説明

幹細胞に特異的に結合するモノクローナル抗体の使用

本明細書においてSpoc細胞に結合する抗体が開示される。一つの態様において、抗体はモノクローナル抗体である。Spoc細胞の亜集団を同定および/または単離するための、Spoc細胞に結合する抗体の使用も同時に開示される。一つの態様において、神経障害を治療するための方法が提供される。方法には、神経障害を処置するために、Spoc細胞の亜集団および/またはSpoc細胞から分化したニューロン細胞を投与する段階が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本開示は、ニューロン前駆細胞の分野に関し、具体的にはニューロン前駆細胞を同定および単離するためにSpoc細胞に特異的に結合する抗体の使用に関する。
【0002】
優先権の主張
本出願は、参照により本明細書に組み入れられる、2004年4月23日に提出された米国特許仮出願第60/565,101号の恩典を主張する。
【背景技術】
【0003】
背景
中枢および末梢神経系におけるニューロンは、ヒトの発達および加齢の正常な機能として変性する。しかし、病的なニューロンの変性は、いくつかの神経障害において認められる重篤な病態である。ニューロンの変性は、特異的または散在性となりえて、知覚、運動、および認知障害に至りうる。神経変性障害は、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(「ALS」、「ルーゲーリック病」)、多発性硬化症、ハンチントン病、アルツハイマー病、パントテン酸キナーゼ関連神経変性(PKAN、これまでのハレルフォルデン-スパッツ症候群)、多系統萎縮、糖尿病性網膜症、多発梗塞性痴呆、黄斑変性等を含む、一連の重篤な衰弱性の病態を含む。これらの病態は、時間と共に患者の病態の徐々ではあるが容赦ない悪化を特徴とする。これらの障害は、ヒトの大きい集団、特に高齢者に罹患する。それにもかかわらず、これらの障害の理解は極めて限定され、不完全である。
【0004】
パーキンソン病、アルツハイマー病、およびハンチントン病に関するよりよい理解を得るという点において過去数年間に多くの進歩がなされている。三つの全ての障害の認知機能障害の主な原因は、通常、脳の特異的領域におけるニューロンの変性に直接連鎖している。パーキンソン病は、黒質におけるニューロンの変性に連鎖しており、アルツハイマー病は、部分的に辺縁系における錐体ニューロンの喪失による(Braak, E. & Braak, H., in : V.E. Koliatsos & R.R. Ratan(eds.)「Cell Death and Diseases of the Nervous System」, Totowa, NJ: Humana Press, pp.497〜508, 1999(非特許文献1))。ハンチントン病の認知欠乏は、線条体の尾状核における細胞の変性によって起こる。しかし、これらの疾患の症状および進行は、十分に特徴が調べられているものの、発症時の原因および誘因は十分に理解されていない。
【0005】
このように、パーキンソン病を含む神経変性障害の新規治療を開発するために、いくつかの戦略が遂行されている。パーキンソン病の場合、技術はドーパミン神経栄養因子(Takayama et al., Nature Med. 1:53〜58, 1995(非特許文献2))およびウイルスベクター(Choi-Lundberg et al., Science 275:838〜841, 1997(非特許文献3))を用いることから初代異種組織の移植(Deacon et al., Nature Med. 3:350〜353, 1997(非特許文献4))にまで及ぶ。ドーパミン作動ニューロンの移植は、後期パーキンソン病における臨床的に有望な実験的処置である。全世界で200例より多くの患者に移植されて(Olanow et al., Trends Neurosci. 19:102〜109, 1996(非特許文献5))、臨床での改善が確認されており(Olanow et al., 前記およびWenning et al., Ann. Neurol. 42:95〜107, 1997(非特許文献6))、良好な移植片の生存と宿主線条体の神経支配に相関した(Kordower et al., N. Engl. J. Med. 332:1118〜1124, 1995(非特許文献6))。しかし、胎児黒質移植治療は一般的に、患者において臨床的に信頼できる改善を得るためには、少なくとも3〜5個からのヒト胚組織を必要とする。異なる起源のニューロンが明らかに必要である。
【0006】
胚盤胞の内細胞塊に由来する胚幹(ES)細胞は、最も原始的な幹細胞である。これらの細胞は無限の自己再生能を有し、それらはいくつかの細胞系列に分化して、移植しても組織に定着できることから、それらは多能性分化能を有する。ES細胞は、ニューロンのような分化した細胞タイプを産生するために用いることができると提唱されている。
【0007】
ほとんどの臓器組織において同定される系列特異的幹細胞は、ES細胞より自己再生能が低く、その分化能はその系列の組織に限定される。系列特異的幹細胞の中で、造血幹細胞(HSC)は、骨髄、血液、臍帯血、胎児肝および卵黄嚢に由来し、最もよく特徴が調べられている。これらの細胞は、c-kit(c-kit+)のような細胞表面マーカーの発現によって定義され、全ての造血細胞タイプに最終的に分化することができる。HSCは、インビボで機能的な心細胞の形成に寄与することが示されている(Jackson et al., J. Clin. Invest. 107:1395〜1402, 2001(非特許文献7))。間葉幹細胞(MSC)は、中胚葉起源の組織に由来する多能性前駆細胞である(米国特許第5,486,359号(特許文献1))。これらの細胞は、骨髄から得られることが最も多く、それらは血液または真皮のような他の起源から得ることができる。これらの細胞は、分化して、筋肉、骨、軟骨、脂肪、骨髄間質、および腱を形成することが示されているが、心筋細胞またはニューロンに分化することは示されていない。このように、心筋細胞またはニューロンに分化することができる幹細胞の新規起源を同定する必要がある。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,486,359号
【非特許文献1】Braak, E. & Braak, H., in : V.E. Koliatsos & R.R. Ratan(eds.)「Cell Death and Diseases of the Nervous System」, Totowa, NJ: Humana Press, pp.497〜508, 1999
【非特許文献2】Takayama et al., Nature Med. 1:53〜58, 1995
【非特許文献3】Choi-Lundberg et al., Science 275:838〜841, 1997
【非特許文献4】Deacon et al., Nature Med. 3:350〜353, 1997
【非特許文献5】Olanow et al., Trends Neurosci. 19:102〜109, 1996
【非特許文献6】Kordower et al., N. Engl. J. Med. 332:1118〜1124, 1995
【非特許文献7】Jackson et al., J. Clin. Invest. 107:1395〜1402, 2001
【発明の開示】
【0009】
要約
ニューロン前駆細胞はニューロンに分化する。これらの細胞は、神経系に影響を及ぼす物質をスクリーニングするために有用である。本明細書に開示されるように、抗体を用いて、インビトロ培養系およびインビボでの使用のために、細胞の混合集団からこれらの細胞を同定して、これらの細胞を単離することができる。
【0010】
骨格筋に基づく心筋細胞の前駆(Spoc)細胞は、骨格筋に由来して、直径が約3μm〜約10 μmであり、細胞表面マーカーc-met、c-kit、CD34、もしくはSca-1またはPax 3およびPax 7転写因子(Pax(3/7))を発現しない。本明細書において、Spoc細胞はインビトロで分化して、一つより多い所定の細胞タイプの完全に機能的な細胞を形成することができることが開示される。具体的に、Spoc細胞は心筋細胞またはニューロンのいずれかに分化できることが本明細書において証明される。
【0011】
c-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-Spoc細胞に結合する抗体が本明細書において開示される。これらの抗体は、ニューロンに分化するSpoc細胞の亜集団(sub-population)またはニューロン前駆細胞を同定および単離するために用いることができる。これらの抗体を用いることによって、ニューロン細胞の機能または分化に影響を及ぼす物質を同定するために、物質をスクリーニングするために用いることができる培養物を産生することができる。このように、これらの抗体を用いることによって、神経障害を処置するために用いることができるSpoc細胞に由来する細胞を同定することができる。例えば、Spoc細胞亜集団の治療的有効量を、障害の徴候または症状を減少させるために神経障害を有する被験者に投与することができる。
【0012】
前述および他の特徴および長所は、添付の図面を参照して進行するいくつかの態様に関する以下の詳細な説明からより明らかとなるであろう。
【0013】
詳細な説明
I.省略語
CS:Spoc細胞からの心前駆(cardiac-precursor)細胞
DNA:デオキシリボ核酸
EGF:上皮細胞増殖因子
EGFP:強化緑色蛍光タンパク質
ES:胚幹
FACS:蛍光性活性化細胞選別
FBS:ウシ胎児血清
FGF:線維芽細胞増殖因子
HSC:造血幹細胞
mRNA:メッセンジャーリボ核酸
PBS:リン酸緩衝生理食塩液
RNase:リボヌクレアーゼ
RT-PCR:逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応
SPOC:骨格筋に基づく心筋細胞前駆体
【0014】
II.用語
特に明記していなければ、技術用語は通常の用途に従って用いられる。分子生物学における一般的な用語の定義は、Oxford University Pressによって刊行されているBenjamin Lewin, 「Genes V」(ISBN 0-19-854287-9), 1994:Blackwell Science Ltd.によって刊行されているKendrew et al.(eds.)「The Encyclopedia of Molecular Biology」(ISBN 0-632-02182-9), 1994;およびVCH Publishers, Inc.によって刊行されているRobert A. Meyers(ed.),「Molecular Biology and Biotechnology : a Comprehensive Desk Reference」(ISBN 1-56081-569-8), 1995において見いだされるであろう。
【0015】
本開示の様々な態様に関する論評を容易にするために、専門用語に関する以下の説明を提供する。
【0016】
成体:完全な体格および強度を有する、十分に発達して身体的に成熟した被験者。
【0017】
動物:例えば哺乳動物および鳥類が含まれる範疇である、生きている多細胞脊椎生物。
【0018】
抗体:免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、例えば抗原に特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位を含む分子。
【0019】
天然に存在する抗体(例えば、IgG、IgM、IgD)には、四つのポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合によって互いに繋がれた二つの重(H)鎖および二つの軽(L)鎖が含まれる。しかし、抗体の抗原結合機能は、天然に存在する抗体の断片によって行われうることが示されている。
【0020】
免疫グロブリンおよびその特定の変種が公知であり、多くは組換え型細胞培養において調製されている(例えば、米国特許第4,745,055号;米国特許第4,444,487号;国際公開公報第88/03565号;欧州特許第256,654号;欧州特許第120,694号;欧州特許第125,023号;Faoulkner et al., Nature 298:286, 1982;Morrison, J. Immunol. 123:793, 1979;Morrison et al., Ann. Rev. Immunol. 2:239, 1984を参照されたい)。
【0021】
抗体断片(特異的抗原結合を有する断片):Fab、(Fab')2、Fv、および一本鎖Fv(scFv)を含む様々な抗体断片が定義されている。これらの抗体断片は以下のように定義される:(1)Fab、無傷の軽鎖および一つの重鎖の一部を生じるように、酵素パパインによる抗体全体の消化によって産生された、または遺伝子操作によって同等に産生された、抗体分子の一価の抗体結合断片を含む断片;(2)Fab'、抗体全体をペプシンによって処置して、還元後、無傷の軽鎖および重鎖の一部を生じることによって得られた抗体分子の断片;抗体分子あたりFab'断片2個が得られる:(3)(Fab')2、その後の還元を行わずに抗体全体を酵素ペプシンによって処置することによって、または遺伝子操作によって同等に得られた抗体の断片;(4)F(Ab')2、ジスルフィド結合によって結合した二つのFAb'断片の二量体;(5)Fv、二つの鎖として発現される軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域とを含む遺伝子操作された断片;および(6)一本鎖抗体(「SCA」)、遺伝子融合された一本鎖分子として適したポリペプチドリンカーによって連結された軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域を含む遺伝子操作された分子。これらの断片を作製する方法は当技術分野において日常的である。
【0022】
抗原:抗体によって特異的に認識され、結合される分子(例えば、ポリペプチド)。抗体産生を誘導することができる抗原は、免疫原と呼ばれる。
【0023】
結合力:抗原と抗体のような、二つの分子間の相互作用の全体的な強度。結合力は相互作用の親和性と結合価の双方に依存する。したがって、五量体IgM抗体の多価抗原の結合部位10個に対する結合力は、同じ抗原に関する二量体IgG分子の結合力よりはるかに大きい可能性がある。
【0024】
心筋:心臓は平滑筋および骨格筋の双方と何らかの類似性を有する特殊な筋組織で構成される。これは不随意で、平滑筋と同様に単核である。心筋は骨格筋のような横紋を有し、このことはサルコメアと平行に配置された顕微鏡によって可視化される筋フィラメントを有することを意味している。これらのフィラメントは、骨格筋において起こる場合と同じように収縮のプロセスにおいて互いにスライドする。しかし、心筋は、骨格筋の場合ほど横紋が構築されないことから、より多くのミトコンドリアを含む。心筋はまた、心筋の分岐における線維が、通常中心に位置する核を有するという点において、骨格筋とは異なる。心筋におけるもう一つの差は、心筋細胞のあいだの特殊化されたつなぎとして作用する境界板の存在である。これらの堅固なつなぎによって、活動電位が一つの細胞から他の細胞へと自由に移動できるようにイオンのほぼ完全に自由な運動が可能となる。この配置によって、心筋組織は機能的なシンシチウムとなる。一つの細胞が興奮すると、得られた活動電位がその全てに広がる。これは、それによって心房または心室の筋肉が、強制的に血液を送り出すための単位として収縮することができるという点において重要な特徴である。心筋は、洞房結節からその自身の興奮性インパルスを生成することができ、これが生物学的ペースメーカーのような挙動を示す。このようにして、心筋の収縮シグナルは心臓自身に起源を有する。しかし、自律神経系(例えば、迷走神経を通して)は、シグナルをどれほど早く生成して心臓全体に伝搬するかに対する制御を発揮することができ、これは心筋の収縮速度を調節する。「心筋細胞」は、心筋の細胞である。
【0025】
Spocからの心前駆細胞(CS細胞):Spoc細胞を骨格筋から単離して、その増殖を促進するように設計された増殖条件で培養すると、Spoc細胞は数回の分裂を行う。この増殖段階において、それらはSpoc細胞と比較して直径が増加した浮遊する丸い細胞のクラスタとなる。これらの直径が増加した丸い細胞は、CS細胞と呼ばれる。一つの態様において、CS細胞の直径は約10〜約14μmである。インビトロで増殖促進条件に置くと、CS細胞は自発的に拍動する心筋細胞に分化する。CS細胞のサブセットは、ニューロン表現型を有する細胞に分化することができる。
【0026】
細胞表面マーカー:細胞を同定するために役立つように作用する細胞の表面上に発現されたタンパク質、糖タンパク質、または他の分子。細胞表面マーカーは一般的に、通常の方法によって検出することができる。特異的な非制限的な細胞表面マーカー検出法の例は、免疫組織化学、蛍光性活性化細胞選別(FACS)、または酵素分析である。
【0027】
中枢神経系(CNS):高濃度の細胞体およびシナプスを含み、神経活性の主な統合部位である動物の神経系の一部。高等動物では、CNSは一般的に脳および脊髄を指す。
【0028】
相補性決定領域(CDR):CDRは、結合した抗原の三次元構造と相補的である抗原結合表面を形成する抗体分子の可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)領域のそれぞれにおける3個の超可変領域である。重鎖または軽鎖のN-末端から進行して、これらの相補性決定領域はそれぞれ、「CDR1」、「CDR2」、および「CDR3」と呼ばれる。CDRは、抗原-抗体結合に関係し、CDR3は、抗原-抗体結合に対して特異的な独自の領域を含む。したがって、抗原-結合部位には、重鎖および軽鎖V領域のそれぞれからのCDR領域を含むCDR 6個が含まれてもよい。CDR領域内での一つのアミノ酸の変化は、特異的抗原に対する抗体の親和性を破壊しうる(Abbas et al., 「Cellular and Molecular Immunology」, 4th ed. 143〜5, 2000を参照されたい)。CDRの位置は、例えばKabat et al., 「Sequences of Proteins of Immunologic Interest」, U.S. Department of Health and Human Services, 1983によって正確に定義されている。
【0029】
分化:比較的特殊化されていない細胞(例えば、幹細胞)が、成熟細胞の特徴である特殊な構造的および/または機能的特徴を獲得するプロセス。同様に、「分化する」とはこのプロセスを指す。典型的に、分化の際に、細胞構造は変化して、組織特異的タンパク質が出現する。「分化した筋細胞」という用語は、特殊な筋細胞タイプの特徴であるタンパク質を発現する細胞を指す。分化した筋細胞には、骨格筋細胞、平滑筋細胞、および心筋細胞が含まれる。
【0030】
分化培地:培養細胞の増殖および生存を支持するために必要な栄養を有し、幹細胞の分化細胞への分化を許容する合成培養条件のセット。
【0031】
DNA:デオキシリボ核酸。DNAは、ほとんどの生きている生物(いくつかのウイルスはリボ核酸(RNA)を含む遺伝子を有する)の遺伝子材料を含む長鎖ポリマーである。DNAポリマーにおける反復単位は、異なるヌクレオチド4個であり、そのそれぞれが、それに対してリン酸基が付着しているデオキシリボース糖に結合した四つの塩基、アデニン、グアニン、シトシン、およびチミンの一つを含む。ヌクレオチドのトリプレット(コドンと呼ばれる)は、ポリペプチドにおいてそれぞれのアミノ酸をコードする。コドンという用語はまた、それに対してDNA配列が転写されるmRNAにおける三つのヌクレオチドの対応する(および相補的)配列に関しても用いられる。
【0032】
上皮細胞増殖因子(EGF):特定の例において、EGFはアミノ酸53個からなる6.4 kDaの球状のタンパク質である。これは、生物活性にとって必須である分子内ジスルフィド結合3個を含む。EGFタンパク質は進化的に厳密に保存されている。ヒトEGFとマウスEGFは、共通のアミノ酸37個を有する。ヒトEGFと、他の種から単離したEGFとのあいだには、約70%の相同性が認められる。哺乳動物のEGFには、マウス、トリ、イヌ、ウシ、ブタ、ウマ、およびヒトEGFが含まれるがそれらに限定されるわけではない。アミノ酸配列およびこれらのEGFポリペプチドを作製する方法は、当技術分野で周知である。
【0033】
EGF前駆体をコードする遺伝子は、長さが約110 kbであり、エキソン24個を含む。これらのエキソンの15個は、他のタンパク質において認められるドメインと相同であるタンパク質ドメインをコードする。ヒトEGF遺伝子は、染色体4q25〜q27にマッピングされる。
【0034】
EGFは、外胚葉、中胚葉、および内胚葉起源の多くの細胞に関する強いマイトジェンである。EGFは、線維芽細胞、腎上皮細胞、ヒトグリア細胞、卵巣顆粒膜細胞、および甲状腺細胞を含む表皮および上皮細胞の増殖をインビトロで制御および刺激する。EGFはまた、胚細胞の増殖を刺激する。しかし、いくつかの細胞株の増殖は、EGFによって阻害されることが示されている。
【0035】
EGFはまた、いくつかの細胞タイプに関して分化因子として作用することも知られている。これは、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン、およびグリコサミノグリカンを含む細胞外マトリクスのタンパク質の合成および代謝回転に強く影響を及ぼし、線維芽細胞および上皮細胞の強い走化性誘引物質であることが示されている。
【0036】
EGFは、細胞集団の増殖を評価する細胞に基づくアッセイにおいてアッセイすることができる。EGFはまた、ELISAアッセイのようなイムノアッセイによってもアッセイすることができる。
【0037】
完全長の配列より小さいEGFの断片もまた、本明細書に開示の方法において用いることができる。適した生物活性変種も同様に利用することができる。用いられるEGF変種の一つの特異的な非制限的な例は、EGFの生物機能が保持されている一つまたは複数のアミノ酸置換、挿入、または欠失を有するEGF配列である。EGF変種のもう一つの特異的な非制限的な例は、EGFの生物機能が保持されている限り、グリコシル化もしくはリン酸化が変化している、または外来部分が付加されているEGFである。EGF断片、類似体、および誘導体を作製する方法は、当技術分野において利用可能である。EGF変種の例は当技術分野において公知であり、例えば米国特許第5,218,093号および国際公開公報第92/16626A1号に記述されている。多くの異なる種からのEGFの例は、変種の例であって、それらを産生するための戦略と同様に、国際公開公報第92/16626A1号に開示されている。
【0038】
本明細書において用いられるように、「EGF」は天然に存在するEGF、ならびに本明細書に開示の培養培地においてEGFの同じ機能を行う変種および断片を指す。
【0039】
胚幹(ES)細胞:発達中の胚盤胞の内細胞塊から単離された全能性細胞であって、体(骨、筋、脳細胞等)に存在する全ての細胞を産生することができる。「ES細胞」は、任意の生物、例えばヒトのような哺乳動物に由来しうる。
【0040】
エピトープ:アミノ酸配列の特異性によって決定される、抗体によって認識される抗原上の部位。競合的結合アッセイ(例えば、Junghans et al., Cancer Res. 50:1495〜1502, 1990を参照されたい)において測定した場合に、それぞれが他の物質と抗原との結合を競合的に阻害(遮断)すれば、二つの抗体は同じエピトープに結合すると言われる。または、二つの抗体は、一つの抗体の結合を減少または消失させる抗原におけるほとんどのアミノ酸変異が、他の結合を減少または消失させれば、同じエピトープに結合する。二つの抗体は、それぞれが抗原に対する他の結合を部分的に阻害すれば、および/または一つの抗体の結合を減少または消失させるいくつかのアミノ酸変異がもう一つの結合を減少または消失させれば、重なり合うエピトープを有すると言われる。
【0041】
増大する:細胞培養において細胞の数または量が、細胞分裂により増加するプロセス。同様に、「増大」または「増大した」という用語はこのプロセスを指す。「増殖する」、「増殖」、または「増殖した」という用語は、「増大する」、「増大」、または「増大した」という語と互換的に用いてもよい。
【0042】
線維芽細胞増殖因子(FGF):任意の動物に由来する任意の適した線維芽細胞増殖因子、ならびにその機能的変種および断片。多様なFGFが公知であり、これにはFGF-1(酸性線維芽細胞増殖因子)、FGF-2(塩基性線維芽細胞増殖因子、bFGF)、FGF-3(int-2)、FGF-4(hst/K-FGF)、FGF-5、FGF-6、FGF-7、FGF-8、およびFGF-9が含まれるがそれらに限定されるわけではない。FGFは、FGF-1、FGF-2、FGF-4、FGF-6、FGF-8、もしくはFGF-9、またはその生物活性断片もしくは変異体のような線維芽細胞増殖因子タンパク質を指す。FGFは、任意の動物種に由来しうる。一つの態様において、FGFは、齧歯類、鳥類、イヌ、ウシ、ブタ、ウマ、およびヒトが含まれるがそれらに限定されるわけではない哺乳動物FGFである。アミノ酸配列およびFGFの多くを作製するための方法は、当技術分野で周知である。
