説明

平版印刷用湿し水組成物及びヒートセットオフ輪印刷方法

【課題】ブランケットパイリングを抑制するとともに、非画像部のキズによる汚れ防止に優れた、平版印刷用湿し水組成物を提供する。
【解決手段】2個のOH基を有し総炭素数が9である非環状炭化水素化合物、及び、側鎖にリンの酸素酸基及びカルボキシ基から選ばれる少なくとも1種と、スルホン酸基及びベタイン構造から選ばれる少なくとも1種とを有する水溶性共重合体を含有することを特徴とする平版印刷用湿し水組成物;ヒートセットタイプのオフ輪用インキ、及び上記湿し水組成物を用いたヒートセットオフ輪印刷方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷用湿し水組成物に関し、さらに具体的にはオフセット印刷方法に、特にヒートセットオフ輪印刷方法に好ましく使用される、平版印刷用湿し水組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は水と油が本質的に混じり合わない性質を利用した印刷方式であり、印刷版面は水を受容し油性インキを反撥する非画像領域と、水を反撥し油性インキを受容する画像領域からなる。非画像領域を湿し水が湿潤することで画像領域との界面化学的な差が拡大し、非画像領域のインキ反撥性と画像領域のインキ受容性とを増大する。
平版印刷機は通常、オフセット印刷方式になっており、版上にインキと湿し水が供給され、画像部にインキが付着し、非画像部に湿し水が付着することによって画像が形成され、その版上の画像がブランケットに転移し、更にブランケットから紙に転移することによって印刷されている。
【0003】
従来の湿し水としては、重クロム酸塩、リン酸塩、アラビアガム、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のコロイド物質等を添加した水溶液が知られている。しかしこれらの化合物を含むだけでは、版の非画像部が均一に濡れ難く、このため印刷物が汚れたり、また湿し水の供給量を調節するのに相当の熟練を要するなどの問題があった。
この欠点を改良するため、イソプロピルアルコールを約20〜25%加えた水溶液を湿し水として用いるダールグレン方式が提案されている。しかし、イソプロピルアルコールは蒸発し易いために、湿し水中の濃度を一定に保つための特殊な装置が必要である。また、イソプロピルアルコールは不快臭があり、作業環境上好ましくない。
【0004】
イソプロピルアルコールを含有しない湿し水として例えば、特定のプロピレングリコール系化合物を含有する湿し水(特許文献1参照)、また、エチレンジアミンにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加した化合物を含有する湿し水(特許文献2参照)、ジエチレントリアミンにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加した化合物を含む湿し水(特許文献3参照)などが提案されている。
さらに長時間連続印刷を行うと、インキ成分と紙成分がブランケット上の非画像部分に次第に堆積し、その堆積物が紙へのインキ転移を阻害しインキの着肉不良の原因となることがあり(ブランケットパイリングと言われる)、この現象を改良する技術として、特定のジオール化合物を含有する湿し水組成物が提案されている(特許文献4参照)。また、平版印刷版支持体表面に吸着可能な吸着性基及びスルホン酸基を有する水溶性高分子を含有させた印刷薬品が、非画像部の汚れ防止に役立つと提案されている(特許文献5参照)。
このように湿し水組成物に様々な工夫が提案されている中、例えば特許文献4に提案されている湿し水組成物はブランケットパイリングを抑制する効果に優れているが、印刷中や一時停止中における版面へのキズ(引掻き、磨耗、異物付着など)や汚れの付着などによる不感脂性が低下することがあり、本発明者らの検討によれば、特にキズに対する版面保護作用が充分でないことが判った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−138655号公報
【特許文献2】特開2007−50665号公報
【特許文献3】特開2007−55182号公報
【特許文献4】特開2009−96177号公報
【特許文献5】特開2007−38483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ブランケットパイリングを抑制するとともに、非画像部のキズによる汚れ防止に優れた、平版印刷用湿し水組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、特定のジオール系化合物、及び少なくとも2種の特定の基又は構造を側鎖に有する水溶性高分子を湿し水に添加することによって、ブランケットパイリングを抑制するのみならず、キズ汚れ防止に優れることを見出した。
従って本発明は、2個のOH基を有し総炭素数が9である非環状炭化水素化合物、及び、側鎖にリンの酸素酸基と、スルホン酸基及びベタイン構造から選ばれる少なくとも1種とを有する水溶性共重合体を含有することを特徴とする平版印刷用湿し水組成物である。
本発明の好ましい実施態様として、上記非環状炭化水素化合物が2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール及び/または2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールである平版印刷用湿し水組成物が挙げられる。本発明の好ましい実施態様としてまた、さらに、下記一般式(I)で表される化合物を含有する平版印刷用湿し水組成物が挙げられる。
1-O−(CH2CHR2O)m−H (I)
(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基または水素原子を表し、R2は水素原子またはメチル基を表し、mは1〜5の整数を表す。)
