説明

座席グリップ

【課題】指を差し入れて握ることができる挿通グリップと、球状に形成されると共に挿通グリップの上部に設けられ、手の平で掴むことができる球状グリップとを具備する新規な座席グリップにおいて、挿通グリップを堅固に構成することができると共に、球状グリップにある程度の柔らかさをもたせることができるようにする。
【解決手段】乗物用座席の背当2の上部に設けられる座席グリップ10であって、使用者が指を挿通させて握ることが可能な挿通グリップ20と、該挿通グリップ20よりも柔軟な部材によって球状に形成され、挿通グリップ20の上部に取着された球状グリップ30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座席グリップに関するものであり、詳しくは、バスや列車等の乗物において、乗客が握ったり掴んだりすることで体を支えることができるように、座席の背当の上部に設けられる座席グリップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
バスや列車等の乗物においては、複数の座席が、クロス配列やロング配列等、適宜配列で配置されている。ここで、クロス配列は、座席の前後方向を乗物の前後方向(長さ方向)に向かわせた配列であり、複数の座席を、各座席の前後に他の座席が配置されるように、乗物の前後方向に沿って列設した配列である。また、ロング配列は、座席の前後方向を乗物の左右方向(幅方向)に向かわせた配列であり、複数の座席を、各座席の左右に他の座席が配置されるように、乗物の前後方向に沿って並設した配列である。
【0003】
ところで、複数の座席がクロス配列で配置された乗物では、後の座席の乗客が立上がる際に体を支えることができるように、前の座席の背当の上部に座席グリップが設けられているのが通常である。そして、一般的な座席グリップは、指を差し入れて握ることができるように棒状に形成されている。また、座席の背当の上部に設けられる座席グリップとしては、乗客が乗物の通路を移動する際に、手の平で掴んで体を支えることができるように、突起状のものも案出されている。
【0004】
【特許文献1】実開平6−42386号公報
【特許文献2】特開平11−78644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような従来の座席グリップに対し、本願発明者は、指を差し入れて握ることができる挿通グリップと、挿通グリップの上部に設けられると共に球状に形成され、手の平で掴むことができる球状グリップとを具備する新規な座席グリップを案出した。
【0006】
この新規な座席グリップでは、下部が挿通グリップとなっているため、下方から挿通グリップを円滑に適確に握ることができ、後の座席に座った乗客が立上がる際に挿通グリップを握ることで、しっかりと体を支えることができる。また、上部が球状グリップとなっているため、上方から球状グリップを円滑に掴んだり球状グリップに手を円滑に添えたりすることができ、乗客が通路を移動する際に球状グリップを掴んだり球状グリップに手を添えたりすることで、しっかりと体を支えることができる。さらに、球状グリップは、外面が球状であり、方向性のないものであるため、背当を大きくリクライニングさせた状態であっても、また、座席グリップの取付け角度が異なる種々の座席に適用した場合においても、乗客が通路を移動する際に、球状グリップを掴んだり球状グリップに手を添えることを良好に行うことができる。
【0007】
ところで、本願発明者は、上述の新規な座席グリップを実現するに際して、挿通グリップについては、主に、後の座席に座った乗客が立上がる際に握るものであることから、がっちりと握ることができるように、堅固に構成することが望ましい一方で、球状グリップについては、主に、乗客が通路を移動中に手を当てて握ったり手を添えたりするものであることから、手の平に優しくフィットするように、ある程度の柔らかさをもたせることが望ましいことを、鋭意研究の結果、新たに見出した。
【0008】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、指を差し入れて握ることができる挿通グリップと、球状に形成されると共に挿通グリップの上部に設けられ、手の平で掴むことができる球状グリップとを具備する新規な座席グリップにおいて、挿通グリップを堅固に構成することができると共に、球状グリップにある程度の柔らかさをもたせることができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の採った主要な手段は、
「乗物用座席の背当の上部に設けられる座席グリップであって、
