幹細胞馴化培地組成物
馴化細胞培地を調製するためのプロセスを提供する。該プロセスは、a)細胞増殖を補助するのに有効な組成を有する増殖培地において、真核細胞を培養し;b)培養した細胞を増殖培地から分離し;そしてc)培養した細胞を、細胞生存を維持するのに適しているが、実質的な細胞増殖を補助するには適していない組成を有する基本培地において維持する工程を含む。細胞は、好ましくは、真皮鞘(dermal sheath)、真皮乳頭(dermal papilla)または真皮線維芽細胞である。組成物は、薬学的組成物として、特に創傷治癒のために有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病変および火傷の治療を含む、薬学的、美容的および薬用化粧品適用において使用するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、複数のタイプの細胞を形成する能力があるため、多くの療法的、美容的および薬用化粧品適用において、非常に興味が持たれている。例えば、EP 0980270を参照されたい。さらに、増殖中の細胞によってタンパク質および他の因子が培地内に分泌されることから生じる、療法的、美容的および薬用化粧品使用のための、幹細胞を含む細胞を増殖させるのに用いられる培地が記載されてきている。例えば、US7,118,746;US7,160,726およびWO2008/020815を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】EP 0980270
【特許文献2】US7,118,746
【特許文献3】US7,160,726
【特許文献4】WO2008/020815
【発明の概要】
【0004】
療法的、美容的および薬用化粧品目的のための代替組成物を同定することが、依然、望ましい。幹細胞の増殖を補助するために使用されたタンパク質性物質が混入していない馴化培地を産生する方法を同定することが特に望ましい。さらに、馴化培地製造のための、有効で、拡大可能な方法を同定することが特に望ましいであろう。
【0005】
本発明の第一の側面にしたがって、a)真皮鞘細胞(dermal sheath cells)、真皮線維芽細胞または真皮乳頭細胞(dermal papilla cells)からなる群より選択される、幹細胞潜在能力を保持する分化したヒト細胞を、増殖培地中で培養し;そしてb)細胞から培地を分離することによって得られる、馴化細胞培地を含む、薬学的組成物を提供する。
【0006】
本発明の第一の側面において使用可能な増殖培地は、細胞の増殖に十分な培地である。細胞培養法および培地は当該技術分野に周知であり、そしてこれには、血清補充基本培地、血清不含培地、タンパク質不含培地または化学的に定義された増殖培地が含まれる。増殖培地には、典型的には、必須アミノ酸、糖、塩、ビタミン、ミネラル/無機塩、微量金属、脂質およびヌクレオシドが含まれ、そして血清、タンパク質(例えばインスリン、トランスフェリン、増殖因子および他のホルモン)、抗生物質(例えばゲンタマイシン、ストレプトマイシン、ペニシリン)、付着因子(例えばフィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン類)など、細胞増殖を補助するのに必須の多様なさらなる構成要素が補充される。補充は、例えば血清の場合におけるように組み合わせであってもよく、または個々にであってもよい。増殖培地は、特定の細胞タイプが、制御されたin vitro環境において増殖するための栄養要求を満たすのに必要な構成要素を、細胞に提供する。
【0007】
1つの態様において、細胞培養プロセスを1つの培養容器中で実施し、細胞を、マイクロキャリアーを含有する培養容器内に直接接種し、望ましい細胞密度に到達するまで、細胞を増殖させる。他の態様において、細胞培養プロセスを、少なくとも2つの別個の細胞培養容器/系、例えば1またはそれより多いシード拡大容器、その後、細胞産生容器中で、実施する。この複数のシード拡大プロセスは、好ましくは、最終産生細胞培養容器の接種に十分な数の細胞が得られるまで、サイズが増加する培養容器を使用する。シード拡大培養容器は、同じタイプ(例えば組織培養フラスコ、振盪フラスコ、ローラーボトル、スピナーフラスコ、ウェーブ・バイオリアクター、攪拌タンクバイオリアクター)であるが、シードの拡大が進むにつれてサイズが増加するものであってもよいし、または産生バイオリアクターへのトランスファーに備えて、シード培養が拡大するにつれてサイズが増加する、培養系の混合であってもよい(例えば、組織培養フラスコから振盪フラスコ、さらにスピナーフラスコ、さらに攪拌タンクバイオリアクター系)。
【0008】
典型的には、in vitro環境を制御して、最適増殖温度、溶解酸素、二酸化炭素、pHおよび浸透圧を維持する。多くの細胞培地配合物が当該技術分野に知られるか、またはこれらは、商業的供給源から容易に得られうる。細胞培養期間に渡って、細胞の増殖を可能にする増殖培地中に細胞を植え付けることによって、馴化細胞培地を産生可能であることが、当業者に知られる。細胞培養終了時、または培養中の選択した時点で、細胞を取り除き、そして馴化培地を採取する。馴化培地は、元来の細胞培養増殖培地の構成要素の多くを含有するであろうが、それに加えてまた、細胞によって分泌された細胞代謝産物およびさらなるタンパク質も含有するであろう。分泌されるタンパク質は、生物学的に活性である増殖因子、サイトカイン、プロテアーゼおよび他の細胞外タンパク質およびペプチドであってもよい。多くの態様において、本発明の第一の側面にしたがって、組成物は、Gro−α、I−309、IL−6、IL−8、IL−13、MIF、PAI−1、SDF−1およびTGF−βタンパク質、特にTGF−β1の1またはそれより多くを含む。
【0009】
本発明の第二の側面にしたがって、馴化細胞培地を調製するためのプロセスであって:
a)細胞増殖を補助するのに有効な組成を有する増殖培地において、真核細胞を培養し;
b)培養した細胞を増殖培地から分離し;
c)培養した細胞を、細胞生存を維持するのに適しているが、実質的な細胞増殖を補助するには適していない組成を有する基本培地において維持する
工程を含む、前記プロセスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は「アレイパネルA」膜を用いた馴化培地の分析結果を示す。
【図2】図2は馴化培地中で同定されたサイトカインの相対レベルを示す。
【図3】図3は濃縮馴化培地のEZBlue染色SDS-PAGE分析の結果を示す。
【図4】図4は馴化培地試料中のヒトTGF−β1レベルを示す。
【図5】図5は馴化培地試料中のヒトIL−6レベルを示す。
【図6】図6は馴化培地試料中のヒトIL−8レベルを示す。
【図7】図7は馴化培地試料中のヒトPAl−1レベルを示す。
【図8】図8はマウス抗SPARC抗体とインキュベートした馴化培地試料のウェスタンブロットの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第二の側面において使用可能な真核細胞は、‘Basic Cell Culture’ Oxford University Press(2002) J. M. Davis監修;および ‘Animal Cell Culture’ Oxford University Press (2000) John. R. W. Masters監修に記載され;これらはどちらも、その全体が本明細書に援用される。用語「幹細胞」は、複数の組織タイプの細胞を生じさせうる細胞を記載する。幹細胞は、胚、胎児または成人由来の細胞であり、指示を提供する特定のシグナル伝達複合体を提示された際に、異なる細胞タイプになる能力を有する。異なるタイプの幹細胞がある。精子が卵を受精させると、単一の全能性細胞(totipotent)が形成され、そして該細胞は、それによって生物全体を形成する能力を有する。受精後、最初の数時間に、この細胞は、同一の全能性細胞に分裂する。受精後およそ4日間、および数周期の細胞分裂後、これらの全能性幹細胞は、特殊化し始める。全能性細胞がより特殊化し始めると、これらは次いで、「多能性(pluripotent)」と称される。多能性細胞は、体内のすべての細胞タイプに分化可能であるが、胎盤、または胎児発生に必要な支持組織は生じない。多能性細胞の分化に関する潜在能力は「完全」ではないため、こうした細胞は「全能性」とは称されず、そしてこれらは胚ではない。多能性幹細胞は、さらなる特殊化を経て、多分化能(multipotent)幹細胞になり、これらは、特定の機能のために特殊化された特定の系譜の細胞に分化するよう拘束されている。多分化能細胞は、由来する組織に見られる細胞タイプに分化可能であり;例えば、間葉系幹細胞、例えば真皮鞘、真皮乳頭および真皮線維芽細胞などの多分化能(成人)幹細胞がある。
【0012】
細胞は、成人、新生児または胎児組織に由来してもよく、そして自家または同種であってもよい。当該技術分野においてよく確立された方法を用いて、細胞を遺伝子修飾してもよい。例えばタンパク質を上方または下方制御するか、新規タンパク質を導入するか、あるいはイオン濃度を制御するため、遺伝子修飾を用いて、細胞増殖馴化細胞培地または馴化基本細胞培地内に分泌される1またはそれより多い構成要素の濃度を改変することも可能である。
【0013】
特定の態様において、細胞は、共培養として増殖する。共培養細胞は、一緒に増殖する、2またはそれより多い異なる種類の細胞の混合物である。
第二の側面のプロセスにおいて使用されるのに適した細胞は、当該技術分野に知られる方法によって得られうる。特に、細胞を組織から単離し、先に確立された細胞ストックから拡大し、継代し、そして培養して、細胞増殖馴化細胞培地または馴化基本細胞培地を産生してもよい。未分化または分化細胞を用いて、細胞増殖馴化細胞培地または馴化基本細胞培地を産生してもよい。
【0014】
本発明の第二の側面のプロセスにおいて使用される細胞は、好ましくは、真皮鞘細胞、真皮線維芽細胞または真皮乳頭細胞からなる群より選択される、幹細胞潜在能力を保持する、分化したヒト細胞である。
【0015】
本発明の第二の側面において使用可能な増殖培地は、第一の側面に関して上述する通りである。所望の細胞密度が達成されるまで、増殖培地中で細胞を培養する。
本発明の第二の側面において使用される基本培地は、細胞生存を維持するのに適した組成を有し、例えば細胞溶解を回避するpHおよび浸透圧を有するが、実質的な細胞増殖を補助せず、そして好ましくは細胞増殖をまったく補助しない組成を有する。基本培地は、無機塩、アミノ酸、ビタミン、および糖を含むエネルギー供給源を含むが、血清、タンパク質、ホルモンおよび付着因子などの構成要素を補充されない。好ましいエネルギー供給源はグルタミンを含む。基本培地は、培養細胞導入前に、タンパク質不含であり、そして培養細胞導入後に、基本培地にタンパク質補充剤はまったく添加されない。基本培地の組成は、培養細胞の生存を維持し、基本培地内への細胞代謝産物および分泌物の搬出を可能にするように選択される。使用可能な基本培地の例には、エイムス培地、イーグル基本培地、クリック培地、ダルベッコの修飾イーグル培地、ハム栄養混合物F−12、グラスゴー最小必須培地、イスコーブの修飾ダルベッコ培地、最小必須培地イーグルおよびRPMI−1640培地が含まれる。
【0016】
本発明の第二の側面の多くの好ましい態様において、増殖培地からの分離後、および基本培地内への導入前に細胞を洗浄する。細胞に適した洗浄溶液の例が当該技術分野に周知であり、そしてこれには、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液が含まれる。いくつかの好ましい態様において、使用する洗浄溶液は、上述のものなどの基本培地であり、そして一般的に、細胞において、同じ基本培地が続いて維持されるものとする。
【0017】
基本培地内への培養細胞の導入は、細胞増殖期間終了時に達成されるのと同じ細胞濃度であってもよいし、またはより好ましくは、基本培地内への分泌構成要素の濃度が増加するよう、より高い濃度であってもよい。細胞を2D培養中で増殖させる場合、細胞を、一般的に、非常に集密な(confluent)単層を生じるように増殖させる。こうした細胞濃度は、典型的には、1x104〜1x105細胞/cm2、好ましくは2x104〜5x104細胞/cm2である。こうした非常に集密な細胞単層はまた、2D様式で、基本培地と接触する場合にも使用される。マイクロキャリアーに付着させるなど、細胞を3D培養中で増殖させる場合、細胞を、一般的に、1x107〜1x1012細胞/リットル、好ましくは1x108〜1x1010細胞/リットルの範囲の濃度に増殖させる。多くの態様において、2Dまたは3D培養いずれかで、使用する基本培地の体積は、細胞増殖を補助するのに使用した培地体積よりも、最大15、一般的には2〜10、好ましくは4〜6、例えば約5倍低い。
【0018】
培養される細胞は、培地が所望の組成を有するまで、基本培地中、一般的には12時間より長い、典型的には18〜26時間、例えば約24時間の期間、一般的に維持される。この再インキュベーション期間終了時、細胞を取り除いて、細胞不含馴化基本細胞培地を生じる。馴化基本細胞培地は、細胞代謝産物および分泌タンパク質を含有するであろう。分泌タンパク質は、生物学的に活性である増殖因子、サイトカイン、プロテアーゼならびに他の細胞外タンパク質およびペプチドであってもよい。
【0019】
培養中の細胞を記載するために、多様な用語が用いられる。「細胞培養」は、一般的に、生存している生物から採取され、そして制御された条件下で増殖する細胞を指す。初代細胞培養は、最初の継代培養前の、生物から直接採取された細胞、組織または臓器の培養物である。細胞は、増殖および/または分裂を促進する条件下で、増殖培地中に置かれた際、培養中で拡大し、より大きな細胞集団を生じる。細胞株は、初代細胞培養の1またはそれより多い継代培養によって形成される細胞集団である。継代培養の各周期は、継代と呼ばれる。継代期間中に多くの集団倍加がありうることが、当業者によって理解されるであろう。
【0020】
係留依存性または付着依存性細胞は、組織培養における増殖および成長のために、表面に付着する必要がある細胞である。いくつかの態様において、本発明を実施するのに用いられる細胞は、懸濁培養中で増殖することが可能である。本明細書において、懸濁適格性細胞は、大きく堅固な凝集物を作製することなく、懸濁中で増殖可能な細胞、すなわち、単分散であるかまたは凝集体あたり数細胞のみを含む緩い凝集体で増殖する細胞である。懸濁適格性細胞には、限定なしに、適応または操作を伴わずに懸濁中で増殖する細胞、および付着依存性細胞が懸濁増殖に次第に適応することによって、懸濁適格性になっている細胞が含まれる。こうした細胞を用いる場合、細胞増殖は、懸濁中で実行可能であり、したがって、マイクロキャリアーを、産生バイオリアクター自体における最終増殖期および産生期においてのみ用いてもよい。懸濁適応細胞の場合、用いられるマイクロキャリアーは、典型的には多孔キャリアーであり、ここで、細胞は、キャリアーの内部構造内部の物理的捕捉の手段によって付着される。
【0021】
本明細書において、用語「マイクロキャリアー」は、細胞付着および増殖に適した、小さい別個の粒子を意味する。常にではないが、しばしば、マイクロキャリアーは、ポリマーから形成される多孔性ビーズである。マイクロキャリアーはまた、凹みを含む密な表面を有してもよい。通常、細胞は、こうしたビーズの外表面に付着し、そしてその上で増殖する。
【0022】
本発明のプロセスは、細胞増殖を導く条件下で細胞を培養することによって行われる。培養条件、例えば温度、pH、溶解酸素(低酸素条件を含む)等は、特定の細胞に最適であることが知られるものであり、そしてこの分野の当業者には明らかであろう(例えば、Animal Cell Culture: A Practical Approach 第2版, Rickwood, D.およびHames, B. D.監修, Oxford University Press, New York(1992)を参照されたい)。
【0023】
本発明の第一および第二の側面において、細胞は、固体支持体媒体に付着して好適に培養される。大規模産生のためのオプションには、組織培養フラスコ、ローラーボトル、灌流に基づく系(例えば中空ファイバーバイオリアクター、内部および外部スピンフィルター、聴覚細胞保持デバイス、ろ過に基づく細胞保持デバイス)、単一、複数プレートまたは積み重ねプレート細胞培養系、細胞キューブ、およびマイクロキャリアーが含まれる。細胞はまた、細胞が付着することが可能であり、そして細胞が1より多い層で増殖することが可能である、任意の材料およびまたは形状で構成される三次元足場を用いて培養されてもよい。フレームワークの構造には、メッシュ、スポンジが含まれてもよく、あるいはヒドロゲルで形成されてもよい。1つの適切な三次元フレームワークは、IntegraTM皮膚再生テンプレート(Integra Life Sciences)である。細胞を三次元足場上で直接培養してもよいし、あるいは、細胞増殖馴化細胞培地または馴化基本細胞培地を産生するために、三次元足場上に再植え付けする前に、組織培養フラスコ、ローラーボトル、中空ファイバー系、単一、複数プレートまたは積み重ねプレート細胞培養系、細胞キューブ、およびマイクロキャリアーから採取してもよい。細胞はまた、灌流細胞培養を用いても培養可能である。灌流細胞培養において、フィルター(例えば内部または外部スピンフィルター)、細胞保持メッシュ、細胞定着材(settler)、聴覚デバイスなどの細胞保持デバイスを用いて、細胞をバイオリアクター中に保持する。細胞培養増殖培地を連続してまたは定期的にバイオリアクターに供給し、そして細胞不含「消費」培地を連続してまたは定期的に取り除く。
