説明

床構造

【課題】床躯体層と仕上げ層の熱伝導及び熱容量の関係を調整することで、床躯体層の熱容量を室温調整に有効活用する。
【解決手段】建物10の架構11に支持される床躯体層2と、該床躯体層2上に載置される仕上げ層3とを備え、建物10の外壁部13や屋根部12に設けられる開口14から入射する太陽光を受ける屋内空間又は空調設備を備えた屋内空間に設けられる床構造1であって、床躯体層2は蓄熱性を備える材料によって形成され、床躯体層2と仕上げ層3とが以下の式(1)及び式(2)を充足している。
R ≧ R' …(1)
C ≦ C' …(2)
ただし、R:床躯体層の熱抵抗
R':仕上げ層の熱抵抗
C:床躯体層の容積比熱
C':仕上げ層の容積比熱

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床構造に関する。さらに詳述すると、本発明は、住宅等の建物の居室や非居室の床部分を形成する床構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅等の建物においては、重量を支持し、且つ、建物躯体の構成要素となる床躯体層の上に床仕上げ材を載置することで居室等の床を形成することが行われている。
【0003】
ところで、近年、空調等の設備の利用をできるだけ抑制しつつ室内の温熱環境を向上させる技術開発や当該設備と自然環境を上手く組み合わせて室内の温熱環境を向上させる技術開発が進んできており、これらの技術開発の1つとして、床躯体層の蓄熱性に着目した開発がなされてきている。
【0004】
例えば特許文献1には、床躯体層を構成するALC(軽量気泡コンクリート)パネルを蓄熱材と看做し、該床躯体層上に不陸(ふろく)を調整する調整層を設け、当該不陸調整層上に床仕上げ材としての合板やカーペットを設ける構成が開示されている。また、特許文献2には、床躯体層としてのALCを蓄熱材として用い、当該ALCの表面にカーペットを敷装する構成が開示されている。また、特許文献3には、蓄熱材の室内側に木質系床材を設置し、これらを密着させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−4480号公報
【特許文献2】特開平5−322318号公報
【特許文献3】特開2004−76314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術には下記のような問題がある。すなわち、上記特許文献1の構成においては、ALCパネルを蓄熱材として利用できると記載されているが、該床パネルの室内側には単に合板やカーペット等の仕上げ材が設けられており、ALCパネルは、これら仕上げ材を介して伝達される熱を蓄熱するものとなっている。このため、仕上げ材を適切に選択しなければ、これら仕上げ材とALCパネルとの間での熱伝達を良好に行うことができず、ALCパネルの蓄熱性能を充分に活かすことができない。かかる点に付き、当該特許文献1には仕上げ材の性能や仕上げ材とALCパネルとの関係についての開示がなく、仕上げ材の種類によっては蓄熱材としての性能を著しく損なってしまうという問題点がある。
【0007】
また、特許文献2や特許文献3に開示の先行技術も上記特許文献1の構成と同様、蓄熱材の表面を仕上げ材によって覆うものであって、当該蓄熱材と仕上げ材との関係についての開示がなく、当該仕上げ材の性能によっては、却って蓄熱材の蓄熱性を阻害してしまうことが考えられる。この様に、これまで構造材の上部に仕上げ材を設置する場合、たとえ構造材に熱容量があったとしても、仕上げ材は構造材の不陸調整や施工合理化といった主に構造性や施工性の観点のみから材料が選定されており、当該構造材の熱容量を室内の温熱環境の調整に充分に活かすことができない虞があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、床躯体層と仕上げ層の熱伝導及び熱容量の関係を調整することで、床躯体層の熱容量を室温調整に有効活用することができる床構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決すべく、本発明の具体的構成は、建物の架構に支持される床躯体層と、該床躯体層上に載置される仕上げ層とを備え、前記建物の外壁部や屋根部に設けられる開口から入射する太陽光を受ける屋内空間又は空調設備を備えた屋内空間に設けられる床構造であって、
