説明

広帯域位相差板及びそれを有する光ピックアップ装置

【課題】逆分散特性を持つ樹脂材料のうち、ある特定の位相差条件を満足する有機高分子フィルム材料を検討することで、フィルム1枚で複数の使用波長において位相差特性を満足させることが可能な広帯域位相差板及びそれを有する光ピックアップ装置を提供する。
【解決手段】逆分散特性を持つ有機高分子フィルム材料である樹脂材料から形成される広帯域位相差板である。CD、DVD、又はBlu−rayで使用される少なくとも2つの光の波長をλa、λb、その波長での位相差をRa、Rbとすると、
0.813≦(Ra/λa)/(Rb/λb)≦1.230
を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD(登録商標)、DVD(登録商標)、Blu−ray Disk(登録商標)などのディスクの再生・読取のために好適に用いられる広帯域位相差板及びそれを有する光ピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ピックアップに用いられている光学部品である位相差板は、そのピックアップに用いられている光の波長全てに機能することが理想である。
【0003】
このため、DVDやBlu−rayディスクドライブに用いられている位相差板は、読み取りあるいは書き込みを行う2つあるいは3つの波長の全てに対応できるように製作される。
【0004】
この場合、位相差板は、ある光学軸方向に位相差を持つ水晶基板や有機高分子フィルムを複数枚積層することにより作製されるが、積層した場合には材料が積層枚数分必要となり、また加工工程も複雑化し価格が高価になってしまう。
【0005】
反対に安価な位相差板を検討した場合には、水晶や有機高分子フィルムを1枚のみ使用した位相差板が用いられることがあるが、偏光制御ができる波長がただ1波長に限られてしまい、それ以外の波長では十分な位相差特性を得ることが出来ず、ディスクドライブ全体の品質が低下してしまう懸念がある。
【0006】
理想的には、1枚の構成で広帯域に機能する位相差板を製作することが求められる。この場合、波長が長くなるにつれて位相差値が大きくなるような特性が必要であるが、一般的な無機化合物や有機高分子フィルムは、長波長ほど位相差が小さくなる波長分散特性を持つことから、1枚で広帯域を制御することはできない。
【0007】
最近ではこのような波長分散とは異なる、逆分散性を持つような材料も開発されている。これらの材料は、樹脂合成時の重合条件やポリマーのブレンド比などをコントロールすることで実現できたものである。これらの材料は、分散特性が逆転していることから、長波長になるにつれて位相差が大きくなる特性になり、広帯域にわたって同一の位相差特性が得られることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3919997号
【特許文献2】特開2001−253971号公報
【特許文献3】特許第4163825号
【特許文献4】特開2002−14234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらはディスプレイ材料用途に開発されたものがほとんどであり、例えば(ディスプレイ用途として)400nm〜700nmまでの波長域において同一の位相差特性が得られるものの、これらの樹脂が光ピックアップ用波長範囲において同一位相差となるとは限らない。
【0010】
そこで本発明は、逆分散特性を持つ樹脂材料のうち、ある特定の位相差条件を満足する有機高分子フィルム材料を検討することで、フィルム1枚構成であり、かつ光ピックアップに用いられる複数の使用波長において位相差特性を満足させることが可能な広帯域位相差板及びそれを有する光ピックアップ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の課題を解決するための手段を例示すると、次のとおりである。
【0012】
(1)逆分散特性を持つ有機高分子フィルム材料である樹脂材料から形成され、CD、DVD、又はBlu−rayで使用される少なくとも2つの光の波長をλa、λb、その波長での位相差をRa、Rbとすると、
0.813≦(Ra/λa)/(Rb/λb)≦1.230
を満足することを特徴とする広帯域位相差板。
【0013】
(2)樹脂材料が、ポリカーボネイトやセルロースアセテートの共重合体、ポリカーボネイト(PC)とポリスチレン(PS)の共重合体、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)とポリスチレン(PS)の共重合体、COP(シクロオレフィンポリマー、環状ポリオレフィン)樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、トリアセチルセルロース(TAC)や、これらの共重合体のうちの1つから形成されていることを特徴とする先述の広帯域位相差板。
【0014】
(3)先述の広帯域位相差板を有することを特徴とする光ピックアップ装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フィルム1枚で複数の使用波長で位相差特性を満足できる広帯域位相差板及びそれを有する光ピックアップ装置を提供することができる。
【0016】
例えば、光ピックアップ用のλ/4として使用可能な樹脂材料を検討することができ、使用可能と判断できた樹脂材料は、延伸倍率を変えて位相差値を調整することにより、2つの波長において位相差λ/4として機能する最適な位相差板を作製することができる。
【0017】
また、Blu−rayディスク用などで、3つの波長を同時に制御できるような位相差板を検討する際にも、本発明の関係式を満足できるような樹脂材料であれば、λ/4位相差板として用いることが出来る。
