説明

廃水処理方法および廃水処理装置

【課題】 活性汚泥を用いて廃水処理するに際し、活性汚泥沈降性悪化による最終沈殿池からの活性汚泥流出を防止することができる廃水処理方法および装置を提供する。
【解決手段】 (1) 活性汚泥を用いる廃水処理方法において、活性汚泥中の原生動物の種類と数を定量し、この結果から多様性指数を算出し、この多様性指数の値に基づいて活性汚泥の沈降性を予測し、最終沈殿池からの活性汚泥流出の防止対策を講じる必要の有無を判断することを特徴とする廃水処理方法、(2) 前記廃水処理方法において多様性指数の算出を、 Shannon(シャノン)の多様性指数を求める式を用いて行うもの、(3) 前記廃水処理方法において前記式を用いて算出された多様性指数の値が活性汚泥の沈降性の点から予め定められた値(例えば、0.4 〜0.6 )以下となったときに最終沈殿池からの活性汚泥流出の防止対策を講じるもの、(4) かかる廃水処理方法に用いる装置等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水処理方法および廃水処理装置に関する技術分野に属するものであり、より具体的には、活性汚泥を用いる廃水処理方法および廃水処理装置に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物の働き(活性汚泥)を利用した廃水処理方法において、それに用いられる廃水処理設備は一般的には最初沈殿池、生物処理槽(曝気槽)、最終沈殿池からなっており、流入廃水中の汚濁物質は生物処理によって微生物(活性汚泥)に取り込まれ、最終沈殿池で水と活性汚泥(以下、汚泥ともいう)が固液分離される。最終沈殿池で沈殿した汚泥は、一部は余剰汚泥として廃棄され、一部は廃水処理設備に返送され再び生物処理槽で利用される。一方、固液分離された上澄水は処理水として最終沈殿池上部より排出される。
【0003】
従って、活性汚泥を用いる廃水処理においては、最終沈殿池での良好な固液分離が重要であり、固液分離が良好に行えない場合、即ち、活性汚泥がうまく沈降しない場合は、活性汚泥が処理水とともに流出し、処理水質が悪化するという廃水処理にとって致命的な事態を招く。
【0004】
一般的に活性汚泥を利用した廃水処理においては、運転は経験に依るところが多く、汚泥流出の問題についても、沈降性が実際に悪化し始めてから経験的に対処するということがほとんどであり、対応が遅れて汚泥が流出してしまうという問題がある。
【0005】
活性汚泥の沈降性の一般的な指標としては、SV30やSVI がある。しかし、この指標は、既に沈降性が悪くなっているかどうかの判断には使えるが、今後どうなるかの予測はできない。なお、これらのSV30やSVI は下記(1) 、(2) のような指標である。
【0006】
(1) SV30:
1L(リットル)のメスシリンダーに活性汚泥を1L投入し、30分間静置した後、汚泥界面の目盛りを読み、汚泥の体積V(ml)を調べる。下記式(3) よりSV30を求める。この値が小さいほど沈降性の良好な汚泥であると判断する〔「下水試験方法」,日本下水道協会,1997年,p.271−272(非特許文献1)参照〕。
SV30(%)= 100×V/1000 --------------------- 式(3)
【0007】
(2) SVI :
上記SV30の値と汚泥濃度(MLSS;mg/L)を用いて下記式(4) により算出する。この値が小さいほど沈降性の良好な汚泥であると判断する〔「下水試験方法」,日本下水道協会,1997年,p.272(非特許文献2)参照〕。
SVI (ml/g)= SV30 ×10000 /MLSS ------------- 式(4)
【0008】
活性汚泥の沈降性が悪化する原因として、糸状性細菌の異常増殖がよく知られている。糸状性細菌は密度が低いため、糸状性細菌が異常に増殖すると活性汚泥にこれらの菌糸が絡まって活性汚泥の沈降性が悪化する。従って、生物学的指標として糸状性細菌の量を顕微鏡観察等で定期的にチェックすれば、糸状性細菌が原因の汚泥沈降性悪化を予測することができるため、糸状性細菌の量を管理指標として運転が行われる場合がある。糸状性細菌を減らすためには糸状性細菌を不活化する薬剤を投入する方法などがある。
【0009】
しかし、汚泥沈降性悪化の原因は不明な部分が多く、糸状性細菌が増殖しない環境でも汚泥沈降性が悪化して汚泥が流出するという問題がしばしば起こっている。
【0010】