前記床躯体層は蓄熱性を備える材料によって形成され、
前記床躯体層と仕上げ層とが以下の式(1)及び式(2)を充足している
ことを特徴としている。
R ≧ R' …(1)
C ≦ C' …(2)
ただし、R:床躯体層の熱抵抗
R':仕上げ層の熱抵抗
C:床躯体層の容積比熱
C':仕上げ層の容積比熱
【0010】
本発明によれば、床躯体層と仕上げ層とが上述の如き関係を有するので、蓄熱材となる床躯体層への伝熱が仕上げ層によって妨げられにくく、その結果として、直達日射によって床表面温度を上昇させた熱が仕上げ層下面まで到達しやすくなり、躯体層への蓄熱が可能になる。また、本発明においては、仕上げ層の容積比熱が躯体層の容積比熱に比べて大きい若しくは同様であり、単純に仕上げ層の熱容量を躯体層の熱容量に加えたと同様の蓄熱効果を得ることが出来ることから、床躯体層と仕上げ層が一体の蓄熱材として直達日射による熱(本明細書では直達日射熱ともいう)を蓄熱・放熱することができ、室温変動を小さくすることができる。
【0011】
(2)また、本発明に係る床構造においては、前記床躯体層の裏面に断熱層が設けられていることが好ましい。
【0012】
このように、蓄熱性を備える床躯体層の裏面に断熱層が設けられていると、蓄熱層に蓄えられた熱が床躯体層の裏面から逃げていくことを抑制し、これによって、床躯体層に蓄えられた熱が室内に放出されることとなり、その結果、室温変動を少なくすることができる。
【0013】
(3)また、本発明に係る床構造においては、前記床躯体層がALC(軽量気泡コンクリート)により形成されていることが好ましい。
【0014】
床躯体層として用いられるALCはRC(コンクリート)ほどの大きな熱容量を持たず、且つ適度な断熱性能を有するため、仕上げ層として一般的に使用される材料(寄木合板やタイルなど)を使用した場合でも上記式(1)及び式(2)の関係を導きやすい。このため、床躯体層としてALCを採用すると、蓄熱材として機能する当該床躯体層の熱容量を有効活用できる。
【0015】
(4)また、前記仕上げ層は、木材により形成されていることが好ましい。
【0016】
このように床躯体層としてALCを採用し、仕上げ層として木材を採用することで上記式(1)及び式(2)の関係を満たす床構造を構成し、床躯体層の熱容量を有効活用することができる。また、床の仕上げとして木材を選択することで、居室の床として汎用的に利用することができる。
【0017】
この床構造によれば、床躯体層の熱容量を室温調整にさらに有効的に活用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の床構造によれば、床躯体層と仕上げ層の熱伝導及び熱容量の関係を調整することで、床躯体層の熱容量を室温調整に有効活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る床構造を含む建物の一例を示す断面図である。
【図2】計算モデルとして用いた建物の概略を示す斜視図である。
【図3】計算モデルとして用いた建物の室内を示す上部からみた断面図である。
【図4】計算モデルとして用いた建物の室内を示す側部からみた断面図である。
【図5】冬季室温変動のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【図6】冬季床表面温度変動のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【図7】追加実験時に温度変動の実測を行った建物(試験棟)の概要を示す平面図である。
【図8】追加実験用のシミュレーションモデルの平面図である。
【図9】追加実験用のシミュレーションモデルの側面図である。
【図10】追加実験におけるシミュレーションによる計算結果と実測結果とを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る床構造の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
(全体構成)
