説明

平版印刷版原版及びその作製方法

【課題】平版印刷における高い耐刷性を実現し、しかも露光部の良好な現像性をも達成する平版印刷版原版を提供する。
【解決手段】親水性表面を有する支持体上側に、下層及び上層をこの順に配設した記録層を有してなる赤外線感光性ポジ型平版印刷版原版であって、前記上層および/または下層が、アルカリ水溶液に可溶性又は可分散性の水不溶性ポリウレタン樹脂と、両性界面活性剤および/またはアニオン性界面活性剤 1質量%超20質量%未満と、赤外線吸収剤とを、同じ層に、あるいはそれぞれ別々に層に含有する平版印刷版原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版原版及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷におけるレーザ露光・現像に関連する技術の発展は目ざましい。特に近赤外から赤外に発光領域を持つ固体レーザ・半導体レーザは高出力かつ小型のものが容易に入手できるようになっている。コンピュータ等のディジタルデータから直接製版する際の露光光源としてレーザは非常に有用であり、これに対応する平版印刷原版の開発が極めて重要である。
【0003】
赤外線レーザ用ポジ型平版印刷版原版の記録層は、アルカリ可溶性のバインダー樹脂と、光を吸収し熱を発生するIR染料等とを必須成分とする。このIR染料等が、未露光部(画像部)では、バインダー樹脂との相互作用によりバインダー樹脂の現像液に対する溶解性を実質的に低下させる現像抑制剤として働く。一方、露光部(非画像部)では、発生した熱によりIR染料等とバインダー樹脂との相互作用が弱まり、アルカリ現像液に溶解して平版印刷版を形成する。
【0004】
上記平版印刷版原版に要求される基本性能として、鮮明な画像部の形成を速やかに実現する現像性と、逆に、未露光部では記録層が溶解されず的確に保持される耐薬品性と、印刷可能量を高める耐刷性の向上とが挙げられる。しかしながら、これらの性能は通常相反するものであり、すべての性能項目を同時に引き上げることは極めて困難である。例えば、下記特許文献1〜3に開示された印刷版原版では、その記録層に特定のポリマーを含有させることが提案されている。通常、記録層に分子量の大きなポリマーを存在させると、その分、耐刷性や耐薬品性の向上は見込める。しかしながら、現像性については劣る方向となり、そうすると、すべての性能をバランス良く高めることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−017913号公報
【特許文献2】特許第4579639号明細書
【特許文献3】特表2010−532488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、現像性に劣る特定のポリマーの現像性を付与する方法として、現像液に界面活性剤を加える方法が知られている。通常、赤外線レーザ用ポジ型平版印刷版原版の現像処理において、継続的にかつ安定的に処理するためには、液活性を一定に保つ必要がある。液活性はアルカリ濃度(pHや電導度)にて管理されるが、現像液に界面活性剤を添加した場合、継続的に使用すると、界面活性剤の濃度を一定に保持できず、界面活性剤濃度が次第に濃くなり耐薬品性が低下したり、逆に界面活性剤濃度が次第に薄くなり現像性が低下したりするといった問題点があった。
【0007】
本願発明は、上記特許文献の技術等に鑑み、平版印刷における高い耐刷性を実現し、しかも露光部の良好な現像性をも達成する平版印刷版原版の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが上記課題に鑑み鋭意研究した結果、以下の知見を見出した。すなわち、赤外線レーザ用ポジ型平版印刷版原版の記録層中において、特定のポリマーと適切な量の界面活性剤とが存在することで、あらかじめその設定量の界面活性剤が現像系に供給される。これにより、平版印刷における高い耐刷性を実現し、しかも露光部の良好な現像性をも達成する。本発明はこの知見に基づきなされるに至った。
【0009】
(1)親水性表面を有する支持体上側に、下層及び上層をこの順に配設した記録層を有してなる赤外線感光性ポジ型平版印刷版原版であって、前記上層および/または下層が、特定のポリウレタン樹脂と、両性界面活性剤および/またはアニオン性界面活性剤についてこれを含む層の固形分の総量に対して1質量%超20質量%未満と、赤外線吸収剤とを、同じ層に、あるいはそれぞれ別々に層に含有することを特徴とする平版印刷版原版。
(2)前記両性界面活性剤が下記一般式(I)〜(III)のいずれかで表わされるものであることを特徴とする(1)に記載の平版印刷版原版。
【化1】

(一般式(I)〜(III)中、Rは炭素数6〜24のアルキル基もしくは特定の連結基を介するアルキル基を表す。R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表す。R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表す。ただし、R及びRの少なくとも一方は末端に酸性基もしくはその塩を有する。Lは炭素数1〜4の連結基を表す。Xはカルボン酸イオン、スルホン酸イオン、硫酸イオン、ホスホン酸イオン、またはリン酸イオンを表す。)
(3)前記アニオン性界面活性剤が下記一般式(IV)〜(VII)のいずれか表わされるものであることを特徴とする(1)に記載の平版印刷版原版。
【化2】

(一般式(IV)〜(VII)中、R、Rは炭素数6〜24のアルキル基を表す。Lはフェニレン基又は単結合を表す。D、E、Fはスルホン酸イオンもしくはその塩、または硫酸イオンもしくはその塩を表す。Rは炭素数4〜18のアルキル基を表す。Lはフェニレン基またはナフチレン基を表す。Rはフェニル基またはナフチル基を表す。Lはポリアルキレンオキシ基を表す。Lはフェニレン基を表す。Gは酸素原子を表す。Lはフェニル基を表す。)
(4)前記ポリウレタン樹脂が、少なくとも下記式DI1〜DI4から選ばれるジイソシアネート化合物と下記式DO1〜DO5から選ばれるジオール化合物とを重合させてなることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【化3】

