説明

平版印刷版の製造方法、平版印刷版、及び平版印刷版製造装置

【課題】インクジェット記録方式を用いたCTP(Computer To Plate)技術を提供する。
【解決手段】本件の平版印刷版の製造方法は、顔料と、分散樹脂としての水不溶性ポリマーと、界面活性剤とを含有するインクを版材となる媒体にヘッドから吐出することによって、前記媒体に画線部を形成する工程を有し、前記顔料は、前記水不溶性ポリマーにより被覆されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版の製造方法、平版印刷版、及び平版印刷版製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷版は、油脂性のインキを受理する親油性の画線部と、インキを受理しない撥油性の非画線部とからなり、一般に、非画線部は水を受け付ける親水性素材から構成されている。通常の平版印刷では、水とインキの両方を版面に供給し、画線部に着色性のインキを選択的に付着させ、画線部上のインキを被印刷体(例えば印刷用紙)に転写させている。
平版印刷版の製造方法として、銀錯塩拡散転写法(DTR法)を利用したものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−175466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェット記録方式を用いたCTP(Computer To Plate)技術を実現するためには、平版印刷版として機能するように製版用インクを吐出して版面に画線部を形成する必要がある。
本発明は、インクジェット記録方式を用いたCTP技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための主たる発明は、顔料と、分散樹脂としての水不溶性ポリマーと、界面活性剤とを含有する製版用インクを版材となる媒体にヘッドから吐出することによって、前記媒体に画線部を形成するステップを有することを特徴とする平版印刷版の製造方法である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1Aは、平版印刷版の版材の説明図である。図1Bは、平版印刷版の製造時の説明図である。図1Cは、版面の説明図である。図1Dは、オフセット印刷時の版面の様子の説明図である。
【図2】CTPシステムの全体構成のブロック図である。
【図3】図3Aは、記録装置1の全体構成の概略図である。また、図3Bは、記録装置1の全体構成の横断面図である。
【図4】コンピューター110のアプリケーションプログラムの処理の説明図である。
【図5】制御プログラムの記録モードの説明図である。
【図6】図6A及び図6Bは、コンピューター110の表示部に表示される設定画面である。図6Aはデフォルト時の設定画面である。図6Bは製版用RCペーパーが選択されたときの設定画面である。
【図7】制御プログラムが行う処理のフロー図である。
【図8】記録装置1のヘッド41のノズルの配列の説明図である。
【図9】カラーノズル列の位置とドット形成の様子を示している。
【図10】搬送方向に並ぶ2つのノズル列によるオーバーラップ記録方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0008】
顔料と、分散樹脂としての水不溶性ポリマーと、界面活性剤とを含有するインクを版材となる媒体にヘッドから吐出することによって、前記媒体に画線部を形成する工程を有し、前記インクは、前記水不溶性ポリマーにより被覆された顔料を含むことを特徴とする平版印刷版の製造方法が明らかになる。このような製造方法によれば、インクジェット記録方式により製版を行うことができる。また、顔料が水不溶性ポリマーにより被覆されているので、画線部を親油性にするのに有利である。
【0009】
前記顔料の平均粒子径は、30〜300nmの範囲内であることが望ましい。これにより、インクジェット記録方式により製版を行うことができる。
【0010】
前記水不溶性ポリマーは、25℃の水100gに対する溶解度が1g未満であるポリマーであることが望ましい。これにより、インクジェット記録方式により製版を行うことができる。
【0011】
前記ヘッドは、複数の有彩色のインクを吐出可能であり、前記ヘッドから前記有彩色のインクを吐出して、前記媒体に無彩色画像として前記画線部を形成することが望ましい。これにより、版面の視認性が良くなる。
【0012】
支持体と、インクを受容するためのインク受容層とを備えた平版印刷版であって、顔料と、分散樹脂としての水不溶性ポリマーと、界面活性剤とを含有するインクをインクジェット記録装置によって塗布した領域に画線部が形成されており、前記インクは、前記水不溶性ポリマーにより被覆された顔料を含むことを特徴とする平版印刷版が明らかになる。このような平版印刷版によれば、インクジェット記録方式により製版を行うことができる。また、顔料が水不溶性ポリマーにより被覆されているので、画線部を親油性にするのに有利である。
【0013】
顔料と、分散樹脂としての水不溶性ポリマーと、界面活性剤とを含有するインクを吐出するヘッドと、前記ヘッドを制御する制御部であって、版材となる媒体に前記ヘッドから前記インクを吐出させることによって、前記媒体に画線部を形成させる制御部と、を有し、前記インクは、前記水不溶性ポリマーにより被覆された顔料を含むことを特徴とする平版印刷版製造装置が明らかになる。このような製造装置によれば、インクジェット記録方式により製版を行うことができる。また、顔料が水不溶性ポリマーにより被覆されているので、画線部を親油性にするのに有利である。
【0014】
===製版工程の概要===
図1Aは、平版印刷版の版材の説明図である。版材には、RCペーパーの上にインク受容層が設けられている。RCペーパーは、支持体となる原紙の表面を樹脂コーティングした紙であり、不図示のレジンコート層(RC層)を有しており、耐水性を有する。インク受容層は、超微粒子シリカなどから構成された多孔質層であり、滴下されたインクを空隙に吸収する。インク受容層に吸収されたインクは、RCペーパーのレジンコート層で浸透が遮断されることになる。インク受容層の表面は、親水性を有するように処理されている。インク受容層の表面を親水性にする第1の理由は、滴下されたインクをインク受容層に速やかに吸収させるためである。また、第2の理由は、図1Cに示すように、非画線部を親水性にするためである。
【0015】
図1Bは、平版印刷版の製造時の説明図である。本実施形態では、インクジェット記録装置のヘッドからインク(以下、製版用インク)を吐出して、版材に直接描画する。本実施形態の製版用インクは、顔料インクが採用されている。製版用インクの組成については後述する。また、描画処理は、通常のインクジェットプリンターを用いた印刷処理と同様であるが、製版に適した記録方法が採用されている。この記録方法についても後述する。
【0016】
図1Cは、版面の説明図である。版面には、製版用インクが塗布された部分に画線部が形成されるとともに、製版用インクが塗布されなかった部分に非画線部が形成される。画線部は親油性を示し、非画線部は親水性を示す。
【0017】
図1Dは、オフセット印刷時の版面の様子の説明図である。オフセット印刷時に、まず版面を水で湿らせ、次に油性のインキ(以下、印刷用インク)をつける。すると、親水性の非画線部が水を保ち、画線部にのみ印刷用インクが付着し、これにより、オフセット印刷が可能となる。版材にRCペーパーが用いられているため、オフセット印刷時に版面を水で湿らせても、版材の原紙の劣化を防止できる。
【0018】
インクジェット記録装置を用いて直接的に製版する場合には、製版用インクが塗布された版面の画線部が十分に親油性を示す必要がある。そこで、本実施形態では、画線部が充分な親油性を確保できるようなインクジェット記録方法を採用している。
【0019】
===製版用インクの組成===
本実施形態の製版用インクは、分散樹脂としての水不溶性ポリマーを含有している。水不溶性ポリマーは、媒体に塗布された顔料の定着性を向上させる機能を有する。さらに、この水不溶性ポリマーは、分散樹脂として機能や定着性向上の機能を有するだけでなく、オフセット印刷の印刷用インクとの親和性(親油性)が高いため、水不溶性ポリマーを含む製版用インクを版材に塗布することによって、画線部を親油性にする機能を有する。
【0020】
また、後述する通り、本実施形態の製版用インクは、水不溶性ポリマーによって被覆された顔料を含んでいる。顔料は版材の表面に堆積するため、顔料が水不溶性ポリマーで被覆されていれば、画線部を親油性にするのに特に有利である。
【0021】
水不溶性ポリマーとは、25℃の水100gに対する溶解度が1g未満であるポリマーをいう。本実施形態の水不溶性ポリマーは、少なくとも重合性不飽和単量体と重合開始剤を用いて溶液重合法により重合によって得られる。
【0022】
重合性不飽和単量体としては、ビニル芳香族炭化水素、メタアクリル酸エステル類、メタアクリルアミド、アルキル置換メタアクリルアミド、無水マレイン酸、ビニルシアン化合物類、メチルビニルケトン、酢酸ビニルなどが挙げられる。具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。
【0023】
さらに、水不溶性ポリマーは版の視認性や耐刷性等を向上させるために、親水性基を持つモノマーと塩生成基をもつモノマーを含むことが好ましい。
【0024】
親水性基を持つモノマーとしては、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコール・プロピレングリコールモノメタクリレートなどがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。特に、ポリエチレングリコール(2〜30)モノメタクリレート、ポリエチレングリコール(1〜15)・プロピレングリコール(1〜15)モノメタクリレート、ポリプロピレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体)(1〜30)メタクリレートなどの分岐鎖を構成するモノマー成分を用いることによって、版の視認性や耐刷性等がさらに向上する。
【0025】
塩生成基をもつモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンカルボン酸、マレイン酸などがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。
