説明

底質改善構造体及び底質改善方法

【課題】閉鎖性水域などへ底質改善剤を投下した後、その分布状況を把握でき、より確実に対象水域内に底質改善成分を供給できる手段の提供。
【解決手段】底質改善成分12を含有する固形剤1を有し、磁性体Mを構成要素として含有する底質改善構造体Aを閉鎖性・半閉鎖性水域に投下すると、底泥内に留まり、そこで固形剤1が溶解し、その周囲の底質改善を行う。同時に、この底質改善構造体Aは磁性体Mを備えているため、底質改善構造体Aの投下後、磁気探査手段などにより、その分布状況を把握できる。従って、対象水域が広い場合やその水域の透明度が低い場合であっても、均一、確実かつ有効に対象水域内を底質改善できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉鎖性・半閉鎖性水域における薬剤を用いた底質改善手段に関連する。より詳細には、底質改善成分を含有する固形剤を有し、磁性体を構成要素として含有する底質改善構造体、該底質改善構造体を水中へ投下する工程を含む底質改善方法などに関連する。
【背景技術】
【0002】
近年、港湾、湖沼、干潟、運河、堀など閉鎖性・半閉鎖性水域における底質の汚染が問題となっている。
【0003】
閉鎖性水域内などに産業排水・生活排水などが過剰に流入すると、有機物とともに、窒素化合物・リンなどの濃度が上昇し、水域内が富栄養化する。富栄養化が進行した水域ではプランクトンが異常増殖し、その死骸などが水底に堆積する。プランクトンの死骸やその他の堆積した有機物は、好気性微生物などにより分解され、その際、酸素が消費され、水底付近は貧酸素状態になる。底泥が貧酸素状態になると、有機物が酸化分解されて有機酸を生成し、底泥が酸性状態・還元状態となるとともに、嫌気性微生物により硫化水素などが生成され、悪臭を伴うようになる。また、底泥が還元状態となると、底泥中のリンが溶出し、富栄養化を助長する。
【0004】
底質を改善・浄化する手段として、浚渫により汚泥を除去する方法、覆砂により底質を被覆する方法、耕転・曝気などで底泥内に酸素を供給する方法、薬剤を用いた方法などが行われている。
【0005】
薬剤を用いた底質改善手段として、例えば、水酸化マグネシウムを用いて底泥を弱アルカリ性に改質することにより嫌気性微生物の活性を低くし硫化水素の発生を抑制する方法(特許文献1など参照)、過酸化カルシウムなどを用いて底泥内に酸素を供給することにより好気性微生物を活性化し底質を改善する方法(特許文献2など参照)などが検討されている。
【0006】
また、薬剤を用いた底質改善手段として、硝酸カルシウムなどを底泥に注入する方法も実用化されている(特許文献3など参照)。
【0007】
硝酸カルシウムは強力な酸化剤であり、また、水に易溶で潮解性の強い化合物である。硝酸カルシウムなどの酸化剤を底泥に注入すると、還元状態の底泥を酸化雰囲気に改善するとともに、硫化物を酸化し、硫化水素などによる悪臭の発生を抑制する。また、2価の鉄が3価に酸化され、可溶性リンを固定化することにより、リン溶出による水域の富栄養化を抑制する。さらに、脱窒菌の活性化により、有機物を窒素ガスと炭酸ガスに分解する反応を促進する。
【0008】
現在、硝酸カルシウムなどを底泥に注入する方法として、硝酸カルシウムの水溶液をゲル内に閉じ込めた上で、船上から底泥まで圧送するための管などを設置し、そのゲル状物を底泥内に注入する方法が一般的に行われている。しかし、硝酸カルシウムは潮解性が強いため、水溶液の調製を作業の直前に行う必要があること、ゲルの状態管理が必要でかつ熟練を有すること、このゲル状物を底泥に注入する際に大規模な設備が必要で、注入作業も比較的煩雑であることなどの難点があった。
【0009】
それに対し、特許文献4では、硝酸カルシウムなどを固形化する技術が開示されている。これにより、直接底泥などに固形剤を直接投下すればよいため、硝酸カルシウムなどを作業直前に調製する必要がなくなり、また、取り扱いも簡易になった。加えて、固形化することにより、大規模な注入設備を用いずに、また煩雑な作業を行わずに、底泥に硝酸カルシウムなどを供給できる。
【特許文献1】特開2001−181117号公報
【特許文献2】特開平2−218488号公報
【特許文献3】特開2000−218296号公報
【特許文献4】特開2002−45888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
薬剤を用いた底質改善手段において、例えば、底質改善成分を固形化できれば、その固形剤を船上などから底泥に投下するだけでよく、比較的簡易な作業で底質改善を図ることができる。
