説明

広覆域レーダ装置

【課題】送信用アンテナ及び受信用アンテナの放射特性がレドームを載置する金属製筺体の上端部から受ける影響を極力低減した広覆域レーダ装置を提供する。
【解決手段】広覆域レーダ装置100は、基板111と、基板111の相対する両端部に配置された送信用アンテナ112及び受信用アンテナ113と、基板111を載置する支持体114と、を有するアンテナユニット110と、アンテナユニット110を覆うレドーム120と、アンテナユニット110を収納する金属製筺体130と、を備えている。筺体130には、その上端にレドーム120を載置して固定するための溝部133が形成されている。溝部133の上端が、送信用アンテナ112及び受信用アンテナ113を配置した基板111の面より下側となるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも送信用アンテナと受信用アンテナを収納するレドームを備えたレーダ装置に関し、特に送信用アンテナ及び受信用アンテナが広覆域な指向性を有する広覆域レーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は送信用アンテナから放射された送信波が対象物で反射され、この反射波を受信用アンテナで受信することで対象物までの距離や方向を検知している。このようなレーダ装置は、近年では自動車に搭載されて進行方向の障害物などを検出するのに用いられるようになってきている。自動車に搭載されるレーダ装置等では、測定する角度範囲を広くする広覆域化や設置スペースを小さくする小型化が求められる。そのため、送信用アンテナと受信用アンテナとを一つのレドーム内に収納して小型化、広覆域化が図られるが、その際に課題となる送信用アンテナと受信用アンテナとの間の送受アイソレーションの改善が要求される。このような送受アイソレーションの改善を図る従来技術として、例えば特許文献1に開示されているものがある。
【0003】
また、レーダ装置の測定精度を高めるために、送信波に広帯域な高周波信号を用いたレーダ装置の開発も進められている。自動車に搭載されるレーダ装置のニーズとして、近年は駐車支援や死角検知といった用途への要求もある。このような用途では、ごく近距離にある対象物を検知することが要求されるが、このような要求を従来のレーダ装置で実現しようとすると、多数のレーダ装置を自動車に搭載する必要がある。しかし、レーダ装置を搭載できるスペースが限られているため、1つのレーダ装置で広い角度範囲を測定できる広覆域レーダ装置が必要となる。以下では、測定される角度範囲を「測角覆域」と称する。
【0004】
測角覆域が広い広覆域レーダ装置では、ビーム幅の広い広覆域なアンテナが送信用及び受信用のアンテナに用いられる。広覆域レーダ装置は、測角覆域が広いことでごく近距離にある対象物を検知することが可能となるが、送信用アンテナと受信用アンテナとの間のアイソレーションが十分取れていないと、近距離の対象物で反射された受信波が送信波と干渉して対象物の検知ができなくなるおそれがある。
【0005】
送信用アンテナと受信用アンテナとの間の結合は、一般的にはその間の距離を大きくするにつれて低減していくことから、両者間の距離をできるだけ大きくすることでアイソレーションを高くすることができる。送信用アンテナと受信用アンテナとを一つの基板内に搭載して一体化し、これをレドーム内に収納した小型レーダ装置では、送信用アンテナと受信用アンテナとの間の距離を大きくするために、必然的に相対する基板の両端に分けてそれぞれのアンテナを配置することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−210297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のレーダ装置に用いられている送受信用アンテナは指向性が比較的高いことから、アンテナの略水平方向にある構造物等の影響が問題なることはなかった。しかしながら、広覆域なアンテナでは、略水平方向に金属物があるとその影響を受けるおそれがある。特に、送信用アンテナと受信用アンテナとの間のアイソレーションを高めるためにそれぞれが基板の相対する両端部に配置されると、各アンテナがレドームの端部に近接する。レドームの端部は金属製筺体の上端部に載置されて固定されることから、送信用アンテナ及び受信用アンテナが金属製筺体の上端部に近接することになる。その結果、各アンテナの放射特性が金属製筺体の上端部による影響を強く受けることになり、好適な放射特性が得られなくなるといった問題がある。
