説明

広域スペクトル殺生物組成物及びその調製方法

本発明は、生物膜の形成を防止するため、及び塗料、被膜、プラスター及びプラスチックに取り込むための殺生物組成物であって、セラミック粉末又はキセロゲルでカプセル化された又はこれに吸収されたDBNPAを含有する組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は殺生物組成物に関する。より具体的には、殺生物組成物、殺生物組成物の製造方法、水の殺菌方法、生物膜蓄積の防止方法、及び塗料、被膜、プラスター、プラスチック及びその他の工業材料への取り込み方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)は、細菌、真菌類、酵母、藍色細菌及び藻類の増殖を抑制する広域スペクトル殺生物剤として知られている(例えば、米国特許第4,800,082号及び米国特許第4,241,080号参照)。
【0003】
しかしながら、DBNPAの抗真菌活性は、その抗細菌活性ほど顕著ではない。DBNPAを適用することの別の負の側面は、組織に対する腐食性及び皮膚感作性を引き起こす能力であり、この負の側面のために、人間が直接殺生物剤に接触することを防ぐための特別な予防措置が必要となる(MSDS参照)。さらに、DBNPAは、水媒体中で容易に分解され、室温では2〜3日中にその活性を失ってしまう(例えば、Journal of Agricultural and Food Chemistry,vol.21,838〜842(1973)参照)。
【0004】
DBNPAのこれらの欠点を克服するために、いくつかの方法が提案されている。例えば、米国特許第4,800,082号には、人間が直接殺生物剤に接触することを防ぎ、かつ殺生物剤の水媒体への徐放出を提供する親水性ポリマーでDBNPAを被覆することが記載されている。国際公開第98/25458号は錠剤の被膜に関する。米国特許出願公開第2008/0004189号には、DBNPA等の殺生物剤を流体へ移送するための特殊な発泡性材料について記載されている。欧州特許第1322600号の特許請求の範囲には、粒状、錠剤、ブリケット及びペレット形態のDBNPAが記載されている。
【0005】
これらすべての製剤は特定の用途に向けられたものであり、他の分野に使用されることはめったにない。例えば、親水性ポリマーで被覆したDBNPA及び発泡性錠剤を含有するDBNPAは、水性塗料、水性被膜及び水性プラスチック用の容器内防腐剤として使用することはできない。さらに、これらすべての組成物は、塗料、被膜及びプラスチックで使用される通常の充填剤と必ずしも適合しない成分を含有する。結合剤又は充填剤を含まない圧縮DBNPAが知られているが、これは微粉末を必要となる用途には使用できない。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)と、セラミック微粉末、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化マグネシウム、及びアルコキシシランを含むキセロゲルから成る群より選択される相乗量の少なくとも1種の成分と、を含む殺生物組成物を提供する。上記組成物は、DBNPA単独の場合と比較して強い抗真菌活性を示す。好ましい実施形態において、上記殺生物組成物は、DBNPAと、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)に由来する一定量のキセロゲルと、を含む。他の好ましい実施形態において、上記殺生物組成物は、チタンイソプロポキシド(TIPO)又は三ケイ酸マグネシウム(MTS)微粉末がドープされたアルコキシシランを含む。本発明の好ましい態様において、上記殺生物組成物はアルギナート等の結合剤を含む。
【0007】
本発明は、広域スペクトル殺生物組成物の調製方法であって、i)本質的に透明なDBNPA溶液を調製するステップと、ii)上記DBNPAを、MTS及びTIPOから選択される成分と接触させるステップと、iii)上記DBNPAを、上記ステップii)の前又は後に水と接触させるステップと、を含む方法に関する。本発明の好ましい方法において、上記DBNPA溶液は、アルコキシシラン又はアセトニトリルから選択される材料にDBNPAを溶解することにより調製される。本発明の好ましい実施形態において、広域スペクトル殺生物組成物の調製方法はゲルの形成ステップを含む。上記方法は、より好ましくは、上記ゲルを乾燥させるステップを含む。
