及びArは、ぞれぞれ、イソシアネート基と反応しない置換基を有していてもよい
【0088】
一般式(I)で表されるジイソシアネート化合物の具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
2,4−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートの二量体、2,6−トリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート等の如き芳香族ジイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の如き脂肪族ジイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4(又は2,6)ジイソシアネート、1,3−(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等の如き脂環族ジイソシアネート化合物;1,3−ブチレングリコール1モルとトリレンジイソシアネート2モルとの付加体等の如きジオールとジイソシアネートとの反応物であるジイソシアネート化合物等が挙げられる。
なかでも、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートのような芳香族環を有するものが耐刷性の観点より好ましい。
【0089】
また、一般式(II)又は一般式(III)で示されるカルボキシル基を有するジオール化合物の具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸、2,2−ビス(3−ヒドロキシプロピルプロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)酢酸、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸、4,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、酒石酸等が挙げられる。
なかでも、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸がイソシアネートとの反応性の観点より好ましい。
【0090】
さらに、本発明に係る水不溶性且つアルカリ可溶性のポリウレタン樹脂を得るためのジオール化合物としては、記録層における現像液への溶解性及び現像液の浸透性を向上させる観点から、下記一般式(IV)で表されるジオール化合物を用いることが望ましい。
【0091】
【化11】

【0092】
一般式(IV)中、nは4〜12の整数を表し、好ましくは6〜10の整数である。
【0093】
本発明に係るポリウレタン樹脂は、前記ジイソシアネート化合物及びジオール化合物を非プロトン性溶媒中、それぞれの反応性に応じた活性を有する公知の触媒を添加し、加熱することにより合成することができる。
【0094】
使用するジイソシアネート及びジオール化合物のモル比は、好ましくは0.8:1〜1.2:1であり、ポリマー末端にイソシアネート基が残存した場合、アルコール類又はアミン類等で処理することにより、最終的にイソシアネート基が残存しない形で合成される。
(B−1)水不溶性且つアルカリ可溶性のポリウレタン樹脂としては、ポリマー主鎖にカルボキシ基を有するポリウレタン樹脂であることが好ましい。
本発明に係る水不溶性アルカリ可溶性ポリウレタン樹脂の分子量は、好ましくは重量平均で1,000以上であり、さらに好ましくは5,000〜10万の範囲である。これらのポリウレタン樹脂は2種以上を混合して用いてもよい。
【0095】
ポジ型記録層には、(B)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上を含んでいてもよい。
(B)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂は、ポジ型記録層全固形分中、30重量%〜98重量%が好ましく、40重量%〜95重量%がより好ましい。含有量が上記範囲において、記録層の耐久性と感度、画像形成性が良好に維持される。
【0096】
(C)アルカリ可溶性樹脂
ポジ型記録層には、水溶性を有するアルカリ可溶性樹脂を含んでいてもよい。アルカリ可溶性樹脂は、アルカリ性の水溶液に可溶であれば特に制限はなく、先に(B)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂として挙げた樹脂及び水溶性であり且つアルカリ可溶性の樹脂を用いることができる。
【0097】
((C−1)アルカリ可溶性アクリル樹脂)
アルカリ可溶性樹脂として、アルカリ可溶性アクリル樹脂を用いてもよい。
好適なアルカリ可溶性アクリル樹脂としては、高分子中の主鎖又は側鎖に既述の如き酸性基を有する樹脂が挙げられる。このような樹脂は、例えば、酸性基を有するエチレン性不飽和モノマーを1種以上含むモノマー混合物を重合することによって得られる。該アルカリ可溶性樹脂を形成するのに有用な酸性基を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸の他に、下式で表されるモノマーが挙げられ、これらの酸性基を有するエチレン性不飽和モノマーは1種のみならず、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0098】
