説明

底質の改質および臭気低減方法

【課題】内部湾の海域、生活排水が流入する河川・湖沼水域および養殖水域などの硫化物が多い底質に対し、製鋼スラグを用いることによって、汚泥からの硫化水素の発生や硫化物の溶出を、長期間にわたって、安定的に抑制する方法を提供する。
【解決手段】10vol%以上の間隙率を有する製鋼スラグを含む底質改質材を、該底質改質材が埋没しない量だけ投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグを用いて、底質に含まれる硫化物に起因した硫化水素の発生を抑制する底質の改質および臭気低減方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境保全のため、排水や土壌に関しての環境基準が設けられているが、水底の底質に関しての環境基準は現状では設けられていない。しかしながら、近年の環境問題に対する関心は、湖沼や海域などの環境水の浄化や、海域などの環境における底質の改質に向けられている。そして、従来から、様々な環境水の浄化方法や底質の改質方法が検討されてきた。ここに、環境水の浄化に関しては、一定の浄化方法が開発され、実用化がなされてはいるものの、底質の改質については、未だ種々の問題が残っている。
【0003】
底質には、生活排水や農薬などの流入により、硫化物等のSが含まれる場合が多いことが報告されているが、場合によっては、有毒でかつ悪臭を放つ硫化水素が発生する懸念がある。ここに、上記した底質の改質方法は、例えば、石灰を散布したり、覆砂を施したりするなどの方法が挙げられる。しかしながら、石灰を散布した場合、その散布の直後には、一定の底質の改質効果が達成できるものの、長期間の持続性に問題がある。
【0004】
一方、覆砂を施したとしても、例えば、粒度の小さい砂状スラグを用いた場合には、環境水の塩基度が高くなるとスラグが固化して、底質中の硫化物の固定効果が限定的になる。他方、粒度の大きいスラグを用いた場合では、生物の生息に好適で、硫化物の固定効果も期待されるが、比表面積が小さいため、所望の効果を得るためには、多量のスラグが必要となる。
【0005】
これらの問題に対して、特許文献1には、リンの溶出を、確実に抑制可能な海底底質からのリンの溶出抑制方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−175008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1は、製鋼スラグで対象となる底質を覆うだけなので、特に硫化物を含有する底質においては、台風や高潮などの海流の急激な変化が起こると、その効果が極めて少なくなってしまうといった問題があった。また、その効果を維持するためには、対象となる底質上の海域のpH値を、適宜監視する必要があった。さらには、スラグの間隙率や覆砂厚みが考慮されていないため、施工したのちにスラグが泥中に埋もれてしまい、効果が発揮できない、または限定的となるおそれもある。
【0008】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、内部湾の海域、生活排水が流入する河川・湖沼水域および養殖水域などの硫化物や窒素が多い底質に対し、製鋼スラグを用いることによって、底質からの硫化水素の発生や硫化物の溶出を、長期間にわたって、安定的に抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.底質改質材を用いて、底質の改質および臭気の低減を行うに際し、10vol%以上の間隙率を有する製鋼スラグを含む底質改質材を、該底質改質材が埋没しない量だけ投入することを特徴とする底質の改質および臭気低減方法。
【0010】
2.前記埋没していない底質改質材の高さを、底質から平均で10mm以上とすることを特徴とする前記1に記載の底質の改質および臭気低減方法。
【0011】
3.前記10vol%以上の間隙率を有する製鋼スラグを、前記底質改質材全体に対して40mass%以上とすることを特徴とする前記1または2に記載の底質の改質および臭気低減方法。
【0012】
4.前記底質改質材の投入を、2回以上に分けることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の底質の改質および臭気低減方法。
【0013】
5.前記底質改質材の投入を2回以上に分けて行うに際し、該2回以上の投入のうち少なくとも1の連続する2回の投入において、下層に投入する製鋼スラグの平均粒径が、上層に投入する製鋼スラグの平均粒径より小さいことを特徴とする前記4に記載の底質の改質および臭気低減方法。
