幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤
【課題】幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とする幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤を提供する。
【解決手段】幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤にアシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物を含有せしめる。
【解決手段】幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤にアシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物を含有せしめる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞増殖因子(Stem Cell Factor,SCF)は、Must Cell Growth Factor、C-Kit Ligand、Steel Factor等とも呼ばれ、角化細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、骨髄ストローマ細胞等から産生されるタンパク質である。SCFは、多能性造血幹細胞、生殖細胞、肥満細胞、巨核球系前駆細胞、顆粒球・マクロファージ系前駆細胞、色素細胞等の増殖や分化を促進する作用を有することが知られている。また、SCFは、シミ部位や紫外線照射等によって発現が亢進することが知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
SCFとしては、273のアミノ酸残基からなる膜結合型SCFと、タンパク質分解酵素の作用により切断され、膜から遊離する分泌型SCFとが知られている。膜結合型SCFは、角化細胞等に結合したまま色素細胞のSCFレセプターに結合し、色素細胞の増殖を促進する。また、分泌型SCFは、その結合部位にて切断され、細胞膜から遊離し、色素細胞のSCFレセプターに結合することによって、色素細胞の増殖を促進する。すなわち、生体内細胞におけるSCFの産生を促進することで、色素細胞の増殖を促進し、その結果としてメラニンの産生を促進し得ることが期待される。
【0004】
皮膚や毛髪の色調は、皮膚や毛髪に含まれるメラニン量によって左右される。メラニンは、皮膚や毛髪に存在する色素細胞の中で生合成される酵素チロシナーゼの働きによって、チロシンからドーパ、ドーパからドーパキノンに変化し、ついで5,6−ジヒドロキシインドフェノール等の中間体を経て形成されるものとされている。この色素細胞を活性化させたり、増殖させたりすることにより、メラニンが合成され、その結果、毛髪は黒色になり、皮膚は褐色(黒色)になる。
【0005】
老化現象の一つである白髪化は、毛乳頭細胞におけるメラニン産生量が低下することによって起こると考えられている。そのため、毛乳頭細胞におけるSCFの産生を促進することができれば、それを通じてメラニンの産生を促進することができ、その結果として白髪化を予防又は改善することができると考えられる。
【0006】
また、褐色の肌は、男女を問わず健康的な肌色として、ファッションの一部として受け入れられつつある。特に欧米ではその傾向が強く、褐色の肌がステータスシンボルの一種となっている。そこで、シミ、ソバカス、皮膚癌等の原因となり得る紫外線を浴びることなく、皮膚を褐色(黒色)化し得る化粧料が求められている。そのために、表皮線維芽細胞におけるSCFの産生を促進することができれば、それを通じてメラニンの産生を促進することができ、その結果として皮膚を褐色(黒色)化することができると考えられる。
【0007】
このような考えに基づき、メラニンの産生を促進する作用を有するものとして、例えば、食用菊の抽出物(特許文献1参照)、樟芝抽出物(特許文献2参照)、キンポウゲ科クロタネソウ属植物又はその抽出物(特許文献3参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−197352号公報
【特許文献2】特開2007−077119号公報
【特許文献3】特開2005−247736号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hachiya A et al.,J. Invest. Dermatol.,No.116,2001,p.578-586
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とする幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤は、アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安全性の高い天然抽出物を有効成分として含有する幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。
本発明のSCFmRNA発現促進剤は、アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有する。
【0014】
本発明において「抽出物」には、上記の植物を抽出原料として用いて得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0015】
本発明において使用する抽出原料は、アシタバ(学名:Angelica keiskei Koidzumi)、イラクサ(学名:Urtica thubergiana)又はオウレン(学名:Coptis japonica Makino)である。
【0016】
アシタバ(Angelica keiskei Koidzumi)は、房総半島、伊豆半島、伊豆諸島等に自生しているセリ科シシウド属に属する多年草であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るアシタバの構成部位としては、例えば、葉部、茎部、花部、蕾部、果実部、果皮部、果核部、地上部、又はこれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部である。
【0017】
イラクサ(Urtica thubergiana)は、日本の本州、四国、九州、朝鮮半島等に分布しているイラクサ科イラクサ属に属する多年生草本であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るイラクサの構成部位としては、例えば、葉部、茎部、花部、根部、根皮部、地上部、全草、又はこれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部である。
【0018】
オウレン(Coptis japonica Makino)は、北海道,本州,四国の山地等に分布しているキンポウゲ科オウレン属に属する多年草の植物であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るオウレンの構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、種子部、花部等の地上部、根茎部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは根茎部である。
【0019】
アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物に含有されるSCFmRNA発現促進作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって、上記植物からこの作用を有する抽出物を得ることができる。
