床スラブ構造及び床スラブ構造を有する建物
【課題】床スラブ厚を抑えつつ、床スラブの振動を低減する床スラブ構造及び床スラブ構造を有する建物を提供する。
【解決手段】梁材に架設された一又は複数のスラブユニットを備えた床スラブにおいて、スラブユニットの架設方向に沿った端部と床スラブ、若しくは隣接する前記スラブユニットの架設方向に沿った端部同士が縁切りされている。即ち、スラブユニットに振動を加えた場合、床スラブ又は他のスラブユニットに対して、当該スラブユニットの架設方向に沿った端部が上下(面外方向)に相対変位する。そのため、縁切り部分に設けられた粘弾性体がせん断変形して、スラブユニットの振動エネルギーを吸収する。このようにスラブユニットの振動を局所化することにより、粘弾性体のせん断変形を卓越し振動エネルギーの吸収効率を上げることで、下階で発生する床衝撃音等を低減できる。
【解決手段】梁材に架設された一又は複数のスラブユニットを備えた床スラブにおいて、スラブユニットの架設方向に沿った端部と床スラブ、若しくは隣接する前記スラブユニットの架設方向に沿った端部同士が縁切りされている。即ち、スラブユニットに振動を加えた場合、床スラブ又は他のスラブユニットに対して、当該スラブユニットの架設方向に沿った端部が上下(面外方向)に相対変位する。そのため、縁切り部分に設けられた粘弾性体がせん断変形して、スラブユニットの振動エネルギーを吸収する。このようにスラブユニットの振動を局所化することにより、粘弾性体のせん断変形を卓越し振動エネルギーの吸収効率を上げることで、下階で発生する床衝撃音等を低減できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床スラブの振動を低減する床スラブ構造及び床スラブ構造を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅等の建築構造物において、上階で物を床に落としたり、人が運動するなどして床スラブが振動すると、下階で重量床衝撃音が発生して問題となる。重量床衝撃音を低減する構造躯体の対策としては、床スラブの厚みを増したり、剛性を高めたりすることが考えられる。しかし、床スラブの厚みや剛性を増すと建物全体の重量が増加し、その荷重を支えるために柱、梁などの構造断面を大きくしなければならないので建築コストが増大する。また、床スラブの厚みを増すと、下階の天井高の確保が困難になるという問題が生じる。
【0003】
一方、特許文献1には、建物のコンクリート基礎と、機械設置用のコンクリート基礎との間にクリアランスを設け、建物のコンクリート基礎と機械設置用のコンクリート基礎とを縁切りする方法が提案されている。しかしながら、この方法は機械から建物への振動伝播及び共振現象を防止するものであり、振動自体を低減するものではない。
【0004】
また、特許文献2では、カーテンウォール等の複数の壁パネルを水平方向に並べて立設し、壁パネル間の目地に制振シーリング材を配置して建物の水平方向の揺れを抑制する制振構造が提案されている。しかしながらこの制振構造は、地震のような建物全体に作用する揺れに対して各壁パネルを積極的に面内変形させ、壁パネル間の前面だけに配置された制震シーリング材をせん断変形させることで振動を抑制するものである。従って、特定の振動源によって面外方向に振動する床スラブに、面内方向に制震シーリング材をせん断変形させる特許文献2の制震構造を適用することはできない。
【特許文献1】特開2006−183277号公報
【特許文献2】特開2000−170284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、床スラブ厚を抑えつつ、床スラブの振動を低減する床スラブ構造及び床スラブ構造を有する建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の床スラブ構造は、梁材に架設された一又は複数のスラブユニットを備えた床スラブと、前記スラブユニットの架設方向に沿った端部と前記床スラブ、若しくは隣接する前記スラブユニットの架設方向に沿った端部同士を縁切りする縁切り部に設けられた粘弾性体と、を有することを特徴とする。
【0007】
上記の構成によれば、梁材に架設された一又は複数のスラブユニットを備えた床スラブにおいて、スラブユニットの架設方向に沿った端部と床スラブ、若しくは隣接するスラブユニットの架設方向に沿った端部同士が縁切りされている。即ち、スラブユニットに振動を加えた場合、床スラブ若しくは隣接する他のスラブユニットに対して、当該スラブユニットの架設方向に沿った端部が上下方向(面外方向)に相対変位する。そのため、縁切り部に設けられた粘弾性体がせん断変形して、スラブユニットの振動エネルギーを吸収する。このようにスラブユニットの振動を局所化することにより、粘弾性体のせん断変形を卓越させることができる。従って、振動エネルギーの吸収効率が向上するため、床スラブや梁材等の構造駆体に伝播される振動を低減すると共に、下階で発生する重量床衝撃音等を低減することができる。
【0008】
請求項2に記載の床スラブ構造は、請求項1に記載の床スラブ構造において、前記スラブユニットが一方向プレキャストスラブであることを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、スラブユニットが一方向プレキャストスラブであるため、隣接する一方向プレキャストスラブを、隙間を空けて配置するだけで縁切り部を形成することができる。従って、施工性の向上、施工コストの削減を図ることができる。
【0010】
請求項3に記載の床スラブ構造は、請求項1に記載の床スラブ構造において、前記スラブユニットは、前記床スラブのコンクリート打設時に、前記粘弾性体で縁切りされ、前記縁切り部が形成されることを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、床スラブのコンクリート打設時に、床スラブとスラブユニットとの間に粘弾性体を設けることで縁切り部を形成する。そのため、振動源の場所や広さに合せてスラブユニットを形成することができる。
【0012】
請求項4に記載の床スラブ構造は、請求項1〜3の何れか1項に記載の床スラブ構造において、前記縁切り部に、更に吸音材を設けたことを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、縁切り部に更に吸音材を設けている。粘弾性体は、目標とする振動低減性能に合わせて適宜縁切り部に設ければ良く、全ての縁切り部を粘弾性体で埋める必要はない。この場合、粘弾性体と粘弾性体との隙間から下階に音が漏れる恐れがある。そこで、粘弾性体と粘弾性体との隙間に吸音材を配置することで、振動低減性能を確保した状態で、隙間を透過する音漏れを防止できる。また、粘弾性体のコストを抑えることができる。
【0014】
請求項5に記載の床スラブ構造は、請求項1〜4の何れか1項に記載の床スラブ構造において、前記スラブユニットに取り付けられた仕上材が、他の仕上材と分離されていることを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、スラブユニットに取り付けられた仕上材と、他の仕上材と、を分離することで、スラブユニットで発生した振動が、仕上材を介して他の仕上材に伝播されることがない。そのため、スラブユニットに局所化された振動エネルギーの拡散が防止され、粘弾性体による振動エネルギーの吸収効率を高めることができる。従って、振動低減性能が向上する。
【0016】
請求項6に記載の建物は、請求項1〜5の何れか1項に記載の前記床スラブ構造を有することを特徴とする。
【0017】
上記の構成によれば、請求項1〜5の何れか1項に記載の床スラブ構造を有することで、床スラブの振動が低減され、環境性能を確保した建物を構築することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上記の構成としたので、スラブ厚を抑えつつ、床スラブの振動を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図面を参照しながら、本発明の床スラブ構造及び床スラブ構造を有する建物について説明する。先ず、第1の実施形態に係る床スラブ構造について説明する。
【0020】
図1(A)は、床スラブ構造を有する建物12の上階14及び下階16の断面図であり、図1(B)は、上階14の平面図である。建物12は、柱18と梁20とからなる架構を複数有している。上階14、下階16における床スラブ24、26は、デッキプレートの上にコンクリートを打設して構成された合成スラブであり、梁20及び梁20の間に架設された小梁22によって支持されている。
