説明

平版印刷版用支持体、および平版印刷版原版

【課題】本発明は、平版印刷版としたときに放置払い性、インキ払い性、および耐刷性に優れ、かつ、優れた機上現像性を示す平版印刷版用原版を得ることができる、耐傷性に優れた平版印刷版用支持体およびその製造方法、並びに、平版印刷版用原版を提供することを目的とする。
【解決手段】アルミニウム板と、その上にアルミニウムの陽極酸化皮膜とを備え、前記陽極酸化皮膜中に前記アルミニウム板とは反対側の表面から深さ方向にのびるマイクロポアを有する平版印刷版用支持体であって、マイクロポアが所定の形状の大径孔部と、所定の形状の小径孔部とから構成される、平版印刷版用支持体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版用支持体、および平版印刷版原版に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷法は水と油が本質的に混じり合わないことを利用した印刷方式であり、これに使用される平版印刷版の印刷版面には、水を受容して油性インキを反撥する領域(以下、この領域を「非画像部」という。)と、水を反撥して油性インキを受容する領域(以下、この領域を「画像部」という。)とが形成される。
【0003】
平版印刷版に用いられる平版印刷版用アルミニウム支持体(以下、単に「平版印刷版用支持体」という。)は、その表面が非画像部を担うように使用されるため、親水性および保水性が優れていること、更にはその上に設けられる画像記録層との密着性が優れていること等の相反する種々の性能が要求される。支持体の親水性が低すぎると、印刷時に非画像部にインキが付着するようになり、ブランケット胴の汚れ、ひいてはいわゆる地汚れが発生する。また、支持体の保水性が低すぎると、印刷時に湿し水を多くしないとシャドー部のつまりが発生する。よって、いわゆる水幅が狭くなる。
【0004】
これらの性能の良好な平版印刷版用支持体を得るために、様々な検討がなされている。例えば、特許文献1においては、粗面化したアルミニウム板の表面を第1段階として陽極酸化処理した後、第2段階として第1段階の陽極酸化皮膜のマイクロポアよりもポア径が小さくなる条件にて再び陽極酸化処理することにより、平版印刷版用支持体を製造する方法が開示されている。該平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版は、インキ払いを劣化させずに、感光層との密着性を向上させ、ハイライトが飛ばず耐刷性に優れることが記載されている。なお、インキ払い性とは、非画像部についたインキが印刷に伴い払われていく時にインキが完全に取れるまでの損紙の枚数に関連する特性であり、損紙の枚数が少ないことをインキ払い性が良好であるという。
【0005】
一方、印刷するときには、印刷を一時停止する場合がある。この場合、平版印刷版は、版胴に取り付けられた状態で放置され、雰囲気中の汚染の影響などにより、非画像部が汚れてしまう。このため、印刷を一時停止して再開したときに、正常な印刷が行われるまで何枚か印刷する必要が生じてしまい、印刷用紙の無駄が生じるなどの不都合がある。この不都合は、塩酸を含む酸性溶液中で電気化学的粗面化が施された平版印刷版に、特に顕著であることが判明している。なお、以下では、印刷を一時停止して再開したときに生じる損紙の枚数を放置払い性として評価し、損紙の枚数が少ないことを放置払い性が良好であるという。
【0006】
さらに、近年進展が目覚ましいコンピュータ・ツウ・プレート(CTP)システムについては、多数の研究がなされている。中でも、一層の工程合理化と廃液処理問題の解決を目指すものとして、露光後、現像処理することなしにそのまま印刷機に装着して印刷できる平版印刷版原版が求められている。
【0007】
処理工程をなくす方法の一つに、露光済みの平版印刷版原版を印刷機の版胴に装着し、版胴を回転しながら湿し水とインキを供給することによって、平版印刷版原版の非画像部を除去する機上現像と呼ばれる方法がある。即ち、平版印刷版原版を露光後、そのまま印刷機に装着し、通常の印刷過程の中で現像処理が完了する方式である。このような機上現像に適した平版印刷版原版は、湿し水やインキ溶剤に可溶な画像記録層を有し、しかも、明室に置かれた印刷機上で現像されるのに適した明室取り扱い性を有することが必要とされる。なお、以下では、未露光部の印刷機上での機上現像が完了し、非画像部にインキが転写しない状態になるまでに要した印刷用紙の枚数を機上現像性として評価し、損紙の枚数が少ないことを機上現像性が良好であるという。
【0008】
なお、上述した特性を満足する平版印刷版原版を得るために、特許文献2〜5に記載されるような技術が開示されている。該文献中においては、上述した特許文献1と同じように、2段階の陽極酸化処理を施すことにより、平版印刷版用支持体を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−291657号公報
【特許文献2】特開2003−034090号公報
【特許文献3】特開2003−034091号公報
【特許文献4】特開2003−103951号公報
【特許文献5】特開2007−237397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、昨今の市場動向として、より生産性に優れ、かつ、印刷特性に優れた平版印刷版および平版印刷用原版が求められており、耐刷性、放置払い性、機上現像性、インキ払い性などの諸特性に関する要求レベルがより高まっている。
本発明者らが、特許文献1〜5に具体的に記載されている2段階の陽極酸化処理を施して得られる平版印刷版用支持体を使用した平版印刷版および平版印刷用原版の上記諸性能について検討を行ったところ、該諸特性は必ずしも昨今要求されるレベルを満足していないことを見出した。つまり、簡易印刷性能と高画質化との両立が必ずしも十分でなかった。さらに、平版印刷版用支持体の耐傷性についても、改良の必要があることを見出した。
【0011】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みて、平版印刷版としたときに放置払い性、インキ払い性、および耐刷性に優れ、かつ、優れた機上現像性を示す平版印刷版用原版を得ることができる、耐傷性に優れた平版印刷版用支持体およびその製造方法、並びに、平版印刷版用原版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、陽極酸化皮膜中のマイクロポアの形状を制御することにより、上記課題が解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)を提供する。
【0013】
(1) アルミニウム板と、その上にアルミニウムの陽極酸化皮膜とを備え、前記陽極酸化皮膜中に前記アルミニウム板とは反対側の表面から深さ方向にのびるマイクロポアを有する平版印刷版用支持体であって、
前記マイクロポアが、陽極酸化皮膜表面から深さ5〜60nm(深さA)の位置までのびる大径孔部と、前記大径孔部の底部と連通し、連通位置から深さ900〜2000nmの位置までのびる小径孔部とから構成され、
大径孔部の径が陽極酸化皮膜表面からアルミニウム板側に向かって漸増し、大径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径(表層平均径)よりも前記連通位置における大径孔部の平均径(底部平均径)が大きく、前記底部平均径が10〜60nmで、前記底部平均径と深さAとが(深さA/底部平均径)=0.1〜4.0の関係を満たし、
小径孔部の前記連通位置における平均径(小径孔部径)が0より大きく20nm未満であり、
前記底部平均径と前記小径孔部径との平均径の比(小径孔部径/底部平均径)が0.85以下であることを特徴とする平版印刷版用支持体。
【0014】
(2) 前記小径孔部の底部と前記アルミニウム板表面までの陽極酸化皮膜の厚みが20nm以上である(1)に記載の平版印刷版用支持体。
(3) 前記マイクロポアの密度が100〜3000個/μm2である、(1)または(2)に記載の平版印刷版用支持体。
【0015】
(4) アルミニウム板を陽極酸化する第1陽極酸化処理工程と、
前記第1陽極酸化処理工程で得られた陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板をさらに陽極酸化する第2陽極酸化処理工程とを備え、(1)〜(3)のいずれかに記載の平版印刷版用支持体を製造する、平版印刷版用支持体の製造方法。
(5) (1)〜(3)のいずれかに記載の平版印刷版用支持体上に、画像記録層を有することを特徴とする平版印刷版原版。
(6) 前記画像記録層が、露光により画像を形成し、非露光部が印刷インキおよび/または湿し水により除去可能となる画像記録層である(5)に記載の平版印刷版原版。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、平版印刷版としたときに放置払い性、インキ払い性、および耐刷性に優れ、かつ、優れた機上現像性を示す平版印刷版用原版を得ることができる、耐傷性に優れた平版印刷版用支持体およびその製造方法、並びに、平版印刷版用原版を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1(A)は本発明の平版印刷版用支持体の一実施形態の模式的断面図であり、図1(B)は他の実施形態の模式的断面図である。
【図2】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
【図3】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
【図4】本発明の平版印刷版用支持体の作製における機械粗面化処理に用いられるブラシグレイニングの工程の概念を示す側面図である。
【図5】本発明の平版印刷版用支持体の作製における陽極酸化処理に用いられる陽極酸化処理装置の概略図である。
【図6】自動現像処理機の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の平版印刷版用支持体、およびその製造方法について説明する。
本発明の平版印刷版用支持体は、アルミニウム板とその上に形成される陽極酸化皮膜とを備え、陽極酸化皮膜中のマイクロポアが、平均径の大きい大径孔部と平均径の小さい小径孔部とが深さ方向(皮膜の厚み方向)に沿って連結して構成される形状を有する。特に、本発明においては、大径孔部の形状(深さ、平均径など)を制御することにより、耐刷性、放置払い性、機上現像性、インキ払い性などの諸特性をより高いレベルで維持することできることを見出した。
【0019】
また、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法の好適態様としては、アルミニウム板を陽極酸化する第1陽極酸化処理工程と、第1陽極酸化処理工程で得られた陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板をさらに陽極酸化する第2陽極酸化処理工程とを備える。
なお、本発明においては、特に、陽極酸化処理工程において、使用される電解液の温度を制御することにより、所望の特性を示す平版印刷版用支持体を得ることができることを見出した。つまり、各処理工程での電解液の温度条件を制御することにより、第1陽極酸化処理で形成したマイクロポアを第2陽極酸化処理により開口することで高表面積化が可能であり、高表面積化されたマイクロポアは、その上部に形成される感光層との高い密着性を発揮すること見出した。
【0020】
<平版印刷版用支持体>
図1(A)は、本発明の平版印刷版用支持体の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す平版印刷版用支持体10は、アルミニウム板12とアルミニウムの陽極酸化皮膜14とをこの順で積層した積層構造を有する。陽極酸化皮膜14は、その表面からアルミニウム板12側に向かってのびるマイクロポア16を有し、マイクロポア16は大径孔部18と小径孔部20とから構成される。なお、ここではマイクロポアという用語は、陽極酸化皮膜中のポアを表す一般的に使われる用語であり、ポアのサイズを規定するものではない。
まず、アルミニウム板12および陽極酸化皮膜14について詳述する。
【0021】
<アルミニウム板>
本発明に用いられるアルミニウム板12(アルミニウム支持体)は、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属であり、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。純アルミニウム板の他、アルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板、またはアルミニウム(合金)がラミネートもしくは蒸着されたプラスチックフィルムもしくは紙の中から選ばれる。更に、特公昭48−18327号公報に記載されているようなポリエチレンテレフタレートフィルム上にアルミニウムシートが結合された複合体シートでもかまわない。
【0022】
以下の説明において、上記に挙げたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板をアルミニウム板12と総称する。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがあり、合金中の異元素の含有量は10質量%以下である。本発明では純アルミニウム板が好適であるが、完全に純粋なアルミニウムは製錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。このように本発明に適用されるアルミニウム板12は、その組成が特定されるものではなく、従来より公知公用の素材のもの、例えばJIS A 1050、JIS A 1100、JIS A 3103、JIS A 3005などを適宜利用することが出来る。
【0023】
また、本発明に用いられるアルミニウム板12は通常ウェブ状で連続走行させながら処理され、その幅は400mm〜2000mm程度、厚みはおよそ0.1mm〜0.6mm程度である。この幅や厚みは、印刷機の大きさ、印刷版の大きさおよびユーザーの希望により適宜変更することができる。
【0024】
アルミニウム板12には適宜後述の基板表面処理が施される。
【0025】
<陽極酸化皮膜>
陽極酸化皮膜14は、陽極酸化処理によってアルミニウム板12の表面に一般的に作製される、皮膜表面に略垂直であり、個々が均一に分布した極微細なマイクロポア16を有する陽極酸化アルミニウム皮膜を指す。該マイクロポア16は、アルミニウム板12とは反対側の陽極酸化皮膜表面から厚み方向(アルミニウム板12側)に沿ってのびる。
【0026】
陽極酸化皮膜14中のマイクロポア16は、陽極酸化皮膜表面から深さ5〜60nm(深さA:図1(A)参照)の位置までのびる大径孔部18と、該大径孔部18の底部と連通し、連通位置(連通位置Y)からさらに深さ900〜2000nmの位置までのびる小径孔部20とから構成されている。
以下に、大径孔部18と小径孔部20について詳述する。
【0027】
(大径孔部)
大径孔部18の径(内径)は、陽極酸化皮膜表面からアルミニウム板側に向かって漸増する。大径状部18の形状は、上記径の条件を満たしていれば特に制限されないが、略円錐状、略釣鐘状であることが好ましい。大径孔部18が上記構造をとることにより、該平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版の耐刷性、放置払い性、およびインキ払い性、並びに、該支持体を用いて得られる平版印刷版原版の機上現像性に優れる。
【0028】
大径孔部18の連通位置Yにおける平均径(底部平均径)は、陽極酸化皮膜表面における大径孔部18の平均径(表層平均径)よりも大きい。上記条件を満たせば、本発明の平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版の耐刷性、放置払い性、およびインキ払い性、並びに、該支持体を用いて得られる平版印刷版原版の機上現像性に優れる。なかでも、耐刷性がより優れる点で、底部平均径は表層平均径より5nm以上大きいことが好ましく、10nm以上大きいことがより好ましく、15nm以上大きいことが特に好ましい。なお、底部平均径と表層平均径との大きさの差の上限は特に制限されないが、製造上の制約より、50nm以下であることが好ましい。
底部平均径の大きさが表層平均径の大きさ以下であると、特に、インキ払いの点で劣る。
【0029】
大径孔部18の底部平均径は、10〜60nmである。該範囲であれば、該平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版の優れた放置払い性、インキ払い性、耐刷性、および該支持体を用いて得られる平版印刷版原版の優れた機上現像性が達成される。該平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版の耐刷性がより優れる点で、底部平均径は10〜50nmであることが好ましく、12〜50nmであることがより好ましく、20〜50nmであることがさらに好ましい。
底部平均径が10nm未満の場合、十分なアンカー効果が得られず、平版印刷版の耐刷性向上が得られない。また、底部平均径が60nmを超える場合、粗面化した砂目を壊してしまい、耐刷性や放置払い性、インキ払い性などの各種性能の向上が得られない。
【0030】
大径孔部18の表層平均径の大きさは、底部平均径と所定の関係を満たしていれば制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、10nm以上が好ましく、12〜40nmであることがより好ましく、14〜30nmであることがさらに好ましい。
【0031】
大径孔部18の表層平均径は、陽極酸化皮膜14表面を倍率50万倍のFE−TEMで観察し、マイクロポア(大径孔部)の径を60個(N=60)測定し、それらを平均した値である。
大径孔部18の底部平均径は、連通位置Yにおける陽極酸化皮膜14断面を倍率50万倍のFE−TEMで観察し、マイクロポア(大径孔部)の径を60個(N=60)測定し、それらを平均した値である。なお、陽極酸化皮膜の断面の測定方法は、公知の方法を適用できる(例えば、陽極酸化皮膜をFIB切削加工して、薄膜(約50nm)を作製し、陽極酸化皮膜14横断面の測定を行う。)。
なお、大径孔部18の開口部および底部の形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、開口部および底部の形状を、開口部の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの当該円の直径である。
【0032】
大径孔部18の底部は、陽極酸化皮膜表面から深さ5〜60nm(以後、深さAとも称する)に位置する。つまり、大径孔部18は、陽極酸化皮膜表面から深さ方向(陽極酸化皮膜の厚み方向)に5〜60nmのびる孔部である。該平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版の耐刷性、放置払い性、インク払い性、または、該支持体を用いて得られる平版印刷版原版の機上現像性がより優れる点で、深さは10〜50nmであることが好ましい。
深さが5nm未満の場合、十分なアンカー効果が得られず、平版印刷版の耐刷性向上が得られない、または、平版印刷版原版の機上現像性に劣る。深さが60nmを超える場合、平版印刷版の放置払い性と平版印刷版原版の機上現像性が劣る。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜14の断面(厚み方向の断面)の写真(15万倍)をとり、25個以上の大径孔部の深さを測定し、平均した値である。
【0033】
大径孔部18の底部平均径とその底部が位置する深さAとの比(深さA/底部平均径)は、0.1〜4.0の関係を満たす。該平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版の耐刷性、放置払い性、インキ払い性、および、該支持体を用いて得られる平版印刷版原版の機上現像性がより優れる点で、(深さA/底部平均径)は0.3以上3.0未満であることが好ましく、0.3以上2.5未満であることがより好ましい。
(深さA/底部平均径)が0.1未満の場合、平版印刷版の耐刷性向上が得られない。(深さA/底部平均径)が4.0を超える場合、平版印刷版の放置払い性、インキ払い性、または平版印刷版原版の機上現像性が劣る。
【0034】
(小径孔部)
小径孔部20は、図1(A)に示すように、大径孔部18の底部と連通して、連通位置Yよりさらに深さ方向(厚み方向)に延びる孔部である。ひとつの小径孔部20は、通常ひとつの大径孔部18と連通するが、2つ以上の小径孔部20がひとつの大径孔部18の底部と連通していてもよい。
小径孔部20の連通位置Yにおける平均径は0より大きく20nm未満である。放置払い性、インキ払い性、機上現像性の点で、平均径は15nm以下が好ましく、13nm以下がより好ましく、5〜10nmが特に好ましい。
平均径が20nm以上の場合、本発明の平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版の放置払い性、インキ払い性や、平版印刷版原版の機上現像性が劣る。
【0035】
小径孔部20の連通位置における平均径は、連通位置Yにおける陽極酸化皮膜14断面を倍率50万倍のFE−TEMで観察し、マイクロポア(小径孔部)の径を60個(N=60)測定し、それらを平均した値である。なお、陽極酸化皮膜の断面の測定方法は、公知の方法を適用できる(例えば、陽極酸化皮膜をFIB切削加工して、薄膜(約50nm)を作製し、陽極酸化皮膜14横断面の測定を行う。)。
なお、小径孔部の開口形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、開口部の形状を、開口部の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの当該円の直径である。
【0036】
小径孔部20の底部は、上記の大径孔部18との連通位置(上述した深さAに該当)からさらに深さ方向に900〜2000nmのびた場所に位置する。言い換えると、小径孔部20は、上記大径孔部18との連通位置Yからさらに深さ方向(厚み方向)にのびる孔部であり、小径孔部20の深さは900〜2000nmである。平版印刷版用支持体の耐傷性の観点から、底部は連通位置から900〜1500nmのびた場所に位置することが好ましい。
深さが900nm未満の場合、平版印刷版用支持体の耐傷性が劣る。深さが2000nmを超える場合、処理時間が長期化し、生産性および経済性に劣る。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜14の断面(厚み方向の断面)の写真(5万倍)をとり、25個以上の小径孔部の深さを測定し、平均した値である。
