説明

床材及び自動車用内外装材

【課題】薄く、しかも生活音、石跳ね音、エンジンノイズ、或いは走行音などの騒音を効果的に低減することができる床材及び白動車用内外装材を提供すること。
【解決手段】樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有する有機減衰材料を含む吸音繊維15を構成繊維とする吸音繊維体14を備えたトランクトリム11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床材、及び、例えば自動車のダッシュインシュレータ、車室内の天井、フロアインシュレータ、カーペット、フードインシュレータ、トランクトリム、ドアトリム、ピーラートリムなどの内装材、或いはフェンダーライナー、リアライナー、エンジンカバー、アンダーカバーなどの外装材に好適に使用することができる自動車用内外装材に関する。
詳細には、薄く、しかも屋内の生活音、石跳ね音、エンジンノイズ、或いは走行音などの騒音を効果的に低減することができる吸音繊維体からなる床材及び自動車用内外装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸音性を有する自動車用内外装材1としては、例えば図に示すように、繊維表皮材2に大比重樹脂シート3を積層した積層材4に吸音材15を接着したものが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この吸音材5には、例えば繊維製品スクラップを解繊して得られた再生繊維をウレタン樹脂、メラミン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化型ポリエステル等の熱硬化性合成樹脂バインダーによって結着したフェルト、繊維表皮材2に使用される合成繊維と同様な合成繊維を使用したニードルパンチ積層フェルト、上記熱硬化性合成樹脂に代えてポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、低融点ポリエステル繊維等の熱可塑性繊維をバインダーとしたフェルト等の吸音繊維体が採用されている。
【0004】
また、別の吸音繊維体としては、ガラス繊維を構成繊維とする面密度500〜4000g/mの不織布層と、0.1〜12dtexのポリオレフィン高強力繊維を構成繊維とする面密度50〜500g/mの不織布層とからなるものもある(例えば特許文献2参照)。
【0005】
また、さらに別の吸音繊維体としては、目付けが10〜300g/m、通気度が1.5〜10cc/cm/sec、構成繊維の平均繊度が0.1〜2dtexである不織布と、その密度が0.01〜0.10g/cm、厚みが5〜100mm、構成繊維の平均繊度が0.5〜10dtexである繊維構造体とが積層してなるものも提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
上記特許文献1〜3に記載の吸音繊維体は、いずれも該吸音繊維体に当たった音が繊維体内を通過する過程で構成繊維と衝突を繰り返すことで音のエネルギーを摩擦熱として熱のエネルギーに変換することで、その減衰を図ったものであり、十分な吸音性を確保するためには、一定の厚みを必要としていた。
【0007】
ところが、自動車用内外装材の多くは規格化されており、その用途や使用状態によっては、厳しい厚みの制限があり、これらの吸音繊維体を各自動車用内外装材に適用する際には、吸音性を幾分落として厚みを薄くし、その厚みの制限をクリアする必要があった。
このため、厳しい厚みの制限がある各自動車用内外装材に適用される吸音繊維体には、薄くしかも十分な吸音性を有するものが求められていた。
【0008】
一方、床材としては、特許文献4に記載のものが提案されているが、さらに薄く、軽量であって、吸音性能に優れたものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−300514号公報
【特許文献2】特開2001−316961号公報
【特許文献3】特開2004−145180号公報
【特許文献4】特開平9−317144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、薄く、しかも生活音、石跳ね音、エンジンノイズ、或いは走行音などの騒音を効果的に低減することができる吸音繊維体からなる床材及び自動車用内外装材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、樹脂マトリックス相中に、P−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有する有機減衰材料を含む吸音繊維を構成繊維とする吸音繊維体、或いは前記分散相を有する有機減衰材料を含む樹脂エマルジョンを含浸または塗布した吸音繊維体を備えたことを特徴とする床材または自動車用内外装材をその要旨とした。
