説明

座標変換処理手段を備えた信号処理装置、電動機および再生可能エネルギーに用いられる系統連系インバータ

【課題】座標変換処理(回転座標変換処理または静止座標変換処理)のための信号処理装置等を含むシステムであっても、システム解析を容易なものとすることができる信号処理装置等を提供する。
【解決手段】静止座標系で表されている、互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβと、回転座標系の2つの信号Xd、Xqの間で、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、座標変換する信号処理装置等であって、±1および±jを行列要素とし、かつ、複素表示の回転行列を対角化する行列およびその逆行列を用いて、前記対角化された回転行列の左右から前記行列およびその逆行列を掛けることにより表現された回転行列を用いる座標変換処理手段を備えた。これにより、信号処理装置等を含むシステムの解析を容易なものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座標変換処理(回転座標変換処理または静止座標変換処理)のための信号処理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種システムを制御するために、フィードバック制御システムが用いられている。
【0003】
図3は、一般的なフィードバック制御システムの基本構造を説明するための図である。
【0004】
制御装置20は、制御対象10の出力である制御量に応じた制御信号を制御対象10に入力することで、制御量を目標値に制御するものである。制御対象10は、プラント11、検出部12、および操作部13を備えており、制御装置20は、制御部21を備えている。
【0005】
検出部12は、プラント11の出力である制御量を検出し、フィードバック信号に変換して出力する。制御部21は、検出部12が出力したフィードバック信号と外部から入力される目標値との差分を入力され、これに応じた制御信号を操作部13に出力する。操作部13は、制御部21から入力される制御信号を、プラント11に入力するための操作量に変換して出力する。
【0006】
フィードバック制御システムは、例えば、三相インバータの出力電流を制御するためにも使用されている。三相交流の出力電流を制御する場合、制御量は3つの出力電流となる。この場合、制御を容易にするための工夫が取り入れられている。
【0007】
図4は、3つの制御量を制御するためのフィードバック制御システムの基本構造を説明するための図である。なお、3つの制御量の波形はそれぞれ正弦波となり、各波形の位相はそれぞれ2π/3ずつ異なっている。このような3つの正弦波は、起点を一致させた、2π/3ずつ向きの異なる3つのベクトルが所定の角速度で反時計回りに回転している状態における各ベクトルの正射影として説明することができる。したがって、以下の説明では、各制御量などの変化を回転の概念で説明する場合がある。
【0008】
図4に示すフィードバック制御システムは、3つの制御量の制御を行う点、および、3つのフィードバック信号を制御しやすい2つの信号に変換してから制御を行う点で、図3に示すフィードバック制御システムと異なる。なお、プラント31、検出部32、および操作部33は、入出力が3つずつある点以外は、図3に示すプラント11、検出部12、および操作部13とそれぞれ同様である。
【0009】
三相/二相変換処理部42は、検出部32から入力される3つのフィードバック信号Xa,Xb,Xcを、互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα,Xβに変換するものである。三相/二相変換処理部42は、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、フィードバック信号Xa,Xb,Xcを互いに直交するα軸成分とβ軸成分とにそれぞれ分解して、各軸成分をまとめることで正弦波信号Xα,Xβを生成する。
【0010】
三相/二相変換処理部42で行われる変換処理は、下記(1)式に示す行列式で表される。
【0011】
【数1】

なお、フィードバック信号Xa,Xb,Xcは各制御量を検出したものである。各制御量は所定の角速度で反時計回りに回転するベクトルで表すことができる。したがって、フィードバック信号Xa,Xb,Xcも所定の角速度で反時計回りに回転するベクトルで表すことができる。また、正弦波信号Xα,Xβもこれらと同じ角速度で反時計回りに回転するベクトルで表すことができる。
【0012】
dq変換処理部43は、三相/二相変換処理部42から入力される正弦波信号Xα,Xβを、回転座標系の2つの信号Xd,Xqに変換するものである。回転座標系は、直交するd軸とq軸とを有し、各制御量を示すベクトルと同一の角速度で同一の回転方向に回転する直交座標系である。回転座標系の反対概念として、回転しない座標系を静止座標系とする。dq変換処理部43は、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものであり、静止座標系の正弦波信号Xα,Xβを回転座標系の信号Xd,Xqに変換する。
【0013】
回転座標系は、静止座標系で回転する各制御量を示すベクトルと同一の角速度で同一の回転方向(反時計回り)に座標軸を回転させたものである。したがって、静止座標系から回転座標系への座標変換は、静止座標系を回転するベクトルの回転を停止させる方向(時計回り)の回転変換処理になる。つまり、いずれかの制御量を基準として当該制御量の位相をθとすると、dq変換処理部43で行われる変換処理は、位相θと同じだけ逆方向(時計回り)に回転させる処理になり、下記(2)式に示す行列式で表される。
【0014】
【数2】

