説明

床材表面用積層体

【課題】合板等の木質基材に貼り合わされて床面に使用される樹脂積層体において、高い意匠性・耐久性・防滑性を保持しつつ、床材の状態で運送される際の樹脂積層体表面の耐傷つき性と、ハンドリング性を兼ね備え、尚且つ表面保護層のコーティングによる積層が容易にできるような仕様を設定すること。
【解決手段】最表面がアクリル系樹脂を主原料とする表面保護層からなり、前記表面保護層中に、平均粒径が前記表面保護層の厚み以上でポリオレフィンを主成分とする球状樹脂ビーズを含有すること、前記球状樹脂ビーズが、エチレンモノマーを主成分とすること、前記球状樹脂ビーズの平均粒径αが、表面保護層の厚みHに対して、H≦α≦1.5Hの範囲にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自然木・合板・集成材・アルミ材・鋼板材・石材・無機材・アスファルト・コンクリートなどを単独あるいは併用使用した基材などの部材表面に貼り合わせてなる床面表層材、及びそれを床面もしくは床面用部材に貼り合わせることによってできる、床材表面用積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前記用途としては、合板等の木質系基材に、天然木突板を貼り合わせたものや、紙又は合成樹脂シートに印刷にて意匠を施した化粧紙もしくは化粧シートなどを貼り合わせたもの、塩ビタイル、塩ビクッションフロア、などの樹脂材料を主成分にしたものなどが使用されている。このような床面用部材においては、壁面や天井などに用いられるものと同様に、各種環境に対する耐久性能や防汚性、抗菌性などが必要とされるが、それ以外に、特に床面に使用されるものに特徴的に必要とされる性能として、耐傷付き性と防滑性を挙げることができる。耐傷付き性は、広い意味では各種環境に対する耐久性能に含まれるが、床面においては、使用される環境下での様々な外的要因により、擦り傷、押し傷、突き刺し傷などの様々な傷が付くことがある。またそれ以外にも、特に合板等の木質基材系の床材の場合には、運搬する際に、積み重ねられた床材の表面と裏面、あるいは表面同士が擦れ合うことによる摺り傷などへの配慮も必要となっている。ただし通常は、表面状態への影響を考慮して、表面同士が接触するような積み方(以下面々積みと表記)が殆どなので、現実的には面々積みで運搬された場合に、トラック荷台などでの振動により、面同士が細かく摺れあった場合に、表面に摺り傷ができたり、粉噴きが発生したりするといったことに対する対応が求められている。
【0003】
合板等の木質系基材において、天然木突板を貼り合わせたものについては、天然材料であるが故に、意匠性に優れる反面、耐久性能や防汚性、抗菌性などの性能が限定的である。塩ビタイルや塩ビクッションフロアを用いると、各種環境に対する耐久性能や防汚性、抗菌性などは付与可能であるが、意匠性の部分で、天然木突板や化粧シートを貼ったものなのに比すると劣る。合板等の木質系基材に化粧シートを貼り合わせたものは、意匠性と、耐久性能のバランスがよく、更に防汚性、抗菌性などの機能を付与することもでき、また木質系基材に貼り合わせるだけで床材ができるという特徴がある。それゆえ、近年は、化粧シートを使用した床材の使用量が伸びている。
【0004】
上記の通り、化粧シートを使用した床材は徐々にその数量を伸ばしているが、その機能性付与の一環として、防滑性能の付与が所望されている。防滑性がある、即ち滑りにくいという特徴によって、老人や子供などの身体的弱者や室内犬などのペットなどが、室内で不意に滑ることなく安全に生活を送ることができる為である。防滑性能を化粧シートに付与させる為には、これまで、表面保護層中に樹脂ビーズを添加することで防滑性能を付与させた系などが検討されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、表面保護層中に樹脂ビーズを添加した系においては、以下の課題が懸念される。まずひとつには、前記したように、運搬する際に面々積みにされた床材の表面同士が擦れ合うことによる摺り傷の影響が、樹脂ビーズを添加した系では、未添加の系と比較して悪化するということである。この対策としては、表面保護層を硬質化することが考えられるが、その場合は木質系基材へのラッピング適性など、ハンドリング性との両立が難しい。ふたつには、特に溶剤系コーティング材を塗工することにより設けられることが多い表面保護層において、樹脂ビーズを溶剤系コーティング材に分散させた際に、樹脂ビーズが溶剤を吸入することにより膨潤してしまい、コーティング材の粘度を経時変化させてしまうという問題がある。前に挙げた特許文献1を含む従来の技術では、防滑性と耐傷付き性とのバランスという点で条件を規定したものはあったが、ハンドリング性や塗工適性に関する課題への対策が不明確であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−96179
