説明

平版印刷版の製版方法

【課題】機上現像性と耐刷性が良好である平版印刷版の製版方法を提供する。
【解決手段】a)支持体上に赤外線吸収剤、一般式(I)で表される開始剤、及び重合性化合物を含む画像記録層を有し、かつ当該画像記録層がインキ及び湿し水の少なくとも一方により除去可能であるネガ型平版印刷版原版を供給する。b)ネガ型平版印刷版原版を赤外線レーザーにて画像露光する。c)380nm以下で発光せず、400〜500nm及び500〜600nmに発光のピークを1つずつ有する白灯下で5分以上曝光する。d)インキ及び湿し水の少なくとも一方により非露光部を除去し、平版印刷版を作製する。Ar−I−Ar一般式(I);一般式(I)中、Ar及びArは、置換基を有していてもよいベンゼン環であり、Ar及びArは互いに異なった構造を表す。Zは、カウンターアニオンを表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機上現像可能なネガ型平版印刷版原版の機上現像性を良好に維持しつつ、得られる平版印刷版に高い耐刷性を付与できる製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平版印刷版の作製は、中間材料であるリスフィルムを介して平版印刷版原版に露光するシステムで行われてきた。しかし、近年の印刷分野におけるデジタル化の急速な進展とともに、平版印刷版作製工程は、コンピュータに入力し編集されたデジタルデータを平版印刷版原版に直接出力するCTPシステムに変わりつつある。さらに、一層の工程合理化を目指して、露光後、現像処理することなしに、そのまま印刷が行える現像不要の平版印刷版原版が開発されている。
【0003】
処理工程をなくす方法の一つに、露光済みの平版印刷版原版を印刷機の版胴に装着し、版胴を回転しながら湿し水とインキを供給することによって、平版印刷版原版の感光性の樹脂層(画像記録層)を除去する機上現像と呼ばれる方法がある。すなわち、平版印刷版原版を露光後、そのまま印刷機に装着して、画像記録層の不要部分の除去を通常の印刷工程の初期段階で行う方法である。このような機上現像に適した平版印刷版原版は、湿し水やインキ溶剤に可溶な画像記録層を有し、さらに、明室に置かれた印刷機上で現像されるのに適した明室取り扱い性のため、赤外感光性を有することが必要とされる。
【0004】
機上現像可能な平版印刷版原版としては、例えば、親水性結合剤中に疎水性熱可塑性重合体粒子を分散させた像形成層を親水性支持体上に設けた平版印刷版原版が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この技術は、機上現像性は良好だが、得られる平版印刷版の耐刷性は低かった。
このような機上現像可能な平版印刷版原版から得られる平版印刷版原版の耐刷性を改良するものとして、親水性支持体上に、重合性化合物を内包するマイクロカプセルを含む画像記録層(感熱層)を有する平版印刷版原版が記載されている(例えば特許文献2及び3参照)。また、支持体上に、赤外線吸収剤とラジカル重合開始剤と重合性化合物とを含有する画像記録層(感光層)を設けた平版印刷版原版が記載されている(例えば、特許文献3参照)。これらは、重合反応を利用して画像強度を高め、耐刷性の向上を図るものだが、平版印刷版原版の機上現像性と得られる平版印刷版の耐刷性の両立という点では、不十分であった。
【0005】
上記課題に対して、平版印刷版原版の改良が種々提案されている。例えば、平版印刷版原版の画像記録層に用いるバインダーポリマーに架橋性基を導入する提案(特許文献4参照)、平版印刷版原版の支持体と画像記録層の間に、支持体表面に吸着可能な親水性置換基とスルホン酸基を有する水溶性高分子樹脂を含む中間層(下塗り層)を設ける(特許文献5参照)、平版印刷版原版の画像記録層の上に雲母などの無機質の層状化合物を含有するオーバーコート層を設ける(特許文献6参照)などがある。
これらの技術などにより機上現像性と耐刷性の両立という点が改良されてきたが、まだ十分ではなく、より一層の改良が望まれている。
【0006】
製版方法による改良も提案されている。例えば、機上現像型の平版印刷版原版を画像露光した後に、加熱してから機上現像を行うことにより、画像部の硬化を促進する方法(特許文献7参照)が知られている。しかし、この方法では、機上現像性が低下するとか、印刷における汚れにくさが劣化するとかの問題がある。また、マイクロカプセルを含有する感光層を有する機上現像型の平版印刷版原版を赤外線で画像露光する直前、又は画像露光した直後に、版面全体に紫外線を曝光する方法が提案されている(特許文献8参照)。しかし、この方法は、重合性化合物がマイクロカプセル外にある場合は紫外線曝光により非画像部に対応する感光層に重合が起こり、機上現像ができなくなることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2938397号明細書
【特許文献2】特開2001−277740号公報
【特許文献3】特開2001−277742号公報
【特許文献4】特開2002−287334号公報
【特許文献5】特開2006−188038号公報
【特許文献6】特開2005−119273号公報
【特許文献7】米国特許出願公開第2009/0025591号明細書
【特許文献8】特開2005―196030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、平版印刷版原版の機上現像性と平版印刷版原版から得られる平版印刷版の耐刷性が共に良好である平版印刷版の製版方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記機上現像性と耐刷性の両立を、製版方法の観点から研究し、課題を解決するための手段を見いだした。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
1.下記a)〜d)のステップをこの順に行うことを特徴とする平版印刷版の製版方法。
a)支持体上に赤外線吸収剤、一般式(I)で表される開始剤、及び重合性化合物を含む画像記録層を有し、かつ当該画像記録層がインキ及び湿し水の少なくとも一方により除去可能であるネガ型平版印刷版原版を供給する。
b)ネガ型平版印刷版原版を赤外線レーザーにて画像露光する。
c)380nm以下で発光せず、400〜500nm及び500〜600nmに発光のピークを1つずつ有する白灯下で5分以上曝光する。
d)インキ及び湿し水の少なくとも一方により非露光部を除去し、平版印刷版を作製する。
【0011】
Ar−I−Ar 一般式(I)
【0012】
一般式(I)中、Ar及びArは、置換基を有していてもよいベンゼン環であり、Ar及びArは互いに異なった構造を表す。Zは、カウンターアニオンを表す。
【0013】
2.一般式(I)において、Arのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計が負であることを特徴とする前記1記載の平版印刷版の製版方法。
3.一般式(I)において、Arのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計が0又は負であることを特徴とする前記2記載の平版印刷版の製版方法。
4.一般式(I)において、Arのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計及びArのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計の差の絶対値が0.3以上であることを特徴とする前記3記載の平版印刷版の製版方法。
5.画像記録層がボレート塩を含むことを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の平版印刷版の製版方法。
6.前記d)のステップで白灯下の曝光時間が10分以上であることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載の平版印刷版の製版方法。
7.白灯下の曝光時間が30分以上であることを特徴とする前記6に記載の平版印刷版の製版方法。
【0014】
本発明では、上記の製版方法によって、機上現像性と耐刷性の両立という課題を解決できた。本発明のメカニズムは不明であるが、以下のように推定される。
赤外線レーザーで画像露光した後に、380nm以下で発光せず、400〜500nm及び500〜600nmに発光のピークを1つずつ有する白灯下で5分以上曝光することにより、380nm以下に発光を有さないことで、一般式(I)で表される開始剤などの分解反応が起こらず、非画像部における白灯による重合反応が起こりにくくなる。
一方、画像部においては、赤外線による画像露光により、開始系による可視光領域での吸収が増大し、硬化反応に寄与し高耐刷化すると考えられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、平版印刷版原版の機上現像性及び平版印刷版原版から得られる平版印刷版の耐刷性が共に優れた平版印刷版の製版方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の平版印刷版の製版方法は、上記a)〜d)のステップをこの順に行うことを特徴とする。以下、各ステップについて順に説明する。
【0017】
[a)支持体上に赤外線吸収剤、一般式(I)で表される開始剤、及び重合性化合物を含む画像記録層を有し、かつ当該画像記録層がインキ及び湿し水の少なくともいずれかにより除去可能であるネガ型平版印刷版原版を供給する]
本発明の平版印刷版原版は、支持体上に赤外線吸収剤、一般式(I)で表される開始剤、及び重合性化合物を含む画像記録層を有し、かつ当該画像記録層がインキ及び湿し水の少なくとも一方により除去可能であるネガ型平版印刷版原版である。また、本発明の平版印刷版原版は、支持体と画像記録層の間に中間層を、画像記録層の上にオーバーコート層を設けることができる。
【0018】
〔赤外線吸収剤〕
本発明においては平版印刷版原版の画像記録層に、赤外線レーザーに対する感度を高めるため、赤外線吸収剤が用いられる。赤外線吸収剤は、吸収した赤外線を熱に変換する機能を有している。本発明において使用される赤外線吸収剤は、波長760〜1200nmに吸収極大を有する染料又は顔料である。
【0019】
染料としては、市販の染料及び例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
【0020】
好ましい染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭60−78787号等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等の公報に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号等の公報に記載されているスクワリリウム色素、英国特許第434,875号明細書記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0021】
また、米国特許第5,156,938号明細書記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号明細書記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号公報(米国特許第4,327,169号明細書)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号公報に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号公報記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号明細書に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号公報に開示されているピリリウム化合物も好ましく用いられる。また、染料として好ましい別の例として米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
本発明において、好適に用いることのできるできる赤外線吸収染料として、特開2001−133969号公報に記載のシアニン色素を挙げることができる。
また、特に好ましい他の例として、特開2002−278057号公報に記載のインドレニンシアニン色素が挙げられる。
【0022】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。さらに、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい一つの例として下記一般式(a)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0023】
【化1】