【0020】
例えば、上記植物を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより、SCFmRNA発現促進作用を有する抽出物を得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、上記植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0021】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0022】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0023】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0024】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90容量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40容量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10〜90容量部を混合することが好ましい。
【0025】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液は、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0026】
精製は、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等により行うことができる。得られた抽出液はそのままでもSCFmRNA発現促進剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液又は乾燥物としたものの方が使用しやすい。
【0027】
以上のようにして得られるアシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物は、SCFmRNA発現促進作用を有しているため、その作用を利用してSCFmRNA発現促進剤の有効成分として使用することができる。
【0028】
本発明のSCFmRNA発現促進剤は、アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物のみからなるものでもよいし、当該植物抽出物を製剤化したものでもよい。
【0029】
アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物は、他の組成物(例えば、頭髪化粧料、皮膚化粧料等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0030】
なお、本発明のSCFmRNA発現促進剤は、必要に応じて、SCFmRNA発現促進作用を有する天然抽出物等を、アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0031】
本発明のSCFmRNA発現促進剤の患者に対する投与方法としては、皮下組織内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経口投与、経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本発明のSCFmRNA発現促進剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0032】
本発明のSCFmRNA発現促進剤は、アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物が有するSCFmRNA発現促進作用を通じて、SCFmRNAの発現を促進することができ、これにより色素細胞の増殖やメラニンの産生を促進し、白髪化や白毛症等を予防又は改善することができるとともに、皮膚を褐色(黒色)化することができる。ただし、本発明のSCFmRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもSCFmRNA発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0033】
なお、本発明のSCFmRNA発現促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0034】
以下、試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。なお、下記の試験例においては、試料としてアシタバ抽出物(丸善製薬社製,商品名:アシタバ抽出液,試料1)、イラクサ抽出物(丸善製薬社製,商品名:イラクサ抽出液,試料2)及びオウレン抽出物(丸善製薬社製,商品名:オウレン抽出液,試料3)を使用した。
【0035】
〔試験例1〕SCFmRNA発現促進作用試験
アシタバ抽出物(試料1)、イラクサ抽出物(試料2)及びオウレン抽出物(試料3)について、以下のようにしてSCFmRNA発現促進作用を試験した。
【0036】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(normal human epidermal keratinocyte:NHEK)を80cm2フラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife-KG2)において、37℃、5%CO2−95%airの条件下で前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。
【0037】
EpiLife-KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON)に40×104cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO2−95%airの条件下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、EpiLife-KG2で必要濃度に溶解した試験試料(試料1〜3,試料濃度は下記表1を参照)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO2−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(NIPPON GENE社製,Cat.no.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0038】
この総RNAを鋳型とし、SCF及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No.RR063A)によるリアルタイム2 Step RT-PCR反応により行った。SCFのmRNAの発現量は、試料無添加及び試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、さらに試料無添加の補正値を100とした時の試料添加の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりSCFmRNA発現促進率(%)を算出した。
【0039】
SCFmRNA発現促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時の補正値」を表し、Bは「試料無添加時の補正値」を表す。