【0026】
さらに、片末端に重合成官能基を有するスチレン系マクロモノマー、シリコーン系マクロモノマーなどのマクロモノマーやその他のモノマーを併用することもできる。
【0027】
また、重合の際には、公知のラジカル重合剤や重合連鎖移動剤を添加してもよい。 水不溶性ポリマーによって被覆される有機顔料は、転相乳化法により得られるものである。すなわち、上記の水不溶性ポリマーをメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジブチルエーテルなどの有機溶媒に溶解させ、得られた溶液に有機顔料を添加し、次いで中和剤及び水を添加して混練、分散処理を行うことにより水中油滴型の分散体を調整し、得られた分散体から有機溶媒を除去することによって、水分散体として得ることができる。混練、分散処理は、例えば、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速攪拌型分散機などを用いることができる。
【0028】
中和剤は、エチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が好ましく、得られる水分散体のpHが6〜10であることが好ましい。
【0029】
また、被覆する水不溶性ポリマーとしては、重量平均分子量が10000〜150000程度のものが、着色剤、特に顔料を安定的に分散させる点で好ましい。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量分析方法により測定することができる。
【0030】
さらに、画線部の親油性や定着性の観点から、インク組成物中での体積平均粒子径が30〜300nmの範囲であることが好ましく、40〜140nmの範囲であることがさらに好ましい。なお、これらの体積平均粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)や粒度分布測定機LPA3100(大塚電子社製)等の粒径測定によって得ることができる。
【0031】
本実施形態で用いられるカラーインク組成物としては、少なくとも、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物を含むことが好ましい。カラーインク組成物の顔料としては、カラーインデックスに記載されているピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルー等の顔料が例示できる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,3,12,13,14,17,24,34,35,37,42,53,55,74,81,83,95,97,98,100,101,104,108,109,110,117,120,128,138,147,150,153,155,174,180,188,198;C.I.ピグメントレッド1,3,5,8,9,16,17,19,22,38,57:1,90,112,122,123,127、146,184,202,207,209;C.I.ピグメントバイオレッド1,3,5:1,16,19,23,38;C.I.ピグメントブルー1,2,15,15:1,15:2,15:3,15:4,16;C.I.ピグメントブラック1,7等であり、複数の顔料を用いてインク組成物を形成することもできる。
【0032】
特に、イエローインク組成物に含まれる有機顔料が、C.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、138、147、150、155、180、188から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、マゼンタインク組成物に含まれる有機顔料が、C.I.ピグメントレッド122、202、207、209、C.I.ピグメントバイオレット19から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、シアンインク組成物に含まれる有機顔料が、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、16から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0033】
また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水に不溶であればいずれも使用できる。
【0034】
これらの水不溶性ポリマーによって被覆された有機顔料は、0.5〜8重量%の範囲でカラーインク組成物中に含有されることが好ましい。含有量が0.5重量%未満では画線部の示す親油性が不充分である場合があり、また8重量%よりも大きいとノズルの目詰まり、吐出の不安定を起こす等の信頼性に不具合が生じる場合がある。
【0035】
さらに、有機顔料と水不溶性ポリマーの比率が、有機顔料:水不溶性ポリマー=1:0.2〜1:1の比率にあることが、分散安定性や、インクの保存安定性やノズルの目詰まり防止等の観点等から好ましい。詳しくは、水不溶性ポリマーが有機顔料に対して、20%より少ないと安定分散ができず、有機顔料の凝集が発生し、有機顔料に対して100%より多いとブロンズ現象は小さくなってくるが、版の視認性が低下するためである。
【0036】
また、画線部の親油性や定着性の観点から、カラーインク組成物中での顔料粒子の体積平均粒子径が30〜300nmの範囲であることが好ましい。なお、これらの体積平均粒子径は、Microtrac UPA150(マイクロトラック社製)や粒度分布測定機LPA3100(大塚電子社製)等の粒径測定によって得ることができる。
【0037】
なお、水不溶性ポリマーによって被覆された有機顔料は、有機顔料が水不溶性ポリマーによって完全に被覆されずに、一部の着色剤が露出した形状でもよい。
【0038】
カラーインク組成物は、画線部に定着性や均一性を付与する観点から、樹脂エマルジョンを含む。
【0039】
本実施形態において、カラーインク組成物に含まれる樹脂エマルジョンは、重量平均分子量75000〜600000の水不溶性ポリマーであることにより、定着性が良好で、信頼性が高いインク組成物を提供できる。これは、樹脂エマルジョンの重量平均分子量が75000より小さい場合は定着作用が不十分であり、600000を超える場合は吐出安定性などの信頼性に不具合を与えるためである。
【0040】
また、水不溶性ポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法など公知の重合法により、モノマーを共重合させることによって得られ、得られたポリマーを水中に転相乳化すること、または水中で乳化重合することにより、樹脂エマルジョンが得られる。
【0041】
一般にポリマー分散の着色剤分散体に添加剤としてのポリマーを併用すると、分散剤であるポリマーと添加剤であるポリマーにおいて、着色剤に対して吸脱着が起こり、分散安定性が崩れ、保存安定性が劣化するという問題がある。しかし、本実施形態のカラーインク組成物に含まれる顔料分散体は、不溶性ポリマーで被覆されており、分散粒子として安定であるため、水不溶性ポリマーと樹脂エマルジョンの吸脱着が起こりにくく、分散安定性が保たれると考えられる。特に、内部架橋構造を持った樹脂は、樹脂自身の安定性が高いため好ましく、また、顔料を被覆する水不溶性ポリマーと類似構造をもつ樹脂は、インク組成物中に併用される場合に水不溶性ポリマーと樹脂エマルジョンの吸脱着が起こった場合も安定分散が可能であるため好ましい。ここで類似構造とは、着色剤を被覆する水不溶性ポリマーと構成成分が同一ということである。
【0042】
さらに、樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が、20〜200nmの範囲にあることが、分散安定性やブロンズ改善の観点から好ましい。なお、これらの体積平均粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)や粒度分布測定機LPA3100(大塚電子社製)等の粒径測定によって得ることができる。
【0043】
特に、イエローインク組成物には、インク組成物中における分散安定性、画線部の耐擦性を向上させる作用を得るため、樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が20〜80nmであることが好ましく、40℃以下の温度で膜化しない水不溶性ポリマーからなることが好ましい。40℃以下の温度で膜化しない水不溶性ポリマーの添加は樹脂の膜化による定着性や耐擦性の向上を目的としたものでなく、微粒子を記録媒体表面に残すことによって、表面のすべり性を改善し、擦れによる画線部の剥がれを防止することを目的としており、この40℃以下で膜化しないポリマーを用いることで、膜化するポリマーを用いた場合に比較し、目詰まり回復性などの信頼性が格段に良好であるという利点がある。
【0044】
40℃以下の温度で膜化しない水不溶性ポリマーとしては、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、ウレタン系ポリマー、アクリルアミド系ポリマー、エポキシ系ポリマーからなる群より選択される1種または2種以上であることが好ましい。これらのポリマーはホモポリマーとして使用されても良く、またコポリマーして使用されても良く、単相構造及び複相構造(コアシェル型)の何れのものも使用できるが、架橋剤を用いて内部架橋されているポリマーであることが好ましい。
【0045】
イエローインク組成物に好ましく用いられる水不溶性ポリマーは、少なくとも不飽和単量体の乳化重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョンの形態でインク組成物中に配合されることが好ましい。その理由は、樹脂粒子のままインク組成物中に添加しても該樹脂粒子の分散が不十分となる場合があるため、インクの製造上エマルジョンの形態が好ましいからである。
【0046】
樹脂粒子のエマルジョンは、公知の乳化重合法により得ることができる。例えば、不飽和単量体(不飽和ビニルモノマー等)を重合開始剤、及び界面活性剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
【0047】