本発明の平版印刷用湿し水組成物は、ヒートセットオフ輪印刷方式に好ましく使用することができ、従って、本発明はさらに、ヒートセットタイプのオフ輪用インキ、及び上記湿し水組成物を用いたヒートセットオフ輪印刷方法に向けられている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の湿し水組成物によれば、ブランケットパイリングの発生を抑制するのみならず、非画像部のキズによる汚れ防止に優れ、長時間連続印刷しても良好な印刷品質を安定して得られる。更に本発明の湿し水組成物によれば、従来、湿し水に用いられるイソプロピルアルコールのような揮発性有機溶剤を使用することなく、よって、湿し水の供給量の調節などを簡便に行うことができ、また、作業環境上好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する非環状炭化水素化合物は、2個のOH基を有し、総炭素数が9であるジオール系化合物である。ここで総炭素数が9であることで、溶解性が良好であり本発明が目的とする効果が達成される。
本発明で使用するジオール系化合物において、該2個のOH基間の最短の炭素数の好ましい範囲は2〜6であり、さらに好ましい範囲は3〜5である。
本発明で使用するジオール系化合物の具体例(1)〜(15)を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
本発明で使用するジオール系化合物の上記具体例のうち、(7)2-ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールと(10)2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールが、ブランケットパイリングの低減効果の点で優れている。
本発明の湿し水組成物において、該ジオール系化合物を1種単独又は2種以上含めてもよい。
本発明の湿し水組成物の例として、該ジオール系化合物を2種以上含み、該ジオール系化合物の総質量において、2-ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールが1質量%以上を占める湿し水組成物がある。この例において、2-ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールが好ましくは該ジオール系化合物の総質量の3質量%以上、より好ましくは10質量%以上を占める。
該ジオール系化合物を2種以上含む湿し水組成物において、2-ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールと併用するジオール系化合物として、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールが特に挙げられる。
【0013】
本発明の湿し水組成物においてジオール系化合物の添加量は、使用時の湿し水組成物において0.001〜2.0質量%が適当であり、この範囲にあると、本発明の効果が十分に得られるとともに溶解不良や給水ローラー汚れなどが発生せず、好ましくは0.05〜1.0質量%であり、より好ましくは0.1〜0.7質量%、さらに好ましくは0.2〜0.5質量%である。
【0014】
湿し水組成物は、通常先ず濃縮液として調製しておき、使用時に該濃縮液を適宜希釈し使用することが好ましく、希釈率は30〜100倍程度が特に好ましい。濃縮率は高すぎると濃縮液中での析出、液分離などの問題が発生しやすい。以降、使用時の湿し水組成物を単に「湿し水」と呼ぶ。
【0015】
本発明の湿し水組成物はさらに、側鎖に、リンの酸素酸基及びカルボキシ基から選ばれる少なくとも1種と、スルホン酸基及びベタイン構造から選ばれる少なくとも1種とを有する水溶性共重合体を含む。
該水溶性共重合体は、共重合単位として少なくとも、リンの酸素酸基及び/またはカルボキシ基を有するモノマー単位(以下「酸性モノマー単位」とも称する)と、スルホン酸基を有するモノマー単位及び/またはベタイン構造を有するモノマー単位(これら2種のモノマー単位は以下「親水性モノマー単位」とも称する)とを有する水溶性共重合体であり得る。以下、上記水溶性共重合体を特定共重合体とも称する。
【0016】
前記リンの酸素酸基の具体例として、ホスホン酸基(−PO(OH)2)及びリン酸基(−OPO(OH)2)が挙げられ、上記基を有するモノマー単位を共重合単位として有する水溶性共重合体が好ましい。
上記のリンの酸素酸基は塩を形成していてもよく、プロトン(H+)以外の対カチオンとしては、特に制限はなく、無機カチオン、例えば金属カチオン等であっても、有機カチオン、例えばテトラアルキルアンモニウムイオン等であってもよく、また、ポリマー型のカチオンであってもよい。また、前記対カチオンは、一価の対カチオンであっても、二価以上の対カチオンであってもよい。
【0017】
前記酸性モノマー単位は、下記式(U−1)〜(U−3)で表されるモノマー単位であることが好ましく、下記式(U−1)又は(U−2)で表されるモノマー単位であることがより好ましい。
【化3】

(式(U−1)〜(U−3)中、R1は、水素原子又はアルキル基を表し、A1は、単結合又は(n+1)価の有機基を表し、X1及びX2はそれぞれ独立に、水素原子又はプロトン(H+)以外の対カチオンを表し、nは1以上の整数を表す。)
【0018】
上記式中、R1は水素原子又はアルキル基を表し、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
式中X1及びX2におけるプロトン(H+)以外の対カチオンは、特に制限はなく、金属カチオン(例えばリチウム、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属イオン)等の無機カチオンであっても、アンモニウムイオン(例えば、NH4+、ベンジルアンモニウムなどの第1級アンモニウムイオン、エチルベンジルアンモニウムなどの第2級アンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムなどの第3級アンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、ベンジルトリエチルアンモニウムなどの第4級アンモニウムイオン、ピリジニウム、イミダゾリウム)等の有機カチオンであってもよく、また、ポリマー型のカチオンであってもよい。また、前記対カチオンは、一価の対カチオンであっても、二価以上の対カチオンであってもよい。
