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平面支持体上での細胞付着及び培養のための方法及び組成物
説明

平面支持体上での細胞付着及び培養のための方法及び組成物

本発明は、吸着層及びフィーダー細胞層を欠く平面支持体上での多能性幹細胞の成長、増殖、及び分化のための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国特許出願番号第61/116,452号(2008年11月20日出願)に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、吸着層及びフィーダー細胞層を欠く平面支持体上での多能性幹細胞の成長、増殖及び分化のための方法を目的とする。
【背景技術】
【0003】
哺乳動物細胞の培養は、生命及び健康科学における多くのプロセスの1つである。足場依存性細胞を用いた哺乳動物細胞の培養及び分析用の容器は、容器の表面に細胞を付着させるために更なる表面処理を頻繁に必要とする、ガラス又は例えば、ポリスチレンのようなポリマーからしばしば形成される。こうした処理では、例えば、吸着、グラフト又はプラズマ重合法によって表面に吸着層を適用することを含む場合がある。また、こうした表面処理は、容器表面自体の化学改質によって行ってよく、これは、例えば、大気コロナ放電、高周波真空プラズマ、直流グロー放電、及びマイクロ波プラズマ処理によって行うことができる。
【0004】
現在用いられている多能性幹細胞、特に胚性幹(ES)細胞の培養法は、例えば、胚性幹細胞を固体支持体表面上でフィーダー細胞層とともに培養する、又は固体支持体表面上で細胞外マトリクスタンパク質の吸着層とともに培養するといった複雑な培養条件を必要とする。これらの方法を用いた培養系では、培養される幹細胞の生物種とは異なる種から得られたフィーダー細胞又は細胞外マトリクスタンパク質(異種材料)をしばしば用いる。フィーダー細胞に接触させることで得られる培地、すなわち未分化のES細胞以外の細胞で調整した培地を使用してES細胞を培養することが可能であり、培地に動物血清を添加してもよい。
【0005】
例えば、Reubinoffら(Nature Biotechnol.18:399〜404,2000)及びThompsonら(Science 282:1145〜1147,1998)は、マウス胚性繊維芽細胞のフィーダー細胞層を用いたヒト胚盤胞からのES細胞株の培養について発表している。
【0006】
別の例では、Xuら(Nature Biotechnology 19:971〜974,2001)は、ヒトES細胞を分化させることなく無フィーダー細胞培養を行う前に固体支持体表面を処理するためのMATRIGEL(登録商標)及びラミニンの使用について発表している。別の例では、Vallierら(J.Cell Sci.118:4495〜4509,2005)は、ヒトES細胞を分化させることなく無フィーダー細胞培養を行う前に固体支持体表面を処理するためのウシ胎児血清の使用について発表している。
【0007】
別の例として、国際特許出願公開第WO2005014799号は、哺乳動物細胞の維持、増殖及び分化のための条件培地を開示している。国際特許出願公開第WO2005014799号は、「本発明に基づいて作製される培地は、マウス細胞、特にMMH(Metマウス肝細胞)と呼ばれる分化かつ不死化したトランスジェニック肝細胞の細胞分泌活性によって調整される」と述べている。
【0008】
別の例として、Wanatabeら(Nature Biotechnol.35:681〜686,2007)は、「ROCK阻害剤は、解離したヒト胚性幹細胞を生存させる」と記述しており、解離誘導性アポトーシスの低下によりクローニング効率が高くなる(約1%から約27%へと)こと、及び、フィーダー細胞としてマウス胚性線維芽細胞を、細胞外マトリクスタンパク質としてコラーゲン及びMatrigel(登録商標)を、及びROCK阻害剤としてY−27632すなわちファスジルを使用することにより、遺伝子導入後のサブクローニングが促進されることを示している。更に、Y−27632で処理した解離ヒトES細胞は、無血清懸濁培養中でアポトーシスから保護された。
【0009】
別の例として、Peeraniら(EMBO Journal 26:4744〜4755,2007)は、「ヒト胚性幹細胞(hESC)培養の空間的構造の複雑さにより、hESCの運命に影響する異成分からなる微小環境(ニッチ)が形成される」と記述している。この研究により、hESC分化の速度及び道筋を、hESCのニッチの性質を操作することによって制御することが可能であることが示された。ニッチのサイズ及び組成によって、分化誘導因子と分化阻害因子とのバランスが調節される。機構的には、hESCとhESC由来の胚体外内胚葉(ExE)とのアンタゴニスト相互作用によってSmad1によるシグナル伝達のニッチサイズに依存した空間的勾配が生ずる。こうした相互作用は、骨形成タンパク質2(BMP2)のExEによる、及びそのアンタゴニストである増殖分化因子3(GDF3)のhECSによる局所的分泌によって媒介される。GDF3、BMP2及びSmad1に対し低分子干渉(si)RNAによる処理、及びRho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤による処理を行ったhESCのマイクロパターニングによって、Smad1活性化の独立した制御により、hESCのコロニーサイズ依存性分化が防御されることが示された。我々の結果は、hESCの自己複製及び分化の空間的情報の集積及びニッチサイズ依存性制御におけるSmad1の役割を初めて示したものである。
【0010】
別の例として、Koyanagi,Mら(J Neurosci Res.2008 Feb 1;86(2):270〜80)は、「Rho−GTPアーゼは、ニューロンを含む多くの細胞種のアポトーシスに関わっているが、その作用機構は完全に理解されていない」と記述している。今回、我々は胚性幹細胞由来の神経前駆細胞を移植した際のアポトーシスにおけるRho及びROCKの役割を調べた。我々は、神経前駆細胞の解離によってRhoが活性化され、アポトーシスが誘導されることを見出した。Rho阻害剤であるC3菌体外酵素及び/又はROCK阻害剤であるY−27632による処理によって解離誘導性アポトーシス(アノイキス)が20〜30%減少した。アポトーシスの初期の形態的兆候である膜泡形成、カスパーゼ3の開裂、及びミトコンドリアからのシトクロムcの放出もROCKの阻害によって低減した。これらの結果は、神経前駆細胞の解離によって、Rho/ROCK経路を介して少なくとも部分的に媒介される内在的な細胞死の経路が誘導されることを示唆するものである。更に、動物移植モデルにおいて、Rho及び/又はROCKの阻害によって移植細胞の急性アポトーシスが抑制された。移植後、移植片の周辺において腫瘍壊死因子α及びプロ神経成長因子の強い発現が認められた。ROCKの阻害により、これらの炎症性サイトカインによって亢進するアポトーシスも抑制される。以上を総合すると、これらの結果は、Rho/ROCKによるシグナル伝達の阻害によって細胞置換療法における移植細胞の生存率が向上し得ることを示している。
【0011】
異種成分材料の使用は、多能性幹細胞を用いる特定の用途では不適当な場合がある。代替的な材料を使用することが可能である。例えば、Stojkovicら(Stem Cells 23:895〜902,2005)は、ヒトES細胞を分化させることなく無フィーダー細胞培養を行う前に固体支持体表面を処理するためのヒト血清の使用について発表している。
【0012】
代替的な一培養システムでは、胚性幹細胞の増殖を促進することが可能な増殖因子を添加した無血清培地を使用している。
【0013】
例えば、Cheonら(BioReprod DOI:10.1095/biolreprod.105.046870;19 Oct 2005)は、ES細胞の自己複製を誘発することが可能な異なる増殖因子を添加した非条件血清置換培地中でES細胞を維持する無フィーダー細胞、無血清培地システムを発表している。
【0014】
別の例として、Levensteinら(Stem Cells 24:568〜574,2006)は、繊維芽細胞又は条件培地の非存在下で、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF)を添加した培地を使用してヒトES細胞を長期間培養する方法を発表している。
【0015】
別の例として、米国特許出願公開第20050148070号は、アルブミン、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、少なくとも1種類のトランスフェリン又はトランスフェリン代用物質、少なくとも1種類のインスリン又はインスリン代用物質を含有する培地中で幹細胞を培養することを含む、無血清、無フィーダー線維芽細胞の合成培地中でヒトES細胞を培養するための方法であって、その培地は、哺乳動物胎児血清を基本的に含有せず、FGFシグナル伝達受容体を活性化することが可能な少なくとも約100ng/mLのFGFを含有し、増殖因子は線維芽細胞フィーダー層以外の供給源からも供給され、培地はフィーダー細胞又は条件培地なしで未分化状態の幹細胞の増殖を支持するようなものである方法を開示している。
