説明

幹細胞の未分化状態を維持する新規方法

【課題】CD271を用いて間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞などの未分化状態を維持する方法の提供。
【解決手段】間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞などの多能性の未分化細胞に、CD271を発現するベクターを導入する、または細胞膜透過化型リコンビナントCD271タンパク質を直接導入することによって、これらの細胞の未分化状態を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD271(NGFR,nerve growth factor receptor:低親和性神経成長因子レセプターまたはp75NTR、p75 neurotrophin receptor:p75神経成長因子レセプター、以下、CD271とする)を用いて間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞などの未分化状態を維持する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(以下、MSCsとする)、ES細胞、iPS細胞などの細胞は、未分化であり、多能性を有する細胞として知られている。しかし、長期培養や培養条件の微細な変化によって多能性が喪失されたり、非特異的な分化が誘発されたりするという問題があり、様々な未分化状態を維持する方法が検討されてきた。
例えば、Fibrillarin、AOF2、TIF1β等をコードする遺伝子をこれらの細胞に導入する方法(特許文献1〜3)や、Wntファミリーのタンパク質を含む未分化状態の維持用培地を用いて培養する方法(特許文献4)等が開発されている。
【0003】
Fibrillarin、AOF2、TIF1βは、マウスES細胞が未分化状態を維持しながら増殖する際に必要となるLIF(leukemia inhibitor factor)存在下で、マウスES細胞に特異的に発現している遺伝子として知られている。しかし、これらは細胞質あるいは核内において発現するため、目的とするタンパク質が発現したか否かを細胞が生きたままの状態で確認することは困難である。従って、導入処理後の細胞集団において、タンパク質を発現している細胞と発現していない細胞を選別することが容易ではなく、それぞれの細胞が混在した状態であるため、その後の実験、解析等の障害となる可能性がある。
通常、この問題を解決するために、遺伝子導入を行う際に、ジェネティシン、ハイグロマイシン等の薬剤に対する耐性遺伝子を同時に導入し、それらの薬剤を用いて細胞を選別する。しかし、この方法はあくまでも薬剤耐性遺伝子の発現を確認するものであって、目的遺伝子の発現そのものを直接的に確認するものではない。また、目的遺伝子を発現している細胞のみを選別するためには、薬剤耐性となった細胞をシングルコロニーから培養する必要があるが、これには長期間の培養が必要となるため、その後の分化に影響を与える可能性も考えられる。従って、Fibrillarin、AOF2、TIF1β等の細胞質あるいは核内において発現する遺伝子を導入する方法はさまざまな問題を含んでいる。
【0004】
CD271は、従来、神経系の細胞の細胞膜に局在して発現し、神経細胞の発生、生存および分化に関与することが知られていた。そして、近年、MSCsの細胞膜にも特異的に発現していることが示され、MSCsの最適なマーカーとして、CD271を用いた骨髄抽出液などからMSCsを濃縮する方法が開発されている(特許文献5)。
CD271は細胞膜に局在して発現することから、Fibrillarin、AOF2、TIF1β等の細胞質あるいは核内において発現する遺伝子を導入する場合と異なり、CD271を導入した場合に、蛍光ラベルしたCD271に対する抗体を用いることによって、CD271を発現している細胞と発現していない細胞を生きたまま選別することが可能であるという利点がある。
しかし、CD271のMSCsにおける機能については明らかにされておらず、CD271を用いることにより、間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞などの未分化状態が維持できることも予測されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−72186号公報
【特許文献2】特開2009−45004号公報
【特許文献3】特開2009−11255号公報
【特許文献4】特開2006−345702号公報