前記nは、1以上の整数を表し、1〜5の整数であることが好ましく、1又は2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。
【0019】
式中、A1における(n+1)価の有機基としては、炭素、水素、酸素及び窒素よりなる群から選ばれた少なくとも1つの元素より形成された基であることが好ましく、炭素、水素及び酸素よりなる群から選ばれた少なくとも1つの元素より形成された基であることがより好ましく、炭化水素から(n+1)個の水素原子を除いた基、又は、炭化水素からm個(ただし、mは1以上の整数を表す。)の水素原子を除いた基、エステル結合及びエーテル結合よりなる群から選ばれた2以上の基を組み合わせた基であることが更に好ましい。A1が(n+1)価の有機基であるとき、その炭素原子数は一般的に3〜20の範囲が適当である。
【0020】
上記酸性モノマー単位は、下記式(U−4)又は(U−5)で表されるモノマー単位であることが更に好ましい。
【化4】

(式(U−4)及び(U−5)中、R1は、水素原子又はアルキル基を表し、A2は、二価の有機基を表し、X1及びX2はそれぞれ独立に、水素原子又はプロトン(H+)以外の対カチオンを表す。)
【0021】
式(U−4)及び(U−5)におけるR1、X1及びX2は、式(U−1)〜(U−3)におけるR1、X1及びX2と同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記式(U−5)のA2における二価の有機基としては、炭素、水素、酸素よりなる群から選ばれた少なくとも1つの元素より形成された基であることが好ましく、アルキレン基、又は、アルキレン基、エステル結合及びエーテル結合よりなる群から選ばれた2以上の基を組み合わせた基であることがより好ましく、アルキレン基、又は、アルキレン基及びエーテル結合を組み合わせた基であることが更に好ましく、アルキレン基又はポリアルキレンオキシ基であることが特に好ましい。なお、前記ポリアルキレンオキシ基のリン原子側末端は、炭素原子であっても、酸素原子であってもよい。また、前記アルキレン基及びポリアルキレンオキシ基は、直鎖であっても、分岐を有していてもよい。
式(U−5)で表されるモノマー単位は、A2の末端が炭素原子であるか、酸素原子であるかの違いにより、モノマー単位の末端の基は、ホスホン酸基又はその塩である場合も、リン酸基又はその塩である場合もある。
また、(U−5)におけるA2の炭素数は、2〜60であることが好ましく、2〜20であることがより好ましく、2〜10であることが更に好ましい。
【0022】
上記酸性モノマー単位の具体例としては、下記(A−1)〜(A−6)で表されるモノマー単位が好ましく例示できる。また、下記(A−1)〜(A−6)で表されるモノマー単位のホスホン酸基、リン酸基又はカルボキシ基が塩を形成しているモノマー単位も好ましく例示できる。なお、本発明において、化合物やその部分構造の炭化水素鎖を炭素(C)及び水素(H)の記号を省略した簡略構造式で記載することもある。
【化5】

【0023】
本発明で用いる特定共重合体は、上述の酸性モノマー単位を1種のみ有していても、2種以上を有していてもよい。
本発明に用いることができる特定共重合体における酸性モノマー単位の含有比率は、特定共重合体が有する全モノマー単位に対し、2〜80モル%であることが好ましく、2〜70モル%であることがより好ましく、5〜50モル%であることが更に好ましく、10〜40モル%であることが特に好ましい。
【0024】
本発明で用いる特定共重合体はまた、スルホン酸基を有するモノマー単位及びベタイン構造を有するモノマー単位から選ばれる少なくとも1種の親水性モノマー単位を有する。
ここでスルホン酸基とは、スルホン酸基(−SO3H)及びその塩(−SO3M(ただし、Mはプロトン(H+)以外の対カチオンを表す。))を包含する。
また、ベタイン構造とは、1つのモノマー単位内にカチオン構造とアニオン構造の両方を有し、同一モノマー単位内で電荷が中和されている構造である。該ベタイン構造におけるカチオン構造としては、特に制限はないが、第四級窒素カチオンであることが好ましい。該ベタイン構造におけるアニオン構造としては、特に制限はないが、−COO-、−SO3-、−PO32-、及び/又は、−PO3-であることが好ましく、−COO-、及び/又は、−SO3-であることがより好ましい。
【0025】
該親水性モノマー単位の好ましい例として、下記式(U−6)〜(U−8)で表されるモノマー単位が挙げられ、中でも下記式(U−7)又は(U−8)で表されるモノマー単位がより好ましい。
【化6】

(式(U−6)〜(U−8)中、R1は、水素原子又はアルキル基を表し、R2及びR3はそれぞれ独立に、水素原子又は一価の炭化水素基を表し、A3は、単結合又は(n+1)価の有機基を表し、A4は、(n+1)価の有機基を表し、A5はそれぞれ独立に、二価の有機基を表し、X1はそれぞれ独立に、水素原子又はプロトン(H+)以外の対カチオンを表し、nは1以上の整数を表す。)
【0026】
式(U−6)〜(U−8)におけるR1、X1及びnは、式(U−1)及び(U−2)におけるR1、X1及びnと同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記式(U−6)のA3における(n+1)価の有機基としては、炭素、水素、酸素及び窒素よりなる群から選ばれた少なくとも1つの元素より形成された基であることが好ましく、炭化水素から(n+1)個の水素原子を除いた基、又は、炭化水素からm個(ただし、mは1以上の整数を表す。)の水素原子を除いた基、エステル結合、アミド結合及びエーテル結合よりなる群から選ばれた2以上の基を組み合わせた基であることがより好ましい。
