説明

廃棄物の処理方法

【課題】都市ゴミの焼却灰、溶融飛灰等の飛灰等のように鉛を多く含む煤塵から高度に脱鉛することが可能な廃棄物の処理方法を提供する。
【解決手段】廃棄物の一部から試料を採取し、次いで、この試料に水を加え撹拌・混合して試料に含まれる硫酸イオンを溶出させ、次いで、この硫酸イオンの濃度を測定し、この硫酸イオン濃度の測定値に基づきカルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオン濃度を推定し、このカルシウムイオンを含む水溶液を前記廃棄物と混合し、前記廃棄物に含まれる鉛を溶出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物の処理方法に関し、更に詳しくは、都市ゴミの焼却施設から排出される焼却飛灰、ゴミまたは焼却灰の溶融設備から排出される溶融飛灰、下水汚泥の焼却施設から排出される焼却飛灰、セメント焼成設備から排出される塵埃、産業廃棄物の焼却設備から排出される塵埃等、鉛を多く含む煤塵から高度に脱鉛することが可能な廃棄物の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、都市ゴミの焼却灰、ゴミまたは焼却灰の溶融飛灰、下水汚泥の焼却飛灰、セメント焼成設備からの塵埃、産業廃棄物の焼却設備からの塵埃等の煤塵を、セメント原料として用いるにあたっては、この煤塵に含まれている障害成分となる鉛を前もって除去する必要がある。そこで、煤塵から鉛を分離・回収する様々な方法が提案されている。
例えば、煤塵を洗浄処理して鉛を除去する方法としては、pH7〜12のチオ硫酸塩水溶液で飛灰から鉛を溶出させ、この溶出液を電解して鉛を硫化鉛として析出回収する方法(特許文献1)、廃棄物の硫酸浸出残渣をpH13.6以上でアルカリ浸出することによって残渣中の鉛を液中に溶出させて分離する方法(特許文献2)、飛灰にアルカリ水溶液を混合するとともに90℃以上に加熱し、得られた混合液を沈殿物と濾液に分離し、この濾液に水溶性硫化物を加え、得られた混合液を沈殿物と濾液とに分離して重金属を分離する方法(特許文献3)が提案されている。
【0003】
また、焼却灰ないし飛灰に塩化カルシウム濃度が10〜35%の塩化カルシウム水溶液を加えて鉛分を溶出させ、次いで固液分離して得られた濾液に硫化剤を添加して鉛を沈殿分離する方法(特許文献4)、鉛を含む廃棄物とカルシウムイオンを4.5〜16%含む水溶液とを混合して得られたスラリーを固液分離し、得られた鉛及びカルシウムイオンを含む水溶液に硫化剤を添加して固液分離し、鉛を回収する方法(特許文献5)も提案されている。
【特許文献1】特許第3911587号公報
【特許文献2】特許第3924981号公報
【特許文献3】特開2006−255501号公報
【特許文献4】特許第3766908号公報
【特許文献5】特開2003−201524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の鉛を分離・回収する方法、なかでも塩化カルシウム水溶液を用いて鉛を分離・回収する方法では、酸により洗浄する方法やアルカリにより洗浄する方法と比べて使用する薬剤の量が少なくて済む等、メリットが大きいものの、実際に飛灰を塩化カルシウム水溶液により洗浄してみると、この飛灰の種類や履歴により鉛の溶出挙動が異なったものとなり、したがって、鉛の溶出量が最大となる塩化カルシウムの濃度が飛灰の種類により異なったものとなり、その結果、鉛の除去率に大きな差が生じるという問題点があった。
特に、濃度が10〜35%の塩化カルシウム水溶液あるいはカルシウムイオンを4.5〜16%含む水溶液を用いた場合においては、焼却灰や飛灰の種類によっては、鉛の除去率がかえって悪化する等の問題点があった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、都市ゴミの焼却飛灰、溶融飛灰等のように鉛を多く含む煤塵から高度に脱鉛することが可能な廃棄物の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、鉛の溶出量が煤塵の種類や履歴により異なる理由が、煤塵を水により洗浄して得られるスラリー中のカルシウムイオン及び硫酸イオンの量にあることが分かり、煤塵中の硫酸イオンの状態によっては、カルシウムイオンの濃度が一定量を超えると、カルシウムが過剰となり、鉛の溶出量がかえって低下してしまうことが分かった。
