説明

床構造

【課題】床重量を大幅にアップさせることなく、良好な歩行感と良好な遮音性能を両立させ得るようにした床構造を提供する。
【解決手段】縦梁1a、1bと横梁1c、1dにより矩形に組まれた最小単位として構成される一つの梁伏からなる床梁1と、連結部材20、20により一体的に連結された6枚のALC製の床パネル21〜26とパーティクルボード27とからなり床梁1上に配設された床材2と、床梁1と連結部材20、20の間の6箇所に1個づつ設置されて床材2を支持する弾性支持部材3、…、3と、床材2の縦梁1a側の辺を4等分して該辺の両端から略1/4となる位置に沿って二列に配置され、それぞれの列に重心が略沿うようにして4箇所に設置された合計8個の制振装置41〜48と、から構成されている。各制振装置41〜48は、10個のダイナミックダンパを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば一般住宅及び集合住宅(アパート、マンション)等の建築構造物の床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般住宅等においては、床に飛び跳ねや踏み台からの降下等による衝撃が加わると振動が発生し、その振動が不快音や不快震動等の原因となることから問題となる。さらに、戸建住宅やマンション等においては、居室や廊下の床に発生する振動や衝撃音が階下に直接的に伝搬されるため、階下の住人にとっては甚だしい騒音となる場合がある。
【0003】
そこで、一般住宅等の床に発生する振動や衝撃音を抑制するために、従来より種々の対策が講じられており、例えば特許文献1及び2に開示されているように、建築構造物の床梁に衝撃等の振動を吸収する液封マウントを介して床パネルが載置固定される床構造が知られている。この場合、床梁の上面に固定された液封マウントの上に床パネルが載置固定されたり、床梁の側面部に取付けられたブラケットに液封マウントを介して床パネルの周端部が載置固定される。この床構造においては、床パネルに発生した振動が液封マウントにより吸収されるため、階下に伝搬される63Hz帯域(45〜90Hz)の衝撃音や振動を低減することができる。
【0004】
なお、ここで用いられる液封マウントは、一般に、ゴム弾性体の内部に、液体が封入され且つオリフィス通路により互いに連通する複数の液室が設けられている構造のものである。そして、この液封マウントに床パネル等からの衝撃が加わると、ゴム弾性体が上下に圧縮変形することによりその衝撃が緩和されるとともに、各液室の容積変化に伴ってオリフィス通路を流動する液体の液柱共振作用によりその振動が効果的に吸収されるようになっている。
【0005】
また、例えば特許文献3〜5に開示されているように、基部に固着されたばね部材と該ばね部材に弾性支持されたマス部材とからなるダイナミックダンパを床梁等に設置して、床に発生する振動や衝撃音を低減するようにした床構造が知られている。更に、例えば特許文献6及び7に開示されているように、ばね部材とマス部材とからなる複数個のダイナミックダンパを備え、各ダイナミックダンパの共振周波数が異なるようにチューニングされた制振装置も知られている。
【0006】
ところで、建築構造物の床の遮音性能は、JIS・A1418−2「建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法・第2部:標準重量衝撃源による方法」に基づいて一般に評価されている。この評価において、上記の液封マウントを採用した床構造の場合には、LH60〜LH65の遮音性能にすることができる。しかし、液封マウントのばね定数が低過ぎると、床を歩行する際の歩行感が損なわれるため、液封マウントのばね定数を低く下げるにも限界がある。また、ダイナミックダンパを設置した床構造の場合には、LH60程度の遮音性能にするのが限界である。
【0007】
一方、LH65〜LH70のレベルに遮音性能を向上させる方策として、床重量を重くする方法が有効であることから、高質量で高剛性の軽量気泡コンクリート(以下、「ALC」ともいう。)製の床パネルを採用することが知られている。しかし、この方法により、例えば遮音性能をLH60程度に2ランク向上させる(衝撃音を10dB低減させる)には、床面密度を65kg/m2 から350kg/m2 へ上げる必要がある。そのため、床重量がアップするのに伴い、躯体や基礎を大きくしたり頑強に補強する必要があり、建築構造物の基本構造の変更やコストアップを招くこととなる。そのため、床重量を重くする方法にも限界がある。
【特許文献1】特開平9−72035号公報
【特許文献2】特開2003−130611号公報