前記式(U−7)及び(U−8)のA4における(n+1)価の有機基としては、炭素、水素、酸素及び窒素よりなる群から選ばれた少なくとも1つの元素より形成された基であることが好ましく、炭素、水素及び酸素よりなる群から選ばれた少なくとも1つの元素より形成された基であることがより好ましく、炭化水素から(n+1)個の水素原子を除いた基、又は、炭化水素からm個(ただし、mは1以上の整数を表す。)の水素原子を除いた基及びエステル結合よりなる群から選ばれた2以上の基を組み合わせた基であることが更に好ましい。
前記式(U−7)及び(U−8)のA5における二価の有機基としては、炭素、水素、酸素よりなる群から選ばれた少なくとも1つの元素より形成された基であることが好ましく、アルキレン基であることがより好ましい。また、前記アルキレン基は、直鎖であっても、分岐を有していてもよい。
【0027】
前記式(U−7)及び(U−8)のR2及びR3はそれぞれ独立に、水素原子又は一価の炭化水素基を表し、一価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1〜8のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。
【0028】
また、前記親水性モノマー単位の更に好ましい例として、下記式(U−9)〜(U−12)で表されるモノマー単位が挙げられる。
【化7】

(式(U−9)〜(U−12)中、R1は、水素原子又はアルキル基を表し、R2及びR3はそれぞれ独立に、水素原子又は一価の炭化水素基を表し、A6、A7及びA8はそれぞれ独立に、二価の有機基を表し、X1はそれぞれ独立に、水素原子又はプロトン(H+)以外の対カチオンを表す。)
【0029】
式(U−9)〜(U−12)におけるR1及びX1は、式(U−1)及び(U−2)におけるR1及びX1と同義であり、好ましい範囲も同様である。
式(U−9)〜(U−12)におけるR2及びR3は、前記式(U−7)及び(U−8)におけるR2及びR3と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0030】
式(U−9)及び(U−10)のA6は、二価の有機基を表し、直鎖又は分岐アルキレン基であることが好ましく、炭素数2〜20の直鎖又は分岐アルキレン基であることがより好ましく、炭素数2〜10の直鎖又は分岐アルキレン基であることが更に好ましい。
式(U−11)及び(U−12)のA7は、二価の有機基を表し、直鎖又は分岐アルキレン基であることが好ましく、炭素数2〜20の直鎖又は分岐アルキレン基であることがより好ましく、炭素数2〜10の直鎖又は分岐アルキレン基であることが更に好ましい。
式(U−11)及び(U−12)のA8は、二価の有機基を表し、直鎖又は分岐アルキレン基であることが好ましく、炭素数1〜10の直鎖又は分岐アルキレン基であることがより好ましく、炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキレン基であることが更に好ましい。
【0031】
上記親水性モノマー単位の具体例としては、下記(H−1)〜(H−8)で表されるモノマー単位が好ましく例示できる。また、下記(H−1)〜(H−4)で表されるモノマー単位のスルホン酸基が塩を形成しているモノマー単位も好ましく例示できる。
【化8】

【0032】
本発明で用いる特定共重合体は、上述の親水性モノマー単位を1種のみ有していてもよいし、または2種以上を有していてもよい。
本発明で用いる特定共重合体における親水性モノマー単位の含有比率は、特定共重合体が有する全モノマー単位に対し、20〜98モル%が一般的な範囲であり、30〜98モル%であることが好ましく、40〜90モル%であることがより好ましく、50〜90モル%であることが更に好ましい。
【0033】
本発明で用いる特定共重合体は、上述の酸性モノマー単位及び親水性モノマー単位以外に、他のモノマー単位を有していてもよい。
他のモノマー単位としては、特に制限はなく、公知のモノマーから誘導されるモノマー単位であってよい。他のモノマー単位としては、ヒドロキシ基及び/又はポリアルキレンオキシ基を有するモノマー単位が好ましく例示できる。
本発明で用いる特定共重合体における他のモノマー単位の含有比率は、特定共重合体が有する全モノマー単位に対し、40モル%以下であることが好ましく、30モル%であることがより好ましく、20モル%以下であることが更に好ましい。
【0034】
本発明で用いる特定共重合体はまた、ビニル共重合体である。
なお、ビニル共重合体とは、例えば、アクリレート類、メタクリレート類、スチレン類、芳香族ビニル化合物、脂肪族ビニル化合物、アリル化合物、アクリル酸、メタクリル酸などのようなエチレン性不飽和結合を有する単量体を2種以上共重合して得られる共重合体である。
該特定共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれの共重合体でもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。
また、該酸性モノマー単位、該親水性モノマー単位、及び、その他のモノマー単位は、エチレン性不飽和結合を有する単量体より得られるモノマー単位である。
【0035】
本発明の湿し水組成物は、特定共重合体を1種単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
本発明の湿し水組成物における特定共重合体の含有量は、非画像部の汚れ防止効果が充分に発揮される観点から、湿し水において0.005〜10質量%が適当であり、0.01〜5質量%であることが好ましく、0.01〜3質量%であることが更に好ましい。