【0037】
小径孔部20の連通位置における平均径(小径孔部径)と大径孔部18の底部平均径との比(小径孔部径/底部平均径)は、0.85以下である。該比の下限としては0超であり、0.02〜0.85であることが好ましく、0.1〜0.70であることがより好ましい。上記範囲内であれば、耐刷性、放置払い性、インキ払い性、および機上現像性により優れる。
平均径の比が0.85を超えると、耐刷性と放置払い性/機上現像性との両立が取れない点で劣る。
【0038】
小径孔部20の形状は特に限定されず、略直管状(略円柱状)や、深さ方向に向かって径が小さくなる逆円錐状などが挙げられ、好ましくは略直管状である。また、小径孔部20の底部の形状は特に限定されず、曲面状(凸状)であっても、平面状であってもよい。
小径孔部20の内径は特に制限されないが、通常、連通位置Yにおける径と同程度の大きさか、または該径よりも小さくても大きくてもよい。なお、小径孔部20の内径は、通常、開口部の径よりも1〜10nm程度の差があってもよい。
【0039】
小径孔部20の底部からアルミニウム板12表面までの陽極酸化皮膜の厚み(図1(A)中、厚みXに該当)は特に制限されないが、20nm以上であることが好ましい。厚みXに位置する陽極酸化皮膜部分は、バリア層と呼ばれることもある。厚みXが上記範囲であれば、得られる平版印刷版の耐ポツ汚れ性、および、耐真円状白抜け性に優れる。なかでも、該効果がより優れる点で、厚みXは22nm以上であることが好ましく、24nm以上であることが好ましい。なお、上限については、特に制限されないが、均一皮膜形成性、形成速度の観点から、35nm以下であることが好ましい。
【0040】
なお、「ポツ状汚れ」とは、平版印刷版原版を長期間保存した場合に、非画像部表面の一部にインキが付着しやすい箇所が発生し、印刷された紙等に表れる点状または円環状の汚れ(以下、「ポツ状汚れ」ともいう。)を意味する。
また、「真円状白抜け」とは、該平版印刷版用支持体上にフォトポリマータイプの画像記録層を形成して平版印刷版原版を長期間保管した後、露光し、現像処理を行うことで得られた平版印刷版を用いて印刷を行った際に発生する真円状の画像抜けを意味する。
上記のように厚みXを制御することで、ポツ状汚れ、および、真円状白抜けの発生を抑制することができる。
【0041】
(小径孔部の好適態様)
図1(B)に示すように、小径孔部の好適態様として、陽極酸化皮膜16の厚み方向に沿って、主孔部30と拡径孔部32とが連結して構成する小径孔部20aが挙げられる。小径孔部が該構成であると、該平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版の耐ポツ汚れ性がより優れる。
【0042】
主孔部30は、小径孔部20aと大径孔部18との連通位置Yからアルミニウム板12側に向かってのびる孔部であり、小径孔部20aの主要部をなす。
主孔部30の形状は、図1(B)に示すように、通常、略直管状である。なお、主孔部30の内径は、陽極酸化皮膜16の厚み方向に沿って、1〜5nm程度の差があってもよい。
【0043】
拡径孔部32は、主孔部30の末端に連通してアルミニウム板12側に向かってのび、その最大径が主孔部30の内径の最大値より大きい孔部である。例えば、主孔部30の末端から、アルミニウム板12側に向かって、孔径(直径)が拡がる逆テーパー状孔部(略釣鐘状孔部)であってもよい。
拡径孔部32の最大径の平均値は、6nm以上が好ましく、8〜30nmがより好ましい。
拡径孔部32の最大径と主孔部30の内径の最大値との差の平均値としては、3nm以上が好ましく、6〜25nmがより好ましい。
【0044】
なお、小径孔部20aの連通位置Yから小径孔部20aの底部までの全深さの内、略直管状の主孔部30の深さが占める割合は、通常、40〜98%であり、拡径孔部32がその残部を占める。
【0045】
陽極酸化皮膜14中でのマイクロポア16の密度は特に限定されないが、得られる平版印刷版の耐刷性、放置払い性、およびインキ払い性、並びに、平版印刷版原版の機上現像性が優れる点で、50〜4000個/μm2であることが好ましく、100〜3000個/μm2であることがより好ましい。
【0046】
陽極酸化皮膜14の皮膜量は特に限定されないが、平版印刷版用支持体の耐傷性が優れる点で、2.3〜5.5g/m2が好ましく、2.3〜4.0g/m2がより好ましい。
【0047】
なお、上述した平版印刷版用支持体の表面には、後述する画像記録層を設けて、平版印刷用原版として使用することができる。
【0048】
<平版印刷版用支持体の製造方法>
本発明の平版印刷版用支持体の製造方法の好適な実施態様としては、以下の工程を順番に実施する製造方法が挙げられる。
(粗面化処理工程)アルミニウム板に粗面化処理を施す工程
(第1陽極酸化処理工程)粗面化処理されたアルミニウム板を陽極酸化する工程
(第2陽極酸化処理工程)第1陽極酸化処理工程で得られたアルミニウム板をさらに陽極酸化する工程
(第3陽極酸化処理工程)第2陽極酸化処理工程で得られたアルミニウム板をさらに陽極酸化する工程
(親水化処理工程)第3陽極酸化処理工程で得られたアルミニウム板に親水化処理を施す工程
なお、粗面化処理工程、第3陽極酸化処理工程、および親水化処理工程は、発明の効果上、必要がなければ実施しなくてもよい。
以下に、上記各工程について詳述する。
【0049】
<粗面化処理工程>
粗面化処理工程は、上述したアルミニウム板の表面に、電気化学的粗面化処理を含む粗面化処理を施す工程である。該工程は、後述する第1陽極酸化処理工程の前に実施されることが好ましいが、アルミニウム板の表面がすでに好ましい表面形状を有していれば、特に実施しなくてもよい。
【0050】
粗面化処理は、電気化学的粗面化処理のみを施してもよいが、電気化学的粗面化処理と機械的粗面化処理および/または化学的粗面化処理とを組み合わせて施してもよい。
機械的粗面化処理と電気化学的粗面化処理とを組み合わせる場合には、機械的粗面化処理の後に、電気化学的粗面化処理を施すのが好ましい。
【0051】
本発明においては、電気化学的粗面化処理は、硝酸や塩酸の水溶液中で施すのが好ましい。
【0052】
機械的粗面化処理は、一般的には、アルミニウム板の表面を表面粗さRa:0.35〜1.0μmとする目的で施される。
本発明においては、機械的粗面化処理の諸条件は特に限定されないが、例えば、特公昭50−40047号公報に記載されている方法に従って施すことができる。機械的粗面化処理は、パミストン懸濁液を使用したブラシグレイン処理により施したり、転写方式で施したりすることができる。
また、化学的粗面化処理も特に限定されず、公知の方法に従って施すことができる。
【0053】
機械的粗面化処理の後には、以下の化学エッチング処理を施すのが好ましい。
機械的粗面化処理の後に施される化学エッチング処理は、アルミニウム板の表面の凹凸形状のエッジ部分をなだらかにし、印刷時のインキの引っかかりを防止し、平版印刷版の耐汚れ性を向上させるとともに、表面に残った研磨材粒子等の不要物を除去するために行われる。
化学エッチング処理としては、酸によるエッチングやアルカリによるエッチングが知られているが、エッチング効率の点で特に優れている方法として、アルカリ溶液を用いる化学エッチング処理(以下、「アルカリエッチング処理」ともいう。)が挙げられる。
【0054】
アルカリ溶液に用いられるアルカリ剤は、特に限定されないが、例えば、カセイソーダ、カセイカリ、メタケイ酸ソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、グルコン酸ソーダ等が好適に挙げられる。
また、各アルカリ剤は、アルミニウムイオンを含有してもよい。アルカリ溶液の濃度は、0.01質量%以上であるのが好ましく、3質量%以上であるのがより好ましく、また、30質量%以下であるのが好ましく、25質量%以下であるのがより好ましい。
更に、アルカリ溶液の温度は室温以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、80℃以下であるのが好ましく、75℃以下であるのがより好ましい。
【0055】
エッチング量は、0.1g/m2以上であるのが好ましく、1g/m2以上であるのがより好ましく、また、20g/m2以下であるのが好ましく、10g/m2以下であるのがより好ましい。
また、処理時間は、エッチング量に対応して2秒〜5分であるのが好ましく、生産性向上の点から2〜10秒であるのがより好ましい。
【0056】
本発明においては、機械的粗面化処理後にアルカリエッチング処理を施した場合、アルカリエッチング処理により生じる生成物を除去するために、低温の酸性溶液を用いて化学エッチング処理(以下、「デスマット処理」ともいう。)を施すのが好ましい。
酸性溶液に用いられる酸は、特に限定されないが、例えば、硫酸、硝酸、塩酸が挙げられる。酸性溶液の濃度は、1〜50質量%であるのが好ましい。また、酸性溶液の温度は、20〜80℃であるのが好ましい。酸性溶液の濃度および温度がこの範囲であると、本発明の平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版の耐ポツ状汚れ性がより向上する。
【0057】
本発明においては、上記粗面化処理は、所望により機械的粗面化処理および化学エッチング処理を施した後に、電気化学的粗面化処理を施す処理であるが、機械的粗面化処理を行わずに電気化学的粗面化処理を施す場合にも、電気化学的粗面化処理の前に、カセイソーダ等のアルカリ水溶液を用いて化学エッチング処理を施すことができる。これにより、アルミニウム板の表面近傍に存在する不純物等を除去することができる。
【0058】
電気化学的粗面化処理は、アルミニウム板の表面に微細な凹凸(ピット)を付与することが容易であるため、印刷性の優れた平版印刷版を作るのに適している。
電気化学的粗面化処理は、硝酸または塩酸を主体とする水溶液中で、直流または交流を用いて行われる。
【0059】
また、電気化学的粗面化処理の後には、以下の化学エッチング処理を行うのが好ましい。電気化学的粗面化処理後のアルミニウム板の表面には、スマットや金属間化合物が存在する。電気化学的粗面化処理の後に行われる化学エッチング処理においては、特にスマットを効率よく除去するため、まず、アルカリ溶液を用いて化学エッチング処理(アルカリエッチング処理)をするのが好ましい。アルカリ溶液を用いた化学エッチング処理の諸条件は、処理温度は20〜80℃であるのが好ましく、また、処理時間は1〜60秒であるのが好ましい。また、アルカリ溶液中にアルミニウムイオンを含有するのが好ましい。
【0060】
更に、電気化学的粗面化処理後にアルカリ溶液を用いる化学エッチング処理を行った後、それにより生じる生成物を除去するために、低温の酸性溶液を用いて化学エッチング処理(デスマット処理)を行うのが好ましい。
また、電気化学的粗面化処理後にアルカリエッチング処理を行わない場合においても、スマットを効率よく除去するため、デスマット処理を行うのが好ましい。
【0061】
本発明においては、上述した化学エッチング処理は、いずれも浸せき法、シャワー法、塗布法等により行うことができ、特に限定されない。
【0062】
<第1陽極酸化処理工程>
第1陽極酸化処理工程は、アルミニウム板(または、粗面化処理が施されたアルミニウム板)に直流または交流を流す陽極酸化処理を施すことにより、該アルミニウム板表面に深さ方向(厚み方向)にのびるマイクロポアを有するアルミニウムの酸化皮膜を形成する工程である。
【0063】
(処理条件)
第1陽極酸化処理では、温度(液温)が45℃以下である第1の電解液が使用される。該電解液を使用することにより、平版印刷版としたときにより優れた耐刷性、放置払い性、インキ払い性を示し、かつ優れた機上現像性を示す平版印刷版用原版を得ることできる平版印刷版用支持体を製造できる。
第1の電解液の温度は、好ましくは15〜45℃であり、より好ましくは25〜45℃である。上記範囲内であれば、得られる平版印刷版および平版印刷用原版の特性がより優れる。なお、第1の電解液の温度が45℃超である場合、得られる平版印刷版の耐刷性に劣る。
【0064】
第1の電解液には、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、ホウ酸/ホウ酸ナトリウム、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、およびアミドスルホン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の電解質が含有されることが好ましく、本発明の効果がより優れる点で、硫酸がより好ましい。
第1の電解液中における電解質の濃度は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる点で、10〜170g/Lが好ましく、30〜170g/Lがより好ましい。
【0065】
また、第1の電解液にはアルミニウムイオンが含まれていてもよい。アルミニウムイオンの含有量は特に限定されないが、0.1〜10g/Lが好ましく、1.0〜8.0g/Lがより好ましい。
なお、第1の電解液で使用される溶媒は特に限定されず、水を使用することが好ましい。なお、発明の効果を損なわない範囲で、非水溶媒(例えば、有機溶媒)を使用してもよい。
【0066】
なお、第1の電解液中には、アルミニウム板、電極、水道水、地下水等に通常含まれる成分が含まれていてもよい。更には、第2、第3の成分が添加されていても構わない。ここでいう第2、第3の成分としては、例えば、Na、K、Mg、Li、Ca、Ti、Al、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等の金属のイオン;アンモニウムイオン等の陽イオン;硝酸イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、亜硫酸イオン、チタン酸イオン、ケイ酸イオン、ホウ酸イオン等の陰イオンが挙げられ、0〜10000ppm程度の濃度で含まれていてもよい。
【0067】
第1陽極酸化処理工程における電流密度は、使用される電解液の種類によって異なるが、本発明の効果がより優れる点で、20〜60A/dm2が好ましく、30〜50A/dm2がより好ましい。
第1陽極酸化処理工程における処理時間は、使用される電解液の種類によって異なるが、本発明の効果がより優れる点で、0.1〜10秒が好ましく、0.5〜1.0秒がより好ましい。
第1陽極酸化処理工程における電気量は、使用される電解液の種類によって異なるが、本発明の効果がより優れる点で、10〜50C/dm2が好ましく、20〜30C/dm2がより好ましい。
【0068】
第1陽極酸化処理工程における電圧条件は、使用される電解液の種類によって異なるが、本発明の効果がより優れる点で、20〜60Vが好ましく、30〜45Vがより好ましい。
第1陽極酸化処理工程中において、本発明の効果がより優れる点で、電圧は連続的に増加していることが好ましい。電圧が連続的に増加することによって、第1陽極酸化処理工程での厚さ方向に対する溶解性差が発生し、第1陽極酸化処理後のマイクロポア径がより大きくなり、本発明の効果上好ましい。
なかでも、電圧の時間変化量が、20〜200V/sであることが好ましく、70〜90V/sであることがより好ましい。上記範囲内であれば、平版印刷版としたときに優れた耐刷性、放置払い性、インキ払い性を示し、かつ優れた機上現像性を示す平版印刷版用原版を製造することができる。
【0069】
第1陽極酸化処理工程の好ましい実施条件としては、電解液(水溶液)の主成分が硫酸であり、その濃度が1〜170g/L、電流密度20〜60A/dm2である条件が挙げられる。
【0070】
(処理方法)
第1陽極酸化処理工程での処理方法は特に限定されないが、連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウム板に、電解液を介して給電する液給電方式により行うのが好ましい。また、硫酸を含有する電解液中で陽極酸化処理する場合には、アルミニウム板に直流または交流を印加することが好ましい。
【0071】
アルミニウム板に給電する電極としては、鉛、酸化イリジウム、白金、フェライト等により形成された電極を用いることができる。中でも、主に酸化イリジウムから形成された電極、および、基材の表面を酸化イリジウムで被覆した電極が好ましい。そのような基材としては、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム等のいわゆるバルブ金属を用いるのが好ましく、バルブ金属の中でも、チタン、ニオブが好ましい。バルブ金属は、比較的電気抵抗が大きいため、銅からなる芯材の表面にバルブ金属をクラッドして基材を形成させてもよい。銅からなる芯材の表面にバルブ金属をクラッドする場合には、複雑な形状の基材を作製することは困難であるため、基材を部品毎に分割した形態の芯材にバルブ金属をクラッドし、その後、各部品を組み合わせて基材を組み立ててもよい。
【0072】
(皮膜特性)
第1陽極酸化処理工程において形成される陽極酸化皮膜表面のマイクロポアの平均ポア径(平均開口径)は、5〜10nmが好ましく、より好ましくは6〜8nmである。上記範囲内であれば、得られる平版印刷版および平版印刷版原版の特性(耐刷性など)がより優れる。
マイクロポアの平均ポア径は、陽極酸化皮膜表面を倍率15万倍のFE−SEMでN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400×600nm2の範囲に存在するマイクロポアの径を測定し、平均した値である。
なお、マイクロポアの形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、開口部の形状を、開口部の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの当該円の直径である。
【0073】
また、マイクロポアの深さは、10〜65nmが好ましく、より好ましくは15〜30nmである。上記範囲内であれば、得られる平版印刷版および平版印刷版原版の特性(耐刷性など)がより優れる。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜の断面の写真(15万倍)をとり、25個以上のマイクロポアの深さを測定し、平均した値である。
【0074】
マイクロポアのポア密度は特に限定されないが、ポア密度が100〜3000個/μm2であることが好ましく、100〜800個/μm2であることがより好ましい。上記範囲内であれば、得られる平版印刷版および平版印刷版原版の特性(耐刷性など)がより優れる。
【0075】
また、第1陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の膜厚は、20〜80nmが好ましく、より好ましくは50〜70nmである。さらに、第1陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の皮膜量は、0.05〜0.21g/m2が好ましく、より好ましくは0.10〜0.18g/m2である。
膜厚および皮膜量がそれぞれ上記範囲内であれば、得られる平版印刷版および平版印刷版原版の特性(耐刷性など)がより優れる。
【0076】
<第2陽極酸化処理工程>
第2陽極酸化処理工程は、上述した第1陽極酸化処理が施されたアルミニウム板にさらに陽極酸化処理を施すことにより、より開口されたマイクロポアを形成する工程である。つまり、この第2陽極酸化処理工程によって、第1陽極酸化処理で得られたマイクロポアの平均ポア径が拡大されると共に、上述した小径孔部が形成され、本発明の効果を得る上で好ましい形状のマイクロポアが得られる。
【0077】
(処理条件)
第2陽極酸化処理では、温度(液温)が50〜70℃である第2の電解液が使用される。該電解液を使用することにより、平版印刷版としたときに優れた耐刷性、放置払い性、インキ払い性を示し、かつ優れた機上現像性を示す平版印刷版用原版を得ることができる平版印刷版用支持体を製造できる。
第2の電解液の温度は、好ましくは55〜65℃である。上記範囲内であれば、得られる平版印刷版および平版印刷用原版の特性がより優れる。なお、第2の電解液の温度が50℃未満である場合、得られる平版印刷版の耐刷性が劣る。また、第2の電解液の温度が70℃超である場合、得られる平版印刷版のインキ払い性および放置払い性が劣る。
なお、第2の電解液の温度は、上記第1の電解液の温度よりも15℃以上高いことが好ましい。第1の電解液と第2の電解液の温度が上記関係であれば、得られる平版印刷版および平版印刷用原版の特性(例えば、耐刷性、インキ払い性など)がより優れる。
【0078】
第2の電解液には、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、ホウ酸/ホウ酸ナトリウム、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、およびアミドスルホン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の電解質が含有されることが好ましく、本発明の効果がより優れる点で、硫酸がより好ましい。
第2の電解液中における電解質の濃度は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる点で、100〜500g/Lが好ましく、150〜300g/Lがより好ましい。
【0079】
また、第2の電解液にはアルミニウムイオンが含まれていてもよい。アルミニウムイオンの含有量は特に限定されないが、0.1〜10g/Lが好ましく、1.0〜8.0g/Lがより好ましい。
なお、第2の電解液で使用される溶媒は特に限定されず、水を使用することが好ましい。なお、発明の効果を損なわない範囲で、非水溶媒(例えば、有機溶媒)を使用してもよい。
【0080】
なお、第2の電解液中には、第1の電解液と同様に、アルミニウム板、電極、水道水、地下水等に通常含まれる成分が含まれていてもよい。更には、上述した第2、第3の成分が添加されていても構わない。
【0081】
第2陽極酸化処理工程における電流密度は、使用される電解液の種類によって異なるが、本発明の効果がより優れる点で、10〜80A/dm2が好ましく、15〜30A/dm2がより好ましい。
第2陽極酸化処理工程における処理時間は、使用される電解液の種類によって異なるが、本発明の効果がより優れる点で、3〜60秒が好ましく、10〜20秒がより好ましい。
第2陽極酸化処理工程における電気量は、使用される電解液の種類によって異なるが、本発明の効果がより優れる点で、200〜600C/dm2が好ましく、240〜400C/dm2がより好ましい。
【0082】
