説明

広範囲連続希釈装置

微小粒子を含むガスを希釈して、その結果生じた希釈ガスを測定器によって測定するための広範囲連続希釈装置を提供する。希釈ガス吸気口は希釈ガスを受け取り、サンプルガス吸気口はサンプルガスを受け取る。フローメータはサンプルガス流量を測定する。混合器は、希釈ガス及びサンプルガスを受け取り、そして、ある希釈率で混合する。測定流排気口は、混合気流から特定の流量を測定器に供給する。補給ガス吸気口は制御された値で混合気に補給ガスを供給する。希釈ガスが制御された値で流れ、混合気が制御された値で流れるので、補給ガスの流量の変化により、サンプルガス流量に応答変化が生じ、所望の希釈率の連続的な調節及び制御が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気ガス又は微小粒子を含むその他のガスの希釈に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気ガス中の粒子状物質(PM)の排出量の特性を知るためには、エンジンの排気ガスを希釈する必要がある。エンジンは高濃度の粒子を排出するので、特定の粒子数測定器が測定できる測定範囲になるように、高希釈率(代表的には100:1以上)で排気ガスを希釈しなくてはならない。エンジンの排気ガス中の粒子数濃度は広範囲で変化する可能性がある。これはエンジン技術や運転状況の変化によるものである。これらの必要性を満たし、正確な測定結果を得るために広範囲で希釈する能力が必要とされる。
【0003】
代表的な従来の部分流希釈装置は、希釈空気流量と全混合気流量をマスフローコントローラで制御している。サンプル流量は、全混合気流量から希釈空気流量を引くことで算出される。希釈率は、全混合気流量をサンプル流量で割ることによって算出される。低希釈率の場合は、この方法によって、正確な希釈率を算出することができる。
【0004】
希釈率が上昇するにしたがって、全流量及び希釈空気流量の測定が不確かさを持つため、算出される希釈率の精度は低下する。この結果、排出ガスの成分を正確に特定できなくなる。それゆえに、従来の部分流希釈装置は、40:1あるいはさらに低い希釈率の範囲において使用するように制限されてきた。
【0005】
前述したような理由のため、改良された希釈装置が必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、エンジンの排気ガス及び微小粒子を含むその他のガスを広範囲の希釈能力により、精度よく希釈する方法を提供することである。
【0007】
本発明のもう一つの目的は、高希釈率の条件において、精度を保つことができる希釈装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、部分流希釈装置(partial flow diluter)の改良を意図している。本発明の広範囲連続希釈装置によれば、様々な希釈率を可能にすることができ、好ましい実施形態においては、1:1から1000:1までの希釈率を可能にすることができる。混合後に導入される小補給流(make-up flow)の流量を変化させることで、希釈率を広範囲で連続的に制御することができ、サンプル流量を変化させることができる。サンプル流量は直接測定され、希釈装置は、直接測定されるサンプル流量に応じて、その作動範囲において高い精度で希釈率を提供する。
【0009】
本発明を実行することで、広範囲連続希釈装置が提供される。その広範囲連続希釈装置は、希釈空気吸気口と、サンプルガス吸気口と、希釈空気及びサンプルガスを混合する混合器とを備えている。さらに、前記広範囲連続希釈装置は、前記混合器から混合気を受け取るための混合気排気口を含んでいる。全混合気流量は、例えば臨界オリフィス又はマスフローコントローラによって制御される。希釈空気流量は、例えばマスフローコントローラによって制御される。特定(well-defined)の流量(一定又は可変)が、混合気流から測定器へ流れる。
【0010】
補給空気流は、前記混合器の下流において、全混合気流に供給される。このようにして、補給空気の流量を変化させることにより、サンプル流量も同様に変化させられる。この方法によって、希釈率の連続的な調整が可能となる。希釈率は、広範囲に渡って調整することができる。例えば、サンプル流量はオリフィスフローメータによって測定される。結果として、広範囲に渡って、算出された希釈率は正確なものとなる。
【0011】
望ましい特定の応用例は、希釈率を制御するために、フィードバック制御ループが用いられる。例えば、システムが一定の希釈率を必要とする場合には、比例、積分、微分(PID)制御ループを設けて補給空気流量を操作することで希釈率を制御すればよい。