不飽和単量体としては、一般に乳化重合で使用されるアクリル酸エステル単量体類、メタクリル酸エステル単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルエステル単量体類、ビニルシアン化合物単量体類、ハロゲン化単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類等が挙げられる。さらに、具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、及び酢酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、クロロプレン等のジエン類;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N'−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体類等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0048】
また、架橋剤としては、重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体を使用することができる。重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体の例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2'−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2'−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2'−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0049】
また、乳化重合の際に使用される重合開始剤及び界面活性剤の他に、連鎖移動剤、さらには中和剤等も、インクジェットプリンターにおけるインク製法の常法に準じて使用してよい。特に中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が好ましい。
【0050】
さらに、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物には、インク組成物中における分散安定性、画線部の定着性を得るため、より親水性の高い水不溶性ポリマーを安定にエマルジョン化することが可能な転相乳化法によって得られる樹脂エマルジョンを添加することが好ましい。この樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が50〜200nmであることが、分散安定性やブロンズ改善の観点から好ましい。
【0051】
マゼンタインク組成物、シアンインク組成物に好ましく用いられる樹脂エマルジョンは疎水性基をもつモノマーと親水性基を持つモノマーとのブロック共重合体樹脂からなり、少なくとも塩生成基をもつモノマーを含有しているものである。特に、顔料を被覆する水不溶性ポリマーと類似構造をもつ樹脂は、インク組成物中に併用される場合に水不溶性ポリマーと樹脂エマルジョンの吸脱着が起こった場合も安定分散が可能であるため好ましい。ここで類似構造とは、着色剤を被覆する水不溶性ポリマーと構成成分が同一ということである。
【0052】
疎水性基を持つモノマーは、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類や酢酸ビニル等のビニルエステル類やアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類などがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。
【0053】
親水性基を持つモノマーとしては、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコール・プロピレングリコールモノメタクリレートなどがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。特に、ポリエチレングリコール(2〜30)モノメタクリレート、ポリエチレングリコール(1〜15)・プロピレングリコール(1〜15)モノメタクリレート、ポリプロピレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体)(1〜30)メタクリレートなどの分岐鎖を構成するモノマー成分を用いることができる。
【0054】
塩生成基をもつモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンカルボン酸、マレイン酸などがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。
【0055】
さらに、片末端に重合成官能基を有するスチレン系マクロモノマー、シリコーン系マクロモノマーなどのマクロモノマーやその他のモノマーを併用することもできる。
【0056】
カラーインク組成物に使用される水不溶性ポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法など公知の重合法により、モノマーを共重合させることによって得られるが、特に溶液重合法が好ましく、重合の際には、公知のラジカル重合剤や重合連鎖移動剤を添加してもよい。
【0057】
重合で得られた樹脂を有機溶媒に溶解させ、中和剤及び水を添加して分散処理を行い、得られた分散体から有機溶媒を除去することによって、樹脂エマルジョンとして得ることができる。
【0058】
中和剤は、エチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が好ましく、得られる水分散体のpHが6〜10であることが好ましい。
【0059】
この樹脂エマルジョンと水不溶性ポリマーによって被覆されている着色剤を併用することにより、着色剤に対して水不溶性ポリマーの比率が増えるにしたがって発生する版の視認性低下を防ぐことができ、さらにインク組成物中の樹脂成分の増量にともない、定着性やグロスチェンジといった耐擦性が向上する。
【0060】
なお、カラーインク組成物に含まれる樹脂エマルジョンは、インクのインクジェット適正物性値、信頼性(目詰まりや吐出安定性等)、定着性等をより有効に得る観点から0.1〜5重量%の範囲であることが好ましい。
【0061】
シアン・マゼンタ・イエローの各色のインクにそれぞれ含まれる樹脂エマルジョンは、それぞれ異なる成分から構成されることが望ましい。各色のインクの樹脂エマルジョンがそれぞれ異なる性質の場合には、各色のインクの樹脂エマルジョンが同様の性質である場合と比べて、コンポジットブラックを形成する場合に、定着性・耐刷性を得ることができる。
【0062】
その他のインク成分として、本実施形態のインク組成物は、少なくとも、水と、水溶性有機化合物と、pH調整剤と、ノニオン性界面活性剤と、を含むことが好ましい。
【0063】
インク組成物に含有される水は主溶媒であり、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。特に紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止してインク組成物の長期保存を可能にする点で好ましい。
【0064】
水溶性有機化合物として、例えば、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレンフリコール、ジプロピレングリコール、2−ブテンー1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等の多価アルコール類;グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の糖類;糖アルコール類;ヒアルロン酸類;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、尿素、尿素誘導体(ジメチル尿素等)等のいわゆる固体湿潤剤;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチルー2−イミダゾリジノン;ホルムアミド、アセトアミド;ジメチルスルホキシド;ソルビット、ソルビタン;アセチン、ジアセチン、トリアセチン;スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は、インク組成物の適正な物性値(粘度等)の確保、記録品質、信頼性の確保という観点で、インク組成物中に10〜50重量%含まれることが好ましい。
【0065】
さらに、本実施形態においては、水溶性有機溶剤として、少なくとも、多価アルコール類と、固体潤滑剤と、グリコールエーテルのブチルエーテル類と、を併用することで、記録品質、吐出安定性、目詰まり回復性等の信頼性に優れるインク組成物を提供できる。これは、多価アルコール類、固体湿潤剤が保水性(保湿性)と媒体へのインク組成物の浸透性の制御に好適であり、グリコールのブチルエーテル類が吐出安定性と媒体へのインク組成物の浸透性の制御に好適であり、これらを併用することで、さらに記録品質、吐出安定性、目詰まり回復性等の信頼性の高いインク組成物を提供できる。
【0066】
特に好ましい水溶性有機化合物として、多価アルコール類がグリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール及び1,2−ヘキサンジオールから選択される2種類以上の併用であり、固体湿潤剤がトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン又は尿素であり、ブチルグリコール類がジエチレングリコールモノブチルエーテル又はトリエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0067】
本実施形態のインク組成物には、pH調整剤を含有することが好ましい。pH調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ及び/又はアンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン等を用いることができる。特に、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンから選択される少なくとも1種類のpH調整剤を含み、pH6〜10に調整されることが好ましい。pHがこの範囲を外れると、インクジェット記録装置を構成する材料等に悪影響を与えたり、目詰まり回復性が劣化したりする。