該特定共重合体の重量平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、また、1,000,000以下であることが好ましく、500,000以下であることがより好ましい。
該特定共重合体の数平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、また、500,000以下であることが好ましく、300,000以下であることがより好ましい。
該特定共重合体の多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であることが好ましい。
【0036】
本発明の湿し水組成物には、上記非環状炭化水素化合物や上記水溶性共重合体以外に、さらに濃縮液を作成する際の可溶化剤として、下記一般式(I)の化合物を少なくとも1種使用することが好ましく、これらの化合物により本発明の効果が相乗的に高まる。
一般式(I)の化合物
1-O−(CH2CHR2O)m−H (I)
(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基または水素原子を表し、R2は水素原子またはメチル基を表し、mは1〜5の整数を表す。)
一般式(I)の化合物において具体的には、式中、R1は水素原子または炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を表し、具体的には水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基があり、ジオール系化合物の溶解性を高め、かつブランケットパイリングを抑制する観点から、水素原子、n−ブチル基あるいはt−ブチル基が特に好ましい。また、mは1〜5の整数を表し、1〜3の整数が好ましく、1が特に好ましい。
【0037】
一般式(I)の化合物は、R1がアルキル基であるときの具体例として、エチレングリコールモノt−ブチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル及びトリプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテルなどがある。中でも、プロピレングリコール又はエチレングリコールのn−ブチル、又はt−ブチルエーテルが好ましく使用できる。
【0038】
一般式(I)のR1が水素原子の具体例は、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール及びペンタプロピレングリコールなどがある。中でも、ジオール系化合物の溶解性を高めるために、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールが好ましく、プロピレングリコールが最も好ましい。
【0039】
一般式(I)で示される化合物は上記の化合物を複数併用することが好ましく、特にR1がアルキル基の化合物とR1が水素原子である化合物とを併用すると、ブランケットパイリングやローラストリップを防止できる。
一般式(I)で示される化合物の添加量は、ブランケットパイリング抑制とともにローラストリップ等の問題を抑制する観点から、湿し水において0.05〜5.0質量%が適当であり、より好ましくは0.1〜3.0質量%の範囲である。
【0040】
本発明の湿し水組成物にはまた、湿潤溶剤として、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン等を用いることができる。これらの溶剤は、湿し水の0.1〜3質量%、好ましくは0.3〜2質量%の範囲で使用するのがよい。
【0041】
本発明の湿し水組成物はさらに、水溶性高分子化合物を含むことできる。本発明の湿し水組成物に使用する水溶性高分子化合物としては、例えばアラビアガム、澱粉誘導体(例えば、デキストリン、酵素分解デキストリン、ヒドロキシプロピル化酵素分解デキストリン、カルボキシメチル化澱粉、リン酸澱粉、オクテニルコハク化澱粉)、アルギン酸塩、繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース)等の天然物及びその変性体、ポリエチレングリコール及びその共重合体、ポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びその共重合体、ポリアクリル酸及びその共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、ポリスチレンスルホン酸及びその共重合体の合成物が挙げられる。上記水溶性高分子化合物の中でも、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースが特に好ましく使用できる。
これらの水溶性高分子化合物の分子量は、好ましくは300〜500,000、より好ましくは300〜100,000、特に好ましくは500〜30,000のものである。
水溶性高分子化合物の含有量は、湿し水の0.0001〜0.1質量%が適しており、より好ましくは、0.0005〜0.05質量%である。
【0042】
本発明の湿し水組成物はさらに、pH調整剤によってpHを好ましい値に調整することが好ましい。pH値は3〜7の範囲の酸性領域で用いることが好ましいが、pH7〜11のアルカリ性領域で用いることもできる。上記pH調整剤としては、水溶性の有機酸、無機酸又はそれらの塩が使用できる。
好ましい有機酸としては、酢酸、クエン酸、蓚酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、アスコルビン酸、グルコン酸、ヒドロキシ酢酸、マロン酸、レブリン酸、スルファニル酸、p−トルエンスルホン酸、フィチン酸、有機ホスホン酸等が挙げられ、無機酸としては、リン酸、硝酸、硫酸、ポリリン酸が挙げられ、更にこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩あるいはアンモニウム塩、有機アミン塩も好適に用いられる。これらは2種以上の混合物として使用してもよい。これらpH調整剤の湿し水への添加量は0.001〜0.3質量%の範囲が好ましい。