【0008】
本発明による殺生物組成物の好ましい調製方法は、i)DBNPA、アルコキシシラン、TIPO又はMTS、及び任意選択で有機溶媒の混合物を調製するステップと、ii)混合物を水で処理してアルコキシシランの加水分解を誘発するステップと、iii)混合物をエージングして無機ガラス状ゲルの形成を完了するステップと、iv)形成したゲルを乾燥させて固体粉末状のキセロゲルを得るステップと、v)キセロゲルを水で洗浄して、残存する遊離(カプセル化されていない)DBNPAを除去するステップと、vi)最後に、湿った組成物を乾燥させるステップと、vii)固体組成物を粉砕して、最終的な製剤化されたDBNPA微粉末を得るステップと、を含み、それにより、無機マトリックスでカプセル化されたDBNPAを得る方法である。
【0009】
本発明は、水性容積又は水性表面又は水性界面を殺菌する方法であって、DBNPAと、アルコキシシラン由来のキセロゲル、セラミック粉末、酸化ケイ素、酸化チタン及び酸化マグネシウムから選択される成分と、を含む殺生物組成物に上記容積又は表面又は界面を接触させることを含む方法を提供する。「水性容積又は水性表面又は水性界面」とは、水を含有する混合物と接触する容積及び表面及び界面を意味する。本発明による方法の好ましい実施形態において、上記組成物は塗料、被膜、プラスター及びプラスチックに取り込まれる。他の好ましい実施形態において、殺菌の対象となる容積又は表面又は界面は、フィルター又はカートリッジを含む。より好ましい実施形態において、殺菌の対象となる容積又は表面又は界面は、産業掘削で使用される材料及び装置を含む。
【0010】
本発明の特徴及び利点は、以下の実施例により、また添付の図面を参照することにより容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】組成物からの浸出DBNPAを示す図である。
【発明の詳細な説明】
【0012】
DBNPAの抗真菌活性は、相乗剤(例えば、セラミック微粉末、酸化ケイ素及び/又は酸化チタンキセロゲル)の添加により顕著に増加・延長できることが見出された。これらの組成物は、市販の塗料、被膜、プラスチック等の成分と適合する材料(Si、Ti、Mgの酸化物)しか含有していない。
【0013】
したがって、一態様において、本発明は、DBNPA、セラミック粉末を含み、任意選択で、塩化カルシウム存在下でアルギン酸アンモニウム等のゲル化剤を含む殺生物組成物である。
【0014】
他の態様において、本発明は、無機マトリックスでのDBNPAカプセル化のステップを含む抗菌組成物の調製方法である。このような方法は、
i)DBNPA、アルコキシシラン、他の相乗剤及び任意選択で有機溶媒の混合物を調製するステップと、
ii)混合物を水で処理してアルコキシシランの加水分解を誘発するステップと、
iii)混合物をエージングして無機ガラス状ゲルの形成を完了するステップと、
iv)形成したゲルを乾燥させて固体粉末状のキセロゲルを得るステップと、
v)キセロゲルを水で洗浄して、残存する遊離(カプセル化されていない)DBNPAを除去するステップと、
vi)最後に、湿った組成物を乾燥させるステップと、
vii)固体組成物を粉砕して、最終的な製剤化されたDBNPA微粉末を得るステップと、
を含む。
【0015】
本発明は、カプセル化されたDBNPAを固体マトリックスに取り込んだ後、得られた粒子の表面を加工することに関する。
【0016】
DBNPAの抗真菌活性は、単独では真菌類に対して不活性であるか低い抗真菌活性しか示さない相乗剤の存在下で顕著に増加することが見出された。このような相乗剤としては、例えば、チタンアルコキシドと混合された又はケイ酸マグネシウム粉末と混合されたアルコキシシランの酸加水分解で得られるキセロゲルが挙げられる。最も好ましい相乗剤は、チタン(IV)イソプロポキシド(TIPO)又は三ケイ酸マグネシウム(MTS)微粉末のいずれかがドープされたメチルトリメトキシシラン(MTMOS)に由来するキセロゲルである。アルコキシシラン及びチタンアルコキシドの量は、DBNPAを基準にして1〜10部である。より好ましくは、7部のMTMOS及び1.2〜2部のTIPO、或いは7部のMTMOS及び0.7〜10部のMTSがこれらの組成物で使用される。
