説明

廃棄物の処理方法

【課題】簡便な方法で、塩素を含有する廃棄物を処理する方法を提供する。
【解決手段】塩素を含む廃棄物を高温で分解脱塩し且つ乾燥する廃棄物の処理方法において、廃棄物を反応容器内に導入するとともに、過熱水蒸気を前記反応容器に供給・排出し、反応容器内で廃棄物中の有機塩素を熱分解した後、前記反応容器内に残留した固形分を再生固形燃料として反応容器外に導出することを特徴とする廃棄物の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素を含む廃棄物を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生ゴミ、食品廃棄物、農業廃棄物、林産廃棄物等の有機性廃棄物を容器内に収容し、高温・高圧の水蒸気によって廃棄物を数十分間加熱(蒸煮)した後、容器内圧力を瞬間的に解放し、水の断熱膨張のエネルギーによって固体成分を粉砕(爆砕)する水蒸気爆砕(蒸煮爆砕)方式の廃棄物処理装置が知られている(特許文献1、特許文献2)。
しかしながら、これらの方法では、多大な熱量が必要であるとともに、廃棄物中の塩素が残留してしまい、固形燃料として使用するには適さない。
【0003】
また、特許文献3には、有機性廃棄物を反応器内に導入し、2.3〜3.0MPaの圧力を有する飽和水蒸気を供給して処理することにより、固形燃料を得る方法が記載されている。しかしながら、この処理方法においても、高圧・高温が必要となり、それに対応した装置が必要となる。また、この処理方法では、分解された塩素が無機塩類として表面水として残存するため、固液分離による脱塩及び乾燥工程が必要となり、工程も煩雑になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−47409号公報
【特許文献2】特開2007−75659号公報
【特許文献3】特開2010−37536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、簡便な方法で、塩素を含有する廃棄物を処理する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、種々検討した結果、過熱水蒸気を用いれば、従来より少ないエネルギーで塩素を除去できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、塩素を含む廃棄物を高温で分解脱塩し且つ乾燥する廃棄物の処理方法において、廃棄物を反応容器内に導入するとともに、過熱水蒸気を前記反応容器に供給・排出し、反応容器内で廃棄物中の有機塩素を熱分解した後、前記反応容器内に残留した固形分を再生固形燃料として反応容器外に導出することを特徴とする廃棄物の処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来より少ないエネルギーで塩素を含む廃棄物を分解し、塩素を除去することができ、常圧で連続処理することが可能である。また、乾燥工程を必要とせず、一工程で脱塩された固形燃料を得ることができ、プロセスを簡略化することができる。更に、粉砕性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1において用いた過熱水蒸気装置の模式図を示す図である。
【図2】試験例1において、処理物の総発熱量、塩素以外の化学成分の残存量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で対象とする廃棄物は、塩素を含有するプラスチックを含むもので、例えば、医療ゴミ、廃プラ、建築廃棄物、廃自動車シュレッダーダスト、都市ゴミ等の廃棄物(これら廃棄物を加工したRPF(Refuse Paper & Plastic Fuel)なども含む)である。
このような廃棄物を投入する反応容器の形状は特に限定されず、市販の様々な形状のものを用いることができる。例えば、バッチ式の反応容器のほか、連続的に処理する場合においては、コンベア型、ロータリーキルン型、多段型、ハドル型攪拌等の搬送機能のある反応容器が好ましい。
【0011】
過熱水蒸気は、飽和水蒸気を発生させた後、過熱装置により飽和水蒸気を二次加熱することにより過熱水蒸気とし、反応容器に供給・排出される。飽和水蒸気を発生させる装置は特に限定されず、市販の水管ボイラ、丸ボイラ等を使用することができる。また、セメント製造工程等で発生する廃熱を用いて発生させる廃熱ボイラを用いても良い。過熱装置は飽和水蒸気が通過する管を外部より加熱することにより過熱水蒸気を発生させる装置であり、熱源は特に限定されず、燃料バーナー、高周波加熱等を用いたり、セメント製造工程等で発生する廃熱を用いても良い。
過熱水蒸気の温度は210〜350℃、特に235〜350℃のものが、熱分解による脱塩が十分に達成されるので好ましい。