【化12】

【0099】
上記各式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。
【0100】
アルカリ可溶性アクリル樹脂としては、上記酸性基を有するエチレン性不飽和モノマー(重合性モノマー)と、他の重合性モノマーと、を共重合させて得られる高分子化合物であることが好ましい。この場合の共重合比としては、記録層の現像性の観点から、アルカリ可溶性を付与するための酸性基を有する重合性モノマーを10モル%以上含むことが好ましく、20モル%以上80モル%以下の割合で含むものがより好ましい。
【0101】
(C−1)フェノール樹脂
また、(C)アルカリ可溶性樹脂としては、先に(B)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂の項にて説明したフェノール樹脂もまた有用である。
【0102】
アルカリ可溶性樹脂は、重量平均分子量が2,000以上、数平均分子量が500以上のものが好ましい。さらに好ましいアルカリ可溶性アクリル樹脂は、重量平均分子量が5,000以上300,000以下であり、数平均分子量が800以上250,000以下であり、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1〜10のものである。
【0103】
なお、アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトフラフィー)測定によりポリスチレン標品の分子量換算で算出した値を用いた。また、本明細書中における他の高分子化合物の重量平均分子量についても、同様に測定した値を用いた。
【0104】
記録層が重層構造をとる場合、アルカリ可溶性に優れた下層と画像形成性に優れた上層と有することが好ましく、そのような観点からは、(C)アルカリ可溶性樹脂を含有する下層と、(B)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂を含有する上層と、からなる重層構造であって、前記上層及び前記下層の少なくとも1層に(A)赤外線吸収剤を含有する構造が好ましく、(A)赤外線吸収剤は上層に含むことがさらに好ましい。
また、別の好ましい態様として、下層に(A)赤外線吸収剤、(C−1)アルカリ可溶性アクリル樹脂、及び(C−2)フェノール樹脂を含有し、上層に、(B−1)水不溶性且つアルカリ可溶性のポリウレタン樹脂を含有する重層構造の態様が挙げられる。
このとき、(C−1)アルカリ可溶性アクリル樹脂の含有量は、記録層の感度及び耐久性の両立の観点から、下層の全固形分中20〜98質量%が好ましく、より好ましくは30〜95質量%である。また、(C−2)フェノール樹脂の含有量は、下層の全固形分中、2〜80質量%が好ましく、より好ましくは5〜75質量%である。
フェノール樹脂としてレゾール樹脂を用いる場合であれば、その含有量は、記録層の耐久性及び保存安定性の観点から、下層の全固形分中、2〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜75質量%であり、特に好ましくは10〜70質量%である。
【0105】
下層における(C−1)アルカリ可溶性アクリル樹脂と(C−2)フェノール樹脂との含有比率(C−1:C−2)としては、質量基準で、98:2〜20:80が好ましく、95:5〜25:75がより好ましく、90:10〜30:70がさらに好ましい。
さらに、上層が含有する(B−1)水不溶性且つアルカリ可溶性のポリウレタン樹脂の含有量は、上層の全固形分中、好ましくは2〜99.5質量%、さらに好ましくは5〜99質量%、特に好ましくは10〜98質量%である。
【0106】
(その他の成分)
本発明に係る記録層が有する上層又は下層には、上記の必須成分の他、本発明の効果を損なわない限りにおいて、さらに必要に応じて、種々の添加剤を添加することができる。以下に挙げる添加剤は、下層のみに添加してもよいし、上層のみに添加してもよいし、両方の層に添加してもよい。
【0107】
<<現像促進剤>>
本発明に係る記録層が有する上層又は下層には、露光部の現像を促進し、感度を向上させる目的で、酸無水物類、フェノール類、有機酸類を添加してもよい。
酸無水物類としては環状酸無水物が好ましく、具体的に環状酸無水物としては米国特許第4,115,128号明細書に記載されている無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドオキシ−テトラヒドロ無水フタル酸、テトラクロル無水フタル酸、無水マレイン酸、クロル無水マレイン酸、α−フェニル無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸などが使用できる。非環状の酸無水物としては無水酢酸などが挙げられる。
【0108】
フェノール類としては、ビスフェノールA、2,2’−ビスヒドロキシスルホン、p−ニトロフェノール、p−エトキシフェノール、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’,4”−トリヒドロキシトリフェニルメタン、4,4’,3”,4”−テトラヒドロキシ−3,5,3’,5’−テトラメチルトリフェニルメタンなどが挙げられる。
