説明

床緩衝構造

【課題】 体育館、多目的ホール等の床緩衝構造に関し、運動使用時の弾力性能に優れるとともに過大な荷重にも耐え、かつ施工性にも優れた床緩衝構造を提供することを課題とする。
【解決手段】 床支持脚2の受部材30の上部に弾性部材32を配置し、この弾性部材の上に、床板を支持する大引材4を載置した床緩衝構造であって、受部材30は底面部40からそれぞれ上方向きに屈曲形成された側面部42,43、及び規制部44,45を有し、弾性部材32は、受部材の底面部に載置され、上面が規制部の上端よりも上方の位置に形成される底板部56、及びこの底板部56の左右の端部から上方に形成され受部材の側面部に内接する側板部60,61を有し、この弾性部材32内に大引材4を載置保持し、この大引材からの荷重により、弾性部材の圧縮変形が所定量に達したとき、受部材の規制部に大引材が当接して弾性部材の変形が制限される構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体育館、多目的ホール等において運動競技の他各種イベントが行える床緩衝構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、体育館等の大型建物は、運動の場として充分な運動性能が発揮できるように、床支持装置には床との間に弾性部材を設けた構造、或いは大引材を弾性部材で支持する構造を採用し、弾力性能の良い床構造を構築している。
【0003】
ここで近時、体育館等が通常に運動を行う場所として用いられる以外に、コンサート等の各種イベント会場として用いられる場合がある。このように体育館をイベント会場として使用する場合、会場設定等のためにフォークリフト等の重量機械が館内の床の上を走行し、また多数の人数が館内に出入りすることから床には過大な重量が作用する。このため、イベント会場としても使用される体育館では、床の支持装置は予め過大な荷重に耐え得るように堅牢に構成する必要がある。
【0004】
このように、過大な重量に耐え得る床構造の床は極めて硬く弾力性能の悪い構造となり、このため運動をする者の足腰を痛めたり、また転倒したときに打撲、怪我などが起こりやすくなるなど安全性においても問題を生じ、通常の運動を行う場所として充分な運動性能が発揮できない。
【0005】
これに対して、特許文献1には図5に示すような床用の束基礎が開示されている。この床用束基礎は、吸振材82を、プレート状の圧縮制限片84とカバー状の圧縮制限片86とにより上下から挟むようにし、この吸振材82が所定量の縦圧縮を起こした場合には、両圧縮制限片が互いに相互当接可能となり、防振材の過剰な縦圧縮が防止される構造である。また特許文献2には、大引部材の上に緩衝材及びこの緩衝材の変形量を制限する規制部材を配置し、床板から緩衝材を所定量以上変形する荷重が作用した場合、床板からの荷重が規制部材を介して前記大引部材に直接作用する床構造が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−324418号公報
【特許文献2】特許第2790250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、上記特許文献1及び特許文献2記載の床構造は、弾力性を確保する弾性部材層の変位量を、ストッパ金具を用いて機械的に制限する形態であるため、ストッパ金具の強度及びこれを受止める部材の強度を十分に確保する必要があり、また施工性或いは耐久性についても考慮を払う必要があるなど、設計上も困難を伴うという問題がある。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、過大な荷重にも耐えるとともに運動使用時には弾力性能が発揮され、かつ施工性にも優れた床緩衝構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の技術的課題を解決するため、本発明は、図1に示すように、床支持脚2の受部材30の上部に弾性部材32を配置し、この弾性部材の上に、床板を支持する大引材4を載置した床緩衝構造であって、上記受部材30は、上記弾性部材32を載置する底面部40の左右の端部からそれぞれ上方向きに屈曲形成された側面部42,43、及び上記底面部40の前後の端部からそれぞれ上方向きに屈曲形成された規制部44,45を有し、上記弾性部材32は、上記受部材の底面部に載置され、上面が上記規制部44,45の上端よりも上方の位置に形成される底板部56、及びこの底板部56の左右の端部から上方に形成され上記受部材の側面部42,43に内接する側板部60,61を有し、この弾性部材32内に上記大引材4を載置保持し、この大引材4からの荷重により、上記弾性部材32の圧縮変形が所定量に達したとき、上記受部材の規制部44,45に上記大引材4が当接して上記弾性部材32の変形が制限される構成である。
