説明

床材用アクリル樹脂系接着剤

【課題】 本発明は、施工性と接着性の2つの性状を具有する床材用アクリル樹脂系接着剤を提供する。
【課題手段】本発明の床材用アクリル樹脂系接着剤は、アクリル樹脂系エマルションと、粘着付与剤と、充填剤と、を含み、前記充填剤が、針状炭酸カルシウムを含み、前記針状炭酸カルシウムがアクリル樹脂系エマルションの樹脂固形分100質量部に対して、10〜50質量部含まれている。好ましくは前記充填剤が、アクリル樹脂系エマルションの樹脂固形分100質量部に対して、300〜420質量部含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床材を下地面に接着するときに用いられる床材用アクリル樹脂系接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、合成樹脂製床材などの床材は、一般的に、床材用接着剤を介して、モルタル面やコンクリート面などの下地面に接着されている。
床材用接着剤は、溶剤型とエマルション型に大別される。溶剤型としては、酢酸ビニル樹脂系、ビニル共重合樹脂系、ゴム系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系等が用いられている。エマルション型としては、酢酸ビニル樹脂系エマルション、ビニル共重合樹脂系エマルション、アクリル樹脂系エマルション、ゴム系ラテックス等が用いられている。
溶剤型の床材用接着剤は、接着強度に優れ、特にエポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系は耐水強度に優れるため、広範囲に使用されている。
【0003】
しかしながら、溶剤型の床材用接着剤は、有機溶剤による環境汚染、人体への毒性などの問題が懸念されるので、近年、エマルション型の床材用接着剤への切り替えが望まれている。
近年、様々な手法によりエマルション型の床材用接着剤の検討がなされた結果、アクリル樹脂系エマルション型接着剤は、労働安全衛生上の問題、環境問題、省資源に適するなどの種々の利点を有することから、床材用接着剤への利用が急速に広まっている。
【0004】
しかしながら、床材用接着剤には、施工性と接着性を両立できるものが求められる。
前記施工性とは、床材を下地面に接着する際に施工者が簡単にそれを行えるという施工時における接着剤の性状である。施工性の指標としては、接着剤の貼付可能時間及び初期タック力が用いられる。
前記接着性とは、施工後の床材が経時的に下地面に対して安定して接着しているという施工後の接着剤の性状である。接着性の指標としては、床材の収縮抑制力及び接着強度が用いられる。床材の収縮抑制力とは、床材の収縮を抑える性能である。
【0005】
従来、エマルション型の床材用接着剤は、溶剤型のものと比べ、充分な接着強度が得られなかったり、乾燥速度も遅いため初期接着性に欠けたりするなどの欠点を有していた。かかる欠点を克服することを目的として、特許文献1には、アクリル樹脂系エマルションと、粘着付与剤と、一般式R−O−(CHR−CH−O)−Hで表される化合物と、充填剤と、を含む床材用接着剤組成物が開示されている。特許文献1に記載の発明は、床材の初期の収まり性に優れ、各種床材へ適応可能な床材用接着剤組成物を提供すること目的として、床材の初期の収まり性(タック力)と接着強度の評価を行っている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の床材用接着剤組成物は、床材の初期の収まり性と接着強度が両立しているものの、施工性と接着性が両立しているとは言えない。施工性には、初期の収まり性(タック力)の他に、貼付可能時間などの他の性能が必要とされる。また、接着性の指標である接着強度には、剥離接着強さの他に、引っ張り接着強さと床材収縮抑制力の性能が必要とされる。
施工性と接着性の2つの性状を充分に両立する床材用接着剤は、これらの全ての性能を不足なく具有していることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−082313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、施工性と接着性の2つの性状を具有する床材用アクリル樹脂系接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の床材用アクリル樹脂系接着剤は、アクリル樹脂系エマルションと、粘着付与剤と、充填剤と、を含み、前記充填剤が、針状炭酸カルシウムを含み、前記針状炭酸カルシウムがアクリル樹脂系エマルションの樹脂固形分100質量部に対して、10〜50質量部含まれている。