【特許文献5】特開2009−60840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、CD271を用いて間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞などの未分化状態を維持する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞などの多能性の未分化細胞に、CD271を発現するベクターを導入する、または細胞膜透過化型リコンビナントCD271タンパク質を直接導入することによって、これらの細胞の各種細胞系統への分化が抑制され、これらの細胞の未分化状態を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明者らは、本発明において、CD271を発現するベクターを導入することで強制発現させた骨髄由来の間葉系幹細胞や歯髄由来の間葉系幹細胞において、骨芽細胞および脂肪細胞等への分化や、骨芽細胞/象牙芽細胞への分化が抑制されたことを確認している。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)〜(9)の間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞などの未分化状態を維持する方法等に関する。
(1)未分化状態の細胞にCD271発現ベクターまたは細胞膜透過化型リコンビナントCD271タンパク質を導入することによって、細胞の未分化状態を維持する方法。
(2)CD271発現ベクターが配列表配列番号1に記載のCD271をコードする遺伝子の全部または一部が組み込まれた発現ベクターである上記(1)に記載の方法。
(3)CD271発現ベクターが図1に記載のCD271発現ベクターである上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)未分化状態の細胞が、間葉系幹細胞、ES細胞またはiPS細胞のいずれかである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)上記(1)〜(4)に記載の方法によって、未分化状態が維持された細胞。
(6)細胞の未分化状態を維持するためのCD271発現ベクターまたは細胞膜透過化型リコンビナントCD271タンパク質。
(7)CD271発現ベクターまたは細胞膜透過化型リコンビナントCD271タンパク質のいずれか1つ以上を含む細胞の未分化状態を維持するためのキット。
(8)CD271を有効成分とする、細胞分化を抑制する、または細胞の未分化状態を維持するための組成物。
(9)上記(8)に記載の組成物を含む、脂肪細胞への細胞分化を抑制することによるメタボリックシンドローム対処用の医薬品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法を用いることにより、未分化状態が長期的に維持された間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞を提供することができる。また、CD271を発現するベクターや、細胞膜透過化型リコンビナントCD271タンパク質を、これらの細胞の未分化状態維持物質として提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】CD271発現ベクターを示した図である(実施例1)。
【図2】CD271ポジティブ細胞におけるCD271の発現を確認した図である(試験例1)。
【図3】CD271ポジティブ細胞におけるアルカリフォスファターゼの活性レベルとCD271の発現量の相関を示した図である(試験例2)。
【図4】CD271強制発現細胞における未分化状態の維持を確認した図である(実施例2)。
【図5】CD271強制発現細胞における未分化状態の維持を確認した図である(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の「細胞の未分化状態を維持する方法」は、CD271をコードする遺伝子を含む組換え遺伝子又は当該組換え遺伝子が挿入されたCD271発現ベクターを幹細胞等の細胞に導入することで、細胞の未分化状態を維持することができる方法であればいずれの方法も含むことができる。CD271発現ベクターの導入により、幹細胞等の導入細胞内でCD271を強制発現させることで幹細胞の未分化状態を制御することが好ましい。
【0012】
本発明の「CD271発現ベクター」は、CD271をコードする遺伝子を含む組換え遺伝子又は当該組換え遺伝子が挿入されたCD271を発現できるベクターであればいずれのものも含むことができる。例えば、配列表配列番号1に記載のCD271をコードする遺伝子が配列表配列番号2に記載の発現ベクターpME18SFL3に組み込まれたTOYOBO cDNA Clones NGFR,Code No.FCC117C02(図1)等の市販の製品や、CD271をコードする遺伝子をpcDNA3.1(インビトロジェン社)、pCMV5、pEGFPシリーズ(クロンテック社)、p3XFLAG−CMVシリーズ(SIGMA社)等の発現ベクターに組み込んだもの等が挙げられる。本発明の「CD271発現ベクター」に組み込まれるCD271遺伝子は、幹細胞等の細胞の未分化状態を維持できるものであれば、CD271をコードする遺伝子の全部でなくてもよく、CD271の機能領域等、必要な配列のみをコードする遺伝子であってもよい。