【0068】
また、必要に応じて、コリジン、イミダゾール、燐酸、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ほう酸等をpH緩衝剤として用いることができる。
【0069】
本実施形態に用いられるトリアルカノールアミンは、インク組成物の光沢付与剤としても好適に用いることができ、光沢を有する版材の表面にて一様な光沢を有した画像を形成するために、イエロー、マゼンタ及びシアンインク組成物に含有される。なお、版面を一様な光沢にすることによって、製版直後に版面を目視にて確認するときの視認性が良くなる。
【0070】
また、インク組成物の光沢付与剤としてトリアルカノールアミンを用いる場合の含有量は、インクジェット記録装置に用いられる部材への浸食及びインク粘度の点から、顔料100重量%に対して10〜50重量%であることが好ましく、12〜45重量%であることがより好ましく、また、インク組成物全量に対して1重量%以上であることが好ましく、より好ましくは、上限が3重量%であり、下限が1重量%である。
【0071】
インク組成物の光沢付与剤として用いられるトリアルカノールアミンとしては特に制限されないが、トリエタノールアミン及び/又はトリプロパノールアミンであることが、記録安定性及び光沢性向上の点で好ましい。
【0072】
さらに、本実施形態に用いられる各インク組成物には、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐・防カビ剤等を添加することができる。
【0073】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤を含有することができる。発泡・起泡の少ないインク組成物を得るという観点からノニオン性界面活性剤が特に好ましい。
【0074】
ノニオン性界面活性剤のさらなる具体例として、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;ジメチルポリシロキサン等のポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤;その他フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤等が挙げられる。ノニオン界面活性剤は、1種でも2種以上を併用することもできる。
【0075】
ノニオン性界面活性剤の中でも、特にアセチレングリコール系界面活性剤及び/又はポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤が発泡も少なく、また優れた消泡性能を有する点で好ましい。
【0076】
アセチレングリコール系界面活性剤の更なる具体例としては、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどが挙げられるが、市販品で入手も可能で、例えば、エアープロダクツ社のサーフィノール104、82、465、485、TGや日信化学社製のオルフィンSTG、オルフィンE1010等が挙げられる。ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤の更なる具体例としては、ビッグケミー・ジャパン社のBYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、UV3530などを挙げることができる。これらはインク組成物中に複数種類用いてもよく、表面張力20〜40mN/mに調整されることが好ましく、インク組成物中に0.1〜3.0重量%含まれる。
【0077】
酸化防止剤・紫外線吸収剤としては、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩等、チバガイギー社製のTinuvin328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor252、153、Irganox1010、1076、1035、MD1024など、あるいはランタニドの酸化物等が用いられる。
【0078】
防腐剤・防かび剤としては、例えば安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(Avecia社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等が挙げられる。
【0079】
本実施形態のインク組成物は、従来公知の装置、例えばボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミル等を使用して、インクジェットプリンターにおけるインクと同様に調製することができる。調製に際しては、ノズルの目詰まり防止の観点から粗大粒子を除去することが好ましい。粗大粒子の除去は、例えば前記各成分を混合して得られたインクをメンブランフィルターやメッシュフィルター等のフィルターを用いて濾過し、好ましくは10μm以上、より好ましくは5μm以上の粒子を除去することにより行われる。
【0080】
<実施例1>
[(比較)ブラック組成物用着色剤分散液の調製]
比較用のため、水不溶性ポリマーによって被覆されていない顔料を分散粒子とする着色剤分散液を下記の方法によって調整した。また、粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定による体積平均粒子径の値である。
【0081】
(分散液B1)
市販のカーボンブラックであるMA8(商品名、三菱化学社製)100gを水500gに混合して、ジルコニアビーズによるボールミルにて粉砕した。この粉砕原液に次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度12%)500gを滴下して、攪拌しながら10時間煮沸して湿式酸化を行った。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過して、さらに水で洗浄した。得られたウェットケーキを水5kgに再分散して、逆浸透膜により電導度が2mS/cmになるまで脱塩および精製し、さらに顔料濃度が15重量%になるまで濃縮して分散液B1を調製した。この分散液中の顔料の体積平均粒子径は120nmであった。
【0082】
(分散液B2)
市販のカーボンブラックであるS170(商品名、デグサ社製)20gを水500gに混合して、家庭用ミキサーで5分間分散した。得られた液を攪拌装置のついた3リットルのガラス容器に入れ、攪拌機で攪拌しながら、オゾン濃度8重量%のオゾン含有ガスを500cc/分で導入した。この際、オゾン発生器はペルメレックス電極社の電解発生型のオゾナイザーを用いてオゾンを発生させた。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過し、さらに顔料濃度が15重量%になるまで0.1Nの水酸化カリウム溶液を添加しpH9に調整しながら濃縮を行い、分散液B2を調製した。この分散液中の顔料の体積平均粒子径は90nmであった。
【0083】
(分散液B3)
市販のブラック顔料分散液であるCAB−O−JET 300(商品名、キャボット社製、顔料固形分15重量%)を用いた。この分散液中の顔料の体積平均粒子径は140nmであった。
【0084】
[カラーインク組成物用着色剤分散液の調製]
水不溶性ポリマーによって被覆されている着色剤を分散粒子とする着色剤分散液を下記の方法によって調整した。また、粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定による体積平均粒子径の値である。
【0085】
(水不溶性ポリマー1〜3の合成)
有機溶媒(メチルエチルケトン)20重量部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03重量部、重合開始剤、表1に示す各モノマーを用い、窒素ガス置換を十分に行った反応容器内に入れて75℃攪拌下で重合し、モノマー成分100重量部に対してメチルエチルケトン40重量部に溶解した2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル0.9重量部を加え、80℃で1時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。なお、表1に示す数値は、モノマー混合物の全量を基準(100%)としたときの各モノマーの割合(%)を意味する。
【0086】
【表1】

【0087】
(分散液Y1)
水不溶性ポリマー1として得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた5部をメチルエチルケトン15部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてポリマーを中和した。さらに、C.I.ピグメントイエロー74を15部加え、水を加えながら分散機で混練した。
【0088】
得られた混練物にイオン交換水100部を加え攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分濃度が20重量%のイエロー顔料の水分散体を得た。(顔料:水不溶性ポリマー=1:0.3)この分散体中の顔料の体積平均粒子径は110nmであった。
【0089】
(分散液Y2)
水不溶性ポリマー2として得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた9部をメチルエチルケトン45部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてポリマーを中和した。さらに、C.I.ピグメントイエロー128を18部加え、水を加えながら分散機で混練した。
【0090】
得られた混練物にイオン交換水120部を加え攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分濃度が20重量%のイエロー顔料の水分散体を得た。(顔料:水不溶性ポリマー=1:0.5)この分散体中の顔料の体積平均粒子径は80nmであった。
【0091】
(分散液Y3)