【0011】
しかし、その場合、投下後、対象水域における固形剤の分布状況がわからないため、目的の箇所に目的量の底質改善剤を供給できたかどうか、把握できない。
【0012】
そこで、本発明は、閉鎖性水域などへ底質改善剤を投下した後、その分布状況を把握でき、より確実に対象水域内を底質改善できる手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、底質改善成分を含有する固形剤を有し、磁性体を構成要素として含有する底質改善構造体、及び、その底質改善構造体を水中へ投下する工程を含む底質改善方法を提供する。
【0014】
例えば、この底質改善構造体を港湾、湖沼、干潟、運河、堀など閉鎖性・半閉鎖性水域に投下すると、一般的に底泥は軟らかいため、自重などで水中を落下し、底泥内に侵入し、底泥内に留まる。そこで固形剤が溶解し、底質改善成分が浸出し、その周囲の底質改善を行う。
【0015】
この底質改善構造体は、磁性体を含有しているため、底質改善構造体の投下後、磁気探査手段などにより、投下位置をモニタリングすることにより、目的の箇所に目的量の底質改善剤を供給できたかどうか、その分布状況を把握できる。従って、例えば、対象水域が広い場合やその水域の透明度が低い場合であっても、均一、確実かつ有効に対象水域内に底質改善成分を供給できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、固形剤を用いた底質改善において、閉鎖性水域などへ底質改善剤を投下した後、その分布状況を把握できるため、より確実に対象水域を底質改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<本発明に係る底質改善構造体について>
本発明は、底質改善成分を含有する固形剤を有し、磁性体を構成要素として含有する底質改善構造体をすべて包含する。
【0018】
図1は本発明に係る底質改善構造体の例を示す外観斜視・部分断面模式図である。
【0019】
図1の底質改善構造体Aは、底質改善成分12を含有する固形剤1を有し、磁性体Mを構成要素として含有し、かつ磁性体Mが固形剤1に含有されている構成を備える。即ち、断面11に示す通り、固形剤1の中に、底質改善成分12及び磁性体Mを含有する。
【0020】
固形剤1は、底質改善成分を有効成分として含有し、かつ固形化されたものであればよく、特に限定されない。
【0021】
底質改善成分は、公知のものを広く用いることができ、狭く限定されない。例えば、底泥を弱アルカリ性に改質することにより底質改善できる化合物、底泥内に酸素を供給することにより底質改善できる化合物、酸化剤などを広く包含する。
【0022】
底泥を弱アルカリ性に改質することにより底質改善できる化合物として、例えば、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硝酸マグネシウムなどのマグネシウム化合物が挙げられる。底泥内に酸素を供給することにより底質改善できる化合物として、例えば、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム、酸化鉄などが挙げられる。
【0023】
酸化剤として、例えば、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硝酸マグネシウム、硝酸マンガン、ミョウバンなどが挙げられる。これらの酸化剤は、還元状態の底泥を酸化雰囲気に改善するとともに、硫化物を酸化し、硫化水素などによる悪臭の発生を抑制でき、さらに、2価の鉄を3価に酸化し、可溶性リンを固定化することにより、リン溶出による水域の富栄養化を抑制するため、本発明に係る底質改善成分として好適である。また、これらのうち、硝酸塩は、脱窒菌を活性化し、有機物を窒素ガスと炭酸ガスに分解する反応を促進するため、より好適である。
【0024】
このうち、硝酸カルシウムは、酸化剤として最も強力な作用を有し、かつ、底質改善効果、特に、脱臭効果が高いので、最も好適である。なお、硝酸カルシウム中のカルシウム塩は、水中に溶解する有機酸・リンなどの成分を吸着・固定化し、水中への溶出を抑制する作用も有する。
【0025】
底質改善成分の固形化は、公知の技術を用いることができ、特に限定されない。例えば、上記の化合物と、結合剤を混合し、型に入れて加圧し(例えば、20〜100kg/cm)、所定の形状に成形することにより、製造できる。なお、固形剤1の形状は、目的・用途などに応じて設計すればよく、特に限定されない。