【0024】
特定の好ましい態様において、細胞を固相マイクロキャリアー表面に付着させるか、あるいはマイクロキャリアーがゼラチン(加水分解したコラーゲン)マイクロキャリアーである際の多孔性マイクロキャリアーの内部構造である、内部の物理的捕捉に細胞を付着させるか、または細胞が該物理的捕捉によって付着される。こうしたマイクロキャリアーは、ゼラチン粒子、架橋ゼラチン粒子、あるいはポリスチレンまたはガラス粒子などのキャリアー材料上のコーティングとして用いられるゼラチンを含んでもよい。ゼラチンは、天然供給源由来であってもよいし、あるいは組換え的または合成的に産生されてもよい。
【0025】
いくつかの態様において、細胞培養プロセスを1つの培養容器中で行う。マイクロキャリアーを含有する培養容器内に、細胞を直接接種し、そして所望の細胞密度に到達するまで、細胞を増殖させる。増殖した細胞を含有するマイクロキャリアーを無菌的に採取し、そして洗浄する。次いで、洗浄したマイクロキャリアーを基本培地中に再懸濁して、そして最適条件下でインキュベーションして、一定期間(典型的には24時間)、細胞生存を維持する。次いで、馴化培地を採取する。洗浄工程を1回または複数回行ってもよい。
【0026】
他の態様において、細胞培養プロセスを少なくとも2つの別個の細胞培養容器/系、例えば1またはそれより多いシード拡大容器、その後、細胞産生容器中で実施する。この複数のシード拡大プロセスは、好ましくは、最終産生細胞培養容器の接種に十分な数の細胞が得られるまで、サイズが増加する培養容器を使用する。シード拡大培養容器は、同じタイプ(例えば組織培養フラスコ、振盪フラスコ、ローラーボトル、スピナーフラスコ、ウェーブ・バイオリアクター、攪拌タンクバイオリアクター)であるが、シードの拡大が進むにつれてサイズが増加するものであってもよいし、または産生バイオリアクターへのトランスファーに備えて、シード培養が拡大するにつれてサイズが増加する培養系の混合であってもよい(例えば、組織培養フラスコから振盪フラスコ、さらにスピナーフラスコ、さらに攪拌タンクバイオリアクター系)。
【0027】
望ましい場合、マイクロキャリアーが細胞培養容器の底に定着するのを可能にし、その後、最大すべてのそしてすべてを含む、選択した割合の増殖培地体積を取り除き、マイクロキャリアーを場合によって洗浄し、そして対応する割合の新鮮な細胞培養増殖培地を細胞培養容器に添加することによって、培地交換を行ってもよい。次いで、マイクロキャリアーを培地中に再懸濁し、そして培養を続ける。所望の細胞密度が達成されるまで、培地除去および交換のこのプロセスを反復してもよい。
【0028】
本発明の方法で使用可能なゼラチンマイクロキャリアーは、典型的には、およそ球状であるが、他の形状を有してもよく、そして多孔性または固形のいずれであってもよい。多孔性および固形タイプのマイクロキャリアーはどちらも、供給業者から商業的に入手可能である。多孔性ゼラチンマイクロキャリアーは商業的に入手可能であり、例えば、Percell Biolytica AB、スウェーデンから入手可能な「Cultispher」マイクロキャリアーがある。ゼラチンマクロ多孔性マイクロキャリアーは、粒子が、非常に架橋されたゼラチンマトリックスに基づき、10〜500μmの粒子サイズであり、そして直径1〜50μmを有する多数の腔を封入するポリマーマトリックスからなる。細胞付着のためにマイクロキャリアーを使用すると、係留依存性細胞の増殖のため、攪拌タンクおよび関連するバイオリアクターを使用することが容易になる。細胞は、一般的に、懸濁された粒子に付着する。懸濁が望ましいために、典型的には、使用可能なマイクロキャリアーの物理的パラメーターは限定される。マイクロキャリアー粒子サイズ範囲は、一般的に、係留依存性細胞タイプに適応するために十分に大きく、一方、攪拌フラスコ、ローラーボトル、スピナーフラスコ、ウェーブ・バイオリアクターおよび攪拌タンクバイオリアクター系などの細胞培養バイオリアクターにおいて使用するのに適した特性を持つ懸濁物を形成するために十分に小さい。ゼラチンまたはコラーゲンは、リジンのアミン基を介して、グルタミン酸またはアスパラギン酸のカルボキシル基を介して、あるいはその組み合わせで架橋可能である。
【0029】
細胞は、増殖されるかまたは維持されてきた培地から、当該技術分野に知られる方法によって、例えば細胞定着およびデカント、バッチまたは連続遠心分離および/または微量ろ過を用いて、分離される。得られる細胞不含培地をさらにプロセシングして、例えば限外ろ過、ダイアフィルトレーションまたはクロマトグラフィー精製を用いて、1またはそれより多い因子または構成要素を濃縮するかまたは減少させてもよい。
【0030】
本発明の第二の側面のプロセスにおいて産生される馴化培地は、好ましくは薬学的組成物として使用される。したがって、こうした薬学的組成物は、本発明の第三の側面を形成する。薬学的組成物、特に真皮鞘細胞、真皮線維芽細胞または真皮乳頭細胞に由来するものは、一般的に、創傷および病変治癒に有用に使用される。組成物はまた、培地構成要素が有効であることが知られる他の適用のためにも使用可能である。
【0031】
好ましい組成物は、IL−6、Gro−α、SDF−1、FGF−2、SPARC、PAI−1、IL−8、コラーゲン、フィブロネクチン、I−309、IL−13、MIFおよびSDF−1およびTGF−βタンパク質、特にTGF−β1の1またはそれより多くを含む。特に好ましい組成物は、表2、3または4に列挙するタンパク質の1またはそれより多くを含む。
【0032】
本発明の第一および第三の側面の組成物を、液体として、薬剤として使用してもよく、あるいは、凍結するか、凍結乾燥するか、フィルムを形成するか、または粉末になるように乾燥してもよい。組成物を希釈するか、濃縮するか、他の構成要素と混合するか、あるいは部分的にまたは完全に精製してもよい。任意の適切な手段によってヒトまたは動物の体に組成物を送達してもよい。馴化培地を、内部投与のためのビヒクルとしての薬学的に許容されうるキャリアーと一緒に配合するか、創傷/病変に直接適用するか、局所適用のため、軟膏(salveまたはointment)とともに配合するか、あるいは例えば創傷包帯、移植可能組成物および医学的デバイス用のコーティングを生成するための生物分解性ポリマーまたはヒドロゲルにするか、またはこれらに添加するか、またはこれらの中に分散させてもよい。生物分解性ポリマー内に分散させる1つの利点は、系を徐放送達系用に使用可能であることである。これは、ポリマーから慢性創傷に生物活性構成要素を送達するために特に好適であり、これによって、創傷のタンパク質分解性環境から迅速に分解されるのに抵抗し、そして生物活性構成要素が持続して放出されるはずである。当業者には、送達法が、送達しようとする馴化培地に対する特定のin vivo適用に依存することが明らかであろうし、そして当業者は、適宜、どの手段を使用するか決定することが可能であろう。
【0033】
組織は、細胞の代わりにまたは細胞に加えて、細胞からの分泌物を適用されることによって、内因性組織修復の増進を通じて再生または修復可能である。本発明は、最適な組織修復およびリモデリングには、複数のタンパク質の異なる発現/分泌を伴う複数の複合プロセスが必要であるという前提に基づく。本発明において産生される馴化培地は、組織修復、リモデリングおよび創傷治癒において重要であると考えられ、そして例えば創傷治癒のin vivoモデルにおいて、枯渇していることが示されている制御タンパク質の多くを含有する。こうしたタンパク質の例には、TGF−β、IL−6、Gro−α、SDF−1、FGF−2、SPARC、PAI−1、IL−8、コラーゲン、フィブロネクチン、I−309、IL−13、MIFおよびSDF−1が含まれる。
【0034】
TGF−β1は、皮膚創傷治癒において、主要なTGF−βタンパク質である。創傷治癒において、TGF−β1は、炎症、血管形成、再上皮形成、および結合組織再生に重要である。TGF−β1は、傷害の開始とともに増加した発現を有することが示されている(Kopecki Z, Luchetti MM, Adams DH, Strudwick X, Mantamadiotis T, Stoppacciaro A, Gabrielli A, Ramsay RG, Cowin AJ, J Pathol 2007;211:351−61. Kane CJ, Hebda PA, Mansbridge JN, Hanawalt PC, J Cell Physiol 1999;148:157−73.)。in vitro研究によって、TGF−β1が、フィブロネクチン、フィブロネクチン受容体、ならびにコラーゲンおよびプロテアーゼ阻害剤を含む、細胞外マトリックス(ECM)形成と関連する遺伝子の発現を増加させることによって、肉芽形成開始を補助することが示されてきている(White L A; Mitchell T I; Brinckerhoff C E, Biochimica et biophysica acta, 2000;1490(3):259−68. Mauviel A, Chung KY, Agarwal A, Tamai K, Uitto J, J Biol Chem 1996;271:10917−23. Papakonstantinou E, Aletra AJ, Roth M, Tamm M, Karakiulakis G, Cytokine 2003, 24: 25−35. Zeng G, McCue HM, Mastrangelo L, Mills AJ, Exp Cell Res 1996; 228:271−6)。さらなるin vitro研究によって、TGF−β1が、コラーゲンマトリックスの線維芽細胞収縮を促進することによって、創傷収縮に役割を果たすことが示されてきている(Meckmongkol TT, Harmon R, McKeown−Longo P, Van De Water L, Biochem Biophys Res Commun 2007;360:709−14)。創傷治癒のマトリックス形成およびリモデリング期において、TGF−β1は、特にI型およびII型の、コラーゲン産生に関与する(Papakonstantinou E, Aletra AJ, Roth M, Tamm M, Karakiulakis G, Cytokine 2003;24:25−35)。過剰発現されると、TGF−β1は、やはり肥大性およびケロイド瘢痕の発展に重要な役割を果たすことが知られる結合組織増殖因子(CTGF)を刺激することが示されてきている(Colwell AS, Phan TT, Kong W, Longaker MT, Lorenz PH, Plast Reconstr Aesthet Surg 2005;116:1387−90)。
【0035】
IL−6は、創傷治癒反応を開始する際に重要であることが示されており、そして創傷形成後に発現が増加し、より古い創傷において持続する傾向がある(Sogabe Y, Abe M, Yokoymana Y, Ishikawa, O, Wound Repair Regen 2006;14:457−62. Grellner W, Georg T, Wilske J, Forensic Sci Int 2000;113:251−64. Finnerty CC, Herndon DN, Przkora R, Pereira CT, Oliveira HM, Queiroz DM, Rocha AM, Jeschke MG, Shock 2006;26:13−9)。Il−6は、角化細胞に対して、分裂促進性(Randle M Gallucci, Dusti K Sloan, Julie M Heck, Anne R Murray and Sijy J O’Dell, Journal of Investigative Dermatology (2004) 122, 764-772)および増殖性(Sato M, Sawamura D, Ina S, Yaguchi T, Hanada K, Hashimoto I, Arch Dermatol Res 1999;291:400−4. Peschen M, Grenz H, Brand−Saberi B, Bunaes M, Simon JC, Schopf E, Vanscheidt W, Arch Dermatol Res 1998;290:291−7)の効果があり、そして好中球に対して化学誘引性である。
【0036】
Gro−α(CXCL1)ケモカインは、CXCファミリーメンバーであり、そして好中球走化性の強力な制御因子であり、そして急性創傷において上方制御される。in vitro研究によって、角化細胞遊走を促進することによって、再上皮形成における役割を果たすことが示唆されている(Englehardt E, Toksoy A, Goebeler M, Debus S, Brocker EB, Gillitzer R, Am J Pathol 1998;153:1849−60. Christopherson K II, Hromas R, Stem Cells 2001;19:388−96)。
【0037】
SDF−1(CXCL12)は、創傷に対してリンパ球を補充し、そして血管形成を促進することによって、炎症反応において役割を果たす。急性創傷においてホメオスタシスが妨害された際、SDF1は、創傷境界で増加したレベルで見られる(Toksoy A, Muller V, Gillitzer R, Goebeler M, Br J Dermatol 2007;157:1148−54)。SDF−1は、上皮細胞の増殖および遊走を促進する(Salcedo R, Wasserman K, Young HA, Grimm MC, Howard OM, Anver MR, Kleinman HK, Murphy WJ, Oppenheim JJ, Am J Pathol 1999;154:1125−35)。SDF−1はまた、角化細胞増殖を増進可能であり、したがって、再上皮形成に寄与しうる(Florin L, Maas−Szabowski N, Werner S, Szabowski A, Angel P, J Cell Sci 2005;118(Pt9):1981−9)。
【0038】
FGF−2(bFGF)は、多様なECM構成要素の合成および沈着を制御し、再上皮形成中の角化細胞運動を増加させ(Sogabe Y, Abe M, Yokoymana Y, Ishikawa, O, Wound Repair Regen 2006;14:457−62. Grellner W, Georg T, Wilske J, Forensic Sci Int 2000;113:251−64. Di Vita G, Patti R, D’Agostino P, Caruso G, Arcara M, Buscemi S, Bonventre S, Ferlazzo V, Arcoleo F, Cillari E, Wound Repair Regen 2006;14:259−64)、そして線維芽細胞の遊走を促進し、そして線維芽細胞がコラゲナーゼを産生するのを刺激する(Sasaki T, J Dermatol. 1992 Nov;19(11):664−6)。
【0039】
SPARC(酸性であり、そしてシステインリッチである分泌タンパク質)は、皮膚創傷治癒などの、リモデリングおよび修復中に、異なる組織で発現され(Reed MJ, Puolakkainen P, Lane TF, Dickerson D, Bornstein P, Sage EH, J Histochem Cytochem 1993, 41:1467−1477)、再生において機能を有することが示唆される(Louise H. Jorgensen, Stine J. Petersson, Jeeva Sellathurai, Ditte C. Andersen, Susanne Thayssen, Dorte J. Sant, Charlotte H. Jensen and Henrik D. Schroder, Journal of Histochemistry and Cytochemistry, Volume 57(1): 29−39, 2009)。いくつかのマトリックス細胞タンパク質が傷害に反応して発現増加を示す(Bradshaw AD, Sage EH, J Clin Invest 2001, 107:1049−1054)。SPARCは、マトリックス細胞糖タンパク質であり、そして細胞とECMの相互作用を調節する。SPARCヌルマウスでは、皮膚創傷閉鎖の加速およびコラーゲン沈着の改変が報告されてきている(Bradshaw AD, Reed MJ, Sage EH, J Histochem Cytochem 2002, 50:1−10)。創傷部位での発現パターンおよびin vitro研究から、SPARCが、創傷治癒の制御に関連付けられてきている(Basu A, Kligman LH, Samulewicz SJ, Howe CC, BMC Cell Biol. 2001;2:15. Epub 2001 Aug 7)。