好ましくは前記充填剤が、アクリル樹脂系エマルションの樹脂固形分100質量部に対して、300〜420質量部含まれている。
好ましくは前記充填剤は、針状炭酸カルシウムと、不定形又は球状炭酸カルシウムとを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の床材用アクリル樹脂系接着剤は、貼付可能時間が比較的長いので床材の施工が容易で、さらに、初期タック力に優れているので初期の収まり性がよく、施工時に床材がズレることなく、床材の巻き癖や変形を矯正しながら確実に所定位置に接着できる。加えて、低温でもタック性が低下しないので、低温時のズレも発生しにくい。
また、本発明の床材用アクリル樹脂系接着剤は、床材を施工後、床材の収縮を抑制でき、さらに、接着強度に優れているので敷設した床材が経時的に剥がれることも防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例の床材収縮抑制力の測定方法において床材に目地を形成する状態を示す平面図。
【図2】図1のII−II線拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の床材用アクリル樹脂系接着剤は、アクリル樹脂系エマルションと、粘着付与剤と、充填剤と、を含有している。
前記充填剤は、針状炭酸カルシウムを含み、前記針状炭酸カルシウムがアクリル樹脂系エマルションの樹脂固形分100質量部に対して、10〜50質量部含まれている。
なお、本明細書において「A〜B」という記載は、A以上B以下を意味する。
【0013】
[アクリル樹脂系エマルション]
アクリル樹脂系エマルションは、通常、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系モノマーの乳化重合法により得ることができる。
乳化重合法としては、モノマーを一括して仕込む一括仕込み重合法、モノマーを連続的に滴下する滴下法、モノマーと水と乳化剤とを予め混合乳化し且つこれらを滴下するプレエマルション法、これらを組み合わせる方法などが挙げられる。
アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどが挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は「メタクリル」のいずれかを意味する。
【0014】
これらアクリル系モノマーは、1種単独で又は2種以上を併用できる。すなわち、アクリル樹脂系エマルションに含まれるアクリル系樹脂は、単独重合体又は共重合体の何れでもよい。
【0015】
さらに、アクリル樹脂系エマルションに含まれるアクリル系樹脂は、必要に応じて、上記アクリル系モノマー以外に、アクリル系モノマーと共重合可能なモノマーの1種類または2種類以上が共重合されていてもよい。該共重合可能なモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族系単量体、(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル系単量体、酢酸ビニルなどが挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシルと(メタ)アクリロニトリルの共重合体を用いることが好ましい。
上記(メタ)アクリル酸2エチルヘキシルと(メタ)アクリロニトリルの共重合体は、その重合比(モル比)が、99:1〜60:40(つまり、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシル:(メタ)アクリロニトリル=99:1〜60:40)であることが好ましい。
【0016】
なお、アクリル樹脂系エマルションに用いられる乳化剤としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、両性乳化剤などが挙げられる。他にも公知の非反応性乳化剤及び/又は反応性乳化剤を使用することができ、これらは1種単独で、または2種以上を併用してもよい。
【0017】
具体的には、乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムなどの脂肪酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩などのアニオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体などのノニオン系界面活性剤;アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などのカチオン系界面活性剤;などが挙げられる。