【特許文献3】特開2002−3280号公報
【特許文献4】特開2003−278409号公報
【特許文献5】特開2000−355994号公報
【特許文献6】特開平9−119477号公報
【特許文献7】特開平10−159894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、床重量を大幅にアップさせることなく、良好な歩行感と良好な遮音性能を両立させ得るようにした床構造を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の床構造は、建築構造物の床梁上に床材が配設されている床構造において、前記床梁と前記床材の間に設けられて該床材を支持する複数の弾性支持部材と、前記床材に設置されたばね部材とマス部材とからなるダイナミックダンパと、を備えていることを特徴としている。
【0010】
本発明の床構造では、床材に飛び跳ねや踏み台からの下降等による衝撃が加わって衝撃音が発生すると、床材によりその衝撃が緩和されるとともに、その床材の振動が床材を支持する弾性支持部材により吸収されることよって衝撃音が低減される。また、これと同時に、床材に設置されたダイナミックダンパにより床材の振動が効果的に吸収される。
【0011】
そのため、これら弾性支持部材とダイナミックダンパによる相乗作用によって、床材に発生した衝撃音が効率よく極めて良好に低減される。これにより、弾性支持部材のばね定数を十分に低く設定する必要がないため、良好な歩行感の確保が可能となる。また、本発明の床構造は、床材の質量や剛性を大幅にアップする必要がないため、建築構造物の基本構造の変更や大幅なコストアップを招く恐れはない。
よって、本発明の床構造によれば、床重量を大幅にアップさせることなく、良好な歩行感と良好な遮音性能を両立させることが可能となる。
【0012】
本発明において用いられる床材としては、プレキャストコンクリートや木質の板材等の床パネルが採用される。特に、高剛性で高質量のコンクリート製の床パネルは、重量床衝撃音対策に好適であり、中でも、軽量気泡コンクリート(以下、「ALC」ともいう。)製の床パネルが好ましい。なお、ALCとは、石灰質原料とケイ酸質材料を主原料とし、発泡剤を加えて発泡させるか、予め作った気泡を混入して多孔質化させた後、オートクレーブ養生して得られる軽量の気泡コンクリートのことである。
【0013】
本発明において用いられる弾性支持部材としては、ゴム弾性体を主体として構成される防振ゴムマウントが採用される。この防振ゴムマウントのうちで、ゴム弾性体の内部に液体が封入された液室を有する液封マウントを採用すれば、歩行振動の周波数域(10〜30Hz)において大きな減衰係数を有するため、良好な歩行感を得ることができる。
【0014】
さらに、液封マウントのうちでも、複数の液室を有し、その液室どうしを互いに連通するオリフィス通路を備えている液封マウントは、特に好適に採用することができる。この液封マウントは、飛び跳ねや踏み台からの下降によって発生する振動の周波数域(10〜100Hz)において低い動ばね定数を有するように容易にチューニングすることができるため、より良好な衝撃音低減効果を得ることができる。なお、この液封マウントに設けられるオリフィス通路の本数は、1本であっても2本以上であってもよい。
【0015】
この弾性支持部材は、縦梁と横梁により矩形に組まれた最小単位の梁伏に対して、コーナ部の4箇所と各横梁の中央部の1箇所づつに設置されるのが好ましい。このように弾性支持部材を設置すれば、床材に発生する衝撃音を効果的に低減させ得る。
【0016】
本発明において用いられるダイナミックダンパは、基部に固着されたばね部材と該ばね部材に弾性支持されたマス部材とからなるものである。このダイナミックダンパは、床材の裏面(下面)の複数箇所に略均等に分散した状態に設置されるのが好ましく、1箇所に1個以上のダイナミックダンパが設置される。1箇所に複数個のダイナミックダンパを設置する場合には、複数個のダイナミックダンパを有する1個の制振装置を1箇所に設置するようにしてもよい。このような制振装置を採用する場合には、複数個のダイナミックダンパにより複数種類の共振周波数を有するようにチューニングすることができる。
【0017】
ダイナミックダンパの共振周波数は、床固有値に合わせてチューニングされているのが好ましい。このようにすれば、ダイナミックダンパを効果的に機能させることができるので、弾性支持部材との相乗効果によって、より良好な衝撃音の低減が期待できる。なお、1箇所以上の設置個所で制振装置の共振周波数が異なるようにチューニングすることによって、床固有値の上下の範囲で複数種類の共振周波数を有するように設定することができる。このようにすれば、振動低減を目的とする周波数に幅をもたせることができるので、構造物件の違い等による床固有値のバラツキを吸収することが可能となり、ダイナミックダンパの振動低減機能をより確実に発揮させることができる。