【0043】
本発明の湿し水組成物にはさらに、濡れ性向上の助剤として、ピロリドン誘導体やアセチレングリコール/アセチレンアルコール類を含めてもよい。ピロリドン誘導体としては、エチルピロリドン、ブチルピロリドン、ペンタピロリドン、ヘキサピロリドン、オクチルピロリドン、ラウリルピロリドンが挙げられる。
また、アセチレングリコール/アセチレンアルコール類としては、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2−ブチン−1,4−ジオール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、及びそれらの酸化エチレン及び/又は酸化プロピレン付加物などが挙げられる。上記化合物のうち、特にオクチルピロリドン、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、及び2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールの酸化エチレンが4〜10個付加した化合物が好ましく挙げられる。これらの化合物は、湿し水の0.0001〜1.0質量%で用いられるのが適当であり、より好ましくは0.001〜0.1質量%である。
【0044】
本発明の湿し水組成物にはまた、動的表面張力の調節、可溶化、又は印刷インキの混入率(乳化率)を適度な範囲に抑えるなどのために、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの酸化エチレン及び/又は酸化プロピレン付加物、トリメチロールプロパンの酸化プロピレン付加物、グリセリンの酸化プロピレン付加物、ソルビトールの酸化プロピレン付加物、テトラヒドロフルフリルアルコールなどを加えてもよく、特に好ましいのが2−エチル−1,3−ヘキサンジオールであり、また可溶化剤としてテトラヒドロフルフリルアルコールが好ましい。
これらの化合物は、湿し水の0.01〜7質量%で用いられるのが適当であり、より好ましくは0.05〜5質量%である。
【0045】
本発明の湿し水組成物のその他の成分として、例えば、さらに、エチレンジアミンもしくはジエチレントリアミンにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加した化合物を含有させることができ、このような化合物は、印刷機停止時に版上に残った水滴が放置により水が蒸発し、濃縮されて残ったときでも、画像領域にダメージを与えることがない。
これらにおいてエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの付加モル数比率は、5:95〜50:50の範囲が適当であり、より好ましくは20:80〜35:65の範囲である。各共重合鎖はブロック構造でも、ランダム構造でもよい。本発明で使用される、上記付加化合物の重量平均分子量は、好ましくは500〜5000、より好ましくは800〜1500であり、最適なのは重量平均分子量1000付近のもので、分子量やエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの比率は、例えば水酸基価及びアミン価の測定、NMR測定などにより決定することができる。
上記化合物を使用時の湿し水組成物において0.01〜1質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%含有させることによって、イソプロピルアルコールを代替しても、良好な印刷適性を発揮する。
【0046】
本発明の湿し水組成物には、さらに、界面活性剤を濡れ性向上の助剤として使用することができる。界面活性剤のうち、例えばアニオン型界面活性剤としては、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸塩類、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩類、N−アルキルスルホ琥珀酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ひまし油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。
これらの中でもジアルキルスルホ琥珀酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類及びアルキルナフタレンスルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0047】
非イオン型界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、蔗糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、トリエタノールアミン脂肪酸エステル類、トリアルキルアミンオキシド類などが挙げられる。
その他、弗素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤も使用することができる。
これらの中でもポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー類等が好ましく用いられる。
界面活性剤を使用する場合、発泡の点を考慮すると、その含有量は湿し水の1.0質量%以下、好ましくは0.001〜0.5質量%が適当である。
【0048】
本発明の湿し水組成物には、糖類を含ませてもよい。使用する糖類には水素添加によって得られる糖アルコールも含まれる。
