説明

平角電線用被覆材、平角電線用被覆材で被覆された平角電線、およびそれを用いた電気機器

【課題】平角電線を室温で簡易に絶縁被覆することができ、特にラップ部を設けながら螺旋状に巻回した際でも、気泡や隙間がないように被覆することができる平角電線用被覆材を提供する。
【解決手段】本発明の平角電線用被覆材は、平角電線を被覆する被覆用粘着テープであって、基材の片面に粘弾性体層を設けたことを特徴とする。特に本発明の平角電線用被覆材は、前記粘弾性体層がシリコーン系粘着剤組成物からなることが好ましく、また前記基材がポリイミド樹脂からなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平角電線を被覆する平角電線用被覆材、当該平角電線用被覆材で被覆された平角電線、およびそれを用いた電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
平角電線は、各種電気機器に使用される回転機械や磁石等のコイル機器に使用されており、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、またはそれらの金属の組み合わせからなる線材を、適宜な絶縁材で被覆したものが使用されている。また近年、ビスマス系、イットリウム系、ニオブ系など各種超伝導材料が開発され、これらを用いた超伝導線を平角電線として使用することで、超伝導マグネットや超伝導コイルなどが開発されている。
【0003】
これらの平角電線は、電線同士を絶縁するため、適宜な絶縁材で被覆して使用される。例えば裸平角電線を絶縁フィルムテープで螺旋状に巻回して被覆することが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、平角導体を樹脂絶縁被覆材により被覆することが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-4552号公報
【特許文献2】特開2003-272916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の絶縁方法は、確実に絶縁するために絶縁フィルムテープの一部を重ね合わせたラップ部分を設ける必要があるが、ラップ部分に隙間が生じ、また絶縁フィルムテープが裸平角電線に完全に密着しないため気泡を含む場合があった。このような隙間や気泡は、その部分に電界が集中し、微弱な放電が発生する。これは部分放電とよばれ、これにより絶縁体が劣化し、長時間後には絶縁破壊に至ることがある。特に超伝導線のように液体窒素中で使用される平角電線の場合、ラップ部分に噛みこんだ気泡による部分放電開始電圧の低下が著しいことが本発明者によって確認された。
【0006】
また特許文献2に記載の絶縁方法は、溶融させた熱可塑性樹脂により平角電線を被覆するものであり、材料の種類によってはかなりの高温となり、線材の特性を低下させる恐れがあった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、平角電線を室温で簡易に絶縁被覆することができ、特にラップ部を設けながら螺旋状に巻回した際でも、気泡や隙間がないように被覆することができる平角電線用被覆材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、平角電線を被覆する被覆材において、基材の片面に粘弾性体層を設けることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち本発明の平角電線用被覆材は、平角電線を被覆する被覆用粘着テープであって、基材の片面に粘弾性体層を設けたことを特徴とする。
【0010】
特に本発明の平角電線用被覆材は、前記粘弾性体層がシリコーン系粘着剤組成物からなることが好ましく、また前記基材がポリイミド樹脂からなることが好ましい。
【0011】
さらに本発明の平角電線用被覆材は、SUS304鋼板に対する接着力(180°ピール、引っ張り速度300mm/分)が0.01〜10N/20mmであることが好ましく、また低速巻戻し力(引っ張り速度300mm/分)が0.05〜10N/20mmであることが好ましい。
【0012】
また本発明は、前記平角電線用被覆材で被覆されていることを特徴とする平角電線を提供する。前記平角電線は超伝導線であることが好適である。
【0013】
