説明

広帯域電磁波吸収体及びその製造方法

【課題】繊維材本来の特性を損なうことなく、広帯域において高い電磁波吸収性能を発揮することができ、かつ電磁波シールド性能も兼ね備えた電磁波吸収体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】所定の処理条件で不織布等からなる繊維シート基材に導電性高分子を被覆することで所定の表面抵抗率を有する導電性繊維シートを作製することにより、高周波広帯域において万遍なく高い電磁波吸収性能若しくはそれに付加して高い電磁波シールド性能を発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域電磁波吸収体及びその製造方法に関し、特に所定の処理条件で不織布等からなる繊維シート基材に導電性高分子を被覆することにより、電磁波吸収性能若しくはそれに電磁波シールド性能が付与された導電性繊維シートからなる広帯域電磁波吸収体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気製品や通信機器などが爆発的に普及している中で、これらの製品や機器から発生する電磁波が問題となっている。これらの電磁波は他の電気製品や通信機器に影響し、誤動作やノイズの原因となる。また、人体にも悪影響を及ぼすと言われている。
【0003】
特にパソコンや携帯電話など移動を伴う機器では、機器内部からの電磁波漏洩防止及び外部からの電磁波進入防止のため、各種電磁波シールド材が提案されている。また、これらの電磁波シールド材は、電気製品や通信機器などの必ずしも平滑で無い部分にも使用されるため、その特性としてフレキシブル性を有することが求められる。また、電磁波シールド材は特定の機器などを電磁波から守るために使用されるが、その効果は電磁波シールド効果なので、反射した電磁波が他の機器の誤動作を引き起こす場合がある。特に限られたスペースの中では、電磁波シールド材を使用するより、電磁波吸収材を使用する方が機器全般の誤動作を防止することができる。
【0004】
例えば、フレキシブル性を有する電磁波吸収材としては、ゴムシートに磁性体粉末やその他の導電帯粉末を練り込んだもの、繊維にカーボンなどの導電性粉末を担持させたものなどが知られている。
【0005】
しかしながら、ゴムシートに磁性粉末やその他の導電粉末を練り込んだタイプの電磁波吸収材は、周波数帯により厚みなどを変更して設計する必要があるので、フレキシブル性が損なわれる周波数帯が存在し、また一般に周波数に対して特定の吸収ピークが存在するので汎用性に乏しいなどの問題があった。さらには、電磁波吸収体として必ずしも軽量でないという問題もあった。
【0006】
一方、繊維にカーボンなどの導電粉末を担持させた電磁波吸収繊維材料は、フレキシブルで、一般に周波数に対して特定の吸収ピークを持たないが、繊維にカーボンなどの導電粉末を均一に且つ強固に担持させるのが困難であり、その結果、繊維表面からカーボンなどの導電粉末が脱離し易く、環境面で劣るという問題があった。さらには繊維が導電粉末を均一に担持できていない場合、良好な単位体積当たりの電磁波吸収性能が得られないという問題もあった。
【0007】
上述の電磁波吸収材と同様にフレキシブル性を有する電磁波シールド繊維シートとしては、繊維シートに金属箔を貼り付けたタイプや繊維シート内に金属箔をサンドイッチ状に積層したタイプの電磁波シールド繊維シートが提案されている。
【0008】
しかしながら、これらのタイプの電磁波シールド繊維シートは、シールド性に優れているが通気性が無いために機器等の放熱性が極めて低いという欠点がある。また、かかる欠点を解消するために金属箔に穴を開ける工夫等も提案されているが、これらは未だ完全では無い。さらに、機器の軽薄短小化が進む中、繊維シートに金属箔を用いることは機器の薄肉化を阻害し、また金属箔の穴開け加工等は製品のコストを増大させるという問題があった。
【0009】
また、フレキシブル性を有する他のタイプの電磁波シールド繊維シートとしては、繊維シートに金属を担持させたタイプや金属糸を混合紡糸したタイプ、又は金属を蒸着させたタイプの電磁波シールド繊維シートが提案されている。
【0010】
しかしながら、これらのタイプの電磁波シールド繊維シートでは十分な電磁波シールド効果を得ることができず、特に繊維シートに金属を蒸着させたタイプの電磁波シールド繊維シートでは、その製造工程が複雑でかつ製造コストも高くなるという問題があった。
【0011】
さらに、上記と同様に繊維シート基材を改質したタイプの電磁波シールド繊維シートとして、無電解メッキ法により繊維シート表面に金属コーティングを施したタイプの電磁波シールド繊維シートや、微弱電磁波に対して僅かながら電磁波抑制効果を示す導電性高分子を被覆した繊維シートが提案されている。
【0012】
しかしながら、このタイプの電磁波シールド繊維シートにおいても本質的に十分な電磁波シールド効果を得られないという問題があった。
【0013】
そこで、近年では、繊維シートの特徴であるフレキシブル性、通気性(放熱性)を最大限に活用しながら高い電磁波シールド性(導電性)を付与する方法として、無電解メッキを施した繊維シート又は導電性高分子を被覆した繊維シートへさらに電解メッキを施すという、いわゆる無電解メッキ法または酸化重合によるコーティング法と、電解メッキ法とを併用したタイプの電磁波シールド繊維シート及びその製造方法が提案及び/又は実現されている。
【0014】
しかしながら、これらの併用タイプの製造方法では、製造される繊維シートの電磁波シールド性はある程度向上するもののその製造工程が複雑となり、製品の生産性を阻害したりコストが高くなるという問題があった。また、特に無電解メッキ法を併用する場合は、酸化還元反応による金属の担持及びメッキ工程の他、被処理材の表面を活性化および洗浄等するためのエッチング工程および洗浄工程など複数の工程が必要となることから製品の生産性が極めて低く、製造コストがさらに高くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2008−166834号公報