【0012】
請求項2に記載の発明は、複数の異なる分散相を有する有機減衰材料を含む吸音繊維又は異なる分散相を有する有機減衰材料を含む複数種の吸音繊維を構成繊維とする吸音繊維体、或いは前記複数の異なる分散相を有する有機減衰材料を含む樹脂エマルジョン又は異なる分散相を有する有機減衰材料を含む複数種の樹脂エマルジョンを含浸または塗布した吸音繊維体を備えたことを特徴とする床材または自動車用内外装材をその要旨とした。
【0013】
請求項3に記載の発明は、有機減衰材料を含む前記吸音繊維体を積層したもの、または、有機減衰材料を含む前記吸音繊維体と有機減衰材料を含まない不織布とを積層したものを備えたことを特徴とする床材または自動車用内外装材をその要旨とした。
請求項4に記載の発明は、樹脂マトリックス相を構成する樹脂が、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリルスチレン共重合体(AS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、塩素化ポリエチレン(CPE)、及びエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)から選ばれる1種若しくは2種以上からなることを特徴とする床材または自動車用内外装材をその要旨とした。
【0014】
請求項5に記載の発明は、マイカ鱗片、ガラス片、グラスファイバー、カーボンファイバー、炭酸カルシウム、バライト及び沈降硫酸バリウムから選ばれる1種若しくは2種以上からなる無機フィラーをさらに含むことを特徴とする床材または白動車用内外装材をその要旨とした。
【0015】
請求項6に記載の発明は、分散相を構成する化合物が樹脂マトリックス相を構成する樹脂100重量部に対し1〜200重量部の割合で含まれていることを特徴とする床材または自動車用内外装材をその要旨とした。
【0016】
請求項7に記載の発明は、吸音繊維が吸音繊維体中に10〜1200g/mの割合で含まれていることを特徴とする床材または自動車用内外装材をその要旨とした。
【0017】
請求項8に記載の発明は、有機減衰材料を含む樹脂が吸音繊維体中に10〜600g/mの割合で含まれていることを特徴とする床材または自動車用内外装材をその要旨とした。
【0018】
請求項8に記載の発明は、自動車のダッシュインシュレータ、車室内の天井、フロアインシュレータ、カーペット、フードインシュレータ、トランクトリム、ドアトリム、ピーラートリム、フェンダーライナー、リアライナー、エンジンカバー、アンダーカバーの中から選ばれる少なくとも1つに適用されることを特徴とする自動車用内外装材をその要旨とした。
【発明の効果】
【0019】
本発明の床材または自動車用内外装材にあっては、樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有する有機減衰材料を含む吸音繊維を構成繊維とする吸音繊維体、或いは前記分散相を有する有機減衰材料を含む樹脂エマルジョンを含浸または塗布した吸音繊維体からなるので、該吸音繊維体に当たった音が繊維体内を通過する過程で構成繊維と衝突を繰り返すことでそのエネルギーを摩擦熱として熱のエネルギーに変換することで、その減衰が図られると共に、有機減衰材料の樹脂マトリックス相中の分散相を構成する化合物が位相のズレ、回転を繰り返すことで、音エネルギーを熱エネルギーに変換してエネルギーの減衰がなされるため、より薄く、しかも優れた吸音性が発揮されるようになっている。
このため、厳しい厚みの制限がある各自動車用内外装材にも適用することができ、生活音、石跳ね音、エンジンノイズ、或いは走行音などの騒音を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を具体化した自動車用内外装材をトランクトリムに適用した例を示す斜視図。
【図2】図1のA−A線で切断した要部拡大断面図。
【図3】吸音繊維のマトリックス相中に形成された本件化合物の分散相を示す模式図である。
【図4】本発明を具体化した自動車用内外装材をフェンダーライナーに適用した例を示す斜視図。
【図5】図4のB−B線で切断した要部拡大断面図。
【図6】本発明を具体化した床材とその吸音特性を示す図。
【図7】本発明を具体化した床材の性能試験を行った試験装置を示す図。
【図8】本発明を具体化した床材の他の例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した自動車用内外装材についてさらに詳しく説明する。