(5)前記界面活性剤を、前記ポリウレタン樹脂100質量部に対して1〜40質量部含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
(6)前記支持体上の層として、順に、下塗り層と、記録層をなす下層及び上層とを有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
(7)前記ポリウレタン樹脂を記録層の上層に含有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
(8)前記両性界面活性剤を、前記ポリウレタン樹脂と同じ層に含有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
(9)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の平版印刷版原版の記録層を画像露光する露光工程、pH11.0〜13.5のアルカリ水溶液を用いて現像する現像工程、をこの順で含む平版印刷版の作製方法。
(10)前記アルカリ水溶液がアニオン性界面活性剤または両性界面活性剤を含むことを特徴とする(9)に記載の平版印刷版の作製方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の平版印刷原版は、平版印刷における高い耐刷性を実現し、しかも露光部の良好な現像性をも同時に達成する。また、本発明の作製方法によれば、上述した良好な性能を発揮する平版印刷版原版を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は本発明の平版印刷版原版の記録層を重層構成とした一実施態様を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
<平版印刷版原版>
本発明の平版印刷版原版は、親水性表面を有する支持体上側に、下層及び上層をこの順に形成して設けられた記録層を有してなり、前記上層および/または下層が、(a)特定のポリウレタン樹脂と、(b)特定の界面活性剤とを含有する。成分(a)および(b)は上層に添加しても下層に添加してもよく、それぞれ同じ層に添加しても、別の層に添加してもよい。現像ラチチュード等の観点から、赤外線吸収剤を含む下層と、熱によりアルカリ水溶液への溶解性を向上させる上層とを順次備えてなる重層構成であることが好ましい(詳細は後記表A参照)。なお、支持体上側に、下層と上層とはこの順に配置されており、所望により、その他の層、例えば、下塗り層、表面保護層など任意の層をさらに有していてもよい。本発明においては、効果の観点から、下層と上層とは隣接して形成されることが好ましい。
【0013】
上記の構成を採用することにより、本発明において、耐刷性と耐薬品性と現像性とを同時に達成するという効果を奏する理由(作用機構)は未解明の点を含むが、下記のように推定される。すなわち、両性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤は水和力、分散力がノニオン性・カチオン性界面活性剤よりも高く、記録層への添加によりノニオン性・カチオン性のものと比較して少量で高い効果が発揮されると推定される。このため、特定のポリウレタン樹脂とともに記録層の耐薬品性を低下させずに、所望の効果が発揮されると考えられる。また、両性界面活性剤は分子内にアンモニウム塩等の正電荷を有していることで、記録層中の素材と相互作用し、耐薬品性を低下させにくいという利点をも有するものと考えられる。以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0014】
<ポリウレタン樹脂>
本発明の平版印刷版原版を構成する記録層は、酸性水素原子を持つ置換基を有するポリウレタンを含む。酸性水素原子は、カルボキシル基、−SONHCOO−基、−CONHSO−基、−CONHSONH−基、−NHCONHSO−基等の酸性官能基に属することができるが、特にカルボキシ基に由来することが好ましい。
【0015】
酸性水素原子を有するポリウレタンは、例えば、カルボキシ基を有するジオールと、必要に応じて他のジオールと、ジイソシアナートとを反応させる方法;ジオールと、カルボキシ基を有するジイソシアナートと、必要に応じて他のジイソシアナートとを反応させる方法;或いは、カルボキシ基を有するジオールと、必要に応じて他のジオールと、カルボキシ基を有するジイソシアナートと、必要に応じて他のジイソシアナートとを反応させる方法によって合成することができる。
【0016】
カルボキシ基を有するジオールとしては、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸、2,2−ビス(3−ヒドロキシプロピルプロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)酢酸、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸、4,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、酒石酸などが挙げられるが、特に、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸がイソシアネートとの反応性の点でより好ましい。
【0017】
他のジオールとしては、ジメチロールプロパン、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエステルポリオール、ポリマーポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、1,6−ヘキサンジオール、ポリブタジエンポリオールなどが挙げられる。
【0018】
カルボキシ基を有するジイソシアナートとしては、ダイマー酸ジイソシアナートなどが挙げられる。
【0019】
他のジイソシアナートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、ナフチレン−1,5−ジイソシアナート、テトラメチルキシレンジイソソアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、トルエン−2,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアナート、水添キシリレンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、ノルボルネンジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナートなどが挙げられる。
【0020】
ジイソシアネートおよびジオールのモル比は、0.7:1〜1.5:1が好ましく、ポリマー末端にイソシアネート基が残存した場合、アルコール類又はアミン類等で処理することにより、最終的にイソシアネート基が残存しない形で合成される。
【0021】
上記特定のポリウレタンの質量平均分子量は、2,000〜100,000の範囲が好ましい。ポリウレタンの質量平均分子量が2,000未満では、画像形成して得られる画像部が弱く、耐刷性に劣る傾向にある。一方、ポリウレタンの質量平均分子量が100,000を超えると、現像性および感度が劣る傾向にある。
【0022】
上記特定のポリウレタンはアルカリ可溶性ないし可分散性であることが好ましい。
上記特定のポリウレタンの含有量は記録層においてポリウレタンを含む層の固形分の総量に対して2〜90質量%の範囲が好ましく、50〜90質量%の範囲がより好ましい。上記特定のポリウレタンの含有量が上記下限値以上であることが、耐刷性の点で好都合であり、上記上限値以下であることが現像性の点で好ましい。また、必要に応じて、2種以上のポリウレタンを併用してもよい。
【0023】
なお、本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。なお、本明細書において***化合物とは、当該化合物そのものに加え、その塩、そのイオン等を含む意味に用いる。典型的には、当該化合物及び/又はその塩を意味する。このことは、次に説明する界面活性剤についても同様であり、そこで規定される化合物が対イオンを伴わないイオンで存在していても、塩であってもよい。
【0024】
分子量及び分散度は特に断らない限りGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)法を用いて測定した値とし、分子量はポリスチレン換算の質量平均分子量とする。GPC法に用いるカラムに充填されているゲルは芳香族化合物を繰り返し単位に持つゲルが好ましく、例えばスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなるゲルが挙げられる。カラムは2〜6本連結させて用いることが好ましい。用いる溶媒は、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N−メチルピロリジノン等のアミド系溶媒が挙げられる。測定は、溶媒の流速が0.1〜2mL/minの範囲で行うことが好ましく、0.5〜1.5mL/minの範囲で行うことが最も好ましい。この範囲内で測定を行うことで、装置に負荷がかからず、さらに効率的に測定ができる。測定温度は10〜50℃で行うことが好ましく、20〜40℃で行うことが最も好ましい。なお、使用するカラム及びキャリアは測定対称となる高分子化合物の物性に応じて適宜選定することができる。
【0025】
<界面活性剤>
・両性界面活性剤
好ましい両性界面活性剤としては下記一般式(I)〜(III)のいずれかで表わされるものが挙げられる。
【0026】
【化4】

【0027】
は炭素数6〜24のアルキル基もしくは特定の連結基を介するアルキル基を表す。なかでも、直鎖の炭素数8〜18のアルキル基、炭素数8〜18のもしくは特定の連結基を介するアルキル基が好ましく、特定の連結基としてはアミド基が好ましい。
、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表す。なかでも、メチル基、エチル基、2−ヒドロキシエチル基が好ましい。
、Rはそれぞれ独立に末端に酸性基もしくはその塩(好ましくはカルボン酸もしくはその塩)を有する炭素数1〜5のアルキル基を表す。なかでも、2−カルボキシメチル基、2−カルボキシエチル基、2−カルボキシプロピル基、カルボキシポリエチレンオキシド基、カルボキシポリプロピレンオキシド基が好ましい。
は炭素数1〜4の連結基を表す。なかでも、アルキレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が好ましい。
はカルボン酸イオンもしくはその塩、スルホン酸イオンもしくはその塩、硫酸イオン、ホスホン酸イオンもしくはその塩、またはリン酸イオンもしくはその塩を表す。
上記アニオンが塩であるとき、その対イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンが挙げられる。
【0028】
両性界面活性剤として具体的には、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、2−アルキル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインやN−テトラデシル−N,N−ベタイン型等が挙げられる。
【0029】
上記一般式(I)で表される両性界面活性剤の具体例としては、レボン2000、レボンLD36(以上、三洋化成工業(株)製)、Texnol R2(日本乳化剤(株)製)AM−301、AM−3130N(以上、日光ケミカルズ(株)製)、アンヒトール20AB、アンヒトール20BS、アンヒトール24B、アンヒトール55AB、アンヒトール86B(以上、花王(株)製)、アデカアンホートAB−35L、アデカアンホートPB−30L(以上、(株)ADEKA製)、アンホレックスCB−1、アンホレックスLB−2(以上、ミヨシ油脂(株)製)、エナジコールC−30B、エナジコールL−30B(以上、ライオン(株)製)、オバゾリンBC、オバゾリンCAB−30、オバゾリンLB−SF、オバゾリンLB(以上東邦化学工業(株)製)、ソフタゾリンCPB−R、ソフタゾリンCPB、ソフタゾリンLPB−R、ソフタゾリンLPB、ソフタゾリンMPB、ソフタゾリンPKBP(以上、川研ファインケミカル(株)製)、ニッサンアノンBDC−S、ニッサンアノンBDF−R、ニッサンアノンBDF−SF、ニッサンアノンBF、ニッサンアノンBL−SF、ニッサンアノンBL(以上、日油(株)製)などが挙げられる。
上記一般式(II)で表される両性界面活性剤の具体例としては、アンヒトール20N(花王(株)製)、ソフタゾリンLAO−C、ソフタゾリンLAO(以上、川研ファインケミカル(株)製)、ユニセーフA−OM(日油(株)製)、カチナールAOC(東邦化学工業(株)製)、アロモックスDMC−W(ライオン(株)製)などが挙げられる。
上記一般式(III)で表される両性界面活性剤の具体例としては、エナジコールDP−30(ライオン(株)製)、デリファット160C(コグニスジャパン(株)製)、パイオニンC158G(竹本油脂(株)製)などが挙げられる。
【0030】
さらに上記両性界面活性剤の具体例を化学構造式により下記に例示する。
【0031】
【化5】

【0032】
一般式(I)〜(III)で表される化合物は、単独もしくは組み合わせて使用することができる。
【0033】
一部重複するものもあるが、両性イオン系界面活性剤の別の例は、アルキルジメチルアミンオキシドなどのアミンオキシド系、アルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、アルキルイミダゾールなどのベタイン系、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウムなどのアミノ酸系が挙げられる。
【0034】
特に、置換基を有してもよいアルキルジメチルアミンオキシド、置換基を有してもよいアルキルカルボキシベタイン、置換基を有してもよいアルキルスルホベタインが好ましく用いられる。これらの具体例としては、特開2008−203359号の段落番号〔0256〕の式(2)で示される化合物、特開2008−276166号の段落番号〔0028〕の式(I)、式(II)、式(VI)で示される化合物、特開2009−47927号の段落番号〔0022〕〜〔0029〕に記載の化合物を挙げることができる。
【0035】
現像液に用いられる両性イオン系界面活性剤としては、下記一般式(A1)で表される化合物、一般式(A2)で表される化合物、一般式(A3)で表される化合物が好ましい。
【0036】
【化6】