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題点を解決する為になされたものであり、その課題とするところは、合板等の木質基材に貼り合わされて床面に使用される樹脂積層体において、高い意匠性・耐久性・防滑性を保持しつつ、床材の状態で運送される際の樹脂積層体表面の耐傷つき性と、ハンドリング性を兼ね備え、尚且つ表面保護層のコーティングによる積層が容易にできるような仕様を設定することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、かかる課題を解決する為に鋭意検討を重ねた結果、以下の条件を満たす樹脂積層体が、課題を解決することを見出した。すなわちその請求項1にかかる発明は、最表面がアクリル系樹脂を主原料とする表面保護層からなり、前記表面保護層中に、平均粒径が前記表面保護層の厚み以上でポリオレフィンを主成分とする球状樹脂ビーズを含有することを特徴とする、床材表面用積層体である。
【0009】
その請求項2にかかる発明は、前記球状樹脂ビーズが、エチレンモノマーを主成分とすることを特徴とする、請求項1に記載の床材表面用積層体である。
【0010】
その請求項3にかかる発明は、前記球状樹脂ビーズの平均粒径αが、表面保護層の厚みHに対して、H≦α≦1.5Hの範囲にあることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の床材表面用積層体である。
【0011】
その請求項4にかかる発明は、前記表面保護層の厚みが、10μm以上50μm以下の範囲内にあることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の床材表面用積層体である。
【0012】
その請求項5にかかる発明は、前記表面保護層中に、ヒンダードアミン系のラジカル補足剤が添加されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の床材表面用積層体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明はその請求項1記載の発明により、アクリル系樹脂を主原料とする表面保護層にその厚み以上の球状樹脂ビーズを用いることで表面の滑りを抑制する効果を発現し、結果として防滑性能を付与することができる。また、球状樹脂ビーズとしてオレフィン系樹脂を用いることで、その特徴である適度な柔軟性により、床材にした状態で面々積みにして運搬した場合でも、摺り傷や粉噴きなどの発生を抑制することができる。
【0014】
本発明はその請求項2記載の発明により、球状樹脂ビーズがエチレンモノマーを主成分とすることで、オレフィン材料の中でも安価であり、尚且つポリマー化した場合に、他のオレフィン材料と比べて柔軟性の高い材料となることから、更なる摺り傷や粉噴きなどの抑制効果が得られる。
【0015】
本発明はその請求項3記載の発明により、球状樹脂ビーズの平均粒径の上限値を設定することで、摺り傷抑制に効果があるだけでなく、表層での光の乱反射を抑えることもできる為、意匠性の向上にも寄与する。また、樹脂ビーズの脱落がしにくくなる為、防滑性能が長期間持続するという効果が得られる。
【0016】
本発明はその請求項4記載の発明により、表面保護層の厚みを限定することで、必要充分な耐候性、耐傷付き性などを有しつつ、表面としての適度なハンドリング性が得られる。10μmを下回る範囲にある場合、耐候性や鉛筆硬度試験の結果が若干劣り、逆に50μmを上回る範囲である場合、積層体として硬質すぎてハンドリング性が悪くなり、木質基材に貼り合わせる際に、平面以外の部分で浮きや剥がれなどが発生したり、また場合によっては表面にクラックが入ったりする場合もある。
【0017】