【0040】
PAI−1(セルピンE1)は、プラスミン生成のための重要な生理学的制御因子である。PAI−1は、通常、上皮において、角化細胞によって発現されないが、in vitroおよびin vivo創傷傷害後に発現が増加することが示されてきている(Romer J, Lund LR, Eriksen J, Ralfkiaer E, Zeheb R, Gelehrter TD, Dano K, Kristensen P, J Invest Dermatol 1991, 97:803−811. Staiano−Coico I, Carano K, Allan VM, Steiner MG, Pagan−Charry I, Bailey BB, Babaar P, Rigas B, Higgins PJ, Exp Cell Res 1996, 227:123−134)。創傷治癒においてPAI−1が役割を果たしていることを裏付ける研究によって、PAI−1機能が喪失すると、創傷治癒加速が生じることが示されてきている(Joyce C.Y. Chan, Danielle A. Duszczyszyn, Francis J. Castellino and Victoria A Ploplis, American Journal of Pathology. 2001;159:1681−1688)。研究によって、uPAおよびPAI−1が、再上皮形成中の角化細胞および結合組織細胞の遊走中、そして創傷治癒に関連する組織リモデリング中、その発現を空間的および時間的の両方で制御されることが示されてきている(Romer J, Lund LR, Eriksen J, Ralfkiaer E, Zeheb R, Gelehrter TD, Dano K, Kristensen P, J Invest Dermatol 1991, 97:803−811)。
【0041】
IL−8発現は、急性創傷において増加し(E, Toksoy A, Goebeler M, Debus S, Brocker EB, Gillitzer R, Am J Pathol 1998;153:1849−60)、そして、角化細胞遊走および増殖の増加によって、再上皮形成において、役割を果たすことが示されてきている(Michel G, Kemeny L, Peter RU, Beetz A, Reid C, Arenberger P, Ruzicka T, FEBS Lett 1992;305:241−3. Tuschil A, Lam C, Haslberger A, Lindley I, J Invest Dermatol. 1992 Sep;99(3):294−8)。IL−8はまた、白血球において、MMPの発現も誘導し、組織リモデリングを刺激する(Englehardt E, Toksoy A, Goebeler M, Debus S, Brocker EB, Gillitzer R, Am J Pathol 1998;153:1849−60)。IL−8は、好中球に対する強力な化学誘引剤であり、したがって、炎症反応に関与する(Rennekampff HO, Hansbrough JF, Kiessig V, Dore C, Sticherling M, Schroder JM, J Surg Res. 2000 Sep;93(1):41−54)。さらに、高レベルでIL−8を添加すると、角化細胞増殖および線維芽細胞によるコラーゲン格子収縮が減少する(Iocono JA, Colleran KR, Remick DG, Gillespie BW, Ehrlich HP, Garner WL, Wound Repair Regen. 2000 May−Jun;8(3):216−25)。
【0042】
コラーゲンおよびフィブロネクチン−創傷治癒の増殖期は、血管形成、コラーゲン沈着、肉芽組織形成、上皮形成、および創傷収縮によって特徴付けられる(Midwood K.S., Williams L.V., and Schwarzbauer J.E. 2004, The International Journal of Biochemistry & Cell Biology 36 (6): 1031-1037)。線維増殖および肉芽組織形成において、線維芽細胞が増殖し、そしてコラーゲンおよびフィブロネクチンを排出することによって新規ECMを形成する(Midwood K.S., Williams L.V., and Schwarzbauer J.E. 2004, The International Journal of Biochemistry & Cell Biology 36(6): 1031-1037)。線維芽細胞は、創傷形成の2〜5日後、炎症期が終わるにつれて創傷部位に進入し始め、そしてこれらの数は創傷形成の1〜2週間後にピークとなる(de la Torre J., Sholar A. (2006), Wound healing: Chronic wounds. Emedicine.com,2008年1月にアクセス)。最初の週が終わるまでに、線維芽細胞は創傷における主な細胞となる(Stadelmann W.K., Digenis A.G. and Tobin G.R.(1998), The American Journal of Surgery 176(2): 26S−38S)。線維増殖は、創傷形成の2〜4週後に終わる。傷害後、最初の2または3日は、線維芽細胞は、主に増殖し、そして遊走するが、後には、創傷部位において、コラーゲンマトリックスを蓄積する、主な細胞となる(Stadelmann W.K., Digenis A.G. and Tobin G.R. (1998), The American Journal of Surgery 176(2): 26S−38S)。正常組織由来の線維芽細胞は、創傷境界から創傷領域内に遊走する。まず、線維芽細胞は、炎症期に形成されたフィブリン痂皮を、遊走するために用い、フィブロネクチンに接着する(Romo T. and Pearson J.M. 2005, Wound Healing, Skin. Emedicine.com, 2006年12月27日にアクセス)。次いで、線維芽細胞は、創傷床内に細胞質基質を、そして後にコラーゲンを沈着させ、線維芽細胞は遊走のためにこれらに接着可能である(Rosenberg L., de la Torre J. (2006), Wound Healing, Growth Factors. Emedicine.com, 2008年1月20日にアクセス)。コラーゲン沈着は、創傷強度を増加させるため、重要であると見なされ;コラーゲンが蓄積される前は、フィブリン−フィブロネクチン塊が創傷を閉鎖して保持する(Greenhalgh D.G. (1998), The International Journal of Biochemistry & Cell Biology 30(9): 1019-1030)。また、炎症、血管形成、および結合組織構築に関与する細胞は、線維芽細胞によって蓄積されたコラーゲンマトリックス上に付着し、その上で増殖し、そして分化する(Ruszczak Z. 2003, Advanced Drug Delivery Reviews, 55(12): 1595-1611)。
【0043】
ヒト・サイトカインI−309は、多くの炎症性サイトカインに構造的に関連する小さい糖タンパク質であり、血管形成中、ヒト単球を特異的に刺激する(Miller MD, Krangel MS, Proc Natl Acad Sci USA 1992b 89:2950-2954)。
【0044】
一般的に、創傷治療において、増殖因子の直接添加によって、これらの供給を増進させることが望ましいと考えられる。このアプローチを用いると、限定されるわけではないが、免疫適格性および腫瘍形成性などの、細胞に基づく療法に関連する現在の問題は排除されるであろう。本発明の細胞増殖馴化細胞培地および馴化基本細胞培地はまた、組織または損傷の修復および/または再生が望ましい他のタイプの組織損傷の治療にも有用であり、これは、必要であることが知られる多くの一連の因子が、本出願者らの細胞増殖馴化細胞培地および馴化基本細胞培地中に見られるためである。
【0045】
本発明は、限定なしに、以下の実施例によって例示される。
細胞株の樹立
以下に記載する修飾を伴って、本質的にEP980270に記載されるように、毛包間葉系細胞を単離した。ヒト皮膚組織試料を、1μg/mlアンホテリシンおよび10μg/mlゲンタマイシンを含有する最小必須培地(MEM、Sigma M4655)で3回洗浄した。解剖顕微鏡下、微細外科ハサミを用いて、成長期「終末小体」を解剖し、そして少量(典型的には100〜200μl)のMEM内に入れた。針を用いて終末小体を反転させ、そして乳頭を解剖し、そして鞘を抽出した。次いで、乳頭および鞘を別個に4ウェル細胞培養プレート(Nunc)に移した。ウェルあたり、10の乳頭および10の鞘を、20%ウシ胎児血清(FBS)、0.5μg/mlアンホテリシンおよび5μg/mlゲンタマイシンを補充した1mlのMEM中に移した。無菌および標準的条件(37℃、5%二酸化炭素)下で4ウェル細胞培養プレートをインキュベーションした。細胞増殖10日後、各ウェルから細胞を剥がし(当該技術分野でよく確立された標準法を用いる)、そして35mm直径細胞培養ディッシュ(Nunc)に別個に移した。細胞増殖が集密になったら、先に示すように、真皮鞘(本明細書において、以後、「AVDS」と称する)および真皮乳頭(本明細書において、以後、「AVDP」と称する)細胞株を剥がし、そして上述の条件下でさらに拡大するために、T25細胞培養フラスコ(Nunc)に移した。上述の同じヒト皮膚組織試料から、真皮線維芽細胞(本明細書において、以後、「AVDF」と称する)細胞株を樹立した。真皮乳頭層を真皮網状層および脂肪層から分離し、そして次いで顕微鏡下で、およそ2〜3mm2の表面積の片に解剖した。解剖した組織を、真皮鞘および真皮乳頭細胞株に関して記載するように補充したMEMを含有するT25細胞培養フラスコ(Nunc)に移した。無菌および標準的条件(先に記載する通り)下で真皮線維芽細胞(AVDF)細胞株を含有するT25細胞培養フラスコをインキュベーションした。次いで、培養が集密に到達したら、同じ条件を用いて、真皮線維芽細胞(AVDF)細胞株をさらに拡大した。
【0046】
いくつかの異なるヒト組織試料から、AVDS、AVDPおよびAVDF細胞株を樹立した。以下の実施例に記載するこれらの細胞株の要約を以下の表1に提供する。
表1:細胞株の要約
【0047】
【表1】
【実施例】
【0048】
実施例1
MEM+10%FBS中、静置培養中で増殖したAVDF4およびAVDS4細胞を採取した(当該技術分野においてよく確立された標準法を用いる)。細胞を用いて、50ml MEM+10%ウシ胎児血清(FBS)中、フラスコあたり5x105細胞で、225cm2フラスコに植え付け、そして第4日に新鮮な培地(MEM+10%FBS)と交換し、37℃、5%CO2で8日間インキュベーションした。第8日、馴化培地を採取し、ろ過し(0.2μm)、そして分析まで、−20℃で凍結保存した。
【0049】
キットとともに提供される方法にしたがって、ヒト・サイトカイン・アレイ「パネルA」キット(R&D Systems ARY005)を用いて、AVDF4およびAVDS4由来の馴化培地を分析した。AVDF4およびAVDS4増殖培地は10%のFBSを含有するため、対照として、MEM+10%FBSもまた分析した。得た結果を図1に示す。MEM+10%FBS対照に比較して強度が増加したことが同定されたスポットを、当該技術分野によく記載される方法を用いて定量化した。各膜上で、陽性対照に対して、そしてMEM+10%FBS対照膜上の対応するサイトカインスポットに対して、データを規準化した。図2に示す結果は、二つ組試料由来のAVDS4およびAVDF4馴化培地中で同定される各サイトカインの相対レベルを示す。驚くべきことに、同定されたサイトカイン(用いた「パネルA」キットに含まれるものに限定される)の中で、サイトカイン、Groα、I−309、IL6、IL−8、PAI−1が、AVDS4およびAVDF4細胞株によって産生される馴化培地両方において検出された。これらは、創傷治癒プロセスを促進する際に重要であることが、当該技術分野に確立されてきている。
【0050】
実施例2
真皮線維芽細胞、真皮鞘および真皮乳頭細胞株から、血清不含馴化培地を調製した。AVDF4、AVDS4およびAVDP2細胞を、MEM+10%FBS細胞培養増殖培地中、37℃、5%CO2で6日間、静置培養中で増殖させた。細胞を採取し(当該技術分野でよく確立された標準法を用いる)、そして15mlのMEM+10%ウシ胎児血清(FBS)中、フラスコあたり2x106細胞で、75cm2フラスコに別個に植え付けるのに用いた。フラスコを37℃、5%CO2で24時間インキュベーションした。このインキュベーション期間後、各フラスコから増殖培地を取り除き、そして廃棄した。20mlリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で、細胞単層を注意深く3回洗浄し、そして次いで、20ml MEMのみ(FBSなし)でさらに3回洗浄した。次いで、2mMグルタミンを補充した新鮮なMEM(FBSなし、6ml)を各フラスコに添加し、そして37℃、5%CO2で、フラスコを24時間インキュベーションした。各フラスコから馴化基本培地を採取し、ろ過し(0.2μm)、そして分析まで、−20℃で凍結保存した。MEM増殖培地(FBSなし)の試料もまた、対照として含めた。試料(8ml)を融解し、そしてAmicon Ultra 15 Centriprepデバイス(Millipore)を3200RCF、45分間、室温で用いて、250μlに濃縮した。次いで、Speedvacを用いて、各200μlの試料をさらに2倍濃縮した。次いで、4−20%NuPage(Invitrogen)還元SDS−PAGEゲルを用いて、各10μlの4つの試料を分析し、そしてEZBlue(Sigma)を用いて染色した。SDS−PAGEゲルを図3に示す。SDS−PAGEゲルの各レーン(1〜4)を清潔なメスで10のバンドに切り、ProGest消化ロボットに関する標準法を用いて、40のバンド各々の中のタンパク質をトリプシンで消化した。当該技術分野によく確立されるように、LC−MS−MSを用い、Thermo LTQ XL Orbitrapエレクトロスプレイ質量分析装置を用いて、各5μlの消化物を分析した。Mascot(Matricscience)およびSequest(Thermo)検索エンジンならびにProteomeDiscover(Thermo)インターフェースを用いて、現在のバージョンのデータベースSwissprotに対して、MS−MSスペクトルを検索した。検索パラメータを非常に厳しく(stringently)(FDR<1%)設定した。AVDP2、AVDF4およびAVDS4由来の馴化培地に関して、同定されるタンパク質を、それぞれ、表2、3および4に示す。
【0051】
表2:AVDP2馴化基本細胞培地において同定されるタンパク質
【0052】
【表2−1】
【0053】
【表2−2】
【0054】
【表2−3】
【0055】
【表2−4】
【0056】
表3:AVDF4馴化基本細胞培地において同定されるタンパク質
【0057】
【表3−1】
【0058】
【表3−2】
【0059】
【表3−3】
【0060】
表4:AVDS4馴化基本細胞培地において同定されるタンパク質
【0061】
【表4−1】
【0062】
【表4−2】
【0063】
【表4−3】
【0064】
【表4−4】
【0065】
驚くべきことに、細胞株AVDP2由来の馴化基本細胞培地において、総数177の異なるヒトタンパク質が同定され、細胞株AVDF4由来の馴化基本培地において、131の異なるヒトタンパク質が同定され、そして細胞株AVDS4由来の馴化基本培地において、167の異なるヒトタンパク質が同定された。これは、比較的短いインキュベーション期間、および馴化基本細胞培地を産生するのに用いた基本細胞培地を考慮すると、特に予期されないことであった。したがって、本文書に記載する細胞は、これらのあらゆるタンパク質、あるいは該細胞によって分泌されるかまたは発現されるいかなるタンパク質または他の分子の供給源としても用いられることが可能である。当業者は、該分析が、当該技術分野において、創傷治癒に重要であることがよく確立されたタンパク質の存在を示すことを認識し、そして新規タンパク質が同定されていることを認識するであろう。当業者には、これらの細胞株間の相違を用いて、どのように馴化基本細胞培地の異なる物理的態様を産生可能であるか、あるいはどのように、馴化基本細胞培地をさらにプロセシングして、例えば限外ろ過、ダイアフィルトレーションまたはクロマトグラフィー精製を用いて、1またはそれより多い因子または構成要素を濃縮するかまたは減少させうるかが明らかであろう。
【0066】
実施例3