【0017】
組成物の調製は、DBNPA及びアルコキシシラン溶液から開始する。DBNPAは、液体アルコキシシランに容易に溶解して、DBNPAを20%超えて含有する透明な溶液が得られることが見出された。加熱及び有機溶媒(例えば、アルコール、ケトン、ハロゲン化炭化水素、ニトリル)の添加により殺生物剤の溶解度を上げることができる。
【0018】
次に、これらの溶液は相乗剤と混合することができる。相乗剤としては、例えば、TIPO、MTS粉末、又はMTS粉末を水及び結合剤(0.2〜3%の水性AMA(アルギン酸アンモニウム)溶液)と混合して調製したMTS粉末スラリーが挙げられる。AMAの特殊な機能は、Ca(2+)のような多価イオンをキレート化する能力である。この場合、CaCl水溶液としてCaイオンを添加することができる。
【0019】
酸加水分解は、上記の溶液又は懸濁液をpHが7未満の脱イオン水で処理することにより実施される。4個の官能基すべての加水分解を確実に完了させるために、水量は、アルコキシシラン1モルにつき4モル超であるべきである。より好ましくは、シラン1モルにつき5〜6モルの水が使用される。セラミック粉末スラリーの場合は、スラリー中の水量も計算に含まれる。
【0020】
水を添加すると、発熱を伴う加水分解反応が開始し、アルコールの発生、及びpH3〜4の均質液相の形成が付随して起こる。このプロセスは、少量の酸を添加して、pHを2〜3に調整することによって進めることができる。通常、この目的のために、希薄HClが使用される。
【0021】
時間とともに、混合物はガラス状ゲルに転換する。ゲルが形成する速度は、温度と溶媒及び形成したアルコールの除去速度とに依存する。ゲルの形成を促進するために、該混合物を減圧下で段階的に揮発性物質を除去しながら30〜50℃でエージングする。これらの条件下で、2〜20時間以内にゲルの形成はほとんど完了し、最初のガラス状ゲルは粉末状固体に転換する。
【0022】
次の段階では、固体を40〜45℃で水で研和して、遊離のDBNPAを除去する。好ましい水量は、固体1部(重量)につき10部である。
【0023】
次に、洗浄した固体を40〜45℃、好ましくは減圧下で最終的に乾燥させ、粉砕して所望の組成物を得る。洗浄ステップは粉砕後でもよい。この場合、所望の粒径分布を持つ粉砕された材料を水で洗浄した後、乾燥する。
【0024】
したがって、本発明は、DBNPAと、アルコキシシランを含むキセロゲル、セラミック微粉末、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化マグネシウム又はそれらの混合物から成る群より選択される相乗量の少なくとも1種の成分と、を含む優れた殺生物組成物を提供する。この殺生物組成物は、有利なことに、水性容積又は水性界面の殺菌や生物膜形成又は生物膜蓄積の防止に使用される。一態様において、該殺生物組成物は、塗料、被膜、プラスター及びプラスチックの工業組成物に取り込まれる。他の態様において、上記組成物は、工業用濾過で使用する装置の処理、例えば、浄水に使用する濾過器やカートリッジの処理に利用されてもよい。さらに別の態様において、上記組成物は、掘削用途(油、ガス、水を含む)、例えば、注入された流体、プロパント等の処理に利用される。より一般的には、DBNPA及び相乗量の上記成分を含む殺生物組成物は、油及びガス産業で非常に有用であり得る。掘削のステップに限定されるものではなく、上記組成物は、固体マトリックスがドリルに注入されている刺激及び破砕段階で使用してもよい。
【0025】
本発明は、本発明の殺生物組成物を、表面の加工又は処理を施すための塗料、被膜、プラスター、プラスチックに取り込むこと又は産業用装置を殺菌するための混合物に取り込むことを含み、表面の生物膜蓄積又は水性容積中の微生物汚染を防止することを可能とする。
【0026】
本発明は、DBNPAと、アルコキシシラン由来のキセロゲル、セラミック粉末、酸化ケイ素、酸化チタン及び酸化マグネシウムから選択される成分と、を含む殺生物組成物の、水性容積又は水性表面又は水性界面の殺菌における使用に関する。該使用は、例えば上記組成物を塗料、被膜、プラスター、工業用プラスチック組成物、又は表面の加工若しくは処理を施すための他の組成物に取り込むことを含んでもよい。水性容積又は水性表面又は水性界面は、濾過、掘削等の工業プロセスで使用する装置を含んでもよい。