また本発明は、前記平角電線用被覆材で被覆された平角電線を用いた電気機器を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の平角電線用被覆材は、上記構成としているので、室温条件で平角電線を簡易に被覆することができ、平角電線に熱による劣化を生じさせることを抑制できる。また被覆用粘着テープ(平角電線用被覆材)をラップ部を設けながら螺旋状に巻回した際でも、粘弾性層がラップ部の隙間を埋め、また電線に被覆材が接着することで気泡が入らないようにすることができる。このためラップ部や気泡部からの放電がなく、高い絶縁破壊電圧を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の平角電線用被覆材の一実施形態を示す概略側面図である。
【図2】図2は、本発明の平角電線用被覆材で被覆された平角電線の一実施形態を示す概略斜視図である。
【図3】図3は、平角電線の部分放電開始電圧の評価方法を示す説明図である。
【図4】図4は、電気機器の一例であるコイルの一実施形態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の平角用電線被覆材は、基材の片面に粘弾性層を設けた構成であることを特徴とする。
【0017】
(基材)
本発明において、基材は絶縁性、耐放射線性、耐熱性等を有すれば特に限定されず、例えばポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用することも出来る。
【0018】
これらの樹脂の中でも、本発明においては、特にポリイミド樹脂を基材として用いることが好ましい。ポリイミド樹脂は、耐熱性と共に、不燃性材料であり電気機器に使用する絶縁材料としては、優れた難燃性を有するという点で本発明の平角電線用被覆材の基材として優れた特性を有している。
【0019】
ポリイミド樹脂は公知乃至慣用の方法により得ることが出来る。例えば、ポリイミドは有機テトラカルボン酸二無水物とジアミノ化合物(ジアミン)とを反応させてポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を合成し、このポリイミド前駆体を脱水閉環することにより得ることが出来る。
【0020】
上記有機テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物等が挙げられる。これらの有機テトラカルボン酸二無水物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用することも出来る。
【0021】
上記ジアミノ化合物としては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、4,4´−ジアミノジフェニルエーテル、4,4´−ジアミノジフェニルスルホン、3,3´−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ジアミノジフェニルメタン、2,2´−ジメチル−4,4´−ジアミノビフェニル、2,2´−ビス(トリフルオロメチル)−4,4´−ジアミノビフェニル等が挙げられる。これらのジアミノ化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用することも出来る。
【0022】
なお本発明において用いられるポリイミド樹脂としては、有機テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミノ化合物としてp−フェニレンジアミン、4,4´−ジアミノジフェニルエーテルを用いることが好ましい。このようなポリイミド樹脂は、「カプトン」(東レ・デュポン社製)、「ユーピレックス」(宇部興産社製)など市販品を用いることもできる。
【0023】
本発明において用いる基材の厚さは、5〜25μm、好ましくは7〜15μmである。厚さが本範囲内であると、十分な絶縁性を確保でき、平角電線としての機能を発揮できる。一方、厚さが25μm以下であると、平角電線用被覆材が厚くなることを抑制できる為、平角電線に被覆した際にコイルの線占率が小さくなることを抑制できるので、所望のコイル性能が得られない場合を低減でき、また厚さが5μm以上であると線材の絶縁性が低くなることを抑制でき、作動中に絶縁破壊する場合を低減できる。
【0024】
また本発明において用いる基材は、後述する粘弾性体層との投錨力を向上させるために、スパッタエッチング処理やコロナ処理、プラズマ処理などの化学的処理や、下塗り剤などを塗布することもできる。
【0025】
(粘弾性体層)
