説明

平面摺動機構

【課題】すべり速度や荷重の大きさに関らず、油膜厚みの変動が小さく油膜剛性に優れた平面摺動機構を提供する。
【解決手段】平面摺動機構1を構成する一方の平面2には、相対する平面間に潤滑流体を供給する深溝3と、深溝3に比べて浅い浅溝4とが設けられる。浅溝4は周期性をもって並列に配置され、並列配置された複数の浅溝4,4…は何れも深溝3と交わり、かつ相対する他方の平面の摺動方向に対して平行又は90°未満の傾斜角で傾斜する向きに配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面摺動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
相対する平面間で摺動を行う平面摺動機構は、その用途に応じて例えば自動車等の動的機構に使用されるスラスト軸受や、工作機械の案内機構に代表される直動摺動機構などに利用されている。
【0003】
ここで、例えば直動すべり案内機構として、下記特許文献1には、摺動面間の潤滑性の向上を目的として、摺動表面の一方または両方に、相互に深さの異なる複数の溝状の凹部を摺動方向とは直交する向きに形成したものが提案されている。
【0004】
また、スラスト軸受面構造として、下記特許文献2に記載の軸受面構造が提案されている。この軸受面構造は、軸受面全体に油を効率よく供給することを目的とするもので、放射状に伸びる給油溝の回転方向下流側に、給油溝より浅く、かつ下流側に向かって径方向および周方向の溝深さが浅くなる先細り形状の油導入溝を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−235852号公報
【特許文献2】特開2008−144864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示されている溝状の凹部は互いに独立しており、また潤滑油等をこの凹部に補給するための機構も存在しないことから、例えば油浴潤滑状態のように潤滑油が潤沢に供給される条件でなければ所要の油膜形成効果を期待することは難しい。特に、工作機械のすべり直動案内のように、開放型の摺動平面を有するすべり直動案内機構の場合には、上記特許文献1に係る技術を適用しても良好な油膜形成を図ることは難しい。
【0007】
上記特許文献2に開示のスラスト軸受面構造では、テーパ状の油導入部が有する高い油の引き込み能力により比較的厚みのある油膜が形成される。しかし、このように油の引き込み力のみに主眼を置いた形状の油導入部では、摺動する相手部材の荷重が大きい場合やすべり速度が遅い場合など、十分な厚みの油膜が形成し難い状況では油膜厚さの変動が大きくなり、油膜厚さの安定性に欠ける。また、十分な厚みの油膜が形成されている場合でも、速度変動や荷重変動により油膜の厚みが変動し易く十分な油膜剛性が得られないため、相手部材の位置精度の低下を招くおそれがある。
【0008】
以上の事情に鑑み、本明細書では、すべり速度や荷重の大きさに関らず、油膜厚みの変動が小さく油膜剛性に優れた平面摺動機構を提供することを、本発明により解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題の解決を図るためになされたものである。すなわち、本発明に係る平面摺動機構は、相対する平面間で潤滑流体の膜を介して相対摺動を行うための平面摺動機構であって、何れか一方の平面には、相対する平面間に潤滑流体を供給する深溝と、深溝に比べて浅い浅溝とが設けられ、浅溝は、周期性をもって並列に配置され、並列配置された複数の浅溝は何れも深溝と交わり、かつ相対する他方の平面の摺動方向に対して平行または90°未満の傾斜角で傾斜する向きに配置されている点をもって特徴付けられる。なお、ここでいう「周期性をもって並列に配置」には、相互に深さ寸法や幅寸法ないし長手寸法の異なる複数種の浅溝の組み合わせが周期的に現れるように各浅溝が並列に配置されたものの他、同一形状の浅溝が一定の間隔で並列に配置されたものや、所定の間隔の変動を伴って並列に配置されたものなどが含まれる。