第2陽極酸化処理工程における電圧条件は、使用される電解液の種類によって異なるが、本発明の効果がより優れる点で、10〜30Vが好ましく、10〜20Vがより好ましい。
第2陽極酸化処理工程において、本発明の効果がより優れる点(例えば、第2陽極酸化処理工程により得られた陽極酸化皮膜中への感光層の入り込みが抑えられ、汚れ性の悪化が抑制されるなど)で、電圧は一定であることが好ましい。
【0083】
第2陽極酸化処理工程の好ましい実施条件としては、電解液の主成分が硫酸であり、その濃度が170〜500g/L、電流密度10〜80A/dm2である条件が挙げられる。
【0084】
第2陽極酸化処理工程での処理方法は特に限定されず、上記第1陽極酸化処理工程と同様に従来公知の方法を使用できる。
【0085】
(皮膜特性)
第2陽極酸化処理工程において形成される陽極酸化皮膜表面のマイクロポアの平均ポア径(平均開口径)は、上述した大径孔部18の表層平均径に該当し、上記数値範囲になることが好ましい。
【0086】
第1陽極酸化処理工程で得られたマイクロポアの陽極酸化皮膜表面の平均ポア径(第1平均ポア径)と、第2陽極酸化処理工程で得られたマイクロポアの陽極酸化皮膜表面の平均ポア径(第2平均ポア径)との差(第2平均ポア径−第1平均ポア径)は、3nm以上が好ましく、3〜15nmがより好ましく、3〜10nmがより好ましい。上記範囲であれば、得られる平版印刷版および平版印刷版原版の特性(耐刷性など)がより優れる。
【0087】
マイクロポアのポア密度は特に限定されず、好適な態様としては上記第1陽極酸化処理工程で得られるマイクロポアの密度と同義である。
【0088】
また、第2陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の膜厚は、900〜2000nmが好ましく、より好ましくは900〜1200nmである。さらに、第2陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の皮膜量は、2.3〜5.2g/m2が好ましく、より好ましくは2.4〜3.0g/m2である。
膜厚および皮膜量がそれぞれ上記範囲内であれば、得られる平版印刷版および平版印刷版原版の特性(特に、耐傷性)がより優れる。
なお、後述する第3陽極酸化処理工程を行う場合は、第2陽極酸化処理工程および第3陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の合計膜厚が、900〜2000nm(好ましくは、900〜1200nm)であることが好ましい。
【0089】
第1陽極酸化処理工程で得られた陽極酸化皮膜の膜厚(第1の皮膜の厚み)と、第2陽極酸化処理工程で得られた陽極酸化処理の皮膜(第2の皮膜の厚み)との比(第1の皮膜の厚み/第2の皮膜の厚み)は、0.02〜0.085であることが好ましく、0.04〜0.06であることがより好ましい。上記範囲内であれば、得られる平版印刷版および平版印刷版原版の特性(特に、耐刷性など)がより優れる。
なお、後述する第3陽極酸化処理工程を行う場合は、第1陽極酸化処理工程で得られた陽極酸化皮膜の膜厚(第1の皮膜の厚み)と、第2陽極酸化処理工程および第3陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の合計膜厚(第2の皮膜および第3の皮膜の合計膜厚)との比(第1の皮膜の厚み/第2の皮膜の厚み+第3の皮膜の厚み)が、上記範囲を満たしていることが好ましい。
【0090】
また、上述した小径孔部20aの形状を製造するために、第2陽極酸化処理工程の処理中(特に、処理後半時)において、印加する電圧を段階的または連続的に増加させてもよく、または電解液の温度を下げてもよい。該処理行うことにより、形成される孔部の径が大きくなり、結果として上述した小径孔部20aのような形状が得られる。
なお、第2陽極酸化処理工程において上記処理を行うことにより、得られる小径孔部の底部とアルミニウム板との間にある陽極酸化皮膜の厚みが増加する傾向がある。上記のような処理を施すことにより、小径孔部の底部とアルミニウム板との間にある陽極酸化皮膜が所定の厚みになる場合は、後述する第3陽極酸化処理工程は実施しなくてもよい。
【0091】
なお、上記第1陽極酸化処理工程を施した後で第2陽極酸化処理工程を施す前、または、上記第2陽極酸化処理工程を施した後に、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに別の条件で陽極酸化処理を施してもよい。
本発明の効果がより優れる点では、上記第1陽極酸化処理工程と第2陽極酸化処理工程とを連続的に実施することが好ましい。つまり、第1陽極酸化処理工程と第2陽極酸化処理工程との間に他の陽極酸化処理工程が含まれないことが好ましい。
【0092】
<第3陽極酸化処理工程>
第3陽極酸化処理工程は、上述した第2陽極酸化処理が施されたアルミニウム板にさらに陽極酸化処理を施すことにより、主に、小径孔部の底部とアルミニウム板との間に位置する陽極酸化皮膜の厚み(バリア層の厚み)を大きくする工程である。この第3陽極酸化処理工程により、図1(A)で示される厚みXが所定の大きさになる。
なお、上述したように、第2陽極酸化処理工程において、すでに所望の形状のマイクロポアが得られている場合は、第3陽極酸化処理工程は実施しなくてもよい。
【0093】
第3陽極酸化処理工程での陽極酸化処理の条件は使用される電解液によって適宜設定されるが、通常、第2陽極酸化処理工程で印加した電圧よりも高い電圧での処理、または、第2陽極酸化処理工程で使用した電解液よりも低い温度を示す電解液を使用した処理がなされる。
また、使用される電解液の種類も特に限定されず、上述した電解液を使用することができる。例えば、ホウ酸を含む水溶液を電解浴として用いることにより、第2陽極酸化処理で得られた小径孔部の形状を変えることなく、効率よく厚みXを大きくすることができる。
【0094】
また、第3陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の皮膜量は、通常、0.1〜2.0g/m2であり、好ましくは0.2〜1.6g/m2である。上記範囲内であれば、該工程を経て得られる平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版の耐刷性、放置払い性、インキ払い性、耐ポツ汚れ性、および耐真円状白抜け性、並びに、平版印刷版原版の機上現像性に優れる。
【0095】
なお、第3陽極酸化処理工程を実施することにより、マイクロポアがより陽極酸化皮膜の厚み方向にのびてもよい。
【0096】
<親水化処理工程>
本発明の平版印刷版用支持体の製造方法は、上述した第3陽極酸化処理工程の後、アルミニウム板に親水化処理を施す親水化処理工程を有していてもよい。なお、親水化処理としては、特許公開2005−254638の段落[0109]〜[0114]に開示される公知の方法が使用できる。
【0097】
なお、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液に浸漬させる方法、親水性ビニルポリマーまたは親水性化合物を塗布して親水性の下塗層を形成させる方法等により、親水化処理を行うのが好ましい。
【0098】
ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液による親水化処理は、米国特許第2,714,066号明細書および米国特許第3,181,461号明細書に記載されている方法および手順に従って行うことができる。
【0099】
<好適態様>
一方、本発明の平版印刷版用支持体としては、上述したアルミニウム板に対して、以下のA態様に示す各処理を以下に示す順に施して得られる平版印刷版用支持体が好ましい。なお、以下の各処理の間に水洗を行うことが望ましい。ただし、連続して行う2つの工程(処理)が同じ組成の液を使用する場合は水洗を省いてもよい。
【0100】
(A態様)
(1)機械的粗面化処理
(2)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第1アルカリエッチング処理)
(3)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第1デスマット処理)
(4)硝酸を主体とする水溶液中で電気化学的粗面化処理(第1電気化学的粗面化処理)
(5)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第2アルカリエッチング処理)
(6)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第2デスマット処理)
(7)塩酸を主体とする水溶液中で電気化学的粗面化処理(第2電気化学的粗面化処理)
(8)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第3アルカリエッチング処理)
(9)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第3デスマット処理)
(10)陽極酸化処理(第1陽極酸化処理〜第3陽極酸化処理)
(11)親水化処理
【0101】
ここで、上記(1)〜(11)における機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理、化学エッチング処理、陽極酸化処理および親水化処理は、上述した処理方法、条件と同様の方法で行うことができるが、以下に説明する処理方法、条件で施すのが好ましい。
【0102】
機械的粗面化処理は、毛径が0.2〜1.61mmの回転するナイロンブラシロールと、アルミニウム板表面に供給されるスラリー液で機械的に粗面化処理するのが好ましい。
研磨剤としては公知の物が使用できるが、珪砂、石英、水酸化アルミニウムまたはこれらの混合物が好ましい。
スラリー液の比重は1.05〜1.3が好ましい。勿論、スラリー液を吹き付ける方式、ワイヤーブラシを用いる方式、凹凸を付けた圧延ロールの表面形状をアルミニウム板に転写する方式などを用いてもよい。
【0103】
アルカリ水溶液中での化学エッチング処理に用いるアルカリ水溶液の濃度は1〜30質量%が好ましく、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金中に含有する合金成分が0〜10質量%含有していてよい。
アルカリ水溶液としては、特に苛性ソーダを主体とする水溶液が好ましい。液温は常温〜95℃で、1〜120秒間処理するのが好ましい。
エッチング処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち込まないためにニップローラーによる液切りとスプレーによる水洗を行うのが好ましい。
【0104】
第1アルカリエッチング処理におけるアルミニウム板の溶解量は、0.5〜30g/m2であるのが好ましく、1.0〜20g/m2であるのがより好ましく、3.0〜15g/m2であるのが更に好ましい。
第2アルカリエッチング処理におけるアルミニウム板の溶解量は、0.001〜30g/m2であるのが好ましく、0.1〜4g/m2であるのがより好ましく、0.2〜1.5g/m2であるのが更に好ましい。
第3アルカリエッチング処理におけるアルミニウム板の溶解量は、0.001〜30g/m2であるのが好ましく、0.01〜0.8g/m2であるのがより好ましく、0.02〜0.3g/m2であるのが更に好ましい。
【0105】
酸性水溶液中で化学エッチング処理(第1〜第3デスマット処理)では、燐酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、またはこれらの2以上の酸を含む混酸が好適に用いられる。
酸性水溶液の濃度は0.5〜60質量%が好ましい。
また、酸性水溶液中にはアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金中に含有する合金成分が0〜5質量%が溶解していてもよい。
また、液温は常温から95℃で実施され、処理時間は1〜120秒が好ましい。デスマット処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち込まないためにニップローラーによる液切りとスプレーによる水洗を行うのが好ましい。
【0106】
電気化学的粗面化処理に用いられる水溶液について説明する。
第1電気化学的粗面化処理で用いる硝酸を主体とする水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、1〜100g/Lの硝酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムなどの硝酸イオン;塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウムなどの塩酸イオン;等を有する塩酸または硝酸化合物の1つ以上を1g/L〜飽和まで添加して使用することができる。
また、硝酸を主体とする水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。
具体的には、硝酸0.5〜2質量%水溶液中にアルミニウムイオンが3〜50g/Lとなるように塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムを添加した液を用いるのが好ましい。
また、温度は10〜90℃が好ましく、40〜80℃がより好ましい。
【0107】
一方、第2電気化学的粗面化処理で用いる塩酸を主体とする水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、1〜100g/Lの塩酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムなどの硝酸イオン;塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウムなどの塩酸イオン;等を有する塩酸または硝酸化合物の1つ以上を1g/L〜飽和まで添加して使用することができる。
また、塩酸を主体とする水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。
具体的には、塩酸0.5〜2質量%水溶液中にアルミニウムイオンが3〜50g/Lとなるように塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムを添加した液を用いるのが好ましい。
また、温度は10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。次亜塩素酸を添加してもよい。
【0108】
電気化学的粗面化処理の交流電源波形は、サイン波、矩形波、台形波、三角波などを用いることができる。周波数は0.1〜250Hzが好ましい。
【0109】
図2は、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
図2において、taはアノード反応時間、tcはカソード反応時間、tpは電流が0からピークに達するまでの時間、Iaはアノードサイクル側のピーク時の電流、Icはカソードサイクル側のピーク時の電流である。台形波において、電流が0からピークに達するまでの時間tpは1〜10msecが好ましい。電源回路のインピーダンスの影響のため、tpが1未満であると電流波形の立ち上がり時に大きな電源電圧が必要となり、電源の設備コストが高くなる。10msecより大きくなると、電解液中の微量成分の影響を受けやすくなり均一な粗面化が行われにくくなる。電気化学的な粗面化に用いる交流の1サイクルの条件が、アルミニウム板のアノード反応時間taとカソード反応時間tcの比tc/taが1〜20、アルミニウム板がアノード時の電気量Qcとアノード時の電気量Qaの比Qc/Qaが0.3〜20、アノード反応時間taが5〜1000msec、の範囲にあるのが好ましい。tc/taは2.5〜15であるのがより好ましい。Qc/Qaは2.5〜15であるのがより好ましい。電流密度は台形波のピーク値で電流のアノードサイクル側Ia、カソードサイクル側Icともに10〜200A/dm2が好ましい。Ic/Iaは0.3〜20の範囲にあるのが好ましい。電気化学的な粗面化が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応にあずかる電気量の総和は、25〜1000C/dm2が好ましい。
【0110】
本発明においては、交流を用いた電気化学的な粗面化に用いる電解槽は、縦型、フラット型、ラジアル型など公知の表面処理に用いる電解槽が使用可能であるが、特開平5−195300号公報に記載されているようなラジアル型電解槽が特に好ましい。
【0111】
交流を用いた電気化学的な粗面化には図3に示した装置を用いることができる。
図3は、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
図3において、50は主電解槽、51は交流電源、52はラジアルドラムローラ、53a,53bは主極、54は電解液供給口、55は電解液、56はスリット、57は電解液通路、58は補助陽極、60は補助陽極槽、Wはアルミニウム板である。電解槽を2つ以上用いるときには、電解条件は同じでもよいし、異なっていてもよい。
アルミニウム板Wは主電解槽50中に浸漬して配置されたラジアルドラムローラ52に巻装され、搬送過程で交流電源51に接続する主極53a、53bにより電解処理される。電解液55は電解液供給口54からスリット56を通じてラジアルドラムローラ52と主極53a、53bとの間の電解液通路57に供給される。主電解槽50で処理されたアルミニウム板Wは次いで補助陽極槽60で電解処理される。この補助陽極槽60には補助陽極58がアルミニウム板Wと対向配置されており、電解液55が補助陽極58とアルミニウム板Wとの間の空間を流れるように供給される。
【0112】
一方、電気化学的粗面化処理(第1および第2電気化学的粗面化処理)では、アルミニウム板とこれに対向する電極間に直流電流を加え、電気化学的に粗面化する方法であってもよい。
【0113】
<乾燥工程>
上述した工程により得られた平版印刷版用支持体を得た後、後述する画像記録層を設ける前に、平版印刷版用支持体の表面を乾燥させる処理(乾燥工程)を施すのが好ましい。
乾燥は、表面処理の最後の処理の後、水洗処理およびニップローラで液切りしてから行うのが好ましい。具体的な条件としては特に制限されないが、熱風(50〜200℃)、または、冷風自然乾燥法等で乾燥することが好ましい。
【0114】
<平版印刷版原版>
本発明の平版印刷版用支持体には、感光層、感熱層等の画像記録層を設けて本発明の平版印刷版原版とすることができる。画像記録層は、特に限定されないが、例えば、特開2003−1956号公報の段落[0042]〜[0198]に記載される、コンベンショナルポジタイプ、コンベンショナルネガタイプ、フォトポリマータイプ、サーマルポジタイプ、サーマルネガタイプ、機上現像可能な無処理タイプが好適に挙げられる。
【0115】
例えば、サーマルポジタイプの平版印刷版原版の画像記録層は、単一の層(単層)で構成されていても、複数の層(重層)で構成されていてもよい。画像記録層が複数の層である場合には、2層より構成されることが好ましい。単層型の具体例は、特表2010−532488号公報が挙げられる。重層型の具体例としては、特開2006−267294号公報が挙げられる。
フォトポリマータイプの画像記録層の具体例として、特開2008−242046号公報に記載のものが好適に挙げられる。
サーマルネガタイプの画像記録層の具体例として、特願2010−192645号に記載の画像記録層が好適に挙げられる。
機上現像可能な無処理タイプとしては、後述の画像記録層や特表2009−502590号公報、特願2010−294336号に記載の画像記録層が好適に挙げられる。
【0116】
現像方式としては、特に限定されないが、アルカリ現像液や溶剤を添加した現像液などが好適に用いられる。米国公開公報20100216067に記載の現像液も好適に用いることができる。
また、pH2〜11の現像液またはガム液にて保護層および非露光部の感光層を一括除去できる平版印刷版原版に用いられる画像記録層も好適に挙げられ、代表的な画像形成態様としては、(1)増感色素または赤外線吸収剤、ラジカル重合開始剤、及び、ラジカル重合性化合物を含有し、重合反応を利用して画像部を硬化させる態様と、(2)赤外線吸収剤、及び、ポリマー微粒子を含有して、ポリマー微粒子の熱融着や熱反応を利用して疎水性領域(画像部)を形成する態様を挙げることができる(このようなポリマー微粒子は疎水化前駆体ともいわれる)。具体的には、特開2003−255527号公報、特表2007−538279号公報、特開2009−258624号公報、特開2009−229944号公報、特開2010−156945号公報に記載の画像記録層が挙げられる。
pH2〜11の現像液またはガム液の好適な例としては、特開2003−255527号公報、特表2007−538279号公報、特開2009−258624号公報、特開2009−229944号公報、特開2010−156945号公報、特願2011−017309に記載の現像液を用いることも可能である。
以下、好適な画像記録層について、詳細に説明する。
【0117】
<画像記録層>
本発明の平版印刷版原版に好ましく用いることができる画像記録層としては、印刷インキおよび/または湿し水により除去可能なものであり、具体的には、赤外線吸収剤と、重合開始剤と、重合性化合物とを有し、赤外線の照射により記録可能な画像記録層であるのが好ましい。
本発明の平版印刷版原版においては、赤外線の照射により画像記録層の露光部が硬化して疎水性(親油性)領域を形成し、かつ、印刷開始時に未露光部が湿し水、インキまたは湿し水とインキとの乳化物によって支持体上から速やかに除去される。
以下、画像記録層の各構成成分について説明する。
【0118】
(赤外線吸収剤)
本発明の平版印刷版原版を、760〜1200nmの赤外線を発するレーザーを光源として画像形成する場合には、通常、赤外線吸収剤を用いる。
赤外線吸収剤は、吸収した赤外線を熱に変換する機能と赤外線により励起して後述する重合開始剤(ラジカル発生剤)に電子移動/エネルギー移動する機能を有する。
本発明において使用することができる赤外線吸収剤は、波長760〜1200nmに吸収極大を有する染料または顔料である。
【0119】
染料としては、市販の染料や、例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。
具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。更に、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい例として下記一般式(a)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0120】
【化1】