【0014】
6.前記底質改質材の投入を2回以上に分けて行うに際し、各回の投入の間に、少なくとも1時間の間隔を設けることを特徴とする前記4または5に記載の底質の改質および臭気低減方法。
【0015】
7.前記製鋼スラグを、脱リンスラグとすることを特徴とする前記1〜6のいずれかに記載の底質の改質および臭気低減方法。
【0016】
8.前記製鋼スラグを、乾燥状態での全鉄(トータルFe)の含有量:10mass%以上とすることを特徴とする前記1〜7のいずれかに記載の底質の改質および臭気低減方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、硫化物や窒素が多い底質に対し、製鋼スラグを適正に用いることで、長期間に亘り安定的に、汚泥からの硫化物溶出や、硫化水素の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】底質改質材の投入に関する実験のフローを示した図である。
【図2】底質改質材投入後の養生時と、硫化物等の測定時の要領を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、製鋼スラグを含む底質改質材を用いて、底質に含まれる硫化物に起因した硫化水素の発生を抑制する方法である。
ここに、底質とは、一般に、湖沼、海洋等の水域における水底の表層のことを言う。具体的には、水底を構成している堆積物や岩石のことであり、主に、川岸などの侵食で生じた砂泥が川の流れによって運ばれて海洋などの水底に堆積した砂泥や、生物の遺骸、不溶性塩などによって形成されている。内陸部が都市化している場合の生活排水や、農薬の含有した排水などにより、底質には、硫化物が含まれていることが多い。
なお、本発明において、改質の対象となる底質は、含水率:200mass%以上の底質とすることが好ましい。上記性質を持った底質は、改質が必要な底質として最も一般的であると同時に、以下に述べるように所定の製鋼スラグが一定量沈み込むことで、効果的に底質の改質を行うことができるからである。
【0020】
また、底質中の表層土類や岩盤類の間隙水、および表層土類や岩盤類の直上に蓄積した不溶物や直上水を調べることで水質汚濁の状況などが分かる。ここに、間隙水とは、表層土類や岩盤類の間に存在している水のことで、含有水とも言う。
【0021】
底質改質材に含まれる製鋼スラグとは、高炉で製造された銑鉄を鋼にする過程で副生するスラグであって、工程により成分の異なったスラグが発生する。具体的には、溶銑予備処理スラグなどがある。溶銑予備処理スラグは、さらに脱珪スラグ、脱硫スラグ、脱リンスラグ等に分けられる。
【0022】
また、本発明において、底質改質材として使用する製鋼スラグは、乾燥状態での全鉄(トータルFe)の含有量を、10mass%以上とすることが好ましく、15mass%以上とすることがより好ましい。
その理由は、そのような製鋼スラグを底質に敷設することにより、含有する鉄分によって硫化物が固定されるほか、化学的に酸化還元電位を向上する作用があるからである。すなわち、製鋼スラグの鉄分が水中で水酸化鉄(3価)となったのち、この水酸化鉄が2価になる、以下の式に記載のような還元反応が生じ(Fe3+が酸化剤となる)、酸化還元電位が高められるからと考えられる。
Fe3++e→Fe2+
なお、本発明において、全鉄含有量の上限は特に定めないが、底質改質材のリサイクルの観点からは、全鉄含有量が高すぎると不経済であるため、40mass%以下とするのが好ましい。
【0023】
本発明において、全鉄の測定は、湿式分析によりT−Fe量を分析することによって求めた。
【0024】
製鋼スラグは、エージング処理したもの、すなわち、溶鉄の精錬プロセスで副生した製鋼スラグを破砕した後、1ヶ月以上の自然エージング、蒸気エージング(常圧)、高圧蒸気エージング、温水エージングのうちの1種以上のエージングを施し、表面に水酸化鉄を生成させたものであることが好ましい。これは、エージング中に表面水と鉄分を水和反応させることにより、水酸化鉄(Fe(OH))又はオキシ水酸化鉄(FeOOH)を生成させ、鉄を予め3価にしておくことが狙いである。かかる操作により、鉄分が水中で2価から3価になるときの酸化還元電位が低くなることを抑えることができる。また、エージング中の表面水と鉄分の水和反応を促進させるために、自然エージング中、人為的に散水することも好ましい。
【0025】
