説明

平版印刷版用版面洗浄剤及び平版印刷版の版面処理方法

【課題】酸素遮断性保護層、とりわけ無機微粒子を含む酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版において、ブラインディングを発生させずに、良好に版面処理することができる版面洗浄剤を提供する。
【解決手段】酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版に用いる平版印刷版用乳化型版面洗浄剤であって、該版面洗浄剤の全質量に基づいて含まれる塩の全カチオンの含有量が0.5質量%以上であって、該全カチオンの質量に基づいて30質量%以上がカリウム、セシウム及びルビジウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、平版印刷版用乳化型版面洗浄剤;酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版を、上記平版印刷版用乳化型版面洗浄剤にて洗浄することを含む、平版印刷版の版面処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平版印刷版の版面洗浄剤に関し、具体的には、乳化型版面洗浄剤に関し、さらに詳しくは、酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版に使用する乳化型版面洗浄剤に関する。本発明はまた、そのような乳化型版面洗浄剤を用いる平版印刷版の版面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、平版印刷版は、印刷過程でインキを受容する親油性の画像部と、湿し水を受容する親水性の非画像部とからなる。平版印刷は、水と油性インキが互いに反発する性質を利用して、平版印刷版の親油性の画像部をインキ受容部、親水性の非画像部を湿し水受容部(インキ非受容部)として、平版印刷版の表面にインキの付着性の差異を生じさせ、画像部のみにインキを着肉させた後、紙などの被印刷体にインキを転写して印刷する方法である。平版印刷では、湿し水によって、非画像領域を湿潤させて画像領域と非画像領域との界面化学的な差を拡大して、非画像領域のインキ反撥性と画像領域のインキ受容性とを増大させることがなされる。従って、平版印刷版の非画像域の親水性が何らかの原因で劣化すると、しばしばその領域にインキが付着し、所謂「地汚れ」が発生し、逆に画像部に何らかの成分が付着することなどにより、インキが乗らずに印刷物の画像濃度が上がらない場合がある。
親水性が劣化し汚れやすくなった場合、あるいは、インキが画像部に乗らなくなった場合には、これらを回復させるために版面洗浄剤により平版印刷版の版面処理を行い、非画像域の親水性、画像部の着肉性を回復させることが一般に行われている。従来、種々の平版印刷版用版面洗浄剤が提案されてきている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
一方、平版印刷版の観点からみると、従来、親水性の支持体上に親油性の感光性樹脂(画像記録層)を設けてなる平版印刷版原版(PS版)が広く用いられてきた。このような平版印刷版原版を、リスフィルムなどの原画を通した露光を行なった後、画像記録層の画像部となる部分を残存させ、それ以外の不要な画像記録層をアルカリ性現像液又は有機溶剤によって溶解除去し、親水性の支持体の表面を露出させて非画像部を形成する方法により製版して、平版印刷版を得ている。
近年、画像情報をコンピューターによって電子的に処理し、蓄積し、出力する、デジタル化技術が広く普及してきており、このようなデジタル化技術に対応した新しい画像出力方式が種々実用されるようになってきている。これに伴い、レーザー光のような高収斂性の輻射線にデジタル化された画像情報を担持させて、その光で平版印刷版原版を走査露光し、リスフィルムを介することなく、直接平版印刷版を製造するコンピューター・トゥ・プレート(CTP)技術が注目されてきている。
【0004】
上述のCTP用平版印刷版原版の一例として、光重合型の平版印刷版原版が提案されている。光重合型の平版印刷版原版には、一般的に重合開始剤(光、熱あるいはその両方のエネルギーによりラジカルを発生し、重合性の不飽和基を有する化合物の重合を開始、促進する化合物)が用いられるため、空気中の酸素によるラジカル失活を抑制して重合効率を向上させるため、画像記録層の上に酸素遮断性の保護層が通常設けられる。この保護層の成分としてポリビニルアルコールがよく知られている。また、酸素遮断性保護層に無機質の微粒子を含有させることが提案されている(例えば特許文献3参照)。
このような酸素遮断性保護層に使用されている無機化合物は、現像後の画像部表面に一部残存して、それ自体の親水性により、及び/又は、その無機化合物の表面に湿し水中の親水性成分が吸着することによって、印刷中に画像部表面の充分なインキ受容性が失われ、その結果、印刷物上のインキ濃度が低下してしまうインク着肉不良の問題を起こしやすい。印刷中の画像領域にインキが乗らなくなるトラブルをブラインディングと称している。一方、印刷中に地汚れが生じた際に、版面洗浄剤で処理を行うと、ブラインディングが発生しやすくなるという不都合があり、版面洗浄剤で処理したことによってインキの乗りにムラができ、所謂拭きムラが起きることがある。
このような問題点に鑑み、酸素遮断性保護層、とりわけ無機微粒子を含む酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版において、ブラインディング、さらには拭きムラといった不都合を発生させずに、良好に使用できる版面洗浄剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−288104号公報
【特許文献2】特開2007−45055号公報
【特許文献3】特開2005−119273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酸素遮断性保護層、とりわけ無機微粒子を含む酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版において、ブラインディングを発生させずに、良好に版面処理することができる版面洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、版面洗浄剤中のカチオンの種類、更にはその量が、ブラインディングの発生の有無に関与していることを知見し、よって版面洗浄剤中のカチオンについて特定の態様を選択することで、ブラインディングの発生を抑え、画像部のインキの乗りのムラなどを起こさずに良好に版面洗浄処理することできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
したがって本発明は、酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版に用いる平版印刷版用乳化型版面洗浄剤であって、該版面洗浄剤の全質量に基づいて含まれる塩の全カチオンの含有量が0.5質量%以上であって、該全カチオンの質量に基づいて30質量%以上がカリウム、セシウム及びルビジウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、平版印刷版用乳化型版面洗浄剤である。ここで塩とは、有機塩、無機塩といった塩類、及び水酸化物を包含する。
本発明の好ましい実施態様として、該酸素遮断性保護層が無機微粒子を含む光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版に用いる、上記の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤がある。
本発明はさらに、酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版を、上記の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤にて洗浄することを含む、平版印刷版の版面処理方法に向けられている。本発明の版面処理方法は特に、無機微粒子を含む酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版を処理するのに適している。
【発明の効果】
【0008】