そこで、カルシウムイオンを含む水溶液を用いて廃棄物から鉛を抽出する際に、この廃棄物を含む水溶液またはスラリー中の硫酸イオンの濃度を測定し、この硫酸イオン濃度の測定値に基づきカルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオン濃度を推定し、このカルシウムイオンを含む水溶液を用いて前記廃棄物に含まれる鉛を溶出させることとすれば、どのような廃棄物を用いた場合においても、鉛溶出率を一定以上に保持することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の廃棄物の処理方法は、廃棄物の一部から試料を採取し、次いで、この試料に水を加え撹拌・混合して前記試料に含まれる硫酸イオンを溶出させ、次いで、この硫酸イオンの濃度を測定し、この硫酸イオン濃度の測定値に基づきカルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオン濃度を推定し、このカルシウムイオンを含む水溶液を前記廃棄物と混合し、前記廃棄物に含まれる鉛を溶出させることを特徴とする。
【0008】
本発明の他の廃棄物の処理方法は、廃棄物に水を加え撹拌・混合してスラリーとし、このスラリーの一部から試料を採取し、この試料を固液分離して得られた濾液の硫酸イオンの濃度を測定し、この硫酸イオン濃度の測定値に基づき前記スラリーの最適なカルシウムイオン濃度を推定し、この推定したカルシウムイオン濃度に基づき前記スラリーに添加すべきカルシウムイオンを含む水溶液またはカルシウム化合物の添加量を推定し、この推定された添加量のカルシウムイオンを含む水溶液またはカルシウム化合物を前記スラリーに添加し、このスラリーに前記廃棄物に含まれる鉛を溶出させることを特徴とする。
【0009】
前記カルシウムイオン濃度は、前記廃棄物からの鉛の溶出量が最大となるカルシウムイオン濃度であることが好ましい。
予め、複数種の前記廃棄物毎に、前記硫酸イオン濃度と、前記廃棄物からの鉛の溶出量が最大となる前記カルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオンの濃度または前記スラリーの最適なカルシウムイオン濃度との相関関係を求めておき、前記硫酸イオン濃度の測定値と前記相関関係とに基づき、前記カルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオン濃度または前記スラリーの最適なカルシウムイオン濃度を推定することが好ましい。
前記廃棄物は煤塵であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の廃棄物の処理方法によれば、どのような廃棄物を用いた場合においても、鉛溶出率を一定以上に保持することができる。
したがって、都市ゴミの焼却飛灰、溶融飛灰等のように鉛を多く含む煤塵から高度に脱鉛することができる。
また、この廃棄物が煤塵であった場合、脱鉛処理された煤塵は鉛の含有量が極めて少ないので、セメントの品質に悪影響を及ぼすことなく、セメント原料として大量に処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の廃棄物の処理方法の最良の形態について説明する。
なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
「第1の実施形態」
本発明の第1の実施形態の廃棄物の処理方法は、廃棄物の一部から試料を採取し、次いで、この試料に水を加え撹拌・混合して前記試料に含まれる硫酸イオン(SO2−)を溶出させ、次いで、この硫酸イオンの濃度を測定し、この硫酸イオン濃度の測定値に基づきカルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオン(Ca2+)濃度を推定し、このカルシウムイオンを含む水溶液を前記廃棄物と混合し、前記廃棄物に含まれる鉛を溶出させる方法である。
【0013】
