説明

幹細胞拘束および骨形成を誘導するヒト前立腺癌細胞因子

ヒト前立腺癌(CaP)細胞は、細胞を動員して骨芽細胞系統に分化させる生物活性を分泌する。転移性ヒトCaP細胞(DuCaPおよびVCaP)によって産生される条件培地(CM)は、間葉系幹細胞(MSC)の骨芽細胞への拘束および分化を誘導した。CaP-CMは、細胞の組織様凝集体への凝縮を誘導する。次に、これら組織様凝集体は骨マトリックスを分泌してミネラル化し、体外(エクスビボ)に骨を形成する。このように、条件培地および/またはそれから単離されたタンパク質を用いて、骨折修復および骨疾患において骨形成を促進できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1. 発明の分野
本発明は全体として生物学および医学の分野に関する。特に、骨形成を誘導する前立腺癌細胞から因子を同定および単離するプロセス、ならびにその使用に関する。
【0002】
発明の背景
本願は、2003年10月2日付け提出の米国特許仮出願第60/508,108号に対する優先権の利益を主張し、その内容全体は参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
米国政府は、助成金番号R01 DK061456に従い、本発明において権利を有する。
【背景技術】
【0004】
2. 関連技術の説明
前立腺癌(CaP)は男性の癌による死亡原因の第二位であり、年に推計189,000人が前立腺癌を有すると診断されている。前立腺癌全体の83%が局所(local)および領域的(regional)段階で発見されることは特筆すべきであろう。2002年には推計30,200人が前立腺癌で死亡すると予測されている。
【0005】
特定の癌のユニークな臨床的特徴は、骨盤および脊柱内の骨芽細胞性または骨産生性病変の形成であり、CaP転移部位で大量の骨が作成される。実際、脊椎転移は前立腺癌転移の90%を占め、再発することが多い(2年以内に45%のリスク)。しかし、甚大な研究努力にも関わらず、この骨芽細胞性応答を媒介する分子メカニズムは明らかにされていない。
【0006】
現在の治療法は、外科的介入、放射線療法、ホルモン療法、および化学療法からなる。これらは全て広範な副作用があり、原発腫瘍の根絶へ向けられていて、転移性病変は見のがされている、またはこのプロセスは防がないことが多い。
【0007】
逆に、米国における骨折率は、年間推計6,000,000人である。骨が完全に折れた場合には、かなりの数の骨折、特に外傷に関わるものは、簡単な固定(ギプス)以上の医学的介入を必要とする。このような例における主要な問題は、骨の両端が近接していないことである(非癒合と呼ばれる)。これにより修復プロセスが無駄に長くなり、回復を妨げうる。体が骨折を修復するのにかかる時間は、中程度の負荷の場合は平均25〜100日であり、完全な修復には1年かかる。このため、単純骨折および医学的に複雑な破損はともに、修復プロセスを加速および/または完全化する新規治療様式から利益を受けるであろう。衰弱することが多い骨折(often-debilitating fracture)が主な症状である、骨が薄くなる骨疾患(骨減少症と呼ばれる)、および骨の強度または弾性が損なわれる他の疾患に関しても同様である。骨芽細胞性Cap転移の結果形成される骨は質量が増えるが、適切に組織化されない。このように、この非組織化構造が骨自体を弱くして、骨折のリスクが増加するのかもしれない。
【0008】
複数の研究により、CaP細胞またはCaP細胞条件培地が骨形成に影響を及ぼす能力が評価されている。これら研究は、骨芽細胞増殖または発生に直接影響するCaPの能力のみに注目しており、一貫していない。このように、CaP Cmは、骨芽細胞増殖および発生を刺激する(LeRoy et al. 2002, Kimura et al. 1992 and Festuccia et al. 1997)とも、これらの特徴を阻害する(Santibanez et al. 1996; Martinez et al. 1996)とも示されている。
【0009】
このように、ある状況においては、骨増殖を誘導する前立腺などの悪性腫瘍に由来するシグナルは極めて有害でありうる。一方、それらの威力を良い方向に制御することができれば、様々な骨減少状態を処置することができるかもしれない。このように、これら因子を同定し利用する必要性がある。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
こうして、本発明に従って、以下の工程を含む、幹細胞を骨形成分化するよう誘導する方法が提供される:(a)幹細胞を提供する工程;および(b)該幹細胞を転移性前立腺癌細胞によって産生された少なくとも1つの因子と、該幹細胞の増殖を支持する条件下で接触させる工程であって、これにより該因子が該幹細胞を骨芽前駆細胞、前骨芽細胞、または骨芽細胞になるよう誘導する工程。幹細胞は、間葉系幹細胞、造血幹細胞、胚性幹細胞、組織幹細胞、または胚性癌腫細胞でありうる。因子は、転移性前立腺癌細胞条件培地に由来するものであってよく、転移性前立腺細胞条件培地と接触されうる。
【0011】
骨芽細胞は組織様凝集体をさらに産生し、骨マトリックスを形成、骨マトリックスをミネラル化、または骨を産生しうる。幹細胞は、骨減少、骨損傷、または骨破壊性疾患に苦しむ対象などの対象内に配置しうる。骨破壊性疾患は、骨粗鬆症、二次性骨粗鬆症、溶骨性骨癌、パジェット病、内分泌学的障害、低リン酸血症(hypophsophatemia)、低カルシウム血症、腎性骨形成異常、副甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、または骨軟化症でありうる。本方法は、該幹細胞をさらなる骨形成因子に接触させる工程をさらに含みうる。
【0012】
別の態様において、転移性前立腺癌細胞の増殖による培地条件を含む組成物が提供される。さらに別の態様において、幹細胞を骨芽細胞に分化するよう誘導する転移性前立腺癌細胞条件培地から得られるタンパク質因子が提供される。またさらに別の態様において、転移性前立腺癌細胞によって産生されるタンパク質因子を得る方法であって、該因子が幹細胞を骨芽細胞に分化するよう誘導する、以下の工程を含む方法が提供される:(a)転移性前立腺癌細胞条件培地を得る工程;および(b)該培地のタンパク質および非タンパク質成分を分離する工程。
【0013】
さらなる態様において、骨芽細胞によるエクスビボ骨形成を誘導する転移性前立腺癌細胞条件培地から得られる熱に不安定なタンパク質因子が提供される。さらなる態様において、転移性前立腺癌細胞によって産生されるタンパク質因子を得る方法であって、該因子が骨芽細胞によるエクスビボ骨形成を誘導する、以下の工程を含む方法が提供される:(a)転移性前立腺癌細胞条件培地を得る工程;および(b)該培地のタンパク質および非タンパク質成分を分離する工程。
【0014】
さらに別の態様において、以下の工程を含む、骨を形成するように骨芽細胞を誘導する方法が提供される:(a)骨芽細胞を提供する工程;および(b)該幹細胞を転移性前立腺癌細胞によって産生される少なくとも1つの因子と、該骨芽細胞の増殖を支持する条件下で接触させる工程であって、それによって該骨芽細胞が骨を産生する工程。因子は、転移性前立腺癌細胞条件培地に由来するものであってよく、骨芽細胞は転移性前立腺細胞条件培地と接触させてもよい。骨芽細胞は、骨減少、骨損傷、または骨破壊性疾患に苦しむ対象のような対象内に位置してもしなくてもよい。骨破壊性疾患は、骨粗鬆症、二次性骨粗鬆症、溶骨性骨癌、パジェット病、内分泌学的障害、低リン酸血症、低カルシウム血症、腎性骨形成異常、副甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、または骨軟化症でありうる。本方法は、該骨芽細胞をさらなる骨形成因子に接触させる工程をさらに含みうる。
【0015】
さらなる態様において、以下のものが提供される:
以下の工程を含む、転移性前立腺癌細胞条件培地から骨芽細胞誘導因子を分離する方法:(a)転移性前立腺癌細胞条件培地を得る工程;(b)転移性前立腺癌細胞条件培地の成分を分画する工程;および(c)(b)からの画分中の骨芽細胞誘導活性についてアッセイする工程であって、骨芽細胞誘導活性を持つ画分が、分離された骨芽細胞誘導因子を含む工程;
以下の工程を含む、転移性前立腺癌細胞条件培地から骨誘導因子を分離する方法:(a)転移性前立腺癌細胞条件培地を得る工程;(b)転移性前立腺癌細胞条件培地の成分を分画する工程;および(c)(b)からの画分中の骨誘導活性についてアッセイする工程であって、骨誘導活性を持つ画分が、分離された骨誘導因子を含む工程;
以下の工程を含む、転移性前立腺癌細胞条件培地から骨芽細胞誘導因子を同定する方法:(a)転移性前立腺癌細胞条件培地を得る工程;(b)転移性前立腺癌細胞条件培地の成分を分画する工程;(c)(b)からの画分中の骨芽細胞誘導活性についてアッセイする工程;および(d)(c)の画分中の因子を同定する工程;
以下の工程を含む、転移性前立腺癌細胞条件培地からの骨誘導因子を同定する方法:(a)転移性前立腺癌細胞条件培地を得る工程;(b)転移性前立腺癌細胞条件培地の成分を分画する工程;(c)(b)からの画分中の骨誘導活性についてアッセイする工程;および(d)(c)の画分中の因子を同定する工程;
転移性前立腺癌細胞条件培地に対するポリクローナル抗血清;
以下の工程を含む、抗体集団を調製する方法:(a)転移性前立腺癌細胞条件培地に対するポリクローナル抗血清を作成する工程;および(b)非転移性前立腺癌細胞条件培地に反応する抗体を該抗血清から欠乏(deplete)させる工程;ならびに
以下の工程を含む、ハイブリドーマ細胞を調製する方法:(a)転移性前立腺癌細胞条件培地に対する抗体を分泌するハイブリドーマ細胞集団を作成する工程;および(b)非転移性前立腺癌細胞条件培地に反応する抗体を分泌する細胞を該ハイブリドーマ細胞集団から欠乏させる工程。
【0016】
例示的態様の説明
様々な増殖促進性タンパク質およびビタミンD3を含め、失われた骨量を回復させる処置は存在しない。同様に、非癒合骨折または骨の挫滅傷害のための効果的な置換物またはインプラントも存在しない。現在、これら後者のタイプの傷害には、拒絶を防ぐために化学的に処理してタンパク質を除いたウシまたはヒトの死体の骨が利用されている。しかし、このような骨インプラントは機械的に重要ではあるが、生物学的には「死んで」いる(骨を形成する細胞、増殖因子、または他の調節タンパク質を含まない)および修復プロセスを大幅には調節しない。
【0017】