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、アシタバ抽出物、イラクサ抽出物及びオウレン抽出物は、いずれも優れたSCFmRNA発現促進作用を有することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤は、白髪化の予防・改善、皮膚の褐色(黒色)化の促進に大きく貢献できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞増殖因子(Stem Cell Factor,SCF)は、Must Cell Growth Factor、C-Kit Ligand、Steel Factor等とも呼ばれ、角化細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、骨髄ストローマ細胞等から産生されるタンパク質である。SCFは、多能性造血幹細胞、生殖細胞、肥満細胞、巨核球系前駆細胞、顆粒球・マクロファージ系前駆細胞、色素細胞等の増殖や分化を促進する作用を有することが知られている。また、SCFは、シミ部位や紫外線照射等によって発現が亢進することが知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
SCFとしては、273のアミノ酸残基からなる膜結合型SCFと、タンパク質分解酵素の作用により切断され、膜から遊離する分泌型SCFとが知られている。膜結合型SCFは、角化細胞等に結合したまま色素細胞のSCFレセプターに結合し、色素細胞の増殖を促進する。また、分泌型SCFは、その結合部位にて切断され、細胞膜から遊離し、色素細胞のSCFレセプターに結合することによって、色素細胞の増殖を促進する。すなわち、生体内細胞におけるSCFの産生を促進することで、色素細胞の増殖を促進し、その結果としてメラニンの産生を促進し得ることが期待される。
【0004】
皮膚や毛髪の色調は、皮膚や毛髪に含まれるメラニン量によって左右される。メラニンは、皮膚や毛髪に存在する色素細胞の中で生合成される酵素チロシナーゼの働きによって、チロシンからドーパ、ドーパからドーパキノンに変化し、ついで5,6−ジヒドロキシインドフェノール等の中間体を経て形成されるものとされている。この色素細胞を活性化させたり、増殖させたりすることにより、メラニンが合成され、その結果、毛髪は黒色になり、皮膚は褐色(黒色)になる。
【0005】
老化現象の一つである白髪化は、毛乳頭細胞におけるメラニン産生量が低下することによって起こると考えられている。そのため、毛乳頭細胞におけるSCFの産生を促進することができれば、それを通じてメラニンの産生を促進することができ、その結果として白髪化を予防又は改善することができると考えられる。
【0006】
また、褐色の肌は、男女を問わず健康的な肌色として、ファッションの一部として受け入れられつつある。特に欧米ではその傾向が強く、褐色の肌がステータスシンボルの一種となっている。そこで、シミ、ソバカス、皮膚癌等の原因となり得る紫外線を浴びることなく、皮膚を褐色(黒色)化し得る化粧料が求められている。そのために、表皮線維芽細胞におけるSCFの産生を促進することができれば、それを通じてメラニンの産生を促進することができ、その結果として皮膚を褐色(黒色)化することができると考えられる。
【0007】
このような考えに基づき、メラニンの産生を促進する作用を有するものとして、例えば、食用菊の抽出物(特許文献1参照)、樟芝抽出物(特許文献2参照)、キンポウゲ科クロタネソウ属植物又はその抽出物(特許文献3参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−197352号公報
【特許文献2】特開2007−077119号公報
【特許文献3】特開2005−247736号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hachiya A et al.,J. Invest. Dermatol.,No.116,2001,p.578-586
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とする幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤は、アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安全性の高い天然抽出物を有効成分として含有する幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。
本発明のSCFmRNA発現促進剤は、アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有する。
【0014】
本発明において「抽出物」には、上記の植物を抽出原料として用いて得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0015】
本発明において使用する抽出原料は、アシタバ(学名:Angelica keiskei Koidzumi)、イラクサ(学名:Urtica thubergiana)又はオウレン(学名:Coptis japonica Makino)である。
【0016】
アシタバ(Angelica keiskei Koidzumi)は、房総半島、伊豆半島、伊豆諸島等に自生しているセリ科シシウド属に属する多年草であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るアシタバの構成部位としては、例えば、葉部、茎部、花部、蕾部、果実部、果皮部、果核部、地上部、又はこれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部である。
【0017】
イラクサ(Urtica thubergiana)は、日本の本州、四国、九州、朝鮮半島等に分布しているイラクサ科イラクサ属に属する多年生草本であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るイラクサの構成部位としては、例えば、葉部、茎部、花部、根部、根皮部、地上部、全草、又はこれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部である。
【0018】
オウレン(Coptis japonica Makino)は、北海道,本州,四国の山地等に分布しているキンポウゲ科オウレン属に属する多年草の植物であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るオウレンの構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、種子部、花部等の地上部、根茎部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは根茎部である。
【0019】
アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物に含有されるSCFmRNA発現促進作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって、上記植物からこの作用を有する抽出物を得ることができる。
【0020】
例えば、上記植物を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより、SCFmRNA発現促進作用を有する抽出物を得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、上記植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0021】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0022】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0023】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0024】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90容量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40容量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10〜90容量部を混合することが好ましい。