本発明はその請求項5記載の発明により、表面保護層にヒンダードアミン系のラジカル補足剤を添加することで、表面保護層の経年劣化が抑制され、表面保護層全体の劣化が抑制できるのはもちろん、球状樹脂ビーズの経時による脱落を抑制する効果が得られる。これは、紫外線や熱環境などにより表面保護層中に励起されたフリーラジカルを、ヒンダードアミン系のラジカル補足剤が無害化する為、表面保護層の耐久性が向上する為である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の床材表面用積層体の一実施例の断面の構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図面に基づき詳細に説明する。図1に本発明の床材表面用積層体の一実施例の断面の構造を示す。最表面がアクリル系樹脂を主原料とする表面保護層1からなるものであり、通常は図1に示すように、表面保護層1と透明樹脂シート2と絵柄模様層4との積層構造からなる。表面保護層1中には、球状樹脂ビーズ3が添加されてなる。
【0020】
本発明における表面保護層1に用いる主原料とするアクリル系樹脂としては、アクリル(メタ)アクリレート系が、イソシアネート硬化剤を用いて硬化させたり、紫外線照射や電子線照射などを用いて架橋硬化させたりすることでより強靭性に富んだ樹脂層とすることが可能となるため好適である。イソシアネート硬化剤を用いる場合には、イソシアネートと反応させるためにアクリル(メタ)アクリレート樹脂には水酸基を付与され、紫外線照射を用いる場合には、光重合開始剤が添加される。
【0021】
また、表面保護層1は、アクリル系樹脂を主原料とするので、元より高い耐候性能を持つが、更なる性能付与の為に、紫外線吸収剤及びラジカル補足剤の添加が好適に用いられる。紫外線吸収剤として使用されるものとしては、有機系のもでは、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ヒドロキシフェニルトリアジン系などがあり、それ以外にも無機系の紫外線カット剤も、有機系紫外線吸収剤と同様に作用する添加剤として使用される。ラジカル補足剤としては、ヒンダードフェノール系及びヒンダードアミン系のうち、特定の構造を持つものが、光励起によって発生した、材料劣化の原因となるフリーラジカルの増殖を抑えて無害化する効果がある。特に、ヒンダードアミン系のラジカル補足剤は、その効果が大きく、また長期間に渡って効果が持続するという特徴を有するので、適量を添加することで、表面保護層1としての性能を損なうことなく、耐候性能を付与することができる。尚、紫外線吸収剤や、その構造によって吸収波長域などに特徴があるので、複数種の併用使用も好適に行われており、時に相乗効果が期待できる。同様にラジカル補足剤も複数種の併用使用が時に好適である。
【0022】
特に、本発明は表面保護層1中には後述する球状樹脂ビーズ3が添加されており、長期間の使用において、外部からの物理的負荷や耐候劣化などによって、経時的に球状樹脂ビーズ3が脱落していく可能性がある。しかしながら、ヒンダードアミン系のラジカル補足剤を添加することで、表面保護層1の経時劣化が抑えられるので、それに対応して球状樹脂ビーズ3の経時での脱落も抑制することが可能になる。
【0023】
表面保護層1の厚みとしては、耐候性と柔軟性(ハンドリング性らラッピング適性などの取り扱いのしやすさを含む)のバランスから、10μm以上50μm以下であることが望ましい。
【0024】
表面保護層1においては、さらに機能性を付与する為に、様々な添加剤が適宜添加される。例えば、抗菌剤、防汚剤、艶消し剤、沈降防止剤、低分子量ワックス、帯電防止剤、難燃材、各種顔料、各種染料、遮熱剤、などが好適に使用される。無論、表面保護層1の架橋方法としてイソシアネート架橋を選択する場合には、硬化剤の添加が必須であり、紫外線架橋を選ぶ場合は、光重合開始剤の添加は必須である。尚、イソシアネート硬化剤は、公知のものを使用して良いが、その選定にあたっては、使用用途を考えて、無黄変タイプまたは難黄変タイプのものから適宜選択するのが望ましい。
【0025】
本発明におけるポリオレフィンを主成分とする球状樹脂ビーズ3としては、オレフィンモノマーを主成分に、ポリマー化することによって製造可能である。有機高分子タイプ以外として、ガラスやシリカなどの無機系のものでは、ガラス製のものは硬度が高すぎて、前述したように、床材の状態で面々合せに積み重ねられ運搬されると、その表面同士が擦れ合うことによって、表層に傷が付いたり粉が吹いたりする状態になってしまうなど、表面状態の保持が難しかった。またシリカを添加した系では、防滑性に寄与するレベルの量を添加すると、艶を低下させてしまうため、好適でない。
【0026】