【0016】
別の例において、米国特許出願公開第20050233446号は、未分化の霊長類始原幹細胞を含む幹細胞の培養に有用な合成培地を開示している。溶液において、培地は、培養されている幹細胞と比較して実質的に等張である。特定の培養中、この特定の培地は、基本培地、並びに実質的に未分化の始原幹細胞の増殖を支持するうえで必要とされる塩基性FGF、インスリン及びアスコルビン酸のそれぞれの所定量を含有する。
【0017】
別の例として、米国特許第6800480号は、「一実施形態において、霊長類由来の始原幹細胞の増殖を支持するうえで有効な低浸透圧、低内毒素の基本培地を含む、実質的に未分化状態の霊長類由来の始原幹細胞を増殖させるための細胞培地が提供される」と記述している。この基本培地は、霊長類由来の始原幹細胞の増殖を支持するうえで効果的な栄養素血清、並びに、フィーダー細胞及びフィーダー細胞から誘導される細胞外支持体成分からなる群から選択される支持体と組み合わされる。培地は、非必須アミノ酸、抗酸化剤、並びにヌクレオシド及びピルビン酸塩からなる群から選択される第1の増殖因子を更に含む。
【0018】
別の例では、米国特許出願公開第20050244962号は、「1つの態様において本発明は、霊長類の胚性幹細胞を培養する方法を提供する」と記述している。1つの方法は、哺乳動物の胎児血清を基本的に含まない(好ましくはあらゆる動物の血清をも基本的に含まない)培養中で、単に繊維芽フィーダー細胞層以外の供給源から供給される線維芽細胞増殖因子の存在下で幹細胞を培養する。好ましい1つの形態では、充分な量の繊維芽増殖因子を添加することによって、幹細胞の培養を維持するために従来必要とされていた繊維芽フィーダー細胞層の必要性がなくなる。
【0019】
別の例として、国際特許出願公開WO2005065354号は、a.基本培地、b.実質的に未分化の哺乳動物幹細胞の増殖を支持するうえで充分な所定量の塩基性線維芽細胞増殖因子、c.実質的に未分化の哺乳動物幹細胞の増殖を支持するうえで充分な所定量のインスリン、及びd.実質的に未分化の哺乳動物幹細胞の増殖を支持するうえで充分な所定量のアスコルビン酸を含む、基本的に無フィーダーかつ無血清の等張培地を開示している。
【0020】
別の例として、国際公開第2005086845号は、未分化の幹細胞を維持するための方法であって、その方法が幹細胞を未分化状態に維持するのに充分な量のトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)のタンパク質ファミリーのメンバー、繊維芽細胞増殖因子(FGF)のタンパク質ファミリーのメンバー、又はニコチンアミド(NIC)に、所望の結果を得るのに充分な時間だけ、幹細胞を曝露することを含む方法、を開示している。
【0021】
多能性幹細胞は、研究及び薬剤スクリーニングの潜在的供給源となる。現在のところ、ヒトES細胞株の大規模培養には問題が多く、大きな課題がある。これらの課題に対する可能な解決策の1つは、ヒトES細胞を単一細胞として継代及び培養することである。単一細胞は、例えば、細胞数測定、トランスフェクションなどの標準的な組織培養法により適合する。
【0022】
例えば、Nicolasらは、レンチウイルスベクターによる遺伝子改変の後、蛍光活性化細胞選別法によって単離された単一細胞からヒトES細胞株を取得及び増殖させるための方法を提供している(Stem Cells Dev.16:109〜118,2007)。
【0023】
別の例として、米国特許出願第2005158852号は、「単一のヒト胚性幹細胞の増殖及び生存を向上させるための方法」を開示している。この方法は、単一の未分化hES細胞を得る工程と、単一の未分化細胞を細胞外マトリクスと混合して細胞を包囲する工程と、混合物を増殖環境中で栄養培地とともにフィーダー細胞上に接種する工程とを含む。
【0024】
別の例として、Sidhuら(Stem Cells Dev.15:61〜69,2006)は、フローサイトメトリーによる単一細胞調製物の選別によって親細胞株hES3から誘導された3つのヒトES細胞クローンhES3.1、3.2及び3.3について最初に報告している。
【0025】
しかしながら、ヒトES細胞の単一細胞としての継代及び培養は、遺伝子的異常及び多能性の喪失につながる。培養条件は多能性及び遺伝子の安定性の維持に重要である。一般に、ヒトES細胞株の継代は人の手で行うか、あるいはコラゲナーゼ、リベラーゼ又はジスパーゼなどの酵素剤を使用して行われる。
【0026】
例えば、Draperらは、「3系統の独立したヒト胚性幹細胞株において5回の独立した場合の17q染色体が獲得される核型の変化」の存在について記述している(Nature Biotechnol.22:53〜54,2004)。
【0027】
別の例として、Buzzardらは、「我々はこれまでに1つの核型変化の事象を検出したに過ぎない...我々の方法が他の多くのグループが使用した方法とは明らかに異なっていることを考えると、使用した培養方法が我々の結果になんらかの影響を与えた可能性がある。通常、我々は7日後のヒトES細胞を、折れたピペットの角で最初にコロニーを壊すことによって継代する...この方法では細胞を解離させるために酵素的又は化学的な方法を一切用いない。我々は、このことが我々のhES(ヒトES)細胞が比較的細胞遺伝学的な回復力が高かったことを説明するのではないかと考えている。」と記述している(Nature Biotechnol.22:381〜382,2004)。
【0028】
別の例として、Mitalipovaらは、「大量継代法は...培養中で長期の継代の後、異数体の細胞集団を永続させ得るものであるが、核型に支障をきたすことなくより短期間(少なくとも継代数15まで)で使用することも可能である...人の手による継代法のみによって得られるよりも大量のhES細胞を必要とする実験では、人の手による継代条件下で長期の継代の後、限られた大量継代を行ってhES細胞の正常な核型を維持することが可能かもしれない」と記述している(Nature Biotechnol.23:19〜20,2005)。
【0029】
別の例として、Hengらは、「これらの結果により、第2のプロトコール(トリプシン処理をして静かにピペット攪拌)は、第1のプロトコール(コラゲナーゼ処理をして掻き落とす)よりも細胞の生存率に対する悪影響は大幅に低いことが示された。これは、ひいてはより高い凍結解凍後の生存率に結びついた。」と記述している(Biotechnology and Applied Biochemistry 47:33〜37,2007)。
【0030】
別の例として、Hasegawaらは、「我々は完全な解離に耐えうるhESC亜系統を確立した。これらの細胞は、高い再プレーティング効率、更に高いクローニング効率を示し、三胚葉への分化能を維持している。」と記述している(Stem Cells 24:2649〜2660,2006)。
【0031】
別の例として、米国特許出願第61/030,544号は、少なくとも約0.9%〜少なくとも約11%の窒素、及び少なくとも約12%〜少なくとも約30%の酸素を含み、吸着層及びフィーダー細胞を欠く固体支持体表面への細胞の付着、同表面での培養、及び同表面からの剥離のための方法及び組成物を提供する。本発明の一実施形態では、細胞をRhoキナーゼ活性の阻害能を有する化合物で処理する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
細胞の多能性を維持しつつフィーダー細胞及び吸着層の非存在下で、多能性幹細胞を含む細胞の培養のための方法及び組成物が強く求められている。本発明は、吸着層及びフィーダー細胞層を欠く平面支持体上での多能性幹細胞の成長、増殖及び分化のための方法を提供し、ここで細胞は、平面支持体に結合するために、Rhoキナーゼ活性の阻害能を有する化合物での処理を必要としない。
【課題を解決するための手段】
【0033】
一実施形態では、本発明は、約12%までのN、少なくとも約12%〜少なくとも約55%のOを含み、接触角が約18度〜約32度であり、かつ吸着層及びフィーダー細胞層を欠く平面支持体への、多能性幹細胞の付着、培養及び分化のための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】平面支持体へのヒト胚性幹細胞株H1の付着に対するRhoキナーゼ阻害剤H−1152の影響を示す。パネルa):混合セルロースエステル膜(表1の膜番号2)上への細胞付着を示す。パネルb):ナイロン膜(表1の膜番号4)上への細胞付着を示す。パネルc):セルロースアセテート膜(表1の膜番号5)上への細胞付着を示す。パネルd):ポリカーボネート膜(表1の膜番号7)上への細胞付着を示す。パネルe):ポリエチレンテレフタレート膜(表1の膜番号12)上への細胞付着を示す。
【図2】混合セルロースエステル膜(表1の膜番号1)へのヒト胚性幹細胞株H9の付着に対するRhoキナーゼ阻害剤Y−26732の影響を示す。パネルa):対照ウェル内での細胞付着を示す。パネルb):10μMのY−26732で処理した細胞における細胞付着を示す。パネルc):20μMのY−26732で処理した細胞における細胞付着を示す。
【図3】MATRIGEL(登録商標)コーティング面上(実線)及び混合セルロースエステル膜(表1の膜番号1)上(破線)のヒト胚性幹細胞株H1の増殖曲線を示す。