【0015】
回転座標系制御部41は、dq変換処理部43が出力した信号Xd,Xqとそれぞれの目標値Xd*,Xq*との差分を入力され、これに応じた信号X’d,X’qを逆dq変換処理部44に出力する。回転座標系は各制御量を示すベクトルと同一の角速度で同一の回転方向に回転しているので、回転座標系の信号Xd,Xqを示すベクトルは回転せず、信号Xd,Xqは位相の変化によっては変化しない直流信号になる。したがって、目標値Xd*,Xq*として位相の変化に関係しない値を用いることができるので、回転座標系制御部41は、精度のよい制御を行うことができる。
【0016】
逆dq変換処理部44は、回転座標系制御部41から入力される信号X’d,X’qを、静止座標系の2つの正弦波信号X’α,X’βに変換するものであり、dq変換処理部43とは逆の変換処理を行うものである。逆dq変換処理部44は、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものであり、回転座標系の信号X’d,X’qを静止座標系の正弦波信号X’α,X’βに変換する。
【0017】
回転座標系から静止座標系への変換は、回転座標系にて停止しているベクトルを各制御量を示すベクトルの回転方向と同じ方向(反時計回り)に回転させる回転変換処理になる。つまり、逆dq変換処理部44で行われる変換処理は、基準とした制御量の位相θだけ同じ方向(反時計回り)に回転させる処理になり、下記(3)式に示す行列式で表される。
【0018】
【数3】

【0019】
二相/三相変換処理部45は、逆dq変換処理部44から入力される正弦波信号X’α,X’βを、3つの正弦波信号X’a,X’b,X’cに変換するものである。二相/三相変換処理部45は、いわゆる二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)を行うものであり、三相/二相変換処理部42とは逆の変換処理を行うものである。
【0020】
二相/三相変換処理部45で行われる変換処理は、下記(4)式に示す行列式で表される。
【0021】
【数4】

【0022】
操作部33は、二相/三相変換処理部45から入力された正弦波信号X’a,X’b,X’cを、プラント31に入力するための操作量に変換して出力する。
【0023】
上述した例のように、一般的に、静止座標系の正弦波信号Xα,Xβを回転座標系の信号Xd,Xqに変換する回転座標変換処理としてdq変換処理が用いられ、回転座標系の信号X’d,X’qを静止座標系の正弦波信号X’α,X’βに変換する静止座標変換処理として逆dq変換処理が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2009−44897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、dq変換処理または逆dq変換処理を含むシステムの解析には複雑な計算が必要になるという問題があった。すなわち、dq変換処理および逆dq変換処理は、それぞれ上記(2)、(3)式に示すように、2行2列の行列で表される。当該行列の各要素はすべて位相θを含んでおり、位相θが時間によって変化するので、行列のすべての要素が時間によって変化する。したがって、これらを含むシステムの解析には、複雑な計算を行う必要がある。
【0026】
例えば、図5に示すシステムは、下記(5)式に示す行列で表される。この行列を計算するためには、複雑な計算処理が必要になる。
【数5】