【0021】
上階14における床スラブ24は、当該床スラブ24の中央部付近に、小梁22に架設されたスラブユニット24Aを有している。スラブユニット24Aの架設方向(矢印L)に沿った両端部と、当該両端部と対向する床スラブ24の端部との間に、床スラブ24を貫通する深さの隙間28が形成されており、この隙間28によってスラブユニット24Aと床スラブ24が縁切りされ、スラブユニット24Aが床スラブ24から独立して上下方向(面外方向)に変位可能とされている。また、隙間28には、スラブユニット24Aの長手方向に沿って板状の粘弾性体30が挿入されている。粘弾性体30の材料としては、ジエン系ゴム、ブチル系ゴム、アクリル系、ウレタンアスファルト系ゴム等が用いられる。
【0022】
ここで、床スラブ24とスラブユニット24Aとの間に粘弾性体30を配置する方法の例について説明する。先ず、梁20及び小梁22の上にデッキプレートを載置する。この際、スラブユニット24Aの大きさに合わせたデッキプレートを他のデッキプレートから切り離しておく。次に、他のデッキプレートから切り離されたスラブユニット24A用のデッキプレートの上にスラブユニット24Aの外形を定める仕切り板やラス型枠等の型枠を組み、コンクリートを打設してスラブユニット24Aを施工する。コンクリートが硬化した後、型枠を撤去してスラブユニット24Aの架設方向に沿った両端部にスラブユニット24Aの長手方向に沿って粘弾性体30を接着する。最後に、スラブユニット24Aの周囲にコンクリートを打設して床スラブ24を構築する。このように床スラブ24の施工時に、床スラブ24とスラブユニット24Aとを粘弾性体30で縁切りすることで、振動源の位置や広さに合せて、床スラブ24にスラブユニット24Aを設けることができる。
【0023】
なお、上記の施工方法では、型枠を用いて床スラブ24とスラブユニット24Aを縁切りしたが、型枠に替えて板状の粘弾性体30でスラブユニット24Aの外形を定め、床スラブ24及びスラブユニット24A用のコンクリートを同時期に打設して施工しても良い。また、プレキャスト化されたスラブユニット24Aを用いて床スラブ24を構築しても良い。即ち、粘弾性体30が接着されたスラブユニット24Aを小梁22に架設した後に、スラブユニット24Aの周囲に載置されたデッキプレートの上にコンクリートを打設して床スラブ24を構築しても良い。また、床スラブ24のコンクリートが硬化した後に、床スラブ24の所望の位置をダイヤモンドカッター等で切断して、スラブユニット24Aの架設方向に沿った端部と床スラブ24との間に隙間28を形成し、この隙間28に粘弾性体30を挿入しても良い。
【0024】
次に、本発明の第1の実施形態に係る床スラブ構造の作用及び効果について説明する。
【0025】
スラブユニット24Aの架設方向に沿った端部と床スラブ24とが隙間28によって縁切りされている。従って、スラブユニット24Aに振動を加えると、スラブユニット24Aが床スラブ24から独立して振動し、床スラブ24に対してスラブユニット24Aの架設方向に沿った端部が上下方向(面外方向)に相対変位する。そのため、隙間28に設けられた粘弾性体30が上下方向にせん断変形し、スラブユニット24Aの振動エネルギーが熱エネルギーに変換され、振動エネルギーが吸収される。このようにスラブユニット24Aを独立して振動させることでスラブユニット24Aに振動が局所化され、粘弾性体30のせん断変形を卓越させることができる。よって、粘弾性体30による振動エネルギーの吸収効率が向上する。
【0026】
このため、床スラブ24の一部をダンスホールや子供部屋として利用する場合など重量床衝撃音の原因となる振動が発生し易い床スラブ24の部分にスラブユニット24Aを設けることで、床スラブ24や梁20等の構造駆体に伝播される振動が低減され、下階16で発生する重量床衝撃音を低減できる。特に、機械等のように振動源の位置が特定できる場合には、スラブユニット24Aの上に振動源を設置し、スラブユニット24Aに振動を局所化することで、床スラブ24の振動が低減される。なお、本実施形態では、下階16の重量床衝撃音を低減するが、スラブユニット24Aに振動が局所化される結果、スラブユニット24Aの直下で重量床衝撃音が大きくなる場合には、スラブユニット24Aの直下を収納スペースや設備スペースとして利用する等の対策を講じることが望ましい。
【0027】
次に、第2の実施形態に係る床スラブ構造について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。図2は、床スラブ構造を有する建物32を示す平面図である。
【0028】
図2に示すように、床スラブ34は小梁22に規則的に架設された複数のプレキャストコンクリート(以下、「PCa」という)造のスラブユニット34A、34Bから構成されている。ここで、床スラブ34の中央部付近に位置するスラブユニット34Aについて見ると、スラブユニット34Aとスラブユニット34Bとが、スラブユニット34Aの長手方向と直交する方向に隣接して配置されている。また、スラブユニット34Aの架設方向(矢印M)に沿った両端部と、当該端部と対向するスラブユニット34Bの架設方向に沿った端部との間に、隙間36が形成されている。この隙間36によりスラブユニット34Aとスラブユニット34Bとが縁切りされ、スラブユニット34Aが床スラブ34から独立して上下方向(面外方向)に変位可能とされている。また、隙間36には、スラブユニット34Aの長手方向に沿って板状の粘弾性体30が挿入されている。
【0029】
床スラブ34の上部には、一方向に整列した7つのスラブユニット34Aが配設されている。この複数のスラブユニット34Aは、スラブユニット34Aの長手方向と直交する方向に隣接して配置されており、隣接するスラブユニット34Aの架設方向(矢印N)に沿った端部同士の間には、床スラブ34を貫通する深さの隙間36が形成されている。この隙間36により隣接するスラブユニット34A同士が縁切りされ、各スラブユニット34Aが床スラブ34から独立して鉛直方向(面外方向)に変位可能とされている。また、隙間36には、スラブユニット34Aの長手方向に沿って板状の粘弾性体30が挿入されている。一方、隣接するスラブユニット34B同士は、対向する架設方向の端部の間に接合用のグラウトやコンクリート等を充填するなどして一体的に接合されている。
【0030】
次に、隣接するスラブユニット34Aとスラブユニット34Bとの隙間36に粘弾性体30を配置する方法の例について説明する。なお、この方法は、隣接するスラブユニット34A同士の隙間36に粘弾性体30を配置する場合にも適用可能である。
【0031】
図3に示すように、板状の粘弾性体30は、粘弾性体30の側面に設けられた取付フランジ38を介してスラブユニット34A、34Bに接合される。取付フランジ38は、断面L字型の鋼板とされ、スラブユニット34A又はスラブユニット34Bの架設方向に沿った端部に当接すると共に粘弾性体30が接着される接着部40と、スラブユニット34A又はスラブユニット34Bの下面に当接するスラブ取付部42と、から構成されている。また、スラブ取付部42には、スラブ取付部42の長手方向に沿って所定の間隔でボルト孔44が形成されている。そして、接着部40に粘弾性体30の側面が接着され、2つの取付フランジ38と粘弾性体30とが一体とされている。一方、スラブユニット34A、34Bの下面には、スラブ取付部42に形成されたボルト孔44に対応する埋め込み式のアンカー46が埋設されている。そして、図3(B)に示すように、ボルト孔44を介して、スラブユニット34A、34Bにそれぞれ埋設されたアンカー46にボルト48をねじ込んで締め付けることで、スラブユニット34Aとスラブユニット34Bとの間に粘弾性体30が配置される。
【0032】
現場においては、図4に示すように、先ず小梁22に架設されたスラブユニット34Aに、粘弾性体30が接着された取付フランジ38をボルト48で接合する。次に、スラブユニット34Aに向ってスラブユニット34Bを横方向(矢印R)にスライドさせ、又は上方からスラブユニット34Bを降ろして、取付フランジ38にスラブユニット34Bを当接させる。そして、スラブ取付部42に形成されたボルト孔44とスラブユニット34Bの下面に埋め込まれたアンカー46(図3参照)との位置を合わせ、アンカー46にボルト48をねじ込んで、粘弾性体30とスラブユニット34Bとを接合する。