さらに、前立腺および胸部などの特定の癌は、局所骨増殖を誘導する転移によって特徴付けられる。CaPの場合、これら細胞は、骨組織を産生するように細胞を誘導するシグナルを明らかに産生し、一方、他のものは骨を蝕む(溶骨性)病変を形成することが多い。このように、これら因子の単離は、損傷した骨組織において骨増殖を誘導するツールを提供するだけではなく、溶骨性病変における浸食を阻止し、それらを同定することによって骨形成転移性癌の介入を可能にするであろう。
【0018】
本発明は、骨組織の形成を刺激する1つまたは複数の因子を転移性前立腺癌細胞が産生するという観察に関する。このような組織の目立った特徴は、骨組織様凝集体または骨細胞「スフェロイド」の形成である。本発明はまた、様々な骨疾患、または骨折、損傷、もしくは他の外傷を処置するために、骨形成を導く細胞、骨形成を誘導する1つまたは複数の因子、またはエクスビボで形成された骨を対象に移植する方法を提供する。また、骨形成を導く1つまたは複数の因子に関して前立腺癌細胞をスクリーニングする方法についても述べる。
【0019】
I. 骨形成
通常の培養条件下、骨形成細胞を様々な量の血清の存在下で増殖させて培養ディッシュに付着させたままにし、本質的に二次元的に平板状の細胞シートとして増殖させる。これら細胞のインビトロ増殖には、トリプシン処理および再培養によってそれらをプラスチックから放すことが必要である。4〜6週間後、血清ならびに高レベルのカルシウムおよびリン酸を含む培地に細胞を置く。これら細胞がコンフルエントな密度に達して「累積(pile up)」し、周囲の細胞外マトリックスをミネラル化する骨節(bone nodule)と呼ばれる多層細胞構造を形成する。
【0020】
これとは全く対照的に、無血清条件で増殖させた骨形成細胞は明らかに異なる発生パターンを経て、新しい組成物を生成する。このプロセスには、培養開始0〜48時間以内に加えられたTGF-βまたは他の骨形成増殖因子の存在が必要である。これら条件下で、細胞はさらなる24〜36時間プラスチックに接着するようになり;組織培養ディッシュのプラスチック表面から自然に離れ;「骨細胞スフェロイド」と呼ばれる非接着性の様々なサイズの三次元スフェロイド形細胞凝集体を形成する。スフェロイド内の骨細胞は、それらの組織様三次元的発生により細胞分化を経て生化学的変化を起こし、スフェロイドの迅速な(3〜7日)ミネラル化および結晶骨様構造(微小骨片(microspicule)と呼ばれる)の形成が起こる。本明細書に記載の組成物(微小骨片を含む細胞スフェロイド)は通常の骨細胞培養物とは明らかに異なる。まず始めに、このプロセスは、骨細胞のスフェロイド様の三次元的組織様発生を起こす。第2に、これら組織様凝集体は非接着性であり、懸濁液中で発生を続け、細胞は互いに接着性であるが、下にある培養ディッシュプラスチックには接着しない。最後に、骨細胞の組織様発生には無血清条件が必要であり、三次元組織凝集体中に結晶骨1本のエクスビボ形成を起こす。このプロセスはいずれの他の培養システムにも観察も記載もされていない。
【0021】
幹細胞は、様々な供給源から単離することができる:胚、組織、骨髄、細胞株、または癌腫。これら細胞は多能性であるが、それらの骨細胞系統への拘束(commitment)および分化を誘導する因子の存在下で培養することができる。通常の培養条件下では、幹細胞を様々な量の血清の存在下で増殖させる。これとは全く対照的に、本発明における幹細胞は無血清条件下で増殖させ、明らかに異なる発生パターンを経て新しい組成物を生成する。このプロセスには、培養開始の0〜48時間以内に加えられたCaP細胞(単独で、または骨形成増殖因子の存在下で)からの条件培地(CM)の存在が必要である。このように培養されると、骨芽前駆細胞、前骨芽細胞、および/または骨芽細胞へと発生する。続いて急速に(3〜5日)上記のような組織様凝集体を形成するが、幹細胞源によっては10〜21日程度かかることもある。
【0022】
II. 開始細胞
A. 幹細胞
本発明によって、骨形成細胞を作成するために転移性前立腺癌細胞条件培地で処理されうる幹細胞が提供される。幹細胞は一般に、特定の細胞タイプ(本件では骨形成細胞)に分化するよう誘導されうる多能性細胞として定義される。様々な幹細胞を本発明に従って用いることができ、間葉系幹細胞、造血幹細胞、胚性幹細胞、組織幹細胞、および胚性癌腫細胞が挙げられる。これら細胞は、免疫学的単離、物理化学的単離、蛍光活性化細胞ソーティング、限界希釈培養などを含む当技術分野において周知の様々な方法によって単離することができる。
【0023】
B. 転移性前立腺癌細胞
ヒト前立腺癌腫のほとんど(70%)は前立腺の周辺領域で起こる。腫瘍が成長するにつれ、前立腺の周囲の脂肪、精嚢、およびその領域のリンパ節、具体的には下腹部および閉鎖リンパ節へ局所的に広がり始める。この腫瘍が血管床を越えると、癌細胞は血液循環を通じて(血行により)遠隔部位に広がり、そこで許容性臓器の毛細血管床に留まって二次性腫瘍、つまり転移を生じる。前立腺癌(CaP)転移の最も一般的な部位は体幹骨格、具体的には骨盤、大腿骨、および脊柱であり、肋骨および頭蓋骨への関与は少ない。遠隔の内臓転移はあまり一般的ではないが、肝臓、肺、および脳の硬膜が含まれる。一般に、癌細胞の転移性拡大は選択性が高く、ランダムではないプロセスである。周囲の臓器環境に反応し、かつそれを操作できる腫瘍細胞のみが最終的に臓器内に転移性病変を形成する。CaP細胞に関しては、小柱骨を含む骨髄が、転移性CaP細胞の増殖および生存を支えることができる許容性環境である(Pazdur, 2002)。
【0024】
III. 骨形成前駆細胞
本発明は、幹細胞からの骨前駆体(骨形成)細胞の作成を提供する。本明細書において使用される骨前駆細胞とは、骨芽細胞に分化または増殖することができる任意の細胞である。以下のセクションではこれら細胞の特徴について述べる。骨形成または前駆細胞は骨髄または骨などの主要供給源に由来する。また、細胞はいくつかの異なる種に由来することができ、ヒト、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、およびネズミ由来の細胞を含む。
【0025】
A. 骨前駆細胞(骨芽前駆細胞)
ヒト骨前駆細胞は、低量の骨タンパク質(オステオカルシン、オステオネクチン、およびアルカリホスファターゼ)を発現する細胞であって内部の複雑性が低い、サイズの小さい細胞として特徴付けられる(Long et al., 1995)。これら前骨芽細胞は分化するよう刺激されると、外観、サイズ、抗原発現、および内部構造が骨芽細胞となる。通常これら細胞は骨髄では非常に低い頻度で存在するが、これら細胞を単離するプロセスが述べられている(Long et al., 1995)。米国特許第5,972,703号にはさらに骨前駆細胞を単離して使用する方法が述べられており、特に参照により本明細書に組み入れられる。
【0026】
B. 前骨芽細胞
前骨芽細胞は骨芽前駆細胞と骨芽細胞の中間の細胞である。この細胞は、アルカリホスファターゼなどの骨表現型マーカーの発現が増加している(Kale et al., 2000)。増殖能はより限られているが、いずれにせよ分裂を続けて、さらに前骨芽細胞または骨芽細胞を産生する。
【0027】
C. 骨芽細胞
骨芽細胞は、最も成熟した骨細胞系統の細胞である。この細胞は大きく、偏った(eccentric)核を有し、骨形成に必要な細胞外タンパク質を産生する。特に参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第09/753,043号に記載のように、前骨芽細胞および骨芽細胞の両集団として骨から得ることができる。
【0028】
IV. 無血清培地
本発明は、転移性前立腺癌細胞の増殖、およびその後の骨を形成する骨形成性細胞または骨芽前駆細胞に幹細胞を変換するために無血清培地を用いて実施してもよい。以下のセクションでは、無血清培地を用いるための属性および条件について述べる。
【0029】
哺乳類細胞から組み換え生物薬剤を製造するための無血清培養の使用は詳細に検討されている(Barnes, 1987; Barnes and Sam, 1980; Broad et al., 1991; Jayme, 1991)。無血清培地に補助剤として用いられる主な添加物のリストは、Barnes (1987)およびBarnes and Sam (1980)にまとめられている。商業的に最も利用可能な無血清培地はアルブミンなどのキャリアータンパク質を含む。キャリアータンパク質の存在が細胞生存能の保護に必要である可能性がある。
【0030】
無血清培養培地の例は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,063,157号に見出すことができる。この培地は、基本培地に加えて、トランスフェリン、インスリン、ペプトン、β-D-キシロピラノース誘導体、亜セレン酸(selenite)、および生物学的ポリアミンを含む。哺乳類細胞用の別の無血清細胞増殖培地が米国特許第4,443,546号に開示されている。この増殖培地は基本培地に加えて7つの成分を含む。EPA 481 791には、水、オスモル濃度(osmolality)調節剤、バッファー、エネルギー源、アミノ酸、鉄源、増殖因子、および他の選択的成分を含むCHO細胞用の培養培地が開示されている。例示したこれら2つの培地はそれぞれ19および17個の成分を含む。無血清培地に加えうる添加物の例を以下に続ける。
【0031】
A. アルブミン
アルブミンは好ましくはウシ(BSA)またはヒト血清アルブミン(HSA)の形で細胞増殖に有効な量で供給される。アルブミンは培地にタンパク源を提供する。アルブミンは微量元素および必須脂肪酸のキャリアーとして働くと考えられている。好ましくは、本処方に用いられるアルブミンはパイロジェン(pyrogen)およびウィルスを含まず、必要な場合にはヒト患者への注入に関して規制機関に承認されたものである。HSAは使用前に樹脂ビーズを用いて脱イオン化してもよい。ヒト血清アルブミンの濃度は1〜8mg/ml、好ましくは3〜5mg/ml、最も好ましくは4mg/mlである。
【0032】
B. 可溶性キャリアー/脂肪酸複合体
上記アルブミンの代わりに可溶性キャリアー/必須脂肪酸複合体および可溶性キャリアーコレステロール複合体を用い、脂肪酸およびコレステロールを細胞に効果的に送達することができる。このような複合体の例は、シクロデキスロリン/リノール酸、コレステロールおよびオレイン酸複合体である。これは、あまりよく特徴付けられていないアルブミンの代わりに、よく規定された分子を使用できるため有利である。シクロデキスロリンを用いることによりヒト/動物血清アルブミンを添加する必要性がなくなり、アルブミンが培地に導入するかもしれないいずれの微量の望ましくない物質をも排除する。シクロデキスロリンを用いることにより、特定の親油性栄養素の無血清培養への添加が簡単になる。