【0018】
上記のように、弾性支持部材が、縦梁と横梁により矩形に組まれた最小単位の梁伏に対してコーナ部の4箇所と各横梁の中央部の1箇所づつに設置された場合に、ダイナミックダンパは、床材の縦梁側の辺を4等分して該辺の両端から略1/4となる位置に沿って二列に配置され、それぞれの列に重心が略沿うようにして4箇所以上に設置されているのが好ましい。このように弾性支持部材とダイナミックダンパを設置すれば、良好な歩行感と遮音性能の確保を極めて高いレベルで両立させることが可能となる。この場合、ダイナミックダンパは、床材として使用される床パネルの枚数に応じて設置箇所が決定され、各床パネルの幅方向(横梁が延びる方向)における中央部に設置するのが好ましく、1枚の床パネルに対して2箇所づつ設置されるのが好ましい。
【0019】
また、ダイナミックダンパは、床固有値の上下の範囲で複数種類の共振周波数を有するように設定されているのが好ましい。このようにすれば、振動低減を目的とする周波数に幅をもたせることができるので、構造物件の違い等による床固有値のバラツキを吸収することが可能となり、ダイナミックダンパの振動低減機能をより確実に発揮させることができる。
【0020】
ダイナミックダンパのマス部材の総合質量は、床材の総合質量の8〜25%とされているのが好ましい。マス部材の総合質量が床材の総合質量の8%未満であると、ダイナミックダンパによる十分なダンパ効果を期待できなくなる。逆に、マス部材の総合質量が床材の総合質量の25%を越えると、躯体や基礎を大きくしたり頑強に補強する必要があり、建築構造物の基本構造の変更やコストアップを招くこととなる。
【0021】
また、ダイナミックダンパの1個のマス部材の質量は、床材の総合質量の0.05〜1.0%とされているのが好ましい。1個のマス部材の質量が床材の総合質量の0.05%未満であると、ダイナミックダンパによる十分なダンパ効果を期待できなくなる。逆に、1個のマス部材の質量が床材の総合質量の1.0%を越えると、マス部材の揺れが少なくなり、ダイナミックダンパによるダンパ効果が期待できなくなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の床構造は、床梁と床材の間に設けられて床材を支持する複数の弾性支持部材と、床材に設置されたばね部材とマス部材とからなるダイナミックダンパと、を備えているため、床重量を大幅にアップさせることなく、良好な歩行感と遮音性能の確保を両立させることができる。なお、本発明者等が行った試験により、Δ10dB以上の衝撃音レベル低減を達成できることが確認されており、遮音性能を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態に係る床構造の底面図であって上階の床を裏面側から見上げた状態を示す図であり、図2は図1のII−II線に相当する部分の矢視断面図であり、図3は図1のIII −III 線に相当する部分の矢視断面図であり、図4は本実施形態において使用される弾性支持部材の断面図である。
【0024】
本実施形態の床構造は、縦梁1a、1bと横梁1c、1dにより矩形に組まれた最小単位として構成される一つの梁伏からなる床梁1と、連結部材20、20により一体的に連結された6枚のALC製の床パネル21〜26とパーティクルボード27からなり床梁1上に配設された床材2と、床梁1と連結部材20、20の間の6箇所に1個づつ設置された弾性支持部材3、…、3と、床材2の縦梁1a側の辺を4等分して該辺の両端から略1/4となる位置に沿って二列に配置され、それぞれの列に重心が略沿うようにして4箇所に設置された合計8個の制振装置41〜48と、から構成されている。
【0025】
床梁1は、H型鋼が採用されており、2本の縦梁1a、1bと、その縦梁1a、1bの両端どうしを結ぶ2本の横梁1c、1dとにより矩形に組まれている。この床梁1は、縦梁1a、1bの芯−芯間寸法が2750mmとされ、横梁1c、1dの芯−芯間寸法が1750mmとされている。各横梁1c、1dの長手方向両端部及び中央部の3箇所には、弾性支持部材4、…、4を設置するためのブラケット1e、…、1eが取付けられている。
【0026】