樹脂系のものでも、アクリル系、ウレタン系、ナイロン系などはいずれも溶剤に対する耐性に難がある。表面保護層1は、グラビアコート法などの公知のコーティング方法を用いて積層される為、コーティング剤の粘度調整の為に溶剤が使用される。しかしながら、球状樹脂ビーズ3に溶剤に対する耐性がないと、球状樹脂ビーズ3が溶剤に侵されて溶けてしまったり、コーティング中に溶剤を含んで膨潤し、コーティング剤の粘度を変化させたりしてしまう。また、アクリルなどの比較的硬質な樹脂を使った場合には、前記したように面々合せの積み重ねによる表面状態の保持が難しい。
【0027】
本発明では球状樹脂ビーズ3として、ポリオレフィンを主成分としたものを用いることで、オレフィン材料の特徴である耐溶剤性の高さによって、球状樹脂ビーズ3の膨潤が抑えられ、球状樹脂ビーズ3が溶剤で溶けてしまったり、コーティング剤が粘度変化してしまったりすることを抑えられる。またさらに、エチレンモノマーを主原料とする球状樹脂ビーズ3とすることで、球状樹脂ビーズ3に適度な柔軟性が付与され、面々合せの積み重ねによる表面状態の保持も可能になる。
【0028】
本発明における球状樹脂ビーズ3の平均粒径は表面保護層1の厚み以上であり、それゆえ、添加された球状樹脂ビーズの半数以上が、表面保護層1から突起状に競り上がったような状態になっている。これにより、防滑性能が発現するものとなる。これは、本発明の床材表面用積層体に突起状にせり出した球状樹脂ビーズ3により物理的な摩擦抵抗を付与することで発現している為である。現実には、球状樹脂ビーズ3はある一定の粒径分布を持っていることが殆どであり、平均粒径が平均値以下であっても、ある一定割合で、表面保護層1の厚み以上の粒径を持つ樹脂ビーズが存在している可能性がある。しかしこのような条件下で防滑性能を発現させようとすると、必然的に多量の球状樹脂ビーズ3を添加する必要が生じてしまい、結果としてそれが、表面保護層1の物性に影響を与えてしまう懸念がある為、好ましくない。
【0029】
本発明における球状樹脂ビーズ3の平均粒径の上限値としては、表面保護層の厚みをHとすると1.5H以下とするのが好適である。平均粒径が1.5Hを超える場合、防滑性能はほぼ変化しないものの、球状樹脂ビーズ3の脱落は起きやすくなり、経時での防滑性能の保持にやや難を残すものとなる。また、表面保護層1を設けるための各種コーティング法のうち、好適に用いられる手法の一つである、グラビアコーティング法においては、グラビア版の版目に球状樹脂ビーズ3が入りづらくなる為、結果として球状樹脂ビーズ3のグラビアコーティングによる転移がしづらくなるという問題もある。これらの問題を回避するために、平均粒径として1.5H以下の範囲内にすることが好適である。これらの効果以外にも、表面の乱反射による意匠低下を抑えるという観点からも、平均粒径は1.5H以下が望ましい。
【0030】
以下、表面保護層1の被着体に相当する、透明樹脂シート2について記載する。本発明において、透明樹脂シートの材質は特に制限を設けないが、使用される用途を考えて、耐候性と耐傷性を兼ね備えたものが好ましい。さらには、耐溶剤性や耐薬品性が備わっていると更に好ましく、原料が安価で安定的に入手可能であるなどの経済性をも兼ね備えていると、尚好ましい。また、環境問題の観点からは、塩素などのハロゲン元素を使用していないものが望ましい。これらの条件を兼ね備える材料としては代表的なものとしては、各種耐候処方が施されたポリオレフィン材料やポリエステル材料をベースにしたものが望ましい。ハロゲンの環境影響よりも、燃えにくさ(難燃性)を重要視した場合には、フッ素系の材料や塩化ビニル系の材料なども候補にあがってくる(ただし塩化ビニル系材料を用いる場合には、耐溶剤性は限定的な効果しか得られない)。また、耐候性を最重要視するような場合には、アクリル系の材料も候補になってくる。しかしながら、経済性までおも含めた総合評価では、オレフィン材料、特にポリプロピレン材料を用いたものが望ましい。これまでは、透明樹脂シートとしての性能を触れてきたが、必ずしも透明である必要は無く、意匠性あるいは各種機能性を付与する為に着色がなされ、半透明あるいは不透明となっていても構わない。
【0031】
意匠性向上、あるいは隠蔽性の付与などの目的で、表面保護層1及び透明樹脂シート2からなる積層体への、絵柄模様層4の付与は好適に用いられる。透明樹脂シート2の片面側に表面保護層1を設け、もう一方に絵柄模様層4を設けるようにした場合には、透明樹脂シート2に絵柄模様層4の保護層的役割を持たせることもできる。絵柄模様層4の材質も特に限定されるものではないが、アクリル系、オレフィン系、エステル系、ウレタン系、酢酸ビニル系等々のバインダーに染料または顔料などの着色剤や体質顔料などを添加し、さらに可塑剤、安定剤、ワックス、グリース、乾燥剤、硬化剤、増粘剤、分散剤、充填剤などを任意に添加してなるものが、好適に用いられる。上記材料を溶剤、希釈剤などで充分混練してなる塗工液を準備し、グラビア印刷、凹版印刷、フレキソ印刷、シルク印刷、静電印刷、インクジェット印刷などの公知の印刷方法、あるいはスプレーや刷毛などを使用した公知の塗装方法によって積層させることで設けることができる。絵柄模様層4と透明樹脂シート2との間に、必要に応じてプライマーコート層(図示しない)を設ける方法も、好適に用いられる。