【0033】
シクロデキスロリンと複合体化できる親油性物質としては、リノール酸、コレステロール、およびオレイン酸などの不飽和脂肪酸が挙げられる。リノール酸、コレステロール、およびオレイン酸を有効な量で存在させ、また、同じ割合で存在させて総量を0.001〜100μg/ml、好ましくは0.1〜10μg/mlとすることができる。このような複合体の調製は当技術分野において公知であり、例えばその内容全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,533,637号に記載されている。
【0034】
C. 鉄源
細胞が利用できる形の有効量の鉄源を培地に加えることができる。鉄は、キャリアー分子であるトランスフェリンを飽和させて、有効な量で供給できる。トランスフェリンは動物血清に由来してもよく、組み換え合成されてもよい。トランスフェリンが動物起源である場合、精製して他の動物タンパク質を除き、通常は少なくとも純度99%であることが理解される。トランスフェリン濃度は通常80〜500μg/ml、好ましくは120〜500μg/ml、より好ましくは130〜500μg/ml、さらにより好ましくは275〜400μg/ml、最も好ましくは300μg/mlである。鉄塩、好ましくは有機酸溶液(例えばクエン酸)などの水溶液に溶解した塩化鉄(例えばFeCl3.6H2O)などの水溶性鉄塩を用いて、鉄をトランスフェリンに供給する。クエン酸1モル当たり、通常1モルの塩化鉄を用いる。塩化鉄の濃度は0.0008〜8μg/ml、好ましくは0.08〜0.8μg/ml、最も好ましくは0.08μg/mlである。
【0035】
D. インスリン増殖因子
有効量でインスリンを本発明の培地に加えることもできる。インスリン濃度は0.25〜2.5U/ml、より好ましくは0.4〜2.1U/ml、最も好ましくは0.48U/mlである。ユニットを質量に変換するには、27U=1mgである。つまり変換すると、インスリン濃度はおよそ9.26ug/ml〜92.6ug/ml、より好ましくは14.8ug/ml〜77.8ug/ml、最も好ましくは17.7ug/mlである。ここでもまた、動物インスリンよりもヒトインスリンが好ましいことが理解される。高度に精製された組み換えインスリンが最も好ましい。インスリン様増殖因子1およびインスリン様増殖因子2などのインスリン様増殖因子をインスリンの代わりに、またはさらに加えて、対応量のインスリンと実質的に同じ結果を提供する量を用いてもよい。このように、用語「インスリン増殖因子」には、インスリンおよびインスリン様増殖因子の両方が含まれる。
【0036】
E. 追加的成分
上記の重要な試薬に他の脂質を加えることにより、前駆細胞の増殖能を亢進できる可能性がある。しかしこれら成分は、特定の実験または特定のタイプの細胞を生育させるのに必要でない限り加えない方が好ましい。また任意に、トリグリセリドおよび/またはリン脂質を追加的脂質源として含めてもよい。好ましい脂質源は、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノレン酸、およびステアリン酸などの不飽和脂肪酸が主である中性トリグリセリドの混合物を含む。このような調製物はまた、ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルコリンを含んでもよい。別の脂質源はエタノール沈殿したヒト血漿画分であり、好ましくは低温殺菌によりウィルスフリーとする。
【0037】
任意で培地に添加できる他の成分は以下の文献に記載されている:WO95/06112、米国特許第4,533,637号、米国特許第5,405,772号。これら文献全ての内容全体が参照により組み入れられる。
【0038】
F. 望ましくない成分
培地をヒト患者に導入する細胞を生育するために用いる場合、培地は好ましくはウシ血清アルブミン、哺乳類血清、および/またはヒトもしくは哺乳類起源のいずれの天然タンパク質(上記したようなもの)などの成分を含まない。もし高品質な組み換えまたは合成タンパク質が利用可能であれば、それを用いることが好ましい。最も好ましくは、組み換えまたは合成タンパク質のアミノ酸配列は、ヒトのものと同一または相同性が高い。このように、本明細書における最も好ましい無血清培地処方は動物由来タンパク質を含まず、さらに検出できない量の動物タンパク質さえも含まない。
【0039】
最も理想的なシステムにおいては、必要でない選択的成分は好ましくは培地に加えない。このような選択的成分は上記先行技術で述べられており、肉抽出物、ペプトン、ホスファチジルコリン、エタノールアミン、抗酸化剤、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、タイズレシチン、コルチコステロイド、ミオイノシトール、モノチオグリセロール、およびウシまたは他の動物の血清アルブミンからなる群より選択しうる。
【0040】
V. 精製方法
本発明の様々な態様において、細胞条件培地から分子を分画することが望まれることが考えられる。任意の技術が有用であり得、相分配(phase partioning)または沈殿(塩析)などの化学的方法、クロマトグラフィー、等電点電気泳動、遠心、または電気泳動などの物理的方法、酵素的方法(グリコシラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼなど)、質量分析、さらには熱的技術(加熱、凍結融解)が含まれる。
【0041】
広範なクロマトグラフィー技法のいずれも本発明に用いてよい。例えば、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、または超臨界フロークロマトグラフィーを用いて様々な化学的種の分離を行うことができる。
【0042】
分配クロマトグラフィーは、2つの相が互いに接触し、一方または両方の相が溶質を構成する場合に、この溶質自身がこれら2相間で分配されるという理論に基づいている。通常、分配クロマトグラフィーは吸着剤および溶媒で満たされたカラムを利用する。溶質を含む溶液はカラムの上部に重層される。次に溶媒を連続的にカラムに通すことによって、カラム材料を通して溶質を移動させる。そして移動度に基づいて溶質を回収することができる。最も一般的な2種類の分配クロマトグラフはペーパークロマトグラフおよび薄層クロマトグラフ(TLC)であり、これらは吸着クロマトグラフィーと総称される。いずれも、マトリックスは結合液(bound liquid)を含む。分配クロマトグラフィーの他の例は、ガス-液体およびゲルクロマトグラフィーである。
【0043】
ペーパークロマトグラフィーは分配クロマトグラフィーの一種であり、セルロースカラム上でペーパーシートの形態で行われる。セルロースはかなり乾燥させても大量の結合水を含む。分配は結合水と展開溶媒との間で起こる。多くの場合、用いられる溶媒は水である。通常、分離する非常に少量の溶液混合物をペーパーの上に置いて乾燥させる。毛細管現象により溶媒がペーパーに吸引されてサンプルを溶解し、成分を流れに沿って移動させる。ペーパークロマトグラムは、上方向または下方向への溶媒の流れへ展開させうる。二次元分離は、第1の展開後に移動軸を90°回転させて行うことができる。
【0044】
薄層クロマトグラフィー(TLC)は脂質を分離するためにごく一般的に用いられ、そのため本発明の好ましい態様であると見なされる。TLCはペーパークロマトグラフィーの利点を有するが、任意の物質を用いてそれを微細に分離し、均一な層を形成することができる。TLCでは、静止相はガラスまたはプラスチックプレートの表面に均一に広がった吸着剤の層である。これらプレートは通常、吸着剤のスラリーを形成し、これを、プレートの外周に沿って特定の高さのテープを配置してウェルを作ったゲル表面に注ぐことによって作成される。吸着剤が乾燥したらテープを除き、プレートをペーパークロマトグラフィーのペーパーと同じように扱う。サンプルを適用し、プレートを溶媒と接触させる。溶媒がプレートの端に達しかけたらプレートを取り出して乾燥させる。そして、蛍光、免疫学的同定、放射活性測定、または様々な試薬を表面にかけて色の変化を生じさせてスポットを同定することができる。
【0045】
ガス-液体クロマトグラフィー(GLC)では、移動相はガスであり、静止相はチューブもしくはカラムの内表面または固体支持体に吸着させた液体である。液体は通常、エーテルなどの揮発性溶媒に溶解させた固体として適用する。揮発化(volatize)可能な任意のサンプルであってよい液体サンプルを、ヘリウム、アルゴン、または窒素などの不活性ガスと共に導入して加熱する。このガス状混合物をチューブに通す。気化した化合物はそれぞれの分配係数に従ってガス状移動相と液体静止相との間で再分布を続ける。
【0046】
GLCの利点は小分子の分離にある。感度および速度はかなりよく、速度は標準的な液体クロマトグラフィーの1000倍近い。非破壊性検出器を用いることにより、GLCをグラム単位の量で材料を精製するために調製的に用いることができる。GLCは主にアルコール、エステル、脂肪酸、およびアミンの分離に用いられている。
【0047】
ゲルクロマトグラフィー、すなわち分子篩クロマトグラフィーは、特殊なタイプの分配クロマトグラフィーで、分子サイズに基づく。ゲルクロマトグラフィーの背景にある理論は、小さな孔を含む不活性物質の微小粒子で調製されたカラムが、分子が孔またはその周囲を通過するにつれ、大きな分子を小さな分子からサイズによって分離するということである。粒子の材質が分子に吸着しない限り、唯一の流速決定因子はサイズである。こうして、形状が比較的一定である限り、分子はカラムからサイズの大きなものから溶出される。ゲルクロマトグラフィーは、pH、イオン強度、温度などの全ての他の因子に分離が依存しないため、異なるサイズの分子の分離に優れている。また、実質的に吸着がなく、ゾーン拡散(zone spreading)が少なく、溶出容量は単純に分子量に関係する。
【0048】
ゲルクロマトグラフィーのゲル材料は三次元ネットワークであり、その構造は通常ランダムである。ゲルは架橋ポリマーからなり、この架橋ポリマーは一般的には不活性で、分析材料に結合または反応せず、無電荷である。ゲル内に満ちたスペースは液体で満たされており、この液体はゲル容量のほとんどを占める。一般的なゲルは、デキストラン、アガロース、およびポリアクリルアミドであり、これらは水溶液に用いられる。