このような汚泥沈降性悪化を事前に予測することができれば、早期に凝集剤を添加するなどの手段を講じることができる。
【0011】
しかしながら、糸状性細菌によらない手段であって、このような汚泥沈降性悪化を事前に予測するための有効な手段が無いのが現状である。
【非特許文献1】「下水試験方法」,日本下水道協会,1997年,p.271−272
【非特許文献2】「下水試験方法」,日本下水道協会,1997年,p.272
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、活性汚泥を用いて廃水処理するに際し、活性汚泥沈降性悪化による最終沈殿池からの活性汚泥流出を防止することができる廃水処理方法および廃水処理装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0014】
このようにして完成され上記目的を達成することができた本発明は、廃水処理方法および廃水処理装置に係わり、請求項1〜7記載の廃水処理方法(第1〜7発明に係る廃水処理方法)、請求項8記載の廃水処理装置(第8発明に係る廃水処理装置)であり、それは次のような構成としたものである。
【0015】
即ち、請求項1記載の廃水処理方法は、活性汚泥を用いる廃水処理方法において、活性汚泥中の原生動物の種類と数を定量し、この結果から多様性指数を算出し、この多様性指数の値に基づいて活性汚泥の沈降性を予測し、最終沈殿池からの活性汚泥流出の防止対策を講じる必要の有無を判断することを特徴とする廃水処理方法である〔第1発明〕。
【0016】
請求項2記載の廃水処理方法は、前記多様性指数を下記式(1) を用いて算出する請求項1記載の廃水処理方法である〔第2発明〕。ただし、下記式(1) において、DIは多様性指数であり、 Pi は下記式(2) に基づいて求められる値である。下記式(2) において、N :原生動物の総数、 Ni :i番目の原生動物の数である。
【0017】
【数2】

【0018】
Pi = Ni /N --------------------- 式(2)
【0019】
請求項3記載の廃水処理方法は、前記多様性指数が活性汚泥の沈降性の点から予め定められた値以下となったときに最終沈殿池からの活性汚泥流出の防止対策を講じる請求項2記載の廃水処理方法である〔第3発明〕。
【0020】
請求項4記載の廃水処理方法は、前記定められた値が0.4 〜0.6 である請求項3記載の廃水処理方法である〔第4発明〕。
【0021】
請求項5記載の廃水処理方法は、前記定められた値が0.6 である請求項3記載の廃水処理方法である〔第5発明〕。
【0022】
請求項6記載の廃水処理方法は、前記最終沈殿池からの活性汚泥流出の防止対策を講じる場合、この防止対策として、凝集剤の添加による方法、無機物の添加による方法、最終沈殿池からの活性汚泥引き抜き量の増加による方法、廃水の流入量の低下による方法、廃水を最初沈殿池を経由させずに流入させることによる方法の1種または2種以上を用いる請求項1〜5のいずれかに記載の廃水処理方法である〔第6発明〕。
【0023】
請求項7記載の廃水処理方法は、前記活性汚泥中の原生動物の種類と数を定量するに際し、活性汚泥を自動サンプリングし、この活性汚泥中の原生動物の種類と数を画像解析により自動測定して定量し、この結果から多様性指数を算出するに際し、自動算出により算出する請求項1〜6のいずれかに記載の廃水処理方法である〔第7発明〕。
【0024】
請求項8記載の廃水処理装置は、活性汚泥を用いる廃水処理装置において、活性汚泥を自動サンプリングする手段と、これにより自動サンプリングされた活性汚泥中の原生動物の種類と数を画像解析により自動測定して定量し、この定量の結果から多様性指数を自動算出により算出する手段とを有することを特徴とする廃水処理装置である〔第8発明〕。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る廃水処理方法によれば、活性汚泥を用いて廃水処理するに際し、活性汚泥沈降性悪化による最終沈殿池からの活性汚泥流出を防止することができるようになる。本発明に係る廃水処理装置によれば、かかる廃水処理方法を好適に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明者らは、活性汚泥中原生動物の多様性を調べることにより、活性汚泥の沈降性悪化を予測することができることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、活性汚泥中の原生動物の種類と数を定量して求められる多様性指数の値から活性汚泥の沈降性を予測することができることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、前述のような構成の廃水処理方法としている。