本発明を具体化した自動車用内外装材は、例えば自動車のダッシュインシュレータ、車室内の天井、フロアインシュレータ、カーペット、フードインシュレータ、トランクトリム、ドアトリム、ピーラートリムなどの内装材の表皮材や基材として、或いはフェンダーライナー、リアライナー、エンジンカバー、アンダーカバーなどの外装材の表皮材や基材として好適に使用することができる。
【0022】
図1及び図2は、本発明を具体化した自動車用内外装材を自動車のトランクトリムの基材として用いた例を示したものであり、図4及び図5は、本発明を具体化した自動車用内外装材をフェンダーライナーの基材として用いた例を示したものである。
【0023】
まず、図1及び図2に示す例について説明する。図1及び図2に示すトランクトリム11は、トランクトリムの形状に成形した樹脂シート13の一方面側に吸音繊維体14を積層して基材とし、この基材の樹脂シート13の他方面側に繊維表皮材12を積層した構成を有するものである。
【0024】
繊維表皮材12としては、例えばポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ウレタン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アセテート繊維などの合成繊維、或いはパルプ繊維、羊毛繊維、木綿繊維などの天然繊維を使用することができ、これらの繊維から選ばれた1種、若しくは2種以上を構成繊維とする不織布、織物、編物、或いはこれらを複合化した複合物からなる繊維体によって構成されている。図示の例では、ポリエステル繊維のニードルパンチ不織布を採用した。
【0025】
繊維表皮材12の目付としては特に限定されないが、吸音性、重量及びコストを考慮したとき、100〜600g/mの範囲が望ましい。
【0026】
樹脂シート13としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂に炭酸カルシウム、マイカ、硫酸バリウム、グラスファイバー、カーボンブラック、カーボンファイバー、中空シリカなどの無機フィラーを配合した複合材料をシート状に押し出し、加熱軟化処理後、所要形状にプレス成形してなるものを挙げることができる。
【0027】
図示の例では、上記無機フィラーを複合材料100重量部に対して1〜100重量部の割合で配合することで、該樹脂シート13の比重を0.03〜1.6g/cmの範囲とした。尚、樹脂シートの成形方法はトランクトリムの形状に設けた成形型で射出成形することもできる。
【0028】
吸音繊維体14には、繊維表皮材12と同じく、例えばポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ウレタン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アセテート繊維などの合成繊維、或いはパルプ繊維、羊毛繊維、木綿繊維などの天然繊維を使用することができ、これらの繊維から選ばれた1種、若しくは2種以上を構成繊維とする不織布、織物、編物、或いはこれらを複合化した複合物からなる繊維体によって構成されている。
【0029】
図1及び図2に示す吸音繊維体14は、その構成繊維として有機減衰材料を含む吸音繊維15が含まれており、該繊維体に当たった音が繊維体内を通過する過程で構成繊維と衝突を繰り返すことで音のエネルギーを摩擦熱として熱のエネルギーに変換することで、その減衰を図ると共に、有機減衰材料を構成する樹脂マトリックス相中の分散相を構成する化合物が位相のズレ、回転を繰り返すことで、音エネルギーを熱エネルギーに変換してエネルギーの減衰がなされるようになっている。有機減衰材料を含む吸音繊維の形態としては、繊維表面に有機減衰材料を含むコーティング層を形成した形態、繊維表面または内部に有機減衰材料を練り込んだ形態、繊維表面に有機減衰材料を付着させた形態などを挙げることができる。
【0030】
有機減衰材料を含む吸音繊維の種類としては特に限定されない。有機減衰材料のマトリックス相を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂を全て用いることができるが、上記の吸音繊維の形態、すなわち繊維表面に有機減衰材料を含むコーティング層を形成した形態、繊維表面または内部に有機減衰材料を練り込んだ形態、繊維表面に有機減衰材料を付着させた形態など、その形態に応じて適宜選択して使用するのが望ましい。例えぱ繊維表面に有機減衰材料を含むコーティング層を形成した形態とする場合には、マトリックス相を構成する樹脂には、被膜形成性に優れるものが望ましく、繊維表面に有機減衰材料を付着させる形態の場合には、マトリックス相を構成する樹脂には、接着性を有するものが好ましい。
