説明

床用化粧材

【課題】燃焼時の有害物質発生の問題がなく、剥離やそりの問題がなく、層間接着性に優れ、隠蔽性があり、表面の耐摩耗性が十分であり、かつ生産性に優れた床用化粧材を提供する。
【解決手段】アイオノマー樹脂からなるバッカー層4と非塩化ビニル系樹脂からなる基材1と絵柄模様層2とからなる化粧シート基材の上に、アイオノマー樹脂層3とエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂層3とが、アイオノマー樹脂層3とエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂層3と層厚の比率が1:1以上1:2未満となる範囲で共押し出しにより設けられてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は住宅や店舗、オフィスビル等の内装用の床タイルなどに用いられる床用化粧材に関するものであり、特には塩化ビニルを使用せず、反り、剥離などの問題の無い床用化粧材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅や店舗、オフィスビル等の内装用の床用化粧材としては、柔軟で加工し易く、しかも安価なポリ塩化ビニル樹脂製の化粧シートが多用されていた。しかし、ポリ塩化ビニル樹脂は、燃焼時に塩化水素やダイオキシン等の毒性物質を発生する場合があり、火災時の問題や、使用後の焼却処分による環境汚染問題等が指摘され、内装材としての使用が問題視されるようになった。
【0003】
係る点を解決するために、ポリ塩化ビニル樹脂製の化粧シートに代わる非ハロゲン系の化粧シートとして、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂を主体とする下層とアイオノマー樹脂からなる上層との間に絵柄模様層を含んだアイオノマー樹脂からなる中間樹脂層を積層してなるアイオノマー樹脂系の化粧シートが提案され、既に実用化が始まっている。
【0004】
しかし、前記アイオノマー樹脂系の化粧シートは、ポリ塩化ビニル樹脂製の化粧シートと比較しても、柔軟性に優れ、施工がしやすい利点はあるが、その反面、樹脂の熱伸縮性が大きいために、施工環境によっては、熱伸縮による目隙きや反りのトラブルが発生する場合があり、問題となった。
【0005】
そこで本発明者らは、前記絵柄模様層を挟むアイオノマー樹脂層の間には絵柄模様層より下側にポリエステル系樹脂からなる中間樹脂層を設けることで、これら反りの防止を図った。しかしながら、この中間樹脂層に熱伸縮性を抑える為にさらに無機充填剤を添加して2軸延伸すると、延伸の為樹脂層中の無機充填剤の周辺でわずかに空隙が発生し、樹脂層全体がもろいものとなってしまう。これにより化粧シートの剥離試験などではこの中間樹脂層から剥離してしまうという問題点があった。
【0006】
さらに、アイオノマー樹脂からなら上層は耐摩耗性が十分ではなく、これを改善するために各種樹脂や添加剤を添加することが検討されているが、そうすると製膜安定性がなくなり、容易な製造が困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−223823号公報
【特許文献2】特開2008−307872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、すなわちその課題とするところは、燃焼時の有害物質発生の問題がなく、剥離やそりの問題がなく、層間接着性に優れ、隠蔽性があり、表面の耐摩耗性が十分であり、かつ生産性に優れた床用化粧材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこの課題を解決したものであり、すなわちその請求項1記載の発明は、アイオノマー樹脂からなるバッカー層と非塩化ビニル系樹脂からなる基材と絵柄模様層とからなる化粧シート基材の上に、アイオノマー樹脂層とエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂層とが、アイオノマー樹脂層とエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂層と層厚の比率が1:1以上1:2未満となる範囲で共押し出しにより設けられてなることを特徴とする床用化粧材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は化粧シート基材の上に設ける上層を、アイオノマー樹脂層とエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂層の共押し出しとし、さらにアイオノマー樹脂層とエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂層と層厚の比率が1:1以上1:2未満となる範囲とすることで、表面の耐摩耗性が十分であり、かつ生産性の優れた床用化粧材とすることを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明における床用化粧材の一実施例の断面の構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を図面に基づき詳細に説明する。図1に本発明の床用化粧材の一実施例の断面の構造を示す。裏面にアイオノマー樹脂からなるバッカー層4が設けられ、非塩化ビニル系樹脂からなる基材1の表面に印刷などにより絵柄模様層2が設けられた化粧シート基材の上に、アイオノマー樹脂層とエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂層の共押し出しにより上層3が設けられてなる。
【0013】