【0024】
一般式(a)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、−N(R)(R10)、−X−L又は以下に示す基を表す。ここで、R及びR10は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10の芳香族炭化水素基、炭素原子数1〜8のアルキル基、水素原子を表し、またRとR10とが互いに結合して環を形成してもよい。なかでもフェニル基が好ましい。Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子(N、S、O、ハロゲン原子、Se)を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。下記式のXは後述するZと同様に定義され、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0025】
【化2】

【0026】
1及びR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。記録層塗布液の保存安定性から、R1及びR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、更に、R1とR2とは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0027】
Ar1、Ar2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y1、Y2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R3、R4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。R5、R6、R7及びR8は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Za-は、対アニオンを示す。ただし、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZa-は必要ない。好ましいZa-は、記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0028】
特に赤外線による画像露光により、可視光領域に吸収を持つようにするためには、R5、R6、R7及びR8は水素原子であり、R1とR2とは互いに結合して5員環を形成し、X1は−NPh2である組合せが好ましい。さらにこれらの組合せと、Y1、Y2が、共にジメチルメチレン基である組合せが好ましい。
【0029】
本発明において使用される顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0030】
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。これらの顔料のうち好ましいものはカーボンブラックである。
【0031】
これら顔料は表面処理をせずに用いてもよく、表面処理を施して用いてもよい。表面処理の方法には、樹脂やワックスを表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、反応性物質(例えば、シランカップリング剤、エポキシ化合物、ポリイソシアネート等)を顔料表面に結合させる方法等が考えられる。上記の表面処理方法は、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)及び「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0032】
顔料の粒径は0.01〜10μmの範囲にあることが好ましく、0.05〜1μmの範囲にあることがさらに好ましく、特に0.1〜1μmの範囲にあることが好ましい。この範囲で、顔料分散物の画像記録層塗布液中での良好な安定性と画像記録層の良好な均一性が得られる。
【0033】
顔料を分散する方法としては、インキ製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。分散機としては、超音波分散器、サンドミル、アトライター、パールミル、スーパーミル、ボールミル、インペラー、デスパーザー、KDミル、コロイドミル、ダイナトロン、3本ロールミル、加圧ニーダー等が挙げられる。詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0034】
添加量としては、ネガ型平版印刷版原版の画像記録層に添加する場合に、画像記録層の波長760nm〜1200nmの範囲における極大吸収波長での吸光度が、反射測定法で0.3〜1.2の範囲にあるように添加することが好ましく、より好ましくは、0.4〜1.1の範囲である。この範囲で、画像記録層の深さ方向での均一な重合反応が進行し、良好な画像部の膜強度と支持体に対する密着性が得られる。
画像記録層の吸光度は、画像記録層に添加する赤外線吸収剤の量と画像記録層の厚みにより調整することができる。吸光度の測定は常法により行うことができる。測定方法としては、例えば、アルミニウム等の反射性の支持体上に、乾燥後の塗布量が平版印刷版として必要な範囲において適宜決定された厚みの画像記録層を形成し、反射濃度を光学濃度計で測定する方法、積分球を用いた反射法により分光光度計で測定する方法等が挙げられる。
【0035】
〔一般式(I)で表される開始剤〕
本発明においては平版印刷版原版の画像記録層に、下記一般式(I)で表される開始剤(ヨードニウム塩)が用いられる。
【0036】
Ar−I−Ar 一般式(I)
【0037】
一般式(I)中、Ar及びArは置換基を有していてもよいベンゼン環であり、Ar及びArは互いに異なった構造を表す。Zは、カウンターアニオンを表す。Ar及びArが互いに異なる構造とは、Ar及びArの置換基を含めた構造が互いに異なる構造であることを意味する。
のカウンターアニオンは、好ましくは、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、カルボキシレートイオン、スルホン酸イオンであり、より好ましくは、ヘキサフルオロホスフェートイオン、スルホン酸イオンである。
【0038】
特に赤外線による画像露光により、可視光領域に吸収を持つようにするためには、Ar及びArは互いに異なっており、且つArのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計が負であるヨードニウム塩が好ましい。
特に、一般式(I)において、Arのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計(以下、「Arハメット値」ともいう。)が負であり、及びArのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計(以下、「Arハメット値」ともいう。)が0以下であることが好ましい。
さらに、Arのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計及びArのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計の差の絶対値が0.3以上であることが好ましい。
これらの好ましいヨードニウム塩と、一般式(a)のR5、R6、R7及びR8が水素原子であり、R1とR2とは互いに結合して5員環を形成し、X1が−NPh2であるシアニン色素との組合せが好ましい。さらに一般式(a)のY1、Y2が共にジメチルメチレン基であるシアニン色素との組合せの場合がさらに好ましい。
【0039】
ハメットσ値は、参考文献「化学セミナー10 ハメット側−構造と反応性−」(稲本直樹著、丸善(株)、1983年6月刊)に記載されているように、水中・25℃における安息香酸の酸解離平衡に対するメタ置換基、パラ置換基の影響を示す値である。負であれば電子供与性であり、正であれば電子吸引性である。なお、オルト置換基については、p−位置換基の値を代用して計算する。
ハメットσ値の合計を計算する場合、C−I結合に対してm位にある置換基に対してはσm値を使用し、p位にある置換基に対してはσp値を使用する。
本発明のヨードニウム塩は、これらのハメットσ値をそれぞれのベンゼン環において合計し、少なくとも片方の合計が負であるヨードニウム塩が好ましく、さらに、もう片方の合計が0又は負であるヨードニウム塩がより好ましい。
【0040】
本発明のヨードニウム塩は、一般式(I)に於いて、2つのベンゼン環が互いに異なっており、且つArのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計が負である限り、いずれのヨードニウム塩も使用することができるが、より好ましくは、以下の一般式(II)で表されるヨードニウム塩であり、2つのベンゼン環の置換基が互いに異なっており、且つ少なくとも1つのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計が負であるヨードニウム塩である。
【0041】
【化3】

【0042】
一般式(II)中、R1〜R6は、各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、−OR7、−OCOR7、−OCOR78、−OSO27、−OPO(OR7)(OR8)、−OSiR789、−COR7、−COOR7、−CONR78、−NR78、−NR7COR8、−NR7COOR8、−NR7CONR89、−N(COR7)(COR8)、−N+789・Y-、−NR7SO28、−SR7、−SOR7、−SO27、−SO37、−SO2NR78、−PR78、−PO(OR7)(OR8)、又は−SiR789、を表し、R7〜R9は、各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルケニル基、又はアルキニル基を表し、Z及びYは、カウンターアニオンを表す。
上記置換基の内でハメットσ値が正の場合と負の場合の置換基例を以下に示す。
σm>0:ハロゲン原子、ハロアルキル基、シアノ基、ニトロ基、−OCOR7、−OSO27、−COR7、−COOR7、−CONR78、−SO27
σm<0:−NR78、アルキル基、
σp>0:ハロゲン原子、ハロアルキル基、シアノ基、ニトロ基、−OCOR7、−OSO27、−COR7、−COOR7、−CONR78、−SO27
σp<0:−NR78、−OR7、アルキル基、
及びRにアルキル基、又はOR7を有するものが好ましく、特にR2、4、5、及びRにアルキル基、又はOR7を有するものが好ましい。アルキル基及びR7の炭素原子数は好ましくは1〜18、より好ましくは1〜12、さらに好ましくは1〜8である。
【0043】
以下に、本発明に用いられるヨードニウム塩の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
【化4】

