説明

床用水性塗料および床塗工方法

【課題】旧塗膜付着性およびリコート性に優れかつ、塗膜の初期硬度、耐水性に優れた床用水性塗料と、この塗料を用いた床塗工方法を提供すること。
【解決手段】ポリイソシアネート(A)と、少なくとも60モル%が2級水酸基となるモル比で1級水酸基と2級水酸基を有し、水酸基価が50〜120mgKOH/gで、かつ1級水酸基に基づく水酸基価が20〜40mgKOH/gのアクリル系樹脂(B)と、重量平均分子量350,000以上で、水酸基価0〜15mgKOH/gのアクリル系樹脂(C)が水性媒体中に分散してなる床用水性塗料、および、この床用水性塗料を、旧塗膜やプライマーを有していてもよい床材の上に塗工し、乾燥させた後、その上にさらに前記床用水性塗料を塗工し、乾燥させることを特徴とする床塗工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は旧塗膜付着性とリコート性に優れた床用水性塗料およびその塗工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から床用塗料にはエポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、ポリエステル樹脂系、アクリル樹脂系等の多様な樹脂系の塗料が使用されてきた。これらの床を改修する場合、これら塗料の塗膜が劣化した旧塗膜の剥離、プライマー塗装等の下地処理を行わず、直接旧塗膜に塗装することも多い。
【0003】
一方、環境問題の観点から、床用塗料に含まれる揮発性有機溶剤の含有量を低減させることが強く求められている。この要求に応えるべく、床用塗料の水性化が試みられており、特に床用塗料の主要な硬化組成物であるポリイソシアネート組成物と活性水素含有基を有する有機溶剤系樹脂からなる有機溶剤系硬化性組成物の水性化が期待されている。例えば、ポリイソシアネートと、水酸基価が10〜200mgKOH/gで1級水酸基/2級水酸基(モル比)が5/95〜55/45の水性樹脂とを含有してなる水性硬化性組成物、ないしはその硬化物を含んでなる水性塗料によれば、硬度、外観、耐水性、耐溶剤性、一部の旧塗膜への付着性に優れる水性塗料を提供できることが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、数平均分子量15,000未満の水酸基含有水性樹脂(A)5〜50重量%(固形分基準)と、数平均分子量15,000以上の水酸基含有水性樹脂(B)50〜95重量%(固形分基準)と、水分散性ポリイソシアネート組成物(C)を含んでなる水性塗料組成物では、外観及び耐水性に優れることや、被覆が施されており、しかも、その被覆部分の劣化が進んだような基材であっても使用できるが報告されている(例えば、特許文献2参照)。しかも、この特許文献2には、実施例2として、固形分水酸基価60mgKOH/g、数平均分子量10,000、重量平均分子量25,000、不揮発分50重量%の水酸基含有アクリル樹脂エマルジョン(A−2)80重量部と、固形分水酸基価20mgKOH/g、数平均分子量500,000、重量平均分子量980,000、不揮発分40重量%の水酸基含有アクリル樹脂エマルジョン(B−2)150重量部と、水性ポリイソシアネート組成物(C−1−3)31.1重量部を含んでなる水性塗料組成物が開示されている。
【0005】
床用水性塗料では硬度、外観、耐水性、耐溶剤性等の塗膜物性だけでなく、様々な旧塗膜への付着性は重要な塗膜物性である。さらに、その塗工過程における、塗り重ね適性いわゆるリコート性も重要な作業性である。また、硬度においても、塗装後1週間程度経過した硬度だけでなく、塗装後数時間あるいは翌日といった比較的短い時間に歩行可能となるような、いわゆる初期硬度も必要である。しかしながら、前記特許文献1に記載された水性硬化性組成物を用いた水性塗料では初期の硬度が十分ではなく、また、旧塗膜に対する付着性は、前記水性硬化性組成物を用いた水性塗料からなる塗膜を劣化させた旧塗膜に対しては比較的優れるが、それ以外の様々な旧塗膜に対しては十分ではない。しかも、リコート性および耐水性が十分ではないため、リコート性および耐水性のより優れた床用水性塗料の開発が期待されている。
【0006】
また、前記特許文献2に記載された水性樹脂組成物を用いた水性塗料、特にその実施例2に記載された水性塗料組成物では、固形分水酸基価が20mgKOH/g以上の水酸基が比較的高いアクリル樹脂のエマルジョン(B−2)を用いているため、塗装後の初期硬度に優れるが、様々な旧塗膜に対する付着性や耐水性が十分ではない。
【0007】
なお、床用塗料における旧塗膜付着性とは、塗装後の塗膜が以前に塗装されて劣化した様々な塗膜へ付着する性能であり、補修の場合、床用塗料として、特に重要な性能である。
【0008】
また、床用塗料におけるリコート性とは、重ね塗り適性のことであり、一定の塗装間隔をおいた後に塗り継ぐ場合、塗装が不十分な部分を塗り直す場合、膜厚を確保する場合等における塗り重ねた塗膜の付着性と表現できる。床用塗料において、このリコート性は重要な性能である。一般に、リコート性は溶剤や水が揮発した後、塗装後の時間経過に伴い低下する。これは硬化反応により塗膜表面の架橋密度が高くなり、塗り重ねた塗膜が付着し難くなることによる。
【0009】
初期硬度とは、塗装後の塗膜性能を示し、少なくとも翌日に歩行可能な状態であればよい。さらに、耐水性は塗膜性能を示す代表的な性能であり、ブリスタが発生しないことが望ましい。
【0010】
【特許文献1】特開2005−200497号公報
【特許文献2】特開2002−363504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、旧塗膜付着性およびリコート性に優れかつ、塗膜の初期硬度、耐水性に優れた床用水性塗料と、この塗料を用いた床塗工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、このような現状を考慮して鋭意研究した結果、前記特許文献1に記載された水性塗料において、活性水素含有基を有する樹脂として、前記特許文献1には具体的に示されていない特定範囲の水酸基含有アクリル系樹脂、すなわち、水酸基価を50〜120mgKOH/g、1級水酸基に基づく酸基価を20〜40mgKOH/g、かつ、1級と2級の水酸基に占める2級水酸基のモル比を60モル%以上のアクリル樹脂を、一定以上の分子量を有し、かつ、一定以下の水酸基価を有するアクリル系樹脂、すなわち、重量平均分子量350,000以上で、水酸基価0〜15mgKOH/gのアクリル系樹脂と併用してなる床用水性塗料は、優れた旧塗膜付着性とリコート性を示し、かつ初期硬度、耐水性に優れること、更に、この床用水性塗料を用いた塗工方法としては、旧塗膜が存在する床材やプライマーが塗工されていてもよい床材の上に塗装し乾燥させる方法、また、その上に塗り重ねる方法が好ましいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、ポリイソシアネート(A)と、少なくとも60モル%が2級水酸基となるモル比で1級水酸基と2級水酸基を有し、水酸基価が50〜120mgKOH/gで、かつ1級水酸基に基づく水酸基価が20〜40mgKOH/gのアクリル系樹脂(B)と、重量平均分子量が350,000以上で、水酸基価が0〜15mgKOH/gのアクリル系樹脂(C)が水性媒体中に分散してなることを特徴とする床用水性塗料を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、床用水性塗料を、旧塗膜が存在する床材の上に塗工し、乾燥させることを特徴とする床塗工方法、前記床用水性塗料を、旧塗膜が存在する床材の上に塗工し、乾燥させた後、その上にさらに前記床用水性塗料を塗工し、乾燥させることを特徴とする床塗工方法、および、床用水性塗料を、プライマーが塗工されていてもよい床材の上に塗工し、乾燥させた後、その上にさらに前記床用水性塗料を塗工し、乾燥させることを特徴とする床塗工方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の床用水性塗料は、これまで難しいと考えられてきた旧塗膜付着性とリコート性に優れ、かつ、初期硬度、耐水性に優れる。また、本発明の床塗工方法によれば、旧塗膜付着性とリコート性と初期強度と耐水性に優れる床用水性塗料を用いるため、旧塗膜付着性と耐水性に優れる塗膜が形成された床を容易に作業性良く効率的に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