本発明の乳化型版面洗浄剤によれば、酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版において、非画像領域の各種汚れに対して、汚れ除去能力を発揮し、かつ画像領域に対してインキ着肉不良や拭きムラを発生させない。
本発明の乳化型版面洗浄剤によれば、酸素遮断性保護層、とりわけ無機微粒子を含む酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版を、良好に版面洗浄処理し、高品質の印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤には、その成分として、カチオンを提供する塩を含ませる。本発明で使用するカチオンを提供する塩には、無機塩、有機塩といった塩類及び水酸化物などが包含され、また、正塩、水素塩、塩基性塩、複塩、錯塩などのいずれもが包含される。本発明で使用するカチオンを提供する塩は、平版印刷版用版面洗浄剤における成分として公知の塩類や水酸化物から選択することができる。本発明の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤は、上述の塩に由来するカチオンが、カリウム(K)、セシウム(Cs)及びルビジウム(Rb)から選ばれる少なくとも1種を含むことを必要とする。すなわち、本発明の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤には、少なくとも、カリウム、セシウム及びルビジウムのうちの少なくとも1種のカチオンを提供する塩を含ませることを必要とする。なお、ここで、本発明の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤に含ませる塩に由来するカチオンとは、版面洗浄剤の調製に使用する水に由来するカチオンを包含していない。
本発明の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤はその全質量に基づいて、含ませた塩に由来する全カチオンの含有量が0.5質量%以上であり、好ましくは1.0質量%以上であり、一般的には10質量%以下であって、該全カチオンの質量に基づいて30質量%以上がカリウム、セシウム及びルビジウムから選ばれる少なくとも1種である。
本発明の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤に含める塩に由来する全カチオンが、カリウム、セシウム及びルビジウムから選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0010】
本発明の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤は、その組成例として、(1)水溶性高分子化合物、(2)リン酸、重合リン酸、その塩、例えばアルカリ金属塩、有機ホスホン酸及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物、(3)硝酸及び/又は硝酸塩、(4)硫酸、硫酸塩及び/又は重硫酸塩、(5)水を含む水相と、インキに対する溶解作用を具備する(6)炭化水素系溶剤を含む油相から構成され得る。本発明の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤には、(7)界面活性剤、(8)湿潤剤、(9)チキソトロピィー剤、(10)pH調整剤を必要に応じて含有させることができる。本発明の版面洗浄剤には、上記成分の他に防腐剤、殺菌剤、着色剤などを添加してもよい。
【0011】
上記成分(1)の水溶性高分子化合物の具体例としては、デキストリン、サイクロデキストリン、アルギン酸塩、繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等)、アラビアゴム、大豆多糖類等の天然物とその変性体及びポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びその共重合体、アクリル酸共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体等の合成物が挙げられる。
大豆から抽出された皮膜形成性を有する多糖類として、水溶性大豆多糖類が挙げられる。水溶性大豆多糖類はラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース及びウロン酸等を構成糖に含有し、その平均分子量は5万〜100万である。本発明の版面洗浄剤において水溶性大豆多糖類の含有量は、0.5〜20質量%の範囲が適当であって、好ましくは1〜10質量%である。上記水溶性大豆多糖類は水あるいは50℃以下の温水に溶解し、均一な水溶液として使用する。このような水溶性大豆多糖類の製造方法は特開平5−32701号公報に記載されている。また、水溶性大豆多糖類の市販品としてはソヤファイブ−S−LN(不二製油(株)製)等が挙げられる。本発明で使用できる大豆多糖類は10質量%水溶液の粘度(25℃)が5〜100cpの範囲のものが好ましく使用される。
これらの物質は単独又は混合して使うことができ、版面洗浄剤を好ましい粘度範囲(100cps〜1000cps程度)とするため、その使用量は版面洗浄剤の総質量に基づいて1〜24質量%が適当であり、より好ましくは3〜20質量%の範囲から選ぶことができる。
【0012】
上記成分(2)としては例えばリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウム、ピロリン酸、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリンリチウム、トリリン酸、トリリン酸ナトリウム、トリリン酸カリウム、トリリン酸リチウム、テトラリン酸、テトラリン酸ナトリウム、テトラリン酸カリウム、テトラリン酸リチウム、メタリン酸、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸リチウム、トリメタリン酸、トリメタリン酸ナトリウム、トリメタリン酸カリウム、トリメタリン酸リチウム、ヘキサメタリン酸、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸カリウム、ヘキサメタリン酸リチウム、メチレンジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン1,1−ジスルホン酸、ニトリロトリスホスホン酸、N−カルボキシメチルN,N−ジ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミン−テトラ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミン−テトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミン−ペンタ(メチレンホスホン酸)、N,N−ジ(カルボキシメチル)−N−メチレンホスホン酸、N−(2−ヒドロキシエチル)−N,N−ジ(メチレンホスホン酸)、N−ヒドロキシメチル−N,N’N’−エチレンジアミントリス(メチレンホスホン酸)、N−ヒドロキシエチル−N’,N’−ジエチルエチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラ(メチレンホスホン酸)、ジ(2−ヒドロキシプロピレン)トリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、トリ(2−ヒドロキシプロピレン)テトラアミンヘキサ(メチレンホスホン酸)等を挙げることができる。これらの化合物は市販品として入手でき、例えばモンサント・ケミカル・カンパニー (Monsanto Chemical Company)から「DEQUEST類」としてまたフィリップ・A・ハント・ケミカル・コーポレーション (Philip A Hant Chemical Corp)のウエイランドケミカル部門 (Wayland Chemical Division ) から「WAYPLEX」類として市販されている。上記のような化合物は、単独又は2種以上組み合わせて用いることができ、本発明による版面洗浄剤の総質量を基準に0.1〜15質量%、より好ましくは0.5〜10質量%の範囲となるように含有させる。
【0013】