水不溶性ポリマー3として得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた6部をメチルエチルケトン20部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてポリマーを中和した。さらに、C.I.ピグメントイエロー180を10部加え、水を加えながら分散機で混練した。
【0092】
得られた混練物にイオン交換水100部を加え攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分濃度が20重量%のイエロー顔料の水分散体を得た。(着色剤:水不溶性ポリマー=1:0.6)この分散体中の顔料の体積平均粒子径は100nmであった。
【0093】
(分散液M1)
顔料分散液Y1において、C.I.ピグメントイエロー74の代わりにC.I.ピグメントレッド122を用いた以外は分散液Y1と同様にして、分散液M1を得た。
この分散体中の顔料の体積平均粒子径は100nmであった。
【0094】
(分散液M2)
顔料分散液Y2において、C.I.ピグメントイエロー128の代わりにC.I.ピグメントバイオレット19を用い、顔料:水不溶性ポリマー=1:0.2の比率に変更した以外は分散液Y2と同様にして、分散液M2を得た。この分散体中の顔料の体積平均粒子径は90nmであった。
【0095】
(分散液M3)
顔料分散液Y3において、C.I.ピグメントイエロー180の代わりにC.I.ピグメントレッド209を用い、顔料:水不溶性ポリマー=1:0.15の比率に変更した以外は分散液Y3と同様にして、分散液M3を得た。この分散体中の顔料の体積平均粒子径は120nmであった。
【0096】
(分散液C1)
顔料分散液Y1において、C.I.ピグメントイエロー74の代わりにC.I.ピグメントブルー15:3を用いた以外は顔料分散液Y1と同様にして、分散液C1を得た。この分散体中の顔料の体積平均粒子径は80nmであった。
【0097】
(分散液C2)
顔料分散液Y2において、C.I.ピグメントイエロー128の代わりにC.I.ピグメントブルー15:1を用い、顔料:水不溶性ポリマー=1:0.8の比率に変更した以外は分散液Y2と同様にして、分散液C2を得た。この分散体中の顔料の体積平均粒子径は85nmであった。
【0098】
(分散液C3)
顔料分散液Y3において、C.I.ピグメントイエロー180の代わりにC.I.ピグメントブルー15:4を用い、顔料:水不溶性ポリマー=1:1の比率に変更した以外は分散液Y2と同様にして、分散液C3を得た。この分散体中の顔料の体積平均粒子径は100nmであった。
【0099】
[樹脂エマルジョンの調製]
カラーインク組成物及びブラックインク組成物に用いられる樹脂エマルジョンを以下の要領で調製した。なお、膜化の有無は、約25℃の室内周囲温度の環境でアルミニウム板にエマルジョンを薄く塗布し、目視により判断した。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量分析方法により測定した。また、粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定による平均粒子径の値である。
【0100】
(樹脂エマルジョン1)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水800g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら75℃まで昇温した。内温を75℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム6gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム2gにアクリルアミド20gにメチルメタクリレート600g、ブチルアクリレート215g、メタクリル酸30g、トリエチレングリコールジアクリレート5gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に5時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分30重量%、pH8に調整した。
【0101】
得られた水性エマルジョンは40℃の温度で膜化しないこと確認し、重量平均分子量は300000であり、体積平均粒子径は80nmであった。
【0102】
(樹脂エマルジョン2)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水1000g及びラウリル硫酸ナトリウム6.5gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム2gにアクリルアミド20gにスチレン550g、ブチルアクリレート200g、及びメタクリル酸30g、トリエチレングリコールジアクリレート1gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。
【0103】
得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分15重量%、pH8に調整した。
【0104】
得られた樹脂エマルジョンは40℃の温度で膜化しないこと確認し、重量平均分子量は500000であり、体積平均粒子径は40nmであった。
【0105】
(樹脂エマルジョン3)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、メタクリル酸30g、及びトリエチレングリコールジアクリレート5gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分30重量%、pH8に調整した。
【0106】
得られた樹脂エマルジョンは40℃の温度で膜化しないこと確認し、重量平均分子量は450000であり、体積平均粒子径は120nmであった。
【0107】
(樹脂エマルジョン4)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン130g、2−エチルへキシルアクリレート780g、メタクリル酸30g、及びエチレングリコールジメタクリレート2gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分15重量%、pH8に調整した。
【0108】
得られた樹脂エマルジョンは40℃の温度で膜化すること確認し、重量平均分子量は250000であり、体積平均粒子径は40nmであった。
【0109】
(樹脂エマルジョン5)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分30重量%、pH8に調整した。
【0110】
得られた樹脂エマルジョンは40℃の温度で膜化すること確認し、重量平均分子量は300000であり、体積平均粒子径は120nmであった。
【0111】
樹脂エマルジョン6及び樹脂エマルジョン7を構成するポリマーは、表2に示すモノマーを用い、前述のカラーインク組成物用着色剤分散液に用いた水不溶性ポリマー1〜3の合成と同様の方法で調製することができる。なお、表2に示す数値は、モノマー混合物の全量を基準(100%)としたときの各モノマーの割合(%)を意味する。
【0112】
【表2】

【0113】
(樹脂エマルジョン6)
樹脂エマルジョン6用の水不溶性ポリマーとして得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた5部をメチルエチルケトン15部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてポリマーを中和した。この中和物にイオン交換水100部を加え攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去して固形分濃度が15重量%の樹脂エマルジョン6を得た。
【0114】
得られた樹脂エマルジョンは40℃の温度で膜化すること確認し、重量平均分子量は200000であり、体積平均粒子径は120nmであった。
【0115】
(樹脂エマルジョン7)
樹脂エマルジョン7用の水不溶性ポリマーとして得られたポリマー溶液を樹脂エマルジョン6と同様にして、固形分濃度が15重量%の樹脂エマルジョン7を得た。
【0116】
得られた樹脂エマルジョンは40℃の温度で膜化すること確認し、重量平均分子量は150000であり、体積平均粒子径は90nmであった。
【0117】
(インク組成物の調製)
表3及び表4に示す配合割合で各成分を混合し、この混合液を2時間攪拌した後、孔径約5μmのステンレス製フィルターにて濾過して、各インク組成物を調製した。なお、表3及び表4中に示す添加量はすべて重量%として表している。また、( )内は顔料固形分量を意味する。顔料分散液及びポリマーの添加量はそれぞれ固形分濃度で表している。更に、イオン交換水の「残量」とは、インク組成物の全量が100重量%となるようにイオン交換水を添加することを意味している。
【0118】
【表3】

【0119】
【表4】

【0120】
[試験例1]
表3、4に示す各インクを用いて、インクジェットプリンターPX−1001(セイコーエプソン社製)を使用して、版材にテストパターンを記録し、それぞれのインクによる試験用の製版を行う。そして、これらの試験版を用いてオフセット印刷(平版印刷)を行い、印刷用紙にテストパターンをそれぞれ印刷する。そして、印刷用紙にそれぞれ印刷されたテストパターンの画質を目視観察にて評価する。
【0121】
[評価結果1]
試験例1の評価結果によれば、インクY1〜Y3、M1〜M4、C1〜C5を用いて製版された試験版でオフセット印刷された印刷物の画質は良好であるのに対し、インクB1〜B3の画質は劣っている(但し、インクB1〜B3でもオフセット印刷はできる)。
この理由は、インクY1〜Y3、M1〜M4、C1〜C5の顔料は水不溶性ポリマーで被覆されているのに対し、インクB1〜B3の顔料は水不溶性ポリマーで被覆されていないためと考えられる。水不溶性ポリマーはオフセット印刷の印刷用インクとの親和性(親
油性)が高いため、水不溶性ポリマーで被覆された顔料を含有するインクY1〜Y3、M1〜M4、C1〜C5を用いれば、画線部を十分に親油性にできると考えられる。
【0122】
[試験例2]
表3、4に示す各インクの顔料の体積平均粒子径を異ならせたインクを用いて、試験例1と同様に、インクジェットプリンターPX−1001(セイコーエプソン社製)を使用して、版材にテストパターンを記録し、それぞれのインクによる試験用の製版を行う。そして、これらの試験版を用いてオフセット印刷を行い、印刷用紙にテストパターンをそれぞれ印刷する。そして、印刷用紙にそれぞれ印刷されたテストパターンの画質を目視観察にて評価する。