【0027】
本発明は、表面の生物膜蓄積又は水性容積中の微生物汚染を防止する方法であって、i)上記表面及び容積を上記の殺生物組成物に接触させること、又はii)上記殺生物組成物を表面の処理又は加工に使用する混合物に取り込むことを含む方法を提供する。ここで、表面及び容積という語は、主として、工業プロセスで使用する空間及び装置の表面又は容積に関する。
【0028】
好ましい殺生物組成物の一例は、DBNPAと、TIPO又はMTSがドープされ、場合により結合剤が混合されたアルコキシシランに由来するキセロゲルと、を含む。
【実施例】
【0029】
以下の実施例は、もっぱら本発明の特定の好ましい実施形態の説明を意図したものであることに留意されたい。これらの実施例は、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を制限するものではない。
【0030】
以下は、本発明に基づく、殺生物活性を有するキセロゲルを製造する方法の好ましい実施形態である。
【0031】
実施例1(組成物1):
DBNPA(14.61g、0.059mol)を45℃でメチルトリメトキシシラン(52.51g、0.38mol)に溶解し、チタン(IV)イソプロポキシド(22.29g、0.076mol)と混合して、透明な僅かに着色(やや黄色)した溶液を得た。溶液を脱イオン水(41.32g、2.27mol)と混合することで、低沸点化合物(主にメタノール)の放出を伴う強い発熱反応を直ちに誘発した。混合物(pH3)を45〜47℃で20分間攪拌してゲルを形成した。ゲル(127.3g)を、ロータリーエバポレーターを用いて45℃の浴及び200mbarで蒸発させた。真空度を段階的に67mbarまで上げて、MeOH及びIPAの除去を促進させた。湿ったキセロゲル(100.15g)をオーブン中45℃で(混合せずに)一晩エージングしてゲルの形成を完了し、最終的にロータリーエバポレーターを用いて44℃/24mbarで2.5時間乾燥させて白色の粉末(70.06g)を得た。粉末を脱イオン水(150ml)と混合し、40〜45℃で1時間攪拌した。高温混合物を濾過した。湿ったケーク(79.26g)をロータリーエバポレーター中50℃/12mbarで1時間乾燥させ、加熱オーブン中45℃で3.5時間乾燥させて、僅かに着色(やや黄色)した固体材料として生成物57.20gを得た。固体を粉砕して、8%のDBNPAに対応する5.3%のBrを含有する生成物54.15gを得た。
【0032】
実施例2(組成物2a、2b、2c):
DBNPA(29.83g、0.121mol)を45℃でメチルトリメトキシシラン(100.0g、0.719mol)に溶解し、周囲温度まで冷却し、チタン(IV)イソプロポキシド(42.22g、0.144mol)と混合して、透明な僅かに着色(やや黄色)した基質溶液を得た。ロータリーエバポレーターに接合した1Lフラスコに水(78.6g、4.32mol)を投入した。ロータリーエバポレーター浴を30℃に加熱し、200mbarの真空に調整した。水入りの反応フラスコを浴内に浸し、攪拌した。基質溶液を、真空を用いて水に少量ずつ1時間添加して、白色の分散体を得た。真空を1.5時間で段階的に50mbarまで上げて、揮発性物質(メタノール、2−プロパノール及び最終的に水で合計85.8g)を促して、凝集粉末状固体として白色の生成物133.7gを得た。湿った固体(131.13g)を加熱オーブン中40℃/10mbarで(攪拌せずに)一晩乾燥させて、白色の生成物93.15gを得た。
【0033】
得られたもろい白色の固体をすり鉢で容易に粉砕し、3つのふるい(0.3mm、0.15mm、0.045mm)で分別して、粒径が0.15〜0.3mmの範囲内の画分41.28g(13.1%Br、20%DBNPA)、粒径が0.045mm〜0.15mmの範囲内の画分25.8g(15.9%Br、24.1%DBNPA)、及び粒径が0.045mm未満の最も細かい画分8.4g(26.9%Br、40.7%DBNPA)を得た。得られたキセロゲルの試料(それぞれ約5g)を脱イオン水と混合し(固体1部(重量)につき10部)、40〜45℃で1時間攪拌した。この高温懸濁液を濾過し、湿ったケークを最終的に45℃/2mbarで乾燥させて、それぞれ5.84g(組成物2a)、5.0g(2b)、4.74g(2c)の粉末状材料を得た。これらの粉末状材料は、それぞれBr7.3%、8.1%、13.4%(DBNPA11%、12.3%、20.3%に対応)を含有していた。