【図4】ヒト胚性幹細胞株H1の代表的な細胞のGバンド染色した染色体を示す。パネルa):MATRIGEL(登録商標)コーティング面で10回継代培養された細胞の染色体を示す。パネルb):混合セルロースエステル膜(表1の膜番号1)上で10回継代培養された細胞の染色体を示す。
【図5】ポリカーボネート膜(表1の膜番号7)へのヒト胚性幹細胞株H9細胞の付着に対するRhoキナーゼ阻害剤Y26732の影響を示す。パネルa):対照ウェル内での細胞付着を示す。パネルb):10μMのY−26732で処理後の細胞における細胞付着を示す。パネルc):20μMのY−26732で処理後の細胞における細胞付着を示す。
【図6】ポリカーボネート膜(表1の膜番号7)へのヒト胚性幹細胞株H1細胞の付着に対するRhoキナーゼ阻害剤H−1152の影響を示す。パネルa):対照ウェル内での細胞付着を示す。パネルb):0.03μMのH−1152を培地に添加したときの細胞付着を示す。パネルc):0.1μMのH−1152を培地に添加したときの細胞付着を示す。パネルd):0.3μMのH−1152を培地に添加したときの細胞付着を示す。パネルe):1μMのH−1152を培地に添加したときの細胞付着を示す。パネルf):3μMのH−1152を培地に添加したときの細胞付着を示す。
【図7】細胞培地からRhoキナーゼ阻害剤H−1152を除去した後の、ポリカーボネート膜(表1の膜番号9)からのヒト胚性幹細胞株H1細胞の剥離を示す。パネルa):3μMのH−1152を培地中に維持したときの細胞の付着を示す。パネルb):H−1152を培地から除去したときの細胞の剥離を示す。
【図8】表1の番号10のポリカーボネート膜(パネルa及びc)及び表1の番号11のポリカーボネート膜(パネルb及びd)を含む平面支持体へのヒト胚性幹細胞株H1の付着に対する、膜の孔径及びRhoキナーゼ阻害剤処理の影響を示す。パネルa及びb):3μMのH−1152を培地中に維持したときの細胞の付着を示す。パネルc及びd):H−1152を培地から除去したときの細胞の剥離を示す。
【図9】ポリカーボネート膜(表1の膜番号8)上で3回継代培養されたヒト胚性幹細胞株H1の細胞の、多能性に関連するマーカー発現の維持を示す。図中に示される遺伝子発現は、リアルタイムPCRで決定した。白抜き棒は、未分化ヒト胚性幹細胞株H1から得られたデータを示す。斜線棒は、ポリカーボネート膜上で培養された細胞から得られたデータを示す。
【図10】ポリカーボネート膜(表1の膜番号8)上での12回継代培養後における、ヒト胚性幹細胞株H1細胞の胚様体形成能を示す。この図は、1回の実験から得られたデータを示す。
【図11】本発明の平面支持体の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図12】ULTRAWEB(商標)平面支持体の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図13】ヒト胚性幹細胞株H1細胞の種々平面支持体への結合における、合成培地mTESR(商標)の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
開示を明確にするために、本発明の「発明を実施するための形態」を、限定を目的とすることなく、本発明の特定の特徴、実施形態又は応用を説明若しくは図示した以下の小項目に分ける。
【0036】
定義
本明細書で使用するとき、「吸着層」とは、共有結合(グラフトとしても知られる)又は非共有結合(吸着としても知られる)によって固体支持体の表面上に分子を付着させることによって表面上に形成された層を指して言う。吸着層の形成に用いられる分子は、例えば、細胞外マトリクスタンパク質、アミノ酸などを含むタンパク性分子、及び例えば、ポリエチレンイミンなどの非生体分子であってよい。
【0037】
「β−細胞系」は、転写因子PDX−1及び以下の転写因子:NGN3、NKX2.2、NKX6.1、NEUROD、ISL1、HNF−3 β、MAFA、PAX4、又はPAX6の少なくとも1つについて遺伝子の発現が陽性である細胞を指す。β細胞系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、β細胞を含む。
【0038】
本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞」とは、以下のマーカー:SOX17、GATA4、HNF3 β、GSC、CER1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix様ホメオボックスタンパク質、FGF4 CD48、エオメソダーミン(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA6、CXCR4、C−Kit、CD99、又はOTX2のうちの少なくとも1つを発現する細胞を指して言う。胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、原始線条前駆体細胞、原始線条細胞、中内胚葉細胞及び胚体内胚葉細胞を含む。
【0039】
本明細書で使用するとき、「膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞」とは、以下のマーカー、すなわち、PDX1、HNF1 β、PTF1 α、HNF6、NKX6.1、又はHB9のうちの少なくとも1つを発現している細胞を指す。膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞としては、膵臓内胚葉細胞、原腸管細胞、後部前腸細胞が挙げられる。
【0040】
本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉」は、原腸形成中、胚盤葉上層から生じ、胃腸管及びその誘導体を形成する細胞の特徴を保持する細胞を指す。胚体内胚葉細胞は、以下のマーカー:HNF3 β、GATA4、SOX17、ケルベロス、OTX2、グースコイド、C−Kit、CD99、及びMIXL1を発現する。
【0041】
本明細書で使用するとき、「膵内分泌細胞」又は「膵臓ホルモン発現細胞」とは、以下のホルモン:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドのうちの少なくとも1つを発現することが可能な細胞を指す。
【0042】
本明細書で使用するとき、「胚体外内胚葉」は、以下のマーカー:SOX7、AFP、又はSPARCのうちの少なくとも1つを発現する細胞の集団を指す。
【0043】
「細胞外マトリクスタンパク質」とは、身体又は胎盤の細胞間に通常見られるタンパク性分子を指して言う。細胞外マトリクスタンパク質は、組織、例えば、血液などの体液、又は非組み換え細胞若しくは組み換え細胞若しくは細菌によって調整した培地に由来するものを用いることができる。
【0044】
本明細書で使用するとき、「マーカー」は、対象の細胞内で差異的に発現される核酸又はポリペプチド分子である。本文脈において、差異的な発現は、陽性マーカーのレベルの増大、及び陰性マーカーのレベルの減少を意味する。検出可能なレベルのマーカー核酸又はポリペプチドは、他の細胞と比較して対象とする細胞内で十分高く又は低く、そのため当該技術分野において既知の多様な方法のいずれかを使用して、対象とする細胞を他の細胞から識別及び区別することができる。
【0045】
本明細書で使用するとき、「中内胚葉細胞」は、以下のマーカー:CD48、エオメソダーミン(EOMES)、SOX−17、DKK4、HNF3 β、GSC、FGF17、又はGATA6のうちの少なくとも1つを発現している細胞を指す。
【0046】
本明細書で使用するとき、「膵臓ホルモン分泌細胞」は、以下のホルモン:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドの少なくとも1つを分泌できる細胞を指す。
【0047】
本明細書で使用するとき、「前原始線条細胞」は、以下のマーカー:Nodal、又はFGF8の少なくとも1つを発現する細胞を指す。
【0048】
本明細書で使用するとき、「原始線条細胞」は、以下のマーカー:短尾奇形、Mix様ホメオボックスタンパク質、又はFGF4の少なくとも1つを発現する細胞を指す。
【0049】
幹細胞は、単一の細胞レベルにて自己複製し、分化して後代細胞を生成する、それら両方の能力で定義される未分化細胞であり、後代細胞には、自己複製前駆細胞、非再生前駆細胞、及び最終分化細胞が含まれる。幹細胞はまた、インビトロで複数の胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)から様々な細胞系の機能的細胞に分化する能力によって、また移植後に複数の胚葉の組織を生じ、胚盤胞への注入後、全部ではないとしても殆どの組織を提供する能力によっても、特徴付けられる。
【0050】
幹細胞は、それらの発達能力により:(1)全胚及び胚体外細胞型を生じる能力を意味する全能性、(2)全胚細胞型を生じる能力を意味する多能性、(3)細胞系統の小集合を生じるが、全て特定の組織、器官又は生理的システム内で生じる能力を有することを意味する多能性(例えば、造血幹細胞(HSC)は、HSC(自己複製)、血液細胞に限定された寡能性前駆細胞、並びに血液の通常の構成要素である全細胞型及び要素(例えば、血小板)を含む子孫を産生できる)、(4)多能性幹細胞と比較して限定された細胞系統の小集合を生じる能力を有することを意味する寡能性、並びに(5)1つの細胞系統を生じる能力を有することを意味する単能性(例えば、精子形成幹細胞)に分類される。