本発明において粘弾性体層は、温度0〜80℃の範囲で、動的弾性率が1×103〜1×108N/m2のものを使用することが好ましく、特に好ましくは1×104〜1×106N/m2の範囲のものである。すなわち、動的弾性率が1×103N/m2以上であると、巻戻し力(自背面接着力)が高くなることを抑制し、平角電線用被覆材の巻回体から平角電線用被覆材を巻き戻す際に基材が伸びる場合を低減し、平角電線に被覆した後の電線のカール・そりの原因になる恐れを低減できる。また、テープ幅が所望の幅よりも狭く変形する恐れを低減できる。あるいは、巻き戻す際に、凝集破壊を起こしテープの背面に粘弾性体が付着する、所謂ブロッキング現象を引き起こす可能性を低減できる。逆に、動的弾性率が1×108N/m2以下であると、粘弾性体層の柔軟性が低下することを抑制し、貼着の際の作業性に支障をきたす恐れを低減できる。
【0026】
また本発明において粘弾性体層は、被着体(平角電線)への接着特性のバランスが取りやすいという理由から、ガラス転移温度(Tg)が−5℃以下、好ましくは−10℃以下であることが望ましい。ガラス転移温度が−5℃以下の場合、ポリマーが流動しやすく被着体への濡れが不十分となることを抑制でき、接着力が低下する場合を低減できる。
【0027】
本発明の粘弾性体層は、少なくとも粘弾性体を構成するベースポリマーを含む。ベースポリマーとしては、特に限定されず、公知のベースポリマーから適宜選択して用いることができ、例えば、アクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー、ビニルアルキルエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ウレタン系ポリマー、フッ素系ポリマー、エポキシ系ポリマー等が挙げられる。これらのベースポリマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用することも出来る。
【0028】
特に本発明においては、これらのベースポリマーのうち、耐寒性、耐放射線性、耐熱性、耐腐食性に優れるという理由から、シリコーン系ポリマーが好適に用いることが出来る。
【0029】
本発明において粘弾性層は、シリコーン系ポリマーを含む粘弾性体組成物より構成することが好ましい。シリコーン系粘弾性体組成物は、シリコーンガムおよびシリコーンレジンを主成分とする配合物の架橋構造を含有してなる。
【0030】
シリコーンガムとしては、例えば、ジメチルシロキサンを主な構成単位とするオルガノポリシロキサンを好ましく使用できる。オルガノポリシロキサンには必要に応じてビニル基、その他の官能基が導入されていてもよい。オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は通常18万以上であるが、望ましくは28万から100万、特に50万から90万のものが好適である。これらシリコーンガムは1種または2種以上を適宜に組み合わせて使用することができる。重量平均分子量が低い場合には架橋剤の量によりゲル分率を調整することができる。
【0031】
シリコーンレジンとしては、例えば、M単位(R3SiO1/2)と、Q単位(SiO2)、T単位(RSiO3/2)およびD単位(R2SiO)から選ばれるいずれか少なくとも1種の単位(前記単位中、Rは一価炭化水素基または水酸基を示す)を有する共重合体からなるオルガノポリシロキサンを好ましく使用できる。前記共重合体からなるオルガノポリシロキサンは、OH基を有する他に、必要に応じてビニル基等の種々の官能基が導入されていてもよい。導入する官能基は架橋反応を起こすものであってもよい。前記共重合体としてはM単位とQ単位からなるMQレジンが好ましい。
【0032】
シリコーンガムとシリコーンレジンの配合割合(重量比)は特に制限されないが、前者:後者=100:0〜20:80程度、好ましくは100:0〜30:70程度、より好ましくは80:20〜40:60程度のものを使用するのが好適である。シリコーンガムとシリコーンレジンは、単にそれらを配合して使用してもよく、それらの部分縮合物であってもよい。
【0033】
前記配合物には、それを架橋構造物とするために、通常、架橋剤を含む。架橋剤により、シリコーン系粘弾性体組成物のゲル分率を調整することができる。
【0034】
本発明においてシリコーン系粘粘弾性体層のゲル分率は、シリコーン系粘弾性体組成物の種類によっても異なるが、概ね20〜99%程度、好ましくは30〜98%程度、より好ましくは40〜85%程度とするのが適当である。ゲル分率が上記範囲内であれば、接着力と保持力のバランスがとりやすいという利点がある。一方ゲル分率が99%以下であると初期接着力が低くなりすぎず、貼り付きが悪くなってしまう傾向を低減でき、また20%以上であると十分な保持力が得られ、被覆材のずれや糊はみ出しが発生する場合を低減できる。
【0035】
本発明におけるシリコーン系粘粘弾性体層のゲル分率(重量%)は、シリコーン系粘弾性体層から乾燥重量W1(g)の試料採取し、これをトルエンに浸漬した後、前記試料の不溶分をトルエン中から取り出し、乾燥後の重量W2(g)を測定し、(W2/W1)×100を計算して求めることができる。
