説明

平版印刷用湿し水組成物及びヒートセットオフ輪印刷方法

【課題】ブランケットパイリングを抑制するとともに、非画像部のキズによる汚れ防止に優れた、平版印刷用湿し水組成物を提供する。
【解決手段】2個のOH基を有し総炭素数が9である非環状炭化水素化合物とホスホン酸基を1分子中に4個以上有する化合物とを含有することを特徴とする平版印刷用湿し水組成物;該ホスホン酸基を有する化合物が、1分子中にホスホン酸基を4個以上5個以下有することを特徴とする上記の平版印刷用湿し水組成物;ヒートセットタイプのオフ輪用インキ、及び請求項1〜4のいずれか1項に記載の湿し水組成物を用いたヒートセットオフ輪印刷方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷用湿し水組成物に関し、さらに具体的にはオフセット印刷方法に、特にヒートセットオフ輪印刷方法に好ましく使用される、平版印刷用湿し水組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は水と油が本質的に混じり合わない性質を巧みに利用した印刷方式であり、印刷版面は水を受容し油性インキを反撥する領域と、水を反撥し油性インキを受容する領域から成り、前者が非画像領域であり、後者が画像領域である。湿し水によって、非画像領域を湿潤させて画像領域と非画像領域との界面化学的な差を拡大して、非画像領域のインキ反撥性と画像領域のインキ受容性とを増大させることがなされる。
平版印刷機は通常、オフセット印刷方式になっており、版上にインキと湿し水が供給され、画像部にインキが付着し、非画像部に湿し水が付着することによって画像が形成され、その版上の画像がブランケットに転移し、更にブランケットから紙に転移することによって印刷されている。このとき、長時間連続印刷を行うと、インキ成分と紙成分がブランケット上の非画像部分に次第に堆積するという所謂“ブランケットパイリング”の問題が発生する。特に、平版オフセット輪転(オフ輪)印刷は長時間連続運転が可能であり生産性が高いことが特徴であるが、このブランケットパイリングが発生し易く大きな問題であった。
【0003】
ブランケットパイリングは、特に回転の後ろ側(くわえ尻側)に画像部のインキが押し出されるようにして堆積しやすく、その堆積物がブランケットから紙へのインキ転移を阻害しインキの着肉不良の原因となる。この堆積物を除去するには、印刷を停止してブランケットを清掃しなければならず、損紙の増大、生産性の低下が非常に大きく、改良が望まれていた。
ブランケットパイリングを改良する技術として例えば、特定のジオール系化合物を含有する湿し水が提案されている(特許文献1参照)。
また別に、乳化抑制剤と有機ホスホン酸を湿し水に含め、インキや用紙からのカルシウムの溶出を促進させずに、カルシウム隠蔽効果(いわゆるキレート剤の効果)を発揮させることが提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
平版印刷においてはまた、印刷版のキズに起因する印刷汚れの解決も重要な課題である。
キズ汚れの発生機構は次のとおりである。すなわち、感光性平版印刷版(PS版)やCTPプレートを、露光、現像、ガム引き処理をして平版印刷版とした後、印刷で使用される迄の間に、搬送、運搬やベンダー処理時のハンドリング、及び印刷機の版胴に装填する時の操作によって、版面に機械的な局所圧がかかったり、こすられたりして、版面非画像部に物理的な変形(凹状態)が生じる場合がある。変形部分に於いてはガム層が除去されると共に、アルミニウム支持体の陽極酸化皮膜層の最表面が削り取られ、酸化アルミニウムの新表面が露出する。このような新表面は活性であり、有機物を吸着させやすい。印刷工程に於いてはインキの吸着が起こり易く、一旦インキが吸着してしまうと、容易に剥離はしないため、キズ状の汚れとなって発生し、印刷水目盛りの調整などでは回復不能の印刷故障となる。
【0005】
キズによる変形度合いが大きい場合はプレートクリーナー等により、部分的に親水化処理を行う以外に回復させる手段はない。一方キズによる変形度合いが小さい時は、そのキズが印刷物に汚れとして発生するか否かは、湿し水の性能に依存して変化する。
上述の特許文献1に記載されている特定のジオール系化合物を含有する湿し水はブランケットパイリング発生の抑制効果は高いものの、特定の使用条件下において、キズ汚れが発生し易くなるという問題点があった。これはキズ状変形部分にジオール化合物が吸着することで感脂化し、インキを付着させやすくなることが原因と推定される。この様な状況で発生するキズ汚れを抑制する技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−96177号公報
【特許文献2】特開2001−105764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ブランケットパイリングを抑制するとともに、非画像部のキズによる汚れ防止に優れた、平版印刷用湿し水組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、特定のジオール系化合物、及びホスホン酸基を有する特定の化合物を湿し水に添加することによって、ブランケットパイリングを抑制するのみならず、キズ汚れ防止に優れることを見出した。