乳化剤の配合量は、アクリル樹脂系エマルションの樹脂固形分100質量部に対して、0.1質量部〜10質量部、好ましくは0.5質量部〜10質量部である。
【0018】
上記アクリル樹脂系エマルションを乳化重合する際に使用される重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤などが挙げられる。ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,2−アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられる。
【0019】
本発明のアクリル樹脂系エマルション中におけるアクリル系樹脂(固形分散質)の平均粒子径は、0.1μm〜1.0μmであることが好ましい。
アクリル樹脂系エマルション中におけるアクリル系樹脂の含有量は、20質量%〜80質量%が好ましく、30質量%〜70質量%が更に好ましい。
アクリル樹脂系エマルションに含まれるアクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、3000以上であり、1万以上が好ましく、10万以上がさらに好ましい。アクリル系樹脂の重量平均分子量の上限は、特に限定されない。もっとも、余りに分子量が大き過ぎると、良好なエマルションを形成できないことから、その上限は、150万である。
【0020】
また、上記アクリル樹脂系エマルションには、1種のアクリル系樹脂が含まれていてもよいし、重量平均分子量、構造などが異なる2種以上のアクリル系樹脂(第1アクリル系樹脂と第2アクリル系樹脂)が含まれていてもよい。
上記第1及び第2アクリル系樹脂を併用する場合、アクリル樹脂系エマルション中におけるそれらの含有比は、特に限定されない。第1アクリル系樹脂と第2アクリル系樹脂の含有比(質量比)は、99:1〜10:90が好ましい。
なお、本発明において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって求められる値をいう。
【0021】
[粘着付与剤]
粘着付与剤としては、ロジン系樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂などが挙げられる。
ロジン系樹脂としては、トールロジン、ガムロジン、ウッドロジンなどの天然ロジン;天然ロジンに水素添加した水添ロジン;不均一化ロジン;天然ロジンを多価アルコールでエステル化したロジンエステル化物;ロジンフェノール変性物;天然ロジンを不飽和酸で変性したロジン不飽和酸変性物などが挙げられる。
【0022】
ロジンエステル化物は、天然ロジンと多価アルコールとのエステル化物である。多価アルコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの2価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリンなどの4価アルコール;ジペンタエリスリトールなどの6価アルコールなどが挙げられる。
【0023】
ロジンフェノール変性物としては、天然ロジンにフェノールやアルキルフェノールなどのフェノール類を付加させた付加物、該付加物を多価アルコールでエステル化したエステル化物などが挙げられる。
【0024】
ロジン不飽和酸変性物としては、天然ロジンを不飽和酸で変性した変性物、該変性物を多価アルコールでエステル化したエステル化物などが挙げられる。不飽和酸としては、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
【0025】
石油系樹脂としては、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5−C9共重合系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、及び、これらの水素化物などが挙げられる。
テルペン系樹脂としては、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、芳香族変性のテルペン系樹脂、及びこれらの水素化物などが挙げられる。
これらの粘着付与剤は、1種単独で又は2種以上を併用できる。
上記粘着付与剤の中では、好ましくはロジン系樹脂が用いられ、更に好ましくはロジンエステル化物が用いられる。
【0026】
粘着付与剤の配合量は特に限定されないが、余りに少ないとタック力が生じないので、ロジン系樹脂などの粘着付与剤の配合量は、アクリル樹脂系エマルションの樹脂固形分100質量部に対し、5〜90質量部が好ましく、10〜70質量部がさらに好ましい。
【0027】
[充填剤]
