説明

廃棄物処理装置

【課題】耐火キャスタに対する冷却効果を増大させると共に、溶融した廃棄物が付着しても耐火キャスタの溶損を低減した前壁を備える廃棄物処理装置を提供すること。
【解決手段】廃棄物を高温溶融処理するロータリーキルン式溶融炉を備え、溶融炉の基端に、前壁14が配置され、前壁14が、溶融炉の基端に溶融炉に対して相対的に回転自在に配置された耐火キャスタ22と、耐火キャスタ22の後方に配置された冷却ジャケット21と、冷却ジャケット21の前面に形成されて耐火キャスタ22を打設する打設空間を形成するキャスタ支持枠体23とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有価物として取引されるスクラップ類を含む廃棄物を焼却処理または焼却、溶融処理する廃棄物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融炉による高温処理は、有価物として取引されるスクラップ類を含む産業廃棄物を処理する有効な方法として評価を集めており、すでに各種の溶融炉を備える廃棄物処理装置が提供、利用されている。この溶融処理は、自動車のシュレッダーダストや廃家電品をはじめとする金属を含有する産業廃棄物を高温溶融処理してスラグ化するものである。そして、得られたスラグ中には、鉄(Fe)をはじめとして銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)などの有用または高価な金属が含まれていることから、スラグからこれらの金属を回収している。
【0003】
このような廃棄物処理装置として、ロータリーキルン式溶融炉を備える廃棄物処理装置がある。この廃棄物処理装置は、ロータリーキルン式溶融炉の基端に設けられた前壁の廃棄物搬入口から搬入された廃棄物のうち、例えばウレタンなどの可燃物をガス化し、金属を含む不燃物を溶融して溶融スラグとする。ここで形成された溶融スラグは、溶融炉の出口から排出され、スラグ冷却装置で水冷されると共に破砕されて砕塊が生成される。一方、生成されたガスは、二次燃焼室で高温に燃焼され、悪臭物質などが分解されて二次燃焼室から排出される。その後、熱交換工程、クエンチ工程、煤塵・有害ガス除去工程などを経て大気中に排出される。
【0004】
ここで、廃棄物を燃焼または溶融させるために、溶融炉の基端側から廃棄物に対して燃焼用空気の吹き付けが行われている。燃焼用空気の吹き付けは、溶融炉の基端に設けられた前壁に形成された燃焼用空気供給口を介して、溶融炉の外部から空気を送り込むことによって行われている。なお、この前壁は、溶融炉の基端を気密状態とする燃焼用フードと、燃焼用フードの内面に設けられた断熱キャスタと、断熱キャスタの前面に設けられた耐火キャスタとによって構成されている。ここで、断熱キャスタの厚さは例えば650mmであり、耐火キャスタの厚さは例えば350mmとなっている。
【0005】
一般に、溶融炉の前壁は、溶融炉内の廃棄物の燃焼熱を蓄積し、前壁からの放散熱が低いほど、燃焼性が向上することが知られている。しかし、一般廃棄物、産業廃棄物のキルン焼却・溶融炉において、例えば廃プラスチックや自動車のシュレッダーダストなどのように揮発性炭素の含有量が高い廃棄物を処理する場合には、炉内に投入された原料が瞬時に揮発し、燃焼用空気と反応する。そのため、前壁表面は1500℃〜1600℃程度の高温雰囲気となる。また、燃焼用空気供給口を介して吹き付けた燃焼用空気の一部が前壁側に吹き戻り、浮遊した未燃焼の廃棄物が加熱されることで溶融物となり、耐火キャスタに付着することによって、耐火キャスタが溶解することがある。また、耐火キャスタの破損が進むことにより、耐火キャスタの寿命が短くなる。
一方、前壁内に耐火キャスタや断熱キャスタを冷却する冷却管を形成し、この冷却管内に冷却水や冷却ガスなどの冷媒を導入して循環させることによって耐火キャスタを冷却する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2001−280852号公報
【特許文献2】特開2000−274950号公報