はじめに、本発明で使用するポリイソシアネート(A)について説明する。本発明に使用するポリイソシアネート(A)としては、各種のポリイソシアネートを用いることができる。かかるポリイソシアネート(A)の代表的なものとしては、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、エチル(2,6−ジイソシアナート)ヘキサノエート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、1,8−ジイソシアナート−4−イソシアナートメチルオクタン、2−イソシアナートエチル(2,6−ジイソシアナート)ヘキサノエート等の脂肪族トリイソシアネート;1,3−または1,4−ビス(イソシアナートメチルシクロヘキサン)、1,3−または1,4−ジイソシアナートシクロヘキサン、3,5,5−トリメチル(3−イソシアナートメチル)シクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、2,5−または2,6−ジイソシアナートメチルノルボルナン等の脂環式ジイソシアネート;2,5−または2,6−ジイソシアナートメチル−2−イソシネートプロピルノルボルナン等の脂環式トリイソシアネート;m−キシリレンジイソシアネート、α,α,α′α′−テトラメチル−m−キシリレンジイソシアネート等のアラルキレンジイソシアネート;
【0017】
m−またはp−フェニレンジイソシアネート、トリレン−2,4−またはトリレン−2,6−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、ジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、4,4′−ジイソシアナート−3,3′−ジメチルジフェニル、3−メチル−ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4′−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート; トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアナートフェニル)チオホスフェート等の芳香族トリイソシアネート;
【0018】
前記したような各種のジイソシアネートあるいはトリイソシアネートのイソシアネート基同志を環化二量化して得られるウレトジオン構造を有するポリイソシアネート;前記したような各種のジイソシアネートあるいはトリイソシアネートのイソシアネート基同志を環化三量化して得られるイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネート;前記したような各種のジイソシアネートあるいはトリイソシアネートを水と反応させることにより得られるビュレット構造を有するポリイソシアネート;前記したような各種のジイソシアネートあるいはトリイソシアネートを二酸化炭素と反応せしめて得られるオキサダイアジントリオン構造を有するポリイソシアネート;アロファネート構造を有するポリイソシアネート等が挙げられる。
【0019】
そして、これらの中では、水の中でのイソシアネート基の安定性と塗膜の耐候性に優れることから、脂肪族系あるいは脂環式系のジイソシアネートまたはトリイソシアネート、アラルキレンジイソシアネート、あるいは、それらから誘導されるポリイソシアネートが特に好ましい。これらのポリイソシアネートのうち、耐候性、耐久性に優れた床用水性塗料を得るためには、イソシアヌレート型ポリイソシアネート、ビュレット構造を有するポリイソシアネート、ウレトジオン構造を有するポリイソシアネート、アロファネート構造を有するポリイソシアネート、ジイソシネートと3価以上の多価アルコールを反応して得られるポリイソシアネート等の3官能以上のポリイソシアネートを用いることが好ましい。
【0020】
かかるポリイソシアネート(A)は、各種のノニオン性基、アニオン性基、カチオン性基等の親水性基を導入することで、自己水分散性を付与してもよい。好ましいものは、ノニオン性基及びアニオン性基である。また、各種の乳化剤などのポリイソシアネート(A)を水性媒体中で分散させることが可能な成分を添加することや、以下に述べるアクリル系樹脂(B)、アクリル系樹脂(C)としてポリイソシアネート(A)を水分散させる能力のあるものを使用し、これらの水分散体と混合することにより、ポリイソシアネート(A)を水性媒体中に分散させてもよい。さらに、上記方法の組み合わせでポリイソシアネート(A)を水性媒体中に分散させてもよい。
【0021】
自己水分散性を付与するために導入されるノニオン性基としては、各種のものを導入することができるが、好ましくは、末端がアルコキシ基で封鎖されたポリオキシアルキレン基、末端がアニオン性基であるポリオキシアルキレン基等のポリオキシアルキレン基である。さらに好ましくは、末端がアルコキシ基で封鎖されたポリオキシアルキレン基であり、その代表的なもとしては、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基またはポリオキシブチレン基等のポリオキシアルキレン基、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)基等の、前記したオキシアルキレン部分がランダムに共重合されたもの、あるいはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン基等の相異なるポリオキシアルキレン基がブロック状に結合したもの、等が挙げられる。そして、末端封鎖に使用されるアルコキシ基の代表的なものとしては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0022】
自己水分散性を付与するために導入されるアニオン性基としては、各種のものがあるが、好ましいものは、塩基性化合物で中和された酸基である。中和された酸基の代表的なものとしては、例えば、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基、ホスホン酸エステル塩基、ホスフィン酸塩基、スルフィン酸基、カルボン酸塩基等が挙げられる。
【0023】
これらのアニオン性基のなかで好ましいものは、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基、ホスホン酸エステル塩基、ホスフィン酸塩基から成る群から選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましいものは、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基である。
【0024】
酸基を中和することにより前記したようなアニオン性基に変換する際に使用される塩基性化合物としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−アミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール等の有機アミン類;アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基性化合物;テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムハイドロオキサイド等の第四級アンモニウムハイドロオキサイド、等が挙げられる。そして、これらの中で特に好ましいものは、無機塩基性化合物である。
【0025】
ポリイソシアネート(A)にノニオン性基、アニオン性基、カチオン性基等の親水性基を導入して自己水分散性を付与する方法としては、例えば、前記ポリイソシアネートのイソシアネート基と、親水性基および活性水性含有基を併有する化合物の活性水素を反応させる方法が挙げられる。親水性基に活性水素が含まれる場合は、それとは別に活性水素含有基を有してもよい。
【0026】
前記親水性基および活性水性含有基を併有する化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とを併有するポリエーテルジオール、オキシエチレン単位を含む各種のポリエーテルジオール類、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とを併有するポリエーテルジオール類;前記ポリエーテルジオール類の片末端をアルコキシル基で封鎖したポリエーテルジオール類;前記ポリエーテルジオール類もしくは片末端をアルコキシル基で封鎖されたポリエーテルジオール類にアニオン性基ないしはカチオン性基を持つポリエーテルジオール類;親水性基と活性水素含有基を有するビニル系重合体等が挙げられる。
【0027】
これら親水性基および活性水性含有基を併有する化合物のなかで好ましいものは、片末端をアルコキシル基で封鎖したポリエーテルジオール類、片末端をアルコキシル基で封鎖したポリオキシエチレン基と水酸基とを有するビニル重合体である。
【0028】
前記ポリイソシアネート(A)を水性媒体中で分散させるための乳化剤としては、ノニオン性基、アニオン性基、カチオン性基等を有するものであればよい。ノニオン性基、アニオン性基としては、ポリイソシアネート(A)に自己水分散性を付与するためのノニオン性基、アニオン性基として例示したものがいずれも挙げられる。また、カチオン性基としては、例えば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アンモニウムハイドロオキシド基などが挙げられ、これらを酸性化合物で中和したものが好ましい。さらに、上記ノニオン性基、アニオン性基、カチオン性基を複数有するものでもよい。