【0027】
このようにして完成された本発明に係る廃水処理方法は、活性汚泥を用いる廃水処理方法において、活性汚泥中の原生動物の種類と数を定量し、この結果から多様性指数を算出し、この多様性指数の値に基づいて活性汚泥の沈降性を予測し、最終沈殿池からの活性汚泥流出の防止対策を講じる必要の有無を判断することを特徴とする廃水処理方法である〔第1発明〕。
【0028】
このように活性汚泥中の原生動物の種類と数を定量し、この結果から多様性指数を算出すると、この多様性指数の値に基づいて活性汚泥の沈降性を予測することができる。そうすると、最終沈殿池からの活性汚泥流出の防止対策(以下、汚泥流出防止対策ともいう)を講じる必要の有無を判断することができる。そうすると、最終沈殿池からの汚泥流出の防止対策を適切なタイミングで講じることができる。
【0029】
そこで、本発明に係る廃水処理方法においては、上記のように、活性汚泥中の原生動物の種類と数を定量し、この結果から多様性指数を算出し、この多様性指数の値に基づいて活性汚泥の沈降性を予測し、最終沈殿池からの活性汚泥流出の防止対策を講じる必要の有無を判断するようにしている。このため、汚泥流出防止対策(最終沈殿池からの汚泥流出の防止対策)を適切なタイミングで講じることができる。
【0030】
従って、本発明に係る廃水処理方法によれば、活性汚泥を用いて廃水処理するに際し、活性汚泥沈降性悪化による最終沈殿池からの活性汚泥流出を防止することができるようになる。
【0031】
原生動物の種類は全部で数万種類が知られており、そのうち、活性汚泥中に出現する原生動物は多い場合で100 種類以上になるといわれている。活性汚泥中に出現する原生動物は、鞭毛虫類、肉質虫類、繊毛虫類に大きく分けられ、更にそれぞれの中で、属にまで分類がなされる。
【0032】
活性汚泥を採取し、顕微鏡観察を行うことにより、単位汚泥量当たり即ち汚泥の単位質量当たりまたは単位体積当たり(例えば、1ml当たり)に存在する原生動物の種類を属まで同定し、それぞれの数を定量することができる。従って、単位汚泥量当たりの原生動物の種類と数から原生動物の多様性を求めることができる。
【0033】
生物学的多様性の指標として、代表的なものに Shannon(シャノン)の多様性指数があり、この指数は下記式(5) により求められる。ただし、下記式(5) において、DIは多様性指数であり、 Pi は下記式(6) に基づいて求められる値である。下記式(6) において、N :個体の総数、 Ni :i番目の個体の数である。
【0034】
【数3】

【0035】
Pi = Ni /N --------------------- 式(6)
【0036】
上記式(5) 〜(6) は、活性汚泥中の原生動物の多様性にも当てはめることができる。即ち、活性汚泥中の原生動物の多様性指数を下記式(1) を用いて算出することができる〔第2発明〕。ただし、下記式(1) において、DIは原生動物の多様性指数であり、 Pi は下記式(2) に基づいて求められる値である。下記式(2) において、N :原生動物の総数、 Ni :i番目の原生動物の数である。これらの N、 Ni は、いずれも汚泥の単位体積当たりの個数であり、その単位は個/単位体積(汚泥)、例えば個/ml(汚泥)である。
【0037】
【数4】

【0038】
Pi = Ni /N --------------------- 式(2)
【0039】
上記式(1) 〜(2) を用いて算出される多様性指数が活性汚泥の沈降性の点から予め定められた値以下となったときに汚泥流出防止対策(最終沈殿池からの活性汚泥流出の防止対策)を講じるようにする〔第3発明〕。この値は、より具体的には、汚泥流出防止対策を講じる必要があると予想されるときの多様性指数の上限値(DIeul )、即ち、多様性指数がこの値(DIeul )以下となったときに汚泥流出防止対策を講じる必要があると予想される値(DIeul )であり、予め(廃水処理の前に)定められる。この値は、例えば、過去の廃水処理の結果に基づき定め、あるいは、予め廃水処理試験を行い、その結果に基づき定める。