従って本発明は、2個のOH基を有し総炭素数が9である非環状炭化水素化合物とホスホン酸基を1分子中に4個以上有する化合物とを含有することを特徴とする平版印刷用湿し水組成物である。
本発明の好ましい実施態様として、該ホスホン酸基を有する化合物が、1分子中にホスホン酸基を4個以上5個以下有する化合物である上記平版印刷用湿し水組成物が挙げられる。
本発明の別の好ましい実施態様として、該非環状炭化水素化合物が2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール及び2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールから選ばれる少なくとも1種である平版印刷用湿し水組成物が挙げられる。
本発明のさらなる実施態様として、さらに、下記一般式(I)で表される化合物を含有する平版印刷用湿し水組成物が挙げられる。
1-O−(CH2CHR2O)m−H (I)
(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基又は水素原子を表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、mは1〜5の整数を表す。)
本発明の平版印刷用湿し水組成物は、ヒートセットオフ輪印刷方式に好ましく使用することができ、従って、本発明はさらに、ヒートセットタイプのオフ輪用インキ、及び上記湿し水組成物を用いたヒートセットオフ輪印刷方法に向けられている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の湿し水組成物によれば、ブランケットパイリングの発生を抑制するのみならず、非画像部のキズによる汚れ防止に優れ、長時間連続印刷しても良好な印刷品質を安定して得られる。更に本発明の湿し水組成物によれば、従来、湿し水に用いられるイソプロピルアルコールのような揮発性有機溶剤を使用することなく、よって、湿し水の供給量の調節などを簡便に行うことができ、また、作業環境上好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する非環状炭化水素化合物は、2個のOH基を有し総炭素数が9である非環状炭化水素化合物である。ここで総炭素数が9であることで、溶解性が良好であり本発明が目的とする効果が達成される。
本発明で使用するジオール系化合物において、該2個のOH基間の最短の炭素数の好ましい範囲は2〜6であり、さらに好ましい範囲は3〜5である。
本発明で使用するジオール系化合物の具体例(1)〜(15)を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
本発明で使用するジオール系化合物の上記具体例のうち、(7)2-ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールと(10)2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールが、ブランケットパイリングの低減効果の点で優れている。
本発明の湿し水組成物において、該ジオール系化合物を1種単独又は2種以上含めてもよい。
本発明の湿し水組成物の例として、該ジオール系化合物を2種以上含み、該ジオール系化合物の総質量において、2-ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールが1質量%以上を占める湿し水組成物がある。この例において、2-ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールが好ましくは該ジオール系化合物の総質量の3質量%以上、より好ましくは10質量%以上を占める。
該ジオール系化合物を2種以上含む湿し水組成物において、2-ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールと併用するジオール系化合物として、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールが特に挙げられる。
【0014】
本発明の湿し水組成物においてジオール系化合物の添加量は、湿し水において0.001〜2.0質量%が適当であり、この範囲にあると、本発明の効果が十分に得られるとともに溶解不良や給水ローラー汚れなどが発生せず、好ましくは0.05〜1.0質量%であり、より好ましくは0.1〜0.7質量%、さらに好ましくは0.2〜0.5質量%である。
【0015】
湿し水組成物は、通常先ず濃縮液として調製しておき、使用時に該濃縮液を適宜希釈し使用することが好ましく、希釈率は30〜100倍程度が特に好ましい。濃縮率は高すぎると濃縮液中での析出、液分離などの問題が発生しやすい。本明細書中で、使用時の湿し水組成物を単に「湿し水」と呼ぶ。
【0016】
