説明

広域抗菌剤を有するエラストマー物品およびその製造方法

生体活性物質をポリマーに含浸させる方法であって、生体活性金属、生体活性金属が不溶な第1溶媒、および生体活性金属が僅かに可溶な第2溶媒を含む生体活性金属溶液を調製する工程を含む方法。本方法は、生体活性金属溶液中にポリマーを浸漬する工程も含む。ポリマーに生体活性物質を含浸させる別の方法として、該ポリマーを膨潤溶媒に浸漬した後、生体活性金属、および生体活性金属が僅かに可溶な溶媒を含む生体活性金属溶液中に該ポリマーを浸漬する工程を含む。生体活性金属含浸ポリマーは、生体活性金属、生体活性金属が不溶な膨張溶媒、および生体活性金属が僅かに可溶な第2溶媒を含む飽和生体活性金属溶液中にポリマーを浸漬することで調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広域抗菌剤を有するエラストマー物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米国では毎年、院内感染で約10万人が死亡している。多数の死亡例が、留置器具または体組織・血流との間接的接触(無針コネクタなど)によるか否かにかかわらず、医療機器の使用に関連している。さらに160万人がこのような感染に罹患し、回復するには平均費用が1症例当たり約3万ドルかかっている。これらの症状の発現に共通の要因は、医療機器表面の微生物の存在、付着および増殖である。微生物は表面増殖に依存しており、バイオフィルムが表面に形成され、そのフィルムは、一般的に使用される抗殺菌剤や全身性抗生物質に高い耐性を示す菌種からなる。
【0003】
医療機器の使用により感染のリスクを増大させるような方法は多数存在する。特に外部と通じる機器は、微生物がコロニー形成し、患者の体内へ接近する表面を提供している。このような機器に関連する感染は通常、埋め込まれる機器および/または傷口と間接的に接触する機器、あるいは体内の開口部に導入されるカテーテルに接続する機器に関連している。例としては、尿路カテーテルドレナージ管、透析カテーテル、中心静脈カテーテル、および無針コネクタがあるが、これらに限定されない。このような医療機器の微生物汚染は一般的である。金属面または非金属面にかかわらず、医療機器に接触する細菌の増殖を妨げないとバイオフィルムが形成し易くなる。バイオフィルムが一旦形成されると、感染の可能性のある微生物により永久にコロニー形成される。したがって、機器表面での細菌の付着と増殖を防止することは、機器による感染防止の中核となる対策である。
【発明の概要】
【0004】
ポリマーに生体活性物質を含浸させる方法であって、生体活性金属、該生体活性金属が不溶な第1溶媒、および該生体活性金属が僅かに可溶な第2溶媒を含む生体活性金属溶液を調製する工程を含む方法である。また該方法は、該生体活性金属溶液中に該ポリマーを浸漬する工程も含む。
【0005】
ポリマーに生体活性物質を含浸させる別の方法は、生体活性金属および生体活性金属が僅かに可溶な混合溶媒を含む生体活性金属溶液を調製する工程を含む。また該方法は、該生体活性金属溶液中に該ポリマーを浸漬する工程も含む。
【0006】
ポリマーに生体活性金属を含浸させるさらなる方法は、約5分から約1時間、膨潤溶媒中にポリマーを浸漬する工程を含む。該方法は、該生体活性金属および該生体活性金属が僅かに可溶な溶媒を含む生体活性金属溶液中にポリマーを浸漬する工程も含む。
【0007】
生体活性金属含浸ポリマーは、生体活性金属、該生体活性金属が不溶な膨潤溶媒、および該生体活性金属が僅かに可溶な第2溶媒を含む飽和生体活性金属溶液の中にポリマーを浸漬する工程により調製される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一つの実施形態にしたがって硝酸銀を含浸させたポリイソプレン物品について得られた抑制領域の結果を図示したもの。
【図2】本発明の一つの実施形態にしたがって処理したポリイソプレンからの銀イオンの累積溶出量を図示したもの。
【図3】様々な溶媒組成を用いて、ポリイソプレン内に含浸させた銀の量を図示したもの。
【発明を実施するための形態】
【0009】