【0123】
なお、これらのインクの顔料の体積平均粒子径は、Microtrac UPA150(マイクロトラック社製)や粒度分布測定機LPA3100(大塚電子社製)等の粒径測定によって得ることができる。
【0124】
[評価結果2]
試験例2の評価結果を表5に示す(表5には、試験例1の評価結果も含まれている)。
【表5】

【0125】
試験例2の評価結果によれば、顔料の体積平均粒子径が30〜300nmの範囲のインクを用いて製版された試験版でオフセット印刷された印刷物の画質は良好である。これに対し、顔料の体積平均粒子径が30nmよりも小さいインクや、顔料の体積平均粒子径が300nmよりも大きいインクを用いて製版された試験版でオフセット印刷された印刷物の画質は劣っていた。
この理由は、顔料の体積平均粒子径が30nmよりも小さい場合には、顔料が媒体の内部に浸透してしまい、顔料が媒体の表面に十分に堆積しない結果、画線部が十分な親油性を示せないと考えられる。また、顔料の体積平均粒子径が300nmよりも大きい場合には、顔料の定着性が悪くなり、オフセット印刷時に画線部の剥がれが生じ、版の耐刷性が劣るためと考えられる。
【0126】
[試験例3]
表3、4に示すカラー(有彩色であるC・M・Y)の顔料インクと、別に用意した染料インクとを用いて、ノズルから吐出されるインク滴の1滴当たりの重量をそれぞれ異ならせて、版材にテストパターンを記録し、それぞれのインク滴重量による試験用の製版を行う。そして、これらの試験版を用いてオフセット印刷(平版印刷)を行い、印刷用紙にテストパターンをそれぞれ印刷する。そして、印刷用紙にそれぞれ印刷されたテストパターンの画質を目視観察にて評価する。
【0127】
[評価結果3]
試験例3の評価結果を表6に示す。
【表6】

【0128】
試験例3の評価結果によれば、顔料インクの1滴当たりの重量が1〜60ngの範囲のインク滴を用いて製版された試験版でオフセット印刷された印刷物の画質は良好である。また、顔料インクの1滴当たりの重量が1〜40ngの範囲のインク滴を用いて製版された試験版でオフセット印刷された印刷物の画質は、特に良好である。これに対し、染料インクを用いて製版された試験版でオフセット印刷された印刷物の画質は劣っていた。また、顔料インクを用いた場合であっても、1滴当たりの重量が1ngよりも小さいインク滴や、1滴当たりの重量が60ngより大きいインク滴を用いて製版された試験版でオフセット印刷された印刷物の画質は劣っていた。
【0129】
この理由は、顔料インクを用いた場合には版面に顔料が残留して画線部を親油性に保てるのに対し、染料インクを用いた場合にはインク成分がインク受容層に吸収されてしまい、画線部を親油性にし難いためと考えられる。また、1滴当たりの重量が1ngよりも小さい場合には、版面に形成されるドットが小さすぎてしまい、若しくは、着弾したインクが媒体の内部に浸透してしまい、画線部が十分な親油性を示せないため、印刷物の淡い領域での階調が表現できないためと考えられる。また、1滴当たりの重量が60ngより大きい場合には、版面に形成されるドットが大きすぎてしまい、画線部の解像度が粗くなるため、印刷物の濃い領域の画質が粗くなってしまうためと考えられる。
【0130】
以上の評価結果を考慮して、後述する製版時の記録方法では、水不溶性ポリマーで被覆された顔料を含有するカラーインク(有彩色のインク)を用い、1滴当たりの重量が1〜40ngの範囲のインク滴(具体的には、小ドット3.8ng、中ドット7.2ng、大ドット14ng)を吐出している。
【0131】
===CTPシステムの構成===
図2は、CTPシステムの全体構成のブロック図である。CTPシステムは、インクジェット方式の記録装置1と、コンピューター110とを有する。
記録装置1は、インクジェットプリンターである。但し、この装置をプリンターと称すると、版による印刷機と混同しやすいため、ここでは「記録装置」と称している。記録装置は、印刷用紙に画像を印刷することもできるし、版材にインクを吐出することによって平版印刷版を直接的に製版することもできる。
コンピューター110には、原稿を作成するためのアプリケーションプログラムと、インクジェット記録装置1を制御するための制御プログラム(インクジェットプリンタードライバー)とが予めインストールされている。
【0132】
<記録装置1>
図3Aは、記録装置1の全体構成の概略図である。また、図3Bは、記録装置1の全体構成の横断面図である。以下、記録装置1の基本的な構成について説明する。
【0133】
記録装置1は、搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40、検出器群50、及びコントローラー60を有する。外部装置であるコンピューター110から描画データを受信した記録装置1は、コントローラー60によって各ユニット(搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40)を制御する。コントローラー60は、コンピューター110から受信した描画データに基づいて、各ユニットを制御し、媒体(印刷用紙や版材など)に画像を記録する。記録装置1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は、検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は、検出器群50から出力された検出結果に基づいて、各ユニットを制御する。
【0134】
搬送ユニット20は、媒体を所定の方向(以下、搬送方向という)に搬送するためのものである。この搬送ユニット20は、供給ローラー21と、搬送モーター22と、搬送ローラー23と、プラテン24と、排出ローラー25とを有する。供給ローラー21は、媒体を記録装置の内部に供給するためのローラーである。搬送ローラー23は、供給ローラー21によって供給された媒体を記録可能な領域まで搬送するローラーであり、搬送モーター22によって駆動される。プラテン24は、記録中の媒体を支持する。排出ローラー25は、媒体を記録装置1の外部に排出するローラーであり、記録可能な領域に対して搬送方向下流側に設けられている。
【0135】
キャリッジユニット30は、ヘッドを所定の方向(以下、移動方向という)に移動(「走査」とも呼ばれる)させるためのものである。キャリッジユニット30は、キャリッジ31と、キャリッジモーター32とを有する。キャリッジ31は、移動方向に往復移動可能であり、キャリッジモーター32によって駆動される。また、キャリッジ31は、製版用インクを収容するカートリッジを着脱可能に保持している。
【0136】
ヘッドユニット40は、製版用インクを吐出するためのものである。ヘッドユニット40は、複数のノズルを有するヘッド41を備える。ヘッド41はキャリッジ31に設けられているため、キャリッジ31が移動方向に移動すると、ヘッド41も移動方向に移動する。
【0137】
検出器群50には、リニア式エンコーダ51、ロータリー式エンコーダ52、媒体検出センサ53、および光学センサ54等が含まれる。リニア式エンコーダ51は、キャリッジ31の移動方向の位置を検出する。ロータリー式エンコーダ52は、搬送ローラー23の回転量を検出する。媒体検出センサ53は、供給中の媒体の先端の位置を検出する。光学センサ54は、キャリッジ31に取付けられている発光部と受光部により、媒体の有無を検出する。そして、光学センサ54は、キャリッジ31によって移動しながら媒体の端部の位置を検出し、媒体の幅を検出することができる。また、光学センサ54は、状況に応じて、媒体の先端(搬送方向下流側の端部であり、上端ともいう)・後端(搬送方向上流側の端部であり、下端ともいう)も検出できる。
【0138】
コントローラー60は、記録装置1を制御するための制御ユニット(制御部)である。コントローラー60は、インターフェース部61と、CPU62と、メモリ63と、ユニット制御回路64とを有する。インターフェース部61は、外部装置であるコンピューター110と記録装置1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、記録装置全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリ63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子を有する。CPU62は、メモリ63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路64を介して各ユニットを制御する。
【0139】
コントローラー60は、媒体に記録を行うとき、移動するノズルからインクを吐出して媒体にドットを形成するドット形成動作と、媒体を搬送方向に搬送する搬送動作とを交互に行わせる。以下の説明では、ドット形成動作のことを「パス」と呼ぶこともあり、n回目のドット形成動作のことを「パスn」と呼ぶこともある。
【0140】
<コンピューター110>
既に説明した通り、コンピューター110には、原稿を作成するためのアプリケーションプログラムと、記録装置1を制御するための制御プログラム(インクジェットプリンタードライバー)とが予めインストールされている。ここでは、記録装置1に製版をさせるときのコンピューター110の処理について説明し、記録装置1に通常の印刷用紙に印刷させるときの処理(記録装置1を通常のインクジェットプリンターとして使用するときの処理)については説明を省略する。
【0141】
図4は、コンピューター110のアプリケーションプログラムの処理の説明図である。作業者は、アプリケーションプログラムを用いて、カラー原稿を作成すると共に、カラー原稿を色分解処理する。ここでは、コンピューター110はカラー原稿をCMYKの4色に色分解している。2色のオフセット印刷を行う場合には、カラー原稿を2色に色分解することになる。色分解後の画像は、オフセット印刷時の各色の製版用画像になる。例えばシアンの製版を行う場合には、記録装置1にC版用画像を版材に記録させることになる。作業者がアプリケーションプログラム上でC版用画像の記録を指示すると、記録装置1を制御するための制御プログラム(インクジェットプリンタードライバー)が起動する。
【0142】
