説明

平行2回線送電線の線路定数測定方法及び保護制御計測装置

【課題】平行2回線送電線の線路定数を、簡単かつ正確に算出する。
【解決手段】測定対象とする平行2回線の送電線101A〜Cと102A〜102Cの両端に、その電気量を取り込む保護制御計測装置110と、両端の保護制御計測装置110において電気量取り込みを同時刻に行うための時刻同期手段112と、両端の保護制御計測装置110から取り込んだ電気量から線路の定数を算出する線路定数算出手段113を設ける。線路定数算出手段113は、平行2回線の送電線路をコモンモードとディファレンシャルモードにモード分解することで1回線の送電線路モデルとして取り扱い、2つの1回線送電線モデルとして算出した線路定数を、モード合成によって平行2回線送電線モデルに復元することで、平行2回線送電線の線路定数を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平行2回線送電線の両端子に設置した保護制御計測装置において、取り込んだ電気量を用いて送電線の線路定数を推定する方法、およびこれを組込んだ保護制御計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
正確な線路定数を得ることは、保護リレーの整定、事故点標定、系統運用では重要なことである。そのために多くの方法が提案されてきている。よく使われているのは、Carson-Polarczhek法であり、線路の幾何学的な構造、大地からの距離など各種パラメータを入力してコンピュータで計算を行う。しかしながら、この方法は多数のパラメータを必要とすること、ねん架の有無、各相の対象性の有無を実際の送電線と合致させる労力が多大であり、精度も場合により低いという問題がある。
【0003】
他の方法として、送電線の建設時に試験電圧を各相ごとに入力し、その際の電流電圧からインピーダンス、アドミッタンスを求める方法である。この方法は正確に線路定数を求めることができるが、労力、コストがかかるという点、および線路停止時に計測を行う必要があるという点、測定精度をあげるには試験電圧を高くする必要がありコスト、安全面での問題もある。
【0004】
上述したCarson-Polarczhek法や試験電圧を印加する方法の問題点を解決するために、GPSを利用して同時刻の送電線両端の電圧電流を得て、これから送電線線路定数を求め、これを用いて事故点標定を行うという提案が以下に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−270285号公報
【特許文献2】特開2004−12292号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「事故点標定のための不平衡平行2回線送電線の線路定数計算方法」:平成21年電気学会全国大会発表
【0007】
これらの文献で提案されている方法は、送電線を集中定数回路あるいは分布定数回路としてモデル化し、送電線事故時の両端の電圧、電流から、線路定数を求めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1,2で紹介されている技術は、送電線の事故点標定のための線路定数を求める方法であり、該当送電線内部に事故が発生することを条件に、両端の電気量と線路定数の関係を定式化している。したがって、送電線内部事故が発生しないかぎり該当送電線の線路定数が求められないことになる。
【0009】
これは、距離リレーの整定値を決めるために線路定数が必要な場合には不適当である。なぜならば、系統事故発生時点で正確な線路定数が必要となるためである。また、系統運用全般、たとえば潮流の推定などに利用する場合も、送電線内部事故が発生しない場合は、線路定数を求めることができないため不都合である。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、平行2回線送電線において、簡易かつ高精度に送電線の定数を求めることの可能な線路定数測定方法およびこれを組み込んだ保護制御計測装置を提供することを目的としている。特に、本発明は、特許文献1や特許文献2に記載された発明のような送電線内部事故を必ずしも必要とせずに、常時の潮流を利用して高精度に線路定数を求めることができる汎用的な線路定数測定方法と保護制御計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、平行2回線の送電線路の定数を測定する線路定数測定方法において、次の処理を行うことを特徴とする。
(1)平行2回線の送電線路のそれぞれについて、定常運用における少なくとも2つ以上の異なる時点で取り込んだ電気量を線路定数算出手段の入力とする。
(2) 線路定数算出手段において、平行2回線の送電線路をコモンモードとディファレンシャルモードにモード分解することで1回線の送電線路モデルとして取り扱う。
(3) 2つの1回線送電線モデルとして算出した線路定数を、モード合成によって平行2回線送電線モデルに復元することで、平行2回線送電線の線路定数を算出する。
【0012】