従来の技術や先端技術は一般的に、機器を一つ以上の抗菌剤と組み合わせて、微生物コロニー形成および/またはバイオフィルム形成を防ぐ方法に焦点を当てていた。これらの技術の本質的原理は、抗菌剤が時間とともに機器表面から放出されることにある。この方法は、直接機器表面から周囲の組織や領域に抗菌剤を溶出させるものである。この方法であれば、機器に関連する局所的感染を抑制するための全身的処置のみへの依存を最小限としたり、回避できるようになる。このような機器の改良は通常、基質物質(ポリマー製機器の場合)内への抗菌剤の組み込み、および/または機器表面コーティングへの抗菌剤の組み込みにより達成される。そのような改変機器が体液また水溶液に曝露されると、抗菌剤が機器から溶出または浸出し、それにより微生物のコロニー形成またはバイオフィルムの形成を防ぐ。さらに、機器と直接接触する部分にある微生物は、増殖速度が有意に減少するか死滅することになろう。
【0010】
ポリマー基質を適切な溶媒で膨潤させると基質物質中に孔および溝が開くかまたは広がり、これらの孔および溝内で、溶解した生体活性化合物の吸収および堆積が可能となる。膨潤溶媒に最も効率よく溶解する化学種は、低分子量から中間分子量の有機化合物である。これらの化合物はまた、重合物質内に最も効率よく吸収される。さらに、適切な膨潤溶媒に溶解するいずれの化学種も、ポリマー内に吸収されることができる。
【0011】
米国特許第4,917,686号明細書で、Baystonは、溶解した抗菌剤、リファンピンおよびクリンダマイシンを含む膨潤剤を使って、医療機器に付与された抗菌特性について述べている。シリコーンが十分な期間膨潤剤に曝露されると、基質の膨潤を促進し、その結果、基質の膨潤した分子内スペース中に、抗菌剤が拡散および移動できるようになる。次に溶媒は除去され、分子内スペースは抗菌剤と共にもとのサイズと形に戻り、抗菌剤は、これに続いて表面からの継続的な移動および表面を介した拡散により均一に分布する。
【0012】
米国特許第5,624,704号及び第5,902,283号明細書で、Darouicheは、非金属医療インプラントへの抗菌剤の含浸を実施した。これは、有機溶媒中で有機物を基剤とした抗菌剤を効果的な濃度で溶解させるステップと、さらに抗菌組成物が医療インプラントの材料物質に含浸されるように促す条件下で、その組成物に別の浸透剤とアルカリ化剤を添加するステップを含むものである。Darouicheは、水酸化ナトリウムのようなアルカリ化剤は基質の反応性を高めると主張している。浸透剤である酢酸エチルは、抗菌剤の医療機器材料への含浸を促進させる。この含浸方法は、基質に添加された抗菌物質が大量であるために、有効性プロフィールが拡大された。
【0013】
ポリマーを一つの溶媒で膨潤させた後にポリマーに含浸させるという方法で起こりうる問題としては、a)マトリックス内での生体活性化合物の存在によるポリマーの物理的性質の変化、b)溶媒および/または熱源への曝露によるポリマーの分解と強度の低下、およびc)膨潤と縮小によるポリマーの物理的性質の変化、がある。エラストマー系ポリマーを有機溶媒に接触させると、エラストマーの強度低下さらには溶解の現象を示すことがしばしばある。
【0014】
銀イオン(I)の持続放出をもたらす抗菌剤の使用は、医療用途において広がっている。典型的な抗菌剤はスルファジアジン銀であり、火傷の用途で広く使われている。スルファジアジン銀からの銀の放出速度は、硝酸銀で観察された速度と、例えばスルファチアゾール銀で観察される非常に遅い速度の中間である。抗菌剤を含むポリマーでコーティングされた留置医療器具は、器具を数時間以上微生物から保護することが目的であれば、器具を微生物のコロニー形成から保護するために、ある程度の持続放出を必要とする。スルファジアジン銀は、そのような持続放出を呈することが知られており、現在市場に出回っている機器に使用されている。
【0015】