本発明に係る床構造を備える建物10は例えば2階建ての住宅建物であって、梁と柱からなる構造躯体(架構)11と、これら梁や柱に支持されて建物10の屋根を形成する屋根部12と、同じく梁や柱に支持されて建物10の外皮を形成する外壁部13と、各階の床を形成する床部(床構造)1とを備えている(図1参照)。外壁部13の所定の位置には窓(開口)14が設けられている。また、特に図示してはいないが、各階の縦動線を形成する階段部が適宜設けられると共に、1階や2階の所定位置には、掃き出し窓を介して行き来可能なバルコニーやベランダが適宜設けられる。なお、外壁部13に設けられた窓14の他、屋根部12に設けられた屋根窓(ドーマーウィンドウ)や天窓なども室内へ日射を直達させる開口となりうる。
【0022】
構造躯体11は、基礎から立ち上がる複数本(一例として、8本)の柱と、隣り合う柱間に架設される複数本の梁とを備えて形成される構造(例えばラーメン構造)を構成している。
【0023】
外壁部13は、特に詳しい図示はしていないが、例えば所定寸法に形成されるALC(軽量気泡コンクリート)製の複数枚の外壁パネルと、該外壁パネルの内側に沿設される断熱材と、該断熱材の内側に設けられる内装下地材と、該内装下地材に支持される内装材とを備えて形成される。各外壁パネルは、いわゆるロッキング工法により上下両端部が梁に又は梁と基礎に保持されている。断熱材は、プラスチック系断熱材により平板状に形成されており、複数のブロックに分割した状態で外壁パネルの内側に敷設され、継ぎ目が気密テープにより覆われるものとなっている。
【0024】
また、特に図示していないが、建物10の内部において、内装下地材は、一対の縦桟の間に複数の横桟を組みつけて形成される木製のフレーム状に形成されており、支持部材を介して床部1や外壁部13に固定されるものとなっている。内装材は、例えば平板状の石膏ボードにより形成されており、当該石膏ボードを内装下地材に留め付けられている。
【0025】
(床部1の構成)
1階の床部1は、基礎に支持される床躯体層2と、床躯体層2よりも室内側に設けられて当該床躯体層の上面を覆う仕上げ層3と、床躯体層2よりも室外側に設けられる断熱材4とを備えている(図1参照)。
【0026】
床躯体層2は、所定寸法に形成される複数枚の床パネルを敷設することによって形成されている。一例として、本実施形態では床パネルとして幅約600mm,長さ約1800mmのALC(軽量気泡コンクリート)製の床パネルを採用しており、この床パネルの幅手方向の両端を夫々40mmずつ基礎の上部に配置して支持している。床パネルの基礎に対する固定方法は、該床パネルを用いたときに通常採用される固定方法を利用している。
【0027】
仕上げ層3は、板材等が床躯体層2の上に載置されることによって形成されている。一例として、本実施形態の仕上げ層3は木質の板材により形成されており、ALC製の床パネルの上に直接ビス固定されるか、もしくは合板(一例として厚さ12mm)を捨て貼りしてからその上にビス固定される。合板が捨て貼りされる際、採用する仕上げ層3は裏あて材の無いものが望ましい。裏あて材として一般に使用される材料は発泡プラスチック系材料であり、この材料は合板に比べて断熱性能が高いため躯体層への蓄熱を妨げてしまうが、このように裏あて材の無いものを採用すれば躯体層への蓄熱を妨げない。
【0028】
また、本実施形態の床部1において、床躯体層2を(形成する床パネル)と仕上げ層3(を形成する木材)とは以下の関係を充足する部材の組み合わせとなっている。
R ≧ R' …(1)
C ≦ C' …(2)
ただし、R:床躯体層2の熱抵抗
R':仕上げ層3の熱抵抗
C:床躯体層2の容積比熱
C':仕上げ層3の容積比熱
【0029】
熱抵抗(単位は[m2K/W])は、熱の伝わりにくさを表す比例定数であり、材料の厚みによって変わる。また、容積比熱(単位は[kJ/m3K])は、体積一定の条件で単位質量の物質の温度を単位温度(1K(1℃))上げるのに必要な熱量を表す物性値である。容積比熱が大きいほど熱しにくく冷めにくい物質ということであり、逆に容積比熱が小さいほど熱しやすく冷めやすい物質ということになる。
【0030】