【0109】
有機酸類としては、特開昭60−88942号、特開平2−96755号公報などに記載されている、スルホン酸類、スルフィン酸類、アルキル硫酸類、ホスホン酸類、リン酸エステル類及びカルボン酸類などがあり、具体的には、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチル硫酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、リン酸フェニル、リン酸ジフェニル、安息香酸、イソフタル酸、アジピン酸、p−トルイル酸、3,4−ジメトキシ安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エルカ酸、ラウリン酸、n−ウンデカン酸、アスコルビン酸などが挙げられる。
上記の酸無水物、フェノール類及び有機酸類の下層あるいは上層の全固形分に占める割合は、0.05〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜15質量%、特に好ましくは0.1〜10質量%である。
【0110】
<<界面活性剤>>
本発明に係る記録層である上層及び下層の少なくとも1層には、塗布性を良化するため、また、現像条件に対する処理の安定性を広げるため、特開昭62−251740号公報や特開平3−208514号公報に記載されているような非イオン界面活性剤、特開昭59−121044号公報、特開平4−13149号公報に記載されているような両性界面活性剤、特開昭62−170950号公報、特開平11−288093号公報、特開2004−12770号公報に記載のフッ素系界面活性剤等を含有させることができる。
【0111】
非イオン界面活性剤の具体例としては、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタントリオレート、ステアリン酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。両性活性剤の具体例としては、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、2−アルキル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインやN−テトラデシル−N,N−ベタイン型(例えば、商品名「アモーゲンK」:第一工業(株)製)等が挙げられる。
上記界面活性剤の下層又は上層の全固形分に占める割合は、0.01〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.05〜2.0質量%である。
【0112】
<<焼出し剤/着色剤>>
本発明に係る記録層が有する上層及び下層の少なくとも1層に、露光による加熱後直ちに可視像を得るための焼き出し剤や、画像着色剤としての染料や顔料を加えることができる。
焼出し剤としては、露光による加熱によって酸を放出する化合物(光酸放出剤)と塩を形成し得る有機染料の組合せを代表として挙げることができる。具体的には、特開昭50−36209号、同53−8128号の各公報に記載されているo−ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸ハロゲニドと塩形成性有機染料の組合せや、特開昭53−36223号、同54−74728号、同60−3626号、同61−143748号、同61−151644号及び同63−58440号の各公報に記載されているトリハロメチル化合物と塩形成性有機染料の組合せを挙げることができる。かかるトリハロメチル化合物としては、オキサゾール系化合物とトリアジン系化合物とがあり、どちらも経時安定性に優れ、明瞭な焼き出し画像を与える。
【0113】
画像着色剤としては、前述の塩形成性有機染料以外に他の染料を用いることができる。塩形成性有機染料を含めて、好適な染料として油溶性染料と塩基性染料をあげることができる。具体的にはオイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレットラクトン、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)などを挙げることができる。また、特開昭62−293247号公報に記載されている染料は特に好ましい。
これらの染料は、下層又は上層の全固形分に対し、0.01質量%〜10質量%、好ましくは0.1質量%〜3質量%の割合で添加することができる。
【0114】
<<可塑剤>>
本発明に係る記録層である上層及び下層の少なくとも1層に、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤を添加してもよい。例えば、ブチルフタリル、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸又はメタクリル酸のオリゴマー及びポリマー等が用いられる。
これらの可塑剤は、下層又は上層の全固形分に対し、0.5質量%〜10質量%、好ましくは1.0質量%〜5質量%の割合で添加することができる。
【0115】
<<WAX剤>>