【0034】
実施例3(組成物3):
MTS(110g、BET SSA 300m/g)の微粉末を1%のアルギン酸アンモニウム溶液(AMA、180g)と混合して三ケイ酸マグネシウム(MTS、MgSi)セラミック粉末スラリーを得た。
【0035】
ペースト(26.00g、0.49molのMTS)を脱イオン水(17.35g、0.95mol)で希釈し、さらに40〜45℃まで加熱して、pH8〜9の懸濁液を得た。MTMOS(50.1g、0.36mol)中の暖かい(45℃)僅かに混濁したDBNPA(12.55g、0.051mol)溶液を、混合物に攪拌しながら一度に添加した。この懸濁液を40%のCaClブライン(1.53g、0.0055mol)、次いで10%HCl(2.6g)で処理してpHを2〜3に調整した。強い発熱反応が始まり、混合物は僅かに着色を呈し、均質な懸濁液に転換した。混合物を43〜45℃で2時間攪拌し、ロータリーエバポレーターを用いて、45℃の浴中、200mbarで蒸発させて、MeOHの除去を促した。形成したゲルを、攪拌しながら40〜45℃で一晩中エージングして、ゲルの形成を完了させた。得られたキセロゲルを、ロータリーエバポレーターを用いて、45℃、92mbarで30分間乾燥させた。真空を段階的に11mbarまで上げて、湿った着色粉末を得た。この固体を脱イオン水(150ml)と混合し、40〜45℃で1時間攪拌した。この高温懸濁液を濾過した。湿ったケークを最終的に45℃/2mbarで乾燥させて粉末状材料36.07gを得た。この粉末状材料をすり鉢で粉砕して、Br6.68%(DBNPA10%に対応)を含有するベージュ色の粉末を得た。
【0036】
実施例4(組成物4):
三ケイ酸マグネシウム微粉末(8.00g、0.036mol、BET SSA 300m/g)を、攪拌しながら、MTMOS(50.25g、0.36mol)中の暖かい(45℃)僅かに混濁したDBNPA(12.61g、0.051mol)溶液に導入した。得られた懸濁液を脱イオン水(34.32g、1.89mol)で処理して、pHが8〜9の三相系を得た。10%HCl(約2g)を添加してpHを2に調整した。これにより強い発熱反応が起き始めた。得られた微細懸濁液を、攪拌しながら40〜45℃で2時間エージングし、次いで35分にわたって45℃/200mbarで初期体積の半分に濃縮してMeOHの除去を促した。懸濁液を、攪拌しながら40〜45℃で一晩エージングして、ゲル形成を完了させた。この着色固体を45℃/11mbarで30分にわたって十分に乾燥させ、40〜45℃で1.25時間、脱イオン水(150ml)で処理した。得られた高温懸濁液を濾過した。湿ったケークを最終的に45℃/2mbarで乾燥させて固体材料37.24gを得た。この固体材料をすり鉢で粉砕して、Br8.3%(DBNPA12.6%に対応)を含有する淡褐色の粉末を得た。
【0037】
実施例5(比較)(組成物5):
MgSi(56.4g)の微粉末を0.3%AMA溶液(AMA、120g)と混合して三ケイ酸マグネシウムセラミック粉末スラリーを得た。
【0038】
湿った生成物(5.19g)を60℃の浴中、減圧(10mbar)下ロータリーエバポレーターを用いて乾燥させて、白色の固体2.85gを得た。この白色の固体をすり鉢中で容易に微粉末に粉砕した。
【0039】
実施例6(比較)(組成物6):
アセトニトリル(44.76g)中のDBNPA(15.84g)及びMTMOS(33.24g)の透明な溶液を水(43.76g)で処理した。発熱反応の結果、最初の二相系は1分間で透明な溶液(pH3)に転換した。この混合物を10%HCl(0.167g)で処理してpHを2.5に調整し、30℃で一晩攪拌した。この混濁液を減圧(150mbar)下、51℃浴ロータリーエバポレーターで初期体積の半分に濃縮して、粘性固体46.23gを得た。この混合物を30℃で1時間、水(50ml)で研和した。上澄み液を分離し、残った固体を減圧(5mbar)下、51℃浴エバポレーターで1.5時間乾燥させて固体を得た。この組成物を粉砕して、Br31.8%(DBNPA48.2%に対応)を含有する白色の粉末26.22gを得た。