【0121】
一般式(a)中、X1は、水素原子、ハロゲン原子、−N(R9)(R10)、−X2−L1または以下に示す基を表す。ここで、R9及びR10は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数1〜8のアルキル基、水素原子を表し、またR9とR10とが互いに結合して環を形成してもよい。なかでもフェニル基が好ましい(-NPh2)。X2は酸素原子または硫黄原子を示し、L1は、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロアリール基、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。以下に示す基において、Xa-は後述するZa-と同様に定義され、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0122】
【化2】

【0123】
1及びR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。画像記録層塗布液の保存安定性から、R1及びR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましい。またR1とR2は互いに連結し環を形成してもよく、環を形成する際は5員環または6員環を形成していることが特に好ましい。
【0124】
Ar1、Ar2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアリール基を示す。好ましいアリール基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y1、Y2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子または炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R3、R4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。R5、R6、R7およびR8は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Zaは、対アニオンを示す。ただし、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZaは必要ない。好ましいZaは、画像記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0125】
好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落〔0017〕〜〔0019〕に記載の化合物、特開2002−023360号公報の段落〔0016〕〜〔0021〕、特開2002−040638号公報の段落[0012]〜[0037]に記載の化合物、好ましくは特開2002−278057号[0034]〜[0041]、特開2008−195018[0080]〜[0086]に記載の化合物、特に好ましくは特開2007−90850[0035]〜[0043]に記載の化合物が挙げられる。また、特開平5−5005号公報の段落[0008]〜[0009]、特開2001−222101号公報の段落[0022]〜[0025]に記載の化合物も好ましく使用することができる。
【0126】
また、これらの赤外線吸収染料は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、顔料等の赤外線吸収染料以外の赤外線吸収剤を併用してもよい。顔料としては、特開2008−195018号公報[0072]〜[0076]に記載の化合物が好ましい。
【0127】
本発明における画像記録層中の赤外線吸収染料の含有量は、画像記録層の全固形分の0.1〜10.0質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5.0質量%である。
【0128】
(重合開始剤)
上記重合開始剤は、光、熱あるいはその両方のエネルギーによりラジカルを発生し、重合性の不飽和基を有する化合物の重合を開始、促進する化合物であり、本発明においては、熱によりラジカルを発生する化合物(熱ラジカル発生剤)を使用するのが好ましい。
上記重合開始剤としては、公知の熱重合開始剤や結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物、光重合開始剤などを使用することができる。
重合開始剤としては、例えば、特開2009-255434号公報の段落[0115]〜[0141]に記載される重合開始剤などが利用できる。
【0129】
なお、重合開始剤としてオニウム塩などが使用でき、反応性、安定性の面から上記オキシムエステル化合物あるいはジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩が好適なものとして挙げられる。
【0130】
これらの重合開始剤は、画像記録層を構成する全固形分に対し0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜20質量%の割合で添加することができる。この範囲で、良好な感度と印刷時の非画像部の良好な汚れ難さが得られる。
【0131】
(重合性化合物)
重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選択される。本発明においては、このような化合物は本発明の技術分野において広く知られるものを特に限定無く用いることができる。
重合性化合物としては、例えば、特開2009-255434号公報の段落[0142]〜[0163]に例示される重合性化合物などが使用できる。
【0132】
また、イソシアネートとヒドロキシル基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適である。その具体例としては、特公昭48−41708号公報に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(A)で示されるヒドロキシル基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
【0133】
CH2=C(R4)COOCH2CH(R5)OH (A)
(ただし、R4およびR5は、HまたはCH3を示す。)
【0134】
重合性化合物は、画像記録層中の不揮発性成分に対して、好ましくは5〜80質量%、さらに好ましくは25〜75質量%の範囲で使用される。また、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0135】
(バインダーポリマー)
本発明においては、画像記録層には、画像記録層の皮膜形成性を向上させるためバインダーポリマーを用いることができる。
バインダーポリマーは従来公知のものを制限なく使用でき、皮膜性を有するポリマーが好ましい。このようなバインダーポリマーとしては、具体的には、例えば、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、天然ゴム等が挙げられる。
バインダーポリマーは、画像部の皮膜強度を向上するために、架橋性を有していてもよい。バインダーポリマーに架橋性を持たせるためには、エチレン性不飽和結合等の架橋性官能基を高分子の主鎖中または側鎖中に導入すればよい。架橋性官能基は、共重合により導入してもよい。
バインダーポリマーとしては、例えば、特開2009-255434号公報の段落[0165]〜[0172]に開示されるバインダーポリマーを使用することもできる。
【0136】
バインダーポリマーの含有量は、画像記録層の全固形分に対して、5〜90質量%であり、5〜80質量%であるのが好ましく、10〜70質量%であるのがより好ましい。この範囲で、良好な画像部の強度と画像形成性が得られる。
また、重合性化合物とバインダーポリマーは、質量比で0.5/1〜4/1となる量で用いるのが好ましい。
【0137】
(界面活性剤)
画像記録層には、印刷開始時の機上現像性を促進させるため、および、塗布面状を向上させるために界面活性剤を用いるのが好ましい。
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、特開2009-255434号公報の段落[0175]〜[0179]に開示される界面活性剤などを使用できる。
【0138】
界面活性剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
界面活性剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して、0.001〜10質量%であるのが好ましく、0.01〜5質量%であるのがより好ましい。
【0139】
画像記録層には、さらに必要に応じてこれら以外に種々の化合物を添加してもよい。例えば、特開2009-255434号公報の段落[0181]〜[0190]に開示される着色剤、焼き出し剤、重合禁止剤、高級脂肪酸誘導体、可塑剤、無機微粒子、低分子親水性化合物などが挙げられる。
【0140】
<画像記録層の形成>
画像記録層は、必要な上記各成分を溶剤に分散または溶かして塗布液を調製した後、該塗布液を支持体上に塗布することにより形成される。ここで、使用する溶剤としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、水等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
これらの溶剤は、単独または混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0141】
また、塗布、乾燥後に得られる平版印刷版用支持体上の画像記録層塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般的に0.3〜3.0g/m2が好ましい。この範囲で、良好な感度と画像記録層の良好な皮膜特性が得られる。
塗布する方法としては、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。
【0142】
<下塗り層>
本発明の平版印刷版原版においては、上述した画像記録層と平版印刷版用支持体との間に下塗り層を設けることが望ましい。
【0143】
下塗り層は、基板吸着性基、重合性基および親水性基を有するポリマーを含有することが好ましい。
基板吸着性基、重合性基および親水性基を有するポリマーとしては、吸着性基を有するモノマー、親水性基を有するモノマー、および、重合性反応基(架橋性基)を有するモノマーを共重合した下塗り用高分子樹脂を挙げることができる。
下塗り層用高分子樹脂に使用できるモノマーとしては、例えば、特開2009-255434号公報の段落[0197]〜[0210]などに記載されるモノマーが挙げられる。
【0144】
下塗り層層塗布液を支持体に塗布する方法としては、公知の種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げることができる。
下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/m2であるのが好ましく、1〜50mg/m2であるのがより好ましい。
【0145】
<保護層>
本発明の平版印刷版原版においては、画像記録層における傷等の発生防止、酸素遮断、高照度レーザー露光時のアブレーション防止のため、必要に応じて、画像記録層の上に保護層を設けることができる。
保護層については、例えば、米国特許第3、458、311号明細書および特公昭55−49729号公報に詳細に記載されている。
また、保護層に用いられる材料としては、例えば、特開2009-255434号公報の段落[0213]〜[0227]などに記載される材料(水溶性高分子化合物、無機質の層状化合物など)を用いることができる。
【0146】
調製された保護層塗布液を、支持体上に備えられた画像記録層の上に塗布し、乾燥して保護層を形成する。塗布溶剤はバインダーとの関連において適宜選択することができるが、水溶性ポリマーを用いる場合には、蒸留水、精製水を用いることが好ましい。保護層の塗布方法は、特に制限されるものではなく、例えば、ブレード塗布法、エアナイフ塗布法、グラビア塗布法、ロールコーティング塗布法、スプレー塗布法、ディップ塗布法、バー塗布法等が挙げられる。
【0147】
保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.01〜10g/m2の範囲であることが好ましく、0.02〜3g/m2の範囲がより好ましく、最も好ましくは0.02〜1g/m2の範囲である。
【実施例】
【0148】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0149】
<平版印刷版用支持体の製造>
厚さ0.3mmの材質1Sのアルミニウム合金板に対し、下記(a)〜(m)の処理を施し、平版印刷版用支持体を製造した。なお、全ての処理工程の間には水洗処理を施し、水洗処理の後にはニップローラで液切りを行った。
【0150】
(a)機械的粗面化処理(ブラシグレイン法)
図4に示したような装置を使って、パミスの懸濁液(比重1.1g/cm3)を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転する束植ブラシにより機械的粗面化処理を行った。図4において、1はアルミニウム板、2および4はローラ状ブラシ(本実施例において、束植ブラシ)、3は研磨スラリー液、5、6、7および8は支持ローラである。
機械的粗面化処理は、研磨材のメジアン径(μm)を30μm、ブラシ本数を4本、ブラシの回転数(rpm)を250rpmとした。束植ブラシの材質は6・10ナイロンで、ブラシ毛の直径0.3mm、毛長50mmであった。ブラシは、φ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。束植ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。束植ブラシはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、束植ブラシをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して10kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。
【0151】
(b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度70℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、10g/m2であった。
【0152】
(c)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硝酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる硝酸水溶液は、次工程の電気化学的な粗面化に用いた硝酸を用いた。その液温は35℃であった。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0153】
(d)電気化学的粗面化処理
硝酸電解60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、温度35℃、硝酸10.4g/Lの水溶液に硝酸アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は図2に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図3に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。電気量(C/dm2)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で185C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0154】
(e)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、0.5g/m2であった。
【0155】
(f)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる硫酸水溶液は、硫酸濃度170g/L、アルミニウムイオン濃度5g/Lの液を用いた。その液温は、60℃であった。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0156】
(g)電気化学的粗面化処理
塩酸電解60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。電解液は、液温35℃、塩酸6.2g/Lの水溶液に塩化アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は図2に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図3に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で25A/dm2であり、塩酸電解における電気量(C/dm2)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で63C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0157】
(h)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、0.1g/m2であった。
【0158】
(i)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。具体的には、陽極酸化処理工程で使用する硫酸水溶液(硫酸170g/L水溶液中にアルミニウムイオン5g/Lを溶解)を用い、液温35℃で4秒間デスマット処理を行った。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0159】
(j)第1陽極酸化処理
図5に示す装置を用いた間接給電電解法による陽極酸化装置を用いて、第1陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。なお、使用される電解液は、表1中の成分を含む水溶液である。
なお、陽極酸化処理装置610において、アルミニウム板616は、図5中矢印で示すように搬送される。電解液618が貯溜された給電槽612にてアルミニウム板616は給電電極620によって(+)に荷電される。そして、アルミニウム板616は、給電槽612においてローラ622によって上方に搬送され、ニップローラ624によって下方に方向変換された後、電解液626が貯溜された電解処理槽614に向けて搬送され、ローラ628によって水平方向に方向転換される。ついで、アルミニウム板616は、電解電極630によって(−)に荷電されることにより、その表面に陽極酸化皮膜が形成され、電解処理槽614を出たアルミニウム板616は後工程に搬送される。陽極酸化処理装置610において、ローラ622、ニップローラ624およびローラ628によって方向転換手段が構成され、アルミニウム板616は、給電槽612と電解処理槽614との槽間部において、前記ローラ622、624および628により、山型および逆U字型に搬送される。給電電極620と電解電極630とは、直流電源634に接続されている。
【0160】
(k)第2陽極酸化処理
図5に示す装置を用いた間接給電電解法による陽極酸化装置を用いて、第2陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。なお、使用される電解液は、表1中の成分を含む水溶液である。
【0161】
(l)第3陽極酸化処理
図5に示す装置を用いた間接給電電解法による陽極酸化装置を用いて、第3陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。なお、使用される電解液は、表1中の成分を含む水溶液である。
【0162】
(m)シリケート処理
非画像部の親水性を確保するため、2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて50℃で7秒間ディップしてシリケート処理を施した。Siの付着量は8.5mg/m2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0163】
上記で得られた第2陽極酸化処理工程後(または、第3陽極酸化処理工程後)のマイクロポアを有する陽極酸化皮膜中の大径孔部の陽極酸化皮膜表面および連通位置における平均径(表層平均径および底部平均径)、小径孔部の連通位置における平均径(小径孔部径)、大径孔部および小径孔部の深さ、小径孔部径/底部平均径、マイクロポアの密度、並びに、小径孔部の底部からアルミニウム板表面までの陽極酸化皮膜の厚み(バリア層厚)を、表2にまとめて示す。
【0164】
なお、マイクロポアの平均径(大径孔部の表層平均径および底部平均径、並びに、小径孔部の平均径(小径孔部径))は、陽極酸化皮膜14表面および断面を倍率50万倍のFE−TEMで観察し、各径を60個(N=60)測定し、平均した値である。なお、必要に応じて、陽極酸化皮膜をFIB切削加工して、薄膜(約50nm)を作製し、陽極酸化皮膜14断面の測定を行った。
なお、マイクロポアの深さ(大径孔部および小径孔部の深さ)は、支持体(陽極酸化皮膜)の断面(厚み方向の断面)をFE−SEMで観察し(大径孔部深さ観察:15万倍、小径孔部深さ観察:5万倍)、得られた画像において、任意のマイクロポア25個の深さを測定し、平均した値である。
なお、各工程で使用される電解液は、表1中の成分を含む水溶液である。また、表1中、「濃度」は、「溶液」欄に記載の成分の含有濃度(g/l)を表す。
【0165】
なお、比較例12においては、以下の(ポアワイド処理)を第1陽極酸化処理と第2陽極酸化処理との間で実施した。
(ポアワイド処理)
上記陽極酸化処理したアルミニウム板を、温度35℃、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液に表1に示す条件にて浸漬し、ポアワイド処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0166】
【表1】