本発明に係る上層には、キズに対する抵抗性を付与する目的で、表面の静摩擦係数を低下させる化合物としてWAX剤を添加してもよい。具体的には、米国特許第6,117,913号明細書、或いは、本願出願人が先に提案した特開2003-149799号公報、特開2003-302750号公報、特開2004−12770号公報に記載されているような、長鎖アルキルカルボン酸のエステルを有する化合物などが挙げられる。
WAX剤の添加量としては、好ましくは、上層中に占める割合が固形分換算で、0.1質量%〜10質量%、より好ましくは0.5質量%〜5質量%である。
【0116】
その他の成分としては、上記の各成分の他、例えば、オニウム塩、o−キノンジアジド化合物、芳香族スルホン化合物、芳香族スルホン酸エステル化合物等の熱分解性であり、分解しない状態ではアルカリ水溶液可溶性樹脂の溶解性を実質的に低下させる物質が挙げられる。前記添加剤を用いることで、画像部の現像液への溶解阻止性の向上を図ることができる。
【0117】
−記録層の形成−
記録層の形成は、前記各成分を溶媒に溶解させたて調製した記録層塗布液を、後述する支持体上に塗布、乾燥することで形成される。上層と下層とを有する重層構造の記録層を形成する場合、それぞれの層の形成は、順次であっても、同時であってもよい。
【0118】
上層、下層形成用の塗布液調整に使用する溶剤としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、トルエン等をあげることができるがこれに限定されるものではない。これらの溶剤は単独あるいは混合して使用される。
【0119】
なお、下層及び上層は、原則的に2つの層を分離して形成することが好ましい。
2つの層を分離して形成する方法としては、例えば、下層に含まれる成分と、上層に含まれる成分との溶剤溶解性の差を利用する方法、又は、上層を塗布した後、急速に溶剤を乾燥、除去させる方法等が挙げられる。
以下、これらの方法について詳述するが、2つの層を分離して塗布する方法はこれらに限定されるものではない。
【0120】
下層に含まれる成分と上層に含まれる成分との溶剤溶解性の差を利用する方法としては、上層用塗布液を塗布する際に、下層に含まれる成分のいずれもが不溶な溶剤系を用いるものである。これにより、二層塗布において、各層を明確に分離して塗膜にすることが可能になる。例えば、下層成分として、上層成分であるアルカリ可溶性樹脂を溶解するメチルエチルケトンや1−メトキシ−2−プロパノール等の溶剤に不溶な成分を選択し、該下層成分を溶解する溶剤系を用いて下層を塗布・乾燥し、その後、アルカリ可溶性樹脂を主体とする上層をメチルエチルケトンや1−メトキシ−2−プロパノール等で溶解し、塗布・乾燥することにより上層と下層とを分離して形成することが可能になる。
【0121】
また、上層と下層とを分離して形成する他の手段として、2層目(上層)を塗布後に、極めて速く溶剤を乾燥させる方法が挙げられる。この方法では、塗布工程において、上層塗布後、支持体(ウェブ)の走行方向に対してほぼ直角に設置したスリットノズルより高圧エアーを吹きつける工程、蒸気等の加熱媒体を内部に供給されたロール(加熱ロール)より支持体の下面から伝導熱として熱エネルギーを与える工程、あるいは、上記工程を組み合わせて行えばよい。この方法は、上層塗布後、急激に溶剤を除去することで、上層塗布溶媒による下層の溶解を抑制する方法である。
【0122】
また、新たな機能を付与するために、本発明の効果を充分に発揮する範囲において、積極的に上層及び下層の界面における部分相溶を行わせる場合もある。そのような方法としては、上記溶剤溶解性の差を利用する方法、2層目を塗布後に極めて速く溶剤を乾燥させる方法何れにおいても、その程度を調整することにより実施される。
【0123】
支持体上に塗布される下層/上層用塗布液中の、溶剤を除いた前記成分(添加剤を含む全固形分)の濃度は、好ましくは1質量%〜50質量%である。
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げることができる。
特に、上層塗布時に下層へのダメージを防ぐため、上層塗布方法は非接触式である事が望ましい。また接触型ではあるが溶剤系塗布に一般的に用いられる方法としてバーコーター塗布を用いる事も可能であるが、下層へのダメージを防止するために順転駆動で塗布する事が望ましい。
【0124】
本発明の平版印刷版原版の支持体上に塗布される下層の乾燥後の塗布量は、耐刷性及び画像再現性の観点から、0.5g/m〜4.0g/mの範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは0.6g/m〜2.5g/mの範囲である。
また、上層の乾燥後の塗布量は、感度、現像ラチチュード、及び耐傷性の観点から、0.05g/m〜1.5g/mの範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは0.08g/m〜1.0g/mの範囲である。
【0125】
下層及び上層を合わせた乾燥後の塗布量或いは単層の記録層の塗布量としては、耐刷性及び画像再現性の観点から、0.6g/m〜4.0g/mの範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは0.7g/m〜2.5g/mの範囲である。
【0126】
(アルミニウム支持体)