本発明に使用される成分(3)硝酸及び/又は硝酸塩としては、硝酸のほか、硝酸塩として硝酸亜鉛、硝酸コバルト、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ニッケル、硝酸ビスマス、硝酸錫、硝酸ストロンチウム、硝酸セシウム、硝酸ルビジウム、硝酸セリウムのような硝酸の金属塩および硝酸アンモニウムなど挙げられる。本発明で使用される硝酸及び/又は水溶性の硝酸金属塩の使用範囲は、版面洗浄剤の全質量に基づいて0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜5重量%である。
【0014】
本発明に使用される成分(4)の硫酸、硫酸塩及び/又は重硫酸塩について、硫酸のほか、硫酸塩又は重硫酸塩は例えば硫酸塩としては硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸ルビジウム、硫酸アルミニウム等を挙げることができる。重硫酸塩は一般式 M(HSO4)n(但し、Mは金属を示し、nはMの価数を示す。)で表わされ、例えば硫酸水素ストロンチウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素カルシウム、硫酸水素タリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素鉛、硫酸水素ビスマス、硫酸水素マグネシウム、硫酸水素ロジウム等が挙げられる。これらの化合物は、単独又は2種以上組み合わせて使用でき、本発明による版面洗浄剤の総質量を基準として0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%の範囲で含有させられる。
本発明の版面洗浄剤の水相の残余の成分は水であるが、その量は本発明の版面洗浄剤の総質量に対して45〜85質量%が適しており、より好ましくは50〜80質量%である。
【0015】
一方、本発明の版面洗浄剤の油相には、成分(6)の炭化水素系溶剤を併用することができる。成分(6)としては、通常印刷インキの洗浄に使われている石油留分で沸点が120〜350℃のものが特に有用である。そのような炭化水素系溶剤の具体例としては例えば、日本石油化学(株)の製品で、沸点150〜200℃のクレンゾル、ドライソルベント、Aソルベント、Kソルベント、ミネラルスピリットA及びハイアロム25、沸点200〜250℃の殺虫ソルベント、フォッグソルベント及びノンサルファーソルベント、沸点250〜300℃の3号ソルベント、4号ソルベント、5号ソルベント、6号ソルベント、7号ソルベント及びトール油脂肪酸のエステル、スワゾール(芳香族系高沸点溶剤、丸善石油化学(株)製)、エクソゾール(エクソン化学(株)製)及びエクソール(ナフテン系溶剤、エクソンモービル製)などがある。これらの炭化水素系溶剤の使用範囲は、版面洗浄剤の総質量に基づいて1〜50質量%が適当であり、より好ましくは5〜35重量%である。
成分(6)は、成分(5)の水と混ざり合わないため、使用する時に充分混合分散した状態で用いる。このとき分散の安定性を高める目的で成分(7)の界面活性剤を添加することが有用である。本発明に使用できる界面活性剤としては、アニオン型界面活性剤及びノニオン型界面活性剤がある。
【0016】
アニオン型界面活性剤としては、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩類、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ヒマシ油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。これらの中でもジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類及びアルキルベンゼンスルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0017】
また、ノニオン型界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ヒマシ油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、トリエタノールアミン脂肪酸エステル類、トリアルキルアミンオキシド類などが挙げられる。その中でもソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー類等が好ましく用いられる。これらの界面活性剤は二種以上併用してもよい。界面活性剤の使用量は特に限定されるものではないが、好ましい範囲は版面洗浄剤の総質量に基づいて0.5〜10質量%である。
【0018】
上記成分の他、版面洗浄剤に良好な広がり特性を与え、乾燥を抑えて使用適性を良好ならしめる一種又はそれ以上の湿潤剤(成分(8))も有用である。適当な湿潤剤は一般式:HO−(R−O)n−H(式中RはCmH2m(m=2〜6)であり、nは1〜500である)で表される化合物である。好ましい化合物の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等であり、他の湿潤剤としてはグリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトールが有用である。湿潤剤の使用量は一般的に版面洗浄剤の総質量に基づいて0.5〜10質量%の範囲であり、より好ましくは1〜5質量%の範囲である。
【0019】
成分(9)のチキソトロピー剤、は動的圧力によって液の粘度が低下し静のときは粘度が上昇してスポンジ等で版面を処理するときの作業特性を良好にする。適当なチキソトロピー剤としては、珪酸の微粉末、パミス、炭酸カルシウム、ゼオライト等が挙げられる。その使用量は、版面洗浄剤の総質量に基づいて0.5〜10質量%の範囲が適当であり、好ましくは1〜7質量%の範囲である。
【0020】
本発明の版面洗浄剤は、酸性に調製されることが好ましく、具体的にはpH1.0〜4.0の範囲、好ましくはpH1.5〜4.0の範囲、より好ましくはpH1.5〜3.0の範囲が好ましい。このようなpH範囲に調整するためにpH調整剤(成分(10))を使用することができる。pH調整剤として、リン酸、硝酸、硫酸、亜りん酸、有機カルボン酸としてクエン酸、酢酸、マロン酸、酒石酸、りんご酸、乳酸、レブリン酸、酪酸、マレイン酸、ピコリン酸などが使用できる。また、金属水酸化物、例えばアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物であるアルカリを併用してもよい。そのような金属水酸化物として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及び水酸化バリウムなどが挙げられる。
【0021】
上記成分の他、防腐剤(殺菌剤)、着色剤等を添加することができる。防腐剤として、フェノール又はその誘導体、ホルマリン、イミダゾール誘導体、ジヒドロ酢酸ナトリウム、4−イソチアゾリン−3−オン誘導体、ベンズイソチアゾリン−3−オン誘導体、ベンズトリアゾール誘導体、アミジングアニジン誘導体、四級アンモニウム塩類ピリジン、キノリングアニジン等の誘導体、ダイアジン、トリアゾール誘導体、オキザゾール、オキサジン誘導体、ブロモニトロアルコール系の例えば2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール等が挙げられる。防腐剤の好ましい添加量は、細菌、カビ、酵母等に対して安定に効力を発揮する量であって、一般的に版面洗浄剤の総質量に基づいて0.01〜3質量%付近で添加され、また、種々のカビや細菌に効力のあるように2種以上の防腐剤を併用することが好ましい。着色剤は本発明の版面洗浄剤に所望の色調を付与して視覚的コントラストを与えるために使用されるものであり、広範囲の染料から選択することができる。特に好ましい着色剤としては青色、紫色、紅色等の色調が好適に使用される。具体的にはクリスタルバイオレット、サフラニン、ブリリアントブルー、マラカイトグリーン、アシドローダミンB等が挙げられる。その使用量は、版面洗浄剤の総質量に対して0.0001〜0.1質量%が適当であり、より好ましくは0.0003〜0.05質量%の範囲である。
【0022】
本発明の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤は、一般的乳化のO/W型又はW/O型の乳化物として常法に従って製造することができる。
【0023】
本発明の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤は、酸素遮断性保護層、とりわけ無機微粒子を含む酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版に好適に使用することができる。このような光重合型平版印刷版原版の例として、特開2005−119273号公報に記載されているものがある。