使用者が指を挿通させて握ることが可能な挿通グリップと、
該挿通グリップよりも柔軟な部材によって球状に形成され、挿通グリップの上部に取着された球状グリップと
を備えることを特徴とする座席グリップ」
である。
【0010】
挿通グリップ及び球状グリップを含めて座席グリップ全体を硬質の材料によって形成すると、挿通グリップの堅固さを得られる一方で、球状グリップの所望の柔らかさを得ることができない。また、座席グリップ全体を軟質の材料によって形成すると、球状グリップの柔らかさを得られる一方で、挿通グリップの所望の堅固さを得ることができない。そこで、上記構成では、挿通グリップと球状グリップとを、夫々、個別に形成すると共に、球状グリップを、挿通グリップよりも軟質の材料によって形成する。これにより、挿通グリップを堅固に構成することができると共に、球状グリップにある程度の柔らかさをもたせることができる。
【0011】
上述した手段において、
「前記球状グリップは、前記挿通グリップを外嵌する外嵌部と、該外嵌部の下方に設けられ、前記外嵌部を拡開可能にするスリットとを有する球状部材により構成されていることを特徴とする座席グリップ」
としてもよい。
【0012】
上記構成では、球状グリップの外嵌部を挿通グリップに外嵌させるため、球状グリップを挿通グリップに、がたつきがないように、堅固に取着することができる。また、外嵌部はスリットによって拡開可能であるため、球状グリップを挿通グリップに円滑に装着することができる。しかも、スリットが外嵌部の下方に設けられているため、挿通グリップの上部に球状グリップを取着した状態において、スリットが球状グリップの側面や上面に露呈することはない。よって、スリットによって、美観を損ねることがないばかりでなく、球状グリップを掴んでもスリット部分に触れ難く、球状グリップを掴んだ手のフィット感が大きく損なわれることがない。
【0013】
上述した手段において、
「前記球状部材の前記スリットの両側部には、夫々、溝部が設けられており、
前記各溝部に嵌入された嵌入部を有する固定キャップによって前記外嵌部が拡開不能に固定されていることを特徴とする座席グリップ」
としてもよい。
【0014】
例えば、挿通グリップに外嵌した球状グリップを、止めネジによって、挿通グリップに直接、固定してもよいが、球状グリップは、柔軟な部材であるため、止めネジによる固定では脆弱となる虞がある。また、止めネジが球状グリップの外面に露呈して、手で掴んだ際のフィット感を阻害する虞もある。
【0015】
これに対して、上記構成では、固定キャップの嵌合部をスリットの両側部に設けられた溝部に嵌入させることで、外嵌部が拡開することを規制し、挿通グリップに装着された球状グリップが外れないようにする。よって、挿通グリップに球状グリップを堅固に固定することができる。また、固定キャップは、球状部材の下面のスリット部分に装着されるものであり、球状グリップの側面や上面に大きく露呈するものではないため、固定キャップによっては、球状グリップを手で掴んだ際のフィット感が大きく損なわれることがない。
【発明の効果】
【0016】
上述した通り、本発明によれば、指を差し入れて握ることができる挿通グリップと、球状に形成されると共に挿通グリップの上部に設けられ、手の平で掴むことができる球状グリップとを具備する新規な座席グリップにおいて、挿通グリップを堅固に構成することができると共に、球状グリップにある程度の柔らかさをもたせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る座席グリップの実施形態としての一例を、以下、図面に従って詳細に説明する。
【0018】
図1に、バス、列車、航空機、船舶等の乗物に設置された座席1の一例を示す。ここで、座席1は、乗客が着座する座(図示しない)と、座に着座した乗客が背中を凭れさせることができる背当2とを有するものであり、乗物内に、所謂「クロス配列」で設置されたものである。そして、乗物内の通路側に面する座席1において、その背当2の通路側の上側部に、本発明に係る座席グリップ10が設けられている。
【0019】
座席グリップ10は、棒状に形成された挿通グリップ20と、球状に形成され、挿通グリップ20の上部に取着された球状グリップ30とを具備するものとして構成されている。ここで、挿通グリップ20は、PA(ポリアミド樹脂)等の硬質な材料から形成されており、球状グリップ30は、TPA(熱可撓性エラストマー)等、挿通グリップ20よりも軟質な材料から形成されている。
【0020】