このような材料の表面での微生物のコロニー形成を防ぐか軽減するために、銀および銀化合物をポリマー材料と組み合わせて使用することへの関心は、この数十年間に高まってきた。ポリマーと組み合わせる上で最も一般的な銀の形態は、微粉金属銀、銀塩、銀酸化物および銀キレート化合物である。銀をポリマーに塗布する際使用する一般的な手段は、ポリマー表面にコーティングするかまたはそのコーティング内に含ませることである。各種の銀形態のうちの一つを含む親水性コーティングは、その一例である。このようなコーティング技術では、一般的に微粉銀または高度に難溶性の銀化合物を使用して、銀の溶出速度を低下させる。含浸技術としては、析出挙動が非常に制御しやすい性質を有する、塩化銀のような難溶性または僅かに可溶性の銀塩を使用する。例えばクエン酸ナトリウムなどを使用して、銀イオンを金属銀粒子に化学的に還元する方法も、コーティングおよび含浸工程で使用されてきた。もう一つの関連技術として、プレポリマー混合物が成型または押出される前に、銀または銀化合物をその混合物に加えるという方法がある。抗菌効果、製造コスト、色の変化、得られるポリマーの物理的性質が変化する可能性など、各方法に長所と短所がある。含浸用溶媒の使用、またはプレポリマー混合物の成分としての銀の使用によって、銀化合物のような微量殺菌作用を呈する金属をポリマーに含浸させ、効率のよい溶出プロフィールを得ることは、予想よりも困難であることが判明した。コーティングに含まれる銀イオンは速く溶出する傾向があるが、押出品または成型品内に取り込まれた銀イオンは、物品内で顕著に長く保持されうる。
【0016】
Illner, H.らによる報告(Illner, H., Hsia, W. C, Rikert, S. L., Tran, R. M., and Straus, D. (1989) Use of topical antiseptic in prophylaxis of catheter-related septic complications.Surg Gynecol Obstet 168, 481-490)では、硝酸銀で飽和させたエタノール95%と水溶液5%とを使用した、シリコーンゴムカテーテルとポリエチレンカテーテルの含浸について説明している。抗菌性を最大にするため、シリコーンカテーテルを1〜6週間浸漬した。ポリエチレンの試験は、in vitroでの効力が低かったため短期で切り上げられた。処理したシリコーンをリン酸緩衝生理食塩液(PBS)に6週間浸した後、その物品を寒天プレートに移し、抑制領域(ZOI)実験を行った。実験は、不満の残る結果となった。Illnerは、ゲンチアナバイオレットと硝酸銀の混合物をシリコーンゴムとポリウレタンに含浸させたこと記載した特許(米国特許第5,709,67号)を取得した。
【0017】
上記各種銀化合物について言及したように、銀(I)と対合しうる多数の対イオンが存在する。これらの対イオンのサブセットが、様々な医療への応用に必要とされる放出速度を発揮することになる。あまり知られていない対イオンの一例として、炭素‐炭素二重結合があり、銀(I)と化合物を形成することが知られている。この結合の性質は、銀原子で空の5s軌道にオレフィンのπ供与の結果と、銀とのσ結合を形成することにより起こる。これは、占有されている銀の4d軌道から、空のオレフィンπ−2p反結合性軌道への逆供与により達成される。この結合の形成は通常可逆性であり、機器への適用に活用可能な特徴である。例えば、銀は溶媒和条件下で、オレフィン(機器内または機器上に含まれる)に結合できる可能性がある。溶媒除去後、その時点でオレフィンに結合している銀イオンは、機器表面で、また使用条件によっては機器内部で抗菌剤として使用可能な状態のままとなる。銀イオンは、使用条件下で水和されるとすぐに、オレフィン部分から放出され、次いで遊離して抗菌効果を発揮する。ポリイソプレンポリマーに含まれるオレフィン結合は、ポリイソプレンが硝酸銀を含む膨潤溶媒に曝露されると直ちに銀イオンと結合することが示されている。さらに、銀は水溶性条件に曝露されるとゆっくり放出され、対象の本工程で処置された物品に対するこのような状態のもとで、長時間の抗菌効果を提供する。
【0018】
銀塩をエラストマーと組み合わせる当該分野の従来技術には、本明細書で示す発明のような、銀の組込み速度が速く、または銀の総量が高い(重量%)結果を示したものはない。従来の銀塩含浸技術では、かなり少量の銀塩をゆっくりポリマーに組み込んでいた。例えば、クロロホルムと硝酸銀の混合物にエラストマーを添加しても、銀のエラストマーへの組込みは起こらない(数日浸した後でも同様)。メタノールまたはエタノールと硝酸銀との混合物にエラストマーを添加すると、銀のエラストマー内への組込みがほんの僅かに起こる(長時間にわたる浸漬後)。銀塩がほんの僅かに可溶である溶媒を使用してIllnerが示した例(上述)では、1〜6週間かかっている。