説明

平角絶縁電線

【課題】安定して高い部分放電開始電圧を有する平角絶縁電線を提供する。
【解決手段】コーナー部4での絶縁皮膜3の膜厚をT3、コーナー部4間の平坦部5での絶縁皮膜3の最薄膜厚をT1、最厚膜厚をT2としたとき、下式(1)
1/T2>0.13×(T3/T2)+0.74 ・・・(1)
の関係を満たし、絶縁皮膜3が誘電率2.5以上の樹脂からなり、平坦部5での絶縁皮膜3の最薄膜厚T1と最厚膜厚T2との比(T1/T2)が、下式(2)
1>T1/T2≧0.85 ・・・(2)
の関係を満たすものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平角導体の外周に樹脂からなる絶縁皮膜を形成した平角絶縁電線に係り、特に、モータなどの電気機器のコイル等に用いられる巻線用の平角絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータなどの電気機器には、導体上に絶縁塗料を塗布し、焼付けして形成された絶縁皮膜を備えた絶縁電線が使用されており、特にコイル等の巻線用には、平角導体の外周に少なくとも1層の絶縁皮膜を形成した平角絶縁電線が一般に使用されている。
【0003】
近年、電気機器の高出力化のために、高電圧でのインバータ制御が行われており、これに伴い、過大なサージ電圧の発生によって電気機器に使用されている絶縁電線に部分放電(PD:Partial Discharge)が発生することがあり、この部分放電の発生によって、絶縁皮膜が劣化・損傷することが懸念されている。
【0004】
ところで、平角絶縁電線は、コーナー部に丸め加工が施されているのが一般的である。このような平角絶縁電線を用いてコイルを成形すると、丸め加工が施されたコーナー部(角R部)にて隣り合う平角絶縁電線間(あるいは平角絶縁電線と平角絶縁電線を収容するスロットとの間)にギャップが生じてしまうため、コーナー部で部分放電が発生し易い。
【0005】
このような部分放電の発生による絶縁皮膜の劣化・損傷を防止するため、特許文献1では、コーナー部の膜厚Aと、コーナー部の間の平坦な部分である平坦部の膜厚Bとが、A≧0.6×Bの関係を満たす半導電層を断面平角状の導体上に形成した平角状電線が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、コーナー部での絶縁皮膜の厚さが、平坦部での絶縁皮膜の厚さ以上であり、かつ、コーナー部の誘電率が平坦部の誘電率よりも小さい絶縁皮膜を導体上に形成した平角電線が開示されている。
【0007】
このように、従来の平角絶縁電線では、絶縁皮膜のコーナー部の膜厚を大きくすることによって、コーナー部での部分放電の発生を抑制し、部分放電の発生による絶縁皮膜の劣化・損傷を防止していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−41568号公報
【特許文献2】特開2009−123418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のようにコーナー部の絶縁皮膜の膜厚を大きくした平角絶縁電線を用いてコイルを成形した場合であっても、コイル成形後の部分放電開始電圧(PDIV:Partial Discharge Inception Voltage)の値が低くなってしまったり、PDIVの値の大きさがばらついてしまうことがあった。
【0010】
すなわち、コーナー部の絶縁皮膜の膜厚の大きさから想定され得るPDIVの値よりも低い電圧で部分放電が発生してしまうことがあり、コーナー部の膜厚を大きくしただけでは、安定して高い部分放電開始電圧が得られず、部分放電に対する耐性が十分であるとは言えなかった。
【0011】
本発明は上記事情に鑑み為されたものであり、安定して高い部分放電開始電圧を有する平角絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、断面矩形状でコーナー部に丸め加工が施された平角導体と、該平角導体の外周に形成された樹脂からなる少なくとも1層の絶縁皮膜と、を備えた平角絶縁電線において、前記コーナー部での前記絶縁皮膜の膜厚をT3、前記コーナー部間の平坦部での前記絶縁皮膜の最薄膜厚をT1、最厚膜厚をT2としたとき、下式(1)
1/T2>0.13×(T3/T2)+0.74 ・・・(1)