具体的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、それらの共重合体、好ましくはカルボン酸とエポキシ等の極性基をグラフト又は共重合させたポリオレフィン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリルスチレン共重合体(AS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、塩素化ポリエチレン(CPE)、及びエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)から選ばれる1種若しくは2種以上を挙げることができる。
【0031】
尚、上記マトリックス相を構成する樹脂の選択に際しては、後述するp−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン等の分散相を構成する成分との相溶性のほか、取り扱い性、成形性、入手容易性、温度性能(耐熱性や耐寒性)、耐候性、価格なども考慮するのが望ましい。
【0032】
有機減衰材料としては、上記樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物(以下、本件化合物という)を挙げることができる。
【0033】
本件化合物は、上記マトリックス相を構成する樹脂中に混合されて、前記マトリックス相中に分散相を形成し、当該有機減衰材料に加わった振動や音といったエネルギーを効果的に減衰する働きを持つ。さらに詳しくは、分散相を構成する本件化合物は、本件化合物毎にエネルギー減衰効果が異なっている。
【0034】
この分散相は、本件化合物がミクロ相分離した分散相として、或いは完全相溶した分散相としてマトリックス中に存在している。またこの分散相は、上記マトリックス相中に平均1ミクロン以下、より好ましくは平均0.1ミクロン以下の大きさで存在していることが、上記エネルギー減衰効果をより効果的に発揮させる上で望ましい。
【0035】
この分散相を構成する本件化合物は、マトリックス相を構成する樹脂100重量部に対し1〜200重量部の割合で含まれていることが望ましい。本件化合物の含有量が1重量部を下回る場合、十分なエネルギー減衰性を得ることができず、また200重量部を上回る場合には、範囲を超える分だけの減衰性が得られず不経済となるからである。
【0036】
また、振動や音のエネルギーには、低周波領域から高周波領域まで様々な種類があり、用途や使用状態によって求められる振動や音の種類も異なることから、要求される振動や音の種類に応じてマトリックス相を構成する樹脂や分散相を構成する本件化合物を1種若しくは2種以上を選択し、選択されたマトリックス相を構成する樹脂中に本件化合物を混合することにより、要求される振動や音の種類に応じたより効果的なエネルギー減衰効果を有する有機減衰材料を得ることができるのである。
【0037】
例えば図2は、マトリックス相を構成する樹脂及び分散相を構成する本件化合物をそれそれ1種類ずつ選択し、選択されたマトリックス相を構成する樹脂中に同じく選択された1種類の本件化合物を混合し、これを繊維表面にコーティングしてコーティング層を形成した吸音繊維15を作製し、この吸音繊維15を構成繊維として含む不織布形態の吸音繊維体14を示したものである。この吸音繊維体14を構成する吸音繊維15のマトリックス相16中には1種類の本件化合物の分散相17が形成されている(図3参照)。
【0038】
吸音繊維体14は、例えば要求される振動や音の種類に応じて異なる周波数領域においてエネルギー減衰効果を有するマトリックス相を構成する樹脂及び分散相を構成する本件化合物の組合せをそれそれ複数種選択し、選択されたマトリックス相を構成する樹脂中に同じく選択された1種類の本件化合物を混合した複数種の有機減衰材料を繊維表面にバインダーを介して付着させた複数種の吸音繊維を含む形態を採ることもできる。
【0039】
また吸音繊維体14は、要求される振動や音の種類に応じて1種類のマトリックス相を構成する樹脂と、異なる周波数領域においてエネルギー減衰効果を有する複数種の分散相を構成する複数の本件化合物を選択し、選択されたマトリックス相を構成する樹脂中に同じく選択された複数の本件化合物を混合することによって得られた異なる周波数領域においてエネルギー減衰効果を有する1種類の有機減衰材料を繊維表面にコーティングした吸音繊維を含む形態を採ることもできる。
【0040】