【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
これらのヨードニウム塩は、画像記録層を構成する全固形分に対し、一般的には0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜20質量%の割合で添加することができる。この範囲内で、耐刷性が向上する。
【0048】
〔重合性化合物〕
本発明に用いることができる重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。このような化合物群は当該産業分野において広く知られるものであり、本発明においてはこれらを特に限定無く用いることができる。これらは、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物ならびにそれらの共重合体などの化学的形態をもつ。モノマー及びその共重合体の例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能イソシアネート類あるいはエポキシ類との付加反応物、及び単官能もしくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
【0049】
脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー、イソシアヌール酸EO変性トリアクリレート等がある。
【0050】
メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等がある。
【0051】
イタコン酸エステルとしては、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネート等がある。クロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネート等がある。イソクロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネート等がある。マレイン酸エステルとしては、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレート等がある。
【0052】
その他のエステルの例として、例えば、特公昭51−47334、特開昭57−196231記載の脂肪族アルコール系エステル類や、特開昭59−5240、特開昭59−5241、特開平2−226149記載の芳香族系骨格を有するもの、特開平1−165613記載のアミノ基を含有するもの等も好適に用いられる。更に、前述のエステルモノマーは混合物としても使用することができる。
【0053】
また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。その他の好ましいアミド系モノマーの例としては、特公昭54−21726記載のシクロへキシレン構造を有すものを挙げることができる。
【0054】
また、イソシアネートとヒドロキシル基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報中に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(b)で示されるヒドロキシル基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
【0055】
CH2=C(R4)COOCH2CH(R5)OH (b)
(ただし、R4及びR5は、H又はCH3を示す。)
【0056】
また、特開昭51−37193号、特公平2−32293号、特公平2−16765号に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号、特公昭56−17654号、特公昭62−39417号、特公昭62−39418号記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類も好適である。更に、特開昭63−277653号、特開昭63−260909号、特開平1−105238号に記載される、分子内にアミノ構造やスルフィド構造を有する付加重合性化合物類を用いることによっては、非常に感光スピードに優れた光重合性組成物を得ることができる。
【0057】
その他の例としては、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号、各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。また、特公昭46−43946号、特公平1−40337号、特公平1−40336号記載の特定の不飽和化合物や、特開平2−25493号記載のビニルホスホン酸系化合物等も挙げることができる。また、ある場合には、特開昭61−22048号記載のペルフルオロアルキル基を含有する構造が好適に使用される。更に日本接着協会誌vol.20、No.7、300〜308ページ(1984年)に光硬化性モノマー及びオリゴマーとして紹介されているものも使用することができる。
【0058】
これらの付加重合性化合物について、その構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な平版印刷版原版の性能設計にあわせて任意に設定できる。例えば、次のような観点から選択される。
感度の点では1分子あたりの不飽和基含量が多い構造が好ましく、多くの場合、2官能以上が好ましい。また、画像部すなわち硬化膜の強度を高くするためには、3官能以上のものがよく、更に、異なる官能数・異なる重合性基(例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン系化合物、ビニルエーテル系化合物)のものを併用することで、感度と強度の両方を調節する方法も有効である。
また、画像記録層中の他の成分(例えばバインダーポリマー、開始剤、着色剤等)との相溶性、分散性に対しても、付加重合化合物の選択・使用法は重要な要因であり、例えば、低純度化合物の使用や、2種以上の併用により相溶性を向上させうることがある。また、基板や後述のオーバーコート層等の密着性を向上せしめる目的で特定の構造を選択することもあり得る。
【0059】
重合性化合物は、画像記録層中の不揮発性成分に対して、好ましくは5〜80質量%、更に好ましくは25〜75質量%の範囲で使用される。また、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。そのほか、付加重合性化合物の使用法は、酸素に対する重合阻害の大小、解像度、かぶり性、屈折率変化、表面粘着性等の観点から適切な構造、配合、添加量を任意に選択でき、更に場合によっては下塗り、上塗りといった層構成・塗布方法も実施しうる。
【0060】
〔一般式(I)で表される開始剤と併用可能な開始剤〕
本発明においては、一般式(I)で表される開始剤は、その他の開始剤を併用することができる。併用できるその他の開始剤としてはラジカル重合性化合物の重合を開始、促進する化合物が挙げられる。具体的には、ラジカル重合開始剤が好ましく、公知の熱重合開始剤、結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物、光重合開始剤などを使用することができる。
本発明における併用できるその他の開始剤としては、例えば、(a)有機ハロゲン化物、(b)カルボニル化合物、(c)アゾ化合物、(d)有機過酸化物、(e)メタロセン化合物、(f)アジド化合物、(g)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(h)有機ホウ酸塩化合物、(i)ジスルホン化合物、(j)オキシムエステル化合物、(k)オニウム塩化合物、が挙げられる。
【0061】
(a)有機ハロゲン化物としては、特開2008−195018号公報の段落番号[0022]〜[0023]に記載の化合物が好ましい。
【0062】
(b)カルボニル化合物としては、特開2008−195018号公報の段落番号[0024]に記載の化合物が好ましい。
【0063】
(c)アゾ化合物としては、例えば、特開平8−108621号公報に記載のアゾ化合物等を使用することができる。
【0064】
(d)有機過酸化物としては、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0025]に記載の化合物が好ましい。
【0065】
(e)メタロセン化合物としては、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0026]に記載の化合物が好ましい。
【0066】
(f)アジド化合物としては、2,6−ビス(4−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン等の化合物を挙げることができる。
(g)ヘキサアリールビイミダゾール化合物としては、例えば、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0027]に記載の化合物が好ましい。
【0067】
(h)有機ホウ酸塩化合物としては、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0028]に記載の化合物が好ましい。
【0068】
(i)ジスルホン化合物としては、特開昭61−166544号、特開2003−328465号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0069】
(j)オキシムエステル化合物としては、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0028]〜[0030]に記載の化合物が好ましい。
【0070】
(k)オニウム塩化合物としては、例えば、S.I.Schlesinger,Photogr.Sci.Eng.,18,387(1974)、T.S.Bal et al,Polymer,21,423(1980)に記載のジアゾニウム塩、米国特許第4,069,055号明細書、特開平4−365049号公報等に記載のアンモニウム塩、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号の各明細書に記載のホスホニウム塩、欧州特許第104、143号、米国特許第339,049号、同第410,201号、米国特許出願公開第2008/0311520号の各明細書、特開平2−150848号、特開平2−296514号、特開2008−195018号の各公報に記載のヨードニウム塩、欧州特許第370,693号、同390,214号、同233,567号、同297,443号、同297,442号、米国特許第4,933,377号、同161,811号、同410,201号、同339,049号、同4,760,013号、同4,734,444号、同2,833,827号、独国特許第2,904,626号、同3,604,580号、同3,604,581号の各明細書に記載のスルホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromolecules,10(6),1307(1977)、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,17,1047(1979)に記載のセレノニウム塩、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)に記載のアルソニウム塩、特開2008−195018号公報に記載のアジニウム塩等のオニウム塩等が挙げられる。
【0071】
上記の中でもより好ましいものとして、オニウム塩、なかでもヨードニウム塩、スルホニウム塩及びアジニウム塩が挙げられる。以下に、これらの化合物の具体例を示すが、これに限定されない。
なお、一般式(I)と異なるヨードニウム塩を併用することも可能である。具体的には一般式(I)のAr及びArが同じジフェニルヨードニウム塩である。
【0072】
ヨードニウム塩の例としては、ジフェニルヨードニウム=ヘキサフルオロホスファート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウム=テトラフェニルボラート、ビス(3−t−トリフルオロメチルフェニル)ヨードニウム=テトラフェニルボラートが挙げられる。
【0073】
スルホニウム塩の例としては、トリフェニルスルホニウム=ヘキサフルオロホスファート、トリフェニルスルホニウム=ベンゾイルホルマート、ビス(4−クロロフェニル)フェニルスルホニウム=ベンゾイルホルマート、ビス(4−クロロフェニル)−4−メチルフェニルスルホニウム=テトラフルオロボラート、トリス(4−クロロフェニル)スルホニウム=3,5−ビス(メトキシカルボニル)ベンゼンスルホナートが挙げられる。
【0074】
アジニウム塩の例としては、1−シクロヘキシルメチルオキシピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−シクロヘキシルオキシ−4−フェニルピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−エトキシ−4−フェニルピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−(2−エチルヘキシルオキシ)−4−フェニルピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、4−クロロ−1−シクロヘキシルメチルオキシピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−エトキシ−4−シアノピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、3,4−ジクロロ−1−(2−エチルヘキシルオキシ)ピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−ベンジルオキシ−4−フェニルピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−フェネチルオキシ−4−フェニルピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−(2−エチルヘキシルオキシ)−4−フェニルピリジニウム=p−トルエンスルホナート、1−(2−エチルヘキシルオキシ)−4−フェニルピリジニウム=ペルフルオロブタンスルホナート、1−(2−エチルヘキシルオキシ)−4−フェニルピリジニウム=ブロミド、1−(2−エチルヘキシルオキシ)−4−フェニルピリジニウム=テトラフルオロボラートが挙げられる。
【0075】
併用可能な開始剤の量は、式(I)の開始剤の含有量に対して100質量%以下である。この範囲で耐刷性が向上する。
【0076】
〔ボレート塩〕
本発明の画像記録層はボレート塩を含有することが好ましい。ボレート塩としては、テトラアリールホウ酸塩が好ましい。
【0077】
多くのテトラアリールホウ酸塩が、本発明の実施に適している。一般的に、テトラアリールホウ酸塩は、アリール基に対する4つの結合を有するホウ素中心を含む。テトラアリールホウ酸塩の一般的な表現は、[A+][B(Ar1)(Ar2)(Ar3)(Ar4)-]であり、Ar1からAr4はそれぞれ、同じ又は異なるものであってよいアリール基を表し、そしてA+は対カチオンを表す。アリール基は、炭素環式芳香族又は複素環式芳香族(例えば芳香環中にN、O、又はSを含む)基であってよい。各アリール基は、単環式又は多環式であってよく、いくつかのテトラアリールホウ酸塩の場合には、ホウ素中心は多環式構造(例えばビフェニル)に対する2つ以上の単一結合を有することができる。
【0078】
各アリール基は、置換されていなくても、あるいは1つ又は2つ以上の環位置において好適な置換基で置換されたものであってもよい。好適な置換基の例としては、例えばアルキル基、シクロアルキル基、炭素環式又は複素環式芳香族基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルコキシ基、及びハロアルコキシ基が挙げられる。
【0079】
一実施態様において、テトラアリールホウ酸塩はテトラフェニルホウ酸塩である。テトラフェニルホウ酸アニオンは、一般構造[B(Ph)4-]を有しており、各Phは、置換されていなくても置換されたものであってもよいフェニル基である。好適なテトラフェニルホウ酸アニオンの一例は、[B(C6H5)4-]である(「テトラフェニルホウ酸」として一般的に知られている)。
【0080】
一般的に、テトラアリールホウ酸塩化合物は、好適な対カチオンを含む塩として組成物中に導入することができる。対カチオンの性質は限定されない。例えば、アルカリイオン、例えばLi、Na、及びKが好適である。非置換、第一級、第二級、第三級、又は第四級であることが可能なアンモニウムカチオンも好適である。好適なアンモニウムカチオンとしては、例えばNH4+、ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、及びトリブチルアンモニウムなどが挙げられる。アンモニウム対イオンを有するテトラフェニルホウ酸塩が、本発明の実施におけるテトラアリールホウ酸塩として好適である。
【0081】
一実施態様において、テトラアリールホウ酸塩は第四級アンモニウム対イオンを含む。第四級アンモニウムカチオンは一般構造[N(R1)(R2)(R3)(R4)+]を有し、R1からR4はそれぞれ、同じ又は異なるものであってよい有機置換基を表す。第四級アンモニウムカチオンは、環境のpHに依存せず永久的に電荷を有する。好適な第四級アンモニウム対イオンは、例えばテトラエチルアンモニウム及びテトラブチルアンモニウムを含む。一例としては、第四級アンモニウム対イオンを有するテトラフェニルホウ酸塩は、本発明の実施におけるテトラアリールホウ酸塩として好適である。
【0082】
ラジカルを生成するオニウムイオンが開始剤系の一部である場合のように、ラジカルを生成するオニウム・カチオンとテトラアリールホウ酸アニオンとを含む塩が好適である場合もある。この実施態様では、テトラアリールホウ酸は、一次的なラジカル生成成分であることを期待されない。テトラアリールホウ酸は、少なくとも1つのアルキル置換基を有するホウ酸塩よりも反応性が低く、一般的には、露光時に重合反応を開始するのに十分なラジカルを発生させるのに有用でない。
【0083】
テトラアリールホウ酸塩が画像記録層中に含まれる場合、画像記録層は、一般的に、0.5質量%〜20質量%、より好適には1質量%〜10質量%のテトラアリールホウ酸塩を含む。テトラアリールホウ酸アニオンは、一般的に、上記開始剤系に加えて含まれるが、しかし、好適なカチオン性開始剤(例えばラジカルを生成するオニウム化合物)又はカチオン性色素とともに対イオンとして導入することができる。
【0084】
〔画像記録層のその他の成分〕
本発明の画像記録層には、上記の成分の他に、バインダーポリマー、ポリマー微粒子、低分子親水性化合物、感脂化剤、さらにその他の成分を必要に応じて含有させることができる。
【0085】
(1)バインダーポリマー
本発明の画像記録層には、画像記録層の膜強度を向上させるため、バインダーポリマーを用いることができる。本発明に用いることができるバインダーポリマーは、従来公知のものを制限なく使用でき、皮膜性を有するポリマーが好ましい。なかでも、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0086】
なかでも本発明に好適なバインダーポリマーとしては、特開2008−195018号公報に記載のような、画像部の皮膜強度を向上するための架橋性官能基を主鎖又は側鎖、好ましくは側鎖に有しているものが挙げられる。架橋性基によってポリマー分子間に架橋が形成され、硬化が促進する。
【0087】
架橋性官能基としては、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基などのエチレン性不飽和基やエポキシ基等が好ましく、これらの基は高分子反応や共重合によってポリマーに導入することができる。例えば、カルボキシ基を側鎖に有するアクリルポリマーやポリウレタンとグリシジルメタクリレートとの反応、あるいはエポキシ基を有するポリマーとメタクリル酸などのエチレン性不飽和基含有カルボン酸との反応を利用できる。
【0088】
バインダーポリマー中の架橋性基の含有量は、バインダーポリマー1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは1.0〜7.0mmol、最も好ましくは2.0〜5.5mmolである。
【0089】
また、本発明のバインダーポリマーは、更に親水性基を有することが好ましい。親水性基は画像記録層に機上現像性を付与するのに寄与する。特に、架橋性基と親水性基を共存させることにより、耐刷性と現像性の両立が可能になる。
【0090】
親水性基としては、たとえば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキレンオキシド構造、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、スルホ基、リン酸基等などがあり、なかでも、炭素数2又は3のアルキレンオキシド単位を1〜9個有するアルキレンオキシド構造が好ましい。特にエチレンオキシド単位を2〜8個有するポリエチレンオキシド構造が好ましい。バインダーポリマーに親水性基を付与するには親水性基を有するモノマーを共重合すればよい。
【0091】
また、本発明のバインダーポリマーには、着肉性を制御するため、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基などの親油性の基を導入できる。具体的には、メタクリル酸アルキルエステルなどの親油性基含有モノマーを共重合すればよい。
【0092】
以下に本発明に用いられるバインダーポリマーの具体例(1)〜(11)を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお繰り返し単位の比はモル比である。
【0093】
【化7】