【0027】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、座標変換処理(回転座標変換処理または静止座標変換処理)のための信号処理装置等を含むシステムであっても、システム解析を容易なものとすることができる信号処理装置等を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0029】
本発明の第1の側面によって提供される信号処理装置は、静止座標系で表されている、互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβと、回転座標系の2つの信号Xd、Xqの間で、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、座標変換する信号処理装置であって、±1および±jを行列要素とし、かつ、複素表示の回転行列を対角化する行列およびその逆行列を用いて、前記対角化された回転行列の左右から前記行列およびその逆行列を掛けることにより表現された回転行列を用いる座標変換処理手段を備えていることを特徴とする。
【0030】
本発明の第2の側面によって提供される電動機は、静止座標系で表されている、互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβと、回転座標系の2つの信号Xd、Xqの間で、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、座標変換する電動機であって、±1および±jを行列要素とし、かつ、複素表示の回転行列を対角化する行列およびその逆行列を用いて、前記対角化された回転行列の左右から前記行列およびその逆行列を掛けることにより表現された回転行列を用いる座標変換処理手段を備えていることを特徴とする。
【0031】
本発明の第3の側面によって提供される再生可能エネルギーに用いられる系統連系インバータは、静止座標系で表されている、互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβと、回転座標系の2つの信号Xd、Xqの間で、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、座標変換する再生可能エネルギーに用いられる系統連系インバータであって、±1および±jを行列要素とし、かつ、複素表示の回転行列を対角化する行列およびその逆行列を用いて、前記対角化された回転行列の左右から前記行列およびその逆行列を掛けることにより表現された回転行列を用いる座標変換処理手段を備えていることを特徴とする。
【0032】
本発明の第4の側面によって提供される信号処理装置は、静止座標系で表されている、互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβを、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、回転座標系の2つの信号Xd、Xqに変換する信号処理装置であって、下記行列式を用いて、前記正弦波信号Xα、Xβから前記信号Xd、Xqを算出する回転座標変換処理手段を備えていることを特徴とする。
【数6】

【0033】
本発明の第5の側面によって提供される信号処理装置は、静止座標系で表されている、互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβを、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、回転座標系の2つの信号Xd、Xqに変換する信号処理装置であって、下記行列式を用いて、前記正弦波信号Xα、Xβから前記信号Xd、Xqを算出する回転座標変換処理手段を備えていることを特徴とする。
【数7】

【0034】
本発明の好ましい実施の形態においては、互いに位相が2π/3ずつ異なる3つの正弦波信号を、前記2つの正弦波信号Xα、Xβに変換する三相/二相変換処理手段をさらに備えている。
【0035】
本発明の第6の側面によって提供される信号処理装置は、回転座標系で表されている2つの信号Xd、Xqを、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、静止座標系の互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβに変換する信号処理装置であって、下記行列式を用いて、前記信号Xd、Xqから前記正弦波信号Xα、Xβを算出する静止座標変換処理手段を備えていることを特徴とする。
【数8】

【0036】
本発明の第7の側面によって提供される信号処理装置は、回転座標系で表されている2つの信号Xd、Xqを、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、静止座標系の互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβに変換する信号処理装置であって、下記行列式を用いて、前記信号Xd、Xqから前記正弦波信号Xα、Xβを算出する静止座標変換処理手段を備えていることを特徴とする。
【数9】