平版印刷版原版に用いるアルミニウム支持体としては、寸度的に安定な板状物が、比較的安価であり好ましく用いられる。好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板である。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがある。合金中の異元素の含有量は多い場合であっても10質量%以下である。アルミニウム板の厚みとしては、およそ0.1mm〜0.6mm程度が好ましく、0.15mm〜0.4mmがより好ましく、0.2mm〜0.3mmが特に好ましい。
【0127】
アルミニウム板は、粗面化、陽極酸化処理などの種々の表面処理を施される。
アルミニウム板を粗面化するに先立ち、所望により、表面の圧延油を除去するための例えば界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ性水溶液などによる脱脂処理が行われる。アルミニウム板の表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法などの公知の方法を用いることができる。また、電気化学的な粗面化法としては塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。また、特開昭54−63902号公報に開示されているように両者を組み合わせた方法も利用することができる。
【0128】
粗面化されたアルミニウム板は、必要に応じてアルカリエッチング処理及び中和処理された後、所望により表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成する種々の電解質の使用が可能で、一般的には硫酸、リン酸、蓚酸あるいはそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。
【0129】
前記陽極酸化処理の条件としては、用いる電解質によって異なるため、一概に特定し得ないが、一般的には電解質の濃度が1質量%〜80質量%溶液、液温が5〜70℃、電流密度が5A/dm〜60A/dm、電圧が1V〜100V、電解時間が10秒〜5分であるのが好ましい。前記陽極酸化による、陽極酸化皮膜の量は、1.0g/m以上が好ましい。前記陽極酸化皮膜の量が、1.0g/m未満の場合には、耐刷性が不十分であったり、平版印刷版として用いた場合に、非画像部に傷が付き易くなったりして、印刷時に傷の部分にインキが付着するいわゆる「傷汚れ」が生じ易くなることがある。
【0130】
前記陽極酸化処理を施された後、前記アルミニウムの表面は、必要により親水化処理が施される。該親水化処理の方法としては、米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、第3,280,734号及び第3,902,734号に開示されているようなアルカリ金属シリケート(例えばケイ酸ナトリウム水溶液)法が挙げられる。この方法においては、支持体がケイ酸ナトリウム水溶液で浸漬処理されるか又は電解処理される。他に特公昭36−22063号公報に開示されているフッ化ジルコン酸カリウム及び米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号、同第4,689,272号の各明細書に開示されているようなポリビニルホスホン酸で処理する方法などが挙げられる。
【0131】
<平版印刷版の作製方法>
前記本発明に係るポジ型感光性平版印刷版を、赤外線レーザにより画像様に露光する露光工程と、露光後の前記平版印刷版原版を、前記本発明の処理液組成物と接触させて、記録層の露光部領域の除去と、記録層が除去されて露出したアルミニウム支持体表面の親水化処理とを行う現像工程と、を行うことで平版印刷版が作製される。
【0132】
<露光工程>
本発明の平版印刷版の作製方法では、まず、前記ポジ型感光性平版印刷版を画像様に露光する露光工程を実施する。画像様の露光は、予め画像形成されたリスフィルム(線画像、網点画像等を有する透明原画)を介してレーザ露光してもよく、デジタルデータによりレーザの走査露光をおこなってもよい。
本発明の方法に使用される平版印刷版原版は、赤外線感応性のポジ型記録層を有することから、露光工程に用いられる光源波長は、750nm〜1400nmの範囲にあることが好ましい。750nm〜1400nmの光源としては、赤外線を放射する固体レーザ及び半導体レーザが好適である。
露光機構は、内面ドラム方式、外面ドラム方式、フラットベッド方式等の何れでもよい。
【0133】
<現像工程>
本発明の平版印刷版の作製方法における現像工程は、前記本発明の処理液組成物、即ち、pHが5〜10.7であり、側鎖にベタイン構造を有する構造単位と側鎖にアルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有する構造単位とを構成成分として含む水溶性高分子化合物を含有する水溶液を用いて行うことを特徴としている。
本発明の平版印刷版の作製方法によれば、上記現像処理によって、未露光部のポジ型記録層が除去され、且つ、記録層が除去され、露出したアルミニウム支持体表面が親水化処理される。このため、通常、現像工程の後に引き続き行われる水洗工程、及びガム引き工程を行うことなく、現像処理後の平版印刷版を乾燥させた後、直ちに印刷機にセットして印刷することができる。