実験から、硝酸銀が不溶なクロロホルムでは、銀塩はポリマー内に含浸されないことが明らかとなった。クロロホルムをメタノールまたはエタノールと混合すると、驚くべき結果となる。つまり、銀の組込み速度は、クロロホルムとアルコールの特定混合比で劇的に増加する。予想外であるが、硝酸銀が極めて不溶な溶媒を用いると、組込み速度を有意に速く、さらに硝酸銀の含浸量を相当高くすることができる。この工程は、従来技術において、特有の溶媒の組み合わせとその含浸速度への効果から発見されたものとは区別される。組込み速度の増加に加え、得られる銀(I)イオン溶出プロフィールが延長される。それは、物品に充填された銀量の増加、および銀と相互作用するポリイソプレンによりもたらされた放出速度に起因している。ポリマー材料に可溶形態のイオン化銀を含浸させ、溶出の延長プロフィールを得ることは難しい。
【0019】
他に記載のない限り、本明細書で使用する技術的、科学的および医学的用語は、当業者により理解される意味と同じである。しかし、本出願で使用される様々な用語の裏付けを明確にするするために、以下のようにな用語の技術的定義を参考として記載する。
【0020】
本明細書で使われる「過剰」という用語は、飽和、半飽和、または過飽和溶液となる量を指す。
本明細書で使われる「膨潤性」という用語は、溶媒に曝露されたときサイズが増大するポリマー物品を指す。
【0021】
本発明は、広域抗菌性の生体活性金属を組み込んだポリマーおよびそのポリマーの製造方法を提供する。生成されたポリマーは生体活性金属の溶出を遅延させる。適切な生体活性金属には銀(I)イオン、銅(II)イオン、亜鉛イオン、および他の金属イオンの供給源があるが、これらに限定されない。本発明によると、ポリマーには、混合溶媒を用いて生体活性金属を含浸させる。ポリマー内に組み込まれた生体活性金属の量は、従来の技術に比べて、一定の含浸時間(つまり反応時間)内に大幅に増加する。この有意な処理速度の増加を補完して、組み込まれた生体活性金属は、処理されたポリマーが水性条件に曝露されると、広域抗菌作用を持つ、金属イオン(銀イオンなど)として溶出する。生体活性金属の溶出は、微生物の増殖を最大6週間またはそれ以上防止するのに有効な速度で起こる。一つの実施形態では、生体活性金属は銀(I)イオンの供給源である。銀(I)イオンの供給源を提供する適切な銀塩の例としては、硝酸銀、スルファジアジン銀、スルファチアゾール銀および塩化銀があるが、これらに限定されない。
【0022】
一つの実施形態において、生体活性金属は第1の溶媒または混合溶媒に不溶である。また、生体活性金属は、第2の溶媒または混合溶媒に僅かに可溶である。第1および第2溶媒を生体活性金属と混合し、生体活性金属溶液を調製する。生体活性金属溶液は、溶液中の生体活性金属の量と条件からみて、飽和溶液、過飽和溶液または不飽和溶液である。生体活性金属溶液を調製した後、ポリマーを生体活性金属溶液に浸漬し、生体活性金属をポリマーの内部と表面に含浸させる。
【0023】
典型的な一実施形態では、生体活性金属は上述のような銀塩である。特定の銀塩の一つである硝酸銀が不溶である溶媒の例には、芳香族炭化水素(キシレンなど)、塩素化炭化水素(クロロホルムなど)、エステル/酢酸塩(酢酸エチルなど)、脂肪族炭化水素(ヘキサンなど)、環状アルカン類(シクロヘキサンなど)、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。典型的な実施形態では、非極性有機溶媒が好ましいが、エラストマーを膨潤させる僅かに極性の溶媒も本発明で使用される溶媒の候補である。これらの僅かに極性の溶媒には、アルコール(ヘキサノールなど)、ニトリル類(アセトニトリルなど)、ケトン類(アセトンなど)、アミン類(イソプロピルアミンなど)、ヘテロ環状溶媒(テトラヒドロフランなど)、エーテル類(ジエチルエーテルなど)、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、溶解性と含浸速度を変化させるために、上記溶媒に他の添加物を追加することもできる。
【0024】