【0043】
記述の断片より小さいFGFの断片も同様に用いることができる。
【0044】
適した生物活性変種はFGF類似体または誘導体となりうる。FGFの類似体は、天然のFGF配列および一つまたは複数のアミノ酸置換、挿入、または欠失を有する構造を含むFGFまたはFGF断片のいずれかである。一つまたは複数のペプトイド配列(ペプチド模倣配列)を有する類似体も同様に含まれる(例えば、PCT公開番号国際公開公報第91/04282号を参照されたい)。FGF活性が維持される限り、「誘導体」とは、FGF、FGF断片、またはグリコシル化、リン酸化、もしくは外来部分の他の付加のようなそのそれぞれの類似体、の任意の適した改変を意図する。FGF断片、類似体、および誘導体を作製する方法は、当技術分野で利用可能である。
【0045】
フレームワーク領域(FR):抗体の重鎖および軽鎖可変領域内の三つの非常に異なる相補性決定領域(CDR)に隣接する比較的保存された配列。したがって、抗体重鎖または軽鎖の可変領域は、FRおよび三つのCDRからなる。いくつかのFR残基は、結合した抗原に接触する可能性がある;しかし、FRは主に、抗原結合部位、特にCDRに直接隣接するFR残基への可変領域の折り畳みの原因である。理論に拘束されたくはないが、抗体のフレームワーク領域は、CDRを配置して整列させるように作用する。異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域は、種において比較的保存されている。「ヒト」フレームワーク領域は、天然に存在するヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域と実質的に同一である(約85%、またはそれ以上、通常90〜95%またはそれ以上)フレームワーク領域である。
【0046】
イオンチャネル型NMDA型グルタミン酸受容体1型(GRIN1):N-メチル-D-アスパラギン酸受容体の重要なサブユニットであるタンパク質。GRIN1はまた、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体チャンネル、サブユニットζ-1、NMDAR1、またはNR1と呼ばれることがある。グルタミン酸受容体チャンネルスーパーファミリーのメンバーは、イオンチャネル内蔵型受容体を形成するように整列した多数のサブユニットを有するヘテロメリックタンパク質複合体である。これらのサブユニットは、記憶および学習の基礎となると考えられているシナプスの可塑性において重要な役割を有すると考えられている。
【0047】
GRIN1をコードする遺伝子は、エキソン21個からなり、選択的にスプライシングされて、C-末端が異なる転写物変種を産生する。ヒトGRIN1スプライス変種NR-1-1は、エキソン20が欠失しており、エキソン21において選択的スプライシングされ、異なるC-末端を有する短いイソ型NR1-1が得られる。ヒトGRIN1スプライス変種NR1-2は、エキソン20を欠失して、エキソン21においてスプライシングされ、中間のイソ型NR1-2を生じる。ヒトGRIN1スプライス変種NR1-3には、転写物変種NR1-2のそれと一致するエキソン21の選択的スプライシングによってより長いイソ型が得られるエキソン21個全てが含まれる。エキソン5の配列はヒトとラットで同一であるが、ラットにおけるエキソン5の選択的スプライシングは、ヒトにおいてまだ証明されなければならない。ラットでは、スプライス変種8個が同定されている(NMDAR1-1a、1b、2a、2b、3a、3b、4a、および4b)。
【0048】
増殖因子:細胞の増殖、生存、および/または分化を促進する物質。一般的に、増殖因子は、それがその受容体に結合すると、細胞の増殖または成熟を刺激する。一つの態様において、増殖因子は、ポリペプチドホルモンまたは筋細胞の増殖、分裂、および成熟を制御する生体因子の複雑なファミリーである。もう一つの態様において、増殖因子は、筋幹細胞の増殖を促進するため、および幹細胞を未分化の状態で維持するために用いることができる。増殖因子は、天然に存在する因子または分子生物学技術を用いて合成される因子となりうる。増殖因子の例には、中でも、血小板由来増殖因子、線維芽細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子、インスリン、ソマトメジン、幹細胞因子、血管内皮増殖因子、顆粒球コロニー刺激因子、およびトランスフォーミング増殖因子βが含まれる。筋細胞増殖因子は、筋細胞の発達(成熟)、分化、分裂、または増殖に影響を及ぼす増殖因子である。
【0049】
増殖培地:微生物または培養細胞の増殖または生存を支持するために必要な栄養を有する合成培養条件の組。
【0050】
心臓:血液を循環させる動物の筋組織。心臓の壁は、作用する筋または心筋、および結合組織を含む。心筋は、本明細書において心細胞、心臓の筋細胞、心筋細胞、および/または心線維とも呼ばれる心筋の細胞を含む。心筋細胞は、心房の細胞または心室の細胞であってもよい。「心細胞」は、心臓の細胞を指す。
【0051】
異種:異種配列は、第二の配列に隣接して通常(例えば、野生型配列において)認められない配列である。一つの態様において、配列は、ウイルスまたは生物のような、第二の配列とは異なる遺伝的起源に由来する。
【0052】
免疫グロブリン:免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされる一つまたは複数のポリペプチドを含むタンパク質。認識される免疫グロブリン遺伝子には、κ、λ、α(IgA)、γ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、δ(IgD)、ε(IgE)、およびμ(IgM)定常領域遺伝子と共に、無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。完全長の免疫グロブリン軽鎖は一般的に、約25 Kd、またはアミノ酸214個の長さである。完全長の免疫グロブリン重鎖は一般的に約50 kD、またはアミノ酸446個の長さである。軽鎖は、NH2末端で可変領域遺伝子(アミノ酸約110個の長さ)、およびCOOH末端でκまたはλ定常領域遺伝子によってコードされる。重鎖も、可変領域遺伝子(アミノ酸約116個の長さ)および他の定常領域遺伝子の一つによって同様にコードされる。
【0053】
抗体の基本構造単位は、一般的にそれぞれの対が一つの軽鎖および一つの重鎖を有する免疫グロブリン鎖の二つの同一の対からなる四量体である。それぞれの対において、軽鎖および重鎖可変領域は、抗原に結合して、定常領域はエフェクター機能を媒介する。免疫グロブリンはまた、例えば、Fv、Fab、およびF(ab')2と共に二機能ハイブリッド抗体および一本鎖抗体(例えば、Lanzavecchia et al., Eur. J. Immunol. 17:105, 1987;Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879〜5883, 1988;Bird et al., Science 242:423〜426, 1988;Hood et al.,「Immunology」, Benjamin, N.Y., 2nd ed., 1984;Hunkapiller and Hood, Nature 323:15〜16, 1986)を含む他の多様な型で存在する。
【0054】
免疫グロブリン軽鎖または重鎖可変領域には、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる三つの超可変領域によって中断されるフレームワーク領域が含まれる(「Sequences of Proteins of Immunological Interest」, E. Kabat, et al., U.S. Department of Health and Human Services, 1983を参照されたい)。先に述べたように、CDRは抗原のエピトープに対する結合の主な原因である。
【0055】
キメラ抗体は、その軽鎖および重鎖遺伝子が、典型的に遺伝子操作によって、異なる種に属する免疫グロブリン可変および定常領域遺伝子から構築されている抗体である。例えば、マウスモノクローナル抗体からの遺伝子の可変セグメントを、κ、およびγ1またはγ3のようなヒト定常セグメントに接合させることができる。一つの例において、このように治療的キメラ抗体は、マウス抗体からの可変または抗原結合ドメインと、ヒト抗体からの定常またはエフェクタードメインとで構成されるハイブリッドタンパク質である(例えば、ATCCアクセッション番号CRL 9688は抗Tacキメラ抗体を分泌する)が、他の哺乳動物種を用いることができ、または可変領域を分子技術によって産生することができる。キメラ抗体を作製する方法は当技術分野において公知であり、例えば参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,807,715号を参照されたい。
【0056】
「ヒト化」免疫グロブリンは、ヒトフレームワーク領域と非ヒト(マウス、ラット、または合成)免疫グロブリンからの一つまたは複数のCDRとを含む免疫グロブリンである。CDRを提供する非ヒト免疫グロブリンは、「ドナー」と呼ばれ、フレームワークを提供するヒト免疫グロブリンは、「アクセプター」と呼ばれる。一つの態様において、CDRは全て、ヒト化免疫グロブリンにおけるドナー免疫グロブリンに由来する。定常領域は存在する必要はないが、存在する場合は、それらはヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一、例えば約95%またはそれ以上同一のような、少なくとも約85〜90%同一でなければならない。ヒト化抗体のドナーCDRは、アクセプターCDRからのアミノ酸を用いて限られた数の置換を有しうる。したがって、おそらくCDRを除くヒト化免疫グロブリンの全ての部分は、天然のヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。「ヒト化抗体」は、ヒト化軽鎖とヒト化重鎖免疫グロブリンとを含む抗体である。ヒト化抗体は、CDRを提供するドナー抗体と同じ抗原に結合する。ヒト化免疫グロブリンまたは抗体のアクセプターフレームワークは、ドナーフレームワークから得たアミノ酸による限られた数の置換を有しうる。ヒト化または他のモノクローナル抗体は、抗原結合または他の免疫グロブリン機能に実質的に影響を及ぼさないさらなるアミノ酸置換を有しうる。例としての同類置換は、gly、ala;val、ile、leu;asp、glu;asn、gln;ser、thr;lys、arg;およびphe、tyr(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,585,089号を参照されたい)のような置換である。ヒト化免疫グロブリンは、遺伝子操作によって構築することができ、例えば参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,225,539号および米国特許第第5,585,089号を参照されたい。
【0057】
ヒト抗体は、軽鎖および重鎖遺伝子がヒト起源である抗体である。ヒト抗体は、当技術分野で公知の方法を用いて産生することができる。ヒト抗体は、関心対象抗体を分泌するヒトB細胞を不死化することによって産生されうる。不死化は、例えばEBV感染によって、またはヒトB細胞を骨髄腫に融合させる、もしくはハイブリドーマ細胞に融合させてトリオーマ細胞を産生することによって得ることができる。ヒト抗体はまた、ファージディスプレイ法によっても産生されうる(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Dower et al., PCT公開番号国際公開公報第91/17271号;McCafferty et al., PCT公開番号国際公開公報第92/001047号;およびWinter, PCT公開番号国際公開公報第92/20791号を参照されたい)、またはヒト組み合わせモノクローナル抗体ライブラリから選択されうる(Morphosysのウェブサイトを参照されたい)。ヒト抗体はまた、ヒト免疫グロブリン遺伝子を有するトランスジェニック動物を用いることによっても調製することができる(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Lonberg et al., PCT公開番号国際公開公報第93/12227号;およびKucherlapati, PCT公開番号国際公開公報第91/10741号を参照されたい)。
【0058】
単離された:「単離された」生体成分(核酸分子、タンパク質、またはオルガネラのような)は、成分が天然に存在する生物の細胞における他の生体成分、例えば他の染色体および染色体外DNAおよびRNA、タンパク質、ならびにオルガネラから実質的に分離されているまたは精製されている。「単離され」ている核酸およびタンパク質には、標準的な精製法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。この用語はまた、宿主細胞における組換え型発現によって調製された核酸およびタンパク質と共に化学合成された核酸を含む。
【0059】
哺乳動物:この用語には、ヒトおよび非ヒト哺乳動物の双方が含まれる。同様に、「被験者」という用語には、ヒトおよび獣医学被験者の双方が含まれる。
【0060】
モノクローナル抗体:B-リンパ球の単一のクローンによって、またはその中に一つの抗体の軽鎖および重鎖遺伝子がトランスフェクトされている細胞によって産生された抗体。モノクローナル抗体は、当業者に公知の方法によって、例えば骨髄腫細胞と免疫脾臓細胞との融合からハイブリッド抗体形成細胞を作製することによって産生される。
【0061】
筋肉細胞:骨格筋、心筋、または平滑筋の組織細胞が含まれる。この用語は、筋細胞と同義語であり、分化してより特殊な筋肉細胞(例えば、筋芽細胞)を形成する細胞を含む。「心筋細胞」は心筋の細胞を指す。
【0062】
神経障害:中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)を含む神経系の障害。神経障害の例には、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、てんかんを含む重度の急発作障害、家族性自律神経異常症と共に、神経毒性損傷のような神経系に対する損傷または外傷、中毒のような気分および行動障害、統合失調症、ならびに筋萎縮性側索硬化症が含まれる。神経障害にはまた、レーヴィ小体認知症、多発性硬化症、てんかん、小脳性運動失調、進行性核上麻痺、筋萎縮性側索硬化症、情動障害、不安障害、強迫性障害、人格障害、注意欠陥障害、注意欠陥多動障害、トゥーレット症候群、テイサックス、ニーマンピック、および他の脂質貯蔵および遺伝的脳疾患および/または統合失調症が含まれる。「神経変性障害」は、ニューロンの完全性が脅かされている、哺乳動物のような被験者の神経系における異常である。理論に拘束されたくはないが、ニューロンの完全性は、ニューロン細胞が生存の減少を示す場合、またはニューロンがもはやシグナルを伝達できない場合に脅かされうる。神経変性障害の特異的な非制限的な例は、アルツハイマー病、パントテン酸キナーゼ関連神経変性、パーキンソン病、ハンチントン病(Dexter et al., Brain 114:1953〜1975, 1991)、HIV脳症(Miszkziel et al., Magnetic Res. Imag. 15:1113〜1119, 1997)および筋萎縮性側索硬化症である。
【0063】
アルツハイマー病は、前老人性認知症として表れる。この疾患は、哺乳動物における混乱、記憶不全、見当識障害、情動不安、言語障害、および幻覚を特徴とする(「Medical, Nursing, and Allied Health Dictionary」, 4th Ed., 1994, Editors: Anderson, Anderson, Glanze, St. Louis, Mosby)。
【0064】
パーキンソン病は、安静時振せん、体位反射の喪失、ならびに筋硬直および虚弱を特徴とする、徐々に進行する変性性神経障害である(「Medical, Nursing, and Allied Health Dictionary」, 4th Ed., 1994, Editors: Anderson, Anderson, Glanze, St. Louis, Mosby)。
【0065】
筋萎縮性側索硬化症は、手、前腕、および脚の筋肉の虚弱および萎縮を特徴とし、体および顔のほとんどに罹患するまで広がる運動ニューロンの変性疾患である(「Medical, Nursing, and Allied Health Dictionary」, 4th Ed., 1994, Editors: Anderson, Anderson, Glanze, St. Louis, Mosby)。
【0066】
パントテン酸キナーゼ関連神経変性(PKAN、ハレルフォルデン-スパッツ症候群としても知られる)は、脳の鉄蓄積に関連した常染色体劣性神経変性障害である。臨床特徴には、小児期に発症する錐体外路機能障害および容赦ない進行性の経過が含まれる(Dooling et al., Arch. Neurol. 30:70〜83, 1974)。PKANは、最初の20年に発症した古典的な疾患、ジストニー、特徴的なX線撮影所見を有する淡蒼球の高い鉄含有(Angelini et al., J. Neurol. 239:417〜425, 1992)、およびしばしば色素性網膜症または視神経萎縮(Dooling et al., Arch. Neurol. 30:70〜83, 1974;Swaiman et al., Arch. Neurol. 48:1285〜1293, 1991)が含まれる臨床的に異質な群の障害である。
【0067】
「神経変性関連障害」は、神経変性障害に関連する言語障害のような障害である。神経変性関連障害の特定の非制限的な例には、同語反復、早口、反響言語、歩行障害、反復行動、運動緩慢、痙攣、硬直、網膜症、視神経萎縮、講音障害、および認知症が含まれるがそれらに限定されるわけではない。
【0068】
N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体:グルタミン酸受容体チャンネルスーパーファミリーのメンバーであるグルタミン酸のイオン誘起性受容体。スーパーファミリーのメンバーは、イオンチャネル内蔵型受容体を形成するように配列した多数のサブユニットを有するヘテロメリックタンパク質複合体である。これらのサブユニットは、記憶および学習の基礎となると考えられているシナプスの可塑性において重要な役割を有する。
【0069】
グルタミン酸受容体は、哺乳動物の脳における主な興奮性神経伝達物質受容体であり、多様な正常な神経生理的プロセスにおいて活性化される。グルタミン酸受容体の分類は、異なる薬理学的アゴニストに対するその薬理学的反応に基づいている。このように、一つのクラスのNMDA受容体は、アゴニストとしてN-メチル-D-アスパラギン酸を有する。NMDA受容体mRNAは、脳全体のニューロン細胞において、特に海馬、大脳皮質、および小脳において発現される。
【0070】
それぞれのNMDA受容体はサブユニット4個または5個を含む。受容体オリゴマーは、三つの遺伝子ファミリーのメンバーで形成される。サブユニットは、NR1(σ、σ受容体には関連しない)、NR2(ε)A-D、およびNR3 A-Cと呼ばれる。それぞれのサブユニットは細胞外リガンド結合ドメインを有し、これは、膜貫通イオン孔に連結している。最も一般的な配置は、グリシンに結合するNR1サブユニット2個およびグルタミン酸に結合するNR2 2個を含む。GRIN1は、NR1サブユニットの例である。現在では、NMDA受容体サブユニット5個が、ラットおよびマウス脳において特徴が調べられている。NMDA受容体の独自の特徴は、この受容体の一部であるイオンチャンネルの効率的な開放のために(1)グルタミン酸および(2)コ-アゴニストであるグリシンの双方を必要とする点である。第三の必要条件は、膜の脱分極である。
【0071】
NMDA受容体は、多数の内因性および外因性の化合物によって調節される。マグネシウムは、電位依存的にNMDAチャンネルを遮断するのみならず、陽性膜電位でのNMDA誘導反応を増強する。Na+、K+、およびCa2+は、NMDA受容体チャンネルを通過するのみならず、NMDA受容体の活性を調節する。Zn2+は、NMDA電流を非競合的におよび電位非依存的に遮断する。ポリアミンは、NMDA受容体を直接活性化するのではなく、その代わりにグルタミン酸媒介反応を増強または阻害するように作用する。NMDA受容体の活性はまた、H+濃度の変化に対して顕著に感受性があるが、生理的条件下でH+の周囲温度によって部分的に阻害される。
【0072】
ヌクレオチド:「ヌクレオチド」には、ピリミジン、プリン、またはその合成類似体のような糖に連結した塩基、またはペプチド核酸(PNA)のようにアミノ酸に連結した塩基が含まれる単量体が含まれるがそれらに限定されるわけではない。ヌクレオチドは、ポリヌクレオチドにおける一つの単量体である。ヌクレオチド配列はポリヌクレオチドにおける塩基の配列を指す。
【0073】
機能的に連結した:第一の核酸配列が第二の核酸配列と機能的な関係に置かれる場合に、第一の核酸配列は第二の核酸配列に機能的に連結している。例えば、プロモーターは、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、コード配列に機能的に連結している。一般的に、機能的に連結したDNA配列は隣接しており、二つのタンパク質コード領域を接合する必要がある場合には同じ読み取り枠に存在する。
【0074】
末梢神経系(PNS):中枢神経系以外の動物の神経系の一部。一般的に、PNSは体の末梢部分に位置して、これには頭蓋神経、脊髄神経、およびその分岐、ならびに自律神経系が含まれる。
【0075】
薬学的に許容される担体:「Remington's Pharmaceutical Sciences」, E.W. Martin, Mack Publishing Co., Easton, PA, 15 th Edition(1975)は、本明細書に開示される幹細胞の薬学的送達に適した組成物および製剤を記述している。
【0076】
一般的に、担体の性質は、用いられる特定の投与様式に依存するであろう。例えば、非経口製剤は、通常、水、生理食塩液、緩衝塩類溶液、水性デキストロース、グリセロール等のような薬学的および生理的に許容される液体を媒体として含む注射液を含む。生物学的に中性の担体の他に、投与される薬学的組成物は、湿潤剤または乳化剤、保存剤、およびpH緩衝剤等、例えば酢酸ナトリウム、またはモノラウリン酸ソルビタンのような微量の非毒性補助物質を含みうる。
【0077】
薬学的薬剤:被験者または細胞に適切に投与した場合に、所望の治療的または予防効果を誘導することができる化学化合物、細胞、または組成物を指す。「インキュベートする」という語には、物質が細胞と相互作用するために十分な期間、標的を物質に曝露することが含まれる。「接触させる」という語には、固体または液体型の物質を細胞と共にインキュベートすることが含まれる。
【0078】
ポリペプチド:単量体がアミド結合を通して互いに接合しているアミノ酸残基であるポリマー。アミノ酸がαアミノ酸である場合、L-光学異性体またはD-光学異性体のいずれかを用いることができるが、L-異性体が好ましい。本明細書において用いられる「ポリペプチド」または「タンパク質」という用語は、任意のアミノ酸配列を含むと意図され、これには糖タンパク質のような改変配列が含まれる。「ポリペプチド」という用語は特に、天然に存在するタンパク質と共に、組換えまたは合成によって産生されたタンパク質を含むと意図される。
【0079】
「ポリペプチド断片」という用語は、少なくとも一つの有用なエピトープを示すポリペプチドの一部を指す。「ポリペプチドの機能的断片」という用語は、ポリペプチドの活性を保持するポリペプチドの全ての断片を指す。例えば生物学的に機能的な断片は、抗体分子に結合することができるエピトープのように小さいポリペプチド断片から、細胞内における表現型の変化の特性的な誘導またはプログラミングに関与することができる大きいポリペプチドまで、多様な大きさとなりうる。「エピトープ」は、抗原との接触に反応して産生される免疫グロブリンに結合することができるポリペプチドの領域である。このように、インスリン、またはインスリンの保存的変種の生物活性を含むより小さいペプチドは有用であるとして含まれる。
【0080】
「可溶性」という用語は、細胞膜に挿入されないポリペプチドの型を指す。
【0081】
「実質的に精製されたポリペプチド」という用語は本明細書において、実質的に他のタンパク質、脂質、糖質、または天然において会合する他の材料を含まないポリペプチドを指す。一つの態様において、ポリペプチドは、他のタンパク質、脂質、糖質、または天然において会合する他の材料を、少なくとも50%、例えば少なくとも80%含まない。もう一つの態様において、ポリペプチドは、他のタンパク質、脂質、糖質、または天然において会合する他の材料を、少なくとも90%含まない。さらにもう一つの態様において、ポリペプチドは、他のタンパク質、脂質、糖質、または天然において会合する他の材料を、少なくとも95%含まない。
【0082】
同類置換は、一つのアミノ酸を、大きさ、疎水性等が類似であるもう一つのアミノ酸に置換する。同類置換の例を以下に示す。