上記のエージング方法のうち、最も好ましいのは自然エージングである。また、エージング期間は、1ヶ月以上が好ましく、3ヶ月以上がより好ましく、6ヶ月以上がさらに好ましい。というのは、自然エージング中、大気に暴露されたスラグ中のカルシウム成分が炭酸ガスと反応して、炭酸カルシウムが生成することにより、アルカリ分が低下するためである。このようにアルカリ分が低下すると、スラグ施工時のpH上昇の抑制に効果があるだけでなく、スラグ間隙水のpHが高くなりすぎた場合、酸化還元電位が低下して、異臭を発生させる原因菌である硫酸還元菌の活性を高めてしまうという不利を防止する効果があるためである。
【0026】
製鋼スラグの塩基度[mass%CaO/mass%SiO]は、3以下、より好ましくは2以下である。これは、製鋼スラグの塩基度が3を超えると、スラグ直上水およびスラグ間隙水のpHが高くなりすぎるおそれが生じるからである。ここに、スラグ間隙水のpHが高くなりすぎると、前述したように、酸化還元電位が低下して硫酸還元菌の活性を高めてしまう可能性がある。また、塩基度が2以下であれば、エージング期間中にスラグ中に含有される金属鉄の酸化量が増大し、さらに好ましい状況となる。溶鉄の酸化精錬で発生する塩基度が3以下の製鋼スラグは、遊離CaOの含有量が非常に低いため、エージング前後での粒径変化は顕著ではない。したがって、エージング処理を実施しないでも、水中に敷設後に、CaOの水和反応による膨張でスラグ粒子が崩壊したり、粉化したりする問題はなく、上述したエージング処理は、水酸化鉄の生成促進を目的に実施することになる。
【0027】
塩基度の下限は特に限定しないが、製鋼スラグでは、一般的に0.5以上であり、溶出水が弱アルカリ性〜アルカリ性になるのが一般的である。ただし、塩基度が高いスラグは、エージング期間を長くすることでアルカリ溶出を低減することができ、例えば、塩基度が3を超えるスラグでは、12ヶ月以上、自然エージング処理することが望ましく、24ヶ月以上、自然エージング処理することがさらに望ましい。これは、エージングにより表面が炭酸化し、安定化するためである。
【0028】
本発明では、製鋼スラグ(以下単にスラグとも言う)を用いて、上述したような底質の改質および臭気の低減を行うに際し、10vol%以上の間隙率(ここで、間隙率とは、全体積に対する間隙体積の比であり、製鋼スラグを構成する各相の体積を、それぞれVs(固相)、Vg(気相)およびVw(液相)とすると、間隙部分の体積はVv=Vg+Vw であり、製鋼スラグの全体積はV=Vv+Vsで表わされる)を有する製鋼スラグを含む底質改質材を、底質改質材中の製鋼スラグが埋没しない量だけ投入する。
というのは、間隙率が全くない製鋼スラグの場合、投入時に舞い上がった底質の泥が再堆積することにより、製鋼スラグが完全に埋没してしまうため、本発明の改質等の効果が得られないからである。間隙率は、30vol%以上が好ましく、40vol%以上がより好ましい。また、底質改質材中の製鋼スラグ以外の物質が底質の上面に出ているだけでは、本発明の効果が得られない。
【0029】
また、上記10vol%以上の間隙率を有する製鋼スラグは、投入する底質改質材全体に対して40mass%以上とすることが好ましい。本発明の改質等の効果が効率良く得られるからである。なお、その上限は特別制限されず、全量、間隙を有する製鋼スラグとしても良い。底質改質材中の製鋼スラグ以外の成分としては、有害物質の溶出のない砂利等他の物質を用いることができる。また、その間隙率の上限は65vol%程度が好ましい。
【0030】
本発明において、埋没していない製鋼スラグの高さとは、改質を行う底質が一旦舞い上がってから、製鋼スラグの隙間に沈降した際に、底質の上面から出ている製鋼スラグの高さを言う。なお、製鋼スラグの最上面に極わずか積もっている底質は、上記した底質の上面基準とはしない。
【0031】
本発明では、埋没していない製鋼スラグの高さを0mm以上(すなわち、底質面と製鋼スラグが同一面、または、製鋼スラグが底質面から上面に出ている)とすることが必須であり、平均では10mm以上の高さとすることが好ましい。というのは、投入した製鋼スラグが全て埋没してしまうと、投入した製鋼スラグの上に積もった状態の底質による臭気の発生が低減されないからである。また、製鋼スラグの高さを10mm以上にした場合は、底質の改質のみならず臭気の低減効果が一段と増すため好ましい。なお、その上限に特別の制限はない。
【0032】
底質改質材の投入は、2回以上に分けることが好ましい。2回以上に分けて投入することで、以下に述べるように、投入初期と後期における目的をより有利に達成することができるからである。なお、2回以上に分けて投入する場合、それぞれの敷設厚みは、以下に述べる潜り込み深さ等によって決まるが、それぞれの厚みの比は、(下層の敷設厚み/上層の敷設厚み)=0.1〜5程度の範囲とすることが好ましい。なお、本発明で、下層と上層とは、任意の連続した2回の投入のうち、1回目の投入により形成される層を下層、2回目の投入により形成される層を上層という。また、上記投入回数は、複数回に分けることもできるが、あまりに分けすぎると投入作業の効率が損なわれるため、2回が最も好ましい。