【0036】
本発明のシリコーン系粘弾性体組成物は、一般に用いられる、過酸化物系架橋剤による過酸化物硬化型の架橋と、Si−H基を含有するシロキサン系架橋剤による付加反応型架橋を用いることができる。
【0037】
過酸化物系架橋剤の架橋反応はラジカル反応であるため、通常150℃〜220℃の高温下で架橋反応が進められる。一方、ビニル基含有のオルガノポリシロキサンとシロキサン系架橋剤の架橋反応は付加反応であるので、通常80℃〜150℃の低温で反応が進む。本発明においては、特に低温短時間で架橋を完了できることから、付加反応型架橋が好ましい。
【0038】
前記過酸化物架橋剤としては、従来よりシリコーン系粘弾性体組成物に使用されている各種のものを特に制限なく使用できる。たとえば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、2,4−ジクロロ−ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピルベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキシン−3等が挙げられる。これらの過酸化物架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用することも出来る。過酸化物系架橋剤の使用量は、通常、シリコーンガム100重量部に対して0.15〜2重量部程度、好ましくは0.5〜1.4重量部である。
【0039】
また、シロキサン系架橋剤として、たとえば、ケイ素原子に結合した水素原子を分子中に少なくとも平均2個有するポリオルガノハイドロジエンシロキサンが用いられる。ケイ素原子に結合した有機基としてはアルキル基、フェニル基、ハロゲン化アルキル基等があげられるが、合成および取り扱いが容易なことから、メチル基が好ましい。シロキサン骨格構造は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状が良く用いられる。
【0040】
シロキサン系架橋剤の使用量は、通常、シリコーンガムおよびシリコーンレジン中のビニル基1個に対して、ケイ素原子に結合した水素原子が1〜30個、好ましくは4〜17個になるように配合する。ケイ素原子に結合した水素原子が1個以上では、十分な凝集力が得られ、30個以下の場合には接着特性が低下する傾向を低減できる。シロキサン系架橋剤を用いる場合には、通常、白金触媒が用いられるが、その他種々の触媒を使用することができる。なお、シロキサン系架橋剤を用いる場合には、シリコーンガムとしてビニル基を有するオルガノポリシロキサンを用いるが、そのビニル基は、0.0001〜0.01モル/100g程度とするのが好ましい。
【0041】
本発明の粘弾性体層には、前記ベースポリマーの他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、粘着付与剤、可塑剤、分散剤、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤、安定剤、消泡剤、難燃剤、増粘剤、顔料、軟化剤、充填剤、などの従来公知の各種の添加剤を適宜配合することができる。
【0042】
本発明において粘弾性体層の厚さは、1〜25μm、好ましくは2〜10μmである。粘弾性体層の厚さが本範囲内であると、適度な接着性が得られるという利点がある。一方、粘弾性体層の厚さが25μm以下であると、平角電線用被覆材が厚くなることを抑制できる為、平角電線に被覆した際にコイルの線占率が小さくなることを抑制できるので、所望のコイル性能が得られない場合を低減でき、また粘弾性体層の厚さが1μm以上であると線材への密着が得られるので、線材との界面に隙間が出来る場合を低減できる。
【0043】
(平角電線用被覆材)
次に、本発明の平角電線用被覆材について、図1を参照して、説明する。
【0044】
図1は、本発明の平角電線用被覆材の一実施形態を示す概略側面図である。図1において、平角電線用被覆材1は、基材11の片面に粘弾性層12を設けた構成である。平角電線用被覆材1は、芯材13にロール状に巻回されている。
【0045】
本発明の平角電線用被覆材1の作製方法は特に限定されないが、例えば、前記したシリコーン系粘弾性体組成物を基材上にコーティングする方法により、基材11にシリコーン系粘弾性体層を粘弾性体層12として形成することができる。
【0046】
