説明

廃水中の低い残留アルデヒド含分を有するポリビニルアセタールの製造法

本発明は、1以上のポリビニルアルコールと1以上のアルデヒドとを酸触媒反応させることによってポリビニルアセタールを製造するための方法において、ポリビニルアルコールの後添加のために、生じる廃水が低減されたアルデヒド含分を有することを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、生じる廃水中の低下した残留アルデヒド含分を有するポリビニルアセタールの製造法に関する。
【0002】
従来技術
ポリビニルアルコールとアルデヒドとの反応によるポリビニルアセタールの製造の際、反応は通常水性媒体中で実施され、それというのも、使用されるポリビニルアルコールが大抵は水溶性であるのに対して、目的生成物であるポリビニルアセタールは反応後に固体として前記反応媒体から沈殿するためである。
【0003】
未反応のアルデヒドは、反応媒体中に残留するか、又はポリビニルアセタールと一緒に沈殿される。特に高いアセタール化度を有するポリビニルアセタールを得るためには、アルデヒドを過剰に使用することが必要である。その結果、反応の廃水中にはポリビニルアルコールと反応していない著量のアルデヒドが残留し、これは望ましくない廃水負荷である。前記廃水は浄化のために浄化装置に供給されねばならず、これはそのアルデヒド含分に応じてコストの原因となる。
【0004】
技術水準
ポリビニルアルコールのアセタール化の際に可能な限り完全なアルデヒド変換率を得るために、すでに多数の変法が議論されている。例えば、DE102004054569A1、DE102004054568A1、JP−A2001−288215及びJP−A2000−159831には、アルデヒドの完全な変換率を達成するために、反応物の段階的な添加を伴う方法が記載されている。
【0005】
前記方法は、温度プロフィールに適合させた、ポリビニルアルコール、アルデヒド及び酸触媒の段階的な添加を伴う、複雑な反応操作を有する。
【0006】
課題
本発明の課題は、よりわずかなアルデヒドによる廃水負荷が達成可能な、容易でかつ既存のポリビニルアセタールの製造法から誘導される方法を提供することであった。
【0007】
発明の説明
本発明の対象は、1以上のポリビニルアルコールと1以上のアルデヒドとを酸触媒反応させ、形成されたポリビニルアセタールを反応媒体から沈殿させることによってポリビニルアセタールを製造するための方法において、ポリビニルアセタールの沈殿後に初めて、使用するポリビニルアルコールの全量に対して0.1〜50質量%のポリビニルアルコールを添加することを特徴とする方法である。
【0008】
本発明による、ポリビニルアセタールの沈殿後のポリビニルアルコールの添加は、原則的に、従来技術から公知の全てのポリビニルアセタールの製造法に引き続いて実施することができる。重要なことは、形成されたポリビニルアセタールが、ポリビニルアルコールの後添加の前に反応媒体から沈殿しており、かつ、後に添加されるポリビニルアルコールがこの反応媒体に可溶であることのみである。
【0009】
ポリビニルアセタール懸濁液中に残留するアルデヒドと後添加されたポリビニルアルコールとの反応を、以下で後反応と称する。
【0010】
後反応中に添加するポリビニルアルコールの量は、使用するポリビニルアルコールの全量、即ち、ポリビニルアルアセタールが沈殿するまでの反応において使用するポリビニルアルコールの量と、後反応において使用するポリビニルアルコールの量との合計に関する。
【0011】
後反応において使用するポリビニルアルコールの量は、使用するポリビニルアルコールの全量の0.1〜50質量%、有利には1〜30質量%、特に5〜20質量%である。
【0012】
本発明による方法により、本発明による後反応の条件及び該後反応に使用されるアルデヒド分に応じて、ポリビニルアセタール懸濁液ないしアセタール化反応の廃水の濾液のアルデヒド含分を、10%まで、有利には20%まで、特に30%までだけ低減させることができる。本発明によるアルデヒド含分の低減は、ポリビニルアルコール部分量の後添加を行って得られたポリビニルアセタール懸濁液の濾液中のアルデヒド含分と、ポリビニルアルコール部分量の後添加なしに得られたポリビニルアセタール懸濁液の濾液中のアルデヒド含分との差から決定される。
【0013】
ポリビニルアセタール懸濁液の濾液中のアルデヒド含分の測定は、有利にはガスクロマトグラフィーにより行われる。
【0014】
本発明による方法において、アルデヒドとの第一の反応に使用するポリビニルアルコールと、(後反応における)ポリビニルアセタールの沈殿後に使用するポリビニルアルコールとが同一の化学組成を有することが可能であるが、しかしながらこれら両ポリビニアルコールが異なる化学組成を有することも可能である。
【0015】