【0008】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、送信用アンテナ及び受信用アンテナの放射特性がレドームを載置する金属製筺体の上端部から受ける影響を極力低減した広覆域レーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の広覆域レーダ装置の第1の態様は、高周波信号を送受信して所定の角度範囲の対象物を検知する広覆域レーダ装置であって、基板と、該基板上に配置された送信用アンテナ及び受信用アンテナと、前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナを固定するための支持体とからなるアンテナユニットと、前記アンテナユニットを載置する金属製筺体と、前記アンテナユニットを覆って前記金属製筺体に固定されるレドームと、を備え、前記送信用アンテナの放射方向を上側とし、前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナを配置する前記基板の面をアンテナ面とするとき、前記レドームを固定する前記金属製筺体の最上端が前記アンテナ面より下側にあることを特徴とする。
【0010】
本発明の広覆域レーダ装置の他の態様は、前記金属製筺体の最上端は、前記アンテナ面よりも少なくとも2.5mm下側にあることを特徴とする。
【0011】
本発明の広覆域レーダ装置の他の態様は、前記金属製筺体の最上端には、前記レドームの端部を嵌合して固定するための溝部が形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の広覆域レーダ装置の他の態様は、前記レドームの端部は、前記溝部の内面に所定の接着剤で固定されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の広覆域レーダ装置の他の態様は、前記溝部は、前記アンテナユニット側に立設する内側壁部と、前記内側壁部に対向する外側壁部と、前記内側壁部と前記外側壁部との間の溝底部とで形成され、前記内側壁部と前記外側壁部との間に少なくとも2.5mmの幅を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の広覆域レーダ装置の他の態様は、前記レドームの端部には、前記内側壁部と嵌合させるための切欠き部が形成されており、前記内側壁部の上端と前記切欠き部の底部とが接していることを特徴とする。
【0015】
本発明の広覆域レーダ装置の他の態様は、前記前記金属製筺体の上端内面側に、前記アンテナユニットを載置するためのアンテナユニット載置部が設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明の広覆域レーダ装置の他の態様は、前記アンテナユニットの側面と前記内側壁部との間に、少なくとも0.5mmの間隙が設けられていることを特徴とする。
【0017】
本発明の広覆域レーダ装置の他の態様は、前記アンテナ面から前記レドーム内面までの高さが、前記アンテナユニット載置部の底部から前記内側壁部の上端までの高さにより位置決めされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、送信用アンテナ及び受信用アンテナの放射特性がレドームを載置する金属製筺体の上端部から受ける影響を極力低減した広覆域レーダ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態の広覆域レーダ装置の構成を示す断面図である。
【図2】第1実施形態の広覆域レーダ装置の構成を示す拡大断面図である。
【図3】アンテナユニットと筺体との位置関係を説明するための拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の好ましい実施の形態における広覆域レーダ装置について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る広覆域レーダ装置を、図1、2を用いて説明する。図1は、本実施形態の広覆域レーダ装置100の構成を示す断面図であり、送信用アンテナと受信用アンテナとを結ぶ線上の基板の面に垂直な面で見た断面図である。また、図2は、図1に示す断面図の一端を拡大して示す拡大断面図である。
【0022】
広覆域レーダ装置100は、基板111と、基板111の相対する両端部に配置された送信用アンテナ112及び受信用アンテナ113と、基板111を載置する支持体114と、を有するアンテナユニット110と、アンテナユニット110を覆うレドーム120と、アンテナユニット110を収納する金属製筺体130と、を備えている。アンテナユニット110は、筺体130とレドーム120とで囲まれた空間内に収納されている。なお、支持体114は、基板111から放射される電磁波が支持体114より下側に配置される部品に到達するのを遮蔽するために配置されるが、本実施形態では基板111を載置する役割を兼ねている。
【0023】
レドーム120は、上蓋部121と、上蓋部121の周縁に形成された側壁部122を有している。また筺体130は、筺体底部131と、筺体底部131の周縁に立設する筺体壁部132を有しており、筺体壁部132の上端にレドーム120を載置して固定する溝部133が形成されている。溝部133は、溝底部134と内側壁部135と外側壁部136とでコの字状に形成された構造を有している。
【0024】