本発明の湿し水組成物はさらに、ホスホン酸基(−P(=O)(OH)2)を1分子中に4個以上有する化合物を含有する。ここでホスホン酸基の数が4以上であると、プレートの非画像部のアルミニウム酸化皮膜への吸着力が良好である。物理的負荷によってプレートの非画像部表面にキズが生じると、その部分では酸化アルミニウムの活性新表面が生じている。ここに該ホスホン酸基を有する化合物が強固に吸着することにより親水化することで、本発明の目的とする効果が達成されると推測される。
なお、ホスホン酸基を1分子中に4個以上有する化合物において、ホスホン酸基は塩を構成していてもよく、例えばナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩が挙げられる。
【0017】
本発明で使用するホスホン酸基を1分子中に4個以上有する化合物として、例えば以下の一般式で示される化合物及びその塩類がある。
2(H23PH2C)N−R−N(CH2PO322
式中、Rは二価の有機基を表し、該有機基の炭素原子数は一般的に2〜20である。
Rは、例えば二価の非環状又は環式炭化水素基を表し、該炭化水素基は飽和でも不飽和でもよく、また、芳香族基でも脂肪族基でもよく、非環状であるとき直鎖状でも分岐していてもよい。該炭化水素基の炭素原子数は一般的に2〜20の範囲である。
Rの具体例として炭素原子数2〜20の、好ましく2〜10の、より好ましくは2〜4のアルキレン基、及び炭素原子数3〜20の、好ましくは3〜10の、より好ましくは3〜6のシクロアルキレン基、が挙げられる。
【0018】
上記式中、Rの例としてまた、炭素原子、水素原子及び窒素原子を含み、該窒素原子に基:−CH2PO32が結合してなる二価の有機基が挙げられる。そのような二価の有機基は一般的に炭素原子数が5〜20であり、窒素原子数が1〜6の範囲にある。該二価の有機基は、例えば以下の一般式で示される。
【化3】

式中、nは2〜4の整数であり、mは2〜4の整数であり、pは1〜6の整数であり、典型的にはn=mである。式中、ホスホン酸基は塩を構成し得る。
本発明で使用するホスホン酸基を1分子中に4個以上有する化合物において、ホスホン酸基は一般的に1分子中に10個までであり、好ましくは8個までであり、より好ましくは5個までである。例えば、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、及びそれらの塩類、例えばエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)ナトリウム、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)ナトリウムが挙げられる。
【0019】
本発明で使用するホスホン酸基を1分子中に4個以上有する化合物(以下、ホスホン酸系化合物と称する)の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化4】

【0020】
本発明で使用する上述のホスホン酸系化合物は例えば、SYNTHESIS 81-96 (1979)、「実験化学講座19」(丸善1957年刊)記載のシッフ塩基へのホスホン酸の付加反応、アルコールとオルトリン酸の脱水縮合反応及びアルコールとオキシ塩化リンの縮合反応等により合成することができる。
本発明の湿し水組成物は、該ホスホン酸系化合物を1種単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
本発明の湿し水組成物における該ホスホン酸系化合物の含有量は、非画像部の汚れ防止効果が充分に発揮される観点から、湿し水において0.0001〜0.1質量%が適当であり、0.002〜0.06質量%であることが好ましく、0.008〜0.03質量%であることが更に好ましい。
【0021】
本発明の湿し水組成物には、上記非環状炭化水素化合物や上記ホスホン酸系化合物以外に、さらに濃縮液を作成する際の可溶化剤として、下記一般式(I)の化合物を少なくとも1種使用することが好ましく、これらの化合物により本発明の効果が相乗的に高まる。
一般式(I)の化合物
1-O−(CH2CHR2O)m−H (I)
(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基又は水素原子を表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、mは1〜5の整数を表す。)
一般式(I)の化合物において具体的には、式中、R1は水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を表し、具体的には水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基があり、ジオール系化合物の溶解性を高め、かつブランケットパイリングを抑制する観点から、水素原子、n−ブチル基あるいはt−ブチル基が特に好ましい。また、mは1〜5の整数を表し、1〜3の整数が好ましく、1が特に好ましい。
【0022】
一般式(I)の化合物は、R1がアルキル基であるときの具体例として、エチレングリコールモノt−ブチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル及びトリプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテルなどがある。中でも、プロピレングリコール又はエチレングリコールのn−ブチル、又はt−ブチルエーテルが好ましく使用できる。