本実施形態においては、上記式(1)及び式(2)を同時に充足する具体的組み合わせとして、床躯体層2としてALCから形成される例えば厚さ100mmの床パネルを採用すると共に、仕上げ層3として木質材料から形成される厚さ12mmの仕上げ材を採用している。なお、上記式(1)及び式(2)を同時に充足する上記以外の組み合わせとしては、例えば床躯体層2としてALCから形成される床パネル(一例として厚さ100mm)を採用すると共に、仕上げ層3としてモルタルおよびタイルから形成される仕上げ材(一例として厚さ15mm)を採用するという組み合わせも可能である。また、他の構成であっても上記式(1)及び(2)を充足する組み合わせであれば採用することが可能である。
【0031】
また、上記の床躯体層2の裏面には断熱層4が設けられていることが好ましい(図1参照)。蓄熱性を備える床躯体層2の裏面に断熱層が設けられていれば、熱が床躯体層2の裏面から逃げていくことが抑制される。これによれば、床躯体層2に蓄えられた熱のより多くが室内側に放出されるようになる結果、室温変動を少なくすることが可能となる。
【0032】
一例として、本実施形態の断熱層4は、板状に形成されたフェノール樹脂の発泡体からなり、高い断熱性を有し、且つ断熱性や寸法を長期間維持し得る性質を有している。フェノール樹脂発泡体に於ける断熱性は、気泡径が5μm〜200μmの範囲、好ましくは10μm〜150μmと小さく、且つ独立気泡率を80%以上と高く保持することによって確保することが可能である。例えば、フェノール樹脂発泡体の密度を27kg/m3に設定した場合、20℃に於ける熱伝導率は0.020W/m・Kであり、圧縮強さは15N/cm2、熱変形温度は200℃である。前記フェノール樹脂発泡体の性能は、押出発泡ポリスチレン3種が熱伝導率;0.028W/m・K、圧縮強さ;20N/cm2、熱変形温度;80℃であることや、硬質ウレタンフォーム2種が熱伝導率;0.024W/m・K、圧縮強さ;8N/cm2、熱変形温度;100℃であることと比較して充分に高い性能を有する。
【0033】
本実施形態に係る床部(床構造)1においては、蓄熱性を備える床躯体層2と該床躯体層2に載置される仕上げ層3とが上述の式(1)及び式(2)を充足していることから、床仕上げ材を設置した状態でも床躯体層2を形成する床パネルの蓄熱性を充分に発揮させることができ、窓14から入射した太陽光の熱(直達日射熱)を従前の床構造よりも多く蓄熱し、且つ、放熱することができる。このように、これら構造材の熱容量を室内環境調整のためにさらに活かすことを可能にした床部1によれば、単に床躯体層2の上部に床仕上げ層3を設置した状態であっても室内温度の変動が小さい快適な住空間を有する建物10を提供することが可能となる。また、このように少ない層構成で室内の温熱環境を向上させることができるため、床の重量を削減することができ、躯体全体として軽量な建物を構成することが可能となっている。
【0034】
また、本実施形態の床部1を構成する床パネルは、断熱層4よりも室内側に配置されているため、冷暖房機器によって室内を冷暖房する際の熱を蓄熱あるいは放熱する蓄熱材としても機能しうる。したがって、このような床部1に、冷暖房時に発生する急激な温度変動に対する緩衝材としての機能を期待することもできる。
【実施例1】
【0035】
本発明の効果を確認すべく本発明者は実験(シミュレーション)を実施した。以下、実験の内容を実施例として説明する。
【0036】
<計算モデル>
計算モデルとして用いた建物10は1室(縦3660mm×横3660mm×高さ2400mm)+床下のみの単室モデルで、南面に掃き出し窓14、北面に腰高窓14’、南掃き出し窓14上にオーバーハング日よけ15を設置した(図2〜図4参照)。また、天井は、外気側から高性能フェノールフォーム69mm+ALC100mm+空気層+石膏ボード9mmのALC造の一般的な構成とし、壁は熱容量の影響を排除するために高性能フェノールフォーム35mmのみの構成とした。南面掃き出し窓14は南壁中央にW2258mm×H1975mm、北面腰高窓14’は北壁中央で床(床構造1)からの高さ850mmに部分にW1648mm×H1405mmで設定した。南掃き出し窓14上のオーバーハング日よけ15は、南面壁と同じ巾で、掃き出し窓14の上部直上に設置し、出寸法は600mmとした。
【0037】
<計算対象>
床躯体層2を構成するALCを蓄熱材とみなし、仕上げ層3が無い場合と異なる仕上げ層3を設置した各モデルについて室温変動シミュレーションを実施した(表1に示す各モデルの熱抵抗R(R')と容積比熱C(C')を参照)。なお、表1中において、式(1)及び式(2)を充足するモデル(組み合わせ)を「OK」を付して示している。