より具体的には、シリコーンガム、シリコーンレジン、架橋剤、触媒等を含むシリコーン系粘弾性体組成物をトルエン等の溶剤に溶解した溶液を前記基材に塗布し、次いで前記配合物を加熱することで溶剤の留去と架橋を行う。本発明におけるシリコーン系粘弾性体層の形成方法としては、たとえば、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコーター等による押出しコート法などの方法があげられる。
【0047】
また剥離ライナー上にシリコーン系粘弾性体組成物からなるシリコーン系粘弾性体層を形成し、これを基材に転写する方法であっても良い。剥離ライナーとしては、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂フィルム、ゴムシート、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体等が挙げられる。
【0048】
加熱温度は、溶剤を留去でき、また所定の架橋反応が進行すれば特に限定されないが、例えば溶剤にトルエンを用い、付加反応型架橋を行うシリコーン系粘弾性体層を形成する場合、80℃〜150℃、好ましくは100〜130℃である。
【0049】
本発明の平角電線用被覆材は、その厚み(総厚)が0.007〜0.04mmであることが好ましく、0.01〜0.03mmであることがより好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.02mmである。平角電線用被覆材の厚さが0.007mm以上では強度が十分であり、取り扱い性に劣る場合を低減でき、厚さが0.04mm以下であると、平角電線用被覆材で被覆された平角電線を絶縁コイルとして巻回した際に、線材の密度が低下することを抑制し、性能の低下を引き起こす場合を低減でき好ましい。
【0050】
また平角電線の一般的なサイズは、厚さが1〜10mm、幅が1〜20mmのものが市販されており、一般的な絶縁被覆方法は、巻き回し角度が20°〜80°の範囲で、且つ絶縁被覆材の一部が重なり合う、ハーフラップで螺旋状に巻き回されている場合が多い。このことから、線材幅と、巻き回し角度を考慮すると、テープ幅は、最小でも、線材幅の1倍、最大でも、線材幅の2倍程度が好ましい。具体的には、本発明の平角電線用被覆材は、その幅が1〜80mmであることが好ましく、1.5〜60mmであることがより好ましく、さらに好ましくは2〜40mmである。
【0051】
また本発明の平角電線用被覆材は、平角電線を被覆する際につなぎ目を設けないことが望ましい。そのため平角電線用被覆材は長尺のテープであることが好ましく、長さは500m以上、好ましくは1000m以上、更に3000m以上であることが望ましい。従って本発明の平角電線用被覆材1は巻芯13にロール状に巻回されており、一つの巻芯に複数列に亘って巻回する、いわゆるボビン巻きであっても構わない。
【0052】
本発明の平角電線用被覆材は、SUS304鋼板に対する接着力(180°ピール、引っ張り速度300mm/分)が0.01〜10N/20mm、好ましくは0.01〜6.0N/20mm、より好ましくは0.02〜4.0N/20mm、更に好ましくは0.1〜2.0N/20mmであることが望ましい。平角電線用被覆材の粘着力が上記範囲内であれば、平角電線と室温で十分に密着し、容易に平角電線を絶縁被覆することができる、また気泡や隙間をなくすことができ、高い絶縁破壊電圧を得ることができる、という利点がある。一方、接着力が10N/20mm以下であると、巻き戻しにくくなることを抑制できるばかりでなく、螺旋状に巻き回す際にテープが伸びることを抑制でき、被覆後の平角電線に反りや捻じれ等が発生する恐れを低減できる。また接着力が0.01N/20mm以上であると、平角電線に対する十分な接着力が得られ、隙間や気泡が混入する恐れを低減できる。
【0053】
本発明において、平角電線用被覆材の接着力は上記範囲であることが望ましいが、そのためには粘弾性層の組成を適宜調整することで達成される。例えば粘弾性体層として前記シリコーン系粘弾性体組成物を用いる場合、シリコーンガムとシリコーンレジンとの配合比を調整することで、接着力を調整することができ、具体的にはシリコーンレジンの配合量を増やすことで接着力を高めることができる。より具体的には、平角電線用被覆材のステンレス板に対する接着力(180°ピール、引っ張り速度300mm/分)を0.01〜10N/20mmとするには、シリコーンガムとシリコーンレジンの配合割合(重量比)を、前者:後者=100:0〜30:70程度にすればよい。
【0054】
また本発明の平角電線用被覆材は、その低速巻戻し力(引っ張り速度300mm/分)が0.05〜10N/20mm、好ましくは0.07〜7.0N/20mm、より好ましくは0.1〜5.0N/20mm、更に好ましくは0.2〜3.0N/20mmであることが望ましい。平角電線用被覆材の低速巻戻し力が上記範囲内であれば、平角電線用被覆材の巻回体からの巻き戻しがスムーズに行われるという利点がある。一方、巻き戻し力が5N/20mm以下であると、巻き戻しが不規則になる場合を低減できる。