の関係を満たし、前記絶縁皮膜が、誘電率2.5以上の樹脂からなり、前記平坦部での前記絶縁皮膜の最薄膜厚T1と最厚膜厚T2との比(T1/T2)が、下式(2)
1>T1/T2≧0.85 ・・・(2)
の関係を満たす平角絶縁電線である。
【0013】
前記コーナー部での前記絶縁皮膜の膜厚T3は、前記コーナー部での部分放電開始電圧が、予め設定した許容値以上となる厚さに形成されるとよい。
【0014】
前記絶縁皮膜が、誘電率3.5以上の樹脂からなり、前記平坦部での前記絶縁皮膜の最薄膜厚T1と最厚膜厚T2との比(T1/T2)が、下式(3)
1>T1/T2≧0.87 ・・・(3)
の関係を満たしてもよい。
【0015】
前記コーナー部での前記絶縁皮膜の膜厚T3、前記コーナー部間の平坦部での前記絶縁皮膜の最薄膜厚T1、最厚膜厚T2が、下式(4)
1/T2>0.13×(T3/T2)+0.79 ・・・(4)
の関係を満たしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安定して高い部分放電開始電圧を有する平角絶縁電線を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係る平角絶縁電線を示す図であり、(a)は横断面図、(b)はその要部拡大断面図である。
【図2】図1の平角絶縁電線を用いたコイルの断面図である。
【図3】本発明において、平坦部に生じるギャップの大きさによっては、コーナー部で生じる部分放電よりも平坦部で生じる部分放電が支配的となることを説明する図である。
【図4】本発明において、PDIVの測定方法を説明する図である。
【図5】本発明において、コーナー部が絶縁皮膜で均一に被覆された場合における、平坦部でのPDIVとコーナー部でのPDIVとの比と、T1/T2との関係を示すグラフ図である。
【図6】本発明において、均一被覆時のコーナー部でのPDIVと偏肉したときのコーナー部でのPDIVとの比と、T3/T2との関係を示すグラフ図である。
【図7】本発明において、平坦部でのPDIVとコーナー部でのPDIVが等しくなるときのT1/T2とT3/T2との関係と、さらに放電のばらつきを考慮したときのT1/T2とT3/T2との関係を示すグラフ図である。
【図8】本発明において、コーナー部が絶縁皮膜で均一に被覆され、絶縁皮膜の誘電率εを2.5,3.5,4.0と変化させた場合における、平坦部でのPDIVとコーナー部でのPDIVとの比と、T1/T2との関係を示すグラフ図である。
【図9】本発明において、コーナー部が絶縁皮膜で均一に被覆された場合における、平坦部でのPDIVとコーナー部でのPDIVとの比と、ギャップ幅Wとの関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、平角絶縁電線におけるコーナー部間の平坦な部分である平坦部、すなわちコイルを成形した際に隣り合う平角絶縁電線同士で接触する部分の絶縁皮膜の状態と部分放電との関係を鋭意検討した結果、平坦部に特定のギャップが生じた場合に、コーナー部で生じる部分放電よりも平坦部で生じる部分放電が支配的となり、当該ギャップの部分において部分放電が発生してしまい、実質的にPDIVの低下が起こることを見出し、本発明に至った。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0020】
図1は、本実施の形態に係る平角絶縁電線を示す図であり、(a)は横断面図、(b)はその要部拡大断面図である。また、図2は、図1の平角絶縁電線を用いたコイルの断面図である。
【0021】
図1,2に示すように、平角絶縁電線1は、断面矩形状でコーナー部4に丸め加工が施された平角導体2と、平角導体2の外周に形成された樹脂からなる少なくとも1層の絶縁皮膜3と、を備えている。コイル10は、本発明の平角絶縁電線1をスロット11内に収容したものである。
【0022】
平角導体2としては、良導電性金属を用いるとよく、例えば、銅、アルミニウム、銅合金等を用いるとよい。平角導体2のコーナー部(角R部)4の曲率半径は、コイル10を成形した際の巻線密度を高くするために、なるべく小さくすることが望ましく、0.3mm以下とすることが望ましい。ここでは、平角導体2のコーナー部4の曲率半径を0.3mmとした。
【0023】
絶縁皮膜3は、平角導体2の外周に絶縁塗料を塗布し、焼付けして形成される。なお、部分放電開始電圧(PDIV)を低下させる観点からは、絶縁皮膜3をなるべく厚く形成することが望ましいが、実際にはサイズの規定等のために、絶縁皮膜3を無制限に厚くすることはできない。