【0026】
結合剤としては、例えば、炭素数11〜31の常温で固体の脂肪族カルボン酸(例えば、ステアリン酸、ミリスチン酸、ベヘニン酸)又はそのエステル、芳香族カルボン酸又はそのエステルなどを用いることができる。なお、これらの化合物は疎水性である。従って、例えば、これらの結合剤の混合比率を1〜40重量%の範囲で適宜調節することにより、水中における酸化剤の溶出の速さを目的・用途などに応じて適宜調節できる。
【0027】
その他、上記の化合物と結合剤を混合する際、目的・用途などに応じて、適宜、他の化合物を加え、加圧・成形してもよい。
【0028】
固形剤1を、水不溶性又は水難溶性の基材で被覆してもよい。固形剤1をこれらの基材で被覆することにより、固形剤1の溶出をさらに遅くできる。従って、例えば、水に不溶性又は難溶性の基材による固形剤1の被覆を行ったものと行っていないものの両方の底質改善構造体を、若しくは被覆の度合いの異なる複数の底質改善構造体を同時に又は連続的に投下することにより、効果持続期間を延長させることができる。
【0029】
水不溶性又は水難溶性の基材として、例えば、ワックス類(カルナバロウ、ミツロウ、サラシミツロウ、硬化油、パラフィン、ステアリン酸及びステアリルアルコール)、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレングリコール類、ロジン、水素添加ロジングリセリンエステル、エステルガム、酢酸ビニル樹脂、寒天、アルギン酸、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。固形剤1の被覆処理(コーティング処理)は、公知の手段により、行うことができる。
【0030】
磁性体Mは、磁性探査手段により探知される材料で形成されていればよく、材質・形状などは特に限定されない。底質改善構造体Aが磁性体Mを備えることにより、底質改善構造体Aの投下後、磁気探査手段などにより、投下位置をモニタリングできるため、目的の箇所に目的量の底質改善剤を供給できたかどうか、その分布状況を把握できる。
【0031】
磁性体Mとして、例えば、鉄、ニッケル、コバルトなど、強い磁性を示す材質を用いることができる。なお、鉄製の磁性体Mは、水中に投下しても環境負荷が少ないこと、固形剤1に酸化剤を用いた場合、鉄が2価の鉄を3価に酸化し、可溶性リンを固定化することにより、リン溶出による水域の富栄養化を抑制できること、などから最も好適である。
【0032】
磁性体Mを固形剤1に含有させる手段は、公知技術を用いることができ、特に限定されない。例えば、底質改善成分を固形化する際に、底質改善用化合物と結合剤と磁性体Mとを混合し、型に入れて加圧・成形することにより、行うことができる。
【0033】
図2は本発明に係る底質改善構造体の別の例を示す外観斜視模式図、図3は同じく外観側方視模式図、図4は同じく断面模式図である。
【0034】
図2〜図4の底質改善構造体A’は、底質改善成分を含有する固形剤1と、磁性体で形成された被探査部材2とから構成されている。
【0035】
被探査部材2は、磁性体で形成された部材で、この部材が磁性探査手段で探知されることにより、投下位置のモニタリングなどが可能になる。被探査部材2は、磁性体材料のみで形成されていてもよく、また、他の材料を含有していてもよい。目的・機能などに応じた形状のものを適宜用いることができる。
【0036】
図2〜図4の底質改善構造体A’は、固形剤1に貫通孔が形成され、略棒状の被探査部材2に各固形剤1が挿嵌された構成を有する。この底質改善構造体A’では、4つの固形剤1が、それぞれ略筒状で貫通孔を有する形状に成形されており、被探査部材2はボルト21とナット22で構成されている。支柱となるボルト21に固形剤1を層状に差し込み、他端のネジ部21’にナット22を装着し、締止している。これにより、固形剤1が固定され、かつボルト21及びナット22が磁性体として、被探査部材2を形成している。
【0037】
この構成には、底質改善構造体A’を、安価かつ大量に生産できるという利点がある。なお、この略棒状の被探査部材2には、ボルト・ナットのほか、ネジと両端の留め具など、同様の構成を保持できる部材を用いてもよい。
【0038】
図5は、本発明に係る底質改善構造体のさらに別の例を示す外観側方視模式図である。
【0039】
図5の底質改善構造体A”は、底質改善成分を含有する固形剤1と、磁性体で形成される被探査部材2と、固形剤1を収容する容器3から構成されている。
【0040】