【0010】
本発明は、摺動平面上に設けられた溝の深さ寸法と潤滑流体膜の厚み寸法との関係に着目してなされたもので、後述の実験結果からも分かるように、相互に溝深さの異なる深溝と浅溝とが交わるように配置すると共に、相対的に浅い側の溝を所定の態様に配列することにより、すべり速度や負荷の大きさに関らず安定した油膜の形成を実現可能としたものである。すなわち、相対摺動する平面のうち一方の平面に設けた複数の浅溝を周期性をもって並列に配置し、かつこれら並列配置された複数の浅溝を何れも深溝と交わるように配置することで、摺動平面間に形成される潤滑流体膜の厚みの変動幅が小さくなり、膜厚が安定することで摩擦係数の変動幅も小さくなる。これは、以下の作用に起因するものと考えられる。すなわち、1本の深溝に対して複数本の浅溝を上記のように交差させて配置することにより、膜厚が比較的大きい場合には、浅溝に起因する油圧の立ち上がり(動圧効果)はほとんど生じず、浅溝の存在が深溝に起因する動圧効果を低減させるため、膜厚を低減する向きに作用する。また、周期性をもって並列に配置した複数の浅溝を摺動方向に対して平行または鋭角に傾斜する向きに配置するようにしたので、形成され得る流体膜の厚みが比較的小さい場合、主に浅溝の長手方向に沿って潤滑流体の流れ込みが生じ、反深溝側の端部で大きな動圧効果が生じる。動圧効果は、溝深さが油膜厚さに近いほど大きく、同程度の場合に最大となるため、油膜厚みの小さい場合、浅溝により剛性の高い流体膜を形成することができる。その結果、潤滑流体の膜厚の変動幅が小さくなるものと考えられる。
【0011】
また、深溝は、この深溝が形成される平面の端部まで伸びていてもよい。このように構成することで、深溝が平面の端部で開放されるので、深溝領域での負圧の発生を防いで安定した流体膜の形成を図ることができる。
【0012】
ここで、深溝や浅溝の配置態様に関し、例えば深溝は、相対する他方の平面の摺動方向に対して直交する向きに配置されていてもよい。このように構成することで、深溝と、深溝と交わる全ての浅溝に向けて漏れなくかつ偏りなく潤滑流体を供給することができる。
【0013】
また、複数の浅溝は、何れも深溝に対して直交する向きに交わっていてもよい。特に、上述のように相対する平面間の相対摺動方向に直交する向きに深溝を配置する場合には、浅溝が何れも摺動方向に対して平行に配置されることになるので、最も効果的に浅溝による動圧効果を得ることができる。また、この場合、併せて、浅溝の長手寸法を同じにすることで並列に配置した浅溝の反深溝側の端部を揃えることができ、これにより、一方の平面の幅方向(摺動方向に直交する向き)に均等な動圧効果を発生させて、均一な厚みの潤滑流体膜を形成することができる。
【0014】
また、複数の浅溝は、深溝の両側に配置されていてもよい。このように構成することで、例えば相対する他方の平面が深溝に対して交差する向きに往復摺動する場合、一方の摺動方向に対しては深溝の一方の側に配置した複数の浅溝が機能し、他方の摺動方向に対しては深溝の他方の側に配置した複数の浅溝が機能する。これにより、往復動を行う直動案内機構や、正逆両回転するスラスト軸受に対しても本発明を適用することができる。また、本発明のように、浅溝と深溝とを組合せて配置するのであれば、浅溝の幅寸法を小さく設定しても所要の動圧効果を発揮するのに十分な溝長さを確保することができるので、深溝の両側にそれぞれ多数本の浅溝を並列配置することに特に支障は生じない。
【0015】
また、複数の浅溝は、10μm以下のピッチで形成されていてもよい。このように構成することで、潤滑流体の側方漏れを一層生じ難くして、動圧の発生効果をさらに高めることができる。その結果、側方での圧力降下を少なくして、ローリング誤差を小さくすることができる。
【0016】
あるいは、浅溝は、1μm以下の深さに形成されていてもよい。後述する実験結果からも分かるように、一般的な動圧溝のオーダー(数μmから数十μm)よりも小さいサイズに浅溝を形成することで、特に膜厚が1μm以下となる摺動域において優れた動圧効果を発揮して高剛性の流体膜を形成することができる。