静置培養条件で増殖させた真皮線維芽細胞AVDF3の225cm2細胞培養フラスコ(Nunc)を剥がし、そして当該技術分野によく記載される方法を用いて、細胞数を決定した。2.3x106細胞を用いて、2mMグルタミン(Sigma)を補充した総体積330mlの血清不含増殖培地中、1.5g/L CultiSpher Sマイクロキャリアー(製造者によって記載されるように調製)を含有する1.5L細胞培養スピナーフラスコに植え付けた。スピナーフラスコのヘッドスペースを5%CO2、2%O2ガスで平衡化した。スピナーフラスコを37℃の細胞培養インキュベーターに移し、そして磁気スターラーベースを用いて、35rpmで攪拌した。記載する条件下で4日間インキュベーションした後、スピナーフラスコから35mlの細胞培養上清を取り除き、そして新鮮な血清不含増殖培地(上記の通り)と交換した。インキュベーション第5日および第7日、50mlの培養上清を取り除き、そして上記のように、新鮮な血清不含増殖培地と交換した。第8日、80mlの培養上清を取り除き、そして新鮮な血清不含培地と交換した。総計10日の培養後、当該技術分野でよく確立された方法を用いて、マイクロキャリアーからAVDF3細胞を剥がした。1.35x107細胞を用いて、2mMグルタミン、0.2%Pluronic F−68および1.5g/L Cultispher Sマイクロキャリアー(先に記載されるように調製)を補充した総体積2Lの血清不含増殖培地中、ガラス細胞培養バイオリアクター(Applikon)に接種した。温度36.5℃、pH7.0(二酸化炭素ガス・スパージングおよび/または水酸化ナトリウム添加によって手動調節)、溶解酸素圧5.0%(空気飽和)および40rpmを培養経過中に次第に60rpmに増加させる攪拌装置速度で、バイオリアクターを培養した。CO2およびN2ガス・スパージングを用いて、細胞培養中の溶解酸素レベルを維持した。発泡が観察された場合は、エマルジョンC消泡剤(Sigma)をバイオリアクターに添加した。記載する条件下で4日間インキュベーションした後、バイオリアクターから200mlの培養上清を取り除き、そして新鮮な血清不含増殖培地(上記の通り)と交換した。第6日、第8日、第10日、第11日、第13日、第15日、第17日および第21日、さらに200mlの培養上清を取り除き、そして新鮮な血清不含増殖培地(上記の通り)と交換した。17日間増殖させた後、200mlの培養物(培地、および細胞が付着したマイクロキャリアー)を無菌的に採取した。採取した培養物を、4つの50mlコニカル試料試験管に等しくアリコットし、そして細胞が付着したマイクロキャリアーを、重力下で、試料試験管の底に沈降させた。マイクロキャリアー不含培地を注意深く取り除き、そして沈降した、細胞が付着したマイクロキャリアーをPBSでまず3回、そしてMEM(FBSなし)でさらに3回洗浄して、消費された微量の増殖培地を元来の細胞培養物から取り除いた。細胞が付着したマイクロキャリアーを最終体積45mlのMEM(FBSなし)+2mMグルタミンにプールした。この懸濁物を用いて、フラスコあたりおよそ2x106細胞で、3つのE125振盪フラスコに植え付けた。フラスコのヘッドスペースを5%CO2、2%O2ガスで平衡化し、そして37℃、60rpmで24時間、軌道振盪装置に移した。各フラスコから馴化基本培地を採取し、0.2μmフィルターを用いてろ過し、そして分析まで−20℃で保存した。
【0067】
実施例4
静置培養条件で増殖させた真皮線維芽細胞AVDP3の2つの225cm2細胞培養フラスコ(Nunc)を剥がし、そして当該技術分野によく記載される方法を用いて計数した。2.4x106細胞を用いて、4mMグルタミンを補充した総体積300mlのMesenPro増殖培地(低血清、Invitrogen)中、1.5g/L CultiSpher Sマイクロキャリアー(先に記載するように調製)を含有する1.5L細胞培養スピナーフラスコに植え付けた。スピナーフラスコのヘッドスペースを5%CO2、2%O2ガスで平衡化した。スピナーフラスコを37℃の細胞培養インキュベーターに移し、そして磁気スターラーベースを用いて、35rpmで攪拌した。記載する条件下で3日間インキュベーションした後、スピナーフラスコから80mlの細胞培養上清を取り除き、そして新鮮な増殖培地(上記の通り)と交換した。記載する条件下で総計9日間インキュベーションした後、スピナーフラスコから10mlの試料を採取し、そして当該技術分野によく記載される標準法を用いて、細胞数および細胞生存度を決定した。細胞数および細胞生存度を用いて、マイクロキャリアーに付着してスピナーフラスコ中に保持される生存細胞総数を概算した。スピナーフラスコ由来の、付着した細胞を含むマイクロキャリアーを、先に記載するように、PBSを用いて洗浄し、次いで、75ml MEM(FBSなし)中に懸濁し、そしてこれを用いて、マイクロキャリアーに付着したおよそ2.5x107細胞を1つの250ml振盪フラスコに植え付けた。フラスコのヘッドスペースを5%CO2、2%O2ガスで平衡化し、そして37℃、60rpmで24時間、軌道振盪装置に移した。フラスコから馴化基本細胞培地を採取し、0.2μmフィルターを用いてろ過し、そして分析まで−20℃で保存した。
【0068】
静置培養条件で増殖させた真皮線維芽細胞AVDS6の2つの225cm2細胞培養フラスコ(Nunc)を剥がし、そして当該技術分野によく記載される方法を用いて計数した。2.4x106細胞を用いて、4mMグルタミンを補充した総体積300mlのMesenPro増殖培地(Invitrogen)中、1.5g/L CultiSpher Sマイクロキャリアー(先に記載するように調製)を含有する1.5L細胞培養スピナーフラスコに植え付けた。フラスコのヘッドスペースを5%CO2、2%O2ガスで平衡化した。スピナーフラスコを37℃の細胞培養インキュベーターに移し、そして磁気スターラーベースを用いて、35rpmで攪拌した。記載する条件下で3日間インキュベーションした後、スピナーフラスコから80mlの細胞培養上清を取り除き、そして新鮮な増殖培地(上記の通り)と交換した。記載する条件下で総計9日間培養した後、スピナーフラスコから10mlの試料を採取し、そして当該技術分野によく記載される標準法を用いて、細胞数および細胞生存度を決定した。細胞数および細胞生存度を用いて、スピナーフラスコ中に保持される生存細胞総数を概算した。付着した細胞を含むマイクロキャリアーを、先に記載するように、PBSを用いて洗浄し、次いで、最終体積54ml MEM(FBSなし)中にプールし、そしてこれを用いて、マイクロキャリアーに付着したおよそ1.8x107細胞を1つの250ml振盪フラスコに植え付けた。フラスコのヘッドスペースを5%CO2、2%O2ガスで平衡化し、そして37℃、60rpmで24時間、軌道振盪装置に移した。フラスコから馴化基本培地を採取し、0.2μmフィルターを用いてろ過し、そして分析まで−20℃で保存した。
【0069】
実施例5
SearchLightアレイ技術(Aushon Biosystems Inc.)を用いて、AVDF4、AVDS4およびAVDP2(実施例1および2に記載するように調製)、AVDF3(実施例3に記載するように調製)、ならびにAVDS6およびAVDP3(実施例4に記載するように調製)由来の馴化培地を分析した。MEMおよびMEM+10%FBS増殖培地を対照として含んだ。Aushon SearchLightタンパク質アレイ技術は、分析物のそれぞれの捕捉抗体が、96ウェルマイクロプレートの各ウェル内に、アレイ状にスポットされている、分析物の化学発光または蛍光検出に基づく多重化サンドイッチELISA系である。ウェルあたり、最大16の分析物(各ウェル中、4x4アレイ)を測定可能であり、したがって、各試料(50μl)を用いて16のサイトカインまたは他のバイオマーカーを同時にアッセイ可能である。TGFβ−1、IL−6、IL−8およびPAI−1レベルに関して試料を分析した。馴化培地/馴化基本培地試料において同定される各タンパク質の濃度を、図4、5、6および7に示す。試料に1〜10の番号を付け、そしてこれらの試料の同一性を表5に示す。
【0070】
表5:試料同一性
【0071】
【表5】
【0072】
図4〜7に示すデータは、創傷治癒に関与する重要なタンパク質(TGFβ−1、IL−6、IL−8およびPAI−1)を、3つの新規細胞タイプAVDS、AVDPおよびAVDF由来の馴化培地において、検出し、そして定量化することも可能であることを例示する。馴化細胞培地または馴化基本細胞培地中のタンパク質レベルは、用いる細胞濃度および/または増殖培地組成および/または細胞培養系を調整することによって変化しうる。また、用いる細胞培養増殖条件、細胞株のさらなる発展をどのように実施して、マイクロキャリアーに付着する細胞の数を増加させることが可能であるか、そしてこれが、馴化基本細胞培地を産生する際に、タンパク質分泌にどのように影響を及ぼすかが、当業者には明らかであろう。マイクロキャリアーに付着した細胞を用い、2L攪拌タンク細胞培養バイオリアクターを用いて生成されるデータが、本発明の物理的態様の大規模産生のための、拡大可能であり、そして経済的な製造系である、馴化基本培地の産生を立証することが、当業者には明らかであろう。細胞を拡大するためのマイクロキャリアーに基づくバイオリアクタープロセスが完了した際、マイクロキャリアーを沈降させ、馴化培地を採取し、そして/またはマイクロキャリアーに付着した細胞をin situで洗浄し、そして基本細胞培地とインキュベーションすることも可能であることがが当業者には明らかであろう。馴化基本培地は、マイクロキャリアーのin situ沈降(重力沈降)および細胞不含馴化基本細胞培地のデカントによって容易に採取可能である。
【0073】
実施例6
当該技術分野によく確立されているように、ウェスタンブロッティングによって、AVDF4、AVDS4およびAVDP2(実施例1および2に記載するように調製)、AVDF3(実施例3に記載するように調製)、ならびにAVDS6およびAVDP3(実施例4に記載するように調製)由来の馴化培地を分析した。簡潔には、試料を還元し、そしてMES泳動緩衝液を用いて、SeeBlue分子量マーカー(Invitrogen)とともに、4−12%BisTrisゲル(Invitrogen)上で泳動した。次いで、試料をPVDF膜にトランスファーした。ブロッティング後、膜を15mlのブロッキング緩衝液(PBS+1%BSA)中、ロッキング・プラットフォーム上、室温で1時間インキュベーションした。ブロッキング緩衝液をデカントし、そして膜を8mlの1/2000希釈のマウス・モノクローナル抗SPARC抗体(Sigma WH0006678M2)中、4℃で一晩インキュベーションした。次いで、15ml PBS+0.05%Tween20中、ロッキング・プラットフォーム上、膜を3回、室温で各5分間洗浄した。8mlの1/10,000希釈のウサギ抗マウスIgG(全分子)−ペルオキシダーゼ(Sigma A9044)を添加し、そしてロッキング・プラットフォーム上、室温で1時間インキュベーションした。次いで、15ml PBS+0.05%Tween20中、ロッキング・プラットフォーム上、膜を3回、室温で各5分間洗浄した。15mlの水に溶解したSIGMAFASTTM 3,3’−ジアミノベンジジン錠剤(Sigma D4418)中、ロッキング・プラットフォーム上、室温で15分間インキュベーションすることによって、膜を現像した。ウェスタンブロットの結果を図8に示す。
【0074】
細胞培養フラスコ、スピナーフラスコおよびバイオリアクターを用いて拡大された、3つの細胞株AVDS、AVDPおよびAVDFのすべて由来の馴化培地は、SPARCタンパク質の分泌および集積を示す。
【0075】
実施例7
フィブロネクチンおよびコラーゲンタンパク質の分泌および集積に関して、ドットブロット(当該技術分野によく確立されるように)によって、AVDF4、AVDS4およびAVDP2(実施例1および2に記載するように調製)、AVDF3(実施例3に記載するように調製)、ならびにAVDS6およびAVDP3(実施例4に記載するように調製)由来の馴化培地を分析した。PVDF膜をメタノールで湿らせ、そして次いでPBS中に浸し、各10μlの試料および対照を膜上にスポットした。50ngおよび5ngの標準(フィブロネクチン−Sigma F1141またはコラーゲン−Sigma C8919)もまた膜上にスポットし、そしてすべてのスポットを1時間風乾した。次いで、膜を再びメタノールで湿らせ、PBSでリンスし、そして次いで8mlブロッキング緩衝液(PBS+1%BSA)中、4℃で一晩インキュベーションした。ブロッキング緩衝液をデカントし、そして膜を、ロッキング・プラットフォーム上、4mlの1/2000希釈のマウスモノクローナル抗フィブロネクチン抗体(Sigma F7387)またはマウスモノクローナル抗コラーゲン抗体(Sigma C2456)いずれかにおいて、室温で2時間インキュベーションした。次いで、8ml PBS+0.05%Tween20中、ロッキング・プラットフォーム上、膜を3回、室温で各5分間洗浄した。4mlの1/2000希釈のウサギ抗マウスIgG(全分子)−ペルオキシダーゼ(Sigma A9044)を添加し、そしてロッキング・プラットフォーム上、室温で1時間インキュベーションした。次いで、8ml PBS+0.05%Tween20中、ロッキング・プラットフォーム上、膜を3回、室温で各5分間洗浄した。15mlの水に溶解したSIGMAFASTTM 3,3’−ジアミノベンジジン錠剤(Sigma D4418)中、ロッキング・プラットフォーム上、室温で15分間インキュベーションすることによって、膜を現像した。ドットブロットの結果を表6に示す。
【0076】
細胞培養フラスコ、スピナーフラスコおよびバイオリアクターを用いて拡大された、3つの細胞株AVDS、AVDPおよびAVDFのすべて由来の馴化培地は、コラーゲンタンパク質の分泌および集積を示す。
【0077】
表6:コラーゲンおよびフィブロネクチンの存在に関する、細胞増殖馴化細胞培地および馴化基本細胞培地の分析
【0078】
【表6】
【0079】
ND=未検出
(1)=試料において、FBSによってマスキングされたドット。LC−MS−MS分析(実施例2)は、コラーゲンの分泌および集積を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、病変および火傷の治療を含む、薬学的、美容的および薬用化粧品適用において使用するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、複数のタイプの細胞を形成する能力があるため、多くの療法的、美容的および薬用化粧品適用において、非常に興味が持たれている。例えば、EP 0980270を参照されたい。さらに、増殖中の細胞によってタンパク質および他の因子が培地内に分泌されることから生じる、療法的、美容的および薬用化粧品使用のための、幹細胞を含む細胞を増殖させるのに用いられる培地が記載されてきている。例えば、US7,118,746;US7,160,726およびWO2008/020815を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】EP 0980270
【特許文献2】US7,118,746
【特許文献3】US7,160,726
【特許文献4】WO2008/020815
【発明の概要】
【0004】
療法的、美容的および薬用化粧品目的のための代替組成物を同定することが、依然、望ましい。幹細胞の増殖を補助するために使用されたタンパク質性物質が混入していない馴化培地を産生する方法を同定することが特に望ましい。さらに、馴化培地製造のための、有効で、拡大可能な方法を同定することが特に望ましいであろう。
【0005】
本発明の第一の側面にしたがって、a)真皮鞘細胞(dermal sheath cells)、真皮線維芽細胞または真皮乳頭細胞(dermal papilla cells)からなる群より選択される、幹細胞潜在能力を保持する分化したヒト細胞を、増殖培地中で培養し;そしてb)細胞から培地を分離することによって得られる、馴化細胞培地を含む、薬学的組成物を提供する。
【0006】
本発明の第一の側面において使用可能な増殖培地は、細胞の増殖に十分な培地である。細胞培養法および培地は当該技術分野に周知であり、そしてこれには、血清補充基本培地、血清不含培地、タンパク質不含培地または化学的に定義された増殖培地が含まれる。増殖培地には、典型的には、必須アミノ酸、糖、塩、ビタミン、ミネラル/無機塩、微量金属、脂質およびヌクレオシドが含まれ、そして血清、タンパク質(例えばインスリン、トランスフェリン、増殖因子および他のホルモン)、抗生物質(例えばゲンタマイシン、ストレプトマイシン、ペニシリン)、付着因子(例えばフィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン類)など、細胞増殖を補助するのに必須の多様なさらなる構成要素が補充される。補充は、例えば血清の場合におけるように組み合わせであってもよく、または個々にであってもよい。増殖培地は、特定の細胞タイプが、制御されたin vitro環境において増殖するための栄養要求を満たすのに必要な構成要素を、細胞に提供する。
【0007】