本発明の版面洗浄剤が好適に使用できる光重合型平版印刷版原版の構造として、支持体上に、(A)活性光線吸収剤と、(B)重合開始剤と、(C)重合性化合物とを含有する画像記録層、および、無機質の微粒子、特に無機質の層状化合物を含有する酸素遮断性保護層をこの順に有する平版印刷版原版がある。
【0024】
以下、上記の光重合性平版印刷版原版の構成、製版及び印刷工程について簡単に説明する。
[酸素遮断性保護層]
酸素遮断性保護層に含有される無機質の微粒子には、球状の微粒子と層状の微粒子に分類される。
[球状の微粒子]
無機質の球状の微粒子としては、金属及び金属化合物、例えば、酸化物、複合酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、窒化物、炭化物、硫化物及びこれらの少なくとも2種以上の複合化物等が挙げられ、具体的には、ガラス、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化ジルコン、酸化錫、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、硼酸アルミニウム、酸化マグネシウム、硼酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化チタン、塩基性硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム、窒化珪素、窒化チタン、窒化アルミ、炭化珪素、炭化チタン、硫化亜鉛及びこれらの少なくとも2種以上の複合化物等が挙げられる。好ましくは、ガラス、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、硼酸アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。
シリカ微粒子が好ましく、例えば、日産化学工業(株)製のスノーテックス50(粒子径0.025μm)、スノーテックスO−40(粒子径0.025μm)、スノーテックスCM(粒子径0.025μm)、スノーテックス20L(粒子径0.045μm)、スノーテックスXL(粒子径0.05μm)、スノーテックスYL(粒子径0.65μm)、スノーテックスZL(粒子径0.85μm)、MP1040(粒子径0.1μm)、MP2040(粒子径0.2μm)、MP3040(粒子径0.3μm)、MP1040(粒子径0.1μm)、MP4540M(粒子径0.45μm)、富士シリシア化学(株)製のサイリシア310(粒子径1.4μm)、サイリシア320(粒子径1.6μm)、サイリシア350(粒子径1.8μm)、サイリシア370(粒子径3.0μm)、サイリシア530(粒子径1.9μm)、サイリシア550(粒子径2.7μm)、サイリシア250(粒子径2.7μm)、サイリシア430(粒子径2.5μm)等が挙げられる。
無機−有機複合微粒子も好ましく、例えば、合成樹脂粒子、天然高分子粒子等が挙げられ、好ましくはアクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンイミン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、カルボキシメチルセルロールス、ゼラチン、デンプン、キチン、キトサン等の樹脂粒子であり、より好ましくはアクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の樹脂粒子の表面を上記無機微粒子で被覆したものが挙げられる。
これら無機質の球状微粒子の中で、無機成分がシリカ(SiO2)であることが、塗布液とした時の分散安定性、コスト、摩擦係数の高さの観点で特に好ましい。
【0025】
無機質の球状微粒子の大きさは、平均粒子径が0.001〜1μmであることが好ましく、より好ましくは、平均粒子径が0.03〜0.5μm、さらに好ましくは、平均粒子径が0.05〜0.2μmである。大きすぎると酸素遮断性の低下が著しいため画像形成感度が低下し、また、球状微粒子の接触面積が少ないため摩擦係数を大きくする効果が充分得られずズレが生じ易くなる。小さすぎると無機層状化合物の構造を乱すことができずカブリ抑制効果が得られない。摩擦係数も表面への凸量が小さくなるため添加量に対する充分な効果が得られず、画像形成性とのバランスが取れなくなる問題が生じる。
上記平均粒子径は、粒度分布測定装置 BI-DCP(Brookhaven Instruments製)を用い、遠心沈降法で測定を行った。
保護層に含まれる全無機球状微粒子成分の含有量は、好ましくは0.1〜80質量%、より好ましくは1〜50質量%、さらに好ましくは5〜30質量%である。
【0026】
[無機質の層状微粒子]
無機質の層状微粒子とは、薄い平板状の形状を有する粒子であり、例えば、下記一般式:A(B,C)2-5410(OH,F,O)2〔ただし、AはK,Na,Caの何れか、B及びCはFe(II),Fe(III),Mn,Al,Mg,Vの何れかであり、DはSi又はAlである。〕で表される天然雲母、合成雲母等の雲母群、式3MgO・4SiO・H2Oで表されるタルク、テニオライト、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、りん酸ジルコニウムなどが挙げられる。
上記雲母群においては、天然雲母としては白雲母、ソーダ雲母、金雲母、黒雲母及び鱗雲母が挙げられる。また、合成雲母としては、フッ素金雲母KMg3(AlSi310)F2、カリ四ケイ素雲母KMg2.5Si410)F2などの非膨潤性雲母、及びNaテトラシリリックマイカNaMg2.5(Si410)F2、Na又はLiテニオライト(Na,Li)Mg2Li(Si410)F2、モンモリロナイト系のNa又はLiヘクトライト(Na,Li)1/8Mg2/5Li1/8(Si410)F2などの膨潤性雲母等が挙げられる。更に合成スメクタイトも有用である。
【0027】
上記の無機質の層状化合物の中でも、合成の無機質の層状化合物であるフッ素系の膨潤性雲母が特に有用である。即ち、この膨潤性合成雲母や、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ベントナイト等の膨潤性粘度鉱物類等は、10〜15Å程度の厚さの単位結晶格子層からなる積層構造を有し、格子内金属原子置換が他の粘度鉱物より著しく大きい。その結果、格子層は正電荷不足を生じ、それを補償するために層間にNa+、Ca2+、Mg2+等の陽イオンを吸着している。これらの層間に介在している陽イオンは交換性陽イオンと呼ばれ、いろいろな陽イオンと交換する。特に層間の陽イオンがLi+、Na+の場合、イオン半径が小さいため層状結晶格子間の結合が弱く、水により大きく膨潤する。その状態でシェアーをかけると容易に劈開し、水中で安定したゾルを形成する。ベントナイト及び膨潤性合成雲母はこの傾向が強く、より有用であり、特に膨潤性合成雲母が好ましく用いられる。
使用する無機質の層状化合物の形状としては、拡散制御の観点からは、厚さは薄ければ薄いほどよく、平面サイズは塗布面の平滑性や活性光線の透過性を阻害しない限りにおいて大きいほどよい。従って、アスペクト比は20以上であり、好ましくは100以上、特に好ましくは200以上である。なお、アスペクト比は「粒子の長径/厚み」を表し、たとえば、粒子の顕微鏡写真による投影図から測定することができる。アスペクト比が大きい程、得られる効果が大きい。
【0028】
使用する無機質の層状化合物の粒子径は、その平均長径が0.3〜20μm、好ましくは0.5〜10μm、特に好ましくは1〜5μmである。また、該粒子の平均の厚さは、0.1μm以下、好ましくは、0.05μm以下、特に好ましくは、0.01μm以下である。例えば、無機質の層状化合物のうち、代表的化合物である膨潤性合成雲母のサイズは厚さが1〜50nm、面サイズが1〜20μm程度である。
このようにアスペクト比が大きい無機質の層状化合物の粒子を酸素遮断性保護層に含有させると、塗膜強度が向上し、また、酸素や水分の透過を効果的に防止しうるため、変形などによる酸素遮断性保護層の劣化を防止し、高湿条件下において長期間保存しても、湿度の変化による平版印刷版原版における画像形成性の低下もなく保存安定性に優れる。
該保護層中の無機質層状化合物の含有量は、保護層に使用されるバインダーの量に対し、質量比で5/1〜1/100であることが好ましい。複数種の無機質の層状化合物を併用した場合でも、これら無機質の層状化合物の合計の量が上記の質量比であることが好ましい。