【0023】
一般式(I)のR1が水素原子の具体例は、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール及びペンタプロピレングリコールなどがある。中でも、ジオール系化合物の溶解性を高めるために、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールが好ましく、プロピレングリコールが最も好ましい。
【0024】
一般式(I)で示される化合物は上記の化合物を複数併用することが好ましく、特にR1がアルキル基の化合物とR1が水素原子である化合物とを併用すると、ブランケットパイリングやローラストリップを防止できる。
一般式(I)で示される化合物の添加量は、ブランケットパイリング抑制とともにローラストリップ、又は印刷版の耐刷不良等の問題を抑制する観点から、湿し水において0.05〜5.0質量%が適当であり、より好ましくは0.1〜3.0質量%の範囲である。
【0025】
本発明の湿し水組成物にはまた、湿潤溶剤として、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン等を用いることができる。これらの溶剤は、湿し水の0.1〜3質量%、好ましくは0.3〜2質量%の範囲で使用するのがよい。
【0026】
本発明の湿し水組成物はさらに、水溶性高分子化合物を含むことできる。本発明の湿し水組成物に使用する水溶性高分子化合物としては、例えばアラビアガム、澱粉誘導体(例えば、デキストリン、酵素分解デキストリン、ヒドロキシプロピル化酵素分解デキストリン、カルボキシメチル化澱粉、リン酸澱粉、オクテニルコハク化澱粉)、アルギン酸塩、繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース)等の天然物及びその変性体、ポリエチレングリコール及びその共重合体、ポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びその共重合体、ポリアクリル酸及びその共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、ポリスチレンスルホン酸及びその共重合体の合成物が挙げられる。上記水溶性高分子化合物の中でも、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースが特に好ましく使用できる。
これらの水溶性高分子化合物の分子量は、好ましくは300〜500,000、より好ましくは300〜100,000、特に好ましくは500〜30,000のものである。
水溶性高分子化合物の含有量は、湿し水の0.0001〜0.1質量%が適しており、より好ましくは、0.0005〜0.05質量%である。
【0027】
本発明の湿し水組成物はさらに、pH調整剤によってpHを好ましい値に調整することが好ましい。pH値は3〜7の範囲の酸性領域で用いることが好ましいが、pH7〜11のアルカリ性領域で用いることもできる。上記pH調整剤としては、水溶性の有機酸、無機酸又はそれらの塩が使用できる。
好ましい有機酸としては、酢酸、クエン酸、蓚酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、アスコルビン酸、グルコン酸、ヒドロキシ酢酸、マロン酸、レブリン酸、スルファニル酸、p−トルエンスルホン酸、フィチン酸、有機ホスホン酸等が挙げられ、無機酸としては、リン酸、硝酸、硫酸、ポリリン酸が挙げられ、更にこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩あるいはアンモニウム塩、有機アミン塩も好適に用いられる。これらは2種以上の混合物として使用してもよい。これらpH調整剤の湿し水への添加量は0.001〜0.3質量%の範囲が好ましい。
【0028】
本発明の湿し水組成物にはさらに、濡れ性向上の助剤として、ピロリドン誘導体やアセチレングリコール/アセチレンアルコール類を含めてもよい。ピロリドン誘導体としては、エチルピロリドン、ブチルピロリドン、ペンタピロリドン、ヘキサピロリドン、オクチルピロリドン、ラウリルピロリドンが挙げられる。
また、アセチレングリコール/アセチレンアルコール類としては、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2−ブチン−1,4−ジオール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、及びそれらの酸化エチレン及び/又は酸化プロピレン付加物などが挙げられる。上記化合物のうち、特にオクチルピロリドン、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、及び2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールの酸化エチレンが4〜10個付加した化合物が好ましく挙げられる。これらの化合物は、湿し水の0.0001〜1.0質量%で用いられるのが適当であり、より好ましくは0.001〜0.1質量%である。