【0049】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、顕著なピーク解析を伴う非常に迅速な分離によって特徴付けられる。これは、非常に微小な粒子および高い圧力を用いて十分な流速を維持することにより達成される。分離は分単位、長くても1時間で完了できる。さらに、粒子がとても小さく緊密に詰まっており、空隙容量は総容積に関してごく小さな画分であるため、必要なサンプルはごく少量である。また、バンドが狭くサンプルの希釈がほとんどないため、サンプル濃度はそれほど高くなくてすむ。
【0050】
アフィニティークロマトグラフィーは、単離する物質とそれが特異的に結合できる分子との間の特異的親和性によるクロマトグラフィー技法である。これは受容体-リガンドタイプの相互作用である。カラム材料は、結合パートナーの一方を不溶性マトリックスに共有結合することによって合成される。こうしてカラム材料が物質を溶液から特異的に吸着することができる。結合が起こらないような条件に変えることにより溶出される(pH、イオン強度、温度などを変化させる)。
【0051】
マトリックスは、いかなる有意な程度にも分子を吸着せず、広範囲の化学的、物理的、および熱的安定性を有する物質であるべきである。リガンドはその結合特性に影響を与えないように結合するべきである。リガンドはまた、比較的強固な結合を提供すべきである。また、サンプルまたはリガンドを破壊することなく物質を溶出させることが可能であるべきである。最も一般的な形のアフィニティークロマトグラフィーの1つは、免疫アフィニティークロマトグラフィーである。本発明に用いるのに適した抗体の作成について以下に述べる。
【0052】
VI. 抗体
本発明の1つの態様において、転移性前立腺癌細胞条件培地に含まれる1つまたは複数の因子に対する抗体の調製が望まれることが考えられる。抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体でありうる。1つの態様において、抗体はモノクローナル抗体である。抗体を調製し特徴付ける手段は当技術分野において周知である(例えばHarlow and Lane, 1988を参照されたい)。
【0053】
手短に述べると、ポリクローナル抗体は、動物を本発明のポリペプチドを含む免疫原で免疫化し、その免疫化動物から抗血清を回収することによって調製する。広範囲の動物種を抗血清の産生に用いることができる。典型的には、抗-抗血清の産生に用いる動物は非ヒト動物であり、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、ブタ、またはウマが挙げられる。ウサギは血液容量が比較的大きいため、ウサギはポリクローナル抗体の産生に好ましい選択肢である。
【0054】
抗原のアイソフォームに特異的な抗体はポリクローナルもモノクローナルも、当業者に一般的に理解される従来の免疫化技術を用いて調製することができる。本発明の化合物の抗原性エピトープを含む組成物を用いて、ウサギまたはマウスなどの1つまたは複数の実験動物を免疫化し、本発明の化合物に対する特異的抗体を産生させることができる。ポリクローナル抗血清は、抗体を作成する時間を取った後に、単に動物を出血させて全血から血清サンプルを調製することにより得ることができる。
【0055】
当技術分野において周知のとおり、所与の組成物は免疫原性が異なりうる。そのため、宿主免疫システムを刺激(boost)することが必要であることが多く、これはペプチドまたはポリペプチド免疫原をキャリアーに結合することにより達成されうる。例示的な好ましいキャリアーは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、多抗原性ペプチド(MAP)、またはウシ血清アルブミン(BSA)である。オボアルブミン、マウス血清アルブミン、またはウサギ血清アルブミンなどの他のアルブミンもキャリアーとして用いることができる。ポリペプチドをキャリアータンパク質に結合する手段は当技術分野において周知であり、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンコイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミド、およびビス-ビアゾ化(biazotized)ベンジジンが挙げられる。
【0056】
また、当技術分野において周知のとおり、特定の免疫原組成物の免疫原性は、アジュバントとして知られる非特異的免疫応答刺激剤を用いて亢進できる。例示的な好ましいアジュバントとしては、完全フロイントアジュバント(死滅結核菌を含む非特異的免疫応答刺激剤)、不完全フロイントアジュバント、および水酸化アルミニウムアジュバントが挙げられる。
【0057】
ポリクローナル抗体の産生に用いる免疫原組成物の量は、免疫原の性質および免疫化に用いる動物によって異なる。様々な経路を用いて免疫原を投与することができる(皮下、筋肉内、皮内、静脈内、腹腔内)。ポリクローナル抗体の産生は、免疫化動物の血液を免疫化後の様々な時点でサンプリングすることによってモニターすることができる。第2の(ブースター)注射をさらに与えてもよい。適した力価が達成されるまで、刺激(boosting)および力価測定プロセスを繰り返す。所望の免疫原性レベルが得られたら、免疫化動物を出血させて血清を単離して保存することができ、および/または動物を用いてmAbを作成することができる。
【0058】
mAbは、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,196,265号に例示されるものなどの周知の技術を用いて容易に調製することができる。典型的には本技術には、適した動物を特定の免疫原組成物で免疫化することが含まれる。免疫化組成物を、抗体産生細胞を効果的に刺激するように投与する。マウスおよびラットなどの齧歯類が好ましい動物であるが、ウサギ、ヒツジ、およびカエル細胞を用いることも可能である。ラットの使用は一定の利点を提供するかもしれない(Goding, 1986)が、マウスが好ましく、BALB/cマウスが最も日常的に用いられ、全体として高い割合で安定な融合体を与えるため、最も好ましい。
【0059】
免疫化後、抗体産生能を有する体細胞、具体的にはBリンパ球(B細胞)を選択してmAb作成プロトコールに用いる。これら細胞は、生検脾臓、扁桃、もしくはリンパ節から、または末梢血液サンプルから得ることができる。脾臓細胞は分裂形質芽細胞段階にある抗体産生細胞の豊富な供給源であり、末梢血液細胞は末梢血液が容易にアクセス可能であるため、それぞれ好ましい。多くの場合、動物のパネルを免疫化し、最大の抗体力価を有する動物の脾臓を摘出して、シリンジで脾臓をホモジナイズすることにより脾臓リンパ球を得る。典型的には、免疫化マウス一匹の脾臓はおよそ5×107〜2×108リンパ球を含む。
【0060】
次に免疫化動物の抗体産生Bリンパ球を不死ミエローマ細胞(一般的には免疫化した動物と同じ種のもの)と融合する。ハイブリドーマ産生融合技法に用いるのに適したミエローマ細胞株は好ましくは、抗体を産生しておらず、高い融合効率を有し、酵素を欠損しているために、所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖を支持する特定の選択培地で生育できないものである。
【0061】
当業者に知られている複数のミエローマ細胞のいずれかを用いてよい(Goding, 1986; Campbell, 1984)。例えば、免疫化動物がマウスの場合、P3-X63/Ag8、P3-X63-Ag8.653、NS1/1.Ag 4 1、Sp210-Agl4、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG 1.7、およびS194/5XX0 Bulを用いることができ、ラットには、R210.RCY3、Y3-Ag 1.2.3、IR983F、および4B210を用いることができ、U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2、およびUC729-6は全て細胞融合に関して有用である。
【0062】
抗体産生脾臓またはリンパ節細胞とミエローマ細胞とのハイブリッドを作成する方法は通常、体細胞をミエローマ細胞と2:1の割合で混合する工程を含むが、この割合は、細胞膜の融合を促進する1つまたは複数の薬剤(化学的または電気的)の存在下でそれぞれ約20:1〜約1:1まで変わりうる。センダイウィルスを用いる融合方法(KohlerおよびMilstein, 1975; 1976)、および37%(v/v)ポリエチレングリコール(PEG)などのPEGを用いるもの(Gefter et al., 1977)が報告されている。電気的誘導融合方法の使用も適している(Goding, 1986)。
【0063】
融合技法は通常、生存可能なハイブリッドを産生する頻度が低く、約1×10-6〜1×10-8である。しかし、生存可能な融合ハイブリッドは選択培地中で培養することによって親の非融合細胞(特に、通常は無限に分裂を続ける非融合ミエローマ細胞)から分化するので、これは問題とはならない。選択培地は一般には、組織培養培地中でのヌクレオチドのデノボ合成をブロックする薬剤を含むものである。例示的な好ましい薬剤は、アミノプテリン、メトトレキセート、およびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキセートはプリンおよびピリミジンの両方のデノボ合成をブロックし、アザセリンはプリン合成のみをブロックする。アミノプテリンまたはメトトレキセートを用いる場合、培地にヌクレオチド源としてヒポキサンチンおよびチミジンを補う(HAT培地)。アザセリンを用いる場合、培地にヒポキサンチンを補う。
【0064】
好ましい選択培地はHATである。ヌクレオチド再利用経路を操作できる細胞のみがHAT培地中で生存できる。ミエローマ細胞は、再利用経路の鍵となる酵素、例えばヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)を欠損しているため生存することができない。B細胞はこの経路を操作することができるが、培養中では寿命が限られており、一般的に約2週間以内に死滅する。このため、選択培地で生存できる細胞は、ミエローマおよびB細胞から形成されたハイブリッドのみである。
【0065】
この培養によりハイブリドーマ集団が提供され、ここから特異的ハイブリドーマを選択する。典型的にはハイブリドーマの選択は、マイクロタイタープレートで単一クローン希釈して細胞を培養し、各クローン上清を(約2〜3週間後)所望の反応性についてテストすることによって行う。アッセイは、放射免疫アッセイ、酵素免疫アッセイ、細胞傷害性アッセイ、プラークアッセイ、ドット免疫結合アッセイなどの、鋭敏、簡便、および迅速なものであるべきである。