【0025】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液は、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0026】
精製は、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等により行うことができる。得られた抽出液はそのままでもSCFmRNA発現促進剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液又は乾燥物としたものの方が使用しやすい。
【0027】
以上のようにして得られるアシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物は、SCFmRNA発現促進作用を有しているため、その作用を利用してSCFmRNA発現促進剤の有効成分として使用することができる。
【0028】
本発明のSCFmRNA発現促進剤は、アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物のみからなるものでもよいし、当該植物抽出物を製剤化したものでもよい。
【0029】
アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物は、他の組成物(例えば、頭髪化粧料、皮膚化粧料等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0030】
なお、本発明のSCFmRNA発現促進剤は、必要に応じて、SCFmRNA発現促進作用を有する天然抽出物等を、アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0031】
本発明のSCFmRNA発現促進剤の患者に対する投与方法としては、皮下組織内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経口投与、経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本発明のSCFmRNA発現促進剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0032】
本発明のSCFmRNA発現促進剤は、アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物が有するSCFmRNA発現促進作用を通じて、SCFmRNAの発現を促進することができ、これにより色素細胞の増殖やメラニンの産生を促進し、白髪化や白毛症等を予防又は改善することができるとともに、皮膚を褐色(黒色)化することができる。ただし、本発明のSCFmRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもSCFmRNA発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0033】
なお、本発明のSCFmRNA発現促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0034】
以下、試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。なお、下記の試験例においては、試料としてアシタバ抽出物(丸善製薬社製,商品名:アシタバ抽出液,試料1)、イラクサ抽出物(丸善製薬社製,商品名:イラクサ抽出液,試料2)及びオウレン抽出物(丸善製薬社製,商品名:オウレン抽出液,試料3)を使用した。
【0035】
〔試験例1〕SCFmRNA発現促進作用試験
アシタバ抽出物(試料1)、イラクサ抽出物(試料2)及びオウレン抽出物(試料3)について、以下のようにしてSCFmRNA発現促進作用を試験した。
【0036】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(normal human epidermal keratinocyte:NHEK)を80cm2フラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife-KG2)において、37℃、5%CO2−95%airの条件下で前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。
【0037】
EpiLife-KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON)に40×104cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO2−95%airの条件下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、EpiLife-KG2で必要濃度に溶解した試験試料(試料1〜3,試料濃度は下記表1を参照)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO2−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(NIPPON GENE社製,Cat.no.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0038】
この総RNAを鋳型とし、SCF及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No.RR063A)によるリアルタイム2 Step RT-PCR反応により行った。SCFのmRNAの発現量は、試料無添加及び試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、さらに試料無添加の補正値を100とした時の試料添加の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりSCFmRNA発現促進率(%)を算出した。
【0039】
SCFmRNA発現促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時の補正値」を表し、Bは「試料無添加時の補正値」を表す。
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、アシタバ抽出物、イラクサ抽出物及びオウレン抽出物は、いずれも優れたSCFmRNA発現促進作用を有することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤は、白髪化の予防・改善、皮膚の褐色(黒色)化の促進に大きく貢献できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤。
【請求項1】
アシタバ、イラクサ及びオウレンからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現促進剤。
【公開番号】特開2011−74022(P2011−74022A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227631(P2009−227631)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]