説明

廃水処理方法

【課題】砒素及びバナジウムを含有する廃水であっても、砒素濃度を規定値以下にしながらもバナジウムによる着色を除去することができる廃水処理方法を提供する。
【解決手段】砒素及びバナジウムを含有する廃水に対して、当該廃水中の砒素に対して鉄のモル比が20となるように三塩化鉄を加えると共に、さらに、バナジウムに対して鉄のモル比が10〜80となるように三塩化鉄を加えて反応させた後、pH5.8〜8.6に調整して固液分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砒素及びバナジウムを含有する廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭等を燃焼させて水蒸気を発生させるボイラ(石炭焚きボイラ)においては、排ガス中の窒素酸化物を除去するため、排ガスラインに脱硝触媒が備えられている。この脱硝触媒は、所定時間使用した後、上記排ガスラインから取り出され、洗浄処理された後、再び利用されている。
【0003】
このような使用済みの脱硝触媒を洗浄処理した洗浄水の廃水においては、排ガス中に含まれて脱硝触媒に付着していた砒素(As)成分を含有してしまうことから、例えば、下記非特許文献1等に記載されているように、カルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)や鉄(Fe)やアルミニウム(Al)や亜鉛(Zn)等の金属塩を加えて上記砒素と難水溶性塩を形成させた後、固液分離することにより(共沈法)、上記砒素濃度を規定値(0.1mg/リットル)以下にまで低減させてから排出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−296400号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】公害防止の技術と法規編集委員会編,「四訂・公害防止の技術と法規〔水質編〕」,第5版(増補),社団法人産業環境管理協会,平成6年6月30日,p.256−237
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述したような使用済みの脱硝触媒を洗浄水で洗浄処理すると、当該洗浄水の廃水は、濃黄色となってしまっていた。この原因を調べたところ、脱硝触媒中のバナジウム(V)成分が廃水中に混入したためであることが判明した。このバナジウム成分は、排出基準値がないものの、廃水中に存在すると、廃水の外観上の心証を悪くしてしまっていた。
【0007】
このようなことから、本発明は、砒素及びバナジウムを含有する廃水であっても、砒素濃度を規定値以下にしながらもバナジウムによる着色を除去することができる廃水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための、第一番目の発明に係る廃水処理方法は、砒素及びバナジウムを含有する廃水に対して、当該廃水中の砒素に対して鉄のモル比が20となるように鉄塩を加えると共に、さらに、バナジウムに対して鉄のモル比が10〜80となるように鉄塩を加えて反応させた後、pH5.8〜8.6に調整して固液分離することを特徴とする。
【0009】
第二番目の発明に係る廃水処理方法は、第一番目の発明において、前記鉄塩が、鉄(III)からなるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る廃水処理方法によれば、砒素濃度を規定値以下にしながらもバナジウムによる着色を除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る廃水処理方法の実施形態を以下に説明するが、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0012】
本実施形態に係る廃水処理方法は、砒素(As)及びバナジウム(V)を含有する廃水に対して、当該廃水中の砒素(As)に対して鉄(Fe)のモル比を20とするように鉄塩を加えると共に、さらに、バナジウム(V)に対して鉄(Fe)のモル比を10〜80とするように鉄塩を加えて反応させた後、pH5.8〜8.6に調整して固液分離するものである。
【0013】
砒素(As)及びバナジウム(V)を含有する廃水としては、例えば、石炭焚きボイラの排ガスラインに備えられた脱硝触媒を洗浄処理した洗浄液等が挙げられる。このような脱硝触媒を洗浄処理する洗浄液には、当該脱硝触媒を粗洗浄する水、粗洗浄された脱硝触媒をアルカリ洗浄するアルカリ水溶液(例えば、1N−水酸化ナトリウム水溶液等)、アルカリ洗浄された脱硝触媒を酸洗浄する酸水溶液(例えば、1N−硫酸水溶液等)等がある。これらの洗浄液の廃水は、砒素及びバナジウムをそれぞれ含んでいるため、混合して一括して処理すると、効率よく行うことができるので、好ましい。