【0037】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記2つの正弦波信号Xα、Xβを、互いに位相が2π/3ずつ異なる3つの正弦波信号に変換する二相/三相変換処理手段をさらに備えている。
【0038】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記3つの正弦波信号は、三相交流の各相の出力電流信号である。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、座標変換処理(回転座標変換処理手段または静止座標変換処理手段を含む)で用いられる行列(以下では、「変換行列」とする。)は、3つの行列の積で表されている。そして、左側の行列(T)と右側の行列(T-1)とは互いの逆行列であり、中央の行列は対角行列である。したがって、変換行列どうしの積を計算する場合、行列(T)と行列(T-1)との積が単位行列となり、中央の行列どうしの積を計算することになる。また、中央の行列は指数関数の対角行列なので、計算が容易である。したがって、当該信号処理装置を含むシステムの解析を容易なものとすることができる。
【0040】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】第1実施形態に係る信号処理装置を説明するためのブロック図である。
【図2】第2実施形態に係る信号処理装置を説明するためのブロック図である。
【図3】一般的なフィードバック制御システムの基本構造を説明するための図である。
【図4】3つの制御量を制御するためのフィードバック制御システムの基本構造を説明するための図である。
【図5】例示のためのシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0043】
図1は、本発明に係る信号処理装置を説明するためのブロック図である。同図(a)は、回転座標変換処理を行う回転座標変換処理装置であり、同図(b)は、静止座標変換処理を行う静止座標変換処理装置である。
【0044】
同図(a)に示す回転座標変換処理装置1は、回転座標変換処理を行う信号処理装置であり、回転座標変換処理部1aを備えている。回転座標変換処理部1aは、入力された位相θに基づいて、入力された静止座標系の2つの正弦波信号Xα,Xβを、回転座標系の2つの信号Xd,Xqに変換して出力する。正弦波信号Xα,Xβは、互いに位相がπ/2異なっている。位相θは、基準とする正弦波信号の位相であって、正弦波信号Xα,Xβを入力されたときに取得される。例えば、三相電力系統に電力を供給する系統連系インバータシステムの出力電流制御を行うための制御装置に回転座標変換処理装置1を用いている場合は、三相のうちの1つの相の系統電圧信号の位相を検出して、位相θとして回転座標変換処理部1aに入力する。
【0045】
回転座標変換処理部1aは、下記(6)式に示す行列式を用いて、回転座標変換処理を行う。
【数10】

但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数11】

である。なお、T-1は、Tの逆行列である。
【0046】
【数12】

となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数13】

であることが、確認できる。
【0047】
なお、回転座標変換処理部1aは、(7)式に示す行列式を用いて、回転座標変換処理を行うこともできる。
【数14】

但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数15】

である。なお、T-1は、Tの逆行列である。
【0048】
この場合も上記と同様に、
【数16】

であることが、確認できる。
【0049】
図1(b)に示す静止座標変換処理装置2は、静止座標変換処理を行う信号処理装置であり、静止座標変換処理部2aを備えている。静止座標変換処理部2aは、入力された位相θに基づいて、入力された回転座標系の2つの信号X’d,X’qを、静止座標系の互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号X’α,X’βに変換して出力する。位相θは、基準とする正弦波信号の位相であって、信号X’d,X’qを入力されたときに取得される。例えば、三相電力系統に電力を供給する系統連系インバータシステムの出力電流制御を行うための制御装置に静止座標変換処理装置2を用いている場合は、三相のうちの1つの相の系統電圧信号の位相を検出して、位相θとして静止座標変換処理部2aに入力する。
【0050】
静止座標変換処理部2aは、下記(8)式に示す行列式を用いて、静止座標変換処理を行う。
【数17】

但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数18】

である。なお、T-1は、Tの逆行列である。
【0051】
【数19】

となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数20】

であることが、確認できる。
【0052】
なお、静止座標変換処理部2aは、下記(9)式に示す行列式を用いて、静止座標変換処理を行うこともできる。
【数21】

但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数22】

である。なお、T-1は、Tの逆行列である。
【0053】
この場合も上記と同様に、
【数23】

であることが、確認できる。
【0054】
上記(6)〜(9)式に示すように、回転座標変換処理部1aおよび静止座標変換処理部2aで各座標変換処理に用いられる行列(以下では、「変換行列」とする。)は、3つの行列の積で表されている。そして、左側の行列Tと右側の行列T-1とは互いの逆行列であり、中央の行列は対角行列である。したがって、変換行列どうしの積を計算する場合、行列Tと行列T-1との積が単位行列となり、中央の行列どうしの積を計算することになる。また、中央の行列は指数関数の対角行列なので、計算が容易である。
【0055】
例えば、図5に示すシステムは、下記(10)式に示す行列で表される。
【数24】

行列Tと行列T-1との積は単位行列となるので無視することができ、中央の行列が対角行列なので対角要素どうしの積を計算すればよく、各対角要素が指数関数なので計算が容易になっている。
【0056】
変換行列どうしの積の計算が容易になることから、回転座標変換処理装置1または静止座標変換処理装置2を含むシステムの解析において、計算が容易になる。これにより、回転座標変換処理または静止座標変換処理のための信号処理装置を含むシステムであっても、システム解析を容易なものとすることができる。
【0057】
なお、変換行列の行列Tと行列T-1は、上述したものに限定されない。(6)式や(8)式に示す行列式を用いる場合の変換行列の行列Tと行列T-1は、例えば、
【数25】