硝酸銀が僅かに可溶な溶媒には、非極性有機溶媒にも混合可能であるさまざまな極性または僅かに極性の溶媒が含まれる。その例には、アルコール(エタノールなど)、ニトリル類(アセトニトリルなど)、ケトン類(アセトンなど)、アミン類(イソプロピルアミンなど)、ヘテロ環状溶媒(テトラヒドロフランなど)、多官能性溶媒(トリエタノールアミンなど)、エーテル類(ジエチルエーテルなど)、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、溶解性と含浸速度を変化させるために、上記溶媒に他の添加物を追加することもできる。
【0025】
生体活性金属を含浸させる適切なポリマーには、ポリイソプレンおよび他のエラストマー系ポリマーが含まれる。シリコーンのような以前に使用されたポリマーと比べ、ポリイソプレンは、銀に対し優れた含浸性と放出性を有することが見出された。本明細書で記載されている混合溶媒を使って銀を含浸させたポリイソプレンは、従来技術で開示されていない銀イオンの溶出プロフィールをもたらす。さらに、硝酸銀のポリイソプレンへの含浸速度は、開示した条件下では格別に迅速な工程であり、非常に効率のよい製造工程を提供するものである。
【0026】
ポリイソプレンは、硝酸銀の優れた取り込みと溶出の特性に加え、膨潤溶媒中での分解に対する耐性が他のエラストマーよりも優れている。多くのエラストマー系ポリマーについて実施された実験中で、過酸化物硬化性ポリイソプレンは、膨潤溶媒の除去、およびそれに続く乾燥後に起こる分解および他の物理的性質の変化に対して抵抗性が著しく高いことが観察された。シリコーン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、および天然ゴムラテックスエラストマーは浸漬24時間以内に分解したが、これに対して過酸化物硬化性ポリイソプレンは、分解したり、また一旦乾燥すれば大きな物理的変化を示すことなく、同じ溶媒に数週間浸漬可能であった。
【0027】
生体活性金属の含浸の適切なレベルは、コーティングされる物品、選択される特定の生体活性金属、その他の要因によって変化しうる。本発明は、生体活性金属を約0.10〜約15重量%含むような含浸ポリマーを提供する。これらのレベルに到達させるには、ポリマーを生体活性金属溶液に約30秒〜約48時間浸漬する。実施形態によっては、目標とする含浸は、約10分〜約24時間で達成される。他の実施形態では、目標とする含浸は約3時間以下で達成される。これらの時間枠は、従来技術で記載されているものよりも有意に速い(例えばIllnerは1〜6週間の浸漬時間を記載している)。
【0028】
実施形態によっては、ポリイソプレン(または他のエラストマー系ポリマー)を、硝酸銀を含む、クロロホルムあるいはクロロホルム/アルコール、または酢酸ブチル、またはそれらの混合物(ただしエラストマー系ポリマーを膨潤させるいずれの溶媒も使用可能)中に、約−10℃〜約100℃の温度で約30秒〜48時間浸漬する。選択する温度と浸漬時間は、エラストマー系ポリマー中および/あるいはエラストマー系ポリマー上の硝酸銀の任意の投入量によってある程度違いがある。
【0029】
生体活性金属をよく溶解する溶媒のみを使用する場合と比べて、組込み速度を有意に速め、生体活性金属の含浸量を相当に高めることができる。この工程は、特有の溶媒の組み合わせとその含浸速度への効果により、従来技術に見られるものよりも顕著に優れている。得られる溶出速度も、本方法を使用した結果ポリマー中に充填される銀量の増加、ならびに銀との相互作用によって含浸ポリマーによりもたらされる放出速度の両要因によって遅延される。
【0030】
別の実施形態では、生体活性金属を含浸させたポリマーは、もう一つの抗菌剤または他の生体活性化合物を含んでいる。抗菌剤の例として、リファンピン、クリンダマイシン、ミノサイクリン、クロルヘキシジン、スルファジアジン、エリスロマイシン、ノルフロキサシン、トブラマイシン、ミコナゾール、4級アンモニウム塩、および他の抗菌剤が挙げられるが、これらに限定されない。抗菌剤または生体活性物質は、硝酸銀の浸漬ステップ中または別の浸漬ステップ中に含浸させてもよい。別の浸漬ステップは、硝酸銀の浸漬ステップの前または後に行ってもよい。
【0031】
本発明は、医療機器の製造に一般的に用いられる他のタイプのエラストマーが分解するとされている時間と温度で、膨潤溶媒中にポリマーを浸漬することにより、抗菌剤または他の生体活性物質をポリマーに含浸させる方法を含む。別の実施形態では、溶媒または混合溶媒中で膨潤能力のあるエラストマー系ポリマーの使用が含まれる。