【0094】
【化8】

【0095】
なお、本発明におけるバインダーポリマーは質量平均モル質量(Mw)が2000以上であることが好ましく、5000以上であるのがより好ましく、1万〜30万であるのが更に好ましい。
【0096】
本発明では必要に応じて、特開2008−195018号公報に記載のポリアクリル酸、ポリビニルアルコールなどの親水性ポリマーを用いることができる。また、親油的なバインダーポリマーと親水的なバインダーポリマーを併用することもできる。
【0097】
バインダーポリマーの含有量は、画像記録層の全固形分に対して、通常5〜90質量%であり、5〜80質量%であるのが好ましく、10〜70質量%であるのがより好ましい。
【0098】
(2)ポリマー微粒子
本発明では、機上現像性を向上させるため、ポリマー微粒子を用いることができる。特に、ポリアルキレンオキシド構造を有するポリマー微粒子が好ましい。特に側鎖にポリアルキレンオキシド基を有するポリマー微粒子が好ましい。これらにより、湿し水の浸透性が向上し、機上現像性が良好となる。
本発明におけるポリマー微粒子は、熱が加えられたときに画像記録層を疎水性に変換できる疎水化前駆体であることが好ましい。疎水化前駆体ポリマー微粒子としては、疎水性熱可塑性ポリマー微粒子、熱反応性ポリマー微粒子、疎水性化合物を内包しているマイクロカプセル、及びミクロゲル(架橋ポリマー微粒子)から選ばれる少なくともひとつの粒子が好ましい。なかでも、重合性基を有するポリマー微粒子及びミクロゲルが好ましい。機上現像性を向上させるためには、上記の如く、ポリアルキレンオキシド構造を有することが好ましい。
【0099】
疎水性熱可塑性ポリマー微粒子としては、1992年1月のResearch Disclosure No.333003、特開平9−123387号公報、同9−131850号公報、同9−171249号公報、同9−171250号公報及び欧州特許第931647号明細書などに記載の疎水性熱可塑性ポリマー微粒子を好適なものとして挙げることができる。
このようなポリマー微粒子を構成するポリマーの具体例としては、エチレン、スチレン、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルカルバゾール、ポリアルキレン構造を有するアクリレート又はメタクリレートなどのモノマーのホモポリマーもしくはコポリマー又はそれらの混合物を挙げることができる。その中で、より好適なものとして、ポリスチレン、スチレン及びアクリロニトリルを含む共重合体、ポリメタクリル酸メチルを挙げることができる。
【0100】
本発明に用いられる疎水性熱可塑性ポリマー微粒子の平均粒径は0.01〜2.0μmが好ましい。
【0101】
本発明に用いられる熱反応性ポリマー微粒子としては、熱反応性基を有するポリマー微粒子が挙げられ、これらは、熱反応による架橋、及びその際の官能基変化により疎水化領域を形成する。
【0102】
本発明に用いる熱反応性基を有するポリマー微粒子における熱反応性基としては、化学結合が形成されるならば、どのような反応を行う官能基でもよいが、ラジカル重合反応を行うエチレン性不飽和基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基など)、カチオン重合性基(例えば、ビニル基、ビニルオキシ基など)、付加反応を行うイソシアナート基又はそのブロック体、エポキシ基、ビニルオキシ基及びこれらの反応相手である活性水素原子を有する官能基(例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基など)、縮合反応を行うカルボキシ基及び反応相手であるヒドロキシ基又はアミノ基、開環付加反応を行う酸無水物及び反応相手であるアミノ基又はヒドロキシ基などを好適なものとして挙げることができる。
【0103】
本発明で用いられるマイクロカプセルとしては、例えば、特開2001−277740号公報、特開2001−277742号公報に記載のごとく、画像記録層の構成成分の全て又は一部をマイクロカプセルに内包させたものである。なお、画像記録層の構成成分は、マイクロカプセル外にも含有させることもできる。更に、マイクロカプセルを含有する画像記録層は、疎水性の構成成分をマイクロカプセルに内包し、親水性の構成成分をマイクロカプセル外に含有することが好ましい態様である。
【0104】
本発明においては、架橋樹脂粒子、すなわちミクロゲルを含有する態様であってもよい。このミクロゲルは、その中及び表面の少なくとも一方に、画像記録層の構成成分の一部を含有することができ、特に、(C)ラジカル重合性化合物をその表面に有することによって反応性ミクロゲルとした態様が、画像形成感度や耐刷性の観点から特に好ましい。
【0105】
画像記録層の構成成分をマイクロカプセル化、もしくはミクロゲル化する方法としては、公知の方法が適用できる。
【0106】
上記のマイクロカプセルやミクロゲルの平均粒径は、0.01〜3.0μmが好ましい。0.05〜2.0μmが更に好ましく、0.10〜1.0μmが特に好ましい。この範囲内で良好な解像度と経時安定性が得られる。
【0107】
ポリマー微粒子の含有量としては、画像記録層全固形分の5〜90質量%の範囲であることが好ましい。
【0108】
(3)低分子親水性化合物
本発明における画像記録層は、耐刷性を低下させることなく機上現像性を向上させるために、低分子親水性化合物を含有してもよい。
低分子親水性化合物としては、例えば、水溶性有機化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類及びそのエーテル又はエステル誘導体類、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等のポリオール類、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等の有機アミン類及びその塩、アルキルスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸類及びその塩、アルキルスルファミン酸等の有機スルファミン酸類及びその塩、アルキル硫酸、アルキルエーテル硫酸等の有機硫酸類及びその塩、フェニルホスホン酸等の有機ホスホン酸類及びその塩、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、アミノ酸類等の有機カルボン酸類及びその塩、ベタイン類、等が挙げられる。
【0109】
本発明においてはこれらの中でも、ポリオール類、有機硫酸塩類、有機スルホン酸塩類、ベタイン類の群から選ばれる少なくとも一つを含有させることが好ましい。
【0110】
有機スルホン酸塩の具体的な化合物としては、n−ブチルスルホン酸ナトリウム、n−ヘキシルスルホン酸ナトリウム、2−エチルヘキシルスルホン酸ナトリウム、シクロヘキシルスルホン酸ナトリウム、n−オクチルスルホン酸ナトリウムなどのアルキルスルホン酸塩;5,8,11−トリオキサペンタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、5,8,11−トリオキサヘプタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、13−エチル−5,8,11−トリオキサヘプタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、5,8,11,14−テトラオキサテトラコサン−1−スルホン酸ナトリウムなどのエチレンオキシド鎖を含むアルキルスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウム、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、p−ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、p−スチレンスルホン酸ナトリウム、イソフタル酸ジメチル−5−スルホン酸ナトリウム、1−ナフチルスルホン酸ナトリウム、4−ヒドロキシナフチルスルホン酸ナトリウム、1,5−ナフタレンジスルホン酸ジナトリウム、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸トリナトリウムなどのアリールスルホン酸塩、特開2007−276454号公報段落番号[0026]〜[0031]、特開2009−154525号公報段落番号[0020]〜[0047]に記載の化合物などが挙げられる。塩は、カリウム塩、リチウム塩でもよい。
【0111】
有機硫酸塩としては、ポリエチレンオキシドのアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール又は複素環モノエーテルの硫酸塩が挙げられる。エチレンオキシド単位は1〜4であるのが好ましく、塩は、ナトリウム塩、カリウム塩又はリチウム塩が好ましい。これらの具体例としては、特開2007−276454号公報段落番号[0034]〜[0038]に記載の化合物が挙げられる。
【0112】
ベタイン類としては、窒素原子への炭化水素置換基の炭素原子数が1〜5である化合物が好ましく、具体例としては、トリメチルアンモニウムアセタート、ジメチルプロピルアンモニウムアセタート、3−ヒドロキシ−4−トリメチルアンモニオブチラート、4−(1−ピリジニオ)ブチラート、1−ヒドロキシエチル−1−イミダゾリオアセタート、トリメチルアンモニウムメタンスルホナート、ジメチルプロピルアンモニウムメタンスルホナート、3−トリメチルアンモニオ−1−プロパンスルホナート、3−(1−ピリジニオ)−1−プロパンスルホナートなどが挙げられる。
【0113】
上記の低分子親水性化合物は、疎水性部分の構造が小さくて界面活性作用がほとんどないため、湿し水が画像記録層露光部(画像部)へ浸透して画像部の疎水性や皮膜強度を低下させることがなく、画像記録層のインキ受容性や耐刷性を良好に維持できる。
【0114】
これら低分子親水性化合物の画像記録層への添加量は、画像記録層全固形分量の0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1質量%以上15質量%以下であり、更に好ましくは2質量%以上10質量%以下である。この範囲で良好な機上現像性と耐刷性が得られる。
これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0115】
(4)感脂化剤
本発明の画像記録層には、着肉性を向上させるために、画像記録層にホスホニウム化合物、含窒素低分子化合物、アンモニウム基含有ポリマーなどの感脂化剤を用いることができる。特に、オーバーコート層に無機質の層状化合物を含有させる場合、これらの化合物は、無機質の層状化合物の表面被覆剤として機能し、無機質の層状化合物による印刷途中の着肉性低下を防止する。
【0116】
好適なホスホニウム化合物としては、特開2006−297907号公報及び特開2007−50660号公報に記載のホスホニウム化合物を挙げることができる。具体例としては、テトラブチルホスホニウムヨージド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、1,4−ビス(トリフェニルホスホニオ)ブタン=ジ(ヘキサフルオロホスファート)、1,7−ビス(トリフェニルホスホニオ)ヘプタン=スルファート、1,9−ビス(トリフェニルホスホニオ)ノナン=ナフタレン−2,7−ジスルホナートなどが挙げられる。
【0117】