【0029】
本発明の湿し水組成物にはまた、動的表面張力の調節、可溶化、又は印刷インキの混入率(乳化率)を適度な範囲に抑えるなどのために、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの酸化エチレン及び/又は酸化プロピレン付加物、トリメチロールプロパンの酸化プロピレン付加物、グリセリンの酸化プロピレン付加物、ソルビトールの酸化プロピレン付加物、テトラヒドロフルフリルアルコールなどを加えてもよく、特に好ましいのが2−エチル−1,3−ヘキサンジオールであり、また可溶化剤としてテトラヒドロフルフリルアルコールが好ましい。
これらの化合物は、湿し水の0.01〜7質量%で用いられるのが適当であり、より好ましくは0.05〜5質量%である。
【0030】
本発明の湿し水組成物のその他の成分として、例えば、さらに、エチレンジアミンもしくはジエチレントリアミンにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加した化合物を含有させることができ、このような化合物は、印刷機停止時に版上に残った水滴が放置により水が蒸発し、濃縮されて残ったときでも、画像領域にダメージを与えることがない。
これらにおいてエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの付加モル数比率は、5:95〜50:50の範囲が適当であり、より好ましくは20:80〜35:65の範囲である。各共重合鎖はブロック構造でも、ランダム構造でもよい。本発明で使用される、上記付加化合物の重量平均分子量は、好ましくは500〜5000、より好ましくは800〜1500であり、最適なのは重量平均分子量1000付近のもので、分子量やエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの比率は、例えば水酸基価及びアミン価の測定、NMR測定などにより決定することができる。
上記化合物を湿し水において0.01〜1質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%含有させることによって、イソプロピルアルコールを代替しても、良好な印刷適性を発揮する。
【0031】
本発明の湿し水組成物には、さらに、界面活性剤を濡れ性向上の助剤として使用することができる。界面活性剤のうち、例えばアニオン型界面活性剤としては、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸塩類、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩類、N−アルキルスルホ琥珀酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ひまし油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。
これらの中でもジアルキルスルホ琥珀酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類及びアルキルナフタレンスルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0032】
非イオン型界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、蔗糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、トリエタノールアミン脂肪酸エステル類、トリアルキルアミンオキシド類などが挙げられる。
その他、弗素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤も使用することができる。
これらの中でもポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー類等が好ましく用いられる。
界面活性剤を使用する場合、発泡の点を考慮すると、その含有量は湿し水の1.0質量%以下、好ましくは0.001〜0.5質量%が適当である。
【0033】
本発明の湿し水組成物には、糖類を含ませてもよい。使用する糖類には水素添加によって得られる糖アルコールも含まれる。
好ましい糖類の具体例としては、D−エリトロース、D−スレオース、D−アラビノース、D−リボース、D−キシロース、D−エリスロ−ペンテュロース、D−アルロース、D−ガラクトース、D−グルコース、D−マンノース、D−タロース、β−D−フラクトース、α−L−ソルボース、6−デオキシ−D−グルコース、D−グリセロ−D−ガラクトース、α−D−アルロ−ヘプチュロース、β−D−アルトロ−3−ヘプチュロース、サッカロース、ラクトース、D−マルトース、イソマルトース、イヌロビオース、ヒアルビオウロン、マルトトリオース、D,L−アラビット、リビット、キシリット、D,L−ソルビット、D,L−マンニット、D,L−イジット、D,L−タリット、ズルシット、アロズルシット、マルチトールなどが挙げられる。
これらの糖類は1種単独で又は2種以上を併用してもよい。
糖類の含有量は湿し水の0.01〜1質量%が適当であり、好ましくは0.1〜0.8質量%である。