【0040】
実施例7(組成物7):
アセトニトリル(26.66g、0.643mol)中のDBNPA(18.81g、0.0762mol)溶液をTEOS(50.0g、0.235mol)及びTIPO(16.57g、0.0565mol)の混合物に添加して、透明で僅かに着色した溶液を得た。この混合物を脱イオン水(40.0g、2.2mol)で処理した。これにより、多量の白色の固体(pH5)の沈殿が直ちに誘発された。10%HCl(0.96g)を添加してpHを1.5に調整した。発熱反応が始まり、初期のゲルは攪拌可能な懸濁液に転換した。この混合物を15〜18℃で2時間攪拌し、92mbarの40℃浴エバポレーターで初期体積の2/3に濃縮し、45〜47℃で3.5時間(攪拌せずに)エージングして、ゲルの形成を完了させた。このゲルを15mbarの40℃浴エバポレーターで蒸発・乾燥させて73.09gの固体を得た。この固体を20〜25℃で1時間、脱イオン水(200ml)で研和し、濾過した。この湿った材料を最終的に2mbarの51℃浴エバポレーターで乾燥させて、粉末36.28gを得た。Brの総含有量は28.9%(DBNPAは44%)であった。
【0041】
実施例8(比較)(組成物8):
TEOS(50.52g)、TIPO(16.86g)、アセトニトリル(29.40g)、脱イオン水(40.0g)及び10%HCl(0.96g)を使用したが、DBNPAをこの反応混合物に添加せずに実施例7を繰り返した。白色の微粉末29.45gを得た。
【0042】
実施例9(組成物9):
TEOS(49.59g、0.233mol)をアセトニトリル(42.60g、1.03mol)中のDBNPA(15.10g、0.061mol)溶液に加えた。得られた透明な溶液を、攪拌しながら脱イオン水(44.52g、2.45mol)で処理した。1分後に弱い発熱反応が起こって、pHが3の透明な溶液が得られた。この溶液を、攪拌しながら10%HCl(約0.2g)で処理してpHを2.5に調整し、この反応混合物を30℃で一晩攪拌した。この透明な溶液を30mbarの51℃浴ロータリーエバポレーター中で濃縮した。非晶質固体(一部は内壁に張り付いている)を脱イオン水(50ml)と混合し、30℃で1.25時間攪拌した。上澄み液をデカントし残留物を51℃/5mbarで乾燥させて、白色の固体37.12gを得た。この白色の固体をすり鉢で容易に白色の粉末に粉砕した。総Brは24.3%(DBNPA36.8%に対応)であった。
【0043】
実施例10(比較)(組成物10):
アセトニトリル(14ml)中の透明なDBNPA(3.13g)溶液をアセトニトリル(8ml)中のMgO(15.70g)微粉末懸濁液と混合した。混合物を1時間攪拌し、室温で7日間エージングし、濾過した。湿ったケーク(24.52g)を、ロータリーエバポレーターを用いて50℃/5mbarで乾燥させて、7.5%のBrを含有する粉末17.18gを得た。
【0044】
この粉末を室温で1時間、水(51g)で研和し、濾過し、60℃/10mbarで乾燥させて、0.8%未満のBrを含有する粉末状材料5.3gを得た。
【0045】
実施例11(比較)(組成物11):
非晶質シリカゲルの微粉末(17.8g)、DBNPA(3.6g)及びアセトニトリル(54ml)を用いて実施例10の手順を繰り返した。7.6%のBrを含有する初期含浸物(8.0g)は、水(80g)で研和した後、すべての殺生物剤を実質的に喪失した(残留Brは0.8%未満)。
【0046】
実施例12(比較)(組成物12):
アセトニトリル(11ml)中のDBNPA(1.1121g)溶液と混合した三ケイ酸マグネシウムセラミック粉末スラリー5.52gを用いて実施例5を繰り返した。この懸濁液を室温で7日間エージングしてゲルを得た。ゲル(13.83g)を減圧(400mbar)下、60℃浴ロータリーエバポレーターで乾燥させて、10%のBrを含有する白色の粉末6.36gを得た。
【0047】