【0033】
また、図5(A)に示すように取付フランジ38を用いずに、粘弾性体30の側面に凸部30Aを設け、この凸部30Aをスラブユニット34A、34Bの架設方向に沿った端部に形成された凹部50に押し込んで挿入し、図5(B)に示すようにスラブユニット34Aとスラブユニット34Bとの間に粘弾性体30を配置しても良い。この場合、凸部30Aを凹部50に隙間なく密着させることが好ましい。
【0034】
更に、粘弾性体30の振動低減性能は、粘弾性体30のせん断剛性及び粘弾性体30の物性による減衰等により決定されるところ、スラブユニット34Aの架設方向に沿った端部の全面に粘弾性体30を配置すると、粘弾性体30の断面積(スラブユニット34Aとの接着面積)に比例して粘弾性体30のせん断剛性が大きくなり過減衰となる場合がある。従って、粘弾性体30は、目標とする振動低減性能に合わせてスラブユニット34Aとスラブユニット34Bとの間に適宜配置すれば良い。この場合、粘弾性体30が配置されていない部分には、図6に示すように、グラスウール、ウレタン、スタイロフォーム又はナイロン等の吸音材52を配置して下階へ漏れる音を吸収することが望ましい。また、吸音材52は、粘弾性体30の形状に合わせて配置すれば良く、例えば、粘弾性体30と吸音材52を上下方向に積層して配置しても良いし、左右の両側から吸音材52で粘弾性体30を挟んでも良い。このように、粘弾性体30と共に比較的安価な吸音材52を設けることで、振動低減性能を維持しつつ、粘弾性体30のコスト削減を図ることができる。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造の作用及び効果について説明する。
【0036】
床スラブ34は、プレキャスト化された複数のスラブユニット34A、34Bで構成されている。このようにプレキャスト工法を用いて床スラブ34を構築することで、デッキプレートを支持する支保工等が不要となり、隣接するスラブユニット34Bの端部同士の局所的な接合作業のみで床スラブ34を構築できる。また、スラブユニット34A、34Bを梁20、小梁22に架設する際に、スラブユニット34AとスラブユニットB又はスラブユニット34A同士を、間を空けて配置するだけで隙間36を形成することができる。
【0037】
また、床スラブ34の所定の領域に複数のスラブユニット34Aを並べて配置することで、人の歩行などによる振動を効果的に低減することができる。即ち、人の歩行などのように床スラブ34上を移動する振動源の場合、人が移動する先々で発生する振動がスラブユニット34Aに局所化され、各スラブユニット34Aにおいて粘弾性体30の上下方向のせん断変形を卓越させることができる。従って、振動エネルギーの吸収効率が向上し、振動を効果的に低減することができる。一方、第1の実施形態で説明したように機械等のような特定の振動源に対しては、振動源を設置する位置に応じて、床スラブ34に一又は複数のスラブユニット34Aを設け、振動源をスラブユニット34Aで支持することで振動を低減できる。
【0038】
次に、第2の実施形態に係る床スラブ構造の変形例について説明する。
【0039】
図7は、床スラブ34の断面図であり、中央に位置するスラブユニット34Aと、スラブユニット34Aの両側にスラブユニット34Bが並設されている。スラブユニット34Aと各スラブユニット34Bとの間に形成された隙間36には、取付フランジ38を介して粘弾性体30が配置されている。また、スラブユニット34A及びスラブユニット34Bの下面には、アンカー54を介して天井材56A、56Bがそれぞれ吊り下げられている。隣接する天井材56Aと天井材56Bとの間には隙間が設けられ、天井材56Aと天井材56Bとが縁切りされている。
【0040】
このように天井材56Aと天井材56Bとを縁切りすることで、スラブユニット34Aに局所化された振動が、天井材56Aを介して隣接する天井材56Bに伝播されることがない。従って、スラブユニット34Aに局所化された振動エネルギーの拡散が防止され、粘弾性体30による振動エネルギーの吸収効率を高めることができる。また、天井材56Aから天井材56Bに伝播されて下階で発生する重量床衝撃音を防止することができる。更に、スラブユニット34Aの上下方向の相対変位による天井材56A、56Bの脱落や破損を防止できる。
【0041】
なお、本変形例では、スラブユニット34Aに取り付けられる天井材56Aと、スラブユニット34Bに取り付けられる天井材56Bとを縁切りしたがこれに限らない。隣接するスラブユニット34Aとスラブユニット34B又は隣接するスラブユニット34A同士にまたがって取り付けられる部材であれば良く、例えば、フリーアクセスフロア等の床仕上げ材を縁切りしても良いし、設備ダクトの境界部を、振動を伝播しないフレキ配管等で繋ぐことで縁切りしても良い。
【0042】
次に、本発明に係る床スラブ構造をモデル化し、汎用の構造解析プログラムを用いた有限要素解析により床スラブの周波数応答解析を行い、解析結果から算出した重量床衝撃音レベルを図10〜14に示す。
【0043】
解析モデルでは、図8に示すように、スラブ58(RCデッキスラブ 山高50mm)のうち、柱60(角形鋼管 □800mm×800mm×32mm)と梁62(H形鋼 H800mm×300mm×14mm×26mm)に囲まれた床スラブ64を解析対象とし、床スラブ64の中央部にスラブユニット64A(600mm×300mm)を設け、小梁66(H形鋼 H450mm×200mm×9mm×14mm)に架設されたスラブユニット64Aの架設方向に沿った両端部と床スラブ64の間に、スラブユニット64Aの長手方向に沿って粘弾性体68を配置した。そして、スラブユニット64Aの中央部に設定された加振点Xから表1に示す重量衝撃源の衝撃力実効値を入力し、加振点X及び加振点Xの周囲に設定した測定点A〜Hの合計9点から得られる音圧レベルを平均化(音圧レベルの平均値)して、各オクターブバンド中心周波数63Hz、125Hz、250HzにおけるL数、L値(遮音等級)を算出した。表1は、本解析で用いた各種の設定値であり、また、スラブ58のモード減衰定数hは、式(1)を用いて付与した。なお、本解析では、表1に示す仕上等による受音室の吸音力(=10Log10αAeff α:吸音率、Aeff:受音室の受音面積(m2))を考慮して補正したL数、L値(遮音等級)を算出している。また、図10〜14には、音圧レベルの平均値をプロットしている。
【0044】
【表1】
【0045】
【数1】
ここで、fは周波数(Hz)である。
【0046】
また、床スラブ64の振動挙動は、床スラブ64の重量、粘弾性体68のせん断剛性Ks、及び粘弾性体68の減衰定数hによって決定されるところ、本解析では、図9に示すように、スラブユニット64Aの架設方向に沿った端部と床スラブ64との隙間幅H(=粘弾性体68の幅)、デッキプレートの山高(50mm)を考慮した床スラブ64の等価スラブ厚teq、及び粘弾性体68の減衰定数hをパラメータとして付与した。なお、図中の2点鎖線は、スラブユニット64Aが上下方向(面外方向)に相対変位した状態を示している。また、設定した各パラメータ及び各パラメータから算出した粘弾性体68のメートル当たりの等価せん断剛性Kseq(t/cm/m)(=Geq/H×teq Geq:せん断弾性係数)、メートル当たりの等価減衰定数Ceq(t/kin/m)(=Kseqh/πf f:床スラブ64の1次固有振動数15Hz)を図15に示す。
【0047】
図10は、スラブユニット64Aを有していない従来スラブと本実施形態との遮音性能の比較であり、本実施形態において付与したパラメータを図15(A)に示し、解析結果を表2に示す。グラフ70は、従来スラブ1の周波数特性であり、グラフ72、74、76は、本実施形態にかかるケース1〜3の周波数特性にそれぞれ対応している。
【0048】
【表2】
【0049】
表2から分かるように、オクターブバンド中心周波数63Hz〜250HzでL値を比較した場合、従来スラブ1ではL−50であるのに対し、ケース1〜3ではL−45、L−50、L−50であり、L値が同等若しくは1ランク上がっている。また、L数で比較すると、従来スラブ1ではL数=51であるのに対し、ケース1〜3では、L数=44、48、49であり、従来スラブ1に比べてケース1〜3のL数が低下し、遮音性能が向上していることが確認できる。また、オクターブバンド中心周波数が小さくなるに従って遮音性能が向上し、特に、オクターブバンド中心周波数63HzでL値を比較すると、従来スラブ(L−50)に比べ、ケース1、2(L−25、L−35)の遮音性能が飛躍的に向上することが確認できる。