1つの態様において、細胞培養プロセスを1つの培養容器中で実施し、細胞を、マイクロキャリアーを含有する培養容器内に直接接種し、望ましい細胞密度に到達するまで、細胞を増殖させる。他の態様において、細胞培養プロセスを、少なくとも2つの別個の細胞培養容器/系、例えば1またはそれより多いシード拡大容器、その後、細胞産生容器中で、実施する。この複数のシード拡大プロセスは、好ましくは、最終産生細胞培養容器の接種に十分な数の細胞が得られるまで、サイズが増加する培養容器を使用する。シード拡大培養容器は、同じタイプ(例えば組織培養フラスコ、振盪フラスコ、ローラーボトル、スピナーフラスコ、ウェーブ・バイオリアクター、攪拌タンクバイオリアクター)であるが、シードの拡大が進むにつれてサイズが増加するものであってもよいし、または産生バイオリアクターへのトランスファーに備えて、シード培養が拡大するにつれてサイズが増加する、培養系の混合であってもよい(例えば、組織培養フラスコから振盪フラスコ、さらにスピナーフラスコ、さらに攪拌タンクバイオリアクター系)。
【0008】
典型的には、in vitro環境を制御して、最適増殖温度、溶解酸素、二酸化炭素、pHおよび浸透圧を維持する。多くの細胞培地配合物が当該技術分野に知られるか、またはこれらは、商業的供給源から容易に得られうる。細胞培養期間に渡って、細胞の増殖を可能にする増殖培地中に細胞を植え付けることによって、馴化細胞培地を産生可能であることが、当業者に知られる。細胞培養終了時、または培養中の選択した時点で、細胞を取り除き、そして馴化培地を採取する。馴化培地は、元来の細胞培養増殖培地の構成要素の多くを含有するであろうが、それに加えてまた、細胞によって分泌された細胞代謝産物およびさらなるタンパク質も含有するであろう。分泌されるタンパク質は、生物学的に活性である増殖因子、サイトカイン、プロテアーゼおよび他の細胞外タンパク質およびペプチドであってもよい。多くの態様において、本発明の第一の側面にしたがって、組成物は、Gro−α、I−309、IL−6、IL−8、IL−13、MIF、PAI−1、SDF−1およびTGF−βタンパク質、特にTGF−β1の1またはそれより多くを含む。
【0009】
本発明の第二の側面にしたがって、馴化細胞培地を調製するためのプロセスであって:
a)細胞増殖を補助するのに有効な組成を有する増殖培地において、真核細胞を培養し;
b)培養した細胞を増殖培地から分離し;
c)培養した細胞を、細胞生存を維持するのに適しているが、実質的な細胞増殖を補助するには適していない組成を有する基本培地において維持する
工程を含む、前記プロセスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は「アレイパネルA」膜を用いた馴化培地の分析結果を示す。
【図2】図2は馴化培地中で同定されたサイトカインの相対レベルを示す。
【図3】図3は濃縮馴化培地のEZBlue染色SDS-PAGE分析の結果を示す。
【図4】図4は馴化培地試料中のヒトTGF−β1レベルを示す。
【図5】図5は馴化培地試料中のヒトIL−6レベルを示す。
【図6】図6は馴化培地試料中のヒトIL−8レベルを示す。
【図7】図7は馴化培地試料中のヒトPAl−1レベルを示す。
【図8】図8はマウス抗SPARC抗体とインキュベートした馴化培地試料のウェスタンブロットの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第二の側面において使用可能な真核細胞は、‘Basic Cell Culture’ Oxford University Press(2002) J. M. Davis監修;および ‘Animal Cell Culture’ Oxford University Press (2000) John. R. W. Masters監修に記載され;これらはどちらも、その全体が本明細書に援用される。用語「幹細胞」は、複数の組織タイプの細胞を生じさせうる細胞を記載する。幹細胞は、胚、胎児または成人由来の細胞であり、指示を提供する特定のシグナル伝達複合体を提示された際に、異なる細胞タイプになる能力を有する。異なるタイプの幹細胞がある。精子が卵を受精させると、単一の全能性細胞(totipotent)が形成され、そして該細胞は、それによって生物全体を形成する能力を有する。受精後、最初の数時間に、この細胞は、同一の全能性細胞に分裂する。受精後およそ4日間、および数周期の細胞分裂後、これらの全能性幹細胞は、特殊化し始める。全能性細胞がより特殊化し始めると、これらは次いで、「多能性(pluripotent)」と称される。多能性細胞は、体内のすべての細胞タイプに分化可能であるが、胎盤、または胎児発生に必要な支持組織は生じない。多能性細胞の分化に関する潜在能力は「完全」ではないため、こうした細胞は「全能性」とは称されず、そしてこれらは胚ではない。多能性幹細胞は、さらなる特殊化を経て、多分化能(multipotent)幹細胞になり、これらは、特定の機能のために特殊化された特定の系譜の細胞に分化するよう拘束されている。多分化能細胞は、由来する組織に見られる細胞タイプに分化可能であり;例えば、間葉系幹細胞、例えば真皮鞘、真皮乳頭および真皮線維芽細胞などの多分化能(成人)幹細胞がある。
【0012】
細胞は、成人、新生児または胎児組織に由来してもよく、そして自家または同種であってもよい。当該技術分野においてよく確立された方法を用いて、細胞を遺伝子修飾してもよい。例えばタンパク質を上方または下方制御するか、新規タンパク質を導入するか、あるいはイオン濃度を制御するため、遺伝子修飾を用いて、細胞増殖馴化細胞培地または馴化基本細胞培地内に分泌される1またはそれより多い構成要素の濃度を改変することも可能である。
【0013】
特定の態様において、細胞は、共培養として増殖する。共培養細胞は、一緒に増殖する、2またはそれより多い異なる種類の細胞の混合物である。
第二の側面のプロセスにおいて使用されるのに適した細胞は、当該技術分野に知られる方法によって得られうる。特に、細胞を組織から単離し、先に確立された細胞ストックから拡大し、継代し、そして培養して、細胞増殖馴化細胞培地または馴化基本細胞培地を産生してもよい。未分化または分化細胞を用いて、細胞増殖馴化細胞培地または馴化基本細胞培地を産生してもよい。
【0014】
本発明の第二の側面のプロセスにおいて使用される細胞は、好ましくは、真皮鞘細胞、真皮線維芽細胞または真皮乳頭細胞からなる群より選択される、幹細胞潜在能力を保持する、分化したヒト細胞である。
【0015】
本発明の第二の側面において使用可能な増殖培地は、第一の側面に関して上述する通りである。所望の細胞密度が達成されるまで、増殖培地中で細胞を培養する。
本発明の第二の側面において使用される基本培地は、細胞生存を維持するのに適した組成を有し、例えば細胞溶解を回避するpHおよび浸透圧を有するが、実質的な細胞増殖を補助せず、そして好ましくは細胞増殖をまったく補助しない組成を有する。基本培地は、無機塩、アミノ酸、ビタミン、および糖を含むエネルギー供給源を含むが、血清、タンパク質、ホルモンおよび付着因子などの構成要素を補充されない。好ましいエネルギー供給源はグルタミンを含む。基本培地は、培養細胞導入前に、タンパク質不含であり、そして培養細胞導入後に、基本培地にタンパク質補充剤はまったく添加されない。基本培地の組成は、培養細胞の生存を維持し、基本培地内への細胞代謝産物および分泌物の搬出を可能にするように選択される。使用可能な基本培地の例には、エイムス培地、イーグル基本培地、クリック培地、ダルベッコの修飾イーグル培地、ハム栄養混合物F−12、グラスゴー最小必須培地、イスコーブの修飾ダルベッコ培地、最小必須培地イーグルおよびRPMI−1640培地が含まれる。
【0016】
本発明の第二の側面の多くの好ましい態様において、増殖培地からの分離後、および基本培地内への導入前に細胞を洗浄する。細胞に適した洗浄溶液の例が当該技術分野に周知であり、そしてこれには、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液が含まれる。いくつかの好ましい態様において、使用する洗浄溶液は、上述のものなどの基本培地であり、そして一般的に、細胞において、同じ基本培地が続いて維持されるものとする。
【0017】
基本培地内への培養細胞の導入は、細胞増殖期間終了時に達成されるのと同じ細胞濃度であってもよいし、またはより好ましくは、基本培地内への分泌構成要素の濃度が増加するよう、より高い濃度であってもよい。細胞を2D培養中で増殖させる場合、細胞を、一般的に、非常に集密な(confluent)単層を生じるように増殖させる。こうした細胞濃度は、典型的には、1x104〜1x105細胞/cm2、好ましくは2x104〜5x104細胞/cm2である。こうした非常に集密な細胞単層はまた、2D様式で、基本培地と接触する場合にも使用される。マイクロキャリアーに付着させるなど、細胞を3D培養中で増殖させる場合、細胞を、一般的に、1x107〜1x1012細胞/リットル、好ましくは1x108〜1x1010細胞/リットルの範囲の濃度に増殖させる。多くの態様において、2Dまたは3D培養いずれかで、使用する基本培地の体積は、細胞増殖を補助するのに使用した培地体積よりも、最大15、一般的には2〜10、好ましくは4〜6、例えば約5倍低い。
【0018】
培養される細胞は、培地が所望の組成を有するまで、基本培地中、一般的には12時間より長い、典型的には18〜26時間、例えば約24時間の期間、一般的に維持される。この再インキュベーション期間終了時、細胞を取り除いて、細胞不含馴化基本細胞培地を生じる。馴化基本細胞培地は、細胞代謝産物および分泌タンパク質を含有するであろう。分泌タンパク質は、生物学的に活性である増殖因子、サイトカイン、プロテアーゼならびに他の細胞外タンパク質およびペプチドであってもよい。
【0019】
培養中の細胞を記載するために、多様な用語が用いられる。「細胞培養」は、一般的に、生存している生物から採取され、そして制御された条件下で増殖する細胞を指す。初代細胞培養は、最初の継代培養前の、生物から直接採取された細胞、組織または臓器の培養物である。細胞は、増殖および/または分裂を促進する条件下で、増殖培地中に置かれた際、培養中で拡大し、より大きな細胞集団を生じる。細胞株は、初代細胞培養の1またはそれより多い継代培養によって形成される細胞集団である。継代培養の各周期は、継代と呼ばれる。継代期間中に多くの集団倍加がありうることが、当業者によって理解されるであろう。
【0020】
係留依存性または付着依存性細胞は、組織培養における増殖および成長のために、表面に付着する必要がある細胞である。いくつかの態様において、本発明を実施するのに用いられる細胞は、懸濁培養中で増殖することが可能である。本明細書において、懸濁適格性細胞は、大きく堅固な凝集物を作製することなく、懸濁中で増殖可能な細胞、すなわち、単分散であるかまたは凝集体あたり数細胞のみを含む緩い凝集体で増殖する細胞である。懸濁適格性細胞には、限定なしに、適応または操作を伴わずに懸濁中で増殖する細胞、および付着依存性細胞が懸濁増殖に次第に適応することによって、懸濁適格性になっている細胞が含まれる。こうした細胞を用いる場合、細胞増殖は、懸濁中で実行可能であり、したがって、マイクロキャリアーを、産生バイオリアクター自体における最終増殖期および産生期においてのみ用いてもよい。懸濁適応細胞の場合、用いられるマイクロキャリアーは、典型的には多孔キャリアーであり、ここで、細胞は、キャリアーの内部構造内部の物理的捕捉の手段によって付着される。
【0021】
本明細書において、用語「マイクロキャリアー」は、細胞付着および増殖に適した、小さい別個の粒子を意味する。常にではないが、しばしば、マイクロキャリアーは、ポリマーから形成される多孔性ビーズである。マイクロキャリアーはまた、凹みを含む密な表面を有してもよい。通常、細胞は、こうしたビーズの外表面に付着し、そしてその上で増殖する。
【0022】
本発明のプロセスは、細胞増殖を導く条件下で細胞を培養することによって行われる。培養条件、例えば温度、pH、溶解酸素(低酸素条件を含む)等は、特定の細胞に最適であることが知られるものであり、そしてこの分野の当業者には明らかであろう(例えば、Animal Cell Culture: A Practical Approach 第2版, Rickwood, D.およびHames, B. D.監修, Oxford University Press, New York(1992)を参照されたい)。
【0023】
本発明の第一および第二の側面において、細胞は、固体支持体媒体に付着して好適に培養される。大規模産生のためのオプションには、組織培養フラスコ、ローラーボトル、灌流に基づく系(例えば中空ファイバーバイオリアクター、内部および外部スピンフィルター、聴覚細胞保持デバイス、ろ過に基づく細胞保持デバイス)、単一、複数プレートまたは積み重ねプレート細胞培養系、細胞キューブ、およびマイクロキャリアーが含まれる。細胞はまた、細胞が付着することが可能であり、そして細胞が1より多い層で増殖することが可能である、任意の材料およびまたは形状で構成される三次元足場を用いて培養されてもよい。フレームワークの構造には、メッシュ、スポンジが含まれてもよく、あるいはヒドロゲルで形成されてもよい。1つの適切な三次元フレームワークは、IntegraTM皮膚再生テンプレート(Integra Life Sciences)である。細胞を三次元足場上で直接培養してもよいし、あるいは、細胞増殖馴化細胞培地または馴化基本細胞培地を産生するために、三次元足場上に再植え付けする前に、組織培養フラスコ、ローラーボトル、中空ファイバー系、単一、複数プレートまたは積み重ねプレート細胞培養系、細胞キューブ、およびマイクロキャリアーから採取してもよい。細胞はまた、灌流細胞培養を用いても培養可能である。灌流細胞培養において、フィルター(例えば内部または外部スピンフィルター)、細胞保持メッシュ、細胞定着材(settler)、聴覚デバイスなどの細胞保持デバイスを用いて、細胞をバイオリアクター中に保持する。細胞培養増殖培地を連続してまたは定期的にバイオリアクターに供給し、そして細胞不含「消費」培地を連続してまたは定期的に取り除く。
【0024】
特定の好ましい態様において、細胞を固相マイクロキャリアー表面に付着させるか、あるいはマイクロキャリアーがゼラチン(加水分解したコラーゲン)マイクロキャリアーである際の多孔性マイクロキャリアーの内部構造である、内部の物理的捕捉に細胞を付着させるか、または細胞が該物理的捕捉によって付着される。こうしたマイクロキャリアーは、ゼラチン粒子、架橋ゼラチン粒子、あるいはポリスチレンまたはガラス粒子などのキャリアー材料上のコーティングとして用いられるゼラチンを含んでもよい。ゼラチンは、天然供給源由来であってもよいし、あるいは組換え的または合成的に産生されてもよい。
【0025】
いくつかの態様において、細胞培養プロセスを1つの培養容器中で行う。マイクロキャリアーを含有する培養容器内に、細胞を直接接種し、そして所望の細胞密度に到達するまで、細胞を増殖させる。増殖した細胞を含有するマイクロキャリアーを無菌的に採取し、そして洗浄する。次いで、洗浄したマイクロキャリアーを基本培地中に再懸濁して、そして最適条件下でインキュベーションして、一定期間(典型的には24時間)、細胞生存を維持する。次いで、馴化培地を採取する。洗浄工程を1回または複数回行ってもよい。
【0026】
他の態様において、細胞培養プロセスを少なくとも2つの別個の細胞培養容器/系、例えば1またはそれより多いシード拡大容器、その後、細胞産生容器中で実施する。この複数のシード拡大プロセスは、好ましくは、最終産生細胞培養容器の接種に十分な数の細胞が得られるまで、サイズが増加する培養容器を使用する。シード拡大培養容器は、同じタイプ(例えば組織培養フラスコ、振盪フラスコ、ローラーボトル、スピナーフラスコ、ウェーブ・バイオリアクター、攪拌タンクバイオリアクター)であるが、シードの拡大が進むにつれてサイズが増加するものであってもよいし、または産生バイオリアクターへのトランスファーに備えて、シード培養が拡大するにつれてサイズが増加する培養系の混合であってもよい(例えば、組織培養フラスコから振盪フラスコ、さらにスピナーフラスコ、さらに攪拌タンクバイオリアクター系)。
【0027】
望ましい場合、マイクロキャリアーが細胞培養容器の底に定着するのを可能にし、その後、最大すべてのそしてすべてを含む、選択した割合の増殖培地体積を取り除き、マイクロキャリアーを場合によって洗浄し、そして対応する割合の新鮮な細胞培養増殖培地を細胞培養容器に添加することによって、培地交換を行ってもよい。次いで、マイクロキャリアーを培地中に再懸濁し、そして培養を続ける。所望の細胞密度が達成されるまで、培地除去および交換のこのプロセスを反復してもよい。
【0028】
本発明の方法で使用可能なゼラチンマイクロキャリアーは、典型的には、およそ球状であるが、他の形状を有してもよく、そして多孔性または固形のいずれであってもよい。多孔性および固形タイプのマイクロキャリアーはどちらも、供給業者から商業的に入手可能である。多孔性ゼラチンマイクロキャリアーは商業的に入手可能であり、例えば、Percell Biolytica AB、スウェーデンから入手可能な「Cultispher」マイクロキャリアーがある。ゼラチンマクロ多孔性マイクロキャリアーは、粒子が、非常に架橋されたゼラチンマトリックスに基づき、10〜500μmの粒子サイズであり、そして直径1〜50μmを有する多数の腔を封入するポリマーマトリックスからなる。細胞付着のためにマイクロキャリアーを使用すると、係留依存性細胞の増殖のため、攪拌タンクおよび関連するバイオリアクターを使用することが容易になる。細胞は、一般的に、懸濁された粒子に付着する。懸濁が望ましいために、典型的には、使用可能なマイクロキャリアーの物理的パラメーターは限定される。マイクロキャリアー粒子サイズ範囲は、一般的に、係留依存性細胞タイプに適応するために十分に大きく、一方、攪拌フラスコ、ローラーボトル、スピナーフラスコ、ウェーブ・バイオリアクターおよび攪拌タンクバイオリアクター系などの細胞培養バイオリアクターにおいて使用するのに適した特性を持つ懸濁物を形成するために十分に小さい。ゼラチンまたはコラーゲンは、リジンのアミン基を介して、グルタミン酸またはアスパラギン酸のカルボキシル基を介して、あるいはその組み合わせで架橋可能である。