アルカリ現像液を用いた従来の現像処理においては、アルカリ現像後の平版印刷版は、印刷機への装着前に、水洗工程でアルカリ剤を水洗除去し、ガム液による非画像部の親水化処理を行い、乾燥工程で乾燥することが必要である。これに対して、本発明の作製方法では、処理液組成物中に特定水溶性高分子化合物を含有するため、現像及びガム液処理工程を同時に行うことができる。よって後水洗工程は特に必要とせず、一液で現像とガム液処理を行ったのち、乾燥工程を経て印刷を直ちに行うことができる。
なお、乾燥工程は、現像処理の後、スクイズローラを用いて余剰の処理液組成物を除去してから行うことが好ましい。
【0134】
本発明の平版印刷版の作製方法の特徴の1つは、水洗工程を要しないことである。ここで、「水洗工程を含まないこと」とは、ポジ型感光性平版印刷版の画像露光工程以降、現像処理工程を経て平版印刷版が作製されるまでの間に、一切の水洗工程を含まないことを意味する。即ち、この態様によれば、画像露光工程と現像処理工程の間のみならず、現像処理工程後も水洗工程を行うことなく平版印刷版が作製される。作製された印刷版は、乾燥させて水分を除去した後、そのまま、印刷に供することができる。
【0135】
現像工程は、常法に従って、0℃〜60℃、好ましくは15℃〜40℃程度の温度範囲で、例えば、画像露光した平版印刷版原版を処理液組成物に浸漬してブラシで擦る方法、スプレーにより処理液組成物を吹き付けてブラシで擦る方法等により行うことができる。
【0136】
本発明における現像処理は、処理液組成物の供給手段及び擦り部材を備えた自動現像処理機により好適に実施することができる。擦り部材として、回転ブラシロールを用いる自動現像処理機が特に好ましい。
回転ブラシロールは2本以上が好ましい。さらに自動現像処理機は現像処理手段の後に、スクイズローラ等の余剰の処理液組成物を除去する手段や、温風装置等の乾燥手段を備えていることが好ましい。
【0137】
現像工程のあと、連続的又は不連続的に乾燥工程を設けることが好ましい。乾燥は熱風、赤外線、遠赤外線等によって行う。
【0138】
本発明の平版印刷版の作製方法において好適に用いられる自動現像処理機の構造の一例を図1に模式的に示す。図1に示す自動現像処理機は、基本的に現像部6と乾燥部10からなり、平版印刷版原版4は現像槽20で、現像とガム引きを行い、乾燥部10で乾燥される。詳細には、図1中、自動現像装置内に挿入された平版印刷版原版4は、搬送ローラ(搬入ローラ)16により現像部6へ搬送される。現像部6の現像槽20内には、搬送方向上流側から順に、搬送ローラ22、ブラシローラ24、スクイズローラ26が備えられ、これらの間の適所にバックアップローラ28が備えられている。平版印刷版原版4は搬送ローラ22により搬送されながら特定現像液中に浸漬されてブラシローラ24を回転させることにより、平版印刷版原版4の現像とガム引きが行われ現像処理される。現像処理された平版印刷版原版4はスクイズローラ(搬出ローラ)26により次の乾燥部10へ搬送される。乾燥部10は、搬送方向上流側から順に、ガイドローラ36、及び、二対の串ローラ38が2対設けられている。また、乾燥部10には図示しない温風供給手段、発熱手段等の乾燥手段が設けられており、該乾燥手段により乾燥部10に搬送された平版印刷版原版4が乾燥される。
【0139】
以上のようにして得られた平版印刷版は印刷工程に供することができるが、より一層の高耐刷力の平版印刷版としたい場合にはバーニング処理が施される。平版印刷版をバーニングする場合には、バーニング前に特公昭61−2518号、同55−28062号、特開昭62−31859号、同61−159655号の各公報に記載されているような整面液で処理することが好ましい。整面液が塗布された平版印刷版は、必要であれば乾燥された後、バーニングプロセッサー(たとえば富士写真フイルム(株)より販売されているバーニングプロセッサー:「BP−1300」)などで高温に加熱される。この場合の加熱温度及び時間は、画像を形成している成分の種類にもよるが、180〜300℃の温度で1〜20分間程度行われるのが好ましい。加熱条件は、使用される平版印刷版原版の種類により適宜選択されるが、一般に、温度が低すぎる場合、加熱時間が不充分な場合には、十分な画像強化作用が得られず、温度が高すぎる場合や加熱時間が長すぎる場合には、支持体の劣化、画像部の熱分解等の問題を生じる虞がある。
このようにして得られた平版印刷版はオフセット印刷機に掛けられ、多数枚の印刷に用いられる。
【実施例】
【0140】
以下に実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〜12、比較例1〜4〕
(評価に用いるポジ型平版印刷版原版1の作製)
<ポリウレタン樹脂の合成:合成例1>
500mlの3つ口フラスコに4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート125gと2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸67gをジオキサン290mlに溶解した。N,N−ジエチルアニリンを1g入れた後ジオキサン還流下6時間攪拌した。反応後、水4L、酢酸40ccの溶液に少しずつ加えポリマーを析出させた。この固体を真空乾燥させることにより185gのポリウレタン樹脂(1)を得た。酸含有量は2.47meq/gであつた。GPCにて分子量を測定したところ重量平均(ポリスチレン標準)で28,000であった。
【0141】
<支持体の作製>