また、本発明の保護制御計測装置は、測定対象とする平行2回線の送電線路の両端に設置され送電線両端の電気量を取り込む電気量取込手段と、前記電気量取込手段における電気量取り込みを同時刻に行うための時刻同期手段と、前記線路をπ型等価回路または分布定数回路として、前記電気量取込手段において取り込んだ電気量から線路の定数を、アドミッタンス及びインピーダンス行列として算出する線路定数算出手段とを備える。
【0013】
特に、前記線路定数算出手段は、次の構成を有することを特徴とする。
(1) 平行2回線の送電線路をコモンモードとディファレンシャルモードにモード分解する1回線送電線モデル化処理部。
(2) 2つの1回線送電線モデルのそれぞれについて、線路定数を算出する1回線送電線モデル線路定数算出処理部。
(3) 2つの1回線送電線モデルとして算出した線路定数を、モード合成によって平行2回線送電線モデルに復元する2回線送電線モデル復元化処理部。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、平行2回線送電線において、測定対象とする線路の両端で同時刻に零相分を含んだ電気量を取り込み、その電気量に基づいて線路定数をアドミッタンス及びインピーダンス行列として算出することが可能となり、従来技術に比較して、簡単かつ正確に線路定数を得ることができる。特に、零相分の検出は、必ずしも送電線内部事故に限らず検出が可能であることから、本発明によれば、事故時以外における線路定数の算出を容易に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1の全体構成を示す配置図。
【図2】実施例1における送電線の配置例を示す正面図。
【図3】実施例1における保護制御計測装置の内部構成を示すブロック図。
【図4】実施例1の動作を説明するフローチャート。
【図5】実施例2の動作を説明するフローチャート。
【図6】実施例3の動作を説明するフローチャート。
【図7】実施例4における保護制御計測装置のブロック図。
【図8】実施例4の事故時の電圧電流波形を示す波形図。
【図9】実施例4の動作を説明するフローチャート。
【図10】実施例5における保護制御計測装置のブロック図。
【図11】実施例5の動作を説明するフローチャート。
【図12】実施例6における保護制御計測装置のブロック図。
【図13】実施例6の動作を説明するフローチャート。
【図14】実施例7における保護制御計測装置のブロック図。
【図15】実施例7の動作を説明するフローチャート。
【図16】実施例8における保護制御計測装置のブロック図。
【図17】実施例8の動作を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を下記の実施例に従って説明する。
【実施例1】
【0017】
(構成)
図1は、実施例1に係る送電線定数測定方法を組み込んだ保護制御計測装置110の全体構成を示す配置図である。101A,101B,101Cは第1の被定数測定送電線、102A,102B,102Cは第2の被定数測定送電線を示している。1031,1032は変流器、1041,1042は計器用変圧器である。105はA電気所とB電気所の保護制御計測装置を結ぶ通信回線である。図2に示すように、第1の被定数測定送電線1および第2の被定数測定送電線2の送電線は、鉄塔の左右に対称形に振り分けて配置されている。
【0018】
保護制御計測装置110の内部構成を図3に示す。電気所A,Bにそれぞれ設けられた保護制御計測装置110は、運用状態にある送電線101A,101B,101Cおよび102A,102B,102C両端の電流、電圧の瞬時値を一定時間間隔でサンプリングする電気量取込手段111を有する。この電気量取込手段111は、取り込んだ電気量をディジタル信号に変換後、メモリに記録する。
【0019】
電気量取込手段111には、GPSの絶対時刻信号を利用した時刻同期手段112からの時刻情報も入力される。すなわち、第1及び第2の被定数測定送電線1,2の定数測定のためには、各送電線両端の装置110において、同時刻にデータをサンプリングする必要がある。そのため、両端の保護制御計測装置110において、その内部クロックの時刻を、GPSの絶対時刻信号に基づいて、時刻同期手段112を用いて高精度に合わせる。保護制御計測装置110ではこのクロックに従い、送電線両端の電流、電圧の瞬時値を一定時間間隔でサンプリングする。
【0020】
電気量取り込み手段111内のメモリに記録した送電線両端の電流、電圧データは、2回線送電線線路定数算出手段113(以下、線路定数算出手段と呼ぶ)で、後述する方法に従って演算する。なお、相手端子の電流、電圧は、通信回線105を利用して自端子の電気量取込手段111に入る。
【0021】
線路定数算出手段113は、少なくともひとつの時点の電流、電圧内に零相分が含まれる場合において、アドミッタンス行列とインピーダンス行列を求める。そのため、前記保護制御計測装置110は零相分検出手段114を備えている。すなわち、非特許文献1に記載されているように、不平衡2回線送電線の線路定数を得る為には少なくとも3回の測定が必要であり、下表のような条件のデータを必要とすることが既に分かっている。
【0022】
【表1】