図5のように、水の出入が自由な容器3に収容することで固形剤1を固定し、その構造体A”を水中へ投下することによっても、前記と同様、固形剤が溶解し、底質改善成分が浸出し、その周囲の底質改善を行うことができる。
【0041】
また、容器3に被探査部材2を取り付けることにより、底質改善構造体A”の投下後、磁気探査手段などにより、投下位置をモニタリングできる。
【0042】
その他、固形剤1の比重は乾燥状態で概ね1.5〜2.0の範囲内であり、被探査部材2の比重は固形剤1及び容器3よりも高いため、水中で落下する際の底質改善構造体の向き(矢印Xを参照)を、被探査部材2を取り付けた部分が下向きになるように指定でき、着底を安定化できる。
【0043】
容器3の材質などは公知のものを用いることができ、特に限定されない。例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼイン、変性澱粉などの生分解性プラスチック製のものが、投下後の環境負荷が少ない点で好適である。
【0044】
図6及び図7は、水中落下速度調整手段を備えた底質改善構造体の例を示す外観側方視模式図である。
【0045】
図6の底質改善構造体A1では、図2などに示した底質改善構造体A’のネジ部21’に、水中落下速度増大部材41を装着している。
【0046】
水中落下速度増大部材41は、比重の高い材料、例えば、鉄製のものが好ましい。また、水中を落下する際の水の抵抗の少ない形状、例えば、略錘状のものが好適である。
【0047】
水中落下速度増大部材41を装着することにより、水中で落下する際の底質改善構造体A1の向き(矢印Xを参照)を指定できるのに加え、水中落下速度を速くできる。従って、通常の硬さの底泥の場合、比較的深い位置まで底質改善構造体A1を到達させることができ、また、通常よりも硬い底泥の場合でも、底泥の中まで底質改善構造体A1を到達させることができる。
【0048】
それに対し、図7の底質改善構造体A2では、図2などに示した底質改善構造体A’のネジ部21’に、水中落下速度抑制部材42を装着している。
【0049】
水中落下速度抑制部材42は、比重の低い材料、例えば、生分解性プラスチック製などのものが好ましい。また、水中を落下する際の水の抵抗の大きい形状、例えば、略傘形状などのものが好適である。
【0050】
水中落下速度抑制部材42を装着することにより、水中で落下する際の底質改善構造体A1の向き(矢印Xを参照)を指定できるのに加え、水中落下速度を遅くできる。従って、通常の硬さの底泥の場合、浅い位置で底質改善構造体A2を留まらせることができる。
【0051】
<本発明に係る底質改善方法について>
本発明は、底質改善成分を含有する固形剤を有し、磁性体を構成要素として含有する底質改善構造体を水中へ投下する工程を少なくとも含む底質改善方法をすべて包含する。即ち、本発明は、その他の工程が含まれていないことを理由に狭く限定されない。
【0052】
この定質改善方法は、例えば、
(1)底泥の硬さを事前に調査する工程、
(2)底質改善構造体を投下する前に、底泥を掘り起こす工程、
(3)底質改善構造体を投下する工程、
(4)底質改善構造体の投下後、磁気探査手段により、投下位置をモニタリングする工程、の順で行うことができる。
【0053】
工程(1)において、まず、底質改善構造体を大量投下する前に、底泥の硬さを事前に調査しておくことが好ましい。底質の硬さと底質改善構造体Aの水中落下速度を考慮し、底質改善構造体が底泥中の目的の深さに到達するかどうかを検討する。そして、目的の深さに底質改善構造体を到達させることができない場合は、例えば、上述の水中落下速度調整手段により、水中落下速度を調整する。
【0054】
工程(2)において、底質改善構造体を投下する前に、例えば、撹拌具などを先端に取り付けたチェーンやなどを船で曳航したり、船からポンプ圧送により水流を送ったりするなどにより、底泥を掘り起こす。これにより、底泥の表層を崩すことができ、底質改善構造体が底泥中に到達しやすい状態を作ることができる。
【0055】
工程(3)において、船上などから、底質改善構造体を連続的に投下する。投下手段は特に限定されないが、例えば、自動的に一定間隔で投下できるような投下装置を船上に設置し、用いてもよい。
【0056】
この工程は、工程(2)で底泥を掘り起こしてから、舞い上がった底泥が再び沈降する前に行うことが好ましい。投下された底質改善構造体は、底泥内に侵入し、底泥内に留まる。そこで固形剤が徐々に溶解し、底質改善成分が浸出し、その周囲の底質改善を行う。