【0017】
以上の構成に係る平面摺動機構に関し、例えば複数の浅溝は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを一方の平面に照射し、照射部分をオーバーラップさせながら走査することで自己組織的に形成されたものであってもよい。詳細は特許掲載公報第4054330号に譲るが、この種のいわゆるレーザを用いた自己組織的な並列溝の形成方法によれば、機械加工では困難な1μm以下のオーダーのピッチと溝深さを併せ持つ浅溝群を容易に形成できる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、すべり速度や荷重の大きさに関らず、油膜厚みの変動が小さく油膜剛性に優れた平面摺動機構を提供することができる。また、本発明であれば、高剛性を要するスラスト軸受などに限らず、油膜厚みの変動が加工精度に直結する工作機械の案内機構等にも好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る平面摺動機構の要部平面図である。
【図2】図1に示す平面摺動機構のA−A断面図であって、油膜厚さが比較的大きい場合の摺動状態を概念的に示す断面図である。
【図3】図1に示す平面摺動機構のA−A断面図であって、油膜厚さが比較的小さい場合の摺動状態を概念的に示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る平面摺動機構の要部平面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る平面摺動機構の要部平面図である。
【図6】摺動実験の結果を示す図であって、比較例に係る平面摺動機構のすべり速度と動摩擦係数との関係を示す図である。
【図7】摺動実験の結果を示す図であって、比較例に係る平面摺動機構のすべり速度と動摩擦係数との関係を示す図である。
【図8】摺動実験の結果を示す図であって、実施例に係る平面摺動機構のすべり速度と動摩擦係数との関係を示す図である。
【図9】摺動実験の結果を示す図であって、比較例に係る平面摺動機構のすべり速度と油膜厚さとの関係を示す図である。
【図10】摺動実験の結果を示す図であって、実施例に係る平面摺動機構のすべり速度と油膜厚さとの関係を示す図である。
【図11】摺動実験の結果を示す図であって、比較例に係る平面摺動機構の、すべり速度を異ならせた場合における荷重と平均油膜厚さとの関係を示す図である。
【図12】摺動実験の結果を示す図であって、実施例に係る平面摺動機構の、すべり速度を異ならせた場合における荷重と平均油膜厚さとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る平面摺動機構の実施形態を図1〜図5に基づき説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る平面摺動機構1の要部平面図を示している。また、図2は、図1に示す平面摺動機構1のA−A断面図を示している。これらの図から分かるように、平面摺動機構1を構成する一方の平面2には、その長手方向に沿って所定の間隔おきに後述する深溝3および複数の浅溝4が形成されている。
【0022】
ここで、一方の平面2には、図2に示すように、相対する平面2,5間に潤滑流体(ここでは例えば潤滑油)を供給するための深溝3が形成されている。また、図1や図2に示すように、深溝3よりも浅く、かつその幅も狭い複数の浅溝4,4…が形成されている。これら複数の浅溝4,4…は周期性をもって並列に形成されており、何れの浅溝4も隣接する深溝3と交わっている。この実施形態では、複数の浅溝4が何れも深溝3と所定の角度で交わる向きに配置されると共に、各浅溝4がその端部で深溝3の一方の縁とつながっている(図2を参照)。
【0023】
これら深溝3と浅溝4の平面的な配置関係について見ると、深溝3は、この実施形態では、相対する他方の平面5(を有する相手部材6)の摺動方向に直交する向きに配置されており、その両端を一方の平面2の両側の端部に開放した形態をなしている。故に、深溝3内部は外気と連通可能な状態におかれている。