【0023】
このように平行2回線送電線の線路定数を求めるには、少なくともひとつの時点の電流、電圧の零相成分が必要である。そこで、本実施例では、保護制御計測装置110内に零相分検出手段114を組込んである。
【0024】
さらに、本実施例においては、前記線路定数算出手段113が、次の3つの手段を備えている。
(1) 平行2回線の送電線路をコモンモードとディファレンシャルモードにモード分解する1回線送電線モデル化処理部
(2) 2つの1回線送電線モデルのそれぞれについて、線路定数を算出する1回線送電線モデル線路定数算出処理部
(3) 2つの1回線送電線モデルとして算出した線路定数を、モード合成によって平行2回線送電線モデルに復元する2回線送電線モデル復元化処理部
【0025】
(作用)
次に、本実施例の作用を説明する。まず、ステップS1にてt1時点での電気量を取り込む。この電気量はとくに零相分を含む必要はないことから、任意の時点で取り込んだ電気量でよい。次にステップS2で零相分を含む電圧あるいは電流が発生しているか監視を行う。
【0026】
具体的には電力系統保護で用いられる零相過電圧リレーあるいは零相過電流リレーを装置内に設けその動作の有無を確認することで実現できる。零相分が、たとえば送電線の外部あるいは内部の事故で発生すればこれらのリレーが動き、ステップS3でその際の時刻t2で電気量を取り込む。これによりアドミッタンス行列は求めることができる。さらに、インピーダンス行列を求めるには、適当な時刻t3でステップS4にて電気量を取り込み、以上から得られた全ての電気量を用いてステップS5にて線路定数の計算を行う。
【0027】
電力系統に零相成分が発生したタイミングで正確に電気量を取り込むことから、線路定数の計算精度をより向上することができる。
【0028】
以下同様にしてステップSn(n≧2)まで同様にして電気量を取り込む。最後に、ステップSn+1において、線路定数算出手段113により、アドミッタンスおよびインピーダンス行列を求める。
【0029】
すなわち、ステップSn+1において、線路定数算出手段113に設けられた3つの処理部(1)〜(3) により、
(1) 1回線送電線モデル化処理、
(2) 1回線送電線モデル線路定数算出処理、
(3) 2回線送電線モデル復元化処理、
を順に行うことにより、自己インピーダンスYs,Zsおよび相互インピーダンスYm,Zmの未知数を得る。以下、これら処理について説明する。
【0030】
(1) 1回線送電線モデル化処理
図2に示すように、平行2回線送電線の送電線配置の相反性と物理的左右対称性から、送電線1Lおよび2Lの線路定数は完全に独立なものとはならず、インピーダンスZ=R+jX(Ω/km)とアドミタンスY=jB(Ω−1/km)は、以下の式で表される。
【0031】
【数1】

【0032】
また、上図の平行2回線送電線両端の電気量は以下のベクトルで定義する。
【数2】

【0033】
平行2回線送電線の線路定数を求める為に、送電線1Lと2Lが左右対称である性質を利用すると、次のモード分解行列が導かれる。
【数3】

【0034】
ここでUは3×3型の単位行列である。T−1によるモード分解計算をYとZに適用すると、以下の式が得られる。
【数4】

【0035】
この結果からT−1を用いたモード分解(コモンモードとディファレンシャルモード)により、平行2回線送電線は下図のような二つの仮想的な1回線送電線(common Line と differential Line と呼ぶ)に分離することができる。
【0036】
【数5】