床パネル21〜26は、軽量気泡コンクリート(ALC)製の長い板状のものが採用されている。6枚の床パネル21〜26は、隣りどうしが接し合うようにして並列状に配置された状態で、2本の連結部材20、20によって一体的に連結されている。連結部材20、20は、C型チャネル鋼が採用されており、各床パネル21〜26の裏面の長手方向両端部に取付金具(図示せず)により取付けられている。この床パネル21〜26は、床梁1の各ブラケット1e、…、1e上に設置された弾性支持部材3、…、3と連結部材20、20が固定されることにより、弾性支持部材3、…、3に弾性支持された状態で、横梁1c、1dが延びる方向に並列に配置されている。
【0027】
両側の2枚の床パネル21、26は、長さが1750mm、幅が310mm、厚さが100mmのものである。中央部の4枚の床パネル22〜25は、長さが1750mm、幅が500mm、厚さが100mmのものである。床パネル21〜26上には、パーティクルボード27が配置されている。この床材2の総合質量は、約800kgである。
【0028】
弾性支持部材3、…、3は、床梁1の6箇所に設けられたブラケット1e、…、1e上にそれぞれ1個づつ設置されている。即ち、弾性支持部材3、…、3は、最小単位の梁伏に対して、コーナ部の4箇所と横梁1c、1dの中央部の1箇所づつ合計6箇所に設置されている。これにより、連結部材20、20により一体化された6枚の床パネル21〜26が、連結部材20、20を介して弾性支持部材3、…、3により弾性支持された状態で床梁1上に配設されている。
【0029】
なお、本実施形態では、弾性支持部材3、…、3として液封マウントが採用されている。この液封マウントは、図4に示すように、一方の取付相手部材に取付けられる第1取付部材31と、他方の取付相手部材に取付けられる有底円筒状の第2取付部材32と、第1取付部材31と第2取付部材32の間に介在して両部材を一体的に連結するゴム弾性体33と、第2取付部材32の内周に周縁部を保持されてゴム弾性体33との間に液体室を形成するダイヤフラム34と、第2取付部材32の内周に周縁部を保持されて前記液体室をオリフィス通路36により相互に連通する主液室37と副液室38とに仕切る仕切部材35とを備えている。この液封マウントの静的ばね定数は1000N/mmとされ、良好な歩行感を得るために好ましい範囲である900N/mm以上に設定されている。
【0030】
制振装置41〜48は、略コの字形状に形成された金属製の取付基部41a〜48aと、取付基部41a〜48aに固着された10個のばね部材としてのゴム弾性体41b〜48bと、各ゴム弾性体41b〜48bにそれぞれ弾性支持された10個の鉄系等の金属製のマス部材41c〜48cとからなる10個のダイナミックダンパを備えたものである。これら制振装置41〜48のそれぞれのダイナミックダンパの共振周波数は、床固有値に合わせて、全て53Hzにチューニングされている。ダイナミックダンパのマス部材41c〜48cの総合質量は、床材2の総合質量の11%とされており、8〜25%の好ましい範囲内である。また、ダイナミックダンパの各マス部材41c〜48cの1個の質量は、床材2の総合質量の0.075%とされており、0.05〜1.0%の好ましい範囲内である。
【0031】
これら8個の制振装置41〜48の重心は、床材2の縦梁1a、1b側の辺を4等分して該辺の両端から略1/4となる位置を通る直線L1、L2上に二列に配置され、それぞれの列の4箇所に設置されている。即ち、制振装置41〜44の重心は直線L1上に配置され、また、制振装置45〜48の重心は直線L2上に配置されている。8個の制振装置41〜48は、中央部の4枚の床パネル22〜25のに対して、床パネル22〜25の下面(裏面)の幅方向における中央部に、取付基部41a〜48aの両端部がそれぞれ直線L1、L2上に位置するようにして取付ボルト49a及びナット49bにより取付けられている。これにより、8個の制振装置41〜48は、各床パネル22〜25に対してそれぞれ2箇所に設置されている。但し、制振装置41〜48の取付配置の向きについては、図1に示されているように、取付基部41a〜48aの両端部がそれぞれの直線L1、L2上に位置するような横長配置に限られず、重心位置で90度回転させた状態の縦長配置
にしてもよい。
【0032】
また、本実施形態では、制振装置41〜48のそれぞれの重心位置は、それぞれ直線L1、L2上に有って各床パネル22〜25の幅方向(横梁が延びる方向)における中央部に有るが、各床パネル22〜25の幅方向において隣り合う床パネルどうしの境界線上付近にあるようにしてもよい。
【0033】