【0012】
さらに、好ましい実施形態として、サンプル流量はオリフィスフローメータを用いて測定することが考えられる。この場合、オリフィスフローメータにおける粒子の損失を無視することができる。希釈率ごとに別々のオリフィスフローメータを用いることによって、オリフィスフローメータにおける圧力損失の正確な検出が保証される。最も適切なフローメータは人が選んでも良いし、自動的に選ばせても良い。
【0013】
本発明の別の特徴は、高希釈率において微小粒子の損失を最小限に抑えることである。本発明は、流路における流れの滞留時間を低減するために、オリフィスフローメータの上流にバイパスを用いることを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1において、広範囲連続希釈装置の好ましい実施形態を10で示している。希釈ガス吸気口12は希釈ガスを受け取り、サンプルガス吸気口14はサンプルガスを受け取る。混合器16は、希釈ガス吸気口12とサンプルガス吸気口14とに接続され、それぞれのガスを受け取り、ある希釈率で混合する。希釈ガスの流量は、マスフローコントローラ18で制御される。オリフィスフローメータ20は、サンプルガスの流量を測定する。バイパス流排気口22は、オリフィスフォローメータ20の上流に設けられ、移送ライン15を通過するサンプルガスの滞留時間を低減させる。その移送ライン15は、吸気口14が例えばエンジン排ガスなどの予想されるサンプル源に接続される。
【0015】
混合器16は、排気口30を備え、測定流排気口32は、測定器に特定の流量を供給するように構成されている。混合気は、臨界オリフィス34及び真空源36によって、所定の制御された比率で流れる。臨界オリフィス34は、マスフローコントローラであっても構わない。補給ガス吸気口38は、マスフローコントローラ40によって制御された混合気流に補給ガスを供給する。
【0016】
引き続き図1を参照して、オリフィスフローメータ20は、絶対圧力変換器42と、圧力変換器44と、複数の異なったサイズのオリフィスフローメータとを含む。各オリフィスフローメータは、バルブ50と、熱電対52と、オリフィス54とを含む。エンジンの排気ガス中の粒子状物質の質量測定が必要とされるときには、前置加重フィルタ60及びホルダーが補給ガスの上流に設けられる。
【0017】
フィードバック制御ループは、本実施形態において希釈率が所望の値になるように補給ガスの流量を変化させることによって希釈率を制御する。より具体的には、フィードバック信号64は、誤差信号を作るために、加算器66において基準信号62と比較される。その誤差信号に基づいて、PID制御部68は、マスフローコントローラ40に対して指令信号を決定する。このようにして、一定の希釈率に調節され又はその他の適切な基準信号を見つけ出すことができる。
【0018】
実施形態中には、6つの流れがある。下記の全ての流量は、同じ状態、つまり標準又は基準状態のどちらかである。Qby−passは、オリフィス54の上流のバイパス流量である。バイパス流量の目的は、サンプル流量がフローメータ20に到達するまでの滞留時間を最小限に抑えることである。希釈機構による微小粒子(20ナノメートル以下)の粒子損失は、サンプル流路において最小限に抑えられる。Qtotalは、システムの全混合気流量である。Qtotalは、臨界オリフィス34又はマスフローコントローラによって一定値となるように制御される。Qairは、粒子の含まれない希釈空気流量であり、マスフローコントローラ18によって一定値となるように制御される。Qは、サンプル流量であり、オリフィスフローメータ20によってリアルタイムで測定される。Qmake−upは、補給空気流量である。補給空気流量は調節されることができ、その流量はマスフローコントローラ40によって制御される。通常の動作において、Qmake−upは、Qairよりもずっと小さい。しかしながら、いくつかの条件下においては、Qmake−upは、Qairよりも大きくなる場合がある。Qinstrumentは測定器又はフィルターに流れ込む流量であり、所望の値で一定に保たれたり、変化させられたりする。
【0019】
サンプル流と希釈空気又は希釈ガスとは、混合器16で混合される。混合器16によって、サンプル流と希釈空気とは均一に混合される。希釈空気の流量とサンプルの流量は、混合器16の上流において測定されているので、どんな種類の混合器であってもこのシステムに使用することができる。いくつかの実施形態においては、暖められた希釈空気が必要とされる。そのような実施形態では希釈空気及び混合器を暖めるために加熱装置を備えても良い。
【0020】
希釈装置中の流量は以下のように定義できる。
【0021】