【0010】
本発明に係る床緩衝構造において、上記大引材4は、上面板部62、側面板部64,65及びこれら側面板部からそれぞれ内向きに屈曲形成され、上記弾性部材32の底板部56に載置する底片部66,67からなり、これら底片部66,67同士の間には、所定の間隔の開口部68が形成された断面C字形状の長尺材からなる構成である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る床緩衝構造によれば、受部材は、底面部から上方向きに屈曲形成された側面部及び規制部を有する一方、弾性部材は底板部及びこの底板部から上方に形成され受部材の側面部に内接する側板部を有し、この弾性部材内に載置保持される大引材からの荷重により、弾性部材の圧縮変形が所定量に達したとき、受部材の規制部に大引材が当接して弾性部材の変形が制限される構成を採用したから、床上で運動が行われるときには弾性部材によって床の衝撃が緩和され、また床上を重量機械が走行し或いは荷物等により床に過大な重量が作用したときは高い荷重性能を有するとともに、弾性部材の圧縮が制限されて弾性部材のヘタリ或いは破損が防止され、このように運動時の弾力性を維持しつつ高強度の床が確保でき、加えて構造が簡単で製造容易なことから経済性に優れ、また大引材を受部材と規制部とが一体化されたもので保持するために、強固に安定した支持構造となり、施工も容易に行なえるという効果を奏する。
【0012】
本発明に係る床緩衝構造によれば、大引材の底片部同士の間には、所定の間隔の開口部が形成された断面C字形状の長尺材からなる構成としたから、弾性部材の弾性変形可能な空間部が形成されて弾性部材が適切に弾性圧縮でき、良好な緩衝作用が得られるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る床緩衝構造の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は上記床緩衝構造を示したものであり、これは体育館、多目的ホール等において運動競技の他各種イベントが行える床構造である。この床緩衝構造は、床支持脚2、大引材4、根太材6、構造用板材8及び床板10等を有する。
【0014】
上記床支持脚2は、支持台20、支持ボルト22、受部材30、弾性部材32及びボルトとナットからなる締結具34などからなる。また上記支持ボルト22には、上部ナット24、下部ナット25、ワッシャ26及び締結ナット28が螺着等されている。上記支持台20は、上板部35の左右の端部から下方に向けて末広がり状に形成された脚部36、およびこれら脚部36の下端部からそれぞれ水平外向きに屈曲形成された固定部38を有する。
【0015】
図2に示すように上記受部材30は略U字状であり、中央に形成された平坦な底面部40、この底面部40の左右部位からそれぞれ上方に立設した側面部42,43、及び上記底面部40の前後部位から上方に立設形成された規制部44,45を有している。この受部材30は、十字状に打ち抜いた鋼板をプレス加工により屈曲成形したものである。
【0016】
上記受部材30の成形に際しては、上記十字状の鋼板の中央部の矩形状の部位を底面部40とし、この底面部40の左右部位を上方に向けて屈曲して上記側面部42,43を形成し、底面部40の前後部位を上方に屈曲して上記規制部44,45を形成する。そして、この規制部44,45の両端部を上記側面部42,43の端面部46,47に当接させた状態で、規制部44,45の各端部を側面部42,43の端面部46,47に溶接(溶接部48)により接合する。
【0017】
ここでは、上記受部材30には板厚3.2mmの鋼板を用い、また上記規制部44,45の立上がる高さは、底面部40の上面から8mm程度の高さとしている。また、上記受部材30の底面部40の中央には円形の孔部50が設けられ、上記側面部42,43の上部近傍の中央にはそれぞれ挿通孔52が設けられている。そして、上記底面部40の裏面部には、上記孔部50と孔同士が貫通する状態で六角のナット体31が取り付けられている。このナット体31は、カシメ(カシメナットを使用)或いは溶接により受部材30に固定される。