厚さ0.24mmのアルミニウム板(Si:0.06質量%、Fe:0.30質量%、Cu:0.014質量%、Mn:0.001質量%、Mg:0.001質量%、Zn:0.001質量%、Ti:0.03質量%を含有し、残部はAlと不可避不純物のアルミニウム合金)に対し以下に示す表面処理を連続的に行った。
【0142】
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸10g/リットル水溶液(アルミニウムイオンを5g/リットル、アンモニウムイオンを0.007質量%含む。)、温度80℃であった。水洗後、アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%でスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.20g/m2溶解し、スプレーによる水洗を行った。その後、温度60℃の硫酸濃度25質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、スプレーによる水洗を行った。
【0143】
二段給電電解処理法の陽極酸化装置を用いて陽極酸化処理を行った。電解部に供給した電解液としては、硫酸を用いた。その後、スプレーによる水洗を行った。最終的な酸化皮膜量は2.7g/mであった。
陽極酸化処理により得られたアルミニウム支持体を温度30℃の3号ケイ酸ソーダの1質量%水溶液の処理槽中へ、10秒間、浸せきすることでアルカリ金属ケイ酸塩処理(シリケート処理)を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。
上記のようにして得られたアルカリ金属ケイ酸塩処理後のアルミニウム支持体上に、下記組成の下塗液を塗布し、80℃で15秒間乾燥し、塗膜を形成させた。乾燥後の塗膜の被覆量は15mg/mであった。
【0144】
−下塗り液−
・β−アラニン 0.5g
・メタノール 95g
・水 5g
【0145】
<ポジ型記録層の形成>
上記により得られた支持体に、下記組成の下層用塗布液1を塗布量が1.5g/mになるようバーコーターで塗布したのち、160℃で44秒間乾燥し、直ちに17〜20℃の冷風で支持体の温度が35℃になるまで冷却した。
【0146】
−下層用塗布液1−
・N−フェニルマレイミド/メタクリル酸/メタクリルアミドコポリマー(組成比:59mol%/15mol%/26mol%、重量平均分子量4.5万) 3.33g
・m、p−クレゾールノボラック樹脂(m/p比=6/4、重量平均分子量4500、未反応クレゾール0.8質量%含有) 1.88g
・下記構造式で表されるシアニン染料A 0.94g
・クリスタルバイオレット(保土ヶ谷化学(株)製) 0.08g
・メガファックF−177(DIC(株)製、フッ素系界面活性剤) 0.05g
・γ−ブチルラクトン 10g
・メチルエチルケトン 61g
・1−メトキシ−2−プロパノール 14g
・水 9.34g
【0147】
【化13】

【0148】
その後、形成された下層の表面に、下記組成の上層用塗布液1を塗布量が、0.5g/mになるようバーコーター塗布したのち、130℃で40秒間乾燥し、さらに20〜26℃の風で徐冷し、実施例1に用いる平版印刷版原版1を作製した。
【0149】
−上層用塗布液1−
・合成例1で得られたポリウレタン樹脂(1) 30.0g
・エチルバイオレット 0.03g
・メガファックF−177(DIC(株)製、フッ素系界面活性剤) 0.05g
・3−ペンタノン 60g
・プロピレングリコールモノメチルエーテルー2−アセテート 8g
【0150】
<処理液組成物の調製>
下記表1に記載の基本処方に、表2に記載の特定水溶性高分子化合物又は比較水溶性高分子化合物(表1及び表2中、特定水溶性高分子、比較水溶性高分子とそれぞれ記載)を添加して各成分をよく攪拌して水溶性高分子化合物を溶解させ、現像工程に用いる処理液組成物を調製した。なお、表1における含有量を示す数値の単位はgであり、「−」はその化合物を含有しないことを示す。
【0151】
【表1】

【0152】
【表2】

【0153】
表1に記載の特定水溶性高分子化合物及び比較例の処理液組成物の調製に用いた比較水溶性高分子化合物の構造を以下に示す。
【0154】
【化14】

【0155】
【化15】

【0156】
<平版印刷版の作製及び評価>
得られた平版印刷版原版を用い、本発明の作製方法に係る露光工程及び現像工程により製版処理を行った後、以下に示す各評価を行った。
得られた平版印刷版原版を、1030mm×800mmサイズに裁断し、Creo社製Trendsetterにて、露光エネルギー150mJ/cmでテストパターンを画像状に描き込みを行った。
(現像工程)
その後、上記組成の各処理液組成物を用い、図1に示す自動現像処理機〔現像槽25L、版搬送速度100cm/min、ポリブチレンテレフタレート繊維(毛直径200μm、毛長17mm)を植え込んだ外径50mmのブラシロール1本が搬送方向と同一方向に毎分200回転(ブラシの先端の周速0.52m/sec)、乾燥温度80℃〕にて現像処理を実施し、平版印刷版を得た。現像浴中の処理液組成物温度は30℃であった。
【0157】
各処理液を用いた作製方法について、平版印刷版原版の、現像性、印刷初期汚れ性、印刷中断後の汚れ性及び耐刷性を以下のように評価した。結果を前記表2に併記した。
<現像性>