【0033】
上記底質改質材の投入を2回以上に分けて行うに際しては、2回以上の投入のうちで少なくとも1の連続した2回の底質改質材投入で、下層に投入する製鋼スラグの平均粒径を、上層に投入する製鋼スラグの平均粒径より小さくすることが好ましい。というのは、粒度が小さい場合、底質への潜り込み量が小さいからであり、その粒径に特別の制限はないが、1〜10mm程度の平均粒径を有するスラグが、下層に投入するスラグとして好ましい。一方、粒度が大きい場合、製鋼スラグが投入された際の舞い上がった底質が、製鋼スラグの隙間に安定して沈降することができる。そのため、上層に投入する製鋼スラグとしては、その粒径に特別の制限はないものの、5〜30mm程度の平均粒径を有することが好ましい。
【0034】
前記製鋼スラグの投入を2回以上に分けて行うに際しては、2回以上の投入のうちで少なくとも1の連続した2回の製鋼スラグ投入で、下層の投入と上層の投入との間に、少なくとも1時間の間隔を設けることが好ましい。下層の投入により舞い上がった底質を再び沈降させるためである。なお、その上限に特別の制限はないが、48時間程度が好ましい。それ以上に長時間としても効果が飽和するからである。
【0035】
前記底質改質材の投入を2回以上に分けて行うに際し、2回以上の投入のうちで少なくとも1の連続した2回の底質改質材投入で、下層の製鋼スラグと上層の製鋼スラグの間隙率に、特別の制限はないが、下層の製鋼スラグは、その投入する底質改質材全体の間隙率として、平均で30〜55vol%程度、上層の製鋼スラグは、その平均で40〜65vol%程度とすることが好ましい。なお、上記間隙率は、全体が均一に間隙を有していても、一部が間隙率を有している製鋼スラグが混入されている平均値であっても良い。
【0036】
本発明における、改質を行う底質への底質改質材の投入手順をさらに具体的に以下に説明する。なお、以下に説明した手順以外でも上記した各条件を満足する手順であれば本発明に含まれることは言うまでもない。
まず、改質をしたい底質の性質を求める。例えば、含水率および/またはせん断抵抗値を、底質の硫化物濃度等と併せて測定し、含水率および/またはせん断抵抗値と底質の硫化物濃度等の分布を求める。
ついで、含水率および/またはせん断抵抗値の測定結果に応じて、底質に対する製鋼スラグの潜り込み深さを計算して決定する。その際、投入する製鋼スラグの比重や粒径、間隙率を調整して、所望の製鋼スラグを作製する。なお、本発明においては、上記製鋼スラグを、底質に対して完全に埋没しない量を投入することが肝要であるのは前述したとおりである。なお、製鋼スラグの潜り込み深さは、実際の潜り込み深さを予備実験等で直接測定しておくこともできる。
【0037】
前述したように、底質改質材を2回以上に分けて投入するに際しては、2回以上の投入のうち少なくとも1の連続した2回の投入おいて、下層に投入する製鋼スラグの平均粒径を、上層に投入する製鋼スラグの平均粒径より小さくすることが好ましいのであるが、下層と上層の製鋼スラグの平均粒径の比(上層の製鋼スラグの平均粒径/下層の製鋼スラグの平均粒径)は、1.0〜2.5程度が好ましく、1.3〜2.0程度がさらに好ましい。また、2回目に投入する製鋼スラグの敷設厚みは、特に限定されるものではないが、より好ましい厚みは以下の式1で求めることができる。
H≧〔h/(2回目に投入する製鋼スラグの間隙率)〕×100 ・・・1
ここで、h(cm):1回目に投入した製鋼スラグの上に堆積する泥の厚み
H(cm):2回目に投入する製鋼スラグの敷設厚み
また、本発明の間隙率(vol%)は、100vol%から、JIS A 1104に準拠して求めた実績率(vol%)を引いて求めることができる。
【0038】
本発明における製鋼スラグは、CaO/SiO比を0.1〜3の範囲とすることが好ましい。
というのは、CaO/SiOの比が、0.1に満たないと、Caイオンが不足して、S固定効果が薄れる。一方、CaO/SiOの比が、3を超えると、直上水のpHが高くなりすぎるおそれがあるからである。従って、製鋼スラグのCaO/SiO比は、0.1〜3の範囲とすることが好ましい。
【0039】
本発明における製鋼スラグは、溶銑予備処理スラグが単独の100mass%でも良いが、前述したように、有害物質の溶出のない砂利等他の物質などが混入していても良い。なお、砂利等他の物質などの製鋼スラグ以外の混入物は、製鋼スラグに対して40mass%未満とすることが好ましい。但し、40mass%以上であっても、沈み込み実験などで、所望の位置になれば用いることができる。