【0050】
また、本実施形態にかかるケース1〜3に日本建築学会の遮音性能基準を適用すると、オクターブバンド中心周波数63Hz〜250Hzで評価した場合、集合住宅及びホテルに関しては2級の性能要求を満たし、学校に関しては特級の性能要求を満たしている。オクターブバンド中心周波数63Hzに限定して評価すると、集合住宅及びホテルに関しても特級の性能要求を満たしている。従って、一般的に改善が困難な低周波数領域63Hz〜250Hzにおいて本実施形態を適用するのが好ましく、より好ましくはオクターブバンド中心周波数63Hzにおいて適用するのが好ましい。
【0051】
図11は、等価スラブ厚teqを大きくした場合の従来スラブと本実施形態との遮音性能の比較であり、本実施形態にかかるケース4、5において付与したパラメータを15(B)に示す。なお、グラフ78、80、82、84は、それぞれ従来スラブ2、3、ケース4、5に対応している。一般的に、スラブの遮音性能はスラブ厚を増して重量、剛性を大きくすることで向上することが知られているが、本実施形態においても、等価スラブ厚teqを大きくして床スラブ64の質量、剛性を大きくすることで、床スラブ64の遮音性能を向上させることができる。なお、床スラブ64の等価スラブ厚teqを大きくせずに、例えば、床スラブ64をスパンクリート等で構成することで同等の重量、剛性を確保すれば、床スラブ64の遮音性能を向上することができる。
【0052】
図12〜14は、本実施形態において減衰定数hを変更した場合の遮音性能の比較であり、付与したパラメータをそれぞれ図15(C)、(D)、(E)に示す。各図におけるグラフ86、88、90、92は、ケース6〜9に対応し、グラフ94、96、98、100は、ケース10〜13に対応し、グラフ102、104、106、108は、ケース14〜17に対応している。
【0053】
図12〜14から分かるように、粘弾性体68によって付与する減衰を大きくすることで、即ち、減衰定数hを大きくする(1.0に近づける)ことで、遮音性能が向上することが確認できる。
【0054】
以上の解析結果から分かるように、床スラブ64の等価スラブ厚teq、粘弾性体68の等価せん断剛性Kseq、減衰定数hを適宜選択することで、所望の振動低減性能を有する床スラブ構造を実現できる。
【0055】
以上説明したように、本発明でいうスラブユニットとは、床スラブのうち、当該床スラブと縁切りされることで独立して上下方向(面外方向)に変位可能となった部分を指し、振動を加えた場合に床スラブと異なる挙動を示す床スラブの部位のことを言う。また、スラブユニットを有する床スラブは、コンクリート造、鉄筋コンクリート造、プレストレスコンクリート造等の種々の構造を採用することができ、更に、現場打ちコンクリート製、PCa製、プレストレスPCa製、ハーフPCa製等であっても良い。例えば、第1、第2の実施形態では、デッキプレートを用いた合成スラブ又はPCa製スラブとして床スラブ24、34を構成したがこれに限らず、鋼製等からなる在来の捨て型枠の上に現場打ちコンクリートを打設しても良いし、スパンクリートや、ボイドスラブ、FR版等のハーフPCa版を配設し、ハーフPCa版の上に現場打ちコンクリートを打設しても良い。
【0056】
また、床スラブ24、34とスラブユニット24A、34Aとの縁切り方法は、床スラブの構造に合わせて適宜選択すれば良く、床スラブ24、34をハーフPCa造とする場合は、ハーフPCa版と隣接するハーフPCa版とを目地棒や粘弾性体で仕切ってコンクリートを打設することで、床スラブ24、34とスラブユニット24A、34Aとを縁切りしても良い。また、床スラブ24、34には、少なくとも1つのスラブユニット24A又はスラブユニット34Aが含まれていれば良い。即ち、床スラブ24、34に複数のスラブユニット24A、34Aを設けて良いし、床スラブ34の全体をスラブユニット34Aで構成し、隣接するスラブユニット34A同士の隙間に粘弾性体30を配置しても良い。
【0057】
更に、床スラブ24とスラブユニット24Aとの間又はスラブユニット34Aとスラブユニット34Bとの間に設ける粘弾性体30の配置方法は、上記したものに限らず、スラブユニット34Aの振動によって粘弾性体30がせん断変形可能に配置されていれば良い。例えば、床スラブ34において、スラブユニット34Aとスラブユニット34Bと隙間の外周に沿ってエアチューブや発泡スチロール等の簡易型枠を設け、液状の粘弾性体を流し込み、粘弾性体を自然に固化させてスラブに接着するようにしても良い。このような施工方法は、隙間36が小さい場合に特に有効である。また、粘弾性体30は、スラブユニット24A又はスラブユニット34Aの架設方向に沿った端部の一方にのみ設けても良い。
【0058】
更にまた、スラブユニット24A又はスラブユニット34Aと小梁22との取り合い部に粘弾性体30を設けて、小梁22に伝播される振動を吸収することで、振動低減効果を高めても良い。また、床スラブ24、34に、カーペットを敷いたり、二重床構造を組み合わせても良い。この場合、高周波数領域(オクターブバンド中心周波数250Hz以上)における振動低減効果を高めることができる。
【0059】
以上、本発明の第1、第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、第1、第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(A)本発明の第1の実施形態に係る床スラブ構造を有する建物を示す、断面図であり、(B)は、上記床スラブ構造の平面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造を示す、平面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造を示す、断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造を示す、斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造を示す、断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造における粘弾性体を示す、斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造の変形例を示す、断面図である。
【図8】周波数応答解析に用いた本発明の床スラブ構造の解析モデルを示す、平面図である。
【図9】周波数応答解析に用いた本発明の床スラブ構造の解析モデルを示す、断面図である。
【図10】本発明の床スラブ構造の周波数応答解析結果より得られた重量床衝撃音を示すグラフである。
【図11】本発明の床スラブ構造の周波数応答解析結果より得られた重量床衝撃音を示すグラフである。
【図12】本発明の床スラブ構造の周波数応答解析結果より得られた重量床衝撃音を示すグラフである。
【図13】本発明の床スラブ構造の周波数応答解析結果より得られた重量床衝撃音を示すグラフである。
【図14】本発明の床スラブ構造の周波数応答解析結果より得られた重量床衝撃音を示すグラフである。
【図15】本発明の床スラブ構造の周波数応答解析に用いたパラメータの設定値である。
【符号の説明】
【0061】
12 建物
20 梁(梁材)
22 小梁(梁材)
24 床スラブ
24A スラブユニット
28 隙間(縁切り部)
30 粘弾性体
32 建物
34 床スラブ
34A スラブユニット
34B スラブユニット
36 隙間(縁切り部)
52 吸音材
56 天井材(仕上材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、床スラブの振動を低減する床スラブ構造及び床スラブ構造を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅等の建築構造物において、上階で物を床に落としたり、人が運動するなどして床スラブが振動すると、下階で重量床衝撃音が発生して問題となる。重量床衝撃音を低減する構造躯体の対策としては、床スラブの厚みを増したり、剛性を高めたりすることが考えられる。しかし、床スラブの厚みや剛性を増すと建物全体の重量が増加し、その荷重を支えるために柱、梁などの構造断面を大きくしなければならないので建築コストが増大する。また、床スラブの厚みを増すと、下階の天井高の確保が困難になるという問題が生じる。