吸音繊維体14中の吸音繊維15は、10〜1200g/mの目付割合で含まれていることが望ましい。吸音繊維15の目付量が10g/mを下回る場合、十分なエネルギー減衰性を得ることができず、吸音繊維15の目付量が1200g/mを上回る場合には、エネルギー減衰性の向上を見込める反面、重量やコストが高くなることから、エネルギー減衰性、重量及びコストのバランスを考慮した場合、吸音繊維15の目付量が10〜1200g/mの範囲が好ましいのである。
【0041】
また、有機減衰材料中には、上述の成分の他に、例えばマイ力鱗片、ガラス片、グラスファイバー、カーボンファイバー、炭酸カルシウム、バライト、沈降硫酸バリウムなどの物質や、腐食防止剤、染料、酸化防止剤、制電剤、安定剤、湿潤剤などを必要に応じて適宜加えることができる。
【0042】
次に、図4及び図5に示す本発明を具体化した自動車用内外装材をフェンダーライナーの基材として用いた例について説明する。図示のフェンダーライナー21は、自動車のフェンダアーチの形状に対応して成形されたライナー本体22と、ライナー本体22を補強する裏打ち材23(吸音繊維体)とからなる。
【0043】
ライナー本体22は、例えば高密度ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、エラストマーなどの熱可塑性樹脂をベースとし、これにマイカ、タルク、ガラス繊維などの無機フィラーを混合し、その混合物をシート状に押出した後、未だ可塑状態にあるうちにフェンダアーチの形状に成形することで得ることができる。
【0044】
裏打ち材23(基材)のライナー本体22への積層一体化は、接着剤を用いて行っても良いが、フェンダアーチの形状に成形するのと同時に補強材の裏打ちを行えば、接着剤が不要となり、より効率的な製造が可能となる。
【0045】
裏打ち材23(基材)は、例えばポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ウレタン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アセテート繊維などの合成繊維、或いはパルプ繊維、羊毛繊維、木綿繊維などの天然繊維を使用することができ、これらの繊維から選ばれた1種、若しくは2種以上を構成繊維とする不織布、織物、編物、或いはこれらを複合化した複合物からなる繊維体によって構成されている。図示の例では、ポリエステル繊維のニードルパンチ不織布を採用した。
【0046】
この裏打ち材23(吸音繊維体)の目付としては特に限定されないが、吸音性、重量及びコストを考慮したとき、100〜1100g/mの範囲が望ましい。
【0047】
またこの裏打ち材23(吸音繊維体)には、有機減衰材料を含む樹脂エマルジョンが含浸または塗布されており、この裏打ち材23(吸音繊維体)に当たった音が繊維体内を通過する過程で構成繊維と衝突を繰り返すことで音のエネルギーを摩擦熱として熱のエネルギーに変換することで、その減衰が図られると共に、図3及び図5に示すように、裏打ち材23(吸音繊維体)に含浸または塗布される樹脂24中に含まれる有機減衰材料の樹脂マトリックス相16中の分散相17を構成する化合物が位相のズレ、回転を繰り返すことで、音エネルギーを熱エネルギーに変換してエネルギーの減衰がなされるようになっている。尚、裏打ち材23(吸音繊維体)に含浸または塗布される樹脂中に含まれる有機減衰材料は、図1〜図3に示すものと同じであるため、ここでの説明は割愛する。
【0048】
裏打ち材23(吸音繊維体)に含浸または塗布される樹脂エマルジョンとしては、例えばアクリル系エマルジョン、スチレン−ブタジエン系エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョンなどを挙げることができ、この樹脂エマルジョンを構成する樹脂を有機減衰材料の樹脂マトリックス相を構成する樹脂とすることも、上記樹脂エマルジョン中に有機減衰材料を含ませることもできる。尚、裏打ち材(吸音繊維体)に含浸または塗布される樹脂エマルジョンの形態としては、複数の異なる分散相を有する有機減衰材料を含む樹脂エマルジョンの形態や異なる分散相を有する有機減衰材料を含む複数種の樹脂エマルジョンの形態を挙げることができる。
【0049】
有機減衰材料を含む樹脂エマルジョンの裏打ち材23(吸音繊維体)への塗布または含浸方法としては、例えば、ロールコーター法、リバースロールコーター法、グラビアロールコーター法、ダイレクトロールコーター法、絞りロール法、吹き付けガン法、ディップロール法、泡噴霧法、浸漬法を用いることができ、その場合、有機減衰材料を含む樹脂は10〜600g/mの割合で含まれていることが望ましい。樹脂の含有量(付着量)が10g/mを下回る場合、十分なエネルギー減衰性を得ることができず、樹脂の含有量(付着量)が600g/mを上回る場合には、エネルギー減衰性の向上を見込める反面、重量やコストが高くなることから、エネルギー減衰性、重量及びコストのバランスを考慮した場合、有機減衰材料を含む樹脂が10〜600g/mの範囲で含まれていることが好ましい。