【0051】
分化は、非特殊化の(「中立の」)又は比較的特殊化されていない細胞が、例えば、神経細胞又は筋細胞等の特殊化した細胞の特徴を獲得するプロセスである。分化した、又は分化を誘発された細胞は、細胞系内でより特殊化した(「傾倒した」)状況を呈している細胞である。分化プロセスに適用した際の用語「傾倒した」は、通常の環境下で特定の細胞型又は細胞型の小集合に分化し続ける分化経路の地点に進行しており、通常の環境下で異なる細胞型に分化し、又はより分化されていない細胞型に戻ることができない細胞を指す。脱分化は、細胞が細胞系内で比較的特殊化されて(又は傾倒して)いない状況に戻るプロセスを指す。本明細書で使用するとき、細胞系は、細胞の遺伝、すなわちその細胞がどの細胞から来たか、またどの細胞を生じ得るかを規定する。細胞系は、細胞を発達及び分化の遺伝的スキーム内に配置する。系特異的なマーカーは、対象とする系の細胞の表現型に特異的に関連した特徴を指し、中立細胞の対象とする系への分化を評価する際に使用することができる。
【0052】
本明細書で使用するとき、「表面」は、細胞の培養又は分析に使用することを目的とした固体支持体容器又はマトリクスの分子の最外層を指して言う。表面の元素組成、粗さ、及び濡れ性は、それぞれ、X線光電子分光法(XPS)、原子間力顕微鏡(AFM)、及び接触角測定によって分析することができる。
【0053】
様々な用語を用いて培養中の細胞を説明する。「維持」は、一般に、細胞集団の増加をもたらし得る又はもたらし得ない、細胞の成長及び/又は分裂を促進する条件下で、成長培地中に細胞を置くことを意味する。「継代」は、1つの培養容器から細胞を取り、細胞の増殖及び/又は分裂を促進する条件下で、それらを第2の培養容器に入れる工程を意味する。
【0054】
特定の細胞集団又は細胞株は、しばしば継代された回数によって呼称されるか又は特徴付けられる。例えば、10回継代された培養細胞集団はP10培養と呼ばれる場合がある。初代培養、すなわち、組織から細胞を単離した後の最初の培養はP0と称される。最初の継代培養の後、細胞は2次培養(P1又は継代数1)と称される。2回目の継代培養の後では細胞は3次培養(P2又は継代数2)となる、といった具合である。当業者であれば、継代期間中に集団は何度も倍加しうるものであり、したがってある培養の集団倍加の回数は継代数よりも大きいことは理解されるであろう。それぞれの継代間の期間における細胞の増殖(すなわち、集団倍加数)は、播種密度、支持体、培地、培養条件、及び継代間の時間等を含むがこれらに限定されない多くの因子に依存する。
【0055】
本発明の平面支持体
本発明で使用するのに好適な平面支持体は、その上に多能性細胞が付着できる支持体を提供することが可能な任意の材料で構成されてよい。例えば、平面支持体は、ポリカーボネートで構成されてよい。あるいは、平面支持体は、ポリエチレンテレフタレート(PETE)で構成されてよい。あるいは、平面支持体は、ナイロンで構成されてよい。あるいは、平面支持体は、セルロースアセテートで構成されてよい。あるいは、平面支持体は、混合セルロースエステルで構成されてよい。本発明で使用するのに好適な平面支持体の例は表1に見出すことができる。
【0056】
一実施形態では、本発明は、約12%までのN、少なくとも約12%〜少なくとも約55%のOを含み、接触角が約18度〜約32度であり、かつ吸着層及びフィーダー細胞層を欠く平面支持体への、多能性幹細胞の付着、培養及び分化のための方法を提供する。少なくとも約8%〜少なくとも約12%のN、及び少なくとも約12%〜少なくとも約55%のOを含む平面支持体は、粗い線維性表面、又はあるいは、平滑な表面であってよい。
【0057】
一実施形態では、本発明は、約12%までのN、少なくとも約12%〜少なくとも約55%のOを含み、接触角が約18度〜約32度であり、かつ吸着層及びフィーダー細胞層を欠く平面支持体への、多能性幹細胞の付着方法を提供し、これは以下の工程を含む。
a.多能性幹細胞の懸濁液を得る工程
b.平面支持体に細胞懸濁液を付加し、細胞を付着させる工程。
【0058】
一実施形態では、多能性幹細胞は、表面に細胞が付着した後に培養中で維持される。一実施形態では、多能性幹細胞は、表面に細胞が付着した後に平面支持体上で分化される。
【0059】
一実施形態では、約12%までのN、少なくとも約12%〜少なくとも約55%のOを含み、接触角が約18度〜約32度であり、かつ吸着層及びフィーダー細胞層を欠く平面支持体への、多能性幹細胞の付着は、Rhoキナーゼ活性の阻害能を有するもので細胞を処理することにより増強される。Rhoキナーゼ活性の阻害能を有する化合物は、細胞が付着した後に除去されてよい。
【0060】
Rhoキナーゼ活性の阻害能を有する化合物は、Y−27632、ファスジル、H−1152及びヒドロキシファスジルからなる群から選択される。
【0061】
一実施形態では、Rhoキナーゼ活性の阻害能を有する化合物は、約0.1μM〜約100μMの濃度で使用することができる。一実施形態では、Rhoキナーゼ活性の阻害能を有する少なくとも1つの化合物は、約10μMの濃度で使用される。
【0062】
本発明の平面支持体の特徴
一実施形態では、本発明の平面支持体の表面の元素組成は、X線光電子分光法(XPS)で分析できる。XPSは、化学分析用電子分光法(ESCA)としても知られ、固体支持体の表面にどのような元素又は原子が存在するかを調べ(水素及びヘリウムを除き、0.1原子%超の濃度のすべての元素を検出可能)、こうした元素又は原子の結合環境を調べるための方法として用いられる。
【0063】
一実施形態では、本発明の平面支持体の表面の粗さは、原子間力顕微鏡法(AFM)で分析できる。AFMによって表面の原子又は分子を横方向の解像度1オングストローム、縦方向の解像度0.1Åにまで画像化することが可能である。
【0064】
一実施形態では、本発明の平面支持体の表面の濡れ性は、接触角測定により分析できる。例えば、静的固着液滴法による接触角測定により、固体支持体の表面と液体との間の相互作用についての情報が与えられる。接触角は、固体支持体の表面上に静止している液滴の形状を定義するものであり、液体、固体及び気体が出会う接触線において液体内部で測定される、固体支持体の表面上の液体の接触角である。水接触角が90°よりも大きい表面は疎水性であるとされ、水接触角が90°よりも小さい表面は親水性であるとされる。親水性が極めて高い表面、すなわち水に親和性が高い表面上では、水滴は完全に拡がる(有効接触角=0°)。
【0065】
一実施形態では、本発明の平面支持体の負電荷密度を、表面とクリスタルバイオレットとの反応性を測定することによって分析することができる。クリスタルバイオレットは正電荷を有し、これにより負に帯電した分子及び分子の部分、例えば、ポリマー表面上に存在する負に帯電した官能基に結合することができる。クリスタルバイオレット反応性が高い表面は、クリスタルバイオレット反応性が低い表面と比較した場合、これらの表面が同じ粗さ、したがって面積を有するものと仮定すると、負電荷の密度が高い。
【0066】
多能性幹細胞
多能性幹細胞の特徴付け
多能性幹細胞は、ステージ特異的胚抗原(SSEA)3及び4、並びにTra−1−60及びTra−1−81と呼ばれる抗体によって検出可能なマーカーのうちの1つ以上を発現している(Thomsonら、Science 282:1145,1998)。インビトロでの多能性幹細胞の分化は、SSEA−4、Tra−1−60、及びTra−1−81の発現を消失させ、SSEA−1の発現を増大させる。未分化多能性幹細胞は、一般にアルカリホスファターゼ活性を有し、これは、製造業者(Vector Laboratories、Burlingame、Calif.)により説明されるように、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した後、支持体としてVector Redを使用して展開することにより検出することができる。未分化多能性幹細胞はまた、RT−PCRで検出されるように、典型的にOCT−4及びTERTも発現している。
【0067】
増殖させた多能性幹細胞の別の望ましい表現型は、内胚葉、中胚葉、及び外胚葉組織の3胚葉のすべての細胞に分化する能力である。幹細胞の多能性は、例えば、細胞を重症複合免疫不全症(SCID)マウスに注入し、形成される奇形腫を4%パラホルムアルデヒドで固定し、次いでこれを3胚葉からの細胞型の証拠について組織学的に調べることによって確認することができる。代替的に、多能性は、胚様体を形成させ、この胚様体を3つの胚葉に関連したマーカーの存在に関して評価することにより決定することができる。
【0068】
増殖した多能性幹細胞株は、標準的なGバンド法を使用して核型を決定することができ、確立された対応する霊長類種の核型と比較される。「正常な核型」を有する細胞を獲得することが望ましく、これは細胞が正倍数体であることを意味し、全ヒト染色体が存在し、かつ著しく変更されてはいない。
【0069】
多能性幹細胞の源