【0055】
(平角電線用被覆材で被覆された平角電線)
本発明は、上記平角電線用被覆材で被覆した平角電線を提供する。本発明に使用する平角電線は、特に限定されず、従来周知の物を使用でき、その素材としては銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、またはそれらの金属の組み合わせからなる線材を用いることができる。またビスマス系、イットリウム系、ニオブ系など各種超伝導材料からなる平角電線も用いることができる。
【0056】
平角電線を被覆する方法は特に限定されず、従来周知の螺旋状に被覆用粘着テープ(平角電線用被覆材)を巻回する方法であってもよいし、被覆用粘着テープの長さ方向に平角電線を添わせながら被覆する方法(タテ添え)であってもよい。
【0057】
また本発明に用いる平角電線は、その断面形状において幅/厚さの比(アスペクト比)が、1〜60程度の平角電線を用いることが望ましい。
【0058】
(電気機器)
本発明の平角電線用被覆材で被覆された平角電線は、絶縁コイルや超伝導コイル、超伝導マグネットなどの電気機器に使用することができる。特に本発明の平角電線用被覆材で被覆された平角電線は、被覆材と線材との間に気泡や隙間がなく、高い絶縁破壊電圧を有するため、それを用いた電気機器においては、印加する電力を大きくした設計が可能で、出力の大きい機器を提供出来るというという利点を有する。
【0059】
なお、電気機器の一例である絶縁コイルや超伝導コイルなどのコイル200は、例えば図4に示すように、巻枠210と、この巻枠210に巻きつけられた平角電線用被覆材で被覆された平角電線100とを備えている。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
シリコーン系粘弾性体として「X−40−3229」(シリコーンガム、固形分60%、信越化学工業社製)70重量部および「KR−3700」(シリコーンレジン、固形分60%、信越化学工業社製)30重量部、白金触媒として「PL−50T」(信越化学工業社製)0.5重量部、溶剤としてトルエン315重量部を配合し、ディスパーで攪拌してシリコーン系粘弾性体組成物を作製した。ポリイミド樹脂からなる基材「カプトン40EN」(厚み10.0μm、引張弾性率5.80GPa、東レ・デュポン社製)にファウンテンロールで乾燥後の厚みが3μmとなるよう塗布し、乾燥温度150℃、乾燥時間1分の条件でキュアー・乾燥して、ポリイミド樹脂基材上にゲル分率が74%のシリコーン系粘弾性体層を形成した平角電線用被覆材を作製した。これを巻芯(内径76mm)に巻き取り、ロール状の巻回体を得た。
【0062】
(実施例2)
ポリイミド樹脂からなる基材として「カプトン50H」(厚み12.5μm、引張弾性率3.50GPa、東レ・デュポン社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、平角電線用被覆材を作製した。
【0063】
(実施例3)
シリコーン系粘弾性体として「X−40−3229」(シリコーンガム、固形分60%、信越化学工業社製)60重量部および「KR−3700」(シリコーンレジン、固形分60%、信越化学工業社製)40重量部とした以外は実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂基材上にゲル分率が80%のシリコーン系粘弾性体層を形成した平角電線用被覆材を作製した。これを巻芯(内径76mm)に巻き取り、ロール状の巻回体を得た。
【0064】
(実施例4)
シリコーン系粘弾性体として「X−40−3229」(シリコーンガム、固形分60%、信越化学工業社製)50重量部および「KR−3700」(シリコーンレジン、固形分60%、信越化学工業社製)50重量部とした以外は実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂基材上にゲル分率が65%のシリコーン系粘弾性体層を形成した平角電線用被覆材を作製した。これを巻芯(内径76mm)に巻き取り、ロール状の巻回体を得た。
【0065】
(比較例1)
基材として「カプトン50H」(厚み12.5μm、東レ・デュポン社製)を用い、粘弾性層を設けずそのまま使用した。
【0066】
(評価)
実施例及び比較例について、接着力、低速巻戻し力、部分放電開始電圧をそれぞれ測定した。なお接着力および低速巻戻し力については、実施例のみ測定した。結果を表1に示した。