【0029】
前記ポリイソシアネート(A)を水性媒体中で分散させるための乳化剤としては、ポリイソシアネート(A)と反応しないものであれば、ポリイソシアネート(A)に添加してもよい。また、アクリル系樹脂(B)およびアクリル系樹脂(C)と混合する直前にポリイソシアネート(A)と混合してもよい。
【0030】
前記ポリイソシアネート(A)を水性媒体中に分散させる方法としては、(1)ポリイソシアネート(A)あるいは乳化剤を添加したポリイソシアネート(A)を水性媒体に添加して分散させ、得られた水分散液を、水分散したアクリル系樹脂(B)およびアクリル系樹脂(C)に添加し、混合する方法、(2)ポリイソシアネート(A)あるいは乳化剤を添加したポリイソシアネート(A)を、水分散したアクリル系樹脂(B)およびアクリル系樹脂(C)に直接添加し、混合して分散させる方法〔ただし、ポリイソシアネート(A)として自己水分散性を有しないイソシアネートを用いる場合、水分散したアクリル系樹脂(B)およびアクリル系樹脂(C)は、ポリイソシアネートを水分散させる能力のあるものを用いる必要がある。〕等が挙げられる。
【0031】
次に、本発明で使用するアクリル系樹脂(B)について説明する。
本発明で使用するアクリル系樹脂(B)は、水酸基価が50〜120mgKOH/gであることが必要である。水酸基価が50より低いと十分な耐水性が得られず、120より高いと親水性基である水酸基が耐水性を低下させる。塗膜の初期硬度、耐水性に優れる床用水性塗料が得られることから、水酸基価の範囲は60〜100mgKOH/gであることが好ましく、65〜90mgKOH/gであることがより好ましい。
【0032】
前記アクリル系樹脂(B)は1級水酸基と2級水酸基を有するが、少なくとも60モル%が2級水酸基であることが必要である。2級水酸基が60モル%より少ない場合は、旧塗膜付着性、リコート性が低下するため好ましくない。旧塗膜付着性、リコート性により優れる床用水性塗料が得られることから、少なくとも65モル%が2級水酸基であることが好ましい。また、旧塗膜付着性、リコート性と初期の塗膜硬度のバランスが良好な床用水性塗料が得られることから、60〜80モル%が2級水酸基であることが好ましく、65〜75モル%が2級水酸基であることがより好ましい。
【0033】
前記アクリル系樹脂(B)は1級水酸基と2級水酸基を有するが、1級水酸基に基づく水酸基価が20〜40mgKOH/gであることが必要である。1級水酸基に基づく水酸基価が20mgKOH/gより低い場合は初期の塗膜硬度低く作業性に劣り、40mgKOH/gより高い場合は旧塗膜付着性、リコート性が低下する。旧塗膜付着性、初期の塗膜硬度およびリコート性に優れる床用水性塗料が得られることから、1級水酸基に基づく水酸基価が25〜35mgKOH/gであることが好ましい。
【0034】
前記アクリルル系樹脂(B)のガラス転移温度(Tgb)は、特に限定されないが、なかでもリコート性、旧塗膜付着性、初期硬度に優れる床用水性塗料が得られることから、15〜70℃であることが好ましく、25〜60℃であることがより好ましい。
【0035】
なお、本発明においてアクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、以下の方法により求められたものを使用する。
下記のFoxの式で計算した絶対温度(K)表示のガラス転移温度(TgK)を摂氏温度(℃)に換算した数値を、本発明におけるガラス転移温度(Tg)とする。
100/TgK=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+W4/Tg4・・・
・式中、W1、W2、W3、W4・・・は各種成分の質量分率(質量%)を示す。
・式中、Tg1、Tg2、Tg3、Tg4・・・は各モノマー成分のホモポリマーの絶対温度(K)表示のガラス転移温度を示す。ここで、上記各モノマー成分のホモポリマーの絶対温度(K)表示のガラス転移温度(Tg1、Tg2、Tg3、Tg4・・・)は、Polymer Handbook(Second Edition、J,Brandrup・E,H,Immergut編)に記載の値を使用した。
【0036】
前記アクリル系樹脂(B)の分子量は、特に限定されないが、なかでも旧塗膜付着性、リコート性、初期硬度に優れる床用水性塗料が得られることから、数平均分子量が5,000〜500,000で、重量平均分子量が10,000〜1,000,000であることが好ましく、数平均分子量が10,000〜500,000で、重量平均分子量が30,000〜1,000,000であることがより好ましく、数平均分子量が20,000〜500,000で、重量平均分子量が50,000〜1,000,000であることが最もより好ましい。
【0037】
なお、本発明においてアクリル系樹脂の数平均分子量と重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量と重量平均分子量であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置を用いて、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(分散度)が1、実際は1.10以下である単分散の標準ポリスチレンを使用して作成した較正曲線により、測定した試料に分子量を割り当てるものである。重量平均分子量(Mw)は下記の計算式により算出される。なお、通常、数平均分子量、重量平均分子量はデータ処理装置により検出したものを使用する。
【0038】
数平均分子量(Mn)
=W/ΣNi=Σ(Mi×Ni)/ΣNi=ΣHi/Σ(Hi/Mi)
重量平均分子量(Mw)
=Σ(Wi×Mi)/W=Σ(Hi×Mi)/ΣHi
式中、W :高分子の総重量
Wi:i番目の高分子の重量
Mi:i番目の溶出時間における分子量
Ni:分子量Miの個数
Hi:i番目の溶出時間における高さ
である。
【0039】
また、測定装置および測定条件を下記に示す。
測定装置
装置 :東ソー(株)製 HLC−8120GPC
使用カラム:東ソー(株)製 TSKgel G2000HXL(カラム1)
東ソー(株)製 TSKgel G3000HXL(カラム2)
東ソー(株)製 TSKgel G4000HXL(カラム3)
東ソー(株)製 TSKgel G5000HXL(カラム4)
東ソー(株)製 TSKgel GMHXL(カラム5)
東ソー(株)製 ガードカラムHXL−H(カラム6)
カラム接続:
重量分子量10万〜100万の場合:(カラム6)に(カラム5)を4本接続したものを使用する。
重量分子量10万以下の場合:(カラム6)、(カラム4)、(カラム3)、(カラム2)、(カラム1)を順に接続したものを使用する。
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー(株)製マルチステーション−8020
標準ポリスチレンの調製:分子量の異なる5種または6種の標準ポリスチレンを、各々10mg秤量し、テトラヒドロフラン(以下、THFと略称する。)100mlで溶解する。溶解は20℃で実施し、24時間静置後使用。
試料の調製:試料(固形分)80mgを秤量し、THF20mlで溶解する。
【0040】
測定条件
カラム温度:40℃
溶媒:THF
流量:1ml/分
試料注入量:100μl
【0041】
ただし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分子量を測定する際に、展開溶媒であるTHFに不溶の成分がある場合は、不溶部分の数平均分子量が少なくとも100,000、重量平均分子量が少なくとも500,000とみなすことができるが、THF不溶成分が多すぎる場合、十分に塗膜形成ができなくなり水性塗料として使用することに適さない。従って、床用水性塗料として使用するには、アクリル系樹脂(B)の25℃におけるTHF不溶成分が60重量%未満であることが好ましく、20重量%未満であることがより好ましく、5重量%未満であることが最も好ましい。
【0042】
前記アクリル系樹脂(B)は、例えば、1級の水酸基を有するアクリル系単量体、2級の水酸基を有するアクリル系単量体、および、その他のアクリル系単量体を共重合させることで製造することができる。この際、必要に応じてアクリル系単量体以外のビニル系単量体やビニル基を有するシランカップリング剤を併用することもできる。
【0043】
前記アクリル系樹脂(B)に1級の水酸基を導入するために用いる1級の水酸基を有するアクリル系単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられル。また、前記アクリル系樹脂(B)に2級の水酸基を導入するために用いる2級の水酸基を有するアクリル系単量体としては、例えば、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−n−ブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−n−ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、なかでも2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0044】