【0083】
アミノ酸の変化が起こるcDNA配列の変化は、それが同類であるか否かによらず、通常、コードされるタンパク質の機能的および免疫学的同一性を保存するために最小限となる。タンパク質の免疫学的同一性は、抗体によって認識されるか否かを決定することによって評価してもよい;そのような抗体によって認識される変種は免疫学的に保存されている。如何なるcDNA変種も好ましくは、コードされるポリペプチドにアミノ酸置換わずか20個のみが導入され、好ましくは10個より少ないアミノ酸置換が導入されるであろう。変種アミノ酸配列は、例えば本来のアミノ酸配列と80、90、またはさらに95%もしくは98%同一であってもよい。同一性率を決定するためのプログラムおよびアルゴリズムは、NCBIウェブサイトにおいて見いだされうる。
【0084】
前駆細胞:少なくとも一つの所定の細胞タイプの、または一つより多い系列の完全に分化した機能的細胞を生成することができる多能性細胞。一般的に前駆細胞は分裂することができる。分裂後、前駆細胞は、前駆細胞のまま留まることもありえて、または最終分化に進行することもある。「筋前駆細胞」は、心筋細胞または骨格筋細胞のような完全に分化した機能的筋細胞を生成することができる前駆細胞である。筋前駆細胞の一つの特異的な非制限的な例は、心筋の細胞を生じる細胞である「心前駆細胞」である。「ニューロン前駆細胞」は、ニューロン細胞に分化することができる前駆細胞である。
【0085】
組換え型:組換え型核酸は、天然に存在しない、またはほかの分離された二つの配列セグメントの人工的な組み合わせによって作製された配列を有する核酸である。この人工的な組み合わせはしばしば、化学合成、またはより一般的に、例えば遺伝子操作技術による単離された核酸セグメントの人工的な手技によって行われる。同様に、組換え型タンパク質は、組換え型核酸分子によってコードされるタンパク質である。
【0086】
配列同一性:二つの核酸配列間、または二つのアミノ酸配列間の類似性は、配列間の類似性の観点から表記され、そうでなければ配列同一性と呼ばれる。配列同一性は、しばしば同一性率(または類似性もしくは相同性)に関して測定される;百分率が高くなれば、二つの配列はより類似である。抗体または抗原結合断片の相同体またはオーソロガス、および対応するcDNA配列は、標準的な方法を用いて整列させた場合に、比較的高い程度の配列同一性を有するであろう。この相同性は、オーソロガスタンパク質またはcDNAが、より遠縁の種(例えば、ヒトとマウス配列)と比較してより近縁である種に由来する場合にはより有意である。
【0087】
比較のための配列アラインメント法は当技術分野で周知である。様々なプログラムおよびアラインメントアルゴリズムが、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482, 1981;Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443, 1970;Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:2444, 1988;Higgins and Sharp, Gene 73:237〜244 9, 1988;Higgins and Sharp, CABIOS 5:151〜153, 1989;Corpet et al., Nuc. Acids. Res. 16:10881〜90, 1988;Huang et al., Computer Appls. in the Biosciences 8:155〜65, 1992;およびPearson et al., Meth. Mol. Bio. 24:307〜31, 1994において記述されている。Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403〜410, 1990は、配列アラインメント法および相同性計算の詳細な検討を示している。
【0088】
骨格筋に基づく心筋細胞の前駆(Spoc)細胞:細胞表面マーカーc-metまたはc-kitを発現しない、骨格筋に由来する多能性細胞。これらの細胞では検出不可能な量のc-kitおよびc-metが発現されているが、それらはまた、c-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-細胞として同定されている。Spoc細胞は、心筋細胞またはニューロンのいずれかに分化させることができる。一つの態様において、Spoc細胞は、インビトロで培養した場合に直径が約4 μm〜約10 μMである筋由来前駆細胞である。これらの細胞は、増殖因子の存在下で培養した場合に、浮遊のままで増殖する。Spoc細胞を繁殖させるために用いられる特異的な非制限的な例は、FGF、EGF、またはその組み合わせである。
【0089】
一つの態様において、Spoc細胞は、インビトロで自発的に拍動する心筋細胞に分化する。増殖段階において(例えば、増殖因子の存在下でインビトロで維持した後約7日)、Spoc細胞はクラスタを形成して、大きさは直径約10〜14μmまで増加する。これらのクラスタにおける細胞は、Spocからの心前駆(CS)細胞と呼ばれ、増殖因子の非存在下で培養した場合に成熟心筋の細胞への分化能を有する。Spoc細胞を単離および分化させる方法は本明細書において開示される。
【0090】
自発的:明白な外的影響なく、内部または天然のプロセスに起因する内部原因から生じる。「自発的に拍動する心筋細胞」は、内部シグナルの結果として拍動し始める細胞である。
【0091】
幹細胞:一つより多い所定の細胞タイプの完全に分化した機能的細胞を生成することができる細胞。幹細胞は全能性となりうる。インビボでの幹細胞の役割は、動物の正常な生活の際に破壊される細胞を置換することである。一般的に、幹細胞は刺激がなくとも分裂することができる。分裂後、幹細胞は、幹細胞のままで留まってもよく、前駆細胞となってもよく、または最終分化に進行してもよい。形態学的に特殊化されていないように見えるが、幹細胞は、さらなる分化の可能性が限定されている状態で分化していると見なされてもよい。「筋幹細胞」は、筋肉に由来するまたは分化後に筋細胞を生じる幹細胞である。筋幹細胞の一つの特異的で非制限的な例は、心筋の細胞を生じる細胞である。
【0092】
被験者:特定の処置のレシピエントである、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、ヒツジ、ウシ、齧歯類等のような任意の哺乳動物。一つの態様において、被験者はヒト被験者またはマウス被験者である。
【0093】
浮遊液:培養培地または等張(生理的に適合性の)緩衝液のような多量の液体全体における細胞のような固体粒子の分散液。
【0094】
シナプス:それを通して神経のインパルスが電導される(シナプス活性)ニューロン間、およびニューロンとエフェクター細胞間の非常に特殊化された細胞間接合部。一般的に、神経のインパルスは、一つのニューロン(シナプス前ニューロン)からの、狭い細胞間間隙を超えて他のニューロンまたはエフェクター細胞(シナプス後ニューロン)に拡散する化学伝達物質(ドーパミンまたはセロトニンのような)の放出によって行われる。一般的に、神経伝達物質は、シナプス後細胞において組み入れられる特異的受容体と相互作用することによって、その作用を発揮する。「シナプス活性」は、成熟ニューロンの特徴である活動電位を受領して伝達する細胞(例えば、分化したニューロン)を指す。
【0095】
治療物質:一般的な意味において用いられる場合、これには処置物質、予防物質、および代用物質が含まれる。
【0096】
治療的有効量:任意の障害または疾患の症状および/または基礎となる原因を予防、処置、低減、および/または改善するために十分な物質(細胞を含む)の量。一つの態様において、「治療的有効量」は、神経障害の症状を低減または消失させるために十分である。もう一つの態様において、治療的有効量は、疾患そのものを克服するために十分な量である。
【0097】
細胞の治療的有効量は、治療経過のあいだ、1回投与または数回投与によって、例えば毎日、投与することができる。しかし、細胞の治療的有効量は、処置される被験者、病態の重症度およびタイプ、ならびに化合物の投与様式に依存するであろう。「投与する」とは、被験者において局所または全身に治療的有効量を導入することによって達成することができる。全身導入は、静脈内、筋肉内、経皮、または皮下手段を用いて行うことができる。そのような手段には、注射またはカテーテルによる治療的有効量の導入が含まれうるであろう。局所投与は、例えば、罹患領域への直接注射、または制御された放出のための基質の埋め込みによって達成することができる。
【0098】
一般的な用語「被験者に治療的有効量を投与する」とは、障害を有するまたは発症する可能性がある全ての動物(例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシ)が含まれると理解される。
【0099】
「トランスフェクトされた」:トランスフェクトされた細胞は、分子生物学技術によって核酸分子が導入されている細胞である。本明細書において用いられるように、形質導入という用語は、ウイルスベクターによる形質導入、プラスミドベクターによる形質転換、ならびに電気穿孔、リポフェクション、および粒子銃加速によるDNAの導入を含む、それによって核酸分子がそのような細胞に導入される可能性がある全ての技術を含む。
【0100】
移植:一つの体または体の一部からもう一つの体または体の一部への、組織、臓器、またはその一部の移入。
【0101】
ベクター:宿主細胞に導入され、それによって形質転換宿主細胞を産生する核酸分子。組換え型DNAベクターは、組換え型DNAを有するベクターである。ベクターには、複製開始点のような宿主細胞においてベクターを複製させる核酸配列が含まれうる。ベクターにはまた、一つまたは複数の選択マーカー遺伝子および当技術分野で公知の他の遺伝子要素が含まれうる。ウイルスベクターは、一つまたは複数のウイルスに由来する少なくともいくつかの核酸配列を有する組換え型DNAベクターである。
【0102】
特に説明していなければ、本明細書において用いた技術および科学用語は全て、本開示が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。単数形「一つの」、「一つの(an)」、および「その」には、本文が明確にそうでないことを示している場合を除き、複数形が含まれる。同様に、「または」という用語には、本文が明確にそうでないことを示している場合を除き「および」が含まれると意図される。さらに、核酸またはポリペプチドに関して与えられた、全ての塩基の大きさまたはアミノ酸の大きさおよび全ての分子量または分子質量値は近似値であり、説明するために提供される。本明細書に記述の方法および材料と類似または同等の方法および材料を、本開示の実践または試験において用いることができるが、適した方法および材料を以下に記述する。「含む」という用語は「含まれる」の意味である。本明細書において言及した全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全内容物が参照により本明細書に組み入れられる。矛盾する場合は、用語の説明を含めて本明細書が優先するであろう。さらに、材料、方法、および実施例は説明するために限られ、制限的に解釈されない。
【0103】
Spoc細胞
骨格筋に由来する幹細胞(Spoc細胞)が単離されている(その双方の全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、2001年10月22日に提出された米国特許出願第10/003,400号、および公開されたPCT公開番号国際公開公報第03/035838 A2号を参照されたい)。Spoc細胞は、細胞表面マーカーc-met、c-kit、またはCD34を発現しない。Spoc細胞は、Sca-1細胞表面マーカー(造血細胞において認められる)に関する選別によってさらに精製することができる。このように、Spoc細胞はSca-1-であり、それらを副集団(SP)細胞と区別する。さらに、spoc細胞はPax3およびPax7転写因子(Pax(3/7))を発現しない。このように、一つの非制限的な実施例において、spoc細胞はc-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-である。
【0104】
Spoc細胞は任意の年齢の、ヒトまたは非ヒトの哺乳動物から単離することができる。このようにSpoc細胞は、任意の哺乳動物種の胚、胎児、子供、または成体から得ることができる。ヒトまたはマウスc-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-細胞は、インビトロで心筋細胞またはニューロンに分化することができる。一つの態様において、Spoc細胞は、直径約3μm〜約10 μmの範囲である。例えば、Spoc細胞の直径は約4μm〜約10μmの範囲となりうる、または直径約4μmである。Spoc細胞の培養条件が同定されており、そのいずれもその全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、2001年10月22日に提出された米国特許出願第10/003,400号および公開されたPCT公開番号国際公開公報第03/035838 A2号に開示されている。
【0105】
簡単に説明すると、Spoc細胞は、筋細胞の浮遊液から大きさによって分離することができ、細胞をCO2の存在下で37℃で固相基質上で培養する。増殖因子の存在下で約7日後に培養培地において浮遊のままで残っている細胞を単離する。この技法は、筋芽細胞および筋衛星細胞を単離するために用いられ、筋芽細胞および筋衛星細胞と比較して線維芽細胞が固相基質により急速に接着することを用いて、混入する線維芽細胞から筋芽細胞および筋衛星細胞を単離する、連続前播種(serial preplating)技術とは異なる。線維芽細胞を除去するための一連の速やかな(15分〜1時間)前播種段階の後、筋芽細胞または筋衛星細胞を固相基質に接着させて、浮遊のまま残っている細胞(本明細書に開示のc-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-細胞が含まれるであろう)を捨てる。
【0106】
Spoc細胞は、被験者の筋肉から得ることができる。当業者に周知の方法を用いて、個々のSpoc細胞を単離または得る目的で、筋組織を調製することができる。組織調製法の例には、コラゲナーゼのような酵素による酵素的消化、携帯式もしくはモーター駆動式ホモジナイザーのような機器を用いる機械的破壊、または例えばカルシウムおよびマグネシウムのキレート剤を用いる化学的破壊が含まれる。
【0107】
単離されたSpoc細胞は培養において維持することができる。Spoc細胞は、心筋細胞またはニューロンにさらに分化させることができる。Spoc細胞は、特異的マーカーの発現によってさらに同定することができる(下記を参照されたい)。Spoc細胞を心筋細胞に分化させるための培養条件が開示されている(下記を参照されたい、およびそのいずれもその全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、2001年10月22日に提出された米国特許出願第10/003,400号および公開されたPCT公開番号国際公開公報第03/035838 A2号に開示されている)。
【0108】
Spoc細胞の心筋細胞への分化は、形態学的変化を観察することによって評価することができる。いくつかの例において、分化したSpoc細胞は、自発的に拍動する心筋細胞である。いくつかの態様において、分化したSpoc細胞では、構築されたギャップ接合部ならびに透明なZ-盤、A-帯、およびI-帯を有するサルコメアが認められる。さらに、分化したSpoc細胞の特定の例は、単核または多核であってもよい。一つの態様において、細胞は二核細胞である。同様に、Spoc細胞またはSpoc細胞のサブセットのニューロンへの分化は、形態学的変化を観察するることによって評価することができる。いくつかの例において、β-チューブリン、ニューロン特異的エノラーゼ、神経伝達物質、またはニューロン細胞に特異的な酵素のような神経学的マーカーの発現を評価することができる。さらに、電圧または活動電位の測定のような電気生理学的手段を用いてSpoc細胞のニューロンへの分化を評価することが可能である。
【0109】
2001年10月22日に提出された米国特許出願第10/003,400号および公開されたPCT公開番号国際公開公報第03/035838号(そのいずれもその全内容物が参照により本明細書に組み入れられる)は、被験者の筋肉から細胞を得る段階を含む、Spoc細胞の単離法を開示している。単離されたSpoc細胞は、関心対象となる核酸分子を細胞に導入するために分子生物学において公知の標準的な技法を用いて形質導入することができる。一つの態様において、核酸分子は、ポリペプチドをコードする。核酸分子によってコードされるポリペプチドは、細胞と同じ種に由来しうる(同種)、または異なる種に由来しうる(異種)。例えば、そのような欠如が特定の障害の症状の原因である、宿主の組織によってペプチドの産生欠如を補充または置換する核酸分子を利用することができる。この場合、細胞はペプチド起源として作用する。一つの特異的で非制限的な例において、ポリペプチドは、心特異的転写因子GATA-4である。
【0110】
抗体
Spoc細胞、Spoc細胞の亜集団、またはニューロン前駆細胞に特異的に結合する抗体を産生することができる。一つの態様において、抗体は全てのSpoc細胞に特異的に結合する。もう一つの態様において、抗体はSpoc細胞の亜集団に結合する。本明細書において、ニューロン前駆細胞であるSpoc細胞の亜集団に特異的に結合する抗体が開示される。一つの例において、抗体は、ヒトまたは非ヒトのいずれかである任意の年齢の哺乳動物からの哺乳動物c-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-に特異的に結合する。このように、抗体は、任意の哺乳動物種の胚、胎児、小児、または成体からのSpoc細胞、Spoc細胞の亜集団、またはニューロン前駆細胞に結合する。一つの態様において、抗体は、ヒト、ブタ、またはマウスのc-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-細胞のような哺乳動物のSpoc細胞に結合する。
【0111】
Spoc細胞のサブセットまたは亜集団はGRIN1ポリペプチドを発現することが本明細書において開示される。このように、GRIN1ポリペプチドの少なくとも8連続アミノ酸に結合する抗体を用いて、Spoc細胞の亜集団のような細胞の特異的亜集団を同定することができる。より具体的には、GRIN1ポリペプチドの少なくとも8連続アミノ酸に結合する抗体を用いて、ニューロン細胞に分化することができる細胞、例えばSpoc細胞の亜集団、またはニューロン前駆細胞を同定することができる。
【0112】
多様な哺乳動物種からのGRIN1およびGRIN1のスプライス変種のアミノ酸配列が当技術分野において公知である。例えば、一つの型のマウスGRIN1は以下のアミノ酸配列(配列番号:1)を有する:

もう一つの型のマウスGRIN1は以下のアミノ酸配列(配列番号:2)を有する:

【0113】
ラットGRIN1のいくつかのイソ型が当技術分野において公知である。例えばラットNMDAR1-1aサブユニットは以下の配列(配列番号:3)を有する:

ラットNMDAR1-1bサブユニットは以下の配列(配列番号:4)を有する:

ラットNMDAR1-2aサブユニットは以下の配列(配列番号:5)を有する:

ラットNMDAR1-2bサブユニットは以下の配列(配列番号:6)を有する:

ラットNMDAR1-3aサブユニットは以下の配列(配列番号:7)を有する:

ラットNMDAR1-3bサブユニットは以下の配列(配列番号:8)を有する:

ラットNMDAR1-4aサブユニットは以下の配列(配列番号:9)を有する:

ラットNMDAR1-4bサブユニットは以下の配列(配列番号:10)を有する:

【0114】
ヒトGRIN1の一つの型は以下の配列(配列番号:11)を有する:

【0115】
ヒトGRIN1には公知のイソ型(スプライス変種)が3個存在する(NR1-1、NR1-2、およびNR1-3)。NR1-1は、以下のアミノ酸配列(配列番号:12)を有する。

ヒトNR1-2は以下のアミノ酸配列(配列番号:13)を有する:

ヒトNR1-3は以下のアミノ酸配列(配列番号:14)を有する:

【0116】
Spoc細胞の亜集団に結合して、ニューロン前駆細胞を同定および/または単離する抗体は、配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの少なくとも8連続アミノ酸に結合することができる。または、Spoc細胞の亜集団またはニューロン前駆細胞に結合する抗体は、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、または配列番号:14に記載したアミノ酸配列を有するポリペプチドの少なくとも8連続アミノ酸に結合することができる。いくつかの態様において、Spoc細胞の亜集団またはニューロン前駆細胞に結合する抗体は、以下のGRIN1ペプチドの少なくとも一つに結合する:

【0117】
Spoc細胞の亜集団に結合する、およびニューロン前駆細胞を同定および/または単離するために用いられる抗体はまた、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、または配列番号:14と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドに結合することができる。
【0118】
Spoc細胞の亜集団に結合する、およびニューロン前駆細胞を同定および/または単離するために用いられる抗体は、完全長のGRIN1ポリペプチドまたは完全長のGRIN1ポリペプチドのスプライス変種に結合することができる。または、抗体は、翻訳後改変における変異または変化が、抗体によって認識される免疫原性エピトープに影響を及ぼさない、野生型GRIN1ポリペプチドと比較して、翻訳後改変において変異または変種を有するGRIN1ポリペプチドに結合することができる。GRIN1の変異体には、野生型GRIN1アミノ酸配列と比較して、GRIN1アミノ酸配列の点突然変異、付加または欠失を有するGRIN1ポリペプチドが含まれる。変化した翻訳後改変を有するGRIN1ポリペプチドには、野生型GRIN1ポリペプチドと比較してグリコシル化、リン酸化、アシル化、アミド化、メチル化、硫酸化、プレニル化等における変化が含まれる。
【0119】
一つの態様において、Spoc細胞の亜集団に結合する、およびニューロン前駆細胞を同定および/または単離する抗体は、804モノクローナル抗体である。このように、804モノクローナル抗体を用いて、Spoc細胞の特異的亜集団、具体的にはニューロン細胞に分化することができるSpoc細胞を同定することができる。この抗体は、ブダペスト条約に基づいて2004年3月24日にAmerican Type Culture CollectionにATCC寄託番号PTA-5888として寄託された。
【0120】
本質的に、異なるエピトープ特異性を有するプールしたモノクローナル抗体からなる抗体であるポリクローナル抗体と共に、別個のモノクローナル抗体調製物が含まれる。
【0121】
ポリクローナル抗体の調製は当業者に周知である。例えば、Green et al.,「Production of Polyclonal Antisera」, in 「Immunochemical Protocols」, pages 1-5, Manson, ed. Humana Press 1992;Coligan et al.,「Production of Polyclonal Antisera in Rabbits, Rats, Mice and Hamsters」, in 「Current Protocols in Immunology」, section 2.4.1, 1992を参照されたい。
【0122】
同様にモノクローナル抗体の調製も周知である。例えば、Kohler & Milstein, Nature 256:495, 1975;Coligan et al., sections 2.5.1〜2.6.7;およびHarlow et al., in「Antibodies : a Laboratory Manual」, page 726, Cold Spring Harbor Pub., 1988を参照されたい。簡単に説明すると、モノクローナル抗体は、抗原または関心対象となる細胞を含む組成物をマウスに注射する段階、血清試料を採取することによって抗体産生の有無を確認する段階、脾臓を採取してBリンパ球を得る段階、Bリンパ球を骨髄腫細胞と融合してハイブリドーマを産生する段階、ハイブリドーマをクローニングする段階、抗原に対して抗体を産生する陽性クローンを選択する段階、およびハイブリドーマ培養物から抗体を単離する段階によって得ることができる。モノクローナル抗体は、十分に確立された多様な技術によってハイブリドーマ培養物から単離および精製することができる。そのような単離技術には、プロテイン-Aセファロース、サイズ排除クロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーが含まれる。例えば、Coligan et al., sections 2.7.1〜2.7.12およびsections 2.9.1〜2.9.3;Barnes et al., 「Purification of Immunoglobulin G(IgG)」, in 「Methods in Molecular Biology」, Vol. 10, Page 79〜104, Humana Press, 1992を参照されたい。
【0123】
モノクローナル抗体のインビトロおよびインビボ増殖法は、当業者に周知である。インビトロでの増殖は、任意で仔ウシ胎児血清のような哺乳動物血清または微量元素および正常マウス腹腔滲出細胞、脾細胞、胸腺細胞、または骨髄マクロファージのような増殖支持補助物質を添加したダルベッコ改変イーグル培地またはRPMI 1640培地のような適した培養培地において行ってもよい。インビトロでの産生は比較的純粋な抗体調製物を提供し、大量の所望の抗体を産生するように規模拡大が可能である。大規模ハイブリドーマ培養は、エアリフトリアクター、連続的な攪拌リアクター、または固定もしくは捕捉細胞培養において均一な浮遊培養によって行うことができる。インビボでの増殖は、抗体産生腫瘍の増殖を引き起こすために、親細胞、例えば同系マウスと組織適合性である哺乳動物に細胞クローンを注射することによって行ってもよい。任意で、動物を炭化水素、特にプリスタン(テトラメチルペンタデカン)のような油によって注射前に準備される。1〜3週間後、所望のモノクローナル抗体を動物の体液から回収する。
【0124】
抗体はまた、ヒトより下の霊長類抗体に由来しうる。ヒヒにおいて治療的に有用な抗体を産生するための一般的な技術は、例えば、1991年のPCT国際公開公報第91/11465号およびLosman et al., Int. J. Cancer 46:310, 1990に見いだされうる。
【0125】
または、Spoc細胞、またはニューロン前駆細胞のようなSpoc細胞の亜集団に特異的に結合する抗体は、ヒト化モノクローナル抗体に由来しうる。ヒト化モノクローナル抗体は、マウス免疫グロブリンの重鎖および軽鎖可変領域からのマウス相補性決定領域(CDR)をヒト可変ドメインに移入した後、フレームワーク領域におけるいくつかのヒト残基をマウス相対物に置換することによって産生される。さらに、CDRにおけるマウス残基をヒト相対物に置換することができる。ヒト化モノクローナル抗体に由来する抗体相対物を用いることは、マウス定常領域の免疫原性に関連する可能性がある問題を回避する。マウス免疫グロブリン可変ドメインをクローニングするための一般的技術は、例えば、Orlandi et al., Proc. Nat'l. Acad. Sci. U.S.A. 86:3833, 1989によって記述される。ヒト化モノクローナル抗体を産生するための技術は、例えばJones et al., Nature 321:522, 1986;Riechmann et al., Nature 332:323, 1988;Verhoeyen et al., Science 239:1534, 1988;Carter et al., Proc. Nat'l. Acad. Sci. U.S.A. 89:4285, 1992;Sandhu, Crit. Rev. Biotech. 12:437, 1992;およびSinger et al., J. Immunol. 150:2844, 1993に記述されている。
【0126】
抗体は、組み合わせ免疫グロブリンライブラリから単離したヒト抗体断片に由来しうる。例えば、Barbas et al., in 「Methods : a Companion to Methods in Enzymology」, Vol. 2, page 119, 1991;Winter et al., Ann. Rev. Immunol. 12:433, 1994を参照されたい。ヒト免疫グロブリンファージライブラリを産生するために有用なクローニングおよび発現ベクターは、例えばSTRATAGENE Cloning Systems(La Jolla, CA)から得ることができる。
【0127】
さらに、抗体はヒトモノクローナル抗体に由来しうる。そのような抗体は、抗原投与に反応して特異的ヒト抗体を産生するように「操作」されているトランスジェニックマウスから得られる。この技術において、ヒト重鎖および軽鎖座の要素を内因性の重鎖および軽鎖座の標的破壊を含む胚幹細胞株に由来するマウスの系統に導入する。トランスジェニックマウスは、ヒト抗原に対して特異的なヒト抗体を合成することができ、マウスを用いて、ヒト抗体分泌ハイブリドーマを産生することができる。トランスジェニックマウスからヒト抗体を得る方法は、Green et al., Nature Genet. 7:13, 1994;Lonberg et al., Nature 368:856, 1994;およびTaylor et al., Int. Immunol. 6:579, 1994によって記述される。
【0128】
抗体には、無傷の抗体と共に、エピトープ決定基に結合することができるFab、F(ab')2、およびFvのようなその断片が含まれる。これらの抗体断片は、その抗原または受容体に対する何らかの選択的結合能を保持しており、以下のように定義される:
(1)抗体分子の一価の抗原結合断片を含む断片であるFabは、抗体全体を酵素パパインによって消化して無傷の軽鎖と一つの重鎖の一部とを生じることによって産生されうる。
(2)Fab'、抗体分子の断片は、抗体全体をペプシンによって処置した後、還元して、無傷の軽鎖と重鎖の一部とを生じることによって得ることができる:抗体分子あたりFab'断片2個が得られる。
(3)(Fab')2、抗体全体を酵素ペプシンによって処置した後還元を行わずに得ることができる抗体断片;F(ab')2は、Fab'断片2個がジスルフィド結合2個によって結合した二量体である。
(4)Fv、二つの鎖として発現される、軽鎖の可変領域と、重鎖の可変領域とを含む遺伝子操作された断片として定義される;ならびに
(5)一本鎖抗体(SCA)、遺伝子融合した一本鎖分子として適したポリペプチドリンカーによって連結した、軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域を含む遺伝子操作された分子として定義される。
【0129】
これらの断片を作製する方法は当技術分野で公知である。(例えば、Harlow and Lane, 「Antibodies : A Laboratory Manual」, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1988を参照されたい)。エピトープは、それに対して抗体のパラトープが結合する抗原上の任意の抗原性決定領域である。エピトープ決定基は通常、アミノ酸または糖側鎖のような分子の化学活性表面群からなり、通常、特異的な三次元構造特徴と共に特異的な電荷特徴を有する。
【0130】
抗体断片は、抗体のタンパク質分解加水分解によって、または断片をコードするDNAの大腸菌における発現によって調製することができる。抗体断片は、通常の方法による抗体全体のペプシンまたはパパイン消化によって得ることができる。例えば、抗体断片は、F(ab')2と呼ばれる5S断片を提供するためにペプシンによる抗体の酵素的切断によって産生されうる。この断片は、チオール還元剤を用いて、および任意でスルフヒドリル基のブロッキング基を用いることによってさらに切断することができ、それによってジスルフィド結合の切断が起こり、3.5 S Fab'一価断片が得られる。または、ペプシンを用いる酵素的切断は、二価のFab'断片およびFc断片を直接生じる(米国特許第4,036,945号および米国特許第4,331,647号、およびそこに含まれる参考文献;Nisonhoff et al., Arch. Biochem, Biophys. 89:230, 1960;Porter, Biochem. J. 73:119, 1959;Edelman et al., Methods in Enzymology, Vol. 1, page 422, Academic Press, 1967;およびColigan et al., 前記, sections 2.8.1〜2.8.10および2.10.1〜2.10.4を参照されたい)。
【0131】
一価の軽鎖断片を形成するための重鎖の分離、断片のさらなる切断、または他の酵素的、化学的、もしくは遺伝学技術のような、抗体を切断する他の方法も同様に、断片が無傷の抗体によって認識される抗原に結合する限り、用いてもよい。
【0132】
例えば、Fv断片は、VHおよびVL鎖の会合を含む。この会合は非共有であってもよい(Inbar et al., Proc. Nat'l. Acad. Sci. U.S.A. 69:2659, 1972)。または、可変領域をグルタルアルデヒドのような化学物質によって分子間ジスルフィド結合によって連結することができる、またはクロスリンクすることができる。例えば、Sandhu、前記を参照されたい。好ましくは、Fv断片は、ペプチドリンカーによって繋がれたVHおよびVL鎖を含む。これらの一本鎖抗原結合タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドによって繋がれたVHおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって調製される。構造遺伝子を発現ベクターに挿入して、これをその後大腸菌のような宿主細胞に導入する。組換え型宿主細胞は、二つのVドメインを架橋するリンカーペプチドによって単一のポリペプチド鎖を合成する。sFvを産生する方法は当技術分野で公知である(Whitlow et al., 「Methods : a Companion to Methods in Enzymology」, Vol 2, page 97, 1991;Bird et al., Science 242:423, 1988;米国特許第4,946,778号;Pack et al., Bio/Technology 11:1271, 1993;およびSandhu、前記を参照されたい)。
【0133】
抗体断片のもう一つの型は、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識単位」)は、関心対象となる抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することによって得ることができる。そのような遺伝子は、例えば、抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成するためにポリメラーゼ連鎖反応を用いることによって調製される(Larrick et al., 「Methods : a Companion to Methods in Enzymology」, Vol. 2, page 106, 1991)。
【0134】
抗体は、無傷の細胞、または免疫抗原としてSpoc細胞から単離した関心対象の小さいペプチドを含む無傷のポリペプチドもしくは断片を用いて調製することができる。動物を免疫するために用いられるポリペプチドまたはペプチドは、実質的に精製されたポリペプチド、宿主細胞において産生されたポリペプチド、インビトロで翻訳されたcDNA、または望ましければ担体タンパク質に共役させることができる化学合成に由来しうる。ペプチドに化学的にカップリングするそのような一般的に用いられる担体には、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、サイログロブリン、ウシ血清アルブミン(BSA)、および破傷風トキソイドが含まれる。次に、カップリングしたペプチドを用いて、動物(例えば、マウス、ラット、またはウサギ)を免疫する。
【0135】
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体はさらに、例えばそれに対して抗体が作製されたポリペプチドまたはペプチドが結合するマトリクスに対する結合およびそこからの溶出によって、精製することができる。当業者は、ポリクローナル抗体と共にモノクローナル抗体の精製および/または濃縮に関して免疫学の技術分野において一般的である様々な技術を承知しているであろう(例えば、Coligan et al., Unit 9, 「Current Protocols in Immunology」, Wiley Interscience, 1991を参照されたい)。
【0136】
同様に、エピトープを模倣するモノクローナル抗体を産生するために、抗イディオタイプ技術を用いることも可能である。例えば、第一のモノクローナル抗体に対して産生された抗イディオタイプモノクローナル抗体は、第一のモノクローナル抗体によって結合されるエピトープの「像」である超可変領域において結合ドメインを有するであろう。
【0137】
標的抗原に対する結合親和性は典型的に、競合的アッセイ、飽和アッセイ、またはELISAもしくはRIAのようなイムノアッセイのような標準的な抗体-抗原アッセイによって測定または決定される。そのようなアッセイは、抗体の解離定数を決定するために用いることができる。「解離定数」という句は、抗原に対する抗体の親和性を指す。抗体と抗原とのあいだの結合の特異性は、抗体の解離定数(KD=1/K、式中Kは親和性定数)が<1μM、<100 nM、または<0.1 nMである場合に存在する。抗体分子は典型的に、より低い範囲のKDを有するであろう。KD=[Ab−Ag]/[Ab][Ag]、式中[Ab]は、抗体の平衡時の濃度であり、「Ag」は、抗原の平衡時の濃度である、[Ab−Ag]は抗体-抗原複合体の平衡時の濃度である。典型的に、抗原と抗体とのあいだの結合相互作用には、静電気力、ファンデルワールス力、および水素結合のような可逆的な非共有会合が含まれる。
【0138】
エフェクター分子、例えば治療的、診断的、または検出部分を、当業者に公知の任意の数の手段を用いて、Spoc細胞に特異的に結合する抗体に連結させることができる。例示的なエフェクター分子には、放射標識、蛍光マーカー、酵素マーカー、または毒素が含まれるがそれらに限定されるわけではない(例えば、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素(PE)、毒素および共役に関する議論に関しては、「Monoclonal Antibody-Toxin Conjugates : Aiming the Magic Bullet」, Thorpe et al., 「Monoclonal Antibodies in Clinical Medicine」, Academic Press, pp.168〜190, 1982;Waldmann, Science 252:1657, 1991;米国特許第4,545,985号、および米国特許第4,894,443号を参照されたい)。検出可能な標識の特異的な例には、放射活性同位元素、酵素基質、共因子、リガンド、化学発光物質、蛍光物質、ハプテン、または酵素が含まれる。
【0139】
共有および非共有付着手段はいずれも、Spoc細胞に結合する抗体にエフェクター分子を連結させるために用いてもよい。エフェクター分子を抗体に付着させるための技法は、エフェクターの化学構造に従って変化する。ポリペプチドは典型的に、多様な官能基:例えば、カルボン酸(COOH)、遊離のアミン(-NH2)、またはスルフヒドリル(-SH)基を含み、これらはそれによってエフェクター分子の結合が起こる、抗体上の適した官能基との反応のために利用できる。または、抗体をさらなる反応性官能基に曝露または付着させるために誘導体化する。誘導体化は、Pierce Chemical Company(Rockford, IL)から入手可能な分子のような多数の任意のリンカー分子の付着を含んでもよい。リンカーは、抗体をエフェクター分子に接合するために用いられる任意の分子となりうる。リンカーは、抗体とエフェクター分子の双方に対して共有結合を形成することができる。適したリンカーは当業者に周知であり、これには、直鎖または分岐鎖炭素リンカー、複素環炭素リンカー、またはペプチドリンカーが含まれるがそれらに限定されるわけではない。抗体およびエフェクター分子がポリペプチドである場合、リンカーは、その側鎖を通して構成アミノ酸に(例えば、システインに対するジスルフィド連結を通して)、または末端アミノ酸のα炭素アミノおよびカルボキシル基に接合してもよい。または、エフェクター分子を、Spoc細胞抗体に特異的に結合する二次抗体に連結することができる。