モデル(1)(比較例1):ALC(床躯体層2)のみ(基本)
モデル(2)(実施例1):ALC(床躯体層2)+合板(仕上げ層3)(R>R’、C<C’)
モデル(3)(比較例2):ALC(床躯体層2)+カーペット(仕上げ層3)(R>R’、C>C’)
モデル(4)(実施例2):ALC(床躯体層2)+モルタル+タイル(仕上げ層3)(R>R’、C<C’)
モデル(5)(比較例3):ALC(床躯体層2)+押出し法ポリスチレンフォーム(XPS)(断熱層)+合板(仕上げ層3)(R<R’、C>C’)
【表1】

【0038】
また、モデル(1)〜(5)における各部材の厚み、熱伝導率λ、熱抵抗R、さらに熱貫流率(材料の厚さも加味して熱の伝えやすさを表した値)Uは表2〜表6に示すとおりである。
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【0039】
<計算方法>
シミュレーションには、動的熱計算プログラムTRNSYSと換気計算プログラムCOMISを連成させたものを使用した。連成とは、いわば熱計算と換気計算の結果を相互に連携させて繰り返し計算を行うことである。ちなみに、別々の支配方程式で表される物理現象が互いに関係をもつような複雑な現象を、それぞれの方程式を関連付けて解く事によって求める事を連成解析という。
【0040】
TRNSYSは非定常なエネルギーシミュレーションを行うプログラムで、Wisconsin大学のSEL(Solar Energy Laboratory)で基本部分の開発やメンテナンスが行われている。実際に実験を行い、その結果との整合性を確かめ修正が加えられ発展してきた背景から、計算結果への信頼性が高いものである。
【0041】
COMISは、換気量とそれに伴う空気質の変化を予測するためのツールで、1990-1996年におけるIEA(国際エネルギー機関)のANNEX23(Multizone Air Flow Modeling)において、開発が進められた。TRNSYSと連成することで、温度変動結果を換気計算に反映し、さらにその換気計算結果を温熱計算に反映させるという繰り返し計算を行い、より精度の高いシミュレーションを行うことができる。EMPA(スイス)において基本部分の開発やメンテナンスが行われている。
【0042】
外気データには、拡張アメダス(AMeDAS, Automated Meteorological Data Acquisition System)標準年の府中(観測所番号44116)を使用した。府中は省エネルギー基準による地域区分において、IV地域の平均的なデグリーデーとなる地域として採用した。計算期間は1年間(助走期間1ヶ月)、計算間隔は30分とし、冬期日射取得があり室温が低い状況が続いていた典型的な冬日である2月1日−2月3日を代表日として選択した。
【0043】
<計算結果>
計算結果から、モデル(1)とモデル(2)は室温変動にほとんど差が無いこと、モデル(4)はモデル(1)より温度変動が小さくなること、モデル(3)、モデル(5)はモデル(1)より温度変動が大きくなることを確認した(冬季室温変動のシミュレーションの結果、冬季床表面温度変動のシミュレーションの結果をそれぞれ示す図5、図6参照)。
【0044】
<追加実験>
上記計算結果がシミュレーションによる結果であることに鑑み、本発明者は、実測結果と計算結果との比較を行い、上記シミュレーションが実測に合致することを追加実験により確認した。実測を行った建物(試験棟)の概要は図7に示すとおりであり、シミュレーションに用いた建物10のモデルは図8、図9に示すとおりである。今回の実験では、図中にて「ALC室」と示されている部屋を用いた。このALC室の天井、壁、窓の構成は、上述の計算モデルで用いた建物10における構成と同様である。このALC室における層構成は以下のとおりとした。すなわち、天井はケイ酸カルシウム板(厚さ6mm)+フェノールフォーム(厚さ70mm)+ALC(厚さ100mm)の構成、間仕切り壁(廊下及び緩衝空間との間の壁)は石膏ボード(厚さ125mm)+空気層+ロックウール(厚さ55mm)+空気層+石膏ボード(厚さ125mm)の構成、外壁(南面の壁)はALC(厚さ75mm)+空気層+フェノールフォーム(厚さ25mm)+空気層+石膏ボード(厚さ125mm)の構成である。