前記その他のアクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸やそのアルカリ金属塩、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の各種エステル類、アクリルアマイド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアマイド、(メタ)アクリロニトリル、3−(メタ)アクリロイルプロピルトリメトキシシラン、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
前記アクリル系樹脂(B)は、本発明の床用水性塗料中で水性媒体中に分散した状態にあり、各種の分散形態が挙げられる。大別すると、(1)乳化剤でアクリル系樹脂(B1)を水性媒体中に分散したもの、(2)親水性基を有するアクリル系樹脂(B2)が水性媒体中に分散したもの等が挙げられる。
【0046】
前記(1)の乳化剤で水性媒体中に分散したアクリル系樹脂(B1)としては、例えば、アクリル系樹脂(B1)と乳化剤と水を攪拌してアクリル系樹脂(B1)を水分散させたもの、アクリル系単量体を乳化剤の存在下、水性媒体中で乳化重合して得られるもの等が挙げられる。
【0047】
前記のアクリル系樹脂(B1)に乳化剤を添加して攪拌し水分散する際に使用できる乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン系乳化剤、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン系乳化剤、4級アンモニウム塩等のカチオン系乳化剤等が挙げられる。乳化剤は、単量体100重量部に対して20重量部以下の範囲で使用するのが好ましく、さらに、耐水性に優れる床用水性塗料が得られることから、5〜15重量部の範囲がより好ましい。
【0048】
また、前記乳化重合を行う際に使用できる乳化剤としては、前記アクリル系樹脂(B1)を水分散する際に使用できる乳化剤として列記したノニオン系乳化剤、アニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤などがいずれも使用できる。乳化剤は、単量体100重量部に対して10重量部以下の範囲で使用するのが好ましく、さらに、耐水性に優れる床用水性塗料が得られることから、2〜5重量部の範囲がより好ましい。
【0049】
前記乳化重合法のうちでは、ラジカル重合開始剤を使用するラジカル乳化重合法が特に簡便であり、この際使用されるラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2′−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物と酸化鉄等の還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤等が挙げられる。これらラジカル重合開始剤の使用量は、通常、単量体の全重量100重量部に対して0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜2重量部である。
【0050】
前記ラジカル乳化重合により目的とするアクリル系樹脂(B1)を得るには、例えば、単量体の全重量100重量部に対して100〜500重量部の水中にて、前記アクリル系単量体、乳化剤およびラジカル重合開始剤のほかに、必要に応じて、各種の連鎖移動剤、pH調整剤等を併用し、5〜100℃、好ましくは50〜90℃の温度範囲で、0.1〜10時間かけて乳化重合を行えばよい。
【0051】
本発明で使用するアクリル系樹脂(B)のうち、前記(2)の親水性基を有するアクリル系樹脂(B2)が水性媒体に分散したものとしては、例えば、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基等の親水性基を有するアクリル樹脂を水性媒体に分散したものが挙げられる。
【0052】
前記アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、燐酸基、酸性リン酸エステル基、亜燐酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基等が挙げられ、これらを塩基性化合物で中和したものを使用することが好ましい。
【0053】
前記アニオン性基を中和する際に使用する塩基性化合物としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−アミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムハイドロオキサイドなどが挙げられる。
【0054】
前記カチオン性基としては、例えば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アンモニウムハイドロオキシド基などが挙げられ、これらを酸性化合物で中和したものが好ましい。
【0055】
前記カチオン性基を中和する際に使用する酸性化合物としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、リン酸モノメチルエステル、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。
【0056】
前記ノニオン性基としては、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン等のポリエーテル鎖を有するものが挙げられる。
【0057】
親水性基を有するアクリル系樹脂(B2)は、例えば、1級の水酸基を有するアクリル系単量体、2級の水酸基を有するアクリル系単量体およびその他のアクリル系単量体を共重合させる製造方法において、その他のアクリル系単量体の一部として親水性基を有するアクリル系単量体を用いることにより製造することができる。
【0058】
前記親水性基を有するアクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレートなどのカルボキシル基含有アクリル系単量体やそれらのアルカリ金属塩等、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの3級アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルやそれらの四級化物等挙げられ、これらのなかでも、(メタ)アクリル酸もしくはジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは単独又は2種以上併用で使用することができる。
【0059】
前記親水性基を有するアクリル系単量体を使用して親水性基を有するアクリル系樹脂(B2)を調製する方法としては、種々の重合方法が挙げられるが、その中でも有機溶剤を使用した溶液ラジカル重合法が最も簡便である。この際に使用される有機溶剤としては、例えばn−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族又は脂環式炭化水素;トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸n−アミル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル類;メタノール、エタノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−アミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類;N−メチルピロリドン、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチレンカーボネートなどが挙げられる。これらを単独又は2種以上併用で使用することができる。
【0060】
また、前記した溶液ラジカル重合法において使用するラジカル重合開始剤としては、種々の化合物を使用することができるが、それらのうちで代表的なものを例示すれば、2,2′―アゾビス(イソブチル二トリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などの各種のアゾ化合物類;tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの過酸化物等が挙げられる。
【0061】
前記溶液ラジカル重合で得られた親水性基を有するアクリル系樹脂(B2)を水性媒体中に分散させる方法としては、各種の方法が挙げられるが、なかでも、転相乳化法で分散させることが好ましい。転相乳化法は、必要に応じて親水性基を塩基性化合物もしくは酸性化合物で中和せしめてなるアクリル系樹脂(B2)の有機溶剤溶液と、水性媒体を混合して、アクリル系樹脂(B2)を水性媒体中に分散(転送乳化)させ、必要に応じて有機溶剤を除去する方法である。この際には、必要に応じて乳化剤を本発明の目的を達成する範囲内で使用することができる。