本発明におけるバッカー層4としては、アイオノマー樹脂からなるものが用いられる。バッカー層4の厚みは特に限定されず任意であるが、化粧材全体の厚み等を考慮すると、通常2〜5mm程度の厚さが適当である。
【0014】
アイオノマー樹脂とは、一般に有機及び無機の成分が共有結合とイオン結合によって結合されている樹脂であり、本発明に特に好ましく使用されるアイオノマー樹脂としては、共重合体の分子間を金属イオンで架橋した樹脂が挙げられる。この場合の共重合体としてはアクリレート系共重合体、例えばエチレン−メタクリル酸共重合体などが挙げられる。金属イオンとしては、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛等のイオンが挙げられる。
【0015】
アイオノマー樹脂を得るには、例えば、カルボキシル基を側鎖に有する単量体(例えばアクリル酸)を共重合させたエチレン系のポリマーに、ナトリウム、カリウム、マグネシウム又は亜鉛等の金属の水酸化物、アルコキシド又は低級脂肪酸塩等を適当量添加して酸基を中和する方法が挙げられる。これにより、分子鎖に沿って分布するカルボキシル陰イオンが分子鎖間に存在する金属陽イオンと静電的に結合して一種の架橋を形成し、共重合体の分子間を金属イオンで完全に又は部分的に架橋した構造のアイオノマー樹脂が得られる。
【0016】
本発明に好ましく使用されるアイオノマー樹脂は、上述の共重合体樹脂であるため、その共重合組成によってシートの硬さが任意に選択でき、また金属イオンによる架橋結合は加熱により結合力が弱められ、冷却すると結合力が回復するという、ポリ塩化ビニル樹脂と非常に良く似た性質を有している。従って、前記アイオノマー樹脂を使用した本発明の床用化粧材は、例えば熱ラミネーション及びエンボス加工により製造されていた従来の塩化ビニル製の化粧シートの製造設備を使用して、従来通りの工程で製造可能であるという利点がある。
【0017】
前記アイオノマー樹脂には、必要に応じて例えば紫外線吸収剤や光安定剤、熱安定剤等の適宜の添加剤を添加した可能である。アイオノマー樹脂層の成型方法としては、押出し法、カレンダー法又はインフレーション法等の適宜の方法で、フィルム状乃至シート状に成形される。
【0018】
本発明における非塩化ビニル系樹脂からなる基材1に用いる非塩化ビニル系樹脂としては、アクリル樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体、熱可塑性ポリエステル樹脂、又はポリオレフィン樹脂を使用するのが好ましく、不透明の熱可塑性着色樹脂として、ポリオレフィン系樹脂を使用するのが好ましい。すなわち、これらの樹脂は塩素を含んでいないため、廃棄時に燃焼しても塩化水素ガスを発生することがない。基材1の厚みとしては50〜100μmが好適である。
【0019】
基材1には、熱伸縮性を低減するために無機充填剤が適宜含有される。無機充填剤としては、例えばシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、カオリン、タルク等をそれぞれ単独で、若しくは複数種を混合して使用することができるが、熱伸縮性の低減効果の面からは、タルクを主成分として使用することが最も望ましい。無機充填剤の含有量は、一般的には、樹脂成分100重量部当たり少なくとも20重量部以上が必要であり、50〜500重量部程度の範囲で適宜設計することが望ましい。
【0020】
基材1には、所望の色調に着色するために、無機顔料又は有機顔料等の着色剤を添加しても良い。その他、必要に応じて、例えば紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、内部離型剤、帯電防止剤、抗菌剤等の各種の添加剤を適宜添加しても良い。
【0021】
本発明における絵柄模様層2は、印刷等による所望の絵柄の意匠を付与するために設けられるものである。絵柄模様層2のなす絵柄の種類は特に限定されず、例えば木目柄、石目柄、布目柄、砂目柄、抽象柄、幾何学図形、文字又は記号、或いはそれらの組み合わせ等、所望により任意である。
【0022】
絵柄模様層2に使用する印刷インキの種類は特に限定されず、従来より係る化粧シートに使用されている任意の印刷インキを使用することができる。具体的には、例えばブチラール系、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系、アルキド系、ポリアミド系等のバインダー樹脂に、有機又は無機の染料又は顔料や、必要に応じて体質顔料、充填剤、粘着付与剤、分散剤、消泡剤、安定剤その他の添加剤を適宜添加し、適当な希釈溶剤で所望の粘度に調整してなる、従来公知の任意の印刷インキが使用可能である。
【0023】
本発明におけるアイオノマー樹脂層とエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂層の共押し出しによる上層3としては、アイオノマー樹脂層とエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂層と層厚の比率が1:1以上1:2未満となる範囲のものを用いる。前記アイオノマー樹脂層に用いるアイオノマー樹脂としては前記バッカー層に用いるアイオノマー樹脂と同様のものが使用可能であり、前記エチレン−メタクリル酸共重合体樹脂は共重合組成によりシートの硬さが任意に変えられる利点があるので、本発明の化粧材に使用するのに適当である。また、必要に応じて適当な添加剤を含有させることは任意である。上層3の総層厚としては200〜500μmが好適である。上層3のうちアイオノマー樹脂層の割合が1:1より多いと耐摩擦性が十分でなく、1:2より少ないと製膜性が悪くなる。
【0024】