充填剤としては、無機充填剤、有機充填剤が挙げられ、好ましくは、無機充填剤である。無機充填剤としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化ケイ素、タルク、クレーなどが挙げられる。充填剤は、1種単独で又は2種以上を併用できる。充填剤の配合量は、アクリル樹脂系エマルションの樹脂固形分100質量部に対し、200質量部〜400質量部が好ましく、300質量部〜420質量部がより好ましい。
【0028】
本発明の床材用アクリル樹脂系接着剤は、上記充填剤の一部として針状炭酸カルシウムを含んでいる。すなわち、本発明の床材用アクリル樹脂系接着剤は、充填剤として、針状炭酸カルシウムとこれ以外の充填剤を含んでいる。針状炭酸カルシウム以外の充填剤としては、不定形炭酸カルシウム、粒状炭酸カルシウムなどの他の形状の炭酸カルシウムが好ましい。
【0029】
針状炭酸カルシウムが配合された本発明の床材用接着剤は、床材の収縮を抑制できる。これは、針状炭酸カルシウムが、アクリル系樹脂間を架橋する作用を有するためと推定される。具体的には、針状炭酸カルシウムは体積収縮を生じないので、本発明の床材用接着剤が収縮挙動を示しても針状炭酸カルシウムに抵抗して収縮しなければならない。すなわち、本発明の床材用接着剤は、針状炭酸カルシウムの表面との間でせん断抵抗力を受けることとなり、このせん断抵抗力は、床材用接着剤の収縮を妨げるように作用すると推定される。一方、針状炭酸カルシウムの配合量が大きすぎると、貼付可能時間が低下する原因となる。
【0030】
従って、針状炭酸カルシウムの配合量は、アクリル樹脂系エマルションの樹脂固形分100質量部に対し、10質量部〜50質量部であり、15質量部〜45質量部が好ましく、15質量部〜40質量部がより好ましい。
【0031】
針状炭酸カルシウムの平均繊維長は特に限定されないが、5μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、10μm〜50μmの範囲内であることがより好ましい。
また、針状炭酸カルシウムの平均繊維径は特に限定されないが、0.05μm〜10μmの範囲内であることが好ましく、0.1μm〜5μmの範囲内であることがより好ましい。
【0032】
針状炭酸カルシウムのアスペクト比は特に限定されないが、10〜200の範囲内であることが好ましく、20〜60の範囲内であることがより好ましい。
針状炭酸カルシウムの比表面積は特に限定されないが、5m/g〜10m/gの範囲内であることが好ましい。このような針状炭酸カルシウムを用いることにより、施工性及び接着性が良好な床材用接着剤が得られる。
【0033】
[床材用アクリル樹脂系接着剤]
本発明の床材用アクリル樹脂系接着剤は、上記アクリル樹脂系エマルションに、粘着付与剤、針状炭酸カルシウムを含む充填剤を所定量配合することによって得ることができる。なお、アクリル樹脂系エマルションの樹脂固形分100質量部に対して、針状炭酸カルシウムが、10質量部〜50質量部、好ましくは15質量部〜45質量部、より好ましくは15質量部〜40質量部含まれるように調製される。
【0034】
本発明の床材用アクリル樹脂系接着剤には、これらの成分以外に、他の成分が配合されていてもよい。
他の成分としては、造膜助剤、分散剤、増粘剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤、凍結防止剤、界面活性剤、消泡剤、可塑剤、顔料などが挙げられる。
造膜助剤としては、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類;プロピレングリコール、ソルビトールなどのグリコール類などが挙げられる。
【0035】
[床材用アクリル樹脂系接着剤の使用法]
本発明の床材用アクリル樹脂系接着剤は、床材を下地面に接着させるために使用される。
床材は、特に限定されず、塩化ビニル系樹脂などの合成樹脂を主成分とする床シート又は床タイル、ゴムを主成分とする床シート又は床タイル、木質系床材、石材系床タイル、タイルカーペットなどのカーペット類などが挙げられる。
また、床材を施工する下地面としては、特に限定されず、一般には、建物のモルタル面、コンクリート面、コンパネ面、セルフレベリング面、金属面などが挙げられる。また、本発明の床材用アクリル樹脂系接着剤は、床材接着用途以外に使用することも可能である。例えば、本発明の床材用アクリル樹脂系接着剤は、建物の屋根や外壁に施工するシートを接着させるために使用することもできる。
上記床材用アクリル樹脂系接着剤を下地面に塗布した後、この上に床材を載せていくことによって、床材を下地面に接着できる。
【実施例】
【0036】
本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、本発明は、下記実施例のみに限定されるものではない。