【0057】
工程(4)において、底質改善構造体の投下後、磁気探査手段により、投下位置のモニタリングを行う。底質改善構造体が磁性体を含有しているため、磁気探査手段などで投下位置をモニタリングすることにより、目的の箇所に目的量の底質改善剤を供給できたかどうか、その分布状況を把握できる。これにより、例えば、対象水域が広い場合やその水域の透明度が低い場合であっても、均一、確実かつ有効に対象水域内に底質改善成分を供給できる。
【0058】
磁気探査手段には、例えば、通常の金属探知機など、磁気特性の変化を検出することにより磁性体の存在を検知できる既知の機械・装置を用いることができる。
【0059】
図8は、本発明に係る底質改善方法の例を示す模式図である。
【0060】
図8では、水底S上に堆積する底泥S1を改質するために、船5で撹拌具51を先端に取り付けたチェーンなどを曳航することにより、底泥S1を掘り起こすとともに、舞い上がった底泥S2が再び沈降する前に、船5上の投下手段52から底質改善構造体Aを水W内に連続的に投下している。
【0061】
例えば、図8中の底質改善構造体A1、水中落下速度増大部材を取り付けた底質改善構造体A2、水中落下速度抑制部材を取り付けた底質改善構造体A3を同時に又は連続して投下する場合のように、水中落下速度の異なる複数種の前記底質改善構造体を同時に又は連続して投下することにより、底泥中の深さの異なる位置に前記底質改善構造体を到達させることができる。
【0062】
これにより、底泥の厚く堆積した水域であっても、それぞれの深さに底質改善成分を供給できるため、底泥内の底質改善構造体の到達しない領域を減らすことができ、有効な底質改善を行うことができる。
【0063】
その他、水に不溶性又は難溶性の基材による前記固形剤の被覆を行ったものと行っていないものの両方の底質改善構造体を、若しくは被覆の度合いの異なる複数の前記底質改善構造体を同時に又は連続して投下することにより、施工後長期間、効果を持続させることができる。
【0064】
<磁気探査手段を用いた底質改善構造体の分布状況モニタリング方法>
本発明は、底質改善成分を含有する固形剤を有し、磁性体を構成要素として含有する底質改善構造体を水中へ投下した後、磁気探査手段により、各底質改善構造体の投下位置又は分布状況をモニタリングする手順を少なくとも含む、底質改善構造体の分布状況モニタリング方法をすべて包含する。
【0065】
例えば、比較的大規模な閉鎖性・半閉鎖性水域の底質改善を行う場合でも、大量の底質改善構造体を順次水中に投下した後、磁気探査手段でモニタリングすることにより、各底質改善構造体の投下位置や分布状況を把握できる。従って、大規模な底質改善を施工する場合でも、底質改善構造体の分布ムラを少なくでき、均一かつ確実に、底質改善成分を対象水域内に供給できる。
【0066】
<磁気探査手段を用いた底質改善評価方法>
本発明は、底質改善成分を含有する固形剤を有し、磁性体を構成要素として含有する底質改善構造体を水中へ投下した後、磁気探査手段により、底質改善の進行を評価する手順を少なくとも含む底質改善評価方法をすべて包含する。
【0067】
例えば、図1のように磁性体が固形剤に含有されている場合、若しくは図2などのように磁性体の一部が固形剤で覆われている場合、固形剤の溶出の程度により、磁性体の露出の度合いや露出面積が変化する。従って、底質改善構造体を水域に投下してから所定期間経過後に、磁気探査手段などを用いて、磁性体の露出の度合いや露出面積の変化に基づく磁気特性の変化を検出することにより、固形剤の溶出の程度を推定でき、それに基づき底質改善の進行の度合いを評価できる。これにより、ダイバーなどが潜水などを行わずに、船上などから比較的簡易に底質改善を評価できるため、労力を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、港湾、湖沼、干潟、運河、堀など閉鎖性・半閉鎖性水域において、固形化できる薬剤を用いて底質改善を行う場合に、底質改善成分の分布状況をモニタリングできるため、底質改善成分の分布ムラを少なくでき、均一かつ確実に、底質改善成分を対象水域内に供給できる点、比較的低労力・低コストで施工できる点、比較的広範囲の水域を底質改善したい場合にも適用できる点などで有用である。
【0069】
上述の通り、硝酸カルシウムを用いた底質改善方法は、底質改善効果、特に、脱臭効果の高い方法である。現在、硝酸カルシウムの水溶液をゲル内に閉じ込めた上で、船上から底泥まで圧送するための管などを設置し、そのゲル状物を底泥内に注入する方法が一般的に行われている。