【0067】
(接着力の測定)
各実施例で作製した平角電線用被覆材を幅20mm、長さ150mmに切断し評価用サンプルとした。23℃、50%RH雰囲気下、評価用サンプルの粘着面を、SUS304鋼板に2kgローラー1往復により貼り付けた。23℃で30分間養生した後、ミネベア株式会社製万能引張試験機『TCM−1kNB』を用い、剥離角度180°、引っ張り速度300mm/分で剥離試験を行い、接着力を測定した。
【0068】
(低速巻戻し力の測定)
各実施例で作製した平角電線用被覆材の巻回体を幅20mmに切断加工し評価用の巻回体サンプルとした。JIS Z 0237に準拠する方法により、ミネベア株式会社製万能引張試験機『TCM−1kNB』を用い、引っ張り速度300mm/分で巻戻し試験を行い、低速巻戻し力を測定した。
【0069】
(部分放電開始電圧の測定)
各実施例で作成した平角電線用被覆材および比較例の基材について、幅5mmの試験片とし、平角電線として「Di−BSCCO」(線材:ビスマス系超電導線、厚み0.23mm×幅4.3mm、住友電気工業社製)に対し、図2に示すとおり、巻き回し角度60°、被覆材同士の重なりを約2.0mmで螺旋状に被覆した長さ10cmの評価サンプル2を作製した。図2において、21は平角電線を、22は試験片(平角電線用被覆材または基材)を、23は試験片22のラップ部分を示す。
【0070】
図3に示す装置により、液体窒素中での部分放電開始電圧を測定した。図3において、31は容器であり、32は電極であり、33は評価サンプル2および電極32を保持する支柱である。容器31内に、電極32および支柱33で挟持する形で評価サンプル2を配置した。上部の電極32には部分放電測定器34が接続され、評価サンプル2の平角電線にアース35を接続した。液体窒素を、少なくとも評価サンプル2が浸漬するよう加え、温度が安定した状態で(約15分後)、測定を開始した。なお電極サイズは25mmφ、R2.5mm、接触面積20mmφであり、昇圧速度200Vrms/秒で昇圧した際に、放電電荷量が100pC以上の放電が50PPS(単位時間当たりの放電電荷の発生数)以上確認された時の印加電圧を部分放電開始電圧とした。
【0071】
【表1】

【0072】
実施例のように基材に粘弾性体層を設けた平角電線用被覆材で被覆した平角電線の部分放電開始電圧は、粘弾性体層を設けず基材のみで被覆した場合にくらべ、2倍以上の高い値であることが確認された。
【符号の説明】
【0073】
1 平角電線用被覆材
11 基材
12 粘弾性体層
13 巻芯
2 評価サンプル
21 平角電線
22 試験片
23 ラップ部分
31 容器
32 電極
33 支柱
34 部分放電測定器
35 アース
100 平角電線用被覆材で被覆された平角電線
200 コイル
210 巻枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角電線を被覆し絶縁する平角電線用被覆材において、
基材の片面に粘弾性体層を設けたことを特徴とする平角電線用被覆材。
【請求項2】
前記粘弾性体層がシリコーン系粘着剤組成物からなることを特徴とする請求項1に記載の平角電線用被覆材。
【請求項3】
前記基材がポリイミド樹脂からなることを特徴とする請求項1または2に記載の平角電線用被覆材。
【請求項4】
SUS304鋼板に対する接着力(180°ピール、引っ張り速度300mm/分)が0.01〜10N/20mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の平角電線用被覆材。
【請求項5】
低速巻戻し力(引っ張り速度300mm/分)が0.05〜10N/20mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の平角電線用被覆材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の平角電線用被覆材で被覆されていることを特徴とする平角電線用被覆材で被覆された平角電線。
【請求項7】
前記平角電線が超伝導線であることを特徴とする請求項6に記載の平角電線用被覆材で被覆された平角電線。
【請求項8】
請求項6または7に記載の平角電線用被覆材で被覆された平角電線を用いた電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−144700(P2012−144700A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257881(P2011−257881)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】