【0013】
本発明の「細胞膜透過化型リコンビナントCD271タンパク質」とは、ポリアルギニンなどの細胞膜透過性を有する物質が結合されたCD271タンパク質のことをいう。ここで、幹細胞等に導入するCD271タンパク質は、幹細胞等の細胞の未分化状態を維持できるものであればCD271タンパク質全部でなく、その一部をポリアルギニンなどの細胞膜透過性を有する物質に結合したものであってもよい。
【0014】
本発明の「未分化状態の細胞」とは、自己複製能と多分化能の二つの機能を維持している状態の細胞のことをいい、間葉系幹細胞、ES細胞またはiPS細胞等において、これらの機能が維持された細胞のことをいう。
【0015】
本発明の「細胞の未分化状態を維持するためのキット」とは、CD271を幹細胞等の細胞内で発現させるための「CD271発現ベクター」やCD271を幹細胞等の細胞内に導入するための「細胞膜透過化型リコンビナントCD271タンパク質」、さらに、これらの導入等に必要な一連の試薬一式等を1つ以上組合せてキット化したもののことをいう。
【0016】
「CD271を有効成分とする、細胞分化を抑制する、または細胞の未分化状態を維持するための組成物」とは、CD271を有効成分として、細胞分化の抑制や、細胞の未分化状態を維持できる組成物であればいずれのものも含まれる。
有効成分とするCD271は、CD271を細胞内で発現するための本発明の「CD271発現ベクター」や、細胞内に導入するための「細胞膜透過化型リコンビナントCD271タンパク質」であってもよい。この組成物は、有効成分とするCD271以外に、薬学的に許容可能な担体等を含むこともできる。
【0017】
本発明の「CD271を有効成分とする、細胞分化を抑制する、または細胞の未分化状態を維持するための組成物」は、細胞分化の抑制や、細胞の未分化状態が維持できることから、例えば、細胞の脂肪細胞への分化を抑制することにより、肥満抑制剤等の医薬品の製造や、メタボリックシンドロームの予防や治療等、メタボリックシンドロームの対処に用いることができる。また、細胞の骨芽細胞への分化を抑制することにより、過剰な骨形成によって生じる大理石症、骨硬化症などの予防や治療や、そのための医薬品の製造等に用いることもできる。本発明において有効成分とされるCD271は、分化した細胞の増殖によって起きる過形成を抑制する因子として機能することが期待できる。
【0018】
以下、試験例、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
[試験例]
MSCsの最も顕著な特徴は多分化能を有し、骨芽細胞や脂肪細胞などに分化することである。そこで、MSCsに特異的に発現するCD271は、このMSCsの多分化能に関与した機能を有すると考え、CD271を発現している細胞と発現していない細胞において、その分化能の違いを検討した。
【0020】
[試験例1]
フローサイトメトリーを用いて、ヒト乳歯歯髄からCD271を発現している細胞(CD271ポジティブ細胞)とCD271を発現していない細胞(CD271ネガティブ細胞)をそれぞれフローサイトメトリー(CD271:PE−Mouse Anti−Human CD271 Cat:557196,BD PharmingenTM、APC Mouse−Anti−Human CD90 Cat:559869,BD PharmingenTM)を用いて選別した。
まず、間葉系の幹細胞(MSCs)のマーカーであるCD90の抗体を用いて間葉系の幹細胞(MSCs)を単離し、次にCD271の抗体を用いてこのうちのCD271ポジティブ細胞を選別した。骨芽細胞/象牙芽細胞・脂肪細胞・神経細胞への分化能を有している歯髄細胞は間葉系細胞であり、CD90を発現していることから、歯髄細胞におけるCD271ポジティブ細胞も、間葉系の幹細胞(MSCs)に該当し得る。
選別した細胞をそれぞれ、20%FBS、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycinを含むα−MEM培地でコンフルエント状態になるまで培養した。次にそれぞれの細胞からtotal RNAを生成し、これをもとにCD271のmRNA発現を、リアルタイムPCR法を用いて確認した。
その結果、CD271ポジティブ細胞ではCD271ネガティブ細胞と比較して約40倍のCD271を発現していることが確認された(図2)。
リアルタイムPCR法には、以下のプライマー、試薬、解析機器を用いた。
Primer:Perfect Real Time Primer,primer set ID:HA036699,タカラバイオ社
試薬:SYBR Premix Ex Taq II,製品コード:RR081A,タカラバイオ社
解析機器:Smart Cycler II System,製品コード:SC200N,Cepheid社
【0021】
[試験例2]