【0070】
しかし、この方法の場合、硝酸カルシウムは潮解性が強いため、硝酸カルシウム水溶液の調製を、施工現場などで、作業の直前に行う必要がある。また、施工段階で、硝酸カルシウム水溶液の均一状態を保持するため、攪拌作業が必要であり、施工管理が煩雑であった。さらに、ゲルの状態管理が必要であり、その管理が不充分な場合、圧送したゲルが底泥中に混在しないで底泥表面に漏れ出し、水中へ溶解する。そのため、熟練した作業員が行わないと、一定量かつ均一な硝酸カルシウムの注入が難しいという問題があった。即ち、この方法で施工する場合、充分な経験と多大な労力が必要であるという問題があった。
【0071】
一方、固形化した硝酸カルシウムを用いた場合、固形剤の投下・散布などの労力は大幅に軽減され、また、取り扱いも容易になる。しかし、この場合、目的の箇所に目的量の底質改善剤を供給できたかどうか、把握できない。そのため、投下状況などをダイバーなどが直接確認する必要が生じ、大規模な施工が難しいという問題があった。
【0072】
それに対し、本発明は、目的の箇所に目的量の底質改善剤を供給できたかどうか、その分布状況を把握できる底質改善手段であり、固形化した硝酸カルシウムにも適用できる。また、底質改善構造体を水域に投下すればよいため、労力・コストを大幅に軽減でき、施工管理も容易で、大規模な施工にも適用できる。従って、本発明は、硝酸カルシウムを用いて、簡易、有効かつ大規模に底質改善工事を施工できる点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る底質改善構造体の例を示す外観斜視及び部分断面模式図。
【図2】本発明に係る底質改善構造体の別の例を示す外観斜視模式図。
【図3】本発明に係る底質改善構造体の別の例を示す外観側方視模式図。
【図4】本発明に係る底質改善構造体の別の例を示す断面模式図。
【図5】本発明に係る底質改善構造体のさらに別の例を示す外観側方視模式図。
【図6】水中落下速度調整手段を備えた底質改善構造体の例を示す外観側方視模式図(水中落下速度増大部材41を装着した場合)。
【図7】水中落下速度調整手段を備えた底質改善構造体の別の例を示す外観側方視模式図(水中落下速度抑制部材42を装着した場合)。
【図8】本発明に係る底質改善方法の例を示す模式図。
【符号の説明】
【0074】
1 固形剤
2 被探査部材
21 ボルト
22 ナット
3 容器
41 水中落下速度増大部材
42 水中落下速度抑制部材
5 船
51 撹拌具
52 投下手段
A 底質改善構造体
M 磁性体
S 水底
S1 底泥
W 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底質改善成分を含有する固形剤を有し、磁性体を構成要素として含有する底質改善構造体。
【請求項2】
前記磁性体が前記固形剤に含有されているか、又は、前記磁性体で形成された被探査部材を備える請求項1記載の底質改善構造体。
【請求項3】
水中落下速度調整手段を備えた請求項2記載の底質改善構造体。
【請求項4】
水不溶性又は水難溶性の基材で前記固形剤が被覆された請求項1記載の底質改善構造体。
【請求項5】
請求項1記載の底質改善構造体を水中へ投下する工程を含む底質改善方法。
【請求項6】
前記底質改善構造体の投下後、磁気探査手段により、投下位置をモニタリングする工程を含む請求項5記載の底質改善方法。
【請求項7】
前記底質改善構造体を投下する前に、底泥を掘り起こす工程を含む請求項5記載の底質改善方法。
【請求項8】
水中落下速度の異なる複数種の前記底質改善構造体を投下する請求項5記載の底質改善方法。
【請求項9】
水に不溶性又は難溶性の基材により前記固形剤の被覆を行ったものと行っていないものの両方の底質改善構造体を、若しくは被覆の度合いの異なる複数の前記底質改善構造体を投下する請求項5記載の底質改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−161754(P2012−161754A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24843(P2011−24843)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(594130662)米山化学工業株式会社 (3)
【出願人】(301050278)日本ミクニヤ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】