ここで用いられる廃棄物としては、例えば、都市ゴミの焼却施設から排出される焼却飛灰、ゴミまたは焼却灰の溶融設備から排出される溶融飛灰、下水汚泥の焼却施設から排出される焼却飛灰、セメント焼成設備から排出される塵埃、産業廃棄物の焼却設備から排出される塵埃等の煤塵が挙げられる。これらの煤塵は鉛を概ね1000ppm以上含むものであるから、本実施形態の処理方法を適用することにより、鉛を高度に回収するとともに残渣をセメント原料等に有効利用することができる。
また、カルシウムイオンを含む水溶液としては、水溶性のカルシウム化合物を含む水溶液、例えば、塩化カルシウム水溶液、硝酸カルシウム水溶液等が好適である。
【0014】
次に、本実施形態の廃棄物の処理方法について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態の廃棄物の処理方法を示す過程図であり、この処理方法は、廃棄物からの試料の採取、スラリーの作製、硫酸イオン及びカルシウムイオンの濃度の測定、最適カルシウムイオン濃度の推定、カルシウムイオンを含む水溶液の調製、廃棄物からの鉛の抽出、の各工程を含んでいる。
【0015】
(1)廃棄物からの試料の採取
廃棄物に含まれる重金属である鉛をカルシウムイオンを含む水溶液を用いて抽出する際に、このカルシウムイオンを含む水溶液中のカルシウムイオン濃度を鉛を高度に抽出する際の最適条件とするために、この廃棄物から、硫酸イオン(SO2−)の分析に適当な量の試料を採取する。
採取する量としては、硫酸イオンの分析方法にもよるが10〜100g程度が好ましい。
【0016】
(2)スラリーの作製
上記の試料に、質量比で、この試料の1倍量以上かつ10倍量以下、好ましくは3倍量以上かつ6倍量以下の水を加え、攪拌混合機にて所定時間、撹拌・混合し、スラリーとする。
このスラリーにおける試料と水との質量比は、後の工程で廃棄物から鉛を抽出する際に用いられるカルシウムイオンを含む水溶液の質量比と同一であることが好ましい。
【0017】
ここで、試料に加える水の量を、この試料の1倍量以上かつ10倍量以下とした理由は、水の量が上記範囲より少ないと、粒子が水中に十分に分散した状態のスラリーを得ることができなくなるからであり、一方、上記範囲より多いと、スラリー中の硫酸イオン濃度が低くなるために濃度測定が困難になり、かつカルシウムイオンを含む水溶液が多量に必要になり、その後の排水処理も大量に処理せねばならなくなるからである。
【0018】
水としては、外部から新たに導入される新水、例えば、上水道あるいは工業用水の他、他の工程から生じる循環利用あるいは再利用のための水が用いられる。
撹拌混合機としては、試料を十分に磨砕してスラリー中に分散させることのできるものであればよい。
撹拌混合の時間は、使用する撹拌混合機の種類や容量により適宜設定すべきものであるが、一般には、バッチ式、連続式いずれの場合においても、滞留時間が5分〜360分程度、好ましくは10分〜60分程度となるように適宜調整される。
この撹拌・混合の間に、この試料に含まれる硫酸イオン(SO2−)はスラリー中に溶出される。
【0019】
(3)硫酸イオン及びカルシウムイオンの濃度の測定
上記のスラリーを固液分離して固形分と濾液とに分離し、この濾液に含まれる硫酸イオン及びカルシウムイオンの濃度を測定する。
測定方法としては、いずれの化学分析によってもよいが、測定の迅速さを考慮すると、原子吸光分析やイオンクロマトグラフィ等の機器分析が好ましい。
【0020】
(4)最適カルシウムイオン濃度の推定
上記の硫酸イオン濃度の測定値に基づき、廃棄物に含まれる硫酸イオンを溶出させるために必要なカルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオン濃度を推定する。
ここでは、廃棄物からの鉛の溶出量が最大となるカルシウムイオン濃度を推定する。
【0021】
この場合、予め、都市ゴミの焼却飛灰、溶融飛灰、その他塵埃等、複数種の廃棄物毎に、スラリー中の硫酸イオン濃度と、廃棄物からの鉛の溶出量が最大となるカルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオンの濃度との相関関係を求めておけば、この相関関係と、上記の硫酸イオン濃度の測定値とを照合することにより、カルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオン濃度を容易に推定することができる。