【0037】
式(A1)〜(A3)中、R、R11及びR15は各々独立に、炭素数8〜20のアルキル基又は総炭素数8〜20の連結基を有するアルキル基を表す。R、R、R12及びR13は、各々独立に、水素原子、アルキル基又はエチレンオキサイド基を含有する基を表す。R及びR14は、各々独立に、単結合又はアルキレン基を表す。また、R、R、R及びRのうち2つの基は互いに結合して環構造を形成してもよく、R11、R12、R13及びR14のうち2つの基は互いに結合して環構造を形成してもよい。L、Lは炭素数1〜4の連結基を表す。なかでも、アルキレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が好ましい。Xは水素原子もしくはアルカリ金属(好ましくはナトリウム又はカリウム)を表す。
【0038】
上記一般式(A1)で表される化合物又は一般式(A2)、一般式(A3)で表される化合物において、総炭素数値が大きくなると疎水部分が大きくなり、水系の現像液への溶解性が低下する。この場合、溶解を助けるアルコール等の有機溶剤を、溶解助剤として水に混合することにより、溶解性は良化はするが、総炭素数値が大きくなりすぎた場合、適正混合範囲内で界面活性剤を溶解することはできない。従って、R〜R又はR11〜R14及びR15の炭素素数の総和は好ましくは10〜40、より好ましくは12〜30である。
【0039】
又はR11で表される連結基を有するアルキル基は、アルキル基の間に連結基を有する構造を表す。すなわち、連結基が1つの場合は、「−アルキレン基−連結基−アルキル基」で表すことができる。連結基としては、エステル結合、カルボニル結合、アミド結合が挙げられる。連結基は2以上あってもよいが、1つであることが好ましく、アミド結合が特に好ましい。連結基と結合するアルキレン基の総炭素数は1〜5であることが好ましい。このアルキレン基は直鎖であっても分岐であってもよいが、直鎖アルキレン基が好ましい。連結基と結合するアルキル基は炭素数が3〜19であることが好ましく、直鎖であっても分岐であってもよいが、直鎖アルキルであることが好ましい。
【0040】
又はR12がアルキル基である場合、炭素数は1〜5であることが好ましく、1〜3であることが特に好ましい。直鎖、分岐のいずれでも構わないが、直鎖アルキル基であることが好ましい。
【0041】
又はR13がアルキル基である場合、炭素数は1〜5であることが好ましく、1〜3であることが特に好ましい。直鎖、分岐のいずれでも構わないが、直鎖アルキル基であることが好ましい。
又はR13で表されるエチレンオキサイドを含有する基としては、−Ra(CHCHO)Rbで表される基を挙げることができる。ここで、Raは単結合、酸素原子又は2価の有機基(好ましくは炭素数10以下)を表し、Rbは水素原子又は有機基(好ましくは炭素数10以下)を表し、nは1〜10の整数を表す。
【0042】
及びR14がアルキレン基である場合、炭素数は1〜5であることが好ましく、1〜3であることが特に好ましい。直鎖、分岐のいずれでも構わないが、直鎖アルキレン基であることが好ましい。
一般式(1)で表される化合物又は一般式(2)で表される化合物は、アミド結合を有することが好ましく、R又はR11の連結基としてアミド結合を有することがより好ましい。
一般式(1)で表される化合物又は一般式(2)で表される化合物の代表的な例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
【化7】

【0044】
【化8】

【0045】
【化9】

【0046】
式(A1)又は(A2)で表される化合物は公知の方法に従って合成することができる。また、市販されているものを用いることも可能である。市販品として、式(A1)で表される化合物は川研ファインケミカル社製のソフタゾリンLPB、ソフタゾリンLPB−R、ビスタMAP、竹本油脂社製のタケサーフC−157L等があげられる。式(A2)で表される化合物は川研ファインケミカル社製のソフタゾリンLAO、第一工業製薬社製のアモーゲンAOL等があげられる。
両性イオン系界面活性剤は現像液中に、1種単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
・アニオン性界面活性剤
好ましいアニオン性界面活性剤としては下記一般式(IV)〜(VII)のいずれかで表わされるものが挙げられる。
【化10】

(一般式(IV)〜(VII)中、R、Rは炭素数6〜24のアルキル基を表す。Lはフェニレン基又は単結合を表す。D、E、Fはスルホン酸イオンもしくはその塩、または硫酸イオンもしくはその塩を表す。Rは炭素数4〜18のアルキル基を表す。Lはフェニレン基またはナフチレン基を表す。Rはフェニル基またはナフチル基を表す。Lはポリアルキレンオキシ基を表す。Lはフェニレン基を表す。Gは酸素原子を表す。L6はフェニル基を表す。)
【0048】
アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム類、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ヒマシ油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類、芳香族スルホン酸塩類、芳香族置換ポリオキシエチレンスルホン酸塩類等が挙げられる。これらの中でもジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類およびアルキルナフタレンスルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0049】
本発明の処理液に用いられるアニオン性界面活性剤としては、スルホン酸又はスルホン酸塩を含有するアニオン系界面活性剤が特に好ましい。アニオン性界面活性剤は単独もしくは組み合わせて使用することができる。
【0050】
本発明において前記両性もしくはアニオン性界面活性剤の含有量は特に限定されないが、これを含む層(一例においては上層)の固形分の総量に対して、1質量%超20質量%未満であり、3〜15質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。上記下限値以上とすることで、特にランニングカスの発生を効果的に抑制することができ好ましい。上記上限値以下とすることで、膜減り及び耐刷性を十分に確保することができ好ましい。上記特定のポリウレタン樹脂との関係でいうと、同様の観点から、その100質量部に対して、0.5〜18質量部あることが好ましく、1〜16質量部であることがより好ましい。上記下限値以上とすることで、特にランニングカスの発生を効果的に抑制することができ好ましい。
【0051】
・他の界面活性剤
特定現像液は、本発明の効果を損ねない範囲において、上記以外のノニオン系界面活性剤、カチオン系等を含有してもよい。
【0052】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコール型の高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、芳香族化合物のポリエチレングリコール付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ジメチルシロキサン−エチレンオキサイドブロックコポリマー、ジメチルシロキサン−(プロピレンオキサイド−エチレンオキサイド)ブロックコポリマー等や、多価アルコール型のグリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。
前記ノニオン系界面活性剤が、ノニオン芳香族エーテル系界面活性剤を含むことが好ましく、非解離性の置換基を有してもよいベンゼン、又はナフタレンのエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドの付加物であることがより好ましい。この界面活性剤は、1種を単独使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体が挙げられる。
【0054】
ノニオン性界面活性やカチオン系剤を併用する場合にも、両性界面活性剤ないしアニオン性界面活性剤の含有量が最も多いことが好ましく、両性界面活性剤ないしアニオン性界面活性剤は界面活性剤総量の50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
なお上記両性界面活性剤については、特開平4−13149、特開昭59−121044などを参照することができる。
【0055】
これらの他の界面活性剤の含有量は、記録層の固形分の総量に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。
【0056】
<赤外線吸収剤>
本発明の平版印刷版原版は、その記録層に赤外線吸収剤を含む。赤外線吸収剤としては、赤外光を吸収し熱を発生する染料であれば特に制限はなく、赤外線吸収剤として知られる種々の染料を用いることができる。
本発明に用いることができる赤外線吸収剤としては、市販の染料及び文献(例えば「染料便覧」有機合成化学協会編集、昭和45年刊)に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料などの染料が挙げられる。本発明において、これらの染料のうち、赤外光又は近赤外光を少なくとも吸収するものが、赤外光又は近赤外光を発光するレーザでの利用に適する点で好ましく、シアニン染料が特に好ましい。
【0057】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、フタロシアニン染料、オキソノール染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、チオピリリウム染料、ニッケルチオレート錯体が挙げられる。さらに、下記一般式(a)で示されるシアニン色素は、本発明における上層に使用した場合に、高い重合活性を与え、且つ、安定性、経済性に優れるため最も好ましい。
【0058】
【化11】

【0059】
一般式(a)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、−NPh、X−L又は以下に示す基を表す。Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。Lは、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、又はヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。
【0060】
【化12】

【0061】
上記式中、Xaは後述するZaと同様に定義され、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0062】
及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。感光層塗布液の保存安定性から、R及びRは、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、さらに、RとRとは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0063】
Ar、Arは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。
、Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。
、R、R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Zaは、対アニオンを示す。但し、一般式(a)で示されるシアニン色素がその構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合は、Zaは必要ない。好ましいZaは、感光層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0064】
好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落番号[0017]〜[0019]、特開2002−40638号公報の段落番号[0012]〜[0038]、特開2002−23360号公報の段落番号[0012]〜[0023]に記載されたものを挙げることができる。
赤外線吸収剤として特に好ましくは、以下に示すシアニン染料Aである。
【0065】
【化13】

赤外線吸収剤を添加する際の添加量としては、全固形分に対し、0.01〜50質量%であることが好ましく、0.1〜30質量%であることがより好ましく、1.0〜30質量%であることが特に好ましい。添加量が0.01質量%以上であると、高感度となり、また、50質量%以下であると、層の均一性が良好であり、層の耐久性に優れる。
【0066】
<記録層の構成>
以下、記録層が重層構造の場合について説明していくが、本発明の好ましい実施形態における層構成と各成分の配置としては下記の組合せが挙げられる。なかで例2、5、6、7の構成が好ましく、2、5、6の構成がより好ましい。
【表A】