【0032】
本発明の別の実施形態では、ポリマー(ポリイソプレンまたは別のエラストマー系ポリマー)を、まず膨潤溶媒または膨潤剤中に約20℃〜約100℃で約5分〜約1時間浸漬する。続いて、ポリマーを膨潤溶媒から取り出し、生体活性金属および生体活性金属が僅かに可溶な溶媒を含む溶液中に浸漬する。上述のポリマー、生体活性金属、溶媒および追加の抗菌剤もこの実施形態において使用できる。さらに、生体活性金属溶液に使用する溶媒は、最初のステップで膨潤剤として使用された溶媒と同一であってもよい。
【0033】
本発明の別の実施形態では、生体活性金属溶液は、生体活性金属および生体活性金属が僅かに可溶な混合溶媒を含むように調製することもできる。ポリマーを生体活性金属溶液中に約10分から約3時間浸漬してもよい。上述のポリマー、生体活性金属および別の抗菌剤もこの実施形態において使用できる。適切な混合溶媒として、酢酸エチル、酢酸ブチル、アルコールおよびそれらの混合物を含むことができる。
【実施例】
【0034】
実施例1
過剰の硝酸銀をクロロホルム77%、無水アルコール22%、および脱イオン水1%(脱イオン水)の混合溶媒(容量%)に加えた。容器を密閉し、混合物を48℃で10分間撹拌した。続いて溶液を攪拌しながらポリイソプレン物品を溶液に45分間浸漬し、取り出してアルコール95%(エタノールまたはイソプロピルアルコール)および水5%の混合液で数回洗浄した。加熱、減圧、またはその両方を行い、膨潤したポリイソプレン物品から残った溶媒を除去した。減圧は、真空により殆どまたはすべての残留溶媒を処理物品から取り除くことを意味する。いずれの場合でも、ポリイソプレン物品の物理的性質を保持するため、加熱温度は80℃未満に保たれた。
【0035】
重量約58mgのポリイソプレン物品には、上述の方法で硝酸銀を含浸させた。すべての物品はガンマ照射または酸化エチレンにより滅菌し、続いて抑制領域(ZOI)の実験を行った。処理物品に、グラム陽性種およびグラム陰性種、ならびに一つの酵母(すべて臨床分離株)から選択した以下に示す微生物を投与した:S. aureus(黄色ブドウ状菌)、C. albicans(カンジダ・アルビカンス)、P. aeruginosa(緑膿菌)、K. pneumoniae(肺炎桿菌)、E. faecalis(大便レンサ球菌)、E. coli(大腸菌)、およびS. epidermidis(表皮ブドウ球菌)。処理物品は、9日間のうちに合計7回、新たに植菌したミューラーヒントン(Mueller Hinton)寒天プレートに移した。表1に示したものは、硝酸銀で処理したポリイソプレンの各種プレートでのZOI試験(7日間)の結果である。各領域の直径をミリメートル(mm)で計り、ポリイソプレン物品には陽性対照および陰性対照も伴って実施した(これは表示されていない)。
【0036】
【表1】



表1(a〜g)は、実施例1の方法で硝酸銀を含浸させ、ガンマ照射(ガンマ)と酸化エチレン(ETO)で滅菌したポリイソプレン物品の抑制領域(ZOI)の結果を示したものである。試料は各滅菌工程で2つ使用された。寒天プレートには以下の微生物を植菌した:E. coli(大腸菌)、E. faecalis(大便レンサ球菌)、K. pneumoniae(肺炎桿菌)、P. aeruginosa(緑膿菌)、C. albicans(カンジダ・アルビカンス)、S. aureus(黄色ブドウ状菌)、およびS. epidermidis(表皮ブドウ球菌)。これらを約34℃で12〜18時間培養して微生物を増殖させ、視覚化した。各領域の直径はミリメートルで報告されている。試験物品は、各プレートにつき陽性および陰性対照の物品を伴っており、その結果、陽性対照(10μgゲンタマイシンのディスク)に対し予想された抑制が得られ、陰性対照(未処理のポリイソプレン物品)では、最大で該物品までの増殖に達した。対照の結果は示していない。
【0037】
実施例2(抗菌効力の延長)