好ましい糖類の具体例としては、D−エリトロース、D−スレオース、D−アラビノース、D−リボース、D−キシロース、D−エリスロ−ペンテュロース、D−アルロース、D−ガラクトース、D−グルコース、D−マンノース、D−タロース、β−D−フラクトース、α−L−ソルボース、6−デオキシ−D−グルコース、D−グリセロ−D−ガラクトース、α−D−アルロ−ヘプチュロース、β−D−アルトロ−3−ヘプチュロース、サッカロース、ラクトース、D−マルトース、イソマルトース、イヌロビオース、ヒアルビオウロン、マルトトリオース、D,L−アラビット、リビット、キシリット、D,L−ソルビット、D,L−マンニット、D,L−イジット、D,L−タリット、ズルシット、アロズルシット、マルチトールなどが挙げられる。
これらの糖類は1種単独で又は2種以上を併用してもよい。
糖類の含有量は湿し水の0.01〜1質量%が適当であり、好ましくは0.1〜0.8質量%である。
【0049】
本発明の湿し水組成物において、使用時に濃縮液を希釈する水道水や井戸水に含まれているカルシウムイオン等が印刷に悪影響を与え、印刷物を汚れ易くする原因となることもある。このような場合、キレート化剤を添加することにより、上記欠点を解消することができる。好ましいキレート化剤としては、下記酸のカリウム塩、そのナトリウム塩があげられる。酸としては、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、ニトリロトリ酢酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)などのような有機ホスホン酸類あるいはホスホノアルカントリカルボン酸類を挙げることができる。上記のキレート化剤のナトリウム塩あるいはカリウム塩の代わりに、有機アミンの塩も有効である。
これらのキレート化剤は使用時の湿し水中に安定に存在し、印刷性を阻害しないものが選ばれる。
使用時の湿し水中のキレート化合物の含有量としては、0.001〜0.5質量%が適当で、好ましくは0.002〜0.25質量%である。
【0050】
本発明の湿し水組成物には臭気マスキング剤として、従来香料としての用途が知られているエステルを含ませてもよい。中でも好ましいものとして、酢酸n−ペンチル、酢酸イソペンチル、酪酸n−ブチル、酪酸n−ペンチル及び酪酸イソペンチルが挙げられ、特に酪酸n−ブチル、酪酸n−ペンチル及び酪酸イソペンチルが好適である。
【0051】
本発明の湿し水組成物に使用する防腐剤としては、フェノール又はその誘導体、ホルマリン、イミダゾール誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、4−イソチアゾリン−3−オン誘導体、ベンズトリアゾール誘導体、アミジン又はグアニジンの誘導体、四級アンモニウム塩類、ピリジン、キノリン又はグアニジンの誘導体、ダイアジン又はトリアゾールの誘導体、オキサゾール又はオキサジンの誘導体、ブロモニトロアルコール系のブロモニトロプロパノール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、3−ブロモ−3−ニトロペンタン−2,4−ジオール等が挙げられる。好ましい添加量は細菌、カビ、酵母等に対して、安定に効力を発揮する量であって、湿し水の0.001〜1.0質量%の範囲が好ましく、また種々のカビ、細菌、酵母に対して効力のあるような2種以上の防腐剤を併用することが好ましい。
【0052】
本発明の湿し水組成物には着色剤として食品用色素等が好ましく使用でき、例えば、黄色色素としてCINo. 19140、15985、赤色色素としてCINo. 16185、45430、16255、45380、45100、紫色色素としてはCINo. 42640、青色色素としてはCINo. 42090、73015、緑色色素としてはCINo. 42095、等が挙げられる。
本発明に使用できる防錆剤としては、例えばベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、チオサリチル酸、ベンゾイミダゾール及びその誘導体等が挙げられる。
本発明に使用できる消泡剤としてはシリコン消泡剤が好ましく、その中で乳化分散型及び可溶化型等いずれも使用することができる。
【0053】
本発明の湿し水組成物の成分として残余は、水である。
湿し水組成物は、通常商業ベースとするときは濃縮化して商品化するのが一般的である。従って、水、好ましくは脱塩水、即ち、純水を使用して、上記の各種成分を溶解した水溶液として濃縮液を得ることができる。
このような濃縮液を使用するときに、通常使用時に水道水、井戸水等で10〜200倍程度、特に30〜100倍程度に希釈し、使用時の湿し水とする。
【0054】
本発明の湿し水組成物は、種々の平版印刷版に対して使用することができるが、特にアルミニウム板を支持体とし、その上に感光層を有する感光性平版印刷版を画像露光及び現像して得られた平版印刷版に対して好適に使用できる。
かかるPS版の好ましいものは、例えば、英国特許第 1,350,521号明細書に記されているようなジアゾ樹脂(p−ジアゾジフェニルアミンとパラホルムアルデヒドとの縮合物の塩)とシエラックとの混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたもの、英国特許第 1,460,978号及び同第 1,505,739号の各明細書に記されているようなジアゾ樹脂とヒドロキシエチルメタクリレート単位またはヒドロキシエチルアクリレート単位を主なる繰り返し単位として有するポリマーとの混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたもの、また特開平2−236552号、特開平4−274429号に記載のジメチルマレイミド基を含有する感光性ポリマー系をアルミニウム板上に設けたもののようなネガ型PS版、および特開昭50−125806号公報に記載されているようなO−キノンジアジド感光物とノボラック型フェノール樹脂との混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたポジ型PS版が含まれる。
またバーニング処理されたポジ型PS版にも用いることができる。
【0055】
上記感光層を形成する組成物には、上記のアルカリ可溶性ノボラック樹脂以外の、アルカリ可溶性樹脂を必要に応じて配合することができる。