【0024】
複数の浅溝4,4…は、この実施形態では直線形状をなし、所定のピッチで格子状に配置される。また、何れの浅溝4,4…も深溝3と直交する向き、ここでは結果的に他方の平面5(相手部材6)の摺動方向と平行となる向きに配置されている。また、上記のように配置された深溝3の双方の側に配置された全ての浅溝4,4…は同じ長手寸法に形成されており、深溝3とは反対側の端部が一方の平面2の幅方向に一列に揃った状態で配置されている。
【0025】
次に、深溝3と浅溝4の寸法関係について見ると、深溝3の溝深さWaは、相対する双方の平面2,5間に潤滑油を供給できる限りにおいて特に制限されないが、浅溝4の溝深さWbとの関係についてはWa>Wbが常に成立つように設定される。また、一方の平面2のうち少なくとも深溝3の形成されていない領域と、この領域と対向する他方の平面5との間に油膜形成に足る潤滑油の動圧効果を生じ得るように深溝3の寸法を定めることも可能であり、例えば相手部材6の重量(支持荷重)やすべり速度を考慮して定めるのがよい。具体的には、深溝3の溝深さWaを1μm以上100μm以下に設定するのがよく、2μm以上10μm以下に設定するのがよりよい。また、図1に示す向きに深溝3を配置する場合、溝深さWaに対する溝幅の比が好ましくは10以上100以下、より好ましくは20以上50以下の範囲に収まるように深溝3の寸法比を設定するのがよい。
【0026】
浅溝4の溝深さWbは、上述のように深溝3の溝深さWaより小さく設定される。具体的には、浅溝4溝深さWbに対する深溝3の溝深さWaの比が5以上200以下となるように、より好ましくは10以上100以下となるように、さらに好ましくは20以上50以下となるように設定される。また、油膜厚さが小さい場合に浅溝4による高剛性の油膜形成を図る観点からは、溝深さWbを1μm以下、好ましくは500nm以下に設定するのがよい。並列配置される複数の浅溝4,4…間のピッチについても特に制限はないが、形成される浅溝4,4…の溝深さ、幅寸法、長手寸法などを考慮に入れて、適当な大きさ(例えば10μm以下)に設定される。なお、浅溝4の寸法、特に溝深さWbに関しては、浅溝4,4…が形成される一方の平面2の面粗さないし平面度との関係で規定することもでき、例えば平面2の表面粗さRaないし平面度が溝深さWbの値を上回ることのないように平面2の面精度および浅溝4の溝深さWbを設定することもできる。油膜の確保のためである。
【0027】
上記浅溝4は公知の溝形成手段を採用することができる。また、上記複数の浅溝4,4…についてもその形成手段は特に問わないが、上述のように1μm以下の溝深さを有するものを形成する場合には、例えば加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを一方の平面に照射し、照射部分をオーバーラップさせながら走査することで自己組織的に形成する手段が有効である。この手段によれば、照射するレーザに含まれる入射光の波長以下の周期(ピッチ)および深さで複数の浅溝4,4…を形成することができる。
【0028】
次に、上記構成の平面摺動機構1の動作について説明する。まず、図2に示すように、
相対する他方の平面5(相手部材6)のすべり速度が大きい場合、あるいは相手部材6からの荷重が小さい場合には、主に深溝3からの潤滑油の供給により、相対する双方の平面2,5間に比較的膜厚の大きい油膜が形成される。溝深さWa,Wbとの関係で言えば、浅溝4の溝深さWbよりも深溝3の溝深さWaに比較的近い大きさの油膜厚みWcを有する油膜が形成される。この場合、深溝3の摺動方向前方側の縁の部分(図2中左側の縁の部分)で油圧の立ち上がりが生じる。また、この場合には、深溝3とその摺動方向前方側でつながる浅溝4,4…の存在が深溝3の摺動方向前方側の縁の部分と平面5の間隔を広げることになるため、深溝3の動圧効果を低下させ、油膜厚みの急激な増加を抑制する向きに作用する。
【0029】