ポリイソプレン物品には、実施例1で使用した方法の改変版を使用して硝酸銀を含浸させた。ポリイソプレン物品の浸漬時間を1.5時間から45分に変えた点のみが異なる。すべての物品はガンマ照射または酸化エチレンへの曝露により滅菌し、続いて抑制領域(ZOI)の実験を行った。処理部分に、グラム陽性種およびグラム陰性種と、一つの酵母(すべて臨床分離株)から選択した以下に示す微生物を投与した:S. aureus(黄色ブドウ状菌)、C. albicans(カンジダ・アルビカンス)、P. aeruginosa(緑膿菌)、K. pneumoniae(肺炎桿菌)、E. faecalis(大便レンサ球菌)、E. coli(大腸菌)、およびS. epidermidis(表皮ブドウ球菌)。処理部分を、43日間のうちに合計31回、新たに植菌したミューラーヒントン寒天プレートに移した。データを図1にまとめた。
【0038】
図1は各種プレートの抑制領域実験の結果を示し、この実験では植菌と培養は上述の通りに実施し、該物品を毎日寒天プレートから取り出し、調製した植菌プレートに移動させた(移動させない日は、移動時まで留置した)。該物品を43日間で合計31回移動させた。各領域の直径はミリメートルで報告されている。
【0039】
図2は、22℃の脱イオン水中の銀イオンの累積溶出量を示す。実施例2で述べたように調製したポリイソプレン物品を35mL脱イオン水中で撹拌した。指定した時点で、原子吸光スペクトルによる銀量測定のため少量を取り出した。
【0040】
実施例3(本工程と従来技術で示された工程との比較)
硝酸銀の飽和溶液を用いて48℃で1時間(A)および1.5時間(B)、各重量約58mgのポリイソプレン物品内に硝酸銀を含浸させた。さまざまな溶媒組成を表2に示し、得られた銀の総量を図3に示す。
【0041】
【表2】

表2は、ポリイソプレンに硝酸銀を含浸させるために使用した溶媒組成(相対容量による)の種類を示す。これらの組成は、本発明の方法と従来技術に記載されている方法とを比較する目的でここに示されている。以前の工程と比較した本主題の工程の有利な点は、以降に記載されている図3から明白である。図3は、硝酸銀の飽和溶液を用いて48℃で1時間(a)および1.5時間(b)、約58mgのポリイソプレン内に含浸させた銀の合計量をミリグラムで表している。試料1〜11は表2に示す各種溶媒組成を表す。そのうち試料6と11は従来技術で記載されている組成であり、本工程の優位性を示すことに役立っている。これらの組成はまた、各種アルコールが結果に大きな影響を与えずに使用できることを明示している。これらの実験結果は、使用した各種混合溶媒間に明確な差があることを示している。
【0042】
実施例4
過剰な硝酸銀を、クロロホルム77%と無水エタノール23%の混合溶媒(容量%)に加えた。容器を密閉し、混合物を48℃で10分間撹拌した。続いて溶液を攪拌しながらポリイソプレン物品を45分間浸漬し、アルコール95%(エタノールまたはイソプロピルアルコール)および水5%の混合液で数回洗浄した。加熱、減圧、またはその両方を行い、膨潤したポリイソプレン物品から残った溶媒を除去した。いずれの場合でも、ポリイソプレン物品の物理的性質を保持するために、加熱温度は80℃未満に保たれた。
【0043】
これらの実施例は硝酸銀を含浸させたポリイソプレン物品を生成する特定の方法を提供しているが、本目標に到達する唯一の方法を表しているわけではない。溶媒比、物品浸漬時間などの実験パラメータは、物品の望ましい物理的および抗菌的性質に応じて変更してもよい。
【0044】
本発明は典型的な実施形態に言及して説明されているが、さまざまに変更してもよく、本発明の範囲から離れることなく、同等な要素と入れ替えてもよいことは、当業者によっても理解されることである。さらに、本質的な範囲を離れることなく、本発明を教示する特定の状況または材料を採用するために、多数の改変をしてもよい。したがって、本発明は開示される特定の実施形態に限定されず、本発明は添付の請求項の範囲内に包含されるすべての実施形態を含むことを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約0.10重量%〜約15重量%の濃度で生体活性金属をポリマーに含浸させる方法であって、
生体活性金属、生体活性金属が不溶な第1溶媒、および生体活性金属が僅かに可溶な第2溶媒を含む生体活性金属溶液を調製する工程、および
生体活性金属溶液中にポリマーを浸漬する工程
を含む方法。
【請求項2】
生体活性金属は銀(I)イオンの供給源である請求項1記載の方法。
【請求項3】
生体活性金属は、硝酸銀、スルファジアジン銀、スルファチアゾール銀、塩化銀およびそれらの組み合わせからなるグループから選択される請求項2記載の方法。