【0034】
本発明の湿し水組成物において、使用時に濃縮液を希釈する水道水や井戸水に含まれているカルシウムイオン等が印刷に悪影響を与え、印刷物を汚れ易くする原因となることもある。このような場合、キレート化剤を添加することにより、上記欠点を解消することができる。好ましいキレート化剤としては、下記酸のカリウム塩、そのナトリウム塩があげられる。酸としては、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、ニトリロトリ酢酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)などのような有機ホスホン酸類あるいはホスホノアルカントリカルボン酸類を挙げることができる。上記のキレート化剤のナトリウム塩あるいはカリウム塩の代わりに、有機アミンの塩も有効である。
これらのキレート化剤は湿し水中に安定に存在し、印刷性を阻害しないものが選ばれる。
湿し水中のキレート化合物の含有量としては、0.001〜0.5質量%が適当で、好ましくは0.002〜0.25質量%である。
【0035】
本発明の湿し水組成物には臭気マスキング剤として、従来香料としての用途が知られているエステルを含ませてもよい。中でも好ましいものとして、酢酸n−ペンチル、酢酸イソペンチル、酪酸n−ブチル、酪酸n−ペンチル及び酪酸イソペンチルが挙げられ、特に酪酸n−ブチル、酪酸n−ペンチル及び酪酸イソペンチルが好適である。
【0036】
本発明の湿し水組成物に使用する防腐剤としては、フェノール又はその誘導体、ホルマリン、イミダゾール誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、4−イソチアゾリン−3−オン誘導体、ベンズトリアゾール誘導体、アミジン又はグアニジンの誘導体、四級アンモニウム塩類、ピリジン、キノリン又はグアニジンの誘導体、ダイアジン又はトリアゾールの誘導体、オキサゾール又はオキサジンの誘導体、ブロモニトロアルコール系のブロモニトロプロパノール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、3−ブロモ−3−ニトロペンタン−2,4−ジオール等が挙げられる。好ましい添加量は細菌、カビ、酵母等に対して、安定に効力を発揮する量であって、湿し水の0.001〜1.0質量%の範囲が好ましく、また種々のカビ、細菌、酵母に対して効力のあるような2種以上の防腐剤を併用することが好ましい。
【0037】
本発明の湿し水組成物には着色剤として食品用色素等が好ましく使用でき、例えば、黄色色素としてCINo. 19140、15985、赤色色素としてCINo. 16185、45430、16255、45380、45100、紫色色素としてはCINo. 42640、青色色素としてはCINo. 42090、73015、緑色色素としてはCINo. 42095、等が挙げられる。
本発明に使用できる防錆剤としては、例えばベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、チオサリチル酸、ベンゾイミダゾール及びその誘導体等が挙げられる。
本発明に使用できる消泡剤としてはシリコン消泡剤が好ましく、その中で乳化分散型及び可溶化型等いずれも使用することができる。
【0038】
本発明の湿し水組成物の成分として残余は、水である。
湿し水組成物は、通常商業ベースとするときは濃縮化して商品化するのが一般的である。従って、水、好ましくは脱塩水、即ち、純水を使用して、上記の各種成分を溶解した水溶液として濃縮液を得ることができる。
このような濃縮液を使用するときに、通常使用時に水道水、井戸水等で10〜200倍程度に希釈し、使用時の湿し水とするのが一般的である。本発明では30〜100倍程度が特に好ましい。
【0039】
本発明の湿し水組成物は、種々の平版印刷版に対して使用することができるが、特にアルミニウム板を支持体とし、その上に感光層を有する感光性平版印刷版を画像露光及び現像して得られた平版印刷版に対して好適に使用できる。
かかるPS版の好ましいものは、例えば、英国特許第 1,350,521号明細書に記されているようなジアゾ樹脂(p−ジアゾジフェニルアミンとパラホルムアルデヒドとの縮合物の塩)とシエラックとの混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたもの、英国特許第 1,460,978号及び同第 1,505,739号の各明細書に記されているようなジアゾ樹脂とヒドロキシエチルメタクリレート単位又はヒドロキシエチルアクリレート単位を主なる繰り返し単位として有するポリマーとの混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたもの、また特開平2−236552号、特開平4−274429号に記載のジメチルマレイミド基を含有する感光性ポリマー系をアルミニウム板上に設けたもののようなネガ型PS版、および特開昭50−125806号公報に記載されているようなO−キノンジアジド感光物とノボラック型フェノール樹脂との混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたポジ型PS版が含まれる。