【特許文献2】特開2008−042113号公報
【特許文献3】特開2008−034651号公報
【特許文献4】特開2007−180289号公報
【特許文献5】特開2006−120836号公報
【特許文献6】特開2006−041066号公報
【特許文献7】特開2005−183428号公報
【特許文献8】特開2004−059832号公報
【特許文献9】特開2001−230588号公報
【特許文献10】特開2000−277972号公報
【特許文献11】特願2008−117966号出願
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明はフレキシブル性、通気性(放熱性)など繊維シート基材本来の特性を損なうことなく、広帯域において万遍なく高い電磁波吸収性能若しくはそれに付加して高い電磁波シールド性能を発揮することができる、単純で生産性が高くコストパフォーマンス性に優れた広帯域電磁波吸収体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、繊維シートなどに対する導電処理等について鋭意検討を重ねた結果、所定の処理条件で不織布等からなる繊維シート基材に導電性高分子を被覆することで所定の表面抵抗率を有する導電性繊維シートを作製することにより、高周波広帯域において万遍なく高い電磁波吸収性能若しくはそれに付加して従来にない高い電磁波シールド性能を発揮することができる広帯域電磁波吸収体が得られることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0018】
具体的には、本発明は特開2007−169824公報の中に記載されている導電性ポリマーを繊維シートの表面で反応させる技術を用いて、この技術を合成繊維の不織布または布帛からなる繊維シート基材に適用することにより、例えば表面抵抗率が1×10Ω/□≦R≦1×10Ω/□の導電性を有する繊維シートを作製する。また、この表面抵抗率は、導電性ポリマーに導電性金属粒子等を配合することなく達成することができる。そして表面抵抗率が1×10Ω/□≦R≦1×10Ω/□の範囲に調整された1枚の導電性繊維シートを単独で使用することにより、若しくは2枚以上の前記導電性シートを積層することにより、本発明の広帯域電磁波吸収体を得ることができる。
【0019】
また、本発明では、導電性高分子を被覆することにより得られる導電性繊維シートの表面抵抗率を1×10Ω/□≦R≦1×10Ω/□の範囲に調整することにより、高い電磁シールド性能を付与することもできる。
【0020】
導電性高分子が被覆される繊維シート基材の材質、性状及び特性等は特に限定されるものではないが、所望する電磁吸収性能若しくはそれに付加して電磁シールド性を発揮させるのに必要な表面抵抗率を得るためには、合成繊維の不織布または布帛の単体若しくはそれらの複合体からなる繊維シート基材を用いることが好ましい。
【0021】
また、これらの繊維シート基材と組み合わせて被覆する導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン又はそれらの誘導体を使用することが好ましい。
【0022】
このように、本発明では繊維シートの導電性は被覆された導電性高分子により付与されるので、基本的には導電性繊維シート基材自体にコーティング等により導電性金属を含ませる必要はない。しかしながら、繊維シート基材の全部又は一部には、硫化銅をコーティングするなどして少なくとも一部に硫化銅を含ませた繊維材料、若しくはカーボン繊維又はカーボンを一部に含有させた繊維材料などを使用することができ、この場合、通常の広帯域での電磁波吸収性能に加えて、特定の帯域において極めて高い電磁吸収性能を示す電磁波吸収体を作製することができる。
【0023】
少なくとも本発明の電磁波吸収体の片側表面には、金属箔が接着されていることが好ましい。この場合、本発明による電磁波吸収体の広帯域での電磁波吸収性能は、さらに強化される。
【0024】
積層された2以上の導電性繊維シートからなる電磁波吸収体では、広帯域において万遍なく所望の高い電磁波吸収性能を得ようとする場合、表面抵抗率が異なる導電性繊維シートを組み合わせて使用することが有効である。
【0025】
また、積層された2以上の導電性繊維シートからなる電磁波吸収体の場合、その積層体の間、その積層体の表面又は裏面若しくはその積層体の表裏面へ、導電性高分子が被覆されていない少なくとも1以上の繊維シートを配設することもできる。このような積層構造は、ベースとなる電磁波吸収体の電磁波吸収能力を全帯域にわたって底上げする効果がある。また、電磁波吸収体の性能を維持しながら、物理的、機械的強度を高めるのにも役立つという効果もある。
【0026】
本発明の電磁波吸収体は、1GHz〜110GHzの広帯域の周波数帯域の少なくとも一部に10dB以上の電磁波吸収性能を有する帯域を含んでいる。
【0027】
また、本発明によれば、電磁波吸収体が1枚の導電性繊維シートから構成されている場合においても2枚以上の導電性繊維シートの積層体から構成されている場合においても、所望の電磁波吸収性能を維持しながら電磁波吸収体の全体の厚みを0.2mm〜100mm、好ましくは1mm〜40mm、より好ましくは5〜30mmの範囲内に抑えることが可能であり、繊維シート本来の特性を損なうことなく極めて高いフレキシブル性を付与することができる。
【0028】