【0037】
以上より、2回線送電線の自己インピーダンスYs,Zsおよび相互インピーダンスYm,Zmを求める問題が、2つの1回線送電線の線路定数を求める問題に帰着できる。
【0038】
(2) 1回線送電線モデル線路定数算出処理
この1回線送電線モデルの線路定数を算出するには、種々な手段が採用できる。各種の線路定数の算出手段については、実施例2以降に具体的に説明する。
【0039】
(3) 2回線送電線モデル復元化処理
式(B)により得られたYcL,ZcLおよびYdL,ZdLを以下の式でモード合成することにより、元の2回線送電線のインピーダンスY,Zを求めることができる。
【数6】

【0040】
(効果)
本発明では、このようにして送電線が運用されている状態の異なる複数時点の電気量を取り込んで、2回線送電線線路を、上述のように、二つの仮想的な1回線送電線に見立てて、線路定数を算出することができる。その結果、平行2回線送電線を、仮想的に2つの1回線送電線モデルに置き換えることにより、1回線送電線の線路定数算出手段と同様の手段で、2回線送電線の線路定数を、算出することが可能となる。
【実施例2】
【0041】
(構成)
実施例1の構成において、1回線送電線モデルの線路定数算出処理を行うにあたり、送電線をπ型等価回路モデルとして考える方法について示す。ここで送電線は、ねん架していないことを想定する。当然ながら以下得られる一般解は、ねん架している場合にもあてはまる。
【0042】
【数7】

【0043】
(作用)
図5に実施例2の処理フローを示す。すなわち、図4のステップSn+1において、(2)の線路定数を算出するにあたり、線路定数を算出する1回線送電線モデルとして、π型等価回路モデルを適用したものである。
【0044】
この場合、送電線両端の電流電圧の関係は以下で表せる。
【数8】

【0045】
ただし各行列は、以下を満たすものとする。
【数9】

【0046】
上表のような電圧、電流データが得られた場合、以下の(D)式および(E)式を、線路定数算出手段で計算することでcLとdLの線路定数が得ることができ、線路全体の線路定数が得られることとなる。
【0047】
【数10】

【数11】

【0048】
(効果)
送電線をπ型等価回路モデルと考える方法を平行2回線送電線に適用することができ、従来の2回線送電線に設置する保護制御計測装置で必要であった送電線に関連する整定計算を大幅に省力化できる。
【実施例3】
【0049】
(構成)
実施例3として、前記実施例1の構成において、送電線を下記のような分布定数回路と考える方法について示す。
【0050】
【数12】

【0051】
(作用)
この実施例3は、前記実施例1で説明した処理のうち、1回線送電線モデルの線路定数算出処理ステップSn+1の「(2) 1回線送電線モデルの線路定数算出処理」において、線路定数を算出する1回線送電線モデルとして、分布定数回路モデルを適用したものである。
図6に実施例3の処理フローを示す。
【0052】
送電線を分布定数回路とすると、その単位長あたりのアドミッタンス、インピーダンスは以下であらわされる。
【数13】