このように本発明に係る座席グリップ10では、球状グリップ30が挿通グリップ20よりも柔らかいものであり、座席グリップ10全体の最上の面が、この柔らかい球状グリップ30によって構成される。よって、乗客が乗物内の通路を移動する際に座席グリップ10の上方から手や体を当てたとしても、乗客に大きな痛みを与えない。よって、本発明に係る座席グリップ10は、乗物の通路側に設けられる座席グリップ10として好適に用いることができる。
【0021】
次に、本例の座席グリップ10の詳細を、座席1への取付けの仕方と共に説明する。
【0022】
図2に、座席1の背当2に挿通グリップ20を取付ける状態を示す。
【0023】
挿通グリップ20は、円弧状の握り部21と、握り部21の上部から内方に延出する梁部22とを有し、全体で、略「フ」字状に形成されている。また、挿通グリップ20は、背当2の骨組みを構成する背当フレーム3に止めネジ26によって固定されるものであり、握り部21の下部及び梁部22の先端部には、夫々、止めネジ26の通し孔25が穿設されている。
【0024】
また、挿通グリップ20の握り部21の下部には、背当フレーム3に向かって、掛止片23が突設されており、止めネジ26による固定だけでなく、掛止片23を背当フレーム3に設けられた掛止孔4に掛止させることで、挿通グリップ20を背当フレーム3に回動不能に堅固に固定することができる。しかも、挿通グリップ20の梁部22の先端には、角形(本例では四角形)の嵌合穴24が凹設されており、背当フレーム3に突設された嵌合突起5を嵌合穴24に嵌合させることでも、挿通グリップ20を背当フレーム3に回動不能に堅固に固定することができる。
【0025】
止めネジ26による挿通グリップ20のネジ止め部分において、握り部21のネジ止め部分については、PA(ポリアミド樹脂)等の硬質な材料から挿通グリップ20とは別途に形成された隠蔽キャップ27が装着され、止めネジ26が隠蔽される。一方、梁部22のネジ止め部分については、後述する球状グリップ30の挿通グリップ20への取着によって、止めネジ26が隠蔽される(図3参照)。
【0026】
なお、背当フレーム3は、握り部21及び梁部22を固定する部分が、夫々、背当2の表皮の切れ目6から露呈されるのであるが、背当フレーム3に挿通グリップ20を取付けた状態では、握り部21に対する固定部分の表皮の切れ目6は、全体が、握り部21の背当フレーム3への取付け面によって押圧されると共に隠蔽される(図3参照)。一方、梁部22に対する固定部分の表皮の切れ目6は、梁部22の背当フレーム3への取付け面によっては、全体が隠蔽されないのであるが(図3参照)、後述する球状グリップ30の挿通グリップ20への取着によって、この部分の表皮の切れ目6は隠蔽される。
【0027】
また、本例の座席グリップ10では、挿通グリップ20の梁部22が、背当2の側方から斜め後方に延びており、手を差し入れて握る部分である握り部21の上部が、背当2の斜め後方に張り出す形態となっている。よって、後の座席1の乗客にとって、前の座席1の座席グリップ10の挿通グリップ20が握り易くなっている。
【0028】
図3に、背当フレーム3に取付けられた挿通グリップ20に球状グリップ30を取着する状態を示す。
【0029】
球状グリップ30は、図4〜6に示すように、外面全体が略球状に形成されている。また、球状グリップ30には、角柱状(本例では四角柱状)に形成された梁部22の外周形状に合致して梁部22に外嵌される外嵌部31が貫通状に設けられている。さらに、外嵌部31の底面には、貫通状の外嵌部31に沿って、スリット32が設けられており、このスリット32によって、外嵌部31が拡開可能となっている。しかも、外嵌部31の天面には、貫通状の外嵌部31に沿って、溝35が凹設されており、この溝35によって、外嵌部31が良好に拡開可能となっている。
【0030】
また、球状グリップ30の下面には、キャップ装着部33が設けられており、このキャップ装着部33に、図7に示す固定キャップ40を装着することで、外嵌部31の拡開が規制される。具体的に、固定キャップ40は、略長円形状に形成されており、固定キャップ40の外側縁全周には、嵌合部41が凸設されている。一方、球状グリップ30においては、スリット32の両側部に溝部34が凹設されてり、球状グリップ30に固定キャップ40を装着した状態では、球状グリップ30の溝部34に固定キャップ40の嵌合部41が嵌合し、固定キャップ40が所謂「カスガイ」として機能して、球状グリップ30の外嵌部31が拡開不能となる。
【0031】