【0003】
一方、特許文献1には、建物のコンクリート基礎と、機械設置用のコンクリート基礎との間にクリアランスを設け、建物のコンクリート基礎と機械設置用のコンクリート基礎とを縁切りする方法が提案されている。しかしながら、この方法は機械から建物への振動伝播及び共振現象を防止するものであり、振動自体を低減するものではない。
【0004】
また、特許文献2では、カーテンウォール等の複数の壁パネルを水平方向に並べて立設し、壁パネル間の目地に制振シーリング材を配置して建物の水平方向の揺れを抑制する制振構造が提案されている。しかしながらこの制振構造は、地震のような建物全体に作用する揺れに対して各壁パネルを積極的に面内変形させ、壁パネル間の前面だけに配置された制震シーリング材をせん断変形させることで振動を抑制するものである。従って、特定の振動源によって面外方向に振動する床スラブに、面内方向に制震シーリング材をせん断変形させる特許文献2の制震構造を適用することはできない。
【特許文献1】特開2006−183277号公報
【特許文献2】特開2000−170284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、床スラブ厚を抑えつつ、床スラブの振動を低減する床スラブ構造及び床スラブ構造を有する建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の床スラブ構造は、梁材に架設された一又は複数のスラブユニットを備えた床スラブと、前記スラブユニットの架設方向に沿った端部と前記床スラブ、若しくは隣接する前記スラブユニットの架設方向に沿った端部同士を縁切りする縁切り部に設けられた粘弾性体と、を有することを特徴とする。
【0007】
上記の構成によれば、梁材に架設された一又は複数のスラブユニットを備えた床スラブにおいて、スラブユニットの架設方向に沿った端部と床スラブ、若しくは隣接するスラブユニットの架設方向に沿った端部同士が縁切りされている。即ち、スラブユニットに振動を加えた場合、床スラブ若しくは隣接する他のスラブユニットに対して、当該スラブユニットの架設方向に沿った端部が上下方向(面外方向)に相対変位する。そのため、縁切り部に設けられた粘弾性体がせん断変形して、スラブユニットの振動エネルギーを吸収する。このようにスラブユニットの振動を局所化することにより、粘弾性体のせん断変形を卓越させることができる。従って、振動エネルギーの吸収効率が向上するため、床スラブや梁材等の構造駆体に伝播される振動を低減すると共に、下階で発生する重量床衝撃音等を低減することができる。
【0008】
請求項2に記載の床スラブ構造は、請求項1に記載の床スラブ構造において、前記スラブユニットが一方向プレキャストスラブであることを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、スラブユニットが一方向プレキャストスラブであるため、隣接する一方向プレキャストスラブを、隙間を空けて配置するだけで縁切り部を形成することができる。従って、施工性の向上、施工コストの削減を図ることができる。
【0010】
請求項3に記載の床スラブ構造は、請求項1に記載の床スラブ構造において、前記スラブユニットは、前記床スラブのコンクリート打設時に、前記粘弾性体で縁切りされ、前記縁切り部が形成されることを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、床スラブのコンクリート打設時に、床スラブとスラブユニットとの間に粘弾性体を設けることで縁切り部を形成する。そのため、振動源の場所や広さに合せてスラブユニットを形成することができる。
【0012】
請求項4に記載の床スラブ構造は、請求項1〜3の何れか1項に記載の床スラブ構造において、前記縁切り部に、更に吸音材を設けたことを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、縁切り部に更に吸音材を設けている。粘弾性体は、目標とする振動低減性能に合わせて適宜縁切り部に設ければ良く、全ての縁切り部を粘弾性体で埋める必要はない。この場合、粘弾性体と粘弾性体との隙間から下階に音が漏れる恐れがある。そこで、粘弾性体と粘弾性体との隙間に吸音材を配置することで、振動低減性能を確保した状態で、隙間を透過する音漏れを防止できる。また、粘弾性体のコストを抑えることができる。
【0014】
請求項5に記載の床スラブ構造は、請求項1〜4の何れか1項に記載の床スラブ構造において、前記スラブユニットに取り付けられた仕上材が、他の仕上材と分離されていることを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、スラブユニットに取り付けられた仕上材と、他の仕上材と、を分離することで、スラブユニットで発生した振動が、仕上材を介して他の仕上材に伝播されることがない。そのため、スラブユニットに局所化された振動エネルギーの拡散が防止され、粘弾性体による振動エネルギーの吸収効率を高めることができる。従って、振動低減性能が向上する。
【0016】
請求項6に記載の建物は、請求項1〜5の何れか1項に記載の前記床スラブ構造を有することを特徴とする。
【0017】
上記の構成によれば、請求項1〜5の何れか1項に記載の床スラブ構造を有することで、床スラブの振動が低減され、環境性能を確保した建物を構築することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上記の構成としたので、スラブ厚を抑えつつ、床スラブの振動を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図面を参照しながら、本発明の床スラブ構造及び床スラブ構造を有する建物について説明する。先ず、第1の実施形態に係る床スラブ構造について説明する。
【0020】
図1(A)は、床スラブ構造を有する建物12の上階14及び下階16の断面図であり、図1(B)は、上階14の平面図である。建物12は、柱18と梁20とからなる架構を複数有している。上階14、下階16における床スラブ24、26は、デッキプレートの上にコンクリートを打設して構成された合成スラブであり、梁20及び梁20の間に架設された小梁22によって支持されている。
【0021】
上階14における床スラブ24は、当該床スラブ24の中央部付近に、小梁22に架設されたスラブユニット24Aを有している。スラブユニット24Aの架設方向(矢印L)に沿った両端部と、当該両端部と対向する床スラブ24の端部との間に、床スラブ24を貫通する深さの隙間28が形成されており、この隙間28によってスラブユニット24Aと床スラブ24が縁切りされ、スラブユニット24Aが床スラブ24から独立して上下方向(面外方向)に変位可能とされている。また、隙間28には、スラブユニット24Aの長手方向に沿って板状の粘弾性体30が挿入されている。粘弾性体30の材料としては、ジエン系ゴム、ブチル系ゴム、アクリル系、ウレタンアスファルト系ゴム等が用いられる。
【0022】
ここで、床スラブ24とスラブユニット24Aとの間に粘弾性体30を配置する方法の例について説明する。先ず、梁20及び小梁22の上にデッキプレートを載置する。この際、スラブユニット24Aの大きさに合わせたデッキプレートを他のデッキプレートから切り離しておく。次に、他のデッキプレートから切り離されたスラブユニット24A用のデッキプレートの上にスラブユニット24Aの外形を定める仕切り板やラス型枠等の型枠を組み、コンクリートを打設してスラブユニット24Aを施工する。コンクリートが硬化した後、型枠を撤去してスラブユニット24Aの架設方向に沿った両端部にスラブユニット24Aの長手方向に沿って粘弾性体30を接着する。最後に、スラブユニット24Aの周囲にコンクリートを打設して床スラブ24を構築する。このように床スラブ24の施工時に、床スラブ24とスラブユニット24Aとを粘弾性体30で縁切りすることで、振動源の位置や広さに合せて、床スラブ24にスラブユニット24Aを設けることができる。
【0023】