【0018】
また、樹脂材料をBlu−ray用光学部品として使用する場合、光学素子に短波長の光が照射されることにより、樹脂の白濁、劣化などによる品質の劣化が懸念されるが、既に本件出願人が出願した特願2008−281297号記載の、素子表面が酸素と反応することを防止するために、酸素を遮断する性質を持つ膜を素子の最外層に積層するバリア膜方法などを用いることで、光学素子の劣化を防止することができ、樹脂材料の使用が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の広帯域位相差板を利用した光ピックアップ装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明者は、逆分散特性を持つ樹脂材料のうち、ある特定の位相差条件を持つ材料を用いれば、光ピックアップの複数の使用波長において位相差特性を満足できることを見出した。
【0021】
光ピックアップ用の広帯域位相差板として用いることができる材料は、使用する2つの光の波長をλa、λb、その波長での位相差をRa、Rbとすると、
0.813≦(Ra/λa)/(Rb/λb)≦1.230
を満足する。
【0022】
以下、上記条件式について説明する。
【0023】
2つの波長をλa、λb、その波長での位相差(nm)をRa、Rbとすると、位相差角度(rad)Δa、Δbは、
Δa=2πRa/λa 、 Δb=2πRb/λb
である。
【0024】
偏光や位相差特性を検討する際に用いられる偏光状態を表すストークスパラメータS3は、楕円偏光形状を表す楕円率角をεとすると
S3=sin2ε
で表される。
【0025】
ここで、楕円偏光について図示すると下記のとおりである。
【数1】

【0026】
(a)は、(ε,θ)の系の座標による楕円偏光の表示であり、この場合、
tanε=b/a
(b)は(Δ,Ψ)系の座標による楕円偏光の表示であり、この場合、
tanΨ=Ex0/Ey0
一方、位相差角度をΔ、振幅比をtanΨとしたときのS3は
S3=-sin2Ψ・sinΔ
で表される。
【0027】
光ピックアップ用のλ/4板として用いる場合には、45°方向の直線偏光入射を考えれば良く、この時
tanΨ=1 つまり Ψ=π/8
となる。ここから
S3=-sinΔ
となる。これらより、楕円率角εと位相差角度Δは
ε=-Δ/2
となる。
【0028】
楕円偏光の偏光状態を表す楕円率はb/a=tanεであり、上式から
tanε=-tan(Δ/2)
となる。正負の符号は円偏光の回転方向であるから、ここでは無視しても良い。
【0029】
つまり楕円率は位相差の1/2の値のタンジェントで計算される値となる。
【0030】
光ピックアップ用に使用されるλ/4位相差板の光学特性として、楕円率が0.85以上と考えると、位相差角度Δに関する以下の数式が成り立つ。
【0031】
楕円率0.85以上(理想値及び上限値は1.0)であるから
0.85≦tan(Δ/2)≦1.0
これを計算すると、
1.41≦Δ≦1.73
この式をλ、Rで表すと、Δ=2πR/λより、
0.224≦R/λ≦0.276
つまり光ピックアップに使用される2つの波長λa、λbにおいて、2波長が同時に上式を満たすことが出来るとき、2つの波長のR/λの比は、
0.813≦(Ra/λa)/(Rb/λb)≦1.230
となる。この式を満足するような分散特性を持つ樹脂であれば、光ピックアップ用λ/4位相差板の材料として使用可能である。
【0032】
本発明において、Blu−ray用光ディスクに用いられる波長は、好ましくは、405nmを含む380nm〜440nmの波長域であり、DVD用に用いられる波長は、波長630nm〜690nmであり、CD用に用いられる波長は、750nm〜830nmの波長域である。
【0033】
本発明の樹脂材料は、好ましくはポリカーボネイトやセルロースアセテートの共重合体、ポリカーボネイト(PC)とポリスチレン(PS)の共重合体、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)とポリスチレン(PS)の共重合体による逆分散を実現した光学樹脂材料である。また、COP(シクロオレフィンポリマー、環状ポリオレフィン)樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、トリアセチルセルロース(TAC)や、これらの共重合体なども光学位相差樹脂として使用することができる。
【0034】
本願発明においては、2つの波長におけるR/λの値の比
0.813≦(Ra/λa)/(Rb/λb)≦1.230
が条件となるが、例えば新規に位相差フィルムを制作した場合に、位相差の測定値が関係式を満たしている場合には、一方の波長でR/λが条件を満たしていれば、他方の波長でもR/λが条件を満たすことで2つの波長で位相差板として機能するし、一方の波長がR/λを満足しない場合でも、この材料を再度延伸するなどして、Rを調整することにより2波長ともR/λを満足させることで位相差板として使用できることがわかる。
【0035】
また、2つの波長のR/λの値の比の関係である、
0.813≦(Ra/λa)/(Rb/λb)≦1.230
を満たしている材料は、2波長ともλ/4の位相差となり、2波長用のλ/4位相差板として使用できることがわかる。一方の波長においてR/λを満たしていない場合や、満足していても値の範囲内の閾値に近い場合には、延伸によりRを調整することで、2波長において最適な位相差にできる。
【実施例】
【0036】
図面に基づいて本発明の実施例を説明する。
【0037】
図1は、本発明の広帯域位相差板を利用した光ピックアップ装置を示す。
【0038】