使用が可能な多能性幹細胞の種類としては、妊娠期間中の任意の時期(必ずしもではないが、通常は妊娠約10〜12週よりも前)に採取した前胚性組織(例えば、胚盤胞など)、胚性組織又は胎児組織などの、妊娠後に形成される組織に由来する多能性細胞の樹立株が含まれる。非限定的な例は、例えばヒト胚幹細胞株H1、H7、及びH9(WiCell)等のヒト胚幹細胞又はヒト胚生殖細胞の確立株である。それらの細胞の最初の樹立又は安定化中に本開示の組成物を使用することも想定され、その場合、源となる細胞は、源となる組織から直接採取した一次多能性細胞であろう。フィーダー細胞の不在下で既に培養された多能性幹細胞集団から採取した細胞も好適である。例えば、BG01v(BresaGen、Athens、GA)などの変異ヒト胚性幹細胞株も好適である。例えば、成体の体細胞などの非多能性細胞由来の多能性幹細胞も好適である。
【0070】
一実施形態では、ヒト胚幹細胞は、Thomsonら(米国特許第5,843,780号、Science 282:1145、1998年、Curr.Top.Dev.Biol.38:133ff.、1998年、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.92:7844、1995年)に記載されているように調製される。
【0071】
多能性幹細胞の培養
一実施形態では、多能性幹細胞を、本発明の方法にしたがって培養するのに先立って、様々な点で多能性幹細胞を支持するフィーダー細胞又は細胞外マトリクスタンパク質の層上で培養する。例えば、多能性幹細胞を、細胞を大きく分化させることなく多能性幹細胞の増殖を支持するフィーダー細胞層上で培養する。フィーダー細胞層上での分化をともなわない多能性幹細胞の増殖は、(i)フィーダー細胞層を含んだ培養容器を得て、(ii)別の細胞型と予め培養することによって調整した培地、又は例えば、無血清又は更には化学合成培地などの非条件培地を用いることで支持される。
【0072】
別の例では、多能性幹細胞を、基本的にフィーダー細胞を含まないにも関わらず、多能性幹細胞を大きく分化させることなくその増殖を支持する培養システム中で培養する。無フィーダー細胞培養中での分化をともなわない多能性幹細胞の増殖は、(i)1以上の細胞外マトリクスタンパク質を有する固体支持体表面上の吸着層、及び(ii)別の細胞型と予め培養することによって調整した培地、又は例えば、無血清又は更には化学合成培地などの非条件培地を用いることで支持される。
【0073】
別の実施形態では、多能性幹細胞は、別の細胞型と予め培養することによって調整した培地、又は例えば、無血清若しくは更には化学合成培地などの非条件培地中で、混合セルロースエステルを含む平面上で培養される。
【0074】
培地:本発明における使用に適した細胞培地の一実施例を、米国特許出願公開第20020072117号に見出すことができる。本発明における使用に適した細胞培地の別の実施例を、米国特許第6642048号に見出すことができる。本発明における使用に適した細胞培地の別の実施例を、国際特許出願公開第WO2005014799号に見出すことができる。本発明における使用に適した細胞培地の別の実施例を、Xuら(Stem Cells 22:972〜980,2004)に見出すことができる。本発明における使用に適した細胞培地の別の実施例を、米国特許出願公開第20070010011号に見出すことができる。本発明における使用に適した細胞培地の別の実施例を、Cheonら(BioReprod DOI:10.1095/biolreprod.105.046870;19 Oct 2005)に見出すことができる。本発明における使用に適した細胞培地の別の実施例を、Levensteinら(Stem Cells 24:568〜574,2006)に見出すことができる。本発明における使用に適した細胞培地の別の実施例を、米国特許出願公開第20050148070号に見出すことができる。本発明における使用に適した細胞培地の別の実施例を、米国特許出願公開第20050233446号に見出すことができる。本発明における使用に適した細胞培地の別の実施例を、米国特許第6800480号に見出すことができる。本発明における使用に適した細胞培地の別の実施例を、米国特許出願公開第20050244962号に見出すことができる。本発明における使用に適した細胞培地の別の実施例を、国際特許出願公開第WO2005065354号に見出すことができる。本発明における使用に適した細胞培地の別の実施例を、国際特許出願公開第WO2005086845号に見出すことができる。
【0075】
好適な培地はまた、以下の成分、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Gibco No.11965−092;ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地(KO DMEM)、Gibco No.10829−018;ハムF12/50% DMEM基礎培地;200mM L−グルタミン、Gibco No.15039−027;非必須アミノ酸溶液、Gibco 11140−050;β−メルカプトエタノール、Sigma No.M7522;ヒト組み換え塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、Gibco No.13256−029等から調製することもできる。
【0076】
多能性幹細胞の分化
本発明の一実施形態では、多能性幹細胞をその多能性を維持しつつ培養中で増殖させる。細胞の多能性の時間による変化を、多能性に関連したマーカーの発現レベルの変化を検出することによって調べることができる。また、多能性の変化を、分化に関連したマーカー又は別の細胞型に関連したマーカーの発現レベルの変化を検出することによって監視することもできる。
【0077】
別の実施形態では、多能性幹細胞を培養中で増殖させた後、別の細胞型への分化を促進するように処理する。他の細胞型は、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞であってよい。また、細胞型は、膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞であってよい。また、細胞型は、膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーを発現する細胞であってよい。また、細胞型は、β細胞系統に特徴的なマーカーを発現する細胞であってよい。
【0078】
本発明の方法にしたがって処理された多能性幹細胞は、当該術分野における任意の適当な方法によって他の様々な細胞型に分化させることができる。
【0079】
例えば、本発明の方法にしたがって処理された多能性幹細胞は、神経細胞、心臓細胞、肝細胞などに分化させることができる。
【0080】
例えば、本発明の方法にしたがって処理された多能性幹細胞は、国際特許出願公開第WO2007030870号に開示される方法にしたがって神経前駆細胞及び心筋細胞に分化させることができる。
【0081】
別の例では、本発明の方法にしたがって処理された多能性幹細胞は、米国特許第6,458,589号に開示される方法にしたがって肝細胞に分化させることができる。
【0082】
例えば、多能性幹細胞は、D’Amourら、Nature Biotechnology 23:1534〜1541,2005に開示される方法にしたがって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させることができる。
【0083】
例えば、多能性幹細胞は、Shinozakiら、Development 131:1651〜1662,2004に開示される方法にしたがって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させることができる。
【0084】
例えば、多能性幹細胞は、McLeanら、Stem Cells 25:29〜38,2007に開示される方法にしたがって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させることができる。
【0085】
例えば、多能性幹細胞は、D’Amourら、Nature Biotechnology 24:1392〜1401,2006に開示される方法にしたがって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させることができる。
【0086】
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーは、SOX17、GATA4、HNF3 β、GSC、CER1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix−様ホメオボックスタンパク質、FGF4 CD48、エオメソダーミン(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA6、CXCR4、C−Kit、CD99、及びOTX2からなる群から選択される。本発明での使用に好適なものは、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーのうちの少なくとも1つを発現している細胞である。本発明の一態様において、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、原始線条前駆体細胞である。別の態様において、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、中内胚葉細胞である。別の態様において、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、胚体内胚葉細胞である。
