説明

幼児を対象とした居住空間の嗜好性調査装置

【課題】居住空間についての幼児の嗜好性をできるだけ客観的に調査できる手法を提供する。
【解決手段】幼児を対象とした居住空間の嗜好性調査装置である。床1と外周壁2と間仕切り壁3とから構成されて上方を開放させると共に、この外周壁2の内側に前記間仕切り壁3により広さと形と同じくした複数の部屋4、4…を備えさせ、この間仕切り壁3に設けた開口部5により隣り合う前記部屋4、4間の移動を可能とするようにしてなる。前記複数の部屋4、4…をそれぞれ、その仕様のうちの嗜好性調査対象となる仕様のみを他の部屋4と異ならせるようにして構成させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、居住空間についての幼児の嗜好性をできるだけ客観的に調査できるようにする装置に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅の居住性を向上する観点から、居住空間を構成する床材や壁材、照明などの嗜好性の調査が行われてきている。しかるに、例えば、子供部屋の居住性向上などの観点からは、幼児についてもこうした嗜好性を調査すべきところ、幼児は調査内容や目的を理解した上で自己の主観を外部に適切に伝達しがたいため、聞き取り形式の調査では調査結果の客観性を担保しがたいところである。体温、血圧などの生理反応の計測によりこうした嗜好性を調査する手法も考えられるが、大人の場合でも置かれている環境が快適であるときと不快であるときとでこの種の生理反応に大きな変化が生じる場合もあれば、そうでない場合もあり、こうした調査でも調査結果の客観性を担保しがたいところである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明が解決しようとする主たる問題点は、居住空間についての幼児の嗜好性をできるだけ客観的に調査できる手法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を達成するために、この発明にあっては、幼児を対象とした居住空間の嗜好性調査装置を、床と外周壁と間仕切り壁とから構成されて上方を開放させると共に、この外周壁の内側に前記間仕切り壁により広さと形と同じくした複数の部屋を備えさせ、この間仕切り壁に設けた開口部により隣り合う前記部屋間の移動を可能とするようにしてなり、
前記複数の部屋をそれぞれ、その仕様のうちの嗜好性調査対象となる仕様のみを他の部屋と異ならせるようにして構成させると共に、
前記開口部を間仕切り壁における外周壁側に位置される箇所に形成させてなるものとした。
【0005】
装置内の一つの部屋にいる幼児は、外周壁により装置外環境と隔絶され、間仕切り壁により前記開口部によらない限り隣接する部屋には移動できない。したがって、各部屋への幼児の延べ滞在時間などの記録をとることで、この記録から幼児に好まれていた部屋を特定することができる。そして、好まれていた部屋の仕様が幼児の多くが好む仕様であると推認することができる。装置の上方は開放されていることから、この装置の上方からの観察により前記記録を取ることができ、またカメラにより動画として記録してその後の解析の資料とすることもできる。
【0006】
また、前記開口部を間仕切り壁における外周壁側に位置される箇所に形成させておくことにより、各部屋を幼児が巡回する際に一つの部屋内で幼児が歩行する距離を長くさせて、各部屋の印象を幼児に十分に感得させることができる。
【0007】
また、前記一つの部屋の広さは、1.66m2 以上としておくことが好ましい。これ未満の広さであると幼児が寝転がった場合に余裕がなく一般的な居住空間の広さとの乖離が大きいため、得られた調査結果を一般化し難いからである。また、外周壁及び間仕切り壁の高さは、150cm以上としておくことが好ましい。これ未満の高さであると装置内にいる幼児を装置外環境と完全に隔絶させ難く、また、外周壁を幼児が乗り越える可能性を否定できないからである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、聞き取り形式の調査や生理反応の計測とは異なり、装置内での幼児の行動を記録解析することで居住空間についての幼児の嗜好性をできるだけ客観的に調査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は嗜好性装置の斜視構成図である。
【図2】図2は嗜好性装置の平面構成図である。
【図3】図3は嗜好性装置の利用状態を示した要部斜視図であり、装置内の幼児と装置の外から装置内を観察する大人を装置の要部と一緒に表している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1〜図3に基づいて、この発明の典型的な実施の形態について説明する。この実施の形態にかかる装置は、居住空間についての幼児の嗜好性をできるだけ客観的に調査できるようにするものである。具体的には、かかる装置は、幼児の多くが好む、居住空間の仕上げ仕様、典型的には、床材や壁材、照明などを、できるだけ客観的に調査できるようにするものである。
【0011】
かかる装置は、床1と外周壁2と間仕切り壁3とから構成されて上方を開放させると共に、この外周壁2の内側に前記間仕切り壁3により広さと形と同じくした複数の部屋4、4…を備えさせ、この間仕切り壁3に設けた開口部5により隣り合う前記部屋4、4間の移動を可能とするようにしてなる。それと共に、前記複数の部屋4、4…をそれぞれ、その仕様のうちの嗜好性調査対象となる仕様のみを他の部屋4と異ならせるようにして構成させてなる。
【0012】
図示の例では、かかる装置は、外周壁2と間仕切り壁3とによって、平面視の状態で田の字形を呈するように構成されている。すなわち、外周壁2は、平面視の状態で正方形状を呈し、間仕切り壁3は、この正方形の各辺の中央とこの正方形の中心とを結ぶ仮想の直線に沿うように設けられて外周壁2内の空間を四つに等分している。このように等分された外周壁2内の空間をそれぞれ前記部屋4としている。