【0024】
コーナー部4での絶縁皮膜3の膜厚T3は、コーナー部4での部分放電開始電圧(PDIV)が、予め設定した許容値(例えばピーク値で900V)以上となる厚さに形成される。より具体的には、コーナー部4での絶縁皮膜3の膜厚T3は、40μm以上とされることが望ましい。コーナー部4での絶縁皮膜3の膜厚T3の調整は、絶縁塗料を塗布する際に用いるダイスの形状を調節したり、あるいは絶縁塗料の粘度を調節することにより行うとよい。なお、ここでいうコーナー部4での絶縁皮膜3の膜厚T3とは、丸め加工が施されたコーナー部4の平角導体2の表面から絶縁皮膜3の表面までの最短距離(つまり、コーナー部4での絶縁皮膜3の最薄膜厚)のことである。
【0025】
なお、絶縁塗料の粘度を高くし過ぎると、絶縁皮膜3の膜厚が不均一となり、製造工程におけるラインスピードも遅くする必要が生じ生産性も低下するため、絶縁塗料の粘度はある程度低くする必要がある。そのため、特にコーナー部4の曲率半径を小さくした場合には、平角導体2の外周に絶縁塗料をダイス塗布した際に、表面張力によりコーナー部4での絶縁塗料の膜厚が薄くなり、コーナー部4に形成される絶縁皮膜3の膜厚T3が薄くなってしまうことは避けられない。このような表面張力による影響等も考慮し、コーナー部4での絶縁皮膜3の膜厚T3を適宜な厚さに調整する必要がある。
【0026】
ところで、図2に示すように、平角絶縁電線1の平坦部5同士、もしくは平角絶縁電線1の平坦部5とスロット11とが接触した状態において、平坦部5に形成された絶縁皮膜3の膜厚が不均一である場合、接触面にギャップが生じてしまい、そのギャップ部分で部分放電が発生してしまう可能性がある。
【0027】
図3に示すように、平坦部5に生じるギャップ31の大きさによっては、平坦部5のPDIVがコーナー部4のPDIVよりも低くなり、コーナー部4で生じる部分放電32よりも平坦部5で生じる部分放電33が支配的となり、その結果、平角絶縁電線1全体のPDIVが低下してしまう。
【0028】
そこで、本発明者らは、コーナー部4で十分なPDIVを確保した上で、絶縁皮膜3の膜厚分布を制御して平坦部5でのギャップ31の生成を抑制することで、平坦部5のPDIVをコーナー部4のPDIVよりも高くし、コーナー部4での部分放電を優先的として平坦部5での部分放電の発生を抑制することを考えた。
【0029】
より具体的には、本実施の形態に係る平角絶縁電線1は、図2に示すように、コーナー部4での絶縁皮膜3の膜厚をT3、コーナー部4間の平坦な部分である平坦部5での絶縁皮膜3の最薄膜厚をT1、最厚膜厚をT2としたとき、下式(1)
1/T2>0.13×(T3/T2)+0.74 ・・・(1)
の関係を満たすものである。平坦部5での絶縁皮膜3の最薄膜厚T1、最厚膜厚T2の調整は、コーナー部4での絶縁皮膜3の膜厚T3と同様に、絶縁塗料を塗布する際に用いるダイスの形状や絶縁塗料の粘度を調節することにより行うことができる。なお、平坦部5での絶縁皮膜3の最厚膜厚T2は、例えば40〜150μm程度である。本実施の形態では、平坦部5での絶縁皮膜3の最厚膜厚T2を60μmとした。
【0030】
以下、式(1)の根拠について説明する。
【0031】
3.2mm×1.8mmの平角導体2の外周に絶縁皮膜3を形成した平角絶縁電線1を2本用い、2本の平角絶縁電線1の平坦部5同士を接触させて、図4に示すような背合せ試料41を作製し、2本の平角絶縁電線1の平角導体2間に交流電源42により交流電圧(周波数50Hz)を印加してPDIVを測定した。平角導体2のコーナー部4の曲率半径は0.3mmとし、ギャップ幅(くぼみ幅)W(図1(b)参照)は0.4mmとした。また、絶縁皮膜3の誘電率εは3.5とし、平坦部5での絶縁皮膜3の最厚膜厚T2は0.06mmとした。
【0032】
コーナー部4が絶縁皮膜3で均一に被覆された場合、すなわちT2=T3=0.06mmとした場合における、平坦部5でのPDIVとコーナー部4でのPDIVとの比(PDIV@平坦部/PDIV@コーナー部均一)と、T1/T2との関係を図5に示す。
【0033】