【0032】
このようにして作製した床材表面用積層体は、木質材、アスファルト、コンクリート、金属材、無機材、などに貼り合わせることで、高い意匠性・耐久性・防滑性を保持しつつ、床材の状態で運送される際の樹脂積層体表面の傷つき性と、ハンドリング性を兼ね備えた床面用部材を提供することができる。木質材、アスファルト、コンクリート、金属材、無機材などに、模様、文字、図柄等が施されているような場合には、床材表面用積層体は防滑性を付与すると同時に、模様、文字、図柄等を保護する役割を担うことになる。
【実施例1】
【0033】
(1)透明樹脂シート2
JIS K7210にて規定される方法で測定した、230℃温度環境下でのMFRが24、示差走査熱量測定の融点が134℃のエチレンランダムポリプロピレン樹脂「プライムポリプロ Y−2045GP」((株)プライムポリマー製)99重量%に対して、紫外線吸収剤として「チヌビン326」(BASFジャパン(株)製)を0.5重量%、「キマソーブ2020」(BASFジャパン(株)製)を0.5重量%添加し、Tダイ付きの単軸押出機(スクリュー径65mm、スクリュー長さ/スクリュー径=28)を用いて、巾430mm、厚み300μmの透明樹脂シート2を作製した。作製した透明樹脂シート2をA4サイズにカットし、その両面にコロナ放電装置を用いてコロナ処理を施した。コロナ処理後に、濡れ試薬を用いて透明樹脂シート2両面の濡れ性を確認したところ、いずれも45mN/mであった。
【0034】
(2)プライマーコート液
ポリエステル系建材用メジウム塗工液:VKNT(東洋インキ製造(株)製)を固形分換算で100重量部に対して、ヘキサメチレンジイソシアネートを固形分換算で5重量部添加し、メチルエチルケトン溶剤で固形分が30重量%となるように希釈・撹拌して、プライマーコート液を作製した。
【0035】
(3)絵柄模様層4の塗工液
ポリエステル系建材用メジウム塗工液:VKNT(東洋インキ製造(株)製)に藍色顔料を分散させた溶液の固形分換算100重量部に対して、イソホロンジイソシアネートを同じく固形分換算で10重量部添加し、メチルエチルケトン溶剤で固形分比率が20重量%となるように調整し希釈・撹拌して、絵柄模様層4の塗工液を作製した。
(4)表面保護層1と球状樹脂ビーズ3の塗工液
合成により水酸基を付与させたメチルメタクリレートプレポリマーを固形分換算で50重量部と、メチルアクリレートオリゴマーを同じく固形分換算で50重量部、光重合開始剤として、イルガキュア651(BASFジャパン(株)製)を4重量部、紫外線吸収剤として、チヌビン329(BASFジャパン(株)製)を8重量部、チヌビン400を3重量部(BASFジャパン(株)製)、ヒンダードアミン系のラジカル補足剤としてチヌビン292(BASFジャパン(株)製)を4重量部、球状樹脂ビーズ3として高密度ポリエチレン系のフロービーズHE−3040(住友精化(株)製;平均粒径11μm)を12重量部それぞれ添加し、希釈溶剤として酢酸エチルを用いて、固形分が25%になるように希釈・撹拌を行って、表面保護層1と球状樹脂ビーズ3の塗工液を作製した。
【0036】
(5)各層の積層
A4サイズの透明樹脂シート2の片面に、金属製ワイヤーを、同じく金属製の棒に巻きつけた塗工具(以下メイヤーバー)を用いて、(2)で作製したプライマーコート液を、溶剤揮発後の厚みが1.5μmとなるように塗工し、その後60℃のオーブンで3分間の乾燥を行い、溶剤分を揮発させた。その後、プライマーコート層の上に、同じくメイヤーバーを用いて(3)で作製した絵柄模様層4の塗工液を、溶剤揮発後の厚みが1.1μmとなるように積層塗工したのち、60℃のオーブンで3分間の乾燥を行い、溶剤分を揮発させた。
透明樹脂シート2にこのように積層されたプライマーコート層と絵柄模様層4の積層面とは反対側の面に、(4)で作製した表面保護層1と球状樹脂ビーズ3の塗工液を、溶剤揮発後の厚みが9μmとなるように、メイヤーバーで積層塗工した。尚、表面保護層1の塗工においては、塗工・乾燥を3回繰り返すことで、9μmの厚みを確保した。このようにして、実施例1の積層体を得た。