【0140】
多様な放射診断化合物、放射治療化合物、標識(例えば、酵素または蛍光分子)、栄養因子、および他の物質を抗体に付着させるために報告されている多くの方法を考慮して、当業者は、抗体に所定の物質を付着させるために適した方法を決定することができるであろう。抗体に結合させることができる酵素には、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ウレアーゼおよびβ-ガラクトシダーゼが含まれるがそれらに限定されるわけではない。抗体に結合させることができる蛍光体には、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、フィコエリスリン、アロフィコシアニンおよびテキサスレッドが含まれるがそれらに限定されるわけではない。抗体に共役させることができるさらなる蛍光体に関しては、Haugland, R.P., 「Molecular Probes : Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals」(1992〜1994)を参照されたい。抗体に結合させることができる金属化合物には、フェリチン、金コロイド、および特にコロイド状超常磁性ビーズが含まれるがそれらに限定されるわけではない。抗体に結合させることができるハプテンには、ビオチン、ジゴキシゲニン、オキサザロン、およびニトロフェノールが含まれるがそれらに限定されるわけではない。抗体に結合させる、または組み入れることができる放射活性化合物は、当技術分野で公知であり、これにはテクネチウム99m(99Tc)、125I、および14C、3H、および35Sが含まれるがそれらに限定されるわけではない任意の放射性核種を含むアミノ酸が含まれるがそれらに限定されるわけではない。
【0141】
ニューロン前駆細胞またはSpoc細胞の亜集団を検出する方法
細胞表面マーカーを認識する抗体(例えば、モノクローナル抗体)のような特異的結合物質を用いて、ニューロン前駆細胞をインビトロまたはインビボで検出するための方法が提供される。一つの態様において、Spoc細胞の亜集団のようなニューロン前駆細胞を検出するために用いられる抗体は、804モノクローナル抗体である。
【0142】
インビトロ検出法は、804モノクローナル抗体によって認識される抗原を発現する細胞を含む任意の生体試料をスクリーニングすることができる。そのような試料には、生検、剖検、および病理標本からの組織が含まれるがそれらに限定されるわけではない。生体試料にはまた、組織学的目的のために採取した凍結切片のような組織切片が含まれる。生体試料にはさらに、末梢神経系、中枢神経系、または骨格筋からの試料が含まれる。インビトロ検出法によって検出されうる他の生体試料は、胚試料および804モノクローナル抗体によって結合される抗原を発現する培養細胞の試料が含まれる。
【0143】
一つの態様において、試料を、804モノクローナル抗体によって結合される抗原を発現する試料中における細胞に結合するモノクローナル抗体に接触させる。抗原に特異的に結合するモノクローナル抗体を、検出可能な標識に連結させて、それによってニューロン前駆細胞を検出することができる。または、試料を、モノクローナル抗体に特異的に結合する二次抗体に接触させる。二次抗体を検出可能な標識に連結させて、それによって、ニューロン前駆細胞を検出することができる。
【0144】
インビボ検出法は、804モノクローナル抗体によって認識される抗原を発現する、被験者における如何なる細胞の位置も特定することができる。細胞は、被験者の末梢神経系、中枢神経系、または骨格筋に存在しうる。一つの態様において、804モノクローナル抗体、または804モノクローナル抗体のヒト化型を、抗体が被験者におけるニューロン前駆細胞の位置を特定して、抗原と免疫複合体を形成するために十分な期間、被験者に投与する。一つの態様において、免疫複合体が検出される。特定の非制限的な例において、免疫複合体の検出は、放射線の局在、放射線イメージング、または蛍光イメージングによって行われる。もう一つの態様において、抗体はエフェクター分子に連結される。一つの特異的な非制限的態様において、エフェクター分子は検出可能な標識である。検出可能な標識の特異的な非制限的な例には、放射活性同位元素、酵素基質、共因子、リガンド、化学発光物質、蛍光物質、ハプテン、または酵素が含まれる。検出可能な標識のもう一つの特定の例はテクネチウム-99である。
【0145】
一つの態様において、804モノクローナル抗体および二次抗体を、804モノクローナル抗体がニューロン前駆細胞上の抗原と免疫複合体を形成するために十分な期間、および二次抗体が804モノクローナル抗体と免疫複合体を形成するために十分な期間、被験者に投与する。一つの態様において、804モノクローナル抗体は、被験者に投与する前に二次抗体と複合体を形成する。一つの特異的で非制限的な態様において、二次抗体は検出可能な標識に連結されて、免疫複合体が検出される。
【0146】
804モノクローナル抗体は、脳または脊髄の損傷または疾患後の新しいニューロン増殖を検出するために、標識されて(例えば、テクネチウム99によって)テクネチウム-99、PET(陽電子放射型断層撮影)、またはSPECT(単光子放射型コンピューター断層撮影)スキャンにおいて用いることができる。このように、標識した804モノクローナル抗体は、神経の損傷または疾患を有する被験者の診断および予後のための重要なツールである。
【0147】
ニューロン前駆細胞またはSpoc細胞の亜集団を単離する方法
細胞表面マーカーを認識する抗体(例えば、先に開示の方法を用いて)のような特異的結合物質を用いて細胞が検出される、ニューロン前駆細胞(例えばSpoc細胞の亜集団)を単離する方法も同様に提供され、ニューロン前駆細胞が単離される。この特定のニューロン前駆細胞の単離法には、被験者の末梢神経系、中枢神経系、または骨格筋の組織から細胞を単離する段階が含まれる。他の態様において、細胞は胚組織または完全な胚から単離することができる。組織は、当業者に周知の方法を用いて、個々のニューロン前駆細胞、例えばSpoc細胞の亜集団を単離または得る目的で調製することができる。組織調製法の例には、コラゲナーゼのような酵素による酵素的消化、携帯式またはモーター駆動ホモジナイザーのような機器を用いる機械的破壊、または例えばカルシウムおよびマグネシウムのキレート剤を用いる化学的破壊が含まれる。サイズ排除およびc-kit、c-met、Sca1、CD34、およびPax(3/7)に対する抗体を用いて、ニューロン前駆細胞例えばSpoc細胞の亜集団を単離する方法は、2001年10月22日に提出された米国特許出願第10/003,400号および公開されたPCT公開番号第03/035838 A2号において記述される。
【0148】
本明細書において開示されるように、ニューロン前駆細胞、例えばSpoc細胞の亜集団を検出する方法は、これらの細胞に特異的に結合する抗体を用いて単離することができる。一つの態様において、ニューロン前駆細胞、またはその亜集団を、GRIN1ポリペプチドに特異的に結合するモノクローナル抗体に接触させる。他の態様において、ニューロン前駆細胞またはその亜集団を、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、または配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに特異的に結合するモノクローナル抗体に接触させる。一つの特異的で非制限的な実施例において、ニューロン前駆細胞またはその亜集団を、804モノクローナル抗体に接触させた後、モノクローナル抗体に結合した細胞を単離する。一つの態様において、Spoc細胞の亜集団に特異的に結合する抗体の使用を、大きさに基づく細胞の単離と組み合わせることができる。
【0149】
一つの態様において、消化した骨格筋を様々な孔径の一連の濾紙に通過させることによって、Spoc細胞の亜集団を単離する。細胞は濾紙2枚を通過し、第一の濾紙は孔径が約50〜200μm、約60〜150μm、約80〜100μm、または約100μmであって、第二の濾紙は孔径が約10〜50μm、20〜40μm、または約40μmである。一つの態様において、単離された細胞は直径が40μm未満である。他の態様において、単離された細胞は直径が約3μm〜10μmの範囲である。もう一つの態様において、単離された細胞は直径が約4μmである。
【0150】
細胞はまた、サイズ排除カラムの中にそれらを通過させることによって大きさによって選別することができる。そのような一つの態様において、細胞は、最も大きい細胞が最初に溶出して、最も小さい細胞が最後に溶出されるように、サイズ勾配に沿って溶出される。細胞はまた、蛍光性活性化細胞選別(FACS)を用いてサイズによって選別することができる。直径約3μm〜10μm、または直径約4μmの細胞を単離する。次に、これらの細胞の同一性を804モノクローナル抗体のようなSpoc細胞の亜集団に特異的に結合する抗体を用いて確認する。
【0151】
もう一つの態様において、ニューロン前駆細胞、例えばSpoc細胞の亜集団を、本明細書に開示の抗体を用いて単離する。一つの特異的な非制限的な例において、集団の20%より大きい、集団の30%より大きい、集団の40%より大きい、集団の50%より大きい、集団の80%より大きい、集団の90%より大きい、集団の95%より大きい、または集団の98%より大きい804モノクローナル抗体に特異的に結合する細胞を含むSpoc細胞の亜集団が単離される。Spoc細胞の亜集団を精製するために、方法は、一つの試料について1回行うことができる、または1回より多く連続して行うことができる。
【0152】
一つの態様において、細胞浮遊液、例えばニューロンまたは筋細胞が産生され、804モノクローナル抗体のようなニューロン前駆細胞に特異的に結合する抗体を細胞浮遊液と反応させる。例えば、抗体を、酵素、磁気ビーズ、コロイド状磁気ビーズ、ハプテン、蛍光体、金属化合物、放射活性化合物、または薬物が含まれるがそれらに限定されるわけではない他の化合物に結合させることができる。
【0153】
FACSを用いて、細胞を適当に標識された抗体に接触させることによって、関心対象の抗原または細胞表面マーカーを発現する細胞を選別することができる。細胞表面マーカーの有無を決定するための方法は当技術分野で周知である。一つの態様において、さらなる抗体およびFACS選別をさらに用いて、ニューロン前駆細胞またはSpoc細胞の亜集団の実質的に精製された集団を産生することができる。FACSは、細胞を分離または選別するために、他のより洗練された検出レベルの中でも、複数の色のチャンネル、低い角度、および鈍角の光散乱検出チャンネル、およびインピーダンスチャンネルを用いる。如何なるFACS技術も、それが所望の細胞の生存率にとって有害でない限り、用いてもよい(例示的なFACS法に関しては、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,061,620号を参照されたい)。
【0154】
しかし、有効性の異なる他の技術を用いて所望の細胞集団を精製および単離してもよい。用いられる分離技術は、回収される細胞分画の生存率の保持を最大限にしなければならない。用いられる特定の技術は、当然、分離効率、方法の細胞障害性、分離の容易さおよび速度、ならびに必要な装置および/または技術的熟練に依存するであろう。
【0155】
分離技法には、抗体をコーティングした磁気ビーズを用いる磁気分離、アフィニティクロマトグラフィー、モノクローナル抗体に接合したまたは補体と共に用いる細胞障害剤、および固体マトリクスに付着させたモノクローナル抗体を利用する「パニング」、またはもう一つの通常の技術が含まれてもよい。磁気ビーズおよびアガロースビーズ、ポリスチレンビーズ、中空線維のメンブレンおよびプラスチック製のペトリ皿のような他の固体マトリクスに付着させた抗体は、直接分離を可能にする。抗体に結合した細胞は、細胞浮遊液から固体支持体を単に物理的に分離することによって、細胞浮遊液から除去することができる。細胞を固相連結抗体と共にインキュベートする正確な条件および期間は、用いるシステムに対して特異的ないくつかの要因に依存するであろう。しかし、適当な条件の選択は当業者の範囲内である。
【0156】
次に、関心対象マーカー(例えば、モノクローナル抗体804に結合した抗原)を発現する細胞を固相連結抗体に結合させるために十分な期間の後、未結合の細胞を生理的緩衝液によって溶出または洗浄することができる。次に、結合した細胞を、用いる固相および抗体の特性に主に応じて、任意の適当な方法によって固相から分離する。
【0157】
抗体はビオチンに結合させることができ、次に、細胞の分離を可能にするために(上記を参照されたい)、支持体に結合したアビジンもしくはストレプトアビジン、またはFACSの場合に用いることができる蛍光体によって、抗体を除去することができる。一つの例において、ニューロン前駆細胞は、当初モノクローナル抗体804によって結合された抗原、例えばGRIN1ポリペプチドの細胞表面発現によって他の細胞から分離することができる。一つの特異的な非制限的な例において、GRIN1ポリペプチドを発現する細胞は、モノクローナル抗体804によってコーティングされる磁気ビーズ分離によって陽性選択される。次に、ニューロン前駆細胞またはSpoc細胞の亜集団を磁気ビーズから除去する。
【0158】
ニューロン前駆細胞またはSpoc細胞の亜集団の磁気ビーズからの放出は、培養放出または他の方法によって影響を受けうる。単離されたニューロン前駆細胞またはSpoc細胞の亜集団の純度は、例えば望ましければFACSCAN.RTM.フローサイトメーター(Becton Dickinson, San Jose, CA)によってチェックすることができる。一つの態様において、c-kit、c-met、Sca1、またはCD34発現に基づいて磁気ビーズから放出された細胞集団を選別するFACSのようなさらなる精製段階を行う。パニングを用いて、c-kit、c-met、Sca1、もしくはCD34を発現しない、またはモノクローナル抗体804のような抗体と反応する(または反応しない)細胞を分離する(パニング法に関しては、Small et al., J. Immunol. Methods 167(1-2):103〜107,1994を参照されたい)ことができる。
【0159】
一つの態様において、細胞をサイズによって選択した(上記を参照されたい)後、spoc細胞のc-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-亜集団を、c-kit、c-met、CD34、またはSca1細胞表面マーカーを認識する抗体のような特異的結合物質を用いて同定する。
【0160】
一つの態様において、c-kit、c-met、CD34、およびSca1抗体を固定する。特定の態様は磁気細胞選別を利用する。この方法は、磁気ビーズの表面に共有結合したモノクローナル抗体と、選択される細胞には存在しない細胞表面マーカーに向けられるモノクローナル抗体との組み合わせを含む。例えば、c-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-Spoc細胞またはSpoc細胞の亜集団を単離するために、磁気ビーズに結合したc-kit、c-met、CD34、およびSca1に対するモノクローナル抗体を用いる。c-kit、c-met、CD34、もしくはSca1、またはこれらの細胞表面マーカーの任意の組み合わせのいずれかを発現する細胞は全て、抗体によって結合されて、ビーズに保持されるであろう。磁気ビーズに結合した細胞は磁石によって固定されることから、浮遊液に残っているc-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-細胞を他の細胞から分離することができる。次に、Spoc細胞の亜集団上で発現された抗原に結合するモノクローナル抗体を用いて、c-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-Spoc細胞のこの亜集団を単離することができる。
【0161】
もう一つの態様において、c-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-Spoc細胞またはSpoc細胞の亜集団の精製集団は、FACSによって単離される。c-kit、c-met、CD34、およびSca1に対する蛍光タグを付けた抗体は、c-kit+、c-met+、CD34+、Sca1+を同定して、これらの細胞表面マーカーの任意の組み合わせを発現する細胞(例えば、c-met+c-kit+二重陽性細胞集団、c-met+c-kit+Sal1+細胞、またはc-met+c-kit+CD34+Sal1+細胞)は、c-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-集団の同定および単離を可能にする。細胞はまた大きさに基づいて単離することができる。次に、Spoc細胞の亜集団を、モノクローナル抗体804のような、細胞の亜集団に結合する抗体を用いて同定する。
【0162】
他の態様において、抗体を、アガロースビーズのような不活性ビーズに共有結合させることができる。ビーズは、カラムに充填する、またはスラリーとして維持することができる。一つまたは複数の細胞表面マーカーを発現する細胞は抗体によって認識されて、ビーズに結合され、Spoc細胞の亜集団が同定される。
【0163】
もう一つの態様において、抗体は固定されない。特定の態様において、抗体を細胞混合物に加えると、抗体によって認識される細胞表面マーカーを発現する細胞の凝集を引き起こす。細胞表面マーカーを発現していない細胞は、凝集体から除去されて、単離することができる。
【0164】
これらまたは他の方法によって単離されたニューロン前駆細胞またはSpoc細胞の亜集団は、培養において維持することができ、および培養において分化させることができる。ニューロン前駆細胞、またはSpoc細胞の亜集団を培養において維持する方法およびこれらの細胞を分化させる方法は、そのそれぞれの全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、2001年10月22日に提出された米国特許出願第10/003,400号および公開されたPCT公開番号第03/035838 A2号に開示されている。
【0165】
Spoc細胞からニューロンを分化させる方法
Spoc細胞またはSpoc細胞の亜集団をニューロンに分化させる方法を本明細書において開示する。一つの態様において、ニューロンへの分化は、Spoc細胞増殖培地と類似の培地であるが、EGFまたはFGFのような少なくとも一つの増殖因子を含まない培地においてモノクローナル抗体804に特異的に結合するSpoc細胞を培養することによって誘導される。Spoc細胞は、マウス、ブタ、またはヒト骨格筋組織に由来しうる。
【0166】
一つの態様において、モノクローナル抗体804によって特異的に結合されることによって単離されるSpoc細胞の亜集団を、培養培地の存在下で細胞の亜集団を接着させる固体基質上で増大させる。一つの態様において固体基質は、組織培養皿のような容器である。もう一つの態様において、固体基質は、組織培養のために設計されたビーズの形である。培地は増殖培地または細胞の生存率を維持する任意の緩衝液となりうる。多様な増殖培地が公知であり、使用のために適している。一般的に、増殖培地には、最小基本培地が含まれる。一つの態様において、培地はDMEMまたはF12、またはDMEMおよびF12の組み合わせ(DMEM:F12の比は約1:1〜約10:1)である。
【0167】
増殖培地には、血清を添加してもよい。特異的な非制限的な血清の例は、ウマ、仔ウシ、またはウシ胎児血清である。培地は、血清を容量で約3%〜約10%、または血清を容量で約5%有しうる。
【0168】
一つの態様において、培地は、栄養のような一つまたは複数のさらなる添加剤を含む。これらの栄養の特異的な非制限的な例を下記の表に示す。
【0169】
【表1】