【0022】
図2は、様々な廃棄物(No.1〜6)に塩化カルシウム水溶液を加えてスラリーとした場合の、各々のスラリーにおけるカルシウムイオン濃度と鉛の溶出率(除去率)との関係を示す図である。
この図によれば、鉛の溶出率(除去率)を基準値以上確保したいためには、カルシウムイオンの濃度を、鉛の溶出率が最大となる最適範囲内とすればよいことが分かる。
【0023】
図3は、複数種の都市ごみ焼却飛灰及び溶融飛灰について、鉛の溶出量が最大となるカルシウムイオンの濃度とスラリーから溶出する硫酸イオン(SO2−)の溶出率との関係の一例を示す図である。
これらの図によれば、カルシウムイオン濃度、鉛イオン濃度及び鉛の溶出割合は、互いに密接な関係があることが分かる。
また、鉛の溶出量が最大となるカルシウムイオンの濃度(x)と、廃棄物を水と混合したときに溶出する硫酸イオンの溶出率(y)とは、次式(1)
y=6.32x−2.37 ……(1)
(但し、自乗偏差R=0.88)で表すことができ、鉛の溶出量が最大となるカルシウムイオンの濃度(x)と、廃棄物を水と混合したときに溶出する硫酸イオンの溶出率(y)との間には正の相関があることが分かる。
【0024】
(5)カルシウムイオンを含む水溶液の調製
カルシウムイオンを含む水溶液を調製する。この場合、廃棄物とカルシウムイオンを含む水溶液とを混合して得られるスラリーのカルシウムイオン濃度が上記により推定した値となるように、カルシウムイオンを含む水溶液のカルシウム化合物の含有率を調製する。
【0025】
(6)廃棄物からの鉛の抽出
上記の廃棄物に上記のカルシウムイオンを含む水溶液を、質量比で、この廃棄物の1倍量以上かつ10倍量以下、好ましくは3倍量以上かつ6倍量以下加え、攪拌槽にて所定時間混合し、スラリーとする。
なお、上記の方法の他、例えば、上記の廃棄物に水を質量比で、この廃棄物の1倍量以上かつ10倍量以下、好ましくは3倍量以上かつ6倍量以下加えてスラリーとし、次いで、このスラリーに、塩化カルシウムや硝酸カルシウム等の可溶性あるいは易溶性のカルシウム塩の粉末を添加してもよく、あるいは、水酸化カルシウムや炭酸カルシウム等の難溶性のカルシウム塩を酸に溶解させたカルシウムイオンを含む酸性水溶液を添加してもよい。
【0026】
ここで、カルシウムイオンを含む水溶液の添加量を、質量比で廃棄物の1倍量以上かつ10倍量以下とした理由は、添加量が1倍量未満であると、廃棄物の粒子が水溶液中に十分に分散した状態のスラリーを得ることができなくなり、鉛の抽出効果が小さくなるからであり、一方、添加量が10倍量を超えると、鉛抽出後の濾液の量が大量になり、廃水処理が膨大になってしまうからである。
【0027】
この混合の間に、この廃棄物に含まれる鉛分は、鉛イオン(Pb2+)としてスラリー中に溶出される。一方、廃棄物に含まれるカルシウム分のうち塩化カルシウム等の水溶性のカルシウム化合物はスラリー中に溶出されるが、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等の難溶性のカルシウム化合物はスラリーに溶解し難く、容易に沈殿する。
【0028】
次いで、このスラリーを固液分離して固形分と濾液とに分離する。固液分離手段としては、例えば、フィルタープレス等の濾過機、遠心分離機等が挙げられる。
この固液分離により、水酸化カルシウム(Ca(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)等の難溶性のカルシウム化合物を含む固形分と、鉛イオン(Pb2+)及び塩化カルシウム(CaCl)等の水溶性のカルシウム化合物を含む濾液とに分離される。
この固形分は、例えば、乾燥装置を用いて含水率が所定量以下となるように乾燥させた後、セメント製造設備のセメント原料として用いられる。
【0029】
次いで、この濾液に、硫化ナトリウム(NaS)、硫化水素ナトリウム(NaHS)等の硫化物を添加し、この濾液中の鉛イオン(Pb2+)を硫化させる。これにより、鉛イオン(Pb2+)は硫化鉛(PbS)として沈殿することとなる。
この硫化物の添加量は、濾液中の鉛イオン(Pb2+)を十分に硫化させることのできる量であることが必要であり、濾液中の鉛イオン(Pb2+)の量に対して2当量以上であればよい。
【0030】