【0062】
乳化剤としては、例えば、前記アクリル系樹脂(B1)を水分散する際に使用できる乳化剤として列記したノニオン系乳化剤、アニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤などがいずれも使用できる。
【0063】
水性媒体としては、水および有機溶剤を含有した水が挙げられる。
有機溶剤としては、アクリル系樹脂(B2)の溶液ラジカル重合法に使用できる有機溶剤として列記したものをそのまま使用することができるが、特にエステル類、ケトン類、エーテル類が好ましい。水性媒体に含まれる有機溶剤は単独又は2種類以上であっても良く、その使用割合は水性媒体中30重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることが更に好ましいが、使用しないことが最も好ましい。なお、有機溶剤を使用する場合の使用割合は少なくとも1重量%以上であることが好ましい。
【0064】
前記アクリル系樹脂(B)としては、前記したように、数平均分子量が5,000〜500,000で、重量平均分子量が10,000〜1,000,000であることが好ましいが、これらのなかでも重量平均分子量が200,0000以上という高い分子量条件を満たすアクリル系樹脂(B)を得るには、例えば、重合中の系内に存在するアクリル系単量体(ビニル系単量体を併用していてもよい。)に対し重合開始剤由来のラジカル発生数を低くして重合する方法や、重合に際してアクリル系樹脂(B)に架橋構造を付与する方法等を用いても良い。また、前記分子量条件を満たすアクリル系樹脂(B)をより効果的に得るために、前記ラジカル発生数を低くして重合する方法と架橋構造を付与する方法とを組み合わせることもできる。なお、ここでいう架橋構造とは、アクリル系樹脂の主鎖間を化学的結合によって結合することで、化学的に安定な網目状の構造をいう。
【0065】
前記ラジカル発生数を低くする方法としては、(1)重合開始剤の使用量を低減させる方法、(2)低温で重合する方法、(3)重合時間を延長する方法等の何れか、又はこれらの方法の組み合わせが有効である。なお、(2)低温で重合する方法の具体例としては、(イ)乳化剤等の分散剤でアクリル系樹脂を水性媒体中に分散したアクリル系樹脂(B1)を得る場合では50℃以下の重合温度で所謂レドックス開始剤を用いて重合する方法、(ロ)親水性基を有するアクリル系樹脂が水性媒体中に分散したアクリル系樹脂(B2)を得る場合では80℃以下の重合温度で重合する方法等が挙げられる。
【0066】
また、前記架橋構造を付与する方法としては、1級の水酸基を有するアクリル系単量体、2級の水酸基を有するアクリル系単量体およびその他のアクリル系単量体を共重合させる製造方法において、(1)その他のアクリル系単量体の一部として1分子中に複数のビニル基を有する単量体を用いて共重合する方法、(2)ビニル基を有するシランカップリング剤を併用して共重合する方法、(3)1分子中に複数のビニル基を有する単量体とビニル基を有するシランカップリング剤は併用して共重合する方法等が挙げられる。これら1分子中に複数のビニル基を有する単量体および/またはビニル基を有するシランカップリング剤の使用割合は、初期の塗膜硬度と耐水性に優れる床用水性塗料が得られることから、アクリル系樹脂(B)の合成に用いる単量体成分〔例えば、1級や2級の水酸基を有するアクリル系単量体、その他のアクリル系単量体(1分子中に複数のビニル基を有する単量体を含有していても良い。)、ビニル系単量体、ビニル基を有するシランカップリング剤等の混合物など。)〕100重量部当たり1重量部以下であることが好ましく、0.5重量部以下であることがさらに好ましく、0.1重量部以下が最も好ましい。
【0067】
また、前記1分子中に複数のビニル基を有する単量体の中でも、隣接するビニル基間の分子鎖が特定の分子量を有するものであると、初期の塗膜硬度を落とすことなく、耐水性を向上させることができるので好ましい。具体的にはビニル基間の分子鎖の分子量が100以上のものが好ましく、さらには100〜700のものが特に好ましい。
【0068】
前記1分子中に複数のビニル基を有する単量体としては、例えば、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン、アリルアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール骨格数4以上)、ポリプロピレングリコールジメタクリレート(プロピレングリコール骨格数1以上)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、3−メチル1,5−ペンタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタアクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、2,2−ビス,4−(メタクリロキシポリエトキシ)フェニル)プロパン(エトキシ骨格数2以上)、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール数1以上)、ポリプロピレングリコールジアクリレート(プロピレングリコール数1以上)、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、2−ヒドロキシ1−アクリロキシー3−メタクリロキシプロパン、2,2−ビス(4−アクリロキシポリエトキシ)フェニル)プロパン(エトキシ数1以上)、2,2−水添ビス(4−(アクリロキシポリエトキシ)フェニル)プロパン(エトキシ数1以上)、2,2−ビス(4−(アクリロキシポリプロポキシ)フェニル)プロパン(プロポキシ数1以上)、2,4−ジエチルー1,5−ペンタンジオールジアクリレート等が挙げられる。これらビニル基を有する単量体は2種以上併用して使用してもよい。
【0069】
前記ビニル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のビニル基含有シラン化合物が挙げられる。
【0070】
次に、本発明で使用するアクリル系樹脂(C)について説明する。
本発明で使用するアクリル系樹脂(C)は、重量平均分子量が350,000以上であることが必要である。重量平均分子量が350,000未満であると、旧塗膜付着性、初期の塗膜硬度、耐水性を低下させる。なかでも、旧塗膜付着性、初期の塗膜硬度、耐水性に優れる床用水性塗料が得られることから、数平均分子量が80,000以上で、重量平均分子量が350,000以上であることが好ましく、数平均分子量が90,000で、重量平均分子量が400,000以上であることがより好ましく、数平均分子量が100,000で、重量平均分子量が500,000以上であることが最も好ましい。
【0071】
ただし、前記アクリル系樹脂(C)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分子量を測定する際に、展開溶媒であるTHFに不溶の成分を含有するものであってもよいが、床用水性塗料として使用するには、アクリル系樹脂(C)の25℃におけるTHF不溶成分が95重量%未満であることが好ましく、80重量%未満であることがより好ましく、60重量%未満であることが最も好ましい。
【0072】
また、前記アクリル系樹脂(C)は、水酸基価が0〜15mgKOH/gであることが必要である。水酸基価が15mgKOH/gより高いと旧塗膜付着性、初期の塗膜硬度、耐水性を低下させる。なかでも、旧塗膜付着性に優れる床用水性塗料が得られることから、アクリル系樹脂(C)の水酸基価は、0〜12mgKOH/gであることが好ましく、0〜5mgKOH/gであることがより好ましい。
【0073】
前記アクリル系樹脂(C)のガラス転移温度(Tgc)は、特に限定されないが、なかでも旧塗膜付着性、初期硬度に優れる床用水性塗料が得られることから、30〜75℃であることが好ましく、40〜65℃であることがより好ましい。
【0074】
前記アクリル系樹脂(C)は、例えば、各種のアクリル系単量体を用い、高分子量のアクリル樹脂が得られる条件下で重合させることで製造することができる。この際、必要に応じてアクリル系単量体以外のビニル系単量体やビニル基を有するシランカップリング剤を併用することもできる。
【0075】
前記アクリル系樹脂(C)の重合で用いるアクリル系単量体としては、アクリル系樹脂(B)の製造で使用できる単量体として列記した水酸基を有するアクリル系単量体やその他のアクリル系単量体がいずれも使用できる。
【0076】
前記アクリル系樹脂(C)は、前記アクリル系樹脂(B)と同じく、本発明の床用水性塗料中で水性媒体中に分散した状態にあり、その分散形態も前記アクリル系樹脂(B)の場合と同じく、(1)乳化剤等の分散剤でアクリル系樹脂(C1)を水性媒体中に分散したもの、(2)親水性基を有するアクリル系樹脂(C2)が水性媒体中に分散したもの等が挙げられ、水性媒体中に分散させる具体的方法も前記アクリル系樹脂(B)の場合と同様の方法がいずれも採用できる。