例えば、スチレン−アクリル酸共重合体、メチルメタアクリレート−メタクリル酸共重合体、アルカリ可溶性ポリウレタン樹脂、特公昭52−28401号公報記載のアルカリ可溶性ビニル系樹脂、アルカリ可溶性ポリブチラール樹脂等を挙げることができる。
更に米国特許第 4,072,528号及び同第 4,072,527号の各明細書に記されているような光重合型フォトポリマー組成物の感光層をアルミニウム板上に設けたPS版、英国特許第 1,235,281号及び同第 1,495,861号の各明細書に記されているようなアジドと水溶性ポリマーとの混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたPS版も好ましい。
さらに、可視や赤外線のレーザーで直接露光するCTPプレートにも好適に使用することができる。具体例としてはフォトポリマータイプデジタルプレート(例えば富士フイルム(株)製LP−NX)や、サーマルポジタイプデジタルプレート(例えば富士フイルム(株)製LH−PI)、湿し水及びインキにより現像する印刷機上現像型プレート(例えば富士フイルム(株)製ET−S)並びにサーマルネガタイプデジタルプレート(例えば富士フイルム(株)製LH−NI)などが挙げられる。
【実施例】
【0056】
次に本発明を実施例により更に具体的に説明する。
なお、%は特に指定のない限り質量%を示す。
[実施例1〜25及び比較例1〜11]
以下の処方で、ジオール系化合物および水溶性高分子化合物を下記の表1のように変更した以外は等質量用いて、全く同様にして、各種湿し水組成物を調製した。
該処方において単位はグラムであり、最後に水を加えて100グラムに調整した場合の添加量であり、質量%と同意である。こうして得られた各種湿し水組成物は、希釈することなく印刷試験に供され、すなわち、これらの湿し水組成物は使用時の湿し水に相当する。
【0057】
使用時の湿し水組成物(使用液)の処方成分 添加量
プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル 0.5g
プロピレングリコール 0.5g
表1のジオール系化合物 0.3g
表1の水溶性高分子化合物 0.01g
硝酸アンモニウム 0.05g
クエン酸 0.02g
2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール 0.002g
2-メチル-5-クロロ-4-イソチアゾリン-3-オン 0.002g
ベンゾトリアゾール 0.001g
水を加えて 100gとする
【0058】
なお、水溶性高分子化合物として使用した水溶性共重合体の構造をモノマー単位のモル%とともに以下に示す。
【化9】



【0059】
印刷試験
各湿し水組成物を用いて、(株)小森コーポレーション製のLithron26 印刷機によって、東洋インキ(株)のインキ:スーパーレオエコーSOY墨L、王子製紙(株)の微塗工紙:OKトップコート+、富士フイルム(株)の版:PN-Vにて、各20000枚印刷を行った後、以下の評価を行った。なお、印刷前に版上非画像部に7g/cm2の荷重にてナイロンスポンジを擦り付けキズを付けた。
(1)ブランケットパイリング評価
印刷終了後、ブランケットを取り外し、非画像部上の堆積物の高さを触針式表面粗さ計測器(サーフコーダー)にて測定し、比較例1の湿し水に対する相対値で評価した。値が小さいほどパイリングの高さが低く好ましいことを示す。
(2)非画像部のキズ汚れ
印刷終了後、印刷物上のキズ状の汚れを目視にて観察し、以下のようにランク付けした。
A・・・版上のキズが印刷物上ではほとんど見えない。
B・・・版上のキズが印刷物上でわずかに見える。
C・・・版上のキズが印刷物上で明らかに見られる。
【0060】
【表1】



なお、比較例で用いた水溶性高分子の分子量は次のとおりである。
カルボキシメチルセルロース(0.3万)、リン酸デンプン(0.5万)、ポリスチレンスルホン酸(3.0万)
【0061】
表1に示した結果から、本発明に従って特定のジオール化合物及び特定の水溶性共重合体を含めた湿し水を使用することによって、ジオール化合物によるブランケットパイリング抑制効果を良好に維持しながら、版面のキズを良好に保護し印刷物におけるキズ汚れの発生を抑えることができ、高品質の印刷物を安定して提供できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個のOH基を有し総炭素数が9である非環状炭化水素化合物、及び、側鎖にリンの酸素酸基およびカルボキシ基から選ばれる少なくとも1種と、スルホン酸基及びベタイン構造から選ばれる少なくとも1種とを有する水溶性共重合体を含有することを特徴とする平版印刷用湿し水組成物。
【請求項2】
該非環状炭化水素化合物が2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール及び2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1記載の平版印刷用湿し水組成物。
【請求項3】
さらに、下記一般式(I)で表される化合物を含有する、請求項1もしくは2に記載の平版印刷用湿し水組成物。
1-O−(CH2CHR2O)m−H (I)
(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基または水素原子を表し、R2は水素原子またはメチル基を表し、mは1〜5の整数を表す。)
【請求項4】
ヒートセットタイプのオフ輪用インキ、及び請求項1〜3のいずれか1項に記載の湿し水組成物を用いたヒートセットオフ輪印刷方法。

【公開番号】特開2012−30548(P2012−30548A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173695(P2010−173695)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】