【0170】
幹細胞増殖培地には、増殖因子を添加することができる。一つの態様において、増殖培地には、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が含まれる。一つの特定の例において、増殖因子には、例えば約5 ng/ml〜約50 ng/ml、約8 ng/ml〜約20 ng/ml、または約5 ng/ml〜約10 ng/mlのbFGFような、約2 ng/ml〜約100 ng/mlのbFGFが含まれる。さらにもう一つの例において、培地には、約10 ng/ml bFGFが含まれる。もう一つの態様において、増殖培地には上皮細胞増殖因子(EGF)が含まれる。一つの特定の例において、増殖因子には、例えば約5 ng/ml〜約50 ng/ml、約8 ng/ml〜約20 ng/ml、または約5〜約10 ng/ml EGFのような、約2 ng/ml〜約100 ng/ml EGFが含まれる。さらにもう一つの例において、培地には、約10 ng/ml EGFが含まれる。このように、一つの態様において、増殖培地は、DMEM:F12が1:1であり、5%ウシ胎児血清、10 ng/ml FGF、10 ng/ml EGF、5μg/mlインスリン、5μg/mlトランスフェリン、6 ng/mlセレン、2μg/mlエタノールアミンが含まれる。
【0171】
一つの特異的な非制限的な例において、細胞は増殖培地において約1〜約5日間培養される。他の特異的な非制限的な例において、細胞は、増殖培地において約2日〜約4日、または約3日間培養される。
【0172】
亜集団Spoc細胞の増殖後、804モノクローナル抗体によって認識される抗体を発現する細胞は、804モノクローナル抗体によって特異的に結合され、抗原を発現しないSpoc細胞から単離されて(上記を参照されたい)、Spoc細胞の二つの亜集団、すなわち、804モノクローナル抗体に結合してニューロン細胞に分化することができる細胞(ニューロン前駆体亜集団)と、804モノクローナル抗体に結合せずに、心筋細胞に分化することができる細胞(心筋細胞前駆体亜集団)とを生じる。次に、ニューロン前駆細胞の単離された亜集団を、分化培地を用いて、またはEGFおよび/またはbFGFを含む当初の培地において細胞を維持することによって、ニューロン細胞に分化させる。分化培地は、少なくとも一つの増殖因子を欠損する増殖培地である。培地から除去される増殖因子には、bFGF、もしくはEGF、またはbFGFおよびEGFの組み合わせが含まれるがそれらに限定されるわけではない。
【0173】
少なくとも一つの増殖因子を除去することによって、細胞は組織培養皿に接着して、分化したニューロンの特徴を獲得する(例えば、β-3-チューブリンの発現)。しかし、当初の培養培地(EGFおよびbFGFを含む)における804陽性亜集団の維持によっても、動力学は異なるがニューロン細胞の分化に至るであろう。分化は、それによってc-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-筋由来幹細胞のような比較的特殊化されていない細胞が、ニューロンのような成熟細胞の特徴である特殊化された構造的および/または機能的特徴を獲得するプロセスを指す。
【0174】
c-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-Spoc細胞、またはSpoc細胞の亜集団のニューロンへの分化は、当業者に公知の任意の方法によって測定することができる。特異的な非制限的な例は、神経ポリペプチド(例えば、β-チューブリン、ニューロフィラメント、ニューロン特異的エノラーゼ、セロトニン、ドーパミン、チロシンヒドロラーゼ、または他のニューロン特異的マーカー)の発現を検出するための免疫組織化学分析、またはELISAアッセイおよびウェスタンブロット分析のようなアッセイである。細胞の分化はまた、ノザンブロット、RNアーゼ保護、およびRT-PCRのような技術を用いて神経ポリペプチドをコードするmRNAレベルをアッセイすることによって測定することができる。もう一つの態様において、細胞の電気生理学的性質(シナプス伝達、電位、または活動電位)を評価する。
【0175】
ニューロン細胞の機能または分化に影響を及ぼす物質のスクリーニング法
ニューロン細胞の機能または分化に影響を及ぼす物質をスクリーニングする方法も同様に開示される。方法には、Spoc細胞またはニューロン細胞前駆体の単離された亜集団を化合物または物質に接触させる段階、およびニューロン細胞の機能または分化をアッセイする段階が含まれる。Spoc細胞またはニューロン細胞前駆体の単離集団の増殖、分化、または活性が変化すれば、化合物がニューロン細胞機能または分化の調節物質であることが示される。
【0176】
本開示に従ってスクリーニングしてもよい化合物には、ニューロン細胞機能または分化に影響を及ぼすペプチド、抗体およびその断片、ならびに他の有機化合物(例えば、ペプチド模倣体、低分子)が含まれるがそれらに限定されるわけではない。そのような化合物には、例えばランダムペプチドライブラリ(例えば、Lam et al., Nature 354:82〜84, 1991;Houghten et al., Nature 354:84〜86, 1991を参照されたい)が含まれるがそれらに限定されるわけではない可溶性ペプチドのようなペプチド、およびコンビナトリアルケミストリーに由来する、D-および/またはL-型アミノ酸で構成される分子ライブラリ、リン酸化ペプチド(ランダムまたは部分的縮重の指向性リン酸化ペプチドライブラリのメンバーが含まれるがそれらに限定されるわけではない;例えばSongyang et al., Cell, 72:767〜778, 1993を参照されたい)、抗体(ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化、抗イディオタイプ、キメラ、または一本鎖抗体、およびFab、F(ab')2、Fab発現ライブラリ断片、そのエピトープ結合断片)、および小さい有機または無機分子が含まれてもよいがそれらに限定されるわけではない。
【0177】
スクリーニングすることができる他の化合物には、Spoc細胞の亜集団またはニューロン前駆細胞に入り込むことができ、ニューロン細胞の分化に影響を及ぼす有機低分子、またはSpoc細胞の亜集団もしくはニューロン前駆細胞の活性または機能に影響を及ぼす化合物が含まれるがそれらに限定されるわけではない。
【0178】
コンピューターモデリングおよび検索技術によって、ニューロン細胞の機能または分化に影響を及ぼしうる化合物の同定または既に同定された化合物の改善が可能となる。分子モデリング系の例は、CHARMMおよびQUANTAプログラム(Polygen Corporation, Waltham, Mass.)である。CHARMmは、エネルギーの最小化および分子ダイナミクス機能を実行する。QUANTAは、分子構造の構築、グラフィックモデリングおよび分析を実行する。QUANTAは、相互構築、改変、可視化、および分子の互いの挙動の分析を可能にする。
【0179】
神経疾患および/または神経変性障害の治療法
他の態様において、開示の方法に従って単離および/または培養された細胞を投与することによって、神経損傷もしくは神経変性障害のような疾患もしくは障害を有する被験者を処置するための、またはそのような障害の症状を軽減するための方法が提供される。細胞は、Spoc細胞の亜集団(c-kit-c-met-CD34-Sca-1-Pax(3/7)-804+細胞)、ニューロン前駆細胞、または分化したニューロン細胞となりうる。細胞は自己または異種となりうる。
【0180】
本発明の方法は、細胞またはこれらの細胞によって発現された分子を、CNS、脳、および/または脊髄の障害または疾患の診断、処置、または予防のために脳に送達するために、ニューロン前駆細胞を単離するため、およびニューロン細胞を産生するために用いることができる。これらの障害または疾患は、神経または精神障害となりうる。これらの障害または疾患には、アルツハイマー病、パーキンソン病、レーヴィ小体認知症、多発性硬化症、てんかん、小脳性運動失調、進行性核上麻痺、筋萎縮性側索硬化症、情動障害、不安障害、強迫性障害、人格障害、注意欠陥障害、注意欠陥多動障害、トゥーレット症候群、テイサックス、ニーマンピック、および他の脂質貯蔵および遺伝的脳疾患および/または統合失調症のような脳の疾患が含まれる。方法はまた、脳または脊髄における卒中のような脳血管障害、髄膜炎およびHIVを含むCNS感染症、脳および脊髄の腫瘍、または先に記述した疾患による神経損傷を有する、またはそのリスクを有する被験者において用いることができる。方法はまた、通常の加齢(例えば、不眠症、または全般的な化学感覚の喪失)、脳損傷(外傷性脳損傷(TBI)を含む)、または脊髄損傷に起因するCNS障害に対抗するために薬物を送達するために用いることができる。本発明の方法は、神経変性障害の診断、処置、または予防のために細胞を脳に送達するために用いることができる。
【0181】
細胞の適用はまた、神経毒素または他の障害によって損傷を受けた末梢細胞およびニューロンを置換または増強するために用いることができる。この処置法は、環境的要因が疾患の原因物質の一つであると疑われているアルツハイマー病の場合において有用である。細胞の適用はまた、神経変性疾患および通常の加齢に関連する可能性がある嗅覚喪失または全般的化学感覚の喪失に影響を及ぼすために用いることができる。
【0182】
細胞はまた、パーキンソン病の処置において用いることができる。パーキンソン病の脳における主な治療標的は、橋の頭部境界域から視床下核までの脳脚底の背側表面の上に前方に広がる黒質である。他の治療標的領域は、頭部橋領域に存在する青斑核および黒質の背内側に存在する腹側被蓋領域である。
【0183】
細胞、例えば分化したニューロン細胞を先に記述した単離および/または細胞培養法に従って単離した後、細胞を生理学的に適合性の担体に浮遊させる。担体は、製剤の他の成分と適合性であって、そのレシピエントに対して有害でない任意の担体となりうる。当業者は生理的に適合性の担体を熟知している。適した担体の例には、細胞培養培地(例えば、イーグル最小基本培地)、リン酸緩衝生理食塩液、およびハンクス緩衝塩類液溶液+/-グルコース(HBSS)が含まれる。
【0184】
被験者に投与される細胞浮遊液の容量は、埋め込み部位、処置目標、および溶液中の細胞量に応じて変化するであろう。典型的に、患者に投与される細胞量は、治療的有効量であろう。例えば、処置がパーキンソン病のためである場合、細胞の治療的有効量の移植は典型的に、その障害に関連する症状、例えば硬直、無動症、および歩行障害の量および/または重症度の低減を生じるであろう。
【0185】
一つの例において、重度のパーキンソン病患者が、移植から実質的に有益な効果を有するためには、移植部位あたり生存するドーパミン細胞少なくとも約100,000個を必要とする。細胞の生存は一般的に脳組織移植では低い(5〜10%)ことから、ドーパミンニューロン約100万個〜約400万個を移植するような、細胞少なくとも100万個が投与される。
【0186】
一つの態様において、細胞は被験者の脳に投与される。細胞は、脳の実質内に、くも膜下腔もしくは脳室のような脳脊髄液を含む間隙に、または神経外に埋め込まれてもよい。このように、一つの例において、細胞は、中枢神経系内ではない、または腹腔神経節もしくは坐骨神経のような末梢神経系内ではない被験者の領域に移植される。もう一つの態様において、細胞は、硬膜内の全ての構造が含まれる中枢神経系に移植される。
【0187】
典型的に、細胞は、被験者の脳に注射によって投与される。注射は一般的に、18〜21ゲージ針を有する滅菌シリンジによって行うことができる。正確な針の大きさは、処置される種に依存するであろうが、針は如何なる種においても直径1 mmより大きくてはならない。当業者は、被験者の脳に細胞を投与するための技術を熟知している。
【0188】
他の態様において、804モノクローナル抗体を投与することによって、神経損傷もしくは神経変性障害のような疾患もしくは障害を有する被験者を処置するための、またはそのような障害の症状を軽減するための方法が提供される。例えば、804モノクローナル抗体は、多様な病態、例えば卒中、パーキンソン病、および脊髄損傷における新生ニューロン生長を脱抑制するために栄養因子を送達するために用いることができる。
【0189】
本開示は以下の非制限的な実施例によって説明される。
【0190】
実施例
実施例1
成体マウス骨格筋からの心筋細胞前駆細胞を単離および増大させるための方法ならびに抗体を産生するためのその利用
6〜10週齢の雄性C57Bl/SJ6マウスの後脚からの骨格筋組織を小片に切断して、コラゲナーゼによって37℃で2時間消化した。消化した組織から細胞片、および他の未消化の組織断片を100μmフィルターに通過させた後40μmフィルター(Falcon)に通過させることによってきれいにした。細胞浮遊液を低速(1,400 rpm)で遠心して、可能な限り小さい筋線維断片を除去した。この段階の細胞はほとんどが、Spoc(骨格筋に基づく心筋細胞の前駆体)細胞と呼ばれる直径約4μmの小さい丸い細胞のクラスタからなった。
【0191】
Spoc細胞を、完全な増殖培地(5%ウシ胎児血清(FBS)、10 ng/mlヒトEGF、10 ng/mlヒトbFGF(PeproTech, Inc.)、5μg/mlインスリン、5μg/mlトランスフェリン、6 ng/mlセレン、2μg/mlエタノールアミン(ITS-X, Invitrogen Corporation)、25μg/mlゲンタマイシンおよび2.5μg/mlフンギゾン(Life Technologies)を添加した1:1 DMEM/F12)において通常の組織培養皿において細胞約105個/cm2の密度で播種した。数日後、培養物は、浮遊する丸い細胞集団および接着するいくつかの線維芽細胞からなった。丸い細胞は、細胞分裂を数ラウンド経た後に大きくなり、そのあいだにそれらは直径が10〜14μmに増加した浮遊する丸い細胞のクラスタとなった。これらのクラスタにおける細胞は、CS(Spocからの心前駆体)細胞と呼ばれた(参照により本明細書に組み入れられる、2002年10月22日に提出されたPCT特許出願番号PCT/US02/33860号を参照されたい)。
【0192】
次に、これらの細胞を用いて標準的な技法を用いてラットモノクローナル抗体を産生した。簡単に説明すると、マウスにSpoc細胞1〜10×106個をpH 7.4のリン酸緩衝生理食塩液において2〜3週間の間隔で5回皮下注射した。ラット1匹には、融合の3日前に5×106個を皮下および腹腔内注射した。
【0193】
脾細胞を、50%ポリエチレングリコールを用いて、P3X63-Ag8.653に融合した。細胞を培養して、HAT選択細胞のハイブリドーマライブラリを、本質的にKenneyらにおいて記述されるとおりに単離した。ハイブリドーマライブラリを、自動細胞沈着ユニットを有する蛍光活性化細胞ソーターを用いてクローニングした。生存している単細胞を、前方散乱、側方散乱、およびヨウ化プロピジウム蛍光の分析基準に基づいて96ウェルプレートに選別した(Kenney et al., Biotechnology 13:787〜90, 1995を参照されたい)。
【0194】
二つのライブラリからのクローン約1500個を、それぞれの上清が蛍光アッセイにおいて固定したSpoc細胞に対して用いられるであろう程度まで増大させる。上清4個のプールを、サイトスピン機械においてシラン処理したスライドガラスに沈着させたSpoc細胞のそれぞれのスライドガラスに対して用いて、4%パラホルムアルデヒドによって固定した。検出はFITC標識二次ヤギ抗ラットIgGおよびIgM抗体によって行った。陽性反応を示唆するプールした試料は、同じように個々に試験されたそれらの成分上清に分類された。804クローンは多数の実験後にSpoc細胞のサブセットに関して陽性であり、次にこれを増大した培養において増殖させた。反応する主な抗体を精製して、IgM抗体であると同定された。
【0195】
このように、804として知られる一つの特定のクローンは、Spoc細胞のサブセット上の細胞表面抗原に対して強く反応するIgMモノクローナル抗体を産生した(この抗体は、ブダペスト条約に従って、2004年3月24日にAmerican Type Culture Collectionに寄託された、ATCC寄託番号PTA-5888)。次にこの抗体を、Sca1モノクローナル抗体と共に用いて、Sca1/804抗原性に関して起こりうる組み合わせ、すなわち++、+-、--、-+の4個全てを単離した。
【0196】
Sca 1-/804-精製細胞を単離して増殖させた場合、それらは培養において拍動する細胞に発達するが、Sca1-/804+細胞を培養すると、β-3-チューブリンのような神経マーカーを発現するニューロン細胞へと増殖した。
【0197】
実施例2
免疫組織化学を用いるSpoc細胞の検出
Spoc細胞を、完全な増殖培地(5%ウシ胎児血清(FBS)、10 ng/mlヒトEGF、10 ng/mlヒトbFGF(PeproTech, Inc.)、5μg/mlインスリン、5μg/mlトランスフェリン、6 ng/mlセレン、2μg/mlエタノールアミン(ITS-X, Invitrogen Corporation)、25μg/mlゲンタマイシンおよび2.5μg/mlフンギゾン(Life Technologies)を添加した1:1 DMEM/F12)において通常の組織培養皿において細胞約105個/cm2の密度で播種した。数日後、培養物は、浮遊する丸い細胞集団および接着するいくつかの線維芽細胞からなった。丸い細胞は、細胞分裂を数回経た後に大きくなり、そのあいだにそれらは直径が10〜14μmに増加した浮遊する丸い細胞のクラスタとなった。これらのクラスタにおける細胞は、CS(Spocからの心前駆体)細胞と呼ばれる。モノクローナル抗体804は、0〜4日間培養したSpoc細胞の亜集団に特異的に結合した(図1A、1B、および1C)。さらに、モノクローナル抗体804は、培養5日後、少数の細胞に結合した。しかし、804陽性細胞を804陰性細胞(次に、拍動する心筋細胞へと分化するであろう細胞)から予め単離していなければ、この時期(5日)までに、細胞の大多数が804陰性である。このように、心筋細胞前駆体は、二つの前駆体サブセット(804陽性と陰性)を同時培養した場合に、804陽性Spoc細胞がニューロン細胞に分化することを抑制するであろう。
【0198】
Spoc細胞標本または組織切片を30分間空気乾燥させた後、4%パラホルムアルデヒドによって固定した後、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)によって5分間すすいだ。または、マウスの場合、パラホルムアルデヒド注入を行った。切片をヤギ血清によって30分間ブロックした後、Spoc細胞、抗-b-チューブリン、またはもう一つの一次抗体のいずれかと共に4℃で終夜インキュベートした。終夜インキュベーションの後、標本をPBSによって3回(各5分)すすぎ、ヤギ血清によって30分間再度ブロックした。次に、標本を、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テキサスレッド、またはテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)に共役させた二次抗体と共に室温で1時間インキュベートした。それらを次にPBSによって3回(各5分間)すすいだ後、蛍光シグナルを検出するためにレーザー共焦点顕微鏡(Leica)によって可視化した。
【0199】
804マーカーは、マウス骨格筋における細胞を同定するために蛍光および組織化学的試験において用いられた(図2A)。これらの同じ細胞を、804が反応する抗原を同定するために、イムノゴールドを用いて、電子顕微鏡(EM)下で見た。この試験は、804抗原が細胞表面上の小胞に部分的に存在することを示した。カベオリンイムノゴールド抗体による二重標識は同時局在を示した。このことは、トライトン不溶性膜分画に存在すると決定されている抗体がGP1アンカータンパク質である可能性を示唆した。実際に、804抗原は、GPI連結タンパク質の印であるホスホリパーゼ-Cを用いて細胞表面から切断されうることが判明した。
【0200】
804抗原は、ヒト骨格筋およびブタ(例えば、図2Bを参照されたい)における相同な細胞を同定することが示されている。その上、ブタ骨格筋から単離されて12時間培養した804+細胞は、ニューロスフェアを形成して、ニューロン特異的マーカーを発現した(図3A)。抗体はまた、マウスおよびブタ海馬において少数の804+細胞を同定する。しかし、ブタ、マウス、およびヒト海馬においてより豊富なのは、804抗体と反応する星状細胞様形態を有するより多くの成熟細胞である。これらの細胞は、脳の三つの部分:海馬のCA1領域、嗅葉、および側脳室の脳室下領域において限定された数で存在すると記述されているニューロン幹細胞であろう。この主張を支持するように、804抗体は、マウスの脳のこれら三つの領域においてこの亜集団を検出し、他所には存在しない(例えば、図3Bを参照されたい)。このように、脳において、少数の6μmの804陽性細胞は星状細胞形態を有するニューロン前駆体を生じるように非対称に分裂する。
【0201】
実施例3
804モノクローナル抗体によって認識される抗原の同定およびさらなる特徴
先に記述したように、804モノクローナルIgM抗体は、総Spoc細胞のSca1陰性分画から分離して、その後FGFおよびEGFと共に培養した場合に、培養において神経上皮細胞を発達させる骨格筋からの細胞のサブセットを同定した。804抗原は、これらの細胞が未分化の幹細胞から分化型ニューロン細胞へと進行するにつれて、これらの細胞の細胞体および神経突起伸長部において連続的に発現される。
【0202】
804抗原を同定およびその特性をさらに調べるために、抗体を用いてマウス脳と共にブタおよびヒト海馬の連続縦方向切片を染色した。細胞を4%パラホルムアルデヒドにおいて4℃で固定するか、またはアセトンにおいて-20℃で10分間固定した後、PBSにおいて全体で15分間洗浄した(3回)。ブロッキングは、3%BSAのPBS溶液、5%ヤギ血清のPBS溶液、または10%ヤギ血清のPBS溶液のいずれかと共に室温で30分間行った。一次抗体とのインキュベーションは、4℃で終夜行った。次に、細胞を1×PBSにおいて全体で15分間(3回)洗浄した。二次抗体とのインキュベーション(FITCまたはテキサスレッド共役)を室温で1時間行った。その後、細胞をPBSによって3回洗浄した。蛍光封入剤をDAPI(Vector)およびカバーガラスと共に試料上に載せた。細胞の画像をZeiss 200M Axiovert蛍光顕微鏡によって得た。
【0203】
804抗体は、マウス脳における嗅葉、海馬の歯状回、および側脳室の上衣下層におけるニューロンのサブセットを染色した。これらは、ニューロン幹細胞を含むことが公知である脳の三つの領域である(Schinder and Gage, Physiology 19:253〜261, 2004)。804抗体はまた、ヒトおよびブタ海馬における類似のサブセットの細胞を同定することが示されており、この前駆細胞マーカーが進化的に保存されていることが確認された。
【0204】
804抗体を同様に用いて、804抗体およびMACS(磁気活性化細胞選別Magnetic Activated Cell Sorting)を用いて、10日目以降の一連のマウス胚を染色した。解離した胚細胞をHBSSにおいて804抗体(1:50濃度)と共に4℃で20分間インキュベート(軽く揺り動かしながら)した。次に、細胞をビオチンを含まないDPBS/BSAによって洗浄して、遠心沈降させた。次に細胞をビオチン化抗ラットIgG/IgM(1:50)と共に20分間インキュベートした。DPBS/BSAを用いて細胞を洗浄した後遠心した。ストレプトアビジンマイクロビーズ(Miltenyi)を細胞に20分間加えた。細胞/ビーズ浮遊液をMilteny磁石の存在下でMiltenyi磁気カラムに載せた。流れたもの(flow-through)(陰性細胞)を回収してカラムをDPBS/BSAによって洗浄した。カラムから磁石を除去して、804陽性細胞をプランジャーを用いてカラムから押し出した。
【0205】
胚発達の12.5日までに、804抗原は、脳、発達中の脊髄、心臓、および発達中の舌基底部において限られた量で陽性(804+)である。12.5日マウス胚の解離した総細胞から細胞を単離するために804抗体を用いることは、Spoc細胞と区別がつかない小さい未分化細胞を生じる。Spoc細胞に用いた条件と同一の培養条件下で、単離された804+胚細胞は、ニューロンの形態を発達させて、その分化を通して804抗原に関して染色陽性である(図4A)。培養の際に、ニューロン形態の発達前に、これらの細胞は、β-3-チューブリン(ニューロン細胞の特異的マーカー)を発現し始めた。
【0206】
804抗体が反応する抗原を同定するために、マウス海馬ホモジネートからの免疫沈殿を行った。免疫沈殿は、約115 kDaの電気泳動移動度を有するきれいなバンドを生じた。このバンドを切除して、トリプシン消化を行った後、質量分析に供した。アクチンおよび四つ全てのαアクチニンを含む、多様な細胞骨格タンパク質からのペプチドの組が存在することが認められた。さらに、804抗体の標的にとって必須である、細胞表面認識部位を有する単一のさらなる膜貫通タンパク質が存在することが示された。質量分析によって同定されたペプチドには、以下が含まれる:

これらのペプチドは、GRIN1と呼ばれるマウスNMDA受容体のサブセットの配列と完全にマッチした。
【0207】
GRIN1抗原の同定を確認するために、GRIN1に対する市販の抗体(Phosphosolutions, Aurora, COからの抗-NMDAR(NR1サブユニット)クローンR1JHL)を用いて海馬およびSpoc細胞からのタンパク質を免疫沈殿させて、双方の産物を804抗体によってプロービングした。Spoc細胞を、EGFおよびFGFを添加したDMEM-F12において組織培養皿において増殖させた。細胞を回収して沈降させた後、NP-40細胞溶解緩衝液(50 mMトリス-HCl、pH 8.0、150 mM NaClおよび1%NP-40と共にコンプリートプロテアーゼ阻害剤1錠/10 mlを含む)によって4℃で溶解した。海馬溶解物およびSpoc細胞溶解物を最高速度で15分間微量遠心して、上清を除去した。抗体804またはNR1抗体を加えて(溶解物1 mlあたり30μg)、溶解物と共に4℃で終夜混合した。プロテインA/G(Sigma)を加えて(100μl/ml溶解物)、4℃で2時間混合した。抗体を結合したプロテインA/GをPierceスピンカラムにおいて回収した後、PBSによって4℃で3回洗浄した。プロテインA/GをLamelli緩衝液およびPBSの1:1溶液に加えて、100℃で2分間沸騰させた。上清を回収してTris-Hepes-SDSゲル(Gradipore)において泳動して、免疫沈殿したタンパク質をコロイド状クーマシー染色(Gradipore)を用いてゲル上で直接可視化するか、またはNovex装置を用いてメンブレンに転写した。ウェスタンブロットを、適当な抗体によってプロービングしてECL試薬(Amersham)を用いて可視化した。
【0208】
図5Aは、GRIN1抗体によって免疫沈殿させて、804およびGRIN1抗体の双方によってプロービングした海馬溶解物を示す。いずれの抗体も同じ115 kDaのバンドを検出した。対照レーンは総溶解物に対する反応を示さず、このことは、GRIN1抗体を用いた免疫沈殿の特異性を確認している。
【0209】
しかし、GRIN1がユビキタスな本質を有し、804抗体がまれで特異的本質を有することから、後者によって結合された抗原はGRIN1のイソ型であるに違いないことは明白である。このことを確認するために、マウス全脳をGRIN1抗体によって染色すると、予想どおり脳が均一に染色される。804による第二の染色から、804と同時染色した上記の位置にこれらの細胞のごく少数のサブセットが存在することが示される。804/GRIN1抗原の大きさはグリコシル化のような翻訳後改変を可能にする予想サイズ10 kDa以内である。これは、804抗体が、そのクラスがしばしばグリコシル化エピトープに結合するIgM免疫グロブリンであるという事実と一致するであろう。マウス骨格筋から単離した804+ Spoc細胞の、804モノクローナル抗体およびGRIN1抗体との同時染色(図4B)は、804モノクローナル抗体によって認識された抗原がGRIN1のイソ型であるというさらなる証拠を提供する。
【0210】
要約すると、804抗体は、発達中のマウス胚、成体マウス、ブタ、およびの海馬、ならびにマウス、ブタ、およびヒトの骨格筋に存在する未分化の前ニューロン幹細胞に存在するNMDAニューロン受容体のGRIN1サブユニットのイソ型に結合することが示されている。この抗体は、これらの種からニューロン細胞を増殖させるために用いることができる幹細胞を同定する。
【0211】
記述の方法または組成物の正確な詳細を変更または改変してもよく、それらも記述の本発明の趣旨に含まれることは明らかであろう。本発明者らは、そのような全ての改変および変更が下記の特許請求の範囲の範囲および趣旨に含まれると主張する。
【図面の簡単な説明】
【0212】
【図1】培養において異なる日数でモノクローナル抗体804によって免疫染色したマウスSpoc細胞の一連のデジタル画像である。マウスSpoc細胞を0日目(図1A)、2日目(図1B)、および4日目(図1C)に染色する。804モノクローナル抗体によって認識される抗原を発現する細胞の例を、これらの画像において矢印で示す。
【図2】804モノクローナル抗体によって免疫染色した細胞の一連のデジタル画像である。図2Aは、マウス骨格筋の切片である。図2Bは、ヒト二頭筋(骨格筋)の切片のデジタル画像である。図2Aおよび2Bにおける細胞は、804モノクローナル抗体および804モノクローナル抗体に特異的に結合する二次蛍光標識抗体によって免疫染色した。804モノクローナル抗体によって認識される抗原を発現する細胞の例を、これらの画像において矢印で示す。
【図3】免疫染色細胞の一連のデジタル画像である。図3Aは、ニューロスフェアとして増殖し、その辺縁部にニューロン特異的発現(β-3-チューブリン)を示す骨格筋からのブタ804+細胞の12日培養物のデジタル画像である。β-3-チューブリンに関して染色した細胞を矢印で示す。図3Bはモノクローナル抗体804およびモノクローナル抗体804に特異的に結合する二次蛍光標識抗体によって免疫染色したマウス脊髄の切片のデジタル画像である。804モノクローナル抗体によって認識される抗原を発現する細胞の例をこの画像において矢印で示す。
【図4】免疫染色細胞の一連のデジタル画像である。図4Aは、培養14日後で804モノクローナル抗体によって単離して804モノクローナル抗体によって染色した解離したマウス胚細胞のデジタル画像である。図4Bは、マウス骨格筋から単離して、804抗体とGRIN1抗体とによって同時染色した804+細胞のデジタル画像である。双方の抗体によって結合される細胞の例を矢印で示す。
【図5】804モノクローナル抗体によって認識される抗原の免疫沈殿および発現を示す一連のデジタル画像である。図5Aは、GRIN1抗体が、804モノクローナル抗体およびGRIN1抗体によって検出することができるタンパク質を免疫沈殿することを示している。図5Bは、RT-PCRによって、GRIN1がSpoc細胞および海馬において発現されることを示すデジタル画像である。
【配列表フリーテキスト】
【0213】
配列表
添付の配列表に記載した核酸およびアミノ酸配列は、37 C.F.R. 1.822において定義されるように、ヌクレオチド塩基に関して標準的な一文字略語を用いて、およびアミノ酸に関して三文字コードを用いて示す。各ヌクレオチド配列に関して一つのみの鎖を示すが、表示された鎖に対する参照によって相補鎖も含まれると理解される。添付の配列表において:
配列番号:1〜2は、マウスGRIN1ポリペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号:3〜10は、ラットNMDAR1ポリペプチドのサブユニットイソ型のアミノ酸配列である。
配列番号:11は、ヒトGRIN1ポリペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号:12〜14は、ヒトGRIN1イソ型のアミノ酸配列である。
配列番号:15〜18は、マウスGRIN1ペプチドのアミノ酸配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、ニューロン前駆細胞の有無を検出する方法:
モノクローナル抗体804によって結合される抗原を発現する試料中の細胞に結合するモノクローナル抗体に、試料を接触させる段階;および
モノクローナル抗体によって結合される試料中の細胞を検出して、それによってニューロン前駆細胞を検出する段階。
【請求項2】
モノクローナル抗体が、ATCC寄託番号PTA-5888として最初に寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
モノクローナル抗体が、配列番号:1と少なくとも95%同一であるポリペプチドの少なくとも8連続アミノ酸に特異的に結合する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
モノクローナル抗体が標識される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
モノクローナル抗体に特異的に結合する第二抗体に試料を接触させる段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
第二抗体が標識される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
モノクローナル抗体が、配列番号:1の少なくとも8連続アミノ酸に結合する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
試料が、末梢神経系の細胞、中枢神経系の細胞、または骨格筋細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
試料が、骨格筋起源の単離されたc-kit-c-met-CD34-Sca1-Pax(3/7)-ニューロン前駆細胞を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ニューロン前駆細胞が直径約3μm〜10μmである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
ニューロン前駆細胞が、ヒト、マウス、またはブタ細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
ニューロン前駆細胞がヒト細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
モノクローナル抗体によって結合される細胞を単離する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
試料が骨格筋細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
モノクローナル抗体がGRIN1ポリペプチドに結合するが、配列番号:1を発現する細胞のサブセットのみに結合する、請求項1記載の方法。
【請求項16】
モノクローナル抗体が配列番号:1を発現する細胞の最大限で30%に結合する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
モノクローナル抗体が配列番号:1のグリコシル化型に結合する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
以下の段階を含む、ニューロン前駆細胞を単離する方法:
(a)モノクローナル抗体が試料中の細胞に特異的に結合する条件で、ATCC寄託番号PTA-5888として最初に寄託された細胞株からのハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体によって結合される抗原に特異的に結合するモノクローナル抗体に、試料を接触させる段階;および
(b)モノクローナル抗体に結合した細胞を単離して、それによってニューロン前駆細胞を単離する段階。
【請求項19】
段階(a)が、ATCC寄託番号PTA-5888として最初に寄託された細胞株からのハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体に、試料を接触させる段階を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
モノクローナル抗体に結合した細胞を単離する段階が、蛍光性活性化細胞選別を用いる段階を含む、請求項18記載の方法。
【請求項21】
モノクローナル抗体に結合した細胞を単離する段階が、抗体に結合する固相基質に、抗体に結合した細胞を接触させる段階を含む、請求項18記載の方法。
【請求項22】
抗原が、配列番号:1と少なくとも95%同一であるポリペプチドの少なくとも8連続アミノ酸を含むポリペプチドである、請求項18記載の方法。
【請求項23】
抗原が、配列番号:1のアミノ酸少なくとも8個を含むポリペプチドである、請求項18記載の方法。
【請求項24】
抗原が糖タンパク質である、請求項18記載の方法。
【請求項25】
以下の段階を含む、インビトロでニューロン細胞を産生する方法:
骨格筋からのc-kit-c-met-CD34-Sca1-Pax(3/7)-細胞集団から細胞を単離する段階であって、単離された細胞がATCC寄託番号PTA-5888として最初に寄託された細胞株からのハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体によって結合される抗原に特異的に結合する抗体によってインビトロで結合される段階;および
抗体によって結合される細胞を培養して、それによってインビトロでニューロン細胞を産生する段階。
【請求項26】
抗体がATCC寄託番号PTA-5888として最初に寄託されたハイブリドーマによって産生される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
c-kit-c-met-CD34-Sca1-Pax(3/7)-細胞がヒト細胞である、請求項25記載の方法。
【請求項28】
ニューロン細胞がβ-チューブリンを産生する、請求項25記載の方法。
【請求項29】
以下の段階を含む、インビトロでニューロン細胞を産生する方法:
ATCC寄託番号PTA-5888として最初に寄託された細胞株からのハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体によって結合される抗原に特異的に結合する抗体に、インビトロで胚からの細胞浮遊液を接触させる段階;
抗体によって特異的に結合される前駆細胞を同定する段階;および
インビトロで前駆細胞を培養して、それによってニューロン細胞を産生する段階。
【請求項30】
抗体が、ATCC寄託番号PTA-5888として最初に寄託された細胞株からのハイブリドーマによって産生される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
ニューロン細胞が、配列番号:1に記載されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを発現する、請求項29記載の方法。
【請求項32】
抗原がグリコシル化される、請求項29記載の方法。
【請求項33】
抗原が配列番号:1と少なくとも95%同一であるポリペプチドである、請求項29記載の方法。
【請求項34】
c-kit-c-met-CD34-Sca1-Pax(3/7)-804+細胞の治療的有効量を被験者に提供して、それによって神経変性障害の症状を軽減する段階を含む、神経障害を有する被験者を処置する方法。
【請求項35】
神経障害が神経変性障害である、請求項34記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−534946(P2007−534946A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509728(P2007−509728)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【国際出願番号】PCT/US2005/014176
【国際公開番号】WO2005/114107
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(300008988)アメリカ合衆国 (4)
【Fターム(参考)】