なお、上記の施工方法では、型枠を用いて床スラブ24とスラブユニット24Aを縁切りしたが、型枠に替えて板状の粘弾性体30でスラブユニット24Aの外形を定め、床スラブ24及びスラブユニット24A用のコンクリートを同時期に打設して施工しても良い。また、プレキャスト化されたスラブユニット24Aを用いて床スラブ24を構築しても良い。即ち、粘弾性体30が接着されたスラブユニット24Aを小梁22に架設した後に、スラブユニット24Aの周囲に載置されたデッキプレートの上にコンクリートを打設して床スラブ24を構築しても良い。また、床スラブ24のコンクリートが硬化した後に、床スラブ24の所望の位置をダイヤモンドカッター等で切断して、スラブユニット24Aの架設方向に沿った端部と床スラブ24との間に隙間28を形成し、この隙間28に粘弾性体30を挿入しても良い。
【0024】
次に、本発明の第1の実施形態に係る床スラブ構造の作用及び効果について説明する。
【0025】
スラブユニット24Aの架設方向に沿った端部と床スラブ24とが隙間28によって縁切りされている。従って、スラブユニット24Aに振動を加えると、スラブユニット24Aが床スラブ24から独立して振動し、床スラブ24に対してスラブユニット24Aの架設方向に沿った端部が上下方向(面外方向)に相対変位する。そのため、隙間28に設けられた粘弾性体30が上下方向にせん断変形し、スラブユニット24Aの振動エネルギーが熱エネルギーに変換され、振動エネルギーが吸収される。このようにスラブユニット24Aを独立して振動させることでスラブユニット24Aに振動が局所化され、粘弾性体30のせん断変形を卓越させることができる。よって、粘弾性体30による振動エネルギーの吸収効率が向上する。
【0026】
このため、床スラブ24の一部をダンスホールや子供部屋として利用する場合など重量床衝撃音の原因となる振動が発生し易い床スラブ24の部分にスラブユニット24Aを設けることで、床スラブ24や梁20等の構造駆体に伝播される振動が低減され、下階16で発生する重量床衝撃音を低減できる。特に、機械等のように振動源の位置が特定できる場合には、スラブユニット24Aの上に振動源を設置し、スラブユニット24Aに振動を局所化することで、床スラブ24の振動が低減される。なお、本実施形態では、下階16の重量床衝撃音を低減するが、スラブユニット24Aに振動が局所化される結果、スラブユニット24Aの直下で重量床衝撃音が大きくなる場合には、スラブユニット24Aの直下を収納スペースや設備スペースとして利用する等の対策を講じることが望ましい。
【0027】
次に、第2の実施形態に係る床スラブ構造について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。図2は、床スラブ構造を有する建物32を示す平面図である。
【0028】
図2に示すように、床スラブ34は小梁22に規則的に架設された複数のプレキャストコンクリート(以下、「PCa」という)造のスラブユニット34A、34Bから構成されている。ここで、床スラブ34の中央部付近に位置するスラブユニット34Aについて見ると、スラブユニット34Aとスラブユニット34Bとが、スラブユニット34Aの長手方向と直交する方向に隣接して配置されている。また、スラブユニット34Aの架設方向(矢印M)に沿った両端部と、当該端部と対向するスラブユニット34Bの架設方向に沿った端部との間に、隙間36が形成されている。この隙間36によりスラブユニット34Aとスラブユニット34Bとが縁切りされ、スラブユニット34Aが床スラブ34から独立して上下方向(面外方向)に変位可能とされている。また、隙間36には、スラブユニット34Aの長手方向に沿って板状の粘弾性体30が挿入されている。
【0029】
床スラブ34の上部には、一方向に整列した7つのスラブユニット34Aが配設されている。この複数のスラブユニット34Aは、スラブユニット34Aの長手方向と直交する方向に隣接して配置されており、隣接するスラブユニット34Aの架設方向(矢印N)に沿った端部同士の間には、床スラブ34を貫通する深さの隙間36が形成されている。この隙間36により隣接するスラブユニット34A同士が縁切りされ、各スラブユニット34Aが床スラブ34から独立して鉛直方向(面外方向)に変位可能とされている。また、隙間36には、スラブユニット34Aの長手方向に沿って板状の粘弾性体30が挿入されている。一方、隣接するスラブユニット34B同士は、対向する架設方向の端部の間に接合用のグラウトやコンクリート等を充填するなどして一体的に接合されている。
【0030】
次に、隣接するスラブユニット34Aとスラブユニット34Bとの隙間36に粘弾性体30を配置する方法の例について説明する。なお、この方法は、隣接するスラブユニット34A同士の隙間36に粘弾性体30を配置する場合にも適用可能である。
【0031】
図3に示すように、板状の粘弾性体30は、粘弾性体30の側面に設けられた取付フランジ38を介してスラブユニット34A、34Bに接合される。取付フランジ38は、断面L字型の鋼板とされ、スラブユニット34A又はスラブユニット34Bの架設方向に沿った端部に当接すると共に粘弾性体30が接着される接着部40と、スラブユニット34A又はスラブユニット34Bの下面に当接するスラブ取付部42と、から構成されている。また、スラブ取付部42には、スラブ取付部42の長手方向に沿って所定の間隔でボルト孔44が形成されている。そして、接着部40に粘弾性体30の側面が接着され、2つの取付フランジ38と粘弾性体30とが一体とされている。一方、スラブユニット34A、34Bの下面には、スラブ取付部42に形成されたボルト孔44に対応する埋め込み式のアンカー46が埋設されている。そして、図3(B)に示すように、ボルト孔44を介して、スラブユニット34A、34Bにそれぞれ埋設されたアンカー46にボルト48をねじ込んで締め付けることで、スラブユニット34Aとスラブユニット34Bとの間に粘弾性体30が配置される。
【0032】
現場においては、図4に示すように、先ず小梁22に架設されたスラブユニット34Aに、粘弾性体30が接着された取付フランジ38をボルト48で接合する。次に、スラブユニット34Aに向ってスラブユニット34Bを横方向(矢印R)にスライドさせ、又は上方からスラブユニット34Bを降ろして、取付フランジ38にスラブユニット34Bを当接させる。そして、スラブ取付部42に形成されたボルト孔44とスラブユニット34Bの下面に埋め込まれたアンカー46(図3参照)との位置を合わせ、アンカー46にボルト48をねじ込んで、粘弾性体30とスラブユニット34Bとを接合する。
【0033】
また、図5(A)に示すように取付フランジ38を用いずに、粘弾性体30の側面に凸部30Aを設け、この凸部30Aをスラブユニット34A、34Bの架設方向に沿った端部に形成された凹部50に押し込んで挿入し、図5(B)に示すようにスラブユニット34Aとスラブユニット34Bとの間に粘弾性体30を配置しても良い。この場合、凸部30Aを凹部50に隙間なく密着させることが好ましい。
【0034】
更に、粘弾性体30の振動低減性能は、粘弾性体30のせん断剛性及び粘弾性体30の物性による減衰等により決定されるところ、スラブユニット34Aの架設方向に沿った端部の全面に粘弾性体30を配置すると、粘弾性体30の断面積(スラブユニット34Aとの接着面積)に比例して粘弾性体30のせん断剛性が大きくなり過減衰となる場合がある。従って、粘弾性体30は、目標とする振動低減性能に合わせてスラブユニット34Aとスラブユニット34Bとの間に適宜配置すれば良い。この場合、粘弾性体30が配置されていない部分には、図6に示すように、グラスウール、ウレタン、スタイロフォーム又はナイロン等の吸音材52を配置して下階へ漏れる音を吸収することが望ましい。また、吸音材52は、粘弾性体30の形状に合わせて配置すれば良く、例えば、粘弾性体30と吸音材52を上下方向に積層して配置しても良いし、左右の両側から吸音材52で粘弾性体30を挟んでも良い。このように、粘弾性体30と共に比較的安価な吸音材52を設けることで、振動低減性能を維持しつつ、粘弾性体30のコスト削減を図ることができる。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造の作用及び効果について説明する。
【0036】
床スラブ34は、プレキャスト化された複数のスラブユニット34A、34Bで構成されている。このようにプレキャスト工法を用いて床スラブ34を構築することで、デッキプレートを支持する支保工等が不要となり、隣接するスラブユニット34Bの端部同士の局所的な接合作業のみで床スラブ34を構築できる。また、スラブユニット34A、34Bを梁20、小梁22に架設する際に、スラブユニット34AとスラブユニットB又はスラブユニット34A同士を、間を空けて配置するだけで隙間36を形成することができる。
【0037】