またバーニング処理されたポジ型PS版にも用いることができる。
【0040】
上記感光層を形成する組成物には、上記のアルカリ可溶性ノボラック樹脂以外の、アルカリ可溶性樹脂を必要に応じて配合することができる。
例えば、スチレン−アクリル酸共重合体、メチルメタアクリレート−メタクリル酸共重合体、アルカリ可溶性ポリウレタン樹脂、特公昭52−28401号公報記載のアルカリ可溶性ビニル系樹脂、アルカリ可溶性ポリブチラール樹脂等を挙げることができる。
更に米国特許第 4,072,528号及び同第 4,072,527号の各明細書に記されているような光重合型フォトポリマー組成物の感光層をアルミニウム板上に設けたPS版、英国特許第 1,235,281号及び同第 1,495,861号の各明細書に記されているようなアジドと水溶性ポリマーとの混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたPS版も好ましい。
さらに、可視や赤外線のレーザーで直接露光するCTPプレートにも好適に使用することができる。具体例としてはフォトポリマータイプデジタルプレート(例えば富士フイルム(株)製LP−NX)や、サーマルポジタイプデジタルプレート(例えば富士フイルム(株)製LH−PI)、湿し水及びインキにより現像する印刷機上現像型プレート(例えば富士フイルム(株)製ET−S)並びにサーマルネガタイプデジタルプレート(例えば富士フイルム(株)製LH−NI)などが挙げられる。
【実施例】
【0041】
次に本発明を実施例により更に具体的に説明する。
なお、%は特に指定のない限り質量%を示す。
[実施例1〜6及び比較例1]
キズ汚れ改良剤を下記の表1のように変更した以外は等質量用いて、全く同様にして、以下の処方で各種湿し水組成物を調製した。該処方において単位はグラムであり、最後に水を加えて100グラムに調整した場合の添加量であり、質量%と同意である。こうして得られた各種湿し水組成物は、希釈することなく印刷試験に供され、すなわち、これらの湿し水組成物は使用時の湿し水に相当する。
[比較例2]
比較例1において、ジオール系化合物を無添加とした以外は、全く同様にして、以下の処方で湿し水組成物を調製した。
【0042】
使用時の湿し水組成物(使用液)の処方
成分 添加量
プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル 0.6g
プロピレングリコール 0.6g
2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール 0.3g
(上述の具体例のジオール系化合物(7))
キズ汚れ改良剤(表1) 0.02g
カルボキシメチルセルロース 0.01g
硝酸アンモニウム 0.05g
コハク酸 0.02g
2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール 0.002g
2-メチル-5-クロロ-4-イソチアゾリン-3-オン 0.002g
ベンゾトリアゾール 0.001g
水を加えて 100gとする
【0043】
各湿し水組成物を用いて、(株)小森コーポレーション製のLithron26 印刷機によって、東洋インキ(株)のインキ:レオエックス墨L、王子製紙(株)の微塗工紙:OKトップコート+、富士フイルム(株)の版:PN-Vにて、各20000枚印刷を行った後、以下の評価を行った。
(1)ブランケットパイリング評価
印刷終了後、ブランケットを取り外し、非画像部上の堆積物の高さを触針式表面粗さ計測器(サーフコーダー)にて測定し、ジオール系化合物無添加の湿し水に対する相対値で評価した。値が小さいほどパイリングの高さが低く好ましいことを示す。
【0044】
(2)キズ汚れ防止性評価
キズ汚れの判定については、富士フイルム(株)の版:HP−Lを、露光、現像、ガム引き処理をした後、印刷を行う前に、引っかき試験機によって非画像部に物理的にキズを付けた。このキズを付けた版を用い、実施例及び比較例の湿し水の新液を用いて印刷評価を行った。引っかき試験機としては、HEIDON scratching Intersity TESTER HEIDEN-18を使用し、0.4mmkのサファイア針を使用した。また、キズ汚れの評価としては、キズを付けた部分の汚れがはっきりと発生した時点の引っかき試験機の荷重で判定し、以下の基準を基に評価を行った。
評 価 キズ汚れ発生荷重(g)
× 2,5
△ 10,30
○ 50,70
◎ 100,150
【0045】
(3)キズ汚れ防止力維持性
(2)と同じ評価を湿し水新液を用いる代わりに、下記条件で使い込んで疲労させた湿し水を用いて行った。
疲労湿し水の作成方法:
HP−L;1版で20000枚印刷を行う。この仕事を2日間で20版実施し、合計400000枚の印刷を行った。湿し水は、5000枚印刷する毎に、減量した分を補充しながら印刷を行った。
キズ汚れ防止力維持性の評価は上記の疲労湿し水を用いて、(2)と同様にしてキズを付けた版;HP−Lを印刷した時に、キズを付けた部分の汚れがはっきりと発生した時点の引っかき試験機の荷重で判定し、以下の基準を基に評価を行った。
評 価 キズ汚れ発生荷重(g)
× 2,5