実施例及び比較例で使用した材料、並びに試験方法などは、次の通りである。
【0037】
[アクリル樹脂系エマルション]
(1)エマルション1
高圧ガス工業株式会社製の商品名「ペガール」を使用した。
これは、アクリル酸2エチルヘキシル−アクリロニトリルの共重合体(2EHA:AN(モル比)=90:10)を含むアクリル樹脂系エマルションであった。
このアクリル樹脂系エマルションは、固形分50質量部と、水50質量部とからなる。
このアクリル樹脂系エマルションの23℃での粘度は、2560mPa・sで、pHは6.7であった。
【0038】
(2)エマルション2
サイデン化学株式会社製の商品名「サイビノール」を使用した。
これは、アクリル酸2エチルヘキシル−アクリロニトリルの共重合体(2EHA:AN(モル比)=90:10)を含むアクリル樹脂系エマルションであった。
このアクリル樹脂系エマルションは、固形分55質量部と、水45質量部とからなる。
このアクリル樹脂系エマルションの25℃での粘度は、1700mPa・sで、pHは7.5であった。
上記エマルション1及びエマルション2の各成分の質量比を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
[不定形炭酸カルシウム]
清水工業株式会社製の商品名「LW350」を使用した。
この不定形炭酸カルシウムの平均粒子径は6.0μm、真比重は2.72、比表面積は10,480cm/gであった。
【0041】
[針状炭酸カルシウム]
丸尾カルシウム株式会社製の商品名「ウィスカルA」を使用した。
この針状炭酸カルシウムの真比重は2.8、比表面積は7m/g、平均繊維径は0.5μm〜1.0μm、平均繊維長は20μm〜30μmであった。
【0042】
[粘着付与剤]
軟化点70〜80℃、酸価10以下のロジンエステル(荒川化学工業株式会社製、商品名「スーパーエステルA75」)を使用した。
【0043】
[床材収縮抑制力の測定方法]
床材収縮抑制力とは、加熱促進を行ったときの床材の収縮を抑え込む性能である。
床材収縮抑制力の測定は、下記の手順で行った。
フレキシブル板(JIS A 5430に規定される、厚み8mm、700mm角のフレキシブル板)に供試接着剤をくし目ゴテ(JIS A 5536に準拠)を用いて塗布し、10分間放置した後、厚み2mm、幅60mm、長さ700mmの床材(ポリ塩化ビニル製床シート、東リ株式会社製、商品名「フロアリューム プレーン」)を貼り付け、フレキシブル板に十分に圧着させた。そして、23℃±2℃、湿度50±10%下で7日養生した。次に、床材の側端から350mmの位置においてカッターを用いて床材のみを全幅に亘って分断し、目地を形成した(図1及び図2参照)。その後、60℃、湿度90%下で4週間養生し、さらに、23℃±2℃、湿度50±10%下に戻して1日養生した後、目地の幅を測定した。測定した結果を下記の基準に基づいて評価した。
【0044】
A:目地幅が0.5mm未満。収縮抑制力が極めて良好で、目視によって目地を確認することが難しい。
B:目地幅が0.5mm以上1.0mm未満。収縮抑制力が良好で、目視によって目地が目立たない。
C:目地幅が1.0mm以上1.5mm未満。収縮抑制力は有効でなく、目地が少し気になる。
D:目地幅が1.5mm以上。収縮抑制力が不十分で、目地が目立つ。
【0045】
[剥離接着強度の測定方法]
フレキシブル板(JIS A 5430に規定される、厚み5mm、70mm×150mmのフレキシブル板)の表面に、供試接着剤をくし目ゴテ(JIS A 5536に準拠)を用いて塗布し、10分間放置した後に、幅25mm、長さ200mmのポリ塩化ビニル製床シート(東リ株式会社製、商品名「フロアリューム プレーン」)を貼り付け、この床シートの上から5kgのローラーを2往復させて床シートをフレキシブル板に十分に圧着させた。その後、23℃±2℃、湿度50±10%下で7日間養生した後、床シートを90度方向に剥離したときの強度(N/25mm)を測定した。前記90度剥離接着強度の具体的な測定方法は、JIS A 5536(2007年)のはく離接着強さに準じて行った。測定した結果を下記の基準に基づいて評価した。
【0046】
A:剥離接着強度が15N/25mm以上。剥離接着強度が極めて良好である。
B:剥離接着強度が10N/25mm以上15N/25mm未満。剥離接着強度が良好である。
C:剥離接着強度が10N/25mm未満。剥離接着強度が不十分である。
【0047】
[引張接着強度の測定方法]