【0066】
選択したハイブリドーマを連続的に希釈し、個々の抗体産生細胞株にクローニングし、これらクローンを無限に増殖させてmAbを提供することができる。細胞株は2つの基本的な方法でmAb産生に利用しうる。ハイブリドーマのサンプルを、最初の融合に体細胞およびミエローマ細胞を提供するために使用した種類の組織適合性動物に注射することができる(腹腔にすることが多い)。注射された動物は、融合細胞ハイブリッドによって産生された特異的モノクローナル抗体を分泌する腫瘍を生じる。血清または腹水液などの動物の体液を回収(tap)してmAbを高濃度で提供することができる。各細胞株をインビトロで培養することもでき、この場合mAbは自然に培養培地に分泌され、ここから容易に高濃度で得られる。いずれかの手段によって産生されたmAbは、所望であれば、ろ過、遠心、およびHPLCまたはアフィニティークロマトグラフィーなどの様々なクロマトグラフィー方法を用いてさらに精製してもよい。
【0067】
VII. 骨修復を要する疾患および状態
以下は、転移性前立腺癌細胞に産生される1つまたは複数の因子を用いることによって利益を得るであろう様々な疾患および障害を例示する4つのヒトの状態の簡単な考察である。以下に加えて、いくつかの他の状態、例えばビタミンD欠乏症なども存在する。
【0068】
第1の例は、骨折に苦しんでいる以外は健康な個体である。多くの場合、臨床的骨折はギプスによって処置して痛みを和らげ、天然修復メカニズムで傷害を修復させる。最近、骨折処置は進歩しているが、折れた骨を処置する際に起こりうる様々な合併症を考慮するまでもなく、通常の状況で骨治癒を促進させる新しい技法はどのようなものでも大きな進歩となるであろう。
【0069】
新しい処置方法から利益を得るであろう第2の例は骨形成不全症(OI)である。OIは、ヒトにおける骨および軟結合組織脆弱性に関わる様々な遺伝性結合組織疾患を包含する(Byers and Steiner, 1992; Prockop, 1990)。出生数5,000〜14,000当たり約1人の子供がOIに罹患しており、この疾患は生涯にわたる有意な罹患率を伴う。骨折および骨折修復後の異常骨変形の傾向が高いことから、死亡も一定数起こる(OIタイプII〜IV; Bonadio and Goldstein, 1993)。これには生活の質(quality of life)の問題が関連しており、骨折修復プロセスを刺激し強化するよう設計された新しい治療法の開発により罹患者の生活が改善されることは明らかである。
【0070】
OIタイプIは、変形を伴わない骨折、青色強膜、正常またはほぼ正常な身長、および常染色体優性遺伝によって特徴付けられる軽度の障害である(Bonadio and Goldstein, 1993)。骨減少症は歩行時の弧発骨折率が増加する(骨折頻度は思春期および若年成人期には劇的に減少するが、中年後期に再び増加する)。聴覚喪失(多くは20年または30年以内に始まる)がこの疾患の約半分の家系の特徴であり、骨折頻度が全体的に減少しても聴覚障害は進行することがある。象牙質形成不全症が個体サブセットに観察されている。
【0071】
対照的に、OIタイプII〜VIは、寿命の短縮を伴う、より重篤な障害の領域である。周産期致死形態であるOIタイプIIは、低身長、軟性頭蓋冠、青色強膜、脆弱な皮膚、小さな胸部、だらりと下がっているように見える下肢(大腿骨の外転および外転位による)、脆弱な腱および靭帯、重篤な変形を伴う骨折、ならびに呼吸不全による周産期の死亡によって特徴付けられる。放射線撮影による骨の脆弱性の徴候としては、大腿骨の圧縮、脛骨の屈曲、幅広いビーズ状の肋骨、および頭蓋冠の薄弱化が挙げられる。
【0072】
OIタイプIIIは、低身長、三角形の顔貌、重篤な脊柱側弯、および中程度の変形を伴う骨折によって特徴付けられる。脊柱側弯は、気腫および呼吸不全による寿命の短縮を引き起こしうる。OIタイプIVは、正常強膜、軽度から中程度の変形を伴う骨折、歯の欠陥、および本質的にOIタイプIIとOIタイプIの中間の自然史(natural history)によって特徴付けられる。
【0073】
1989年以来、150を超えるOI変異が特徴付けられている(Byers and Steiner, 1992; Prockop, 1990に検討されている)。大多数はタイプIコラーゲンのCOL1A1およびCOL1A2遺伝子中に起こる。OIタイプIのほとんどの症例はCOL1A1遺伝子のヘテロ接合変異から生じるようであり、これによってコラーゲン産生が減少するが一次構造は変化しない、すなわちヘテロ接合ヌル変異がCOL1A1発現に影響を及ぼす。
【0074】
第3の重要な例は骨減少症/骨粗鬆症である。骨減少症および骨粗鬆症という用語は、骨量減少および骨折によって特徴付けられる不均一な障害群を指す。骨減少症とは、集団の平均骨量よりも低い1つまたは複数の標準偏差である骨量のことであり;骨粗鬆症は2.5SD以下として定義される。推計2000〜2500万人が、部位特異的骨減少により骨折のリスクにさらされている。骨粗鬆症のリスク因子には、加齢、性別(より女性に多い)、低骨量、早期閉経、人種(一般的に白人;アジア人およびヒスパニック系の女性)、低カルシウム摂取、身体活動の低下、遺伝因子、環境因子(喫煙、およびアルコールまたはカフェインの取りすぎを含む)、および転倒する傾向を与える神経筋制御の欠陥が含まれる。
【0075】
米国において年に100万件を超える骨折が骨粗鬆症に起因すると考えられ、1986年だけでも骨粗鬆症の処置に推計70〜100億ドルの医療費がかかっている。人口統計学的傾向(すなわち徐々に加齢している米国人口)により、これら費用は2020年までに620億ドルにまで増加しうることが示唆されている。明らかに、骨粗鬆症は重要な医療問題である。
【0076】
臨床的には、骨粗鬆症はタイプIとタイプIIに分けられる。タイプI骨粗鬆症は主に中年女性に起こり、閉経時のエストロジェン減少に関連し、骨粗鬆症タイプIIは加齢に関連する。骨粗鬆症に関係する罹患率および死亡率のほとんどは、骨折後の高齢患者の固定化に起因する。
【0077】
骨粗鬆症患者の現在の治療法は、骨折の修復ではなく骨折の予防に重点が置かれている。これは、かなりの罹患率および死亡率が、高齢者、特に臀部骨折した高齢者における寝たきり状態(prolonged bed rest)に関連していることをはっきりと述べている文献があるため、重要な考慮事項である。寝た状態(bed rest)の合併症には血液凝固および肺炎が含まれる。これら合併症は認識されており、通常避けるよう処置がとられるが、治療に対する最適なアプローチとはいえない。このように、骨粗鬆症患者集団は、骨を強くし骨折修復プロセスを速めるよう設計された新しい治療法から利益を得、これらの人々は合併症が生じる前に自分自身で立てるようになると考えられる。
【0078】
4番目の例は、骨再建、具体的には外傷性傷害に起因して;癌もしくは癌手術の結果として;出生時の欠陥の結果として;または加齢の結果としての骨組織の欠陥を再建する能力に関連する。より頻度の高い整形インプラントの顕著な需要が存在し、頭蓋骨および顔の骨は特にこのタイプの再建の需要に対する標的である。新しいインプラント材料、例えばチタンが利用可能であるため、比較的大きい欠陥の修復が可能となっている。チタンインプラントは骨欠陥にわたって優れた一時的安定性を提供する。しかし、欠陥を架橋する生存骨がないと、機器の露出、感染、構造の不安定性、そして究極的には欠陥修復の失敗の可能性があることが経験から分かっている。
【0079】
自家骨移植はまた別の可能性であるが、これにはいくつかの欠点、すなわち腸骨稜または肋骨などのドナー部位から回収しなければならず、通常は欠陥を完全に満たすには不十分な骨しか提供せず、形成する骨は感染および再吸収されやすいことがあることが示されている。部分的に精製された異種間調製物は、キログラム単位のウシの骨からマイクログラム量しか精製できず、商業的大規模生産は費用がかかって非現実的であるため、臨床的使用には現実的でない。このため、同種移植および脱ミネラル化骨調製物が利用されることが多い。
【0080】
フリーの骨移植片を軟組織および血管が付着した状態で顕微手術的に移入することにより、移植片に直接的血液供給源を与えて骨欠陥を閉じることができる。しかし、これら技術は時間がかかり、かなりの罹患率を生じることが示されており、特別に訓練された者のみが使用することができる。さらに、骨インプラントは量が限られていることが多く、簡単に形をつけられない。例えば下顎骨において、大多数の患者は、現在認められている技術を用いては歯科機器を装着できず(連続性が確立された後でも)、咀嚼能は全く改善されない。Toriumi et al. (1991) は、「再建術者は、信頼でき、生体適合性であり、使いやすく、長くもち、病的状態をほとんど伴わずに下顎骨の連続性を回復する骨置換物を自由に使えるように持っておくべきである(Reconstructive surgeons should have at their disposal a bone substitute that would be reliable, biocompatible, easy to use, and long lasting and that would restore mandibular continuity with little associated morbidity)」と述べている。
【0081】
骨再建に関連して、改善が難しい具体的な領域は、外傷によるもの、出生時欠陥、または特に腫瘍切除後などの大きな欠陥の処置が関係するもの、および人工関節の領域である。整形インプラント、インターフェース、および人工関節の成功度は、インプラントの表面またはインプラントの機能的部分が骨刺激剤でコートされる場合に改善される可能性がある。インプラントの表面を1つまたは複数の適切な材料でコートして、インプラントの周囲の生物学的部位とのより効果的な相互作用を促進し、理想的には組織修復を促進できる可能性がある。
【0082】
VIII. 骨細胞の移植のためのポリマー
ここ十年間に、ポリマー材料の応用に大きな進歩があった。Kulkarni et al. (1971)およびHollinger and Battistone (1986)に記載されるように、これら材料は宿主組織によって置き換えられる一時的な足場として働くことができ、加水分解によって非毒性産物に分解され、排出されるため、移植によく適している。
【0083】