【0087】
例えば、多能性幹細胞は、D’Amourら、Nature Biotechnology 24:1392〜1401,2006に開示される方法にしたがって膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させることができる。
【0088】
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーは、PDX1、HNF1 β、PTF1 α、HNF6、HB9及びPROX1からなる群から選択される。本発明での使用に好適なものは、膵臓内胚葉系の特徴を示す少なくとも1つのマーカーを発現している細胞である。本発明の一態様において、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、膵臓内胚葉細胞である。
【0089】
多能性幹細胞は、当該技術分野における任意の方法によって膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させることができる。
【0090】
例えば、多能性幹細胞は、D’Amourら、Nature Biotechnol.24:1392〜1401,2006に開示される方法にしたがって膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させることができる。
【0091】
例えば、多能性幹細胞は、D’Amourら、Nature Biotechnol.24:1392〜1401,2006に開示される方法により膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させることができる。
【0092】
膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーは、NGN3、NEUROD、ISL1、PDX1、NKX6.1、PAX4、NGN3、及びPTF−1 αからなる群から選択される。一実施形態では、膵内分泌細胞は、以下のホルモン:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドの少なくとも1つを発現することができる。本発明で使用するのに好適なものは、膵内分泌系の特徴を示すマーカーを少なくとも1つ発現している細胞である。本発明の一態様において、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、膵内分泌細胞である。膵臓内分泌細胞は、膵臓ホルモン発現細胞であってよい。また、膵臓内分泌細胞は膵臓ホルモン分泌細胞であってよい。
【0093】
本発明の一態様では、膵臓内分泌細胞は、β細胞系統に特徴的なマーカーを発現する細胞である。β細胞系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、PDX1と、以下の転写因子、すなわち、NGN3、NKX2.2、NKX6.1、NEUROD、ISL1、HNF3 β、MAFA、PAX4、及びPAX6のうちの少なくとも1つを発現している。本発明の一態様では、β細胞系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、β細胞である。
【0094】
以下の実施例により本発明を更に例示するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0095】
実施例1:本発明の平面支持体へのヒト胚性幹細胞の付着。
Rhoキナーゼ阻害剤Y26732は、表面修飾したプレート上へのヒト胚性幹細胞の付着を亢進することが示されている(米国特許出願第61/030,544号参照)。本発明の実験の目的は、他の平面へのヒト胚性幹細胞の付着能を確認することであった。本発明において試験した平面を表1に示す。
【0096】
試験前に、ヒト胚性幹細胞株H1細胞を、成長因子を1:30に希釈して低減したMATRIGEL(登録商標)をコーティングした細胞培養プレート上に広げた。細胞を、100mm培養皿上で、20ng/mLのbFGFが添加されたMEF条件培地(MEF−CM/bFGF)10mLに播種した。この細胞を、5% CO2雰囲気で加湿下、37℃で培養した。培地は、毎日新しいMEF−CM/bFGFに交換した。細胞が約80%コンフルエントに達したら、1mg/mLのLIBERASEで5分間37℃で処理することにより、細胞を継代した。皿から酵素を除き、細胞をMEF−CM/bFGFで洗うことによりダイジェスチョンを止めた。細胞を10mLのMEF−CM/bFGF中に手作業でかき取って集め、50mL容のコニカルチューブに移した。卓上型遠心分離器を用いて200×g(1000rpm)で細胞を遠心し、沈殿物を形成させた。上清を除いた後、細胞を40mLのMEF−CM/bFGFに再懸濁し、成長因子を1:30に希釈して低減したMATRIGEL(登録商標)をコーティングした100mm培養皿4枚に均等に分けた。
【0097】
ヒト胚性幹細胞株H1細胞を、100,000細胞/cm2の密度で、表1に示す種々の平面支持体上に播種した。これら平面支持体は、吸着層及び線維芽細胞フィーダー細胞層を欠いていた。上記のように、MEF−CM/bFGF中で細胞を培養した。平面支持体への細胞付着に対するRhoキナーゼ阻害剤H−1152の影響を確認した。3μMのH−1152を細胞播種に用いた培地に添加した。細胞を24時間付着させた。この後、4%パラホルムアルデヒドを用いて5分間室温で細胞を固定した。次いで細胞を1%ヘマトキシリンで染色し、細胞数を光学顕微鏡検査で計測した。溶媒を含むウェルを対照として含めた。
【0098】
以下の膜:混合セルロースエステル膜(膜番号2、図1、パネルa)、ナイロン膜(膜番号4、図1、パネルb)、及びセルロースアセテート膜(膜番号5、図1、パネルc)に、ヒト胚性幹細胞株H1細胞がRhoキナーゼ阻害剤非依存的に付着した。これらの膜への細胞付着は、3μMのH−1152の添加により増強した(図1、パネルa〜c参照)。
【0099】
ヒト胚性幹細胞株H1細胞は、以下の平面支持体:ポリカーボネート膜(膜番号7、図1、パネルd)及びポリエチレンテレフタレート膜(膜番号12、図1、パネルe)への付着に、3μMのH−1152の存在を必要とした。培地からH−1152を除くと、H1細胞の両方の種類の膜から剥離する結果となった。H−1152非存在下では、これらの膜への付着は観察されなかった。
【0100】
実施例2:混合セルロースエステルを含む平面支持体(膜番号1)へのヒト胚性幹細胞の付着に対するRhoキナーゼ処理の影響。
実験操作に先立ち、ヒト胚性幹細胞株H9細胞をMATRIGEL(登録商標)でコーティングした皿上で培養した。混合セルロースエステル膜(膜番号1)に、MEF条件培地中150,000細胞/cm2の密度で細胞を播種した。この平面支持体は、吸着層及び線維芽細胞フィーダー細胞層を欠いていた。平面支持体への付着に対するRhoキナーゼ阻害剤処理の影響を調べた。細胞を、0、10、又は20μMのY26732で処理した。24時間後、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄し、風乾し、クリスタルバイオレット染料で染色した。細胞数を光学顕微鏡検査で計測した。溶媒を含むウェルを対照として含めた。
【0101】
Y26732非存在下で、細胞が平面支持体に付着することが観察された(図2、パネルa)。10及び20μMでY26732を添加すると、平面支持体への細胞の付着が増加した(図2、パネルb及びc)。Y26732を培地から24時間除いても、平面支持体から細胞が剥離する結果とならなかった。
【0102】
実施例3:ヒト胚性幹細胞の増殖速度に対する平面支持体膜番号1上での培養の影響。
MATRIGEL(登録商標)でコーティングした皿上で培養されたヒト胚性幹細胞株の細胞、及び膜番号1上で培養された細胞の増殖速度を比較した。細胞を、両支持体上に同じ密度で播種した。細胞をTrypLE処理により支持体からはがし、単一細胞懸濁液を作製して、細胞数を計測した。細胞は、図3に示す時間にサンプリングした。同程度の速度で細胞が増殖することが観察された。倍加時間は、MATRIGEL(登録商標)及び膜番号1上で、それぞれ約1.151日及び1.138日である。
【0103】
実施例4:ヒト胚性幹細胞は、混合セルロースエステルを含む平面支持体(膜番号1)上で3回継代する間、多能性を維持する。
ヒト胚性幹細胞株H1細胞を、混合セルロースエステル膜を含む平面支持体(膜番号1)上に、20ng/mLのbFGFを含有するMEF−CM中、75,000細胞/cm2の密度で播種した。継代する前に、上記の方法に従って、約75〜90%コンフルエントに達するまで細胞を5〜6日間培養した。培地は毎日交換した。3回継代培養後、細胞を集め、多能性に関連するマーカーの発現をフローサイトメトリーで測定した。表2に示す様に、95%を超える細胞が、Tra1−60、Tra1−81、SSEA−3、及びSSEA−4など多能性に関連する細胞表面マーカーの発現を維持し、これらの細胞が依然として多能性であることを示した。