本発明による方法において、アルデヒドとの反応の際に、かつ/又は、後反応において、有利には、(4.0質量%水溶液としてヘプラーにより20℃でDIN 53015により測定された)2.0〜35.0mPasの粘度、及び/又は、少なくとも80モル%、有利には80〜99.8モル%の加水分解度を有するポリビニルアルコールが使用される。
【0016】
後反応を完全化するために、ポリビニルアセタール懸濁液をポリビニルアルコールの添加後になおも少なくとも5分間、後撹拌するのが有利である。後反応の反応温度としての推奨値は、少なくとも25℃、特に少なくとも50℃、有利には少なくとも70℃の温度である。後反応の反応時間及び反応温度は、ポリビニルアセタールの分子量と残留アルデヒド含分の所望の低減とに依存する。
【0017】
本発明の有利な一実施態様において、ポリビニルアルコールの後添加はその水溶液の形で行われる。
【0018】
本発明による方法のもう1つの有利な実施態様は、ビニルアルコール−コポリマー、例えばエチレン/ビニルアルコール−コポリマーを、アセタール化成分として、かつ/又は後反応において、併用ないしは専ら使用することである。
【0019】
本発明による方法において、アルデヒドとして、有利にはホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド又はn−ブチルアルデヒドが、それぞれ単独か又は混合物として使用され、その際、n−ブチルアルデヒドの使用が経済的に大きな意義を有する。
【実施例】
【0020】
以下の実施例1〜3は、本発明を何れかの形に限定することなく本発明をさらに説明するためのものである。比較例は、従来技術によるポリビニルアセタールの製造を記載したものである。
【0021】
全ての実施例及び比較例のためのポリマー原料として、アセチル基含分1.0モル%、ビニルアルコール基含分99.0モル%、及び(4.0%水溶液としてDIN 53015により測定された)26.6mPasのヘプラーによる粘度を有するポリビニルアルコールを使用した。
【0022】
実施例1
10.58%ポリビニルアルコール水溶液5700gを10リットルガラス反応器に装入し、蒸留水1053gで希釈した。引き続き、撹拌下に内部温度が90℃に達するまで加熱し、その後冷却した。40℃で5分以内にn−ブチルアルデヒド363.1gを添加し、さらに冷却した。14℃で5分以内に、20%塩酸531mlを滴加し;酸添加の5分後に生成物が無色の沈殿物として反応溶液から沈殿した。ポリビニルアセタールの沈殿の5分後に、5分以内に、上記ポリビニルアルコール溶液300gを添加した。引き続き、懸濁液を90分以内に直線的に65℃に加熱し、かつ撹拌の継続下に前記温度で180分間保持した。
【0023】
その後、生成物沈殿物を濾別し、かつ濾液をガスクロマトグラフィーにより、そのn−ブチルアルデヒドの含分に関して試験した。
【0024】
得られたポリビニルアセタールは、20.7質量%のビニルアルコール単位含分を有していた。
【0025】
実施例2
10.58%ポリビニルアルコール水溶液5100gを10リットルガラス反応器に装入し、蒸留水1053gで希釈した。引き続き、撹拌下に内部温度で90℃に達するまで加熱し、その後冷却した。40℃で5分以内でn−ブチルアルデヒド363.1gを添加し、さらに冷却した。14℃で5分以内に、20%塩酸531mlを滴加し;酸添加の3分後に生成物が無色の沈殿物として反応溶液から沈殿した。ポリビニルアセタールの沈殿の5分後に、5分以内に、上記ポリビニルアルコール溶液900gを添加した。引き続き、懸濁液を90分以内に直線的に65℃に加熱し、かつ撹拌の継続下に前記温度で180分間保持した。
【0026】
その後、生成物沈殿物を濾別し、かつ濾液をガスクロマトグラフィーにより、そのn−ブチルアルデヒドの含分に関して試験した。
【0027】
得られたポリビニルアセタールは、20.5質量%のビニルアルコール単位含分を有していた。
【0028】
実施例3
10.58%ポリビニルアルコール水溶液4200gを10リットルガラス反応器に装入し、蒸留水1053gで希釈した。引き続き、撹拌下に内部温度が90℃に達するまで加熱し、その後冷却した。40℃で5分以内でn−ブチルアルデヒド363.1gを添加し、さらに冷却した。14℃で5分以内に、20%塩酸531mlを滴加し;酸添加の直後に生成物が無色の沈殿物として反応溶液から沈殿した。ポリビニルアセタールの沈殿の5分後に、5分以内に、上記ポリビニルアルコール溶液1800gを添加した。引き続き、懸濁液を90分以内に直線的に65℃に加熱し、かつ撹拌の継続下に前記温度で180分間保持した。
【0029】
その後、生成物沈殿物を濾別し、かつ濾液をガスクロマトグラフィーにより、そのn−ブチルアルデヒドの含分に関して試験した。
【0030】
得られたポリビニルアセタールは、20.5質量%のビニルアルコール単位含分を有していた。
【0031】
比較例