レドーム120は、側壁部122の端部123が溝部133に嵌合されることで筺体130に固定される。また、レドーム120の側壁部122の端部123近傍には、内面側を切欠いた切欠き部124が形成されている。レドーム120の切欠き部124は、筺体130の内側壁部135と嵌合するように形成されたものであり、切欠き部124の底部124aが内側壁部135の上端に載置される。
【0025】
筺体壁部132の上端に形成されたコの字状の溝部133は、レドーム120の端部123との接着性を高めるように形成されたものである。端部123と溝部133との接触面に接着剤を注入することで、レドーム120が筺体130に固定される。レドーム120の端部123との嵌合部をコの字状の溝部133とすることで、端部123との接着面を大きくすることができる。内側壁部135と外側壁部136との間の幅は、少なくとも2.5mm設けるのがよい。これにより、端部123と溝部133の内面との接着強度を高めるとともに密閉性を高めることができ、レドーム120及び筺体130による内部への高い水密性を維持することができる。
【0026】
レドーム120の端部123との接着性をより高めるためには、溝部133の幅、すなわち内側壁部135と外側壁部136との間隔を少なくとも2.5mmとするのがよい。これにより、レドーム120の溝部133との接触面にバラツキ(変形や表面粗さ)があっても、溝部133との間に接着剤が十分に回り込んで高い接着性を得ることができる。なお、レドーム120を筺体130に固定する手段として、上記の接着剤に代えてネジを用いて固定するようにしてもよい。あるいは、接着剤による固定とネジによる固定を併用してもよい。
【0027】
上記のような構成を有する本実施形態の広覆域レーダ装置100は、溝部133の上端が、送信用アンテナ112及び受信用アンテナ113が配置された基板111の面(以下では、アンテナ面という)より下側にあることを特徴としている。アンテナ面と溝部133の高さ方向の位置関係を図3に示す。同図に示すように、本実施形態の広覆域レーダ装置100では、溝部133の内側壁部135及び外側壁部136のそれぞれの端部が、アンテナ面より下側に来るように構成されている。ここで、アンテナ面より下側とは、アンテナ面を基準に送信用アンテナ112の放射方向とは反対側を意味する。
【0028】
筺体130の溝部133は、金属製の内側壁部135と外側壁部136とが所定の間隔で並んでおり、周期構造となっている。このような金属製の周期構造がアンテナ面に存在すると、送信用アンテナ112及び受信用アンテナ113の放射特性が強い影響を受けるおそれがある。例えば、広覆域レーダ装置100の使用周波数帯が超広帯域の場合、溝部133の周期構造により特定の周波数帯で利得等が低下するといったアンテナ特性の劣化を招くおそれがある。そこで、本実施形態の広覆域レーダ装置100では、このような金属製の周期構造がアンテナ面に存在しないように、溝部133の上端がアンテナ面より下側となるように筺体130を形成している。これにより、溝部133が放射特性に与える影響を抑制するようにしている。
【0029】
溝部133を上記のような構造とすることにより、アンテナ面及びそれより上側(送信用アンテナ112の放射方向)には筺体130が存在せず、金属が存在しないことになる。その結果、送信用アンテナ及び受信用アンテナの放射特性が、金属製筺体130から受ける影響を極力低減することができる。好ましくは、内側壁部135及び外側壁部136の上端が、アンテナ面より少なくとも2.5mm下側にあるのがよい。
【0030】
筺体壁部132にはさらに、内面側を切欠いたアンテナユニット載置部137が形成されている。アンテナユニット載置部137には、アンテナユニット110の端部が載置される。アンテナユニット110を安定的に載置するためのアンテナユニット載置部137を筺体130に形成することにより、筺体130に固定されるレドーム120の上蓋部121とアンテナ面との間の距離が安定的に決定される。すなわち、アンテナ面からレドーム120の上蓋部121の内面までの高さをHとすると、高さHが所定値になるようにアンテナユニット載置部137を形成すればよい。レドーム120の位置決めは、レドーム120の切欠き部低部124aから上蓋部121の内面までの高さが所定値に決定されているとき、筺体130のアンテナユニット載置部137の底部から内側壁部135の上端までの高さを所定値に決めることで精度良く行える。
【0031】
本実施形態の広覆域レーダ装置100では、アンテナユニット110の支持体114の端部がアンテナユニット載置部137に載置される。アンテナユニット110の側面、すなわち支持体114の側面と支持体受部137の側面との間は、できるだけ隙間が無いようにするのが好ましい。支持体114の側面と支持体受部137の側面との間にある程度大きな隙間ができると、アンテナ特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0032】
一方、支持体114の側面と支持体受部137の側面との間に全く隙間が生じないような構造にすると、アンテナユニット110を筺体130に取り付けたり取り外したりするのが困難になるといった問題が生じる。支持体114の側面と支持体受部137の側面との間には、少なくとも0.5mmの間隙を設けるのがよい。