【0067】
<下層>
下層には、上記赤外線吸収剤を含むことが好ましい。さらに、本発明の効果を損なわない限りにおいて、所望により他の成分を含有してもよい。例えば、上記樹脂とは構造の異なるアルカリ可溶性樹脂(他のアルカリ可溶性樹脂と称する)などが挙げられる。
【0068】
(他のアルカリ可溶性樹脂)
本発明において、「アルカリ可溶性」とは、pH11.0〜13.5(好ましくは12.0〜13.5、より好ましくは12.5〜13.5)のアルカリ水溶液に標準現像時間の処理で可溶であることを意味する。
下層に用いられる他のアルカリ可溶性樹脂としては、アルカリ性現像液に接触すると溶解する特性を有するものであれば特に制限はないが、高分子中の主鎖及び/又は側鎖に、フェノール性水酸基、スルホン酸基、リン酸基、スルホンアミド基、活性イミド基等の酸性の官能基を有するものが好ましく、このような、アルカリ可溶性を付与する酸性の官能基を有するモノマーを10モル%以上含む樹脂が挙げられ、20モル%以上含む樹脂がより好ましい。アルカリ可溶性を付与するモノマーの共重合成分が10モル%以上であると、アルカリ可溶性が十分得られ、また、現像性に優れる。
また更に、米国特許第4,123,279号明細書に記載されているように、t−ブチルフェノールホルムアルデヒド樹脂、オクチルフェノールホルムアルデヒド樹脂のような、炭素数3−8のアルキル基を置換基として有するフェノールとホルムアルデヒドとの縮重合体が挙げられる。また、その質量平均分子量(Mw)が500以上であることが好ましく、1,000〜700,000であることがより好ましい。また、その数平均分子量(Mn)が500以上であることが好ましく、750〜650,000であることがより好ましい。分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であることが好ましい。
【0069】
前記他のアルカリ可溶性樹脂は、質量平均分子量が2,000以上、かつ数平均分子量が500以上のものが好ましく、質量平均分子量が5,000〜300,000で、かつ数平均分子量が800〜250,000であることがより好ましい。また、前記他のアルカリ可溶性樹脂の分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であることが好ましい。
下層に所望により含まれる他のアルカリ可溶性樹脂は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
本発明における下層の全固形分に対する他のアルカリ可溶性樹脂の含有量は、0〜98質量%の添加量で用いてもよい。また、前記(A)星型ポリマー100質量部に対し、80質量部以下の割合で含みうる。
【0070】
<上層>
上層における熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する機構には特に制限はなく、バインダー樹脂を含み、加熱された領域の溶解性が向上するものであれば、いずれも用いることができる。画像形成に利用される熱としては、赤外線吸収剤を含む下層が露光された場合に発生する熱が挙げられる。熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する上層としては、例えば、ノボラック、ウレタン等の水素結合能を有するアルカリ可溶性樹脂を含む層、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂と溶解抑制作用のある化合物とを含む層、アブレーション可能な化合物を含む層、などが挙げられる。また、上層に、更に赤外線吸収剤を添加することにより、上層で発生する熱も画像形成に利用することができる。赤外線吸収剤を含む上層の構成としては、例えば、赤外線吸収剤と水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂と溶解抑制作用のある化合物とを含む層、赤外線吸収剤と水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂と熱により酸を発生する化合物とを含む層などが挙げられる。
【0071】
(水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂)
本発明に係る上層には、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂を含有することが好ましい。アルカリ可溶性樹脂を含有することで、赤外線吸収剤とアルカリ可溶性樹脂が有する極性基との間に相互作用が形成され、ポジ型の感光性を有する層が形成される。上述したものを含めて言うと、例えば、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂等を好ましく挙げることができる。
本発明に用いることができるアルカリ可溶性樹脂としては、アルカリ性現像液に接触すると溶解する特性を有するものであれば特に制限はないが、高分子中の主鎖及び/又は側鎖に酸性基を含有する単独重合体、これらの共重合体、又は、これらの混合物であることが好ましい。
このような酸性基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、フェノール性水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、スルホンアミド基、活性イミド基等の官能基を有することが好ましい。したがって、このような樹脂は、上記官能基を有するエチレン性不飽和モノマーを1つ以上含むモノマー混合物を共重合することによって好適に生成することができる。前記官能基を有するエチレン性不飽和モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸の他に、下式で表される化合物及びその混合物が好ましく例示できる。なお、下式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。
【0072】
【化14】