【特許文献3】特開2001−227721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の廃棄物処理装置には以下の問題がある。すなわち、耐火キャスタが断熱キャスタよりも溶融炉の内方に配置されているため、断熱キャスタの断熱性により耐火キャスタが冷却されにくく、高温状態に保たれるという問題がある。また、付着した溶融物によって耐火キャスタが溶損した場合に、耐火キャスタの内部に設けられている断熱キャスタが崩落しやすいという問題がある。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、耐火キャスタに対する冷却効果を増大させると共に、溶融した廃棄物が付着しても耐火キャスタの溶損を低減した前壁を備える廃棄物処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の廃棄物処理装置は、廃棄物を高温溶融処理するロータリーキルン式溶融炉を備え、該溶融炉の基端に、前壁が配置された廃棄物処理装置において、前記前壁が、前記溶融炉の基端に該溶融炉に対して相対的に回転自在に配置された耐火キャスタと、該耐火キャスタの後方に配置された冷却ジャケットと、該冷却ジャケットの前面に形成されて前記耐火キャスタを打設する打設空間を形成するキャスタ支持枠体とを備えることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、耐火キャスタがキャスタ支持枠体によって形成された打設空間内に打設されており、断熱キャスタを設けることと比較して効率よく冷却される。これにより、断熱キャスタを設けることなく、溶融炉外に対して溶融炉内からの熱が高温のまま伝熱されることを抑制する。したがって、前壁全体の厚さを低減することができる。また、耐火キャスタに溶融物が付着しても、耐火キャスタと付着した溶融物との反応を低減することができる。したがって、前壁の耐久性が向上する。
なお、本発明において廃棄物とは、例えば回路基板類やコイル、コンデンサ、CPU(central processing unit:中央処理装置)、フレキシブル基板類などの電子機器・家電部品や、廃めっき液中和スラッジ類、レントゲンフィルムや製版フィルム、写真フィルム類、印画紙類などのフィルム・印画紙類、自動車シュレッダーダスト、家電シュレッダーダスト、被覆付銅線・ハーネス類、可燃物付含金銀銅スクラップ類、PDP(Plasma Display Panel:プラズマディスプレイ)パネルや液晶パネル、ソーラーパネルなどの可燃物付ガラス類のような、有価物として取引されるスクラップ類を含む廃棄物をいう。
【0010】
また、本発明の廃棄物処理装置は、前記キャスタ支持枠体が、前記打設空間を複数形成することが好ましい。
この発明によれば、キャスタ支持枠体によって複数の打設空間を形成することで、支持枠体と耐火キャスタとの接触面積が増大することや、キャスタ支持枠体と耐火キャスタとの距離が短くなることによって、効率よく耐火キャスタを冷却することができる。また、付着した溶融物などによって耐火キャスタが溶解、崩落しても、その影響が周りの他の打設空間に打設された耐火キャスタに及ぼすことを抑制する。したがって、耐火キャスタが溶解、崩落した場合における前壁の補修が容易となる。
【0011】
また、本発明の廃棄物処理装置は、前記キャスタ支持枠体が、底面が2m以下、深さが150mm以上300mm以下である打設空間を形成することが好ましい。
この発明によれば、底面を2m以下とすることで耐火キャスタを十分に効率よく冷却することができると共に溶解、崩落の影響を周りの他の打設空間の耐火キャスタが受けにくくすることができる。そして、深さを150mm以上300mm以下とすることで前壁の厚さを低減しつつ前壁の耐火性を維持することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の廃棄物処理装置によれば、水冷ジャケットによって耐火キャスタの熱が溶融炉外に高温のまま伝達されることを防止し、耐熱キャスタを設ける必要がなくなり、前壁の厚みを削減することができる。また、耐火キャスタと付着した溶融物との反応を低減して前壁の耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明にかかる廃棄物処理装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態による廃棄物処理装置1は、図1に示すように、廃棄物Wを高温溶融処理するロータリーキルン式溶融炉(以下、溶融炉と省略する)2と、溶融炉2に廃棄物Wを導入するための搬入部3と、溶融炉2から排出された排気ガスが導入される二次燃焼室4と、溶融炉2で生成された流動体Fから砕塊を形成するスラグ冷却装置5とを備えている。ここで、廃棄物Wには、処理費用をもらって処理する廃棄物に限らず、例えば回路基板類やコイル、コンデンサ、CPU、フレキシブル基板類などの電子機器・家電部品や、廃めっき液中和スラッジ類、レントゲンフィルムや製版フィルム、写真フィルム類、印画紙類などのフィルム・印画紙類、自動車シュレッダーダスト、家電シュレッダーダスト、被覆付銅線・ハーネス類、可燃物付含金銀銅スクラップ類、PDPパネルや液晶パネル、ソーラーパネルなどの可燃物付ガラス類のような、有価物として取引されるスクラップ類が含まれる。