また、床スラブ34の所定の領域に複数のスラブユニット34Aを並べて配置することで、人の歩行などによる振動を効果的に低減することができる。即ち、人の歩行などのように床スラブ34上を移動する振動源の場合、人が移動する先々で発生する振動がスラブユニット34Aに局所化され、各スラブユニット34Aにおいて粘弾性体30の上下方向のせん断変形を卓越させることができる。従って、振動エネルギーの吸収効率が向上し、振動を効果的に低減することができる。一方、第1の実施形態で説明したように機械等のような特定の振動源に対しては、振動源を設置する位置に応じて、床スラブ34に一又は複数のスラブユニット34Aを設け、振動源をスラブユニット34Aで支持することで振動を低減できる。
【0038】
次に、第2の実施形態に係る床スラブ構造の変形例について説明する。
【0039】
図7は、床スラブ34の断面図であり、中央に位置するスラブユニット34Aと、スラブユニット34Aの両側にスラブユニット34Bが並設されている。スラブユニット34Aと各スラブユニット34Bとの間に形成された隙間36には、取付フランジ38を介して粘弾性体30が配置されている。また、スラブユニット34A及びスラブユニット34Bの下面には、アンカー54を介して天井材56A、56Bがそれぞれ吊り下げられている。隣接する天井材56Aと天井材56Bとの間には隙間が設けられ、天井材56Aと天井材56Bとが縁切りされている。
【0040】
このように天井材56Aと天井材56Bとを縁切りすることで、スラブユニット34Aに局所化された振動が、天井材56Aを介して隣接する天井材56Bに伝播されることがない。従って、スラブユニット34Aに局所化された振動エネルギーの拡散が防止され、粘弾性体30による振動エネルギーの吸収効率を高めることができる。また、天井材56Aから天井材56Bに伝播されて下階で発生する重量床衝撃音を防止することができる。更に、スラブユニット34Aの上下方向の相対変位による天井材56A、56Bの脱落や破損を防止できる。
【0041】
なお、本変形例では、スラブユニット34Aに取り付けられる天井材56Aと、スラブユニット34Bに取り付けられる天井材56Bとを縁切りしたがこれに限らない。隣接するスラブユニット34Aとスラブユニット34B又は隣接するスラブユニット34A同士にまたがって取り付けられる部材であれば良く、例えば、フリーアクセスフロア等の床仕上げ材を縁切りしても良いし、設備ダクトの境界部を、振動を伝播しないフレキ配管等で繋ぐことで縁切りしても良い。
【0042】
次に、本発明に係る床スラブ構造をモデル化し、汎用の構造解析プログラムを用いた有限要素解析により床スラブの周波数応答解析を行い、解析結果から算出した重量床衝撃音レベルを図10〜14に示す。
【0043】
解析モデルでは、図8に示すように、スラブ58(RCデッキスラブ 山高50mm)のうち、柱60(角形鋼管 □800mm×800mm×32mm)と梁62(H形鋼 H800mm×300mm×14mm×26mm)に囲まれた床スラブ64を解析対象とし、床スラブ64の中央部にスラブユニット64A(600mm×300mm)を設け、小梁66(H形鋼 H450mm×200mm×9mm×14mm)に架設されたスラブユニット64Aの架設方向に沿った両端部と床スラブ64の間に、スラブユニット64Aの長手方向に沿って粘弾性体68を配置した。そして、スラブユニット64Aの中央部に設定された加振点Xから表1に示す重量衝撃源の衝撃力実効値を入力し、加振点X及び加振点Xの周囲に設定した測定点A〜Hの合計9点から得られる音圧レベルを平均化(音圧レベルの平均値)して、各オクターブバンド中心周波数63Hz、125Hz、250HzにおけるL数、L値(遮音等級)を算出した。表1は、本解析で用いた各種の設定値であり、また、スラブ58のモード減衰定数hは、式(1)を用いて付与した。なお、本解析では、表1に示す仕上等による受音室の吸音力(=10Log10αAeff α:吸音率、Aeff:受音室の受音面積(m2))を考慮して補正したL数、L値(遮音等級)を算出している。また、図10〜14には、音圧レベルの平均値をプロットしている。
【0044】
【表1】
【0045】
【数1】
ここで、fは周波数(Hz)である。
【0046】
また、床スラブ64の振動挙動は、床スラブ64の重量、粘弾性体68のせん断剛性Ks、及び粘弾性体68の減衰定数hによって決定されるところ、本解析では、図9に示すように、スラブユニット64Aの架設方向に沿った端部と床スラブ64との隙間幅H(=粘弾性体68の幅)、デッキプレートの山高(50mm)を考慮した床スラブ64の等価スラブ厚teq、及び粘弾性体68の減衰定数hをパラメータとして付与した。なお、図中の2点鎖線は、スラブユニット64Aが上下方向(面外方向)に相対変位した状態を示している。また、設定した各パラメータ及び各パラメータから算出した粘弾性体68のメートル当たりの等価せん断剛性Kseq(t/cm/m)(=Geq/H×teq Geq:せん断弾性係数)、メートル当たりの等価減衰定数Ceq(t/kin/m)(=Kseqh/πf f:床スラブ64の1次固有振動数15Hz)を図15に示す。
【0047】
図10は、スラブユニット64Aを有していない従来スラブと本実施形態との遮音性能の比較であり、本実施形態において付与したパラメータを図15(A)に示し、解析結果を表2に示す。グラフ70は、従来スラブ1の周波数特性であり、グラフ72、74、76は、本実施形態にかかるケース1〜3の周波数特性にそれぞれ対応している。
【0048】
【表2】
【0049】
表2から分かるように、オクターブバンド中心周波数63Hz〜250HzでL値を比較した場合、従来スラブ1ではL−50であるのに対し、ケース1〜3ではL−45、L−50、L−50であり、L値が同等若しくは1ランク上がっている。また、L数で比較すると、従来スラブ1ではL数=51であるのに対し、ケース1〜3では、L数=44、48、49であり、従来スラブ1に比べてケース1〜3のL数が低下し、遮音性能が向上していることが確認できる。また、オクターブバンド中心周波数が小さくなるに従って遮音性能が向上し、特に、オクターブバンド中心周波数63HzでL値を比較すると、従来スラブ(L−50)に比べ、ケース1、2(L−25、L−35)の遮音性能が飛躍的に向上することが確認できる。
【0050】
また、本実施形態にかかるケース1〜3に日本建築学会の遮音性能基準を適用すると、オクターブバンド中心周波数63Hz〜250Hzで評価した場合、集合住宅及びホテルに関しては2級の性能要求を満たし、学校に関しては特級の性能要求を満たしている。オクターブバンド中心周波数63Hzに限定して評価すると、集合住宅及びホテルに関しても特級の性能要求を満たしている。従って、一般的に改善が困難な低周波数領域63Hz〜250Hzにおいて本実施形態を適用するのが好ましく、より好ましくはオクターブバンド中心周波数63Hzにおいて適用するのが好ましい。
【0051】
図11は、等価スラブ厚teqを大きくした場合の従来スラブと本実施形態との遮音性能の比較であり、本実施形態にかかるケース4、5において付与したパラメータを15(B)に示す。なお、グラフ78、80、82、84は、それぞれ従来スラブ2、3、ケース4、5に対応している。一般的に、スラブの遮音性能はスラブ厚を増して重量、剛性を大きくすることで向上することが知られているが、本実施形態においても、等価スラブ厚teqを大きくして床スラブ64の質量、剛性を大きくすることで、床スラブ64の遮音性能を向上させることができる。なお、床スラブ64の等価スラブ厚teqを大きくせずに、例えば、床スラブ64をスパンクリート等で構成することで同等の重量、剛性を確保すれば、床スラブ64の遮音性能を向上することができる。
【0052】
図12〜14は、本実施形態において減衰定数hを変更した場合の遮音性能の比較であり、付与したパラメータをそれぞれ図15(C)、(D)、(E)に示す。各図におけるグラフ86、88、90、92は、ケース6〜9に対応し、グラフ94、96、98、100は、ケース10〜13に対応し、グラフ102、104、106、108は、ケース14〜17に対応している。
【0053】
図12〜14から分かるように、粘弾性体68によって付与する減衰を大きくすることで、即ち、減衰定数hを大きくする(1.0に近づける)ことで、遮音性能が向上することが確認できる。
【0054】
以上の解析結果から分かるように、床スラブ64の等価スラブ厚teq、粘弾性体68の等価せん断剛性Kseq、減衰定数hを適宜選択することで、所望の振動低減性能を有する床スラブ構造を実現できる。