【0033】
上記説明のように、本実施形態の広覆域レーダ装置100は、筺体130にアンテナユニット110とレドーム120を搭載して一体化した構造を有しており、金属製筺体130の最も高い位置となる溝部133の上端が、アンテナ面より低い位置になるように形成されている。これにより、アンテナ面あるいはそれより高い位置に金属が存在しないようにしている。
【0034】
広覆域レーダ装置100を上記のような構造とすることにより、送信用アンテナ112の放射特性が筺体130の影響を受けて劣化するのを極力低減するとともに、受信用アンテナ113の受信特性に対する外乱の影響が抑制され、広帯域で広覆域のレーダ特性を実現することが可能となっている。本実施形態の広覆域レーダ装置100は、アンテナユニット110を筺体130及びレドーム120で覆って小型化することが容易なことから、特に車両に搭載して用いるのに好適である。
【0035】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る広覆域レーダ装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における広覆域レーダ装置の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0036】
100 広覆域レーダ装置
111 基板
112 送信用アンテナ
113 受信用アンテナ
114 支持体
110 アンテナユニット
120 レドーム
121 上蓋部
122 側壁部
123 端部
124 切欠き部
130 筺体
131 筺体底部
132 筺体壁部
133 溝部
134 溝底部
135 内側壁部
136 外側壁部
137 アンテナユニット載置部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号を送受信して所定の角度範囲の対象物を検知する広覆域レーダ装置であって、
基板と、該基板上に配置された送信用アンテナ及び受信用アンテナと、前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナを固定するための支持体とからなるアンテナユニットと、
前記アンテナユニットを載置する金属製筺体と、
前記アンテナユニットを覆って前記金属製筺体に固定されるレドームと、を備え、
前記送信用アンテナの放射方向を上側とし、前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナを配置する前記基板の面をアンテナ面とするとき、前記レドームを固定する前記金属製筺体の最上端が前記アンテナ面より下側にある
ことを特徴とする広覆域レーダ装置。
【請求項2】
前記金属製筺体の最上端は、前記アンテナ面よりも少なくとも2.5mm下側にある
ことを特徴とする請求項1に記載の広覆域レーダ装置。
【請求項3】
前記金属製筺体の最上端には、前記レドームの端部を嵌合して固定するための溝部が形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の広覆域レーダ装置。
【請求項4】
前記レドームの端部は、前記溝部の内面に所定の接着剤で固定されている
ことを特徴とする請求項3に記載の広覆域レーダ装置。
【請求項5】
前記溝部は、前記アンテナユニット側に立設する内側壁部と、前記内側壁部に対向する外側壁部と、前記内側壁部と前記外側壁部との間の溝底部とで形成され、前記内側壁部と前記外側壁部との間に少なくとも2.5mmの幅を有する
ことを特徴とする請求項3または4に記載の広覆域レーダ装置。
【請求項6】
前記レドームの端部には、前記内側壁部と嵌合させるための切欠き部が形成されており、前記内側壁部の上端と前記切欠き部の底部とが接している
ことを特徴とする請求項5に記載の広覆域レーダ装置。
【請求項7】
前記前記金属製筺体の上端内面側に、前記アンテナユニットを載置するためのアンテナユニット載置部が設けられている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の広覆域レーダ装置。
【請求項8】
前記アンテナユニットの側面と前記内側壁部との間に、少なくとも0.5mmの間隙が設けられている
ことを特徴とする請求項7に記載の広覆域レーダ装置。
【請求項9】
前記アンテナ面から前記レドーム内面までの高さが、前記アンテナユニット載置部の底部から前記内側壁部の上端までの高さにより位置決めされている
ことを特徴とする請求項7または8に記載の広覆域レーダ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−215455(P2012−215455A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80518(P2011−80518)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】