本発明による広帯域電磁波吸収体の製造方法を整理すると、(a)合成繊維の不織布または布帛からなる繊維シート基材を準備するステップと、(b)前記繊維シート基材を、ドーパントを含む酸化剤水溶液で含浸するステップと、そして(c)含浸した前記繊維シート基材を気相の導電性高分子のモノマーと接触させ、酸化重合することにより、導電性高分子を少なくとも部分的に基材上に生成させることにより導電性繊維シートを作製するステップとを含む電磁波シールド性を有する電磁波吸収体の製造方法であることが理解される(特開2007−169824公報参照)。
【0029】
また、上記の電磁波吸収体の製造方法には、電磁波吸収体を導電性繊維シートの積層体から成形するために、前記導電性繊維シートを2以上作製し、該導電性繊維シートを積層するステップを含ませることもできる。
【0030】
ここで、以下に本願明細書において使用するいくつかの術語について定義する。
【0031】
「繊維シート」とは、天然繊維、合成又は半合成化学繊維、若しくはそれらの混合物によって構成されるシート状のウエブのことをいう。シートの構造若しくは形状は、例えば織物、ニットなどの布帛、不織布、紙などであるが、本発明における処理剤の受け入れを許容するため繊維間に微細な間隙を持っていなければならない。特に高い電磁波吸収性能や電磁シールド性能が求められる用途には、極細繊維、典型的には極細ポリエステル繊維を原料とする不織布を使用することが好ましい。
【0032】
「ポリピロール」とは、ピロールのホモポリマーのみならず、ピロールと小割合の共重合可能なピロール同族体もしくは誘導体、例えばN−メチルピロール、3−メチルピロール、3,5−ジメチルピロール、2,2’−ビピロールとの共重合体をいう。
【0033】
「ポリチオフェン」とは、チオフェンのホモポリマーのみならず、チオフェンと小割合の共重合可能なチオフェン同族体もしくは誘導体、例えば3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−メチレンジオキシチオフェンとの共重合体をいう。
【0034】
「酸化剤」は、ピロールモノマーまたはチオフェンモノマーの酸化的重合によって導電性ポリマーを与えることができる化学的酸化剤をいう。使用し得る酸化剤の具体例は米国特許Nos.4,604,427、4,521,450および4,617,228を含む多数の文献に記載されており、過硫酸アンモニウム、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、過酸化水素、過ホウ酸アンモニウム、塩化銅(II)などを含む。ドーパントとして使用するスルホン酸、例えばパラトルエンスルホンの第2鉄塩も酸化剤として使用することができる。
【0035】
「ドーパント」とは、導電性ポリマーの導電性を向上させるアニオンを指し、その具体例はやはり前出の米国特許を含む多数の特許文献に記載されている。パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ドテシルベンゼンスルホン酸、スルホン化ポリスチレンなどのスルホン酸が好ましい。
【0036】
電磁波吸収性能評価方法
「電磁波吸収性能評価」は、電波暗室内にて、電磁波発信部から入射角を持たせた電磁波を本発明で得られた電磁波吸収体に照射し、反射板から反射してきた電磁波により、電磁波減衰量を測定することにより行った(図1に示される反射電力法による電磁波減衰量測定装置の概略図参照)。なお、周波数はダブルリッジホーンアンテナを用いた1GHz〜15GHzの範囲と各周波数に対応したアンテナを複数用いた10GHz〜110GHzの範囲に分けて測定した。
【0037】
電磁波シールド性能評価方法
「電磁波シールド性能評価」は、マイクロストリップ測定法で、1〜5GHzの周波数帯の反射減衰(S11)及び透過減衰(S21)を測定し、測定結果を相対比較して物性評価とした。なお、マイクロストリップ測定法は相対比較なので絶対値ではないが、−5dB以下好ましくは−10dB(90%の電磁波抑制)以下なら必要に応じて複数枚重ねて使用するなど、実用上電磁波シールド材として使用できるレベルと判断した。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、所定の処理条件で不織布等からなる繊維シートに導電性高分子を被覆することで所定の表面抵抗率を有する導電性繊維シートを作製することにより、フレキシブル性、通気性(放熱性)など繊維シートなどの本来の特性を損なうことなく、高周波広帯域において万遍なく高い電磁波吸収性能若しくはそれに付加して高い電磁波シールド性能を発揮することができる、単純で生産性が高くコストパフォーマンス性に優れた広帯域電磁波吸収体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】反射電力法による電磁波減衰量測定装置の概略図である。
【図2】実施例1の周波数10GHz〜110GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図3】実施例2の周波数10GHz〜110GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図4】実施例3の周波数10GHz〜110GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図5】実施例4の周波数10GHz〜110GHzにおける電磁波吸収性 能を表す特性図である。