上記試験例1と同様に選別培養したCD271ポジティブ細胞とCD271ネガティブ細胞を、骨芽細胞分化誘導培地(100ng/ml BMP−2、50μg/ml L−ascorbate phosphate、10mM β−glycerophosphate、20% FBS、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycinを含むα−MEM培地)でさらに6日、12日、24日間培養し、骨芽細胞分化の指標とされるアルカリフォスファターゼの活性をalkaline phosphatase (ALP)staining solution(ready−tousetablets,Roche)を用いた染色によって比較した。また、上記試験例1と同様の方法で、培養したそれぞれの細胞からtotalRNAを生成し、これをもとにCD271のmRNA発現を、リアルタイムPCR法を用いて確認した。
その結果、CD271ポジティブ細胞では、CD271ネガティブ細胞と比較して、アルカリフォスファターゼの活性化が抑制された。また、CD271ポジティブ細胞においては、アルカリフォスファターゼの活性レベルの上昇にともない、CD271の発現量が減少した(図3)。
【0022】
上記試験例1、2の結果より、CD271を発現しているヒト乳歯歯髄において、骨芽細胞への分化が抑制される傾向が観察されたことから、MSCsに特異的に発現するCD271が、細胞の分化を抑制する働きあることが示唆された。
【実施例1】
【0023】
<間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞の未分化状態を維持する方法>
マウス由来の未分化間葉系幹細胞株であるC3H10T1/2細胞にCD271を遺伝子導入することによって、恒常的にCD271を発現させることで、この細胞の未分化状態を維持した。
【0024】
1.試料
1)C3H10T1/2細胞
C3H10T1/2細胞(理化学研究所・細胞開発銀行より入手)を、10% fetal bovine serum,100U/ml penicillin,100μg/ml streptomycinを含む細胞培養液中(α−MEM)で、COインキュベーターを用い、37℃,5%CO2の条件下で培養した。
2)CD271発現ベクター
配列表配列番号1に記載のCD271をコードする遺伝子が配列表配列番号2に記載の発現ベクターpME18SFL3に組み込まれたTOYOBO cDNA Clones NGFR,Code No.FCC117C02(図1)を用いた。
図1のcDNA部分はCD271をコードする遺伝子(配列表配列番号1)を指す。
【0025】
2.C3H10T1/2細胞へのCD271発現ベクターの導入
C3H10T1/2細胞を、10%fetal bovine serum,100U/ml penicillin,100μg/ml streptomycinを含む細胞培養液中(α−MEM)で、50%コンフルエント状態になるまで6ウェルディッシュで前培養した。その後、培養液を、5%fetal bovine serumを含む細胞培養液(α−MEM)に交換し、2〜3時間の前培養を行った。
TOYOBO社から購入したC271発現ベクター(TOYOBO cDNA Clones NGFR,Code No.FCC117C02)をDNA制限酵素ScaIで切断し、線状化ベクターを生成した。また、pcDNA3.1ベクターに含まれるジェネティシン耐性遺伝子発現領域をDNA制限酵素KpnIおよびApLIで切り出した。
線状化したCD271発現ベクター(2μg)とpcDNA3.1ベクターから切り出したジェネティシン耐性遺伝子発現領域を含むDNA(0.3μg)をInvitrogen社のlipofectamine LTXを用いて付属のマニュアルに従って細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションから6時間後に細胞培養液を10%fetal bovine serum,100U/ml penicillin,100μg/ml streptomycinを含む細胞培養液に交換し、24時間培養した。その後、ジェネティシン存在下で10日間培養した。その後、蛍光ラベルしたCD271抗体を用いてFACS解析を行い、CD271を発現している細胞を選別した。
【0026】
3.C3H10T1/2細胞(CD271強制発現細胞)
導入後のC3H10T1/2細胞におけるCD271タンパク発現の確認を、試験例1に記載の方法と同様の方法で確認した。CD271強制発現細胞は、顕微鏡下の観察において、CD271発現ベクター導入による形態的な変化が認められなかった。
【実施例2】
【0027】
<CD271強制発現細胞における未分化状態の維持の確認>
実施例1のC3H10T1/2細胞(CD271強制発現細胞)を用い、1)骨芽細胞および2)脂肪細胞への分化を誘導することで、CD271強制発現細胞における未分化状態の維持を確認した。
【0028】
1)骨芽細胞への分化誘導