【0055】
以上説明したように、本発明でいうスラブユニットとは、床スラブのうち、当該床スラブと縁切りされることで独立して上下方向(面外方向)に変位可能となった部分を指し、振動を加えた場合に床スラブと異なる挙動を示す床スラブの部位のことを言う。また、スラブユニットを有する床スラブは、コンクリート造、鉄筋コンクリート造、プレストレスコンクリート造等の種々の構造を採用することができ、更に、現場打ちコンクリート製、PCa製、プレストレスPCa製、ハーフPCa製等であっても良い。例えば、第1、第2の実施形態では、デッキプレートを用いた合成スラブ又はPCa製スラブとして床スラブ24、34を構成したがこれに限らず、鋼製等からなる在来の捨て型枠の上に現場打ちコンクリートを打設しても良いし、スパンクリートや、ボイドスラブ、FR版等のハーフPCa版を配設し、ハーフPCa版の上に現場打ちコンクリートを打設しても良い。
【0056】
また、床スラブ24、34とスラブユニット24A、34Aとの縁切り方法は、床スラブの構造に合わせて適宜選択すれば良く、床スラブ24、34をハーフPCa造とする場合は、ハーフPCa版と隣接するハーフPCa版とを目地棒や粘弾性体で仕切ってコンクリートを打設することで、床スラブ24、34とスラブユニット24A、34Aとを縁切りしても良い。また、床スラブ24、34には、少なくとも1つのスラブユニット24A又はスラブユニット34Aが含まれていれば良い。即ち、床スラブ24、34に複数のスラブユニット24A、34Aを設けて良いし、床スラブ34の全体をスラブユニット34Aで構成し、隣接するスラブユニット34A同士の隙間に粘弾性体30を配置しても良い。
【0057】
更に、床スラブ24とスラブユニット24Aとの間又はスラブユニット34Aとスラブユニット34Bとの間に設ける粘弾性体30の配置方法は、上記したものに限らず、スラブユニット34Aの振動によって粘弾性体30がせん断変形可能に配置されていれば良い。例えば、床スラブ34において、スラブユニット34Aとスラブユニット34Bと隙間の外周に沿ってエアチューブや発泡スチロール等の簡易型枠を設け、液状の粘弾性体を流し込み、粘弾性体を自然に固化させてスラブに接着するようにしても良い。このような施工方法は、隙間36が小さい場合に特に有効である。また、粘弾性体30は、スラブユニット24A又はスラブユニット34Aの架設方向に沿った端部の一方にのみ設けても良い。
【0058】
更にまた、スラブユニット24A又はスラブユニット34Aと小梁22との取り合い部に粘弾性体30を設けて、小梁22に伝播される振動を吸収することで、振動低減効果を高めても良い。また、床スラブ24、34に、カーペットを敷いたり、二重床構造を組み合わせても良い。この場合、高周波数領域(オクターブバンド中心周波数250Hz以上)における振動低減効果を高めることができる。
【0059】
以上、本発明の第1、第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、第1、第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(A)本発明の第1の実施形態に係る床スラブ構造を有する建物を示す、断面図であり、(B)は、上記床スラブ構造の平面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造を示す、平面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造を示す、断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造を示す、斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造を示す、断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造における粘弾性体を示す、斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る床スラブ構造の変形例を示す、断面図である。
【図8】周波数応答解析に用いた本発明の床スラブ構造の解析モデルを示す、平面図である。
【図9】周波数応答解析に用いた本発明の床スラブ構造の解析モデルを示す、断面図である。
【図10】本発明の床スラブ構造の周波数応答解析結果より得られた重量床衝撃音を示すグラフである。
【図11】本発明の床スラブ構造の周波数応答解析結果より得られた重量床衝撃音を示すグラフである。
【図12】本発明の床スラブ構造の周波数応答解析結果より得られた重量床衝撃音を示すグラフである。
【図13】本発明の床スラブ構造の周波数応答解析結果より得られた重量床衝撃音を示すグラフである。
【図14】本発明の床スラブ構造の周波数応答解析結果より得られた重量床衝撃音を示すグラフである。
【図15】本発明の床スラブ構造の周波数応答解析に用いたパラメータの設定値である。
【符号の説明】
【0061】
12 建物
20 梁(梁材)
22 小梁(梁材)
24 床スラブ
24A スラブユニット
28 隙間(縁切り部)
30 粘弾性体
32 建物
34 床スラブ
34A スラブユニット
34B スラブユニット
36 隙間(縁切り部)
52 吸音材
56 天井材(仕上材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁材に架設された一又は複数のスラブユニットを備えた床スラブと、
前記スラブユニットの架設方向に沿った端部と前記床スラブ、若しくは隣接する前記スラブユニットの架設方向に沿った端部同士を縁切りする縁切り部に設けられた粘弾性体と、
を有することを特徴とする床スラブ構造。
【請求項2】
前記スラブユニットが一方向プレキャストスラブであることを特徴とする請求項1に記載の床スラブ構造。
【請求項3】
前記スラブユニットは、前記床スラブのコンクリート打設時に、前記粘弾性体で縁切りされ、前記縁切り部が形成されることを特徴とする請求項1に記載の床スラブ構造。
【請求項4】
前記縁切り部に、更に吸音材を設けたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の床スラブ構造。
【請求項5】
前記スラブユニットに取り付けられた仕上材が、他の仕上材と分離されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の床スラブ構造。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の前記床スラブ構造を有する建物。
【請求項1】
梁材に架設された一又は複数のスラブユニットを備えた床スラブと、
前記スラブユニットの架設方向に沿った端部と前記床スラブ、若しくは隣接する前記スラブユニットの架設方向に沿った端部同士を縁切りする縁切り部に設けられた粘弾性体と、
を有することを特徴とする床スラブ構造。
【請求項2】
前記スラブユニットが一方向プレキャストスラブであることを特徴とする請求項1に記載の床スラブ構造。
【請求項3】
前記スラブユニットは、前記床スラブのコンクリート打設時に、前記粘弾性体で縁切りされ、前記縁切り部が形成されることを特徴とする請求項1に記載の床スラブ構造。
【請求項4】
前記縁切り部に、更に吸音材を設けたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の床スラブ構造。
【請求項5】
前記スラブユニットに取り付けられた仕上材が、他の仕上材と分離されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の床スラブ構造。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の前記床スラブ構造を有する建物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−191584(P2009−191584A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36465(P2008−36465)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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