また、図3に示すように、他方の平面5のすべり速度が小さい場合、あるいは相手部材6からの荷重が大きい場合には、深溝3から浅溝4への潤滑油の流れ込みにより、浅溝4の、深溝3とは離れた側の端部で深溝3の動圧効果を上回る大きな動圧効果を生じる。この主に浅溝4の動圧効果によって、相対する双方の平面2,5間に比較的膜厚の小さい高剛性な油膜が形成される。溝深さWa,Wbとの関係で言えば、深溝3の溝深さWaよりも浅溝4の溝深さWbに比較的近い大きさの油膜厚みWcを有する油膜が形成される。
【0030】
また、深溝3および複数の浅溝4,4…による動圧効果が効果的に生じるように、深溝3および複数の浅溝4,4…の形状(寸法)やその配置態様を設定するようにすることで、油膜が比較的厚い場合には油膜厚みの変動を抑えて、言い換えると相手部材6の浮上量の変動を抑えて他方の平面5との間で高い位置精度(平行度など)を発揮することができる。また、油膜が比較的薄い場合には他方の平面5との間で所要の位置精度を保ちつつも高い油膜剛性を発揮することができる。
【0031】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記例示の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において任意の形態を採り得ることはもちろんである。
【0032】
例えば、上記実施形態では、深溝3と所定の角度で交わる複数の浅溝4,4…を、その長手方向が他方の平面5の摺動方向と平行となる向きに配置した場合を説明したが、もちろんこれ以外の向きに配置することも可能である。図4はその一例を示したものであって、深溝3とその端部でつながる複数の浅溝4,4…を、他方の平面5の摺動方向に対して何れも所定の角度に傾斜させて配置した場合を図示している。このように、浅溝4は摺動方向に対して平行または90°未満の傾斜角で傾斜する限りにおいて、言い換えると、摺動方向に直交しない限りにおいて任意の角度を採ることができる。また、深溝3とつながる全ての浅溝4,4…が同一の向きに揃っている必要はなく、図4に示すように、深溝3の一方の側と他方の側とで浅溝4の傾斜角が異なっていてもよく、隣接する浅溝4,4間で傾斜角が異なっていても構わない。
【0033】
また、浅溝4の長手寸法についても、必ずしも全ての浅溝4,4…の長手寸法が同一である必要はなく、配置態様に応じて適宜長手寸法を異ならせたものであってもよい。図5はその一例を示すもので、同図に示す平面摺動機構1においては、一方の平面2上に、複数の浅溝4,4…が何れも摺動方向と平行に配置されると共に、油圧の立ち上がり部となる、深溝3から離れた側の端部が幅方向に一列に揃うように各浅溝4の長手寸法が設定されている。
【0034】
また、深溝3の配置態様についても特に制限されることはなく、例えば図2や図4に示すように、摺動方向と直交する向きに配置することもでき、あるいは、図5に示すように、摺動方向と所定の角度(鋭角)で交差する向きに配置することもできる。
【0035】
もちろん、深溝3や浅溝4の形状についても例示の態様に限定される必要はなく、例えば図示は省略するが、深溝3をV字状として平面2の側方から深溝3内に潤滑油を供給し易くする等、深溝3や浅溝4を1以上の直線ないし曲線の任意の組合せにより形成するようにしても構わない。
【0036】
また、上記以外の事項についても、本発明の技術的意義を没却しない限りにおいて他の具体的形態を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0037】
以下、本発明に係る平面摺動機構の有効性を検証するための実験について述べる。
【0038】