また、図1に示される8個の制振装置41〜48の内、制振装置41〜44は、直線L1に対して、例えば制振装置41、43の重心位置が若干上側にずれ、制振装置42、44の重心位置が若干下側にずれるように配置される、千鳥配置になっていてもよい。同様に、制振装置45〜48も、直線L2に対して、例えば制振装置45、47の重心位置が若干上側にずれ、制振装置46、48の重心位置が若干下側にずれるように配置される、千鳥配置になっていてもよい。
【0034】
以上のように構成された本実施形態の床構造では、床材2に飛び跳ねや踏み台からの下降等による衝撃が加わって衝撃音が発生すると、床材2によりその衝撃が緩和されるとともに、その床材2の振動が床材2を支持する弾性支持部材3、…、3により吸収されることよって衝撃音が低減される。また、これと同時に、床材2に設置されたそれぞれ10個のダイナミックダンパを有する制振装置41〜48により床材2の振動が効果的に吸収される。
【0035】
そのため、これら弾性支持部材3、…、3とダイナミックダンパによる相乗作用によって、床材2に発生した衝撃音が効率よく極めて良好に低減される。これにより、弾性支持部材3、…、3のばね定数を十分に低く設定する必要がないため、良好な歩行感の確保が可能となる。また、本実施形態の床構造は、床材2の質量や剛性を大幅にアップする必要がないため、建築構造物の基本構造の変更や大幅なコストアップを招く恐れはない。
【0036】
したがって、本実施形態の床構造によれば、床梁1と床材2の間に床材2を支持する複数の弾性支持部材3、…、3が設置され、且つゴム弾性体41b〜48bとマス部材41c〜48cとからなる10個のダイナミックダンパを有する8個の制振装置41〜48が床材2に設置されていることから、床重量を大幅にアップさせることなく、良好な歩行感と良好な遮音性能を両立させることができる。
【0037】
特に、本実施形態においては、弾性支持部材3、…、3として、静的ばね定数が1000N/mmに設定され、歩行振動の周波数域(10〜30Hz)において大きな減衰係数を有する液封マウントが採用されていることから、良好な歩行感を確保することができる。しかもこの液封マウントは、飛び跳ねや踏み台からの下降によって発生する振動の周波数域(10〜100Hz)において低い動ばね定数を有するように容易にチューニングすることができるため、より良好な衝撃音低減効果を得ることができる。
【0038】
また、本実施形態においては、各ダイナミックダンパの共振周波数が床固有値に合わせてチューニングされていることから、ダイナミックダンパを効果的に機能させることができるので、弾性支持部材3、…、3との相乗効果によって、より良好な衝撃音の低減が可能となる。さらに、これらのダイナミックダンパは、マス部材41c〜48cの総合質量や各マス部材41c〜48cの1個の質量が、床材2の総合質量に対する最適な割合に設定されていることによっても、ダイナミックダンパを効果的に機能させることができる。
【0039】
なお、本実施形態では、制振装置41〜48のそれぞれのダイナミックダンパの共振周波数は全て同じ53Hzにチューニングされているが、それぞれのダイナミックダンパの共振周波数を少し変えたり、或いは、1箇所以上の設置箇所で共振周波数が異なるようにして、床固有値の上下の範囲で複数種類の共振周波数を有するようにチューニングするようにすれば、更に低減周波数領域が広がるので、全体的に遮音性能を向上させることができる。
【0040】
また、本実施形態においては、弾性支持部材3、…、3が、縦梁1a、1bと横梁1c、1dにより矩形に組まれた最小単位の梁伏に対してコーナ部の4箇所と各横梁1c、1dの中央部の1箇所づつに設置され、制振装置41〜48が、床材2の縦梁1a、1b側の辺を4等分して該辺の両端から略1/4となる位置に沿って二列に配置され、それぞれの列に重心が略沿うようにして4箇所に設置されているため、良好な歩行感と良好な遮音性能を極めて高いレベルで両立させることができる。即ち、本発明者等が行った試験により、Δ10dB以上の衝撃音レベル低減を達成できることが確認されており、遮音性能を大幅に向上させることができる。
【0041】
また、本実施形態では、ALC製の床パネル21〜26が採用されていることから、高剛性と高質量が確保されるので、有利に良好な遮音性能を得ることができる。
【0042】
なお、上記実施形態では、弾性支持部材3、…、3として液封マウントが採用されているが、静的ばね定数が900N/mm以上を満足していれば、ゴムマウントでも良好な歩行感を得ることができるので、本実施形態のダイナミックダンパとの組合せにより、良好な歩行感と遮音性能との両立を図ることができる。
【0043】
また、上記実施形態のダイナミックダンパは、金属製のマス部材41c〜48cとゴム弾性体41b〜48bからなるばね部材とで構成されているが、ゴム弾性体41b〜48bの中に液体を封入した液封ダイナミックダンパを採用してもよい。