【0053】
ただし、以下の式が成り立つとする。
【数14】

【0054】
これは2つの状態での測定データを用い、ガウスニュートン法で解くことでY,Zを求めることができる。この手順を線路定数算出手段113にて行う。
【0055】
(効果)
本実施例は、前記図4の線路定数算出処理フローのステップSn+1「(2) 1回線送電線モデルの線路定数算出処理」に、(F)式、(G)式を適用したものであり、これにより前記実施例2と同様に線路定数を算出することができる。その結果、送電線を分布定数回路モデルと考える方法を平行2回線送電線に適用することができ、従来の2回線送電線に設置する保護制御計測装置で必要であった送電線に関連する整定計算を大幅に省力化できる。
【実施例4】
【0056】
(構成)
実施例4の構成を図7に示す。前記実施例3に対して、零相分検出手段114の具体例として、送電線事故状態検出手段115を設ける。なお、他の構成は、実施例1〜3と同様である。
【0057】
実施例4においては、送電線事故状態検出手段115を用いて、対象送電線内に事故が発生しているか、あるいは事故を検出した保護リレーの動作か、あるいは系統操作により遮断器が開放している期間であることを検出する。
【0058】
具体的には、送電線内部事故を検出する電流差動リレー、距離リレーあるいは回線選択リレーなど、選択性のあるリレーの出力を送電線事故状態検出手段115の入力とすることで送電線内部に事故が発生していることを検出できる。
【0059】
(作用)
本実施例における電流電圧事故波形のタイムチャートを図8に示す。t1時点は事故発生前の電気量、t2時点は送電線内部の事故発生時の電気量、t3時点は事故検出後遮断器が送電線を開放し再閉路するまでの電気量、t4時点は系統事故が復旧した電気量を示す。
【0060】
本実施例の動作フローチャートを図9に示す。この図9の各ステップを、前記図8に示した各時刻の電気量と対比して説明する。図9のステップS1が、図8の事故発生前t1時点の電気量取込に対応し、図9のステップS1が、図8の事故発生前t1時点の電気量取込みに対応する。ステップ2では、送電線内部事故が発生したか否かを前記送電線事故状態検出手段115によって検出し、事故が発生した場合に、次のステップS3において事故発生時点であるt2時点の電気量取込みを行う。
【0061】
その後、ステップS4にて、事故検出後遮断器が送電線を開放し再閉路するまでのt3時点での電気量の取込みを行う。ステップ5では、送電線事故状態検出手段115によって遮断器の状態を本実施例の装置に取込むことで、送電線内部事故の継続あるいは復旧を判定する。ステップ5において送電線内部事故の復旧を判定した場合は、ステップS6において系統事故復旧したt4時点の電気量の取込みを行う。その後、ステップS7において、線路定数算出手段113により得られた全ての電気量を用いて線路定数の計算を行う。
【0062】
(効果)
本実施例によれば、送電線内部事故中あるいは復旧中の電気量を取り込むことで、零相成分を含む電気量を利用できることから、線路定数算出手段の演算精度が向上することが期待できる。なお、系統事故中あるいは復旧中に線路定数を算出できた場合に、その時点で該当する保護リレーの整定値を変更することは、本装置の演算処理速度が速くなれば可能となる。
【実施例5】
【0063】
(構成)
実施例5の構成を図10に示す。この実施例5は、前記実施例1の変形例であって、線路定数算出手段113において算出した線路定数が、予め定めた範囲内に入っていない場合は、算出結果を破棄する線路定数検定手段116を設けたものである。すなわち、線路定数算出手段113は、実施例1乃至実施例3に示す式を用いるが、取り込んだ電気量によって演算誤差が大きくなる、あるいは演算が収束せずに物理的にありえない値を算出結果とする可能性がある。そこで、この実施例5では、あらかじめ物理的にありえる線路定数の範囲を線路定数検定手段116内に組み込んでおく。
【0064】
(作用)
このような構成を有する実施例5では、図11に示すフローチャートのステップ1からステップSn+1のように、前記実施例1と同様にして、線路定数であるアドミッタンス及びインピーダンス行列を求める。その後、ステップSn+2において、線路定数算出手段113からの結果を線路定数検定手段116に入力して、計算で得られた線路定数の値が予め設定された範囲内にあるか否かを検定する。検定結果が、範囲内である場合には、ステップSn+3において算出された線路定数を確定し、範囲外である場合は、ステップSn+4において算出結果を破棄する。