【0104】
実施例5:ヒト胚性幹細胞は、混合セルロースエステルを含む平面支持体(膜番号1)上で10回継代する間安定核型を維持する。
ヒト胚性幹細胞株H1細胞を、MATRIGEL(登録商標)でコーティングした培養プレート、又は混合セルロースエステル膜のいずれかの上で、10回継代して培養した。上記の方法に従って細胞を培養した。20個のGバンド染色した中期細胞を解析する細胞遺伝学的解析により、核型を決定した。図4に示すように、MATRIGEL(登録商標)でコーティングした培養プレート(図4、パネルa)上で培養した代表的な細胞、及び混合セルロース膜(図4、パネルb)上で培養した別の細胞のGバンド染色した染色体は、正常な雄性核型を示した。
【0105】
染色体12pプローブ及び17qプローブを用いる蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)により200個の間期核を調べて核型もまた決定し、通常の細胞遺伝学的手法では検出できない、12番及び17番染色体のコピー数が変化しているごくわずかな細胞集団を同定した。MATRIGEL(登録商標)上及び混合セルロースエステル膜上で培養した細胞では、12及び/又は17トリソミーである異常細胞は検出されなかった。
【0106】
実施例6:ヒト胚性幹細胞は、混合セルロースエステルを含む平面支持体(膜番号1)上でインスリン産生細胞に分化できる。
ヒト胚性幹細胞株H1細胞を、混合セルロースエステルを含む平面支持体(膜番号1)上に、20ng/mLのbFGFを含有するMEF条件培地中、150,000細胞/cm2の密度で播種した。表3に概略を示す分化手順に従って細胞を処理することにより、細胞はインスリン産生細胞に分化した。20ng/mLのbFGFを含むMEF条件培地中で、約75〜90%コンフルエントに達するまで細胞を3〜4日間培養した。細胞を、2%の脂肪酸フリーウシ血清アルブミン(FAF−BSA)、100ng/mLのアクチビンA、及び20ng/mLのWnt3Aを含有するDMEM−F12培地中で2日間処理し、続いて、DMEM−F12培地、2%脂肪酸フリーウシ血清アルブミン(FAF−BSA)、及び100ng/mLアクチビンAで更に2日間処理した。次に、細胞を、2% BSA、20ng/mLのFGF7、及び250nMシクロパミン−KAADを含有するDMEM−F12培地中で3日間処理し、続いて、1% B27サプリメント、20ng/mLのFGF7、250nMシクロパミン−KAAD、2μMのレチノイン酸(RA)、及び100ng/mLのノギンを含有するDMEM−F12培地中で4日間処理した。細胞を、1% B27サプリメント、1μMのALK5阻害剤2(Axxoraカタログ番号:ALX−270−445−M001)、100ng/mLのノギン、100ng/mLのネトリン−4、50ng/mLのエキセンディン−4、及び1μMのDAPTを含有するDMEM−F12培地中で3日間処理した。細胞を、DMEM−F12培地、1% B27サプリメント、及び1μMのALK5阻害剤2中で7日間、1% B27サプリメントを含有するDMEM−F12培地中で更に7日間培養した。
【0107】
分化手順の終了時にRNAサンプルを回収し、膵臓内分泌系統の特徴を示すマーカーの発現を測定した。インスリンのCT値である約17が観察された。GAPDHに相当するCT値は約19であり、これらのデータは、細胞が、処置後に高濃度のインスリンを発現したことを示唆した。
【0108】
実施例7:ヒト胚性幹細胞は、Rhoキナーゼ阻害剤依存的にポリカーボネート膜を含む平面支持体に付着する。
ヒト胚性幹細胞株H1細胞を、ポリカーボネートを含む平面支持体(膜番号7)上に、MEF条件培地中、150,000細胞/cm2の密度で播種した。付着におけるRhoキナーゼ阻害剤処理の影響を調べた。Rhoキナーゼ阻害剤Y26732を0、10、又は20μMの濃度で培地に添加した。24時間後、膜上の細胞を室温で4%パラホルムアルデヒドにより固定し、PBSで洗浄し、風乾し、クリスタルバイオレット染料で染色した。細胞数を光学顕微鏡検査で計測した。溶媒を含むウェルを対照として含めた。
【0109】
対照皿において、細胞は膜に付着しない(図5、パネルa)。Y26732を添加すると、膜上に細胞が付着する結果となった(図5、パネルb及びc)。
【0110】
別の実験で、膜番号7へのヒト胚性幹細胞株H1細胞の付着に対するRhoキナーゼ阻害剤H−1152の影響を測定した。細胞を、ポリカーボネート膜を含む平面支持体(膜番号7)上に、20ng/mLのbFGFを含有するMEF−CM中、150,000細胞/cm2の密度で播種した。Rhoキナーゼ阻害剤H−1152を、0、0.03、0.1、0.3、1、及び3μMの濃度で培地に添加した。24時間後、膜上の細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄し、風乾し、クリスタルバイオレット染料で染色した。細胞数を光学顕微鏡検査で計測した。溶媒を含むウェルを対照として含めた。
【0111】
対照皿(図6、パネルa)及び0.03又は0.1μMのH−1152を含む皿(図6、パネルb及びc)では、細胞は膜に付着しない。しかし、0.3、1、及び3μMのH−1152で処理した培養細胞(図6、パネルd〜f)では、付着がみられた。
【0112】
実施例8:培地からRhoキナーゼ阻害剤を除去すると、ポリカーボネート膜を含む平面支持体からヒト胚性幹細胞が剥離する結果となる。
ヒト胚性幹細胞株H1細胞を、ポリカーボネートを含む平面支持体(膜番号9)上に、20ng/mLのbFGF及び3μMのRhoキナーゼ阻害剤H−1152を含有するMEF条件培地中、100,000細胞/cm2の密度で播種した。細胞を24時間培養した。その後、20ng/mLのbFGFを含有し、H−1152を欠くMEF条件培地に培地交換した。24時間後、膜上の細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄し、風乾し、クリスタルバイオレット染料で染色した。細胞数を光学顕微鏡検査で計測した。H−1152を含むウェルを対照として含めた。H−1152を培地から除くと、平面支持体から細胞が剥離する結果となった(図7)。
【0113】
実施例9:平面支持体の多孔性がヒト胚性幹細胞の付着に影響する。
以下の平面支持体:膜番号10(孔径0.4μM)、及び膜番号11(孔径3μM)上に、継代数42のヒト胚性幹細胞株H1細胞を播種した。20ng/mLのbFGFを含有するMEF条件培地中、100,000細胞/cm2の密度で細胞を播種した。平面支持体への細胞付着に対するRhoキナーゼ阻害剤の影響もまた調べた。細胞培地に、.3μMのH−1152を添加した。24時間後、20ng/mLのbFGFを含有し、H−1152を欠くMEF条件培地に培地交換した。更に24時間培養後、膜上の細胞を4%パラホルムアルデヒドにより固定し、PBSで洗浄し、風乾し、クリスタルバイオレット染料で染色した。1μMのH−1152を含むウェルを対照として含めた。細胞数を光学顕微鏡検査で計測した。溶媒を含むウェルを対照として含めた。
【0114】
膜番号10(図8、パネルa)に、膜番号11(図8、パネルb)よりも多くの細胞が付着した。培地中に1μMのH−1152が存在することが、膜上へのH1細胞付着の維持に必要である(図8、パネルa及びb)。H−1152を培地から除くと、膜番号10及び膜番号11から細胞が剥離する結果となった(図8、パネルc及びd)。
【0115】
実施例10:ヒト胚性幹細胞は、ポリカーボネート膜を含む平面支持体上で、複数回継代後も多能性を維持する。
ヒト胚性幹細胞株H1を、ポリカーボネート膜を含む平面支持体(膜番号8)上に播種した。20ng/mLのbFGFを含有し、3μMのH−1152を添加したMEF条件培地中で細胞を培養した。細胞培地は毎日交換した。培地からH−1152を除去することにより細胞を継代し、細胞を穏やかにかき混ぜることにより平面支持体から取り除いた。細胞を3回継代して培養し、フローサイトメトリー及び定量的RT−PCR分析のために回収した。表4に示す様に、95%を超える細胞が、Tra1−60、Tra1−81、SSEA−3、及びSSEA−4などフローサイトメトリーで測定される多能性に関連する細胞表面マーカーを発現した。図9は、定量的RT−PCRの結果を示しており、ポリカーボネート膜上で3回継代して培養されたH1で発現される複数の遺伝子が、未分化H1細胞でのレベルに匹敵することが示される。
【0116】
別の実験で、ヒト胚性幹細胞株H1を、ポリカーボネート膜を含む平面支持体(膜番号8)上に播種した。20ng/mLのbFGFを含有し、1μMのH−1152を添加したMEF条件培地中で細胞を培養した。細胞培地は毎日交換した。培地からH−1152を除去することにより細胞を継代し、細胞を穏やかにかき混ぜることにより平面支持体から取り除いた。細胞を9回継代して培養し、フローサイトメトリーのために回収した。表5に示す様に、95%を超える細胞が、Tra1−60、Tra1−81、SSEA−3、及びSSEA−4など多能性に関連する細胞表面マーカーを発現する。
【0117】