【図6】実施例5の周波数10GHz〜110GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図7】実施例6の周波数10GHz〜110GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図8】比較例1の周波数10GHz〜110GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図9】比較例2の周波数10GHz〜110GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図10】比較例3の周波数10GHz〜110GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図11】比較例4の周波数10GHz〜110GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図12】実施例7の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図13】実施例8の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図14】実施例9の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図15】実施例10の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図16】実施例11の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図17】実施例12の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図18】実施例13の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図19】実施例14の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図20】実施例15の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図21】実施例16の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図22】実施例17の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図23】比較例5の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図24】比較例6の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【図25】比較例7の周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波吸収性能を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明で使用される導電性繊維シートは、先に定義した繊維シートの中から使用目的に応じて適宜選択することができる。以下の説明は、主として布帛や不織布の繊維表面に導電性ポリマーを直接反応させることで作製できる電磁波吸収体に用いられる導電性繊維シートに関するものであるが、使用する基材、処理条件は、特定の使用目的および導電性ポリマーとの組み合わせに応じて当業者は容易に決定することができるであろう。
【0041】
先に述べたように、本発明の重要な局面の一つは、導電性ポリマーを繊維シートの表面で反応させる技術(特開2007−169824公報)を用いて、広帯域電磁波吸収体に用いられる繊維シートに導電性(所定の表面抵抗率)を付与することである。
【実施例】
【0042】
以下の実施例および比較例は限定を意図するものではなく、また「部」および「%」は特記しない限り重量基準による。
【0043】
表面抵抗率の測定は、ダイアインスツルメンツ製ロレスタ−EP MCP−T360 MCP−TP03Pを用いた。
【0044】
1.電磁波吸収性能評価テスト
1.1 周波数10GHz〜110GHzにおける電磁波減衰量
実施例1
三菱製紙株式会社製ワイパーWO−ME150(坪量150g/m、厚み0.45mmのポリエステル極細繊維100%不織布)を幅50cm、長さ600cmにカットして、過硫酸アンモニウムを12%、ナフタレンスルホン酸14%の水溶液(pH0.2)に浸漬し、マングルにて過剰の溶液を除去した。
その後湿った不織布を平坦に広げた状態で反応室に入れ、室内に設置したエバポレーターからピロールの蒸気を室内に充満させ、10分間放置してピロールの気相重合を行った。反応終了後WO−ME150不織布を反応室から取出し、10Lの蒸留水で3回洗浄し、マングルにて水切りした後、105℃で1時間乾燥した。処理前および処理後の重量差から、ポリピロールのピックアップ率は1.6%と計算された。
【0045】
得られた導電性不織布を50×50cm大の10枚にカットし、その1枚当たりの平均表面抵抗率を測定したところ、7.3×10Ω/□であった。
【0046】
これら、得られた導電性不織布2枚を日東電工(株)製の両面接着テープ(No.5000NS)で貼り合わせ、さらに順次貼り合わせて、10枚貼り合わせた導電性繊維シートの積層体を作製した。この積層体の厚みは7mmであった。さらに、10枚貼り合わせた導電性繊維シート積層体の片側端面に厚さ0.05mmのアルミニウム箔を両面接着テープで貼り合わせて実施例1の導電性繊維シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
アルミニウム箔側を下側にして、電磁波減衰量を測定し評価した(図1に示される電磁波減衰量測定装置の概略図参照)。
【0047】
実施例2
過硫酸アンモニウムを4%、ナフタレンスルホン酸6%に変更したことを除き、実施例1の操作を繰り返した。得られた導電性ポリエステル極細繊維不織布のポリピロールのピックアップ率は1.0%と計算された。その1枚当たりの平均表面抵抗率は1.1×10Ω/□であった。