平版印刷版原版を上記の通り露光、現像処理を行った。得られた平版印刷版の非画像部を目視確認し、記録層の残存を評価した。評価は、以下の基準で実施した。
○:記録層の残存なく良好な現像性
△:わずかな記録層の残存あるが現像性に問題なし
×:記録層が残存し、現像性不良
<印刷初期汚れ性>
平版印刷版を上記の通り印刷を行い、1000枚目の印刷物において、非画像部の汚れ性を評価した。評価は、以下の基準で実施した。
○:非画像部にインキ汚れがない
△:非画像部にわずかなインキ汚れがある
×:非画像部にインキ汚れがある
<印刷中断後の汚れ性>
平版印刷版を上記の通り印刷を行い、5万枚印刷した時点で、一旦印刷機を停止し、3時間放置した。その後、印刷を再開し、さらに200枚印刷し、非画像部から完全にインクがなくなるまでの枚数を評価した。
枚数が少ない方が印刷再開始からの損紙が少なくて済み、印刷中断後の汚れ性が良好であるといえる。
<耐刷性>
印刷枚数を増やしていくと徐々に平版印刷版上に形成された記録層の画像が磨耗しインキ受容性が低下するため、これに伴い、印刷用紙における画像のインキ濃度が低下する。インキ濃度(反射濃度)が印刷開始時よりも0.1低下したときの印刷枚数により、耐刷性を評価した。数値が大きいほど耐刷性に優れると評価する。
【0158】
表2に示す結果から、本発明に係る特定水溶性高分子化合物を含有する処理液組成物を用いる平版印刷版の作製方法は、水洗工程を必要としない1液1工程の簡易処理においても、非画像部に記録層の残存に起因する汚れがなく、良好な現像性を示し、しかも、良好な耐刷性を有していた。また、印刷中断後の汚れ性評価の結果より、多数枚の印刷後も非画像部の汚れ防止性、即ち表面親水性に優れていることが確認され、親水化処理の耐久性が良好な平版印刷版が提供されることがわかる。
【符号の説明】
【0159】
4 平版印刷版原版
6 現像部
10 乾燥部
16 搬送ローラ
20 現像槽
22 搬送ローラ
24 ブラシローラ
26 スクイズローラ
28 バックアップローラ
36 ガイドローラ
38 串ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム支持体上に、赤外線感受性ポジ型記録層を有するポジ型感光性平版印刷版を、赤外線レーザにより画像様に露光する露光工程と、
露光後の前記平版印刷版原版を、pHが5〜10.7であり、側鎖にベタイン構造を有する構造単位と側鎖にアルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有する構造単位とを構成成分として含む水溶性高分子化合物を含有する水溶液と接触させて、前記記録層の露光部領域の除去と、記録層が除去されて露出したアルミニウム支持体表面の親水化処理とを行う現像工程とを、この順に有する平版印刷版の作製方法。
【請求項2】
前記アルミニウム支持体表面と相互作用する官能基が、リンの酸素酸基若しくはオニウム基である請求項1に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項3】
前記リンの酸素酸基が、リン酸エステル基若しくはホスホン酸基である請求項2に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項4】
前記水溶液が、さらに、炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項5】
前記水溶液が、さらに、界面活性剤を0.01質量%〜20質量%含有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項6】
前記現像工程の後に水洗工程を有さない請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項7】
前記記録層が、(A)赤外線吸収剤及び(B)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂を含有する請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項8】
前記記録層が、(C)アルカリ可溶性樹脂を含有する下層と、(B)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂を含有する上層と、からなる重層構造の記録層であり、前記上層及び前記下層の少なくとも1層に(A)赤外線吸収剤を含有する請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項9】
側鎖にベタイン構造を有する構造単位と側鎖にアルミニウム支持体表面と相互作用する官能基を有する構造単位とを構成成分として含む水溶性高分子化合物、及び、水を含有し、pHが5〜10.7であり、アルミニウム支持体上に赤外線感受性ポジ型記録層を有するポジ型感光性平版印刷版原版の製版に使用される処理液組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2013−7863(P2013−7863A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139891(P2011−139891)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】