【0029】
細胞は、増殖されるかまたは維持されてきた培地から、当該技術分野に知られる方法によって、例えば細胞定着およびデカント、バッチまたは連続遠心分離および/または微量ろ過を用いて、分離される。得られる細胞不含培地をさらにプロセシングして、例えば限外ろ過、ダイアフィルトレーションまたはクロマトグラフィー精製を用いて、1またはそれより多い因子または構成要素を濃縮するかまたは減少させてもよい。
【0030】
本発明の第二の側面のプロセスにおいて産生される馴化培地は、好ましくは薬学的組成物として使用される。したがって、こうした薬学的組成物は、本発明の第三の側面を形成する。薬学的組成物、特に真皮鞘細胞、真皮線維芽細胞または真皮乳頭細胞に由来するものは、一般的に、創傷および病変治癒に有用に使用される。組成物はまた、培地構成要素が有効であることが知られる他の適用のためにも使用可能である。
【0031】
好ましい組成物は、IL−6、Gro−α、SDF−1、FGF−2、SPARC、PAI−1、IL−8、コラーゲン、フィブロネクチン、I−309、IL−13、MIFおよびSDF−1およびTGF−βタンパク質、特にTGF−β1の1またはそれより多くを含む。特に好ましい組成物は、表2、3または4に列挙するタンパク質の1またはそれより多くを含む。
【0032】
本発明の第一および第三の側面の組成物を、液体として、薬剤として使用してもよく、あるいは、凍結するか、凍結乾燥するか、フィルムを形成するか、または粉末になるように乾燥してもよい。組成物を希釈するか、濃縮するか、他の構成要素と混合するか、あるいは部分的にまたは完全に精製してもよい。任意の適切な手段によってヒトまたは動物の体に組成物を送達してもよい。馴化培地を、内部投与のためのビヒクルとしての薬学的に許容されうるキャリアーと一緒に配合するか、創傷/病変に直接適用するか、局所適用のため、軟膏(salveまたはointment)とともに配合するか、あるいは例えば創傷包帯、移植可能組成物および医学的デバイス用のコーティングを生成するための生物分解性ポリマーまたはヒドロゲルにするか、またはこれらに添加するか、またはこれらの中に分散させてもよい。生物分解性ポリマー内に分散させる1つの利点は、系を徐放送達系用に使用可能であることである。これは、ポリマーから慢性創傷に生物活性構成要素を送達するために特に好適であり、これによって、創傷のタンパク質分解性環境から迅速に分解されるのに抵抗し、そして生物活性構成要素が持続して放出されるはずである。当業者には、送達法が、送達しようとする馴化培地に対する特定のin vivo適用に依存することが明らかであろうし、そして当業者は、適宜、どの手段を使用するか決定することが可能であろう。
【0033】
組織は、細胞の代わりにまたは細胞に加えて、細胞からの分泌物を適用されることによって、内因性組織修復の増進を通じて再生または修復可能である。本発明は、最適な組織修復およびリモデリングには、複数のタンパク質の異なる発現/分泌を伴う複数の複合プロセスが必要であるという前提に基づく。本発明において産生される馴化培地は、組織修復、リモデリングおよび創傷治癒において重要であると考えられ、そして例えば創傷治癒のin vivoモデルにおいて、枯渇していることが示されている制御タンパク質の多くを含有する。こうしたタンパク質の例には、TGF−β、IL−6、Gro−α、SDF−1、FGF−2、SPARC、PAI−1、IL−8、コラーゲン、フィブロネクチン、I−309、IL−13、MIFおよびSDF−1が含まれる。
【0034】
TGF−β1は、皮膚創傷治癒において、主要なTGF−βタンパク質である。創傷治癒において、TGF−β1は、炎症、血管形成、再上皮形成、および結合組織再生に重要である。TGF−β1は、傷害の開始とともに増加した発現を有することが示されている(Kopecki Z, Luchetti MM, Adams DH, Strudwick X, Mantamadiotis T, Stoppacciaro A, Gabrielli A, Ramsay RG, Cowin AJ, J Pathol 2007;211:351−61. Kane CJ, Hebda PA, Mansbridge JN, Hanawalt PC, J Cell Physiol 1999;148:157−73.)。in vitro研究によって、TGF−β1が、フィブロネクチン、フィブロネクチン受容体、ならびにコラーゲンおよびプロテアーゼ阻害剤を含む、細胞外マトリックス(ECM)形成と関連する遺伝子の発現を増加させることによって、肉芽形成開始を補助することが示されてきている(White L A; Mitchell T I; Brinckerhoff C E, Biochimica et biophysica acta, 2000;1490(3):259−68. Mauviel A, Chung KY, Agarwal A, Tamai K, Uitto J, J Biol Chem 1996;271:10917−23. Papakonstantinou E, Aletra AJ, Roth M, Tamm M, Karakiulakis G, Cytokine 2003, 24: 25−35. Zeng G, McCue HM, Mastrangelo L, Mills AJ, Exp Cell Res 1996; 228:271−6)。さらなるin vitro研究によって、TGF−β1が、コラーゲンマトリックスの線維芽細胞収縮を促進することによって、創傷収縮に役割を果たすことが示されてきている(Meckmongkol TT, Harmon R, McKeown−Longo P, Van De Water L, Biochem Biophys Res Commun 2007;360:709−14)。創傷治癒のマトリックス形成およびリモデリング期において、TGF−β1は、特にI型およびII型の、コラーゲン産生に関与する(Papakonstantinou E, Aletra AJ, Roth M, Tamm M, Karakiulakis G, Cytokine 2003;24:25−35)。過剰発現されると、TGF−β1は、やはり肥大性およびケロイド瘢痕の発展に重要な役割を果たすことが知られる結合組織増殖因子(CTGF)を刺激することが示されてきている(Colwell AS, Phan TT, Kong W, Longaker MT, Lorenz PH, Plast Reconstr Aesthet Surg 2005;116:1387−90)。
【0035】
IL−6は、創傷治癒反応を開始する際に重要であることが示されており、そして創傷形成後に発現が増加し、より古い創傷において持続する傾向がある(Sogabe Y, Abe M, Yokoymana Y, Ishikawa, O, Wound Repair Regen 2006;14:457−62. Grellner W, Georg T, Wilske J, Forensic Sci Int 2000;113:251−64. Finnerty CC, Herndon DN, Przkora R, Pereira CT, Oliveira HM, Queiroz DM, Rocha AM, Jeschke MG, Shock 2006;26:13−9)。Il−6は、角化細胞に対して、分裂促進性(Randle M Gallucci, Dusti K Sloan, Julie M Heck, Anne R Murray and Sijy J O’Dell, Journal of Investigative Dermatology (2004) 122, 764-772)および増殖性(Sato M, Sawamura D, Ina S, Yaguchi T, Hanada K, Hashimoto I, Arch Dermatol Res 1999;291:400−4. Peschen M, Grenz H, Brand−Saberi B, Bunaes M, Simon JC, Schopf E, Vanscheidt W, Arch Dermatol Res 1998;290:291−7)の効果があり、そして好中球に対して化学誘引性である。
【0036】
Gro−α(CXCL1)ケモカインは、CXCファミリーメンバーであり、そして好中球走化性の強力な制御因子であり、そして急性創傷において上方制御される。in vitro研究によって、角化細胞遊走を促進することによって、再上皮形成における役割を果たすことが示唆されている(Englehardt E, Toksoy A, Goebeler M, Debus S, Brocker EB, Gillitzer R, Am J Pathol 1998;153:1849−60. Christopherson K II, Hromas R, Stem Cells 2001;19:388−96)。
【0037】
SDF−1(CXCL12)は、創傷に対してリンパ球を補充し、そして血管形成を促進することによって、炎症反応において役割を果たす。急性創傷においてホメオスタシスが妨害された際、SDF1は、創傷境界で増加したレベルで見られる(Toksoy A, Muller V, Gillitzer R, Goebeler M, Br J Dermatol 2007;157:1148−54)。SDF−1は、上皮細胞の増殖および遊走を促進する(Salcedo R, Wasserman K, Young HA, Grimm MC, Howard OM, Anver MR, Kleinman HK, Murphy WJ, Oppenheim JJ, Am J Pathol 1999;154:1125−35)。SDF−1はまた、角化細胞増殖を増進可能であり、したがって、再上皮形成に寄与しうる(Florin L, Maas−Szabowski N, Werner S, Szabowski A, Angel P, J Cell Sci 2005;118(Pt9):1981−9)。
【0038】
FGF−2(bFGF)は、多様なECM構成要素の合成および沈着を制御し、再上皮形成中の角化細胞運動を増加させ(Sogabe Y, Abe M, Yokoymana Y, Ishikawa, O, Wound Repair Regen 2006;14:457−62. Grellner W, Georg T, Wilske J, Forensic Sci Int 2000;113:251−64. Di Vita G, Patti R, D’Agostino P, Caruso G, Arcara M, Buscemi S, Bonventre S, Ferlazzo V, Arcoleo F, Cillari E, Wound Repair Regen 2006;14:259−64)、そして線維芽細胞の遊走を促進し、そして線維芽細胞がコラゲナーゼを産生するのを刺激する(Sasaki T, J Dermatol. 1992 Nov;19(11):664−6)。
【0039】
SPARC(酸性であり、そしてシステインリッチである分泌タンパク質)は、皮膚創傷治癒などの、リモデリングおよび修復中に、異なる組織で発現され(Reed MJ, Puolakkainen P, Lane TF, Dickerson D, Bornstein P, Sage EH, J Histochem Cytochem 1993, 41:1467−1477)、再生において機能を有することが示唆される(Louise H. Jorgensen, Stine J. Petersson, Jeeva Sellathurai, Ditte C. Andersen, Susanne Thayssen, Dorte J. Sant, Charlotte H. Jensen and Henrik D. Schroder, Journal of Histochemistry and Cytochemistry, Volume 57(1): 29−39, 2009)。いくつかのマトリックス細胞タンパク質が傷害に反応して発現増加を示す(Bradshaw AD, Sage EH, J Clin Invest 2001, 107:1049−1054)。SPARCは、マトリックス細胞糖タンパク質であり、そして細胞とECMの相互作用を調節する。SPARCヌルマウスでは、皮膚創傷閉鎖の加速およびコラーゲン沈着の改変が報告されてきている(Bradshaw AD, Reed MJ, Sage EH, J Histochem Cytochem 2002, 50:1−10)。創傷部位での発現パターンおよびin vitro研究から、SPARCが、創傷治癒の制御に関連付けられてきている(Basu A, Kligman LH, Samulewicz SJ, Howe CC, BMC Cell Biol. 2001;2:15. Epub 2001 Aug 7)。
【0040】
PAI−1(セルピンE1)は、プラスミン生成のための重要な生理学的制御因子である。PAI−1は、通常、上皮において、角化細胞によって発現されないが、in vitroおよびin vivo創傷傷害後に発現が増加することが示されてきている(Romer J, Lund LR, Eriksen J, Ralfkiaer E, Zeheb R, Gelehrter TD, Dano K, Kristensen P, J Invest Dermatol 1991, 97:803−811. Staiano−Coico I, Carano K, Allan VM, Steiner MG, Pagan−Charry I, Bailey BB, Babaar P, Rigas B, Higgins PJ, Exp Cell Res 1996, 227:123−134)。創傷治癒においてPAI−1が役割を果たしていることを裏付ける研究によって、PAI−1機能が喪失すると、創傷治癒加速が生じることが示されてきている(Joyce C.Y. Chan, Danielle A. Duszczyszyn, Francis J. Castellino and Victoria A Ploplis, American Journal of Pathology. 2001;159:1681−1688)。研究によって、uPAおよびPAI−1が、再上皮形成中の角化細胞および結合組織細胞の遊走中、そして創傷治癒に関連する組織リモデリング中、その発現を空間的および時間的の両方で制御されることが示されてきている(Romer J, Lund LR, Eriksen J, Ralfkiaer E, Zeheb R, Gelehrter TD, Dano K, Kristensen P, J Invest Dermatol 1991, 97:803−811)。
【0041】
IL−8発現は、急性創傷において増加し(E, Toksoy A, Goebeler M, Debus S, Brocker EB, Gillitzer R, Am J Pathol 1998;153:1849−60)、そして、角化細胞遊走および増殖の増加によって、再上皮形成において、役割を果たすことが示されてきている(Michel G, Kemeny L, Peter RU, Beetz A, Reid C, Arenberger P, Ruzicka T, FEBS Lett 1992;305:241−3. Tuschil A, Lam C, Haslberger A, Lindley I, J Invest Dermatol. 1992 Sep;99(3):294−8)。IL−8はまた、白血球において、MMPの発現も誘導し、組織リモデリングを刺激する(Englehardt E, Toksoy A, Goebeler M, Debus S, Brocker EB, Gillitzer R, Am J Pathol 1998;153:1849−60)。IL−8は、好中球に対する強力な化学誘引剤であり、したがって、炎症反応に関与する(Rennekampff HO, Hansbrough JF, Kiessig V, Dore C, Sticherling M, Schroder JM, J Surg Res. 2000 Sep;93(1):41−54)。さらに、高レベルでIL−8を添加すると、角化細胞増殖および線維芽細胞によるコラーゲン格子収縮が減少する(Iocono JA, Colleran KR, Remick DG, Gillespie BW, Ehrlich HP, Garner WL, Wound Repair Regen. 2000 May−Jun;8(3):216−25)。
【0042】