【0029】
酸素遮断性保護層には上記無機質の微粒子とともにバインダーを用いることが好ましい。
バインダーとしては、無機質の微粒子、例えば層状微粒子の分散性が良好であり、画像記録層に密着する均一な皮膜を形成し得るものであれば、特に制限はなく、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマーのいずれをも適宜選択して使用することができる。具体的には例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニルの部分鹸化物、エチレン−ビニルアルコール共重合体、水溶性セルロース誘導体、ゼラチン、デンプン誘導体、アラビアゴム等の水溶性ポリマーや、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリサルホン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、セロハン等のポリマー等が挙げられる。これらは、必要に応じて2種以上を併用して用いることもできる。
これらのうち、非画像部に残存する保護層の除去の容易性および皮膜形成時のハンドリング性の観点から、水溶性ポリマーが好ましく、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール、ポリアクリル酸等の水溶性アクリル樹脂、ゼラチン、アラビアゴム等が好適であり、なかでも、水を溶媒として塗布可能であり、且つ、印刷時における湿し水により容易に除去されるという観点から、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム等がさらに好ましい。
【0030】
酸素遮断性保護層に用い得るポリビニルアルコールは、必要な水溶性を有する実質的量の未置換ビニルアルコール単位を含有するかぎり、一部がエステル、エーテル、及びアセタールで置換されていてもよい。また、同様に一部が他の共重合成分を含有していてもよい。ポリビニルアルコールの具体例としては、71〜100モル%加水分解され、重合度が300〜2400の範囲のものが挙げられる。具体的には、株式会社クラレ製のPVA-105, PVA-110, PVA-117, PVA-117H,PVA-120,PVA-124, PVA124H, PVA-CS, PVA-CST, PVA-HC, PVA-203, PVA-204, PVA-205, PVA-210, PVA-217, PVA-220, PVA-224, PVA-217EE, PVA-217E, PVA-220E, PVA-224E, PVA-405, PVA-420, PVA-613, L-8 等が挙げられる。上記の共重合体としては、88〜100モル%加水分解されたポリビニルアセテートクロロアセテート又はプロピオネート、ポリビニルホルマール及びポリビニルアセタール及びそれらの共重合体が挙げられる。
【0031】
上記の無機微粒子、例えば層状微粒子を適宜の方法で水に分散させ、この分散液から酸素遮断性保護層塗布液を調製する。酸素遮断性保護層塗布液には上記成分のほか、塗布性を向上させための界面活性剤や皮膜の物性改良のための水溶性可塑剤などの公知の添加剤を加えることができる。調製された酸素遮断性保護層塗布液を、支持体上に備えられた画像記録層の上に塗布し、乾燥して酸素遮断性保護層を形成する。塗布溶剤はバインダーとの関連において適宜選択することができるが、水溶性ポリマーを用いる場合には、蒸留水、精製水を用いることが好ましい。酸素遮断性保護層の塗布方法は、特に制限されるものではなく、米国特許第3,458,311号明細書又は特公昭55−49729号公報に記載されている方法など公知の方法を適用することができる。具体的には、例えば、酸素遮断性保護層は、ブレード塗布法、エアナイフ塗布法、グラビア塗布法、ロールコーティング塗布法、スプレー塗布法、ディップ塗布法、バー塗布法等が挙げられる。
酸素遮断性保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.01〜10g/m2の範囲であることが好ましく、0.02〜3g/m2の範囲がより好ましく、最も好ましくは0.02〜1g/m2の範囲である。
【0032】
画像記録層を構成する成分
[(A)活性光線吸収剤]
活性光線吸収剤は、露光光源の放射する光を吸収し、フォトンモードおよび/またはヒートモードで、重合開始剤から効率的にラジカルを発生させ、平版印刷版原版の感度向上に寄与する化合物である。かかる活性光線吸収剤としては、平版印刷版原版を赤外線レーザーで画像様に露光する場合は、赤外線吸収剤が好ましく、平版印刷版原版を紫外線レーザーで画像様に露光する場合は、波長250〜420nmの光を吸収する増感色素が好ましい。赤外線吸収剤は、好ましくは波長760〜1200nmに吸収極大を有する染料又は顔料である。このような赤外線吸収剤は公知のものから適宜選択できる。
【0033】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。さらに、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましい。
これらの赤外線吸収剤は、画像記録層の全固形分に対し0.001〜50質量%、好ましくは0.005〜30質量%、特に好ましくは0.01〜10質量%の割合で添加することができる。この範囲内で、画像記録層の均一性や膜強度に好ましくない影響を与えることなく、高感度が得られる。
【0034】
また、増感色素を使用してもよく、使用される増感色素は、波長250〜420nmに吸収を有する化合物であり、具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、9−フルオレノン、2−クロロ−9−フルオレノン、2−メチル−9−フルオレノン、9−アントロン、2−ブロモ−9−アントロン、2−エチル−9−アントロン、9,10−アントラキノン、2−エチル−9、10−アントラキノン、2−t−ブチル−9,10−アントラキノン、2,6−ジクロロ−9,10−アントラキノン、キサントン、2−メチルキサントン、2−メトキシキサントン、チオキサントン、ベンジル、ジベンザルアセトン、p−(ジメチルアミノ)フェニルスチリルケトン、p−(ジメチルアミノ)フェニルp−メチルスチリルケトン、ベンゾフェノン、p−(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(またはミヒラーケトン)、p−(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンズアントロンなどを挙げることができる。
これら増感色素は、画像記録層を構成する全固形分に対し0.1〜50質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは0.8〜20質量%の割合で添加することができる。
【0035】
[(B)重合開始剤]
重合開始剤は、光、熱あるいはその両方のエネルギーによりラジカルを発生し、重合性の不飽和基を有する化合物の重合を開始、促進する化合物である。使用できる重合開始剤としては、公知の熱重合開始剤や結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物、光重合開始剤などが挙げられる。
上記のような重合開始剤としては、例えば、有機ハロゲン化合物、カルボニル化合物、有機過酸化物、アゾ系重合開始剤、アジド化合物、メタロセン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、有機ホウ素化合物、ジスルホン化合物、オキシムエステル化合物、オキシムエーテル化合物、オニウム塩化合物、が挙げられる。
用いられる重合開始剤は、極大吸収波長が400nm以下であることが好ましい。より好ましくは、極大吸収波長が360nm以下であり、最も好ましくは300nm以下である。このように吸収波長を紫外線領域にすることにより、平版印刷版原版の白灯安全性が向上する。
これらの重合開始剤は、画像記録層を構成する全固形分に対し0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜20質量%の割合で添加することができる。この範囲で、良好な感度と印刷時の非画像部の良好な汚れ難さが得られる。これらの重合開始剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの重合開始剤は他の成分と同一の層に添加してもよいし、別の層を設けそこへ添加してもよい。