【0073】
本発明に用いることができるアルカリ可溶性樹脂としては、上記重合性モノマーの他に、他の重合性モノマーを共重合させて得られる高分子化合物であることが好ましい。この場合の共重合比としては、フェノール性水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、スルホンアミド基、活性イミド基等の官能基を有するモノマーのようなアルカリ可溶性を付与するモノマーを10モル%以上含むことが好ましく、20モル%以上含むものがより好ましい。アルカリ可溶性を付与するモノマーの共重合成分が10モル%以上であると、アルカリ可溶性が十分得られ、また、現像性に優れる。
【0074】
使用可能な他の重合性モノマーとしては、下記に挙げる化合物を例示することができる。
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、等のアルキルアクリレートやアルキルメタクリレート。2−ヒドロキシエチルアクリレート又は2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の脂肪族水酸基を有するアクリル酸エステル類、及びメタクリル酸エステル類。アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、等のアクリルアミド若しくはメタクリルアミド。ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルブチレート、安息香酸ビニル等のビニルエステル類。スチレン、α−メチルスチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン類。N−ビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のその他の窒素原子含有モノマー。N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−2−メチルフェニルマレイミド、N−2,6−ジエチルフェニルマレイミド、N−2−クロロフェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド、等のマレイミド類。
これらの他のエチレン性不飽和モノマーのうち、好適に使用されるのは、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、マレイミド類、(メタ)アクリロニトリルである。
【0075】
また、アルカリ可溶性樹脂としては、上述したようにノボラック樹脂が好ましく挙げられる。
【0076】
前記水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂は、質量平均分子量が2,000以上、かつ数平均分子量が500以上のものが好ましく、質量平均分子量が5,000〜300,000で、かつ数平均分子量が800〜250,000であることがより好ましい。また、前記アルカリ可溶性樹脂の分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であることが好ましい。
本発明の画像記録材料の上層におけるアルカリ可溶性樹脂は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
本発明における上層の全固形分中に対するアルカリ可溶性樹脂の含有量は、全固形分中、2.0〜99.5質量%であることが好ましく、10.0〜99.0質量%であることがより好ましく、20.0〜90.0質量%であることが更に好ましい。アルカリ可溶性樹脂の添加量が2.0質量%以上であると記録層(感光層)の耐久性に優れ、また、99.5質量%以下であると、感度、及び、耐久性の両方に優れる。
【0077】
(酸発生剤)
画像記録層の上層には、感度向上の観点から、酸発生剤を含有することが好ましい。
本発明において酸発生剤とは、光又は熱により酸を発生する化合物であり、赤外線の照射や、100℃以上の加熱によって分解し酸を発生する化合物を指す。発生する酸としては、スルホン酸、塩酸等のpKaが2以下の強酸であることが好ましい。この酸発生剤から発生した酸が触媒として機能し、前記酸分解性基における化学結合が開裂して酸基となり、上層のアルカリ水溶液に対する溶解性がより向上するものである。
【0078】
本発明において好適に用いられる酸発生剤としては、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩等のオニウム塩が挙げられる。具体的には、US4,708,925号や特開平7−20629号に記載されている化合物を挙げることができる。特に、スルホン酸イオンを対イオンとするヨードニウム塩、スルホニウム塩、ジアゾニウム塩が好ましい。ジアゾニウム塩としては、米国特許第3,867,147号記載のジアゾニウム化合物、米国特許第2,632,703号明細書記載のジアゾニウム化合物や特開平1−102456号及び特開平1−102457号の各公報に記載されているジアゾ樹脂も好ましい。また、米国特許第5,135,838号や米国特許第5,200,544号に記載されているベンジルスルホナート類も好ましい。さらに、特開平2−100054号、特開平2−100055号及び特願平8−9444号に記載されている活性スルホン酸エステルやジスルホニル化合物類も好ましい。他にも、特開平7−271029号に記載されている、ハロアルキル置換されたS−トリアジン類も好ましい。
さらに、前記特開平8−220752号公報において、「酸前駆体」として記載されている化合物、或いは、特開平9−171254号号公報において「(a)活性光線の照射により酸を発生し得る化合物」として記載されている化合物なども本発明の酸発生剤として適用しうる。
【0079】
なかでも、感度と安定性の観点から、酸発生剤としてオニウム塩化合物を用いることが好ましい。以下、オニウム塩化合物について説明する。
本発明において好適に用い得るオニウム塩化合物としては、赤外線露光、及び、露光により赤外線吸収剤から発生する熱エネルギーにより分解して酸を発生する化合物として知られる化合物を挙げることができる。本発明に好適なオニウム塩化合物としては、感度の観点から、公知の熱重合開始剤や結合解離エネルギーの小さな結合を有する、以下に述べるオニウム塩構造を有するものを挙げることができる。
本発明において好適に用いられるオニウム塩としては、公知のジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、アジニウム塩等が挙げられ、なかでも、トリアリールスルホニウム、又は、ジアリールヨードニウムのスルホン酸塩、カルボン酸塩、BF、PF、ClOなどが好ましい。
アジニウム塩化合物の具体例としては、特開2008−195018公報の段落番号〔0047〕〜〔0056〕に記載の化合物を挙げることができる。また、特開昭63−138345号、特開昭63−142345号、特開昭63−142346号、特開昭63−143537号ならびに特公昭46−42363号の各公報に記載のN−O結合を有する化合物群もまた、本発明における酸発生剤として好適に用いられる。
酸発生剤を上層に添加する場合の、好ましい添加量は、上層の全固形分に対し0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜40質量%、より好ましくは0.5〜30質量%の範囲である。添加量が上記範囲において、酸発生剤添加の効果である感度の向上が見られるとともに、非画像部における残膜の発生が抑制される。
【0080】
(酸増殖剤)
本発明における上層には、酸増殖剤を添加してもよい。
本発明における酸増殖剤とは、比較的に強い酸の残基で置換された化合物であって、酸触媒の存在下で容易に脱離して新たに酸を発生する化合物である。すなわち、酸触媒反応によって分解し,再び酸(以下、一般式でZOHと記す)を発生する。1反応で1つ以上の酸が増えており、反応の進行に伴って加速的に酸濃度が増加することにより、飛躍的に感度が向上する。この発生する酸の強度は,酸解離定数(pKa)として3以下であり、さらに2以下であることが好ましい。これよりも弱い酸であると,酸触媒による脱離反応を引き起こすことができない。
このような酸触媒に使用される酸としては、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、フェニルスルホン酸等が挙げられる。
【0081】
酸増殖剤は、WO95/29968号、WO98/24000号、特開平8−305262号、特開平9−34106号、特開平8−248561号、特表平8−503082号、米国特許第5,445,917号、特表平8−503081号、米国特許第5,534,393号、米国特許第5,395,736号、米国特許第5,741,630号、米国特許第5,334,489号、米国特許第5,582,956号、米国特許第5,578,424号、米国特許第5,453,345号、米国特許第5,445,917号、欧州特許第665,960号、欧州特許第757,628号、欧州特許第665,961号、米国特許第5,667,943号、特開平10−1598号等に記載の酸増殖剤を1種、或いは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0082】
酸増殖剤を上層中に添加する場合の添加量としては、固形分換算で、0.01〜20質量%,好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%の範囲である。酸増殖剤の添加量が上記範囲において、酸増殖剤を添加する効果が充分に得られ、感度向上が達成されるとともに、画像部の膜強度低下が抑制され、特定ポリウレタンに起因する優れた膜強度が維持される。
【0083】
(その他の添加剤)
前記下層及び上層を形成するにあたっては、上記の必須成分の他、本発明の効果を損なわない限りにおいて、更に必要に応じて、種々の添加剤を添加することができる。以下に挙げる添加剤は、下層のみに添加してもよいし、上層のみに添加してもよいし、両方の層に添加してもよい。
【0084】
(現像促進剤)
前記上層及び/又は下層には、感度を向上させる目的で、酸無水物類、フェノール類、有機酸類を添加してもよい。
酸無水物類としては環状酸無水物が好ましく、具体的に環状酸無水物としては、米国特許第4,115,128号明細書に記載されている無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドオキシテトラヒドロ無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸、α−フェニル無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸などが使用できる。非環状の酸無水物としては、無水酢酸などが挙げられる。
フェノール類としては、ビスフェノールA、2,2’−ビスヒドロキシスルホン、p−ニトロフェノール、p−エトキシフェノール、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’,4”−トリヒドロキシトリフェニルメタン、4,4’,3”,4”−テトラヒドロキシ−3,5,3’,5’−テトラメチルトリフェニルメタンなどが挙げられる。
有機酸類としては、特開昭60−88942号公報、特開平2−96755号公報などに記載されており、具体的には、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチル硫酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、リン酸フェニル、リン酸ジフェニル、安息香酸、イソフタル酸、アジピン酸、p−トルイル酸、3,4−ジメトキシ安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エルカ酸、ラウリン酸、n−ウンデカン酸、アスコルビン酸などが挙げられる。
上記の酸無水物、フェノール類及び有機酸類の下層又は上層の全固形分に占める割合は、0.05〜20質量%が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましく、0.1〜10質量%が特に好ましい。
【0085】
(その他の界面活性剤)
上層及び/又は下層には、塗布性を良化するため、上記のほか、特開昭62−170950号公報、特開平11−288093号公報、特開2003−57820号公報に記載されているようなフッ素含有のモノマー共重合体を添加することができる。
その他の界面活性剤の、該界面活性剤を含む層の全固形分に占める割合は、0.01〜15質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましく、0.05〜2.0質量%が更に好ましい。
【0086】
(焼出し剤/着色剤)
上層及び/又は下層には、露光による加熱後直ちに可視像を得るための焼き出し剤や、画像着色剤としての染料や顔料を加えることができる。
焼出し剤及び着色剤としては、例えば、特開2009−229917号公報の段落番号〔0122〕〜〔0123〕に詳細に記載され、ここに記載の化合物を本発明にも適用しうる。
これらの染料は、下層又は上層の全固形分に対し、0.01〜10質量%の割合で添加することが好ましく、0.1〜3質量%の割合で添加することがより好ましい。
【0087】
(可塑剤)
上層及び/又は下層には、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤を添加してもよい。例えば、ブチルフタリル、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸又はメタクリル酸のオリゴマー及びポリマー等が用いられる。
これらの可塑剤は、下層又は上層の全固形分に対し、0.5〜10質量%の割合で添加することが好ましく、1.0〜5質量%の割合で添加することがより好ましい。
【0088】
(ワックス剤)
上層には、キズに対する抵抗性を付与する目的で、表面の静摩擦係数を低下させる化合物を添加することもできる。具体的には、米国特許第6,117,913号明細書、特開2003−149799号公報、特開2003−302750号公報、又は、特開2004−12770号公報に記載されているような、長鎖アルキルカルボン酸のエステルを有する化合物などを挙げることができる。
添加量として好ましいのは、上層中に占める割合が0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。
【0089】
<下層及び上層の形成>
本発明の平版印刷版原版における上層及び下層は、通常、前記各成分を溶剤に溶かして、適当な支持体上に塗布することにより形成することができる。
ここで使用する溶剤としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、トルエン等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独又は混合して使用される。
【0090】
なお、下層及び上層は、原則的に2つの層を分離して形成することが好ましい。
2つの層を分離して形成する方法としては、例えば、下層に含まれる成分と、上層に含まれる成分との溶剤溶解性の差を利用する方法が挙げられる。
なお、2層を分離して形成する他の手法として上層を塗布した後、急速に溶剤を乾燥、除去さる方法等が挙げられるが、この方法を併用することで、層間の分離が一層良好に行われることになる。
以下、これらの方法について詳述するが、2つの層を分離して塗布する方法はこれらに限定されるものではない。
【0091】
下層に含まれる成分と上層に含まれる成分との溶剤溶解性の差を利用する方法としては、上層用塗布液を塗布する際に、下層に含まれる成分のいずれもが不溶な溶剤系を用いるものである。これにより、二層塗布を行っても、各層を明確に分離して塗膜にすることが可能になる。例えば、下層成分として、上層成分であるアルカリ可溶性樹脂を溶解するメチルエチルケトンや1−メトキシ−2−プロパノール等の溶剤に不溶な成分を選択し、該下層成分を溶解する溶剤系を用いて下層を塗布・乾燥し、その後、アルカリ可溶性樹脂を主体とする上層をメチルエチルケトンや1−メトキシ−2−プロパノール等で溶解し、塗布・乾燥することにより二層化が可能になる。