CD、DVD、Blu−ray用のそれぞれの光源から発光されたレーザ光は、それぞれ下記のように、CD、DVD、Blu−rayディスクなどの記録媒体に導光され、音楽、映像などの情報を記録再生する。
【0039】
それぞれのレーザ光は、レーザ光源から記録媒体に向かう往路、復路で下記のような光路をとる。
【0040】
<往路>
Blu−ray用の場合、図1に例示するように、順に、LD(ブルー用半導体レーザ)2、Prism(プリズム)3、PBS(偏光ビームスプリッタ)4、TMR(三波長用ミラー)1、CL(集光レンズ)5、RMR(反射ミラー)6を通過し、Blu−ray用レーザ光は、FMPD(レーザ光量測定器)9で光量が充分かどうか測定検査される。
【0041】
DVD用の場合、順に、LD(半導体レーザ)7、Prism(プリズム)3、PBS(偏光ビームスプリッタ)4、TMR(三波長用ミラー)1、CL(集光レンズ)5、RMR(反射ミラー)6を通過し、DVD用レーザ光は、FMPD(レーザ光量測定器)9で光量が充分なのか測定検査される。
【0042】
CD用の場合、順に、LD(半導体レーザ)8、TMR(三波長用ミラー)1、CL(集光レンズ)5、RMR(反射ミラー)6を通過し、FMPD(レーザ光量測定器)9で光量が充分なのか測定検査される。
【0043】
<復路>
Blu−ray用の場合、順に、RMR(反射ミラー)6、CL(集光レンズ)5、TMR(三波長用ミラー)1、PBS(偏光ビームスプリッタ)4を通過し、PD(光量測定器)10で測定検査される。
【0044】
DVD用の場合、順に、RMR(反射ミラー)6、CL(集光レンズ)5、TMR(三波長用ミラー)1、PBS(偏光ビームスプリッタ)4を通過し、PD(光量測定器)10で光量が充分なのか測定検査される。
【0045】
CD用の場合、順に、RMR(反射ミラー)6、CL(集光レンズ)5、TMR(三波長用ミラー)1を通過し、PD(光量測定器)10で光量が充分なのか測定検査される。
【0046】
往路および復路のいずれにおいても、三波長用ミラー(TMR)1を透過あるいは反射する。
【0047】
RMR(反射ミラー)6を通過したレーザ光は、1つの広帯域位相差板11、対物レンズ12を通過し、CD、DVD、あるいはBlu−ray Disk13の読取、再生に用いられる。
【0048】
以上のように本発明の広帯域位相差板を光ピックアップ装置に用いることによって、フィルム1枚構成でありながら、CD、DVD、あるいはBlu−ray Diskの読取、再生に必要な複数の使用波長で位相差特性を満足することができる。
【0049】
例えば、λa=405nm、λb=650nmとして、それぞれの波長における位相差がRa=98nm、Rb=147nmとなる樹脂材料は、
(Ra/λa)/(Rb/λb)=1.070
となるので、使用可能な材料である。
【0050】
実際にこの樹脂から位相差フィルムを作製した場合の楕円率は、0.97および0.92であった。
【0051】
また例えば、λa=650nm、λb=780nmとして、それぞれの波長における位相差がRa=155nm、Rb=157nmとなる樹脂材料は、
(Ra/λa)/(Rb/λb)=1.185
となるので使用可能な材料である。
【0052】
実際にこの樹脂から位相差フィルムを作製した場合の楕円率は、0.91および0.85であった。
【0053】
このように、光ピックアップ用のλ/4として使用可能な樹脂材料を検討することができ、使用可能と判断できた樹脂材料は、延伸倍率を変えて位相差値を調整することにより、2つの波長において位相差λ/4として機能する最適な位相差板を作製することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 TMR(三波長用ミラー)
2 LD(ブルー用半導体レーザ)
3 Prism(プリズム)
4 PBS(偏光ビームスプリッタ)
5 CL(集光レンズ)
6 RMR(反射ミラー)
7 LD(半導体レーザ)
8 LD(半導体レーザ)
9 FMPD(レーザ光量測定器)
10 PD(光量測定器)
11 広帯域位相差板
12 対物レンズ
13 CD、DVD、あるいはBlu−ray Disk

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆分散特性を持つ有機高分子フィルム材料である樹脂材料から形成され、CD、DVD、又はBlu−rayで使用される少なくとも2つの光の波長をλa、λb、その波長での位相差をRa、Rbとすると、
0.813≦(Ra/λa)/(Rb/λb)≦1.230
を満足することを特徴とする広帯域位相差板。
【請求項2】
樹脂材料が、ポリカーボネイトやセルロースアセテートの共重合体、ポリカーボネイト(PC)とポリスチレン(PS)の共重合体、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)とポリスチレン(PS)の共重合体、COP(シクロオレフィンポリマー、環状ポリオレフィン)樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、トリアセチルセルロース(TAC)や、これらの共重合体のうちの1つから形成されていることを特徴とする請求項1に記載の広帯域位相差板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の広帯域位相差板を有することを特徴とする光ピックアップ装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−81867(P2011−81867A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233342(P2009−233342)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】