【0077】
重量平均分子量350,000以上という高い分子量条件を満たすアクリル系樹脂(C)を得るには、高い分子量条件を満たすアクリル樹脂系(B)を得るために用いても良い方法として記載した方法と同様の方法、すなわち、各種のアクリル系単量体(ビニル系単量体を併用していてもよい。)に対し重合開始剤由来のラジカル発生数を低くして重合する方法、重合に際してアクリル系樹脂に架橋構造を付与する方法、これらを組み合わせる方法等を使用することができる。
【0078】
前記ラジカル発生数を低くする方法、および、架橋構造を付与する方法としては、前記高い分子量条件を満たすアクリル樹脂系(B)を得るために用いても良い方法で記載した方法と同様の方法が挙げられる。
【0079】
前記高い分子量条件を満たすアクリル系樹脂(C)を効果的に得るには、前記ラジカル発生数を低くして重合する方法と架橋構造を付与する方法とを組み合わせることが、初期の塗膜硬度と耐水性に優れる床用水性塗料が得られることから好ましい。
【0080】
前記架橋構造を付与する方法において、。これら1分子中に複数のビニル基を有する単量体および/またはビニル基を有するシランカップリング剤の使用割合は、初期の塗膜硬度と耐水性に優れる床用水性塗料が得られることから、アクリル系樹脂(C)の合成に用いる各種のアクリル系単量体(ビニル系単量体を併用していてもよい。)100重量部当たり0.05〜10重量部であることが好ましく、0.1〜5重量部であることがさらに好ましく、0.2〜2重量部が最も好ましい。
【0081】
なお、前記高い分子量条件を満たすアクリル系樹脂(C)を効果的に得るには、前記高い分子量条件を満たすアクリル樹脂系(B)を得る場合と同様に、1分子中に複数のビニル基を有する単量体の中でも、隣接するビニル基間の分子鎖が特定の分子量を有するものであると、初期の塗膜硬度を落とすことなく、耐水性を向上させることができるので好ましい。具体的にはビニル基間の分子鎖の分子量が100以上のものが好ましく、さらには100〜700のものが特に好ましい。
【0082】
前記高い分子量条件を満たすアクリル系樹脂(C)を得る際に用いる1分子中に複数のビニル基を有する単量体や、ビニル基を有するシランカップリング剤としては、前記高い分子量条件を満たすアクリル樹脂系(B)を得る場合に用いる単量体やシランカップリング剤と同様のものがいずれも挙げられる。
【0083】
本発明で使用するアクリル系樹脂(B)とアクリル系樹脂(C)の重量比(B/C)は、旧塗膜付着性、リコート性、初期の塗膜硬度、耐水性に優れる床用水性塗料が得られることから、0.3〜3であることが好ましく、0.4〜2.2であることがより好ましく、0.7〜1.5であることが最も好ましい。
【0084】
本発明の床用水性塗料は、顔料を含まないクリヤー塗料として使用することも、有機系あるいは無機系の各種の顔料を配合して着色塗料として使用することもできる。本発明に使用するアクリル系樹脂(B)やアクリル系樹脂(C)には、必要に応じて、例えば、充填剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、有機溶剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料分散剤のような各種の添加剤類などをも配合することができる。
【0085】
着色塗料を調製する際に使用される顔料の代表的なものとしては、カーボン・ブラック、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、キナクリドン・レッド等の有機系顔料;酸化チタン、酸化鉄、チタンイエロー、銅クロムブラック等の金属酸化物系の無機系顔料;炭酸カルシウム、クレー、タルク、硫酸バリウム等の体質顔料;アルミニウムフレーク、パールマイカ等の無機系のフレーク状の顔料等が挙げられる。
【0086】
前記した各種の顔料を使用して着色塗料を調製する場合、ポリイソシアネート(A)の固形分とアクリル系樹脂(B)およびアクリル系樹脂(C)の固形分の合計量100重量部に対して、顔料が0.1〜300重量部、好ましくは0.2〜200重量部となるような比率で顔料を配合すればよい。
【0087】
本発明の床用水性塗料の調製にあたり添加される紫外線吸収剤の代表的なものとしては、ベンゾトリアゾール系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物等の各種の化合物を挙げることができる。また、添加される酸化防止剤としては、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、燐系化合物等を挙げることができる。そして、これらを添加する場合の添加量は、ポリイソシアネート(A)の固形分とアクリル系樹脂(B)およびアクリル系樹脂(C)の固形分の合計量100重量部に対して、紫外線吸収剤および/または酸化防止剤が0.2〜10重量部、好ましくは、0.5〜5重量部となるような比率で配合すればよい。
【0088】
本発明の床用水性塗料は、前記ポリイソシアネート(A)と、前記アクリル系樹脂(B)および前記アクリル系樹脂(C)とを水性媒体中に分散してなるものであるが、前記ポリイソシアネート(A)と、前記アクリル系樹脂(B)および前記アクリル系樹脂(C)とを混合させる方法としては、例えば、水性媒体に分散したアクリル系樹脂(B)およびアクリル系樹脂(C)に、ポリイソシアネート(A)あるいはポリイソシアネート(A)を水性媒体中に分散したものを添加し撹拌する方法等が挙げられる。撹拌方法としては、例えば、各種の攪拌機を使用する方法があり、少量ならば攪拌棒等を用いた簡便な攪拌でもよいが、各種の攪拌機を使用することは、短時間で多量の床用水性塗料を調製できることから好ましい。また、ポリイソシアネート(A)に自己水分散性がない場合は、例えば、ジェットミルなどの強力なせん断力を有する各種の攪拌機を用いることが好ましい。
【0089】
このときのポリイソシアネート(A)と、アクリル系樹脂(B)およびアクリル系樹脂(C)の混合比率は、旧塗膜付着性、リコート性、初期硬度、耐水性に優れる床用水性塗料が得られることから、ポリイソシアネート(A)中のイソシアネート基とアクリル系樹脂(B)およびアクリル系樹脂(C)中の水酸基のモル比(NCO/OH)が、0.5〜2.5であることが好ましく、0.7〜1.5であることがより好ましく、0.9〜1.3であることが最も好ましい。
【0090】
本発明の床用水性塗料は、各種塗料が塗装され劣化した塗膜、所謂旧塗膜上に直接塗布することができる。また、床材上に直接塗布することができるし、各種のプライマーを塗工した床材上に塗工することもできる。さらに、本発明の床用水性塗料を塗工し乾燥させた後、その上に本発明の床用水性塗料を塗り重ね、乾燥させることができる。
【0091】
本発明の床用水性塗料を塗工できる床材としては、種々のものが使用でき、例えば、各種の無機質床材、木質系床材、プラスチック床材等が挙げられ、なかでも無機質床材が好適である。
【0092】
無機質床材としては、例えば、珪酸カルシウム、アルミン酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化カルシウム等のカルシウム化合物から製造される硬化体;アルミナ、シリカ、ジルコニア等の金属酸化物を焼結して得られるセラミック;各種の粘土鉱物を焼成して得られるタイル類;各種のガラス等が挙げられる。そして、カルシウム化合物から製造される硬化体の代表的なものとしては、コンクリートやモルタル等のセメント組成物の硬化物、石綿スレート、軽量気泡コンクリート(ALC)硬化体、ドロマイトプラスター硬化体、石膏プラスター硬化体、珪酸カルシウム板等が挙げられる。
【0093】
木質系床材としては、例えば、無垢材、集成材、突板張り化粧合板、化粧紙貼り合板、中質繊維板、パーティクルボード、およびこれらをWPC(Wood Plastic Combination)処理したもの等が挙げられる。木の種類としては、特に制限はないが、一般にはスギ、マツ、ヒノキ、カラマツ等の針葉樹材、カバ、ケヤキ、ミズナラ、サクラ、クルミ、ローズ、チーク、マホガニー等の広葉樹材が挙げられる。
【0094】
プラスチック床材としては、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂の成形品;不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、架橋型ポリウレタン、架橋型のアクリル樹脂、架橋型の飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂の成形品等が挙げられる。
【0095】
また、前記したような各種の床材であって、被覆が施されており、しかも、その被覆部分の劣化が進んだような床材、いわゆる旧塗膜が残存するものであっても、本発明でいう床材として使用することができる。
【0096】
前記旧塗膜としては、エポキシ樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、ポリエステル系塗料、アクリル樹脂系塗料等の各種の床用塗料が挙げられる。