天然または合成ポリマーはいずれもマトリックスを形成するために用いることができるが、再現性および制御放出動態のためには合成ポリマーが好ましい。使用可能な合成ポリマーとしては、生体崩壊性(bioerodible)ポリマー、例えばポリ(ラクチド)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、および他のポリ(α-ヒドロキシ酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリシアノアクリレート、および分解性ポリウレタン、ならびに非崩壊性ポリマー、例えばポリアクリレート、エチレン-ビニルアセテートポリマー、他のアシル置換セルロースアセテートおよびその誘導体、非崩壊性ポリウレタン、ポリスチレン、ポリビニルクロリド、ポリビニルフルオリド、ポリ(ビニルイミダゾール)、クロロスルホン化ポリオレフィン(chlorosulphonated polyolifin)、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、およびナイロンが挙げられる。非分解性材料を用いてマトリックスまたはマトリックスの一部を形成することもできるが、好ましくない。天然ポリマーの例としては、タンパク質、例えばアルブミン、フィブリンまたはフィブリノーゲン、コラーゲン、合成ポリアミノ酸、およびプロラミン、ならびに多糖類、例えばアルギン酸、ヘパリン、および他の天然に生じる生分解性糖単位ポリマーが挙げられる。
【0084】
広く医学的に応用されている4つのポリマーは、ポリ(パラジオキサノン)(PDS)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、およびPLAGAコポリマーである。コポリマー化により、その材料の分解時間の調整が可能になる。ポリマー化の際に結晶ポリマーと非結晶ポリマーの割合を変えて、得られる材料の特性を、応用の必要性に適するように変更することができる。ポリ(ラクチド-コ-グリコール)酸(PLGA)を含むこれらポリマーは、Elgendy et al. (1993)に報告されているように、骨置換用のポリマー複合体として使用されている。Laurencin et al. (1993)に報告されているように、置換ポリホスファゼンは骨形成細胞増殖を支持することが示されている。ポリ(オルガノホスファゼン)は、リンおよび窒素元素が交互に並ぶ骨格を含む高分子量ポリマーである。ポリホスファゼンには多種多様なものがあり、それぞれ同じ前駆ポリマー、ポリ(ジクロロホスファゼン)に由来する。塩素置換種は、塩素元素を、o-メチルフェノキシドなどの様々な有機吸核剤とアミノ酸と共に置換することによって修飾することができる。Wade et al. (1978)およびAllcock and Fuller (1981)に記載のように、ポリマーの物理的および化学的特性は、エチルグリシネート(ethyl glycinate)などの加水分解性感受性側鎖を様々な割合で加えることによって変更することができる。これは、Laruencin et al. (1993)に記載のように、移植可能な生分解性材料としてポリマーの分解に影響を与え、骨および組織インプラントのための骨形成細胞の支持を変えるであろう。
【0085】
PLA、PGA、およびPLA/PGAコポリマーは特に生分解性マトリックスを形成するために有用である。PLAポリマーは通常、乳酸の環状エステルから調製される。L(+)およびD(-)形の乳酸は共に、PLAポリマー、ならびにD(-)およびL(+)乳酸の光学的に不活性なDL-乳酸混合物を調製するために用いることができる。ポリラクチドを調製する方法は特許文献に詳細に記載されている。教示内容が参照により本明細書に組み入れられる以下の米国特許が、適したポリラクチド、その特性、およびその調製について詳述している:米国特許第1,995,970号;第2,703,316号;第2,758,987号;第2,951,828号;第2,676,945号;第2,683,136号;および第3,531,561号。PGAはグリコール酸(ヒドロキシ酢酸)のホモポリマーである。グリコール酸のポリ(グリコール酸)への変換の際には、最初にグリコール酸をそれ自身で反応させて環状エステルグリコリドを形成し、熱および触媒の存在下で高分子量直鎖ポリマーに変換させる。PGAポリマーとその特性は、Cyanamid Research Develops World's First Synthetic Absorbable Suture, Chemistry and Industry, 905 (1970)にさらに詳しく記載されている。
【0086】
マトリックスの崩壊は、PLA、PGA、またはPLA/PGAの分子量に関係する。高い分子量、重量平均分子量で90,000以上は、構造的完全性を長期間維持するポリマーマトリックスとなり、低分子量、重量平均分子量で30,000以下は、放出が遅く、マトリックスの寿命が短くなる。ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(50:50)は移植後約6週間で分解する。
【0087】
マトリックスに用いるポリマーは全て、続く増殖および増殖に十分なサポートを細胞に提供するのに必要な機械的および生化学的パラメーターを満たしていなくてはならない。ポリマーは、Instronテスターを用いた引っ張り強度、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリマー分子量、ディファレンシャルスキャニング熱量測定(DSC)によるガラス転移温度、赤外(IR)分光法による結合構造などの機械的特性、Amesアッセイおよびインビトロ催奇形性アッセイを含む初期スクリーニングテストによる毒性、ならびに免疫原性、炎症、放出、および分解研究に関する動物における移植研究に関して特徴付けることができる。
【0088】
これらポリマーは、移植用の繊維性またはスポンジタイプのマトリックスの形成に特に有用である。ポリマーを用いてヒドロゲルを形成し、このヒドロゲル中に細胞を懸濁して移植することもできる。
【0089】
A. 他のマトリックス物質
マトリックス作成のための別のクラスの材料は、ハイドロキシアパタイト、またはトリカルシウムリン酸(TCP)もしくはリン酸カルシウム(CaPO4)から形成された類似のセラミックである。カルシウムハイドロキシアパタイトは地質学的堆積物として、および正常な生体組織、主に脊椎動物の骨、軟骨、エナメル、象牙質、およびセメント質、ならびに血管および皮膚などの多くの部位の病的なカルシウム沈着として天然に生じる。合成カルシウムハイドロキシアパタイトは、実験室で純粋なCa10(PO4)6(OH)2、または例えばカーボネート、フルオリド、クロリドなどの他のイオンを含む純粋でないハイドロキシアパタイト、またはカルシウムを欠く結晶、またはカルシウムがバリウム、ストロンチウム、および鉛などの他のイオンで部分的もしくは完全に置換された結晶として形成される。本質的にはいずれの地質学的および生物学的アパタイトも、様々な他のイオンおよびカチオンを含み、純粋な合成アパタイトとは異なる割合でカルシウムとリン(phosphorous)を有しうるので、「純粋な」ハイドロキシアパタイトではない。
【0090】
一般的に、純粋な合成アパタイト、地質学的アパタイト、および多くの純粋でない合成アパタイトの結晶は、骨、象牙質、セメント質、および軟骨の生物学的結晶よりも大きく、さらに結晶質である。骨、象牙質、およびセメント質の結晶はとても小さく、不規則な形をした非常に薄いプレートであり、大体の平均寸法は厚さおよそ10〜50オングストローム、幅30〜150オングストローム、長さ200〜600オングストロームである。合成材料は文献に報告されているように非常に多様である。例えば4つの市販のアパタイトの特徴付けがPinholt et al. (1992)に報告されており;Marden et al. (1990)はタンパク質、生分解性物質について報告し;Pinholt et al. (1991)はBio-Oss(商標)と呼ばれるウシ骨材料の使用について報告し;Friedman et al. (1991)およびCostantino et al. (1991)はハイドロキシアパタイトセメントについて報告し;Roesgen (1990)は自原性の骨と組み合わせたリン酸カルシウムセラミックの使用について報告し;Ono et al. (1990)はガラスセラミック顆粒、ハイドロキシアパタイト顆粒、およびアルミナ顆粒を含むアパタイト-ケイ灰石(wollastonite)の使用について報告し;Passuti et al. (1989)はマクロ多孔性リン酸カルシウムセラミック性能について報告し;Harada (1989)は骨移植へのハイドロキシアパタイト粒子およびトリカルシウムリン酸粉末の混合物の使用について報告し;Ohgushi et al. (1989)は多孔性リン酸カルシウムセラミック単独、および骨髄細胞との組み合わせ使用について報告し;Pochon et al. (1986)は移植へのβ-トリカルシウムリン酸の使用について報告し;Glowacki et al. (1985)は脱ミネラル化骨インプラントの使用について報告している。
【0091】
本明細書において使用されるこれら材料は全て「ハイドロキシアパタイト」と総称される。好ましい形態において、ハイドロキシアパタイトは、直径およそ10〜100μ、最も好ましくは直径約50μを有する粒子である。
【0092】
リン酸カルシウムセラミックは非毒性、非免疫原性で、骨の主要成分であるカルシウムおよびリン酸イオンから構成されているため、骨欠陥の修復においてインプラントとして用いることができる(Frame, 1987; Parsons et al., 1988)。トリカルシウムリン酸(TCP)Ca3(PO4)2およびハイドロキシアパタイト(HA)Ca10(PO4)6(OH2)は両方とも幅広く用いられている。リン酸カルシウムインプラントは骨誘導性で、骨に直接結合できるようである。結果として、強固な骨-インプラントインターフェースが形成される。
【0093】
リン酸カルシウムセラミックはある程度の生体再吸収能(bioresorbability)を有し、これはその化学および材質構造によって支配されている。高密度HAおよびTCPインプラントは再吸収をほとんど示さないが、多孔性のものは体液に溶解して簡単に崩壊し、食作用によって再吸収される。しかし、TCPはインビトロで、同じ多孔度のHA構造よりも速く分解する。HAは水性環境で比較的不溶性である。しかし、リン酸カルシウムセラミックの機械的特性により、負荷がかかる状況下では構造要素とするには適さない。セラミックは硬性で、衝撃負荷(impact loading)に抵抗性が低いため好ましくない。
【0094】
B. ヒドロゲルを形成するためのポリマー