【0167】
【表2】

【0168】
【表3】

【0169】
実施例1〜23においては、アルミニウムの陽極酸化皮膜中において、所定の平均径および深さを有するマイクロポアが形成された。
なお、比較例13〜17の製造条件は、特開平11−219657号公報の段落[0136]に記載の実施例1〜5の製造条件と同じである。
【0170】
<平版印刷版原版の製造>
上記で製造した各平版印刷版用支持体に対し、下記下塗り層用塗布液を乾燥塗布量が28mg/m2になるよう塗布して、下塗り層を設けた。
【0171】
<下塗り層用塗布液>
・下記構造の下塗り層用化合物(1) 0.18g
・ヒドロキシエチルイミノ二酢酸 0.10g
・メタノール 55.24g
・水 6.15g
【0172】
【化3】

【0173】
次いで、上記のようにして形成された下塗り層上に、画像記録層塗布液をバー塗布した後、100℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.3g/m2の画像記録層を形成した。
全ての画像記録層塗布液は、各感光液およびミクロゲル液を塗布直前に混合し攪拌することにより得た。
【0174】
<感光液>
・バインダーポリマー(1)〔下記構造〕 0.24g
・赤外線吸収剤(1)〔下記構造〕 0.030g
・ラジカル重合開始剤(1)〔下記構造〕 0.162g
・重合性化合物 トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(NKエステルA−9300、新中村化学社製) 0.192g
・低分子親水性化合物トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート
0.062g
・低分子親水性化合物(1)〔下記構造〕 0.052g
・感脂化剤
ホスホニウム化合物(1)〔下記構造〕 0.055g
・感脂化剤
ベンジル−ジメチル−オクチルアンモニウム・PF6塩 0.018g
・ベタイン誘導体(C−1)〔下記構造〕 0.010g
・フッ素系界面活性剤(1)(平均重量分子量:1万)〔下記構造〕 0.008g
・メチルエチルケトン 1.091g
・1−メトキシ−2−プロパノール 8.609g
【0175】
<ミクロゲル液>
・ミクロゲル(1) 2.640g
・蒸留水 2.425g
【0176】
上記のバインダーポリマー(1)、赤外線吸収剤(1)、ラジカル重合開始剤(1)、ホスホニウム化合物(1)、低分子親水性化合物(1)、ベタイン誘導体(C−1)およびフッ素系界面活性剤(1)の構造は、以下に示す通りである。
【0177】
【化4】