【0040】
本発明では、上述したように、製鋼スラグは、混合物でもよいが、前述したように製鋼スラグのなかで、脱リンスラグとすることが最も好ましい。
というのは、アルカリ負荷が少なく、混合時の海水pHの上昇が抑制されるからである。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
図1に、本試験のフローを示す。
同図に示したように、まず、底質改質材を底質(採取ままの泥(高含水比泥)、脱水泥(低含水比泥))に投入する。その後、上から海水を注いで、所定の期間養生する。養生後、硫化物等以下に示す項目を測定する。また、表1に、本試験に使用した底質(採取ままの泥(生泥))の性状を示す。表2に、今回使用した底質改質材の性状、表3に、試験条件をそれぞれ示す。
なお、図2に、上記養生時と、硫化物等の測定時の要領を示す。また、図中、底質(泥)から出るスラグの厚みが、埋没していない底質改質材の高さを意味している。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
測定項目は、直上水のpH、直上水の硫化物濃度、直上雰囲気の硫化水素ガス濃度である。測定方法は、以下のとおりである。
それぞれの測定結果を表4に示す。
【0046】
直上水のpH
JIS Z 8802に準拠して行なった。
直上水の硫化物濃度
北川式硫化物用検知管を用いた。
硫化水素ガス濃度
硫化水素用検知管を取り付けたガステック製GV100S気体採取器を用いて、測定した。
【0047】
【表4】

【0048】
表4に示したとおり、本発明に従った条件で底質の改質を行った場合は、そのいずれもが、硫化水素ガスの発生、すなわち臭気の発生を効果的に抑制しつつ、底質中の硫化物を固定し、効果的に底質の改質が出来ていることが分かる。これに対し、何の底質改質材も敷設しない従来例や、底質改質材である製鋼スラグが全て埋没した比較例1および天然石だけの比較例2は、養生開始90日経過後も硫化水素が発生し続けている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底質改質材を用いて、底質の改質および臭気の低減を行うに際し、10vol%以上の間隙率を有する製鋼スラグを含む底質改質材を、該底質改質材が埋没しない量だけ投入することを特徴とする底質の改質および臭気低減方法。
【請求項2】
前記埋没していない底質改質材の高さを、底質から平均で10mm以上とすることを特徴とする請求項1に記載の底質の改質および臭気低減方法。
【請求項3】
前記10vol%以上の間隙率を有する製鋼スラグを、前記底質改質材全体に対して40mass%以上とすることを特徴とする請求項1または2に記載の底質の改質および臭気低減方法。
【請求項4】
前記底質改質材の投入を、2回以上に分けることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の底質の改質および臭気低減方法。
【請求項5】
前記底質改質材の投入を2回以上に分けて行うに際し、該2回以上の投入のうち少なくとも1の連続する2回の投入において、下層に投入する製鋼スラグの平均粒径が、上層に投入する製鋼スラグの平均粒径より小さいことを特徴とする請求項4に記載の底質の改質および臭気低減方法。
【請求項6】
前記底質改質材の投入を2回以上に分けて行うに際し、各回の投入の間に、少なくとも1時間の間隔を設けることを特徴とする請求項4または5に記載の底質の改質および臭気低減方法。
【請求項7】
前記製鋼スラグを、脱リンスラグとすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の底質の改質および臭気低減方法。
【請求項8】
前記製鋼スラグを、乾燥状態での全鉄(トータルFe)の含有量:10mass%以上とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の底質の改質および臭気低減方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−56325(P2013−56325A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−115076(P2012−115076)
【出願日】平成24年5月18日(2012.5.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】