図5に示すように、平坦部5での最薄膜厚T1が薄くなるほど、平坦部5でのPDIVは低下する。図5より、T1/T2が0.87以上であれば、平坦部5でのPDIVとコーナー部4でのPDIVとの比(PDIV@平坦部/PDIV@コーナー部均一)が1以上、すなわち、コーナー部4でのPDIVが平坦部5でのPDIVと同じか、または高くなり、コーナー部4でのPDIVよりも平坦部5でのPDIVが高くなったときに、コーナー部4で優先的に部分放電が発生することが分かる。
【0034】
さらに、均一被覆時(T2=T3=0.06mm)のコーナー部4でのPDIVと偏肉したとき(T2≠T3)のコーナー部4でのPDIVとの比(PDIV@コーナー部/PDIV@コーナー部均一)と、T3/T2との関係を求めた。結果を図6に示す。
【0035】
図6に示すように、均一被覆時(T2=T3、T3/T2=1)のPDIVを基準とすると、コーナー部4での絶縁皮膜3の膜厚T3が薄くなるほど、コーナー部4でのPDIVは低下している。
【0036】
図5と図6より、コーナー部4での偏肉を考慮して、平坦部5でのPDIVとコーナー部4でのPDIVが等しくなる(PDIV@平坦部/PDIV@コーナー部=1となる)ときのT1/T2とT3/T2との関係を求めると、図7に破線で示す直線のようになる。この破線で示す直線は、下式(5)
1/T2=0.13×(T3/T2)+0.74 ・・・(5)
で表される。
【0037】
式(5)で表される直線は、平坦部5でのPDIVとコーナー部4でのPDIVが等しくなるときのT1/T2とT3/T2との関係であるから、平坦部5のPDIVをコーナー部4でのPDIVよりも高くするには、T1/T2とT3/T2との関係が、この直線よりも図示上側の領域にあればよい(つまり上述の式(1)を満たせばよい)ことになる。
【0038】
なお、本実施の形態では、さらに、平坦部5での部分放電を確実に抑えるために、放電のばらつきとして5%を加味して、破線の直線(式(5)の直線)を図示上側にスライドさせた実線の直線を用いることが好ましい。この実線の直線は、下式(6)
1/T2=0.13×(T3/T2)+0.79 ・・・(6)
で表される。
【0039】
1/T2とT3/T2との関係が、この式(6)で表される直線よりも図示上側の領域であれば、放電のばらつきも考慮した上で、確実に平坦部5での部分放電の発生を抑制することが可能である。つまり、下式(4)
1/T2>0.13×(T3/T2)+0.79 ・・・(4)
を満足すれば、平坦部5のPDIVをコーナー部4でのPDIVよりも高め、確実に平坦部5での部分放電の発生を抑制することが可能になる。ここでは、放電のばらつきを5%としたが、これは放電のばらつきを示す値として一般的な値である。
【0040】
次に、絶縁皮膜3の誘電率εの影響について検討する。
【0041】
コーナー部4が絶縁皮膜3で均一に被覆された場合、すなわちT2=T3=0.06mmとした場合において、絶縁皮膜3の誘電率εを2.5,3.5,4.0と変化させて、平坦部5でのPDIVとコーナー部4でのPDIVとの比(PDIV@平坦部/PDIV@コーナー部均一)と、T1/T2との関係を求めた。結果を図8に示す。
【0042】
図8に示すように、誘電率εが小さくなるほど、平坦部5でのPDIVが増加している。平坦部5でのPDIVとコーナー部4でのPDIVとの比(PDIV@平坦部/PDIV@コーナー部均一)が1以上となるときのT1/T2の値は、誘電率εが2.5のときは0.85以上、誘電率εが3.5のときは0.87以上、誘電率εが4.0のときは0.88以上となる。この傾向から、誘電率εを2.5未満とした場合には、平坦部5でのPDIVとコーナー部4でのPDIVとの比(PDIV@平坦部/PDIV@コーナー部均一)が1となるときのT1/T2の値は、0.85未満の値となると考えられる。なお、T1は最薄膜厚、T2は最厚膜厚であるからT1/T2の値は1以上となることはない。
【0043】
したがって、絶縁皮膜3が誘電率2.5以上の樹脂からなる場合には、平坦部5での絶縁皮膜3の最薄膜厚T1と最厚膜厚T2との比(T1/T2)が、下式(2)
1>T1/T2≧0.85 ・・・(2)
の関係を満たせば、平坦部5でのPDIVとコーナー部4でのPDIVとの比(PDIV@平坦部/PDIV@コーナー部均一)が1以上となり、平坦部5での部分放電の発生を抑制することができる。
【0044】
また、絶縁皮膜3が誘電率3.5以上の樹脂からなる場合には、平坦部5での絶縁皮膜3の最薄膜厚T1と最厚膜厚T2との比(T1/T2)が、下式(3)
1>T1/T2≧0.87 ・・・(3)
の関係を満たせば、平坦部5での部分放電の発生を抑制することができる。