コラーゲンおよびフィブロネクチン−創傷治癒の増殖期は、血管形成、コラーゲン沈着、肉芽組織形成、上皮形成、および創傷収縮によって特徴付けられる(Midwood K.S., Williams L.V., and Schwarzbauer J.E. 2004, The International Journal of Biochemistry & Cell Biology 36 (6): 1031-1037)。線維増殖および肉芽組織形成において、線維芽細胞が増殖し、そしてコラーゲンおよびフィブロネクチンを排出することによって新規ECMを形成する(Midwood K.S., Williams L.V., and Schwarzbauer J.E. 2004, The International Journal of Biochemistry & Cell Biology 36(6): 1031-1037)。線維芽細胞は、創傷形成の2〜5日後、炎症期が終わるにつれて創傷部位に進入し始め、そしてこれらの数は創傷形成の1〜2週間後にピークとなる(de la Torre J., Sholar A. (2006), Wound healing: Chronic wounds. Emedicine.com,2008年1月にアクセス)。最初の週が終わるまでに、線維芽細胞は創傷における主な細胞となる(Stadelmann W.K., Digenis A.G. and Tobin G.R.(1998), The American Journal of Surgery 176(2): 26S−38S)。線維増殖は、創傷形成の2〜4週後に終わる。傷害後、最初の2または3日は、線維芽細胞は、主に増殖し、そして遊走するが、後には、創傷部位において、コラーゲンマトリックスを蓄積する、主な細胞となる(Stadelmann W.K., Digenis A.G. and Tobin G.R. (1998), The American Journal of Surgery 176(2): 26S−38S)。正常組織由来の線維芽細胞は、創傷境界から創傷領域内に遊走する。まず、線維芽細胞は、炎症期に形成されたフィブリン痂皮を、遊走するために用い、フィブロネクチンに接着する(Romo T. and Pearson J.M. 2005, Wound Healing, Skin. Emedicine.com, 2006年12月27日にアクセス)。次いで、線維芽細胞は、創傷床内に細胞質基質を、そして後にコラーゲンを沈着させ、線維芽細胞は遊走のためにこれらに接着可能である(Rosenberg L., de la Torre J. (2006), Wound Healing, Growth Factors. Emedicine.com, 2008年1月20日にアクセス)。コラーゲン沈着は、創傷強度を増加させるため、重要であると見なされ;コラーゲンが蓄積される前は、フィブリン−フィブロネクチン塊が創傷を閉鎖して保持する(Greenhalgh D.G. (1998), The International Journal of Biochemistry & Cell Biology 30(9): 1019-1030)。また、炎症、血管形成、および結合組織構築に関与する細胞は、線維芽細胞によって蓄積されたコラーゲンマトリックス上に付着し、その上で増殖し、そして分化する(Ruszczak Z. 2003, Advanced Drug Delivery Reviews, 55(12): 1595-1611)。
【0043】
ヒト・サイトカインI−309は、多くの炎症性サイトカインに構造的に関連する小さい糖タンパク質であり、血管形成中、ヒト単球を特異的に刺激する(Miller MD, Krangel MS, Proc Natl Acad Sci USA 1992b 89:2950-2954)。
【0044】
一般的に、創傷治療において、増殖因子の直接添加によって、これらの供給を増進させることが望ましいと考えられる。このアプローチを用いると、限定されるわけではないが、免疫適格性および腫瘍形成性などの、細胞に基づく療法に関連する現在の問題は排除されるであろう。本発明の細胞増殖馴化細胞培地および馴化基本細胞培地はまた、組織または損傷の修復および/または再生が望ましい他のタイプの組織損傷の治療にも有用であり、これは、必要であることが知られる多くの一連の因子が、本出願者らの細胞増殖馴化細胞培地および馴化基本細胞培地中に見られるためである。
【0045】
本発明は、限定なしに、以下の実施例によって例示される。
細胞株の樹立
以下に記載する修飾を伴って、本質的にEP980270に記載されるように、毛包間葉系細胞を単離した。ヒト皮膚組織試料を、1μg/mlアンホテリシンおよび10μg/mlゲンタマイシンを含有する最小必須培地(MEM、Sigma M4655)で3回洗浄した。解剖顕微鏡下、微細外科ハサミを用いて、成長期「終末小体」を解剖し、そして少量(典型的には100〜200μl)のMEM内に入れた。針を用いて終末小体を反転させ、そして乳頭を解剖し、そして鞘を抽出した。次いで、乳頭および鞘を別個に4ウェル細胞培養プレート(Nunc)に移した。ウェルあたり、10の乳頭および10の鞘を、20%ウシ胎児血清(FBS)、0.5μg/mlアンホテリシンおよび5μg/mlゲンタマイシンを補充した1mlのMEM中に移した。無菌および標準的条件(37℃、5%二酸化炭素)下で4ウェル細胞培養プレートをインキュベーションした。細胞増殖10日後、各ウェルから細胞を剥がし(当該技術分野でよく確立された標準法を用いる)、そして35mm直径細胞培養ディッシュ(Nunc)に別個に移した。細胞増殖が集密になったら、先に示すように、真皮鞘(本明細書において、以後、「AVDS」と称する)および真皮乳頭(本明細書において、以後、「AVDP」と称する)細胞株を剥がし、そして上述の条件下でさらに拡大するために、T25細胞培養フラスコ(Nunc)に移した。上述の同じヒト皮膚組織試料から、真皮線維芽細胞(本明細書において、以後、「AVDF」と称する)細胞株を樹立した。真皮乳頭層を真皮網状層および脂肪層から分離し、そして次いで顕微鏡下で、およそ2〜3mm2の表面積の片に解剖した。解剖した組織を、真皮鞘および真皮乳頭細胞株に関して記載するように補充したMEMを含有するT25細胞培養フラスコ(Nunc)に移した。無菌および標準的条件(先に記載する通り)下で真皮線維芽細胞(AVDF)細胞株を含有するT25細胞培養フラスコをインキュベーションした。次いで、培養が集密に到達したら、同じ条件を用いて、真皮線維芽細胞(AVDF)細胞株をさらに拡大した。
【0046】
いくつかの異なるヒト組織試料から、AVDS、AVDPおよびAVDF細胞株を樹立した。以下の実施例に記載するこれらの細胞株の要約を以下の表1に提供する。
表1:細胞株の要約
【0047】
【表1】
【実施例】
【0048】
実施例1
MEM+10%FBS中、静置培養中で増殖したAVDF4およびAVDS4細胞を採取した(当該技術分野においてよく確立された標準法を用いる)。細胞を用いて、50ml MEM+10%ウシ胎児血清(FBS)中、フラスコあたり5x105細胞で、225cm2フラスコに植え付け、そして第4日に新鮮な培地(MEM+10%FBS)と交換し、37℃、5%CO2で8日間インキュベーションした。第8日、馴化培地を採取し、ろ過し(0.2μm)、そして分析まで、−20℃で凍結保存した。
【0049】
キットとともに提供される方法にしたがって、ヒト・サイトカイン・アレイ「パネルA」キット(R&D Systems ARY005)を用いて、AVDF4およびAVDS4由来の馴化培地を分析した。AVDF4およびAVDS4増殖培地は10%のFBSを含有するため、対照として、MEM+10%FBSもまた分析した。得た結果を図1に示す。MEM+10%FBS対照に比較して強度が増加したことが同定されたスポットを、当該技術分野によく記載される方法を用いて定量化した。各膜上で、陽性対照に対して、そしてMEM+10%FBS対照膜上の対応するサイトカインスポットに対して、データを規準化した。図2に示す結果は、二つ組試料由来のAVDS4およびAVDF4馴化培地中で同定される各サイトカインの相対レベルを示す。驚くべきことに、同定されたサイトカイン(用いた「パネルA」キットに含まれるものに限定される)の中で、サイトカイン、Groα、I−309、IL6、IL−8、PAI−1が、AVDS4およびAVDF4細胞株によって産生される馴化培地両方において検出された。これらは、創傷治癒プロセスを促進する際に重要であることが、当該技術分野に確立されてきている。
【0050】
実施例2
真皮線維芽細胞、真皮鞘および真皮乳頭細胞株から、血清不含馴化培地を調製した。AVDF4、AVDS4およびAVDP2細胞を、MEM+10%FBS細胞培養増殖培地中、37℃、5%CO2で6日間、静置培養中で増殖させた。細胞を採取し(当該技術分野でよく確立された標準法を用いる)、そして15mlのMEM+10%ウシ胎児血清(FBS)中、フラスコあたり2x106細胞で、75cm2フラスコに別個に植え付けるのに用いた。フラスコを37℃、5%CO2で24時間インキュベーションした。このインキュベーション期間後、各フラスコから増殖培地を取り除き、そして廃棄した。20mlリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で、細胞単層を注意深く3回洗浄し、そして次いで、20ml MEMのみ(FBSなし)でさらに3回洗浄した。次いで、2mMグルタミンを補充した新鮮なMEM(FBSなし、6ml)を各フラスコに添加し、そして37℃、5%CO2で、フラスコを24時間インキュベーションした。各フラスコから馴化基本培地を採取し、ろ過し(0.2μm)、そして分析まで、−20℃で凍結保存した。MEM増殖培地(FBSなし)の試料もまた、対照として含めた。試料(8ml)を融解し、そしてAmicon Ultra 15 Centriprepデバイス(Millipore)を3200RCF、45分間、室温で用いて、250μlに濃縮した。次いで、Speedvacを用いて、各200μlの試料をさらに2倍濃縮した。次いで、4−20%NuPage(Invitrogen)還元SDS−PAGEゲルを用いて、各10μlの4つの試料を分析し、そしてEZBlue(Sigma)を用いて染色した。SDS−PAGEゲルを図3に示す。SDS−PAGEゲルの各レーン(1〜4)を清潔なメスで10のバンドに切り、ProGest消化ロボットに関する標準法を用いて、40のバンド各々の中のタンパク質をトリプシンで消化した。当該技術分野によく確立されるように、LC−MS−MSを用い、Thermo LTQ XL Orbitrapエレクトロスプレイ質量分析装置を用いて、各5μlの消化物を分析した。Mascot(Matricscience)およびSequest(Thermo)検索エンジンならびにProteomeDiscover(Thermo)インターフェースを用いて、現在のバージョンのデータベースSwissprotに対して、MS−MSスペクトルを検索した。検索パラメータを非常に厳しく(stringently)(FDR<1%)設定した。AVDP2、AVDF4およびAVDS4由来の馴化培地に関して、同定されるタンパク質を、それぞれ、表2、3および4に示す。
【0051】
表2:AVDP2馴化基本細胞培地において同定されるタンパク質
【0052】
【表2−1】
【0053】
【表2−2】
【0054】
【表2−3】
【0055】
【表2−4】
【0056】
表3:AVDF4馴化基本細胞培地において同定されるタンパク質
【0057】
【表3−1】
【0058】
【表3−2】
【0059】
【表3−3】
【0060】
表4:AVDS4馴化基本細胞培地において同定されるタンパク質
【0061】
【表4−1】
【0062】
【表4−2】
【0063】
【表4−3】
【0064】
【表4−4】
【0065】
驚くべきことに、細胞株AVDP2由来の馴化基本細胞培地において、総数177の異なるヒトタンパク質が同定され、細胞株AVDF4由来の馴化基本培地において、131の異なるヒトタンパク質が同定され、そして細胞株AVDS4由来の馴化基本培地において、167の異なるヒトタンパク質が同定された。これは、比較的短いインキュベーション期間、および馴化基本細胞培地を産生するのに用いた基本細胞培地を考慮すると、特に予期されないことであった。したがって、本文書に記載する細胞は、これらのあらゆるタンパク質、あるいは該細胞によって分泌されるかまたは発現されるいかなるタンパク質または他の分子の供給源としても用いられることが可能である。当業者は、該分析が、当該技術分野において、創傷治癒に重要であることがよく確立されたタンパク質の存在を示すことを認識し、そして新規タンパク質が同定されていることを認識するであろう。当業者には、これらの細胞株間の相違を用いて、どのように馴化基本細胞培地の異なる物理的態様を産生可能であるか、あるいはどのように、馴化基本細胞培地をさらにプロセシングして、例えば限外ろ過、ダイアフィルトレーションまたはクロマトグラフィー精製を用いて、1またはそれより多い因子または構成要素を濃縮するかまたは減少させうるかが明らかであろう。
【0066】
実施例3
静置培養条件で増殖させた真皮線維芽細胞AVDF3の225cm2細胞培養フラスコ(Nunc)を剥がし、そして当該技術分野によく記載される方法を用いて、細胞数を決定した。2.3x106細胞を用いて、2mMグルタミン(Sigma)を補充した総体積330mlの血清不含増殖培地中、1.5g/L CultiSpher Sマイクロキャリアー(製造者によって記載されるように調製)を含有する1.5L細胞培養スピナーフラスコに植え付けた。スピナーフラスコのヘッドスペースを5%CO2、2%O2ガスで平衡化した。スピナーフラスコを37℃の細胞培養インキュベーターに移し、そして磁気スターラーベースを用いて、35rpmで攪拌した。記載する条件下で4日間インキュベーションした後、スピナーフラスコから35mlの細胞培養上清を取り除き、そして新鮮な血清不含増殖培地(上記の通り)と交換した。インキュベーション第5日および第7日、50mlの培養上清を取り除き、そして上記のように、新鮮な血清不含増殖培地と交換した。第8日、80mlの培養上清を取り除き、そして新鮮な血清不含培地と交換した。総計10日の培養後、当該技術分野でよく確立された方法を用いて、マイクロキャリアーからAVDF3細胞を剥がした。1.35x107細胞を用いて、2mMグルタミン、0.2%Pluronic F−68および1.5g/L Cultispher Sマイクロキャリアー(先に記載されるように調製)を補充した総体積2Lの血清不含増殖培地中、ガラス細胞培養バイオリアクター(Applikon)に接種した。温度36.5℃、pH7.0(二酸化炭素ガス・スパージングおよび/または水酸化ナトリウム添加によって手動調節)、溶解酸素圧5.0%(空気飽和)および40rpmを培養経過中に次第に60rpmに増加させる攪拌装置速度で、バイオリアクターを培養した。CO2およびN2ガス・スパージングを用いて、細胞培養中の溶解酸素レベルを維持した。発泡が観察された場合は、エマルジョンC消泡剤(Sigma)をバイオリアクターに添加した。記載する条件下で4日間インキュベーションした後、バイオリアクターから200mlの培養上清を取り除き、そして新鮮な血清不含増殖培地(上記の通り)と交換した。第6日、第8日、第10日、第11日、第13日、第15日、第17日および第21日、さらに200mlの培養上清を取り除き、そして新鮮な血清不含増殖培地(上記の通り)と交換した。17日間増殖させた後、200mlの培養物(培地、および細胞が付着したマイクロキャリアー)を無菌的に採取した。採取した培養物を、4つの50mlコニカル試料試験管に等しくアリコットし、そして細胞が付着したマイクロキャリアーを、重力下で、試料試験管の底に沈降させた。マイクロキャリアー不含培地を注意深く取り除き、そして沈降した、細胞が付着したマイクロキャリアーをPBSでまず3回、そしてMEM(FBSなし)でさらに3回洗浄して、消費された微量の増殖培地を元来の細胞培養物から取り除いた。細胞が付着したマイクロキャリアーを最終体積45mlのMEM(FBSなし)+2mMグルタミンにプールした。この懸濁物を用いて、フラスコあたりおよそ2x106細胞で、3つのE125振盪フラスコに植え付けた。フラスコのヘッドスペースを5%CO2、2%O2ガスで平衡化し、そして37℃、60rpmで24時間、軌道振盪装置に移した。各フラスコから馴化基本培地を採取し、0.2μmフィルターを用いてろ過し、そして分析まで−20℃で保存した。
【0067】
実施例4
静置培養条件で増殖させた真皮線維芽細胞AVDP3の2つの225cm2細胞培養フラスコ(Nunc)を剥がし、そして当該技術分野によく記載される方法を用いて計数した。2.4x106細胞を用いて、4mMグルタミンを補充した総体積300mlのMesenPro増殖培地(低血清、Invitrogen)中、1.5g/L CultiSpher Sマイクロキャリアー(先に記載するように調製)を含有する1.5L細胞培養スピナーフラスコに植え付けた。スピナーフラスコのヘッドスペースを5%CO2、2%O2ガスで平衡化した。スピナーフラスコを37℃の細胞培養インキュベーターに移し、そして磁気スターラーベースを用いて、35rpmで攪拌した。記載する条件下で3日間インキュベーションした後、スピナーフラスコから80mlの細胞培養上清を取り除き、そして新鮮な増殖培地(上記の通り)と交換した。記載する条件下で総計9日間インキュベーションした後、スピナーフラスコから10mlの試料を採取し、そして当該技術分野によく記載される標準法を用いて、細胞数および細胞生存度を決定した。細胞数および細胞生存度を用いて、マイクロキャリアーに付着してスピナーフラスコ中に保持される生存細胞総数を概算した。スピナーフラスコ由来の、付着した細胞を含むマイクロキャリアーを、先に記載するように、PBSを用いて洗浄し、次いで、75ml MEM(FBSなし)中に懸濁し、そしてこれを用いて、マイクロキャリアーに付着したおよそ2.5x107細胞を1つの250ml振盪フラスコに植え付けた。フラスコのヘッドスペースを5%CO2、2%O2ガスで平衡化し、そして37℃、60rpmで24時間、軌道振盪装置に移した。フラスコから馴化基本細胞培地を採取し、0.2μmフィルターを用いてろ過し、そして分析まで−20℃で保存した。