【0040】
このようにすると、汚泥流出防止対策をより簡単に講じることができる。即ち、汚泥流出防止対策を講じる時点を定めることができ、それが定められているので、汚泥流出防止対策を講じる時点をその都度判断しなければならないような複雑さはなく、簡単である。また、汚泥流出防止対策をより適切なタイミングで講じることができ、ひいては活性汚泥沈降性悪化による最終沈殿池からの活性汚泥流出をより確実に防止することができる。
【0041】
本発明者らの検討の結果、上記式(1) 〜(2) を用いて算出される多様性指数が0.6 より大きい活性汚泥は、沈降性が悪化する可能性は低く、この多様性指数が0.4 〜0.6 以下(0.4 以下〜0.6 以下)の活性汚泥は沈降性が悪化する可能性が高いことが分かった。活性汚泥の沈降性が悪化し始める時の多様性指数の目安は0.5 前後であるが、個々の廃水処理での廃水の性状や運転方法によって、この値は一定でなく、0.4 〜0.6 の幅を有する。つまり、活性汚泥の沈降性が悪化し始める時の多様性指数は0.4 〜0.6 である。安全側に考えれば、多様性指数が0.6 以下になると沈降性が悪化する可能性があるとしてよい。
【0042】
従って、前記の予め定められた値を0.4 〜0.6 とするとよい〔第4発明〕。即ち、上記式(1) 〜(2) を用いて算出される多様性指数が0.4 〜0.6 以下(0.4 以下〜0.6 以下)となったときに汚泥流出防止対策(最終沈殿池からの活性汚泥流出の防止対策)を講じるようにするとよい。このようにすると、汚泥流出防止対策をより適切なタイミングで講じることができ、ひいては、活性汚泥沈降性悪化による最終沈殿池からの活性汚泥流出をより確実に防止することができる。
【0043】
更に、前記の予め定められた値を0.6 とするとよい〔第5発明〕。即ち、上記式(1) 〜(2) を用いて算出される多様性指数が0.6 以下となったときに汚泥流出防止対策を講じるようにするとよい。このようにすると、活性汚泥沈降性悪化による最終沈殿池からの活性汚泥流出を上記の場合よりも確実に防止することができる。
【0044】
このような多様性指数を定期的にモニタリングすれば、汚泥の沈降性悪化を予測することができ、適切な早期のタイミングで沈降性悪化に対する対処を行うことができる。
【0045】
汚泥流出防止対策を講じる場合、この防止対策として、廃水処理の分野で一般的に用いられている様々な方法を利用することができる。即ち、凝集剤の添加による方法、無機物の添加による方法、最終沈殿池からの活性汚泥引き抜き量の増加による方法、廃水の流入量の低下による方法、廃水を最初沈殿池を経由させずに流入させることによる方法の1種または2種以上を用いることができる〔第6発明〕。なお、廃水を最初沈殿池を経由させずに流入させることが汚泥流出防止対策となるのは、最初沈殿池での沈降がなくなり、このため、最初沈殿池を経由させた場合に比べて最終沈殿池での汚泥の沈降性が大きく(汚泥が沈降しやすく)なるからである。
【0046】
これらの防止対策は汚泥沈降性が悪化してから実施しても手遅れになることもあるが、汚泥沈降性悪化を事前に予測することが可能な本発明に係る廃水処理方法によれば、効果的に汚泥流出を防ぐことができる。
【0047】
活性汚泥中の原生動物の種類と数の定量を顕微鏡観察により行う場合は、例えば生物処理槽より採取した活性汚泥を観察しやすい任意の量、例えば0.05ml程度取って、スライドグラスに乗せ、カバーグラスをかけた後、顕微鏡にセットし、観察しやすい倍率、例えば100 〜200 倍で観察を行い、原生動物の種類と数を計数する。この計数の結果を基に活性汚泥1ml当たりの数を算出する。観察は1度でも構わないが、計数の精度を上げるためには複数回繰り返して平均をとる。
【0048】
顕微鏡観察による活性汚泥中の原生動物の種類と数の定量の結果を表1に示す。この表1のケースでは、10種類の原生動物が観察され、それぞれの数はN(個/ml)で表している。上記式(1) 〜(2) を用いて多様性指数(DI)を算出すると、DI=−0.86となる。DIはこのように算出する。
【0049】
汚泥中の原生動物のDI(多様性指数)の測定は、頻度が高いほど汚泥沈降性悪化を早期に予測できるため、できるだけ短い間隔で測定することが望ましいが、DIの低下後すぐに汚泥沈降性が悪化するわけではないので、実際上は2〜10日に1回程度の頻度で測定すればよい。
【0050】