【0050】
尚、本発明は、図面に示した上述の例に限定されず、例えば図1及び図2に示すトランクトリムを構成する繊維表皮材12、樹脂シート13及び吸音繊維体14の全ての部材に有機減衰材料を含む吸音繊維を含ませたり、有機減衰材料を含む樹脂エマルジョンを含浸または塗布したり、同一のまたは異なる吸音繊維からなる吸音繊維体を積層して備えたものとするなど、特許請求の範囲に記載した範囲で自由に変更して実施することができる。
【0051】
次に、本発明を床材30に具体化した例について図6及び図7に従って説明する。
まず、前記の裏打ち材(吸音繊維体)23の例と同様に、樹脂製の不織布に対し、前記有機減衰材料を含む樹脂エマルジョンを含浸させて吸音繊維体23を作製した。
この吸音繊維体23を作製する際に使用した不織布の目付は、100g/mであり、含浸されている樹脂24の目付は、500g/mとなっている。
そして、摂氏140度にて2分間プレスすることで、吸音繊維体23を平滑化した。
【0052】
前記床材30は、図6(A)に示すように、木材、合板などからなる床材本体31の裏面に本発明の吸音繊維体23を貼り付けた構成となっている。
【0053】
上記のとおり構成した床材30について、軽量衝撃音を簡易に試験すべく、コンクリートブロック上に300x300mmの防音材、合板フローリングを置き、重量45.6gのゴルフボールを440mmの高さから自由落下させ、合板フローリングに衝突した時の衝撃音が鉄板枠内に伝わった大きさを騒音計によって測定した。図6(B)のグラフに示す測定結果は、n=3の平均を採用したものである。なお、図7中における「t」は、厚さを示す(単位はmm)。
この試験に使用した合板フローリング(株式会社キムラ製 CLICK FLOOR:登録商標)は、メラミン樹脂による表面装飾層、高密度繊維板(1200kg/m)、防水処理のされた裏面層を備えた構造となっている。
【0054】
この試験において、比較例として用いた試験片は、防音材として用いられることが多く、歩行感が同等のゴムシートである。その結果、ゴムシートに比べ本件発明の吸音繊維体(制振フェルト)は、以下のような点で優位性があることが確認できた。
・250Hz以下では、ゴムシート(5100g/m)よりも低目付で同等の吸音性能有り。
・500Hz以上では、ゴムシートより優れた吸音性能有り。
【0055】
本発明は、図面に示した上述の例に限定されず、有機減衰材料を含む樹脂エマルジョンを含浸または塗布した吸音繊維からなる吸音体を用いて床材を構成したり、同一のまたは異なる吸音繊維からなる吸音繊維体を積層することで床材を構成したりするなど、特許請求の範囲に記載した範囲で自由に変更して実施することができる。
例えば、図8に示す床材30のように、木材、合板などからなる床材本体31の裏面に対し、図2に示す例の吸音繊維体14と同様ではあるが、本発明を具体化した異なる分散相を有する吸音繊維体14a、14bを積層して貼り合わせたものであってもよい。
この場合、各吸音繊維体14a、14bの目付は同一のものであっても異なるものであってもよい。
【0056】
上記にて説明した例に示される吸音繊維体を含め、本件発明の床材又は自動車用内外装材に使用される吸音繊維体の構成としては、以下の(イ)〜(ホ)のような例があり、それらも全て本件発明の範囲に含まれる。
(イ)制振不織布(吸音繊維体)単体からなるもの。
(ロ)制振不織布と一般的な不織布を積層したもの。
(ハ)複数の不織布層とポリマー層から構成されるものであって、半ゲル化状態のポリマー材料を不織布層間に配置してこれらを厚み方向からロールでプレスすることにより、ポリマー材料の一部を不織布層内部に浸透させ、その状態で固化させることによって3層以上の積層構造とし、それらの1層にまたは2層以上に本件発明の有機減衰材料を使用したもの(固化したポリマーからなる中間層に有機減衰材料を使用することもあり)。
(ニ)不織布の上面あるいは下面のみに制振性付与エマルジョンを含浸させたもの(制振層とそうでない層が中心で別れる訳ではなく、傾斜材料となる)。
(ホ)上記(ニ)のものを(イ)〜(ハ)に複合したもの。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、床材、及び、例えば自動車のダッシュインシュレータ、車室内の天井、フロアインシュレータ、カーペット、フードインシュレータ、トランクトリム、ドアトリム、ピーラートリム、フェンダーライナー、リアライナー、エンジンカバー、アンダーカバーなどの自動車用内外装材として産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