この粉末を20〜25℃の水(60g)で1時間研和した後、濾過し、60℃/90mbarのロータリーエバポレーターを用いて乾燥させて、0.8%のBrを含有する白色の粉末5.05gを得た。
【0048】
実施例13(比較)(組成物13):
DBNPA(2.73g)、TIPO(20.0g)、アセトニトリル(8.25g)及び水(3.0g)を用いて実施例7を繰り返した。この懸濁液を一晩20〜25℃で貯蔵し、減圧下60℃浴ロータリーエバポレーターで乾燥させて、16.1%のBrを含有する白色の粉末9.64gを得た。
【0049】
この粉末を20〜25℃の水(51g)で1時間研和した後、濾過し、60℃/90mbarのロータリーエバポレーターを用いて乾燥させて、1.65%のBrを含有する白色の粉末5.38gを得た。
【0050】
バイオ試験データ:
調製した材料の試料を攪拌しながら、高温寒天(約45℃)中に分散させた。寒天中のDBNPAの量は1000又は300ppmであった。この高温懸濁液をペトリ皿に注ぎ、冷却して、試験材料を含有する固体の寒天ゲルを得た。固体の寒天の中心部(内径1cm)をカビA.ニガー(A.niger)を含有する同じサイズの寒天で代替した。皿を28日間インキュベートして、3日後、7日後、14日後、21日後及び28日後の真菌の成長輪の直径を測定した。純粋なDBNPA及び市販の殺生物剤(OTW)を標準として使用した。精度をより確かなものにするために、すべての結果は二度試験された。
【0051】
データを表1に示す。一般的略称は以下の通りである。
TEOS:テトラエトキシシラン
MTMOS:メチルトリメトキシシラン
TIPO:テトライソプロポキシシラン
MeCN:アセトニトリル
AMA:アルギン酸アンモニウム
MTS:三ケイ酸マグネシウム
OTW:N−オクチルイソチアゾリノン
【0052】
【表1−1】


【表1−2】

【0053】
表1のデータは、300ppmのDBNPA濃度における相乗的組成物1、相乗的組成物2a、相乗的組成物3及び相乗的組成物4の強い抗真菌活性を、4週間を超える期間にわたり示している。この活性はOTWの活性に匹敵している。この濃度の未希釈DBNPAは3日間で活性を喪失する。未希釈のDBNPAは、濃度が1000ppmを超える場合のみ活性を示す。単独の相乗剤(例えばMTS(組成物5))はDBNPAと同じ濃度を導入したが、活性化していない。相乗剤なしの組合せ(例えば、DBNPA+MTMOS、組合せ6)、又はMTMOSの代わりにTEOSとの組合せ(例えば、DBNPA+TEOS+TIPO、組成物8、又はDBNPA+TEOS、組合せ8)は、1000ppmの濃度では、未希釈のDBNPAと同じレベルの活性を示している。
【0054】
組成物2a、組成物2b及び組成物2cのデータを比較することにより、粒径が抗真菌活性に顕著な影響を与えることが分かる。
【0055】
MTMOSの加水分解により得られるキセロゲルを含有しない組成物は、DBNPAを保持することができない。このような組成物(例えば、DBNPA+MgO、組成物10、DBNPA+MTS、組成物12、DBNPA+TIPO、組成物13)は、水での洗浄段階で殺生物剤を喪失する。
【0056】
浸出データ:
放出速度を決定するために、組成物を室温で1時間、脱イオン水(液体/固体の比は約10(重量/重量))で研和し、濾過した。湿った組成物の一部(約1〜1.5g)を取り出し、50℃/2mbarで乾燥させ、総Brを分析した。残留した湿ったマトリックスを脱イオン水と混合し、およそ同じL/Sの比を維持(ただし、マトリックスの重量の減少は考慮)して、この手順を繰り返した。合計5回の研和を実施した。図1にデータを示す。
【0057】
データは、DBNPAがドープされた組成物は、段階的に殺生物剤を脱イオン水に放出することを示している。放出速度は、主として、使用されるアルコキシシランに依存している。MTMOSから得られる組成物は、TEOSから調製される組成物よりもゆっくりと殺生物剤を放出する。
【0058】
しかしながら、これらの組成物は、脱イオン水で5回洗浄した後でも生物活性を保持する。このような挙動を示すデータが組成物13について表1にまとめられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)と、セラミック微粉末、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化マグネシウム、及びアルコキシシランを含むキセロゲルから成る群より選択される相乗量の少なくとも1種の成分と、を含む殺生物組成物。