DIの値は通常、1.0 前後となることが多いが、0.4 〜0.6 以下(0.4 以下〜0.6 以下)まで低下すると、その後、汚泥の沈降性が悪化し、最終沈殿池からの汚泥流出が起こる危険性がある。従って、DIが0.4 以下〜0.6 以下まで低下した場合は、汚泥流出防止対策を講じるとよい。なお、活性汚泥の沈降性が悪化し始めるときのDIの値は、それぞれの廃水処理における流入廃水の性状や運転方法によって変わるため、運転を続ける中で各廃水処理に適したDI値を設定し、このDI値以下に低下したときに汚泥流出防止対策を講じるようにすればよい。このとき、このDI値またはそれより少し低いDI値になったときに汚泥流出防止対策を講じるようにした方がよい。更に安全側に設定する場合は、DI値が0.6 のときに汚泥流出防止対策を講じるようにすればよい。
【0051】
DI(多様性指数)の測定は人間が顕微鏡観察により行う方法の他に、画像解析により自動測定する方法で行うことができる。原生動物はその形によって分類可能であるため、画像解析装置に原生動物の形と大きさに関するデータベースを組み込んでおき、画像を自動解析することで種類と数を自動計数することができる。原生動物の種類と数からDIを自動算出することができる。測定対象の活性汚泥は自動サンプリングすることもできる。
【0052】
そこで、活性汚泥中の原生動物の種類と数を定量するに際し、活性汚泥を自動サンプリングし、この活性汚泥中の原生動物の種類と数を画像解析により自動測定して定量し、この結果から多様性指数を算出するに際し、自動算出により算出するという方法を用いることもできる〔第7発明〕。
【0053】
このような方法を実施するための形態例を図1に示す。活性汚泥が廃水処理設備11から配管12を通って自動サンプリング装置13によりサンプリングされる。サンプリングされた活性汚泥は画像解析装置14に送られ、原生動物の種類と数が自動計数され、DIが自動算出される。このデータは信号として制御装置15に送られ、制御装置15で運転方法を判断する。制御装置15の信号が廃水処理設備11に送られ、運転が自動制御される。
【0054】
このようにすべてを自動運転にしてもよいし、一部を手動にしてもよい。例えば、画像解析までを自動にしておき、DIが0.6 以下になったときにアラームを発するようにしておけば、そのアラームを見て、手動で運転制御を行うなどの方法が行える。
【0055】
このような形態例からもわかるように、本発明に係る廃水処理方法を行うための装置としては、活性汚泥を自動サンプリングする手段と、これにより自動サンプリングされた活性汚泥中の原生動物の種類と数を画像解析により自動測定して定量し、この定量の結果から多様性指数を自動算出により算出する手段とを有することを特徴とするものを用いるとよく、これによれば本発明に係る廃水処理方法を好適に行うことができる〔第8発明〕。即ち、活性汚泥のサンプリングに際し、これを自動ですることができて省力化がはかれ、また、活性汚泥中の原生動物の種類と数の定量に際し、これを自動ですることができて省力化がはかれると共にヒューマンエラーによる測定(定量)精度の低下の防止がはかれ、更に、この定量の結果からの多様性指数の算出に際し、これを自動ですることができて省力化がはかれると共にヒューマンエラーによる算出精度の低下の防止がはかれる。
【0056】
上記のような廃水処理設備としては、図2に示すように最初沈殿池と生物処理槽と最終沈殿池とを有するものが一般的であり、本発明はかかる廃水処理設備を用いる場合に適用することができるが、最初沈殿池がなく、生物処理槽と最終沈殿池とを有するものを用いる場合にも本発明は適用することができる。
【0057】
活性汚泥中の原生動物の多様性指数を測定するに際し、通常は生物処理槽中の活性汚泥をサンプリングし、これを測定サンプルとするが、最終沈殿池からサンプリングし、これを測定サンプルとすることもできる。
【0058】
なお、廃水処理の分野では、活性汚泥中の微生物の多様性を指標として、活性汚泥の有機物分解能力が安定しているかどうかが評価できることが知られている。即ち、汚濁物質の処理が良好に行える微生物集団となっているかどうかを判定する指標として、多様性指数が用いられる。しかしながら、この場合の多様性指数は、汚濁物質の処理状況を判断するだけのものであり、汚泥沈降性と多様性指数との関係については知られていなかった。即ち、本発明の場合のように活性汚泥中の原生動物の多様性指数から活性汚泥の沈降性を予測することができることは、これまで知られておらず、本発明らによって見出された新規な事項である。