上記含窒素低分子化合物としては、アミン塩類、第4級アンモニウム塩類が挙げられる。またイミダゾリニウム塩類、ベンゾイミダゾリニウム塩類、ピリジニウム塩類、キノリニウム塩類も挙げられる。なかでも、第4級アンモニウム塩類、及びピリジニウム塩類が好ましい。具体例としては、テトラメチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、テトラブチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ドデシルトリメチルアンモニウム=p−トルエンスルホナート、ベンジルトリエチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ベンジルジメチルオクチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、特開2008−284858号公報段落番号[0021]〜[0037]、特開2009−90645号公報段落番号[0030]〜[0057]に記載の化合物などが挙げられる。
【0118】
上記アンモニウム基含有ポリマーとしては、その構造中にアンモニウム基を有すれば如何なるものでもよいが、側鎖にアンモニウム基を有する(メタ)アクリレートを共重合成分として5〜80モル%含有するポリマーが好ましい。具体例としては、特開2009−208458号公報段落番号[0089]〜[0105]に記載のポリマーが挙げられる。
【0119】
以下に、アンモニウム基含有ポリマーの具体例を示す。
(1)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=p−トルエンスルホナート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比10/90 Mw4.5万)
(2)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw6.0万)
(3)2−(エチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=p−トルエンスルホナート/ヘキシルメタクリレート共重合体(モル比30/70 Mw4.5万)
(4)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/2−エチルヘキシルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw6.0万)
(5)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=メチルスルファート/ヘキシルメタクリレート共重合体(モル比40/60 Mw7.0万)
(6)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比 25/75 Mw6.5万)
(7)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルアクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw6.5万)
(8)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=13−エチル−5,8,11−トリオキサ−1−ヘプタデカンスルホナート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw7.5万)
(9)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート/2−ヒドロキシ−3−メタクロイルオキシプロピルメタクリレート共重合体(モル比15/80/5 Mw6.5万)
【0120】
上記アンモニウム塩含有ポリマーは、特開2009−208458号公報記載の測定方法で求められる還元比粘度(単位:ml/g)の値で、5〜120の範囲のものが好ましく、10〜110の範囲のものがより好ましく、15〜100の範囲のものが特に好ましい。上記還元比粘度を質量平均モル質量(Mw)に換算すると、10000〜150000が好ましく、17000〜140000がより好ましく、20000〜130000が特に好ましい。
【0121】
上記感脂化剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して0.01〜30.0質量%が好ましく、0.1〜15.0質量%がより好ましく、1〜10質量%が更に好ましい。
【0122】
(5)その他の成分
更にその他の成分として、界面活性剤、着色剤、焼き出し剤、重合禁止剤、高級脂肪酸誘導体、可塑剤、無機微粒子、無機質層状化合物、及び共増感剤もしくは連鎖移動剤などを添加することができる。具体的には、特開2008−284817号公報の段落番号[0114]〜[0159]、特開2006−091479号公報の段落番号[0023]〜[0027]、米国特許公開2008/0311520号明細書段落番号[0060]に記載の化合物及び添加量が好ましい。
【0123】
〔画像記録層の形成〕
本発明における画像記録層は、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0142]〜[0143]に記載のように、必要な上記各成分を公知の溶剤に分散又は溶解して塗布液を調製し、これを支持体上にバーコーター塗布など公知の方法で塗布し、乾燥することで形成される。塗布、乾燥後に得られる支持体上の画像記録層塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般的に0.3〜3.0g/mが好ましい。この範囲で、良好な感度と画像記録層の良好な皮膜特性が得られる。
【0124】
〔中間層〕
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層と支持体との間に中間層(下塗り層と呼ばれることもある)を設けることが好ましい。中間層は、露光部においては支持体と画像記録層との密着を強化し、未露光部においては画像記録層の支持体からのはく離を生じやすくさせるため、耐刷性を損なわず現像性を向上させるのに寄与する。また、赤外線レーザー露光の場合は、中間層が断熱層として機能することにより、露光により発生した熱が支持体に拡散して感度が低下するのを防ぐ。
【0125】
中間層に用いる化合物としては、支持体表面に吸着可能な吸着性基、及び画像記録層と密着性を向上させるために架橋性基を有するものが好ましい。更に、スルホ基などの親水性付与基を有する化合物も好適な化合物として挙げることができる。これらの化合物は、低分子でも高分子ポリマーであってもよい。また、これらの化合物は必要に応じて2種以上を混合して使用してもよい。
【0126】
高分子ポリマーである場合は、吸着性基を有するモノマー、親水性基を有するモノマー、及び架橋性基を有するモノマーの共重合体が好ましい。支持体表面に吸着可能な吸着性基としては、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、−PO32、−OPO32、−CONHSO2−、−SO2NHSO2−、−COCH2COCH3が好ましい。親水基とし
ては、スルホ基が好ましい。架橋性基としてはメタクリル基、アリル基などが好ましい。この高分子ポリマーは、高分子ポリマーの極性置換基と、対荷電を有する置換基及びエチレン性不飽和結合を有する化合物との塩形成で導入された架橋性基を有してもよいし、上記以外のモノマー、好ましくは親水性モノマーが更に共重合されていてもよい。
【0127】
具体的には、特開平10−282679号公報に記載されている付加重合可能なエチレン性二重結合反応基を有しているシランカップリング剤、特開平2−304441号公報記載のエチレン性二重結合反応基を有しているリン化合物が好適に挙げられる。特開2005-238816号、特開2005−125749号、特開2006−239867号
、特開2006−215263号の各公報記載の架橋性基(好ましくは、エチレン性不飽和結合基)、支持体表面に相互作用する官能基、及び親水性基を有する低分子又は高分子化合物を含有するものも好ましく用いられる。
より好ましいものとして、特開2005−125749号及び特開2006−188038号公報に記載の支持体表面に吸着可能な吸着性基、親水性基、及び架橋性基を有する高分子ポリマーが挙げられる。
【0128】
中間層用高分子樹脂中の不飽和二重結合の含有量は、高分子ポリマー1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、最も好ましくは0.2〜5.5mmolである。
中間層用の高分子ポリマーは、質量平均モル質量が5000以上であるのが好ましく、1万〜30万であるのがより好ましい。
【0129】
本発明の中間層は、上記中間層用化合物の他に、経時における汚れ防止のため、キレート剤、第2級又は第3級アミン、重合禁止剤、アミノ基又は重合禁止能を有する官能基とアルミニウム支持体表面と相互作用する基とを有する化合物等(例えば、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、2,3,5,6−テトラヒドロキシ−p−キノン、クロラニル、スルホフタル酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸など)を含有することができる。
【0130】
中間層は、公知の方法で塗布される。中間層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/m2であるのが好ましく、1〜30mg/m2であるのがより好ましい。
【0131】
〔支持体〕
本発明の平版印刷版原版に用いられる支持体としては、公知の支持体が用いられる。なかでも、公知の方法で粗面化処理され、陽極酸化処理されたアルミニウム板が好ましい。
また、上記アルミニウム板は必要に応じて、特開2001−253181号公報や特開2001−322365号公報に記載されている陽極酸化皮膜のマイクロポアの拡大処理や封孔処理、及び米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、同第3,280,734号及び同第3,902,734号の各明細書に記載されているようなアルカリ金属シリケートあるいは米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号及び同第4,689,272号の各明細書に記載されているようなポリビニルホスホン酸などによる表面親水化処理を適宜選択して行うことができる。
支持体は、中心線平均粗さが0.10〜1.2μmであるのが好ましい。
【0132】
本発明の支持体には必要に応じて、裏面に、特開平5−45885号公報に記載されている有機高分子化合物、特開平6−35174号公報に記載されているケイ素のアルコキシ化合物を含むバックコート層を設けることができる。
【0133】
〔オーバーコート層〕
本発明の平版印刷版原版には、露光時の重合反応を妨害する酸素の拡散侵入を遮断するため、画像記録層上にオーバーコート層(保護層とも呼ばれる。)が設けられることが好ましい。オーバーコート層に使用できる材料としては、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマーのいずれをも適宜選択して使用することができ、必要に応じて2種類以上を混合して使用することもできる。具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース誘導体、ポリ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。これらの中で、比較的結晶性に優れた水溶性高分子化合物を用いることが好ましく、具体的には、ポリビニルアルコールを主成分として用いる事が、酸素遮断性、現像除去性といった基本特性的に最も良好な結果を与える。