【0044】
〔試験〕
上記実施形態の床構造の遮音性能を調べるために、JIS・A1418−2「建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法・第2部:標準重量衝撃源による方法」に基づいて試験を行った。この試験では、実施例として、上記実施形態の最小単位の二つの梁伏を、横梁どうしが並列状に連結される状態に組み合わせた床構造を準備した。また、比較例として、実施例の床構造から弾性支持部材及び制振装置(ダイナミックダンパ)を排除した点でのみ異なる通常の床構造を準備した。そして、これら実施例及び比較例の床構造について、上記試験方法に基づいて衝撃音の測定を行ったところ、図5に示す結果が得られた。
【0045】
図5から明らかなように、比較例は、63Hz帯域の衝撃音レベルが88.0dBであり、LH65の遮音性能であった。これに対して、実施例は、63Hz帯域の衝撃音レベルが76.7dBであり、比較例に比べてΔ11.3dBの大幅な衝撃音低減効果があることが判った。また、実施例の遮音性能はLH53.7であり、比較例に比べて2ランク向上していることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態に係る床構造の底面図であって上階の床を裏面側から見上げた状態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る床構造の断面図であって図1のII−II線に相当する部分の矢視断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る床構造の断面図であって図1のIII −III 線に相当する部分の矢視断面図である。
【図4】本発明の実施形態において使用される弾性支持部材の断面図である。
【図5】試験における実施例と比較例の衝撃音等級を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
1…床梁 1a、1b…縦梁 1c、1d…横梁 1e…ブラケット
2…床材 20…連結部材 21〜26…床パネル
27…パーティクルボード 3…弾性支持部材 31…第1取付部材
32…第2取付部材 33…ゴム弾性体 34…ダイヤフラム
35…仕切部材 36…オリフィス通路 37…主液室 38…副液室
41〜48…制振装置 41a〜48a…取付基部
41b〜48b…ゴム弾性体 41c〜48c…マス部材 49a…取付ボルト 49b…ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物の床梁上に床材が配設されている床構造において、
前記床梁と前記床材の間に設けられて該床材を支持する複数の弾性支持部材と、前記床材に設置されたばね部材とマス部材とからなるダイナミックダンパと、を備えていることを特徴とする床構造。
【請求項2】
前記弾性支持部材は、その内部に液体が封入された液室を有する液封マウントである請求項1に記載の床構造。
【請求項3】
前記液封マウントは、複数の液室を有し、該液室どうしを互いに連通するオリフィス通路を備えている請求項2に記載の床構造。
【請求項4】
前記ダイナミックダンパは、共振周波数が床固有値に合わせてチューニングされている請求項1〜3に記載の床構造。
【請求項5】
前記ダイナミックダンパは、前記床材の複数箇所に設置され、1箇所には1個以上設置されている請求項1〜4に記載の床構造。
【請求項6】
前記弾性支持部材は、縦梁と横梁により矩形に組まれた最小単位の梁伏に対してコーナ部の4箇所と各前記横梁の中央部の1箇所づつに設置され、前記ダイナミックダンパは、前記床材の前記縦梁側の辺を4等分して該辺の両端から略1/4となる位置に沿って二列に配置され、それぞれの列に重心が略沿うようにして4箇所以上に設置されている請求項1〜5に記載の床構造。
【請求項7】
前記ダイナミックダンパの前記マス部材の総合質量は、床材の総合質量の8〜25%である請求項1〜6に記載の床構造。
【請求項8】
前記ダイナミックダンパの1個の前記マス部材の質量は、床材の総合質量の0.05〜1.0%である請求項1〜7に記載の床構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−37399(P2006−37399A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216002(P2004−216002)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】