【0092】
次に、2層目(上層)を塗布後に、極めて速く溶剤を乾燥させる方法としては、ウェブの走行方向に対してほぼ直角に設置したスリットノズルより高圧エアーを吹きつけることや、蒸気等の加熱媒体を内部に供給されたロール(加熱ロール)よりウェブの下面から伝導熱として熱エネルギーを与えること、あるいはそれらを組み合わせることにより達成できる。
【0093】
本発明の平版印刷版原版の支持体上に塗布される下層成分の乾燥後の塗布量は、0.5〜4.0g/mの範囲にあることが好ましく、0.6〜2.5g/mの範囲にあることがより好ましい。0.5g/m以上であると、耐刷性に優れ、4.0g/m以下であると、画像再現性及び感度に優れる。
また、上層成分の乾燥後の塗布量は、0.05〜1.0g/mの範囲にあることが好ましく、0.08〜0.7g/mの範囲であることがより好ましい。0.05g/m以上であると、現像ラチチュード、及び、耐傷性に優れ、1.0g/m以下であると、感度に優れる。
下層及び上層を合わせた乾燥後の塗布量としては、0.6〜4.0g/mの範囲にあることが好ましく、0.7〜2.5g/mの範囲にあることがより好ましい。0.6g/m以上であると、耐刷性に優れ、4.0g/m以下であると、画像再現性及び感度に優れる。
【0094】
<支持体>
本発明の平版印刷版原版に使用される支持体としては、ポリエステルフィルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸度安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板は特に好ましい。好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板であり、更にアルミニウムがラミネート又は蒸着されたプラスチックフィルムでもよい。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがある。合金中の異元素の含有量は10質量%以下であることが好ましい。
本発明において特に好適なアルミニウムは、純アルミニウムであるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。
このように本発明に適用されるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、従来より公知公用の素材のアルミニウム板を適宜に利用することができる。本発明で用いられるアルミニウム板の厚みは、0.1〜0.6mmであることが好ましく、0.15〜0.4mmであることがより好ましく、0.2〜0.3mmであることが特に好ましい。
【0095】
このようなアルミニウム板には、必要に応じて粗面化処理、陽極酸化処理などの表面処理を行ってもよい。アルミニウム支持体の表面処理については、例えば、特開2009−175195号公報の〔0167〕〜〔0169〕に詳細に記載されるような、界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ性水溶液などによる脱脂処理、表面の粗面化処理、陽極酸化処理などが適宜、施される。
陽極酸化処理を施されたアルミニウム表面は、必要により親水化処理が施される。
親水化処理としては、2009−175195号公報の〔0169〕に開示されている如き、アルカリ金属シリケート(例えばケイ酸ナトリウム水溶液)法、フッ化ジルコン酸カリウム或いは、ポリビニルホスホン酸で処理する方法などが用いられる。
【0096】
<下塗層>
本発明においては、必要に応じて支持体と下層との間に下塗層を設けることができる。
下塗層成分としては、種々の有機化合物が用いられ、例えば、カルボキシメチルセルロース、デキストリン等のアミノ基を有するホスホン酸類、有機ホスホン酸、有機リン酸、有機ホスフィン酸、アミノ酸類、並びに、ヒドロキシ基を有するアミンの塩酸塩等が好ましく挙げられる。また、これら下塗層成分は、1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。下塗層に使用される化合物の詳細、下塗層の形成方法は、特開2009−175195号公報の段落番号〔0171〕〜〔0172〕に記載され、これらの記載は本発明にも適用される。
有機下塗層の被覆量は、2〜200mg/mであることが好ましく、5〜100mg/mであることがより好ましい。被覆量が上記範囲であると、十分な耐刷性能が得られる。
【0097】
<バックコート層>
本発明の平版印刷版原版の支持体裏面には、必要に応じてバックコート層が設けられる。かかるバックコート層としては、特開平5−45885号公報記載の有機高分子化合物及び特開平6−35174号公報記載の有機又は無機金属化合物を加水分解及び重縮合させて得られる金属酸化物からなる被覆層が好ましく用いられる。これらの被覆層のうち、Si(OCH、Si(OC、Si(OC、Si(OCなどのケイ素のアルコキシ化合物が安価で入手し易く、それから得られる金属酸化物の被覆層が耐現像液に優れており特に好ましい。
上記のようにして作製された平版印刷版原版は、画像様に露光され、その後、現像処理を施される。
【0098】
<平版印刷版の製版方法>
本発明の平版印刷版の作製方法は、前記本発明の赤外線感応性ポジ型平版印刷版原版を赤外線により画像様に露光する露光工程と、pH11.0〜13.5(好ましくは12.0〜13.5、より好ましくは12.5〜13.5)のアルカリ水溶液を用いて現像する現像工程と、をこの順で含むことを特徴とする。
本発明の平版印刷版の作製方法によれば、焼きだめ性が良好となり、得られた平版印刷版は、非画像部の残膜に起因する汚れの発生がなく、画像部の強度、耐久性に優れる。
以下、本発明の製版方法の各工程について詳細に説明する。
【0099】
<露光工程>
本発明の平版印刷版の製版方法は、本発明の赤外線感応性ポジ型平版印刷版原版を画像様に露光する露光工程を含む。
本発明の平版印刷版原版の画像露光に用いられる活性光線の光源としては、近赤外から赤外領域に発光波長を持つ光源が好ましく、固体レーザ、半導体レーザがより好ましい。中でも、本発明においては、波長750〜1,400nmの赤外線を放射する固体レーザ又は半導体レーザにより画像露光されることが特に好ましい。
レーザの出力は、100mW以上が好ましく、露光時間を短縮するため、マルチビームレーザデバイスを用いることが好ましい。また、1画素あたりの露光時間は20μ秒以内であることが好ましい。
平版印刷版原版に照射されるエネルギーは、10〜300mJ/cmであることが好
ましい。上記範囲であると、硬化が十分に進行し、また、レーザーアブレーションを抑制し、画像が損傷を防ぐことができる。
【0100】
本発明における露光は、光源の光ビームをオーバーラップさせて露光することができる。オーバーラップとは、副走査ピッチ幅がビーム径より小さいことをいう。オーバーラップは、例えば、ビーム径をビーム強度の半値幅(FWHM)で表したとき、FWHM/副走査ピッチ幅(オーバーラップ係数)で定量的に表現することができる。本発明ではこのオーバーラップ係数が、0.1以上であることが好ましい。
【0101】
本発明に使用することができる露光装置の光源の走査方式は、特に限定はなく、円筒外面走査方式、円筒内面走査方式、平面走査方式などを用いることができる。また、光源のチャンネルは単チャンネルでもマルチチャンネルでもよいが、円筒外面方式の場合にはマルチチャンネルが好ましく用いられる。
【0102】
<現像工程>
・現像液
本発明の平版印刷版の製版方法はアルカリ水溶液を用いて現像する現像工程を含む。現像工程に使用されるアルカリ水溶液(以下、「現像液」ともいう。)は、pH11.0〜13.5(好ましくは12.0〜13.5、より好ましくは12.5〜13.5)のアルカリ水溶液である。なお、ここでのpHは室温(20℃)においてHORIBA社製、F−51(商品名)で測定した値で定義する。
【0103】
本発明においては、高いpHの現像液を用いたとしても、前記特定の界面活性剤を特定の高分子化合物と組み合わせて感光層中に適用したため、高安定処理性を実現することができる。
これについてより具体的にいうと、自動現像機(自現機)は電導度にてアルカリ濃度を制御するが、アルカリ濃度を一定に保持すると、ポリウレタンバインダーの現像に必須な界面活性剤濃度が次第に増えていったり/減っていったりしてしまう。つまり現像処理の安定性に欠ける。
これに対し本発明では、あらかじめ、平版印刷版原版の画像記録層の中に界面活性剤を仕込んでおり、アルカリ濃度のみで現像液を管理しても界面活性剤の濃度は初期から一定で保持されるという利点を有する。
【0104】
前記現像液のアルカリ性を呈する成分としては、リチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられ、ナトリウムが特に好ましい。これらの炭酸塩を用いることができる。これらは単独でも、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
また、前記現像液は、界面活性剤を含むことが好ましく、アニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を少なくとも含むことがより好ましい。界面活性剤は処理性の向上に寄与する。界面活性剤は平版印刷版原版の画像記録層に含まれる界面活性剤と同一のものが好ましい。このような組合せとすることにより、画像記録層の界面活性剤と現像液の界面活性剤とが相互に作用して、一層良好な現像性および安定性の実現に寄与する。
【0106】
前記現像液に用いられる界面活性剤は、アニオン性、ノニオン性、カチオン性、及び、両性の界面活性剤のいずれも用いることができるが、既述のように、アニオン性、両性(ベタイン性)の界面活性剤が好ましい。
本発明の現像液に用いられるアニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム類、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ヒマシ油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。これらの中でも、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0107】
本発明の現像液に用いられるノニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール型の高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、アルキルナフトールエチレンオキサイド付加物、フェノールエチレンオキサイド付加物、ナフトールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ジメチルシロキサン−エチレンオキサイドブロックコポリマー、ジメチルシロキサン−(プロピレンオキサイド−エチレンオキサイド)ブロックコポリマー等や、多価アルコール型のグリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。この中でも、芳香環とエチレンオキサイド鎖を有するものが好ましく、アルキル置換又は無置換のフェノールエチレンオキサイド付加物又は、アルキル置換又は無置換のナフトールエチレンオキサイド付加物がより好ましい。
本発明の現像液に用いられる両性界面活性剤としては、特に限定されないが、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、2−アルキル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインやN−テトラデシル−N,N−ベタイン型等が挙げられる。
【0108】
前記現像液に用いられる界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が好ましく、スルホン酸又はスルホン酸塩を含有するアニオン性界面活性剤が特に好ましい。
界面活性剤は、単独又は組み合わせて使用することができる。
界面活性剤の現像液中における含有量は、0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。
【0109】
・現像処理
現像の温度は、現像可能であれば特に制限はないが、60℃以下であることが好ましく、15〜40℃であることがより好ましい。自動現像機を用いる現像処理においては、処理量に応じて現像液が疲労してくることがあるので、補充液又は新鮮な現像液を用いて処理能力を回復させてもよい。現像及び現像後の処理の一例としては、アルカリ現像を行い、後水洗工程でアルカリを除去し、ガム引き工程でガム処理を行い、乾燥工程で乾燥する方法が例示できる。また、他の例としては、炭酸イオン、炭酸水素イオン及び界面活性剤を含有する水溶液を用いることにより、前水洗、現像及びガム引きを同時に行う方法が好ましく例示できる。よって、前水洗工程は特に行わなくともよく、一液を用いるだけで、更には一浴で前水洗、現像及びガム引きを行ったのち、乾燥工程を行うことが好ましい。現像の後は、スクイズローラ等を用いて余剰の現像液を除去してから乾燥を行うことが好ましい。
【0110】
現像工程は、擦り部材を備えた自動処理機により好適に実施することができる。自動処理機としては、例えば、画像露光後の平版印刷版原版を搬送しながら擦り処理を行う、特開平2−220061号公報、特開昭60−59351号公報に記載の自動処理機や、シリンダー上にセットされた画像露光後の平版印刷版原版を、シリンダーを回転させながら擦り処理を行う、米国特許5148746号、同5568768号、英国特許2297719号に記載の自動処理機等が挙げられる。中でも、擦り部材として、回転ブラシロールを用いる自動処理機が特に好ましい。
【0111】
現像工程の後、連続的又は不連続的に乾燥工程を設けることが好ましい。乾燥は熱風、赤外線、遠赤外線等によって行う。
本発明の平版印刷版の作製方法において好適に用いられる自動処理機としては、現像部と乾燥部とを有する装置が用いられ、平版印刷版原版に対して、現像槽で、現像とガム引きとが行なわれ、その後、乾燥部で乾燥されて平版印刷版が得られる。
【0112】
また、耐刷性等の向上を目的として、現像後の印刷版を非常に強い条件で加熱することもできる。加熱温度は、通常200〜500℃の範囲である。温度が低いと十分な画像強化作用が得られず、高すぎる場合には支持体の劣化、画像部の熱分解といった問題を生じる恐れがある。
このようにして得られた平版印刷版はオフセット印刷機に掛けられ、多数枚の印刷に好適に用いられる。
【実施例】
【0113】
以下、実施例によって本発明をより詳しく説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0114】
[合成例1]
濃縮器及び攪拌機を備えた容量500mlの丸底三首フラスコ内に2.7gの4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、14.5gのトルエン−2,4−ジイソシアネート、7.0gのネオペンチルグリコール、35.8gの2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、及び、280gの3−ペンタノンを導入した。0.3gのジブチル錫ジドデカノエートを添加し、反応混合物を撹拌しながら80℃に加熱した。反応を80℃で6時間継続した。こうしてポリウレタン(1)を得た。GPCによる質量平均分子量は24000であった。酸価は125であった。
【0115】
[合成例2−9]
表1及び下記化学式に示すジイソシアネート及びジオールを使用する以外は合成例1と同様にしてポリウレタン(2)から(9)を得た。
【表1】