展性のあるイオン性ヒドロゲルを形成できるポリマーを、細胞を支持するために使用することもできる。ポリマー溶液の細胞懸濁液の注射を行って、装置全体への細胞播種の再現性を改善し、細胞を剪断力もしくは圧力によって誘導される壊死から保護し、または細胞送達の空間的位置の決定を補助することができる。注射可能なポリマーを用いて細胞を送達し、他のマトリックスを使用せずに新しい組織の形成を促進することもできる。好ましい態様において、ヒドロゲルはポリマーのイオン性の塩をイオンで架橋することによって産生され、この強度はイオンまたはポリマーの濃度を増加させると増加する。移植する細胞とポリマー溶液を混合して懸濁液を形成し、懸濁液をポリマー化する前にこれを直接患者に注射する。続いて、ポリマーがアルギン酸などの多糖の場合、インビボではカルシウムなどのイオンが生理学的濃度で存在するため、懸濁液は短時間でポリマー化する。
【0095】
ヒドロゲルは、有機ポリマー(天然または合成)が共有、イオン性、または水素結合を介して架橋されて三次元開放格子構造を形成し、これが水分子を捕捉してゲルを形成する場合に形成される物質として定義される。ヒドロゲルを形成するために使用できる材料の例としては、多糖類、例えばアルギン酸、ポリホスファゼン、およびポリアクリレート、例えばイオン架橋されたヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、またはブロックコポリマー、例えばPluronics(商標)もしくはTetronics(商標)(それぞれ温度またはpHで架橋されたポリエチレンオキシド-ポリプロピレングリコールブロックコポリマー)が挙げられる。他の材料としてはタンパク質、例えばフィブリノジン(fibrinogin)、コラーゲン、ポリマー、例えばポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、およびコラーゲンが挙げられる。
【0096】
一般的にこれらポリマーは、荷電側鎖またはその一価イオン性塩を有する水、緩衝塩類溶液、または水性アルコール溶液などの水溶液に少なくとも部分的には可溶性である。カチオンと反応しうる酸性側鎖を有するポリマーの例は、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、アクリル酸とメタクリル酸のコポリマー、ポリ(ビニルアセテート)、およびスルホン化ポリスチレンなどのスルホン化ポリマーである。アクリルまたはメタクリル酸およびビニルエーテルモノマーまたはポリマーの反応によって形成された酸性側鎖を有するコポリマーを用いることもできる。酸性基の例は、カルボン酸基、スルホン酸基、ハロゲン化(好ましくはフッ化)アルコール基、フェノールOH基、および酸性OH基である。アニオンと反応できる塩基性側鎖を有するポリマーの例は、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(ビニルイミダゾール)、および一部のイミノ置換ポリホスファゼンである。ポリマーのアンモニウムまたは第四級塩は骨格窒素またはペンダントイミノ基から形成することもできる。塩基性側鎖の例はアミノおよびイミノ基である。
【0097】
アルギン酸を水中、室温で二価カチオンとイオン架橋してヒドロゲルマトリックスを形成することができる。これは穏和な条件なため、アルギン酸はハイブリドーマ細胞のカプセル化に最も一般的に用いられるポリマーであり、例えば米国特許第4,352,883号に記載されている。この特許には、カプセル化する生物学的材料が水溶性ポリマー溶液に懸濁している水溶液が説明されており、この懸濁液を液滴にして、多価カチオンと接触させることにより個々のマイクロカプセルを構成させ、マイクロカプセルの表面をポリアミノ酸で架橋して、カプセル化した材料の周りに半透膜を形成する。
【0098】
架橋に適したポリホスファゼンは、大多数の側鎖基が酸性で、二価または三価カチオンと塩橋を形成できる。好ましい酸性側鎖の例は、カルボン酸基およびスルホン酸基である。加水分解に安定なポリホスファゼンは、Ca2+またはAl3+などの二価または三価カチオンによって架橋されたカルボン酸側鎖を有するモノマーから形成される。イミダゾール、アミノ酸エステル、またはグリセロール側鎖を有するモノマーを組みこむことによって、加水分解によって分解するポリマーを合成することができる。生体崩壊性ポリホスファゼンは、少なくとも2つの異なるタイプの側鎖、多価カチオンと塩橋を形成することができる酸性側鎖、およびインビボ条件下で加水分解する側鎖、例えばイミダゾール基、アミノ酸エステル、グリセロール、およびグルコシルを有する。
【0099】
荷電側鎖を有する水溶性ポリマーは、逆の電荷の多価イオン(ポリマーが酸性側鎖を有する場合は多価カチオン、ポリマーが塩基性側鎖を有する場合は多価アニオン)を含む水溶液とポリマーを反応させることによって架橋される。ポリマーを酸性側鎖と架橋してヒドロゲルを形成するのに好ましいカチオンは、二価および三価カチオン、例えば銅、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、およびスズであるが、二-、三-、または四-機能的有機カチオン、例えばアルキルアンモニウム塩も用いることができる。これらカチオンの塩の水溶液をポリマーに加えて、軟らかくよく膨らんだヒドロゲルおよび膜を形成させる。カチオンの濃度が高いほど、または価数(valence)が高いほど、ポリマー架橋の程度は大きくなる。0.005M程度の低い濃度からポリマーが架橋されることが示されている。高濃度は塩の溶解度により限られる。ポリマーを架橋してヒドロゲルを形成するための好ましいアニオンは、二価および三価アニオン、例えば低分子量ジカルボン酸、例えばテレフタル酸、硫酸イオン、および炭酸イオンである。カチオンに関して述べたように、これらアニオンの塩の水溶液をポリマーに加えて、軟らかくよく膨らんだヒドロゲルおよび膜を形成させる。
【0100】
様々なポリカチオンを用いてポリマーヒドロゲルを半透性表面膜に複合体化させて、安定化させることができる。使用可能な材料の例としては、アミンまたはイミン基などの塩基性反応性基を有するポリマーであって、好ましい分子量として3,000〜100,000を有する、例えばポリエチレンイミンおよびポリリジンが挙げられる。これらは市販されている。一つのポリカチオンはポリ(L-リジン)であり、合成ポリアミンの例は、ポリエチレンイミン、ポリ(ビニルアミン)、およびポリ(アリルアミン)である。多糖、キトサンなどの天然ポリカチオンもある。ポリマーヒドロゲル上の塩基性表面基との反応によって半透膜を形成するために用いることができるポリアニオンとしては、アクリル酸、メタクリル酸、および他のアクリル酸誘導体のポリマーおよびコポリマー、ペンダントSO3H基とのポリマー、例えばスルホン化ポリスチレン、およびカルボン酸基とのポリスチレンが挙げられる。
【0101】
IX. スクリーニングアッセイ
さらなる態様において、本発明は、骨形成を誘導する因子を分離、精製、および同定する方法を提供する。上記分離技術を用いて、条件培地を分画し、得られた画分を活性、例えば骨芽細胞誘導活性または骨誘導活性などについてテストすることができる。骨芽細胞を、形態、骨タンパク質の発現、ならびにマトリックスをミネラル化する能力および/または骨を産生する能力によって同定する。骨形成は、von Koassaまたはアリザリンレッド染色、FTIRまたはRaman分光分析によって同定することができる。
【0102】
X. 実施例
以下の実施例は本発明の好ましい態様を示すために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施に十分機能することが本発明者によって見出された技術であり、そのためその実施の好ましい形態を構成すると見なされうることを示していることが当業者には理解されるであろう。しかし当業者は、本開示に照らして、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示した特定の態様において多くの変更を実施でき、類似または同様の結果が得られることを認識するであろう。
【0103】
実施例1
材料および方法
本発明者らは初代ヒト骨芽細胞およびCaP細胞株を用いて骨芽細胞性CaP病変の細胞的基礎を調べた。初代ヒト前骨芽細胞および骨芽細胞ならびにCaP細胞株を用いて骨芽細胞性CaP病変の細胞的基礎を調べた。データは、ヒト小柱骨由来骨芽細胞と共培養したCaP細胞株(LNCaP、C42B、DuCaP、およびVCaP)は骨芽細胞増殖も分化も刺激しなかった(アルカリホスファターゼ酵素活性でモニターした;データ示さず)ことを示す。これらデータより、骨細胞系統への細胞動員がCaPを介する骨形成に役割を担う可能性が示唆された。
【0104】
間葉系幹細胞(MSC)は、骨形成能を有する多能性骨髄細胞である。本発明者らは、転移性ヒトCaP細胞(DuCaPおよびVCaP)によって産生された条件培地(CM)がMSC拘束および骨芽細胞への分化を誘導したことを観察した(図1および2)。この活性は煮沸またはプロテアーゼ活性によって阻害され(図1右下パネル)、タンパク質の性質を示している。重要なことに、CaP-CMは骨芽細胞の組織様凝集体への細胞凝縮(図1および2におけるスフェロイド細胞構造)誘導する。そして、これら組織様凝集体がvon Kossaでもアリザリンレッドでも陽性の骨マトリックスを分泌し、ミネラル化した(図2)。
【0105】
Ramanスペクトログラフ分析によって、骨形成の指標であるハイドロキシアパタイトおよびコラーゲンタイプI両方の存在が確認された(図3)。DNAマイクロアレイ分析によって、これらCaP細胞が複数の既知の増殖因子を分泌することが検出された(表1)。しかし、これらのいずれもCaP条件培地活性の代わりに用いることはできず、CMはユニークな骨細胞レギュレーターを含むことが示された(図4)。本発明者らは、CaP細胞が可溶性タンパク質を産生し、これが原始細胞を骨芽細胞系統に動員して骨形成の増加を促進すると結論する。
【0106】
転移性前立腺癌(CaP)細胞由来の条件培地を以下のように作成する。始めに4×106 CaP細胞(VCaPまたはDuCaP)を培養培地12ml(10%FBS DMEM培地)で100mm組織培養ディッシュにプレーティングする。次に細胞に24時間与えてプラスチック表面に接着させる。次の日、培地を除いて細胞を3回10ml/ディッシュPBSで洗浄する。洗浄した細胞を1%(v/v)ITS+を加えた10ml/ディッシュ無血清McCoy's培地で72時間インキュベートする。72時間後に回収した培地を0.2mmフィルターでろ過し、骨誘導実験に直接、典型的には1:2希釈で用いる。