なお、アプリケーションプログラム上で記録装置1にC版用画像を版材に記録させる指示処理は、アプリケーションプログラム上でインクジェットプリンターに画像を印刷用紙に印刷させる指示処理と同じである。但し、C版用画像を版材に記録する際には、制御プログラムは、C版用画像をシアン色の画像として処理するのではなく、モノクロ画像(無彩色画像)として処理する。
【0143】
図5は、制御プログラムの記録モードの説明図である。図6A及び図6Bは、コンピューター110の表示部に表示される設定画面である。設定画面上で用紙種類や記録モードが設定されると、図5の複数の記録モードの中から設定に応じた記録モードが選択される。例えば、設定画面上で「普通紙」の「はやい」モードが設定された場合、解像度は「360×360dpi」、インク滴サイズは「小ドット3.8ng、中ドット27ng、大ドット45ng」、ブラックの表現はブラックインクのみで行うような記録モードが選択されることになる。
【0144】
図6Aに示すように、デフォルト設定では用紙種類が「普通紙」になっているが、作業者は、シアンの製版を行う際に、用紙種類を「製版用RCペーパー」に設定する(また、作業者は、版材となる製版用RCペーパーを記録装置1にセットする)。製版時の記録モードは予め決められているため、用紙種類が「製版用RCペーパー」に設定されれば、設定画面上で他の設定を行えないようにするため設定可能項目が制限される(図6B)。設定画面上で用紙種類が「製版用RCペーパー」に設定された場合、光沢紙のはやいモードと同様に、解像度は「720×720dpi」、インク滴サイズは「小ドット3.8ng、中ドット7.2ng、大ドット14ng」、ブラックの表現はシアン・マゼンタ・イエローによるコンポジットブラックで行うような記録モードが選択されることになる。
【0145】
次に、制御プログラムは、C版用画像データに対して、解像度変換処理・色変換処理・ハーフトーン処理・ラスタライズ処理などを行う。図7は、制御プログラムが行う処理のフロー図である。以下に、制御プログラムが行う各種の処理について説明する。
【0146】
解像度変換処理は、画像データ(テキストデータ、イメージデータなど)を、媒体に記録する際の解像度(記録解像度)に変換する処理である。解像度変換処理により、C版用画像データが、720×720dpiの解像度のビットマップ形式の画像データに変換される。なお、解像度変換処理後のC版用画像データの各画素データは、単色(モノクロ)の256階調のデータ(グレースケールデータ)である。
【0147】
色変換処理は、記録装置1の記録色の色空間になるように画像データを変換する処理である。この色変換処理により、単色のC版用画像データが、CMY色空間の画像データに変換される。単色のC版用画像をCMY色空間の画像に色変換する理由は、本実施形態ではシアン・マゼンタ・イエローの3色のインクを用いたコンポジットブラックでC版用画像をモノクロ画像として版材に記録するためである。
【0148】
また、コンポジットブラックで記録されたC版用画像の無彩色(白、グレー色、又は黒)に対する色差ΔE(Lab色空間における色差ΔE*ab)が10以内に、望ましくはΔEが2以内に収まるように、単色のC版用画像をCMY色空間の画像に色変換することが望ましい。これにより、版面に記録されたC版用画像の色ズレがなくなり、製版直後に版面を目視確認するときの視認性が良くなる。また、色ズレが無いように版面に画像を記録すれば、版面の濃度と印刷物の濃度とが相関関係になるため、作業者が版面の濃度に基づいて印刷物の濃度を想定し易くなる。
【0149】
ハーフトーン処理は、256階調のデータを、記録装置が表現可能な4階調(大ドット、中ドット、小ドット、ドット無し)のデータに変換する処理である。ハーフトーン処理では、ディザ法・γ補正・誤差拡散法などが利用される。ハーフトーン処理後の画像データでは、画素ごと2ビットの画素データが対応しており、各画素データは各画素のドットの形成状況を示すデータになる。
ラスタライズ処理は、マトリクス状に並ぶ画素データを、記録時のドット形成順序に従って並べ替える処理である。例えば、記録時に数回に分けてドット形成処理が行われる場合、各ドット形成処理に対応する画素データをそれぞれ抽出し、ドット形成処理の順序に従って並べ替える。
なお、C版用画像データに対する解像度変換処理からラスタライズ処理まで間の処理は、モノクロ画像を光沢紙に印刷するときのモノクロ画像に対する解像度変換処理からラスタライズ処理まで間の処理と同じである。
【0150】
コンピューター110の制御プログラムは、C版用画像データに対して上記の処理を行って描画データを作成し、描画データを記録装置1に送信する。記録装置1のコントローラー60は、コンピューター110から受信した描画データに基づいて、各ユニットを制御し、版材にC版用画像を記録する。
【0151】
===記録方法===
<ノズル配置>
図8は、記録装置1のヘッド41のノズルの配列の説明図である。ヘッド41の下面には、第1ブラックノズル列K1と、第2ブラックノズル列K2と、シアンノズル列Cと、マゼンタノズル列Mと、イエローノズル列Yが形成されている。ブラックの2つのノズル列は、ヘッドの移動方向に並んで配置されている。カラーの3つのノズル列は、搬送方向に並んで配置されている。
【0152】
第1ブラックノズル列K1は、1/180インチ間隔で搬送方向に並ぶ180個のノズルを有する(但し、図中では、簡略化のため、実際のノズル数よりも少なくノズルが描かれている)。第2ブラックノズル列K2も、第1ブラックノズル列K1と同様に、1/180インチ間隔で搬送方向に並ぶ180個のノズルを有する。但し、第1ブラックノズル列K1と第2ブラックノズル列K2は、半ノズルピッチである1/360インチだけ搬送方向にずれて配置されている。ブラックインクのみでモノクロ印刷するならば、1回のヘッドの移動によって、搬送方向に360dpiの解像度でドットを形成することができる。
【0153】
シアンノズル列C、マゼンタノズル列M及びイエローノズル列Yは、それぞれ、1/180インチ間隔で搬送方向に並ぶ60個のノズルを有する。図中では、簡略化のため、6個のノズルだけが図示されている。各ノズル列のノズルには、搬送方向下流側のノズルほど小さい数の番号が付されている(♯1〜♯6)。
【0154】
なお、第1及び第2ブラックノズル列が吐出するブラックインクは、顔料が水不溶性ポリマーで被覆されていない前述のインクB1〜B3のいずれかである。また、シアンノズル列が吐出するシアンインクは、顔料が水不溶性ポリマーで被覆された前述のインクC1〜C5のいずれかである。また、マゼンタノズル列が吐出するマゼンタインクは、顔料が水不溶性ポリマーで被覆された前述のインクM1〜M4のいずれかである。また、イエローノズル列が吐出するイエローインクは、顔料が水不溶性ポリマーで被覆された前述のインクY1〜Y3のいずれかである。
また、シアン・マゼンタ・イエローの各色のインクにそれぞれ含まれる樹脂エマルジョンは、それぞれ異なる性質であることが望ましい。各色のインクの樹脂エマルジョンが同様の性質である場合と比べて、コンポジットブラックを形成する場合に、定着性・耐刷性を得ることができる。
【0155】
<オーバーラップ記録方法>
図9は、カラーノズル列の位置とドット形成の様子を示している。ここでは、3つのノズル列のうちの1つのノズル列のみを示している。図中の黒丸で示されたノズルは、インクを吐出可能なノズルである。一方、白丸で示されたノズルは、インクを吐出不可のノズルである。また、説明の便宜上、ノズル列が媒体に対して移動しているように描かれているが、同図はノズル列と媒体との相対的な位置を示すものであって、実際には媒体が搬送方向に移動する。また、説明の都合上、各ノズルは移動方向に数ドット(図中の丸印)しか形成していないが、実際には、移動方向に移動するノズルから間欠的にインク滴が吐出されるので、移動方向に多数のドットが並ぶことになる。このドットの列をラスタラインともいう。黒丸で示されるドットは、最後のパスで形成されるドットであり、白丸で示されるドットは、それ以前のパスで形成されたドットである。各パスは、媒体を搬送方向に搬送する動作(搬送動作)と交互に行われる。
【0156】
記録装置1のコントローラー60は、コンピューター110から受信した描画データに基づいて、各ノズルからインクを吐出させて、媒体上の各画素にドットを形成する。描画データの内容に応じて画素にドットが形成されないこともあるが、図9では説明を容易にするため、全画素にドットを形成している。
【0157】
図9に示すように、各ラスタラインは、2個のノズルで記録されている。このように、各ラスタラインを複数のノズルで記録する方法のことを、オーバーラップ記録方法と呼ぶ。
【0158】
オーバーラップ記録方法では、媒体が搬送方向に一定の搬送量Fで搬送される毎に、各ノズルが、数ドットおきに間欠的にドットを形成する。そして、他のパスにおいて、他のノズルが既に形成されている間欠的なドットを補完するように(ドットの間を埋めるように)ドットを形成することにより、1つラスタラインが複数のノズルにより形成される。このようにM回のパスにて1つのラスタラインが形成される場合、「オーバーラップ数M」と定義する。
【0159】
図9では、各ノズルは1ドットおきに間欠的にドットを形成するので、パス毎に奇数画素又は偶数画素にドットが形成される。そして、1つのラスタラインが2個のノズルにより形成されているので、オーバーラップ数M=2になる。
【0160】
オーバーラップ記録方法において、搬送量Fを一定にして記録を行うためには、(1)N/Mが整数であること、(2)N/Mはkと互いに素の関係にあること、(3)搬送量Fが(N/M)・Dに設定されること、が条件となる。なお、Nは、インクを吐出するノズル数であり、ここではN=6である。Dは、ドットピッチであり、ここでは1/720インチである。kは、ドットピッチDに対するノズルピッチ(k・D)の倍率(整数)であり、ここではノズルピッチが1/180インチなので、k=4である。ここではM=2であるため、搬送量Fは、3・D(=(6/2)・D)となる。
【0161】
1つのラスタラインがM個のノズルにより形成される場合、ノズルピッチ分のラスタラインが完成するためには、k×M回のパスが必要となる。例えば、図9では、1つのラスタラインが2個のノズルにより形成されているので、4つのラスタラインが完成するためには、8回のパスが必要となる。このため、1つのラスタラインを1個のノズルで形成する記録方法よりも、複数個のノズルにより形成するオーバーラップ記録方法の方が、ノズルピッチ分のラスタラインを完成させるためのパス数が増えることになる。
【0162】