【請求項4】
ポリマーはポリイソプレンである請求項1記載の方法。
【請求項5】
生体活性金属溶液は、ポリマー1g当たり約0.005〜約0.5gの生体活性金属を含有する請求項1記載の方法。
【請求項6】
ポリマーを生体活性金属溶液に約10分〜約3時間浸漬した後、ポリマーに生体活性金属の目標量を含浸させる請求項5記載の方法。
【請求項7】
ポリマーを抗菌剤溶液に浸漬する工程をさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項8】
抗菌剤溶液の成分は、リファンピン、クリンダマイシン、ミノサイクリン、クロルヘキシジン、スルファジアジン、エリスロマイシン、ノルフロキサシン、トブラマイシン、ミコナゾール、4級アンモニウム塩、およびそれらの組み合わせからなるグループから選択される請求項7記載の方法。
【請求項9】
ポリマーは生体活性金属溶液および抗菌剤溶液に同時に浸漬される請求項7記載の方法。
【請求項10】
約0.10重量%〜約15重量%の生体活性金属をポリマーに迅速に含浸させる方法であって、
生体活性金属および生体活性金属が僅かに可溶な混合溶媒を含む生体活性金属溶液を調製する工程、および
ポリマーを生体活性金属溶液中に約10分〜約3時間浸漬する工程
を含む方法。
【請求項11】
約0.10重量%〜約15重量%の生体活性金属をポリマーに迅速に含浸させる方法であって、
ポリマーを膨潤溶媒に約5分〜約1時間浸漬する工程、および
ポリマーを生体活性金属および生体活性金属が僅かに可溶な混合溶媒を含む生体活性金属溶液に浸漬する工程
を含む方法。
【請求項12】
ポリマーはポリイソプレンであり、かつ生体活性金属は、硝酸銀、スルファジアジン銀、スルファチアゾール銀、塩化銀およびそれらの組み合わせからなるグループから選択される請求項11記載の方法。
【請求項13】
生体活性金属溶液の溶媒は、膨潤溶媒と同一である請求項11記載の方法。
【請求項14】
膨潤性ポリマーを、リファンピン、クリンダマイシン、ミノサイクリン、クロルヘキシジン、スルファジアジン、エリスロマイシン、ノルフロキサシン、トブラマイシン、ミコナゾール、4級アンモニウム塩、およびそれらの組み合わせからなるグループから選択される成分を含む抗菌剤溶液中に浸漬する工程をさらに含む請求項11記載の方法。
【請求項15】
膨潤性ポリマーは、硝酸銀の飽和溶液および抗菌剤溶液に同時に浸漬される請求項14記載の方法。
【請求項16】
生体活性金属含浸ポリマーであって、生体活性金属、生体活性金属が不溶な膨潤溶媒、および生体活性金属が僅かに可溶な第2溶媒を含む飽和生体活性金属溶液中に浸漬させたポリマー。
【請求項17】
生体活性金属は、硝酸銀、スルファジアジン銀、スルファチアゾール銀、塩化銀およびそれらの組み合わせからなるグループから選択される請求項16記載の生体活性金属含浸ポリマー。
【請求項18】
ポリマーはポリイソプレンである請求項16記載の生体活性金属含浸ポリマー。
【請求項19】
生体活性金属溶液は、ポリマー1g当たり約0.005〜約0.5gの生体活性金属を含む請求項16記載の生体活性金属含浸ポリマー。
【請求項20】
リファンピン、クリンダマイシン、ミノサイクリン、クロルヘキシジン、スルファジアジン、エリスロマイシン、ノルフロキサシン、トブラマイシン、ミコナゾール、4級アンモニウム塩、およびそれらの組み合わせからなるグループから選択される抗菌剤をさらに含む請求項16記載の生体活性金属含浸ポリマー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2012−501791(P2012−501791A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526863(P2011−526863)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/005103
【国際公開番号】WO2010/030374
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(506362668)バクテリン インターナショナル, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】