【0014】
溶融炉2は、基端11から開放端12に向けて下方に傾斜するように配置された円筒状の胴部13と、基端11に配設されて搬入部3に接続される前壁14とを備えている。
前壁14は、図2及び図3に示すように、胴部13の基端11の開口を覆う水冷ジャケット(冷却ジャケット)21と、水冷ジャケット21の内面に設けられて溶融炉2内部の高温の燃焼熱から水冷ジャケット21を保護する耐火キャスタ22とによって構成されている。
【0015】
水冷ジャケット21は、溶融炉2内側の一面に耐火キャスタ22を打設するためのキャスタ支持枠体23が一体的に設けられている。このキャスタ支持枠体23によって、耐火キャスタ22を打設する打設空間が複数形成されている。なお、キャスタ支持枠体23によって形成される打設空間は、底面が2m以下、深さが150mm以上300mm以下となっている。
また、水冷ジャケット21の内部には、耐火キャスタ22を冷却する冷媒として用いられる冷却水を流通させる流路24が形成されている。そして、流入口25から流路24内に冷却水を導入すると共に流出口26から排出して溶融炉2の外部に設けられたポンプなどによって冷却水を循環させている。
【0016】
また、前壁14には耐火キャスタ22を介して、搬入部3から廃棄物Wを搬入する廃棄物搬入口31と、胴部13内に燃焼用空気を送り込む燃焼用空気吹出口32とが形成されており、燃焼用空気と共に廃棄物Wを燃焼させる第1バーナー33が設けられている。
耐火キャスタ22は、キャスタブル耐火物によって構成されており、その外径が胴部13の内径よりも小さく形成されている。そして、耐火キャスタ22と胴部13との間には、燃焼用空気吹出口32と同様に胴部13内に燃焼用空気を供給する間隙34が形成されている。
【0017】
胴部13は、その内周径が約5mとなっており、内壁がアルミナ・クロミア煉瓦で形成された耐火煉瓦41で覆われている。また、胴部13は、回転機構(図示略)によって胴部13が胴部13の中心軸Oを回転軸として回転するように構成されている。
【0018】
二次燃焼室4は、立設された筒体であって、下端部に流動体Fをスラグ冷却装置5に排出する排出口42が設けられている。また、二次燃焼室4には、排出口42の上方の管壁に、溶融炉2の開放端12を受ける開口43が形成されている。そして、二次燃焼室4の上部には、ダクト(図示略)を介して排気ガス後処理装置(図示略)と連結される排出口44が設けられている。また、二次燃焼室4内を加熱する第2バーナー(図示略)が設けられている。
【0019】
スラグ冷却装置5は、内部が水槽となっており、排出口42から流入した流動体Fを水冷すると共に破砕して砕塊を形成するように構成されている。
【0020】
次に、廃棄物処理装置1による廃棄物処理方法について説明する。
まず、流路24内に冷却水を流通させる。そして、溶融炉2の胴部13を回転し、第1バーナー23を点火して胴部13の内部を1400℃以下の適温、例えば1350℃に加熱する。また、空気ファンから燃焼用空気吹出口32及び間隙34を介して胴部13内部に燃焼用空気を吹き出す。そして、第2バーナーを点火して二次燃焼室4の内部を加熱する。
【0021】
次に、廃棄物Wを搬入部3によって溶融炉2の基端11に搬送し、廃棄物搬入口31から胴部13内に導入する。
溶融炉2内に導入された廃棄物Wは、高温の炉内で、可燃物が分解されてガス化し、金属を含む不燃性物質が溶融炉2内で溶融状態または半溶融状態の流動体Fとなる。
このとき、前壁14の表面温度が1500℃〜1600℃程度となる。また、吹き付けられた燃焼用空気の一部が前壁14側に吹き戻ることによって未燃焼の廃棄物Wが浮遊して加熱されることで溶融し、耐火キャスタ22に付着することがある。ここで、冷却ジャケット21は、キャスタ支持枠体23を介して耐火キャスタ22の熱を吸収し、キャスタ支持枠体23を冷却する。これにより、耐火キャスタ22が高温状態のまま保たれることを防止すると共に、溶融炉2内の熱が高温のまま溶融炉2の外に伝達されることを回避する。また、付着した溶融物と耐火キャスタ22との反応を抑制し、耐火キャスタ22の溶損を低減する。
【0022】