total=Qair+Qmake−up−Qinstrument (1)
【0022】
本実施形態においては、全流量及び希釈空気流量は、動作中一定値になるように保たれている。
【0023】
補給空気流量Qmake−upを調節することによって、全流量Qtotalは一定値に保たれる。結果として、サンプル流量Qは変化する。例えば、補給空気流量が増加している間は、全流量を一定値に保つために、サンプル流量は減少する。逆に、補給空気流量が減少している間は、全流量を一定値に保つために、サンプルの流量は増加する。
【0024】
希釈率(DR)は以下のように定義できる。
【0025】
DR=(Qair+Q)/Q=1+Qair/Q (2)
【0026】
希釈空気流量は変化しないので、希釈率は、サンプル流量のみが変数の関数である。補給空気流量の増加に伴いサンプル流量が減少するとき、希釈率は増加する。逆に、補給空気流量の減少に伴いサンプル流量が増加するとき、希釈率は減少する。
【0027】
補給空気流量は連続的に調節されているので、サンプル流量は連続的に変化する。結果として、希釈率は連続的に制御される。希釈空気流量がない(Qair=0)場合には、希釈率は1:1となる。
【0028】
サンプル流量Qは、複数の内部フローメータを有するオリフィスフローメータ20によって測定される。内部フローメータは各々、熱電対52と、オリフィス54と、バルブ50とを備えている。動作中、バルブは適切な内部フローメータを選択するように操作される。サンプル流量Qが変化するときに、オリフィス54間における圧力低下も同様に変化する。その圧力低下は、圧力変換器44によって測定される。圧力変換器44による正確な圧力測定を維持するために、システムが高希釈率の条件下で稼動しているとき(例えば、100:1より大きい希釈率で、サンプル流量が小さい場合)には、より小さいオリフィスを有する内部フローメータが選択される。オリフィスの選択過程は自動又は手動で制御される。図示されるように、オリフィスフローメータ20は、一対の内部フローメータを備えている。
【0029】
オリフィスを通過する流量は、標準又は基準状態におけるオリフィス間の差圧の関数として校正される。校正曲線は正確なフローメータによって作られ、多項式として表される。差圧は特に校正されていないので、これらの流量は式を用いて計算される。
【0030】
動作中、サンプル流の温度及び圧力が標準又は基準状態ではないかもしれない。絶対圧力変換器42及び熱電対52は、サンプル流の絶対圧力及び温度をそれぞれ測定する。それゆれ、サンプル流を標準又は基準状態に補正することができる。補正されたサンプル流量は、希釈率を計算するために上述した式(2)に用いられる。
【0031】
引き続き図1に示すように、このシステムは、安定した希釈率を提供するためにPID制御器を備えている。もし動作中に一定の希釈率が必要とされるならば、PID制御部は使用される。PID制御部は、一定のサンプル流量にするために、補給空気を調節する。結果として、一定の希釈率が得られる。図1において、オリフィスフローメータ20は、加算器68において基準信号62と比較されるフィードバック信号64を出力する。比較した結果の誤差信号は、PID制御部68にて演算されて、マスフローメータ40への指令信号が決定される。
【0032】
いくつかの実施形態において、サンプル流が止められているときに、システム内に粒子が存在するかどうかチェックする必要がある。このテストはゼロチェックとよばれる。
【0033】
希釈装置10は、ゼロチェックを行うための唯一の方法を提供する。補給空気の流量が十分大きくなるように調節することによって、サンプル流を逆流させて全流量を一定に保つことができる。結果として、測定器に流入するサンプル流は無くなる。このようにして、測定器は、システムの内部に漏れが有るか又は希釈空気に粒子が有るかを検出することができる。
【0034】
エンジンの排気ガス中の粒子状物質(PM)の質量測定は、個数又は大きさの測定と同時に行われる必要がある場合には、図1の60で示されるように、補給空気の上流に前置重み付けフィルター及びホルダーを設置する。フィルター60を通過する流量であるQfilterは以下のように表される。
【0035】
filter­=Qair+Q−Qinstrument
【0036】
この測定値は、個数又は大きさの測定を同時に行わなくても単独で得ることができる。
【0037】
図2において、希釈装置10の好ましい使用方法が説明されている。ブロック70において、補給空気流が全混合気流に供給される。ブロック72において、希釈率を計算するためにサンプルガス流量が測定される。ブロック74において、補給空気流量を調節してサンプルガスの流量を変化させることによって、希釈率が制御される。