【0036】
[(C)重合性化合物]
画像記録層に用いる重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。このような化合物群は当該産業分野において広く知られるものであり、これらを特に限定無く用いることができる。これらは、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物ならびにそれらの共重合体などの化学的形態をもつ。モノマー及びその共重合体の例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類或いはエポキシ類との付加反応物、及び単官能若しくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
【0037】
これらの重合性化合物について、その構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な平版印刷版原版の性能設計にあわせて任意に設定できる。例えば、次のような観点から選択される。
感度の点では1分子あたりの不飽和基含量が多い構造が好ましく、多くの場合、2官能以上が好ましい。また、画像部すなわち硬化膜の強度を高くするためには、3官能以上のものがよく、更に、異なる官能数・異なる重合性基(例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン系化合物、ビニルエーテル系化合物)のものを併用することで、感度と強度の両方を調節する方法も有効である。
また、画像記録層中の他の成分(例えばバインダーポリマー、重合開始剤、着色剤等)との相溶性、分散性に対しても、重合性化合物の選択・使用法は重要な要因であり、例えば、低純度化合物の使用や、2種以上の併用により相溶性を向上させうることがある。また、支持体や酸素遮断性保護層等との密着性を向上せしめる目的で特定の構造を選択することもあり得る。
上記の重合性化合物は、画像記録層中に、好ましくは5〜80質量%、更に好ましくは25〜75質量%の範囲で使用される。また、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。そのほか、重合性化合物の使用法は、酸素に対する重合阻害の大小、解像度、かぶり性、屈折率変化、表面粘着性等の観点から適切な構造、配合、添加量を任意に選択でき、更に場合によっては下塗り、上塗りといった層構成・塗布方法も実施しうる。
【0038】
[画像記録層のその他の成分]
画像記録層には、上記(A)、(B)、(C)以外の成分、例えば、バインダーポリマー、界面活性剤、着色剤、焼き出し剤、重合禁止剤(熱重合防止剤)、高級脂肪酸誘導体、可塑剤、無機微粒子、低分子親水性化合物等を含有させることができる。
例えばバインダーポリマーとしては、従来公知のものを制限なく使用でき、皮膜性を有する線状有機ポリマーが好ましい。このようなバインダーポリマーの例としては、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、天然ゴムが挙げられる。
バインダーポリマーは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。バインダーポリマーの含有量は、画像記録層の全固形分に対して、10〜90質量%であるのが好ましく、20〜80質量%であるのがより好ましい。この範囲で、良好な画像部の強度と画像形成性が得られる。また、重合性化合物とバインダーポリマーは、質量比で1/9〜7/3となる量で用いるのが好ましい。
【0039】
画像記録層には、印刷開始時の機上現像性を促進させるため、および、塗布面状を向上させるために界面活性剤を用いることができる。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
界面活性剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。界面活性剤は、画像記録層に、0.001〜10質量%含有させることが好ましく、0.01〜5質量%含有させることがより好ましい。
【0040】
画像記録層には、可視光域に大きな吸収を持つ染料を画像の着色剤として使用することができる。具体的には、オイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)等、及び特開昭62−293247号公報に記載されている染料を挙げることができる。また、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料も好適に用いることができる。
これらの着色剤は、画像形成後、画像部と非画像部の区別がつきやすいので、添加する方が好ましい。なお、添加量は、画像記録層中に、0.01〜10質量%の割合が好ましい。
【0041】
画像記録層には、焼き出し画像生成のため、酸又はラジカルによって変色する化合物を添加することができる。このような化合物としては、例えばジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、チアジン系、オキサジン系、キサンテン系、アンスラキノン系、イミノキノン系、アゾ系、アゾメチン系等の各種色素が有効に用いられる。
【0042】
画像記録層には、画像記録層の製造中又は保存中において(C)重合性化合物の不要な熱重合を防止するために、少量の熱重合防止剤を添加するのが好ましい。
熱重合防止剤としては、例えば、ヒドロキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4′−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミン アルミニウム塩が好適に挙げられる。
熱重合防止剤は、画像記録層に、約0.01〜約5質量%含有させるのが好ましい。
【0043】
画像記録層には、酸素による重合阻害を防止するために、ベヘン酸やベヘン酸アミドのような高級脂肪酸誘導体等を添加して、塗布後の乾燥の過程で画像記録層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸誘導体の添加量は、画像記録層の全固形分に対して、約0.1〜約10質量%であるのが好ましい。
【0044】
画像記録層は、上記したような構成成分を適当な溶剤に分散し、又は溶かして塗布液を調製し、塗布して形成される。
画像記録層は、同一又は異なる上記各成分を同一又は異なる溶剤に分散、又は溶かした塗布液を複数調製し、複数回の塗布、乾燥を繰り返して形成することも可能である。
画像記録層塗布量(固形分)は、0.3〜1.5g/m2が好ましく、0.5〜1.5g/m2がより好ましい。
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。
【0045】
平版印刷版原版に用いられる支持体は、特に限定されず、寸度的に安定な板状物であればよい。例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上述した金属がラミネートされまたは蒸着された紙またはプラスチックフィルム等が挙げられる。好ましい支持体としては、ポリエステルフィルムおよびアルミニウム板が挙げられる。中でも、寸法安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板が好ましい。
平版印刷版原版には、さらにバックコートや下塗層が設けられていてもよい。
【0046】
[製版、印刷]
上述したような平版印刷版原版は、線画像、網点画像等を有する透明原画を通して露光するかデジタルデータによりレーザー走査露光することにより画像様に露光される。露光光源としては、例えば、カーボンアーク、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、蛍光ランプ、タングステンランプ、ハロゲンランプ、紫外光レーザー、可視光レーザー、赤外光レーザーが挙げられる。特にレーザーが好ましく、760〜1200nmの赤外線を放射する固体レーザーおよび半導体レーザー、250〜420nmの光を放射する半導体レーザーなどが挙げられる。レーザーを用いる場合は、デジタルデータに従って、画像様に走査露光することが好ましい。また、露光時間を短縮するため、マルチビームレーザーデバイスを用いるのが好ましい。
【0047】