【0097】
プライマーとしては、各種のものが使用されるが、代表的なものとしては、1液湿気硬化型ウレタンプライマー、2液ビスフェノールA型エポキシ/ポリアミン系プライマー、不飽和ポリエステル系プラーマ−、ビニルエステル系プライマー、アクリル系プライマー、ゴム系プライマ−、水系2液硬化型ポリウレタンプライマー等が挙げられる。
【0098】
本発明の床用水性塗料の塗工方法としては、例えば、本発明の床用水性塗料を、旧塗膜が存在する床材の上に塗工し、乾燥させる方法、旧塗膜が存在する床材の上に塗工し、乾燥させた後、その上にさらに前記床用水性塗料を塗工し、乾燥させる方法、プライマーが塗工されていてもよい床材の上に塗工し、乾燥させた後、その上にさらに前記床用水性塗料を塗工し、乾燥させる方法等が挙げられる。塗工方法としては、例えば、刷毛塗り、ローラー塗装、スプレー塗装、浸漬塗装、フロー・コーター塗装、ロール・コーター塗装等の各種方法を適用することができる。なかでも、旧塗膜が存在する床材やプライマーが塗工されていてもよい床材が、旧塗膜が存在する無機質床材やプライマーが塗工されていてもよい無機質床材であることが好適である。
【実施例】
【0099】
次に参考例、実施例および比較例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお例中の部および%は、特に断りのない限り全て重量基準である。
【0100】
参考例1〔ポリイソシアネート(A−1)の調製〕
攪拌機、温度計、冷却管および窒素導入管を装備した4つ口のフラスコに、数平均分子量560のメトキシポリエチレングリコール32部、および、ポリイソシアネート(p−1)〔大日本インキ化学工業(株)製バーノックDN−980S:ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDIと略称する。)系イソシアヌレート型ポリイソシアネート、イソシアネート基含有率(以下、NCO基含有率と略称する。)21%、不揮発分100%〕100部を仕込み、30分間かけて90℃に昇温した後、90℃にて6時間反応させて、不揮発分100%、NCO基含有率14%のメトキシポリエチレングリコールで変性されたポリイソシアネートを得た。以下、これをポリイソシアネート(A−1)と略称する。
【0101】
参考例2〔ポリイソシアネート溶液(A−2)の調製〕
参考例1と同様の4つ口のフラスコに、ジエチレングリコールジエチルエーテル(以下、EDEと略称する。)429部を仕込み、窒素気流下に110℃に昇温した後、ポリオキシエチレン基の数平均分子量が400のメトキシポリエチレングリコールのメタアクリレート(以下、MPEGMAと略称する。)400部、シクロヘキシルメタクリレート(以下、CHMAと略称する。)200部、メチルメタクリレート(以下、MMAと略称する。)400部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(以下、TBPEHと略称する。)45部およびt−ブチルパーオキシベンゾエート5部からなる混合液を5時間かけて滴下した。滴下終了後、110℃にて9時間反応させて、不揮発分70%、重量平均分子量18,000のアクリル系重合体の溶液を得た。以下、これをアクリル系重合体溶液(q−1)と略称する。
【0102】
次いで、アクリル系重合体溶液(q−1)の調製に使用したものと同様の4つ口のフラスコに、ポリイソシアネート(p−1)200部およびアクリル系重合体溶液(q−1)100部を仕込み、窒素気流下に50℃に昇温した後、同温度で1時間攪拌混合し、不揮発分90%、NCO基含有率14%のポリイソシアネートの溶液を得た。以下、これをポリイソシアネート溶液(A−2)と略称する。
【0103】
参考例3〔アクリル系樹脂水分散液(B−1)の調製〕
参考例1と同様の4つ口のフラスコに、「ニューコール707SF」〔日本乳化剤(株)製アニオン性乳化剤〕16部、「ノイゲンTDS−200D」〔第一工業製薬(株)製ノニオン性乳化剤〕6.5部および脱イオン水220部を仕込み、窒素気流下に80℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム0.8部を脱イオン水16部に溶解させた水溶液を添加した。さらに、ブチルアクリレート(以下、BAと略称する。)54部、MMA102部、アクリル酸(以下、AAと略称する。)4部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、2−HEMAと略称する。)12部および2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(以下2−HPMAと略称する。)28部からなる混合液を、3時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間反応せしめた後、25℃まで冷却し、28%アンモニア水1.5部で中和し、脱イオン水を加えて不揮発分を45%に調整して、固形分水酸基価80mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)30℃のアクリル系樹脂の水分散液を得た。以下、これをアクリル系樹脂水分散液(B−1)と略称する。
【0104】
参考例4〜7〔アクリル系樹脂水分散液(B−2)〜(B−5)の調製〕
下記第1表に記載した比率でアクリル系単量体を反応させた以外は参考例3と同様にして、アクリル系樹脂水分散液(B−2)〜(B−5)を得た。
【0105】
【表1】

【0106】
参考例8〜10〔アクリル系樹脂水分散液(RB−1)〜(RB−3)の調製〕
下記第2表に記載した比率でアクリル系単量体を反応させた以外は参考例3と同様にして、アクリル系樹脂水分散液(RB−1)〜(RB−3)を得た。
【0107】
【表2】

【0108】
参考例11〜13〔アクリル系樹脂水分散液(C−1)〜(C−3)の調製〕
下記第3表に記載した比率でアクリル系単量体を反応させた以外は参考例3と同様にして、アクリル系樹脂水分散液(C−1)〜(C−3)を得た。
【0109】
【表3】

【0110】
《第3表の脚注》
3−MPTMS:3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
【0111】
参考例14〜16〔アクリル系樹脂水分散液(RC−1)〜(RC−3)の調製〕
下記第4表に記載した比率でアクリル系単量体を反応させた以外は参考例3と同様にして、アクリル系樹脂水分散液(RC−1)〜(RC−3)を得た。
【0112】
【表4】

【0113】
《第4表の脚注》
3−MPTMS:3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
LM:ラウリルメルカプタン
【0114】
参考例17〔床用水性塗料主剤成分(D−1)の調製〕
脱イオン水85.4部、「Disperbyk−190」(BYKケミ−社製分散剤)23.7部、ジメチルエタノールアミンの25%水溶液1.5部、「Ti−Pure R−960」(DuPont社製酸化チタン)270.6部および「BYK−011」(BYKケミ−社製消泡剤)の10%水溶液5.4部からなる混合物を、ディスパーで1時間分散させた。次いで、アクリル系樹脂水分散液(B−1)290部、アクリル系樹脂水分散液(C−1)290部、「BYK−346」(BYKケミ−社製レベリング剤)8.3部、「プライマルRM−8W」(ローム&ハース社製増粘剤)の10%水溶液4.8部、ジメチルエタノールアミンの25%水溶液1.1部、「BYK−028」(BYKケミ−社製消泡剤)の10%水溶液16部およびジエチレングリコールジブチルエーテル3.3部を加えて攪拌し、不揮発分55%の床用水性塗料主剤成分(D−1)を得た。
【0115】
参考例18〜23〔床用水性塗料主剤成分(D−2)〜(D−7)の調製〕
アクリル系樹脂水分散液(B−1)とアクリル系樹脂水分散液(C−1)の代わりに、アクリル系樹脂水分散液(B−2)〜(B−5)とアクリル系樹脂水分散液(C−2)〜(C−3)を、第5表(1)〜(3)に示す組み合わせで用いた以外は参考例17と同様にして、床用水性塗料主剤成分(D−2)〜(D−7)を得た。
【0116】
参考例24〜28〔比較用床用水性塗料主剤成分(RD−1)〜(RD−5)の調製〕
アクリル系樹脂水分散液(B−1)とアクリル系樹脂水分散液(C−1)の代わりに、アクリル系樹脂水分散液(RB−1)〜(RB−3)とアクリル系樹脂水分散液(RC−1)〜(RC−3)を、第6表(1)〜(2)に示す組み合わせで用いた以外は参考例17と同様にして、比較用床用水性塗料主剤成分(RD−1)〜(RD−5)を得た。
【0117】
実施例1
ポリイソシアネート溶液(A−2)中のイソシアネート基(NCO)とアクリル系樹脂水分散液(B−1)およびアクリル系樹脂水分散液(C−1)中の水酸基(OH)のモル比(NCO/OH)が1.2となるように、ポリイソシアネート溶液(A−2)6.7部と床用水性塗料主剤成分(D−1)100部を混合し、さらに不揮発分が50%となるように水で希釈を行い、白色水性塗料(E−1)を得た。
【0118】