【0178】
【化5】

【0179】
上記に記載のミクロゲル(1)は、以下のようにして合成されたものである。
【0180】
<ミクロゲル(1)の合成>
油相成分として、トリメチロールプロパンとキシレンジイソシアナート付加体(タケネートD−110N、三井武田ケミカル社製)10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(SR444、日本化薬社製)3.15g、およびパイオニンA−41C(竹本油脂社製)0.1gを酢酸エチル17gに溶解した。水相成分としてPVA−205の4質量%水溶液40gを調製した。油相成分および水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12,000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、50℃で3時間攪拌した。このようにして得られたミクロゲル液の固形分濃度を、15質量%になるように蒸留水を用いて希釈し、これを上記ミクロゲル(1)とした。ミクロゲルの平均粒径を光散乱法により測定したところ、平均粒径は0.2μmであった。
【0181】
次いで、上記のようにして形成された画像記録層上に、さらに下記組成の保護層塗布液をバー塗布した後、120℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.15g/m2の保護層を形成し、平版印刷版原版を得た。
【0182】
<保護層用塗布液>
・無機質層状化合物分散液(1) 1.5g
・ポリビニルアルコール(CKS50、スルホン酸変性、けん化度99モル%以上、重合度300、日本合成化学工業社製)6質量%水溶液 0.55g
・ポリビニルアルコール(PVA−405、けん化度81.5モル%、重合度500、クラレ社製)6質量%水溶液 0.03g
・界面活性剤(エマレックス710、日本エマルジョン社製)1質量%水溶液
8.60g
・イオン交換水 6.0g
【0183】
上記に記載の無機質層状化合物分散液(1)は、以下のようにして調製されたものである。
【0184】
(無機質層状化合物分散液(1)の調製)
イオン交換水193.6gに合成雲母ソマシフME−100(コープケミカル(株)製)6.4gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)が3μmになるまで分散した。得られた分散粒子のアスペクト比は100以上であった。
【0185】
<平版印刷版原板の評価>
(機上現像性)
得られた平版印刷版原版を赤外線半導体レーザー搭載の富士フイルム(株)製Luxel PLATESETTER T−6000IIIにて、外面ドラム回転数1000rpm、レーザー出力70%、解像度2400dpiの条件で露光した。露光画像にはベタ画像および20μmドットFMスクリーンの50%網点チャートを含むようにした。
得られた露光済み原版を現像処理することなく、(株)小森コーポレーション製印刷機LITHRONE26の版胴に取り付けた。Ecolity−2(富士フイルム(株)製)/水道水=2/98(容量比)の湿し水とValues−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業(株)製)とを用い、LITHRONE26の標準自動印刷スタート方法で湿し水とインキとを供給して機上現像した後、毎時10000枚の印刷速度で、特菱アート(76.5kg)紙に印刷を100枚行った。
50%網点チャートの未露光部の印刷機上での機上現像が完了し、網点非画像部にインキが転写しない状態になるまでに要した印刷用紙の枚数を機上現像性として計測した。機上現像性のよい方から順に、◎(損紙20枚以下)、○(損紙21〜30枚)、×(損紙31枚以上)で表した。結果を表3に示す。
【0186】
(耐刷性)
上記と同様の印刷機及び手法で機上現像した後、さらに印刷を続けた。ベタ画像の濃度が薄くなり始めたと目視で認められた時点の印刷枚数により、耐刷性を評価した。印刷枚数が2万枚未満のものを×、2万枚以上2万5千枚未満のものを△、2万5千枚以上3万5千枚未満のものを○、3万5千枚以上のものを◎とした。結果を表3に示す。
【0187】
(放置払い性)
上記機上現像終了後、良好な印刷物が得られるようになった後に、印刷を一旦停止し、25℃、湿度50%の部屋において、印刷機上で1時間放置して、印刷を再開した時に、汚れのない良好な印刷物が得られるまでに要した印刷用紙の損紙枚数を評価した。放置払い性のよい方から順に、◎(損紙75枚以下)、○(損紙76〜300枚)、×(損紙301枚以上)で表した。結果を表3に示す。
【0188】
(耐傷性)
平版印刷版用支持体の耐傷性は、得られた平版印刷版用支持体表面の引っ掻き試験により評価した。
引っ掻き試験は、連続加重式引っ掻き強度試験器(SB−53、新東科学社製)を用いて、サファイヤ針0.4mmφ、針の移動速度10cm/秒の条件下、加重100gで行った。
その結果、針によるキズがアルミニウム合金板(素地)の表面に達していないものを耐傷性に優れるものとして「○」と評価し、達しているものを「×」と評価した。なお、加重値が100gで耐傷性に優れる平版印刷版用支持体は、平版印刷版原版にしたときの巻き取り時および積層中における画像記録層へのキズの転写を抑制でき、非画像部の汚れを抑制することができる。結果を表3に示す。
【0189】
(インキ払い性)
上記機上現像終了後、良好な印刷物が得られるようになった後に、ワニスを添加したFushion−EZ(S)インキ(大日本インキ化学工業(株)製)を平版印刷版の非画像部に塗り、印刷を再開した時に汚れのない良好な印刷物が得られるまでに要した印刷用紙の損紙枚数を評価した。インキ払い性のよい方から順に、◎(損紙10枚以下)、○(損紙10枚超20枚以下)、△(損紙20枚超30枚以下)、×(損紙30枚超)で表した。結果を表3に示す。
【0190】
【表4】

【0191】
上記表3に示すように、所定の範囲の平均径および深さを示すマイクロポアが形成されたアルミニウムの陽極酸化皮膜を備える平版印刷用支持体を用いた平版印刷版および平版印刷版原版(実施例1〜23)においては、優れた耐刷性、放置払い性、インキ払い性、機上現像性および耐傷性を示すことが確認された。なお、実施例1〜23において得られたマイクロポアを構成する大径孔部の形状は、陽極酸化皮膜表面からアルミニウム板側に向かって径が大きくなる(表層平均径より底部平均径がより大きい)略円錐状であった。また、実施例1〜3、20においては、小径孔部の形状は略直管状であった。他の実施例4〜19、21〜23においては、小径孔部は図1(B)に示すように略直管状の主孔部と、略円錐状の拡径孔部とから構成されていた。実施例4〜19、21〜23において、拡径孔部の最大値は主孔部の最大値より1〜8nm程度大きかった。さらに、実施例4〜19、21〜23において、小径孔部の全深さの内、主孔部の占める割合は90%程度であった。
【0192】
一方、所定の平均径および深さの関係を満たさない平版印刷版用支持体を用いた比較例1〜17においては、実施例1〜23と比較して効果の劣る結果のみが得られた。
特に、特開平11−291657号公報において具体的に開示されている実施例1〜5を再現した比較例13〜17においては、放置払い性、インキ払い性、機上現像性、および耐傷性に劣る結果が得られた。
【0193】
(耐ポツ状汚れ性)
得られた平版印刷版原版を、25℃、70%RHの環境下で1時間、合紙と共に調湿し、アルミクラフト紙で包装した後、60℃に設定したオーブンで10日間加熱を行った。
その後、室温まで温度を下げてから、上記同様の印刷機及び手法で機上現像したのち、印刷を500枚行った。500枚目の印刷物を目視により確認し、80cm2当たりの、20μm以上の印刷汚れの個数を算出した。
ポツ状汚れが、150個以上のものを「×」、100個以上150個未満のものを「○」、50個以上100個未満のものを「◎」、50個未満のものを「◎◎」とした。
なお、実用上、「×」でないことが好ましい。
【0194】
実施例4〜19および21で得られた平版印刷原版を用いて上記耐ポツ状汚れ性を評価したところ、実施例4〜19においては「◎」、実施例21においては「◎◎」の評価であった。
一方、比較例15および18で得られた平版印刷原版を用いて耐ポツ状汚れ性を評価したところ、「×」であった。
【0195】
(実施例24および比較例18)
実施例1および比較例1の(k)第2陽極酸化処理後のそれぞれのアルミニウム支持体に、下記シリケート処理を行った後、それぞれのアルミニウム支持体上に、下記下塗り層と記録層とをこの順に形成し、実施例24および比較例18で用いる平版印刷版原版を得た。
【0196】
(シリケート処理)
実施例1および比較例1の(k)第2陽極酸化処理により得られたそれぞれのアルミニウム支持体を温度30℃の3号ケイ酸ソーダの1質量%水溶液の処理槽中へ、10秒間、浸せきすることでアルカリ金属ケイ酸塩処理(シリケート処理)を行った。その後、井水を用いたスプレーによる水洗を行い、表面シリケート親水化処理された支持体を得た。上記のようにして得られたアルカリ金属ケイ酸塩処理後のアルミニウム支持体上に、下記組成の下塗り液を塗布し、80℃で15秒間乾燥し、下塗り層を形成させた。乾燥後の下塗り層の被覆量は15mg/m2であった。
【0197】
(下塗り液組成)
・下記化合物(重量平均分子量:90,000) 0.3g
・メタノール 100g
【0198】
【化6】

【0199】
(記録層(重層)の形成)
上記で得られた支持体の下塗り層上に下記組成の下層用塗布液1を塗布量が0.85g/m2になるようバーコーターで塗布したのち、142℃で50秒間乾燥し、直ちに17〜20℃の冷風で支持体の温度が35℃になるまで冷却した。
その後、下記組成の上層用塗布液1を塗布量が0.22g/m2になるようバーコーター塗布したのち、130℃で60秒間乾燥し、更に20〜26℃の風で徐冷し、実施例24および比較例18で用いる平版印刷版原版を得た。
【0200】
(下層用塗布液1)
・N−(4−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル(36/34/30:重量平均分子量50000、酸価2.65) 1.92g
・ノボラック樹脂 0.192g
(m−クレゾール/p−クレゾール比=60/40、重量平均分子量5500)
・シアニン染料A(下記構造) 0.134g
・4,4’−ビスヒドロキシフェニルスルホン 0.126g
・無水テトラヒドロフタル酸 0.190g
・p−トルエンスルホン酸 0.008g
・3−メトキシ−4−ジアゾジフェニルアミンヘキサフルオロホスフェート 0.032g
・エチルバイオレットの対イオンを6−ヒドロキシナフタレンスルホン酸に変えたもの 0.0781g
・ポリマー1(下記構造) 0.035g
・メチルエチルケトン 25.41g
・1−メトキシ−2−プロパノール 12.97g
・γ−ブチロラクトン 13.18g
【0201】
【化7】

【0202】
(上層用塗布液1)
・Ph,m,p−クレゾールノボラック 0.3479g
(Ph/m/p比=5/3/2、重量平均分子量4500、未反応クレゾール0.8重量%含有)
・ポリマー3(下記構造:MEK30%溶液) 0.1403g
・シアニン染料A(上記構造) 0.0192g
・ポリマー1(上記構造) 0.015g
・スルホニウム塩(下記構造) 0.006g
・メチルエチルケトン 6.79g
・1−メトキシ−2−プロパノール 13.07g
【0203】
【化8】

【0204】
得られた平版印刷版原版をCreo社製Trendsetterにてビーム強度9w、ドラム回転速度150rpmでテストパターン(175lpi 50%)を画像状に描き込みを行った。上記の条件で露光した実施例24、比較例18の平版印刷版原版を、富士フイルム(株)製現像液DT−2を水で希釈したもの(DT−2:水=1:8)を仕込んだバットにいれ、液温を30度に保ち、現像時間0〜12秒で現像し、実施例24および比較例18で用いる平版印刷版を得た。
【0205】
(実施例25および比較例19)
実施例1および比較例1の(k)第2陽極酸化処理後のそれぞれのアルミニウム支持体をポリビニルホスホン酸の水溶液に浸漬し、取り出した後、得られたそれぞれのアルミニウム支持体上に、下記画像記録層を塗布し、オーブン内において105℃で2.5時間乾燥させ、実施例25および比較例19で用いる平版印刷版原版を得た。画像記録層の乾燥した被覆量は1.5g/m2であった。
【0206】
(画像記録層)
・クレゾールノボラック樹脂(Bakelite AG社製、Ruthapen0744 LB) 7.22g
・クリスタル・バイオレット(C.I.42555、ベーシック・バイオレット3(λmax=588nm)) 0.2g
・赤外線吸収剤(S0094、FEW Chemicals社製、λmax=813nm) 0.16g
・1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン 0.4g
・1−メトキシ−2−プロパノール 91.8g
【0207】
得られた平版印刷版原版をCREO Lotem 400 Quantumイメージャーにより80mJ/cm2のエネルギー範囲で露光し、GOLDSTARプレミアムディベロッパーを使用してGlunz&Jensenの「InterPlater 85HD」プロセッサー内において25℃で30秒間現像し、実施例24および比較例18で用いる平版印刷版を得た。
【0208】
(実施例26および比較例20)
実施例1および比較例1の(k)第2陽極酸化処理後のそれぞれのアルミニウム支持体に、純水にポリ(アクリル酸)を0.4質量%溶解させた53℃の処理液に10秒浸漬し、乾燥工程にてアルミニウム板上の水分を完全に除去し、実施例26および比較例20のアルミニウム支持体を作製した。
【0209】
上記アルミニウム支持体上に下記画像記録層塗布液を巻き線ロッドで塗布し、90℃のコンベヤーオーブン中で約45秒滞留時間乾燥し、実施例26および比較例20で用いる平版印刷版原版を得た。乾燥塗布量は1.0g/m2であった。
【0210】
(画像記録層塗布液)
・下記ポリマーE 1.93質量部
・Sartomer399(ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、Sartomer Company(ペンシルバニア州、エクストン)、80質量%2−ブタノン溶液) 1.45質量部
・グラフトコポリマー 4.83質量部
(グラフトコポリマーは、本出願に引用した米国特許出願公開20040260050の段落[0138]に記載したコポリマー9を含んでなる、n−プロパノール/水の80/20混合物中の24質量%分散液である。コポリマー9は、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(平均Mnが2080)、スチレンおよびアクリロニトリルから、3種のモノマーの質量比10:9:81で誘導された。)
・Irugacure250(ヨードニウム(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヘキサフルオロホスフェート、チバ・スベシャリティ社製、75質量%プロピレンカーボネート溶液) 0.30質量部
・下記赤外線吸収剤I 0.19質量部
・メルカプト−3‐トリアゾール 0.13質量部
・Byk336(変性ジメチルポリシロキサンコポリマー、Byk Chemie社製、25重量%キシレン/メトキシプロピルアセテート溶液 0.42質量部
・Klucel M(ヒドロキシプロピルセルロース増粘剤、Hercules社製、1質量%水溶液) 4.63質量部
・ELVACITE4026(高度に分岐したポリ(メチルメタクリレート)、Ineos Acrylica,Inc.10質量%2−ブタノン溶液) 2.32質量部
・n−プロパノール 54.03質量部
・2−ブタノン 15.97質量部
・水 13.81質量部
【0211】
【化9】