図10は、搬送方向に並ぶ2つのノズル列によるオーバーラップ記録方法の説明図である。ここでは、3つのカラーノズル列のうちのシアンノズル列Cとマゼンタノズル列Mの2つのみを示している。図中の左側の丸印で示されたノズルは、搬送方向上流側のシアンノズル列Cのノズルである。三角印で示されたノズルは、シアンノズル列の搬送方向下流側に配置されたマゼンタノズル列Mのノズルである。黒く塗りつぶされたノズルは、インクを吐出可能なノズルである。一方、塗りつぶされていないノズルは、インクを吐出不可のノズルである。図中の右側の丸印で示されたドットは、シアンノズル列のノズルにより形成されたシアンドットである。また、三角印で示されたドットは、マゼンタノズル列のノズルにより形成されたマゼンタドットである。三角印で示されたマゼンタドットは、丸印で示されたシアンドットの上に形成されている。
【0163】
図10のように搬送方向に複数のノズル列が配置されている場合も、各ノズル列は、それぞれ図9のようにオーバーラップ記録方法を行っている。なお、図10では不図示であるが、マゼンタノズル列Mの搬送方向下流側に配置されたイエローノズル列Y(図8参照)も、図9のようにオーバーラップ記録方法を行うことになる。
【0164】
また、搬送方向下流側のマゼンタノズル列Mは、シアンドットが形成された領域に、マゼンタドットを重ねて形成する。例えば、記録開始位置付近の数本分のラスタラインの領域では、パス1〜パス8においてシアンドットが形成された後(図9参照)、パス9〜パス16においてマゼンタドットが重ねて形成されている(図10参照)。なお、図10では不図示であるが、マゼンタノズル列Mの搬送方向下流側のイエローノズル列Yは、シアンドット及びマゼンタドットが形成された領域に、イエロードットを重ねて形成する。
【0165】
もし仮に、複数のノズル列が搬送方向ではなく移動方向に並んで配置されていれば、それらのノズル列は、同じ領域に同じパスでほぼ同時にドットを重ねて形成することになる。これに対し、本実施形態のように搬送方向に複数のノズル列が並んで配置されている場合には、搬送方向上流側のノズル列がドットを形成した領域に、搬送方向下流側のノズル列が別のパスでドットを重ねて記録することになる。言い換えると、本実施形態のように搬送方向に複数のノズル列が並んで配置されている場合には、搬送方向上流側のノズル列がドットを形成した後、媒体を搬送する搬送処理が行われてから、搬送方向下流側のノズル列が別のパスでドットを重ねて記録する。つまり、本実施形態のように搬送方向に複数のノズル列が並んで配置されている場合には、それぞれのノズル列がドットを形成するタイミングに時間差を設けることができる。
【0166】
既に説明したように、複数個のノズルにより形成するオーバーラップ記録方法の方が、ノズルピッチ分のラスタラインを完成させるためのパス数が増えることになる。そして、図10のように搬送方向に複数のノズル列が配置されていれば、ある領域にk×M回のパスで搬送方向上流側のノズル列がドットを形成した後に、その領域にk×M回のパスで搬送方向下流側のノズル列がドットを形成することになる。このため、搬送方向に並んで配置された複数のノズル列がそれぞれオーバーラップ記録方法を行うと、次のドットが重ねられるまでの時間が長くなる。つまり、本実施形態のように搬送方向に複数のノズル列が並んで配置されている場合にオーバーラップ記録方法を行うと、それぞれのノズル列がドットを形成するタイミングの時間差を長くできる。
【0167】
ところで、既に説明した通り、本実施形態の製版時には、ブラック表現はシアン・マゼンタ・イエローによるコンポジットブラックで行うような記録モードが選択される(図5太枠参照)。このため、記録装置1は、単色画像であるC版用画像を、シアンインク、マゼンタインク及びイエローインクを用いて版材(製版用RCペーパー)に記録する。この結果、C版用画像の濃度の濃い領域では、同じ画素にシアンインク、マゼンタインク及びイエローインクが重なって塗布される。製版用インクであるシアンインク、マゼンタインク及びイエローインクが版材上の同じ画素に重なって塗布された結果、コンポジットブラックで表現された画線部は、定着性・耐刷性が向上すると共に、オフセット印刷に必要とされる十分な親油性を示すことができる。
【0168】
また、本実施形態では、記録装置1は、例えばシアンノズル列Cによってシアンドットを形成した後、媒体を搬送する搬送処理を行ってから、マゼンタノズル列によってマゼンタドットを重ねて形成している。これにより、少なくとも搬送処理の分だけ、それぞれのノズル列がドットを形成するタイミングに時間差を設けることができる。つまり、先に塗布された製版用インクが版材のインク受容層に吸収されてから、次の製版用インクを重ねて塗布することができる。この結果、コンポジットブラックで表現された画線部は、定着性・耐刷性が向上すると共に、オフセット印刷に必要とされる十分な親油性を示すことができる。
【0169】
また、本実施形態では、記録装置1は、カラーのノズル列を搬送方向に並べて配置している。このようにノズル列を配置することによって、記録装置1は、例えばシアンノズル列Cによってシアンドットを形成した後、媒体を搬送する搬送処理を行ってから、マゼンタノズル列によってマゼンタドットを重ねて形成することができる。
【0170】
また、本実施形態では、オーラーラップ記録方式によって、製版を行っている。オーバーラップ記録方式によれば、各ラスタライン(ドットの列)を複数のノズルで記録するため、それぞれのノズル列がドットを形成するタイミングの時間差を長くできる。つまり、先に塗布された製版用インクが版材のインク受容層に充分吸収されてから、次の製版用インクを重ねて塗布することができる。この結果、コンポジットブラックで表現された画線部は、定着性・耐刷性が向上すると共に、オフセット印刷に必要とされる十分な親油性を示すことができる。
【0171】
また、本実施形態では、シアン・マゼンタ・イエローの有彩色である3色の製版用インクを用いたコンポジットブラックによって、C版用画像をモノクロ画像(無彩色画像)として版材に記録している。これにより、製版直後に版面を目視にて確認するときの視認性が良くなる。仮にイエローインクのみで製版を行った場合には、色が淡いため、版面を目視するときの視認性が悪くなる。
なお、シアン・マゼンタ・イエローの有彩色である3色の製版用インクを用いて無彩色であるC版用画像を形成しているため、少なくとも濃度の濃い領域での画線部は、色の異なるドットが重なって形成されているため、定着性・耐刷性が向上すると共に、オフセット印刷に必要とされる十分な親油性を示すことができる。
【0172】
また、本実施形態では、コンポジットブラックで記録されたC版用画像の無彩色(白、グレー色、又は黒)に対する色差ΔE(Lab色空間における色差ΔE*ab)は10以内に、望ましくはΔEが2以内に収まっている(なお、このような範囲に色差ΔEが収まるように、前述の色変換処理が行われている)。これにより、版面に記録されたC版用画像の色ズレがなくなり、製版直後に版面を目視確認するときの視認性が良くなる。また、色ズレが無いように版面に画像を記録すれば、作業者が版面の濃度に基づいて印刷物の濃度を想定し易くなる。
【0173】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
例えば、ヘッドが移動方向に移動して記録を行うシリアル型の記録装置ではなく、複数のヘッドをライン上に配置して固定したライン型の記録装置であっても良い。
【符号の説明】
【0174】
1 記録装置、
20 搬送ユニット、21 供給ローラー、22 搬送モーター、
23 搬送ローラー、24 プラテン、25 排出ローラー、
30 キャリッジユニット、31 キャリッジ、32 キャリッジモーター、
40 ヘッドユニット、41 ヘッド、
50 検出器群、51 リニア式エンコーダ、52 ロータリー式エンコーダ、
53 媒体検出センサ、54 光学センサ、
60 コントローラー、61 インターフェース部、62 CPU、
63 メモリ、64 ユニット制御回路、
110 コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、分散樹脂としての水不溶性ポリマーと、界面活性剤とを含有するインクを版材となる媒体にヘッドから吐出することによって、前記媒体に画線部を形成する工程を有し、
前記インクは、前記水不溶性ポリマーにより被覆された顔料を含むことを特徴とする平版印刷版の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の平版印刷版の製造方法であって、
前記顔料の平均粒子径は、30〜300nmの範囲内である
ことを特徴とする平版印刷版の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の平版印刷版の製造方法であって、
前記水不溶性ポリマーは、25℃の水100gに対する溶解度が1g未満であるポリマーである
ことを特徴とする平版印刷版の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の平版印刷版の製造方法であって、
前記ヘッドは、複数の有彩色のインクを吐出可能であり、
前記ヘッドから前記有彩色のインクを吐出して、前記媒体に無彩色画像として前記画線部を形成する
ことを特徴とする平版印刷版の製造方法。
【請求項5】
支持体と、インクを受容するためのインク受容層とを備えた平版印刷版であって、
顔料と、分散樹脂としての水不溶性ポリマーと、界面活性剤とを含有するインクをインクジェット記録装置によって塗布した領域に画線部が形成されており、
前記インクは、前記水不溶性ポリマーにより被覆された顔料を含む
ことを特徴とする平版印刷版。
【請求項6】
顔料と、分散樹脂としての水不溶性ポリマーと、界面活性剤とを含有するインクを吐出するヘッドと、
前記ヘッドを制御する制御部であって、版材となる媒体に前記ヘッドから前記インクを吐出させることによって、前記媒体に画線部を形成させる制御部と、
を有し、
前記インクは、前記水不溶性ポリマーにより被覆された顔料を含むことを特徴とする平版印刷版製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−35454(P2012−35454A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175695(P2010−175695)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】