以下、本発明の床用化粧材の製造方法について説明する。従来のポリ塩化ビニル樹脂製の化粧シートの場合と同様に、任意の方法によって製造することができる。まず、基材1の表面側にグラビア印刷等により絵柄模様層2を設ける。
【0025】
基材1の裏面側にバッカー層4を貼り合せる方法としては、その層間(図示しない)にポリエステル系又はポリウレタン系等のドライラミネート用接着剤を介したドライラミネート法や、エチレン−酢酸ビニル共重合体系、アクリル系、ポリエステル系、変性ポリオレフィン系又はポリアミド系等の感熱接着剤を介した熱ラミネート法などが挙げられる。熱ラミネート法で積層する場合は、一般に、枚葉による多段プレス方式か、又は熱ロールを使用した連続熱ラミネート方式が採用され、本発明ではいずれの方式も適用可能であるが、連続熱ラミネート方式の方が生産性に優れ好適である。
【0026】
そして、絵柄模様層2の上側に、アイオノマー樹脂層とエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂層とからなる上層3を、押し出すと同時に積層する押出ラミネート法を用いて貼り合せることにより本発明の床用化粧材を得る。
【0027】
このようにして得た床用化粧材の上層3の表面には、意匠性の向上又は滑り止め等の目的で、エンボスを施して凹部を形成してもよい。エンボスを施す方法としては、凹凸面を有するエンボス版又はエンボスロールを使用して加熱しつつ加圧する、従来公知のエンボス方法を用いることができる。なお、エンボスは上述の熱ラミネートとは別工程で行うこともできるが、熱ラミネーションと同時に行うと、製造工程が短縮でき、熱エネルギーの無駄も低減できて、生産性が向上し製造原価が低減できるので有利である。
【0028】
本発明の床用化粧材は上述の様に、熱ラミネート法により容易に製造することが出来るが、その製造設備としては、例えば熱ラミネート及びエンボス加工により製造される従来のポリ塩化ビニル樹脂製の化粧シートの製造設備等をそのまま適用することも可能であり、製造工程にも大きな変更はないから、新規設備投資の必要もなく容易且つ安価に製造可能である。
【実施例1】
【0029】
基材1として厚さ70μmのランダムポリプロピレン樹脂クリアフィルム(リケンテクノス(株)製)を用い、この表面に絵柄模様層2として木目柄模様を設けた。そして、上層3として、アイオノマー樹脂層(三井デュポンポリケミカル社製「ハイミラン」)とエチレン―メタクリル酸共重合樹脂(三井デュポンケミカル社製「ニュクレル」)の共押し出しにし、比率を1:1の割合とし総厚み380μmとして、ドライラミネーション法により前記絵柄模様層2を設けた面と貼り合せた。また、同時に、バッカー層4として前記アイオノマー樹脂からなる厚さ3mmのバッカーシートを重ね合わせ、ラミネート温度120℃の条件で連続ラミネーション方式により積層して貼り合わせると同時に、出来た積層体の上層3側の表面に、エンボスロールをラミネート温度と同じ120℃で加圧してエンボスを施し、凹凸模様を付与することにより、本発明の床用化粧材を作製した。
【0030】
<比較例1>
上層3をアイオノマー樹脂単層380μmとした以外は実施例1と同様にして床用化粧材を作製した。
【0031】
<比較例2>
アイオノマー樹脂層とエチレンメタクリル酸の共押層の比率を2:1とした以外は実施例1と同様にして床用化粧材を作製した。
【0032】
<比較例3>
アイオノマー樹脂層とエチレンメタクリル酸の共押層の比率を1:2とした以外は実施例1と同様にして床用化粧材を作製した。
【0033】
<性能評価:磨耗B試験>
JIS K 5400に示されるように、試験片の重量を測定した後、回転盤を水平に固定し、研磨紙(JIS K 6902に定める研磨紙S−42)を巻き付けたゴム製円板2個を取り付けて試験を行い、磨耗終点に達したときの回転数を読み取る。なお、試験片面上に加わる総荷重量は、ゴム製円板の重量を含め500gとした。
回転数が多いほど耐摩耗性がある。5000回転を超えれば合格と判断した。
【0034】
<性能評価:製膜安定性>
見当安定性やシワの発生度合い、ラミネート適性から目視で製膜安定性を○△×で評価した。実施例1と比較例1〜3の床用化粧材について以上の評価を行った。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の床用化粧材は、住宅や店舗、オフィスビル等の内装用の床タイルなどに利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…基材
2…絵柄模様層
3…上層
4…バッカー層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイオノマー樹脂からなるバッカー層と非塩化ビニル系樹脂からなる基材と絵柄模様層とからなる化粧シート基材の上に、アイオノマー樹脂層とエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂層とが、アイオノマー樹脂層とエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂層と層厚の比率が1:1以上1:2未満となる範囲で共押し出しにより設けられてなることを特徴とする床用化粧材。





【図1】
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【公開番号】特開2011−73220(P2011−73220A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225661(P2009−225661)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(593173840)株式会社トッパン・コスモ (243)
【Fターム(参考)】