【0134】
オーバーコート層に使用するポリビニルアルコールは、必要な酸素遮断性と水溶性を有するための、未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテル、及びアセタールで置換されていてもよい。また、同様に一部が他の共重合成分を有していてもよい。ポリビニルアルコールはポリ酢酸ビニルを加水分解することにより得られるが、ポリビニルアルコールの具体例としては69.0〜100モル%加水分解され、重合繰り返し単位が300から2400の範囲のものをあげる事ができる。具体的には、株式会社クラレ製のPVA−102、PVA−103、PVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−117H、PVA−120、PVA−124、PVA−124H、PVA−CS、PVA−CST、PVA−HC、PVA−203、PVA−204、PVA−205、PVA−210、PVA−217、PVA−220、PVA−224、PVA−235、PVA−217EE、PVA−217E、PVA−220E、PVA−224E、PVA−403、PVA−405、PVA−420、PVA−424H、PVA−505、PVA−617、PVA−613、PVA−706、L−8等が挙げられ、これらは単独又は混合して使用できる。好ましい態様としてはポリビニルアルコールのオーバーコート層中の含有率が20〜95質量%、より好ましくは、30〜90質量%である。
【0135】
また、公知の変性ポリビニルアルコールも好ましく用いることができる。特に、カルボン酸基又はスルホン酸基を有する酸変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。具体的には、特開2005−250216号公報、特開2006−259137号公報記載のポリビニルアルコールが好適に挙げられる。
ポリビニルアルコールと別の材料を混合して使用する場合、混合する成分としては、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン又はその変性物が酸素遮断性、現像除去性といった観点から好ましく、オーバーコート層中の含有率が3.5〜80質量%、好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは15〜30質量%である。
【0136】
オーバーコート層の他の組成物として、グリセリン、ジプロピレングリコール等を(共)重合体に対して数質量%相当量添加して可撓性を付与することができ、また、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤;アルキルアミノカルボン酸塩、アルキルアミノジカルボン酸塩等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤を(共)重合体に対して数質量%添加することができる。
【0137】
さらに、本発明の平版印刷版原版におけるオーバーコート層には、酸素遮断性や画像記録層表面保護性を向上させる目的で、無機質の層状化合物を含有させることも好ましい。無機質の層状化合物の中でも、合成の無機質の層状化合物であるフッ素系の膨潤性合成雲母が特に有用である。具体的には、特開2005−119273号公報記載の無機質の層状化合物が好適に挙げられる。
【0138】
また、オーバーコート層としては、米国特許第3,458,311号明細書、特公昭55−49729号公報、特開2008−15503号公報、特開2008−89916号公報、特開2008−139813号公報段落番号〔0211〕〜〔0261〕に記載されているオーバーコート層を好適に用いることができる。
【0139】
オーバーコート層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.05〜10g/m2 の範囲であることが好ましく、無機質の層状化合物を含有する場合には、0.1〜5g/m2の範囲であることがさらに好ましく、無機質の層状化合物を含有しない場合には、0.5〜5g/m2の範囲であることがさらに好ましい。
【0140】
[b)ネガ型平版印刷版原版を赤外線レーザーにて画像露光する]
本発明の製版方法におけるb)のステップに用いる赤外線レーザーは、特に限定されないが、波長760〜1200nmの赤外線を照射する固体レーザー及び半導体レーザーなどが好適に挙げられる。
赤外線レーザーに関しては、出力は100mW以上であることが好ましく、1画素当たりの露光時間は20マイクロ秒以内であるのが好ましく、また照射エネルギー量は10〜300mJ/cmであるのが好ましい。レーザーにおいては、露光時間を短縮するためマルチビームレーザーデバイスを用いるのが好ましい。
【0141】
露光された平版印刷版原版は、印刷機の版胴に装着される。レーザー露光装置付きの印刷機の場合は、平版印刷版原版を印刷機の版胴に装着したのち画像露光される。
【0142】
[c)380nm以下で発光せず、400〜500nm及び500〜600nmに発光のピークを1つずつ有する白灯下で5分以上曝光する]
本発明で用いる白灯において380nm以下で発光せずとは、380nm以下に実質的に発光を有さないことを意味する。具体的には、380nmの発光相対強度が0.02より小さく、380nmより波長が短くなるにつれて発光相対強度が漸減することを意味する。発光相対強度とは、発光強度が最大である波長の発光強度を1としたときの任意の波長の発光強度の相対値である。
本発明の製版方法におけるc)のステップに用いる白色灯としては、GaN系半導体を使う青色LEDと蛍光体材料(蛍光体)との組み合わせが好ましい。
白色LEDに関する特許は、日亜化学工業(特許第2927279号,同3503139号,同3700502号)等から多く出願されている。特許第2927279号は,発光波長が450nm〜475nmにピーク波長を持つLEDチップとYAG系蛍光体材料を組み合わせる技術である。同3503139号は,発光のピーク波長が420nm〜490nmのLEDチップと,Ceを含むガーネット系蛍光体材料を組み合わせる技術である。同3700502号は,量子井戸構造を採るピーク波長が420nm〜490nmのLEDチップとCeを含むガーネット系蛍光体材料で構成する技術である。
【0143】
白色灯への曝光(照射)時間は、5分以上であり、好ましくは10分以上、最も好ましくは30分以上である。これらの時間曝光することによって、機上現像性を損なうことなく、耐刷性の向上が得られる。照射時間が5分未満では耐刷性の向上効果が得られない。照射時間の上限は24時間であり、好ましくは12時間以内、さらに好ましくは2時間以内である。照射時間が長すぎる場合には、未露光部分の現像性低下が確認される。
平版印刷版原版上の照度は300Lux以上が好ましい。300Luxより低いと耐刷性が向上しない。作業上、1000Lux以上の照度が好ましい。
【0144】
[d)インキ及び湿し水の少なくとも一方により非露光部を除去し、平版印刷版を作製]
画像様に露光し、上記白灯下で曝光された平版印刷版原版を平版印刷機に装着し、平版印刷版原版に湿し水と印刷インキとを供給して印刷すると、画像記録層の露光部においては、画像露光と白灯曝光により硬化した画像記録層が、親油性表面を有する印刷インキ受容部を形成する。一方、未露光部においては、供給された湿し水及び印刷インキの少なくとも一方によって、未硬化の画像記録層が溶解又は分散して除去され、その部分に親水性の表面が露出する。その結果、湿し水は露出した親水性の表面に付着し、印刷インキは露光領域の画像記録層に着肉して印刷が開始される。
【0145】
ここで、最初に版面に供給されるのは、湿し水でもよく、印刷インキでもよいが、湿し水が除去された画像記録層成分によって汚染されることを防止する点で、最初に印刷インキを供給するのが好ましい。
このようにして、本発明の平版印刷版原版は平版印刷機上で機上現像され、そのまま多数枚の印刷に用いられる。
【実施例】
【0146】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例で使用するポリマーに記載の、繰り返し単位の比はモル比である。
【0147】
[実施例1〜16及び比較例1〜11]
(1)支持体の作製
厚み0.3mmのアルミニウム板(材質JIS A 1050)の表面の圧延油を除去するため、10質量%アルミン酸ソーダ水溶液を用いて50℃で30秒間、脱脂処理を施した後、毛径0.3mmの束植ナイロンブラシ3本とメジアン径25μmのパミス−水懸濁液(比重1.1g/cm)を用いアルミニウム表面を砂目立てして、水でよく洗浄した。この板を45℃の25質量%水酸化ナトリウム水溶液に9秒間浸漬してエッチングを行い、水洗後、更に60℃で20質量%硝酸に20秒間浸漬し、水洗した。この時の砂目立て表面のエッチング量は約3g/mであった。
【0148】
次に、60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃であった。交流電源波形は、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で30A/dm、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。硝酸電解における電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量175C/dmであった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0149】
続いて、塩酸0.5質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃の電解液にて、アルミニウム板が陽極時の電気量50C/dmの条件で、硝酸電解と同様の方法で、電気化学的な粗面化処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
次に、この板に15質量%硫酸水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)を電解液として電流密度15A/dmで2.5g/mの直流陽極酸化皮膜を設けた後、水洗、乾燥して支持体(1)を作製した。
その後、非画像部の親水性を確保するため、支持体(1)に2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて60℃で10秒間、シリケート処理を施し、その後、水洗して支持体(2)を得た。Siの付着量は10mg/mであった。この基板の中心線平均粗さ(Ra)を直径2μmの針を用いて測定したところ、0.51μmであった。
【0150】
(2)中間層の形成
次に、上記支持体(2)上に、下記中間層塗布液(1)を乾燥塗布量が20mg/mになるよう塗布して、中間層を有する支持体を作製した。
【0151】
<中間層塗布液(1)>
・中間層用高分子化合物 〔下記構造〕 0.50g
・N−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸 0.025g
・水 500.00g
【0152】
【化9】