【実施例】
【0059】
本発明の実施例および比較例を以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0060】
〔1〕実施例1、比較例1
実施例1、比較例1に用いた廃水処理装置を図2に示す。この装置は一般的な廃水処理装置であり、次のような構成のものとなっている。即ち、廃水が配管1を通って最初沈殿池2に流入し、最初沈殿池2で沈殿物は余剰汚泥として配管3を通って廃棄される。最初沈殿池2の上澄水は、配管4を通って生物処理槽5に流入し、活性汚泥により生物処理される。処理後の活性汚泥は配管6を通って最終沈殿池7に流入し、最終沈殿池7で沈殿した汚泥は配管8を通って引き抜かれ、その一部は余剰汚泥として廃棄され、一部は返送汚泥として生物処理槽5に戻される。一方、最終沈殿池7の上澄水は、配管9を通って処理水として排出される。
【0061】
上記廃水処理装置を用いて廃水処理の実験を次のようにして行った。即ち、最初沈殿池2への流入廃水として一般的な都市下水を用い、生物処理槽5内の活性汚泥濃度(MLSS)が約2,500mg/L となるように運転を行い、5日毎に生物処理槽5から活性汚泥をサンプリングし、活性汚泥中の原生動物の種類と数を定量し、この結果から活性汚泥中の原生動物の多様性指数(DI)を前記式(1) 〜(2) を用いて算出して求めた。また、同時に最終沈殿池7から配管9を介して得られる処理水の一部をサンプリングし、処理水SS濃度(処理水中の固形分濃度)を測定した。処理水SS濃度は通常約10mg/L以下であるが、汚泥流出が起きた場合は活性汚泥が処理水と共に流出するため、処理水SS濃度が高くなる。
【0062】
(1) 実施例1
実施例1の場合、原生動物の多様性指数(DI)を指標にして汚泥流出防止対策(最終沈殿池7からの配管9を介しての活性汚泥流出の防止対策)を講じた。即ち、図3に示すように、DIが0.6 以下(約0.52)となった95日目に汚泥流出防止対策(アルミ系凝集剤の添加)を実施し、DIが0.6 超(約0.61)まで回復した130 日目に汚泥流出防止対策を終了した。この結果として、処理水SS濃度は10mg/L以下に抑えられており、汚泥流出を防止することができた。
【0063】
(2) 比較例1
比較例の場合、沈降性悪化(処理水SS濃度の上昇)を発見してから汚泥流出防止対策を講じた。即ち、図4に示すように、DIが0.6 以下(約0.55)となった125 日目においても汚泥流出防止対策を実施せず、処理水SS濃度が20mg/Lと高くなった145 日目に汚泥流出防止対策(アルミ系凝集剤の添加)を実施した。この結果として、処理水SS濃度は最大500mg/L 以上となり、汚泥流出を防止することができなかった。
【0064】
なお、図4からわかるように、DIが0.6 以下(約0.55)となって汚泥流出防止対策を講じる必要の有ると判断される125 日目においても、処理水SS濃度は殆ど零であり、変化がなく、DIが約0.5 にまで低下した145 日目において処理水SS濃度の変化(増大)が初めて検出されている。従って、処理水SS濃度は指標としては既に沈降性が悪くなっているかどうかの判断には使えるが、今後どうなるかの予測はできず、汚泥沈降性悪化を事前に予測することができない。このため、沈降性が実際に悪化し始めてから経験的に対処するということしかできず、対応が遅れて汚泥が流出してしまう可能性が大きい。SV30やSVI を指標とする場合も、上記処理水SS濃度を指標とする場合と同様である。
【0065】
一方、図3からわかるように、処理水SS濃度があまり増大せず、汚泥流出防止対策を直ぐに講じる必要が無い時点においても、原生動物の多様性指数(DI)は変化(低下)しており、汚泥沈降性悪化を事前に予測することができる。このため、汚泥流出防止対策を適切なタイミングで講じることができ、汚泥流出を防止することができる。
【0066】
〔2〕DIと汚泥流出の程度(頻度)との関係の検討
図2に示す廃水処理装置を用いて、実施例1の場合と同様の方法により活性汚泥中の原生動物の多様性指数(DI)を測定しながら廃水処理運転を行った。ただし、DIが低下しても汚泥流出防止対策を実施せずに運転し、汚泥流出が起きるかどうかを確認した。
【0067】