【請求項2】
DBNPA単独の場合と比較して強い抗真菌活性を示す、請求項1に記載の殺生物組成物。
【請求項3】
DBNPAと、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)に由来する一定量のキセロゲルと、を含む、請求項1に記載の殺生物組成物。
【請求項4】
チタンイソプロポキシド(TIPO)又は三ケイ酸マグネシウム(MTS)微粉末がドープされたアルコキシシランから作られたキセロゲルを含む、請求項1に記載の殺生物組成物。
【請求項5】
結合剤を含む、請求項1に記載の殺生物組成物。
【請求項6】
アルギナートを結合剤として含む、請求項1に記載の殺生物組成物。
【請求項7】
広域スペクトル殺生物組成物の調製方法であって、
i)本質的に透明なDBNPA溶液を調製するステップと、
ii)前記DBNPAを、MTS及びTIPOから選択される成分と接触させるステップと、
iii)ステップii)の前又は後に前記DBNPAを水と接触させるステップと、
を含む方法。
【請求項8】
アルコキシシラン又はアセトニトリルを含む溶媒に前記DBNPAを溶解することにより前記溶液を調製する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ゲルの形成ステップを含み、任意選択で前記ゲルの乾燥ステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
カプセル化されたDBNPAを固体マトリックスに取り込むステップと、得られた粒子の表面を加工するステップと、を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
i)DBNPA、アルコキシシラン、TIPO又はMTS、及び任意選択で有機溶媒の混合物を調製するステップと、
ii)混合物を水で処理してアルコキシシランの加水分解を誘発するステップと、
iii)混合物をエージングして無機ガラス状ゲルの形成を完了するステップと、
iv)形成したゲルを乾燥させて固体粉末状のキセロゲルを得るステップと、
v)キセロゲルを水で洗浄して、残存する遊離(カプセル化されていない)DBNPAを除去するステップと、
vi)最後に、湿った組成物を乾燥させるステップと、
vii)固体組成物を粉砕して、最終的な製剤化されたDBNPA微粉末を得るステップと、
を含み、それにより、無機マトリックスでカプセル化されたDBNPAを得る、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
水性容積又は水性表面を殺菌する方法であって、前記容積又は表面を請求項1に記載の殺生物組成物に接触させるステップを含む方法。
【請求項13】
前記組成物を塗料、被膜、プラスター及びプラスチックに取り込むステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記容積又は表面はフィルター又はカートリッジを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記容積又は表面は産業掘削で使用される材料及び装置を含み、前記組成物は、任意選択で、固体マトリックスがドリルに注入されている刺激又は破砕段階で使用される、請求項12に記載の方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2013−509398(P2013−509398A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536010(P2012−536010)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【国際出願番号】PCT/IL2010/000848
【国際公開番号】WO2011/051932
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(500165175)ブローミン コンパウンズ リミテッド (9)
【Fターム(参考)】