【0212】
(ポリマーEの合成)
メチルエチルケトン(116.0g)、Desmodur(登録商標)N100(95.5g、0.5当量)、ヒドロキシエチルアクリレート(30g、0.25当量)、ペンタエリトリトールトリアクリレート(86.6g、0.21当量、Viscoat−300、日本、Osaka Chemicalから市販)およびヒドロキノン(0.043g)を、加熱マントル、温度コントローラ、メカニカルスターラー、コンデンサーおよび窒素の入口を備えた四つ首500mlフラスコに入れた。室温で10分間攪拌後、反応混合物を40℃に加熱し、ジブチルスズジラウレート(0.14g)を加えると反応混合物は60℃に発熱した。2時間後、滴定法により求められたNCOパーセントは理論どおりであった。反応混合物を35℃に冷却し、ジメチルアセトアミド(29.2g)およびp−アミノ安息香酸(6.86g、0.05当量)を加えた。処理の間、ブチルスズジラウレート(0.8g)を2回に分けて加え、反応混合物を45℃に加熱した。反応の終了は、2275cm−1でのイソシアネート赤外吸収バンドの消失により決定した。
【0213】
(実施例27および比較例21)
実施例1および比較例1で得られたアルミニウム支持体上に、それぞれ下記画像記録層塗布液を湿潤厚さ30g/m2となるように画像記録層を塗布し、乾燥して、実施例27および比較例21で用いる平版印刷版原版を得た。
【0214】
(画像記録層塗布液)
ポリスチレン粒子(アニオン性湿潤剤で安定化、平均粒度:70nm)600mg/m2
下記染料I(赤外吸収染料) 60mg/m2
ポリアクリル酸(Allied ColloidsからのGlascol D15、分子量 2.7×107g/モル) 120mg/m2
下記染料II 80mg/m2
【0215】
【化10】

【0216】
得られた平版印刷版原版を、プレートセッターCreo Trendsetter(CreoScitex,Burnaby,Canada、330mJ/cm2、150rpmで運転)を用いて露光した。露光した平版印刷版原版をHWP450処理装置(Agfa−Gevaert N.V.,Mortsel,Belgium)において、下記組成の現像液で現像処理し、実施例27および比較例21で用いる平版印刷版を得た。現像後、温度270℃の炉中で2分間、平版印刷版を加熱した。
【0217】
(現像液)
界面活性剤(DOWFAX3B2、Dow Chemical) 77ml/l
クエン酸 10g/l
クエン酸トリナトリウム 33g/l
(pH5.0、表面張力:45mN/m)
【0218】
平版印刷版をGTO46印刷機(Heidelberger Druckmaschinen AG,Heidelberg,Germany)に搭載した。K&E800インキならびに湿し液としての4%CombifixXL及び10%のイソプロパノールを用いて印刷した。
【0219】
(実施例28および比較例22)
実施例1および比較例1の(k)第2陽極酸化処理によって得られたそれぞれのアルミニウム支持体を、純水にポリビニルホスホン酸(PCAS社製)を0.4質量%溶解させた53℃の処理液に10秒浸漬し、ニップロールにて余剰の処理液を除去した。この後に、カルシウムイオン濃度を20〜400ppm含む60℃の井水にて4秒間水洗し、更に25℃の純水で4秒間洗浄し、ニップロールにて余剰の純水を除去した。その後の乾燥工程にてアルミニウム板上の水分を完全に除去し、実施例28および比較例22のアルミニウム支持体を作製した。
【0220】
(感光層の形成)
上記支持体上に、下記組成の感光層塗布液をバー塗布した後、90℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.3g/m2の感光層を形成した。
【0221】
(感光層塗布液)
下記重合性化合物(1) 3.6g
下記バインダーポリマー(2)(質量平均分子量:47000) 2.4g
下記増感色素(4) 0.32g
下記重合開始剤(1) 0.61g
下記連鎖移動剤(2) 0.57g
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩 0.020g
ε―フタロシアニン分散物 0.71g
(顔料:15質量部、分散剤(アリルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(質量平均分子量:6万、共重合モル比:83/17)):10質量部、シクロヘキサノン:15質量部)
下記フッ素系界面活性剤(1)(質量平均分子量:10000) 0.016g
メチルエチルケトン 47g
プロピレングリコールモノメチルエーテル 45g
【0222】
【化11】

【0223】
【化12】

【0224】
【化13】

【0225】
(保護層の形成)
感光層が形成された支持体上に下記組成の保護層塗布液をバー塗布した後、125℃で70秒間乾燥し、乾燥塗布量1.8g/m2の保護層を形成し、実施例28および比較例22で用いる平版印刷版原版を得た。
【0226】
(保護層塗布液)
下記雲母分散液 0.6g
スルホン酸変性ポリビニルアルコール 0.8g
(ゴーセランCKS−50、日本合成化学(株)製(鹸化度:
99モル%、平均重合度:300、変性度:約0.4モル%))
ポリ(ビニルピロリドン/酢酸ビニル(1/1))(分子量:7万)0.001g
界面活性剤(エマレックス710、日本エマルジョン(株)製) 0.002g
水 13g
【0227】
(雲母分散液)
水368gに合成雲母(ソマシフME−100、コープケミカル社製、アスペクト比:1000以上)32gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)0.5μmになる迄分散し、雲母分散液を得た。
【0228】
(露光、現像及び印刷)
得られた平版印刷版原版を、FUJIFILM Electronic Imaging Ltd 製Violet半導体レーザープレートセッターVx9600(InGaN系半導体レーザー405nm±10nm発光/出力30mWを搭載)により画像露光を実施した。画像描画は、解像度2438dpiで、富士フイルム(株)製FMスクリーン(TAFFETA 20)を用い、50%の平網を、版面露光量0.05mJ/cm2で実施した。
次いで、下記組成の現像液を用い、図6に示す構造の自動現像処理機にて、プレヒート100℃で10秒、現像液中への浸漬時間(現像時間)が20秒となる搬送速度にて現像処理を実施し、実施例28および比較例22で用いる平版印刷版を得た。
なお、図6の自動現像処理機は、平版印刷版原版(以下「PS版」という。)100を現像前に全面加熱処理する前加熱部104、PS版100を現像する現像部106、現像後のPS版100を乾燥する乾燥部110を備えている。画像露光されたPS版100は、搬入口から搬入ローラ112により前加熱部104に搬入され、加熱室105において加熱処理される。加熱室105には、串ローラ114が設けられている。また、加熱室105には図示しない発熱手段、温風供給手段等の加熱手段が設けられている。次いで、PS版100は、搬送ローラ116により現像部106へ搬送される。現像部106の現像槽120内には、搬送方向上流側から順に、搬送ローラ122、ブラシローラ124、スクイズローラ126が備えられ、これらの間の適所にバックアップローラ128が備えられている。PS版100は搬送ローラ122により搬送されながら現像液中を浸漬されてブラシローラ124を回転させることによりPS版100の非画像部の除去を行なって現像処理される。現像処理されたPS版100はスクイズローラ(搬出ローラ)126により次の乾燥部110へ搬送される。
乾燥部110は、搬送方向上流側から順に、ガイドローラ136、一対の串ローラ138が設けられている。また、乾燥部110には図示しない温風供給手段、発熱手段等の乾燥手段が設けられている。乾燥部110には排出口が設けられ、乾燥手段により乾燥されたPS版100は排出口から排出されて、PS版に対する自動現像装処理が完了する。
【0229】
(現像液)
・下記界面活性剤−1(川研ファインケミカル(株)製:ソフタゾリンLPB−R)
15g
・下記界面活性剤−2(川研ファインケミカル(株)製:ソフタゾリンLAO)
4g
・キレート剤 エチレンジアミンコハク酸 三ナトリウム
(InnoSpec specialty chemicals社製:オクタクエストE30) 0.68g
・2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3ジオール 0.025g
・2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン 0.025g
・シリコーン系消泡剤(GE東芝シリコーン(株)社製:TSA739)0.15g
・グルコン酸ナトリウム 1.5g
・炭酸ナトリウム 1.06g
・炭酸水素ナトリウム 0.52g
・水 77.04g
*上記組成の現像液に、水酸化ナトリウム、及びリン酸を添加し、pHを9.8に調整した。
【0230】
【化14】

【0231】
(実施例29および比較例23)
実施例1および比較例1の(k)第2陽極酸化処理によって得られたそれぞれのアルミニウム支持体に、下記の表面処理液(40℃)に10秒間浸漬し、20℃の水道水で2秒間洗浄し、100℃で10秒間乾燥してアルミニウム支持体の表面処理を行い、実施例29および比較例23のアルミニウム支持体を作製した。
【0232】
(表面処理液)
ポリビニルホスホン酸 4g
水道水 1000g
【0233】
得られたアルミニウム支持体上に下記組成の感光層塗布液2をバー塗布した後、90℃、60秒間オーブン乾燥し、乾燥塗布量1.3g/m2の感光層を形成した。
【0234】
(感光層塗布液2)
下記バインダーポリマー(1)(質量平均分子量:5万) 0.04g
下記バインダーポリマー(2)(質量平均分子量:8万) 0.30g
重合性化合物(1) 0.51g
(PLEX6661−O、デグサジャパン製)
下記重合性化合物(2) 0.17g
下記増感色素(1) 0.03g
下記増感色素(2) 0.015g
下記増感色素(3) 0.015g
上記重合開始剤(1) 0.13g
連鎖移動剤(メルカプトベンゾチアゾール) 0.01g
ε―フタロシアニン顔料の分散物 0.40g
(顔料:15質量部、分散剤(アリルメタクリレート/メタクリル酸共重合体 (質量平均分子量:6万、共重合モル比:83/17)):10質量部、 シクロヘキサノン:15質量部)
熱重合禁止剤(N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩)0.01g
上記フッ素系界面活性剤(1)(質量平均分子量:10000) 0.001g
1−メトキシ−2−プロパノール 3.5g
メチルエチルケトン 8.0g
【0235】
【化15】

【0236】
【化16】

【0237】
(保護層の形成)
上記で形成された感光層上に下記組成の保護層塗布液をバー塗布した後、120℃で70秒間乾燥し、乾燥塗布量1.25g/m2の保護層を形成し、実施例29および比較例23で用いる平版印刷版原版を得た。
【0238】
〔保護層塗布液〕
PVA−205 0.658g
(部分加水分解ポリビニルアルコール、クラレ(株)製(鹸化度: 86.5−89.5モル%、粘度:4.6−5.4mPa・s (20℃、4質量%水溶液中))
PVA−105 0.142g
(完全加水分解ポリビニルアルコール、クラレ(株)製(鹸化度: 98.0−99.0モル%、粘度=5.2−6.0mPa・s (20℃、4質量%水溶液中))
ポリ(ビニルピロリドン/酢酸ビニル(1/1))(分子量7万)0.001g
界面活性剤(エマレックス710、日本エマルジョン(株)製) 0.002g
水 13g
【0239】
(露光、現像及び印刷)
各平版印刷版原版を、FFEI製Violet半導体レーザープレートセッターVx9600(InGaN系半導体レーザー(発光波長405nm±10nm/出力30mW)を搭載)により画像露光した。画像露光は、解像度2438dpiで、富士フイルム(株)製FMスクリーン(TAFFETA 20)を用い、50%の平網を版面露光量0.05mJ/cm2で行った。
次いで、下記組成の現像液を用い、図6に示すような構造の自動現像処理機にて現像処理を実施した。プレヒート部の温度は110℃であった。現像液の温度は25℃であった。平版印刷版原版の搬送は、搬送速度100cm/minで行った。現像処理後、乾燥部にて乾燥を行った。乾燥温度は80℃であった。上記処理を行うことにより、実施例29および比較例23で用いる平版印刷版を得た。
【0240】
〔現像液〕
プロピレンオキサイド−エチレンオキサイドブロックコポリマー 20.0g
(PE9400、BASF社製)
界面活性剤(Emulsogen TS160、CLARIANT社製)0.30g
グルコン酸ナトリウム 0.75g
リン酸85%水溶液 5.88g
トリエタノールアミン 14.5g
水 73.07g
(pH:7.0)
【0241】
(実施例30および比較例24)
実施例1および比較例1の(k)第2陽極酸化処理によって得られたそれぞれの支持体に下記下塗り層塗布液を、バーコーターを用いて乾燥塗布量20mg/m2となるように塗布し、150℃で5秒間乾燥して、それぞれの支持体上に下塗り層を形成した。
【0242】
(下塗り層塗布液)
・テトラエチルシリケート 4.0質量部
・化合物1(下記) 1.2質量部
・化合物2(下記) 11.0質量部
・メタノール 5.0質量部
・リン酸水溶液(85%) 2.5質量部
【0243】
【化17】

【0244】
【化18】

【0245】
上記成分を混合、攪拌すると約30分で発熱した。60分攪拌して反応させた後、以下に示す液を加えることによって下塗り層塗布液を調整した。
・メタノール 2000質量部
・1−メトキシ−2−プロパノール 100質量部
【0246】
(平版印刷版原版の作製)
上記で作製された支持体上にバーコーターを用いて下記組成の感光層形成用塗布液(x)を塗布した後、90℃で1分間乾燥して感光層を形成した。感光層形成用塗布液(x)の固形分は、8.2質量%であった。乾燥後の感光層の質量は1.35g/m2であった。
【0247】
(感光層形成用塗布液(x))
重合性化合物(DEGUSSA製PELEX6661−O) 1.69質量部
高分子バインダー(下記化合物3、質量平均分子量:80000) 1.87質量部
増感色素(例示化合物D76) 0.13質量部
へキサアリールビスイミダゾール光重合開始剤 0.46質量部
(黒金化成(株)製BIMD)
ε―フタロシアニン顔料の分散物 1.70質量部
(顔料:15質量部、分散剤(アリルメタクリレート/メタクリル酸共重合体 (質量平均分子量:60000、共重合モル比:83/17)):10質量部、シクロヘキサノン:15質量部)
メルカプト化合物(下記化合物SH−1) 0.34質量部
フッ素系ノニオン界面活性剤 0.03質量部
(メガファックF−780F、大日本インキ化学工業(株)製)
クペロンAL(和光純薬工業(株)製重合禁止剤)
トリクレジルホスフェート10質量%溶液 0.12質量部
メチルエチルケトン 27.0質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 26.7質量部
【0248】
【化19】