【0116】
【化15】

【0117】
[実施例1、比較例1]
<支持体の作製>
厚さ0.3mmのJIS A 1050アルミニウム板をパミス−水懸濁液を研磨剤として回転ナイロンブラシで表面を砂目立てした。このときの表面粗さ(中心線平均粗さ)は0.5μmであった。水洗後、10%苛性ソーダ水溶液を70℃に温めた溶液中に浸漬して、アルミニウムの溶解量が6g/mになるようにエッチングした。水洗後、30%硝酸水溶液に1分間浸漬して中和し、十分水洗した。その後に、0.7%硝酸水溶液中で、陽極時電圧13ボルト、陰極時電圧6ボルトの矩形波交番波形電圧を用いて20秒間電解粗面化を行い、20%硫酸の50℃溶液中に浸漬して表面を洗浄した後、水洗した。粗面化後のアルミニウムシートに、20% 硫酸水溶液中で直流を用いて多孔性陽極酸化皮膜形成処理を行った。電流密度5A/dmで電解を行い、電解時間を調節して、表面に質量4.0g/mの陽極酸化皮膜を有する基板を作製した。この基板を100℃1気圧において飽和した蒸気チャンバーの中で10秒間処理して封孔率60%の基板(b)を作成した。基板(b)をケイ酸ナトリウム2.5質量%水溶液で30℃10秒間処理して表面親水化を行った後、下記下塗り液1を塗布し、塗膜を80℃で15秒間乾燥し平版印刷版用支持体[B]を得た。乾燥後の塗膜の被覆量は15mg/mであった。
【0118】
<下塗り中間層の形成>
上述の様に作製された支持体〔B〕上に、下記の中間層形成用塗布液を塗布した後、80℃で15秒間乾燥し、中間層を設けた。乾燥後の被覆量は、15mg/mであった。
(下塗り液1)
・分子量2.8万の下記共重合体 0.5g
・メタノール 100g
・水 1g
【0119】
【化16】

【0120】
<記録層の形成>
得られた下塗り済の支持体〔B〕に、下記組成の上層感光液1を、ワイヤーバーで塗布したのち、150℃の乾燥オーブンで40秒間乾燥して塗布量を1.3g/mとなるようにし、下層を設けた。下層を設けた後、下記組成の下層感光液1をワイヤーバーで塗布し上層を設けた。塗布後150℃40秒間の乾燥を行い、下層と上層を合わせた塗布量が1.7g/mとなる赤外線レーザ用感光性平版印刷版原版を得た。この平版印刷版原版は図1に示した重層構造を有するものである。
【0121】
(下層用感光液L1) NVK(ノボラック)樹脂なし
・N−フェニルマレイミド/メタクリル酸/メタクリルアミド共重合体
(下記ポリマー1、質量比:59/15/25、Mw:50,000)
5.21g
・赤外線吸収剤(前記シアニン染料A) 0.94g
・クリスタルバイオレット(保土ヶ谷化学(株)製) 0.08g
・メチルエチルケトン 61.00g
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 14.00g
・γ−ブチロラクトン 9.40g
・水 0.03g
【0122】
(上層用感光液U1) IR染料なし/NVK樹脂なし
・ポリウレタン(1)
(25%、3−ペンタノン溶液) 30.00g
・エチルバイオレット 0.03g
・表2記載の界面活性剤 表2記載の量(質量%で表示)
・フッ素系界面活性剤:メガファックF−176(DIC(株)製)
0.05g
・3−ペンタノン 62.40g
・プロピレングリコールモノメチルエーテル−2−アセテート 7.37g
【0123】
得られた平版印刷版原版について以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0124】
<ランニングカスの評価>
前記の現像開始液電導度値40mS/cmと平衡電導度値45mS/cmを自動現像機の制御部にインプットした
前記自動現像機で、1日当たり平均50枚で1ヶ月間、前記ランニング用プレートを処理した。この間、露光は、Creo社製Trendsetter(商品名)にて、ビーム強度9w、ドラム回転速度150rpmで全面を露光しておこなった。
1ヶ月後に、現像タンクから現像液を抜いて状況を目視で観察したところ、現像カスは見られなかった。
AA:現像タンクから現像液を抜き目視で確認して現像カスがまったくない、または
ほとんどない状態
B :現像タンクから現像液を抜き目視で確認して現像カスが容易に認められるレベル
C :現像タンクから現像液を抜かずとも通版すると版に現像カスが付着するレベル
【0125】
<膜減りの評価>
画像部の現像による膜減りの評価
未露光の平版印刷版原版をその後、富士フイルム(株)製自動現像機LP−940Hに、富士フイルム(株)製現像液DT−2(1:8で希釈したもの)及び富士フイルム(株)製フィニッシャーFG−1(1:1で希釈したもの)を仕込み、現像液温度32℃、現像時間12秒で現像処理した。この時の現像液の電導度は43mS/cmであった。
現像前後の感光層の光学濃度を測定し、現像前の濃度からアルミ支持体だけの濃度を差し引いたものを100%としたときの相対濃度を現像膜減りとして表した。
AA:90%以上
A :85%以上90%未満
B :80%以上85%未満
C :80%未満
【0126】
<耐刷性の評価>
平版印刷版原版をCreo社製Trendsetter(商品名)にて、ビーム強度9w、ドラム回転速度150rpmで、テストパターンを画像状に描き込みを行った。その後、富士フイルム(株)製現像液DT−2(商品名)(希釈して、電導度43mS/cmとしたもの)を仕込んだ富士写真フイルム(株)製PSプロセッサーLP940Hを用い、現像温度30℃、現像時間12秒で現像を行った。これを、小森コーポレーション(株)製印刷機リスロン(商品名)を用いて連続して印刷した。この際、どれだけの枚数が充分なインキ濃度を保って印刷できるかを目視にて測定し、耐刷性を評価した。なお、耐刷性は、比較例1−1の耐刷数を1.0とした際の相対値として示した。
AA:90%以上
A :85%以上90%未満
B :80%以上85%未満
C :80%未満
<廃液濃縮適性評価>
ランニングを行った後の現像廃液20Lを富士フイルムグラフィックシステムズ株式会社製廃液削減装置XR−2000を使用して、消泡剤に富士フイルム株式会社製AF−Aを水で3%に希釈したものを使用して、濃縮を行った。
濃縮率と蒸留再生水のBOD値より評価した。
AA:濃縮率4倍以上、かつ、BOD値300mg/L未満
A :濃縮率3倍以上4倍未満、かつ、BOD値300mg/L未満
B :濃縮率2倍以上3倍未満、かつ、BOD値300mg/L未満
C :濃縮率1倍以上2倍未満、かつ、BOD値300mg/L未満
D :濃縮率1倍以上2倍未満、かつ、BOD値300mg/L以上
【0127】
(現像液)
・D ソルビット 2.5 質量%
・水酸化ナトリウム 0.85質量%
・ポリエチレングリコールラウリルエーテル 0.5 質量%
(質量平均分子量1,000)
・水 96.15質量%
【0128】
【表2】