【0045】
なお、式(2)や式(3)の関係は、コーナー部4が絶縁皮膜3で均一に被覆された場合において導かれた関係であるが、上述のように、コーナー部4の絶縁皮膜3の膜厚T3が小さくなるほどコーナー部4でのPDIVが低下して平坦部5で部分放電が発生しにくくなる(図6参照)ので、式(2)や式(3)の関係を満たせば、コーナー部4の絶縁皮膜3の膜厚T3が小さくなった場合であっても、平坦部5での部分放電の発生を抑制できることになる。
【0046】
次に、ギャップ幅Wの影響について検討する。
【0047】
コーナー部4が絶縁皮膜3で均一に被覆された場合、すなわちT2=T3=0.06mmとした場合において、ギャップ幅Wを0.3mm〜1.1mmの範囲で変化させたときの、平坦部5でのPDIVとコーナー部4でのPDIVとの比(PDIV@平坦部/PDIV@コーナー部均一)を求めた。結果を図9に示す。
【0048】
図9に示すように、平坦部5での絶縁皮膜3の最厚膜厚T2と最薄膜厚T1との差(T2−T1)を0.005mm、0.01mm、0.02mmとしたいずれの場合においても、平坦部5でのPDIVの値の変化は殆どなかった。つまり、ギャップ幅Wが変化しても、平坦部5でのPDIVの値の変化は小さく、ギャップ幅WのPDIVに対する影響は殆どない。
【0049】
以上説明したように、本実施の形態に係る平角絶縁電線1は、下式(1)
1/T2>0.13×(T3/T2)+0.74 ・・・(1)
の関係を満たしている。
【0050】
これにより、平坦部5のPDIVをコーナー部4でのPDIVよりも高め、確実に平坦部5での部分放電の発生を抑制することができる。
【0051】
その結果、コーナー部4の絶縁皮膜3の膜厚の大きさから想定され得るPDIVの値よりも低い電圧で部分放電が発生してしまうことがなくなり、安定して高いPDIVを有する平角絶縁電線1を実現できる。
【0052】
また、本実施の形態では、コーナー部4での絶縁皮膜3の膜厚T3を、コーナー部4でのPDIVが、予め設定した許容値以上となる厚さに形成しているため、コーナー部4での部分放電を許容範囲内に抑えることができ、平角絶縁電線1全体のPDIVを向上できる。
【0053】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0054】
1 平角絶縁電線
2 平角導体
3 絶縁皮膜
4 コーナー部
5 平坦部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面矩形状でコーナー部に丸め加工が施された平角導体と、
該平角導体の外周に形成された樹脂からなる少なくとも1層の絶縁皮膜と、
を備えた平角絶縁電線において、
前記コーナー部での前記絶縁皮膜の膜厚をT3、前記コーナー部間の平坦部での前記絶縁皮膜の最薄膜厚をT1、最厚膜厚をT2としたとき、下式(1)
1/T2>0.13×(T3/T2)+0.74 ・・・(1)
の関係を満たし、
前記絶縁皮膜が、誘電率2.5以上の樹脂からなり、
前記平坦部での前記絶縁皮膜の最薄膜厚T1と最厚膜厚T2との比(T1/T2)が、下式(2)
1>T1/T2≧0.85 ・・・(2)
の関係を満たす
ことを特徴とする平角絶縁電線。
【請求項2】
前記コーナー部での前記絶縁皮膜の膜厚T3は、前記コーナー部での部分放電開始電圧が、予め設定した許容値以上となる厚さに形成される
請求項1記載の平角絶縁電線。
【請求項3】
前記絶縁皮膜が、誘電率3.5以上の樹脂からなり、
前記平坦部での前記絶縁皮膜の最薄膜厚T1と最厚膜厚T2との比(T1/T2)が、下式(3)
1>T1/T2≧0.87 ・・・(3)
の関係を満たす
請求項1または2記載の平角絶縁電線。
【請求項4】
前記コーナー部での前記絶縁皮膜の膜厚T3、前記コーナー部間の平坦部での前記絶縁皮膜の最薄膜厚T1、最厚膜厚T2が、下式(4)
1/T2>0.13×(T3/T2)+0.79 ・・・(4)
の関係を満たす
請求項1〜3いずれかに記載の平角絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−105566(P2013−105566A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247352(P2011−247352)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】