【0013】
そして、例えば、嗜好性調査対象となる仕様が床材である場合には、このように構成される四つの部屋4、4…の仕様を、床材のみが他の部屋4と一致しないように構成させ、壁材、照明などのその他の仕様は他の部屋4と同一となるように構成させる。
【0014】
具体的には、例えば、床材を構成する木材の種類(スギ、ヒノキ、シイ、ナラなど)を他の部屋4と変えて四つの部屋4、4…を構成させたり、床材の構造(ムク材、ムク材の表面オイル仕上げ、合板突板張り表面ウレタン塗装仕上げ、合板化粧シート張りなど)を他の部屋4と変えて四つの部屋4、4…を構成させる。
【0015】
装置内の一つの部屋4にいる幼児は、外周壁2により装置外環境と隔絶され、間仕切り壁3により前記開口部5によらない限り隣接する部屋4には移動できない。したがって、各部屋4への幼児の延べ滞在時間などの記録をとることで、この記録から幼児に好まれていた部屋4を特定することができる。そして、好まれていた部屋4の仕様が幼児の多くが好む仕様であると推認することができる。装置の上方は開放されていることから、この装置の上方からの観察により前記記録を取ることができ、またカメラにより動画として記録してその後の解析の資料とすることもできる。装置内に一度に滞在させる幼児の人数などは必要に応じて決められる。
【0016】
この実施の形態にあっては、前記開口部5は間仕切り壁3における外周壁2側に位置される箇所に形成されている。図示の例では、各間仕切り壁3においてそれぞれ、この間仕切り壁3と外周壁2とが接し合う箇所の下部を切り欠いて四角形の開口部5を形成させている。これにより、各部屋4を幼児が巡回する際に一つの部屋4内で幼児が歩行する距離を長くさせて、各部屋4の印象を幼児に十分に感得させることができるようになっている。かかる開口部5は幼児がかがまないと通り抜けることができない大きさにしておくことが好ましく、典型的には、60cm×60cm程度の大きさに設定する。このようにしておけば、装置内で幼児がはしゃいで走り回るような事態を防いで装置内の幼児を平常の状態に近い状態に置きやすく、したがって、調査結果の客観性を担保しやすくなる。また、幼児が開口部5を通過するにあたって床に手をつくようにしむけることができ、特に嗜好性調査対象となる仕様が床材である場合には、足の裏のみならず手のひらにおいても床材の感触などを幼児に感得させることができる。
【0017】
また、一つの部屋4の広さは、約1.66m2 (一畳程度)以上とすることが好ましく、典型的には約7.45m2(四畳半程度)の広さとする。これ未満の広さであると幼児が寝転がった場合に余裕がなく一般的な居住空間の広さとの乖離が大きいため、得られた調査結果を一般化し難いからである。
【0018】
また、外周壁2及び間仕切り壁3の高さは、150cm以上であることが好ましい。これ未満の高さであると装置内にいる幼児を装置外環境と完全に隔絶させ難く、また、外周壁2を幼児が乗り越える可能性を否定できないからである。
【0019】
図示の例では、装置の外側には、周回状をなす踏み台6が外周壁2と一体に設けられている。また、外周壁2の上端には手すり部7が形成されている。図示の例では、この踏み台6と手すり部7を利用して装置内を大人、典型的には、調査観察者や保護者などが都合良くのぞき込めるようになっている。これは、装置内の幼児に安心感を与えるものともなる。この点からは、外周壁2の高さが150cm程度であるときは踏み台の高さは40cm程度とすることが最適である。
【0020】
また、図示の例では、平面視の状態でそれぞれ正方形状をなす四つの部屋4、4…の一つの一辺を構成する外周壁2とその外側の踏み台6が装置の他の部分から取り外し可能な分離部8となっており、この分離部8を取り外すことでこの分離部の組み合わせ箇所を幼児の出入り口9とするようにしている。装置を用いた調査の間は、分離部は幼児の力では移動しないように装置の他の部分に組み合わされる。
【0021】
典型的には、かかる装置は、実験室内に設置され、実験室の天井に設置される照明などにより各部屋4の明るさや影の条件の均一化が図られ、前記カメラなどの記録装置も実験室の天井に設置される。各部屋4の中には、幼児が平常の状態に近い状態で振る舞えるように、玩具やお絵かきの道具などを、それぞれの部屋4で条件が異ならないように、設置しておくことが好ましい。
【0022】
装置内の部屋4の数は、広さと形が同じであれば、図示の例と異なり四部屋未満でも、四部屋以上でも、構わない。
【符号の説明】
【0023】
1 床
2 外周壁
3 間仕切り壁
4 部屋
5 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床と外周壁と間仕切り壁とから構成されて上方を開放させると共に、この外周壁の内側に前記間仕切り壁により広さと形と同じくした複数の部屋を備えさせ、この間仕切り壁に設けた開口部により隣り合う前記部屋間の移動を可能とするようにしてなり、
前記複数の部屋をそれぞれ、その仕様のうちの嗜好性調査対象となる仕様のみを他の部屋と異ならせるようにして構成させると共に、
前記開口部を間仕切り壁における外周壁側に位置される箇所に形成させてなることを特徴とする幼児を対象とした居住空間の嗜好性調査装置。
【請求項2】
一つの部屋の広さを、1.66m2 以上としてなることを特徴とする請求項1に記載の幼児を対象とした居住空間の嗜好性調査装置。
【請求項3】
外周壁及び間仕切り壁の高さを、150cm以上としてなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の幼児を対象とした居住空間の嗜好性調査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−32594(P2012−32594A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171729(P2010−171729)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】