【実施例2】
【0037】
球状樹脂ビーズ3として、高密度ポリエチレン系の樹脂ビーズHE−3040の代わりに、低密度ポリエチレン系の樹脂ビーズとして、フロービーズLE−2080(住友精化(株)製;平均粒径11μm)を使用した他は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例2の積層体を得た。
【実施例3】
【0038】
球状樹脂ビーズ3として、高密度ポリエチレン系の樹脂ビーズHE−3040の代わりに、低密度ポリエチレン系の樹脂ビーズとして、フロービーズLE−1080(住友精化(株)製;平均粒径6μm)を使用した他は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例3の積層体を得た。
【実施例4】
【0039】
球状樹脂ビーズ3として、高密度ポリエチレン系の樹脂ビーズHE−3040の代わりに、低密度ポリエチレン系の樹脂ビーズとして、フロービーズCL−2507(住友精化(株)製;平均粒径180μm)を使用した他は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例4の積層体を得た。
【実施例5】
【0040】
表面保護層1の塗工において、塗工・乾燥を5回繰り返すことで、15μmの厚みを確保した他は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例5の積層体を得た。
【実施例6】
【0041】
表面保護層1の塗工において、塗工・乾燥を10回繰り返すことで、30μmの厚みを確保した他は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例6の積層体を得た。
【実施例7】
【0042】
表面保護層1の塗工において、塗工・乾燥を15回繰り返すことで、45μmの厚みを確保した他は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例7の積層体を得た。
【実施例8】
【0043】
表面保護層1の塗工において、塗工・乾燥を20回繰り返すことで、60μmの厚みを確保した他は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例8の積層体を得た。
【実施例9】
【0044】
ヒンダードアミン系のラジカル補足剤チヌビン292(BASFジャパン(株)製)を未添加とした他は、実施例5と同様の方法を用いて、実施例9の積層体を得た。
【0045】
<比較例1>
球状樹脂ビーズ3として、高密度ポリエチレン系の樹脂ビーズHE−3040の代わりに、ポリメタクリル酸ブチル系の樹脂ビーズとして、セキスイテクポリマー BM30X−12」(積水化成品工業(株)製;平均粒径12μm)を使用した他は、実施例1と同様の方法を用いて、比較例1の積層体を得た。
【0046】
<比較例2>
球状樹脂ビーズ3として、高密度ポリエチレン系の樹脂ビーズHE−3040の代わりに、ガラス製ビーズとして、ユニビーズ SPL−30(ユニチカ(株)製・平均粒径30μm)を使用した他は、実施例1と同様の方法を用いて、比較例2の積層体を得た。
【0047】
<比較例3>
球状樹脂ビーズ3を未添加とした他は、実施例1と同様の方法を用いて、比較例3の積層体を得た。
【0048】
<表面保護層塗工液の増粘性>
実施例1〜9、及び比較例1〜3で使用した表面保護層1と球状樹脂ビーズ3の塗工液について、経時の増粘度合いを確認した。確認方法は、200ccの蓋付きガラス瓶に塗工液100gとスターラーピースを入れて蓋をし、スターラーで攪拌をし続けた。撹拌直後の粘度が、30分後、1時間後、2時間後、4時間後に保持されているかについて、目視による官能評価により判定を行い、粘度変化がわからないものを「○」、若干の粘度変化が認められるものを「△」、明らかな粘度変化が認められるものを「×」として判定を行なった。
【0049】
<防滑性>
実施例1〜9、及び比較例1〜3の各積層体の、表面保護層塗工面側の静摩擦係数の測定を行なった。静摩擦係数の測定は、ポータブルタイプの摩擦計:トライボギア ミューズ TYPEi−II(真東科学(株)製)を用いて、接触子に平織綿を被せて20回の測定を行ない、測定値を数字の順に並べて中央の10点のみを選択し、その平均値を取ることで、静摩擦係数の値を求めた。尚、静摩擦係数とは、防滑性を表現する数値の一つであり、その数値が高い程、高い防滑性能を有すると認められる。