この硫化鉛(PbS)を、フィルタープレス等の濾過機、あるいは遠心分離機等を用いて回収することで、濾液中の鉛イオンを高度に回収することができる。
一方、硫化鉛(PbS)を除去した残りの濾液は、排水基準を満足するように排水処理が施され、外部へ排水される。
以上により、廃棄物から鉛を高度に回収することができる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の廃棄物の処理方法によれば、廃棄物の一部から試料を採取し、次いで、この試料に水を加え撹拌・混合して試料に含まれる硫酸イオンを溶出させ、次いで、この硫酸イオンの濃度を測定し、この硫酸イオン濃度の測定値に基づきカルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオン濃度を推定し、このカルシウムイオンを含む水溶液を用いて廃棄物から鉛を抽出するので、どのような廃棄物を用いた場合においても、鉛溶出率を概ね50%以上に保持することができる。
【0032】
したがって、都市ゴミの焼却飛灰、溶融飛灰等のように鉛を多く含む煤塵から高度に脱鉛することができる。
また、脱鉛処理された煤塵は鉛の含有量が極めて少ないので、セメントの品質に悪影響を及ぼすことなくセメント原料として大量に処理することができる。
なお、本実施形態では、硫酸イオン及びカルシウムイオンの濃度の測定後、カルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオン濃度を調製することとしたが、硫酸イオン濃度のみを測定し、スラリー中のカルシウムイオン濃度をモニタリングしながら、カルシウムイオンを含む水溶液を添加して最適カルシウム濃度に調製することとしてもよい。
【0033】
「第2の実施形態」
本発明の第2の実施形態の廃棄物の処理方法は、廃棄物に水を加え撹拌・混合してスラリーとし、このスラリーの一部から試料を採取し、この試料を固液分離して得られた濾液の硫酸イオンの濃度を測定し、この硫酸イオン濃度の測定値に基づき前記スラリーの最適なカルシウムイオン濃度を推定し、この推定したカルシウムイオン濃度に基づき前記スラリーに添加すべきカルシウムイオンを含む水溶液またはカルシウム化合物の添加量を推定し、この推定された添加量のカルシウムイオンを含む水溶液またはカルシウム化合物を前記スラリーに添加し、このスラリーに前記廃棄物に含まれる鉛を溶出させる方法である。
【0034】
図4は、本実施形態の廃棄物の処理方法を示す過程図であり、この処理方法は、スラリーの作製、スラリーからの試料の採取、硫酸イオン及びカルシウムイオンの濃度の測定、カルシウムイオン濃度の推定、カルシウム化合物またはカルシウムイオンを含む水溶液の添加量の算出、廃棄物粒子からの鉛の溶出、の各工程を含んでいる。
【0035】
(1)スラリーの作製
廃棄物に水を、質量比で、この廃棄物の1倍量以上かつ10倍量以下、好ましくは3倍量以上かつ6倍量以下加え、攪拌槽にて所定時間混合し、スラリーとする。
ここで用いられる廃棄物は、第1の実施形態で用いられる廃棄物と全く同様である。
【0036】
ここで、水の添加量を、質量比で廃棄物の1倍量以上かつ10倍量以下とした理由は、添加量が1倍量未満であると、廃棄物の粒子が水中に十分に分散した状態のスラリーを得ることができなくなり、鉛の抽出効果が小さくなるからであり、一方、添加量が10倍量を超えると、鉛抽出後の濾液の量が大量になり、廃水処理が膨大になってしまうからである。
【0037】
水としては、外部から新たに導入される新水、例えば、上水道あるいは工業用水の他、他の工程から生じる循環利用あるいは再利用のための水が用いられる。
撹拌槽としては、廃棄物を十分に磨砕してスラリー中に分散させることのできるものであればよい。
混合の時間は、使用する撹拌槽の種類や容量により適宜設定すべきものであるが、一般には、バッチ式、連続式のいずれの場合においても、滞留時間が5分〜360分程度、好ましくは10分〜60分程度となるように適宜調整される。
この混合の間に、この廃棄物に含まれる硫酸成分は、硫酸イオン(SO2−)としてスラリー中に溶出される。
【0038】
(2)スラリーからの試料の採取