実施例1と同様に、導電性不織布を10枚貼り合わせて厚さ7mmの導電性繊維シート積層体を作製し、さらに、その片側端面に厚さ0.05mmのアルミニウム箔を貼り合わせて実施例2の導電性繊維シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
【0048】
実施例3
実施例2で得られた導電性ポリエステル極細繊維不織布を実施例1と同様に、20枚貼り合わせて導電性繊維シート積層体を作製した。厚みは14mmであった。さらに、その片側端面に厚さ0.05mmのアルミニウム箔を貼り合わせて実施例3の導電性繊維シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
【0049】
実施例4
過硫酸アンモニウムを6%、ナフタレンスルホン酸9%に変更したことを除き、実施例1の操作を繰り返した。得られた導電性ポリエステル極細繊維不織布のポリピロールのピックアップ率は1.1%と計算された。その1枚当たりの平均表面抵抗率は3.6×10Ω/□であった。
実施例1で作製した導電性繊維シート(シートA)を4枚、実施例2で作製した導電性繊維シート(シートB)3枚、本実施例で作製した導電性繊維シート(シートC)3枚と実施例1で使用したアルミニウム箔を用いて、アルミニウム箔−シートA―シートC―シートBと貼り合わせて実施例4の導電性繊維シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
【0050】
実施例5
坪量1,000g/m、厚み7.5mm、3.3dt(デシテックス)のポリエステル繊維99.6%、カーボン繊維0.4%入りの不織布シート(シートa)を幅50cm、長さ600cmにカットして、過硫酸アンモニウムを1%、ナフタレンスルホン酸3%の水溶液に浸漬したことを除いて実施例1と同様の操作を繰り返し、ピックアップ率0.7%の導電性繊維シートを得た。
得られた導電性繊維シートを50×50cm大の10枚にカットし、その1枚当たりの平均表面抵抗率を測定したところ、5.5×10Ω/□であった。
これら、得られた導電性繊維シート(積層体で無い1枚もの)の片側端面に実施例1で用いた物と同様のアルミニウム箔を両面接着テープで貼り合わせた1枚の導電性繊維シートからなる電磁波吸収体を作製した。
【0051】
実施例6
坪量1,000g/m、厚み7.5mm、3.3dt(デシテックス)のポリエステル繊維100%の不織布シート(シートb)を幅50cm、長さ600cmにカットして、過硫酸アンモニウムを1%、ナフタレンスルホン酸3%の水溶液に浸漬したことを除いて実施例1と同様の操作を繰り返し、平均表面抵抗率7.3×10Ω/□、ピックアップ率0.7%の導電性繊維シートを得た。得られた導電性繊維シートを実施例1で用いた物と同様のアルミニウム箔を貼り付けた1枚の導電性繊維シートからなる電磁波吸収体を作製した。
【0052】
比較例1
チタン系材料及び鉄系材料をEPDM(エチレンプロピレンゴム)で練り込んだテイカ(株)製、テイカギガキューブの中心周波数24GHzのゴムシートを比較対照とした。
【0053】
比較例2
比較例1の中心周波数60GHzのゴムシートを比較対照とした。
【0054】
比較例3
比較例1の中心周波数84GHzのゴムシートを比較対照とした。
【0055】
比較例4
実施例5で用いた不織布シート(シートa)に導電未処理の状態のままで、実施例1で用いた物と同様のアルミニウム箔を貼り付けた繊維シートを作製し、比較対照とした。
【0056】
実施例1〜6の導電性繊維シート又はその積層体からなる電磁波吸収体と、比較例1〜3の電磁波吸収用ゴムシート及び比較例4の繊維シートについて、反射電力法により、周波数10GHz〜110GHzにおける電磁波減衰量を測定し比較した。その結果を図2〜11および表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
考 察
図2〜11および表1を参照して理解されるように、実施例1〜6の導電性繊維シート又はその積層体からなる電磁波吸収体はシャープな吸収ピークを示さない、広帯域に対して優れた電磁波吸収性能を発揮する電磁波吸収体であるということが判る。
【0059】
また、本発明によれば、各実施例における電磁波吸収性能測定結果に基づいてさらに異なる特性の導電性繊維シートを重ね合わせることにより、相対的にそして万遍なく各帯域において電磁波吸収性能を向上させることができるので、従来の電磁波吸収材のように各周波数に対して個別に設計する必要がなく、電磁波吸収材の設計が容易になる。
【0060】
一方、これに対し比較例1〜3のゴムシートからなる電磁波吸収材の場合は、特定の周波数帯域に対してのみ電磁波吸収性能を発揮する周波数依存性があるため、本発明のように広帯域に対して万遍なく優れた電磁波吸収性能を発揮することができない。また、比較例1〜3の電磁波吸収材は、ゴムシートの厚みを増減させるとこれに伴って吸収ピークが変化するので、各周波数毎にそれに適した電磁波吸収材を設計しなければならず、汎用性に乏しいことが理解される(表1参照)。
【0061】
また、比較例4の電磁波吸収性能測定結果より、導電性高分子を被覆する導電処理を施さなかった繊維シートへアルミニウム箔を接着するのみでは、どの帯域の周波数においても電磁波吸収性能をまったく示さないことが判った(図11参照)。
【0062】
1.2 周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波減衰量
実施例7
実施例5の不織布シート(シートa)を用いて、過硫酸アンモニウムを1.5%、ナフタレンスルホン酸4.5%の水溶液に浸漬したことを除いて実施例1と同様の操作を繰り返し、平均表面抵抗率1.5×10Ω/□、ピックアップ率0.8%の導電性繊維シート(シートD)を得た。
過硫酸アンモニウムを2.0%、ナフタレンスルホン酸6.0%にした以外は、同様な操作を用いて、平均表面抵抗率7.3×10Ω/□、ピックアップ率0.8%の導電性繊維シート(シートE)を得た。