【0014】
前記砒素(As)は、例えば、石炭の燃焼排ガスから脱硝触媒に付着することにより、上記洗浄処理に伴って、前記廃水中に存在するようになったものである。このような砒素(As)を含有する廃水は、外部へ排出するために当該砒素(As)濃度を規定値(0.1mg/リットル)以下にする必要がある。
【0015】
前記バナジウム(V)は、例えば、上記脱硝触媒を構成する成分であり、当該脱硝触媒の上記洗浄処理に伴って、前記廃水中に存在するようになったものである。このようなバナジウム(V)を含有する廃水は、外部へ排出するための当該バナジウム(V)濃度の規定値がないものの、先に説明したように、バナジウム(V)成分によって着色(黄色)してしまうため、排出するにあたっての外観上の心証を悪くしてしまっている。
【0016】
このような砒素(As)及びバナジウム(V)を含有する廃水に対して、当該廃水中の砒素(As)に対して鉄(Fe)のモル比が20となるように、例えば、三塩化鉄(FeCl3)水溶液(例えば、鉄(Fe)が1mmol/ミリリットル)を加えると共に、さらに、バナジウム(V)に対して鉄(Fe)のモル比が10〜80となるように、例えば、三塩化鉄(FeCl3)水溶液(例えば、鉄(Fe)が1mmol/ミリリットル)を加えて反応させた後、アルカリ水溶液(例えば、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)スラリ)を加えてpH5.8〜8.6に調整すると、下記の式(1)に示すような反応を生じて、当該廃水中の砒素(As)成分及びバナジウム(V)成分が下記沈殿物に吸着される。
【0017】
2FeCl3 + 3Ca(OH)2
→ Fe23・3H2O↓ + 3CaCl2 (1)
【0018】
このようにして生成した上記沈殿物を濾過等により固液分離した液相は、砒素(As)濃度が規定値(0.1mg/リットル)以下になるだけでなく、無色(400nm波長における光透過率:90%以上)となる。
【0019】
ここで、本発明者らが鋭意研究を行った結果、上記廃水中の砒素(As)とバナジウム(V)との合計量に対する鉄(Fe)のモル比から求められる鉄塩の添加量と、上述した効果との間には相関関係がない、すなわち、砒素(As)とバナジウム(V)との合計量に対する鉄(Fe)のモル比が少なくても上述した効果を得られる場合がある一方、砒素(As)とバナジウム(V)との合計量に対する鉄(Fe)のモル比が多くても上述した効果を得られない場合があることが判明した。
【0020】
この理由は定かではないが、上記沈殿物が、砒素(As)成分を廃水中から吸着してしまうだけでなく、バナジウム(V)成分も廃水中からさらに吸着してしまうことができ、このとき、バナジウム(V)成分と砒素(As)成分との吸着しやすさに大きな相違があるからではないかと推察される。
【0021】
したがって、本実施形態に係る廃水処理方法によれば、砒素(As)及びバナジウム(V)を含有する廃水であっても、砒素(As)濃度を規定値(0.1mg/リットル)以下にしながらもバナジウム(V)による着色(黄色)を除去(400nm波長における光透過率:90%以上)することができるので、当該廃水を何ら問題なく排出することができる。
【0022】
なお、前記鉄(Fe)塩としては、塩化鉄を始めとして、硫酸鉄や硝酸鉄等の各種のものを挙げることができるが、鉄(III)からなるものであると、砒素(As)成分を効果的に除去することができるので、好ましい。
【0023】
また、廃水に加える前記鉄塩の量は、当該廃水中の砒素(As)に対する鉄(Fe)のモル比を20とする量と、バナジウム(V)に対する鉄(Fe)のモル比を10〜80(好ましくは、10〜30)とする量との合計量である。なぜなら、前記鉄塩の量が、砒素(As)に対する鉄(Fe)のモル比が20未満となる量と、バナジウム(V)に対する鉄(Fe)のモル比が10未満となる量との合計量だと、当該廃水中の砒素(As)濃度を規定値(0.1mg/リットル)以下にすることができなくなってしまうだけでなく、バナジウム(V)による着色(黄色)を除去(400nm波長における光透過率:90%以上)することもできなくなってしまう一方、砒素(As)に対する鉄(Fe)のモル比が20を超える量と、バナジウム(V)に対する鉄(Fe)のモル比が80を超える量との合計量だと、上記鉄塩を無駄に消費してしまうからである。
【実施例】
【0024】
本発明に係る廃水処理方法の効果を確認するために行った確認実験を以下に説明するが、本発明は以下に説明する確認試験のみに限定されるものではない。