平版印刷版に対する湿し水の使用方法は特に限定されるものではない。上述したような平版印刷版原版を露光の後、不要な画像記録層を適当な現像液によって溶解除去した後、油性インキと湿し水を版面に供給して印刷することができる。
あるいは、上述したような平版印刷版原版をレーザー光で画像様に露光した後、なんらの現像処理工程を経ることなく油性インキと湿し水とを供給して印刷することができる。すなわち、印刷工程中で印刷機上で非画像部を除去して平版印刷版を得る、いわゆる機上現像と呼ばれる方法を採用することができる。
具体的には、平版印刷版原版をレーザー光で露光した後、現像処理工程を経ることなく印刷機に装着して印刷する方法、平版印刷版原版を印刷機に装着した後、印刷機上においてレーザー光で露光し、現像処理工程を経ることなく印刷する方法等が挙げられる。
【0048】
平版印刷版原版をレーザー光で画像様に露光した後、湿式現像処理工程等の現像処理工程を経ることなく湿し水と油性インキとを供給して印刷すると、画像記録層の露光部においては、露光により硬化した画像記録層が、親油性表面を有する油性インキ受容部を形成する。一方、未露光部においては、供給された湿し水及び/又は油性インキによって、未硬化の画像記録層が溶解し又は分散して除去され、その部分に親水性の表面が露出する。その結果、湿し水成分は露出した親水性の表面に付着し、油性インキは露光領域の画像記録層に着肉し、印刷が開始される。ここで、最初に版面に供給されるのは、湿し水でもよく、油性インキでもよいが、湿し水が未露光部の画像記録層により汚染されることを防止する点で、最初に油性インキを供給するのが好ましい。
このようにして、平版印刷版原版はオフセット印刷機上で機上現像され、そのまま多数枚の印刷に用いられる。
【0049】
本発明の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤は、製版時又はその後の保存、印刷中その他、製版から印刷までの全ての段階において発生した原因に基づく地汚れを除去するために、使用することができる。
本発明の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤を使用するには、布、あるいはスポンジ等に含ませて、汚れ箇所又は版面全体を拭きこすり、次いで30秒程度放置した後、水で拭き取ればよい。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお「部」および「%」は他に指定のない限り、それぞれ質量部及び質量%を示す。
[乳化型版面洗浄剤の調製]
実施例1
純水53質量部に水溶性大豆多糖類5質量部を加温しながら溶解した。次にメタリン酸ナトリウム2質量部を攪拌しながら溶解し、硫酸:0.5質量部、硝酸:0.5質量部:水酸化カリウム:3質量部を添加し混合して水相を調製した。さらにリン酸を少しずつ加え、水相をpH2.0に調整した。一方、スワゾール1000を15質量部、エクソールD−40を15質量部、ペレックスOT−Pを2質量部、ノニオンOP−80を1質量部、及びパイオニンD−212を1質量部、溶解した油相を調製した。次に上記のように調製した水相を攪拌加温し35℃に調整し、ゆっくりと油相を滴下し分散液を作成し、ホモジナイザーを通し乳白色の乳化型版面洗浄剤を作成した。
こうして得られた版面洗浄剤は、水相と同じpH2.0であった。
【0051】
実施例2〜7及び比較例1〜12
上記の実施例1と同様の操作により、但し組成を変更して、乳化型版面洗浄剤を作成した。
実施例1〜7及び比較例1〜12の乳化型版面洗浄剤の組成を、以下の表1〜3(組成の単位:質量部)に示す。なお、各乳化型版面洗浄剤のpH値、含まれる塩に由来する全カチオン量(質量%)、及び該全カチオン量に基づくカリウム、セシウム及びルビジウムから選ばれる少なくとも1種の割合(質量%)を合わせて記述する。
【0052】
[平版印刷版原版の作成]
(1)支持体の作製
厚み0.3mmのアルミニウム板(材質JIS A 1050)の表面の圧延油を除去するため、10質量%アルミン酸ソーダ水溶液を用いて50℃で30秒間、脱脂処理を施した後、毛径0.3mmの束植ナイロンブラシ3本とメジアン径25μmのパミス−水懸濁液(比重1.1g/cm3)を用いアルミニウム表面を砂目立てして、水でよく洗浄した。この板を45℃の25質量%水酸化ナトリウム水溶液に9秒間浸漬してエッチングを行い、水洗後、さらに60℃で20質量%硝酸に20秒間浸漬し、水洗した。この時の砂目立て表面のエッチング量は約3g/m2であった。
【0053】
次に、60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃であった。交流電源波形は、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。硝酸電解における電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量175C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0054】
続いて、塩酸0.5質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃の電解液にて、アルミニウム板が陽極時の電気量50C/dm2の条件で、硝酸電解と同様の方法で、電気化学的な粗面化処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
次に、この板に15質量%硫酸(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)を電解液として電流密度15A/dm2で2.5g/m2の直流陽極酸化皮膜を設けた後、水洗、乾燥して支持体(1)を作製した。
その後、非画像部の親水性を確保するため、支持体(1)に2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて60℃で10秒間、シリケート処理を施し、その後、水洗して支持体(2)を得た。Siの付着量は10mg/m2であった。この基板の中心線平均粗さ(Ra)を直径2μmの針を用いて測定したところ、0.51μmであった。
【0055】
(2)下塗り層の形成
次に、上記支持体(2)上に、下記下塗り層用塗布液(1)を乾燥塗布量が20mg/m2になるよう塗布して、以下の実験に用いる下塗り層を有する支持体を作製した。
<下塗り層用塗布液(1)>
・下記構造の下塗り層用化合物(1) 0.18g
・ヒドロキシエチルイミノ二酢酸 0.10g
・メタノール 55.24g
・水 6.15g
【化1】

【0056】
(3)画像記録層の形成
上記のようにして形成された下塗り層上に、下記組成の画像記録層塗布液(1)をバー塗布した後、100℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.0g/m2の画像記録層を形成した。
画像記録層塗布液(1)は下記感光液(1)及びミクロゲル液(1)を塗布直前に混合し攪拌することにより得た。
【0057】
<感光液(1)>
・バインダーポリマー(1)〔下記構造〕 0.240g
・赤外線吸収染料(1)〔下記構造〕 0.030g
・ラジカル発生剤(1)〔下記構造〕 0.162g
・ラジカル重合性化合物
トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート
(NKエステルA−9300、新中村化学(株)製) 0.192g
・低分子親水性化合物
トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート 0.062g
・低分子親水性化合物(1)〔下記構造〕 0.050g
・感脂化剤 ホスホニウム化合物(1)〔下記構造〕 0.055g
・感脂化剤
ベンジル−ジメチル−オクチルアンモニウム・PF6塩 0.018g
・感脂化剤 アンモニウム基含有ポリマー
[下記構造、還元比粘度44cSt/g/ml] 0.035g
・フッ素系界面活性剤(1)〔下記構造〕 0.008g
・2−ブタノン 1.091g
・1−メトキシ−2−プロパノール 8.609g
【0058】
<ミクロゲル液(1)>
・ミクロゲル(1) 2.640g
・蒸留水 2.425g
【0059】
上記の、バインダーポリマー(1)、赤外線吸収染料(1)、ラジカル発生剤(1)、ホスホニウム化合物(1)、低分子親水性化合物、(1)アンモニウム基含有ポリマー、及びフッ素系界面活性剤(1)の構造は、以下に示す通りである。
【0060】
【化2】

【化3】

【0061】
−ミクロゲル(1)の合成−