シートD1枚、シートE1枚、実施例1で用いた物と同様のアルミニウム箔を用いて、アルミニウム箔−シートE−シートDと貼り合わせて導電性繊維シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
【0063】
比較例5
チタン系材料及び鉄系材料をEPDM(エチレンプロピレンゴム)で練り込んだテイカ(株)製、テイカギガキューブの中心周波数5.5GHzのゴムシートに実施例1で用いた物と同様のアルミニウム箔を貼り付けたゴムシートを比較対照とした。
【0064】
比較例6
坪量450g/m、厚み3.1mm、3.3dt(デシテックス)のポリエステル繊維39.2%、4.4dtのポリエステル繊維25.0%、6.6dtのポリエステル繊維34.3%、カーボン繊維1.5%入りの不織布シート(シートc)に導電未処理の状態のままで、実施例1で用いた物と同様のアルミニウム箔を貼り付けた繊維シートを作製し、比較対照とした。
【0065】
実施例8
実施例7で得られた導電性繊維シート積層体にアルミニウム箔側で無いほうに比較例6で用いた物と同様の不織布(シートc)を貼り付けて導電性繊維シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
シートcを用いることで、実施例7で得られた広帯域電磁波吸収性能を維持しながら1〜15GHzの周波数範囲において電磁波吸収性能が底上げされる効果があることが確認された。
【0066】
比較例7
坪量36g/m、厚み0.2mm、ポリエステル繊維70.0%、硫化銅をコーティングしたアクリル繊維30.0%の不織布シート(シートd)に導電未処理の状態のままで、実施例1で用いた物と同様のアルミニウム箔を貼り付けた繊維シートを作製し、比較対照とした。
【0067】
実施例9
実施例7で得られた導電性繊維シート(シートD)、導電性繊維シート(シートE)と比較例6で用いた硫化銅入り不織布(シートd)、実施例1で用いた物と同様のアルミニウム箔で、アルミニウム箔−シートE−シートd−シートDと貼り合わせて導電性シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
シートdを積層体の一部として用いることで、少なくとも1〜15GHzの周波数領域内で、広帯域電磁波吸収性能を維持しながら、特定の周波数の電磁波吸収性能を高める効果があることが確認された。
【0068】
実施例10
実施例9で用いた各シートの貼り合わせをアルミニウム箔−シートE−シートD−シートdと貼り合わせて導電性シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
シートdを積層体の一部として用いることで、少なくとも1〜15GHzの周波数領域内で、広帯域電磁波吸収性能を維持しながら特定の周波数の吸収を高める効果があることが確認された。
【0069】
実施例11
実施例5の不織布(シートa)を用いて過硫酸アンモニウムを1.8%、ナフタレンスルホン酸5.4%の水溶液に浸漬したことを除いて実施例1と同様の操作を繰り返し、平均表面抵抗率9.1×10Ω/□、ピックアップ率0.8%の導電性繊維シート(シートF)を得た。
シートD1枚、シートF1枚、実施例1で用いた物と同様のアルミニウム箔を用いて、アルミニウム箔−シートF−シートDと貼り合わせて導電性シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
【0070】
実施例12
実施例11で得られた導電性シート積層体にアルミニウム箔側で無いほうに実施例5で用いたシートaを2枚貼り付けて導電性シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
実施例11で得られた広帯域電磁波吸収性能を維持しながらシートaを用いることで、1〜15GHzの周波数範囲において電磁波吸収性能が底上げされる効果があることが確認された。
【0071】
実施例13
シートaを用いて過硫酸アンモニウムを0.7%、ナフタレンスルホン酸2.1%の水溶液に浸漬したことを除いて実施例1と同様の操作を繰り返し、平均表面抵抗率3.6×10Ω/□、ピックアップ率0.6%の導電性繊維シート(シートG)を得た。
シートF1枚、シートG2枚、実施例1で用いた物と同様のアルミニウム箔を用いて、アルミニウム箔−シートF−シートG2枚を貼り合わせて導電性繊維シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
【0072】
実施例14
実施例5の不織布シート(シートa)を用いて、過硫酸アンモニウムを2.5%、ナフタレンスルホン酸7.5%の水溶液に浸漬したことを除いて実施例1と同様の操作を繰り返し、平均表面抵抗率5.5×10Ω/□、ピックアップ率0.9%の導電性繊維シート(シートH)を得た。過硫酸アンモニウムを1.7%、ナフタレンスルホン酸5.1%にした以外は、同様な操作を用いて、平均表面抵抗率1.1×10Ω/□、ピックアップ率0.8%の導電性繊維シート(シートI)を得た。
さらに過硫酸アンモニウムを1.3%、ナフタレンスルホン酸3.9%にした以外は、同様な操作を用いて、平均表面抵抗率1.8×10Ω/□、ピックアップ率0.7%の導電性繊維シート(シートJ)を得た。シートF1枚、シートG2枚、シートH1枚、シートI1枚、シートJ1枚、実施例1で用いた物と同様のアルミニウム箔を用いて、アルミニウム箔−シートH−シートF−シートI−シートJ−シートG2枚を貼り合わせて導電性繊維シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
【0073】
実施例15