【0249】
【化20】

【0250】
【化21】

【0251】
この感光層上に、下記組成の保護層形成用塗布液(水溶液)を乾燥塗布質量が2.5g/m2となるようにバーコーターで塗布し、100℃、1分間乾燥させ、実施例30および比較例24で用いる平版印刷版原版を得た。保護層形成用塗布液の固形分は、6.0質量%であった。
【0252】
(保護層形成用塗布液)
ポリビニルアルコール(ケン化度95モル%、重合度500) 162.0質量部
ポリビニルピロリドン(K−30、和光純薬製) 35.9質量部
ルビスコールVA64W(50%水溶液、BASF製) 10.0質量部
ノニオン系界面活性剤(パイオニンD230、竹本油脂製) 4.6質量部
ノニオン系界面活性剤(エマレックス710、日本乳化剤製) 3.7質量部
【0253】
上述の平版印刷版原版を天地700mm、幅500mmのサイズにカットした後、FUJIFILM Electronic Imaging Ltd 製Violet半導体レーザーセッターVx9600(InGaN系半導体レーザー405nm±10nm発光/出力30mW)に装填し、90μJ/cm2の露光量、解像度2438dpiで、富士フイルム(株)製FMスクリーン、TAFFETA 20で35%の平網を描画した。露光後の版は自動的に、接続されている自動現像機LP1250PLX(ブラシ付)に送られ、100℃で10秒間加熱後、保護層を水洗除去し、引き続いて28℃で20秒間、現像処理された。現像後の版はリンス浴で水洗後、ガム引き浴へ送られ、ガム引き後の版は、熱風乾燥後排出され、平網を描画した実施例30および比較例24で用いる平版印刷版が得られた。ここで、現像液には富士フイルム(株)製現像液DV−2を水で5倍に希釈したものを用いた。ガム液には富士フイルム(株)製FP−2Wを水で2倍に希釈したものを用いた。
【0254】
(実施例31および比較例25)
[複素環を有する高分子顔料分散剤の合成]
〔合成例1:重合体No.1の合成〕
M−11(以下参照) 10.0部、末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート〔数平均分子量6,000:AA−6:東亞合成(株)製、MM−1と記載〕75.0部、メタクリル酸15.0部、及び1−メトキシ−2−プロパノール334.0部を、窒素置換した三口フラスコに導入し、撹拌機(新東科学(株):スリーワンモータ)にて撹拌し、窒素をフラスコ内に流しながら加熱して90℃まで昇温した。
これに、2、2−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製の「V−65」)を0.5部加え、90℃にて2時間加熱撹拌を行った。2時間後、更にV−65を0.5部加え、3時加熱撹拌の後、メチルメタクリレート、メタクリル酸由来の主鎖に、MM−1由来の側鎖を有するグラフト型高分子化合物(重合体No.1)の30%溶液を得た。
得られた高分子化合物(重合体No.1)の重量平均分子量を、ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により測定した結果、20,000であった。
また、水酸化ナトリウムを用いた滴定によれば、固形分あたりの酸価は、98mgKOH/gであった。
【0255】
【化22】

【0256】
〔顔料分散物の調製〕
C.I.ピグメントブルー15:6 15.0部に、分散剤(重合体No.1/アジスパーPB822=9/1(重量比))を7.5部、メチルエチルケトン31.0部、メタノール15.5部、1−メトキシ−2−プロパノール31.0部の合計100部を混合し、ダイノミルで30分間分散し、顔料分散物を調製した。
【0257】
実施例1および比較例1の(k)第2陽極酸化処理によって得られたそれぞれのアルミニウム支持体上に、下記下塗り層塗布液を乾燥塗布量が10mg/m2になるように表面処理を施すことで、それぞれの支持体上に下塗り層を形成した。
【0258】
(下塗り層塗布液)
・下記構造の高分子化合物A(重量平均分子量:30000) 0.017質量部
・メタノール 9.00質量部
・水 1.00質量部
【0259】
【化23】

【0260】
なお、上記高分子化合物Aにおける各単量体単位を表す括弧の右下の数字は、モル比を表す。
【0261】
(感光層の形成)
下記感光層形成用塗布液を調製し、上記のように形成された下塗り層上にワイヤーバーを用いて塗布した。乾燥は、温風式乾燥装置にて125℃で34秒間行った。乾燥後の被覆量は1.0g/m2であった。
【0262】
(感光層形成用塗布液)
・赤外線吸収剤(IR−1:下記構造式) 0.038質量部
・重合開始剤A(S−1:下記構造式) 0.061質量部
・重合開始剤B(I−1:下記構造式) 0.094質量部
・メルカプト化合物(E−1:下記構造式) 0.015質量部
・重合性化合物(A−BPE−4:下記構造式)(商品名:A−BPE−4 新中村化工業(株)) 0.425質量部
・バインダーポリマーA(B−1:下記構造式) 0.311質量部
・バインダーポリマーB(B−2:下記構造式) 0.250質量部
・バインダーポリマーC(B−3:下記構造式) 0.062質量部
・添加剤(増感助剤)(T−1:下記構造式) 0.079質量部
・重合禁止剤(Q−1:下記構造式) 0.0012質量部
・上記顔料分散物 0.137質量部
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780−F 大日本インキ化学工業(株)、メチルイソブチルケトン(MIBK)30質量%溶液) 0.0081質量部
・メチルエチルケトン(MEK) 6.000質量部
・メタノール(MA) 3.000質量部
・1−メトキシ−2−プロパノール(MFG) 6.000質量部
【0263】
なお、上記感光層形成用塗布液Aに用いた、赤外線吸収剤(IR−1)、重合開始剤A(S−1)、重合開始剤B(I−1)、メルカプト化合物(E−1)、重合性化合物(A−BPE−4)、バインダーポリマーA(B−1)、バインダーポリマーB(B−2)、バインダーポリマーC(B−3)、添加剤(T−1)及び重合禁止剤(Q−1)の構造を以下に示す。
【0264】
【化24】

【0265】
【化25】

【0266】
(下部保護層の形成)
形成された感光層上に、合成雲母(ソマシフMEB−3L、3.2%水分散液、コープケミカル(株)製)、ポリビニルアルコール(ゴーセランCKS−50:ケン化度99モル%、重合度300、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、日本合成化学工業(株)製)、界面活性剤A(エマレックス710、日本エマルジョン(株)製)、及び、界面活性剤B(アデカプルロニックP−84、(株)ADEKA製)の混合水溶液(下部保護層形成用塗布液)をワイヤーバーで塗布し、温風式乾燥装置にて125℃で30秒間乾燥させた。
この混合水溶液(下部保護層形成用塗布液)中の合成雲母(固形分)/ポリビニルアルコール/界面活性剤A/界面活性剤Bの含有量割合は、7.5/89/2/1.5(質量%)であり、塗布量は(乾燥後の被覆量)は0.5g/m2であった。
【0267】
(上部保護層の形成)
下部保護層上に、有機フィラー(アートパールJ−7P、根上工業(株)製)、合成雲母(ソマシフMEB−3L、3.2%水分散液、コープケミカル(株)製)、ポリビニルアルコール(L−3266:ケン化度87モル%、重合度300、スルホン酸変性ポリビニルアルコール日本合成化学工業(株)製)、増粘剤(セロゲンFS−B、第一工業製薬(株)製)、及び、界面活性剤(日本エマルジョン(株)製、エマレックス710)の混合水溶液(上部保護層形成用塗布液)をワイヤーバーで塗布し、温風式乾燥装置にて125℃で30秒間乾燥させた。
この混合水溶液(上部保護層形成用塗布液)中の有機フィラー/合成雲母(固形分)/ポリビニルアルコール/増粘剤/界面活性剤の含有量割合は、4.8/2.9/69.0/19.0/4.3(質量%)であり、塗布量は(乾燥後の被覆量)は1.2g/m2であった。
【0268】
(バックコート層の形成、及び製版処理)
保護層を設けた側と反対の面には以下のバックコート塗布液組成物をワイヤーバー塗布し、100℃70秒間乾燥し、有機高分子化合物を含むバックコート層を得て、実施例32および比較例26で用いる平版印刷版原版を得た。塗布量は0.46g/m2であった。
【0269】
(バックコート塗布液)
・テトラエトキシシラン 2.17部
・ジブチルマレイン酸エステル 0.16部
・ピロガロール樹脂(重量平均分子量3,000:下記構造式) 0.16部
・メガファックF−780−F(DIC(株)製) 0.005部
・メチルエチルケトン 22.5部
・1−メトキシ−2−プロパノール 2.5部
【0270】
【化26】

【0271】
こうして得られた平版印刷版原版をセッティング部分からオートローダーにて、Creo社製Trendsetter3244に搬送し、解像度2,400dpiで50%平網画像を、出力7W、外面ドラム回転数150rpm、版面エネルギー110mJ/cm2で露光した。露光後、加熱処理、水洗処理は行わず、富士フイルム(株)社製自動現像機LP−1310HIIを用い搬送速度(ライン速度)2m/分、現像温度30℃で現像処理し、実施例31および比較例25で用いる平版印刷版を得た。なお、現像液は富士フイルム(株)製DH−Nの1:4水希釈液を用い、現像補充液は富士フイルム(株)製FCT−421の1:1.4水希釈を用いた。
【0272】
(各種性能評価)
上記実施例24〜31、および、比較例18〜25で得られた平版印刷原版または平版印刷版を用いて、各種評価(耐刷性、放置払い性、インキ払い性、機上現像性、耐傷性)を評価した。以下に、それぞれの評価方法について述べる。なお、それぞれの評価結果を表4にまとめて示す。
【0273】
(耐刷性(その1))
実施例24、25、27、28、29、30、31、および、比較例18、19、21、22、23、24、25で得られた平版印刷版を、(株)小森コーポレーション製印刷機LITHRONE26の版胴に取り付けた。毎時10000枚の印刷速度で、特菱アート(76.5kg)紙に印刷を行い、ベタ画像の濃度が薄くなり始めたと目視で認められた時点の印刷枚数により、耐刷性を評価した。印刷枚数が5万枚未満のものを×、5万枚以上10万枚未満のものを△、10万枚以上15万枚未満のものを○、15万枚以上のものを◎とした。
【0274】
(耐刷性(その2))
実施例26および27で得られた平版印刷版原版の耐刷性は、実施例1〜23の平版印刷版原版で実施した上記の<平版印刷版原板の評価>の(耐刷性)と同様の手順に従って、評価した。評価基準は上述の通りである。
【0275】
機上現像性については、実施例26および比較例20で得られた平版印刷版原版についてのみ、実施例1〜23の平版印刷版原版で実施した(機上現像性)の評価と同様の手順に従って評価した。なお、表4中、「−」は未実施を意味する。
実施例24〜31、および、比較例18〜25において放置払い性、インキ払い性、耐傷性に関しては、実施例1〜23の平版印刷版原版で実施した評価と同様の手順に従って評価した。
【0276】
【表5】

【0277】
上記実施例24〜31に示すように、本発明の平版印刷版用支持体(上記実施例1で使用した平版印刷版用支持体)と各種画像記録層とを用いた平版印刷版原版および該原版を用いて得られる平版印刷版においても、優れた耐刷性、放置払い性、インキ払い性、機上現像性、耐傷性を示すことが確認された。
一方、上記比較例18〜25に示すように、所定の平均径および深さの関係を満たさない平版印刷版用支持体(上記比較例1で使用した平版印刷版用支持体)を用いた平版印刷版および平版印刷版原版においては、耐刷性に劣っていた。
【符号の説明】
【0278】
1、12 アルミニウム板
2、4 ローラ状ブラシ
3 研磨スラリー液
5、6、7、8 支持ローラ
ta アノード反応時間
tc カソード反応時間
tp 電流が0からピークに達するまでの時間
Ia アノードサイクル側のピーク時の電流
Ic カソードサイクル側のピーク時の電流
10 平版印刷版用支持体
14 アルミニウム陽極酸化皮膜
16 マイクロポア
18 大径孔部
20、20a 小径孔部
30 拡径孔部
32 主孔部
50 主電解槽
51 交流電源
52 ラジアルドラムローラ
53a,53b 主極
54 電解液供給口
55 電解液
56 補助陽極
60 補助陽極槽
100 平版印刷版原版
104 前加熱部
105 加熱室
106 現像部
110 乾燥部
112 搬入ローラ
114 串ローラ
116 搬送ローラ
120 現像槽
122 搬送ローラ
124 ブラシローラ
126 スクイズローラ
128 バックアップローラ
136 ガイドローラ
138 串ローラ
W アルミニウム板
610 陽極酸化処理装置
612 給電槽
614 電解処理槽
616 アルミニウム板
618、626 電解液
620 給電電極
622、628 ローラ
624 ニップローラ
630 電解電極
632 槽壁
634 直流電源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板と、その上にアルミニウムの陽極酸化皮膜とを備え、前記陽極酸化皮膜中に前記アルミニウム板とは反対側の表面から深さ方向にのびるマイクロポアを有する平版印刷版用支持体であって、
前記マイクロポアが、陽極酸化皮膜表面から深さ5〜60nm(深さA)の位置までのびる大径孔部と、前記大径孔部の底部と連通し、連通位置から深さ900〜2000nmの位置までのびる小径孔部とから構成され、
大径孔部の径が陽極酸化皮膜表面からアルミニウム板側に向かって漸増し、大径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径(表層平均径)よりも前記連通位置における大径孔部の平均径(底部平均径)が大きく、前記底部平均径が10〜60nmで、前記底部平均径と深さAとが(深さA/底部平均径)=0.1〜4.0の関係を満たし、
小径孔部の前記連通位置における平均径(小径孔部径)が0より大きく20nm未満であり、
前記底部平均径と前記小径孔部径との平均径の比(小径孔部径/底部平均径)が0.85以下であることを特徴とする平版印刷版用支持体。
【請求項2】
前記小径孔部の底部と前記アルミニウム板表面までの陽極酸化皮膜の厚みが20nm以上である、請求項1に記載の平版印刷版用支持体。
【請求項3】
前記マイクロポアの密度が100〜3000個/μm2である、請求項1または2に記載の平版印刷版用支持体。
【請求項4】
アルミニウム板を陽極酸化する第1陽極酸化処理工程と、
前記第1陽極酸化処理工程で得られた陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板をさらに陽極酸化する第2陽極酸化処理工程とを備え、請求項1〜3のいずれかに記載の平版印刷版用支持体を製造する、平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の平版印刷版用支持体上に、画像記録層を有することを特徴とする平版印刷版原版。
【請求項6】
前記画像記録層が、露光により画像を形成し、非露光部が印刷インキおよび/または湿し水により除去可能となる画像記録層である請求項5に記載の平版印刷版原版。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−192724(P2012−192724A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97184(P2011−97184)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】