また、挿通グリップ20への球状グリップ30の取着に際しては、図3に示すように、球状グリップ30の外嵌部31を拡開させて、外嵌部31を挿通グリップ20の梁部22に外嵌させる。そして、球状グリップ30に固定キャップ40を下方から装着し、図8に示すように、固定キャップ40に挿通させた止めネジ42の先端部分を梁部22の下面に設けられたネジ孔43に螺着することによって、固定キャップ40を挿通グリップ20の梁部22にネジ止めする。ここで、固定キャップ40は、PA(ポリアミド樹脂)等の硬質の材料から形成されており、挿通グリップ20の梁部22に堅固にネジ止めされる。
【0032】
なお、図4に示すように、球状グリップ30の側面には、収容部36が凹設されており、図1に示すように、挿通グリップ20は、握り部21の上部において、握り部21の厚さ方向(座席の左右方向)の一部が球状グリップ30の収容部36に収容される形態となっている。よって、本例の座席グリップ10では、球状グリップ30の側方に挿通グリップ20が大きく突出せず、通路を移動する乗客にとって、座席グリップ10の斜め上方から手を添えることで、球状グリップ30をスムーズに掴むことができる。
【0033】
一方、球状グリップ30の背当2側の側面には、図5に示すように、球体から円筒状に突出する円筒部37が設けられており、円筒部37の先端面は、フラットな面となっている。よって、この円筒部の37の先端面によって、嵌合突起5周りに露呈する表皮の切れ目6を適度に押圧すると共に、表皮の切れ目6全体を適確に隠蔽することができる。
【0034】
また、本例の座席グリップ10では、挿通グリップ20の梁部22が屈曲状に形成されており、球状グリップ30の外嵌部31が、屈曲状の梁部22全体に外嵌する。よって、挿通グリップ20に球状グリップ30を装着した状態では、梁部22と外嵌部31との嵌合によって、球状グリップ30は、挿通グリップ20に対して、梁部22の軸周りに回動不能となるばかりでなく、屈曲状の梁部22に外嵌することで、軸方向に移動不能となって、堅固に固定される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る座席グリップを設けた座席の一例を示す要部斜視図である。
【図2】背当に挿通グリップを取付ける状態を示す斜視図である。
【図3】挿通グリップに球状グリップを取着する状態を示す斜視図である。
【図4】下方から見た球状グリップの斜視図である。
【図5】上方から見た球状グリップの斜視図である。
【図6】球状グリップの中央断面図である。
【図7】固定キャップの斜視図である。
【図8】挿通グリップに球状グリップを取着した状態を示す球状グリップの中央断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 座席
2 背当
3 背当フレーム
4 掛止孔
5 嵌合突起
6 切れ目
10 座席グリップ
20 挿通グリップ
21 握り部
22 梁部
23 掛止片
24 嵌合穴
25 通し穴
26 止めネジ
27 隠蔽キャップ
30 球状グリップ
31 外嵌部
32 スリット
33 キャップ装着部
34 溝部
35 溝
36 収容部
37 円筒部
40 固定キャップ
41 嵌合部
42 止めネジ
43 ネジ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用座席の背当の上部に設けられる座席グリップであって、
使用者が指を挿通させて握ることが可能な挿通グリップと、
該挿通グリップよりも柔軟な部材によって球状に形成され、挿通グリップの上部に取着された球状グリップと
を備えることを特徴とする座席グリップ。
【請求項2】
前記球状グリップは、前記挿通グリップを外嵌する外嵌部と、該外嵌部の下方に設けられ、前記外嵌部を拡開可能にするスリットとを有する球状部材により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の座席グリップ。
【請求項3】
前記球状部材の前記スリットの両側部には、夫々、溝部が設けられており、
前記各溝部に嵌入された嵌入部を有する固定キャップによって前記外嵌部が拡開不能に固定されていることを特徴とする請求項2に記載の座席グリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−296725(P2008−296725A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144630(P2007−144630)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000003517)天龍工業株式会社 (17)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】