シートa2枚、シートF1枚、シートH1枚、シートI1枚、シートJ1枚、シートJ1枚、実施例1で用いた物と同様のアルミニウム箔を用いて、アルミニウム箔−シートH−シートF−シートI−シートa2枚−シートJを貼り合わせて導電性繊維シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
【0074】
実施例16
実施例14で得られた導電性シート積層体にアルミニウム箔側で無いほうに実施例5で用いたシートaを2枚貼り付けて導電性シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
【0075】
実施例17
実施例5で用いたシートa2枚を実施例14で得られた導電性シート積層体の間に、実施例1で用いた物と同様のアルミニウム箔を用いて、アルミニウム箔−シートH−シートF−シートI−シートJ−シートG−シートa−シートG−シートaを貼り合わせて導電性繊維シート積層体からなる電磁波吸収体を作製した。
【0076】
実施例7〜17の導電性繊維シート積層体からなる電磁波吸収体と、比較例5の電磁波吸収用ゴムシート及び比較例6,7の繊維シートについて、反射電力法により、周波数1GHz〜15GHzにおける電磁波減衰量を測定し比較した。その結果を図12〜25および表2に示す。

【0077】
【表2】

【0078】
考 察
図12〜25および表2を参照して理解されるように、実施例7〜17の導電性繊維シート積層体からなる電磁波吸収体は周波数1GHz〜15GHz、特に3〜15GHzの範囲において優れた電磁波吸収性能を示す電磁波吸収体であるということが判る。
【0079】
特に実施例9の電磁波吸収体では、1GHz〜15GHzの周波数領域内で、広帯域電磁波吸収性能を維持しながら特定の周波数の電磁波吸収性能を高める効果があることが確認された。
【0080】
また、実施例8、12および16の電磁波吸収性能測定結果より、導電性繊維シートからなる積層体へ導電性高分子を被覆する導電処理を行わなかった繊維シートを組み合わせることにより、ベースとなる電磁波吸収体の電磁波吸収性能が全帯域にわたって底上げされる効果があることが判った。
【0081】
一方、これに対し比較例5のゴムシートからなる電磁波吸収材の場合は、特定の周波数帯域に対してのみ電磁波吸収性能を発揮する周波数依存性があるため、本発明のように広帯域に対して万遍なく優れた電磁波吸収性能を発揮することができない。
【0082】
また、比較例6,7の電磁波吸収性能測定結果より、導電性高分子を被覆する導電処理を施さなかった繊維シートへアルミニウム箔を接着するのみでは、1GHz〜15GHzの周波数帯域においても電磁波吸収性能をまったく示さないことが判った(図24,25参照)。
【0083】
2.電磁波シールド性能評価テスト
実施例1a
三菱製紙株式会社製ナノワイパーH140不織布(坪量40g/m、厚み0.25mmのアクリル、ポリエステル混合不織布)を幅20cm、長さ100cmにカットして、過硫酸アンモニウム16%、パラトルエンスルホン酸14%、の水溶液(pH0.2)に浸漬し、マングルにて過剰の溶液を除去した。
その後湿った不織布を平坦に広げた状態で反応室に入れ、室内に設置したエバポレーターからピロールの蒸気を室内に充満させ、10分間放置してピロールの気相重合を行った。反応終了後H140不織布を反応室から取出し、10Lの蒸留水で3回洗浄し、マングルにて水切りした後、105℃で1時間乾燥した。処理前および処理後の重量差から、ポリピロールのピックアップ率は1.4%と計算された。
【0084】
得られた導電性不織布を15×15cm大の5枚にカットし、5枚の平均表面抵抗率を測定したところ、7.3×10Ω/□であった。
【0085】
50Ωの導電性を有するマイクロストリップライン上に、得られた導電性不織布7.3×10Ω/□品を5×5cmにカットしたものを密着させて、ネットワークアナライザーを用いて、透過減衰(S21)及び反射減衰(S11)の相対比較値を測定した(マイクロストリップ測定法)。
実施例2a
基材を三菱製紙株式会社製ワイパーWO−ME150H(坪量150g/m、厚み0.5mmのポリエステル極細繊維100%不織布)を用い、過硫酸アンモニウムを12%、パラトルエンスルホン酸の代わりにナフタレンスルホン酸を用いて、その配合量を14%に変更したことを除き、実施例1aの操作を繰り返した。得られた導電性ポリエステル極細繊維不織布のポリピロールのピックアップは1.6%と計算された。その平均表面抵抗率は7.3×10Ω/□であった。
【0086】
実施例3a
実施例2aの不織布を用いて、過硫酸アンモニウムを18%、パラトルエンスルホン酸10%及びナフタレンスルホン酸7%の水溶液に変更したことを除き、実施例1aの操作を繰り返した。得られた導電性ポリエステル極細繊維不織布のポリピロールのピックアップは1.8%と計算された。その平均表面抵抗率は2.9×10Ω/□であった。
【0087】
実施例4a
実施例2aの不織布を用いて、過硫酸アンモニウムを12%、パラトルエンスルホン酸6%及びナフタレンスルホン酸6%の水溶液に変更したことを除き、実施例1aの操作を繰り返した。得られた導電性ポリエステル極細繊維不織布のポリピロールのピックアップは1.5%と計算された。その平均表面抵抗率は2.2×10Ω/□であった。
【0088】
実施例5a
基材を坪量120g/m、厚み0.3mmのポリエステル:ナイロン=80:20の割合で構成された編み物に変更したことを除き、実施例1aの操作を繰り返した。得られた導電性ポリエステル−ナイロン編み物のポリピロールのピックアップは1.5%と計算された。その平均表面抵抗率は3.3×10Ω/□であった。
【0089】
実施例6a
ドーパントを含む酸化剤含浸溶液は、テイカ株式会社製テイカトロン40Eを用い、ピロールの代わりに3,4−エチレンジオキシチオフェンに変更したことを除き、実施例1aの操作を繰り返した。得られた導電性不織布のポリエチレンジオキシチオフェンのピックアップ率は、1.4%と計算された。その平均表面抵抗率は3.3×10Ω/□であった。