【0038】
なお、本発明の実施形態を説明してきたが、これらの実施形態が、本発明の全ての可能な形態を図示及び記述することを意図するものではない。さらに、明細書において用いられている言葉は、限定というよりもむしろ記述の言葉であり、本発明の精神及び要旨から逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の好ましい実施形態に基づく広範囲連続希釈装置を示す図。
【図2】本発明の好ましい実施形態における使用方法を説明するブロック線図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子を含むガスを希釈して、その結果生じた希釈ガスを測定器によって測定するための広範囲連続希釈装置であって、
制御された値で希釈ガスを受け取る希釈ガス吸気口と、
サンプルガスを受け取るサンプルガス吸気口と、
前記サンプルガスの流量を測定するフローメータと、
前記希釈ガス吸気口及び前記サンプルガス吸気口に接続されて、前記希釈ガス及び前記サンプルガスを受け取り、一定の希釈率で希釈し、混合気流を制御された値で排気する排気口を有する混合器と、
前記混合気流から前記測定器へ所定の流れが流入するように設けられた測定流排気口と、
制御された値で補給ガスが前記混合気流へ流入するように設けられた補給ガス吸気口と、を備えており、
前記補給ガスの流量の変化によってサンプルガスの流量を変化させて、それによって、前記希釈率を連続的に変化させる広範囲連続希釈装置。
【請求項2】
前記混合気流の流量が、臨界オリフィスによって制御される請求項1記載の広範囲連続希釈装置。
【請求項3】
前記混合気流の流量が、マスフローコントローラによって制御される請求項1記載の広範囲連続希釈装置。
【請求項4】
前記希釈ガスの流量が、マスフローコントローラによって制御される請求項1記載の広範囲連続希釈装置。
【請求項5】
前記サンプルガスの流量を測定するフローメータが、オリフィスフローメータを備える請求項1記載の広範囲連続希釈装置。
【請求項6】
前記サンプルガスの流量を測定するフローメータが、複数の異なる大きさのオリフィスフローメータを備え、前記サンプルガスに適用される前記オリフィスフローメータは希釈率によって決まる請求項1記載の広範囲連続希釈装置。
【請求項7】
前記希釈率が所望の値に追従するように、前記補給ガスの流量を変化させることによって前記希釈率を制御するフィードバック制御ループをさらに備える請求項1記載の広範囲連続希釈装置。
【請求項8】
フィードバック制御ループが、比例制御器、積分制御器、微分制御器を備える請求項7記載の広範囲連続希釈装置。
【請求項9】
フィードバック制御ループが、一定の希釈率に追従するように設定されている請求項7記載の広範囲連続希釈装置。
【請求項10】
前記測定器に流入する流量が一定である請求項1記載の広範囲連続希釈装置。
【請求項11】
前記測定器に流入する流量が、特定の可変な測定流量である請求項1記載の広範囲連続希釈装置。
【請求項12】
前記サンプルガス吸気口をサンプル源に接続している移送ラインにおいて前記サンプルガスが滞留する時間を低減するために、前記フローメータの上流に設けられたバイパス流排気口をさらに備える請求項1記載の広範囲連続希釈装置。
【請求項13】
前記補給ガス吸気口の上流にフィルターを備える請求項1記載の広範囲連続希釈装置。
【請求項14】
請求項1記載の広範囲連続希釈装置の使用方法であって、
前記サンプルガス吸気口から外側へ流れるように、前記補給ガスの流量を制御し、前記測定器から測定値を得る使用方法。
【請求項15】
請求項1記載の広範囲連続希釈装置の使用方法であって、
前記サンプリングガスの流量において応答変化を生じさせるように、前記補給ガスの流量を調節する使用方法。
【請求項16】
前記希釈率が所望の値に追従するように、前記補給ガスの流量が調節される請求項15記載の使用方法。
【請求項17】
所望の値とは一定の希釈率である請求項16記載の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−530558(P2008−530558A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555237(P2007−555237)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【国際出願番号】PCT/US2006/004702
【国際公開番号】WO2006/086615
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】