得られた白色水性塗料(E−1)を用い、初期の塗膜硬度試験、旧塗膜付着性試験、リコート性付着性試験および耐水性試験を以下のようにして行った。
【0119】
・初期の塗膜硬度試験:白色床用水性塗料(E−1)を、スレート板に刷毛で塗布量が200g/mとなるよう塗装し、気温25℃、湿度60%RHの条件下で1日間乾燥させたものを試料として、ケーニッ硬度計により硬度を測定した。
【0120】
・付着性試験評価用試験基材の作成:スレート板に刷毛で塗布量が200g/mとなるよう旧塗膜となる下記床用塗料(s−1)〜(s−6)を塗装し、気温25℃、湿度60%RHの条件下で24時間乾燥後、60℃で24時間乾燥、さらに気温25℃、湿度60%RHの条件下で2週間乾燥させて、評価用試験基材(S−1)〜(S−6)を得る。次に、これら評価用試験基材(S−1)〜(S−6)をサンシャインスーパーロングライフウェザーメーター(スガ試験機社製、型番WE−L−SUN−DCHD)を用いて1,000時間の促進劣化を行い、下記床用塗料(s−1)〜(s−6)を塗装し、塗膜を劣化させた旧塗膜付着性評価用試験基材(S−1′)〜(S−6′)を得た。この際の促進劣化条件は、ブラックパネル温度63℃、120分間中18分間降雨とした。
(s−1):溶剤系エポキシ樹脂塗料アーキフロアEH(エスケー化研社製)
(s−2):溶剤系ウレタン樹脂塗料アーキフロアUT(エスケー化研社製)
(s−3):溶剤系アクリル樹脂塗料アーキフロアAS(エスケー化研社製)
(s−4):水系エポキシ樹脂塗料水性アトムエポクリーン(アトミクス社製)
(s−5):水系ウレタン樹脂塗料アクアクリーンU(アトミクス社製)
(s−6):水系アクリル樹脂塗量フロアトップ#1000(アトミクス社製)
【0121】
・旧塗膜付着性試験:白色床用水性塗料(E−1)を、スレート板および前記旧塗膜付着性評価用試験基材(S−1′)〜(S−6′)の劣化塗膜上に刷毛で塗布量が200g/mとなるよう塗装し、気温25℃、湿度60%RHの条件下で7日間乾燥させたものを試料として、旧塗膜付着性試験を行った。旧塗膜付着性試験は、縦横1mm間隔でカッターナイフによる切れ目を入れて100個の升目を作成し、セロハン粘着テープで塗膜の剥離試験を実施した。評価は塗装塗膜とスレート板、塗装塗膜と旧塗膜付着性評価用試験基材(S−1′)〜(S−6′)の劣化塗膜間の付着を判定し、残存数で評価した。95個以上残存したものを付着性良好と評価できる。
【0122】
・リコート性試験:白色床用水性塗料(D−1)を、スレート板、前記評価用試験基材(S−2)および(S−6)の塗膜上に刷毛で塗布量が200g/mとなるよう塗装し、気温25℃、湿度60%RHの条件で8時間乾燥させたものと、1日間乾燥させたものと、3日間乾燥させたもののそれぞれに、再度白色床用水性塗料(D−1)を塗装し、気温25℃、湿度60%RHの条件で3日間乾燥させたものを試料として、付着性試験を行なった。この付着性試験はリコート性評価試験であり、縦横1mm間隔でカッターナイフによる切れ目を入れて100個の升目を作成し、セロハン粘着テープで塗膜の剥離試験を実施した。評価は1回目塗装塗膜と2回目塗装塗膜間の付着を判定し、残存数で評価した。95個以上残存したものをリコート性良好と評価できる。
【0123】
・耐水性試験:白色床用水性塗料(E−1)を、スレート板、前記旧塗膜付着性評価用試験基材(S−1′)および(S−4′)の劣化塗膜上に刷毛で塗布量が200g/mとなるよう塗装し、気温25℃、湿度60%RHの条件で1日間乾燥させたものに、再度白色床用水性塗料(D−1)を同条件で塗装し、気温25℃、湿度60%RHの条件下で7日間乾燥させたものを試料として用い、水温25℃の水に1日間浸漬して引き上げたときのブリスタの発生の有無を下記の評価基準で評価した。ブリスタがほとんどない(5%未満)ものを耐水性良好と評価できる。
評価基準
◎ :ブリスタなし
○ :わずかにブリスタあり。ブリスタの面積2%未満。
○―△:わずかにブリスタあり。ブリスタの面積2%以上〜5%未満。
△ :全面にブリスタあり。ブリスタの面積5%以上〜15%未満。
△−×:全面にブリスタあり。ブリスタの面積15%以上〜30%未満。
× :全面にブリスタあり。ブリスタの面積30%以上。
【0124】
実施例2〜9
ポリイソシアネート(A−2)と床用水性塗料主剤成分(D−1)の代わりに、ポリイソシアネート(A−1)〜(A−2)と床用水性塗料主剤成分(D−1)〜(D−7)を第5表(1)〜(2)に示す組み合わせで用いた以外は実施例1と同様にして、白色床用水性塗料(E−2)〜(E−9)を調製し、実施例1と同様の評価を行った。試験結果を第5表(1)〜(2)に示す。
【0125】
【表5】

【0126】
【表6】

【0127】
比較例1〜5
ポリイソシアネート(A−2)と床用水性塗料主剤成分(D−1)の代わりに、ポリイソシアネート(A−1)〜(A−2)と床用水性塗料主剤成分(RD−1)〜(RD−5)を第6表(1)〜(2)に示す組み合わせで用いた以外は実施例1と同様にして、白色床用水性塗料(RE−1)〜(RE−5)を調製し、実施例1と同様の評価を行った。試験結果を第6表に示す。
【0128】
【表7】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネート(A)と、少なくとも60モル%が2級水酸基となるモル比で1級水酸基と2級水酸基を有し、水酸基価が50〜120mgKOH/gで、かつ1級水酸基に基づく水酸基価が20〜40mgKOH/gのアクリル系樹脂(B)と、重量平均分子量が350,000以上で、水酸基価が0〜15mgKOH/gのアクリル系樹脂(C)が水性媒体中に分散してなることを特徴とする床用水性塗料。
【請求項2】
アクリル系樹脂(B)が、60〜80モル%が2級水酸基となるモル比で1級水酸基と2級水酸基を有し、水酸基価が60〜100mgKOH/gで、かつ1級水酸基に基づく水酸基価が25〜35mgKOH/gのアクリル系樹脂であり、アクリル系樹脂(C)が水酸基価0〜12mgKOH/gのアクリル系樹脂である請求項1に記載の床用水性塗料。
【請求項3】
アクリル系樹脂(B)のガラス転移温度(Tgb)が15〜70℃であり、アクリル系樹脂(C)のガラス転移温度(Tgc)が30〜75℃である請求項1に記載の床用水性塗料。
【請求項4】
アクリル系樹脂(B)とアクリル系樹脂(C)の重量比(B/C)が0.3〜3の範囲である請求項2に記載の床用水性塗料。
【請求項5】
ポリイソシアネート(A)中のイソシアネート基(NCO)と、アクリル系樹脂(B)中の水酸基およびアクリル系樹脂(C)中の水酸基の合計(OH)のモル比(NCO/OH)が0.5〜2.5である請求項1に記載の床用水性塗料。
【請求項6】
アクリル系樹脂(B)が数平均分子量5,000〜500,000、重量平均分子量10,000〜1,000,000のアクリル系樹脂であり、アクリル系樹脂(C)が数平均分子量80,000以上、重量平均分子量350,000以上のアクリル系樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載の床用水性塗料。
【請求項7】
アクリル系樹脂(B)のガラス転移温度(Tgb)が25〜60℃であり、アクリル系樹脂(C)のガラス転移温度(Tgc)が40〜65℃である請求項6に記載の床用水性塗料。
【請求項8】
アクリル系樹脂(B)とアクリル系樹脂(C)の重量比(B/C)が0.4〜2.2の範囲である請求項6に記載の床用水性塗料。
【請求項9】
ポリイソシアネート(A)中のイソシアネート基(NCO)と、アクリル系樹脂(B)中の水酸基およびアクリル系樹脂(C)の有する水酸基の合計(OH)のモル比(NCO/OH)が0.7〜1.5である請求項6に記載の床用水性塗料。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の床用水性塗料を、旧塗膜が存在する床材の上に塗工し、乾燥させることを特徴とする床塗工方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の床用水性塗料を、旧塗膜が存在する床材の上に塗工し、乾燥させた後、その上にさらに前記床用水性塗料を塗工し、乾燥させることを特徴とする床塗工方法。
【請求項12】
旧塗膜が存在する床材が、旧塗膜が存在する無機質床材である請求項10または11に記載の床塗工方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の床用水性塗料を、プライマーが塗工されていてもよい床材の上に塗工し、乾燥させた後、その上にさらに前記床用水性塗料を塗工し、乾燥させることを特徴とする床塗工方法。
【請求項14】
プライマーが塗工されていてもよい床材が、プライマーが塗工されていてもよい無機質床材である請求項13に記載の床塗工方法。


【公開番号】特開2008−63373(P2008−63373A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240119(P2006−240119)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】