【0090】
実施例7a
実施例2aの不織布を用いて、10%アンモニア水溶液でpH4に調整された、過硫酸アンモニウムを18%、パラトルエンスルホン酸18%を含む水溶液に変更したことを除き、実施例1aの操作を繰り返した。得られた導電性ポリエステル極細繊維不織布のポリピロールのピックアップは1.8%と計算された。その平均表面抵抗率は2.2×10Ω/□であった。
【0091】
比較例1a
基材を坪量120g/m、厚み0.2mmのポリエステル100%極細繊維織物を用い、過硫酸アンモニウムを2%、パラトルエンスルホン酸1%及びナフタレンスルホン酸1%の水溶液に変更したことを除き、実施例1aの操作を繰り返した。
得られた導電性織物のポリピロールのピックアップ率は、1.3%と計算された。その平均表面抵抗率は2×10Ω/□であった。
【0092】
比較例2a
過硫酸アンモニウムを2%、パラトルエンスルホン酸1%及びナフタレンスルホン酸1%の水溶液に変更したことを除き、実施例1aの操作を繰り返した。
得られた導電性不織布のポリピロールのピックアップ率は、1.3%と計算された。その平均表面抵抗率は1.8×10Ω/□であった。
【0093】
実施例1a〜7aの電磁シールド性能が付加された電磁波吸収体と、比較例1a,2aの導電性繊維シートについて、マイクロストリップ測定で得られた反射減衰(S11)及び透過減衰(S21)を表3に示す。
【0094】
【表3】

【0095】
考 察
表3より、導電性高分子を被覆することにより得られる導電性繊維シートの表面抵抗率を1×10Ω/□≦R≦1×10Ω/□の範囲に調整することにより、従来にない高い電磁シールド性能を付与することができる。
【0096】
したがって、電磁波シールド性能テストおよび先述の電磁波吸収性能テストより、表面抵抗率を1×10Ω/□≦R≦1×10Ω/□の範囲に調整された導電性繊維シートからなる電磁波吸収体の表面抵抗率をさらに1×10Ω/□≦R≦1×10Ω/□の範囲に調整することにより、高い電磁波シールド性能を兼ね備えた本発明による広帯域電磁波吸収体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シート基材を導電性高分子で被覆することにより、表面抵抗率を1×10Ω/□≦R≦1×10Ω/□の範囲に調整した導電性繊維シートからなる電磁波吸収体。
【請求項2】
前記導電性繊維シートを2以上積層することにより成形されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記表面抵抗率を1×10Ω/□≦R≦1×10Ω/□の範囲に調整することにより、電磁波シールド性能が付与された請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記導電性高分子は、ポリピロール、ポリチオフェン又はそれらの誘導体であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
前記繊維シート基材は、合成繊維の不織布または布帛の単体若しくはそれらの複合体であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
前記繊維シート基材は、導電性金属を含んでいないことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電磁波吸収体。
【請求項7】
前記繊維シート基材の全部又は一部は、硫化銅でコーティングされた繊維またはカーボン繊維から成形されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項8】
前記電磁波吸収体は、少なくともその片側表面に金属箔が接着されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項9】
前記電磁波吸収体の厚みは、0.2mm〜100mmであることを特徴とする請求項1は又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項10】
前記電磁波吸収体は、1GHz〜110GHzの周波数帯域の少なくとも一部に10dB以上の電磁波吸収性能を有する帯域を含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項11】
前記電磁波吸収体は、表面抵抗率が異なる導電性繊維シートを含んでいることを特徴とする請求項2に記載の電磁波吸収体。
【請求項12】
前記電磁波吸収体は、導電性高分子で被覆されていない少なくとも1以上の繊維シートを含んでいることを特徴とする請求項2に記載の電磁波吸収体。
【請求項13】
(a)合成繊維の不織布または布帛からなる繊維シート基材を準備するステップと、
(b)前記繊維シート基材を、ドーパントを含む酸化剤水溶液で含浸するステップと、そして
(c)含浸した前記繊維シート基材を気相の導電性高分子のモノマーと接触させ、酸化重合することにより、導電性高分子を少なくとも部分的に基材上に生成させることにより導電性繊維シートを作製するステップと、
を含む電磁波吸収体の製造方法。
【請求項14】
前記導電性繊維シートを2以上作製し、該導電性繊維シートを積層するステップをさらに含んでいる請求項13に記載の電磁波吸収体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−80911(P2010−80911A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99918(P2009−99918)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】