実施例1のC3H10T1/2細胞(CD271強制発現細胞)をコンフルエント状態になるまで、10%FBS、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycinを含むα−MEM培地で3週間程度培養した。次に骨芽細胞分化誘導培地(100ng/ml BMP−2、10‐8M Dexamethasone、50μg/ml L−ascorbate phosphate、10mM β−glycerophosphate、10% FBS、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycinを含むα−MEM培地)でさらに12日間培養し、上記試験例2と同様にアルカリフォスファターゼ染色を行った。比較としてCD271を含まない発現ベクターのみを導入した細胞(コントロール細胞)を用いた。
その結果、C3H10T1/2細胞(CD271強制発現細胞)では、コントロール細胞と比較して顕著にアルカリフォスファターゼ活性が抑制され、骨芽細胞への分化が抑制されていることが確認された(図4)。
【0029】
2)脂肪細胞への分化誘導
実施例1のC3H10T1/2細胞(CD271強制発現細胞)を上記1)と同様にコンフルエント状態になるまで培養し、その後、脂肪細胞分化誘導培地(100ng/ml BMP−2、10‐8M Dexamethasone、10% FBS、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycinを含むα−MEM培地)でさらに12日間培養し、脂肪細胞の指標とされる脂肪球の形成をOil red O染色によって観察した。細胞核はヘマトキシリンによって染色した。比較としてCD271を含まない発現ベクターのみを導入した細胞(コントロール細胞)を用いた。
その結果、C3H10T1/2細胞(CD271強制発現細胞)では、コントロール細胞と比較して顕著に脂肪球の形成が抑制され、脂肪細胞への分化が抑制されていることが確認された(図5)。
【0030】
上記1)、2)の結果より、C3H10T1/2細胞(CD271強制発現細胞)において未分化の状態が維持されていることが示された。従って、本発明のCD271を用いる方法により、間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞の未分化状態が維持できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の方法を用いることにより、未分化状態が長期的に維持された間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞を提供することができる。また、CD271を発現するベクターや、細胞膜透過化型リコンビナントCD271タンパク質を、これらの細胞の未分化状態維持物質として提供することもできる。さらに、CD271を有効成分とする細胞分化の抑制および未分化状態を維持するための組成物を用い、医薬品(例えば脂肪細胞分化を抑制することによるメタボリックシンドローム治療のための医薬品等)を提供することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未分化状態の細胞にCD271発現ベクターまたは細胞膜透過化型リコンビナントCD271タンパク質を導入することによって、細胞の未分化状態を維持する方法。
【請求項2】
CD271発現ベクターが配列表配列番号1に記載のCD271をコードする遺伝子の全部または一部が組み込まれた発現ベクターである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CD271発現ベクターが図1に記載のCD271発現ベクターである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
未分化状態の細胞が、間葉系幹細胞、ES細胞またはiPS細胞のいずれかである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の方法によって、未分化状態が維持された細胞。
【請求項6】
細胞の未分化状態を維持するためのCD271発現ベクターまたは細胞膜透過化型リコンビナントCD271タンパク質。
【請求項7】
CD271発現ベクターまたは細胞膜透過化型リコンビナントCD271タンパク質のいずれか1つ以上を含む細胞の未分化状態を維持するためのキット。
【請求項8】
CD271を有効成分とする、細胞分化を抑制する、または細胞の未分化状態を維持するための組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物を含む、脂肪細胞への細胞分化を抑制することによるメタボリックシンドローム対処用の医薬品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−4607(P2011−4607A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148337(P2009−148337)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】