【0050】
<表層の摺動性>
実施例1〜9、及び比較例1〜3の各積層体を、表面保護層が最表層に来るように合板基材に貼り合わせ、150mm×30mmと15mm角のサイズにカットしたのち、15mm角中に850gの荷重をかけた状態で、150mm×30mmの上面に、積層体どうしが触れ合うようにセットし、自動の摺動試験機で、5000往復の試験を行なった。試験後の150mm×30mmにカットした側の表層状態を目視観察し、艶変化と粉状物質の噴出し有無を確認した。変化が無いものを「○」、若干の変化が認められるものを「△」、大きく変化が認められるものを「×」として判定を行なった。
【0051】
<耐候性>
実施例1〜9、及び比較例1〜3の各積層体を、市販の粘着剤を介して厚み0.5mmのアルミ基材に貼り合わせた後、サンシャインウェザーメーター S−80BBR(スガ試験機(株)製 試験条件:ブラックパネル温度63℃、槽内湿度50%、連続照射モード(但し連続照射中の60分毎の最初の12分には、純水をサンプル表層に噴霧))による耐候試験を行い、500時間毎にサンプルの劣化を目視観察した。シート表面に明らかな形状変化(劣化・変色など)が起き始めた時間から、500時間をマイナスした時間を、そのサンプルの耐候性保持時間と定義し、記録を行なった。
【0052】
<ラッピング適性>
実施例1〜9、及び比較例1〜3の各積層体の模様層側に、溶剤系の接着剤を塗布した後に60℃3分間の加熱を行なって溶剤分を揮発させ、複雑な形状をした木質部材に対しラッピング加工を行った。ラッピング直後、及び1週間後の部材の状態を確認し、木質部材からのシートのハネや浮きの有無を目視観察し、無いものを「○」、あるものを「×」として記録を行なった。但し、「×」評価のもののうち、ラッピング時に50℃の温風をシートに吹き付けることでハネや浮きが無くなるものについては、「△」とした。これらの結果をまとめたものを、表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1で明らかなように、本発明の実施例の樹脂積層体は、防滑性と摺動性が両立しており、尚且つ表面保護層塗工液の経時増粘の問題も見られない。更には耐候性やラッピング適性も充分なレベルが保持されている。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の床材表面用積層体は、塩化ビニルを一切使用しないため環境問題の心配もない。更には、従来まで使用されていたアクリル樹脂系や塩化ビニル系の透明樹脂シートの弱点であった耐溶剤性にも優れた性能を持つものになっている。
【符号の説明】
【0056】
1…表面保護層
2…透明樹脂シート
3…球状樹脂ビーズ
4…絵柄模様層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
最表面がアクリル系樹脂を主原料とする表面保護層からなり、前記表面保護層中に、平均粒径が前記表面保護層の厚み以上でポリオレフィンを主成分とする球状樹脂ビーズを含有することを特徴とする、床材表面用積層体。
【請求項2】
前記球状樹脂ビーズが、エチレンモノマーを主成分とすることを特徴とする、請求項1に記載の床材表面用積層体。
【請求項3】
前記球状樹脂ビーズの平均粒径αが、表面保護層の厚みHに対して、
H≦α≦1.5H
の範囲にあることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の床材表面用積層体。
【請求項4】
前記表面保護層の厚みが、10μm以上50μm以下の範囲内にあることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の床材表面用積層体。
【請求項5】
前記表面保護層中に、ヒンダードアミン系のラジカル補足剤が添加されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の床材表面用積層体。



【図1】
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【公開番号】特開2013−75441(P2013−75441A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216961(P2011−216961)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(593173840)株式会社トッパン・コスモ (243)
【Fターム(参考)】