多能性を評価する別の方法は、細胞の胚様体形成能によるものである。ヒト胚性幹細胞株H1を、ポリカーボネート膜を含む平面支持体(膜番号8)上に播種した。20ng/mLのbFGFを含有し、3μMのH−1152を添加したMEF条件培地中で細胞を培養した。細胞培地は毎日交換した。培地からH−1152を除去することにより細胞を継代し、細胞を穏やかにかき混ぜることにより平面支持体から取り除いた。細胞を12回継代して培養した。
【0118】
胚様体形成を以下の手順により行った。H1細胞を回収し、Ultra Low Cluster Plate(Corningカタログ番号:3471)で、20%ウシ胎児血清を添加したDMEM/F12培地中で培養した。1日おきに培地の50%を交換することにより、細胞に栄養分を供給した。14日後に胚様体が形成された(図10)。
【0119】
実施例11:ヒト胚性幹細胞は、ポリカーボネート膜を含む平面支持体上で培養された後も胚体内胚葉を形成できる。
ヒト胚性幹細胞株H1を、ポリカーボネートを含む平面支持体(膜番号8)上に播種した。20ng/mLのbFGFを含有し、3μMのH−1152を添加したMEF条件培地中で、まず細胞を培養した。続いて、20ng/mLのbFGFを含有し、1μMのH−1152を添加したMEF条件培地中で、実験操作に先立ち、細胞を10回継代して培養した。
【0120】
次いで、1:30希釈MATRIGEL(登録商標)でコーティングした100mmの細胞培養プレート上に細胞を播種した。20ng/mLのbFGFを含有するMEF条件培地中で、3日間細胞を培養した。次に、2%の脂肪酸フリーウシ血清アルブミン、100ng/mLのアクチビンA、及び20ng/mLのWnt3Aを添加したDMEM/F12内で2日間細胞を処理し、続いて、2%の脂肪酸フリーウシ血清アルブミン、及び100ng/mLのアクチビンAを添加したDMEM/F12で更に2日間処理した。この後、TrypLE処理により細胞を遊離させて単一細胞懸濁液を作製し、胚体内胚葉系の特徴を示すマーカーの発現をフローサイトメトリーにより判定した。
【0121】
表6に示すように、90%を超える細胞が、CD99及びCXCR4(CD184)の両方に陽性であり、12%の細胞がCD9に陽性でCXCR4に陰性である。これらのデータは、細胞が胚体内胚葉に分化する能力を保持していることを示唆する。
【0122】
実施例12:本発明の平面支持体の物理的特性。
本発明の平面支持体の表面の化学状態を測定した。表7〜10は、X線光電子分光法(XPS)分析及び接触角を示す。XPSでは、約50〜100Åの分析深さを用いた。典型的には、95%のシグナルが、この深さ内で生じる。
【0123】
膜1〜3は、同程度の濃度の酸素、炭素(主にC−O、及びC−(C,H)、高い確実性でO−C−Oとして)、及び窒素(NO3、NO2、及び、恐らくはC−N、及びR4−N+として)を含有していた。膜3は、微量のNa+及びSOx、並びにより高濃度のC−(C,H)も含有していた。膜4は、C−(C,H)、C−(O,N)、及び(O,N)−C=O、並びに恐らくは微量のナトリウムを含んでいた。膜5は、主にC−Oを、またC−(C,H)及びO−C−O並びに/又はO−C=Oを含んでいた。微量のNa+及びSOxも検出された。膜6〜11は、C−(C,H)、C−O、O−C=O、C−N、CO3、p−p*、及び微量のR4−N+、SOx、並びにNa+又はCr3+のいずれかを含んでいた。膜6の表面は、微量の塩素もまた含んでいる場合がある。微量のクロムは膜10及び11にのみ検出され、一方Na+は膜6〜9で検出された。膜12の表面は、PETに一致するC−(C,H)、C−O、O−C=O、及びpi−pi*を含んでいた。微量の窒素及びナトリウムもまた検出された。
【0124】
図11は、本発明の平面支持体の走査電子顕微鏡写真を示す。2種類の形態が観察された。1つ目の種類は、開いた網状線維を特徴とした。2つ目の種類は、表面全体に丸い穴が分散している平滑シートを特徴とした。
【0125】
表10は、本発明の表面の接触角の測定値を示す。表面1〜5は、約18°〜約32°の接触角測定値を有した。多能性幹細胞は、表面1〜5への付着のためにRhoキナーゼ活性の阻害剤の存在を必要としなかった。
【0126】
表面6〜12は、約32°を超える接触角測定値を有した。多能性幹細胞は、これら表面への付着のためにRhoキナーゼ活性の阻害剤の存在を必要とした。
【0127】
実施例13:ポリアミンからなる平面支持体への多能性幹細胞の付着。
ポリアミンからなる平面支持体を、米国特許第6743273、及びSchindler Mら、Biomaterials26(28):5624〜5631;2005に開示される方法に従って製造した。この平面支持体は、商標ULTRAWEB(商標)として市販されている。ULTRAWEB(商標)合成表面は、平均線維直径が280nmのランダムに向いた電界紡糸ポリアミドナノ線維でできている。線維寸法の分布は、200〜400nmである。最初に試験したULTRAWEB(商標)表面は、わずかに親水性の表面を有しており(カタログNo.3870XX1)、一方2つ目の表面(カタログNo.3871XX1)は、わずかに親水性で、正味正電荷のために遊離アミン基を有するナノ線維を提供するポリアミン材料でコーティングされていた。両表面とも、疎水性相互作用によるタンパク質吸収に非常に有効である。解像度5マイクロメートル及び倍率10,000Xの走査電子顕微鏡写真を図12に示す。しかし、試験したUTRAWEB(商標)表面のどちらにも、ヒト胚性幹細胞株H1細胞は付着できなかった。
【0128】
実施例14:本発明の平面支持体への多能性幹細胞の付着に対する合成培地の使用の影響。
以下の平面支持体:膜1(混合セルロースエステル)、膜4(ナイロン)、膜5(セルロースアセテート)及びニトロセルロース上に、ヒト胚性幹細胞株H1細胞を播種した。合成培地mTESR(商標)で1:3に希釈して細胞を播種し、24時間培養した。平行してMEF−条件培地で培養したものを対照として含めた。mTESR(商標)中での細胞の培養は、細胞の平面への付着能に影響しなかった。細胞は、膜1、4、及び5、及びニトロセルロースへ付着することができた。mTESR(商標)を用いて細胞の結合力が一番高い膜は、膜4であり、続いて膜5、これはニトロセルロースと同等であり、続いて膜1であった。
【0129】
【表1】

【0130】
【表2】

【0131】
【表3】

【0132】
【表4】

【0133】
【表5】

【0134】
【表6】

【0135】
【表7】

【0136】
【表8】

【0137】
【表9】

【0138】
【表10】

【0139】
本明細書を通して引用された刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。以上、本発明の様々な態様を実施例及び好ましい実施形態を参照して説明したが、本発明の範囲は、上記の説明文によってではなく、特許法の原則の下で適切に解釈される以下の「特許請求の範囲」によって定義されるものである点は認識されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約12%までのN、少なくとも約12%〜少なくとも約55%のOを含み、接触角が約18度〜約32度であり、かつ吸着層及びフィーダー細胞層を欠く平面支持体への、多能性幹細胞の付着方法であって、
a.多能性幹細胞の懸濁液を得る工程と、
b.平面支持体に該細胞懸濁液を加え、該細胞を付着させる工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記細胞が支持体に付着した後に、前記細胞が培養液中で維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が支持体に付着した後に、前記細胞が分化される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記支持体への多能性幹細胞の付着が、Rhoキナーゼ活性の阻害能を有する化合物で前記細胞懸濁液を処理することにより増強される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
Rhoキナーゼ活性の阻害能を有する前記化合物が、前記多能性幹細胞が支持体に付着した後に除去される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
Rhoキナーゼ活性の阻害能を有する前記化合物が、Y−27632、ファスジル、H−1152及びヒドロキシファスジルからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−509086(P2012−509086A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537604(P2011−537604)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/065067
【国際公開番号】WO2010/059778
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(509087759)ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】