このスラリーに含まれる重金属である鉛をカルシウムイオンを含む水溶液を用いて抽出する際に、このカルシウムイオンを含む水溶液中のカルシウムイオン濃度を鉛を高度に抽出する際の最適条件とするために、このスラリーから硫酸イオン(SO2−)の分析に適当な量の試料を採取する。
採取する量としては、硫酸イオンの分析方法にもよるが50〜500g程度が好ましい。
【0039】
(3)硫酸イオン及びカルシウムイオンの濃度の測定
上記の試料を固液分離して固形分と濾液とに分離し、この濾液に含まれる硫酸イオン及びカルシウムイオンの濃度を測定する。
測定方法としては、いずれの化学分析によってもよいが、測定の迅速さを考慮すると、原子吸光分析やイオンクロマトグラフィ等の機器分析が好ましい。
【0040】
(4)最適カルシウムイオン濃度の推定
上記の硫酸イオン濃度の測定値に基づき、廃棄物に含まれる硫酸イオンを溶出させるために必要なカルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオン濃度を推定する。
ここでは、廃棄物からの鉛の溶出量が最大となるカルシウムイオン濃度を推定する。
【0041】
この場合、予め、都市ゴミの焼却飛灰、溶融飛灰、その他塵埃等、複数種の廃棄物毎に、スラリー中の硫酸イオン濃度と、廃棄物からの鉛の溶出量が最大となるカルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオンの濃度との相関関係を求めておけば、この相関関係と、上記の硫酸イオン濃度の測定値とを照合することにより、カルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオン濃度を容易に推定することができる。
なお、スラリーにおけるカルシウムイオン濃度と鉛の溶出率(除去率)との関係、鉛の溶出量が最大となるカルシウムイオンの濃度(x)と廃棄物から溶出する硫酸イオン(SO2−)の溶出率(y)との関係、及びその関係式については、第1の実施形態と全く同様であるから、説明を省略する。
【0042】
(5)カルシウム化合物またはカルシウムイオンを含む水溶液の添加量の算出
上記の試料のカルシウムイオンの濃度の測定値と、最適カルシウムイオン濃度の推定値により、スラリーに添加すべきカルシウム化合物またはカルシウムイオンを含む水溶液の添加量を求める。
カルシウム化合物を用いる場合、最適カルシウムイオン濃度の推定値と、スラリーのカルシウムイオン濃度の測定値との差が、カルシウム化合物を水に溶解させたときのカルシウムイオン量と等しくなるようにカルシウム化合物の添加量を決定する。
また、カルシウム化合物の替わりにカルシウムイオンを含む水溶液を用いる場合、上記に準じてカルシウムイオンを含む水溶液の添加量を決定することができる。
【0043】
(6)廃棄物からの鉛の抽出
上記のスラリーに上記のカルシウム化合物またはカルシウムイオンを含む水溶液を添加し、所定時間、撹拌・混合する。
この撹拌・混合の間に、このスラリー中に分散された廃棄物粒子に含まれる鉛分は、鉛イオン(Pb2+)としてスラリー中に溶出される。一方、廃棄物粒子に含まれるカルシウム分のうち塩化カルシウム等の水溶性のカルシウム化合物はスラリー中に溶出されるが、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等の難溶性のカルシウム化合物はスラリーに溶解し難く、容易に沈殿する。
【0044】
次いで、このスラリーを固液分離して固形分と濾液とに分離する。固液分離手段としては、例えば、フィルタープレス等の濾過機、遠心分離機等が挙げられる。
この固液分離により、水酸化カルシウム(Ca(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)等の難溶性のカルシウム化合物を含む固形分と、鉛イオン(Pb2+)及び塩化カルシウム(CaCl)等の水溶性のカルシウム化合物を含む濾液とに分離される。
この固形分は、例えば、乾燥装置を用いて含水率が所定量以下となるように乾燥させた後、セメント製造設備のセメント原料として用いられる。
【0045】
次いで、この濾液に、硫化ナトリウム(NaS)、硫化水素ナトリウム(NaHS)等の硫化物を添加し、この濾液中の鉛イオン(Pb2+)を硫化させる。これにより、鉛イオン(Pb2+)は硫化鉛(PbS)として沈殿することとなる。