油相成分として、トリメチロールプロパンとキシレンジイソシアナート付加体(三井化学ポリウレタン(株)製、タケネートD−110N)10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬(株)製、SR444)3.15g、及びパイオニンA−41C(竹本油脂(株)製)0.1gを酢酸エチル17gに溶解した。水相成分としてPVA−205の4質量%水溶液40gを調製した。油相成分及び水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12,000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、50℃で3時間攪拌した。このようにして得られたミクロゲル液の固形分濃度を、15質量%になるように蒸留水を用いて希釈し、これを前記ミクロゲル(1)とした。ミクロゲルの平均粒径を光散乱法により測定したところ、平均粒径は0.2μmであった。
【0062】
(4)保護層の形成
上記画像記録層上に、さらに下記組成の保護層塗布液(1)をバー塗布した後、125℃、75秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.15g/m2の保護層を形成して平版印刷版原版を得た。
保護層用塗布液(1)
・ポリビニルアルコール(PVA−405、(株)クラレ製) 0.16g
(けん化度81.5モル%、重合度500)
・末端スルホン酸変性ポリビニルアルコールCKS−50 0.49g
(日本合成化学工業(株)製)
・EMALEX710(日本エマルジョン(株)製、界面活性剤)0.13g
・無機質層状化合物分散液(1) 22.28g
・コロイダルシリカMP1040(日産化学工業製/平均粒径0.1μm/40質量%水溶液)
0.30g
・イオン交換水 52g
【0063】
(無機質層状化合物分散液(1)の調製)
イオン交換水193.6gに合成雲母ソマシフME−100(コープケミカル(株)製)6.4gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)が3μmになるまで分散した。得られた分散粒子のアスペクト比は100以上であった。
こうして、無機質層状化合物を含む酸素遮断性保護層が画像記録層上に設けられた光重合型平版印刷版原版が得られた。
【0064】
[テスト方法]
上記のようにして得られた光重合型平版印刷版原版を用いて、以下の印刷条件1又は印刷条件2で機上現像による製版を行って、その後、各種版面洗浄剤の性能を試験した。
<印刷条件1>
印刷機:ハイデルベルグ製 MOV(アルカラー給水装置)
インキ:東洋インキ(株)の環境対応型NonVOCインキ名称 TK NEX NV100のプロセス紅インキ
湿し水:FUJIHUNT製の湿し水 PressMax 30.33を4%に希釈して使用した。
製版条件:サーマルレーザーセッター CREO社製 Quantumを使用しFMスクリーン TAFFTA20の画像を焼き込んだ後、印刷機に取り付け、湿し水及びインキを供給して機上現像を完了し、以下のように印刷テストを実施した。
<汚れ除去性>
機上現像が済んだ版に、以下のそれぞれの処理(1、2、3)を非画線部に施した。
印刷を再開すると、処理を施した部分にインキが付着し汚れが発生した。各種版面洗浄剤をスポンジに染み込ませ、版面全体を5回拭き、汚れを除去し、印刷を再開した。汚れの回復性を評価した。
1.空気酸化汚れ:ガム塗布なしの状態で、150℃の乾燥機中に3時間保管した。
2.傷汚れ:引掻き試験器(新東科学(株)製)を用いて、ダイヤ針4Rに荷重100g、200g、300gで引掻き傷をつけ大気中に3日間放置した。
3.オイル汚れ:オレイン酸1gをミネラルスピリット10gに溶解し、脱脂綿に浸してバフドライした。
【0065】
上記各種汚れ処理1〜3に対する回復性を以下の基準で評価した。
1.空気酸化汚れ除去性:汚れの除去状態を100枚目の印刷物で評価
○・・・優れている
△・・・やや劣る
×・・・劣る
2.傷汚れ:キズ部の汚れの状態を100枚目の印刷物で評価
○・・・優れている
△・・・やや劣る
×・・・劣る
3.オイル汚れ:汚れの除去状態を100枚目の印刷物で評価
○・・・優れている
△・・・やや劣る
×・・・劣る
【0066】
<印刷条件2>
印刷機:三菱重工製 New DAIYA
インキ:DICグラフィック(株)の枚葉インキ名称 フュージョンGのプロセス紅インキ
湿し水:FUJIHUNT製の湿し水 PressMax 30.33を4%に希釈して使用した。
製版条件:サーマルレーザーセッター CREO社製 Quantumを使用しFMスクリーン TAFFTA20の画像を焼き込んだ後、印刷機に取り付け、湿し水及びインキを供給して機上現像を完了し、以下のように印刷テストを実施した。
<インキの乗り>
機上現像が済んだ版に、1000枚印刷し印刷機を停止した。各種版面洗浄剤をスポンジに染み込ませ、版面全体を5回拭き、印刷を再開した。スタートから2000枚印刷する間のべた画像部と網画像部上のインキの乗り具合を、拭きムラの発生及びインキ着肉性の観点から以下の基準で評価した。
4.拭きムラの発生:スタートから拭きムラが無くなるまでの印刷枚数で評価
○・・・拭きムラがスタートから出ないか、消えるまで50枚以下
○△・・拭きムラが消えるまで50−100枚印刷
△・・・拭きムラが消えるまで100−500枚印刷
△×・・拭きムラが消えるまで500枚以上印刷
×・・・2000枚印刷しても、拭きムラが消えない
5.インキ着肉性:スタートから完全にインキが着肉するまでの印刷枚数で評価
○・・・50枚以下で完全にインキ着肉
○△・・完全なインキ着肉まで50−100枚印刷
△・・・完全なインキ着肉まで100−500枚印刷
△×・・完全なインキ着肉まで500枚以上印刷
×・・・2000枚印刷しても、完全なインキ着肉が得られない
テスト結果を以下の表に合わせて記載する。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
なお、油相に含めた成分は以下のとおりである。
スワゾール 1000(芳香族系高沸点溶剤、丸善石油化学)
スワゾール 1500(芳香族系高沸点溶剤、丸善石油化学)
スワゾール 2000(芳香族系高沸点溶剤、丸善石油化学)
エクソール D−40(ナフテン系溶剤、エクソンモービル)
エクソール D−80(ナフテン系溶剤、エクソンモービル)
エクソール D−110(ナフテン系溶剤、エクソンモービル)
ペレックス OT−P(ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、花王)
有効成分70%
【化4】

ノニオン OP−80(モノオレイン酸ソルビタン、日本油脂)
パイオニン D−212(ポリオキシエチレンヒマシ油エーテル、竹本油脂)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版に用いる平版印刷版用乳化型版面洗浄剤であって、該版面洗浄剤の全質量に基づいて含まれる塩の全カチオンの含有量が0.5質量%以上であって、該全カチオンの質量に基づいて30質量%以上がカリウム、セシウム及びルビジウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、平版印刷版用乳化型版面洗浄剤。
【請求項2】
該酸素遮断性保護層が無機微粒子を含む光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版に用いる、請求項1記載の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤。
【請求項3】
酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版を、請求項1又は2記載の平版印刷版用乳化型版面洗浄剤にて洗浄することを含む、平版印刷版の版面処理方法。
【請求項4】
無機微粒子を含む酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版して得られた平版印刷版を洗浄する、請求項3記載の平版印刷版の版面処理方法。

【公開番号】特開2012−171326(P2012−171326A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38351(P2011−38351)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】