本実験は、試験片の傾斜による潤滑特性の変化を防止するため、平行すべりを容易に実現できるリングオンディスク試験装置を用いて行った。回転側のリング状試験片にはSUS440Cの焼入れ材を使用した。固定側のディスク状試験片にはSiCを使用した。何れの試験片の摺動平面についても表面粗さRa0.02μm以下、平面度0.1μm以下とした。ディスク状試験片の摺動平面は全て鏡面とした。リング状試験片(外径:16mm、内径:10mm)については、摺動平面が(1)鏡面、(2)深溝のみ、(3)深溝と浅溝との組合せ、の3種類を用意した。(1)および(2)が比較例、(3)が実施例である。深溝はリング状平面の半径方向に伸びる向きに、言い換えると相手部材(ディスク)の摺動方向に直交する向きに配置した。これら深溝は円周方向等間隔に8本配置した。深溝の幅寸法200μm、溝深さ6μmとした。浅溝は深溝の両側縁に約700nmのピッチで格子状に並列配置した。深溝を中央として1mm幅の領域内に浅溝が配置されるよう長手寸法を設定した(約400μm)。浅溝の溝深さは200nm、配置方向は深溝と直交する向きとした。これら複数の浅溝は、直線偏光で波長800nmのフェムト秒レーザを加工閾値近傍の照射強度で試験片の摺動平面に照射し、その照射部をオーバーラップさせながら走査することで、自己組織的に形成した。潤滑油(粘度グレード:VG32)を予め摺動平面上に400mg供給しておき、実験中は無給油とした。
【0039】
リングオンディスク試験は、荷重を所定の値に固定し、静止状態からすべり速度1.2m/sで起動させた後、5分ごとにすべり速度を0.14m/sまで段階的に低下させていき、各段階における摺動トルクを測定した。すべり速度は、リング状試験片の平均直径(13mm)での値とした。そして測定した摺動トルクから動摩擦係数を算出した。荷重は9.0N、19.3N、30.0N、40.8N、50.5Nの5段階に設定した。上記試験は、(1)鏡面、(2)深溝のみ、(3)深溝と浅溝との組合せ、の3種類全ての試験片に対して実施した。
【0040】
以下、実験結果について述べる。図6は、摺動平面を鏡面とした場合(比較例)の摺動実験の結果を示すもので、横軸はすべり時間[min]、左側の縦軸は動摩擦係数、右側の縦軸はすべり速度[m/s]をそれぞれ示している。図中の破線で示す部分はすべり速度を示しており、実線で示す部分は動摩擦係数を示している。また、図7は、摺動平面を深溝のみで構成した場合(比較例)の摺動実験の結果を示しており、図8は、摺動平面を深溝と浅溝との組合せとした場合(実施例)の摺動実験の結果を示している。横軸と両縦軸の項目、および図中の各種線で示す項目は図7、図8ともに図6と同じである。まず、図6に示す実験結果から、(1)鏡面では、所定のすべり速度(0.54m/s)を境に動摩擦係数の急激な上昇が見られた。これに対して、図7および図8に示すように、(2)深溝のみ、および(3)深溝と浅溝との組合せの場合、測定した全てのすべり速度段階を通じて動摩擦係数が低い状態が見られた。これは、すべり速度の大きさに関らず流体潤滑状態にあったものと考えられる。ここで、図7および図8を詳細に見ると、深溝のみの場合、深溝と浅溝との組合せよりも動摩擦係数は全般的に低いが、その変動幅は全すべり速度領域において大きく、安定性に欠ける点が見受けられた。これに対して、深溝と浅溝との組合せの場合、動摩擦係数は深溝のみの場合よりも全体的に高めではあるものの、その変動幅は小さく、安定した油膜支持が見て取れた。
【0041】
図9および図10は共に、図7および図8に示す実験結果から得たもので、図9が深溝のみ(比較例)の場合のすべり速度の変動に伴う油膜厚さの変化を示している。また、図10が深溝と浅溝との組合せ(実施例)の場合のすべり速度の変動に伴う油膜厚さの変化を示している。ここで、図9、図10共に左側の縦軸は油膜厚さ[μm]、右側の縦軸はすべり速度[m/s]をそれぞれ示している。図中破線で示す部分はすべり速度を示し、実線で示す部分は油膜厚さを示している。油膜厚さは、先の摺動実験で得た動摩擦係数と、使用した潤滑油の粘度(今回は、常温における粘度の値を使用した)とから算出した。図9と図10に示す実験結果から、深溝と浅溝との組合せのほうが、全体的に油膜厚さは小さいものの、その変動幅に関しては深溝のみの場合よりも小さく、安定した油膜形成がなされていたことが分かる。また、各々の油膜厚さの標準偏差を取った場合、深溝と浅溝との組合せの場合では、深溝のみの場合に比べて上記標準偏差が約2分の1に低減することが分かった。
【0042】