【0018】
図3に示すように、上記弾性部材32は、底板部56及びこの底板部56の左右の端部からそれぞれ上方に立上る側板部60,61からなる断面U字形状の部材である。この弾性部材32は、ゴム或いは合成樹脂等の弾性体からなる。この弾性部材32は、底板部56が上記受部材30の底面部40に載置されるとともに、側板部60,61がそれぞれ受部材30の側面部42,43に内接する。このように、弾性部材32は受部材30内に四方が密着収納され、安定した状態で配置される。
【0019】
ここでは、上記弾性部材32の底板部56の厚さを15mmとして好適な弾性性能を確保している。また、受部材30の規制部44,45の高さは、底面部40の上面から8mm程度の高さとしていることから、弾性部材32の底板部56の上面は、規制部44,45の上端よりも7mm程度上に位置する。
【0020】
上記大引材4は、上面板部62、側面板部64,65及びこれら側面板部からそれぞれ内向きに屈曲形成された底片部66,67からなる断面C字形状の鋼材である。これら底片部66,67同士の間には、所定の間隔の開口部68が形成されている。この開口部68の開口率、即ち大引材4の横幅寸法(W)に対する開口部68の間隔(S)の割合(S/W)は、ここでは40%程度としている。上記根太材6は、上面部、側面部及びこれら側面部からそれぞれ外向きに屈曲形成されたフランジ部からなる断面ハット状の鋼材である。
【0021】
上記弾性部材32が配置された受部材30は、ナット体31を介して支持ボルト22の先端部に螺着され、下部からワッシャ26を介して締結ナット28で締め付ける。このとき、受部材30のナット体31に螺入された支持ボルト22は、その先端部が底面部40の孔部50内を挿通可能であり、適宜な位置で締結ナット28を締め付けて受部材30を支持ボルト22に固定する。
【0022】
床支持脚2の支持ボルト22の高さについては、支持台20の上板部35に設けられた孔部に、上部ナット24が螺合されワッシャ26が嵌め込まれた支持ボルト22を挿通し、下から下部ナット25を螺合させ、これら上部ナット24と下部ナット25の位置を加減して支持ボルト22の高さを調節する。
【0023】
さて、上記床緩衝構造の施工に際しては、床の基礎面70に上記床支持脚2を所定の間隔で配置し、支持台20の固定部38を接着剤などを用いて基礎面70に固定し、各床支持脚2の高さ調節を行う。そして各床支持脚2間に大引材4を架設し、両底片部66,67を下にして受部材30内の弾性部材32の底板部56に載置する。
【0024】
上記大引材4を配置した後、受部材30の側面部42,43に設けた挿通孔52間に、締結具34としてのボルトを挿通しナットを締めて側面部42,43同士を所定の押圧力で挟み、大引材4を受部材30に狭持固定する。このとき、大引材4の側面板部64,65と受部材30の側面部42,43との間には、弾性部材32の側板部60,61が介在して大引材4を弾性保持する。そして、大引材4の上部には、大引材4と直交する方向に根太材6を所定間隔をおいて配置し、これら根太材6の上部に構造用板材8及び床板10を敷設して床を仕上げる。
【0025】
図4は、上記床緩衝構造を施した床に荷重が加わった場合に、この荷重による床支持脚2の弾性圧縮状態を示したものである。図4(a)は、床にほとんど荷重が加わらない無負荷時の弾性部材32の状態を示す。この状態では、大引材4の押圧による弾性部材32の圧縮は殆ど生じていない。
【0026】
図4(b)は、床に、人の運動時の衝撃荷重或いはこれと同程度の機材などの荷重が加わったときの弾性部材32の状態を示す。この状態では、大引材4の底片部66,67の押圧により弾性部材32の底板部56が少し弾性圧縮し、この圧縮変形により開口部68から変形した弾性体が膨出(膨出部57)する現象が生じている。このように上記開口部68は、弾性圧縮によって生じる弾性体の膨出変形を可能にさせるための空間部を確保するものである。このとき、大引材4は受部材30の規制部44,45には当接していない。このため、上記弾性圧縮状態では弾性部材32の吸振効果が発揮され、運動者の衝撃を有効に緩和し緩衝する。