・ソフタゾリンLPB−R:商品名、アミドベタイン型の両性界面活性剤、
川研ファインケミカル株式会社製
・ソフタゾリンLAO:商品名、アミドアミンオキシド型両性界面活性剤、
川研ファインケミカル株式会社製
・ニューコールB4SN:商品名、アニオエン性界面活性剤、
日本乳化剤株式会社製
R−O−(CHCHO)−SONa (R:アリール基、n:整数)
・ペレックスNBL:商品名、アニオン性界面活性剤、花王株式会社製
アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、
*1:界面活性剤を含む記録層の固形分総和に対する含有率である。以下の表についても同じ。
【0129】
上表から明らかなように、本発明の平版印刷版原版においては、比較例のものに比し、ランニグカスが大幅に改善され、膜減りもなく十分な性能を有し、しかも高い耐刷性を示した。この結果より、本発明の両性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤を含有する記録層をもつ平版印刷版原版は、高い耐刷性とともに、良好な現像性を実現しすることが分かる。
【0130】
[実施例2、比較例2]
使用するウレタンポリマーをポリウレタン(1)からポリウレタン(2)〜(9)にそれぞれ変更した以外、上記実施例1と同様にして、ランニングカス、膜減り、耐刷性について評価を行った。その結果、実施例1と同様に、いずれのウレタンポリマーを用いたものも、本発明に係る両性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤を使用した平版印刷版原版(実施例)は、これを用いないもの(比較例)に対して、良好な性能を発揮することを確認した。
【0131】
[実施例3、比較例3]
また、上記では特定のウレタンポリマーと両性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤とをともに上層に含有させる実施例を示したが、上表2に示した形態に変更したものでも、上記実施例1及び2と同様に本発明によれば高い効果を奏することを確認した。つまり、ランニングカス、膜減り、耐刷性について比較例に対し良好な結果を示し、本発明に係る両性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤を使用した平版印刷版原版(実施例)は、これを用いないもの(比較例)に対して、現像性と耐刷性との両立に関して良好な性能を発揮することが分かる。以下に、その結果をまとめて示す。なお、アニオン性もしくは両性界面活性剤の量はすべて10質量%として対比実験を行った。
【0132】
(下層用感光液L2) NVK樹脂あり
・前記ポリウレタン(1) 4.17g
・前記シアニン染料A 0.94g
・クリスタルバイオレット(保土ヶ谷化学(株)製) 0.08g
・m.p−クレゾールノボラック樹脂 1.04g
(m/p=6/4、Mw=3500)
・メチルエチルケトン 61.00g
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 14.00g
・γ−ブチロラクトン 9.40g
・水 0.03g
【0133】
(上層用感光液U2)IR染料あり/NVK樹脂なし
・ポリウレタン(1)
(25%、3−ペンタノン溶液) 30.00g
・前記シアニン染料A 0.15g
・エチルバイオレット 0.03g
・表2記載の界面活性剤 10質量%
・フッ素系界面活性剤:メガファックF−176(DIC(株)製)
0.05g
・3−ペンタノン 62.40g
・プロピレングリコールモノメチルエーテル−2−アセテート 7.37g
【0134】
(上層用感光液U3)IR染料あり/NVK樹脂あり
・ポリウレタン(1)
(25%、3−ペンタノン溶液) 24.00g
・前記シアニン染料A 0.15g
・エチルバイオレット 0.03g
・表2記載の界面活性剤 10質量%
・フッ素系界面活性剤:メガファックF−176(DIC(株)製)
0.05g
・m.p−クレゾールノボラック樹脂 1.50g
(m/p=6/4、Mw=3500)
・3−ペンタノン 62.40g
・プロピレングリコールモノメチルエーテル−2−アセテート 7.37g
【0135】
【表3】

【符号の説明】
【0136】
1 画像記録層
3 下塗り層
4 支持体
11 記録層上層
12 記録層下層
10 平版印刷版原版

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性表面を有する支持体上側に、下層及び上層をこの順に配設した記録層を有してなる赤外線感光性ポジ型平版印刷版原版であって、前記上層および/または下層が、特定のポリウレタン樹脂と、両性界面活性剤および/またはアニオン性界面活性剤についてこれを含む層の固形分の総量に対して1質量%超20質量%未満と、赤外線吸収剤とを、同じ層に、あるいはそれぞれ別々に層に含有することを特徴とする平版印刷版原版
【請求項2】
前記両性界面活性剤が下記一般式(I)〜(III)のいずれかで表わされるものであることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版原版。
【化1】

(一般式(I)〜(III)中、Rは炭素数6〜24のアルキル基もしくは特定の基を介するアルキル基を表す。R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表す。R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表す。ただし、R及びRの少なくとも一方は末端に酸性基もしくはその塩を有する。Lは炭素数1〜4の連結基を表す。Xはカルボン酸イオン、スルホン酸イオン、硫酸イオン、ホスホン酸イオン、またはリン酸イオンを表す。)
【請求項3】
前記アニオン性界面活性剤が下記一般式(IV)〜(VII)のいずれか表わされるものであることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版原版。
【化2】

(一般式(IV)〜(VII)中、R、Rは炭素数6〜24のアルキル基を表す。Lはフェニレン基又は単結合を表す。D、E、Fはスルホン酸イオンもしくはその塩、または硫酸イオンもしくはその塩を表す。Rは炭素数4〜18のアルキル基を表す。Lはフェニレン基またはナフチレン基を表す。Rはフェニル基またはナフチル基を表す。Lはポリアルキレンオキシ基を表す。Lはフェニレン基を表す。Gは酸素原子を表す。Lはフェニル基を表す。)
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂が、少なくとも下記式DI1〜DI4から選ばれるジイソシアネート化合物と下記式DO1〜DO5から選ばれるジオール化合物とを重合させてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【化3】

【請求項5】
前記界面活性剤を、前記ポリウレタン樹脂100質量部に対して1〜40質量部含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記支持体上の層として、順に、下塗り層と、記録層をなす下層及び上層とを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記ポリウレタン樹脂を記録層の上層に含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
前記両性界面活性剤を、前記ポリウレタン樹脂と同じ層に含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の平版印刷版原版の記録層を画像露光する露光工程、pH11.0〜13.5のアルカリ水溶液を用いて現像する現像工程、をこの順で含む平版印刷版の作製方法。
【請求項10】
前記アルカリ水溶液がアニオン性界面活性剤または両性界面活性剤を含むことを特徴とする請求項9に記載の平版印刷版の作製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−215707(P2012−215707A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81066(P2011−81066)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】