生成したガス成分は、溶融炉2の開放端12から二次燃焼室4に送られる。二次燃焼室4に送られたガスは、この二次燃焼室4でさらに第2バーナーから熱風と空気の供給を受けて高温に燃焼される。この結果、悪臭物質などが分解され、排出口44から燃焼ガスとして後処理工程に向けて排出される。
また、溶融炉2内に形成された流動体Fは、胴部13の傾斜に沿って流動しながら、溶融炉2の開放端12から流下し、スラグ冷却装置5で冷却されて破砕される。これにより、砕塊が形成される。得られた砕塊は、例えば磁気選鉱装置などによって、金属の砕塊とスラグの砕塊とに分別される。
【0023】
以上より、本実施形態の廃棄物処理装置1によれば、水冷ジャケット21がキャスタ支持枠体23を介して耐火キャスタ22を効率よく冷却するので、溶融炉2外に対して溶融炉2内の熱を遮断するための耐熱キャスタを設ける必要がない。これにより、前壁14の厚みを削減することができる。また、耐火キャスタ22と付着した溶融物との反応を低減して前壁14の耐久性を向上させることができる。
ここで、キャスタ支持枠体23によって打設空間を複数形成しているので、キャスタ支持枠体23と耐火キャスタ22との接触面積が増大してより効率よく耐火キャスタ22を冷却することができる。さらに、耐火キャスタ22が崩落した場合であっても崩落による影響が他の打設空間に打設された耐火キャスタ22に及ぼされることを抑制し、前壁14の補修を容易とすることができる。
【0024】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では水冷ジャケットを中空として流路を形成しているが、蛇行形状の流路を形成してもよく、水冷ジャケットの内部に冷却管を設けることによって流路を形成してもよい。
また、キャスタ支持枠体の内部に冷却水を流通させる流路を形成してもよい。このようにすることで、より効率よく耐火キャスタを冷却することができる。
また、冷媒として冷却水を用いた水冷ジャケットによって耐火キャスタを冷却しているが、用いられる冷媒は冷却水に限らず、他の液体や気体であってもよい。
また、冷却ジャケットキャスタ支持枠体とは別部材によって構成されてもよい。
また、キャスタ支持枠体によって形成される打設空間は、その底面が0.14m以上であることが好ましい。これにより、前壁の耐熱性を維持することができる。
また、打設空間は、その底面が0.14mより小さくてもよく、また2mより大きくてもよい。また、深さが300mmより大きくてもよい。
また、キャスタ支持枠体によって形成される打設空間は、分割して形成されていなくてもよい。
また、打設空間内に、キャスタと共にレンガを配置する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態における廃棄物処理装置を示す概略断面図である。
【図2】図1のA−A矢視断面図である。
【図3】図2のB−B矢視断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 廃棄物処理装置
2 ロータリーキルン式溶融炉
14 前壁
21 水冷ジャケット(冷却ジャケット)
22 耐火キャスタ
23 キャスタ支持枠体
W 廃棄物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物を高温溶融処理するロータリーキルン式溶融炉を備え、
該溶融炉の基端に、前壁が配置された廃棄物処理装置において、
前記前壁が、前記溶融炉の基端に該溶融炉に対して相対的に回転自在に配置された耐火キャスタと、該耐火キャスタの後方に配置された冷却ジャケットと、該冷却ジャケットの前面に形成されて前記耐火キャスタを打設する打設空間を形成するキャスタ支持枠体とを備えることを特徴とする廃棄物処理装置。
【請求項2】
前記キャスタ支持枠体が、前記打設空間を複数形成することを特徴とする請求項1に記載の廃棄物処理装置。
【請求項3】
前記キャスタ支持枠体が、底面が2m以下、深さが150mm以上300mm以下である打設空間を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の廃棄物処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−139009(P2008−139009A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285035(P2007−285035)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】