【0153】
(3)画像記録層の形成
上記のようにして形成された中間層上に、下記組成の画像記録層塗布液(1)をバー塗布した後、100℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.0g/mの画像記録層を形成した。
画像記録層塗布液(1)は下記感光液(1)及びミクロゲル液(1)を塗布直前に混合し攪拌することにより得た。
【0154】
<感光液(1)>
・バインダーポリマー(1)〔下記構造〕 0.240g
・赤外線吸収剤〔表1又は2記載、下記構造〕 0.030g
・一般式(I)で表される開始剤〔表1又は2記載〕 0.162g
・ラジカル重合性化合物
トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート
(NKエステルA−9300、新中村化学(株)製) 0.192g
・低分子親水性化合物
トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート 0.062g
・低分子親水性化合物(1)〔下記構造〕 0.050g
・ボレート塩〔表2記載の実施例、比較例のみ添加〕 0.14g
・感脂化剤 ホスホニウム化合物(1)〔下記構造〕 0.055g
・感脂化剤
ベンジル−ジメチル−オクチルアンモニウム・PF6塩 0.018g
・感脂化剤 アンモニウム基含有ポリマー
〔下記構造、還元比粘度44cSt/g/ml〕 0.035g
・フッ素系界面活性剤(1)〔下記構造〕 0.008g
・2−ブタノン 1.091g
・1−メトキシ−2−プロパノール 8.609g
【0155】
<ミクロゲル液(1)>
・ミクロゲル(1) 2.640g
・蒸留水 2.425g
【0156】
上記の、バインダーポリマー(1)、赤外線吸収剤、ホスホニウム化合物(1)、アンモニウム基含有ポリマー、低分子親水性化合物(1)、及びフッ素系界面活性剤(1)の構造は、以下に示す通りである。
【0157】
【化10】