△ 10,30
○ 50,70
◎ 100,150
【0046】
以下の表において、ジオール系化合物の欄は、前述のジオール系化合物の具体例に付した符号をもって、ジオール系化合物を表す。また、キズ汚れ改良剤の欄の各種化合物は以下の化合物を表す。
【0047】
化合物

【0048】
比較化合物

【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果から、本発明に従って1分子中に4個以上のホスホン酸基を有する化合物を添加すると、キズ汚れの発生が著しく抑制されることが判る。また、ブランケットパイリングの抑制効果を劣化させることがない。本発明で使用するホスホン酸系化合物のなかでも化合物1〜4がキズ汚れ防止力維持性能についても良好であり、とくに好ましい。
【0051】
[比較例3〜7]
実施例1において、化合物1の代わりに比較化合物1〜5に置き換えた以外は、全く同様にして実験を行った。結果を表2に示す。
【表2】

ホスホン酸基が1分子中に3個以下の化合物では、キズ汚れの抑制効果がないことが判る。またカルボン酸基を含有する類似構造の化合物でも、キズ汚れの抑制効果がない。
【0052】
[実施例7〜13、比較例8〜12]
実施例4において、ジオール系化合物(7)を以下の表3のジオール系化合物に置き換えた以外は、全く同様にして実験を行った。
【表3】

【0053】
表3の結果から、本発明に従ってホスホン酸系化合物とジオール系化合物を添加すると、ブランケットパイリングが著しく抑制され、また、キズ汚れの発生も抑制される。
表1の結果と併せてみると、本発明で使用するジオール系化合物の中でも(7)と(10)の化合物が特に好ましい。
【0054】
実施例4及び11において、使用液の30〜100倍濃縮液を作成し、水道水で希釈して使用液を作成して用いたところ、上記と同様の効果が得られることを確認した。
【0055】
[実験例1]
実施例4において、ホスホン酸系化合物4の添加量のみを変更して同様の印刷実験を実施した。その結果、添加量は0.0001〜0.1%が好ましく、より好ましくは0.002〜0.06%、特に好ましくは0.008〜0.03%であることが分かった。
【0056】
[実施例14〜16]
実施例11のホスホン酸系化合物4の代わりに、該化合物4のナトリウム塩、該化合物4のカリウム塩、又は該化合物4のアンモニウム塩に変更した以外は全く同様にして実験を行った。結果を表4に示す。
【表4】

本発明に従ったホスホン酸系化合物の塩類によっても、実施例11と同様の効果が得られることを確認した。
【0057】
[実験例2]
実施例11において、印刷実験に使用したインキを以下のように変更した以外は全く同様にして印刷実験を実施し、本発明の湿し水組成物の効果を確認した。
東洋インキ(株)製 スーパーレオエコーSOY 藍、紅、黄
〃 レオエコー SOY 墨、藍、紅、黄
〃 レオエコー LTDプロ 墨、藍、紅、黄
東京インキ(株)製 ウエブアクタスSOY メジャー 墨、藍、紅、黄
DIC(株)製 ニューアドバン 墨、藍、紅、黄
ザ・インクテック(株)製 SOYBI VISTA 墨、藍、紅、黄
上記全てのヒートセットタイプのオフ輪用インキに対しても、実施例11と同様の結果が観察された。本発明の湿し水組成物が使用される印刷におけるインキは、これらに限定されるものではなく、蛍光インキ、マットインキ、各種中間色のインキなどに対しても有効である。
また、ヒートセットタイプのオフ輪用インキ以外にも、新聞印刷に用いられるノンヒートタイプオフ輪用インキ、枚葉プロセス用インキに対しても、本発明の湿し水組成物は有用であり、特にヒートセットタイプのオフ輪用インキで、本発明の湿し水組成物の効果が顕著に発揮され好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個のOH基を有し総炭素数が9である非環状炭化水素化合物とホスホン酸基を1分子中に4個以上有する化合物とを含有することを特徴とする平版印刷用湿し水組成物。
【請求項2】
該ホスホン酸基を有する化合物が、1分子中にホスホン酸基を4個以上5個以下有することを特徴とする請求項1に記載の平版印刷用湿し水組成物。
【請求項3】
該非環状炭化水素化合物が2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール及び2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1記載の平版印刷用湿し水組成物。
【請求項4】
さらに、下記一般式(I)で表される化合物を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の平版印刷用湿し水組成物。
1-O−(CH2CHR2O)m−H (I)
(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基又は水素原子を表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、mは1〜5の整数を表す。)
【請求項5】
ヒートセットタイプのオフ輪用インキ、及び請求項1〜4のいずれか1項に記載の湿し水組成物を用いたヒートセットオフ輪印刷方法。