この硫化物の添加量は、濾液中の鉛イオン(Pb2+)を十分に硫化させることのできる量であることが必要であり、濾液中の鉛イオン(Pb2+)の量に対して2当量以上であればよい。
【0046】
この硫化鉛(PbS)を、フィルタープレス等の濾過機、あるいは遠心分離機等を用いて回収することで、濾液中の鉛イオンを高度に回収することができる。
一方、硫化鉛(PbS)を除去した残りの濾液は、排水基準を満足するように排水処理が施され、外部へ排水される。
以上により、廃棄物から鉛を高度に回収することができる。
【0047】
本実施形態の廃棄物の処理方法においても、第1の実施形態の廃棄物の処理方法と全く同様の効果を奏することができる。
なお、本実施形態では、硫酸イオン及びカルシウムイオンの濃度の測定後、カルシウム化合物の添加量を算出することとしたが、硫酸イオン濃度のみを測定し、スラリー中のカルシウムイオン濃度をモニタリングしながら、カルシウム化合物を添加することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施形態の廃棄物の処理方法を示す過程図である。
【図2】様々なスラリーにおけるカルシウムイオン濃度と鉛の溶出率との関係を示す図である。
【図3】様々な飛灰における鉛の溶出量が最大となるカルシウムイオンの濃度とスラリーから溶出する硫酸イオンの溶出率との関係を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の廃棄物の処理方法を示す過程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物の一部から試料を採取し、次いで、この試料に水を加え撹拌・混合して前記試料に含まれる硫酸イオンを溶出させ、次いで、この硫酸イオンの濃度を測定し、この硫酸イオン濃度の測定値に基づきカルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオン濃度を推定し、このカルシウムイオンを含む水溶液を前記廃棄物と混合し、前記廃棄物に含まれる鉛を溶出させることを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項2】
廃棄物に水を加え撹拌・混合してスラリーとし、このスラリーの一部から試料を採取し、この試料を固液分離して得られた濾液の硫酸イオンの濃度を測定し、この硫酸イオン濃度の測定値に基づき前記スラリーの最適なカルシウムイオン濃度を推定し、この推定したカルシウムイオン濃度に基づき前記スラリーに添加すべきカルシウムイオンを含む水溶液またはカルシウム化合物の添加量を推定し、この推定された添加量のカルシウムイオンを含む水溶液またはカルシウム化合物を前記スラリーに添加し、このスラリーに前記廃棄物に含まれる鉛を溶出させることを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記カルシウムイオン濃度は、前記廃棄物からの鉛の溶出量が最大となるカルシウムイオン濃度であることを特徴とする請求項1または2記載の廃棄物の処理方法。
【請求項4】
予め、複数種の前記廃棄物毎に、前記硫酸イオン濃度と、前記廃棄物からの鉛の溶出量が最大となる前記カルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオンの濃度または前記スラリーの最適なカルシウムイオン濃度との相関関係を求めておき、
前記硫酸イオン濃度の測定値と前記相関関係とに基づき、前記カルシウムイオンを含む水溶液のカルシウムイオン濃度または前記スラリーの最適なカルシウムイオン濃度を推定することを特徴とする請求項1、2または3記載の廃棄物の処理方法。
【請求項5】
前記廃棄物は煤塵であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の廃棄物の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−240952(P2009−240952A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91646(P2008−91646)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】