【0045】
実測した外気温度と日射量測定データ(ただし実測期間は2008年12月〜2009年の3月まで)を用いて上述した計算モデルと同様のシミュレーションを行い、計算により求められた日射量(「日射_計算」)、ALC室内温度の実測値(「実測ALC」)、ALC室内温度の計算値(「計算ALC」)、外気温の実測値(「外気_実測」)の各データを得た(図10参照)。このデータを検討したところ、シミュレーション結果の方が実測結果よりもピークがやや遅れる(後ろにずれる)ものの、温度変動の傾向は同様であった。この結果から、実測結果とシミュレーション結果との整合性が高いことが確認された。
【0046】
また、ここまでの実験結果から、本発明者は以下の事項についても確認するに至った。すなわち、蓄熱材として機能しうる床躯体層2及び仕上げ層3による室温調整効果によれば、直達日射のみで冬期日中の最高室温を20℃程度以上とすることが可能である。
【0047】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態では式(1)及び式(2)を充足する床躯体層2の一例としてALC床パネルが用いられたものを説明したがこれは好適例にすぎず、この他、コンクリート系の床パネルや木質系の床パネルが用いられたものを採用することもできる。要は、式(1)及び式(2)を充足する床躯体層2と仕上げ層3の組み合わせであれば、床躯体層2の熱容量を室温調整に有効的に活用することが可能である。この観点からすれば、潜熱蓄熱材を用いた床躯体層2あるいは仕上げ層3に採用することも可能である。また、式(1)及び式(2)を充足するのであれば、補強鉄筋を含む床躯体層2を採用することも可能である。
【0048】
また、上述した実施形態・実施例では、直達日射による熱(直達日射熱)を蓄熱・放熱する場合を主に説明したが、本発明によれば床躯体層2の熱容量を室温調整に有効的に活用できることからすれば、直達日射の他、拡散日射や対流、放射、伝熱による熱を蓄熱し又は放熱すること(蓄熱・放熱の対象に含めること)も当然に可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、住宅等の建物の居室や非居室の床部分を形成する床構造に適用して好適である。
【符号の説明】
【0050】
1…床部(床構造)、2…床躯体層、3…仕上げ層、4…断熱層、10…建物、11…構造躯体(架構)、12…屋根部、13…外壁部、14…窓(開口)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の架構に支持される床躯体層と、該床躯体層上に載置される仕上げ層とを備え、前記建物の外壁部や屋根部に設けられる開口から入射する太陽光を受ける屋内空間又は空調設備を備えた屋内空間に設けられる床構造であって、
前記床躯体層は蓄熱性を備える材料によって形成され、
前記床躯体層と仕上げ層とが以下の式(1)及び式(2)を充足している
ことを特徴とする床構造。
R ≧ R' …(1)
C ≦ C' …(2)
ただし、R:床躯体層の熱抵抗
R':仕上げ層の熱抵抗
C:床躯体層の容積比熱
C':仕上げ層の容積比熱
【請求項2】
前記床躯体層の裏面に断熱層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の床構造。
【請求項3】
前記床躯体層がALC(軽量気泡コンクリート)により形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の床構造。
【請求項4】
前記仕上げ層は、木材により形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の床構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−180677(P2012−180677A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43973(P2011−43973)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】