図11および図12は共に、各段階の設定荷重における動摩擦係数の測定結果から各すべり速度領域における平均油膜厚さを算出したもので、図11が深溝のみ(比較例)の場合の荷重と平均油膜厚さとの関係、図12が深溝と浅溝との組合せ(実施例)の場合の荷重と平均油膜厚さとの関係をそれぞれ示している。図11、図12共に横軸は荷重[N]、縦軸は平均油膜厚さ[μm]を示している。また、図中菱形で示すプロットはすべり速度1.09m/sの場合の平均油膜厚さを示しており、同様に、図中四角で示すプロットはすべり速度0.54m/s、図中三角で示すプロットはすべり速度0.35m/s、図中罰点で示すプロットはすべり速度0.14m/sの場合の平均油膜厚さをそれぞれ示している。ここで、図11に示す実験結果より、深溝のみの場合、低負荷領域(ここでは図11中左側の破線で描く楕円で囲んだ領域)ではすべり速度が変動した場合の平均油膜厚さの変動幅が大きいことが分かる。これに対して、図12に示す実験結果より、深溝と浅溝との組合せの場合、低負荷領域ではすべり速度が変動しても平均油膜厚さの変動幅は小さい。また、高負荷領域(ここでは図11中右側の実線で描く楕円で囲んだ領域)においては、深溝のみの場合、荷重の増加に伴う平均油膜厚さの減少度合いが比較的大きいのに対して、深溝と浅溝との組合せの場合では、荷重が増加しても平均油膜厚さはそれほど減少しないことが見て取れる。このことから、深溝と浅溝との組合せに係る平面摺動機構は、特に高負荷時において高い剛性を示すものと考えられる。また、高負荷領域において所定の荷重(40N)を超えると、高速すべり時と低速すべり時共に、比較例と実施例とで形成され得る油膜厚さの大きさが逆転(実施例の油膜厚さが比較例のそれを上回る)する現象が見られた。
【符号の説明】
【0043】
1 平面摺動機構
2 (一方の)平面
3 深溝
4 浅溝
5 (他方の)平面
6 相手部材
Wa 溝深さ(深溝)
Wb 溝深さ(浅溝)
Wc 油膜厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対する平面間で潤滑流体の膜を介して相対摺動を行うための平面摺動機構であって、
前記何れか一方の平面には、前記相対する平面間に前記潤滑流体を供給する深溝と、該深溝に比べて浅い浅溝とが設けられ、
前記浅溝は、周期性をもって並列に配置され、
並列配置された前記複数の浅溝は何れも前記深溝と交わり、かつ相対する前記他方の平面の摺動方向に対して平行または90°未満の傾斜角で傾斜する向きに配置されている平面摺動機構。
【請求項2】
前記深溝は、前記平面の端部まで伸びている請求項1に記載の平面摺動機構。
【請求項3】
前記深溝は、前記他方の平面の摺動方向に対して直交する向きに配置されている請求項1又は2に記載の平面摺動機構。
【請求項4】
前記複数の浅溝は何れも前記深溝に対して直交する向きに交わっている請求項1〜3の何れかに記載の平面摺動機構。
【請求項5】
前記複数の浅溝は、前記深溝の両側に配置されている請求項1〜4の何れかに記載の平面摺動機構。
【請求項6】
前記複数の浅溝は、10μm以下のピッチで形成されている請求項1〜5の何れかに記載の平面摺動機構。
【請求項7】
前記浅溝は、1μm以下の深さに形成されている請求項1〜6の何れかに記載の平面摺動機構。
【請求項8】
前記複数の浅溝は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを前記一方の平面に照射し、該照射部分をオーバーラップさせながら走査することで自己組織的に形成されたものである請求項1〜7の何れかに記載の平面摺動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−196884(P2010−196884A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46058(P2009−46058)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000110859)キヤノンマシナリー株式会社 (179)
【Fターム(参考)】