であってもよい。
【0058】
したがって、変換行列の行列Tと行列T-1は、h≠0とすると、
【数26】

とすることができる。
【0059】
なお、(7)式や(9)式に示す行列式を用いる場合の変換行列の行列Tと行列T-1は、例えば、
【数27】

であってもよい。
【0060】
したがって、変換行列の行列Tと行列T-1は、h≠0とすると、
【数28】

とすることができる。
【0061】
上記実施形態(以下では、「第1実施形態」とする。)では、静止座標系の正弦波信号Xα,Xβと回転座標系の信号Xd,Xqとを相互に変換する場合について説明したが、これに限られない。例えば、互いに位相が2π/3ずつ異なる3つの正弦波信号Xa,Xb,Xcと回転座標系の信号Xd,Xqとを相互に変換する信号処理装置においても、本発明を適用することができる。以下に、このような信号処理装置の例を、第2実施形態として説明する。
【0062】
図2は、第2実施形態に係る信号処理装置を説明するためのブロック図である。同図(a)は、静止座標系の互いに位相が2π/3ずつ異なる3つの正弦波信号Xa,Xb,Xcを回転座標系の信号Xd,Xqに変換する回転座標変換処理装置であり、同図(b)は、回転座標系の信号X’d,X’qを静止座標系の互いに位相が2π/3ずつ異なる3つの正弦波信号X’a,X’b,X’cに変換する静止座標変換処理装置である。
【0063】
同図(a)に示す回転座標変換処理装置1’は、回転座標変換処理部1aおよび三相/二相変換処理部1bを備えている。回転座標変換処理部1aは、第1実施形態に係るもの(図1(a)参照)と同じである。
【0064】
三相/二相変換処理部1bは、入力される互いに位相が2π/3ずつ異なる3つの正弦波信号Xa,Xb,Xcを互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα,Xβに変換して、回転座標変換処理部1aに出力するものである。三相/二相変換処理部1bは、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、正弦波信号Xa,Xb,Xcを直交するα軸成分とβ軸成分とにそれぞれ分解して、各軸成分をまとめることで正弦波信号Xα,Xβを生成する。三相/二相変換処理部1bで行われる変換処理は、上記(1)式に示す行列式で表される。
【0065】
回転座標変換処理装置1’は、例えば、三相電力系統に電力を供給する系統連系インバータシステムの出力電流制御を行うための制御装置において、各相の出力電流を検出した3つのフィードバック信号を回転座標系の2つの信号に変換する信号処理(図4の42および43)などに用いられる。
【0066】
図2(b)に示す静止座標変換処理装置2’は、静止座標変換処理部2aおよび二相/三相変換処理部2bを備えている。静止座標変換処理部2aは、第1実施形態に係るもの(図1(b)参照)と同じである。
【0067】
二相/三相変換処理部2bは、静止座標変換処理部2aから入力される互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号X’α,X’βを互いに位相が2π/3ずつ異なる3つの正弦波信号X’a,X’b,X’cに変換するものである。二相/三相変換処理部2bは、いわゆる二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)を行うものであり、三相/二相変換処理部1b(図2(a)参照)とは逆の変換処理を行うものである。二相/三相変換処理部2bで行われる変換処理は、上記(4)式に示す行列式で表される。
【0068】
静止座標変換処理装置2’は、例えば、三相電力系統に電力を供給する系統連系インバータシステムの出力電流制御を行うための制御装置において、回転座標系の2つの信号を、各相の操作量に変換するための3つの正弦波信号に変換する信号処理(図4の44および45)などに用いられる。
【0069】
第2実施形態においても、回転座標変換処理部1aおよび静止座標変換処理部2aで各座標変換処理に用いられる行列(変換行列)の中央の行列が指数関数の対角行列なので、回転座標変換処理装置1’または静止座標変換処理装置2’を含むシステムの解析において、計算が容易になる。これにより、回転座標変換処理または静止座標変換処理のための信号処理装置を含むシステムであっても、システム解析を容易なものとすることができる。
【0070】
本発明に係る信号処理装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る信号処理装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。例えば、電動機や再生可能エネルギーに用いられる系統連系インバータに適用することができる。電動機や再生可能エネルギーに用いられる系統連系インバータに適用した場合、演算量を大幅に削減でき、それに伴い制御周波数を高められ、より高精度で高速な制御を実現できる。
【符号の説明】
【0071】
1,1’ 回転座標変換処理装置
1a 回転座標変換処理部
1b 三相/二相変換処理部
2,2’ 静止座標変換処理装置
2a 静止座標変換処理部
2b 二相/三相変換処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止座標系で表されている、互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβと、回転座標系の2つの信号Xd、Xqの間で、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、座標変換する信号処理装置であって、
±1および±jを行列要素とし、かつ、複素表示の回転行列を対角化する行列およびその逆行列を用いて、前記対角化された回転行列の左右から前記行列およびその逆行列を掛けることにより表現された回転行列を用いる座標変換処理手段を備えていることを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
静止座標系で表されている、互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβと、回転座標系の2つの信号Xd、Xqの間で、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、座標変換する電動機であって、
±1および±jを行列要素とし、かつ、複素表示の回転行列を対角化する行列およびその逆行列を用いて、前記対角化された回転行列の左右から前記行列およびその逆行列を掛けることにより表現された回転行列を用いる座標変換処理手段を備えていることを特徴とする電動機。
【請求項3】
静止座標系で表されている、互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβと、回転座標系の2つの信号Xd、Xqの間で、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、座標変換する再生可能エネルギーに用いられる系統連系インバータであって、
±1および±jを行列要素とし、かつ、複素表示の回転行列を対角化する行列およびその逆行列を用いて、前記対角化された回転行列の左右から前記行列およびその逆行列を掛けることにより表現された回転行列を用いる座標変換処理手段を備えていることを特徴とする再生可能エネルギーに用いられる系統連系インバータ。
【請求項4】
静止座標系で表されている、互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβを、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、回転座標系の2つの信号Xd、Xqに変換する信号処理装置であって、
下記行列式を用いて、前記正弦波信号Xα、Xβから前記信号Xd、Xqを算出する回転座標変換処理手段を備えている、
ことを特徴とする信号処理装置。
【数1】