フレキシブル板(JIS A 5430に規定される、厚み8mm、70mm角のフレキシブル板)の表面に、供試接着剤をくし目ゴテ(JIS A 5536に準拠)を用いて塗布し、10分間放置した後に、40mm角のポリ塩化ビニル製床タイル(東リ株式会社製、商品名「メルストーン」)を貼り付け、この床タイルの上から1kgの荷重を5秒間加えてフレキシブル板に床シートを十分に圧着させた。その後、23℃±2℃、湿度50±10%下で7日間養生した後、引張試験を行い、接着面が破断するまでの最大荷重(N/mm)を測定した。前記引張試験の具体的な測定方法は、JIS A 5536(2007年)の引張接着強さに準じて行った。測定した結果を下記の基準に基づいて評価した。
【0048】
A:引張接着強度が0.5N/mm以上。引張接着強度が極めて良好である。
B:引張接着強度が0.2N/mm以上0.5N/mm未満。引張接着強度が良好である。
C:引張接着強度が0.2N/mm未満。引張接着強度が不十分である。
【0049】
[貼付可能時間の測定方法]
貼付可能時間は、供試接着剤を塗布し、各放置時間で床材を貼り付けて剥離したときに、塗布した接着剤の面積に対して床材の裏面に接着剤が50%以上転写しているときの最長放置時間である。
貼付可能時間の測定方法は、次の通りである。
23℃±2℃、湿度50±10%下で、供試接着剤を、フレキシブル板(JIS A 5430に規定される、厚さ8mm、縦横50×300mmのフレキシブル板)の表面に、くし目ゴテ(JIS A 5536に準拠)を用いて塗布した。
供試接着剤を塗布した後、10分待ち、その後、接着剤の上に25mm×70mmのポリ塩化ビニル製床タイル(東リ株式会社製、商品名「メルストーン」)を貼り付け、この床タイルの上から1kgの荷重を5秒間加えた。
その後、直ちに、前記床タイルの両端部に一対の針金の下端をそれぞれ係止し、30mm/分で床タイルの法線方向に針金を引き上げて、床タイルを剥離した。
剥離後の床タイルの接着面を目視で観察し、床タイルの接着面に転写された接着剤の面積を調べた。
【0050】
接着剤を塗布した後、20分後、30分後というように、10分ずつ放置時間を増やしたこと以外は、上記と同様の操作を行い、各放置時間毎の転写接着剤の面積を調べた。
【0051】
転写接着剤の面積が、フレキシブル板に塗布した接着剤の面積に対して、50%以上である場合には貼付可能と判断し、50%未満である場合には供試接着剤が貼付不可となったと判断した。測定した結果を下記の基準に基づいて評価した。
【0052】
A:貼付可能時間が50分以上。接着剤の貼付可能時間が極めて良好である。
B:貼付可能時間が25分以上50分未満。接着剤の貼付可能時間が良好である。
C:貼付可能時間が10分以上25分未満。接着剤の貼付可能時間が施工上有効でない。
D:貼付可能時間が10分未満。接着剤の貼付可能時間が施工上不十分である。
【0053】
[初期タック力]
初期タック力は、供試接着剤を塗布後、20分〜60分放置後における粘着力を測定した中での最大の粘着力のことである。
初期タック力の測定方法は、次の通りである。
23℃±2℃、湿度50±10%下で、供試接着剤を、フレキシブル板(JIS A 5430に規定される、厚さ5mm、縦横70×150mmのフレキシブル板)の表面に、くし目ゴテ(JIS A 5536に準拠)を用いて塗布した。これを20分放置した後、接着剤の上に幅25mm、長さ200mmのポリ塩化ビニル製床シート(東リ株式会社製、商品名「フロアリューム プレーン」)を貼り付け、この床シートの上から5kgのローラーを2往復させて床シートをフレキシブル板に圧着した。その後、直ちに、前記床シートの一端部に、針金を引掛け、床シートの法線方向に針金を引き上げて、床シートを剥離した(90度剥離)。剥離時の最大荷重を、針金に繋いでいたデジタルフォースゲージ(株式会社イマダ製、商品名「DPS-5」)を用いて測定した。
【0054】
供試接着剤を塗布後、5分ずつ放置時間を増やしたこと(25分放置、30分放置、35分放置、40分放置、45分放置、50分放置、55分放置、60分放置)以外は、上記と同様にして、各放置時間毎における剥離時の最大荷重を測定した。なお、各放置時間毎に得られた最大荷重の中で、最も大きい値を初期タック力として採用した。測定した結果を下記の基準に基づいて評価した。
【0055】
A:初期タック力が7N以上。初期タック力が極めて良好である。
B:初期タック力が5N以上7N未満。初期タック力が良好である。
C:初期タック力が1N以上5N未満。初期タック力が施工上有効でない。
D:初期タック力が1N未満。初期タック力が施工上不十分である。
【0056】
[5℃待ち時間]
5℃待ち時間は、供試接着剤を塗布後、5℃で床タイルが施工可能となるまでの待ち時間である。
5℃待ち時間の測定方法は、次の通りである。