【0027】
図4(c)は、床にフォークリフト、重量機材などの大重量の荷重が加わった過負荷時の弾性部材32の状態を示す。この状態では、大引材4からの押圧により弾性部材32の底板部56が大きく弾性圧縮し、この圧縮変形により開口部68から圧縮変形した弾性体が大きく膨出(膨出部58)する現象が生じている。
【0028】
そしてこの状態では、大引材4は大きく沈み込み底片部66,67が受部材30の規制部44,45に当接した状態となっている。このため、大引材4のこれ以上の沈み込みが制限されて弾性部材32の過大な圧縮が規制され、これにより弾性部材32の破損が防止され耐久性も良くなる。また上記弾性圧縮制限に伴う規制部44,45の剛性ある支持により、高剛性の床緩衝構造が形成され優れた耐荷重性能を発揮する。
【0029】
したがって、上記実施の形態に係る床緩衝構造によれば、床を形成する大引材は弾性部材によって弾性支持されていることから、スポーツなどでの押圧力に対して好適な弾力性を有し、また展示会やコンサート等のイベント開催時にフォークリフト等の重量物がフロアを移動等するときは、大引材は、弾性部材が所定量圧縮した後は受部材の規制部で強固に支持され高剛性のフロアが構築される。
【0030】
このように上記床緩衝構造によれば、柔剣道場などのスポーツ施設として良好な緩衝性を有するフロアが得られる一方、イベント開催時には重量物であっても受部材の規制部で十分な強度が維持されるため、高い載荷重性能を発揮する。また、床支持脚のU字状の受部材に規制部を設けた簡単な構造であるため、製造が容易で経済性に優れるとともに、弾力性の高い弾性部材の選択が可能であり、運動時の弾力性能を高い水準で確保することができ施工も容易に行なえるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態に係る床緩衝構造の側面を示す図である。
【図2】床支持脚の受部材を示す図で、(a)は平面図を、(b)は正面図を、(c)は側面図をそれぞれ示す。
【図3】床支持脚の部分分解図である。
【図4】床緩衝構造の作用を示す図であり、(a)は軽量荷重、(b)は運動時等の荷重、(c)は重量荷重が加わった状態を示す。
【図5】従来例に係る床用束基礎を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
2 床支持脚
4 大引材
30 受部材
32 弾性部材
40 底面部
42,43 側面部
44,45 規制部
56 底板部
60,61 側板部
64,65 側面板部
62 上面板部
66,67 底片部
68 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床支持脚の受部材の上部に弾性部材を配置し、この弾性部材の上に、床板を支持する大引材を載置した床緩衝構造であって、
上記受部材は、上記弾性部材を載置する底面部の左右の端部からそれぞれ上方向きに屈曲形成された側面部、及び上記底面部の前後の端部からそれぞれ上方向きに屈曲形成された規制部を有し、
上記弾性部材は、上記受部材の底面部に載置され、上面が上記規制部の上端よりも上方の位置に形成される底板部、及びこの底板部の左右の端部から上方に形成され上記受部材の側面部に内接する側板部を有し、
上記弾性部材内に上記大引材を載置保持し、この大引材からの荷重により、上記弾性部材の圧縮変形が所定量に達したとき、上記受部材の規制部に上記大引材が当接して上記弾性部材の変形が制限されることを特徴とする床緩衝構造。
【請求項2】
上記大引材は、上面板部、側面板部及びこれら側面板部からそれぞれ内向きに屈曲形成され、上記弾性部材の底板部に載置する底片部からなり、これら底片部同士の間には、所定の間隔の開口部が形成された断面C字形状の長尺材からなることを特徴とする請求項1記載の床緩衝構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−56486(P2007−56486A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240833(P2005−240833)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000177139)三洋工業株式会社 (46)
【Fターム(参考)】