【0025】
[脱硝触媒の洗浄処理]
石炭焚きボイラで使用した下記の表1に示すハニカム形状の脱硝触媒A〜Cを、所定量(体積比3倍)の水中に浸漬して粗洗浄(常温×3時間)してから、所定量(体積比3倍)の1N−水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に浸漬してアルカリ洗浄(常温×2時間)した後、所定量(体積比3倍)の1N−硫酸(H2SO4)水溶液中に浸漬して酸洗浄(常温×1時間)することにより、それぞれ洗浄処理すると共に、上記洗浄液の廃水を得た。
【0026】
【表1】

【0027】
[廃水の組成分析]
脱硝触媒A〜Cを洗浄した上記粗洗浄、上記アルカリ洗浄、上記酸洗浄の各洗浄液の廃液を等量ずつ当該脱硝触媒A〜Cごとにそれぞれ混合することにより試験体A〜Cを得た。そして、これら試験体A〜C中の砒素(As)とバナジウム(V)との濃度及び光透過率(波長:400nm)を求めると共に、着色状態を目視確認した。その結果を下記の表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
[実験1]
上記試験体A〜Cを規定量分取し、三塩化鉄(FeCl3)水溶液(鉄(Fe)濃度:1mmol/ミリリットル)を下記の表3に示す量で加えた後、攪拌しながら水酸化カルシウム(Ca(OH)2)スラリを加えて、pH7.1〜7.4となったら、濾過して固液分離し、得られた濾液の砒素(As)とバナジウム(V)との濃度及び光透過率(波長:400nm)を求めると共に、着色状態を目視確認した。その結果を下記の表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
上記表3からわかるように、試験例5(γ=10.2)においては、無色化することができたものの、試験例1(γ=15.6)においては、薄黄色にしかならなかった。このことから、砒素(As)とバナジウム(V)との合計量に対する鉄(Fe)のモル比から求められる鉄塩の添加量と、無色化との間には相関関係がないことが明らかとなった。
【0032】
そして、試験例1,3,4(α=20,β<10)においては、無色化しなかったものの、試験例2,5〜7(α=20,β≧10)においては、無色化することが確認できた。よって、砒素(As)に対する鉄(Fe)のモル比が20となる量と、バナジウム(V)に対する鉄(Fe)のモル比が10以上となる量との合計量で鉄塩を加えれば、砒素(As)濃度を規定値(0.1mg/リットル)以下にすることができるのはもちろんのこと、バナジウム(V)による着色(黄色)を除去(400nm波長における光透過率:90%以上)できるといえる。
【0033】
[実験2]
次に、pHによる効果の相違を確認するため、上記試験体Bを規定量分取し、三塩化鉄(FeCl3)水溶液(鉄(Fe)濃度:1mmol/ミリリットル)を上記試験例5と同一の量で加えた後、攪拌しながら水酸化カルシウム(Ca(OH)2)スラリを加えて、下記の表4に示すpHとなったら、濾過して固液分離して、光透過率(波長:400nm)及び着色状態を目視確認した。その結果を下記の表4に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
上記表4からわかるように、pH5.8〜8.6の範囲、すなわち、外部へ排出可能な範囲において、本発明による効果を得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る廃水処理方法は、砒素及びバナジウムを含有する廃水であっても、何ら問題なく排出することができるので、産業上、極めて有益に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砒素及びバナジウムを含有する廃水に対して、当該廃水中の砒素に対して鉄のモル比が20となるように鉄塩を加えると共に、さらに、バナジウムに対して鉄のモル比が10〜80となるように鉄塩を加えて反応させた後、pH5.8〜8.6に調整して固液分離する
ことを特徴とする廃水処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の廃水処理方法において、
前記鉄塩が、鉄(III)からなるものである
ことを特徴とする廃水処理方法。

【公開番号】特開2011−230060(P2011−230060A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103001(P2010−103001)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】