【0158】
【化11】

【0159】
【化12】

【0160】
−ミクロゲル(1)の合成−
油相成分として、下記構造の多官能イソシアナート(三井化学製;75質量%酢酸エチル溶液)4.46g、トリメチロールプロパン(6モル)とキシレンジイソシアナート(18モル)を付加させ、これにメチル片末端ポリオキシエチレン(1モル、なおオキシエチレン単位の繰り返し数は90)を付加させた付加体(三井化学製;50質量%酢酸エチル溶液)10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬(株)製、SR444)3.15g、及びパイオニンA−41C(竹本油脂(株)製)0.1gを酢酸エチル17gに溶解した。水相成分としてポリビニルアルコール((株)クラレ製PVA−205)の4質量%水溶液40gを調製した。油相成分及び水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12,000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、50℃で3時間攪拌した。このようにして得られたミクロゲル液の固形分濃度を、15質量%になるように蒸留水を用いて希釈し、これを前記ミクロゲル(1)とした。ミクロゲルの平均粒径を光散乱法により測定したところ、平均粒径は0.2μmであった。
【0161】
【化13】

【0162】
(4)オーバーコート層の形成
上記画像記録層上に、更に下記組成のオーバーコート層塗布液(1)をバー塗布した後、120℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.15g/mのオーバーコート層を形成して、実施例1〜16用及び比較例1〜11用の平版印刷版原版を得た。
【0163】
<オーバーコート層塗布液(1)>
・無機質層状化合物分散液(1) 1.5g
・ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製CKS50、スルホン酸変性、
けん化度99モル%以上、重合度300)6質量%水溶液 0.55g
・ポリビニルアルコール((株)クラレ製PVA−405、
けん化度81.5モル%、重合度500)6質量%水溶液 0.03g
・日本エマルジョン(株)製界面活性剤
(エマレックス710)1質量%水溶液 0.86g
・イオン交換水 6.0g
【0164】
(無機質層状化合物分散液(1)の調製)
イオン交換水193.6gに合成雲母ソマシフME−100(コープケミカル(株)製)6.4gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)が3μmになるまで分散した。得られた分散粒子のアスペクト比は100以上であった。
【0165】
(5)平版印刷版原版の評価
得られた平版印刷版原版を赤外線半導体レーザー搭載の富士フイルム(株)製Luxel PLATESETTER T−6000IIIにて、外面ドラム回転数1000rpm、レーザー出力70%、解像度2400dpiの条件で露光した。露光画像にはベタ画像及び20μmドットFMスクリーンの50%網点チャートを含むようにした。
得られた露光済み原版を表に示す室内灯(白色灯)下(全て版面照度1500lux)で、表に示す時間曝光した。
曝光済の原版を現像処理することなく、(株)小森コーポレーション製印刷機LITHRONE26の版胴に取り付けた。Ecolity−2(富士フイルム(株)製)/水道水=2/98(容量比)の湿し水とスペースカラー フュージョンG(N)インキ(DICグラフィックス(株)製)とを用い、LITHRONE26の標準自動印刷スタート方法で湿し水とインキとを供給して機上現像した後、毎時10000枚の印刷速度で、特菱アート(76.5kg)紙に印刷を行った。
なお、露光、版取り付け、印刷完了までの全ての作業は、上記室内灯(白色灯)下で行った。
【0166】
<機上現像性>
画像記録層の未露光部の印刷機上での機上現像が完了し、非画像部にインキが転写しない状態になるまでに要した印刷用紙の枚数を機上現像性として計測した。これらの結果を表1と表2に示す。
【0167】
<耐刷性>
上述した機上現像性の評価を行った後、更に印刷を続けた。印刷枚数を増やしていくと徐々に画像記録層が磨耗するため印刷物上のインキ濃度が低下した。印刷物におけるFMスクリーン50%網点の網点面積率をグレタグ濃度計で計測した値が印刷100枚目の計測値よりも5%低下したときの印刷部数を刷了枚数として耐刷性を評価した。
これらの結果を表1と表2に示す。
【0168】
【表1】

【0169】
【表2】

【0170】
[実施例21〜35及び比較例21〜30]
【0171】
(1)支持体の作製
実施例1と同様にして作製した支持体(1)を、非画像部の親水性を確保するため、ポリアクリル酸水溶液を用いて処理を施し、支持体(3)を得た。
【0172】
(2)画像記録層の形成
上記の支持体(3)上に、下記組成の画像記録層塗布液(2)をバー塗布した後、100℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.0g/mの画像記録層を形成して、実施例21〜35及び比較例21〜30用の平版印刷版原版を得た。
【0173】
<画像記録層塗布液(2)>
・ポリマー微粒子水分散液(1)〔下記合成法〕 20.0g
・赤外線吸収剤(2) 0.2g
・一般式(I)で表される開始剤〔表3又は4に記載〕 0.5g
・ボレート塩〔表4記載の実施例、比較例のみ添加〕 0.45g
・重合性化合物SR−399(サートマー社製) 1.50g
・連鎖移動剤 メルカプト−3−トリアゾール 0.2g
・界面活性剤Byk336(Byk Chimie社製) 0.4g
・バインダーポリマー
・KlucelM(Hercules社製) 4.8g
・ELVACITE4026(Ineos Acrylica社製) 2.5g
・n−プロパノール 55.0g
・2−ブタノン 17.0g
【0174】
なお、上記組成中の商品名で記載の化合物は下記の通りである。
・SR−399:ジペンタエリスリトールペンタアクリレート
・Byk 336:変性ジメチルポリシロキサン共重合体(25質量%キシレン/メトキシプロピルアセテート溶液)
・Klucel M:ヒドロキシプロピルセルロース(2質量%水溶液)
・ELVACITE4026:高分岐ポリメチルメタクリレート(10質量%2−ブタノン溶液)
【0175】
(ポリマー微粒子水分散液(1)の合成)
1000mlの4つ口フラスコに撹拌機、温度計、滴下ロート、窒素導入管、還流冷却器を施し、窒素ガスを導入して脱酸素を行いつつ、ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(PEGMA エチレングリコールの平均の繰返し単位は50)10g、蒸留水200g及びn−プロパノール200gを加えて内温が70℃となるまで加熱した。次に予め混合されたスチレン(St)10g、アクリロニトリル(AN)80g及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.8gの混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後5時間そのまま反応を続けた後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4gを添加し、内温を80℃まで上昇させた。続いて、0.5gの2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを6時間かけて添加した。合計で20時間反応させた段階でポリマー化は98%以上進行しており、質量比でPEGMA/St/AN=10/10/80のポリマー微粒子水分散液(1)が得られた。このポリマー微粒子の粒径分布は、粒子径150nmに極大値を有していた。
【0176】
ここで、粒径分布は、ポリマー微粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、写真上で微粒子の粒径を総計で5000個測定し、得られた粒径測定値の最大値から0の間を対数目盛で50分割して各粒径の出現頻度をプロットして求めた。なお非球形粒子については写真上の粒子面積と同一の粒子面積を持つ球形粒子の粒径値を粒径とした。
【0177】
(3)平版印刷版原版の評価
上記のようにして作製した実施例21〜35用及び比較例21〜30用の平版印刷版原版を実施例1〜16及び比較例1〜11に記載したのと同様に、画像露光し、白灯下で曝光し、機上現像し、印刷して、機上現像性及び耐刷性を評価した。結果を表3と表4に示す。
【0178】
【表3】

【0179】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記a)〜d)のステップをこの順に行うことを特徴とする平版印刷版の製版方法。
a)支持体上に赤外線吸収剤、一般式(I)で表される開始剤、及び重合性化合物を含む画像記録層を有し、かつ当該画像記録層がインキ及び湿し水の少なくとも一方により除去可能であるネガ型平版印刷版原版を供給する。
b)ネガ型平版印刷版原版を赤外線レーザーにて画像露光する。
c)380nm以下で発光せず、400〜500nm及び500〜600nmに発光のピークを1つずつ有する白灯下で5分以上曝光する。
d)インキ及び湿し水の少なくとも一方により非露光部を除去し、平版印刷版を作製する。
Ar−I−Ar 一般式(I)
一般式(I)中、Ar及びArは、置換基を有していてもよいベンゼン環であり、Ar及びArは互いに異なった構造を表す。Zは、カウンターアニオンを表す。
【請求項2】
一般式(I)において、Arのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計が負であることを特徴とする請求項1記載の平版印刷版の製版方法。
【請求項3】
一般式(I)において、Arのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計が0又は負であることを特徴とする請求項2記載の平版印刷版の製版方法。
【請求項4】
一般式(I)において、Arのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計及びArのベンゼン環の置換基のハメットσ値の合計の差の絶対値が0.3以上であることを特徴とする請求項3記載の平版印刷版の製版方法。
【請求項5】
画像記録層がボレート塩を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の平版印刷版の製版方法。
【請求項6】
前記d)のステップで白灯下の曝光時間が10分以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の平版印刷版の製版方法。
【請求項7】
白灯下の曝光時間が30分以上であることを特徴とする請求項6に記載の平版印刷版の製版方法。

【公開番号】特開2013−71374(P2013−71374A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213222(P2011−213222)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】