従来の熱分解では、350℃以上の温度での処理が必要であったため、多大なエネルギーが必要であったが、本発明においては、これより低い温度での処理により、塩素を含む廃棄物を分解し、塩素を除去することが可能である。
【0012】
過熱水蒸気を得るための飽和水蒸気の温度は、一般的な低圧ボイラの100〜130℃程度が好ましく、二次加熱による過熱度は80〜250Kが好ましい。本発明の処理において、水分を含む廃棄物を処理した場合は乾燥効果も得られるため、より多くの水分を廃棄物から過熱水蒸気に移行させるには、過熱度が高いほど好ましい。
なお、過熱度とは、飽和水蒸気を二次加熱して所定の過熱水蒸気の温度まで上昇させる温度上昇分を示す。
【0013】
上記のような過熱水蒸気は、市販の過熱水蒸気装置を用いて供給することができる。
反応容器内において、廃棄物を過熱水蒸気で処理する時間は、10分以上、特に30分以上、更に60分以上であるのが好ましく、常圧で処理することができる。
用いる水蒸気の量は、反応槽の形状、充填率、処理する廃棄物の塩素含有量、含水率、性状等によって異なり、特に限定されないが、一例を挙げると、廃棄物1kg当り、180L/hr程度であるのが好ましい。
【0014】
過熱水蒸気による処理により、反応容器内で廃棄物中の有機塩素は熱分解される。
分解・気化された塩素は、過熱水蒸気とともに反応容器外に導出することができる。排出された塩素を含む過熱水蒸気は、凝縮及び凝縮水の廃水処理(中和処理)等の工程により、無害化される。
【0015】
一方、反応容器内に残留した固形分は、容器外に導出され、再生固形燃料として使用される。
この固形分は、本発明で対象とする、医療ゴミ、廃プラ、建築廃棄物、廃自動車シュレッダーダスト、都市ゴミ、RPF等の場合、塩素濃度が0.3質量%程度まで低減され、そのまま、固形燃料として利用可能なものである。
【0016】
本発明のように過熱水蒸気による処理では、乾燥効果もあるため、従来のように乾燥工程を必要とせず、一工程で脱塩された固形燃料を製造することができる。固形燃料において、乾燥工程は重要であるが、この工程を特別に設けなくても乾燥された固形燃料が得られることは非常に有利である。
また、廃棄物に含まれていた塩素は十分に除去されつつ、燃料となり得る他の化学成分(炭素、水素等)は、ほとんど除去されていないので、固形燃料として用いた際の総発熱量も高いものである。
【0017】
なお、処理する廃棄物によっては、過熱水蒸気による処理で、塩素が十分に除去されない場合もある。そのような場合や、より塩素の含有量を低くしたい場合には、過熱水蒸気処理後の固形分を水洗処理することにより、更に塩素を除去することができる。
水洗処理の際、固形分は、予め適当な粒径に粉砕しておくこともでき、粉砕には、ダブルロールクラッシャー、ハードクラッシャー、衝撃せん断ミル等の粉砕機を用いることができる。
【0018】
水洗処理の方法は、固形分と水を接触させる方法であれば特に制限されず、例えば、下部に金網、溝等の水抜き機構を有するピットに固形分の粉状体を堆積させ、その上部より水を散布する方法、攪拌機付きの洗浄槽内で固形分を水に懸濁させた後、濾過して水を除去する方法などが挙げられる。ここで、濾過は、フィルタープレス、遠心分離等により、行うことが好ましいが、灰押出し機や、積み付け時の自然流下による水切り程度でも良い。
用いる水の量は、固形分の重量に対して、1重量倍以上、特に5重量倍以上であるのが好ましい。
また、水洗処理に用いる水の温度は、30℃以上であるのが好ましく、高温であるほど好ましい。
【0019】
本発明の処理により得られる固形分は、被粉砕性も良好なものである。
例えば、固形燃料をセメントキルンで好適に使用できる条件として、粒度が1.5mm以下の割合を90%以上とするのが好ましいが、本発明の処理物は、このような粒度に粉砕することが可能である。
【実施例】
【0020】
実施例1
全塩素濃度45.7質量%、粒径3mmのPVC(ポリ塩化ビニル)コンパウンドについて、図1に示す過熱水蒸気装置(サンケイエンジニアリング社製;装置の概要を以下に示す)を用いて、以下の処理条件で処理を行った。
【0021】
(過熱水蒸気装置)
・バッチ式処理反応槽
・ステンレスメッシュ反応容器
・飽和水蒸気・過熱水蒸気連続生成
(IHヒーターにより、100℃の飽和水蒸気を連続して二次加熱し過熱水蒸気を生成)
(処理条件)
・PVCコンパウンド充填量:10g
・飽和水蒸気発生量:1.8kg/hr(100℃)
・過熱度:115K、135K、145K
・処理時間:30分間、60分間、90分間
【0022】
処理物の全塩素濃度を、エシュカ法(JIS M8813「石炭類及びコークス類−元素分析方法」およびJIS Z7302−6「廃棄物固形化燃料−第6部:全塩素分試験方法」解説に記載の方法)にて測定したところ、表1に示す結果となった。処理前の全塩素濃度45.7質量%に比較して全塩素濃度が低減し、本発明の処理物では脱塩されていることを確認した。