ポリビニルアセタールの製造を実施例1〜3と同様に行ったが、但し、実施例において本発明による後添加のために使用したポリビニルアルコールの部分量を、主要量で装入した(ポリビニルアルコール水溶液6000gを装入)。
【0032】
得られたポリビニルアセタールの濾液をガスクロマトグラフィーによりそのn−ブチルアルデヒド含分に関して試験したところ、該ポリビニルアセタールは20.8質量%のビニルアルコール単位含分を有していた。
【0033】
測定法
1.ポリビニルアルコール溶液の粘度の測定
蒸留水96.00+/−0.01g及びポリビニルアルコール4.00+/−0.01gを、摺り合わせの栓を備えた250ml三角フラスコに量り入れ、50℃で振盪器中で完全に溶解させた。次いで20℃に冷却し、動粘度(DIN 53015;ヘプラーによる方法)を20℃で好適な球体を用いて測定した。
【0034】
2.ポリビニルアルコールのアセチル基含分の測定
分析すべきポリビニルアルコールの調製水溶液を、まず過剰の水酸化カリウムを用いてエステルのアルカリ加水分解に供し、次いで過剰のKOHを塩酸で逆滴定した。
【0035】
3.ポリビニルアセタールのビニルアルコール単位含分の測定
ポリビニルアセタール中のビニルアルコール単位の含分を、ピリジンの存在での、無水酢酸を用いたヒドロキシル基のアセチル化により測定した。そのために、ポリビニルアセタール1.500g+/−0.001g(可塑剤含有生成物の場合には相応してこれよりも多く)を量り入れ、かつピリジン/無水酢酸−混合物10ml(77:23)を添加した。十分にシールした分析試料を50℃で約14時間貯蔵した後、室温で1,2−ジクロロエタン25ml及び蒸留水3mlを添加し、1時間放置した。試料に全体積が160mlとなるまで蒸留水を注いだ後、迅速な撹拌下に苛性ソーダ液で滴定した。
【0036】
4.ポリビニルアセタール濾液(廃水)のn−ブチルアルデヒド含分の測定
HSサンプラCTC Analytics COMBI PAL及び60m分離カラムFS−DB1(100%ジメチルポリシロキサン、キャリアガス:水素)を備えたAgilent 6890タイプのガスクロマトグラフを用いたヘッドスペースGC分析により定量化を行った。
【0037】
結果
ポリビニルアセタール濾液ないし製造廃水中のn−ブチルアルデヒド含分を測定したところ、以下の通りであった。
【0038】
比較例 :1000ppm
実施例1:900ppm
実施例2:800ppm
実施例3:750ppm

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のポリビニルアルコールと1以上のアルデヒドとを酸触媒反応させ、形成されたポリビニルアセタールを反応媒体から沈殿させることによってポリビニルアセタールを製造するための方法において、ポリビニルアセタールの沈殿後に、使用するポリビニルアルコールの全量に対して0.1〜50質量%のポリビニルアルコールを添加することを特徴とする方法。
【請求項2】
ポリビニルアセタールの沈殿後に添加するポリビニルアルコールが、(4.0質量%水溶液としてヘプラーにより20℃でDIN 53015により測定された)2.0〜35.0mPasの粘度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリビニルアセタールの沈殿前に添加するポリビニルアルコールと、ポリビニルアセタールの沈殿後に添加するポリビニルアルコールが、同一の化学組成を有する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ポリビニルアルコールの後添加を水溶液の形で行う、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
アルデヒドとしてn−ブチルアルデヒドを使用する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2010−538132(P2010−538132A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523282(P2010−523282)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059285
【国際公開番号】WO2009/030274
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(507052393)クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (29)
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Brueningstrasse 50, D−65926 Frankfurt , Germany
【Fターム(参考)】