5℃、湿度50%下で、供試接着剤を、フレキシブル板(JIS A 5430に規定される、厚さ8mm、900mm角のフレキシブル板)の表面に、くし目ゴテ(JIS A 5536)を用いて塗布した。これを10分放置した後、接着剤の上に100mm角のポリ塩化ビニル製床タイル(東リ株式会社製、商品名「メルストーン」)を貼り付け、ローラーで圧着した。その後、直ちに、前記床タイルを水平方向に手で力を加えることによって、床タイルがずれないで問題なく施工できるかどうか確認した。
供試接着剤を塗布後、10分ずつ放置時間を増やしたこと以外は、上記と同様にして、各放置時間毎における5℃の待ち時間を測定した。測定した結果を下記の基準に基づいて評価した。
【0057】
A:30分未満。施工が極めて良好で、待ち時間が極めて少ない。
B:30分以上60分未満。施工が良好で、待ち時間が少ない。
C:60分以上90分未満。施工が有効で、待ち時間があると感じる。
D:90分以上。施工が悪く、待ち時間が長いと感じる。
【0058】
[実施例1乃至17及び比較例1乃至5]
表2乃至表4の組成欄に示す配合割合で、所定量の水に上記各材料を混合し、実施例1乃至17及び比較例1乃至5の床材用アクリル樹脂系接着剤をそれぞれ調製した。
なお、表2乃至表4において、実施例及び比較例の組成における各成分は、質量部で表している。
【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
各実施例及び各比較例の床材用アクリル樹脂系接着剤について、床材収縮抑制力を測定した。その結果を、表2乃至表4に示す。
針状炭酸カルシウムを7質量部含む実施例1の接着剤は、床材収縮抑制力がB評価となったが、針状炭酸カルシウムを3質量部含む比較例1の接着剤は、床材収縮抑制力がC評価となった。実施例1と比較例1の比較から、エマルションの樹脂固形分100質量部に対して針状炭酸カルシウムを10質量部以上含んでいれば、床材収縮抑制力が良好であることが判った。
なお、実施例1乃至10及び比較例1乃至5において、エマルション100質量部の中の樹脂固形分は、51.5質量部である。
【0063】
また、針状炭酸カルシウムを25質量部含む実施例10の接着剤は、床材収縮抑制力がB評価となったが、針状炭酸カルシウムを80質量部含む比較例3の接着剤は、床材収縮抑制力がC評価となった。このことから、針状炭酸カルシウムを多量に配合すると、床材収縮抑制力が低下することが判った。
【0064】
各実施例及び比較例の床材用アクリル樹脂系接着剤について、90度剥離接着強度及び引張接着強度を測定した。その結果を、表2乃至表4に示す。
【0065】
各実施例及び比較例の床材用アクリル樹脂系接着剤について、貼付可能時間を測定した。その結果を、表2乃至表4に示す。
針状炭酸カルシウムを25質量部含む実施例10の接着剤は、貼付可能時間がB評価となったが、針状炭酸カルシウムを35質量部含む比較例2の接着剤は、貼付可能時間がC評価となった。このことから、針状炭酸カルシウムを多量に配合すると、貼付可能時間が低下することが判った。実施例10と比較例2の比較から、エマルションの樹脂固形分100質量部に対して針状炭酸カルシウムが50質量部以下であれば、貼付可能時間が良好であることが判った。
【0066】
各実施例及び比較例の床材用アクリル樹脂系接着剤について、初期タック力を測定した。その結果を、表2乃至表4に示す。
【0067】
各実施例及び比較例の床材用アクリル樹脂系接着剤について、5℃待ち時間を測定した。その結果を、表2乃至表4に示す。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の床材用アクリル樹脂系接着剤は、合成樹脂製、ゴム製、エラストマー製などの各種の床材を下地面に接着させるために利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂系エマルションと、粘着付与剤と、充填剤と、を含み、
前記充填剤が、針状炭酸カルシウムを含み、前記針状炭酸カルシウムがアクリル樹脂系エマルションの樹脂固形分100質量部に対して、10〜50質量部含まれている床材用アクリル樹脂系接着剤。
【請求項2】
前記充填剤が、アクリル樹脂系エマルションの樹脂固形分100質量部に対して、300〜420質量部含まれている請求項1に記載の床材用アクリル樹脂系接着剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−77207(P2012−77207A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224037(P2010−224037)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000222495)東リ株式会社 (94)
【Fターム(参考)】