【0023】
【表1】

【0024】
試験例1
実施例1の処理物のうち、240℃の処理物について、ボンブ法(JIS Z7302−6「廃棄物固形化燃料−第6部:全塩素分試験方法」解説に記載の方法)にて総発熱量を測定した。また、塩素残存量を全塩素濃度から、その他の化学成分(炭素、水素等)残存量を、処理物の質量から塩素残存量を減ずることにより求めたところ、図2に示す結果となった。
本発明の処理方法では、脱塩する割合が、その他の化学成分(炭素、水素等)が分解する割合よりも大きいため、処理後の固形燃料では処理前に比較して総発熱量が増加し、燃料品位が良好となった。
【0025】
試験例2
実施例1の処理物のうち、215℃−30分、240℃−90分の処理物と未処理物について液体窒素で凍結した後、大阪ケミカル社製ワンダーブレンダーにて20秒間粉砕を行い、粉砕物を1.5mm、1.0mm、0.5mmの篩目で、篩い分けした。結果を表2に示す。
本発明の処理物は、未処理物に比較して被粉砕性に優れ、篩目1.5mmを90質量%通過しており、セメント焼成キルンで使用する燃料として好適に用いられる固形燃料であることを確認した。
なお、この試験例では、粉砕条件を一定にするため、凍結粉砕を行ったが、本発明の処理物は、凍結処理しない粉砕方法であっても、同様に、1.5mm以下に粉砕することができる。
【0026】
【表2】

【0027】
実施例2
全塩素濃度1.03質量%、総発熱量7100kcal/kg の RPF(Refuse Paper & Plastic Fuel)について、実施例1で用いた過熱水蒸気装置(サンケイエンジニアリング社製)を用いて、以下の処理条件で処理を行った。
(処理条件)
・RPF充填量:4g
・飽和水蒸気発生量:1.8kg/hr(100℃)
・過熱度:135K
・処理時間:90分間
【0028】
実施例1と同様にして、処理物の全塩素濃度をエシュカ法にて測定したところ、全塩素濃度は0.14質量%まで低減され、本発明の処理物では脱塩されていることが確認された。
【0029】
また、試験例1と同様にして、処理物の総発熱量をボンブ法にて測定したところ、総発熱量は7200kcal/kgまで増加し、本発明の処理物では燃料品位が良好となった。
【0030】
実施例3
全塩素濃度1.5質量%のASR(Automobile Shredder Residue)破砕品について、実施例1で用いた過熱水蒸気装置(サンケイエンジニアリング社製)を用いて、以下の処理条件で、加熱分解処理を行った後、水洗脱塩処理を行った。水洗処理は、ビーカー中の水に固形分を懸濁した後、漏斗で濾過して行った。
【0031】
(加熱処理条件)
・ASR充填量:4g
・飽和水蒸気発生量:1.8kg/h(100℃)
・過熱度:135K
・処理時間: 0分間、90分間
(水洗処理条件)
・水洗水量:40g
・水洗温度:30℃
・水洗時間:10分
【0032】
実施例1と同様にして、加熱分解処理後および水洗脱塩後の処理物の全塩素濃度をエシュカ法にて測定した。なお、水洗脱塩後の処理物は、乾燥温度40℃にて恒量に達した後に測定を行った。
表3に示す結果のように、加熱後に塩素が残留する試料においても、水洗することによって脱塩できることが確認された。
【0033】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素を含む廃棄物を高温で分解脱塩し且つ乾燥する廃棄物の処理方法において、廃棄物を反応容器内に導入するとともに、過熱水蒸気を前記反応容器に供給・排出し、反応容器内で廃棄物中の有機塩素を熱分解した後、前記反応容器内に残留した固形分を再生固形燃料として反応容器外に導出することを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項2】
過熱水蒸気の温度が210〜350℃である請求項1記載の処理方法。
【請求項3】
過熱水蒸気の過熱度が60〜250Kである請求項1又は2記載の処理方法。
【請求項4】
過熱水蒸気の処理時間が10分以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の処理方法。
【請求項5】
反応容器内で気化された塩素を、該反応容器内の過熱水蒸気によって反応容器外に導出する請求項1〜4のいずれか1項記載の処理方法。
【請求項6】
反応容器外に導出した固形分を、水洗する請求項1〜4のいずれか1項記載の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−218344(P2011−218344A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266737(P2010−266737)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】