【0065】
なお、線路定数算出処理は、前記実施例2あるいは実施例3に示す式を用いるが、取り込んだ電気量によって演算誤差が大きくなる、あるいは演算が収束せずに、物理的にありえない値を算出結果とする可能性がある。そこで、あらかじめ物理的にありえる線路定数の範囲を事前に線路定数検定手段116内に組み込んでおく。
【0066】
線路定数検定手段116からの結果を検定し、範囲外である場合は、算出結果を破棄する。ステップSn+1の線路定数算出手段によりアドミタンスおよびインピーダンス行列を求める。得られた結果より線路定数の検定をステップSn+2で行い、線路定数の範囲外である場合は、算出結果を破棄する。
【0067】
(効果)
このように実施例5においては、演算誤差や収束しない演算結果を排除することが可能になるので、高精度な線路定数を求めることが可能となる。
【実施例6】
【0068】
(構成)
図12は保護制御計測装置110を送電線の故障点標定装置とした実施例6の構成を示す。すなわち、本発明の保護制御計測装置110に公知の故障点評定手段117を組み込み、この故障点評定手段117に線路定数算出手段113によって得られた線路定数を、電気量取込手段111で取得した各時点の電気量と共に入力するものである。
【0069】
(作用)
このような構成の実施例6の動作は、図13のフローチャートに示すように、ステップS1からステップSn+1までは前述までの実施例と同じである。その後、ステップSn+1の線路定数算出手段113の算出結果を故障点標定機能117に入力し、ステップSn+2では、故障点評定手段117が線路定数算出手段113の出力を用いて故障点評定の整定値を補正あるいは再設定する。
【0070】
(効果)
故障点標定のアルゴリズムは種々提案されてきており距離リレーのように線路のインピーダンスを測距するもの、電流の分布を求めるものなどがあるが、いずれも正しい線路の定数が必要となる。
【0071】
従来の故障点標定装置では、線路定数を求めるために前述したCarson-Polarczhek法を利用した計算をコンピュータでオフラインで行い装置の運用開始前に整定していた。運用後は整定変更を行わずに固定で運用するのが一般的であった。本実施例によれば、事前に従来方法で整定しておいた場合でも、運用後に実際の潮流から線路定数が求められ再整定を自動的に行えることから、精度の高い故障点標定装置を得ることができる。
【0072】
また従来のCarson-Polarczhek法を利用した計算は線路の幾何学的な配置を入力する必要があり、また周囲温度、大地の導電率などを推測で入力する必要があったことから経済性、信頼性の課題があったが、本実施例によれば、運用開始前に労力をかけて線路定数を求める必要がなくなるとともに、運用中の周囲の環境変化を時々刻々適応的に反映しながら線路定数が算出できることから大幅に経済性、信頼性が向上する。
【0073】
なお、故障点標定装置には、相手端子からの電流を自端子に取込んで標定演算を行う上述のもの以外に、各端子の時刻同期した電気量データを中央の演算装置に集約し、演算装置で故障点標定演算を行うものもある。この場合は、上述の線路定数算出手段113、この中央の演算装置に置くことになるが、その効果は上述の例と同等である。
【実施例7】
【0074】
(構成)
図14は、保護制御計測装置110を送電線の保護を行う距離リレー装置とした実施例8の構成を示す。すなわち、本発明の保護制御計測装置110に公知の距離リレー118を組み込み、この距離リレー118に線路定数算出手段113によって得られた線路定数を、電気量取込手段111で取得した各時点の電気量と共に入力するものである。
【0075】
(作用)
このような構成の実施例7の動作は、図15のフローチャートに示すように、ステップS1からステップSn+1までは前述までの実施例と同じである。その後、ステップSn+1の線路定数算出手段113の算出結果を距離リレー118に入力し、ステップSn+2では、距離リレー118が線路定数算出手段113の出力を用いて距離リレー118の線路定数に関わる整定値を補正あるいは再設定する。
【0076】
(効果)