この結果を表2に示す。DIが0.6 まで低下しなかったケース(3回あり)においては、3回共に(3回のいずれの場合も)汚泥流出は認められなかった。DIが0.6 以下(0.6 〜0.55)まで低下したケース(2回あり)においては、2回の中の1回で汚泥流出が認められた。DIが0.5 以下(0.5 〜0.45)まで低下したケース(3回あり)においては、3回の中の2回で汚泥流出が認められた。DIが0.4 以下(0.4 〜0.2 )まで低下したケース(2回あり)においては、2回共に汚泥流出が認められた。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る廃水処理方法は、活性汚泥を用いて廃水処理するに際し、活性汚泥沈降性悪化による最終沈殿池からの活性汚泥流出を防止することができるので、活性汚泥流出による処理水質の悪化という事態を招くことがなく、好適に用いることができる。本発明に係る廃水処理装置は、かかる廃水処理方法に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る廃水処理方法を実施するための装置の形態例を示す模式図である。
【図2】実施例1および比較例1に係る廃水処理に用いた廃水処理装置を示す模式図である。
【図3】実施例1に係る廃水処理の運転日数と多様性指数(DI)および処理水SS濃度との関係を示す図である。
【図4】比較例1に係る廃水処理の運転日数と多様性指数(DI)および処理水SS濃度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1--配管、2--最初沈殿池、3--配管、4--配管、5--生物処理槽、6--配管、
7--最終沈殿池、8--配管、9--配管、
11--廃水処理設備、12--配管、13--自動サンプリング装置、14--画像解析装置、
15--制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥を用いる廃水処理方法において、活性汚泥中の原生動物の種類と数を定量し、この結果から多様性指数を算出し、この多様性指数の値に基づいて活性汚泥の沈降性を予測し、最終沈殿池からの活性汚泥流出の防止対策を講じる必要の有無を判断することを特徴とする廃水処理方法。
【請求項2】
前記多様性指数を下記式(1) を用いて算出する請求項1記載の廃水処理方法。
【数1】


ただし、上記式(1) において、DIは多様性指数であり、 Pi は下記式(2) に基づいて求められる値である。
Pi = Ni /N --------------------- 式(2)
ただし、上記式(2) において、N :原生動物の総数、 Ni :i番目の原生動物の数である。
【請求項3】
前記多様性指数が活性汚泥の沈降性の点から予め定められた値以下となったときに最終沈殿池からの活性汚泥流出の防止対策を講じる請求項2記載の廃水処理方法。
【請求項4】
前記定められた値が0.4 〜0.6 である請求項3記載の廃水処理方法。
【請求項5】
前記定められた値が0.6 である請求項3記載の廃水処理方法。
【請求項6】
前記最終沈殿池からの活性汚泥流出の防止対策を講じる場合、この防止対策として、凝集剤の添加による方法、無機物の添加による方法、最終沈殿池からの活性汚泥引き抜き量の増加による方法、廃水の流入量の低下による方法、廃水を最初沈殿池を経由させずに流入させることによる方法の1種または2種以上を用いる請求項1〜5のいずれかに記載の廃水処理方法。
【請求項7】
前記活性汚泥中の原生動物の種類と数を定量するに際し、活性汚泥を自動サンプリングし、この活性汚泥中の原生動物の種類と数を画像解析により自動測定して定量し、この結果から多様性指数を算出するに際し、自動算出により算出する請求項1〜6のいずれかに記載の廃水処理方法。
【請求項8】
活性汚泥を用いる廃水処理装置において、活性汚泥を自動サンプリングする手段と、これにより自動サンプリングされた活性汚泥中の原生動物の種類と数を画像解析により自動測定して定量し、この定量の結果から多様性指数を自動算出により算出する手段とを有することを特徴とする廃水処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−43563(P2006−43563A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−226966(P2004−226966)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】