【請求項5】
静止座標系で表されている、互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβを、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、回転座標系の2つの信号Xd、Xqに変換する信号処理装置であって、
下記行列式を用いて、前記正弦波信号Xα、Xβから前記信号Xd、Xqを算出する回転座標変換処理手段を備えている、
ことを特徴とする信号処理装置。
【数2】

【請求項6】
互いに位相が2π/3ずつ異なる3つの正弦波信号を、前記2つの正弦波信号Xα、Xβに変換する三相/二相変換処理手段をさらに備えている、
請求項4または5に記載の信号処理装置。
【請求項7】
回転座標系で表されている2つの信号Xd、Xqを、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、静止座標系の互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβに変換する信号処理装置であって、
下記行列式を用いて、前記信号Xd、Xqから前記正弦波信号Xα、Xβを算出する静止座標変換処理手段を備えている、
ことを特徴とする信号処理装置。
【数3】

【請求項8】
回転座標系で表されている2つの信号Xd、Xqを、基準とする正弦波信号の位相θに基づいて、静止座標系の互いに位相がπ/2異なる2つの正弦波信号Xα、Xβに変換する信号処理装置であって、
下記行列式を用いて、前記信号Xd、Xqから前記正弦波信号Xα、Xβを算出する静止座標変換処理手段を備えている、
ことを特徴とする信号処理装置。
【数4】

【請求項9】
前記2つの正弦波信号Xα、Xβを、互いに位相が2π/3ずつ異なる3つの正弦波信号に変換する二相/三相変換処理手段をさらに備えている、
請求項7または8に記載の信号処理装置。
【請求項10】
前記3つの正弦波信号は、三相交流の各相の出力電流信号である、請求項6または9に記載の信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−78178(P2013−78178A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215706(P2011−215706)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】