【0107】
本明細書に開示され述べられている組成物および/または方法は全て、本開示に照らして、過度の実験を行うことなく為し、実施することができる。本発明の組成物および方法は好ましい態様という点から述べられており、組成物および/または方法には、本明細書に述べた方法の工程または一連の工程において、本発明の真意、趣旨、および範囲から逸脱することなく、バリエーションが適用されうることが当業者には理解されるであろう。より詳細には、化学的および生理学的に関連する特定の薬剤を本明細書に記載の薬剤に代えて使用でき、同じまたは同様の結果が達成されることが理解されるであろう。当業者に理解されるこのような同様の代用物および修飾物は全て、添付の請求の範囲に規定される本発明の趣旨、範囲、および真意に含まれると見なされる。
【0108】
XI. 文献
以下の文献は、本明細書に記載のものに加えて例示的手順または他の詳細を提供するという目的で、参照により本明細書に特に組み入れられる。
米国特許第1,995,970号
米国特許第2,676,945号
米国特許第2,683,136号
米国特許第2,703,316号
米国特許第2,758,987号
米国特許第2,951,828号
米国特許第3,531,561号
米国特許第4,196,265号
米国特許第4,352,883号
米国特許第4,443,546号
米国特許第4,533,637号
米国特許第5,063,157号
米国特許第5,405,772号
米国特許第5,972,703号
米国特許出願第09/753,043号


【図面の簡単な説明】
【0109】
以下の図面は本明細書の一部を形成し、本発明の一定の局面をさらに示すために含まれる。本発明は、1つまたは複数のこれら図面を本明細書に記載の特定の態様の詳細な説明と組み合わせて参照することによって、より深く理解されるであろう。
【図1】前立腺癌(CaP)細胞条件培地による骨誘導。CaP細胞株VcCaPおよびDuCaPからの無血清条件培地(CM)を用いて、組織様凝集体およびヒト骨(矢印)を形成するように間葉系幹細胞(MSC)を誘導した。煮沸またはプロテアーゼ処理によって変性させたCMはこの活性を欠く。MSC;間葉系幹細胞。
【図2】CaP処理MSCはアリザリンレッド陽性骨マトリックスを形成する。CaP-CMで処理したMSCは、アリザリンレッド染色でリン酸カルシウムに関して陽性に染まる骨マトリックスを含む組織様凝集体を形成する。略語は図1の通り。
【図3】MSC骨形成のRamanスペクトログラフ分析。ミネラル化した骨マトリックス(図示目的のみのためにアリザリンレッドとして示す)をRaman分光法でさらに分析した。これらスペクトログラフ(右側上下の囲み部分)はハイドロキシアパタイトおよびコラーゲンの存在を明らかに示しており、ヒト骨形成が確認された。
【図4】CaPから分泌された増殖因子は組織様凝集体、骨誘導、または骨形成を誘導しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)幹細胞を提供する工程;および
(b)該幹細胞を転移性前立腺癌細胞により産生された少なくとも1つの因子と、該幹細胞の増殖を支持する条件下で接触させる工程
を含む、骨形成分化するように幹細胞を誘導する方法であって、
これによって該因子が、骨芽前駆細胞、前骨芽細胞、または骨芽細胞となるよう該幹細胞を誘導する、方法。
【請求項2】
幹細胞が、間葉系幹細胞、造血幹細胞、胚性幹細胞、組織幹細胞、または胚性癌腫細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
因子が転移性前立腺癌細胞条件培地に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
幹細胞を転移性前立腺細胞条件培地と接触させる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
骨芽細胞が組織様凝集体をさらに産生する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
組織様凝集体が骨マトリックスを形成する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
幹細胞が対象内に位置する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
対象が、骨減少、骨損傷、または骨破壊性疾患に苦しんでいる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
骨破壊性疾患が、骨粗鬆症、二次性骨粗鬆症、溶骨性骨癌、パジェット病、内分泌学的障害、低リン酸血症、低カルシウム血症、腎性骨形成異常、副甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、または骨軟化症である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
幹細胞をさらなる骨形成因子と接触させる工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
転移性前立腺癌細胞の増殖による培地条件を含む組成物。
【請求項12】
骨芽細胞に分化するよう幹細胞を誘導する転移性前立腺癌細胞条件培地から得られるタンパク質因子。
【請求項13】
転移性前立腺癌細胞によって産生されたタンパク質因子を得る方法であって、該因子は幹細胞を骨芽細胞に分化するよう誘導する、以下の工程を含む方法:
(a)転移性前立腺癌細胞条件培地を得る工程;および
(b)該培地のタンパク質および非タンパク質成分を分離する工程。
【請求項14】
骨芽細胞によるエクスビボ骨形成を誘導する転移性前立腺癌細胞条件培地から得られる熱に不安定なタンパク質因子。
【請求項15】
転移性前立腺癌細胞によって産生されたタンパク質因子を得る方法であって、該因子が骨芽細胞によるエクスビボ骨形成を誘導する、以下の工程を含む方法:
(a)転移性前立腺癌細胞条件培地を得る工程;および
(b)該培地のタンパク質および非タンパク質成分を分離する工程。
【請求項16】
(a)骨芽細胞を提供する工程;および
(b)該幹細胞を転移性前立腺癌細胞によって産生された少なくとも1つの因子と、該骨芽細胞の増殖を支持する条件下で接触させる工程
を含む、骨を形成するように骨芽細胞を誘導する方法であって、
これによって該骨芽細胞が骨を産生する、方法。
【請求項17】
因子が転移性前立腺癌細胞条件培地に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
骨芽細胞を転移性前立腺細胞条件培地と接触させる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
骨芽細胞が対象内に位置する、請求項17記載の方法。
【請求項20】
骨芽細胞が対象内に位置しない、請求項17記載の方法。
【請求項21】
対象が、骨減少、骨損傷、または骨破壊性疾患に苦しんでいる、請求項20記載の方法。
【請求項22】
骨破壊性疾患が、骨粗鬆症、二次性骨粗鬆症、溶骨性骨癌、パジェット病、内分泌学的障害、低リン酸血症、低カルシウム血症、腎性骨形成異常、副甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、または骨軟化症である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
骨芽細胞をさらなる骨形成因子と接触させる工程をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項24】
(a)転移性前立腺癌細胞条件培地を得る工程;
(b)転移性前立腺癌細胞条件培地の成分を分画する工程;および
(c)(b)からの画分中の骨芽細胞誘導活性についてアッセイする工程
を含む、転移性前立腺癌細胞条件培地から骨芽細胞誘導因子を分離する方法であって、
骨芽細胞誘導活性を有する画分が、分離された骨芽細胞誘導因子を含む、方法。
【請求項25】
(a)転移性前立腺癌細胞条件培地を得る工程;
(b)転移性前立腺癌細胞条件培地の成分を分画する工程;および
(c)(b)からの画分中の骨誘導活性についてアッセイする工程
を含む、転移性前立腺癌細胞条件培地から骨誘導因子を分離する方法であって、骨誘導活性を有する画分が、分離された骨誘導因子を含む、方法。
【請求項26】
以下の工程を含む、転移性前立腺癌細胞条件培地から骨芽細胞誘導因子を同定する方法:
(a)転移性前立腺癌細胞条件培地を得る工程;
(b)転移性前立腺癌細胞条件培地の成分を分画する工程;
(c)(b)からの画分中の骨芽細胞誘導活性についてアッセイする工程;および
(d)(c)の画分中の因子を同定する工程。
【請求項27】
以下の工程を含む、転移性前立腺癌細胞条件培地から骨誘導因子を同定する方法:
(a)転移性前立腺癌細胞条件培地を得る工程;
(b)転移性前立腺癌細胞条件培地の成分を分画する工程;
(c)(b)からの画分中の骨誘導活性についてアッセイする工程;および
(d)(c)の画分中の因子を同定する工程。
【請求項28】
転移性前立腺癌細胞条件培地に対するポリクローナル抗血清。
【請求項29】
以下の工程を含む、抗体集団を調製する方法:
(a)転移性前立腺癌細胞条件培地に対するポリクローナル抗血清を作成する工程;および
(b)非転移性前立腺癌細胞条件培地に反応する抗体を該抗血清から欠乏させる工程。
【請求項30】
以下の工程を含む、ハイブリドーマ細胞を調製する方法:
(a)転移性前立腺癌細胞条件培地に対する抗体を分泌するハイブリドーマ細胞集団を作成する工程;および
(b)非転移性前立腺癌細胞条件培地に反応する抗体を分泌する細胞を該ハイブリドーマ細胞集団から欠乏させる工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−509609(P2007−509609A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534082(P2006−534082)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/032096
【国際公開番号】WO2005/032344
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(500047572)ザ、リージェンツ、オブ、ザ、ユニバーシティ、オブ、ミシガン (12)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF MICHIGAN
【Fターム(参考)】