【0068】
静置培養条件で増殖させた真皮線維芽細胞AVDS6の2つの225cm2細胞培養フラスコ(Nunc)を剥がし、そして当該技術分野によく記載される方法を用いて計数した。2.4x106細胞を用いて、4mMグルタミンを補充した総体積300mlのMesenPro増殖培地(Invitrogen)中、1.5g/L CultiSpher Sマイクロキャリアー(先に記載するように調製)を含有する1.5L細胞培養スピナーフラスコに植え付けた。フラスコのヘッドスペースを5%CO2、2%O2ガスで平衡化した。スピナーフラスコを37℃の細胞培養インキュベーターに移し、そして磁気スターラーベースを用いて、35rpmで攪拌した。記載する条件下で3日間インキュベーションした後、スピナーフラスコから80mlの細胞培養上清を取り除き、そして新鮮な増殖培地(上記の通り)と交換した。記載する条件下で総計9日間培養した後、スピナーフラスコから10mlの試料を採取し、そして当該技術分野によく記載される標準法を用いて、細胞数および細胞生存度を決定した。細胞数および細胞生存度を用いて、スピナーフラスコ中に保持される生存細胞総数を概算した。付着した細胞を含むマイクロキャリアーを、先に記載するように、PBSを用いて洗浄し、次いで、最終体積54ml MEM(FBSなし)中にプールし、そしてこれを用いて、マイクロキャリアーに付着したおよそ1.8x107細胞を1つの250ml振盪フラスコに植え付けた。フラスコのヘッドスペースを5%CO2、2%O2ガスで平衡化し、そして37℃、60rpmで24時間、軌道振盪装置に移した。フラスコから馴化基本培地を採取し、0.2μmフィルターを用いてろ過し、そして分析まで−20℃で保存した。
【0069】
実施例5
SearchLightアレイ技術(Aushon Biosystems Inc.)を用いて、AVDF4、AVDS4およびAVDP2(実施例1および2に記載するように調製)、AVDF3(実施例3に記載するように調製)、ならびにAVDS6およびAVDP3(実施例4に記載するように調製)由来の馴化培地を分析した。MEMおよびMEM+10%FBS増殖培地を対照として含んだ。Aushon SearchLightタンパク質アレイ技術は、分析物のそれぞれの捕捉抗体が、96ウェルマイクロプレートの各ウェル内に、アレイ状にスポットされている、分析物の化学発光または蛍光検出に基づく多重化サンドイッチELISA系である。ウェルあたり、最大16の分析物(各ウェル中、4x4アレイ)を測定可能であり、したがって、各試料(50μl)を用いて16のサイトカインまたは他のバイオマーカーを同時にアッセイ可能である。TGFβ−1、IL−6、IL−8およびPAI−1レベルに関して試料を分析した。馴化培地/馴化基本培地試料において同定される各タンパク質の濃度を、図4、5、6および7に示す。試料に1〜10の番号を付け、そしてこれらの試料の同一性を表5に示す。
【0070】
表5:試料同一性
【0071】
【表5】
【0072】
図4〜7に示すデータは、創傷治癒に関与する重要なタンパク質(TGFβ−1、IL−6、IL−8およびPAI−1)を、3つの新規細胞タイプAVDS、AVDPおよびAVDF由来の馴化培地において、検出し、そして定量化することも可能であることを例示する。馴化細胞培地または馴化基本細胞培地中のタンパク質レベルは、用いる細胞濃度および/または増殖培地組成および/または細胞培養系を調整することによって変化しうる。また、用いる細胞培養増殖条件、細胞株のさらなる発展をどのように実施して、マイクロキャリアーに付着する細胞の数を増加させることが可能であるか、そしてこれが、馴化基本細胞培地を産生する際に、タンパク質分泌にどのように影響を及ぼすかが、当業者には明らかであろう。マイクロキャリアーに付着した細胞を用い、2L攪拌タンク細胞培養バイオリアクターを用いて生成されるデータが、本発明の物理的態様の大規模産生のための、拡大可能であり、そして経済的な製造系である、馴化基本培地の産生を立証することが、当業者には明らかであろう。細胞を拡大するためのマイクロキャリアーに基づくバイオリアクタープロセスが完了した際、マイクロキャリアーを沈降させ、馴化培地を採取し、そして/またはマイクロキャリアーに付着した細胞をin situで洗浄し、そして基本細胞培地とインキュベーションすることも可能であることがが当業者には明らかであろう。馴化基本培地は、マイクロキャリアーのin situ沈降(重力沈降)および細胞不含馴化基本細胞培地のデカントによって容易に採取可能である。
【0073】
実施例6
当該技術分野によく確立されているように、ウェスタンブロッティングによって、AVDF4、AVDS4およびAVDP2(実施例1および2に記載するように調製)、AVDF3(実施例3に記載するように調製)、ならびにAVDS6およびAVDP3(実施例4に記載するように調製)由来の馴化培地を分析した。簡潔には、試料を還元し、そしてMES泳動緩衝液を用いて、SeeBlue分子量マーカー(Invitrogen)とともに、4−12%BisTrisゲル(Invitrogen)上で泳動した。次いで、試料をPVDF膜にトランスファーした。ブロッティング後、膜を15mlのブロッキング緩衝液(PBS+1%BSA)中、ロッキング・プラットフォーム上、室温で1時間インキュベーションした。ブロッキング緩衝液をデカントし、そして膜を8mlの1/2000希釈のマウス・モノクローナル抗SPARC抗体(Sigma WH0006678M2)中、4℃で一晩インキュベーションした。次いで、15ml PBS+0.05%Tween20中、ロッキング・プラットフォーム上、膜を3回、室温で各5分間洗浄した。8mlの1/10,000希釈のウサギ抗マウスIgG(全分子)−ペルオキシダーゼ(Sigma A9044)を添加し、そしてロッキング・プラットフォーム上、室温で1時間インキュベーションした。次いで、15ml PBS+0.05%Tween20中、ロッキング・プラットフォーム上、膜を3回、室温で各5分間洗浄した。15mlの水に溶解したSIGMAFASTTM 3,3’−ジアミノベンジジン錠剤(Sigma D4418)中、ロッキング・プラットフォーム上、室温で15分間インキュベーションすることによって、膜を現像した。ウェスタンブロットの結果を図8に示す。
【0074】
細胞培養フラスコ、スピナーフラスコおよびバイオリアクターを用いて拡大された、3つの細胞株AVDS、AVDPおよびAVDFのすべて由来の馴化培地は、SPARCタンパク質の分泌および集積を示す。
【0075】
実施例7
フィブロネクチンおよびコラーゲンタンパク質の分泌および集積に関して、ドットブロット(当該技術分野によく確立されるように)によって、AVDF4、AVDS4およびAVDP2(実施例1および2に記載するように調製)、AVDF3(実施例3に記載するように調製)、ならびにAVDS6およびAVDP3(実施例4に記載するように調製)由来の馴化培地を分析した。PVDF膜をメタノールで湿らせ、そして次いでPBS中に浸し、各10μlの試料および対照を膜上にスポットした。50ngおよび5ngの標準(フィブロネクチン−Sigma F1141またはコラーゲン−Sigma C8919)もまた膜上にスポットし、そしてすべてのスポットを1時間風乾した。次いで、膜を再びメタノールで湿らせ、PBSでリンスし、そして次いで8mlブロッキング緩衝液(PBS+1%BSA)中、4℃で一晩インキュベーションした。ブロッキング緩衝液をデカントし、そして膜を、ロッキング・プラットフォーム上、4mlの1/2000希釈のマウスモノクローナル抗フィブロネクチン抗体(Sigma F7387)またはマウスモノクローナル抗コラーゲン抗体(Sigma C2456)いずれかにおいて、室温で2時間インキュベーションした。次いで、8ml PBS+0.05%Tween20中、ロッキング・プラットフォーム上、膜を3回、室温で各5分間洗浄した。4mlの1/2000希釈のウサギ抗マウスIgG(全分子)−ペルオキシダーゼ(Sigma A9044)を添加し、そしてロッキング・プラットフォーム上、室温で1時間インキュベーションした。次いで、8ml PBS+0.05%Tween20中、ロッキング・プラットフォーム上、膜を3回、室温で各5分間洗浄した。15mlの水に溶解したSIGMAFASTTM 3,3’−ジアミノベンジジン錠剤(Sigma D4418)中、ロッキング・プラットフォーム上、室温で15分間インキュベーションすることによって、膜を現像した。ドットブロットの結果を表6に示す。
【0076】
細胞培養フラスコ、スピナーフラスコおよびバイオリアクターを用いて拡大された、3つの細胞株AVDS、AVDPおよびAVDFのすべて由来の馴化培地は、コラーゲンタンパク質の分泌および集積を示す。
【0077】
表6:コラーゲンおよびフィブロネクチンの存在に関する、細胞増殖馴化細胞培地および馴化基本細胞培地の分析
【0078】
【表6】
【0079】
ND=未検出
(1)=試料において、FBSによってマスキングされたドット。LC−MS−MS分析(実施例2)は、コラーゲンの分泌および集積を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
馴化細胞培地を調製するためのプロセスであって:
a)細胞増殖を補助するのに有効な組成を有する増殖培地において、真核細胞を培養し;
b)培養した細胞を増殖培地から分離し;
c)培養した細胞を、細胞生存を維持するのに適しているが、実質的な細胞増殖を補助するには適していない組成を有する基本培地において維持する
工程を含む、前記プロセス。
【請求項2】
細胞が、真皮鞘(dermal sheath)、真皮乳頭(dermal papilla)または真皮線維芽細胞である、請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
基本培地が、培養細胞導入前に、タンパク質不含である、先行する請求項いずれか記載のプロセス。
【請求項4】
細胞が、マイクロキャリアーに付着して培養される、先行する請求項いずれか記載のプロセス。
【請求項5】
細胞が、増殖培地からの分離後、および基本培地内への導入前に洗浄される、先行する請求項いずれか記載のプロセス。
【請求項6】
工程c)の産物を、続いて、以下の1またはそれより多いプロセス:
a)部分的または完全精製;
b)凍結;
c)凍結乾燥;および
d)乾燥
に供する、先行する請求項いずれか記載のプロセス。
【請求項7】
先行する請求項いずれか記載のプロセスによって産生される組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項記載のプロセスによって産生される薬学的組成物。
【請求項9】
IL−6、Gro−α、SDF−1、FGF−2、SPARC、PAI−1、IL−8、コラーゲン、フィブロネクチン、I−309、IL−13、MIFおよびSDF−1およびTGF−βタンパク質の1またはそれより多くを含む、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
創傷治癒のための、請求項8または9記載の薬学的組成物の使用。
【請求項11】
a)真皮鞘細胞、真皮線維芽細胞または真皮乳頭細胞からなる群より選択される、幹細胞潜在能力を保持する分化したヒト細胞を、増殖培地中で培養し;そしてb)細胞から培地を分離することによって得られる、馴化細胞培地を含む、薬学的組成物。
【請求項12】
Gro−α、I−309、IL−6、IL−8、IL−13、MIF、PAI−1、SDF−1およびTGF−βタンパク質の1またはそれより多くを含む、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
以下の1またはそれより多いプロセス:
a)部分的または完全精製;
b)凍結;
c)凍結乾燥;および
d)乾燥
にさらに供されている、請求項11または12記載の組成物。
【請求項14】
創傷治癒のための、請求項11〜13のいずれか一項記載の組成物の使用。
【請求項15】
薬剤としての、請求項8、9、11、12または13のいずれか一項記載の組成物の使用。
【請求項1】
馴化細胞培地を調製するためのプロセスであって:
a)細胞増殖を補助するのに有効な組成を有する増殖培地において、真核細胞を培養し;
b)培養した細胞を増殖培地から分離し;
c)培養した細胞を、細胞生存を維持するのに適しているが、実質的な細胞増殖を補助するには適していない組成を有する基本培地において維持する
工程を含む、前記プロセス。
【請求項2】
細胞が、真皮鞘(dermal sheath)、真皮乳頭(dermal papilla)または真皮線維芽細胞である、請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
基本培地が、培養細胞導入前に、タンパク質不含である、先行する請求項いずれか記載のプロセス。
【請求項4】
細胞が、マイクロキャリアーに付着して培養される、先行する請求項いずれか記載のプロセス。
【請求項5】
細胞が、増殖培地からの分離後、および基本培地内への導入前に洗浄される、先行する請求項いずれか記載のプロセス。
【請求項6】
工程c)の産物を、続いて、以下の1またはそれより多いプロセス:
a)部分的または完全精製;
b)凍結;
c)凍結乾燥;および
d)乾燥
に供する、先行する請求項いずれか記載のプロセス。
【請求項7】
先行する請求項いずれか記載のプロセスによって産生される組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項記載のプロセスによって産生される薬学的組成物。
【請求項9】
IL−6、Gro−α、SDF−1、FGF−2、SPARC、PAI−1、IL−8、コラーゲン、フィブロネクチン、I−309、IL−13、MIFおよびSDF−1およびTGF−βタンパク質の1またはそれより多くを含む、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
創傷治癒のための、請求項8または9記載の薬学的組成物の使用。
【請求項11】
a)真皮鞘細胞、真皮線維芽細胞または真皮乳頭細胞からなる群より選択される、幹細胞潜在能力を保持する分化したヒト細胞を、増殖培地中で培養し;そしてb)細胞から培地を分離することによって得られる、馴化細胞培地を含む、薬学的組成物。
【請求項12】
Gro−α、I−309、IL−6、IL−8、IL−13、MIF、PAI−1、SDF−1およびTGF−βタンパク質の1またはそれより多くを含む、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
以下の1またはそれより多いプロセス:
a)部分的または完全精製;
b)凍結;
c)凍結乾燥;および
d)乾燥
にさらに供されている、請求項11または12記載の組成物。
【請求項14】
創傷治癒のための、請求項11〜13のいずれか一項記載の組成物の使用。
【請求項15】
薬剤としての、請求項8、9、11、12または13のいずれか一項記載の組成物の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2013−505011(P2013−505011A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529337(P2012−529337)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001739
【国際公開番号】WO2011/033260
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(508236033)フジフィルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズ ・ユーケイ・リミテッド (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001739
【国際公開番号】WO2011/033260
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(508236033)フジフィルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズ ・ユーケイ・リミテッド (8)
【Fターム(参考)】
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