距離リレーのアルゴリズムは種々提案されてきているが、いずれも正しい線路の定数が必要となる。従来の距離リレーでは、線路定数を求めるために前述したCarson-Polarczhek法を利用した計算をコンピュータでオフラインで行うか、あるいは送電線建設時に実測をしたデータを用いるかなどして装置の運用開始前に動作範囲を整定していた。運用後は、整定変更を行わずに固定で運用するのが一般的であった。本実施例によれば、事前に従来方法で整定しておいた場合でも、運用後に実際の潮流から線路定数が求められ再整定を自動的に行えることから精度の高い距離リレーを得ることができる。
【0077】
また従来のCarson-Polarczhek法を利用した計算は線路の幾何学的な配置を入力する必要があり、また周囲温度、大地の導電率などを推測で入力する必要があったことから経済性、信頼性の課題があり、建設時に実測する場合も印加用電源などの準備が必要であったが、本実施例によれば、運用開始前に労力をかけて線路定数を求める必要がなくなるとともに、運用中の周囲の環境変化を時々刻々適応的に反映しながら線路定数が算出できることから大幅に経済性、信頼性が向上する。
【実施例8】
【0078】
(構成)
図16は、本発明の保護制御計測装置110を送電線の保護を行う電流差動リレー装置とした場合の構成である。すなわち、本発明の保護制御計測装置110に充電電流補償機能を有する電流差動リレー119を組み込み、この電流差動リレー119に対して線路定数算出手段113によって得られた線路定数を、電気量取込手段111で取得した各時点の電気量と共に入力するものである。
【0079】
(作用)
このような構成の実施例8の動作は、図17のフローチャートに示すように、ステップS1からステップSn+1までは前述までの実施例と同じである。その後、ステップSn+1の線路定数算出手段113の算出結果を電流差動リレー119に入力し、ステップSn+2では、電流差動リレー119が線路定数算出手段113の出力を用いて、充電電流の補償値を補正あるいは再設定する。
【0080】
(効果)
従来、長距離送電線やケーブル系の保護を行う電流差動リレーの整定には、送電線の充電電流を補償した整定を行うのが一般的であり、線路のアドミッタンスと端子の電圧から充電電流を求めていた。アドミッタンスの計算は、前述の例のように線路の幾何学的配置から求められていたが、労力が多く精度にも課題があった。本実施例によれば、事前に従来方法で整定しておいた場合でも、運用後に実際の線路アドミッタンスから充電電流が求められ、再整定を自動的に行えることから、精度の高い電流差動リレーを得ることができる。
【0081】
また、従来のCarson-Polarczhek法を利用した計算は、線路の幾何学的な配置を入力する必要があり、かつ周囲温度、大地の導電率などを推測で入力する必要があったことから経済性、信頼性の課題があった。さらに、建設時に実測する場合も印加用電源などの準備が必要であった。本実施例によれば、運用開始前に労力をかけて充電電流を求める必要がなくなるとともに、運用中の周囲の環境変化を時々刻々適応的に反映しながら線路定数が算出できることから、大幅に経済性、信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0082】
101A,101B,101C:送電線1
102A,102B,102C:送電線2
1031:変流器1
1032:変流器2
1041:計器用変圧器1
1042:計器用変圧器2
105:通信回線
110:保護制御計測装置
111:電気量取込手段
112:時刻同期手段
113:2回線送電線線路定数算出手段
114:零相分検出手段
115:送電線事故状態検出手段
116:線路定数検定手段
117:故障点標定手段
118:距離リレー
119:差動リレー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行2回線の送電線路の定数を測定する線路定数測定方法において、
平行2回線の送電線路のそれぞれについて、定常運用における少なくとも2つ以上の異なる時点で取り込んだ電気量を線路定数算出手段の入力とし、
線路定数算出手段において、平行2回線の送電線路をコモンモードとディファレンシャルモードにモード分解することで1回線の送電線路モデルとして取り扱い、2つの1回線送電線モデルとして算出した線路定数を、モード合成によって平行2回線送電線モデルに復元することで、平行2回線送電線の線路定数を算出することを特徴とする線路定数測定方法。
【請求項2】
前記線路定数算出手段におけるモード分解およびモード合成を行うにあたり、以下の式を用いることを特徴とする請求項1の線路定数測定方法。
<モード分解>
【数15】