11・・・トランクトリム
12・・・表皮材
13・・・樹脂シート
14・・・吸音繊維体
15・・・吸音繊維
16・・・樹脂マトリックス
17・・・分散相
21・・・フェンダーライナー
22・・・ライナー本体
23・・・裏打ち材(吸音繊維体)
30・・・床材
31・・・床材本体
14a・・・吸音繊維体
14b・・・吸音繊維体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂マトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選択された1種若しくは2種以上の化合物からなる分散相を有する有機減衰材料を含む吸音繊維を構成繊維とする吸音繊維体、或いは前記分散相を有する有機減衰材料を含む樹脂エマルジョンを含浸または塗布した吸音繊維体を備えたことを特徴とする床材または白動車用内外装材。
【請求項2】
複数の異なる分散相を有する有機減衰材料を含む吸音繊維又は異なる分散相を有する有機減衰材料を含む複数種の吸音繊維を構成繊維とする吸音繊維体、或いは前記複数の異なる分散相を有する有機減衰材料を含む樹脂エマルジョン又は異なる分散相を有する有機減衰材料を含む複数種の樹脂エマルジョンを含浸または塗布した吸音繊維体を備えたことを特徴とする請求項1に記載の床材または自動車用内外装材。
【請求項3】
有機減衰材料を含む前記吸音繊維体を積層したもの、または、有機減衰材料を含む前記吸音繊維体と有機減衰材料を含まない不織布とを積層したものを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の床材または自動車用内外装材。
【請求項4】
樹脂マトリックス相を構成する樹脂が、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリルスチレン共重合体(AS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、塩素化ポリエチレン(CPE)、及びエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)から選ばれる1種若しくは2種以上からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の床材または自動車用内外装材。
【請求項5】
マイ力鱗片、ガラス片、グラスファイバー、カーボンファイバー、炭酸カルシウム、バライト及び沈降硫酸バリウムから選ばれる1種若しくは2種以上からなる無機フィラーをさらに含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の床材または自動車用内外装材。
【請求項6】
分散相を構成する化合物が樹脂マトリックス相を構成する樹脂100重量部に対し1〜200重量部の割合で含まれていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の床材または自動車用内外装材。
【請求項7】
吸音繊維が吸音繊維体中に10〜1200g/mの割合で含まれていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の床材または自動車用内外装材。
【請求項8】
有機減衰材料を含む樹脂が吸音繊維体中に10〜600g/mの割合で含まれていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の床材または自動車用内外装材。
【請求項9】
自動車のダッシュインシュレータ、車室内の天井、フロアインシュレータ、カーペット、フードインシュレータ、トランクトリム、ドアトリム、ピーラートリム、フェンダーライナー、リアライナー、エンジンカバー、アンダーカバーの中から選ばれる少なくとも1つに適用されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の自動車用内外装材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−28335(P2013−28335A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−140674(P2012−140674)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【出願人】(506229970)AS R&D合同会社 (16)
【出願人】(391033388)三井屋工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】