<モード合成>
【数16】

【請求項3】
前記線路定数算出手段において、平行2回線の送電線路モデルとしてΠ型等価回路モデルを用い、線路定数の算出にあたり以下の式を用いることを特徴とする請求項1の線路定数測定方法。
【数17】

【請求項4】
前記線路定数算出手段において、平行2回線の送電線路モデルとして分布定数回路モデルを用い、線路定数の算出にあたり以下の式を用いることを特徴とする請求項1の線路定数測定方法。
【数18】

【請求項5】
測定対象とする平行2回線の送電線路の両端に設置され送電線両端の電気量を取り込む電気量取込手段と、
前記電気量取込手段における電気量取り込みを同時刻に行うための時刻同期手段と、
前記線路をπ型等価回路または分布定数回路として、前記電気量取込手段において取り込んだ電気量から線路の定数を、アドミッタンス及びインピーダンス行列として算出する線路定数算出手段とを備えた保護制御計測装置において、
前記線路定数算出手段が、
(1) 平行2回線の送電線路をコモンモードとディファレンシャルモードにモード分解する1回線送電線モデル化処理部
(2) 2つの1回線送電線モデルのそれぞれについて、線路定数を算出する1回線送電線モデル線路定数算出処理部
(3) 2つの1回線送電線モデルとして算出した線路定数を、モード合成によって平行2回線送電線モデルに復元する2回線送電線モデル復元化処理部
を備えていることを特徴とする保護制御計測装置。
【請求項6】
前記線路定数算出手段に設けられた1回線送電線モデル化処理部と2回線送電線モデル復元化処理部が、そのモード分解およびモード合成の演算として以下の式を用いることを特徴とする請求項5に記載の保護制御計測装置。
<モード分解>
【数19】

<モード合成>
【数20】

【請求項7】
前記線路定数算出手段に設けられた1回線送電線モデル線路定数算出処理部が、平行2回線の送電線路モデルとしてΠ型等価回路モデルを用い、線路定数算出手段の演算として以下の式を用いることを特徴とする請求項5に記載の保護制御計測装置。
【数21】

【請求項8】
前記線路定数算出手段に設けられた1回線送電線モデル線路定数算出処理部が、平行2回線の送電線路モデルとして分布定数回路モデルを用い、線路定数算出手段の演算として以下の式を用いることを特徴とする請求項5に記載の保護制御計測装置。
【数22】

【請求項9】
前記線路定数算出手段として、保護制御装置に取り込む電気量に零相成分が一定値以上含まれていることを検出する零相分検出手段を設け、零相分が一定値以上となったことを条件に前記線路定数算出手段を起動することを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載の保護制御計測装置。
【請求項10】
前記零相分検出手段を線路事故中あるいは線路開放中を検出する線路事故状態検出手段から構成し、この線路事故状態検出手段からの検出結果に従って、前記電気量取込手段が電気量を取り込む時点の内少なくとも一つ以上は線路事故中あるいは線路開放中の時点であることを特徴とする請求項9に記載の保護制御計測装置。
【請求項11】
前記平行2回線の線路定数算出手段の出力側に、前記線路定数算出手段が算出した線路定数が予め定めた範囲内に入っていない場合は算出結果を破棄する線路定数検定手段を設けたことを特徴とする請求項5から9のいずれかに記載の保護制御計測装置。
【請求項12】
前記平行2回線の線路定数算出手段の出力側に、前記線路定数算出手段の算出結果により故障点標定における線路定数に関わる整定値を補正あるいは再設定する故障点評定手段を設けたことを特徴とする請求項5から9のいずれかに記載の保護制御計測装置。
【請求項13】
前記平行2回線の線路定数算出手段の出力側に、前記線路定数算出手段の算出結果により測距性能に関わる整定値を補正あるいは再設定する距離リレーを設けたことを特徴とする請求項5から9のいずれかに記載の保護制御計測装置。
【請求項14】
前記平行2回線の線路定数算出手段の出力側に、前記線路定数算出手段の算出結果により充電電流補償機能に関わる整定値を補正あるいは再設定する送電線電流差動リレーを設けたことを特徴とする請求項5から9のいずれかに記載の保護制御計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−52979(P2012−52979A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197397(P2010−197397)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月5日 社団法人電気学会発行の「平成22年電気学会全国大会 講演論文集」に発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】